説明

インクジェット用インク及びそれを用いたインクカートリッジ

【課題】当該インクに比べて相対的に固着しにくい第2インク及び/又は第3インクとの兼ね合いで実用化できる、インクの耐固着性の問題が改善されたインクジェット用の第1インク、更には、それを用いた吐出安定性に優れるインクカートリッジを提供すること。
【解決手段】第1〜第3のインクジェット用のインクを吐出するための、少なくとも3列以上の吐出口列を有するインクジェットヘッドに用いられる第1インクであって、該第1インクは、該第1インクが吐出される吐出口列の両脇の吐出口列が、それぞれ第1インクと比べて相対的に固着しにくい第2インクが吐出される吐出口列であるか、或いは、第1インクと比べて相対的に固着しにくい第2インクが吐出される吐出口列と第3インクが吐出される吐出口列である状態で使用されるものであることを特徴とするインクジェット用の第1インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐固着性が改善されたインクジェット用インク及びそれを用いたインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクジェットプリンターが、ある期間使用されないで放置されたとき等、インク中の水分の蒸発によってノズル先端で色材の固着による目詰まりが発生する(即ち、インクが耐固着性に劣る)という問題がある。ここで、インクジェット記録方式に用いられるインクは、色材が分散或いは溶解してなる液状組成物であるが、従来のインクは、水を主成分とし、これに、ノズル内でのインクの乾燥防止、及び吐出口の目詰まりによる固着防止等を目的として、グリコール等の水溶性高沸点溶剤を含有しているものが一般的である。
【0003】
又、インク中にジカルボン酸のアルカリ塩を添加することで、吐出口の目詰まりによる固着防止を図ることが提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。しかし、この方法では、ジカルボン酸を塩にするためのアルカリ成分の違いによって、良好な目詰り防止効果が得られにくいという問題がある。更に、インク中に不飽和ジカルボン酸の有機アミン塩とアルカノールアミンとを併有させることを特徴とするインクも提案されている(特許文献3参照)。しかし、この方法では、使用する色材の種類等によっては、効果が不十分となる場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−183768号公報
【特許文献2】特開平1−129081号公報
【特許文献3】特開平5−125307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等が、鋭意検討をした結果、インク特性を所望の目的で満足させた際に、相対的に固着し易い第1インクと、該第1インクと比べて相対的に固着しにくい第2インク及び第3インクが生まれる場合があった。そして、この第1インクの耐固着性を改善する(即ち、固着しにくい特性のものとする)ためにインク処方を講じると、却って所望の特性が得られなくなる場合があることを見出した。従って、上述の特性(固着性)に対して、上記第1インクを実用化するための他の技術が必要であるとの認識をもった。
【0006】
従って、本発明の目的は、当該インクに比べて相対的に固着しにくい第2インク及び/又は第3インクとの兼ね合いで実用化できる、インクの耐固着性の問題が改善されたインクジェット用の第1インク、更には、それを用いた吐出安定性に優れるインクカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、第1〜第3のインクジェット用のインクを吐出するための、少なくとも3列以上の吐出口列を有するインクジェットヘッドに用いられるインクジェット用の第1インクであって、該第1インクは、該第1インクが吐出される吐出口列の両脇の吐出口列が、それぞれ第1インクと比べて相対的に固着しにくい第2インクが吐出される吐出口列であるか、或いは、第1インクと比べて相対的に固着しにくい第2インクが吐出される吐出口列と第3インクが吐出される吐出口列である状態で使用されるものであることを特徴とするインクジェット用の第1インクである。
【0008】
上記第1インクの好ましいものとしては、前記第1インクが、少なくとも下記式(1)の化合物又はその塩と、1,5−ペンタンジオールとを含有してなるインクジェット用インクが挙げられる。

(上記一般式(1)中、R1は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ低級アルキル基、シクロヘキシル基、モノ又はジアルキルアミノアルキル基及びシアノ低級アルキル基のいずれかを表し、Yは、塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、モノ又はジアルキルアミノ基(該アルキル基の部分に、スルホン基、カルボキシル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される置換基を有していてもよい)のいずれかを表し、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基及びカルボキシル基(但し、R2、R3、R4、R5及びR6のすべてが水素原子である場合を除く。)のいずれかを表す。)
【0009】
本発明の別の実施形態は、上記いずれかのインクジェット用の第1インクを収容するインク収容部を有することを特徴とするインクカートリッジである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、当該インクに比べて相対的に固着しにくい第2インク及び/又は第3インクとの兼ね合いでインクの耐固着性の問題が改善され、実用化できるインクジェット用の第1インク、更には、当該インクを用いることで吐出安定性を達成したインクカートリッジが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明にかかる第1インクとしては、先に挙げた特定の構造からなる色材と、1,5−ペンタンジオールとを含有してなるインクジェット用インクが挙げられる。以下、これらの構成成分について説明する。
【0012】
(インク用色材)
前述した本発明の効果を奏する第1インクを構成する色材としては、下記一般式(1)で示されるマゼンタ色材を使用することが好ましい。該色材は、インクジェット記録ヘッドの吐出口開口部での染料の析出が起こり易いものであるが、本発明者らの検討によれば、後述する該第1インクとの兼ね合いで決定されるインク特性を有する第2或いは第3のインクと組み合わせることで、本発明の効果が顕著に現れる。本発明にかかる第1インクの組成としては、下記式(1)の色材又はその塩をインク中に1質量%以上8質量%以下含有するものであることが好ましい。
【0013】

(上記一般式(1)中、R1は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ低級アルキル基、シクロヘキシル基、モノ又はジアルキルアミノアルキル基及びシアノ低級アルキル基のいずれかを表し、Yは、塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、モノ又はジアルキルアミノ基(該アルキル基の部分に、スルホン基、カルボキシル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される置換基を有していてもよい)のいずれかを表し、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基及びカルボキシル基(但し、R2、R3、R4、R5及びR6のすべてが水素原子である場合を除く。)のいずれかを表す。)
【0014】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、下記の例示化合物1〜7が挙げられる。
【0015】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては下記の例示化合物が挙げられる。
【0016】







【0017】
これらの中で、上記例示化合物6のスルホン基及びカルボキシル基の水素をナトリウムに置換した化合物は、マゼンタ色相を有し、高い耐光性を持つアントラピリドン着色剤である。
【0018】
上記一般式(1)で示される化合物が、未知のインク中に含有されているか否かについて検証する場合には、以下の方法を用いることができる。即ち、分析手段に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し、これらによって得られる以下に挙げる3点の測定値を求めることで、インク中に、目的とする色材が含有されているか否かを検証することができる。
[1]HPLCによるピークの保持時間
[2]上記[1]のピークにおける極大吸収波長
[3]上記[1]のピークにおけるマススペクトルのM/Z(posi)
【0019】
高速液体クロマトグラフィーの分析条件及び分析・検出条件は、以下に示す通りである。対象となるインクを約1,000倍に純水で希釈したインク溶液に対して、下記の条件で高速液体クロマトグラフィーでの分析を行い、そのメインピークの保持時間(retention time)、及び、そのピークの極大吸収波長を測定する。
【0020】
・カラム:Symmetry C18 2.1mm×150mm

・流速:0.2ml/min
・カラム温度:40℃
・測定波長領域:210nm〜700nm
【0021】
又、その後に行われるマススペクトルの分析条件は、以下の通りである。先のHPLCのメインピークについて、下記の条件でマススペクトルを測定し、最も強く検出されたM/Zをposi、negaそれぞれに対して測定する。
【0022】
[イオン化法]
(ESI)
キャピラリ電圧:3.5kV
脱溶媒ガス:300℃
イオン源温度:120℃
(検出器)
Posi:40V 500−2000amu/0.9sec
Nega:40V 500−2000amu/0.9sec
【0023】
上記した分析方法によって、前記した例示化合物6のスルホン基及びカルボキシル基の水素をナトリウムに置換した化合物に対して分析を行った。そして、その場合に得られた、保持時間、極大吸収波長、M/Z(posi)、M/Z(nega)の値を下記表1に示した。HPLCのメインピークに関するマススペクトルのピーク比は、その置換基の種類、位置、及び、数の異なる異性体の混合比率で異なるが、下記に記載されたM/Zのピークが常に検出されることが特徴的であった。
【0024】
従って、この結果を用いれば、上記した分析方法は、式(1)の化合物で示される色材がインク中に含有されるか否かの検証方法として有効な手段となる。即ち、対象とする未知のインクについて上記の検証方法を適用した場合に、測定して得られた上記[1]〜[3]のそれぞれの値が、いずれも以下の範囲に該当する場合は、式(1)で示される化合物を色材として含有するインクであると言える。
【0025】

【0026】
インクの固着性は、色材そのものの性能のほか、他のインク構成成分に因る所が大きい。従って、本発明にかかる相対的に固着しやすい第1インクの色材は、前記したものに限定されるわけではない。即ち、本発明にかかる第1インク及び、本発明で使用される該第1インクと比較して相対的に固着しにくい第2インク或いは第3インクに使用される色材は、一般的に用いられている公知の染料であっても新規に合成された染料であってもよい。染料としては、酸性染料、直接染料、食用染料等が挙げられる。イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、レッド、グリーン及びブルーのインクを用いる実施形態において、これら基本色インク及び特色インクの色材の具体例としては以下のものが挙げられるが、本発明に用いられる色材は、これらに限定されるものではない。
【0027】
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110、132、173等
C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等
C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、12、13、14、15、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、114、128、138、180等
【0028】
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230等
C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等
C.I.フードレッド:87、92、94等
C.I.ダイレクトバイオレット:107等
C.I.ピグメントレッド:2、5、7、12、48:2、48:4、57:1、112、122、123、168、184、202等
【0029】
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、77、80、86、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226、307等
C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、112、117、127、138、158、161、203、204、221、244等
C.I.ピグメントブルー:1、2、3、15、15:2、15:3、15:4、16、22、60等
【0030】
C.I.アシッドオレンジ:7、8、10、12、24、33、56、67、74、88、94、116、142等
C.I.アシッドレッド:111、114、266、374等
C.I.ダイレクトオレンジ:26、29、34、39、57、102、118等
C.I.フードオレンジ:3等
C.I.リアクティブオレンジ:1、4、5、7、12、13、14、15、16、20、29、30、84、107等
C.I.ディスパースオレンジ:1、3、11、13、20、25、29、30、31、32、47、55、56等
C.I.ピグメントオレンジ:43等
C.I.ピグメントレッド:122、170、177、194、209、224等
【0031】
C.I.アシッドグリーン:1、3、5、6、9、12、15、16、19、21、25、28、81、84等
C.I.ダイレクトグリーン:26、59、67等
C.I.フードグリーン:3等
C.I.リアクティブグリーン:5、6、12、19、21等
C.I.ディスパースグリーン:6、9等
C.I.ピグメントグリーン:7、36等
【0032】
C.I.アシッドブルー:62、80、83、90、104、112、113、142、203、204、221、244等
C.I.リアクティブブルー:49等
C.I.アシッドバイオレット:17、19、48、49、54、129等
C.I.ダイレクトバイオレット:9、35、47、51、66、93、95、99等
C.I.リアクティブバイオレット:1、2、4、5、6、8、9、22、34、36等
C.I.ディスパースバイオレット:1、4、8、23、26、28、31、33、35、38、48、56等
C.I.ピグメントブルー:15:6等
C.I.ピグメントバイオレット:19、23、37等
【0033】
C.I.ダイレクトブラック:17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168、195等
C.I.アシッドブラック:2、48、51、52、110、115、156等
C.I.フードブラック:1、2等
カーボンブラック
【0034】
上述の中で特に本発明の効果を奏する染料としては、前記一般式(1)に示されるマゼンタ色材を含有させた第1インクが挙げられる。該水溶性染料は吐出口開口部での染料の析出が起こり易く、後述するインクと組み合わせることで、本発明の効果が顕著に現れる。尚、本発明で使用する化合物が塩である場合、これを用いてなるインク中では、塩はイオンに解離して存在しているが、本発明においては、便宜上、「塩を含有する」と表現する。
【0035】
(水溶性有機溶剤及び添加剤)
本発明にかかる第1インクにおいては、1,5−ペンタンジオールを1質量%以上15質量%以下含有させることが好ましい。更に、他の溶剤と共に用いる場合、全体として、3質量%以上10質量%以下含有させることが好ましい。インクのその他の構成溶剤、又は、本発明にかかる第1インクと共に使用する第2及び第3インクを構成する溶剤としては、水と共に、どのような水溶性有機溶剤及び添加剤が含まれるかについての限定はない。任意で各種水溶性有機溶剤を用いることができる。水溶性有機溶剤には、水溶性であれば特に制限はなく、アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、含硫黄極性溶媒等が挙げられる。下記に、本発明のインクで使用することができる水溶性有機溶剤について例示するが、これらの水溶性有機溶剤に限定されるものではない。
【0036】
具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。
【0037】
又、必要に応じて、インクセットを構成する各インクに界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤及び水溶性ポリマー等、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0038】
(第2及び第3のインクの構成)
本発明に用いられる、第2及び第3のインクは、上記第1のインクよりも固着しやすいものであればいずれの構成であってもよい。固着性の評価は、各インクを同一条件下で比較したときの固着の状態から容易に判断できるが、好ましい評価方法としては、例えば、後述の実施例で行う方法が挙げられる。
【0039】
(メカニズム)
本発明の構成によって、インクの記録ヘッドにおいて生じる固着性が改善される理由は、以下のようであると考えている。相対的に固着し易い第1インクの吐出口列を、該吐出口列に隣接する両側の吐出口列のインクを、相対的に固着しにくい第2インクとするか、又は、相対的に固着しにくい第2インク及び第3インクとして、これらのインクの吐出口列で挟み込む構成とすることで、第2インク又は第2インクと第3インクを構成している水等の揮発成分によって、これらの間にある相対的に固着し易い第1インクの吐出口列が湿潤状態に置かれる、ということに起因すると考えられる。
【0040】
又、本発明にかかる第1インクが、少なくとも前記一般式(1)の化合物と1,5−ペンタンジオールとを含有するインクである場合には、吐出口近傍のインクの蒸発により、前記一般式(1)の化合物と1,5−ペンタンジオールとが吐出口近傍で凝集物を作り、これが蓋のような役割をして、その後の上記第1インクの蒸発を抑制することによって、固着性改善の効果をより顕著に受けることができると考えられる。
【0041】
更に、本発明にかかる第1インクが、上記吐出口列に対し垂直方向にワイピング動作をする回復機能を有する記録装置に搭載される場合には、ワイピングによって、第1インクの吐出口列の両側に隣接している吐出口列からの、相対的に固着しにくい、第2インク或いは第2インクと第3インクが、これらの吐出口列の間に位置している第1インクの吐出口列に接触し、固着した第1インクを再溶解又は再分散させるため、固着性改善の効果を更に顕著に受けることができると考えられる。
【0042】
(インクカートリッジ)
本発明にかかるインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジとしては、これらのインクが収容されるインク収容部と、該インクを吐出する吐出口開口部とを有するインクカートリッジである。
【0043】
(記録装置)
以下にワイピング機構を有するインクジェット記録装置の例を挙げるが、本発明にかかるインクの使用は、勿論、当該ワイピング機構を有するインクジェット記録装置に限定されるものではない。図1は、本発明にかかるインクを用いるインクジェット記録装置の一実施例の概略構成を示す模式的な斜視図である。又、図2は、図1中の記録手段の吐出口面に形成された複数の吐出口列の配置を、図1中に示した矢印A方向から見て示した模式的底面図である。更に、図3は、図2の吐出口面を、吐出口列に対し垂直方向にワイパー(ブレード)でワイピングする状態を示す模式的底面図である。
【0044】
本発明は、記録手段の吐出口列に垂直方向のワイピング機能を有する記録装置において極めて有効であるが、ワイピング機能を有さない記録装置又は図6のように記録手段の吐出口列に対して水平方向のワイピング機能を有する記録装置においても使用することができる。
【0045】
インクジェット画像形成装置としてのインクジェット記録装置の全体構成を示す図1において、不図示のオートシートフィーダ(自動給紙装置)から1枚づつ分離されて記録装置内に供給された記録用紙等の記録媒体3は、不図示の搬送モータ(紙送りモータ)により回転駆動される搬送ローラ(紙送りローラ)1と該搬送ローラに圧接されて従動回転するピンチローラ2との間に挟持され、該搬送ローラ1の回転を制御することにより、記録部に対向する位置に配設されたプラテン4の表面に案内されて紙送り(副走査)される。
【0046】
記録手段としての記録ヘッド7を搭載したキャリッジ5は、前記搬送ローラ1と平行に装置本体に設置されたガイドシャフト6によって往復移動可能に案内支持されている。前記キャリッジ5は、左右のプーリ(不図示)の間に張架されたタイミングベルト(不図示)に連結されており、不図示のキャリッジモータによって一方のプーリ(モータプーリ)を回転駆動することで前記タイミングベルトを駆動することにより、前記ガイドシャフト6に沿って案内されながら記録媒体(記録用紙)3の搬送方向と直交する主走査方向に移動する。このキャリッジ5(記録ヘッド7)の移動に同期して該記録ヘッドのインク吐出部を記録データに基づいて駆動することにより、選択された吐出口からインク滴を下方に吐出し、記録媒体としての記録用紙3に画像を形成(記録)していく。
【0047】
前記キャリッジ5には、記録手段としての記録ヘッド7が搭載されており、該記録ヘッド7にはインク貯留部としてのインクタンクが着脱可能に取り付けられている。前記記録ヘッド7には、異なる色のインクを貯留する複数のインクタンク、即ちインクタンク9、インクタンク10、インクタンク11の3個のインクタンクが装着されている。そして、前記インクタンク7の吐出口面(図示の底面)12には、図2及び図3に示すように、前記各インク色に対応する吐出口列(吐出口群)、即ちインクの吐出口列13、14、15が共通液室30、31、32(吐出口面の裏側に存在するため破線で表示)を挟んで形成されており、それぞれの吐出口列に対して前記対応するインクタンクから対応する色のインクが供給される。この共通液室を挟んで吐出口列が存在する記録手段においては、13の右側の吐出口列と14の左側の吐出口列との距離が近く同様に14の右側の吐出口列と15の左側の吐出口列との距離が近いため、14の両端に搭載された第2インク及び第3インクの水分蒸発の影響により14が湿潤状態に置かれ、本発明の効果が顕著に発現する。
【0048】
前記記録ヘッド7の移動経路に対応する記録領域(図示の例ではプラテン4の範囲に略対応している)の記録用紙搬送方向下流側には、前記搬送ローラ1と同期して回転駆動される排紙ローラ17が配設されており、記録された記録用紙3は前記排紙ローラ17と拍車18との間に挟持されて矢印B方向に排紙されていく。前記キャリッジ5の移動範囲内であって、前記記録領域(例えばプラテン4の範囲)を外れた所定の位置には回復系ユニット19が配設されている。この回復系ユニット19の位置は、通常、記録ヘッド7のメンテナンス位置(例えば回復処理を行う位置)及びホームポジション(非記録時又は待機時の位置)に一致させてある。
【0049】
前記記録手段としてのインクジェットヘッド(記録ヘッド)7は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット記録手段であって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えたものである。又、前記ヘッド7は、前記電気熱変換体により印加される熱エネルギーによってインク内に膜沸騰を生じさせ、その時に生じる気泡の成長、収縮による圧力変化を利用して吐出口よりインクを吐出させ、記録(プリント)を行うものである。
【0050】
図1において、前記回復系ユニット19には、図1中の矢印C方向(ワイピング方向)に駆動されるワイパーホルダ(ブレードホルダ)20が設けられるとともに、該ワイパーホルダ20上には記録ヘッド7の吐出口面12を拭き取り清掃するためのワイパー(ブレード)21が取り付けられている。そこで、記録動作等によって記録ヘッド7の吐出口面12にインクが付着した場合には、キャリッジ5が前記回復系ユニット19と対向する位置へ移動し、不図示の回復系モータによって前記ワイパーホルダ20上のワイパー21を矢印C方向(図3の矢印方向)に駆動することにより、記録ヘッド7の吐出口面12を拭き取り清掃(ワイピング)するように構成されている。
【0051】
又、本発明は、上記図2のような記録ヘッドに特に限定されるわけではなく、3列以上の吐出口列を持つ様々な記録ヘッドに対しても効果的である。図4及び図5は記録手段を搭載可能な本体に搭載した際に吐出口面に形成された吐出口列を示す模式図である。図4における23、図5における吐出口列27から本発明の第1インクを吐出し、第1のインクと比べて相対的に固着性のよい、第2或いは第2と3のインクを他の吐出口列から吐出することで、固着性の改善を図ることができる。
【0052】
図7は、本発明にかかるインクを用いて記録を行うのに好適な、インクカートリッジである液体収納容器の概略を説明するための断面図である。該インクカートリッジは、本発明の第1〜第3のインクに相当する、イエロー(Y)、マゼンタ(M)及びシアン(C)の3色のインクを収容する容器41と、容器41を覆う蓋部材42とを有する。このインクカートリッジは、更に、Y、M、Cそれぞれの吐出口を備えたインクジェット記録ヘッドを具備していてもよい。
【0053】
図7に示したように、容器41の内部は、3色のインクを収容するために、互いに平行に配置された2つの仕切板411及び412により、容量がほぼ等しい3つの空間に仕切られる。これら3つの空間は、互いにインクタンクホルダへカラーインクタンクを装着する際のカラーインクタンクの挿入方向に沿って並んでいる。又、これら各空間に、それぞれイエローのインクを吸収して保持するインク吸収体44Y、マゼンタのインクを吸収して保持するインク吸収体44M、及びシアンのインクを吸収して保持するインク吸収体44Cが収納されている。又、負圧発生部材であるインク吸収体44Y、インク吸収体44M、インク吸収体44C内に収容されているインクは、インクの液面Lで示されるように、夫々のインク吸収体の上部まで存在している。
【実施例】
【0054】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、これらは、本発明の範囲をいずれも限定するものではない。尚、文中、「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準を意味する。又、特に指定のない限り、実施例、比較例のインク成分は「質量部」を意味する。
【0055】
<色材の調製>
(マゼンタインク用色材)
キシレン中に下記式(α)の化合物、炭酸ナトリウム、ベンゾイル酢酸エチルエステルを反応させ、反応物を濾過、洗浄した。これをN,N−ジメチルホルムアミド中で、メタアミノアセトアニリド、酢酸銅、炭酸ナトリウムを順次仕込み反応させ、反応物を濾過、洗浄した。更にこれを、発煙硫酸中でスルホン化し、濾過、洗浄を行い、これを水酸化ナトリウム存在下、シアヌルクロライドと縮合反応を行った。この反応液中にアンスラニル酸を添加し、水酸化ナトリウム存在下、縮合反応を行った。これを濾過、洗浄し、実施例で使用する式(M−a)で示されるマゼンタ色材を得た。
【0056】

【0057】

【0058】
<インクの調製>
(マゼンタインクの調製)
上記で得た色材(M−a)を含有してなる下記表2に示した処方のマゼンタインクM1を調製した。その際、各成分を混合し、その後に0.2μmのメンブランフィルターで加圧ろ過後、マゼンタインクM1を得た。但し、下記組成は質量部である。
【0059】

【0060】
<シアンインクの調整>
下記表3に示した処方のシアンインクC1を調製した。その際、各成分を混合し、その後に0.2μmのメンブランフィルターで加圧ろ過後、シアンインクC1を得た。但し、下記組成は質量部である。
【0061】

【0062】
<イエローインクの調整>
下記表4に示した処方のイエローインクY1を調製した。その際、各成分を混合し、その後に0.2μmのメンブランフィルターで加圧ろ過後、イエローインクY1を得た。但し、下記組成は質量部である。
【0063】

【0064】
<各インクの固着性>
上記で得たM1、C1及びY1の3種類インクをキヤノン(株)製インクジェットプリンター(PIXUS 320i)に搭載し、以下のようにしてそれぞれのインクの固着性を評価した。尚、このプリンターは、吐出口列に対し垂直方向にブレードでワイピングする回復手段を有する。先ず、上記プリンターに、インクとしてM1のみを搭載し、所定の回復動作を行い、印字チェック用のパターンを印字後、キャリッジの動作途中で電源ケーブルを引き抜くことで、未キャップ状態にし、プリンターごと、35℃(湿度10%RH)環境下に裸状態で14日間放置した。その後、25℃にて6時間放置して常温に戻したプリンターを用いて、回復動作をしながら印字させ、下記の基準で評価した。次いで、同様の評価を、C1及びY1についても行った。結果を表5に示す。尚、前記キャップは、吸引等の回復動作のために吐出口を覆うためのものである。
〇:起動後、1〜2度の回復動作で印字できる。
×:起動後、2回までの回復動作で印字できない。
【0065】

【0066】
上記の結果より、インクM1は、インクC1及びY1に比べて固着し易いものであることが確認された。
【0067】
<試験に使用したインクの組合せ>
上記で得たM1、C1及びY1のインクをキヤノン(株)製インクジェットプリンター(PIXUS 320i)に、下記表6の組合せで搭載した。尚、インク装着位置は、本体正面に向かって左からA、B、Cとする。
【0068】

【0069】
<吐出口開口部における目詰まりの回復性>
前記したプリンターに所定の位置に3種類のインクを充填して、所定の回復動作を行い、印字チェック用のパターンを印字後、キャリッジが動作途中で電源ケーブルを引き抜くことで、未キャップ状態にし、プリンターごと、35℃(湿度10%RH)環境下に裸状態で14日間放置した。その後、25℃にて6時間放置して常温に戻したプリンターを用いて、回復動作をしながら印字させた。その結果、表7に示すような固着回復性を示した。
〇:起動後、1〜2度の回復動作で印字できる。
×:起動後、2回までの回復動作で印字できない。
【0070】

【0071】
上記に示すように、実施例1のように第1インクM1の両端に、相対的に固着しにくい第2インク及び第3インク(C1及びY1)を搭載した時のみ、固着回復性がよくなった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のインクを用いるインクジェット記録装置の一実施例の概略構成を示す模式的斜視図である。
【図2】図1中の記録手段の吐出口面に形成された複数の吐出口列の配置を矢印A方向から見て示す模式的底面図である。
【図3】図2の吐出口面をワイパー(ブレード)でワイピングする状態を示す模式的底面図である。
【図4】吐出口面に形成された吐出口列を示す図である。
【図5】吐出口面に形成された吐出口列を示す他の図である。
【図6】記録手段の吐出口列に対して水平方向のワイピング機能を有する記録装置を示す図である。
【図7】本発明のインクを用いて記録を行うのに好適なインクカートリッジである液体収納容器の概略説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1:搬送ローラ(送紙ローラ)
2:ピンチローラ
3:記録媒体(記録用紙)
4:プラテン
5:キャリッジ
6:ガイドシャフト
7:記録手段(記録ヘッド)
9、10、11:インクタンク
12:吐出口面
13、14、15:インクの吐出口列
17:排紙ローラ
18:拍車
19:回復系ユニット
20:ワイパーホルダ
21:ワイパー
22、23、24、25、26、27、28、29:インクの吐出口列
30、31、32:共通液室
33:ワイパー
41:容器
42:蓋部材
43Y、43M、43C:インク供給口
44Y、44M、44C:インク吸収体
45Y、45M、45C:インク供給部材
46:抜け止め爪
47:ラッチレバー
47c:根元斜面
48:ラッチ爪
49:段差部
411、412:仕切板
L:液体−気体界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1〜第3のインクジェット用のインクを吐出するための、少なくとも3列以上の吐出口列を有するインクジェットヘッドに用いられるインクジェット用の第1インクであって、該第1インクは、該第1インクが吐出される吐出口列の両脇の吐出口列が、それぞれ第1インクと比べて相対的に固着しにくい第2インクが吐出される吐出口列であるか、或いは、第1インクと比べて相対的に固着しにくい第2インクが吐出される吐出口列と第3インクが吐出される吐出口列である状態で使用されるものであることを特徴とするインクジェット用の第1インク。
【請求項2】
前記第1インクが、少なくとも下記式(1)の化合物又はその塩と、1,5−ペンタンジオールとを含有してなる請求項1に記載のインクジェット用の第1インク。

(上記一般式(1)中、R1は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシ低級アルキル基、シクロヘキシル基、モノ又はジアルキルアミノアルキル基及びシアノ低級アルキル基のいずれかを表し、Yは、塩素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、モノ又はジアルキルアミノ基(該アルキル基の部分に、スルホン基、カルボキシル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される置換基を有していてもよい)のいずれかを表し、R2、R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基及びカルボキシル基(但し、R2、R3、R4、R5及びR6のすべてが水素原子である場合を除く。)のいずれかを表す。)
【請求項3】
前記吐出口列に対し垂直方向にワイピング動作をする回復機能を有する記録装置に搭載される請求項1又は2に記載のインクジェット用の第1インク。
【請求項4】
前記第2インク及び第3インクが、それぞれシアンインク又はイエローインクである請求項1又は2に記載のインクジェット用の第1インク。
【請求項5】
インクジェット用インクを収容するインク収容部を有するインクカートリッジにおいて、該インク収容部に収容されるインクジェット用インクが請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット用の第1インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項6】
第1〜第3のインクジェット用インクを吐出する、少なくとも3列以上の吐出口列を有するインクジェットヘッド及び第1〜第3のインクジェット用インクのそれぞれを収容するインク収容部を有する請求項5に記載のインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−16150(P2007−16150A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199806(P2005−199806)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】