説明

インクジェット捺染用インク組成物

【課題】従来のブラックインクよりも青みがかった独創的かつ特徴的な色相を呈するとともに、良好な染着濃度の布帛が得られ、かつ吐出安定性等のインクジェット適性にも優れたインクジェット捺染用インク組成物を提供する。
【解決手段】色材として、ブルー系反応染料、レッド系反応染料およびオレンジ系反応染料と、1,2−アルカンジオールと、水と、を少なくとも含んでなり、前記ブルー系反応染料がC.I.リアクティブブルー176を含んでなり、前記レッド系反応染料がC.I.リアクティブレッド3:1を含んでなり、前記オレンジ系反応染料が、C.Iリアクティブオレンジ99を含んでなる、インクジェット捺染用インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク組成物に関し、より詳細には、ブルー系反応染料とレッド系反応染料とオレンジ系反応染料との三色の染料を少なくとも含んでなるインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛に画像を印捺する方法として、スクリーン捺染法、ローラ捺染法、ロータリースクリーン捺染法、または転写捺染法等が用いられている。しかしながら、画像デザインの変更毎に、高価なスクリーン枠、彫刻ローラ、転写紙等を用意する必要があるため、多品種少量生産にはコスト的に不向きであり、ファッションの多様化に迅速に対応することが困難であった。
【0003】
こうした従来の印捺方法の欠点を解消するために、スキャナーで見本を読み取り、コンピュータで画像処理を行い、その結果をインクジェット方式で印捺する技術が開発されている。インクジェット記録方式は、インク液滴をインクヘッドから記録媒体(例えば、紙や布帛)に向かって飛翔させ、その液滴を記録媒体に付着させる記録方式であり、その機構が比較的簡便で安価であること、かつ高精細で高品位な画像を形成できるものである。このようなインクジェット方式を印捺方法に適用すれば、従来の捺染方式で必要とされていた版を作製する必要がなく、手早く階調性に優れた画像を形成できることから、納期の短縮、多品種少量生産への対応等が可能になるといった利点が挙げられる。また、インクジェット方式によれば、画像形成時に必要量のインクのみを使用するため、従来のスクリーン捺染等に比較して、廃液が少ない等の環境的利点も有する。
【0004】
また、インクジェット方式は、イエロー、シアン、マゼンタおよびブラックの基本4色のインクセットにより、ほぼ全ての領域の色相をカバーできることも、その利点である。また、近年においては、印画品質を高め、より高精細な画像形成を行うために、上記基本4色に、中間色(例えば、レッドやブルーなど)を加えたインクセットを用いることも行われている。
【0005】
ところで、インクジェット方式は、上記のしたようにインクヘッドからインク液滴を吐出させて画像を形成するため、従来のスクリーン捺染等に用いられてきたインクをそのままインクジェット方式に適用することができず、インクジェット特性を確保するためには、インクの表面張力や粘度等の物理特性だけでなく、溶剤等の組成や色材の濃度等についても調整する必要がある。このような制約から、従来のインクジェット捺染では、布帛の染着濃度を高くすることが困難であった。この問題に対し種々の試みがなされおり、例えば、特開2008−201977号公報(特許文献1)には、特定炭素数を有するジオール成分を分散染料インクに添加することにより、良好な吐出安定性と分散安定性とを有する分散染料インク組成物を実現できることが提案されている。また、特開2004−292523号公報(特許文献2)には、反応染料インク中に1,2−アルカンジオールを添加することにより、インクジェット記録ヘッドのクリーニング性が良好でかつ高濃度の発色が得られる反応染料インクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−201977号公報
【特許文献2】特開2004−292523号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、上記のように、多色化したインクセットを用いて混色により所望の色相を再現しようとすると、インクの打ち込み量などの制約から、布帛の染着濃度が不十分となる場合があった。本発明者らは、今般、特定の反応染料を組み合わせてブラックインクを調製すると、従来のブラックインクよりも青みがかった独創的かつ特徴的な色相を呈することに気づいた。そして、その特定の反応染料インクに1,2−アルカンジオールを添加すると、良好な染着濃度の布帛が得られ、かつ吐出安定性等のインクジェット適性にも優れたインクジェット捺染用インクが得られる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来のブラックインクよりも青みがかった独創的かつ特徴的な色相を呈するとともに、良好な染着濃度の布帛が得られ、かつ吐出安定性等のインクジェット適性にも優れたインクジェット捺染用インク組成物を提供することである。
【0009】
そして、本発明によるインクジェット捺染用インク組成物は、色材として、ブルー系反応染料、レッド系反応染料およびオレンジ系反応染料と、1,2−アルカンジオールと、水と、を少なくとも含んでなり、
前記ブルー系反応染料がC.I.リアクティブブルー176を含んでなり、
前記レッド系反応染料がC.I.リアクティブレッド3:1を含んでなり、
前記オレンジ系反応染料が、C.Iリアクティブオレンジ99を含んでなるものである。
【0010】
本発明によれば、ブルー系反応染料、レッド系反応染料およびオレンジ系反応染料を色材として含むインク組成物において、特定の反応染料と1,2−アルカンジオールとを併用することにより、従来のブラックインクよりも青みがかった独創的かつ特徴的な色相を呈するとともに、良好な染着濃度の布帛が得られ、かつ吐出安定性等のインクジェット適性にも優れたインク組成物を実現することができる。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明によるインクジェット捺染用インク組成物は、必須成分として、特定色の反応染料からなる色材と、1,2−アルカンジオールと、水と、を含む。以下、本発明によるインク組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
<色材>
本発明によるインク組成物は、色材として、ブルー系反応染料、レッド系反応染料およびオレンジ系反応染料の少なくとも3種の反応染料を用いるものである。すなわち、ブラック系反応染料に代えて、ブルー系反応染料、レッド系反応染料およびオレンジ系反応染料を混合して用いる、いわゆるコンポジットブラック系インク組成物である。本発明において使用される色材である上記の3種の反応染料は、ブルー系反応染料としてC.I.リアクティブブルー176を含み、レッド系反応染料としてC.I.リアクティブレッド3:1を含み、オレンジ系反応染料としてC.Iリアクティブオレンジ99を含むものである。このような特定の反応染料を組み合わせて用いることにより、従来のブラックインクよりも青みがかった独創的かつ特徴的な色相を実現することができる。また、これら反応染料を色材として含むインク組成物において、1,2−アルカンジオールを添加することにより、優れた吐出安定性と高い染着濃度とを両立することができる。
【0013】
本発明によるインク組成物は、CIE−Lab色空間において定義される知覚色度指数aおよびbが下記式:
−6.00≦a≦−1.00
−12.00≦b≦−3.50
を満足するa座標範囲内にあることが好ましく、より好ましくは、
−4.19≦a≦−2.67
−9.33≦b≦−6.19
を満足するa座標範囲内である。上記の範囲にあれば、従来のブラックインクよりも青みがかった独創的かつ特徴的な色相を呈することができる。
【0014】
上記の色相範囲にあるインク組成物としては、上記したブルー系反応染料を、インク組成物に対して9.5〜11.9質量%含み、上記したレッド系反応染料を、インク組成物に対して、1.0〜1.3質量%含み、かつ、上記したオレンジ系反応染料を、インク組成物に対して、1.8〜2.3質量%含むことが好ましい。各色の反応染料を上記の範囲内で添加することにより、CIE−Lab色空間において定義される知覚色度指数aおよびbが上記し範囲内にある、青みがかった独創的かつ特徴的な色相をより高レベルで実現することができる。
【0015】
CIE−Lab色空間において定義される知覚色度指数aおよびbが上記した範囲内にあれば、上記したブルー系反応染料、レッド系反応染料およびオレンジ系反応染料以外の反応染料を含んでいてもよく、例えば、C.I.リアクティブイエロー2、3、7、15、17、18、22、23、24、25、27、37、39、42、57、69、76、81、84、85、86、87、92、95、102、105、111、125、135、136、137、142、143、145、151、160、161、165、167、168、175、176、C.I.リアクティブオレンジ1、4、5、7、11、12、13、15、16、20、30、35、56、64、67、69、70、72、74、82、84、86、87、91、92、93、95、107、C.I.リアクティブレッド2、3、5、8、11、21、22、23、24、28、29、31、33、35、43、45、49、55、56、58、65、66、78、83、106、111、112、113、114、116、120、123、124、128、130、136、141、147、158、159、171、174、180、183、184、187、190、193、194、195、198、218、220、222、223、226、228、235、C.I.リアクティブバイオレット1、2、4、5、6、22、23、33、36、38、C.I.リアクティブブルー2、3、4、7、13、14、15、19、21、25、27、28、29、38、39、41、49、50、52、63、69、71、72、77、79、89、104、109、112、113、114、116、119、120、122、137、140、143、147、160、161、162、163、168、171、182、184、191、194、195、198、203、204、207、209、211、214、220、221、222、231、235、236、C.I.リアクティブグリーン8、12、15、19、21、C.I.リアクティブブラウン2、7、9、10、11、17、18、19、21、23、31、37、43、46、およびC.I.リアクティブブラック5、8、13、14、31、34、39を1種または2種以上、含んでいてもよい。
【0016】
<1,2−アルカンジオール>
本発明によるインク組成物は、1,2−アルカンジオールを必須成分として含有する。上記した各反応染料を色材として含むインク組成物に1,2−アルカンジオールを添加することにより、吐出安定性等のインクジェット適性と良好な染着濃度とを実現することができる。本発明においては、インク組成物中に1,2−アルカンジオールを、インク組成物に対して1.5〜10質量%含むことが好ましく、より好ましくは1.5〜3質量%である。1,2−アルカンジオールの含有量が1.5質量%未満であると、吐出安定性と染着濃度との両立ができなくなる場合があり、一方、10質量%を超えると、反応染料がインク中に析出し吐出安定性が不十分となる場合がある。
【0017】
1,2−アルカンジオールとしては、下記式(I):
(OH)CH−(OH)CH−R (I)
(式中、Rは飽和の鎖式炭化水素を表す。)
で表される化合物を用いることが好ましく、より好ましくはRが1〜4の飽和の鎖式炭化水素、すなわち、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールである。
【0018】
<2−ピロリドン>
本発明によるインク組成物は、上記した1,2−アルカンジオールに加えて、さらに2−ピロリドンを含んでいてもよい。上記反応染料と1,2−アルカンジオールと2−ピロリドンとを併用することにより、より高い次元でインクの吐出安定性と染着濃度とを両立することができるとともに、反応染料の染着能力の低下を抑制できるため、インクの商品寿命を向上させることができる。2−ピロリドンの添加量は、インク組成物に対して3〜10質量%であることが好ましい。
【0019】
<水、その他の成分>
本発明によるインク組成物には、インクジェットプリンタの記録ヘッドのノズルからの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に保湿剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;N−メチル−2−ピロリドン、またはε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、または1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。前記保湿剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは4〜40質量%である。
【0020】
また、本発明によるインク組成物には、布帛への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、浸透剤としても機能する水溶性有機溶剤を含有させることが好ましい。そのような浸透剤有機溶剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に浸透剤有機溶剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、エタノールまたはプロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカルビトール類;エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、またはトリエチレングリコール−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。前記水溶性有機溶剤(浸透剤)の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは2〜15質量%である。
【0021】
さらに、同様の観点から、本発明によるインク組成物には、水溶性有機溶剤に加えて、浸透剤としても機能する界面活性剤をさらに加えても良い。そのような浸透剤界面活性剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に浸透剤界面活性剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)、オルフィンE1010、オルフィンSTG、オルフィンY、オルフィンPD001、オルフィンPD002W、オルフィンSPC(何れも商品名、日信化学社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤、KF−353A、KF6017、X−22−6551、AW−3(何れも商品名、信越化学工業社製)や、BYK−346、347、348(何れも商品名、ビックケミー社製)等のオルガノポリシロキサン系界面活性剤等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を加えることができる。さらに加えても良い上記界面活性剤(浸透剤)の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.2〜2質量%である。
【0022】
本発明によるインク組成物には、前記のように、前記色材を含有させ、必要に応じて、保湿剤および浸透剤を含有させ、さらにバランスとして水を含有させる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0023】
本発明によるインク組成物には、さらに必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤(例えば、トリエタノールアミン)、または溶解助剤等のように、インクジェット捺染用のインク組成物において通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【0024】
本発明によるインク組成物は、上記した各成分を、分散/混合機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等)に供給し、分散させることにより調製されてよい。本発明の好ましい態様によれば、上記した分散/混合機により得られたインク原液をメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0025】
本発明によるインク組成物は、印字品質とインクジェット捺染用インク組成物としての信頼性とのバランスの観点から、表面張力が25〜40mN/mであることが好ましく、28〜35mN/mであることがさらに好ましい。また、同様の観点から、本発明によるインク組成物の20℃における粘度は、1.5〜10mPa・sであることが好ましく、2〜8mPa・sであることがさらに好ましい。表面張力および粘度を前記範囲内とするには、前記染料の濃度を調整する方法、前記保湿剤の種類や添加量等を調整する手段等を用いることができる。
【0026】
本発明のインク組成物を、セルロース系繊維からなる布帛(例えば、織物、網物、または不織布)に対するインクジェット捺染に用いると、良好な保存安定性や吐出安定性を有し、かつ鮮明かつ高濃度、高精彩な発色を有する記録物を得ることができる。本発明のインク組成物を用いる場合には、通常のインクジェット捺染用のインク組成物と同様に、インクジェットプリンタのインクカートリッジにインク組成物を充填して使用する。前記インクジェットプリンタは特に限定されないが、ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンタが好ましい。ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンタには、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用したもの、記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用したもの等があり、いずれの記録方法を採用することもできる。
【0027】
本発明のインク組成物を用いて布帛に対してインクジェット捺染方法を実施する場合には、通常のインクジェット捺染と同様に、予め、前処理剤を用いて布帛を前処理しておくことが好ましい。布帛の前処理は、前処理剤中に布帛を浸積するか、前処理剤を布帛に塗布または噴霧する等の手段を用いて、布帛に前処理剤を付着させた後、布帛を乾燥することにより行われる。
【0028】
布帛の前処理剤としては、水溶性高分子化合物等の糊剤を0.01〜20質量%の量とアルカリ発生剤を1〜5質量%の量とで含有させた水溶液を用いることができる。前記糊剤としては、例えば、トウモロコシ、または小麦等のデンプン物質;カルボキシメチルセルロース、またはヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系物質;アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、またはタマリンド種子等の多糖類;ゼラチン、またはカゼイン等のタンパク質;タンニン;リグニン等の天然水溶性高分子や、ポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系化合物、または無水マレイン酸系化合物等の合成水溶性高分子化合物を挙げることができる。上記のアルカリ発生剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等を挙げることができる。前処理剤には、必要に応じて、尿素、またはチオ尿素等の保湿剤、pH調整剤、還元防止剤、浸透剤、金属イオン封鎖剤、あるいは消泡剤等の各種添加剤を含有させることもできる。
【0029】
また、本発明のインク組成物を用いて布帛に対してインクジェット捺染方法を実施する場合には、布帛に対してインク組成物を吐出し、文字および/または画像を印刷した後に、染料固着処理を行う。染料固着処理方法としては、従来の捺染方法における染料固着処理方法と同様の方法、例えば、常圧スチーム法、高圧スチーム法、またはサーモフィックス法等を挙げることができる。染料固着処理後は、常法通り、布帛を水洗し、乾燥する。必要に応じソーピング処理(未固着の染料を熱石鹸液等で洗い落とす処理)を実施してもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0031】
インク組成物の調製
下記の表1に従って各成分を混合して、インク組成物を調製した。
【表1】

【0032】
染着濃度評価
下記の前処理液を綿布に塗布し、マングルにてピックアップ率20%で絞って乾燥させた。この前処理を行った絹布帛に、PX−G930プリンタ(セイコーエプソン社製)により、得られた例1〜例8の各インクを用いて印捺を行った。印捺した布を103℃×10分にてスチーミングして定着させた後、ラッコールSTA(明成化学社製)0.2%水溶液を用いて、55℃で10分間洗浄し、乾燥させたものを試験片とした。得られた試験片に対して、分光光度計スペクトリノ(グレタグマクベス社製)を用いて光学密度Density Black(Db値)を測定した。
<前処理液>
アルギン酸ナトリウム 1.0重量%
グアガム 1.0重量%
硫酸アンモニウム 4.0重量%
尿素 10.0重量%
超純水 残量
【0033】
測定したDb値をもとに、以下の基準により染着濃度の評価を行った。
1点:Db値が1.50未満
2点:Db値が1.50以上、1.52未満
3点:Db値が1.52以上、1.54未満
4点:Db値が1.54以上、1.56未満
5点:Db値が1.56以上、1.58未満
6点:Db値が1.58以上、1.60未満
7点:Db値が1.60以上
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0034】
吐出安定性の評価
上記で得られた各インクを、PX−G930プリンタ(セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに充填し、記録紙500枚に連続して印刷した後、約1時間印字を停止し、その後、記録紙1000枚に連続して印刷した後、約12時間印字を停止し、その直後に印字を再開した際の吐出曲がりや吐出抜けを目視により確認した。なお、吐出曲がりや抜けが発生した場合には、ヘッドクリーニング操作を実施して全ノズルを復帰させてから、印字を再開し、吐出曲がりや吐出抜けの確認を行った。評価基準は以下の通りとした。
5点:曲がりおよび抜けがない
4点:曲がりまたは抜けが1回
3点:曲がりまたは抜けが2回
2点:曲がりまたは抜けが3回
1点:曲がりまたは抜けが6回
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0035】
色相判定
上記で得られた各試験片について、分光光度計スペクトリノ(グレタグマクベス社製)を用いてLab値の測色を行、aおよびb値を算出した。なお、Lab値はCIE−Lab表示色系を採用した。得られたaおよびb値から、下記の基準により色相の判定を行った。但し、色相が下記の範囲内にあるものでも、上記で測定したDb値が1.4以下のものは対象外とした。
ランクA: −4.19≦a≦−2.67、かつ
−9.33≦b≦−6.19
ランクB: −6.00≦a≦−1.00、かつ
−12.00≦b≦−3.50
(但し、−4.19≦a≦−2.67、かつ−9.33≦b≦−6.19の範囲内にあるものを除く)
ランクC:aおよびb値が、ランクAおよびランクB以外の範囲にあるもの
判定結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材として、ブルー系反応染料、レッド系反応染料およびオレンジ系反応染料と、1,2−アルカンジオールと、水と、を少なくとも含んでなり、
前記ブルー系反応染料がC.I.リアクティブブルー176を含んでなり、
前記レッド系反応染料がC.I.リアクティブレッド3:1を含んでなり、
前記オレンジ系反応染料が、C.Iリアクティブオレンジ99を含んでなる、インクジェット捺染用インク組成物。
【請求項2】
前記ブルー系反応染料が、インク組成物に対して、9.5〜11.9質量%含まれ、
前記レッド系反応染料が、インク組成物に対して、1.0〜1.3質量%含まれ、
前記オレンジ系反応染料が、インク組成物に対して、1.8〜2.3質量%含まれる、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
インク組成物の色相が、CIE−Lab色空間において定義される知覚色度指数aおよびbが下記式:
−4.19≦a≦−2.67
−9.33≦b≦−6.19
を満足するa座標範囲内にある、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記1,2−アルカンジオールが、下記式(I):
(OH)CH−(OH)CH−R (I)
(式中、Rは飽和の鎖式炭化水素を表す。)
で表される化合物からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記式(I)中のRが、炭素数1〜4の飽和鎖式炭化水素である、請求項4に記載のインク組成物。
【請求項6】
前記1,2−アルカンジオールが、インク組成物に対して1.5〜10質量%の範囲で含まれてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
2−ピロリドンをさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記2−ピロリドンが、インク組成物に対して3〜10質量%含まれてなる、請求項7に記載のインク組成物。

【公開番号】特開2011−195680(P2011−195680A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62961(P2010−62961)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】