説明

インクジェット捺染用インクセット、および捺染方法

【課題】本発明は捺染品質やインクの吐出安定性に優れ、テキスタイル用として高い耐擦性や洗濯堅牢性を備えたインクジェット用インクを提供することにある。
【解決手段】インクジェット捺染用インクセットであって、顔料と、第1の樹脂と、水とを含むインクジェット捺染用顔料インクと、第2の樹脂と、水とを含むインクジェット捺染用コート液と、を備え、前記第1の樹脂と前記顔料との質量比が1.5〜3.5であり、かつ前記第2の樹脂と、前記第1の樹脂との質量比が1.2〜3.0であることを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インクセット、およびこれを用いた捺染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式を用いたデジタル捺染は、スクリーン捺染に対して工程の簡素化や小ロット対応が容易であり、低エネルギー低コストで捺染製品を提供できる技術である。テキスタイル向けインクジェット用インクとしては染料インクが主流であるが、布帛の前処理や捺染後の加熱、後処理が簡略化できる顔料インクは、インクジェット方式によるデジタル捺染の特長をより際立たせるものである。
しかし、顔料インクは印刷媒体の表面近傍に顔料粒子が残存することで高い発色性を実現する特性上、耐擦性能が低くなる傾向がある。特に、捺染用途では捺染部の摺動による色落ちや色移りを抑制する高い耐擦性能が要求されている。また、洗濯やドライクリーニングによる捺染部の色落ち、離脱した色材によるクリーニング液の汚染といった、所謂洗濯堅牢性の課題もある。これらの性能は、インク中の顔料濃度の低減により、見かけ上改善することが可能であるが、捺染部の発色が低下する現象を招く。即ち、テキスタイル向けインクジェット用顔料インクにおいては、発色性に代表される捺染品質と、耐擦性および洗濯堅牢性との両立が大きな課題となっている。
【0003】
このような課題を解決するために、特許文献1および特許文献2では、顔料インクに対して特定の樹脂を添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−057452号公報
【特許文献2】特開2009−215506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐擦性および洗濯堅牢性を改善するための、インクに特定の樹脂を添加する方法は、工程の煩雑化抑制と、耐擦性や洗濯堅牢性の改善とを両立する効果がある。しかし、この方法による改善効果はインク中の樹脂量に依存する傾向があるため、充分な効果を得るために樹脂の添加量を多くする必要がある。これによって、インクの粘度が高くなる、ヘッドからのインクの吐出が不安定になる、インクジェットノズルでのインクの固化が起こり易くなる等の、捺染品質や吐出安定性における課題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的の一つは、インクの吐出安定性を低下させることなく、発色性、耐擦性および洗濯堅牢性に優れた捺染物を実現できるインクジェット捺染用インクセット、および捺染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
(適用例1)インクジェット捺染用インクセットであって、顔料と、第1の樹脂と、水とを含むインクジェット捺染用顔料インクと、第2の樹脂と、水とを含むインクジェット捺染用コート液と、を備え、前記第1の樹脂と前記顔料との質量比が1.5〜3.5であり、かつ前記第2の樹脂と、前記第1の樹脂との質量比が1.2〜3.0であることを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。
【0009】
(適用例2)前記第1の樹脂は、融点が115〜140℃のポリオレフィンである上記に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【0010】
(適用例3)前記顔料が、平均粒径100nm〜130nmのカーボンブラックである、適用例1または2に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【0011】
(適用例4)上記に記載のインクジェット捺染用インクセットを用いた捺染方法であって、前記インクジェット捺染用顔料インクを布帛に付着させるインク付着工程と、前記インクジェット捺染用コート液を布帛に付着させるコート液付着工程と、を有する捺染方法。
【0012】
(適用例5)前記インク付着工程と、前記コート液付着工程とが、交互に複数回繰り返される、適用例4に記載の捺染方法。
【0013】
(適用例6)前記コート液付着工程が最後に行われる、適用例4または5に記載の捺染方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係るインクジェット捺染用インクセット、および捺染方法ついて説明する。
【0015】
<インクジェット捺染用インクセット>
本実施形態に係るインクジェット捺染用インクセット(以下、「インクセット」とも言う。)は、インクジェット捺染用顔料インク(以下、「インク」とも言う。)と、インクジェット捺染用コート液(以下、「コート液」とも言う。)と、を備える。
【0016】
<インクジェット捺染用顔料インク>
本実施形態に係るインクジェット捺染用顔料インクは、顔料と、第1の樹脂と、水とを含む。
【0017】
本実施形態に係るインクジェット捺染用顔料インクに含まれる顔料は、黒色インク用として、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が特に好ましいが、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料を用いることもできる。
【0018】
また、カラーインク用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、93、94、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153、155、180、185、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、202、206、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36等が使用できる。
【0019】
また、白色顔料として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、高分子微粒子や中空微粒子などを、光輝性顔料として、アルミニウム、金、銀、白金などを用いることができる。
【0020】
本実施形態に係るインクジェット捺染用顔料インクに含まれる顔料の平均粒径は、光散乱法で測定することができる、体積平均粒子径であり、例えば、マイクロトラックUPA250(日機装社)を使用して測定することができる。光散乱法による顔料の平均粒径は、50〜500nmとすることができる。顔料がカーボンブラックの場合、平均粒径は100〜130nmが好ましい。カーボンブラックの平均粒径が、100nm未満では発色性が低下し、130nmを超えると耐擦性が低下する。好ましくは110nm以上、120nm以下である。
【0021】
本実施形態に用いる顔料の分散形態は、分散剤を利用するもの、樹脂により顔料を被覆したもの、或いは表面処理を施すものを用いることができる。表面処理を施した顔料とは、親水性付与剤によって表面に多数の親水性基を、直接または間接的に結合させて水性溶媒中に分散可能とした顔料である。表面処理顔料の表面に結合される親水性基としては、スルホン基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、リン酸基、第四級アンモニウム、およびそれらの塩等が挙げられる。新水性基付与剤としては、例えば、スルホン基を付与するものとして、硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、クロロ硫酸、フルオロ硫酸、アミド硫酸、スルホン化ピリジン塩、スルファミン酸等を、カルボキシル基を付与するものとして、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜ハロゲン酸塩等を用いることができる。また、上記の化学的処理の他に、真空プラズマ処理等のような物理的酸化によりカルボキシル基を付与する方法もある。また、市販の表面処理を施した、自己分散型顔料を利用することも可能である。樹脂により被覆された顔料とは、酸析法、転相乳化法、ミニエマルション重合法などにより、形成した樹脂層で包含された顔料であり、分散安定性が向上する。
【0022】
本実施形態に係るインクジェット捺染用顔料インクは第1の樹脂を含む。第1の樹脂は、種々の目的での添加が可能であり、例えば、顔料の分散安定性やインクの保存安定性の向上を目的とした分散剤、もしくは、印刷物の耐擦性等を向上させることを目的とした、定着剤または滑剤として添加することができる。
【0023】
分散剤または定着剤としては、例えば、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、またはそれらの二種類以上が共重合されたものが好ましい。
【0024】
スチレンアクリル樹脂としては、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体から選ばれた1種以上を組み合わせて使用することができる。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0025】
シリコーン樹脂としては、側鎖型、片末端型、両末端型、側鎖両末端型の変性シリコーンオイル等を用いることができる。
【0026】
ポリエステル樹脂としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、ダイマー酸等の二価カルボン酸、トリメリット酸、ピロリメット酸などの三価以上の多価カルボン酸と、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル―1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリテトラエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などの二価アルコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの三価以上の多価アルコールのエステル結合による重合体、或いはそれらのブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体などを使用することができる。
【0027】
ウレタン樹脂としては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、シリコーンポリオールなどのポリオールと、トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソサネート、水素化4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどのイソシアネートのウレタン結合による重合体、或いはそれらのブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体など、を用いることができる。
【0028】
また、上記の樹脂のみならず、スチレンアクリル樹脂−ポリエステル樹脂共重合体、スチレンアクリル樹脂−ウレタン樹脂共重合体などの樹脂間の共重合体なども適用可能である。
【0029】
また、滑剤としては特に限定されないが、例えば、炭化水素系、脂肪酸系、高級アルコール系、脂肪族アマイド系、エステル系、シリコーン系、フッ素系樹脂などを用いることができる。
【0030】
本実施形態のインクは、後述の色材を実質的に含まないインクジェット用コート液を併用して印刷する。このコート液には、インクと同様に第2の樹脂を配合する。第2の樹脂の種類は特に限定されないが、第1の樹脂と同一のものを用いることができる。また、インクの吐出安定性を向上させるため、コート液にのみ滑剤を添加することも可能である。
【0031】
本実施形態に係るインクに含まれる第1の樹脂と顔料の質量比は1.5〜3.5である。質量比を1.5以上とすることで、顔料に対する樹脂量が充足するため、テキスタイルに捺染した際の耐擦性や洗濯堅牢性が向上する。また、質量比を3.5以下とすることにより、発色性や吐出安定性が向上する。好ましくは1.7以上、3.0以下である。
【0032】
本実施形態に係るインクおよびコート液に含まれる水は、電気伝導率1μS/cm以下のイオン交換水を用いる。用いる水の電気伝導率を1μS/cm以下とすることにより、顔料や樹脂の分散安定性が向上する。
【0033】
本実施形態に係るインクおよびコート液には、必要に応じて種々の溶媒を添加することができる。これら溶媒の用途としては、インクやコート液の布帛への浸透を促進するもの、乾燥性を向上させるもの、インクジェットヘッドのノズル内の液面の乾燥を抑制するもの、などが挙げられる。
【0034】
例えば、布帛への浸透性を向上させ、またノズルの目詰まりを抑制する機能が期待できるものとして、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル類、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
本実施形態に係るインクおよびコート液には、必要に応じて界面活性剤を添加することができる。これら界面活性剤の用途としては、インクおよびコート液を捺染した際のにじみ低減による捺染品質の向上である。
界面活性剤は特に限定されないが、アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を用いることができる。具体的には、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールおよび2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物、2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールおよび2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキシド付加物から選ばれた1種以上を用いることが好ましい。これらは市販の、オルフィン(登録商標)104シリーズ或いはオルフィンE1010(エアプロダクツ社)、サーフィノール(登録商標)465或いはサーフィノール61(日信化学社)として入手できる。
【0036】
<インクジェット捺染用コート液>
以下、本実施形態に係るインクジェット捺染用コート液に含まれる各成分について説明する。なお、コート液は、前述のインクに含まれる成分として例示した成分を含有してもよく、インクで説明した成分については、その説明を簡略化する。
【0037】
本実施形態に係るインクジェット捺染用コート液は、第2の樹脂と、水とを含む。第2の樹脂は、上述の第1の樹脂と同様に、種々の目的での添加が可能であり、例えば、印刷物の耐擦性等を向上させることを目的とした、定着剤または滑剤として添加することができる。
第2の樹脂の具体例は、上述の第1の樹脂と同様であってよい。したがって、第2の樹脂は第1の樹脂と同一のものを用いることが可能であり、また、インクの吐出安定性を向上させるため、コート液にのみ滑剤を添加することも可能である。
【0038】
なお、本実施形態に係るインクジェット捺染用コート液とは、色剤を実質的に含まないコート液を意味する。「色剤を実質的に含まない」とは、コート液中に着色剤を全く含有しないか、あるいはコート液に含まれる着色剤が0.1質量%未満であることを意味する。
【0039】
本実施形態に係るインクと併用するコート液中の樹脂と、本実施形態に係るインク中の樹脂との質量比は、1.2以上、2.5以下である。コート液は色材を含まないため、本実施形態に係るインク中の樹脂量よりも多量の樹脂を配合することができる。即ち、耐擦性を向上させるためには、捺染部の単位面積における、顔料量に対する樹脂量を大きくすれば良いが、インクに配合する樹脂のみで必要量を確保すると、インクの吐出安定性の悪化が露呈する。
そこで、必要な樹脂量の一部をコート液に配合し、インクの吐出安定性を確保する。更に、そのコート液をインクと併用して捺染することによって、捺染部の単位面積あたりの必要な樹脂量を確保することができる。また、過剰な樹脂量はコート液の吐出安定性をも悪化させることがある。従って、質量比を1.2以上、3.0以下とすることにより、耐擦性や洗濯堅牢性を向上させ、インクおよびコート液の吐出安定性を確保することができる。
【0040】
本実施形態に係るインクが含んでなる樹脂には、少なくとも、融点が115℃以上、140℃以下のポリオレフィンを含むことが好ましい。ポリオレフィンは滑剤として機能し、布帛上に捺染されたインクの摩擦係数を低下させて、摺動物との滑りを助長することで、色材粒子の摩擦による脱落を抑制する効果がある。融点が115℃以上のポリオレフィンを配合することにより、乾燥耐擦性が向上する。また、融点を140℃以下とすることにより、湿潤耐擦性の悪化を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態に係るコート液は、上述のインクの場合と同様に、水と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤とを含んでなるのが好ましい。これらの具体例およびその添加量は、上述のインクの場合と同様であってよい。
【0042】
さらに、本実施形態に係るコート液には、上述のインクの場合と同様、必要に応じて、pH調整剤、pH緩衝剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することができる。これらの具体例は、上述のインクの場合と同様であってよい。
【0043】
<布帛>
本実施形態に係るインクおよびコート液を用いて捺染する布帛は、「布地」や「衣類その他の服飾品」等を指す。
「布地」には、綿、絹、羊毛等の天然繊維やナイロン等の化学繊維、或いはこれらを混合した複合繊維の織物、編物、不織布等が含まれ、ロール状に巻かれた長尺のものと、所定の長さに切断されたものの両方が含まれる。
【0044】
また、「衣類その他の服飾品」には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー等のファニチャーの類の他、縫製前の状態のパーツとして存在する裁断前後の布地等も含まれる。
【0045】
<捺染方法>
本実施形態に係る捺染方法は、インクジェット捺染用顔料インクを布帛に付着させるインク付着工程と、インクジェット捺染用コート液を布帛に付着させるコート液付着工程と、を有する。
【0046】
本実施形態の捺染にはインクジェット捺染方式を用いる。インクジェット捺染方法は、インクおよびコート液の液滴を吐出し、布帛に付着させて捺染を行なうものである。液滴を吐出する方法としては、例えば電歪素子を用いる方法、加熱による気泡を用いる方法が挙げられる。
【0047】
また、本実施形態に係る捺染方法は、インク付着工程と、コート液付着工程とを交互に複数回繰り返して捺染することが好ましい。インクとコート液とを交互に重ねて複数層捺染することにより、インクとコート液が偏在することなく均一に積層される。これにより、インク中の樹脂と、コート液中の樹脂とが、顔料粒子を偏りなく被覆して耐擦性が向上する。
【0048】
また、本実施形態に係る捺染方法は、コート液付着工程が最後に行われることが好ましい。即ち、コート液が最表層になることで、樹脂を含むコート液層がインク層を被覆し、顔料粒子の捺染部表面への露出が低減されて耐擦性が向上する。また、インクとコート液とを、複数回重ねて捺染する方法において、コート液が最表層となるように捺染することが好ましく、特に耐擦性が向上する。
【0049】
(実施例)
以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り種々の変更は可能である。
【0050】
(1)CB分散体1の作製
CB(#44:三菱化学社)100質量部をイオン交換水900質量部に混合し、アイガーモーターミルM250(アイガージャパン社)でビーズ充填率70%および回転数5000rpmの条件で2時間分散した。
この分散液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度12質量%)1500質量部を滴下し、アイガーモーターミルで撹拌しながら5時間反応させた後、100℃に温度制御して8時間撹拌した。
次いで、得られたスラリーをろ過、水洗し、CB顔料濃度を15質量%に調整して表面処理CB分散体「CB分散体1」を得た。
マイクロトラック粒度分布測定装置UPA250(日機装社)を用いて粒径を測定したところ、102nmであった。
【0051】
(2)CB分散体2〜CB分散体5の作製
CB分散体2〜CB分散体5は、CB分散体1において、CBを#44(三菱化学社)から表1に記載のCBに代えた以外はCB分散体1の作製と同様に行なった。このCB分散体2〜CB分散体5に用いたCB種と、CB分散体1と同様に測定した粒径を表1に示す。
【0052】
(3)シアン顔料分散体1の作製
シアン顔料分散体1は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント社)を用いた。撹拌機、温度計、還流冷却管および滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート75質量部、アクリル酸2質量部、t−ドデシルメルカプタン0.3質量部を入れて70℃に加熱した。
次に、別に用意したベンジルメタクリレート150質量部、アクリル酸15質量部、ブチルアクリレート5質量部、t−ドデシルメルカプタン1質量部、メチルエチルケトン20質量部および過硫酸ナトリウム1質量部を、滴下ロートに入れて4時間かけて上記反応容器に滴下しながら樹脂を重合反応させた。その後、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40質量%濃度の樹脂溶液を作製した。
次いで、上記樹脂溶液40質量部とピグメントブルー15:3を30質量部、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100質量部、メチルエチルケトン30質量部を混合した。これを、超高圧ホモジナイザー・アルティマイザーHJP−25005(スギノマシン社)を用いて、200MPaで15パスして分散した。
その後、別の容器に移してイオン交換水300質量部を添加し、さらに1時間撹拌した。これをロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で中和してpH9に調整した。
さらに、0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し、イオン交換水で濃度調整して顔料濃度が15質量%のシアン顔料分散体1とした。
【0053】
(4)樹脂エマルションの作製
イオン交換水600質量部に、ベンジルメタクリレート40.0質量部と、予めイオン交換水80.0質量部に溶解しておいたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬社)10.0質量部を加えて撹拌した。これを、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpH8に調整した後、撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度調整器、および窒素導入管を備えた反応容器に投入した。反応容器の液温を80℃に昇温した後、イオン交換水100質量部に重合開始剤として過硫酸カリウム1.0質量部を溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpH8に調整した。次いで、これを限外ろ過装置でクロスフロー法による限外ろ過を行い、固形分濃度を20質量%に調整し、「樹脂エマルション」を得た。
【0054】
(5)インクジェット捺染用顔料インクおよび同コート液の調製
以下、インクジェット捺染用顔料インクおよび同コート液に好適な組成の例を表2および表3に示す。本実施形態のインクジェット捺染用顔料インクの調製は、上記の方法で作製した顔料分散体を用い、表2に示すビヒクル成分と混合することによって各々調製した。また、本実施形態のインクジェット捺染用コート液の調製は、同様に表3に示す組成にて各々調製した。
【0055】
尚、本実施例および比較例中の残量の水には、インクおよびコート液の腐食防止のためトップサイド240(パーマケムアジア社)を0.05質量%、インクジェットヘッド部材の腐食防止のためベンゾトリアゾールを0.02質量%、インク系中の金属イオンの影響低減のためにEDTA(エチレンジアミン四酢酸)・2Na塩を0.04質量%夫々イオン交換水に添加したものを用いた。
【0056】
(評価試験1:耐擦性試験とドライクリーニング性試験)
実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7で作製したインクとコート液を用い、インクジェットプリンター(PX−A650、セイコーエプソン社)を使用して、綿布にインクとコート液を重ねてベタ捺染したサンプルを作製した。この際、印刷条件を単方向印刷の3パス重ね印刷とし、シアン用カートリッジにインクを、マゼンタ用カートリッジにコート液を充填し、同プリンターに装着して捺染した。即ち、この設定では、捺染箇所にはインクが先に捺染され、次いでコート液が重ねて捺染された後、これらの動作が更に2回反復される設定となる。このサンプルをテスター産業株式会社の学振式摩擦堅牢性試験機AB−301Sを用いて荷重200gで200回擦る摩擦堅牢性試験を行なった。インクのはがれ具合を確認する日本工業規格(JIS)JIS L0849に準拠して、乾燥と湿潤の2水準で評価した。また、同様にドライクリーニング試験をJIS L0860のB法に準拠して評価した。耐擦性試験およびドライクリーニング試験の結果を表4に示す。
【0057】
(評価試験2:吐出安定性試験)
実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7のインクを用い、インクジェットプリンター(PX−A650、セイコーエプソン社)を使用して、35℃35%RHの環境下で富士ゼロックス社XeroxP紙A4判に、マイクロソフトワードで文字サイズ11の標準、MSPゴシックで、4000字/ページの割合で100ページ印刷して評価した。全く印字乱れがないものをA、1から2箇所印字乱れがあるものをB、3から5箇所印字乱れがあるものをC、6箇所以上印字乱れがあるものをDとした。また、実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7のコート液も同様に印字乱れを評価した。インクおよびコート液の試験結果を表4に示す。
【0058】
(評価試験3:発色性の測定)
実施例1〜実施例8および比較例1〜比較例7のインクおよびコート液について、耐擦性試験で作製したベタ捺染部のOD値を測定した。OD値測定には、GRETAGMACBETH SPECTROSCAN SP50(米国Gretag社)を使用した。結果はOD値として表4に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
(評価試4:捺染方法を変更した場合の耐擦性とドライクリーニング性試験)
実施例2のインクとコート液を用い、インクジェットプリンター(PX−A650、セイコーエプソン社)を使用して、綿布にインクとコート液を重ねてベタ捺染したサンプルを作製した。実施例9は、印刷条件を単方向印刷の3パス重ね印刷とし、シアン用カートリッジにコート液を、マゼンタ用カートリッジにインクを充填し、同プリンターに装着して捺染した。この設定では、捺染箇所にはコート液が先に捺染され、次いでインクが重ねて捺染された後、これらの動作が更に2回反復される設定となる。次に実施例10では、コート液のみを3パス重ね印刷した後、インクのみを3パス重ね印刷した。更に実施例11は、インクのみを3パス重ね印刷した後に、コート液のみを3パス重ね印刷した。これらのサンプルを、テスター産業株式会社の学振式摩擦堅牢性試験機AB−301Sを用いて荷重200gで200回擦る摩擦堅牢性試験を行なった。インクのはがれ具合を確認する日本工業規格(JIS)JIS L0849に準拠して、乾燥と湿潤の2水準で評価した。また、同様にドライクリーニング試験をJIS L0860のB法に準拠して評価した。耐擦性試験およびドライクリーニング試験の結果を表5に示す。
【0064】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット捺染用インクセットであって、
顔料と、第1の樹脂と、水とを含むインクジェット捺染用顔料インクと、
第2の樹脂と、水とを含むインクジェット捺染用コート液と、を備え、
前記第1の樹脂と前記顔料との質量比が1.5〜3.5であり、かつ
前記第2の樹脂と、前記第1の樹脂との質量比が1.2〜3.0であることを特徴とするインクジェット捺染用インクセット。
【請求項2】
前記第1の樹脂は、融点が115〜140℃のポリオレフィンである、請求項1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項3】
前記顔料が、平均粒径100nm〜130nmのカーボンブラックである、請求項1または2に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インクセットを用いた捺染方法であって、
前記インクジェット捺染用顔料インクを布帛に付着させるインク付着工程と、
前記インクジェット捺染用コート液を布帛に付着させるコート液付着工程と、
を有する捺染方法。
【請求項5】
前記インク付着工程と、前記コート液付着工程とが、交互に複数回繰り返される、請求項4に記載の捺染方法。
【請求項6】
前記コート液付着工程が最後に行われる、請求項4または5に記載の捺染方法。

【公開番号】特開2013−71957(P2013−71957A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210332(P2011−210332)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】