説明

インクジェット式記録装置

【課題】インクジェット式記録装置で、メインタンク内のインクをサブタンク内に送出するための空気圧を生成するポンプの駆動時に、甲高い耳障りな騒音の発生を抑制する。
【解決手段】リミットスイッチ5からの出力でピストン機構3が基準位置に達したことを認識する。前回のモータ9の回転周期にてピストン機構3が基準位置にあるときの時刻を、今回、モータ9の回転駆動を開始する時刻から差引いてモータ9の直前の回転周期の時間Tnを求める(S31)。ピストン機構3の基準位置にてモータ9の回転駆動開始時からの駆動時間tを所定時間単位で計測する(S32)。モータ9の回転周期に対応するピストン機構3の移動距離にS32で求めた駆動時間tの直前のモータ9の回転周期の時間Tnに対する割合t/Tnを乗算し、ピストン機構3の基準位置からの距離をピストン機構3の現在位置Xと予測する(S33)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを送出するためのポンプと、前記ポンプを駆動するためのモータと、を備えるインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スループットを低下させることなく、安定して印刷を実行させることを目的としたインクジェット式記録装置が提案されている。
【0003】
このインクジェット式記録装置では、メインタンクから加圧された空気圧によって送出されるインクは、キャリッジに搭載されたサブタンクに貯留され、印刷データに基づいて記録ヘッドよりインク滴として吐出される。サブタンク内にはフロート部材が収納され、フロート部材に取り付けられた永久磁石による磁力線を受けるホール素子が具備されている。このホール素子により得られる電気的出力によって、バルブの開/閉が実行され、メインタンクからサブタンクに対して逐次インクが補給される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−212974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記構成のインクジェット式記録装置では、メインタンク内のインクをサブタンク内に送出するために加圧される空気圧は、モータの回転力を駆動源とするポンプによって生成される。メインタンク内のインクを、サブタンク内に確実に送出するには、上記空気圧の値が、常時、一定の幅を持った圧力範囲内に存在する必要がある。そのため、上記空気圧の値が低下して上記圧力範囲以下になろうとすると、その都度モータが回転し、それによってポンプが生成する空気圧の値が、上記所定圧力範囲内に保たれる。
【0006】
しかし、モータの回転によりポンプが駆動する度に、甲高い耳障りな騒音が発生し、それによってユーザに不快感を及ぼすという問題点があった。
【0007】
また、上記構成のインクジェット式記録装置では、上記ポンプの駆動源であるモータは、或る一定の目標周期(例えば500msec〜700msec程度)で上記ポンプを駆動するよう、設計されている。
【0008】
しかし、上記モータを、その出力トルクを一定値(同一トルク)にして回転するように、上記モータへ供給する電流の値を設定しても、上記モータの負荷である個々のポンプの性能や機械的精度にバラツキがあるため、上記モータを目標回転数で駆動させることができない。それ故、実際に駆動している上記モータの回転数に応じて、上記モ−タへ供給する電流値の増減制御を行う必要があるので、上記モータの目標回転数に対応する、上記モータへの供給電流の初期値と、実際に上記モータへ供給している電流値との間の差分をとって、その差分を解消すべく、フィードバック制御が行われる。
【0009】
しかし、上記モータの負荷である個々の機器(ポンプ)によって、初期設定された上記モータへの供給電流値と、機器(即ち、ポンプ)本来の特性によって定まる上記モータへの供給電流値との間の偏差が大きい場合には、上記モータの回転数が、その目標回転数に到達するのに時間が掛かるという問題点もあった。
【0010】
従って本発明の目的は、インクジェット式記録装置において、メインタンク内のインクをサブタンク内に送出するための空気圧を生成するポンプの駆動時に、甲高い耳障りな騒音が発生するのを抑制することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、インクジェット式記録装置において、メインタンク内のインクをサブタンク内に送出するための空気圧を生成するポンプの性能や機械的精度のバラツキに起因して、上記ポンプを駆動するためのモータ負荷にバラツキが生じたとしても、上記モータの回転数を、速やかに所定の目標回転数に到達できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に従うインクジェット式記録装置は、インクを送出するためのポンプと、上記ポンプを駆動するためのモータと、を備えるもので、上記ポンプの各周期内における上記ポンプの可動部材の運動速度が一定になるよう、上記ポンプの可動部材の可動領域内での位置に応じて、値が変動する入力電流を上記モータに供給する入力電流供給手段、を有する。
【0013】
本発明に係る好適な実施形態では、上記ポンプの可動部材が、可動領域内での基準位置に在るか否かを識別すると共に、上記基準位置より動いてからの時間の経過に応じて上記ポンプの可動部材の可動領域内での位置を求め、上記入力電流供給手段が、予め定められた複数の入力電流値の中から上記位置に応じた入力電流値を選択して、上記モータに入力電流を供給するようにしている。
【0014】
上記とは別の実施形態では、上記ポンプの可動部材の可動領域内での位置が、上記モータの回転量に基づいて求められる。
【0015】
また、上記とは別の実施形態では、上記ポンプの可動部材の可動領域内での各位置毎に予め定められたモータへの初期入力電流値を持ち、予め定められた上記モータの目標回転周期と、実際に上記モータを回転させたときの上記モータの回転周期との間の偏差を求め、上記求めた偏差に応じて、上記モータへの入力電流値を修正する修正手段、を更に有する。
【0016】
更に、上記とは別の実施形態では、各回転周期毎に、上記修正手段による上記モータへの入力電流値の修正が行われ、その結果、最適と判断された上記修正後の上記モータへの入力電流値を記憶するようにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インクジェット式記録装置において、メインタンク内のインクをサブタンク内に送出するための空気圧を生成するポンプの駆動時に、甲高い耳障りな騒音が発生するのを抑制することができる。
【0018】
また、本発明によれば、インクジェット式記録装置において、メインタンク内のインクをサブタンク内に送出するための空気圧を生成するポンプの性能や機械的精度のバラツキに起因して、上記ポンプを駆動するためのモータ負荷にバラツキが生じたとしても、上記モータの回転数を、速やかに所定の目標回転数に到達できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置が備えるインク送出用ポンプの制御系を構成する各部のブロック図。
【図2】図1で示したコントローラが内蔵するモータ入力電流値テーブルの一例を示す説明図。
【図3】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置において、コントローラが、モータの各回転周期毎に実行する処理流れを示すフローチャート。
【図4】本発明の一実施形態の変形例に係るインクジェット式記録装置において、モータの回転周期を、インク送出用ポンプの往復動作の開始時点から可能な限り短時間で目標回転周期に到達させるための制御の処理手順を示すフローチャート。
【図5】図4で示した処理動作のサブルーチンである、モータの回転周期を、モータの目標回転周期に近づけるのに必要なモータへの入力電流の初期値を決定するための制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面により詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置が備えるインク送出用ポンプの制御系を構成する各部のブロック図である。
【0022】
上記インク送出用ポンプの制御系は、図1に示すように、インク送出用ポンプ1と、ピストン位置検出用センサ5と、動力伝達機構7と、モータ9と、コントローラ11と、を含む。
【0023】
インク送出用ポンプ1は、装置本体側にあるメインタンク(図示しない)と、キャリッジ(図示しない)に搭載されているサブタンク(図示しない)との間を接続している、例えば可撓性チューブから成るインク補給路(図示しない)に介在する。インク送出用ポンプ1は、既述のように、メインタンク(図示しない)内のインクを、記録ヘッド(図示しない)からインク滴として吐出するために、上記インク補給路(図示しない)を通じてサブタンク(図示しない)内に送出するもので、上記インク送出用に生成した所定の空気圧を上記インク補給路(図示しない)に出力する。
【0024】
インク送出用ポンプ1は、底壁が固定され、側壁(符号13で示す)が図1に示すように、直線方向(軸方向)に伸縮自在に変形するよう、蛇腹状に形成されており、更に上壁が直線方向(軸方向)に往復動作自在に構成されている。以下では、説明の都合上、上壁を「ピストン機構3」と表記する。インク送出用ポンプ1の、上記インク補給路(図示しない)に取付固定されている側の端部には、上記インク補給路(図示しない)に連通する開口部(図示しない)が形成されている。
【0025】
側壁13は、ピストン機構3が、図1の右方向に移動することによって収縮し、それにより所定圧力に加圧された空気を、上記開口部(図示しない)を通じて上記インク補給路(図示しない)へ出力する。側壁13は、ピストン機構3が、図1の右方向への移動を限度一杯行った後に、上記とは逆に図1の左方向に移動するのに伴って伸長し、それによって上記インク補給路(図示しない)へ出力する空気圧が所定圧力から次第に低下する。
【0026】
ピストン機構3は、動力変換機構7から出力される直線方向の駆動力により、図1の左/右方向に往復動作する。
【0027】
動力変換機構7は、モータ9の回転駆動力を直線方向への駆動力に変換して、ピストン機構3へ出力するよう構成されている。
【0028】
本実施形態では、モータ9には、例えば供給される電流(モータ9への入力電流)によってトルクが可変する所謂電流制御のモータが採用されているものとする。但し、本発明は、電流制御のモータのみならず、多種多様なモータを採用したインクジェット式記録装置について適用が可能であることは言うまでもない。モータ9は、コントローラ11の制御下で回転し、回転力を動力変換機構7に出力する。
【0029】
ピストン位置検出用センサ5としては、例えばリミットスイッチが用いられる。(以下、ピストン位置検出用センサを、「リミットスイッチ」と表記する)。リミットスイッチ5は、ピストン機構3の基準位置である、ピストン機構3の上死点(又は下死点)、即ち、インク送出用ポンプ1の側壁13の伸び切った位置に配置されており、ピストン機構3が上死点(又は下死点)に達することで、オン動作し、所定の電圧レベル信号をコントローラ11に出力する。
【0030】
なお、本実施形態では、モータ(9)の構造が複雑化するのを避けるために、モータ9には、その回転数(回転速度)を検出するのに必要なセンサ、例えばパルスエンコーダのようなものは用いられていない。パルスエンコーダのような、モータの回転数(回転速度)を直接検出する手段を用いなくても、上記のようにピストン機構3の往復動作の基準位置に、ピストン位置検出用センサであるリミットスイッチ5を設置し、リミットスイッチ5から所定の電圧レベル信号が出力された時点で、モータ9の回転駆動を開始させる。そして、上記時点からの経過時間を求めて該経過時間に基づき、計算によって基準位置からのピストン機構3の現在位置を求めることができるからである。
【0031】
コントローラ11は、モータ負荷(即ち、インク送出用ポンプ1)に応じたモータ9への供給電流値セットを含むテーブル(以下、「電流値テーブル」と表記する)を内蔵する。コントローラ11は、リミットスイッチ5より所定の電圧レベル信号が出力されてから、次に、リミットスイッチ5より所定の電圧レベル信号が出力されるまでの間の時間を所定時間単位(例えば、10msec)で計測し、該計測結果を基に、ピストン機構3の往復動作の1周期を表す全位置領域において、ピストン機構3の現在位置を予測することが可能である。その他、コントローラ11が行う処理動作の詳細については、後述する。
【0032】
ところで、上記構成のインクジェット式記録装置にあっては、ピストン機構3の1往復運動の周期(以下、「ピストン機構3の往復動作の1周期」と表記する)内において、モータ負荷の大きい箇所と、モータ負荷の小さい箇所とが存在する。そして、モータ負荷の大きい箇所では、モータ9の回転速度が遅くなるため、それによってピストン機構3の往復動作が遅くなる。一方、これとは逆に、モータ負荷の小さい箇所では、モータ9の回転速度が速くなり、それによってピストン機構3の往復動作が速くなる。
【0033】
本発明者が、モータ9の回転によってインク送出用ポンプ1が駆動する度に、甲高い耳障りな騒音が発生する原因について研究を重ねた。その結果、ピストン機構3の往復動作の1周期を表す位置領域において、モータ負荷の変動が生じ、該位置領域におけるモータ負荷が小さくなる箇所、即ち、モータ9の回転速度が速くなる箇所において、上述した甲高い耳障りな騒音が発生することが判明した。
【0034】
本発明は、この新規な知見に基づくものである。この新規な知見に基づいて、本発明の一実施形態では、可能な限りピストン機構3の往復動作の1周期を表す全位置領域に亘って、一定の速度で往復動作するよう、モータ9の(出力トルクの)制御が実施される。より具体的に説明すると、本実施形態におけるモータ9の(出力トルクの)制御を実施するために、コントローラ11は、ピストン機構3の往復動作の1周期を表す位置領域におけるモータ負荷の変動が生じた位置に対応して、モータ9への入力電流値をどのように変化させるべきかという目標電流値のセットを記録したテーブル(以下、「モータ入力電流値テーブル」と表記する)を持っている。
【0035】
図2は、図1で示したコントローラ11が内蔵するモータ入力電流値テーブルの一例を示す説明図である。
【0036】
図2において、縦軸は、モータ9への入力電流値を、横軸は、ピストン機構3の往復動作の1周期を表す全位置領域を、夫々示す。横軸において、周期原点、及び次の周期原点とは、ピストン機構3の往復動作の1周期における往復移動の基準位置、即ち、図1で示したリミットスイッチ5の設置位置を示す。また、曲線17は、ピストン機構3の往復動作の1周期を表す全位置領域におけるモータ負荷の変動に対応するモータ9への入力電流値の変動を示す曲線である。
【0037】
例えば、上述した周期原点及びその近傍の位置や、次の周期原点及びその近傍の位置では、モータ負荷が比較的小さいから、それに応じてコントローラ11を通じてモータ9へ入力される電流値も比較的小さな値となる。これにより、上記位置において、モータ負荷が小さいことに起因してモータ9の回転速度が速くなるのが規制され、それによってピストン機構3の往復移動速度が抑制される。
【0038】
これとは逆に、周期原点と次の周期原点との略中間の位置19、及びその近傍の位置では、モータ負荷が比較的大きいから、それに応じてコントローラ11を通じてモータ9へ入力される電流値も比較的大きな値となる。これにより、モータ負荷が大きいことに起因してモータ9の回転速度が遅くなるのが規制され、それによってピストン機構3の往復移動速度が速められる。
【0039】
即ち、モータ9の回転周期に対応するピストン機構3の1往復動作内での往復移動速度が、該1往復動作内の全位置領域において生じるモータ負荷の変動の如何に拘わらず、略一定の値に制御されることになる。
【0040】
なお、図2で示した曲線17は、1本のみに限定されるものではなく、モータ9の回転周期に対応するピストン機構3の往復動作を表す全位置領域におけるモータ負荷の変動の大きさや、ピストン機構3の往復動作を表す全位置領域中のどの位置で、モータ負荷が最大になるか等によって、複数本の曲線が存在し得る。
【0041】
図3は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置において、コントローラ11が、モータ9の各回転周期毎に実行する処理流れを示すフローチャートである。
【0042】
図3において、まず、リミットスイッチ5から所定の電圧レベル信号を入力すると、コントローラ11は、モータ9の回転駆動により、ピストン機構3が基準位置(即ち、リミットスイッチ5の設置位置)に到達していることを認識する。そして、前回のモータ9の回転周期において、ピストン機構3が基準位置(リミットスイッチ5の設置位置)に存在しているときの時刻を、今回、モータ9の回転駆動を開始する時刻から差引くことにより、モータ9の前回(直前)の回転周期の時間Tnを求める(ステップS31)。
【0043】
次に、今回、モータ9を回転駆動するに際しての、ピストン機構3の基準位置である周期原点において、モータ9の回転駆動を開始した時刻からの駆動時間tを、例えば10msec単位で計測する。モータ9の回転周期は、通常、大きく変動することがないため、モータ9を直前に駆動したときのモータ9の回転周期(即ち、モータ9の前回の回転周期)を基準にして、今回、モータ9を駆動するときの上記周期原点からのモータ9の駆動時間を求めることが可能である(ステップS32)。
【0044】
次に、モータ9の1回転周期に対応するピストン機構3の移動距離(予め分かっている値である)に、ステップS32で求めた駆動時間tの上記直前のモータ9の回転周期の時間Tnに対する割合t/Tnを乗算する。この乗算によって得られた値、即ち、上記ピストン機構3の基準位置である周期原点からの距離を、現時点でのピストン機構3の位置(即ち、「現在位置X」)であると予測する(ステップS33)。
【0045】
次に、コントローラ11は、図2で示したモータ入力電流値テーブル15の中から、ステップS33で予測したピストン機構3の現在位置Xに応じたモータ入力電流値データを読み出す(ステップS34)。そして、上記読み出したモータ入力電流値データに基づいて、コントローラ9は、モータ9の回転駆動を制御する(ステップS35)。
【0046】
ステップS35で示した処理動作が終了すると、再びステップS32で示す処理動作に移行し、上記周期原点において、モータ9の回転駆動を開始した時刻からの更なる駆動時間tの計測が実行される(ステップS32)。そして、求めた駆動時間tと直前のモータ9の回転周期の時間Tnに対する割合t/Tnを、モータ9の1回転周期に対応するピストン機構3の移動距離に再度乗算することにより、上記周期原点からの新たなる距離を求める。
【0047】
この求めた新たなる距離を、最初の現時点でのピストン機構3の位置から、例えば10msec経過した後の、現時点でのピストン機構3の位置(即ち、「現在位置X」)であると予測する(ステップS33)。このようにして予測したピストン機構3の現在位置Xに対応するモータ入力電流値データを、モータ入力電流値テーブル15から読み出して(ステップS34)、読み出したモータ入力電流値データに基づき、コントローラ11がモータ9の回転駆動を制御する(ステップS35)。
【0048】
このようにして、ステップS32乃至ステップS35で夫々示した処理動作を実行しているときに、リミットスイッチ5から所定の電圧レベル信号を入力すると、コントローラ11は、モータ9の回転駆動により、ピストン機構3が再び基準位置(リミットスイッチ5の設置位置)に到達したことを認識する。そして、今回のモータ9の回転周期において、ピストン機構3が基準位置(リミットスイッチ5の設置位置)に存在しているときの時刻(即ち、今回のモータ9の回転周期における回転開始時刻)を、次回、モータ9の回転駆動を開始する時刻から差引くことにより、モータ9の今回の回転周期の時間Tn+1を求める(ステップS36)。
【0049】
上述したステップS31乃至ステップS36で夫々示した処理動作は、多くのモータ9の回転周期に亘って繰り返される(ステップS37)。
【0050】
上記図3で示した処理動作を、コントローラ11が実行することにより、ピストン機構3の往復動作の1周期内において、モータ負荷に変動が生じても、そのモータ負荷の変動の大きさに応じた電流値を、モータ9への入力電流として供給することが可能であるので、モータ9から、モータ負荷の変動の大きさに応じた出力トルクを得ることができる。そのため、モータ9の回転速度を、モータ9の1回転周期に亘って略一定に保持することができるから、その結果として、インク送出用ポンプ1から上述した甲高い耳障りな騒音が発生するのを抑制することができる。
【0051】
現に、本発明者が、上述した構成のインクジェット式記録装置を試作して、試験的に駆動したところ、人間の耳で聞こえる騒音が明らかに小さくなったことが確認できた。
【0052】
ところで、予め設定された目標回転周期によってモータ9の回転駆動を制御する場合、モータ9の回転周期が、目標回転周期を上廻っているか、下廻っているかによってモータ9への入力電流値を変動(増/減)することで、モータ9の回転周期を、目標回転周期になるよう、換言すれば、モータ9の回転速度が、目標回転周期に対応する一定回転速度になるよう、制御している。しかし、モータ9への入力電流の初期値が、最適化された値でない場合には、モータ9の回転周期が、目標回転周期になるのに時間がかかる。換言すれば、モータ9の回転速度が、なかなか一定回転速度に達しないという問題がある。
【0053】
更に、個々のインク送出用ポンプ(1)毎に、性能や機械的精度にバラツキがあるので、インク送出用ポンプ(1)によってモータ負荷の大きさが異なるため、モータ9への入力電流の初期値として、どの値が最適値であるかは、個々の製品(インクジェット式記録装置)によって異なる。それ故に、個々の製品(インクジェット式記録装置)別に、モータ9への入力電流の最適な初期値を決定するのが困難であった。
【0054】
そこで、本発明者は、個々のインク送出用ポンプ(1)毎にモータ負荷のバラツキがあっても、各々のインク送出用ポンプ(1)を負荷とするモータ(9)別に、最適な初期電流値を決定して個々のモータ(9)へ供給できるような方法を、以下に提案する。
【0055】
モータ9の初期回転周期が、モータ9の目標回転周期に近ければ近いほど、モータ9の回転周期を、短時間でモータ9の目標回転周期に到達させることができる。そのため、モータ9の目標回転周期と同一の初期回転周期が得られるモータ9への入力電流の初期値が、最適化された入力電流の初期値である。(モータ9を回転駆動するための)モータ9への入力電流値と、モータ9の回転周期との間の相関は、モータ負荷に依存するため、モータ負荷の大きさを知ることができれば、モータ9への入力電流の初期値を最適化することができる。
【0056】
そこで、本発明の一実施形態の変形例では、モータ9の回転駆動が終了した時点におけるモータ9への入力電流値からモータ負荷の大きさを判断して、次にモータ9を回転駆動するときの、モータ9への入力電流の初期値を最適化することとした。
【0057】
図4は、本発明の一実施形態の変形例に係るインクジェット式記録装置において、モータ9の回転周期を、インク送出用ポンプ1の往復動作の開始時点から可能な限り短時間で目標回転周期に到達させるための制御の処理手順を示すフローチャートである。
【0058】
図4において、コントローラ11は、まず、モータ9への入力電流の初期値セットI1を、例えば図2で示したモータ入力電流値テーブル15から読み出す(ステップS41)。そして、この読み出した入力電流の初期値セットI1に基づき、モータ9へ電流を供給することにより、予め設定されているモータ9の目標回転周期T1で、モータ9を回転駆動する(ステップS42)。ステップS42では、後述する図5で示す、モータ9における現在の回転周期tと、モータ9の目標回転周期T1との間の偏差を求めて、その偏差に応じたモータ9への入力電流の増/減制御が行われる。
【0059】
このようにして、モータ9の回転駆動が終了するまでの間、モータ9の1回転周期に対応するピストン機構3の往復動作の1周期を表す全位置領域に亘り、モータ負荷に変動が生じたか否かチェックする。このチェックの結果、上記何れかの位置にてモータ負荷に変動が生じたことを判別すると、上記モータ9への入力電流の初期値セットI1に含まれる各入力電流の初期値の中から、上記モータ負荷に変動が生じた位置に対応する入力電流の初期値を、該モータ負荷の変動の大きさに対応して修正する。
【0060】
このようにして、モータ9の回転駆動が終了すると、その時点での、修正されたモータ9への入力電流の初期値セットI1´を、例えば図2で示したモータ入力電流値テーブル15に上書きするか、或いは、コントローラ11内のメモリの別の記憶領域に格納する(ステップS43)。
【0061】
次に、コントローラ11は、モータ9への入力電流の初期値セットとして、ステップS43で上書き又は格納した、修正されたモータ9への入力電流の初期値セットI1´を読み出す。そして、この読み出した入力電流の初期値セットI1´から、予め設定されているモータ9の目標回転周期T2で、モータ9を回転駆動するのに最適なモータ9への入力電流の初期値セットI1´を、モータ9を目標回転周期T2で回転駆動するに際してのモータ9への入力電流の初期値セットI1´に決定する(ステップS44)。そして、この決定した入力電流の初期値セットI1´に基づき、モータ9へ電流を供給することにより、上記目標回転周期T2で、モータ9を回転駆動する(ステップS45)。ステップS45でも、上述したステップS42におけると同様に、後述する図5で示す、モータ9における現在の回転周期tと、モータ9の目標回転周期T2との間の偏差を求めて、その偏差に応じたモータ9への入力電流の増/減制御が行われる。
【0062】
このようにして、モータ9の回転駆動が終了するまでの間、モータ9の1回転周期に対応するピストン機構3の往復動作の1周期を表す全位置領域に亘り、モータ負荷に変動が生じたか否かチェックする。このチェックの結果、上記何れかの位置にてモータ負荷に変動が生じたことを判別すると、上記モータ9への入力電流の初期値セットI1´に含まれる各入力電流の初期値の中から、上記モータ負荷に変動が生じた位置に対応する入力電流の初期値を、該モータ負荷の変動の大きさに対応して修正する。
【0063】
このようにして、モータ9の回転駆動が終了すると、その時点での、修正されたモータ9への入力電流の初期値セットIFを、例えば図2で示したモータ入力電流値テーブル15に上書きするか、或いは、コントローラ11内のメモリの別の記憶領域に格納する(ステップS46)。
【0064】
上述したステップS41乃至ステップS46で夫々示した処理動作は、多くのモータ9の回転周期に亘って繰り返される(ステップS47)。
【0065】
図5は、図4で示した処理動作のサブルーチンである、モータ9の回転周期を、モータ9の目標回転周期に近づけるのに必要なモータ9への入力電流の初期値を決定するための制御の処理手順を示すフローチャートである。
【0066】
図5において、まず、コントローラ11は、内蔵するモータ入力電流値テーブル15(その一例を図2で示した)からモータ9への入力電流を示す初期電流値セットaを読み出す(ステップS61)。そして、該読み出した初期電流値セットaを用いて、例えば図3で示した処理手順に従い、モータ9の1回転周期分だけピストン機構3を駆動する(ステップS62)。次に、現在回転周期、即ち、モータ9を1回転させたときの周期tと、予め設定されているモータ9の目標回転周期T1とを比較し、現在回転周期tが目標回転周期T1よりも長いか、短いかをチェックする(ステップS63)。
【0067】
上記チェックの結果、現在回転周期tが目標回転周期T1よりも長ければ、ステップS41でモータ入力電流値テーブル15から読み出した初期電流値セットaに、一定値(δα)を加算し(ステップS64)、ステップS62で示した処理に移行する。一方、上記チェックの結果、現在回転周期tが目標回転周期T1よりも短ければ、ステップS61でモータ入力電流値テーブル15から読み出した初期電流値セットaに、一定値(δα)を減算し(ステップS65)、ステップS62で示した処理に移行する。
【0068】
以上説明したように、本発明の一実施形態の変形例によれば、モータ9の回転駆動が終了した時点におけるモータ9への入力電流値からモータ負荷の大きさを判断して、次にモータ9を回転駆動するときの、モータ9への入力電流の初期値を最適化することにより、モータ9の回転周期を、可能な限り短時間でモータ9の目標回転周期に到達させることができるようになった。
【0069】
以上、本発明の好適な実施形態、及びその変形例を説明したが、これらは本発明の説明のための例示であって、本発明の範囲をこの実施形態、及びその変形例にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 インク送出用ポンプ、3 ピストン機構(上壁)、5 ピストン位置検出用センサ(リミットスイッチ)、7 動力伝達機構、9 モータ、11 コントローラ、13 側壁、15 モータ入力電流値テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを送出するためのポンプと、前記ポンプを駆動するためのモータと、を備えるインクジェット式記録装置において、
前記ポンプの各周期内における前記ポンプの可動部材の運動速度が一定になるよう、前記ポンプの可動部材の可動領域内での位置に応じて、値が変動する入力電流を前記モータに供給する入力電流供給手段、
を有するインクジェット式記録装置。
【請求項2】
請求項1記載のインクジェット式記録装置において、
前記ポンプの可動部材が、可動領域内での基準位置に在るか否かを識別すると共に、前記基準位置より動いてからの時間の経過に応じて前記ポンプの可動部材の可動領域内での位置を求め、
前記入力電流供給手段が、予め定められた複数の入力電流値の中から前記位置に応じた入力電流値を選択して、前記モータに入力電流を供給するようにしたインクジェット式記録装置。
【請求項3】
請求項1記載のインクジェット式記録装置において、
前記ポンプの可動部材の可動領域内での位置が、前記モータの回転量に基づいて求められるインクジェット式記録装置。
【請求項4】
請求項1記載のインクジェット式記録装置において、
前記ポンプの可動部材の可動領域内での各位置毎に予め定められたモータへの初期入力電流値を持ち、
予め定められた前記モータの目標回転周期と、実際に前記モータを回転させたときの前記モータの回転周期との間の偏差を求め、前記求めた偏差に応じて、前記モータへの入力電流値を修正する修正手段、
を更に有するインクジェット式記録装置。
【請求項5】
請求項4記載のインクジェット式記録装置において、
各回転周期毎に、前記修正手段による前記モータへの入力電流値の修正が行われ、その結果、最適と判断された前記修正後の前記モータへの入力電流値を記憶するようにしたインクジェット式記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−264768(P2010−264768A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193468(P2010−193468)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【分割の表示】特願2005−88621(P2005−88621)の分割
【原出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】