説明

インクジェット塗装方法

【課題】目地を有する基材に対してインクジェット塗装を施す際に、基材の寸法誤差による基材の目地とインクジェット塗装との位置ずれの発生を大幅に低減することができるインクジェット塗装方法を提供する。
【解決手段】目地2を有する基材1表面に色柄パターンをインクジェット塗装により塗装するインクジェット塗装方法であり、次の第一ステップ及び第二ステップを含む。第一ステップでは、複数の基材1における目地間隔Pの測定結果に基づいて、これらの複数の基材1における目地間隔Pの基準値を導出する。第二ステップでは、目地間隔Pの設定値が異なる複数の色柄パターンのうち前記基準値に最も近い目地間隔Pを有する色柄パターンを選択する。そして、前記選択された色柄パターンを基材にインクジェット塗装にて塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目地が形成されたセメント系等の基材に対してインクジェット塗装を施すインクジェット塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外壁材、屋根材、塀材などの建築用外装材には、セメント系の化粧板が広く用いられている。このような化粧板は、建物の外観の形成を担うため、各種の意匠を実現する表面化粧について技術的な検討が加えられている。たとえばセメント系成形材料を抄造、押出成形、注型成形等により成形して得られる湿潤シートを養生硬化させ、得られる無機質板に塗装を施すことが一般的に行われている。
【0003】
塗装の一方式として、最近、コンベア上で搬送される無機質板の表面に向けて、この無機質板の搬送速度と同期させてインクジェットノズルヘッドより塗料を噴射するインクジェット塗装が考えられている。このようなインクジェット塗装は、これまで一般的に用いられてきた塗装ロール等に比べ、局所的なしかも位置制御された塗装が可能である。したがって、濃淡表現などにより自然な風合いの高意匠塗装された化粧板が製造可能であるという利点がある(特許文献1参照)。
【0004】
このようなインクジェット塗装により、例えば目地が形成された基材に対して、目地が形成された箇所に塗装を施さないようにしたり、目地が形成されている箇所と目地が形成されていない箇所とを異なる色に塗装するなどして、レンガ調やタイル調の化粧板を得ることができる。
【特許文献1】特開2004−17007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように目地が形成された複数の基材にそれぞれインクジェット塗装を施す場合、目地形成時の加工精度や、セメント系の基材を作製する際の養生硬化時等や乾燥時における寸法変化のばらつき等により、複数の基材ごとに目地の間隔に若干のばらつきが生じることは避けがたい。このため、塗装位置ずれの発生頻度を低減するため、予め基材に形成される目地間隔の規格値を設定しておき、目地間隔が前記規格値となることを目標として基材を作製し、インクジェット塗装を施す際には、前記規格値に基づく色柄パターンを基材に塗装するようにしていた。
【0006】
しかし、寸法精度や養生硬化時の寸法変化は、基材が作製される環境の微妙な変化等により生じ、目地間隔の寸法誤差の変化には前記環境の変化等に応じた傾向が生じる。このため、目地間隔の寸法誤差が上記規格値とは異なる値付近で安定する場合もある。このような場合にも基材の塗装を一律に上記規格値に基づいて行うと、基材の目地の位置とインクジェット塗装との間に同程度の位置ずれが生じる状態が続くことになる。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、目地を有する基材に対してインクジェット塗装を施す際に、基材の寸法誤差による基材の目地とインクジェット塗装との位置ずれの発生を大幅に低減することができるインクジェット塗装方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係るインクジェット塗装方法は、目地2を有する基材1表面に色柄パターンをインクジェット塗装により塗装するインクジェット塗装方法であり、次の第一ステップ及び第二ステップを含む。第一ステップでは、複数の基材1における目地間隔Pの測定結果に基づいて、これらの複数の基材1における目地間隔Pの基準値を導出する。第二ステップでは、目地間隔Pの設定値が異なる複数の色柄パターンのうち前記基準値に最も近い目地間隔Pを有する色柄パターンを選択する。そして、前記選択された色柄パターンを基材にインクジェット塗装にて塗装することを特徴とする。
【0009】
請求項2に係るインクジェット塗装方法は、請求項1の構成に加えて、上記第一ステップが、複数の基材1をインクジェット塗装が施される順番が連続する複数の基材1からなる複数の集合に分類するステップと、前記各集合ごとに目地間隔Pの基準値の導出と色柄パターンの選択を行うステップとを含むことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係るインクジェット塗装方法は、請求項1又は2の構成に加えて、上記基準値が、複数の基材1における目地間隔Pの最大値と最小値とを平均した値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、目地を有する複数の基材における目地間隔にばらつきが生じていても、複数の色柄パターンのなかから、前記目地間隔のばらつきに応じた目地間隔の設定値を有する適切な色柄パターンを選択して、インクジェット塗装を施すことができ、色柄パターンとして目地間隔が予め設定された規格値のもののみを用いる場合よりも、基材の寸法誤差による基材の目地とインクジェット塗装との位置ずれの発生を大幅に低減することができるものである。
【0012】
また、請求項2に係る発明によれば、分類された各集合ごとに最適な色柄パターンを選択してインクジェット塗装を施すことができて、基材の目地とインクジェット塗装との位置ずれの発生を更に低減することができ、特に基材の目地間隔のばらつきに経時的な傾向が生じている場合にその傾向に応じて基材を各集合に分類すると、前記位置ずれを更に低減することができる。
【0013】
また、請求項3に係る発明によれば、目地間隔のばらつきを有する基材に対して塗装すべき最適な色柄パターンを簡易に選択することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0015】
本発明における塗装の対象である基材1としては、適宜のものを用いることができるが、例えばセメント系の無機質板を用いることができる。無機質板の作製には、セメントと補強繊維を主成分とする湿潤シート(グリーンシート)を用いることができる。この湿潤シートは、セメント系の水性スラリーを原料組成物として用いて、長網式、丸網式の各種の抄造法により抄造することができるが、押出成形等の他の適宜の手法も採用することができる。原料組成物としては、例えば水硬性のセメント成分が30〜95質量%、シリカ、珪石粉、フライアッシュ等の充填材が2〜60質量%、パルプ等の補強繊維が3〜10質量%を占める固形分からなるものとし、この固形分100質量部に対し、水50〜2000質量部程度の割合としたスラリーを用いることができる。尚、セメント成分は、普通ポルトランドセメントをはじめ、高炉セメント等の、適宜に組成調整されたものを用いることができる。補強繊維のパルプは、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、古紙パルプ、あるいはこれらのうち二種以上の混合物等を用いることができる。この湿潤シートを養生硬化することにより、基材1を得ることができる。
【0016】
上記湿潤シートの養生硬化は適宜の手法で行うことができるが、オートクレーブ養生をすることが望ましく、その際の温度としては140℃以上とすることが好適である。また、実際的には、養生は、オートクレーブ養生と、これに先行しての促進前養生、つまり加温のために水蒸気が投入される前養生との二段階での養生であることが望ましい。これによって、基材1の強度が向上し、組織と性能の均一化が図られることになる。
【0017】
この養生時には、養生前の湿潤シートの表面にシーラーを塗布することが望ましい。このシーラーを塗布することにより、養生時にエフロレッセンスが発生することを防止することができ、更にシーラーの塗膜が耐透水性を発揮することで、基材1の耐透水性を向上することができる。
【0018】
シーラーは特に制限されないが、例えばアクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、塩化ゴム系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系等の水性樹脂エマルションを用いることができる。
【0019】
また、このようなシーラー中には、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、顔林、ベントナイト、セリサイト、ドロマイト、タルク、クレー、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の無機粒子を混合することができる。
【0020】
そして、このようなシーラーを湿潤シートの表面に塗布し、加熱成膜することでシーラーの塗膜を形成することができる。
【0021】
このようなシーラーの塗装は、養生前に行うものであるが、上記のように促進前養生を行う場合には促進前養生後にシーラーを塗布し、次いでオートクレーブ養生を行うことが好ましく、これにより基材1の耐凍害性や寸法安定性を向上することができる。
【0022】
このような養生硬化により得られた基材1には、必要に応じて乾燥処理や切削加工が施される。
【0023】
この基材1の、模様形成が施される一面側には、図1に示すように、凹溝からなる目地2を形成する。この目地2は、例えば湿潤シートをプレス成形や押出成形等により形成する際に同時に形成することができる。目地2の寸法は適宜設定されるが、例えば幅3〜50mm、深さ1〜15mmの範囲に形成することができる。また隣り合う目地2の間の間隔も適宜設定されるが、例えば20〜400mmの範囲とすることができる。
【0024】
基材1の塗装は、インクジェット塗装により行う。インクジェット塗装は基材1に対して塗装模様を位置精度良く容易に形成することができ、塗装模様を目地2に対して位置合わせして形成する際に位置精度良く容易に形成することができる。
【0025】
インクジェット塗装を施す場合には、基材1の模様形成が為される一面側に、必要に応じて予めインク受理層(インク受容層)を形成する。インク受理層はインクジェット塗装時に塗布されるインクを滲みなく定着させる機能を有し、インクを吸収する性質を有するもの、例えば吸水性を有する多孔質の層を形成するものであるが、このようなインク受理層を形成するための組成物(受理層形成組成物)としては、水性のものを用いることが好ましい。
【0026】
上記受理層形成組成物としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料を用いることができる。受理層形成組成物には、体質顔料と吸湿性樹脂のうちの少なくとも一方を配合しておくのが好ましい。これにより、インクの定着性を向上させることができる上に、後で水性塗料でクリアー層を形成する際に滲みを防止することができると共に、発色性も向上させることができるものである。ここで、体質顔料としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、多孔質シリカ、珪藻土等を用いることができ、吸湿性樹脂としては、酢酸ビニル、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のインキ吸収性ポリマー等を用いることができる。また、インク受理層を受理層形成組成物で形成するにあたっては、基材1の表面に受理層形成組成物を塗布量30〜200g/m・wetで塗布するのが好ましい。なお、受理層形成組成物の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。
【0027】
また、受理層形成組成物中の顔料は、上述した体質顔料のほか、着色顔料も意味する。着色顔料としては、酸化チタン、弁柄、オーカー、炭酸カルシウム、複合金属酸化物等の無機顔料や、カーボンブラック、キナクリドン、ナフトールレッド、シアニンブルー、シアニングリーン、ハンザイエロー、群青等の有機顔料を用いることができる。顔料は一種のみを用いたり、二種以上を組み合わせて用いたりすることができる。化粧板の耐候性を向上させることができることから、顔料の中でも無機顔料を用いるのが好ましい。顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径で0.01〜4μm程度が好ましい。また、顔料の分散は通常の方法で行うことができ、また、その際に分散剤、分散助剤、増粘剤、カップリング剤等を使用することが可能である。
【0028】
このような水性の受理層形成組成物を用いると、インクジェット塗装において水性インクを用いる場合の塗装模様の発色性が高くなる。
【0029】
上記のような受理層形成組成物を、シーラーが設けられた基材1の表面に例えばスプレーコート、カーテンコート、浸漬、ワイヤーバーコート、アプリケーターコート、スピンコート、ロールコート、電着コート、刷毛塗り等の適宜の手法にて塗布し、加熱硬化することでインク受理層を形成することができる。
【0030】
このように形成された複数の基材1に対して、インクジェット塗装を施す。
【0031】
インクジェット塗装を行うために用いる塗装装置としては、図2に示すものを挙げることができる。この塗装装置は、噴射ノズル10を設けた塗装ノズルヘッド15、塗装ノズルヘッド15の噴射ノズル10に塗料を供給する塗料供給タンク9、塗装ノズルヘッド15の噴射ノズル10からの塗料の噴射を制御する塗装制御システム11などを設けたインクジェット式塗装機12と、基材1を搬送する搬送手段7とを備えて形成されるものである。
【0032】
塗装ノズルヘッド15はインクジェット式塗装機12の下端に設けられているものであり、基材1の送り方向と垂直な方向に長いラインヘッドとして形成してある。
【0033】
塗装ノズルヘッド15はイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色の塗料を噴出する4種類の塗装ノズルヘッド15y,15c,15m,15kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行うことができるようにしてある。塗装ノズルヘッド15の個数はこれに限られず、使用するインクの種類に応じた個数が設けられる。塗料供給タンク9も同様に4種類のものからなるものであり、イエローの塗料を供給する塗料供給タンク9yは塗装ノズルヘッド15yに、シアンの塗料を供給する塗料供給タンク9cは塗装ノズルヘッド15cに、マゼンタの塗料を供給する塗料供給タンク9mは塗装ノズルヘッド15mに、ブラックの塗料を供給する塗料供給タンク9kは塗装ノズルヘッド15kにそれぞれ接続してある。そして各塗装ノズルヘッド15y,15c,15m,15kは基材1の搬送方向に沿って配列してある。
【0034】
塗装制御システム11は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。塗装データ作成部は、原画をスキャナ等して得た色柄パターンのデータを入力して保存するものであり、塗装制御部は、塗装を行う基材1に応じた色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り出し、この色柄パターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また噴射ノズル制御部は塗装ノズルヘッド15y,15c,15m,15kの各噴射ノズル10に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル10を制御するものである。前記色柄パターンは、塗装に供される基材1上の所定位置に所定パターンのすじ状の塗装模様が形成されるように生成しておく。各噴射ノズル10は例えばピエゾ制御方式や光熱交換素子にレーザ光を照射する制御方式により噴射を制御されるようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル10を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各塗料の噴射と停止を個別に制御して、色柄パターンに対応したフルカラー印刷による塗装を行なうことができるものである。
【0035】
搬送手段7はタイミングベルトなど、無限帯状のベルト13をプーリ14間に懸架したベルトコンベア7aで形成することができ、ベルト13の上面で構成される搬送面15がインクジェット式塗装機12の下側に配置される。
【0036】
インクジェット塗装を行うにあたり、まず搬送手段7に基材1を供給する。このとき、複数の基材1を順次間隔をあけて搬送することができる。
【0037】
このように搬送手段7にて搬送される基材1は、塗装ノズルヘッド15の下方を通過する。このとき塗装ノズルヘッド15から基材1上のインク受理層に向けてインクがインクジェット方式で噴射されて塗装が施され、意匠模様が付与された基材1が得られる。
【0038】
上記のように予め用意された色柄パターンに基づいてインクジェット塗装を施すにあたり、色柄パターンとしては、基材1上の目地2が形成された箇所に塗装を施さないようにしたり、目地2が形成されている箇所と目地2が形成されていない箇所とを異なる色に塗装したりするなど、基材1の目地2の位置に応じたものを用いることができる。
【0039】
この色柄パターンとしては、目地間隔Pの設定値が異なる複数のものを用いる。この各色柄パターンは、各設定値に合致するパターンを有する。
【0040】
ここで、目地間隔Pは、基材1に設けられる複数の目地2から選択された、特定の二つの目地2同士の間隔で表すことができる。このとき、基材1上の隣り合う二つの目地2同士の間隔を目地間隔Pと設定しても良いが、図1に示すように、基材1上の複数の目地2のうち、間に所定数の目地2を挟んだ特定の二つの目地2a,2bの間隔を前記目地間隔Pの設定値として設定しても良い。
【0041】
このような複数の色柄パターンとしては、例えば目地間隔Pの設定値が設計上の規格値となっている色柄パターン、この目地間隔Pの設定値を規格値から所定値刻みで大きくした複数の色柄パターン、並びに目地間隔Pの設定値を規格値から所定値刻みで小さくした複数の色柄パターンを用いる。具体的には例えば目地間隔Pの規格値を2436.0mmとし、これを中心に目地間隔Pの設定値を0.5mm刻みで変化させた合計5つの色柄パターン、すなわち目地間隔Pの設定値が2435.0mm、2435.5mm、2436.0mm、2436.5mm、2437.0mmの各色柄パターンを用意する。これらの色柄パターンは、上記塗装制御システム11における塗装データ作成部に保存しておくことができる。
【0042】
また、インクジェット塗装に供される複数の基材1に対して、目地間隔Pの測定を行う。目地間隔Pの測定は、上記養生硬化後、或いは更に必要に応じて乾燥処理が施された後の基材1に対して行うことができる。目地間隔Pの測定方法は特に制限されないが、例えばCCDカメラ等の撮像機にて撮像された画像に基づき画像処理により前記間隔Pを測定する画像処理方式や、レーザースキャニングセンサ方式等を採用することができる。
【0043】
そして、上記目地間隔Pの測定結果に基づき、次のようなステップを経ることにより、複数の色柄パターンから、基材1のインクジェット塗装に用いる適切な目地間隔Pの設定値を有する色柄パターンを選択する。
【0044】
(第一ステップ)
まず、複数の各基材1の目地間隔Pの測定値に基づいて、この複数の基材1の目地間隔Pの基準値を導出する。この基準値は、ばらつきのある前記複数の測定値を代表する値であり、例えば前記複数の基準値の平均値や、前記複数の測定値のうちの最大値と最小値との平均値を、基準値とすることができる。特に後者の場合は、多数の基材1について基準値を導出する場合に基準値の導出を簡便に行うことができる。
【0045】
この第一ステップは、複数の基材1をインクジェット塗装が施される順番が連続する複数の基材1からなる複数の集合に分類するステップと、前記各集合ごとに目地間隔Pの基準値の導出と色柄パターンの選択を行うステップとを含んでも良い。
【0046】
複数の基材1を複数の集合に分類するにあたっては、複数の基材1を任意に分類しても良いが、基材1の目地間隔Pのばらつきの傾向に従って分類することが好ましい。以下に、基材1の分類方法を例示する。
【0047】
図3に、複数の基材1につき、生産された順に目地間隔Pを測定した結果の一例を示す。図3のグラフの横軸は基材の生産順を示し、縦軸は各基材における目地間隔Pの測定結果を示す。図示のように生産された基材1につき順次目地間隔Pを測定した結果には、個々にばらつきが生じているが、基材1が作製される環境の微妙な変化等により、全体としては目地間隔Pのばらつきの変化に経時的に巨視的な傾向が生じている。そこで、この巨視的な傾向に変化が生じている箇所に区切りを設定して、基材1を複数の集合に分類する。
【0048】
具体的には、まず上記目地間隔Pの測定値の中心値を導出する。この中心値は適宜に手法で導出することができるが、例えば図3に示すグラフでは、中心値を示す曲線として、目地間隔Pの測定値の近似曲線を導出している。この中心値の変化は、目地間隔Pの測定値のばらつきの巨視的な傾向を示す。
【0049】
この中心値の値に基づき、基材1を分類するための区切りを設定する。このとき、例えば中心値の値が大きく変化している箇所に区切りを設定することができる。この図3に示すものでは、第一集合と第二集合との間の区切りは、中心値が大きく減少する箇所に設定され、第二集合と第三集合との間の区切りは、中心値が大きく増大する箇所に設定されている。また、中心値の値の変化が少なくても、この値が徐々に増大又は減少して、この中心値の値が、上記用意された複数の色柄パターンにおける各目地間隔Pの設定値のうち二つの値に亘る場合には、中心値が一の設定値付近にある集合と、他の設定値付近にある集合とに分割するように区切りを設定することが好ましい。
【0050】
そして、上記のように分類した各集合ごとに、基準値を導出するものである。図3に示す例では、各集合の最大値と最小値との平均値を基準値とする場合、第一集合の基準値は2436.5mm、第二集合の基準値は2436.1mm、第三集合の基準値は2436.6mmとなる。
【0051】
(第二ステップ)
次に、目地間隔Pの設定値が異なる複数の色柄パターンのうち、上記基準値に最も近い目地間隔Pを有する色柄パターンを選択する。このとき、複数の基材1を複数の集合に分割している場合には、各集合ごとにその基準値に最も近い目地間隔Pを有する色柄パターンを選択する。
【0052】
具体的には、上記基準値と、各色柄パターンの設定値とを比較して、両者の差が最も小さくなる色柄パターンを選択する。すなわち、図3に示す例では、第一集合では目地間隔Pの設定値が2436.5mmの色柄パターン、第二集合では目地間隔Pの基準値が2436.0mmの色柄パターン、第三集合では目地間隔Pの設定値が2436.5mmの色柄パターンが、それぞれ選択される。
【0053】
上記第一ステップ及び第二ステップを経ることで選択された色柄パターンを用い、上記インクジェット塗装装置にて基材1にインクジェット塗装を施すものであり、このとき基材1を複数の集合に分類して各集合ごとに色柄パターンを選択した場合には、各集合ごとに選択された色柄パターンにて各集合における基材1の塗装を行うものである。
【0054】
上記第一ステップ及び第二ステップを経ることによる色柄パターンの選択は、作業者が行うほか、自動制御にて行うこともできる。この場合、例えば上記塗装制御システム11における塗装制御部に、基材1の目地間隔Pの測定結果に基づいて上記第一ステップ及び第二ステップ、塗装データ作成部に保存された複数の色柄パターンから、インクジェット塗装に用いる色柄パターンを選択し、この選択された色柄パターンに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力する機能を付与することができる。
【0055】
このように形成される化粧板には、更に必要に応じて、表面保護用のクリアー層を形成する。クリアー層は適宜のクリアー塗料を塗布成膜することにより形成することができ、例えばアクリル系エマルション等を用い、これをスプレー等にて塗布した後、100〜150℃で30秒以上加熱乾燥することにより成膜して、クリアー層を形成することができる。このクリアー層の厚みは特に制限されないが、5〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0056】
また、化粧板には、更に無機質塗料層を形成することもできる。無機質塗料層はクリアー層の表面に無機質塗料を塗布成膜することで形成することができ、これにより化粧板の耐候性を向上することができる。無機質塗料としては適宜のものを用いることができるが、例えばオルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液に、ポリオルガノシロキサンや、アルキルチタン酸塩等の縮合反応触媒を加え、或いは更にシリカを加えたケイ素アルコキシド系塗料等を用い、これを静電塗装等して塗布した後、60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、無機質塗料層を形成することができる。この無機質塗料層の厚みは特に制限されないが、1〜10μmの範囲であることが好ましい
また、更に光触媒層を形成することも好ましい。光触媒層は、無機質塗料層の表面に光触媒を含有する無機質塗料を塗布成膜することで形成することができ、これにより化粧板の防汚性を向上することができる。光触媒を含有する無機質塗料としては適宜のものを用いることができるが、例えば上記のようなケイ素アルコキシド系塗料に酸化チタン等の光触媒を加えたもの等を用い、これをスプレー塗装等して塗布した後、60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、光触媒層を形成することができる。この光触媒層の厚みは特に制限されないが、0.2〜1.0μmの範囲であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す基材の側面図である。
【図2】インクジェット塗装装置の一例を示す概略の側面図である。
【図3】複数の基材の目地間隔の測定結果、前記測定結果にて導出された中心値の値、前記中心値に基づく基材の分類、及び前記測定結果に基づく基準値の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 基材
2 目地
P 目地間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目地を有する基材表面に色柄パターンをインクジェット塗装により塗装するインクジェット塗装方法であって、インクジェット塗装前の複数の基材における目地間隔の測定結果に基づいて、これらの複数の基材における目地間隔Pの基準値を導出する第一ステップと、目地間隔の設定値が異なる複数の色柄パターンのうち前記基準値に最も近い目地間隔を有する色柄パターンを選択する第二ステップとを含み、前記選択された色柄パターンを基材にインクジェット塗装にて塗装することを特徴とするインクジェット塗装方法。
【請求項2】
上記第一ステップが、複数の基材をインクジェット塗装が施される順番が連続する複数の基材からなる複数の集合に分類するステップと、前記各集合ごとに目地間隔の基準値の導出と色柄パターンの選択を行うステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット塗装方法。
【請求項3】
上記基準値は、複数の基材における目地間隔の最大値と最小値とを平均した値であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−289865(P2007−289865A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120936(P2006−120936)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】