説明

インクジェット印刷装置

【課題】インクジェットヘッドのノズル詰まりを発生させることなく、にじみによる印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けをより防止する。
【解決手段】循環搬送路CR上を搬送された印刷用紙Wに対して紫外線硬化型のインクを吐出するインクジェットヘッド31と、循環搬送路CRの下部であり、かつインクジェットヘッドユニット31の吐出面に対向する位置に設けられ、搬送された印刷用紙Wに向かって紫外線を照射する紫外線照射部132と、インクジェットヘッドへ搬送される印刷用紙の光透過率を検出する光透過率検出部135と、出力テーブルを記憶する記憶手段と、検出された光透過率及び出力テーブルに基づいて、紫外線照射部132により照射する紫外線のエネルギーを算出し、算出されたエネルギーで紫外線照射部132に紫外線を照射させる紫外線照射制御部70aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドによりインクを吐出して印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットヘッドによりインクを吐出して印刷用紙に印刷を行うインクジェット印刷装置では、低粘度のインクが用いられ、印刷用紙として浸透基材が用いられる場合が多い。このような場合、インクが印刷用紙に浸透し、にじみにより印字濃度が低下したり、インクが印刷用紙の裏面にまで浸透する、いわゆる「裏抜け」と呼ばれる現象が発生したりすることがあった。
【0003】
そこで、近年では、紫外線が照射されることにより重合化する化合物が用いられた紫外線硬化型インクジェットインクが用いられている。しかしながら、色材を含む紫外線硬化型インクジェットインクでは、色材が紫外線を吸収するので、印刷用紙の表面側から紫外線を照射すると、印刷用紙の内部まで浸透された紫外線硬化型インクジェットインクに紫外線が到達できない場合があった。これにより、印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止することが困難であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、印刷後に印刷用紙の表裏から紫外線を照射する印刷インキ硬化乾燥用UV照射装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、紫外線硬化型水性樹脂が塗布されて搬送された後、赤外線を照射すると共に、紫外線を照射する紫外線硬化型水性樹脂用の硬化装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2958955号公報
【特許文献2】特開平8−39577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の印刷インキ硬化乾燥用UV照射装置では、印刷後に印刷用紙の表裏から紫外線を照射するが、紫外線を照射したときには、既に紫外線硬化型インクジェットインクが印刷用紙に浸透しているので、依然として、印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止することは困難であった。
【0008】
また、特許文献2に記載の紫外線硬化型水性樹脂用の硬化装置でも、紫外線硬化型水性樹脂が塗布されて搬送された後に、赤外線及び紫外線を照射するので、特許文献1と同様に、印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止することは困難であった。
【0009】
さらに、印刷用紙の下部から紫外線を照射する構成とすると、印刷用紙を透過した紫外線がインクジェットヘッドに到達し、ノズル部分でインクが硬化してノズル詰まりを発生させるという問題もあった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、インクジェットヘッドのノズル詰まりを発生させることなく、印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止するインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第1の特徴は、搬送経路上を搬送された印刷媒体に対して紫外線硬化型のインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記搬送経路の下部であり、かつ前記インクジェットヘッドのインクの吐出面に対向する位置に設けられ、前記搬送された印刷媒体に向かって紫外線を照射する紫外線照射手段と、前記インクジェットヘッドへ搬送される印刷媒体の光透過率を検出する光透過率検出手段と、前記光透過率が高い程、前記紫外線照射手段が照射する紫外線のエネルギーが小さくなるように、前記光透過率と前記エネルギーとの関係を出力テーブルとして記憶する記憶手段と、前記光透過率検出手段により検出された光透過率と、前記記憶手段に記憶された出力テーブルとに基づいて、前記紫外線照射手段により照射する紫外線のエネルギーを算出し、算出されたエネルギーで紫外線を照射させるように前記紫外線照射手段を制御する制御手段とを備えたことにある。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第2の特徴は、前記紫外線照射手段は、光源に発光ダイオードが用いられたことにある。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るインクジェット印刷装置の第3の特徴は、搬送経路上を搬送された印刷用紙に対して紫外線硬化型のインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドに隣接して配置され、前記搬送された印刷用紙に向かって紫外線を照射する紫外線照射手段と、を備え、前記搬送路の前記インクジェットヘッド側の表面に紫外線吸収剤が塗布されたことにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1に係るインクジェット印刷装置によれば、インクジェットヘッドのノズル詰まりを発生させることなく、印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止することができる。
【0015】
本発明の請求項2に係るインクジェット印刷装置によれば、消費電力が小さく、また、波長の幅が小さく余分なエネルギーが発生しないので、オゾンを発生することなく、インクを硬化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置の構成を示す構成図である。
【図2】(a)は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置に備えられた紫外線照射部の側面図であり、(b)は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置に備えられた紫外線照射部の上方向から見た上面図である。
【図3】本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置の機能構成を模式的に示した図である。
【図4】本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置が備える記憶部に記憶された出力テーブルの一例をグラフ化した図である。
【図5】(a)は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置により印刷された印刷用紙Wのインクの浸透状態を模式的に示した断面図であり、(b)は、従来のインクジェット印刷装置により印刷された印刷用紙Wのインクの浸透状態を模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置の印刷部の構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
<インクジェット印刷装置の全体構成>
本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の構成について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の構成を示す構成図である。
【0020】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、サイド給紙部10と、内部給紙部20と、印刷部30と、排紙部40と、反転部50とを備えている。
【0021】
サイド給紙部10は、印刷用紙Wが積層される給紙台11と、この給紙台11から最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部12と、この1次給紙部12によって搬送された印刷用紙Wを循環搬送路CR上へ搬送する2次給紙部14とを備えている。
【0022】
内部給紙部20は、印刷用紙Wが積層される給紙台21aと、この給紙台21aから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22aと、印刷用紙Wが積層される給紙台21bと、この給紙台21bから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22bと、印刷用紙Wが積層される給紙台21cと、この給紙台21cから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22cと、印刷用紙Wが積層される給紙台21dと、この給紙台21dから最上位置の印刷用紙Wのみを給紙搬送路FR上へ搬送させる1次給紙部22dとを備えている。
【0023】
このように、2次給紙部14には、サイド給紙部10及び内部給紙部20から印刷用紙Wが搬送され、さらに、後述する反転部50からも印刷用紙Wが搬送される。
【0024】
そのため、搬送方向における2次給紙部14の手前には、給紙された印刷用紙Wの搬送経路と、一方の面が印刷された用紙が循環して搬送されてくる経路とが合流する合流地点が存在する。この合流地点を基準に、給紙機構側の経路を給紙搬送路FRと称し、それ以外の経路を循環搬送路CRと称している。
【0025】
印刷部30は、複数のインクジェットヘッドが組み込まれたインクジェットヘッドユニット31と、インクジェットヘッドユニット31の対向面に設けられた環状の搬送ベルト133と、紫外線を照射する紫外線照射部131,132と、光透過率を検出する光透過率検出部135とを備えている。
【0026】
搬送ベルト133は、多数の穴が空けられた無端ベルトからなり、搬送ベルト133の下部に設置された吸引ファン(図示しない)により空気を穴から吸引することにより発生する負圧で印刷用紙Wを吸引し、印刷用紙Wを矢印Aの方向(搬送方向)に搬送する。そして、2次給紙部14により給紙された印刷用紙Wは、搬送ベルト133により搬送されながら、インクジェットヘッドユニット31から吐出されたインクにより印刷される。
【0027】
ここで、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1で用いられるインクは、紫外線が照射されることにより硬化する紫外線硬化型インクが用いられ、このインクは、ラジカル重合性樹脂組成物、カチオン重合性樹脂組成物等の紫外線硬化型樹脂を主成分として含有している。
【0028】
紫外線硬化型樹脂としては、例えば、ラジカル重合性樹脂組成物、カチオン重合性樹脂組成物等が使用できる。このうち、印刷用紙W及びインク画像との密着性の点からはカチオン重合性樹脂組成物が好ましいが、硬化速度及び原材料コストの点からはラジカル重合性樹脂組成物が好ましい。ラジカル重合性樹脂組成物は、高速化、処理効率の向上が要求される場合に好適である。
【0029】
紫外線硬化型樹脂の含有量としては、インクの粘度の観点から、インク全体に対し、60(質量%)〜95(質量%)であることが好ましく、さらに80(質量%)〜95(質量%)であることがより好ましい。
【0030】
ラジカル重合性樹脂組成物の重合性樹脂成分としては、例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリオール系などの各種化合物の(メタ)アクリル酸変性誘導体のオリゴマー、モノマーなどの他、不飽和ポリエステル化合物や芳香族ビニル化合物のオリゴマー、モノマーなどが挙げられる。
【0031】
紫外線照射部131は、循環搬送路CRの上部であり、かつインクジェットヘッドユニット31に隣接する位置に設けられ、搬送ベルト133により搬送された印刷用紙Wの上部から印刷用紙Wに向かって紫外線を照射する。
【0032】
紫外線照射部132は、循環搬送路CRの下部であり、かつインクジェットヘッドユニット31の吐出面に対向する位置に設けられ、搬送ベルト133により搬送された印刷用紙Wの下部から印刷用紙Wに向かって紫外線を照射する。このように、紫外線照射部132が、循環搬送路CRの下部であり、かつインクジェットヘッドユニット31の吐出面に対向する位置に設けられることにより、インクジェットヘッドユニット31から紫外線硬化型インク(以下、単にインクという)が吐出されると直ぐに、紫外線が照射されるので、インクの印刷用紙Wの浸透を抑制することができる。
【0033】
光透過率検出部135は、例えば、循環搬送路CRの下部に備えられた発光素子135aと、循環搬送路CRの上部に備えられた受光素子135bとを備える透過型センサであり、受光素子135bの受光状態に基づいて、インクジェットヘッドユニット31へ搬送される印刷用紙Wの光透過率を検出する。
【0034】
印刷部30により印刷された印刷用紙Wは、循環搬送路CR上に配置された搬送ローラ等によって筐体内を循環搬送路CR上を搬送される。循環搬送路CR上には、循環搬送路CR上を搬送された印刷用紙Wを排紙部40へ誘導するか、又は循環搬送路CR上を再循環させるかを切り替える切り替え機構43が備えられている。
【0035】
切り替え機構43は、印刷用紙Wを、後述する排紙部40又は反転部50のいずれか1方へ誘導するために、切り替える。
【0036】
排紙部40は、インクジェット印刷装置1の筐体から突出したトレイ形状をした排紙台41と、排紙台41に印刷用紙Wを誘導する一対の排紙ローラ42とを有している。そして、切り替え機構43により排紙部40に誘導された印刷用紙Wは、排紙ローラ42により排紙台41に搬送され、排紙台41に印刷面を下にして積載される。
【0037】
反転部50は、印刷用紙Wを反転させる反転台51と、循環搬送路CRから反転台51へ印刷用紙Wを搬送し、又は反転台51から循環搬送路CR上へ印刷用紙Wを搬送する反転ローラ52とを備えている。
【0038】
切り替え機構43により反転部50に誘導された印刷用紙Wは、反転ローラ52により循環搬送路CRから反転台51に搬送され、所定時間経過後、反転台51から循環搬送路CRへ搬送されることにより、循環搬送路CRに対して表裏が反転する。そして、表裏が反転された印刷用紙Wは、循環搬送路CR上に設けられた搬送ローラ53等の複数のローラにより循環搬送路CR上を印刷部30へ向かって搬送される。
【0039】
図2(a)は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1に備えられた紫外線照射部132の側面図であり、図2(b)は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1に備えられた紫外線照射部132の上方向から見た上面図である。
【0040】
図2(a),(b)に示すように、紫外線照射部132は、基板132c上に、複数列に規則正しく配列され、波長λ≒365nmの紫外線を照射する発光ダイオード132aと、電力及び出力信号が供給される接続端であるコネクタ132bとを備え、コネクタ132bを介して供給された出力信号に基づいて、それぞれの発光ダイオード132aが紫外線を照射する。
【0041】
なお、紫外線照射部131は、紫外線照射部132に対して上下対称に配置されるが、構成は紫外線照射部132と同一であるので、説明を省略する。
【0042】
<インクジェット印刷装置1の機能構成>
次に、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の機能構成について説明する。
【0043】
図3は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の機能構成を模式的に示した図である。
【0044】
図3に示すように、インクジェット印刷装置1は、インクジェットヘッドユニット31と、搬送ベルト133と、紫外線照射部131,132と、光透過率検出部135と、制御部70と、記憶部71とを備えている。
【0045】
これらの構成のうち、インクジェットヘッドユニット31と、搬送ベルト133と、紫外線照射部131,132と、光透過率検出部135とは、上述したので、説明を省略する。
【0046】
記憶部71は、例えば、揮発性半導体等で構成され、制御部70が各種処理を実行する上で必要なデータ等を記憶する。また、記憶部71は、後述する紫外線照射制御部70aが、紫外線照射部132に照射させる紫外線のエネルギーを決定するための出力設定値が出力テーブルとして記憶させている。具体的には、光透過率検出部135により検出された光透過率に対する紫外線照射部132による紫外線の照射する積算光量、即ちエネルギーが出力テーブルとして記憶されている。
【0047】
図4は、記憶部71に記憶された出力テーブルの一例をグラフ化した図である。
【0048】
図4に示すように、光透過率検出部135により検出された光透過率(%)が高い程、紫外線照射部132による紫外線の照射するエネルギー(mJ/cm)が低くなるように関係付けられている。
【0049】
これは、光透過率検出部135を通過した印刷用紙Wが光を透過させる程、紫外線照射部132から照射された紫外線が、印刷用紙Wを透過してインクジェットヘッドユニット31に到達し、インクジェットヘッドユニット31のノズル部分でインクが硬化してしまう恐れがある。そのため、照射された紫外線が、極力インクジェットヘッドユニット31に到達しないように、光透過率検出部135を通過した印刷用紙Wが光を透過させる程、即ち、光透過率検出部135により検出された光透過率が高い程、紫外線照射部132による紫外線の照射するエネルギーが低くなるように関係付けられている。
【0050】
制御部70は、インクジェット印刷装置1は中枢的な制御を行う。また、制御部70は、その機能上、紫外線照射制御部70aを備えている。
【0051】
紫外線照射制御部70aは、光透過率検出部135により検出された光透過率と、記憶部71に記憶された出力テーブルとに基づいて、紫外線照射部132により照射する紫外線のエネルギーを算出し、算出されたエネルギーで紫外線照射部132に紫外線を照射させる。
【0052】
<インクジェット印刷装置の作用>
次に、図3を参照して、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の作用について説明する。
【0053】
図3に示すように、搬送ベルト133により循環搬送路CR上をA方向に搬送される印刷用紙Wが、光透過率検出部135の発光素子135aと受光素子135bとの間に位置したとき、例えば、P1に位置したとき、光透過率検出部135は、受光素子135bの受光状態に基づいて、印刷用紙Wの光透過率を検出する。そして、光透過率検出部135は、検出した光透過率を制御部70の紫外線照射制御部70aへ供給する。
【0054】
次に、光透過率が供給された紫外線照射制御部70aは、供給された光透過率と、記憶部71に記憶された出力テーブルとに基づいて、紫外線照射部132により照射する紫外線のエネルギーを算出する。
【0055】
また、搬送ベルト133により循環搬送路CR上をA方向に搬送される印刷用紙Wが、インクジェットヘッドユニット31の直下に位置したとき、例えば、P2に位置したとき、インクジェットヘッドユニット31は、インクを吐出することにより印刷用紙Wに印刷する。
【0056】
そして、インクジェットヘッドユニット31によりインクが吐出されると、紫外線照射制御部70aは、算出された紫外線のエネルギーになるように紫外線照射部132に紫外線を照射させる。
【0057】
これにより、紫外線照射部132は、照射された紫外線が印刷用紙Wを透過してインクジェットヘッドユニット31のノズルに到達しない程度のエネルギーで、紫外線を照射することができる。
【0058】
図5(a)は、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1により印刷された印刷用紙Wのインクの浸透状態を模式的に示した断面図であり、図5(b)は、従来のインクジェット印刷装置により印刷された印刷用紙Wのインクの浸透状態を模式的に示した断面図である。
【0059】
図5(a)に示すように、循環搬送路CRの下部に設けられた紫外線照射部132から照射された紫外線141は、印刷用紙Wの内部を減衰しながら透過し、印刷用紙Wに浸透したインク浸透部143の裏側に到達する。
【0060】
これにより、インク浸透部143のインクが紫外線硬化して浸透が抑制されるので、にじみによる印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止することができる。
【0061】
また、紫外線照射部132は、照射した紫外線が印刷用紙Wを透過してインクジェットヘッドユニット31のノズルに到達しない程度のエネルギーで照射するので、例えば、紫外線照射部132から照射された紫外線142に示すように、印刷用紙Wのインク浸透部143に到達しなかった場合でも、印刷用紙W中を減衰しながら透過し、印刷用紙Wから上部へ紫外線が射出されない。
【0062】
これにより、紫外線照射部132から照射された紫外線142が、インクジェットヘッドユニット31のノズルに到達しないので、ノズル部分でインクが硬化することを防止することができる。
【0063】
さらに、循環搬送路CRの上部に配置された紫外線照射部131から照射された紫外線144が、印刷用紙Wのインク浸透部143に到達すると、インク浸透部143の上部のインクが紫外線硬化することによりインクの浸透が抑制される。
【0064】
このように、上下方向から紫外線を照射することにより、インク浸透部143のインクは上下方向から紫外線硬化するので、にじみによる印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けをより防止することができる。
【0065】
一方、図5(b)に示すように、従来のインクジェット印刷装置では、印刷用紙Wの上部から紫外線を照射するので、上部から照射された紫外線が顔料に吸収されて印刷用紙内部まで紫外線が届きにくいため、未硬化インクが時間経過とともに浸透し、にじみによる印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けが発生する。
【0066】
また、特許文献1に記載された印刷インキ硬化乾燥用UV照射装置では、印刷後に印刷用紙Wの表裏から紫外線を照射するが、照射したときには既に図5(b)に示すようにインクが浸透してしまっている場合があり、同様に、にじみによる印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0067】
以上のように、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1によれば、循環搬送路CRの下部であり、かつインクジェットヘッドユニット31の吐出面に対向する位置に設けられ、搬送された印刷用紙Wに向かって紫外線を照射する紫外線照射部132と、光透過率検出部135により検出された光透過率及び出力テーブルに基づいて、紫外線照射部132により照射する紫外線のエネルギーを算出し、算出されたエネルギーで紫外線照射部132に紫外線を照射させる紫外線照射制御部70aとを備えるので、インクジェットヘッドユニット31のノズル詰まりを発生させることなく、にじみによる印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けをより防止することができる。
【0068】
また、本発明の実施例1では、光源として波長λ≒365nmの紫外線を照射する発光ダイオード132aを有する紫外線照射部131,132を備えたインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明したが、これに限らず、光源として、例えばメタルハライドランプを有する構成としてもよい。
【0069】
ただし、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1のように、光源として発光ダイオード132aを有する紫外線照射部131,132を備えた場合、メタルハライドランプに比較して、消費電力が小さく、また、波長の幅が小さく余分なエネルギーが発生しないので、オゾンを発生することなく、インクを硬化させることができるという効果がある。
【実施例2】
【0070】
本発明の実施例1では、循環搬送路CRの下部であり、かつインクジェットヘッドユニット31の吐出面に対向する位置に設けられ、搬送された印刷用紙Wに向かって紫外線を照射する紫外線照射部132と、光透過率検出部135により検出された光透過率及び出力テーブルに基づいて、紫外線照射部132により照射する紫外線のエネルギーを算出し、算出されたエネルギーで紫外線照射部132に紫外線を照射させる紫外線照射制御部70aとを備えるインクジェット印刷装置1を例に挙げて説明した。
【0071】
本発明の実施例2では、循環搬送路CR上を搬送された印刷用紙に対して紫外線硬化型のインクを吐出するインクジェットヘッドユニット31と、インクジェットヘッドユニット31に隣接して配置され、搬送された印刷用紙に向かって紫外線を照射する紫外線照射部131と、を備え、循環搬送路CRのインクジェットヘッドユニット31側の表面に紫外線吸収剤が塗布されたことを特徴とするインクジェット印刷装置を例に挙げて説明する。
【0072】
本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置2は、図1に示した本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1の構成と同一の構成を備えている。
【0073】
図6は、本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置2の印刷部30の構成を示した図である。
【0074】
図6に示すように、循環搬送路CR、即ち搬送ベルト133のインクジェットヘッドユニット31側の上部表面には、紫外線吸収剤が塗布された紫外線吸収剤塗布部134が構成されている。
【0075】
ここで、紫外線吸収剤としては、ケイ皮酸誘電体(メトキシケイ皮酸オクチル等)、パラアミノ安息香酸誘電体(ジメチルPABAオクチル等)、ジベンゾイルメタン誘電体(t−ブチルメトキシジベンゾイルメタン等)、及びベンゾフェノン等が好適である。
【0076】
そして、搬送ベルト133により循環搬送路CR上をA方向に搬送される印刷用紙Wが、インクジェットヘッドユニット31の直下に位置したとき、例えば、P2に位置したとき、インクジェットヘッドユニット31は、インクを吐出することにより印刷用紙Wに印刷する。
【0077】
そして、インクジェットヘッドユニット31によりインクが吐出されると、紫外線照射部131は紫外線を照射する。
【0078】
照射された紫外線は、印刷用紙Wを透過し、搬送ベルト133のインクジェットヘッドユニット31側の上部表面に塗布された紫外線吸収剤塗布部134に到達し吸収される。そして、紫外線吸収剤塗布部134は、吸収した紫外線量に応じて発熱し、この熱が印刷用紙Wに伝達され、インクに含まれる紫外線硬化型樹脂による紫外線硬化が促進される。
【0079】
さらに、インクジェットヘッドユニット31から吐出されるインクにも上述した紫外線吸収剤が添加(添加率:3(質量%))されている。これにより、インクに添加された紫外線吸収剤が、紫外線照射部131により照射された紫外線を吸収し、吸収した紫外線量に応じて発熱するので、インクに含まれる紫外線硬化型樹脂による紫外線硬化がさらに促進される。
【0080】
以下に、紫外線硬化の度合いを印刷物こすれにて評価する実験を以下の条件で行った実験結果について説明する。
【0081】
<インクの作製方法>
インクの各成分を混合し、高速攪拌機で充分に混合して、各実験例のインク(紫外線硬化型インク)を得た。
【0082】
<印刷物作製方法>
用紙には、上質紙(理想用紙薄口(理想科学工業株式会社製))を用い、本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置1、2で印刷を行った。
【0083】
インクジェット印刷装置1、2は、画像情報(300dpi×300dpi相当の一定面積のベタ画像)に基づいて、インクジェットヘッドユニット31からインクを吐出することにより印刷を行い、紫外線照射部131が紫外線を照射する。各実験例では、松下制御機器社製の紫外線発光ダイオード(最高照度:365nm)を備えた紫外線照射部131が、積算光量(エネルギー)が576(mJ/cm)となるように、紫外線を照射させることにより、各実験例の印刷物を得た。
【0084】
実験例1では、本発明の実施例1であるインクジェット印刷装置1における印刷物こすれについて評価した。
【0085】
実験例2では、本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置2において、搬送ベルト133に紫外線吸収剤が塗布され、インクには紫外線吸収剤が添加されていない場合における印刷物こすれについて評価した。
【0086】
また、実験例3では、本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置2において、搬送ベルト133に紫外線吸収剤が塗布され、インクにも紫外線吸収剤が添加された場合における印刷物こすれについて評価した。
【0087】
さらに、比較例として、上部のみから紫外線照射を行ない、搬送ベルト133に紫外線吸収剤が塗布されてなく、インクにも紫外線吸収剤が添加されていない場合における印刷物こすれについて評価した。
【0088】
<評価>
摩擦試験機I型(アトラス社製)で10回こすり、摩擦堅牢度試験用グレースケールを利用して下記のとおり、JISL0849に基づいて評価した。
【0089】
4−5級・5級:◎(まったく汚れていない)
3−4級・4級:○(ほとんど汚れていない)
2級・2−3級・3級:△(やや汚れている)
1級・1−2級:×(汚れている)
評価の結果、比較例では、印刷物こすれは、“△”であったのに対し、実験例1、2では、印刷物こすれは、“○”であり、ほとんど汚れていないので良好な結果を得ることができた。また、実験例3では、印刷物こすれは、“◎”であり、さらに良好な結果を得ることができた。
【0090】
このように、印刷物こすれがない程、即ち、級数が高い程、紫外線硬化が促進されているので、印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止することができる。
【0091】
以上のように、本発明の実施例2であるインクジェット印刷装置2では、循環搬送路CR上を搬送された印刷用紙に対して紫外線硬化型のインクを吐出するインクジェットヘッドユニット31と、インクジェットヘッドユニット31に隣接して配置され、搬送された印刷用紙に向かって紫外線を照射する紫外線照射部131と、を備え、循環搬送路CRのインクジェットヘッドユニット31側の表面に紫外線吸収剤が塗布されているので、インクジェットヘッドユニットのノズルを硬化させることなく、印刷用紙の印字濃度の低下や裏抜けを防止することができる。
【0092】
なお、本発明の実施例であるインクジェット印刷装置により印刷される印刷用紙としては、厚さが約70(μm)のものが好適である。
【符号の説明】
【0093】
1,2…インクジェット印刷装置
10…サイド給紙部
20…内部給紙部
30…印刷部
31…インクジェットヘッドユニット
40…排紙部
50…反転部
70…制御部
70a…紫外線照射制御部(制御手段)
71…記憶部
131,132…紫外線照射部
133…搬送ベルト
134…紫外線吸収剤塗布部
135…光透過率検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路上を搬送された印刷媒体に対して紫外線硬化型のインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記搬送経路の下部であり、かつ前記インクジェットヘッドのインクの吐出面に対向する位置に設けられ、前記搬送された印刷媒体に向かって紫外線を照射する紫外線照射手段と、
前記インクジェットヘッドへ搬送される印刷媒体の光透過率を検出する光透過率検出手段と、
前記光透過率が高い程、前記紫外線照射手段が照射する紫外線のエネルギーが小さくなるように、前記光透過率と前記エネルギーとの関係を出力テーブルとして記憶する記憶手段と、
前記光透過率検出手段により検出された光透過率と、前記記憶手段に記憶された出力テーブルとに基づいて、前記紫外線照射手段により照射する紫外線のエネルギーを算出し、算出されたエネルギーで紫外線を照射させるように前記紫外線照射手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記紫外線照射手段は、
光源に発光ダイオードが用いられたことを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−98448(P2011−98448A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253152(P2009−253152)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】