説明

インクジェット記録システム、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置

【課題】 記録ヘッドの負荷を大きくすることなく、ゴミの進入が少ないインクカートリッジの小型化と簡素化を実現する。
【解決手段】 インクカートリッジのケース34には、その下面にはフイルタ34が配置されたインク取出口と、押圧ピン56とが設けられている。フイルタ34は、ゴミの進入が防止されるように目の細かいものが使用される。キャリッジ13には、記録ヘッドへ通じるインク供給管66の端部にインクを吸収して保持する多孔質部材67が設けられており、これがフイルタ34と圧接する。押圧ピン56が、キャリッジ13に設けられた加圧部71を押圧すると、加圧部71は押圧により弾性変形して、インク供給路内のインクを加圧する。これにより、インクが多孔質部材67に送り込まれ、フイルタ54を通じてケース34内のインクとインク供給路内のインクが繋がり、フイルタ54の圧力損失が軽減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出方式の記録ヘッドを持つインクジェット記録装置と記録ヘッドへ供給されるインクを収納するインクカートリッジとからなるインクジェット記録システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する吐出口が設けられたインク吐出方式の記録ヘッドを備え、この記録ヘッドからインクを液滴として吐出しこれを用紙に付着させて画像を記録する、いわゆるインクジェット記録装置が知られている。インクジェット記録装置には、インクを収納するインクタンクが設けられており、このインクタンクから記録ヘッドへインクが供給される。シリアル方式のインクジェット記録装置では、記録ヘッドは、例えば、主走査方向(用紙の幅方向)に往復動するキャリッジに取り付けられており、このキャリッジを往復動させながら画像をライン記録し、1往復動させる毎にその記録幅分用紙を副走査方向に送って1画面分の画像を記録する。
【0003】
インクは消耗品であるため、その補充の便宜を考慮して、インクタンクは、インクジェット記録装置に交換可能に取り付けられるカートリッジタイプのものが多い。このカートリッジタイプのインクタンク(以下、インクカートリッジという)は、例えば、記録ヘッドとともにキャリッジに取り付けられる。
【0004】
インクジェット記録装置には、前記記録ヘッドへ通じるインク供給路が設けられている。前記インクカートリッジをキャリッジに取り付けると、前記インクカートリッジに形成されたインク取出口が前記インク供給路の端部と接続される。これにより、インクカートリッジから前記記録ヘッドへのインク供給が可能になる。インク供給路は、例えば、中空状のインク供給針で構成されている。インク取出口には、スポンジなどの多孔質部材で形成されたフイルタが設けられており、このフイルタにインク供給針の一端が差し込まれる。
【0005】
キャリッジからインクカートリッジを取り外すときには、前記インク供給針が引き抜かれるが、この引き抜き時に前記インク取出口を通じて前記インクカートリッジの内部へ塵や埃などのゴミが進入しやすい。そのため、インク供給針の押圧によって前記インク取出口を開きインク供給針が引き抜かれるときにインク取出口を塞ぐ弁を設けたインクカートリッジが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1記載のインクカートリッジは、インクを収納する収納室を、メイン収納室とサブ収納室の2室に分け、インク取出口と直接通じるサブ収納室とメイン収納室との間にはフイルタが設けられている。こうした構造を備えることで、メイン収納室へのゴミの進入を確実に防止している。
【特許文献1】特開平8−183185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インクカートリッジは、キャリッジに取り付けられてキャリッジとともに移動するものであるため、そのサイズはできるだけ小さい方がよい。また、インクカートリッジは、インクを使い切った後は交換される消耗品であるため、できるだけ簡素な構造にしてコストダウンを図りたいという要請がある。上記従来のインクカートリッジは、弁が設けられていたり、2室構造を採用しているため、サイズの小型化や構造の簡素化を実現する上で障害が少なくなかった。
【0007】
ゴミの混入防止をするための簡便な方法は、インク取出口に設けるフイルタの目を細かくすることである。しかし、こうすると、フイルタの圧力損失が大きくなるため、記録ヘッドが吸引によりインクをリフィル(充填)する吸引能力を大きくしなければならない。記録ヘッドの吸引能力を大きくすると、記録ヘッドのコスト増につながるという別の問題を生じさせてしまう。
【0008】
本発明の目的は、記録ヘッドの吸引能力を大きくすることなく、ゴミの進入が少ないインクカートリッジの小型化と簡素化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、吐出方式の記録ヘッドとこの記録ヘッドへ通じるインク供給路とを備えたインクジェット記録装置と、前記記録ヘッドへ供給するインクを収納するケースと、前記インク供給路の端部と接続され前記ケース内のインクを取り出して前記インク供給路に送り出すインク取出口とを有し、前記インクジェット記録装置に着脱自在に装着されるインクカートリッジとからなるインクジェット記録システムにおいて、前記インクカートリッジは、前記インク取出口から一面を外部に露呈した状態で配置されるインク濾過用の濾過用多孔質部材と、前記装着時に、前記インクジェット記録装置の一部と当接してこれを押圧する押圧部材とを備えており、前記インクジェット記録装置は、前記インク供給路の端部に配置され、前記インク供給路内のインクを毛管力によって吸収して前記端部にインクを保持するとともに、前記装着時に前記濾過用多孔質部材の露呈面と圧接する接触面を持つインク保持部と、前記インク保持部と前記記録ヘッドとの間で前記インク供給路と連通するとともに前記押圧部材と対向する位置に配置され、前記押圧部材の押圧を受けたときに、前記インク供給路内のインクを加圧して前記インク保持部に向けて前記インク供給路内のインクを送り込み、前記接触面と前記露呈面との界面を通じて、前記インク供給路内のインクと前記ケース内のインクとを繋げる加圧部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記加圧部は、前記インク供給路内のインクの一部を引き込んで貯留するとともに前記押圧部材の押圧を受けて弾性変形してその容積を縮小することにより加圧することが好ましい。
【0011】
前記加圧部は、前記インクを貯留する貯留室が形成され前記押圧部材と対向する位置に開口部が形成される本体と、前記開口部を覆って前記貯留室を密閉するとともに前記押圧部材による押圧を受けて弾性変形する弾性部とからなることが好ましい。
【0012】
前記押圧部材は、一端が前記ケースに固定され他端が前記加圧部と当接してこれを押圧する開放端となる押圧ピンであり、前記装着の際に、前記濾過用多孔質部材と前記インク保持部とが当接する前に、前記開放端が前記加圧部と当接する長さを持つことが好ましい。
【0013】
前記インク保持部は、インクを吸収して保持する保持用多孔質部材と、この保持用多孔質部材を収容する筒状のホルダとからなることが好ましい。
【0014】
前記保持用多孔質部材は、前記接触面が前記ホルダから突出した状態で設けられており、前記露呈面との圧接により押し潰されて、前記接触面から前記露呈面に向けてインクを染み出すことが好ましい。
【0015】
前記濾過用多孔質部材は、多数の小孔が網目状に配列された略平板形状のメッシュフイルタであり、前記小孔の径が5μm〜20μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
前記ケース内には、毛管力によってインクを吸収して保持し、前記記録ヘッドの内圧を負圧に維持するインク吸収体が収容されていることが好ましい。
【0017】
本発明のインクカートリッジは、吐出方式の記録ヘッドとこの記録ヘッドへ通じるインク供給路を備えたインクジェット記録装置に着脱自在に装着され、前記記録ヘッドへ供給するインクを収納するケースと、前記インク供給路と接続され、前記ケース内のインクを取り出して前記インク供給路に送り出すインク取出口とを備えたインクカートリッジにおいて、前記インク取出口から一面を外部に露呈した状態で配置され、前記装着時に、その露呈面が、前記インク供給路の端部に設けられ前記インク供給路内のインクを保持する保持用多孔質部材と圧接するインク濾過用の濾過用多孔質部材と、前記インクジェット記録装置の一部を押圧することにより、前記装着時に前記インク供給路内のインクを加圧して前記保持用多孔質部材を通じて前記濾過用多孔質部材にインク送り込むための押圧部材とを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明のインクジェット記録装置は、吐出方式の記録ヘッドと、この記録ヘッドへ通じるインク供給路と、前記インク供給路が配置され前記記録ヘッドへ供給するインクカートリッジを着脱自在に装着する装着部とを備えたインクジェット記録装置において、前記インク供給路の端部に設けられ、前記インク供給路内のインクを毛管力によって吸収して保持するとともに、前記装着時に前記インクカートリッジに形成されたインク取出口から露呈したインク濾過用の濾過用多孔質部材の露呈面と圧接する保持用多孔質部材を備えたインク保持部と、前記装着時に、前記インクカートリッジに形成された押圧部材からの押圧を受けて、前記インク供給路内のインクを加圧して、前記多孔質部材にインクを送り込む加圧部とを設け、前記多孔質部材と濾過用多孔質部材との界面を通じてインク供給路内のインクと前記インクカートリッジ内のインクとを繋げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、インクカートリッジとインクジェット記録装置とを装着する際に、インクカートリッジに形成された押圧部材で、インクジェット記録装置のインク供給路内のインクを加圧することにより、インク供給路の端部に設けられた保持用多孔質部材を含むインク保持部へインクを送りこみ、この多孔質部材と圧接するインクカートリッジのインク濾過用の濾過用多孔質部材(フイルタ)を通じて、インクカートリッジ内のインクとインク供給路のインクとが繋がるため、記録ヘッドが吸引によりインクをリフィルする際の濾過用多孔質部材の圧力損失を低減することができる。このため、ゴミの進入を防止するためにフイルタの網目を細かくした場合でも、記録ヘッドの吸引能力を大きくすることなく充分なインクを供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に示すインクジェット記録装置10は、用紙11に対してインクを吐出して付着させることにより画像を記録する記録ヘッド12を備えている。記録ヘッド12は、インクを吐出する吐出口が形成された複数のノズルを備えており、これら複数のノズルの吐出口が配列された吐出面が用紙11の記録面と対面するように配置される。記録ヘッド12は、用紙11の幅方向(主走査方向X)に移動自在なキャリッジ13に取り付けられており、キャリッジ13の底面に形成された開口から前記吐出面が露呈される。記録ヘッド12は、キャリッジ13の移動に伴って用紙11の幅方向に沿って往復動しながら、画像をライン記録する。この記録ヘッド12が1往復動する毎に、図示しない搬送ローラによって用紙11が副走査方向Yへ、記録ヘッド12の1往復動による記録幅分送られる。こうした動作が繰り返されて、1画面分の画像が記録される。
【0021】
キャリッジ13は、ガイド棒14a,14bにスライド自在に取り付けられており、ベルト16と1対のプーリ17とからなるベルト機構18によって駆動される。キャリッジ13には、記録ヘッド12の上方に、例えば、Y,M,C,Kの4色のインクがそれぞれ収納された4つのインクカートリッジ21が着脱自在に装着される。キャリッジ13には、各インクカートリッジ21が差し込まれる複数のスロットが形成されている。
【0022】
インクカートリッジ21は、その下面をスロットの床面に向けて装着される。インクカートリッジ21がキャリッジ13に装着されると、インクカートリッジ21と記録ヘッド12とがインク供給路を通じて接続される。記録ヘッド12には、各ノズルに対応してピエゾ素子によって駆動される振動板が設けられており、この振動板の振動による圧力変化により、インクカートリッジ21内のインクがノズルへ吸引され、吐出口から噴射される。
【0023】
キャリッジ13は、記録動作時以外は、記録紙11の搬送路外へ退避して待機する。この待機位置は、キャリッジ13のホームポジションとなり、インクカートリッジ21の交換はこのホームポジションで行われる。ホームポジションには、記録ヘッド12の吐出面を下方から覆って吐出面から漏れ出たインクを受けるヘッドキャップ26が配置されている。このヘッドキャップ26の吐出面と対面する位置には、ノズルの先端に詰まったインクを吸引するための吸引面26aが配置されている。ヘッドキャップ26には、吸引面21aを通じてノズルに詰まったインクを吸引して記録ヘッド12の吐出不良を回復する吐出不良回復用の吸引ポンプ27が接続されている。この吸引ポンプ27によって回収されたインクは、回収部28に回収される。
【0024】
図2に示すように、インクカートリッジ21は、インクを収納するケース34を備えており、このケース34は、インクを収納するインク収納室35が形成されたケース本体32と、このケース本体32の上部開口を閉じる蓋部材33とからなる。蓋部材33は、例えば、ケース本体32にインクを充填した後、上部開口からのインク漏れが生じないようにケース本体32に溶着される。ケース本体32は、例えば、透明なプラスチックで形成されており、インクカートリッジ21内のインクの残量を目視で確認できるようになっている。
【0025】
インク収納室35には、インクを吸収して保持するインク吸収体36が収容される。このインク吸収体36は、毛管力を発生する微細な空隙を含むスポンジ状の部材である。具体的には、ウレタンフォームなどを発泡させた発泡材料や、フエルトなどの繊維材料などの各種の多孔質材料が使用される。インク吸収体36は、その幅及び奥行がインク収納室35の寸法とほぼ同様であり、上面を除く外周面がインク収納室25の内壁と接触した状態で収容される。
【0026】
ケース34は、記録ヘッド12の上方に配置されるので、ケース34内のインクの荷重は、記録ヘッド12に対して正圧として作用する。インク吸収体36は、その毛管力によってインクを吸収することにより、記録ヘッド12のノズル内圧を負圧(大気に対して)に維持する負圧発生部材である。これにより、記録ヘッド12内のインクが不用意にノズルから漏れ出ないようにしている。
【0027】
蓋部材33には、大気導入口41が形成されている。この大気導入口41は、インクの消費量に応じた空気をインク収納室35内に取り込む。蓋部材33の上面には、曲がりくねった溝42が形成されている。この溝42の一端42aは、大気導入口41と接続されており、そこから他端42bに向かう経路上には液溜め部43が設けられている。この溝42のうち、他端42b以外の部分(図上2本の2点鎖線の間の部分)は、その上方がシール45によって封止され、他端42bだけが露呈される。この溝42は、インク収納室25内のインクが大気導入口41から漏れ出た場合に、そのインクを液溜め部43に導いて、インクカートリッジ21の外部へのインク漏れを防止する。空気は、他端42bから進入して大気導入口41に導かれる。
【0028】
また、蓋部材33の下面には、下方に突出する複数のリブ46が設けられている。各リブ46は、蓋部材33がケース本体32に取り付けられると、インク収納室35内に進入して、そこに収容されたインク吸収体36の上面と当接して、インク吸収体36を押し込み、その下面をインク収納室35の床に押しつける。こうしてインク吸収体36の位置決めを行うことで、インク吸収体36と蓋部材33との間に空間が確保される。インク吸収体36は、リブ46によって位置決めされるので、インク吸収体36が位置ずれして大気導入口41を塞いでしまうことはない。
【0029】
ケース34の下面には、インク収納室35からインクを取り出して、記録ヘッド12へ供給するためのインク取出部51が設けられている。インク取出部51は、例えば、ケース34の底部に形成された略円形の取出口51aと、この取出口51aから下方に向けて突出する筒状の突出部51aからなる。インク収納室35の床面には、この取出口51aの位置に、略平板形状のフイルタ54が配置される。フイルタ54は、取出口51aを通じてその下面(露呈面)54aが露呈される。
【0030】
フイルタ(濾過用多孔質部材)54は、取出口51aを通って外部へ取り出されるインクを濾過する。フイルタ54は、記録ヘッド12による吸引圧力が作用していないときは、ケース34内のインクが外部へ流出するのを防止するとともに、前記吸引圧力が作用するとインクを通過させてケース34外へインクを流出させる。そのため、インクが通過可能な多数の小孔を持ちその毛管力によってインクのメニスカスを形成してインク保持力を発生する多孔質部材が使用される。本例のフイルタ54は、多数の小孔が網目状に配列されたメッシュフイルタであり、このフイルタ54を設けることにより、例えば、インク収納室35内で凝固したインクや異物が記録ヘッド12内へ流入することが防止される。フイルタ54の小孔の径は、例えば、約5μm〜20μmであることが好ましい。このように細かい目のフイルタ54を用いることで、取出口51aを通じてケース34の外部からインク収納室35内への塵や埃などのゴミの進入を確実に防止することができる。
【0031】
しかし、このような目が細かいフイルタ54を用いると、そのフイルタ54の小孔には毛管力によってインクメニスカスが形成されてフイルタ54によってインクが保持されるので、インクカートリッジ21をインク記録装置10に装着していないときには、フイルタ54を境にケース34内のインクとケース34外の大気とが分離される(気液分離)。こうしたフイルタ54を通じてケース34のインクをインク供給路へ取り出すためには、前記インクメニスカスを破壊するための大きな吸引力が必要になってしまう。そのため、本発明のインクカートリッジ21とインクジェット記録装置10には、インクカートリッジ21をインクジェット記録装置10に装着したときに、こうしたフイルタ54の圧力損失を軽減する工夫が施されている。
【0032】
ケース34の下面には、一端がケース34に固定され他端が下方に延びて開放端となる押圧ピン56が設けられている。この押圧ピン56は、後述するように、インク供給路内のインクを加圧して、記録ヘッド12へ向かう供給方向とは反対にケース34に向かう逆流を発生させ、インク供給路からフイルタ54に向けてインクを送り込むインク加圧機構を構成する押圧部材である。こうしてインク供給路からフイルタ54に向けてインクを送り込むことで、インク供給路内のインクとケース34内のインクとが繋がり、フイルタ54の圧力損失が軽減される。
【0033】
図3に示すように、キャリッジ13の各スロットには、インクカートリッジ21のインク取出部51と押圧ピン56のそれぞれに対応する位置に、開口61,62が形成されている。開口61には、インク取出部51と接続するインク保持部66が配置されている。インク保持部66は、記録ヘッド12へ通じるインク供給路を構成するインク供給管64の端部に設けられる。インク取出部51は、このインク保持部66を通じてインク供給管64と接続される。
【0034】
インク保持部66は、インクを吸収して保持する保持用の多孔質部材(以下、単に多孔質部材という)67と、これを収容する筒状のホルダ68とからなる。インク保持部66は、多孔質部材67の毛管力によってインク供給路内のインクを吸引して、インク供給路の端部(インク取出部51が接続される側)にインクを保持する。多孔質部材67としては、上記インク吸収体36と同様のスポンジなどが使用される。
【0035】
インクカートリッジ21がキャリッジ13に取り付けられると、インク取出部51は、突出部51bがインク保持部66を包み込むように開口61からキャリッジ13の内部に進入して、フイルタ54の露呈面54aとが、多孔質部材67の上面である接触面67aと接触する。
【0036】
多孔質部材67は、その接触面67aを含む上部がホルダ68の上端面よりも長さDだけ上方に突出するように配置されている。これは、フイルタ54が、その露呈面54aを接触面67aに圧接して、多孔質部材67を押し潰すことができるようにするためである。多孔質部材67が押し潰されると、吸収しているインクが、前記接触面67aから前記露呈面54aに向けて染み出す。これにより、フイルタ54を通じてケース34内にインクが送り込まれて、インク供給路内のインクとインク収納室35のインクとが繋がり、フイルタ54を通過するインクの流路抵抗が減少する。
【0037】
インク供給路内のインクとインク収納室35のインクを繋げる程度に、多孔質部材67からインクを染み出させるには、多孔質部材67に潤沢にインクを吸収させて湿潤な状態にしておく必要がある。そのため、キャリッジ13には、押圧ピン56の押圧により、インク供給路内のインクを加圧して、インク保持部66に向けてインクを送り込む加圧部71が設けられている。加圧部71は、接続管72を介して、インク保持部66と記録ヘッド12との間でインク供給管64と接続して、インク供給路と連通する。加圧部71は、押圧ピン56とともにインク加圧機構を構成する。
【0038】
加圧部71は、接続管72を通じてインク供給路内からインクを引き込み、引き込んだインクを貯留する。加圧部71は、押圧ピン56が進入する開口62と対応する位置に配置されている。加圧部71は、インクを貯留する貯留室74aが形成された本体74と、この本体74の上部開口を覆う弾性部76とからなる。弾性部76は、例えば、貯留室74aを密閉する可撓性の薄膜フイルム77と、この薄膜フイルム77を、貯留室74aを膨張させる方向に付勢する板バネ78とからなる。弾性部76は、押圧ピン56の押圧を受けると、貯留室74の容積を縮小する方向(図上二点鎖線)に弾性変形する。これにより、貯留されたインクが接続管72を通じてインク供給路に流入して、インク供給路内のインクが加圧される。
【0039】
この加圧により、インク供給路内のインクは、一部はインク供給路の供給方向に沿って記録ヘッド12へ流れるとともに、一部は供給方向とは反対にインク保持部66に向けて逆流する。これにより多孔質部材67にインクが送り込まれる。インクカートリッジ21を装着する際には、記録ヘッド12がヘッドキャップ26によりキャッピングされているので、記録ヘッド12に向けてインクが流れてもノズルのインクメニスカスが破壊されず、吐出面からインクが漏れでることはない。仮にインクメニスカスが破壊されてノズルからインクが漏れ出たとしても、漏れ出たインクは、ヘッドキャップ26が受けて、回収部28に回収される。
【0040】
また、加圧部71は、インクカートリッジ21をキャリッジ13から取り外すと、押圧ピン56の押圧が解除されて弾性部77が初期状態に復帰する。このときに貯留室74aが膨張して、インク保持部66内のインクが再び加圧部71に引き込まれる。そのため、インクカートリッジ21を取り外す際に、インク保持部66から外部へインクが漏れ出たり飛散したりすることが防止される。
【0041】
多孔質部材67へのインクの送り込みは、フイルタ54の露呈面54aが多孔質部材67の接触面67aと接触する前に開始されることが好ましい。というのは、接触面67aと露呈面54aの接触の前に、接触面67aからインクを染み出させておかないと、接触面67aと露呈面54aが圧接したときに、その界面に空隙が生じて、フイルタ54に向けてインクを送り込みにくくなる。そこで、押圧ピン56の長さLは、フイルタ54が多孔質部材67に接触する前に、弾性部76と当接して加圧が開始される長さに決められている。これにより、接触面67aからインクが染み出した状態で露呈面54aを接触させることができる。
【0042】
以下、上記構成による作用について図4を参照しながら説明する。インクカートリッジ21をキャリッジ13に取り付ける際には、ケース34の下面をキャリッジ13に向けた状態で下降させて、スロット13aに挿入する。図4(A)に示すように、インク取出部51は開口61へ、押圧ピン56は開口62へそれぞれ進入する。
【0043】
そして、フイルタ54の露呈面54aと、多孔質部材67の接触面67aとが接触する前に、押圧ピン56が加圧部71に当接して押圧を開始する。これにより、インク供給路内のインクが加圧されて、インク保持部66にインクが送り込まれて、多孔質部材67が湿潤な状態になるとともに、その接触面67aからインクが染み出す。
【0044】
さらに、ケース34をスロット13aに押し込むと、露呈面54aが接触面67aと当接して、多孔質部材67と圧接してこれを押し潰す。これにより、接触面67aからさらにインクが染み出してフイルタ54にインクが送り込まれ、接触面67aと露呈面54aの界面を通じて、ケース34内のインクと、インク供給路内のインクとが繋がる。
【0045】
記録ヘッド12が記録動作を開始すると、インク供給路を通じてインクカートリッジ21からインクを吸引して、記録ヘッド12のインク吐出量に応じた量のインクを記録ヘッド12へリフィルする。ケース34内のインクと、インク供給路内のインクとが繋がることで、フイルタ54の圧力損失が減少しているので、記録ヘッド12は、わずかな力でインクをリフィルすることができる。
【0046】
なお、インク貯留部74には、インクジェット記録装置10の出荷時にインクを充填しておくことが好ましい。こうすることで、インクカートリッジ21の初回装着時から、上述の効果を得ることが可能となる。
【0047】
上記実施形態で示したフイルタの小孔の径は1例であり、上記範囲外でもよく、さらに目を細かくしてもよいし、上記フイルタよりも目の粗いフイルタを使用してもよい。また、上記実施形態では、フイルタとしてメッシュフイルタを用いた例で説明したが、これ以外でも、例えば、気液分離するために十分な毛管力を発生する不織布や、撥水加工を施したポリエチレン焼結体(ポリエチレンを結合材とともに高温,高圧下で固めた材料)で形成された薄膜などの多孔質部材をフイルタとして使用してもよい。
【0048】
また、上記実施形態の加圧部の構成は1例であり、種々の変形が可能である。例えば、スポイト形状のゴム袋などの弾性体で加圧部を構成してもよい。また、押圧ピンで直接加圧部を押圧するようにしているが、押圧ピンと加圧部との間に連動機構を介在させて間接的に押圧を行うようにしてもよい。また、板バネの代わりにインク貯留部内にスポンジ等の弾性部材を設けてもよい。こうすれば、仮に薄膜フイルムが破損した場合でもインク貯留部からのインク漏れを抑制することができる。
【0049】
なお、上記実施形態では、インクカートリッジを、インク取出部を下方に向けた姿勢で使用した例で説明しているが、インク取出部を上向きや横向きにした姿勢で使用してもよい。また、インクカートリッジを記録ヘッドの上方に配置した例で説明したが、上方配置でなくてもよい。インクカートリッジが記録ヘッドよりも下方に配置されるような場合には、インクカートリッジ内のインクの荷重が記録ヘッドに作用しなくなるので、ケース内に負圧を発生させるインク吸収体を設ける必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】インクカートリッジの分解斜視図である。
【図3】インクカートリッジとキャリッジの接続部の説明図である。
【図4】インクカートリッジとキャリッジの装着手順の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
10 インクジェット記録装置
11 用紙
12 記録ヘッド
13 キャリッジ
21 インクカートリッジ
34 ケース
35 インク収納室
36 インク吸収体
51 インク取出部
51a 取出口
54 フイルタ(濾過用多孔質部材)
54a 露呈面
56 押圧ピン
64 インク供給管
66 インク保持部
67 多孔質部材(保持用多孔質部材)
67a 接触面
71 加圧部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出方式の記録ヘッドとこの記録ヘッドへ通じるインク供給路とを備えたインクジェット記録装置と、
前記記録ヘッドへ供給するインクを収納するケースと、前記インク供給路の端部と接続され前記ケース内のインクを取り出して前記インク供給路に送り出すインク取出口とを有し、前記インクジェット記録装置に着脱自在に装着されるインクカートリッジとからなるインクジェット記録システムにおいて、
前記インクカートリッジは、前記インク取出口から一面を外部に露呈した状態で配置されたインク濾過用の濾過用多孔質部材と、前記装着時に、前記インクジェット記録装置の一部と当接してこれを押圧する押圧部材とを備えており、
前記インクジェット記録装置は、前記インク供給路の端部に配置され、前記インク供給路内のインクを毛管力によって吸収して前記端部にインクを保持するとともに、前記装着時に前記濾過用多孔質部材の露呈面と圧接する接触面を持つインク保持部と、前記インク保持部と前記記録ヘッドとの間で前記インク供給路と連通するとともに前記押圧部材と対向する位置に配置され、前記押圧部材の押圧を受けたときに、前記インク供給路内のインクを加圧して前記インク保持部に向けて前記インク供給路内のインクを送り込み、前記接触面と前記露呈面との界面を通じて、前記インク供給路内のインクと前記ケース内のインクとを繋げる加圧部とを備えたことを特徴とするインクジェット記録システム。
【請求項2】
前記加圧部は、前記インク供給路内のインクの一部を引き込んで貯留するとともに前記押圧部材の押圧を受けて弾性変形してその容積を縮小することにより加圧することを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録システム。
【請求項3】
前記加圧部は、前記インクを貯留する貯留室が形成され前記押圧部材と対向する位置に開口部が形成される本体と、前記開口部を覆って前記貯留室を密閉するとともに前記押圧部材による押圧を受けて弾性変形する弾性部とからなることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録システム。
【請求項4】
前記押圧部材は、一端が前記ケースに固定され他端が前記加圧部と当接してこれを押圧する開放端となる押圧ピンであり、前記装着の際に、前記濾過用多孔質部材と前記インク保持部とが当接する前に、前記開放端が前記加圧部と当接する長さを持つことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のインクジェット記録システム。
【請求項5】
前記インク保持部は、インクを吸収して保持する保持用多孔質部材と、この保持用多孔質部材を収容する筒状のホルダとからなることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のインクジェット記録システム。
【請求項6】
前記保持用多孔質部材は、前記接触面が前記ホルダから突出した状態で設けられており、前記露呈面との圧接により押し潰されて、前記接触面から前記露呈面に向けてインクを染み出すことを特徴とする請求項5記載のインクジェット記録システム。
【請求項7】
前記濾過用多孔質部材は、多数の小孔が網目状に配列された略平板形状のメッシュフイルタであり、前記小孔の径が5μm〜20μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載のインクジェット記録システム。
【請求項8】
前記ケース内には、毛管力によってインクを吸収して保持し、前記記録ヘッドの内圧を負圧に維持するインク吸収体が収容されていることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載のインクジェット記録システム。
【請求項9】
吐出方式の記録ヘッドとこの記録ヘッドへ通じるインク供給路を備えたインクジェット記録装置に着脱自在に装着され、前記記録ヘッドへ供給するインクを収納するケースと、前記インク供給路と接続され、前記ケース内のインクを取り出して前記インク供給路に送り出すインク取出口とを備えたインクカートリッジにおいて、
前記インク取出口から一面を外部に露呈した状態で配置され、前記装着時に、その露呈面が、前記インク供給路の端部に設けられ前記インク供給路内のインクを保持する保持用多孔質部材と圧接されるインク濾過用の濾過用多孔質部材と、前記インクジェット記録装置の一部を押圧することにより、前記装着時に前記インク供給路内のインクを加圧して前記保持用多孔質部材を通じて前記濾過用多孔質部材にインク送り込むための押圧部材とを備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
吐出方式の記録ヘッドと、この記録ヘッドへ通じるインク供給路と、前記インク供給路が配置され前記記録ヘッドへ供給するインクカートリッジを着脱自在に装着する装着部とを備えたインクジェット記録装置において、
前記インク供給路の端部に設けられ、前記インク供給路内のインクを毛管力によって吸収して保持するとともに、前記装着時に前記インクカートリッジに形成されたインク取出口から露呈したインク濾過用の濾過用多孔質部材の露呈面と圧接する保持用多孔質部材を備えたインク保持部と、
前記装着時に、前記インクカートリッジに形成された押圧部材からの押圧を受けて、前記インク供給路内のインクを加圧して、前記保持用多孔質部材にインクを送り込む加圧部とを設け、
前記保持用多孔質部材と前記濾過用多孔質部材との界面を通じてインク供給路内のインクと前記インクカートリッジ内のインクとを繋げることを特徴とするインクジェット記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−50666(P2007−50666A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238923(P2005−238923)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】