説明

インクジェット装置

【課題】保守ユニットの移動動作を容易に実施することができると共に、複数の記録ユニットを送り経路全域に配設することができる。
【解決手段】回転ドラム61を有する媒体送り機構41と、ヘッドユニット83を有する印刷手段48と、ユニット本体を有する複数のメンテナンスユニット43と、ユニット本体を、メンテナンス位置C1と送り経路に交差する方向に退避するホーム位置C2とに移動させる複数のメンテナンス移動機構103と、ヘッドユニット83を回転ドラム61の法線方向に進退させる複数のZ軸移動機構84と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式のヘッドを用い、紙や包装フィルム等の記録媒体に記録処理を行うインクジェット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のインクジェット装置として、外周面に記録媒体を密着させて送る回転体(ドラム)により、外周面に倣う円弧状の送り経路に沿って記録媒体(印刷媒体)を送る媒体送り手段と、送り経路に沿って配設された複数の記録ユニットを有し、記録媒体に記録処理を行う媒体記録手段と、複数の記録ユニットに対応する複数の保守ユニットを有し、媒体記録手段をメンテナンスするメンテナンス手段と、各保守ユニットを、各記録ユニットに臨ませるメンテナンス位置とメンテナンス位置から媒体送り方向に退避する退避位置との間で移動するユニット移動手段と、を備えたものが知られている(特許文献1参照)。このインクジェット装置では、複数の記録ユニットが隣り合うように配設され、これに対応して複数の保守ユニットも隣り合うように配設されている。そして、この保守ユニット群は、メンテナンスユニット保持部材により一体化されており、一体的にメンテナンス位置と退避位置との間で移動させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−74051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一の記録ユニットは、記録媒体の幅に対応した単色の一の描画ラインを構成するため、記録ユニットの数がそのまま、使用可能な色数となる。使用可能な色数が多いほど、正確な色を再現することができるため、使用可能な色数に比して、描画品質が上下する。すなわち、配設可能な記録ユニットの数に比して、描画品質が上下することになる。
しかしながら、上記のようなインクジェット装置では、複数の記録ユニットに対して媒体送り方向にずれた位置を、複数の保守ユニットの退避位置としているため、送り経路に対する記録ユニットの配設領域が、複数の保守ユニットの退避位置に占領されてしまう。ゆえに、複数の記録ユニットを送り経路全域に広く配設することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、複数の記録ユニットを送り経路全域に広く配設することができるインクジェット装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェット装置は、外周面に記録媒体を密着させて送る回転体により、外周面に倣う円弧状の送り経路に沿って記録媒体を送る媒体送り手段と、送り経路に配設された記録ユニットを有し、送られてゆく記録媒体に記録処理を行う媒体記録手段と、記録ユニットに対して保守を行う保守ユニットを有し、媒体記録手段をメンテナンスするメンテナンス手段と、記録ユニットに対し保守ユニットを、記録ユニットに臨むメンテナンス位置とメンテナンス位置から送り経路に交差する方向に退避するホーム位置との間で、移動させるユニット移動機構と、記録ユニットを回転体の法線方向に進退させる機構であって、記録ユニットによる記録時に、記録ユニットを送り経路に臨む記録位置に移動させ、非記録時に、記録ユニットを、メンテナンス位置の保守ユニットに臨む被メンテナンス位置に移動させる進退動機構と、を備え、媒体記録手段は、記録ユニットとして送り経路に沿って配置された第1記録ユニットと第2記録ユニットとを有し、メンテナンス手段は、保守ユニットとして、第1記録ユニットに対して保守を行う第1保守ユニットと、第2記録ユニットに対して保守を行う第2保守ユニットと、を有し、ユニット移動機構は、第1記録ユニットに対して第1保守ユニットを移動させる第1移動機構と、第2記録ユニットに対して第2保守ユニットを移動させる第2移動機構と、を有し、進退動機構は、第1記録ユニットを回転体の法線方向に進退させる第1進退動機構と、第2記録ユニットを回転体の法線方向に進退させる第2進退動機構と、を有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、保守ユニットのホーム位置(退避位置)が、送り経路に交差する方向(例えば、送り経路に直交する方向)に退避した位置であるため、送り経路に対する記録ユニットの配設領域が、各保守ユニットの退避位置に占領されてしまうことがない。そのため、各記録ユニットを送り経路全域に広く配設することができる。ゆえに、記録ユニットを多く配設することでき、描画品質を向上することができる。また、進退機構を用い、各記録ユニットを回転体の法線方向に進退させることにより、記録時には、各記録ユニットを記録媒体に接近させることができるため、描画処理を精度良く行うことができる。一方、非記録時には、各記録ユニットと記録媒体との間に、各保守ユニットが入り込む大形のスペースを取ることができるため、大形の保守ユニットを用いることができ、保守ユニットを簡単な構成とすることができる。
【0008】
この場合、軸受け部を介して回転体を片持ちで回転自在に支持するメインフレームと、メインフレームに支持され、表面に媒体記録手段を片持ちで支持する鉛直板状のサブフレームと、を更に備えることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、メインフレームおよび鉛直板状のサブフレームを用いることにより、各部材の支持構造を簡単な構成にすることができる。
【0010】
この場合、サブフレームは、メンテナンス手段を、当該サブフレームの裏面に片持ちで支持することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、媒体記録手段を、サブフレームの表面に片持ちで支持するのに対し、メンテナンス手段を、サブフレームの裏面に片持ちで支持することにより、各部材を、サブフレームの表裏でバランス良く支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るインクジェット装置の正面図である。
【図2】装置本体の裏面斜視図である。
【図3】キャリッジユニットの斜視図である。
【図4】ヘッドユニット廻りの断面図である。
【図5】ヘッドの斜視図である。
【図6】ヘッドユニットの平面図である。
【図7】ピニングユニットの斜視図である。
【図8】(a)は、メンテナンス時におけるキャリッジユニットおよびメンテナンスユニットの正面図、(b)は、メンテナンス時におけるキャリッジユニットおよびメンテナンスユニットの側面図、(c)は、印刷処理時におけるキャリッジユニットおよびメンテナンスユニットの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係るインクジェット装置について説明する。このインクジェット装置1は、周方向に複数のインクジェットヘッドを配置したセンタードラム式のインクジェット装置1であり、リールツーリールで供給した長尺の記録媒体Aに、UVインク(紫外線硬化型インク)を用いて印刷を実施する。記録媒体Aとしては、例えばラベル用のフィルムや用紙等のシート状のものであって、各種幅および厚みの異なるものを印刷対象としている。なお、以降の説明では、図1において紙面を貫通する方向を前後とし、手前側を「前」、奥側を「後」とする。具体的には、後述する回転ドラム61の回転軸(ドラム軸62)の延在方向を前後とし、後述するドラムモーター64から回転ドラム61へ向かう方向を手前方向(手前側)、回転ドラム61からへドラムモーター64向かう方向を奥方向(奥側)とする。また、記録媒体Aの媒体送り経路Lにおいて、後述する媒体供給装置6側を「上流側」、後述する媒体回収装置7側を「下流側」ともいう。
【0014】
図1の全体図に示すように、インクジェット装置1は、インクジェット方式で記録媒体Aに印刷を行うセンタードラム式の装置本体2と、装置本体2に記録媒体Aを供給し且つ印刷済みの記録媒体Aを回収するリールツーリール方式(ロールツーロール方式)の媒体供給・回収装置3と、これら構成装置を統括制御する制御装置(図示省略)と、を備えている。媒体供給・回収装置3は、装置本体2に記録媒体Aを供給する媒体供給装置6と、装置本体2から記録媒体Aを回収する媒体回収装置7と、を有している。一方、装置本体2および媒体供給・回収装置3に構成した記録媒体Aの媒体送り経路Lは、媒体供給装置6から装置本体2に至る供給送り経路L1と、装置本体2に構成した円に近い円弧状の印刷送り経路L2と、装置本体2から媒体回収装置7に至る回収送り経路L3と、を有している。
【0015】
供給送り経路L1を介して、媒体供給装置6から繰り出すようにして供給された記録媒体Aは、装置本体2において印刷送り経路L2に沿って送られ、この部分で印刷に供される。また、印刷が完了した記録媒体Aは、回収送り経路L3を介して媒体回収装置7により巻き取るようにして回収される。
【0016】
媒体供給装置6は、ロール状に巻回した記録媒体Aを繰り出す繰出しリール11と、繰出しリール11を繰出し回転させる繰出しモーター(図示省略)と、繰出しリール11の下流側に配設され、記録媒体Aにフォワードテンションを付与するフォワードテンションユニット13と、フォワードテンションユニット13の下流側に配設され、記録媒体Aを幅方向に位置決めするステアリングユニット14と、ステアリングユニット14の下流側に配設され、装置本体2(後述する回転ドラム61の下部外周面71a)に記録媒体Aを送り込む送込みローラー18と、を備えている。また、繰出しリール11および繰出しモーターは、給紙ユニットフレーム15に支持され、一体の給紙ユニット16を構成している。さらに、フォワードテンションユニット13は、フォワードテンションフレーム17に支持され、ユニット化されている。
【0017】
制御装置により、装置本体2に同期して繰出しモーターを駆動すると、繰出しリール11から記録媒体Aが繰り出される。繰り出された記録媒体Aは、フォワードテンションユニット13により所定のテンションを付与されつつ、供給送り経路L1に沿って送られ、最終的に、ステアリングユニット14により幅方向の位置を矯正(調整)されつつ送込みローラー18により装置本体2に送り込まれる。なお、本実施形態のステアリングユニット14は、送込みローラー18を介し、記録媒体Aの一方(奥側)の幅端を基準に装置本体2に送り込むようになっている。したがって、幅の異なる記録媒体Aを導入する場合も同様に、一方(奥側)の幅端が基準となる。もっとも、幅方向の中心を基準(センター基準)として、記録媒体Aを導入することも可能である。
【0018】
媒体回収装置7は、印刷済みの記録媒体Aをロール状に巻き取る巻取りリール21と、巻取りリール21を巻取り回転させる巻取りモーター(図示省略)と、巻取りリール21の上流側に配設され、記録媒体Aにバックテンションを付与するバックテンションユニット23と、バックテンションユニット23の上流側に配設され、記録媒体Aを装置本体2(回転ドラム61の下部外周面71a)から送り出し、且つ送り出された記録媒体AがUターンして送られるように、回収送り経路L3を経路変更する送出しローラー25と、を備えている。この場合も、巻取りリール21および巻取りモーターは、排紙ユニットフレーム26に支持され、一体の排紙ユニット27を構成している。また、バックテンションユニット23は、バックテンションフレーム28に支持され、ユニット化されている。さらに、装置本体2と送出しローラー25との間には、回収送り経路L3に臨むように、後述する装置本体2のUV照射ユニット44が配設されている。フォワードテンションユニット13のフォワードテンションによって、バックテンションユニット23のバックテンションと供し、回転ドラム61に送り込まれる記録媒体Aに対し、回転ドラム61への張架力を付与している。
【0019】
制御装置により、装置本体2に同期して巻取りモーターを駆動すると、記録媒体Aは、バックテンションユニット23により所定のテンションを付与されつつ、装置本体2から送り出され、回収送り経路L3に沿って送られてゆく。装置本体2から送り出された記録媒体Aは、先ずUV照射ユニット44を通過する。この通過過程で、UVインクは硬化する。続いて、送出しローラー25によりUターンした記録媒体Aは、バックテンションユニット23を経て、巻取りリール21に巻き取られる。なお、巻取りリール21に巻き取られた記録媒体Aは、別工程の装置に導入され、ラベルとして裁断され或いはラベル部分にハーフカットが施される。
【0020】
図1および図2に示すように、装置本体2は、大口径の回転ドラム61を有し、円弧状の印刷送り経路(送り経路)L2に沿って記録媒体Aを送る媒体送り機構(媒体送り手段)41と、それぞれが複数のヘッド(印刷ヘッド)76を有し、印刷送り経路L2に臨むように、回転ドラム61に対し放射状に配設した複数のキャリッジユニット42と、複数のキャリッジユニット42に対応し、その背面側(裏面側)に配設した複数のメンテナンスユニット43と、上記の回収送り経路L3に臨み、記録媒体AのUVインクを硬化させる本硬化用のUV照射ユニット44を備えている。また、装置本体2は、全体としてチャンバー(図示省略)に覆われている。複数のキャリッジユニット42は、供給するUVインクの色別のユニットであり、全体として印刷手段(媒体記録手段)48を構成している。
【0021】
図2に示すように、装置フレーム46は、機台となるベースフレーム51と、ベースフレーム51の後半部に立設したメインフレーム52と、メインフレーム52の前面に広く設けた鉛直板状のサブフレーム53と、サブフレーム53を介しメインフレーム52の前部に配設したチャンバーフレーム54と、を有している。
【0022】
メインフレーム52は、サブフレーム53を介して各種の構成装置を支持すると共に、回転ドラム61を主体とする媒体送り機構41を支持している。サブフレーム53は、前面側(表面側)において、複数のキャリッジユニット42、UV照射ユニット44等を片持ちの形式で支持し、背面側(後面側:裏面側)において、複数のメンテナンスユニット43等を片持ちの形式で支持している。なお、上述の送込みローラー18および送出しローラー25も、サブフレーム53の前面側に片持ちの形式で支持されている。チャンバーフレーム54は、メインフレーム52前部の構成装置を覆うように形成されている。メインフレーム52およびチャンバーフレーム54が構成する各面には、それぞれ壁体(図示省略)が取り付けられており、これらによって装置本体2全体を覆うチャンバーを構成する。すなわち、装置本体2は、このチャンバーによって、その内部の温度および清浄度を管理している。なお、チャンバーフレーム54とベースフレーム51との間には、所定の間隙が設けられており、この間隙において記録媒体Aの給紙および排紙が行われる。
【0023】
媒体送り機構41は、横倒しの王冠状に形成された回転ドラム(回転体)61と、メインフレーム52に支持されると共に、ドラム軸62を介して回転ドラム61を片持ちで水平軸周りに回転自在に支持する軸受け(軸受け部)(図示省略)と、回転ドラム61を一方向に低速回転させるドラムモーター64と、ドラム軸62とドラムモーター64との間に介設した動力伝達機構(図示省略)と、を有している。すなわち、メインフレーム52は、軸受けを介して、回転ドラム61を回転自在に支持している。ドラムモーター64は、例えばサーボモーターで構成され、回転ドラム61の外周面71aにおける周速(印刷速度)が一定になるように、回転ドラム61を水平軸周りに回転させる。
【0024】
回転ドラム61は、円筒状のドラム本体71を備え、ドラム本体71は、最大幅の記録媒体Aに対応する幅を有し、外周面71aには滑り止めとなる焼付け塗装が施されている。記録媒体Aは、滑り止め加工されたドラム本体71の外周面71aに密着し、回転するドラム本体71により円(円弧)を描くように送られる。すなわち、媒体供給装置6(送込みローラー18)から回転ドラム61の下部外周面71aに送り込まれた記録媒体Aは、回転ドラム61により外周面71aに倣う円弧状の印刷送り経路L2に沿って送られる。そして、この送りに同期して印刷手段48が適宜駆動することにより、記録媒体Aに印刷処理(記録処理)が行われる。その後、記録媒体Aの印刷済み部分は、回転ドラム61の下部外周面71aから媒体回収装置7(送出しローラー25)によって送り出され、回収される。
【0025】
上述のように、印刷手段48は、回転ドラム61に対し放射状に配設した複数のキャリッジユニット42を備えている(図1参照)。複数のキャリッジユニット42は、インク色別のユニットであり、印刷送り経路L2の始端側から終端側に向って、ホワイト(W)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ライトシアン(Lc)、ライトマゼンタ(Lm)、ブラック(Bk)、クリアー1(CL1)、クリアー2(CL2)の順で、周方向にほぼ等間隔で配設されている。詳細は後述するが、各キャリッジユニット42には、複数のヘッド76が搭載され、この複数のヘッド76により、最大幅の記録媒体Aに対応するラインヘッド77(図6参照)が構成されている。このため、印刷送り経路L2に沿って印刷送りされてゆく記録媒体Aに、各色のラインヘッド77が順に臨むことになり、記録媒体Aに印刷データに基づく所望のカラー印刷が行われる。なお、クリアー1(CL1)およびクリアー2(CL2)のインクは、主にコーティング用に用いられ、この場合にはベタ塗り印刷となる。
【0026】
図3および図4に示すように、各キャリッジユニット42は、上記のサブフレーム53に固定されたキャリッジベース81と、回転ドラム61の法線方向(回転ドラム61の外周面71aの接平面に垂直な方向)において、キャリッジベース81にスライド自在に支持された箱型フレーム形式のキャリッジ82と、キャリッジ82に装着され、複数のヘッド76を搭載したヘッドユニット(第1記録ユニット、第2記録ユニット)83と、キャリッジ82を介してヘッドユニット83を回転ドラム61の法線方向に進退させるZ軸移動機構(第1進退動機構、第2進退動機構)84と、キャリッジ82に搭載され、複数のヘッド76に吐出波形を印加するヘッド制御基板モジュール(図示省略)と、を備えている。すなわち、複数のキャリッジユニット42に搭載された複数のヘッドユニット83は、印刷送り経路L2に沿って配設されている。また、各キャリッジユニット42は、キャリッジ82に搭載され、記録媒体AのUVインクを仮硬化させるピニングユニット86と、支持金具を介してキャリッジ82の外側面に支持され、複数のヘッド76にUVインクを供給するサブタンクユニット(図示省略)と、を備えている。なお、他の部材が回転ドラム61の法線方向に合わせた姿勢で支持されるのに対し、サブタンクユニットは、支持金具により、いずれも直立姿勢(UVインクの排出口が鉛直方向下を向く姿勢)で支持されている。また、ここにいう「回転ドラム61の法線方向」とは、完全な法線方向に限られず、通常の実施において問題ない範囲において、法線方向から多少傾いた方向も含まれる。すなわち、Z軸移動機構84は、ヘッドユニット83を、回転ドラム61の法線方向から多少傾いた方向に進退させる構成であっても良い。
【0027】
各Z軸移動機構84は、各キャリッジ82を介し、各ヘッドユニット83を回転ドラム61の法線方向に進退させる。具体的には、各Z軸移動機構84は、各ヘッドユニット83による記録時(印刷処理時)に、回転ドラム61に対し接近した記録位置B1に移動させ、非記録時(メンテナンス時)に、各ヘッドユニット83を、回転ドラム61に対し離間した被メンテナンス位置B2に移動させる。この記録位置B1とは、各ヘッドユニット83が印刷送り経路L2に臨むように回転ドラム61に接近した位置であり、具体的には、各ヘッドユニット83における複数のヘッド76のノズル面91と、記録媒体Aの記録面(表面)との間のギャップが適正値(適正範囲)となる位置である。一方、被メンテナンス位置B2とは、各メンテナンスユニット43における後述の各ユニット本体(保守ユニット)がノズル面91と記録面との間に入り込めるように、回転ドラム61に対し離間した位置であり、且つ後述のメンテナンス位置C1に移動したユニット本体に、各ヘッドユニット83が臨む位置である(図8参照)。なお、請求項にいう進退動機構は、複数のキャリッジユニット42に亘る複数のZ軸移動機構84により構成されている。
【0028】
実施形態のUVインクは、その粘性が、高い温度依存性(温度が高くなると粘性が低下する)を有している。このため、図示では省略したが、上記のサブタンクユニット、複数のヘッド76およびサブタンクユニットから複数のヘッド76に至るインク流路(主チューブ、マニホールド、個別チューブ)は、ヒーターにより被覆されている。例えば、UVインクを40℃程度に昇温して吐出する。
【0029】
図5に示すように、各ヘッド76は、2インチのインクジェットヘッドで構成されており、そのノズル面91に相互に並行な複数の吐出ノズル92から成る2列のノズル列93を有している。この場合、2列のノズル列93は、ノズル列方向に1/2ノズルピッチ位置ズレして配設されている。
一方、図4および図6に示すように、ヘッドユニット83は、キャリッジ82に対し前方から着脱自在に装着されている。ヘッドユニット83は、ヘッドプレート94と、ヘッドプレート94に支持されると共に、それぞれが回転ドラム61の接線に対し並行になるように山形に連ねた一対のサブプレート95と、一対のサブプレート95に2分して搭載された複数のヘッド76(実施形態のものは、7個+7個)と、を備えている。
【0030】
この場合、各サブプレート95に搭載された複数のヘッド76(7個)は、いずれもノズル列93が前後方向に向く姿勢で、且つ前後方向において千鳥に配設されている。また、一方のサブプレート95に搭載された複数のヘッド76と、他方のサブプレート95に搭載された複数のヘッド76とは、前後方向(ノズル列方向)に1/4ノズルピッチ位置ズレして配設されている。これにより、ヘッドプレート94に搭載した全ヘッド76により、前後方向(記録媒体Aの幅方向)に延在するラインヘッド77、すなわち最大幅の記録媒体Aに対応する1/4ノズルピッチのラインヘッド77が構成されている。記録媒体A(印刷送り経路L2)に臨むこのラインヘッド77(当該全ヘッド76)によって、記録媒体Aの幅に対応した一の描画ラインを構成し、これにより、高解像度の印刷処理が可能となる。
【0031】
図7に示すように、ピニングユニット86は、記録媒体AのUVインクを仮硬化させる仮硬化UVランプ98と、仮硬化UVランプ98に添設したダクト接続のミスト吸引口99と、を有している。仮硬化UVランプ(ランプアレイ)98およびミスト吸引口(スリット吸引口)99は、相互に並行に且つ前後方向に延在し、上記のラインヘッド77に対し、ほぼ同じ長さに且つ前後方向に同位置に配設されている。また、複数のヘッド76(ラインヘッド77)、ミスト吸引口99、仮硬化UVランプ98は、記録媒体Aの送り方向においてこの順で配設されており、ヘッド76から吐出されたUVインクのミストをミスト吸引口99で吸引し、記録媒体Aに着弾したUVインクを仮硬化UVランプ98で仮硬化させる。これにより、仮硬化UVランプ98へのミストの付着を防止し、且つ混色が生じない程度にUVインクを硬化させることができる。なお、複数のキャリッジユニット42のおけるインク色別の順は、色別のUVインクにおける硬化し難い順となっている。
【0032】
図1に示すように、UV照射ユニット44は、UVランプで構成されており、回収送り経路L3上の記録媒体Aに下側(記録媒体Aの印刷面側)から臨み、記録媒体Aに着弾したUVインクを本硬化させる。なお、UV照射ユニット44には、UVランプおよび記録媒体Aを冷却するための吸引ファンが搭載されている。
【0033】
図2に示すように、各メンテナンスユニット43は、各キャリッジユニット42に対応し、上記のサブフレーム53を隔てて、対応するキャリッジユニット42の前後方向の延長上に配設されている。図8に示すように、メンテナンスユニット43は、複数のヘッド76のノズル面91に臨んでメンテナンスを実施するユニット本体(第1保守ユニット、第2保守ユニット)(図示省略)と、ユニット本体が搭載されたメンテナンスキャリッジ102と、メンテナンスキャリッジ102を介してユニット本体をメンテナンス位置C1とホーム位置C2との間で前後方向に移動させるメンテナンス移動機構(第1移動機構、第2移動機構)103と、を備えている。また、複数のメンテナンスユニット43の複数のユニット本体は、複数のキャリッジユニット42の複数のヘッドユニット83に対応している。なお、請求項にいうメンテナンス手段は、複数のメンテナンスユニット43により構成されている。また、請求項にいうユニット移動機構は、複数のメンテナンスユニット43に亘る複数のメンテナンス移動機構103により構成されている。
【0034】
各ユニット本体は、例えば、ヘッド76のノズル面91を払拭するワイピング機構と、ノズル面91の封止、捨て吐出の受容およびノズル吸引を行う吸引機構と、を有している。
【0035】
各メンテナンス移動機構103は、片持ち状態でサブフレーム53に固定したブラケットフレーム113と、ブラケットフレーム113とキャリッジユニット42との間に渡した一対のガイドレール114と、一対のガイドレール114に並行に配設したタイミングベルトを有するベルト伝達機構と、タイミングベルトを走行させるエアー駆動のローターアクチュエーター117と、有している。
【0036】
メンテナンスキャリッジ102の側面には、一対のガイドレール114にスライド自在に係合する複数のスライダーが設けられ、またタイミングベルトに固定される固定金具が設けられている。ローターアクチュエーター117が駆動すると、タイミングベルトが正逆走行し、一対のガイドレール114に案内されてメンテナンスキャリッジ102、すなわちユニット本体が前後方向に移動する。なお、サブフレーム53には、メンテナンスキャリッジ102を通過させるためのメンテナンス開口53aが形成されている(図2参照)。
【0037】
各メンテナンス移動機構103は、各ユニット本体を前後方向に進退させて、各ヘッドユニット83に対し、各ユニット本体を、各ヘッドユニット83に臨むメンテナンス位置C1とメンテナンス位置C1から印刷送り経路L2に交差する方向に退避するホーム位置C2との間で移動させる。すなわち、各メンテナンス移動機構103は、ヘッドユニット83による記録時(印刷処理時)には、各ユニット本体をホーム位置C2に移動(待機)させる(図8(c)参照)。なお、ここにいう「印刷送り経路L2に交差する方向」とは、印刷送り経路L2に対し直角に交差する方向(印刷送り経路L2に直交する方向:回転ドラム61の軸方向)に限らず、例えば、印刷送り経路L2に対し、直角から多少傾いて交差する方向であっても良い。一方、非記録時(メンテナンス時)には、ユニット本体をメンテナンス位置C1に移動させて、ヘッドユニット83のメンテナンス(捨て吐出や吸引等)を行う(図8(a)および図8(b)参照)。なお、これに対し、上述のように、ヘッドユニット83(キャリッジ82)は、記録時には、Z軸移動機構84によって法線方向内側の記録位置B1に移動し、非記録時には、Z軸移動機構84によって法線方向外側の被メンテナンス位置B2に移動するため、記録時には、ヘッドユニット83とユニット本体とが前後(回転ドラム61の軸方向)に直列に位置し、非記録時には、ヘッドユニット83に対しユニット本体が臨む形で、ヘッドユニット83とユニット本体とが回転ドラム61の法線方向に並列に位置している。
【0038】
以上のような構成によれば、ユニット本体のホーム位置C2(退避位置)が、印刷送り経路L2に交差する方向に退避した位置であるため、印刷送り経路L2に対するヘッドユニット83の配設領域が、複数のユニット本体の退避位置に占領されてしまうことがない。そのため、複数のヘッドユニット83を印刷送り経路L2全域に配設することができる。ゆえに、ヘッドユニット83を多く配設することでき、描画品質を向上することができる。また、複数のZ軸移動機構84を用い、各ヘッドユニット83を回転ドラム61の法線方向に進退させることにより、記録時には、各ヘッドユニット83を記録媒体Aに接近させることができるため、描画処理を精度良く行うことができる。一方、非記録時には、各ヘッドユニット83と記録媒体Aとの間に、各ユニット本体が入り込む大形のスペースを取ることができるため、大形のユニット本体を用いることができ、ユニット本体を簡単な構成とすることができる。またヘッドユニット83ごとに、Z軸移動機構84を設けているので、ヘッドユニット83を被メンテナンス位置B2に移動する際に、移動距離を必要最低限の距離にすることが可能であるため、ヘッドユニット83の移動のために必要なスペースを押さえることができる。
【0039】
さらに、回転ドラム61を片持ちで回転自在に支持するメインフレーム52と、メインフレーム52に支持され、表面に印刷手段48を片持ちで支持する鉛直板状のサブフレーム53と、を用いることにより、各部材の支持構造を簡単な構成にすることができる。
【0040】
またさらに、印刷手段48を、サブフレーム53の表面に片持ちで支持するのに対し、メンテナンス手段(複数のメンテナンスユニット43)を、サブフレーム53の裏面に片持ちで支持することにより、各部材を、サブフレーム53の表裏でバランス良く支持することができる。
【0041】
また、媒体送り機構41を、回転ドラム61と、回転ドラム61を一方向に定速で回転させるドラムモーター64とによって構成することにより、媒体送り機構41を簡単な構成とすることができる。
【0042】
さらに、ヘッドユニット83の複数のヘッド76が、一の描画ラインを構成することにより、当該複数のヘッド76がラインヘッド77として機能するため、描画処理を効率良く行うことができる。
【0043】
またさらに、巻回した記録媒体Aを繰り出して、回転ドラム61に送り込む媒体供給装置6を用いるため、記録媒体Aを連続的に給材するができる。また、媒体供給装置6に、繰出しリール11および送込みローラー18を用いることで、媒体供給装置6を簡単な構成とすることができる。
【0044】
また、回転ドラム61から送り出された記録媒体Aを巻き取る媒体回収装置7を用いるため、記録媒体Aを連続的に除材するができる。また、媒体回収装置7に、送出しローラー25、巻取りリール21および巻取りモーターを用いることで、媒体回収装置7を簡単な構成とすることができる。
【0045】
さらに、媒体供給・回収装置3において、記録媒体Aを回転ドラム61の下部外周面71aに送り込み、また下部外周面71aから送り出す構成であるため、上部外周面71a全域を広くヘッドユニット83の配置領域とすることができる。ゆえに、多くのヘッドユニット83を、吐出方向を下向きにして配設することができ、低い駆動力で且つ精度良く記録処理を行うことができる。
【0046】
またさらに、媒体供給・回収装置3において、フォワードテンションユニット13およびバックテンションユニット23により、記録媒体Aに対し、回転ドラム61への張架力を付与することで、その張架力によって、記録媒体Aの伸縮を押さえ込むことができ、記録媒体Aの伸縮による不具合を抑制することができる。例えば、熱膨張による記録媒体Aの変形を抑制することができる。
【0047】
また、媒体供給装置6において、ステアリングユニット14を用いることで、記録媒体Aの幅方向位置がずれてしまったとしても、幅方向位置を調整することができる。
【0048】
また、本実施形態においては、リールツーリール方式の媒体供給・回収装置3を用いたが、枚葉方式の媒体供給・回収装置3を本インクジェット装置1に用いても良い。
【0049】
さらに、本実施形態においては、ドラムモーター64が、回転ドラム61を一方向に定速で回転させるものを用いたが、回転ドラム61を正逆方向に回転させるものであっても良いし、回転ドラム61を間欠的に回転させるものであっても良い。
【0050】
またさらに、本実施形態においては、幅方向位置を基準位置に調整するために、ステアリングユニット14を用いたが、幅方向位置を故意にずらすために、当該ステアリングユニット14を用いても良い。例えば、ステアリングユニット14によって、記録媒体Aの幅方向位置を順次変更しつつ記録媒体Aを送り、印刷処理を行うことで、幅方向に並ぶ複数のヘッド76を均一に使用する構成であっても良い。
【0051】
また、本実施形態においては、回転ドラム61(ドラム本体71)として、断面真円形の円筒状のものを用いたが、回転ドラム61(ドラム本体71)として、円に近い断面多角形のものを用いても良い。
【0052】
さらに、本実施形態においては、水平軸廻りに回転する回転ドラム61を用いたが、鉛直軸廻りに回転する回転ドラム61を用いても良い。また、水平方向または鉛直方向に対し斜軸で回転する回転ドラム61を用いても良い。
【0053】
またさらに、本実施形態においては、記録媒体Aに回転ドラム61への張架力を付与して、回転ドラム61に記録媒体Aを密着(セット)させたが、吸着機構を備え、回転ドラム61の外周面71aに記録媒体Aを吸着させて、密着(セット)させるものであっても良い。
【符号の説明】
【0054】
1:インクジェット装置、 6:媒体供給装置、 7:媒体回収装置、 11:繰出しリール、 13:フォワードテンションユニット、 18:送込みローラー、 21:巻取りリール、 25:送出しローラー、 41:媒体送り機構、 43:メンテナンスユニット、 48:印刷手段、 52:メインフレーム、 53:サブフレーム、 61:回転ドラム、 62:ドラム軸、 64:ドラムモーター、 71a:外周面、 76:ヘッド、 83:ヘッドユニット、 84:Z軸移動機構、 103:メンテナンス移動機構、 A:記録媒体、 B1:記録位置、 B2:被メンテナンス位置、 C1:メンテナンス位置、 C2:ホーム位置、 L2:印刷送り経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に記録媒体を密着させて送る回転体により、前記外周面に倣う円弧状の送り経路に沿って前記記録媒体を送る媒体送り手段と、
前記送り経路に配設された記録ユニットを有し、送られてゆく前記記録媒体に記録処理を行う媒体記録手段と、
前記記録ユニットに対して保守を行う保守ユニットを有し、前記媒体記録手段をメンテナンスするメンテナンス手段と、
前記記録ユニットに対し前記保守ユニットを、前記記録ユニットに臨むメンテナンス位置と前記メンテナンス位置から前記送り経路に交差する方向に退避するホーム位置との間で、移動させるユニット移動機構と、
前記記録ユニットを前記回転体の法線方向に進退させる機構であって、前記記録ユニットによる記録時に、前記記録ユニットを前記送り経路に臨む記録位置に移動させ、非記録時に、前記記録ユニットを、前記メンテナンス位置の前記保守ユニットに臨む被メンテナンス位置に移動させる進退動機構と、
を備え、
前記媒体記録手段は、前記記録ユニットとして前記送り経路に沿って配置された第1記録ユニットと第2記録ユニットとを有し、
前記メンテナンス手段は、前記保守ユニットとして、前記第1記録ユニットに対して保守を行う第1保守ユニットと、前記第2記録ユニットに対して保守を行う第2保守ユニットと、を有し、
前記ユニット移動機構は、前記第1記録ユニットに対して前記第1保守ユニットを移動させる第1移動機構と、前記第2記録ユニットに対して前記第2保守ユニットを移動させる第2移動機構と、を有し、
前記進退動機構は、前記第1記録ユニットを前記回転体の法線方向に進退させる第1進退動機構と、前記第2記録ユニットを前記回転体の法線方向に進退させる第2進退動機構と、を有する
ことを特徴とするインクジェット装置。
【請求項2】
軸受け部を介して前記回転体を片持ちで回転自在に支持するメインフレームと、
前記メインフレームに支持され、表面に前記媒体記録手段を片持ちで支持する鉛直板状のサブフレームと、を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット装置。
【請求項3】
前記サブフレームは、前記メンテナンス手段を、当該サブフレームの裏面に片持ちで支持することを特徴とする請求項2に記載のインクジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−183713(P2011−183713A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52537(P2010−52537)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】