説明

インクジェット印刷用転写箔

【目的】 転写箔による箔押し製品に、小ロット単位にプリント柄を印刷する。
【構成】 基材フイルム上に下から離型層、溶剤インク受容樹脂層、金属蒸着層、接着層を順次積層した構成の転写箔とし、これを被着体に接着して基材フイルムを剥離した表面に、溶剤インクを用いてインクジェット印刷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転写箔への印刷に関する。
【背景技術】
【0002】
転写箔は金属蒸着層を、紙、フイルム、布帛、皮革、合成皮革などの被着体に、接着により全面もしくは部分的に転写することにより、被着体表面に金属感を付与するのに用いられている。転写箔は基材フイルム上に下から離型層、保護層、金属蒸着層、接着層を順次積層した構成になっている。基材フイルムとしては耐熱性、透明性、柔軟性、機械的強度、寸法安定性に優れたポリエステルフイルム(12〜25μm)が主に用いられる。離型層としては特に制限はなく、例えばシリコーン系樹脂、パラフィンワックス、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、尿素−メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂などを、単独またはこれらの混合物にして1μm以下の厚みに積層される。保護層としては特に制限はなく、例えばアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシ−アクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、エチレン樹脂、ウレタン−アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ウレア系樹脂、尿素系樹脂、尿素−メラミン系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、エステル系樹脂、アルキッド系樹脂、マレイン化ロジン、ビニルブチラール系樹脂、セルロース系樹脂、アミド系樹脂などの、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂を、単独またはこれらの混合物にして1μm程度の厚みに積層される。蒸着金属としてはアルミニウム、クローム、ニッケル、チタン、コバルト、モリブデン、ロジウム、パラジウム、ガリウム、インジウム、金、銀、銅、白金、亜鉛、錫、鉛や、真鍮、ステンレス等の合金などがあり、それらはそれぞれ特有の色調の金属感を被着体に付与する。接着層はホットメルトタイプが一般的で、例えばポリ酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、アクリル系接着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルエーテル、ポリエステル系接着剤、セルロース誘導体などを1〜2μm程度の厚みに積層される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
転写箔に対しても高度なデザイン性が要求されるようになってきた現在では、金属特有の色調だけでは不十分となり、そのため保護層の樹脂を顔料や染料で着色することにより、任意の色調の転写箔を製造することは可能となっている。しかし、このような一色のベタカラーだけでなく、布帛で行なわれているような多色のプリント柄を転写箔に印刷したい、という新しいニーズが出て来ている。これは保護層と金属蒸着層の中間にプリント柄印刷層を設ける工程により一応解決される。即ち、転写箔の各層はグラビア印刷により行なわれるので、基材フイルムに保護層を積層したあとプリント柄をグラビア印刷する工程である。しかし、グラビア製版費用は高価であり数万m以上を一度に印刷しないと採算が合わないという事情がある。一方、プリント柄はベタカラーと違って多様なデザインを小ロットに揃えるという需要である。この結果、製造工程的には実現可能であるが、実際の市場ニーズには対応できないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は製版を必要としないインクジェット印刷方式を、この場合のプリント柄印刷に適用できないか検討した。この結果、転写箔が被着体に接着したあと、基材フイルム剥離後の表面が、溶剤インク受容性となるように転写箔の構成を変えることにより、前記課題を抜本解決できることに思い至った。即ち、基材フイルム上に下から離型層、溶剤インク受容樹脂層、金属蒸着層、接着層を順次積層した構成である。この場合、溶剤インク受容樹脂層が金属蒸着層の保護層となるので、必ずしも従来転写箔のような保護層は必要としない。しかし、本発明の構成においては工程上、溶剤インク受容樹脂層に対して金属蒸着することになるので、溶剤インク受容樹脂のガラス転移点が低い場合などに蒸着工程を阻害することがないように、溶剤インク受容樹脂層上に更に保護層を積層する方式をとってもよいが、これも本発明の実施態様の一つに過ぎないことは明らかである。また被着体自身が転写工程で接着性を発現し得るのであれば、転写箔に接着層を積層しない場合もあり得るが、これも本発明の実施態様の一つに過ぎないことは明らかである。
【0005】
溶剤インクとは顔料を有機溶剤に分散したインクを謂う。このときの有機溶剤としてはインクジェットノズルの非閉塞性、およびプリント用メディアへの印刷適性、即ちフイルム表面への固着性、即ちフイルム表面の溶解性を考慮して、強ソルベント性のものから弱ソルベント性のものまで各種のものがあるので、対応する溶剤インク受容樹脂に相応しい有機溶剤を含有するものを選択すればよい。例えばメチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、イソホロンなどのケトン系溶剤、エチレングリコール・モノエチルエーテル・アセテート、エチレングリコール・モノブチルエーテル・アセテートなどのアセテート系溶剤、乳酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル系溶剤、およびこれらの混合溶剤などである。
【0006】
溶剤インク受容樹脂としては溶剤インクに溶解性を示すものであれば特に制限はないが、一般には塩素含有量が20〜60重量%である熱可塑性樹脂を主成分とするのが好ましい。塩素含有量が20重量%未満である場合は溶剤インクの受容性に劣り、60重量%を超えると溶剤インクへの溶解性が高すぎ、ともに良好な画質が得られない。このような熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニリデン及びその共重合体、クロロピレン系合成ゴム、エピクロロヒドリンゴム及びその共重合体、ポリ塩化ビニル及びその共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン等が挙げられる。これらのなかでは特に、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリル共重合体、塩化ビニル−ウレタン共重合体などが好ましい。溶剤インク受容樹脂層は液体状のインクが表面に着地したとき溢れさせずに、一時的に膨潤状態で保持するので一定の厚みを必要とする。その厚みは一般には3〜20μm程度、好ましくは5〜15μm程度である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により小ロット単位で所望のデザインを箔被着体に印刷することが可能となった。また金属蒸着層が従来の保護層と違って、溶剤インクが染み込んだ厚手の溶剤インク受容樹脂層で保護されるので耐擦性に非常に優れるようになり、過酷な繰り返し曲げが想定されるバッグや靴製品などに適用しても十分な耐久性を保持できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の転写箔のエッセンスは、従来転写箔における保護層に相当する部分を溶剤インク受容性にすることに尽きる。そのため従来転写箔の製造工程を大部分そのまま準用することになるので、実施例においては本発明に関連する事項を中心に記述する。
【実施例1】
【0009】
シリコーン系樹脂をコーティングした30μm厚の離型ポリエステルフイルム上に、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂「ソルバインA」(商標、日信化学工業社製)を用いて10μmの厚みの溶剤インク受容樹脂層を積層した。この上に真空蒸着法にてアルミニウムを薄膜形成し、更にその上にエチレン−酢酸ビニル共重合体系の接着層を2μmの厚みに積層し本発明の転写箔を得た。この転写箔を市販の合成皮革に熱圧着し離型フイルムを剥離した。この表面に溶剤インク「SSインク」(商標、ミマキエンジニアリング社製)を用いてカラー印刷したところ良好な印刷画質であった。
【実施例2】
【0010】
実施例1の離型ポリエステルフイルム上に、塩素化ポリプロピレン樹脂「スーパークロン832L」(商標、日本製紙ケミカル社製)を用いて7μmの厚みの溶剤インク受容樹脂層を積層した。その上にアクリルウレタン樹脂系の保護層を1μmの厚みに積層した。このあと実施例1と同様の手順で蒸着層と接着層の積層をおこない本発明の転写箔を得た。これについても実施例1と同様の良好な印刷画質結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明により、従来の金色や銀色やピンクなどのベタカラー一色だけの画一的な箔押し製品と異なり、任意のデザインのカラフルな箔押し製品を小ロットかつ短納期で製造できるので、個性的で高付加価値な製品の新規マーケットを創造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フイルム上に下から離型層、溶剤インク受容樹脂層、金属蒸着層、接着層を順次積層してなる転写箔。
【請求項2】
前記溶剤インク受容樹脂層が塩素を20〜60重量%含有する熱可塑性樹脂であること、を特徴とする請求項1記載の転写箔。
【請求項3】
前記溶剤インク受容樹脂層が3〜20μmの厚みであること、を特徴とする請求項1および2記載の転写箔。

【公開番号】特開2009−269384(P2009−269384A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145100(P2008−145100)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(591167946)
【Fターム(参考)】