説明

インクジェットヘッド

【課題】大型化を招くことなく、電流密度の小さな共通電極を容易に形成することができる独立駆動型のインクジェットヘッドの提供。
【解決手段】チャネル12と駆動壁11とが配置されたチャネル列を有し、駆動壁11に駆動電極が形成されると共に、駆動チャネルとダミーチャネルとが配置されて構成されてなるヘッドチップ1と、ヘッドチップ1の各駆動電極を該ヘッドチップ1の側方に電気的に引き出す配線電極を有する配線基板と、駆動回路からの駆動信号をヘッドチップの各駆動電極に印加するための電気配線部材4とを有するインクジェットヘッドであって、電気配線部材4は、一面に個別電極が形成されていると共に、他面にダミーチャネル用配線電極に共通に電気的接続される広幅共通電極が形成されていると共に、電気配線部材を貫通して、配線基板のダミーチャネル用配線電極と電気的接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットヘッドに関し、詳しくは、インク吐出を行わないダミーチャネル内の駆動電極と共通に導通する共通電極の電流密度を小さくすることができるインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
チャネルを区画する駆動壁に形成された駆動電極に所定電圧の駆動信号を印加することにより駆動壁を変形させ、そのとき発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたインクジェットヘッドとして、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が配置されたいわゆるハーモニカ型のヘッドチップを有するものが知られている。その中でも、チャネル列内の各チャネルをインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとに分け、これらを交互に配置することによってチャネル列を構成した独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドがある。駆動チャネルとダミーチャネルとを交互に配置することにより、全ての駆動チャネルから同時にインクを吐出することが可能である。
【0003】
独立駆動タイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドでは、各ダミーチャネル内の駆動電極は共通に接地又は共通の駆動信号を印加することができるため、従来では、同一チャネル列内の各ダミーチャネルの駆動電極を、ヘッドチップのチャネルが開口する面上で、1本の電極(共通電極)にまとめることで、駆動ICの数を低減させると共に、駆動回路との電気的接続の簡略化を図っている(特許文献1の図15、特許文献2、特許文献3の図2、図3)。
【0004】
また、1枚の電気配線部材に駆動チャネルの駆動電極と導通する個別の電極と、ダミーチャネルの駆動電極と導通する1本の共通電極とを形成し、この電気配線部材をヘッドチップに接合することで、ヘッドチップ側に共通電極を形成することなく、電気配線部材側でダミーチャネルの各駆動電極を共通電極化する技術も知られている(特許文献3の図9、図15)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−274327号公報
【特許文献2】特開2008−143167号公報
【特許文献3】特開平8−197728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、インクジェットヘッドは更なるコンパクト化、高密度化が要望されるようになり、ヘッドチップはより一層の小型化、薄型化が要請されている。このため、特許文献1の図15や特許文献2に記載のように、ヘッドチップの面上にチャネル列と平行に延びる共通電極を形成する場合、そのスペースは限られ、極めて細幅の共通電極しか形成することができなくなってきている。特に、複数のチャネル列を有するヘッドチップの場合、チャネル列間のスペースは極めて狭小となり、この間に広幅の共通電極を形成することは困難である。
【0007】
共通電極の電極幅が小さい場合、そこを流れる電流密度が大きくなってしまい、過剰な電流が流れて、駆動チャネルから吐出される液滴速度が遅くなる等、射出特性に影響が出てしまう。特に、駆動電極に印加する駆動信号としてパルス信号を使用する場合、瞬間的に流れる電流量が非常に大きくなる性質があり、電流密度の増大化は大きな問題となる。
【0008】
ヘッドチップの面上において、共通電極の電極幅を大きくせずに電流密度を下げる方法として、共通電極の厚みを厚くする方法が考えられるが、例えばヘッドチップに使用される電極金属として一般的なアルミニウムの場合、通常は表面から5μm程度の厚みで形成される。これを更に厚く、例えば10μm以上に形成することは困難であり、ヘッドチップの面上に形成する共通電極の厚みを制御することによって電流密度を低下させることは現実的な方法ではない。
【0009】
一方、特許文献3の図9、図15のように、ヘッドチップに対して接合される電気配線部材側で共通電極化を行えば、ヘッドチップの狭小なスペースに左右されずに広幅の共通電極を形成することが可能であると考えられる。
【0010】
しかしながら、電気配線部材の表面に、ダミーチャネル用の共通電極と駆動チャネル用の多数の個別電極とが互いに短絡しないように区別して配線しながら共通電極だけ広幅に形成することは、電気配線部材の大型化、広幅化を招く結果となり、この電気配線部材を含めたインクジェットヘッドの小型化の要請を満足させることが困難となる。
【0011】
例えば、特許文献3の図9、図15に開示の方法では、駆動チャネル用の複数の個別電極とダミーチャネル用の1本の共通電極とを、チャネル列を間に挟んで反対方向に引き出すことで、相互間の短絡を防止するように配線している。この場合、電気配線部材は、ヘッドチップのチャネル列を挟んで互いに反対方向に電極を引き出さなくてはならないため、共通電極を広幅に形成すると、共通電極が配線された側の電気配線部材の張り出し量が大きくなってしまい、それだけ電気配線部材は大型化してしまう。
【0012】
そこで、本発明は、インクジェットヘッドの大型化を招くことなく、電流密度の小さな共通電極を容易に形成することができる独立駆動型のインクジェットヘッドを提供することを課題とする。
【0013】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0015】
請求項1記載の発明は、チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されると共に、前記チャネル列がインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとが交互に配置されて構成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップの前記各駆動電極を該ヘッドチップの側方に電気的に引き出す駆動チャネル用配線電極及びダミーチャネル用配線電極を有する配線基板と、
前記配線基板の端部に接合され、駆動回路からの駆動信号を前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極及び前記ダミーチャネル用配線電極を介して前記ヘッドチップの前記各駆動電極に印加するための電気配線部材とを有するインクジェットヘッドであって、
前記電気配線部材は、一面に前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極と電気的接続される個別電極がそれぞれ形成されていると共に、他面に複数の前記ダミーチャネル用配線電極に共通に電気的接続される共通電極が形成されており、
前記共通電極は、前記ダミーチャネル用配線電極よりも広幅に形成されていると共に、前記電気配線部材を貫通して、前記配線基板の前記ダミーチャネル用配線電極と電気的接続されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0016】
請求項2記載の発明は、前記配線基板は、ガラス、シリコン、セラミックスのいずれかの基板からなることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドである。
【0017】
請求項3記載の発明は、前記電気配線部材は、フレキシブルプリント基板であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドである。
【0018】
請求項4記載の発明は、チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されると共に、前記チャネル列がインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとが交互に配置されて構成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップの前記各駆動電極を該ヘッドチップの側方に電気的に引き出す駆動チャネル用配線電極及びダミーチャネル用配線電極を有する配線基板と、
前記配線基板の端部に接合され、駆動回路からの駆動信号を前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極及び前記ダミーチャネル用配線電極を介して前記ヘッドチップの前記各駆動電極に印加するための電気配線部材とを有するインクジェットヘッドであって、
前記配線基板は、複数の前記ダミーチャネル用配線電極に共通に電気的接続されると共に該配線基板に埋設された埋込み電極によって形成された共通電極を有しており、
前記電気配線部材は、前記共通電極を介して前記ダミーチャネル用配線電極と電気的接続されていることを特徴とするインクジェットヘッドである。
【0019】
請求項5記載の発明は、前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極と前記共通電極は、該配線基板の表裏両面に分かれて形成されていることを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッドである。
【0020】
請求項6記載の発明は、前記配線基板は、ガラス、シリコン、セラミックスのいずれかの基板からなることを特徴とする請求項4又は5記載のインクジェットヘッドである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インクジェットヘッドの大型化を招くことなく、電流密度の小さな共通電極を容易に形成することができる独立駆動型のインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図
【図2】第1の実施形態に係るヘッドチップの背面図
【図3】本発明の第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図
【図4】第2の実施形態に係るヘッドチップの背面図
【図5】第2の実施形態に係る配線基板の平面図
【図6】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図であり、(a)は図4、図5の(i)−(i)線に沿う断面図、(b)は図4、図5の(ii)−(ii)線に沿う断面図
【図7】本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図
【図8】第3の実施形態に係る配線基板の平面図
【図9】第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図であり、(a)は図8の(iii)−(iii)線に沿う断面図、(b)は図8の(iv)−(iv)線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明におけるヘッドチップは、チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されてなるチャネル列を有している。ヘッドチップは、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が対向して配置される。各チャネルは、後面の開口部(チャネルの入口)から前面の開口部(チャネルの出口)にかけて断面形状が変化しないストレート状に形成され、各チャネル内に臨む駆動壁の表面には駆動電極が形成される。このようなヘッドチップは、六面体からなるいわゆるハーモニカ型のヘッドチップであり、駆動壁両面の各駆動電極に、駆動回路から送られる所定電圧の駆動信号を電気配線部材を介して印加することによって駆動壁をせん断変形させ、チャネル内に供給されたインクに吐出のための圧力変化を与え、ヘッドチップの前面に配置されたノズルからインク滴として吐出させる。
【0024】
本発明では、このような六面体のハーモニカ型のヘッドチップにおいて、ノズルが配置されてインクが吐出される側の面を「前面」、その反対側の面を「後面」と定義する。また、ヘッドチップの前面又は後面と平行な方向であって該ヘッドチップから離れる方向をヘッドチップの「側方」と定義する。
【0025】
本発明におけるチャネル列は、駆動チャネルとダミーチャネルとが交互に配置される独立駆動型のヘッドチップである。ヘッドチップの後面には、駆動チャネル内の駆動電極と導通する駆動チャネル用接続電極及びダミーチャネル内の駆動電極と導通するダミーチャネル用接続電極がそれぞれ個別に形成され、対応する駆動チャネル又はダミーチャネルと同ピッチでヘッドチップの後面に配列されている。
【0026】
駆動チャネルとは、画像記録時に画像データに応じてノズルからインク吐出を行うチャネルであり、ダミーチャネルとは、画像データに関わらず、常にインク吐出を行わないチャネルである。ダミーチャネルはインク吐出を行う必要がないため、一般にインクが充填されないか、ノズルプレートにダミーチャネルに対応するノズルが形成されない。
【0027】
配線基板は、ヘッドチップと電気配線部材との間を中継する中間配線部材であり、駆動回路とつながる電気配線部材とヘッドチップとの間の接続を容易化するべく、ヘッドチップの後面から特にチャネル列と直交する側方に張り出す大きさを有しており、ヘッドチップの後面に接合されることによって各駆動電極をそれに対応する各接続電極を介してヘッドチップの側方に電気的に引き出す。
【0028】
配線基板におけるヘッドチップの後面と接合される側の面には、ヘッドチップの駆動チャネル用接続電極の各々と電気的接続される駆動チャネル用配線電極と、ダミーチャネル用接続電極の各々と電気的接続されるダミーチャネル用配線電極とを有している。各配線電極は、その一端が、それぞれ対応する接続電極と電気的接続され、他端が、ヘッドチップの側方に張り出した配線基板の同一端部まで延びており、該端部に配列されている。電気配線部材は、この配線基板の端部においてACF(異方性導電性フィルム)等を用いて接合される。
【0029】
電気配線部材は、ヘッドチップと駆動回路との間を電気的に中継する部材であり、好ましくは基板材料がポリイミド等の樹脂フィルムからなるフレキシブルプリント基板(以下、FPCという。)が用いられる。本発明の一つの態様では、この電気配線部材の一面に、配線基板に形成された駆動チャネル用配線電極の各々と電気的接続される個別電極がそれぞれ形成され、他面に、複数のダミーチャネル用配線電極に共通に電気的接続される共通電極が形成される。
【0030】
共通電極は、ダミーチャネル用配線電極よりも広幅に形成される。共通電極は個別電極とは反対側の面に形成されるため、個別電極の配線の影響を受けず、また、電気配線部材の大型化を招くことなく、ダミーチャネル用配線電極よりも十分に広幅とすることで電流密度の小さな共通電極とすることができる。このため、インクジェットヘッドの大型化を招くことなく、電流密度の小さな共通電極を容易に形成することができる。
【0031】
共通電極は、電気配線部材を貫通する貫通電極によって、個別電極と同一面に引き出されており、該個別電極と駆動チャネル用配線電極とが電気的接続される側と同一面側で、ダミーチャネル用配線電極と電気的接続される。
【0032】
このような電気配線部材は、ヘッドチップとの間に配線基板を介して接合することで、電気配線部材の接合作業が容易化でき、また、電気配線部材がインクと直に触れることがない。
【0033】
本発明の他の態様では、ヘッドチップの後面に接合される配線基板に共通電極が形成される。この場合の配線基板におけるヘッドチップの後面と接合される側の面には、ヘッドチップの駆動チャネル用接続電極の各々と電気的接続される駆動チャネル用配線電極と、ダミーチャネル用接続電極に共通に電気的接続される共通電極が形成される。
【0034】
この共通電極は、配線基板に埋設された埋込み電極によって形成される。埋込み電極は、配線基板の表面から凹設された溝の内部を埋めるように該溝内に電極金属を充填することによって、電極幅(溝の幅)を広くしなくても厚みの厚い共通電極を形成できる。この場合の金属電極は例えば導電性ペーストによって形成することができる。また、溝内にアルミ線、銅線、金線等の金属線を埋め込むことによって形成してもよい。共通電極をこのような埋込み電極とすることで、幅広に形成しなくても配線基板表面に電流密度の小さな共通電極を形成することができるので、配線基板が無駄に大きくなることはなく、インクジェットヘッドの大型化が抑制できる。
【0035】
溝は、配線基板にヘッドチップのチャネル列と平行となるように形成される。溝の断面形状は、矩形状、V字状、U字状等、特に問わない。溝の幅は50μm〜1mm、深さは30μm〜500μが好ましい。配線基板は、この溝の深さ以上の厚みを有する。
【0036】
配線基板に設けられる駆動チャネル用配線電極と共通電極とは、配線基板の表裏両面にそれぞれ分けて形成してもよい。この場合、配線基板の一方の面のみで駆動チャネル用配線電極及び共通電極と電気配線部材との間の電気的接続を行うことができるようにするため、共通電極は配線基板を貫通する貫通電極によって、駆動チャネル用配線電極と同一面に電気配線部材との電気的接続を行うための接続部を引き出し形成しておくことが好ましい。
【0037】
本発明に用いられる配線基板は、ガラス、シリコン、セラミックスのいずれかの基板からなることが好ましい。これらはいずれも耐インク性に優れるため、使用されるインク種を問わない。
【0038】
本発明においてヘッドチップのチャネル列数は問わず、1列でも複数列でもよい。複数のチャネル列を有する場合、共通電極は各チャネル列に1対1に対応して電気配線部材又は配線基板に設けることができる。
【0039】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0040】
図1は本発明の第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図2はそのヘッドチップの背面図である。
【0041】
図中、1はハーモニカ型のヘッドチップ、2はノズルプレート、3は配線基板、4はFPCである。
【0042】
ヘッドチップ1は、圧電素子からなる駆動壁11とチャネル12とが交互に配置されることにより構成されたチャネル列が2列平行に形成されている。ここでは、図2中の下側のチャネル列をA列、上側のチャネル列をB列とする。各チャネル列を構成するチャネル12は、インク吐出を行う駆動チャネル121とインク吐出を行わないダミーチャネル122とが交互となるように配置されている(図2)。
【0043】
各チャネル12(121、122)は、ヘッドチップ1の前面1aと後面1bとにそれぞれ開口しており、その内面には駆動電極13がそれぞれ密着形成されている。
【0044】
ヘッドチップ1の後面1bには、一端が駆動チャネル121内の駆動電極13と導通する駆動チャネル用接続電極141と、一端がダミーチャネル122内の駆動電極13と導通するダミーチャネル用接続電極142とが形成されている。各接続電極141、142の他端は、A列ではヘッドチップ1の後面1bにおけるチャネル列と平行な一方の端縁1cまで延び、該端縁1cに各チャネル121、122と同ピッチで配列され、B列ではA列の手前まで延び、B列とA列との間において各チャネル121、122と同ピッチで配列されている。
【0045】
ノズルプレート2は、ヘッドチップ1の前面1aに接合されている。ノズルプレート2には、A列及びB列の各駆動チャネル121に対応する位置にのみノズル21が開設されている。
【0046】
配線基板3は、ヘッドチップ1の後面1bに接着剤によって接合されている。配線基板3は、ヘッドチップ1の後面1bよりも大判な平板状の基板であり、該後面1bと接合する接合領域(図1中の一点鎖線で示される領域)31内には、ヘッドチップ1の後面1bに開口するA列及びB列の各駆動チャネル121に対応する位置のみに、配線基板3の背面側に設けられる不図示の共通インク室から各駆動チャネル121内にインクを供給するためのインク供給口32が個別に開設されている。従って、ヘッドチップ1のA列及びB列の各ダミーチャネル122の入口側は配線基板3によって閉塞され、共通インク室からインクが供給されないようになっている。
【0047】
配線基板3におけるヘッドチップ1の後面1bと接合される側の面(以下、表面という。)には、ヘッドチップ1の後面1bに配列されているA列及びB列の各駆動チャネル用接続電極141と電気的接続される駆動チャネル用配線電極33が、配線基板3の表面上においてヘッドチップ1のチャネル列と直交する方向に延びるように、蒸着又はスパッタリング等によって形成されている。各駆動チャネル用配線電極33の一端は、ヘッドチップ1のA列又はB列の各駆動チャネル用接続電極141と接するべく、接合領域31内の各インク供給口32の近傍に位置し、他端は、該接合領域31からヘッドチップ1のチャネル列と直交する側方に張り出した配線基板3の端部3aまで延び、該端部3aにおいて配列されている。
【0048】
また、同じく配線基板3には、ヘッドチップ1の後面1bに配列されているA列及びB列の各ダミーチャネル用接続電極142と電気的接続されるダミーチャネル用配線電極34が、配線基板3の表面上においてヘッドチップ1のチャネル列と直交する方向に延びるように、蒸着又はスパッタリング等によって形成されている。各ダミーチャネル用配線電極34の一端は、ヘッドチップ1のA列又はB列の各ダミーチャネル用接続電極142と接するべく、接合領域31内のダミーチャネル122に対応する領域の近傍に位置し、他端は、該接合領域31からヘッドチップ1のチャネル列と直交する側方に張り出した配線基板3の端部3aまで延び、該端部3aにおいて配列されている。
【0049】
FPC4は配線基板3の表面側の端部3aに接合される。このFPC4には、一面に、配線基板3のA列及びB列の各駆動チャネル用配線電極33に対応するピッチで、該駆動チャネル用配線電極33と電気的接続される個別電極41を有していると共に、その反対面に共通電極42A、42Bが形成されている。
【0050】
共通電極42A、42Bは、ヘッドチップ1のチャネル列方向に沿うFPC4の幅方向に延びるよう形成されている。共通電極42Aは、A列のダミーチャネル122内の各駆動電極13に対して共通に電気的接続される電極であり、共通電極42Bは、B列のダミーチャネル122内の各駆動電極13に対して共通に電気的接続される電極である。共通電極42A、42BにおけるFPC4の幅方向の一端はヘッドチップ1と反対側に向けて屈曲する配線部421A、421Bとなっており、FPC4の長さ方向に沿って図示しない駆動回路に向けて配線され、各個別電極41と共に該駆動回路に電気的に接続されている。
【0051】
FPC4の個別電極41と同一面には、配線基板3のA列及びB列の各ダミーチャネル用配線電極34に対応するピッチで、共通電極42A、42BをそれぞれA列又はB列の各ダミーチャネル用配線電極34と共通に電気的接続させるための接続電極部422A、422Bを有しており、配線基板3の各駆動チャネル用配線電極33及び各ダミーチャネル用配線電極34と同ピッチでFPC4の一端に配列されている。
【0052】
一方の接続電極部422Aは、その裏面に形成されている共通電極42Aと、FPC4を貫通する貫通電極423Aによって導通しており、他方の接続電極部422Bは、その裏面に形成されている共通電極42Bと、FPC4を貫通する貫通電極423Bによって導通している。
【0053】
各共通電極42A、42Bは、個別電極41とは反対面に形成されるので、個別電極41の配線に影響されることがない。このため、各共通電極42A、42Bは、FPC4の片面の広い面積を利用して、該FPC4を大型化(広幅化)する必要なく、その幅Wをダミーチャネル用配線電極34よりも十分に広幅に形成することができ、電流密度を十分に小さくすることが可能である。
【0054】
また、一般に、チャネル列数やチャネル数が多列、多数に及ぶ高密度ヘッドの場合、電極ピッチも極めて高密度とならざるを得ず、使用するFPCも電極の厚みが薄い高密度用のものを使用する必要があるが、本発明によれば、個別電極41は高密度用に薄くし、共通電極42A、42Bはチャネル列数だけでよいため、低密度用に厚くすることができ、電流密度の低下を一層容易化できる利点がある。
【0055】
なお、各配線部421A、421Bは、更に貫通電極によって再度個別電極41と同一面に引き出すことにより、個別電極41と各共通電極42A、42BとをFPC4の同一面において駆動回路と電気的接続されるようにしてもよい。
【0056】
また、FPC4の表裏両面に個別電極と共通電極とを分けて形成する態様は、1列のチャネル列を有するヘッドチップにも適用でき、また、3列以上のチャネル列を有するヘッドチップにも適用できる。チャネル列数が4列以上となる場合、配線基板3の両端部を利用してそれぞれFPC4を接合すればよい。
【0057】
図3は本発明の第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図4はそのヘッドチップの背面図、図5はその配線基板の平面図、図6はそのインクジェットヘッドの断面図であり、(a)は図4、図5の(i)-(i)線に沿う断面図、(b)は図4、図5の(ii)-(ii)線に沿う断面図である。図1、図2と同一符号の部位は同一構成の部位であるため詳細な説明は省略する。
【0058】
ここでは、ヘッドチップ1は1列のチャネル列を有している。
【0059】
配線基板5は、ヘッドチップ1の後面1bに接着剤100(図6参照)によって接合されている。配線基板5は、ヘッドチップ1の後面1bよりも大判な平板状の基板であり、ヘッドチップ1の後面1bと接合する接合領域51内には、ヘッドチップ1の後面1bに開口する駆動チャネル121に対応する位置のみに、配線基板5の背面側に設けられる不図示の共通インク室から駆動チャネル121内にインクを供給するためのインク供給口52が個別に開設されている。従って、ヘッドチップ1のダミーチャネル122の入口側は配線基板5によって閉塞され、共通インク室からインクが供給されないようになっている。
【0060】
配線基板5の表面には、ヘッドチップ1の後面1bに配列されている駆動チャネル用接続電極141と電気的接続される駆動チャネル用配線電極53が、配線基板5の表面においてヘッドチップ1のチャネル列と直交する方向に延びるように、蒸着又はスパッタリング等によって形成されている。各駆動チャネル用配線電極53の一端は、ヘッドチップ1の接続電極141と接するべく、接合領域51内の各インク供給口52の近傍に位置し、他端は、該接合領域51からヘッドチップ1のチャネル列と直交する側方にはみ出して配列されている。
【0061】
また、同じく配線基板5の表面には、ヘッドチップ1の後面1bに配列されているダミーチャネル用接続電極142と電気的接続されるダミーチャネル用配線電極54が、配線基板5の表面においてヘッドチップ1のチャネル列と直交する方向に延びるように、蒸着又はスパッタリング等によって形成されている。各ダミーチャネル用配線電極54の一端は、ヘッドチップ1の接続電極141と接するべく、接合領域51内のダミーチャネル122に対応する部位に位置し、他端は、該接合領域51からヘッドチップ1のチャネル列と直交する側方にはみ出し、1本の共通電極55と全て導通している。
【0062】
共通電極55は、配線基板5の表面において、駆動チャネル用配線電極53の他端よりも接合領域51から遠い側に、各駆動チャネル用配線電極53と短絡しないように、ヘッドチップ1のチャネル列と平行な方向に延び、配線基板5の幅一杯に亘って形成されている。ここではヘッドチップ1のチャネル列が1列であるため、1本の共通電極55のみが形成されている。
【0063】
この共通電極55は、各配線電極53、54を形成する前に、予め配線基板35表面から凹設された溝56内に、配線基板5の表面が面一状となるように埋設された埋込み電極によって形成されている。溝56は、基板材料がガラスの場合、サンドブラストによって形成することができる。また、基板材料がシリコンの場合、異方性エッチングによって形成することができる。更に、基板材料がセラミックスの場合、ダイシングソーによって溝を切削加工することで形成することができる。
【0064】
共通電極55は、このように溝56内に埋設されるため、配線基板5の表面に露呈する領域は細幅状であっても、配線基板5の深さ方向に厚みを有するため電流密度は小さくできる。従って、共通電極55の形成領域は小さくて済み、それだけ配線基板5のヘッドチップ1の側方への張り出し量を抑えることができ、インクジェットヘッドの小型化を図ることができる。
【0065】
なお、図3、図5における符号551は、配線基板5の表面において、共通電極55の一端部と導通するように形成された接続部であり、各配線電極53、54と同時に蒸着やスパッタリング等によって形成される。FPC6は、該FPC6に配線された電極によって、駆動チャネル用配線電極53と電気的接続されると共に、共通電極55の接続部551において電気的接続され、各駆動電極13に不図示の駆動回路からの駆動信号を印加する。
【0066】
この配線基板5の表面の一端に接合されるFPC6は、各駆動チャネル用配線電極53と電気的に接続されるFPC6側に配線されている電極が共通電極55を跨ぐ形になるが、共通電極55は配線基板5の表面と面一状に形成しておけば、この配線基板5の表面から所定厚みで突出する駆動チャネル用配線電極53及び接続部551に対してFPC6側の電極が電気的接続することで、このFPC6側の電極が共通電極55と直に接触しにくくなる。この場合、FPC6側の電極と共通電極55との間の絶縁の確実性を図るため、共通電極55の領域に対応するFPC6の部位のカバーレイフィルムを残しておくか、配線基板5側又はFPC6側の少なくともいずれかに、共通電極55とFPC6側の駆動チャネル用配線電極53と電気的接続されるべき電極との短絡を防止するパリレン膜等の絶縁保護膜を形成しておくことが好ましい。
【0067】
図7は本発明の第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図、図8はその配線基板の平面図、図9はそのインクジェットヘッドの断面図であり、(a)は図8の(iii)−(iii)線に沿う断面図、(b)は図8の(iv)−(iv)線に沿う断面図である。図1、図2、図3〜図6と同一符号の部位は同一構成の部位であるため詳細な説明は省略する。
【0068】
第2の実施形態では、駆動チャネル用配線電極と共通電極とを配線基板の表面に共に形成したが、第3の実施形態は、これらを配線基板の表裏両面に分けて形成した例である。
【0069】
このインクジェットヘッドは、ヘッドチップ1が2列平行に並設されたチャネル列を有している例であり、ヘッドチップ1の構成は図1、図2に示したものと同一である。このため、配線基板5には、A列とB列にそれぞれ対応して、駆動チャネル用配線電極53A、53B、ダミーチャネル用配線電極54A、54Bを有すると共に、同様に共通電極も、共通電極55A、55Bの2本形成されている。
【0070】
ここで、本実施形態に係る共通電極55A、55Bは、配線基板5の裏面に、チャネル列毎に該チャネル列に沿って延びるように形成されている。いずれの共通電極55A、55Bも、配線基板5の裏面から凹設された溝56A、56Bの内部を埋めるように形成された埋込み電極である。
【0071】
各共通電極55A、55Bとヘッドチップ1の後面1bの各ダミーチャネル用接続電極142との電気的接続を行うため、配線基板5の表面の各ダミーチャネル用配線電極54A、54Bは、その端部において裏面側の対応する共通電極55A、55Bと貫通電極57A、57Bによって導通している。
【0072】
図7、図8中の符号551Aは、配線基板5の表面において、共通電極55Aの一端部と貫通電極58Aを介して導通するように形成された接続部、551Bは、同じく配線基板5の表面において、共通電極55Bの一端部と貫通電極58Bを介して導通するように形成された接続部であり、いずれも各配線電極53A、53B、54A、54Bと同時に蒸着やスパッタリング等によって形成される。従って、ダミーチャネル122内の各駆動電極13は、ヘッドチップ1の後面1bのダミーチャネル接続電極142、配線基板5の表面のダミーチャネル用配線電極54A、54B、貫通電極57A、57B、配線基板5の裏面の共通電極55A、55B及び貫通電極58A、58Bを介して、接続部551A、551Bによって配線基板5の表面に駆動チャネル用配線電極53A、53Bと共に配列される。
【0073】
FPC6は、配線基板5の表面の端部において、該FPC6に配線された電極によって、各駆動チャネル用配線電極53A、53Bと電気的接続されると共に、共通電極55A、55Bの接続部551A、551Bにおいて電気的接続され、各駆動電極13に不図示の駆動回路からの駆動信号を印加する。
【0074】
この第3の実施形態に係るインクジェットヘッドも、配線基板5上の各共通電極55A、55Bが配線基板5の溝56A、56B内に形成されるため、広幅に形成しなくても十分に電流密度を小さくすることができる。しかも、FPC6は、配線基板5の表面に配列される各駆動チャネル用配線電極53A、53Bと接続部551A、551Bと電気的接続すればよく、共通電極を跨ぐ必要はないため、共通電極との短絡を心配する必要がない。
【0075】
第3の実施形態において、ヘッドチップ1に形成されるチャネル列は2列に限らず、1列のチャネル列を有するヘッドチップにも適用でき、また、3列以上のチャネル列を有するヘッドチップにも適用できる。チャネル列数が4列以上となる場合、配線基板5の両端部を利用してそれぞれFPC6を接合すればよい。
【符号の説明】
【0076】
1:ヘッドチップ
1a:前面
1b:後面
1c:端部
11:駆動壁
12:チャネル
121:駆動チャネル
122:ダミーチャネル
13:駆動電極
141:駆動チャネル用接続電極
142:ダミーチャネル用接続電極
2:ノズルプレート
21:ノズル
3:配線基板
31:接合領域
32:開口
33:駆動チャネル用配線電極
34:ダミーチャネル用配線電極
4:FPC(電気配線部材)
41:個別電極
42A、42B:共通電極
421A、421B:配線部
422A、422B:接続電極部
423A、423B:貫通電極
5:配線基板
51:接合領域
52:開口
53、53A、53B:駆動チャネル用配線電極
54、54A、54B:ダミーチャネル用配線電極
55、55A、55B:共通電極
551、551A、551B:接続部
56、56A、56B:溝
57A、57B:貫通電極
58A、58B:貫通電極
6:FPC(電気配線部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されると共に、前記チャネル列がインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとが交互に配置されて構成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップの前記各駆動電極を該ヘッドチップの側方に電気的に引き出す駆動チャネル用配線電極及びダミーチャネル用配線電極を有する配線基板と、
前記配線基板の端部に接合され、駆動回路からの駆動信号を前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極及び前記ダミーチャネル用配線電極を介して前記ヘッドチップの前記各駆動電極に印加するための電気配線部材とを有するインクジェットヘッドであって、
前記電気配線部材は、一面に前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極と電気的接続される個別電極がそれぞれ形成されていると共に、他面に複数の前記ダミーチャネル用配線電極に共通に電気的接続される共通電極が形成されており、
前記共通電極は、前記ダミーチャネル用配線電極よりも広幅に形成されていると共に、前記電気配線部材を貫通して、前記配線基板の前記ダミーチャネル用配線電極と電気的接続されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記配線基板は、ガラス、シリコン、セラミックスのいずれかの基板からなることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記電気配線部材は、フレキシブルプリント基板であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
チャネルと圧電素子からなる駆動壁とが交互に配置されたチャネル列を有し、前面及び後面にそれぞれ前記チャネルの開口部が配置され、前記チャネル内に臨む前記駆動壁に駆動電極が形成されると共に、前記チャネル列がインク吐出を行う駆動チャネルとインク吐出を行わないダミーチャネルとが交互に配置されて構成されてなるヘッドチップと、
前記ヘッドチップの後面に接合され、前記ヘッドチップの前記各駆動電極を該ヘッドチップの側方に電気的に引き出す駆動チャネル用配線電極及びダミーチャネル用配線電極を有する配線基板と、
前記配線基板の端部に接合され、駆動回路からの駆動信号を前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極及び前記ダミーチャネル用配線電極を介して前記ヘッドチップの前記各駆動電極に印加するための電気配線部材とを有するインクジェットヘッドであって、
前記配線基板は、複数の前記ダミーチャネル用配線電極に共通に電気的接続されると共に該配線基板に埋設された埋込み電極によって形成された共通電極を有しており、
前記電気配線部材は、前記共通電極を介して前記ダミーチャネル用配線電極と電気的接続されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記配線基板の前記駆動チャネル用配線電極と前記共通電極は、該配線基板の表裏両面に分かれて形成されていることを特徴とする請求項4記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記配線基板は、ガラス、シリコン、セラミックスのいずれかの基板からなることを特徴とする請求項4又は5記載のインクジェットヘッド。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−11704(P2012−11704A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151466(P2010−151466)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】