説明

インクジェット捺染方法及びインクジェット捺染装置

【課題】捺染を途中で中断した後に再度捺染を開始した場合であっても、その境界部分を均一に捺染することを可能とする。
【解決手段】ヘッドユニットを布帛Cの幅方向に複数配列したラインヘッド61を有する捺染部6によって布帛Cを捺染するインクジェット捺染方法であって、布帛Cを進行方向に搬送する第1の搬送工程と、第1の搬送工程中に、捺染部6の各ヘッドユニットから布帛Cに対してインクを吐出する第1の吐出工程と、第1の搬送工程及び第1の吐出工程を停止させる停止工程と、停止工程後、布帛Cを進行方向と反対方向に所定距離搬送する後退工程と、後退工程後、布帛Cを再度進行方向に搬送する第2の搬送工程と、第2の搬送工程において布帛Cが前記所定距離搬送から制動距離を引いた距離だけ搬送した時点で、再度捺染部の各ヘッドユニットから布帛Cに対してインクを吐出する第2の吐出工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染方法及びインクジェット捺染装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、綿や絹、ポリエステルなどの布帛に捺染を行う装置として、スクリーン捺染装置や、ローラ捺染装置などが広く用いられていた。しかし、これらの捺染装置は、図柄毎にスクリーン枠や彫刻ローラ等を用意する必要があるが、スクリーン枠や彫刻ローラは高価であるために少量多品種の捺染には向いていない。これに対して、インクジェット捺染装置は、デジタルデータを変更するだけで図柄の変更に対応することができるため少量多品種の生産に向いており、近年広く用いられてきている。このインクジェット捺染装置は、大きくシリアルヘッド方式とラインヘッド方式の2つに分けることができる。この内の一つであるラインヘッド方式のインクジェット捺染装置は、複数の吐出口が形成されたヘッドユニットを布帛などの被捺染物の幅方向(布帛の進行方向と直交する方向)に複数配列したラインヘッドを備えている(例えば、特許文献1など)。このラインヘッド方式のインクジェット捺染装置は、連続的に被捺染物を搬送させることができるため、捺染時間を短縮することができるなどのメリットを有している。
【特許文献1】特開2004−167847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、インクジェット捺染装置は、長時間インクを吐出し続けるとヘッドユニットの吐出口にインクが詰まったり、吐出を妨げるものが付着したり、吐出が偏向または吐出できないおそれがあるため、一旦捺染工程を中断して各ヘッドユニットのクリーニングを実施する必要がある。また、その他の理由でも一旦捺染工程を中断することがある。しかしながら、捺染工程を一旦停止させてしまうと、次に捺染工程を再開したときの立ち上がり時の布帛の搬送速度は通常時の搬送速度よりも遅いために、停止前に捺染された捺染領域と停止後に捺染された捺染領域との境界部分には他の部分に比べてインク着弾位置ずれや吐出量むらが発生し色斑が発生するといった問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、捺染を途中で中断して再度捺染を開始した場合であっても、その境界部分を均一に捺染することが可能なインクジェット捺染方法及びインクジェット捺染装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るインクジェット捺染方法は、上記課題を解決するためになされたものであり、複数の吐出口が形成されたヘッドユニットを被捺染物の幅方向に複数配列したラインヘッドを有する捺染部によって被捺染物を捺染するインクジェット捺染方法であって、被捺染物を進行方向に搬送する第1の搬送工程と、前記第1の搬送工程中に、捺染部の各ヘッドユニットから被捺染物に対してインクを吐出する第1の吐出工程と、前記第1の搬送工程及び第1の吐出工程を停止させる停止工程と、前記停止工程後、被捺染物を進行方向と反対方向に所定距離搬送する後退工程と、前記後退工程後、被捺染物を再度進行方向に搬送する第2の搬送工程と、前記第2の搬送工程において被捺染物を前記所定距離から前記第1の搬送工程を停止させた際に慣性力により被捺染物が進んだ制動距離を引いた距離だけ搬送した時点で、再度捺染部の各ヘッドユニットから被捺染物に対してインクを吐出する第2の吐出工程と、を含んでいる。
【0006】
上述したインクジェット捺染方法では、第1の搬送工程と第1の吐出工程を停止させた後、後退工程において一旦被捺染物を所定距離後退させてから、再度第2の搬送工程において被捺染物を進行方向に搬送する。そして、後退工程において後退した所定距離から、第1の搬送工程を停止させた際に慣性力によって被捺染物が進んだ制動距離を引いた距離だけ進行方向に搬送されてから、第2の吐出工程で被捺染物にインクを吐出する。このように、再開後の立ち上がり時にすぐにインクの吐出を始めるのではなく、被捺染物を一旦搬送して搬送速度が安定してからインクを吐出し始めるため、第1の吐出工程において捺染された領域と第2の吐出工程において捺染された領域との間の境界部分を均一に捺染することができる。なお、上記後退させる「所定距離」は、搬送速度が安定するだけの距離でよく、そのインクジェット捺染装置の機能や速度によっても変わってくるが、通常、制動距離に50〜100mm程度を加えた距離であればよい。また、上記慣性力により被捺染物が進む制動距離は0mmの場合も含んでいる。この場合は、第2の吐出工程では、後退工程において搬送した所定距離だけ被捺染物を搬送した時点でインクを吐出すればよい。
【0007】
上記インクジェット捺染方法は種々の変更が可能であるが、例えば、上記停止工程において各ヘッドユニットの吐出口乾燥防止のためのキャッピング工程及び各ヘッドユニットの吐出口をクリーニングするクリーニング工程をさらに含んでいることが好ましい。これにより、ヘッドユニットのインクによる目詰まりを防止することができる。
【0008】
また、本発明に係るインクジェット捺染装置は、上記課題を解決するためになされたものであり、被捺染物を捺染するインクジェット捺染装置であって、被捺染物を載置して搬送する搬送ベルトと、前記搬送ベルトの上方に設置され、複数の吐出口が形成されたヘッドユニットを被捺染物の幅方向に複数配列したラインヘッドを有する捺染部と、前記搬送ベルトを進行方向及び後退方向に駆動させる駆動手段と、前記搬送ベルトを所定距離進行及び後退させるよう前記駆動手段を制御するとともに、前記捺染部にインクを吐出するよう信号を送る制御部と、を備えている。
【0009】
本インクジェット捺染装置によれば、駆動手段によって搬送ベルトを進行方向だけでなく後退方向にも駆動できるとともに、制御部によって搬送ベルトを所定距離だけ進行及び後退させつつ捺染部にインクを吐出するよう信号を送ることができるように構成されている。このため、捺染を一旦停止させた後に再度捺染を開始する場合、被捺染物を一旦所定距離だけ後退させてから、進行方向に搬送し、後退した距離から制動距離を引いた距離だけ進行させた時点で捺染部からインクを吐出することができる。この結果、再開後の立ち上がり時にすぐにインクの吐出を始めるのではなく、被捺染物を所定距離搬送して搬送速度が安定してからインクを吐出し始めるため、第1の吐出工程において捺染された領域と第2の吐出工程において捺染された領域との間の境界部分を均一に捺染することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、捺染を中断して再度捺染を開始した場合であっても、その境界部分を均一に捺染することが可能なインクジェット捺染方法及びインクジェット捺染装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るインクジェット捺染装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係るインクジェット捺染装置の概略斜視図、図2は本実施形態に係る捺染部の概略底面図である。なお、図1の左側を上流側、右側を下流側と称するとともに、下流側に向かう方向を進行方向、これと反対方向の上流側に向かう方向を後退方向と称して説明をする。
【0012】
図1に示すように、インクジェット捺染装置1は、布帛(被捺染物)Cを巻出す巻出しローラ2と、布帛Cを搬送する無端状の搬送ベルト3と、搬送ベルト3を駆動する上流側駆動ローラ4及び下流側駆動ローラ5とを備えている。この上流側駆動ローラ4及び下流側駆動ローラ5の間であって搬送ベルト3の上方には、布帛Cを捺染する捺染部6が設置されており、この捺染部6及び上流側駆動ローラ4に制御部7が接続されている。また、上流側駆動ローラ4の上方には布帛Cを搬送ベルト3上に貼り付ける貼付ローラ8が設置されている。またさらには、下流側駆動ローラ5まで搬送された布帛Cを巻き取る巻取ローラ9と、下流側駆動ローラ5から剥がされて巻取ローラ9に巻き取られるまでの布帛Cを乾燥する乾燥用ヒータプレート10が設置されている。
【0013】
以下、上述したインクジェット捺染装置1を構成する各部材について説明する。
【0014】
搬送ベルト3は、金属製やゴム製、プラスチック製など種々の材料を採用可能であり、その外側表面に粘着面が形成されている。この粘着面は、例えば、感圧式の粘着剤を搬送ベルト3の表面に塗布して形成することができる。このように、搬送ベルト3の表面には粘着面が形成されているため、後述する貼付ローラ8で布帛Cを搬送ベルト3上に押圧することによって、布帛Cを搬送ベルト3上に貼り付けることができる。
【0015】
上流側駆動ローラ4及び下流側駆動ローラ5は、モータ(図示省略)を駆動源として図1の時計回り及び反時計回りに回転することで、搬送ベルト3を進行方向及び後退方向に走行させる。なお、上流側駆動ローラ4と下流側駆動ローラ5とは、同じタイミングで且つ同じ速度で回転している。
【0016】
捺染部6は、図2に示すように、ラインヘッド方式を採用しており、複数のヘッドユニット601が千鳥状となって布帛Cの幅方向に配列されたラインヘッド61を備えている。各ヘッドユニット601にはインクを吐出する吐出口(図示省略)が形成されている。
【0017】
制御部7は、上流側駆動ローラ4に接続されており、駆動ローラ4の回転量を検知してその回転量から搬送ベルト3の搬送量、すなわち布帛Cの移動距離を算出することができる。また、制御部7は捺染部6にも接続されており、前記上流側駆動ローラ4の回転量から算出した布帛Cの移動距離に基づいて、捺染部6に対してインクを吐出するよう信号を送信する。
【0018】
貼付ローラ8は、搬送ベルト3の上流側に設置されており、自重によって布帛Cを搬送ベルト3に押圧している。この貼付ローラ8は、搬送ベルト3と接触しているので、搬送ベルト3が走行するとそれに伴って回転するように構成されている。
【0019】
次に上述したインクジェット捺染装置1による捺染方法について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
まず、図1に示すように、巻出しローラ2から巻出された布帛Cを、搬送ベルト3と貼付ローラ8との間に通す。これにより、布帛Cは、貼付ローラ8の自重で搬送ベルト3上に押圧されて搬送ベルト3上に貼り付けられる。この貼付ローラ8による押圧力は、貼付ローラ8の自重を変更することによって調整することができるし、ピストン(図示省略)などで貼付ローラ8の両端を支持することによって調整することもできる。
【0021】
以上のように搬送ベルト3上に貼り付けられた布帛Cは、上流側駆動ローラ4及び下流側駆動ローラ5で搬送ベルト3を駆動させることによって、進行方向に搬送される(第1の搬送工程)。そして、布帛Cが搬送ベルト3によって進行方向に搬送されている間、捺染部6のラインヘッド61の各ヘッドユニット601から布帛Cに対してインクを吐出することによって布帛Cを捺染する(第1の吐出工程)。そして、このように捺染された布帛Cは、下流側駆動ローラ5まで搬送されて搬送ベルト3から剥離され巻取ローラ9によって巻き取られる。なお、布帛Cは、下流側駆動ローラ5から剥離されて巻取ローラ9によって巻き取られるまでの間に、乾燥用ヒータプレート10によって加熱されて乾燥される。
【0022】
以上の方法によって布帛Cの捺染を長時間続けると、捺染部6におけるラインヘッド61の各ヘッドユニット601の吐出口周辺の吐出面にインクが付着してしまうため、一旦布帛Cの搬送及びインクの吐出を停止させてヘッドユニット601の吐出面をクリーニングする必要がある。また、その他にも種々の理由により布帛Cの搬送及びインクの吐出を途中で停止させることがある(停止工程)。このようにクリーニングやその他の理由で布帛Cの搬送及びインクの吐出を一旦停止させた後に、再度布帛Cの捺染を開始する場合について図3を参照しつつ説明する。
【0023】
まず、ラインヘッド6からのインクの吐出を停止させて搬送ベルト3による布帛Cの搬送を停止させると、搬送ベルト3及びこれに搬送される布帛Cは慣性力によって制動距離aだけ進行方向(図3の右側)に進む(図3(a))。なお、この制動距離aは、上流側駆動ローラ4の回転量から制御部7によって算出される。
【0024】
そして、このようにインクの吐出及び布帛Cの搬送を停止させた状態(図3(a))から、一旦、上流駆動ローラ4及び下流側駆動ローラ5を反時計回りに回転させて布帛Cを後退方向に所定距離Lだけ後退させる(図3(b))(後退工程)。この所定距離Lは、上記制動距離aに50〜100mm程度加えた距離とすることが好ましく、上流側駆動ローラ4の回転量を検知した制御部7によって算出される。そして、所定距離Lだけ後退させた後、今度は上流側駆動ローラ4及び下流側駆動ローラ5を時計回りに回転させて布帛Cを進行方向に搬送し(第2の搬送工程)、所定距離Lから制動距離aを引いた距離(L−a)だけ進行させたと制御部7が検知した時点で、制御部7から捺染部6に信号を送って捺染部6の各ヘッドユニット601からインクを吐出させて布帛Cの捺染が再開される(図3(c))(第2の吐出工程)。なお、上記ヘッドユニット601のクリーニングは、例えばワイパーなどでヘッドユニット601の吐出面を拭うなど公知のクリーニング方法で行うことができる。
【0025】
以上、本実施形態によれば、第1の搬送工程と第1の吐出工程を停止させた後、後退工程において一旦布帛Cを所定距離Lだけ後退させてから、再度第2の搬送工程において布帛Cを進行方向に搬送する。そして、後退工程において後退した所定距離Lから制動距離aを引いた距離(L−a)だけ進行方向に搬送させてから、第2の吐出工程で布帛Cにインクを吐出する。このように、捺染再開後の立ち上がり時にすぐにインクの吐出を始めるのではなく、布帛Cを距離(L−a)だけ搬送して搬送速度が安定してからインクを吐出し始めるため、第1の吐出工程において捺染された領域と第2の吐出工程において捺染された領域との間の境界部分を均一に捺染することができる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、制御部7で上流側駆動ローラ4の回転量から布帛Cの搬送距離を算出して、捺染部6に吐出開始の信号を送っているが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、下流側駆動ローラ5に接続されており、下流側駆動ローラ5の回転量から布帛Cの搬送距離を算出してもよい。
【0027】
また、上記実施形態では、上流側駆動ローラ4及び下流側駆動ローラ5をモータなどの駆動源によって回転させているが、特にこれに限定されるものではなく、例えば下流側駆動ローラ5のみを駆動源により回転させたり、又は上流側駆動ローラ4のみを駆動源により回転させてもよい。なお、下流側駆動ローラ5のみを回転させる場合は制御部7を下流側駆動ローラ5に接続することが好ましく、上流側駆動ローラ4のみを回転させる場合は制御部7を上流側駆動ローラ4に接続することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るインクジェット捺染装置の実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】本実施形態に係る捺染部の詳細を示す底面図である。
【図3】本発明に係るインクジェット捺染方法の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 インクジェット捺染装置
3 搬送ベルト
4 上流側駆動ローラ(駆動手段)
5 下流側駆動ローラ(駆動手段)
6 捺染部
7 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出口が形成されたヘッドユニットを被捺染物の幅方向に複数配列したラインヘッドを有する捺染部によって被捺染物を捺染するインクジェット捺染方法であって、
被捺染物を進行方向に搬送する第1の搬送工程と、
前記第1の搬送工程中に、捺染部の各ヘッドユニットから被捺染物に対してインクを吐出する第1の吐出工程と、
前記第1の搬送工程及び第1の吐出工程を停止させる停止工程と、
前記停止工程後、被捺染物を進行方向と反対方向に所定距離搬送する後退工程と、
前記後退工程後、被捺染物を再度進行方向に搬送する第2の搬送工程と、
前記第2の搬送工程において被捺染物を前記所定距離から前記第1の搬送工程を停止させた際に慣性力により被捺染物が進んだ制動距離を引いた距離だけ搬送した時点で、再度捺染部の各ヘッドユニットから被捺染物に対してインクを吐出する第2の吐出工程と、
を含む、インクジェット捺染方法。
【請求項2】
前記停止工程において各ヘッドユニットの吐出口をクリーニングするクリーニング工程をさらに含む、請求項1に記載のインクジェット捺染方法。
【請求項3】
被捺染物を捺染するインクジェット捺染装置であって、
被捺染物を載置して搬送する搬送ベルトと、
前記搬送ベルトの上方に設置され、複数の吐出口が形成されたヘッドユニットを被捺染物の幅方向に複数配列したラインヘッドを有する捺染部と、
前記搬送ベルトを進行方向及び後退方向に駆動させる駆動手段と、
前記搬送ベルトを所定距離進行及び後退させるよう前記駆動手段を制御するとともに、前記捺染部にインクを吐出するよう信号を送る制御部と、
を備えた、インクジェット捺染装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−235588(P2009−235588A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79876(P2008−79876)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390008833)東伸工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】