インクジェットヘッド
【課題】流路構成部材と基板とを接着する密着層のインクに対する溶解を防止し、流路構成部材と基板との密着性及びインク吐出性能を維持するインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子と、該熱エネルギー発生素子を覆う絶縁保護層と、該絶縁保護層上に設けられたTa層とを有する基板と、該基板に接合され、前記熱エネルギー発生素子上を通って前記インクを吐出する吐出口に連通する流路を備えた流路構成部材と、を備えるインクジェットヘッドであって、前記基板と前記流路構成部材との接合部に前記Ta層が延在しており、該接合部に該Ta層と有機材料との密着性を高める無機材料からなる密着層Bを有し、前記絶縁保護層及び該密着層Bが前記流路に露出していないことを特徴とするインクジェットヘッド。
【解決手段】インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子と、該熱エネルギー発生素子を覆う絶縁保護層と、該絶縁保護層上に設けられたTa層とを有する基板と、該基板に接合され、前記熱エネルギー発生素子上を通って前記インクを吐出する吐出口に連通する流路を備えた流路構成部材と、を備えるインクジェットヘッドであって、前記基板と前記流路構成部材との接合部に前記Ta層が延在しており、該接合部に該Ta層と有機材料との密着性を高める無機材料からなる密着層Bを有し、前記絶縁保護層及び該密着層Bが前記流路に露出していないことを特徴とするインクジェットヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク(液体)を吐出して被記録媒体上に付着させて画像を形成するインクジェットヘッドに関する。特に、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子が形成された基板と、その基板上に接合された、インクの流路を形成する流路構成部材と、基板と流路構成部材との密着力を向上させる密着層とを有するインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、吐出口からインクを吐出させて被記録媒体上に文字や画像等を形成する記録方式に使用される記録デバイスである。インクを吐出させるために流路構成部材をSi基板等の上に形成し、インクの流路、インク吐出圧力発生素子及び吐出口を設ける。また流路内にインクを通過させるため、基板と流路構成部材との間を密着させる必要がある。
【0003】
しかし、熱エネルギーによりインクを吐出するいわゆるバブルジェット(登録商標)ヘッドの場合、インクによる電蝕やバブル消泡の際のキャビテーションによって熱エネルギー発生素子である発熱抵抗体等にダメージが生じる場合がある。これらの発生を抑制するために、発熱抵抗体上に窒化シリコン(SiNと称す)や酸化シリコン(SiO2:SiOと称す)等からなる絶縁保護層とTaなどからなる耐キャビテーション層を設けることが一般的である。この耐キャビテーション層は、樹脂からなる流路構成部材との密着力が絶縁保護層と比べて低い。このため、流路内におけるインク流速が速い等の厳しい条件においては、流路構成部材が耐キャビテーション層から剥離してしまう場合があった。
【0004】
ここで、耐キャビテーション層部分で流路構成部材からの剥離が生じるのを防ぐために、流路構成部材が設けられる部分には耐キャビテーション層を配置しないことも考えられる。この場合、基板上の熱エネルギー発生素子付近で、樹脂からなる流路構成部材が前記絶縁保護層のみを介して積層されることになる。この絶縁保護層は流路構成部材を構成する樹脂中に含まれるイオンを透過する性質を有している。このため、流路構成部材が設けられる部分に耐キャビテーション層を設けない構成では絶縁保護層を透過したイオンによって熱エネルギー発生素子が腐食してしまう場合があった。したがって、基板上に耐キャビテーション層を介して流路構成部材を接合することは避けられない。一方、流路構成部材が基板から剥離してしまうと流路の形状が変化し、インクの吐出特性が変化して画像形成に影響が生じるなどの問題がある。
【0005】
一方、基板と流路構成部材との間にポリエーテルアミド樹脂等の樹脂からなる密着層(以下、密着層Aと示す場合有)を設けることが有効であることが開示されている(特許文献1)。該密着層Aを設けることによって、耐キャビテーション層であるTa層上に流路構成部材を接合する場合においても、長期にわたって優れた密着性を維持することができる。また、吐出口基板の長尺化に対応するためにより密着力を向上させる構成として、密着層Aを流路に大きくはみ出して形成することが開示されている(特許文献2)。更に、Ta層と前記密着層Aとの間に、SiO等の無機材料からなる密着層(以下、密着層Bと示す場合有)を形成する構成が提案されている。
【0006】
このような密着層A、密着層Bを有する従来のインクジェットヘッドとして、図11にインクジェットヘッドのインクを吐出させるインクジェットヘッド基板の発泡室12近傍の透過平面図を示す。図12は図11のA−A線に沿って切断した断面図、図13はB−B線に沿って切断した断面図を示している。流路構成部材11は櫛歯状に複数形成されており、流路構成部材11によって熱エネルギー発生素子を囲うように形成されている発泡室12内に、インクが供給される。流路構成部材11は発泡室12に通じる流路13をも構成している。図13に示すように、流路構成部材11は基板上に密着層A103と密着層B104を介して接合されている。密着層A103は前記樹脂からなる層であり、密着層B104はSiO等の無機材料からなる層である。密着層B104は、Ta層と密着層A103との密着力を向上させる層であるために、密着層A103よりも大きな領域に形成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−348290号公報
【特許文献2】特開2002−248771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図11〜13に示す構成のインクジェットヘッドでは、通常、使用されている間は流路内にインクが常時満たされており、密着層A、密着層Bともにインクに触れる構成となっている。特に、顔料インクにおいて、インクの性能向上のために様々な組成の分散体が用いられ、溶剤も用いられていることから、インクによっては密着層が溶解してしまう場合がある。
【0009】
例えば、SiO/SiNからなる密着層Bがインクによって溶解してしまう場合があり、特に、印字による基板の温度上昇により溶解が顕著となる。実際には、所定の枚数まで印字し続ける試験をある期間に亘って行った場合に、SiO/SiNの溶解が進行する。吐出口列のうち、一部の流路構成部材と基板との間に隙間が生じると、その領域の吐出方向がずれ、罫線がずれた印字となり画像上の不良が発生する。
【0010】
また、発泡室内に露出した密着層Bがインクにより溶解することで、発泡室内において溶解した無機材料の濃度が高くなった状態で、吐出口からのインクの蒸発によりインク中の無機材料が飽和溶解度を超える場合がある。そのために、吐出口部に無機材料が析出し、また吐出口の内壁に無機材料が付着し、ヨレや不吐が発生する場合がある。また、流路構成部材11と基板に隙間が生じるため、吐出時の発泡エネルギーが隙間に逃げ、正常な吐出を行うことができない場合がある。同様に、Ta層下のSiN等からなる絶縁保護層についてもインクにより溶解する場合がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、流路構成部材と基板とを接着する密着層及び絶縁保護層のインクに対する溶解を防止し、流路構成部材と基板との密着性及びインク吐出性能を維持できるインクジェットヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るインクジェットヘッドは、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子と、該熱エネルギー発生素子を覆う絶縁保護層と、該絶縁保護層上に設けられたTa層とを有する基板と、該基板に接合され、前記熱エネルギー発生素子上を通って前記インクを吐出する吐出口に連通する流路を備えた流路構成部材と、を備えるインクジェットヘッドであって、前記基板と前記流路構成部材との接合部に前記Ta層が延在しており、該接合部に該Ta層と有機材料との密着性を高める無機材料からなる密着層Bを有し、前記絶縁保護層及び該密着層Bが前記流路に露出していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、流路構成部材と基板とを接着する密着層B及び絶縁保護層はインクと接触することがないためインクへの溶解を防止することができ、流路構成部材と基板との密着性及びインク吐出性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図3】本発明に係るインクジェットヘッド基板の斜視図である。
【図4】本発明に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図5】本発明に係るインクジェットヘッド基板の吐出口付近の拡大図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図11】従来のインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図12】従来のインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図13】従来のインクジェットヘッド基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
[インクジェットヘッド]
本発明に係るインクジェットヘッド基板について図3を参照して説明する。図3は、吐出口26が形成されているインクジェットヘッド基板の斜視図であり、1つの基板34に2つのインク供給口6が形成されている。図4は図3のA−A’断面図である。熱エネルギー発生素子1を備える基板34上に形成された流路構成部材11によって、流路13や、その上に配置された吐出口26が開口された吐出口プレート8が形成されている。吐出口26は、基板34上に形成された複数の熱エネルギー発生素子1上に、それに対向して開口されている。さらに、図5に図4の吐出口26近傍の拡大図を示す。流路構成部材11は、吐出口26の形成されている吐出口プレート8、流路13を囲うように形成されている。インクは、インク供給口6から流路13を通って発泡室12に至る。その後、インクは熱エネルギー発生素子1により吐出口26より吐出される。共通液室(不図示)は、インク供給口6上に流路を通じて吐出口26と連通して存在し、吐出口26に供給するインクを保持することができる。
【0017】
[第1の実施形態]
図1に本発明の第1の実施形態であるインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。点線で示されているのが密着層B104であり、その内側に実線で示されているのが流路構成部材11である。図2は図1のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子に通電するための配線100上に、熱エネルギー発生素子及び配線100等を保護するための絶縁保護層101が形成されている。絶縁保護層101上には耐キャビテーション膜であるTa層102が形成されている。Ta層102と流路構成部材11との接合部に延在する無機材料からなる密着層B104は、Ta層102と流路構成部材11とを接着している。流路構成部材11は有機材料からなり、密着層B104は流路構成部材11に覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しない。これにより、密着層B104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、絶縁保護層101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0018】
流路構成部材11に用いる前記有機材料としては特に限定されないが、ポリエーテルアミド樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。密着層Bの無機材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン等の無機材料が挙げられる。これらは1種のみでもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
[第2の実施形態]
図6に本発明の第2の実施形態であるインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層B104であり、その内側に実線で示されているのが流路構成部材11、密着層B104の内側に細い点線で示されているのが密着層A103である。図7は図6のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子に通電するための配線100上に、熱エネルギー発生素子及び配線100等を保護するための絶縁保護層101が形成されている。絶縁保護層101上に耐キャビテーション膜であるTa層102が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間には密着層B104が形成されている。また、密着層B104を覆い、かつTa層102と流路構成部材11との接合面から流路13にはみ出して密着層A103が形成されている。密着層A103は有機材料からなるためインクに溶解せず、密着層B104は密着層A103に覆われているため流路13に露出しておらずインクと直接接触しない。これにより、密着層B104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、絶縁保護層101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0020】
本実施形態では、図7に示すように密着層A103は断面形状として端部が傾斜して形成されている。これは密着層A103がエッチングにより形成される場合に生じる。この場合、密着層B104が密着層A103に覆われ流路13に露出しないようにするために、密着層B104が密着層A103の端部傾斜部より内側に形成されていることが、密着層B104のインクへの接触を確実に防ぐ観点から好ましい。
【0021】
密着層A103に用いる有機材料としては、第1の実施形態における流路構成部材11に用いる有機材料と同様の材料を用いることができる。
【0022】
[第3の実施形態]
図8に本発明の第3の実施形態であるインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層B104であり、その内側に実線で示されているのが流路構成部材11、密着層B104の内側に細い点線で示されているのが密着層A103である。本実施形態では共通液室(不図示)と流路13との連絡流路(図面では流路13の一部として記載)を横断し、かつ熱エネルギー発生素子を覆わずに密着層B104が形成されている。さらにその密着層B104を覆うように密着層A103が形成されている。図9は図8のA−A断面を示しており、断面に関しては第2の実施形態と同様である。また、図10は図8のB−B断面を示している。
【0023】
ここで、密着層B104を覆う密着層A103とTa層102との間で密着力が低下する領域として二箇所の領域が挙げられる。一つ目は、共通液室側の流路構成部材11の端部である。特許文献2で示すような方法で製造された流路構成部材11の場合には、流路構成部材11を構成する樹脂が硬化する際に、基板に固定されているために応力が発生する。具体的には基板が反る方向に応力が発生するため、共通液室側の流路構成部材11の端部にその応力が最もかかる。二つ目は、流路13付近である。これはインクジェット記録方式特有であるが、吐出方向に圧力が発生した際に流路13にインクの流れが生じる。より具体的には、バブルジェット(登録商標)方式では、ヒータに駆動パルスが印加されインクが発泡された際に、吐出方向だけではなく、流路13方向にも発泡が成長するためにインクの流れが生じる。この結果として、流路13は流れが強い領域となり密着性に影響を与える。一方、発泡室12の周囲の領域では、応力の発生はなく流路構成部材11があるために流れの衝突による密着性への影響は軽微である。
【0024】
本実施形態では、応力が最もかかる共通液室側の流路構成部材11の端部20を、共通液室側の密着層Aの端部21から離すことにより、流路構成部材11の端部20に掛かる応力が密着層Aの端部21に影響を与えない構成としている。具体的には、図8において、前記共通液室側の密着層A103の端部から共通液室側の密着層B104の端部までの距離(A1−B1)が、前記共通液室側の流路構成部材11端部から熱エネルギー発生素子側の流路構成部材端部11までの距離(D1)よりも長い。また、発泡時の共通液室側へのインクの流れが強い領域である流路13(連絡流路)においては、密着層B104が流路13(連絡流路)を横断して形成されている。これにより、密着層A103とTa層102との密着力を強くする構成としている。また、流路13(連絡流路)の密着層A103に切れ目を作らずに流路13(連絡流路)を横断して形成することで、構造体として密着性を維持できる構成としている。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
本実施例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本実施例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が128個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計512個形成されている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0026】
図1に本実施例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、その内側に実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11である。図2は図1のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上には耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102と流路構成部材11との間に存在するSiO膜104(厚み:50nm)は、Ta層102と流路構成部材11とを接着している。流路構成部材11はエポキシ樹脂からなり、SiO膜104は流路構成部材11に覆われているため流路13には露出しておらず、インクと直接接触しない。これにより、SiO膜104はインクに溶解せず、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、SiN膜101もTa層102により覆われているため流路13には露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0027】
具体的には、ヒータは24×24μmであった。流路構成部材11はSiO膜104を覆う構成であり、図1において、A1=27μm、A2=27μm、A3=16μmであった。一方、SiO膜104は、B1=36μm、B2=42μm、B3=25μmであった。そのため、図2に示すようにSiO膜104は上面だけではなく、側面も流路構成部材11に覆われているためインクとSiO膜104とは接触しない。図2における断面において、SiO膜104の端部から流路構成部材11の端部までの水平方向の距離は4.5μmであった。
【0028】
(密着性試験)
まず、本実施例の密着性試験で使用した4種類のインクのSiO膜に対する溶解特性を以下の試験条件で検討した。インク150mlを300mlの密閉できる容器に入れた。そこに6インチのSi基板(厚み=約625μm)にSiO膜のみを形成したWafを20mm角に切断した試料を1個入れ、温度を制御するために恒温槽の中に入れた状態で放置した。放置期間は一ヶ月間である。前記試験により得られた溶解特性の結果を表1に示す。このような溶解特性を持つインクA〜Dを本実施例の密着性試験では用いた。
【0029】
【表1】
【0030】
次に、本実施例のインクジェットヘッドについて、インクジェット記録装置によって前記インクを使用して連続して印字を行い、流路構成部材11と基板との密着性試験を行った。インクジェット記録装置はシリアルスキャン方式であり、1スキャン毎に印字をしない時間がありその時に基板温度は下がり、また印字を開始する際に基板温度が上がる試験条件となっている。この試験条件では、シリアススキャンでの印字中の基板温度は50から60℃の間で上下した。また、印字期間は一ヶ月間である。評価基準は以下の通りである。
○:流路構成部材11とTa層102とが密着している。
×:流路構成部材11とTa層102との間に隙間が生じている。
【0031】
各インクにおける密着性試験の結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
本実施例の構成では、流路構成部材11とTa層102の間の密着力が維持されており、SiO膜104がインクに接触することが無く溶解もしていないために、全てのインクについて流路構成部材11と基板との密着性を維持していた。このように、本実施例ではSiO膜104をエポキシ樹脂からなる流路構成部材11によりインクに触れないように覆うことにより、流路13にSiO膜104が露出しない。これにより溶解特性の高いインクにおいてもSiO膜104のインクによる溶解を防止し、流路構成部材11と基板との密着性を維持できた。また、SiN膜101の溶解も確認されなかった。
【0034】
[実施例2]
本実施例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本実施例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が652個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計2608個形成されている。実施例1と比較して吐出口26が増えたことにより、実施例1よりも基板が長くなり、流路構成部材11に生じる応力が大きくなっている。該応力に対して密着力をより向上した構造として本実施例では密着層Aを設けている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0035】
図6に本実施例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、その内側に実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11、SiO膜104の内側に細い点線で示されているのがポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103である。図7は図6のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上に耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間にはSiO膜104(厚み:50nm)が形成されている。また、SiO膜104を覆い、かつTa層102と流路構成部材11との接合面から流路13にはみ出して密着層A103(厚み:2μm)が形成されている。密着層A103はポリエーテルアミド樹脂からなるためインクに溶解せず、SiO膜104は密着層A103に覆われているため流路13には露出しておらずインクと直接接触しない。これにより、SiO膜104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、SiN膜101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0036】
具体的には、ヒータは24×24μmであった。密着層A103はヒータには被らない構成であり、A1=29μm、A2=35μm、A3=11μmであった。一方、SiO膜104は、B1=36μm、B2=42μm、B3=25μmであった。そのため、図7に示すようにSiO膜104は上面だけではなく、側面も密着層A103に覆われており、インクとSiO膜104とは接触しない。図7における断面において、SiO膜104の端部から密着層A103の端部までの水平方向の距離は3.5μmであった。また、本実施例では密着層A103はエッチングにより形成されているが、断面形状として端部が傾斜して形成されており、具体的には図7において傾斜距離Lが0.5μmであった。そのため、SiO膜104が密着層A103の端部傾斜部より0.5μmをこえて内側に形成されるようにするため、SiO膜104の端部と密着層A103の端部との距離を3.0μmとした。
【0037】
(密着性試験)
本実施例のインクジェットヘッドについて、実施例1と同様に密着性試験を行った。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
本実施例の構成では、流路構成部材11とTa層102の間の密着力が維持されており、SiO膜104がインクに接触することが無く溶解もしていないために、全てのインクについて流路構成部材11と基板との密着性を維持していた。このように、本実施例ではSiO膜104をポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103によりインクに触れないように覆うことにより、流路13にSiO膜104が露出しない。これによりSiO膜104のインクによる溶解を防止し、流路構成部材11と基板との密着性を維持できた。また、SiN膜101の溶解も確認されなかった。
【0040】
[実施例3]
本実施例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本実施例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が652個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計2608個形成されている。実施例1と比較して吐出口26が増えたことにより、実施例1よりも基板が長くなり、流路構成部材11に生じる応力が大きくなっている。該応力に対して密着力をより向上した構造として本実施例では密着層Aを設けている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0041】
図8に本実施例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、その内側に実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11、SiO膜104の内側に細い点線で示されているのがポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103である。図9は図8のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上に耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間にはSiO膜104(厚み:50nm)が形成されている。また、SiO膜104を覆い、かつTa層102と流路構成部材11との接合面から流路13にはみ出して密着層A103(厚み:2μm)が形成されている。密着層A103はポリエーテルアミド樹脂からなるためインクに溶解せず、SiO膜104は密着層A103に覆われているため流路13には露出しておらずインクと直接接触しない。これにより、SiO膜104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、SiN膜101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0042】
本実施例では、流路構成部材11に生じる応力が最もかかる、共通液室側の流路構成部材11の端部20を、共通液室側の密着層A103の端部21から離し、流路構成部材11の端部20に掛かる応力が密着層A103の端部21に影響を与えない構成とした。また、発泡時の共通液室側へのインクの流れが強い領域である流路13(連絡流路)においては、SiO膜104を切れ目を作らず流路13(連絡流路)を横断して形成した。これにより、密着層A103とTa層102との密着性を高め、かつ維持できる構成とした。
【0043】
具体的には、ヒータは24×24μmであった。密着層A103はヒータには被らない構成であり、開口寸法は35×29μmあった。一方、SiO膜104は42×36μmの開口寸法であった。そのため、図9に示すようにSiO膜104は上面だけではなく、側面も密着層A103に覆われており、流路13に露出していないためインクとSiO膜104とは接触しない。図9における断面において、SiO膜104の端部から密着層A103の端部までの水平方向の距離は3.5μmであった。また、図9において傾斜距離Lが0.5μmであった。SiO膜104が密着層A103の端部傾斜部より0.5μmをこえて内側に形成されるようにするため、SiO膜104の端部と密着層A103の端部との距離を3.0μmとした。さらに、ヒータ中心から共通液室側の密着層A103の端部までの距離A1が54μm、ヒータ中心から共通液室側の密着層B104までの距離B1が31μm、ヒータ中心から共通液室側の流路構成部材11端部までの距離C1が35μmであった。流路構成部材11が密着力を失うときに支点となる発泡室12端部から共通液室側の流路構成部材11までの距離D1が20.5μmであった。D1の距離よりも(A1−B1)の距離を長くすることにより、より共通液室側の流路構成部材11端部への応力が共通液室側の密着層A103の端部に与える影響は軽減された。
【0044】
(密着性試験)
本実施例のインクジェットヘッドについて、実施例1と同様に密着性試験を行った。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
本実施例の構成では、流路構成部材11とTa膜102の間の密着力が維持されており、密着層B104がインクに接触することが無く溶解もしていないために、全てのインクについて流路構成部材11と基板との密着性を維持していた。また、SiN膜101の溶解も確認されなかった。
【0047】
さらに厳しい密着性試験として、流路内のインクの流速が速い条件で試験を行った。昇温により発泡時の共通液室側へのインクの流速が速くなり、流路内のインクの流速を速くすることができるため、シリアススキャンでの印字中の基板温度が60から70℃の間で上下する条件で行った。それ以外は前記密着性試験と同様に試験を行った。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
この試験方法においても、前記4種類のいずれのインクにおいても流路構成部材11と基板との間に隙間は発生せず、密着力に関して良好な結果であった。
【0050】
[比較例1]
本比較例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本比較例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が652個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計2608個形成されている。実施例1と比較して吐出口26が増えたことにより、実施例1よりも基板が長くなり、流路構成部材11に生じる応力が大きくなっている。該応力に対して密着力をより向上した構造として本実施例では密着層Aを設けている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0051】
図11に本比較例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11、細い点線で示されているのがポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103である。図12は図11のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上に耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間にはSiO膜104(厚み:50nm)が形成されている。SiO膜104は流路13及び発泡室12内に露出している。また、Ta層102と流路構成部材11との間であってSiO膜104上に密着層A103(厚み:2μm)が形成されている。密着層A103はSiO膜104を部分的に覆っている。また、流路13(連絡流路)において、SiO膜104を切れ目を作らず流路13(連絡流路)を横断して形成した。この流路13(連絡流路)におけるSiO膜104も一部密着層A103に覆われておらず露出している。ヒータは24×24μmであった。密着層A103はヒータには被らない構成であり、A1=35μm、A2=40μm、A3=11μmであった。一方、SiO膜104は、B1=29μm、B2=29μmであった。
【0052】
(密着性試験)
本比較例のインクジェットヘッドについて、実施例1と同様に密着性試験を行った。結果を表6に示す。
【0053】
【表6】
【0054】
本比較例のインクジェットヘッドでは、各ヒータ毎に4.0×108パルス時点まで印字が進んだ時点で流路構成部材11と基板との間に隙間が生じた。隙間は断面観察より、SiO膜104の溶解により流路構成部材11とTa層102の間で生じていた。SiO膜104の厚みは50nmであり、60℃一ヶ月でほぼSiO膜104が溶解しきるようなインクであるインクA〜Cでは密着力を失った。このように、本比較例のインクジェットヘッドではSiO膜104はインクに触れる構成となっていたため、SiO膜104がインクに溶解し密着力を維持できなかった。
【符号の説明】
【0055】
1:熱エネルギー発生素子
6:インク供給口
8:吐出口プレート
11:流路構成部材
12:発泡室
13:流路(連絡流路)
26:吐出口
34:基板
100:配線(アルミ配線)
101:絶縁保護層(SiN膜)
102:Ta層
103:密着層A
104:密着層B(SiO膜)
【技術分野】
【0001】
本発明はインク(液体)を吐出して被記録媒体上に付着させて画像を形成するインクジェットヘッドに関する。特に、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子が形成された基板と、その基板上に接合された、インクの流路を形成する流路構成部材と、基板と流路構成部材との密着力を向上させる密着層とを有するインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、吐出口からインクを吐出させて被記録媒体上に文字や画像等を形成する記録方式に使用される記録デバイスである。インクを吐出させるために流路構成部材をSi基板等の上に形成し、インクの流路、インク吐出圧力発生素子及び吐出口を設ける。また流路内にインクを通過させるため、基板と流路構成部材との間を密着させる必要がある。
【0003】
しかし、熱エネルギーによりインクを吐出するいわゆるバブルジェット(登録商標)ヘッドの場合、インクによる電蝕やバブル消泡の際のキャビテーションによって熱エネルギー発生素子である発熱抵抗体等にダメージが生じる場合がある。これらの発生を抑制するために、発熱抵抗体上に窒化シリコン(SiNと称す)や酸化シリコン(SiO2:SiOと称す)等からなる絶縁保護層とTaなどからなる耐キャビテーション層を設けることが一般的である。この耐キャビテーション層は、樹脂からなる流路構成部材との密着力が絶縁保護層と比べて低い。このため、流路内におけるインク流速が速い等の厳しい条件においては、流路構成部材が耐キャビテーション層から剥離してしまう場合があった。
【0004】
ここで、耐キャビテーション層部分で流路構成部材からの剥離が生じるのを防ぐために、流路構成部材が設けられる部分には耐キャビテーション層を配置しないことも考えられる。この場合、基板上の熱エネルギー発生素子付近で、樹脂からなる流路構成部材が前記絶縁保護層のみを介して積層されることになる。この絶縁保護層は流路構成部材を構成する樹脂中に含まれるイオンを透過する性質を有している。このため、流路構成部材が設けられる部分に耐キャビテーション層を設けない構成では絶縁保護層を透過したイオンによって熱エネルギー発生素子が腐食してしまう場合があった。したがって、基板上に耐キャビテーション層を介して流路構成部材を接合することは避けられない。一方、流路構成部材が基板から剥離してしまうと流路の形状が変化し、インクの吐出特性が変化して画像形成に影響が生じるなどの問題がある。
【0005】
一方、基板と流路構成部材との間にポリエーテルアミド樹脂等の樹脂からなる密着層(以下、密着層Aと示す場合有)を設けることが有効であることが開示されている(特許文献1)。該密着層Aを設けることによって、耐キャビテーション層であるTa層上に流路構成部材を接合する場合においても、長期にわたって優れた密着性を維持することができる。また、吐出口基板の長尺化に対応するためにより密着力を向上させる構成として、密着層Aを流路に大きくはみ出して形成することが開示されている(特許文献2)。更に、Ta層と前記密着層Aとの間に、SiO等の無機材料からなる密着層(以下、密着層Bと示す場合有)を形成する構成が提案されている。
【0006】
このような密着層A、密着層Bを有する従来のインクジェットヘッドとして、図11にインクジェットヘッドのインクを吐出させるインクジェットヘッド基板の発泡室12近傍の透過平面図を示す。図12は図11のA−A線に沿って切断した断面図、図13はB−B線に沿って切断した断面図を示している。流路構成部材11は櫛歯状に複数形成されており、流路構成部材11によって熱エネルギー発生素子を囲うように形成されている発泡室12内に、インクが供給される。流路構成部材11は発泡室12に通じる流路13をも構成している。図13に示すように、流路構成部材11は基板上に密着層A103と密着層B104を介して接合されている。密着層A103は前記樹脂からなる層であり、密着層B104はSiO等の無機材料からなる層である。密着層B104は、Ta層と密着層A103との密着力を向上させる層であるために、密着層A103よりも大きな領域に形成されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−348290号公報
【特許文献2】特開2002−248771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図11〜13に示す構成のインクジェットヘッドでは、通常、使用されている間は流路内にインクが常時満たされており、密着層A、密着層Bともにインクに触れる構成となっている。特に、顔料インクにおいて、インクの性能向上のために様々な組成の分散体が用いられ、溶剤も用いられていることから、インクによっては密着層が溶解してしまう場合がある。
【0009】
例えば、SiO/SiNからなる密着層Bがインクによって溶解してしまう場合があり、特に、印字による基板の温度上昇により溶解が顕著となる。実際には、所定の枚数まで印字し続ける試験をある期間に亘って行った場合に、SiO/SiNの溶解が進行する。吐出口列のうち、一部の流路構成部材と基板との間に隙間が生じると、その領域の吐出方向がずれ、罫線がずれた印字となり画像上の不良が発生する。
【0010】
また、発泡室内に露出した密着層Bがインクにより溶解することで、発泡室内において溶解した無機材料の濃度が高くなった状態で、吐出口からのインクの蒸発によりインク中の無機材料が飽和溶解度を超える場合がある。そのために、吐出口部に無機材料が析出し、また吐出口の内壁に無機材料が付着し、ヨレや不吐が発生する場合がある。また、流路構成部材11と基板に隙間が生じるため、吐出時の発泡エネルギーが隙間に逃げ、正常な吐出を行うことができない場合がある。同様に、Ta層下のSiN等からなる絶縁保護層についてもインクにより溶解する場合がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、流路構成部材と基板とを接着する密着層及び絶縁保護層のインクに対する溶解を防止し、流路構成部材と基板との密着性及びインク吐出性能を維持できるインクジェットヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るインクジェットヘッドは、インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子と、該熱エネルギー発生素子を覆う絶縁保護層と、該絶縁保護層上に設けられたTa層とを有する基板と、該基板に接合され、前記熱エネルギー発生素子上を通って前記インクを吐出する吐出口に連通する流路を備えた流路構成部材と、を備えるインクジェットヘッドであって、前記基板と前記流路構成部材との接合部に前記Ta層が延在しており、該接合部に該Ta層と有機材料との密着性を高める無機材料からなる密着層Bを有し、前記絶縁保護層及び該密着層Bが前記流路に露出していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、流路構成部材と基板とを接着する密着層B及び絶縁保護層はインクと接触することがないためインクへの溶解を防止することができ、流路構成部材と基板との密着性及びインク吐出性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図3】本発明に係るインクジェットヘッド基板の斜視図である。
【図4】本発明に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図5】本発明に係るインクジェットヘッド基板の吐出口付近の拡大図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図11】従来のインクジェットヘッド基板の透過平面図である。
【図12】従来のインクジェットヘッド基板の断面図である。
【図13】従来のインクジェットヘッド基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
[インクジェットヘッド]
本発明に係るインクジェットヘッド基板について図3を参照して説明する。図3は、吐出口26が形成されているインクジェットヘッド基板の斜視図であり、1つの基板34に2つのインク供給口6が形成されている。図4は図3のA−A’断面図である。熱エネルギー発生素子1を備える基板34上に形成された流路構成部材11によって、流路13や、その上に配置された吐出口26が開口された吐出口プレート8が形成されている。吐出口26は、基板34上に形成された複数の熱エネルギー発生素子1上に、それに対向して開口されている。さらに、図5に図4の吐出口26近傍の拡大図を示す。流路構成部材11は、吐出口26の形成されている吐出口プレート8、流路13を囲うように形成されている。インクは、インク供給口6から流路13を通って発泡室12に至る。その後、インクは熱エネルギー発生素子1により吐出口26より吐出される。共通液室(不図示)は、インク供給口6上に流路を通じて吐出口26と連通して存在し、吐出口26に供給するインクを保持することができる。
【0017】
[第1の実施形態]
図1に本発明の第1の実施形態であるインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。点線で示されているのが密着層B104であり、その内側に実線で示されているのが流路構成部材11である。図2は図1のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子に通電するための配線100上に、熱エネルギー発生素子及び配線100等を保護するための絶縁保護層101が形成されている。絶縁保護層101上には耐キャビテーション膜であるTa層102が形成されている。Ta層102と流路構成部材11との接合部に延在する無機材料からなる密着層B104は、Ta層102と流路構成部材11とを接着している。流路構成部材11は有機材料からなり、密着層B104は流路構成部材11に覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しない。これにより、密着層B104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、絶縁保護層101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0018】
流路構成部材11に用いる前記有機材料としては特に限定されないが、ポリエーテルアミド樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。密着層Bの無機材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン等の無機材料が挙げられる。これらは1種のみでもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
[第2の実施形態]
図6に本発明の第2の実施形態であるインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層B104であり、その内側に実線で示されているのが流路構成部材11、密着層B104の内側に細い点線で示されているのが密着層A103である。図7は図6のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子に通電するための配線100上に、熱エネルギー発生素子及び配線100等を保護するための絶縁保護層101が形成されている。絶縁保護層101上に耐キャビテーション膜であるTa層102が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間には密着層B104が形成されている。また、密着層B104を覆い、かつTa層102と流路構成部材11との接合面から流路13にはみ出して密着層A103が形成されている。密着層A103は有機材料からなるためインクに溶解せず、密着層B104は密着層A103に覆われているため流路13に露出しておらずインクと直接接触しない。これにより、密着層B104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、絶縁保護層101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0020】
本実施形態では、図7に示すように密着層A103は断面形状として端部が傾斜して形成されている。これは密着層A103がエッチングにより形成される場合に生じる。この場合、密着層B104が密着層A103に覆われ流路13に露出しないようにするために、密着層B104が密着層A103の端部傾斜部より内側に形成されていることが、密着層B104のインクへの接触を確実に防ぐ観点から好ましい。
【0021】
密着層A103に用いる有機材料としては、第1の実施形態における流路構成部材11に用いる有機材料と同様の材料を用いることができる。
【0022】
[第3の実施形態]
図8に本発明の第3の実施形態であるインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層B104であり、その内側に実線で示されているのが流路構成部材11、密着層B104の内側に細い点線で示されているのが密着層A103である。本実施形態では共通液室(不図示)と流路13との連絡流路(図面では流路13の一部として記載)を横断し、かつ熱エネルギー発生素子を覆わずに密着層B104が形成されている。さらにその密着層B104を覆うように密着層A103が形成されている。図9は図8のA−A断面を示しており、断面に関しては第2の実施形態と同様である。また、図10は図8のB−B断面を示している。
【0023】
ここで、密着層B104を覆う密着層A103とTa層102との間で密着力が低下する領域として二箇所の領域が挙げられる。一つ目は、共通液室側の流路構成部材11の端部である。特許文献2で示すような方法で製造された流路構成部材11の場合には、流路構成部材11を構成する樹脂が硬化する際に、基板に固定されているために応力が発生する。具体的には基板が反る方向に応力が発生するため、共通液室側の流路構成部材11の端部にその応力が最もかかる。二つ目は、流路13付近である。これはインクジェット記録方式特有であるが、吐出方向に圧力が発生した際に流路13にインクの流れが生じる。より具体的には、バブルジェット(登録商標)方式では、ヒータに駆動パルスが印加されインクが発泡された際に、吐出方向だけではなく、流路13方向にも発泡が成長するためにインクの流れが生じる。この結果として、流路13は流れが強い領域となり密着性に影響を与える。一方、発泡室12の周囲の領域では、応力の発生はなく流路構成部材11があるために流れの衝突による密着性への影響は軽微である。
【0024】
本実施形態では、応力が最もかかる共通液室側の流路構成部材11の端部20を、共通液室側の密着層Aの端部21から離すことにより、流路構成部材11の端部20に掛かる応力が密着層Aの端部21に影響を与えない構成としている。具体的には、図8において、前記共通液室側の密着層A103の端部から共通液室側の密着層B104の端部までの距離(A1−B1)が、前記共通液室側の流路構成部材11端部から熱エネルギー発生素子側の流路構成部材端部11までの距離(D1)よりも長い。また、発泡時の共通液室側へのインクの流れが強い領域である流路13(連絡流路)においては、密着層B104が流路13(連絡流路)を横断して形成されている。これにより、密着層A103とTa層102との密着力を強くする構成としている。また、流路13(連絡流路)の密着層A103に切れ目を作らずに流路13(連絡流路)を横断して形成することで、構造体として密着性を維持できる構成としている。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
本実施例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本実施例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が128個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計512個形成されている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0026】
図1に本実施例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、その内側に実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11である。図2は図1のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上には耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102と流路構成部材11との間に存在するSiO膜104(厚み:50nm)は、Ta層102と流路構成部材11とを接着している。流路構成部材11はエポキシ樹脂からなり、SiO膜104は流路構成部材11に覆われているため流路13には露出しておらず、インクと直接接触しない。これにより、SiO膜104はインクに溶解せず、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、SiN膜101もTa層102により覆われているため流路13には露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0027】
具体的には、ヒータは24×24μmであった。流路構成部材11はSiO膜104を覆う構成であり、図1において、A1=27μm、A2=27μm、A3=16μmであった。一方、SiO膜104は、B1=36μm、B2=42μm、B3=25μmであった。そのため、図2に示すようにSiO膜104は上面だけではなく、側面も流路構成部材11に覆われているためインクとSiO膜104とは接触しない。図2における断面において、SiO膜104の端部から流路構成部材11の端部までの水平方向の距離は4.5μmであった。
【0028】
(密着性試験)
まず、本実施例の密着性試験で使用した4種類のインクのSiO膜に対する溶解特性を以下の試験条件で検討した。インク150mlを300mlの密閉できる容器に入れた。そこに6インチのSi基板(厚み=約625μm)にSiO膜のみを形成したWafを20mm角に切断した試料を1個入れ、温度を制御するために恒温槽の中に入れた状態で放置した。放置期間は一ヶ月間である。前記試験により得られた溶解特性の結果を表1に示す。このような溶解特性を持つインクA〜Dを本実施例の密着性試験では用いた。
【0029】
【表1】
【0030】
次に、本実施例のインクジェットヘッドについて、インクジェット記録装置によって前記インクを使用して連続して印字を行い、流路構成部材11と基板との密着性試験を行った。インクジェット記録装置はシリアルスキャン方式であり、1スキャン毎に印字をしない時間がありその時に基板温度は下がり、また印字を開始する際に基板温度が上がる試験条件となっている。この試験条件では、シリアススキャンでの印字中の基板温度は50から60℃の間で上下した。また、印字期間は一ヶ月間である。評価基準は以下の通りである。
○:流路構成部材11とTa層102とが密着している。
×:流路構成部材11とTa層102との間に隙間が生じている。
【0031】
各インクにおける密着性試験の結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
本実施例の構成では、流路構成部材11とTa層102の間の密着力が維持されており、SiO膜104がインクに接触することが無く溶解もしていないために、全てのインクについて流路構成部材11と基板との密着性を維持していた。このように、本実施例ではSiO膜104をエポキシ樹脂からなる流路構成部材11によりインクに触れないように覆うことにより、流路13にSiO膜104が露出しない。これにより溶解特性の高いインクにおいてもSiO膜104のインクによる溶解を防止し、流路構成部材11と基板との密着性を維持できた。また、SiN膜101の溶解も確認されなかった。
【0034】
[実施例2]
本実施例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本実施例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が652個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計2608個形成されている。実施例1と比較して吐出口26が増えたことにより、実施例1よりも基板が長くなり、流路構成部材11に生じる応力が大きくなっている。該応力に対して密着力をより向上した構造として本実施例では密着層Aを設けている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0035】
図6に本実施例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、その内側に実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11、SiO膜104の内側に細い点線で示されているのがポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103である。図7は図6のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上に耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間にはSiO膜104(厚み:50nm)が形成されている。また、SiO膜104を覆い、かつTa層102と流路構成部材11との接合面から流路13にはみ出して密着層A103(厚み:2μm)が形成されている。密着層A103はポリエーテルアミド樹脂からなるためインクに溶解せず、SiO膜104は密着層A103に覆われているため流路13には露出しておらずインクと直接接触しない。これにより、SiO膜104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、SiN膜101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0036】
具体的には、ヒータは24×24μmであった。密着層A103はヒータには被らない構成であり、A1=29μm、A2=35μm、A3=11μmであった。一方、SiO膜104は、B1=36μm、B2=42μm、B3=25μmであった。そのため、図7に示すようにSiO膜104は上面だけではなく、側面も密着層A103に覆われており、インクとSiO膜104とは接触しない。図7における断面において、SiO膜104の端部から密着層A103の端部までの水平方向の距離は3.5μmであった。また、本実施例では密着層A103はエッチングにより形成されているが、断面形状として端部が傾斜して形成されており、具体的には図7において傾斜距離Lが0.5μmであった。そのため、SiO膜104が密着層A103の端部傾斜部より0.5μmをこえて内側に形成されるようにするため、SiO膜104の端部と密着層A103の端部との距離を3.0μmとした。
【0037】
(密着性試験)
本実施例のインクジェットヘッドについて、実施例1と同様に密着性試験を行った。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
本実施例の構成では、流路構成部材11とTa層102の間の密着力が維持されており、SiO膜104がインクに接触することが無く溶解もしていないために、全てのインクについて流路構成部材11と基板との密着性を維持していた。このように、本実施例ではSiO膜104をポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103によりインクに触れないように覆うことにより、流路13にSiO膜104が露出しない。これによりSiO膜104のインクによる溶解を防止し、流路構成部材11と基板との密着性を維持できた。また、SiN膜101の溶解も確認されなかった。
【0040】
[実施例3]
本実施例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本実施例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が652個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計2608個形成されている。実施例1と比較して吐出口26が増えたことにより、実施例1よりも基板が長くなり、流路構成部材11に生じる応力が大きくなっている。該応力に対して密着力をより向上した構造として本実施例では密着層Aを設けている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0041】
図8に本実施例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、その内側に実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11、SiO膜104の内側に細い点線で示されているのがポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103である。図9は図8のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上に耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間にはSiO膜104(厚み:50nm)が形成されている。また、SiO膜104を覆い、かつTa層102と流路構成部材11との接合面から流路13にはみ出して密着層A103(厚み:2μm)が形成されている。密着層A103はポリエーテルアミド樹脂からなるためインクに溶解せず、SiO膜104は密着層A103に覆われているため流路13には露出しておらずインクと直接接触しない。これにより、SiO膜104はインクに溶解しないため、流路構成部材11と基板との密着力を維持できる。また、SiN膜101もTa層102により覆われているため流路13に露出しておらず、インクと直接接触しないためインクに溶解しない。
【0042】
本実施例では、流路構成部材11に生じる応力が最もかかる、共通液室側の流路構成部材11の端部20を、共通液室側の密着層A103の端部21から離し、流路構成部材11の端部20に掛かる応力が密着層A103の端部21に影響を与えない構成とした。また、発泡時の共通液室側へのインクの流れが強い領域である流路13(連絡流路)においては、SiO膜104を切れ目を作らず流路13(連絡流路)を横断して形成した。これにより、密着層A103とTa層102との密着性を高め、かつ維持できる構成とした。
【0043】
具体的には、ヒータは24×24μmであった。密着層A103はヒータには被らない構成であり、開口寸法は35×29μmあった。一方、SiO膜104は42×36μmの開口寸法であった。そのため、図9に示すようにSiO膜104は上面だけではなく、側面も密着層A103に覆われており、流路13に露出していないためインクとSiO膜104とは接触しない。図9における断面において、SiO膜104の端部から密着層A103の端部までの水平方向の距離は3.5μmであった。また、図9において傾斜距離Lが0.5μmであった。SiO膜104が密着層A103の端部傾斜部より0.5μmをこえて内側に形成されるようにするため、SiO膜104の端部と密着層A103の端部との距離を3.0μmとした。さらに、ヒータ中心から共通液室側の密着層A103の端部までの距離A1が54μm、ヒータ中心から共通液室側の密着層B104までの距離B1が31μm、ヒータ中心から共通液室側の流路構成部材11端部までの距離C1が35μmであった。流路構成部材11が密着力を失うときに支点となる発泡室12端部から共通液室側の流路構成部材11までの距離D1が20.5μmであった。D1の距離よりも(A1−B1)の距離を長くすることにより、より共通液室側の流路構成部材11端部への応力が共通液室側の密着層A103の端部に与える影響は軽減された。
【0044】
(密着性試験)
本実施例のインクジェットヘッドについて、実施例1と同様に密着性試験を行った。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
本実施例の構成では、流路構成部材11とTa膜102の間の密着力が維持されており、密着層B104がインクに接触することが無く溶解もしていないために、全てのインクについて流路構成部材11と基板との密着性を維持していた。また、SiN膜101の溶解も確認されなかった。
【0047】
さらに厳しい密着性試験として、流路内のインクの流速が速い条件で試験を行った。昇温により発泡時の共通液室側へのインクの流速が速くなり、流路内のインクの流速を速くすることができるため、シリアススキャンでの印字中の基板温度が60から70℃の間で上下する条件で行った。それ以外は前記密着性試験と同様に試験を行った。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
この試験方法においても、前記4種類のいずれのインクにおいても流路構成部材11と基板との間に隙間は発生せず、密着力に関して良好な結果であった。
【0050】
[比較例1]
本比較例のインクジェットヘッドについて図3を参照して説明する。本比較例のインクジェットヘッドは1つの基板に2つのインク供給口6が形成されており、1つのインク供給口6に対して吐出口26が両側に1列ずつ、1列が652個で配置されている。吐出口26は1つの基板に4列あるため、吐出口26は合計2608個形成されている。実施例1と比較して吐出口26が増えたことにより、実施例1よりも基板が長くなり、流路構成部材11に生じる応力が大きくなっている。該応力に対して密着力をより向上した構造として本実施例では密着層Aを設けている。また、1つのインクジェットヘッドに6つの基板が設けられていて、6種類のインクを吐出できる構成となっている。
【0051】
図11に本比較例のインクジェットヘッドの発泡室12近傍の透過平面図を示す。太い点線で示されているのが密着層BであるSiO膜104であり、実線で示されているのがエポキシ樹脂からなる流路構成部材11、細い点線で示されているのがポリエーテルアミド樹脂からなる密着層A103である。図12は図11のA−A断面を示している。熱エネルギー発生素子であるヒータに通電するためのアルミ配線100上に、アルミ配線100等を保護するための絶縁保護層であるSiN膜101(厚み:300nm)が形成されている。SiN膜101上に耐キャビテーション膜であるTa層102(厚み:200nm)が形成されている。Ta層102上であってTa層102と流路構成部材11との間にはSiO膜104(厚み:50nm)が形成されている。SiO膜104は流路13及び発泡室12内に露出している。また、Ta層102と流路構成部材11との間であってSiO膜104上に密着層A103(厚み:2μm)が形成されている。密着層A103はSiO膜104を部分的に覆っている。また、流路13(連絡流路)において、SiO膜104を切れ目を作らず流路13(連絡流路)を横断して形成した。この流路13(連絡流路)におけるSiO膜104も一部密着層A103に覆われておらず露出している。ヒータは24×24μmであった。密着層A103はヒータには被らない構成であり、A1=35μm、A2=40μm、A3=11μmであった。一方、SiO膜104は、B1=29μm、B2=29μmであった。
【0052】
(密着性試験)
本比較例のインクジェットヘッドについて、実施例1と同様に密着性試験を行った。結果を表6に示す。
【0053】
【表6】
【0054】
本比較例のインクジェットヘッドでは、各ヒータ毎に4.0×108パルス時点まで印字が進んだ時点で流路構成部材11と基板との間に隙間が生じた。隙間は断面観察より、SiO膜104の溶解により流路構成部材11とTa層102の間で生じていた。SiO膜104の厚みは50nmであり、60℃一ヶ月でほぼSiO膜104が溶解しきるようなインクであるインクA〜Cでは密着力を失った。このように、本比較例のインクジェットヘッドではSiO膜104はインクに触れる構成となっていたため、SiO膜104がインクに溶解し密着力を維持できなかった。
【符号の説明】
【0055】
1:熱エネルギー発生素子
6:インク供給口
8:吐出口プレート
11:流路構成部材
12:発泡室
13:流路(連絡流路)
26:吐出口
34:基板
100:配線(アルミ配線)
101:絶縁保護層(SiN膜)
102:Ta層
103:密着層A
104:密着層B(SiO膜)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子と、該熱エネルギー発生素子を覆う絶縁保護層と、該絶縁保護層の上に設けられたTa層とを有する基板と、
該基板に接合され、前記熱エネルギー発生素子の上を通って前記インクを吐出する吐出口に連通する流路を備えた流路構成部材と、を備えるインクジェットヘッドであって、
前記基板と前記流路構成部材との接合部に前記Ta層が延在しており、該接合部に該Ta層と有機材料との密着性を高める無機材料からなる密着層Bを有し、前記絶縁保護層及び該密着層Bが前記流路に露出していないことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記流路構成部材が前記有機材料からなり、前記密着層Bが該流路構成部材に覆われていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記有機材料からなる密着層Aが、前記密着層Bの上であって前記流路構成部材と前記基板との接合面から前記流路にはみ出して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記密着層Aの端部が傾斜しており、前記密着層Bが該密着層Aの端部傾斜部より内側に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記吐出口に供給するインクを保持し、前記流路に連通する共通液室が前記流路構成部材により形成され、前記密着層Bが該共通液室と前記流路との連絡流路を横断し、かつ前記熱エネルギー発生素子を覆わずに形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記共通液室側の前記密着層Aの端部から該共通液室側の前記密着層Bの端部までの距離が、該共通液室側の流路構成部材端部から前記熱エネルギー発生素子側の前記流路構成部材端部までの距離よりも長いことを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記無機材料が酸化シリコン又は窒化シリコンであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記有機材料がポリエーテルアミド樹脂又はエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項1】
インクを吐出するための熱エネルギーを発生する熱エネルギー発生素子と、該熱エネルギー発生素子を覆う絶縁保護層と、該絶縁保護層の上に設けられたTa層とを有する基板と、
該基板に接合され、前記熱エネルギー発生素子の上を通って前記インクを吐出する吐出口に連通する流路を備えた流路構成部材と、を備えるインクジェットヘッドであって、
前記基板と前記流路構成部材との接合部に前記Ta層が延在しており、該接合部に該Ta層と有機材料との密着性を高める無機材料からなる密着層Bを有し、前記絶縁保護層及び該密着層Bが前記流路に露出していないことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記流路構成部材が前記有機材料からなり、前記密着層Bが該流路構成部材に覆われていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記有機材料からなる密着層Aが、前記密着層Bの上であって前記流路構成部材と前記基板との接合面から前記流路にはみ出して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記密着層Aの端部が傾斜しており、前記密着層Bが該密着層Aの端部傾斜部より内側に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記吐出口に供給するインクを保持し、前記流路に連通する共通液室が前記流路構成部材により形成され、前記密着層Bが該共通液室と前記流路との連絡流路を横断し、かつ前記熱エネルギー発生素子を覆わずに形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記共通液室側の前記密着層Aの端部から該共通液室側の前記密着層Bの端部までの距離が、該共通液室側の流路構成部材端部から前記熱エネルギー発生素子側の前記流路構成部材端部までの距離よりも長いことを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記無機材料が酸化シリコン又は窒化シリコンであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記有機材料がポリエーテルアミド樹脂又はエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−152654(P2011−152654A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14096(P2010−14096)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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