説明

インクジェット記録ヘッドのキャッピング構造およびインクジェット式記録装置

【課題】インクジェット式の記録装置において、ヘッド部のノズルが、増粘したインク滴によって塞がれて生ずる画像の乱れを解消する。
【解決手段】ヘッド部14が下方に突出し、該ヘッド部14の先端ノズル面にインク滴を吐出するノズル16が形成されている記録ヘッド部10と、底面部21と該底面部21の周囲から立ち上がる枠部22とを有し、非記録時に前記ヘッド部14に被せられるキャップ11とを備え、前記キャップ11をヘッド部14に被せたとき、ヘッド部14の側面18とキャップ11の枠部22の内面27との間に、下記式1で示される、ヘッド部側面18に付着したインク液滴の最大厚さより大きい隙間28を設けたインクジェット記録ヘッドのキャッピング構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録ヘッドのキャッピング構造およびインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のインクジェット式の記録装置に設けられる記録ヘッドは、例えば図20に示すように、先端にフェイス面101を有し、そのフェイス面105には、インク滴を吐出するためのノズル102が形成されたヘッド部103が突出している(特許文献1)。
【0003】
また、記録装置には、ノズル102内のインクの乾燥を防止するために、皿状のゴム製のキャップ109が設けられる。このキャップ109によってヘッド部103を覆うようにしている。すなわち、このキャップ109にはフェイス面101の外周領域106に弾力的に当接する隆起部110が設けられ、底部にはノズル102内に残ったインクを吸引するための吸引孔111が形成されている。
さらにキャップ109を被せる前に、図示しないワイピングブレードでヘッド部103のノズル面105の残インクを拭きとるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特開2006−103275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の記録装置では、印刷時にヘッド部103のノズル102内にインクを充填するとき、ノズル102からインクが流れ出て、ノズル面175を濡らすが、一部はヘッド部103の側面112にも広がる。また、前述のように、ワイピングブレードでヘッド部103のノズル面175の残インクを拭きとるが、残インクの一部はヘッド部103の側面112に追いやられる。さらに側面に付着したインクが液滴状になると、外周領域まで広がってしまう。
ここで、従来の記録装置ではヘッド部103の側面とキャップ109の隆起部110が当接する位置の間の距離が1mm以下しかないため、キャップ109をヘッド部の側面112や外周領域106に付着したインクの一部は隆起部110の外側にはみ出した状態になる。隆起部110の外側にはみ出したインクは外気にさらされるので乾燥してしまい、粘度が高くなり最悪固化してしまう。
そのため、ワイピングブレードでヘッド部103をクリーニングする際に、ワイピングブレードインクが固化していれば、ワイピングブレードが固化したインクに当接した際に、ワイピングブレードが変形したり傷ついたりし、その結果、ワイピング不良が発生して、インクの拭き残しが生じることでインクの吐出に支障が生じてしまう。また、増粘したインクにワイピングブレードが接触してワイピングブレードに増粘したインクが付着すると、この増粘したインクがノズル102に付着してインクの吐出を妨げてしまうことがある。
【0006】
従って、本発明は、従来のインクジェット式記録装置における上記の問題を解消し、ヘッドの側面に付着したインクが増粘するのを抑制し、残インクがノズル面に付着するのを抑制し、長期間放置した場合でも不吐出が生じず、画像の乱れを防止することができるインクジェット記録ヘッドのキャッピング構造、およびこれを用いたインクジェット式記録装置を提供することを技術課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインクジェット記録ヘッドのキャッピング構造は、ヘッド部が下方に突出し、該ヘッド部の先端ノズル面にインク滴を吐出するノズルが形成されている記録ヘッド部と、底面部と該底面部の周囲から立ち上がる枠部とを有し、非記録時に前記ヘッド部に被せられるキャップとを備え、前記キャップをヘッド部に被せた状態で、ヘッド部の側面とキャップの枠部内面との間に、下記式1で示される、ヘッド部側面に付着したインク液滴の最大厚さHより大きい隙間を設けた、ことを特徴とする(請求項1)。
【数1】

(但し、Sはヘッド部側面に付着したインク液滴の断面積[m2]を示し、γはインク滴の表面張力[mN/m]、θはヘッド部の側面と液滴の上面とのなす角度[度]、ρは液滴の密度[kg/m2]、gは重力加速度[m/s2]である。)
【0008】
ヘッド部の側面とキャップの枠部内面との間に形成される前記隙間は2mm以上であるのがよい(請求項2)。また、前記キャップの枠部先端に弾性体からなる突条が設けられており、該突条と対向する前記記録ヘッド部の先端表面には、前記突条が嵌合する環状溝が形成されており、前記記録ヘッド部に、前記環状溝から前記突条を押し出すための押し出し機構が設けられているのが好ましい(請求項3)。その場合、前記押し出し機構は、前記記録ヘッドに回転自在に設けられた軸と、この軸に固定された板状ないし扁平ローラ状の押し出し部材とからなり、前記軸を回転させて、前記押し出し部材によって前記突条を環状溝から押し出すようにするのが好ましい(請求項4)。
【0009】
また、本発明のインクジェット式記録装置は、上記のインクジェット記録ヘッドのキャッピング構造を備えたものであって、記録紙を搬送する搬送ユニットと、該搬送ユニットの上に設けられ、ヘッド部が下方に突出し、該ヘッド部の先端ノズル面にインク滴を吐出するノズルが形成されているインクジェット記録ヘッド部と、底面部と該底面部の周囲から立ち上がる枠部とを有し、非記録時に前記ヘッド部に被せられるキャップとを備え、前記キャップをヘッド部に被せた状態で、ヘッド部の側面とキャップの枠部内面との間に、前記式1で示される、ヘッド部側面に付着したインク液滴の最大厚さHより大きい隙間を設けた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のキャッピング構造によれば、キャップでノズル面を覆ったとき、ヘッド部の側面とキャップの枠部の内面との間に、前記式1で示される、ヘッド部側面に付着したインク液滴の最大厚さHより大きい隙間(好ましくは2mm以上の隙間)が設けられるので、ヘッド部の側面に存在するインクがキャップの外側にはみ出して外気に接触し、乾燥固化するのを防止することができる。その結果、ワイピングブレードでヘッド部をワイプする時に、固化したインクによってワイピングブレードが変形または傷つき充分なワイプができないことで、ノズル面にインクが残留してしまいインクの吐出に影響してしまうということが防げる。
また、ノズル部の側面に付着し増粘したインクがブレードの先端に付着すると、ノズル面のクリーニング時にノズルに増粘したインクが付着してノズル穴を塞いだりすることになるが、本発明ではノズル部の側面に付着し増粘したインクがキャップの枠部側に移らないので、ノズルが塞がず、それにより、長期間放置した場合でも不吐出が生じず、画像の乱れも解消する。
【0011】
このようなキャッピング構造において、前記キャップの枠部を剛性材料から形成すると共に、枠部の先端に弾性体からなる環状の突条が設けられ、該突条と対向する前記記録ヘッド部の先端表面には、前記突条が嵌合する環状溝が形成されている場合は、ヘッド部に被せたキャップ内を気密に保つことができ、インク滴の乾燥を防止することができる。
【0012】
前記記録ヘッドに、前記環状溝の底部から前記突条を押し出すための押し出し機構が設けられている場合は、長時間、突条を環状溝に嵌合させた後でも、突条をスムーズに環状溝から抜き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るインクジェット記録ヘッドのキャッピング構造の一実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1のキャップの平面図である。
【図3】図1のA部拡大断面図である。
【図4】ヘッド部の側面に付着したインク滴の液滴を示す説明図である。
【図5】本発明が適用されるインクジェット記録装置の一例を示す模式的平面図である。
【図6】インクジェット記録装置の概要を示す模式的正面図であり、記録時の状態を示す。
【図7】インクジェット記録装置の概要を示す模式的正面図であり、ノズルにキャップを被せた状態を示す。
【図8】キャップユニットを示す右側面図である。
【図9】水平駆動機構を示す外観斜視図である。
【図10】キャップユニットの取付状態を説明する分解斜視図である。
【図11】水平駆動機構からキャップユニットを省略した状態を示す斜視図である。
【図12】水平駆動機構の駆動内容の説明図(平面図)である。
【図13】(a)はワイパー部材の駆動機構を示す右側面図であり、(b)はワイパー部材の駆動機構を示す正面図である。
【図14】(a)は第1記録ヘッドと第3記録ヘッドを有する列の掃除状態を示す右側面図で、(b)は第2記録ヘッドを有する列の掃除状態を示す右側面図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置の概要を示す模式的平面図である。
【図16】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置の掃除状態を示す右側面図である。
【図17】搬送ユニットの昇降装置を示す斜視図である。
【図18】図17に示す昇降装置の偏心カムの斜視図である。
【図19】図17の昇降装置及びその周辺を示す部分拡大正面図である。
【図20】従来の記録装置のキャッピング構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに図面を参照しながら本発明のキャッピング構造およびこれを用いたインクジェット式記録装置を説明する。図1は本発明の記録装置の一実施形態を示す要部概略断面図、図2は図1のキャップの平面図、図3は図1のY部拡大図、図4はヘッド部の側面に付着したインク滴の液滴を示す説明図である。
【0015】
図1はこの実施形態に係るキャッピング構造12を示している。キャッピング構造12において、インクジェット記録ヘッド部(以下、記録ヘッド部ということがある。)10は、略直方体状の記録ヘッド13と、その記録ヘッド13によって固定されているヘッド部14とを備えている。ヘッド部14は略直方体状で、記録ヘッド13の先端面15から約1〜10mm程度突出している。ヘッド部14の平面形状は略矩形状である。ヘッド部14には多数のノズル16が形成されている。ヘッド部14の先端は平坦なノズル面17であり、その中央部にノズル16が開口している。ヘッド部14の側面18はノズル面17に対して略直角である。
【0016】
ヘッド部14をキャッピングするキャップ11は、底面部21と、該底面部の周縁から直角に立ち上がる枠部22(側壁)とからなる。枠部22は図2に示すように、平面視で略矩形状である。そして図2、図3に示すように、枠部22の上端である開口端面23にはゴムなどの弾性体からなる環状の突条24が突出している。突条24の内部には剛性を有する柱25が内蔵されている、この柱25は弾性体を傷つけないように上端の角を丸くした形状を有する。柱25と枠部22とは同一または相異なる金属または合成樹脂(熱硬化性樹脂等)から構成することができる。
【0017】
記録装置を長時間使用しない場合(非記録時)には、図示しない偏芯カムを用いた昇降装置によりキャップ11を上昇させて記録ヘッド部10のヘッド部14の下端面をキャッピングする。そして、前記枠部22の上端の突条24を、記録ヘッド13の先端面15に気密に嵌合させる。これによってインク滴の乾燥を防止する。
【0018】
その際、ヘッド部14の全周において、側面18とキャップ11の枠部22の内面27との間に、側面18に付着したインク滴の液滴と接触しない寸法の隙間28が形成されている。この隙間28の寸法は、図4に示すように、側面18に付着した液滴29の最大厚さHよりいくらか大きい。前記液滴29の最大厚さHは、実測することができるが、設計値として、下記式1、2から求めることもできる。
【数2】

【0019】
ここで、Sは図4に示す状態の液滴29の断面積[m2]であり、液滴に加わる重力(ρgS・L)と表面張力(γ・cosθ・L)との釣り合いから、上記式2で計算することができる。なおLはヘッドの奥行き方向の寸法である。また、Hとして断面Sの平方根とするのは、2次元の価を1次元の長さの寸法に換算するためである。
【0020】
ただしγはインク滴の表面張力[mN/m]、θはヘッド部14の側面18と液滴33の上面とのなす角度[度](接触角、図4の符号θ参照)、ρは液滴の密度[kg/m2]、gは重力加速度[m/s2]である。
【0021】
例えば、通常のインクは、密度ρが1000 kg/m2、重力加速度gが9.8m/s2、表面張力γが28〜40mであるから、接触角θが5〜30度であれば、断面積Sは約4mm2である。従って、液滴29の最大厚さHは2mmとなるから、隙間28の寸法としては、2mmよりも大きい寸法を採用すればよい。
【0022】
さらに、図1に示すキャッピング構造12では、記録ヘッド13の内部に、環状溝35内に嵌合した突条24を押し出すための押し出し機構36が設けられている。
【0023】
押し出し機構36は、記録ヘッド13に回転自在に設けられる軸37と、その軸37に固定される板状ないし扁平ローラ状の押し出し部材38とからなる。軸37および押し出し部材38は通常は金属製であるが、合成樹脂製であってもよい。上記軸37を手動または機械的に回転させて、押し出し部材38によって前記枠部22の上端の突条24を環状溝35から押し出すようにする。
【0024】
押し出し機構36は、記録ヘッド部10の長手側にキャップ11の長さ以上の大きさがあってもよい。その場合はローラ式になっている。そうでない場合は、キャップ11の枠端部と各々の枠の中心に、押し出し機構36が設けられる。すなわち、軸37に、不図示の断面が楕円形のローラ部材が紙面に垂直な方向に伸びる柱状部材が固定されている。この柱状部材は通常は楕円形の短軸が垂直方向を向いていてキャップ11の先端と当接しないようになっている。キャップ11を押し出す時は、軸37の回転と共に楕円形柱状部材の長軸が垂直方向を向いてキャップを押し出す。なお、柱状部材37は枠端部と各々の枠に対応する長さであっても良い。
【0025】
上記のように構成されるキャッピング構造12を備えたインクジェット式の記録装置では、記録ヘッド部10にインク滴を加圧して充填する際に、ノズル16からインク滴が流れ出る。流れ出たインク滴はノズル面17を濡らすと共に、ヘッド部14の側面18にも広がる。また、後述するワイパー部材(ワイパーブレード)でノズル面17をワイプしたとき、ノズル面17を濡らしていたインク滴はワイプと同時にヘッド部の側面18に追いやられ、側面18に図4に示すような液滴(雫)29を形成する。このとき形成される液滴29のヘッド部の側面18からの最大突出高さHは前述のように約2mm程度である。
【0026】
しかし、この記録装置では、図1に示すように、ヘッド部の側面18とキャップ11の枠部22の内周面との隙間が液滴の最大厚さH以上であるので、キャップ11を被せたときでもキャップの枠部22の内面に液滴が付着しない。したがって再度キャップを記録ヘッド部10に被せたときに、増粘した液滴がノズル面17に付着することがなく、ノズル16を塞ぐ問題が解消される。
【0027】
さらに前記キャッピング構造12では、キャップ11の枠部22の先端に弾性体からなる環状の突条24が設けられており、記録ヘッド部10の先端面15に突条24と嵌合する環状溝35が形成されているので、キャップの内部の気密性が高くなる。
【0028】
さらに図1に示すように、記録ヘッド部の先端面15に形成された環状溝35には、環状溝から突条24を押し出す押し出し機構36が設けられているので、長期間保管された記録装置を作動させたときでも、突条24が環状溝35にくっついてキャップ11を上下動させたときに突条24が破れるといった問題がない。
【0029】
次に、この実施形態における、キャッピングを行うためのキャップ11の水平移動機構を説明する。図5は本発明が適用されるインクジェット記録装置の一例を示す模式的平面図である。図6および図7はインクジェット記録装置の概要を示す模式的正面図であり、図6は記録時の状態で、図7はノズルにキャップを被せた状態である。
【0030】
このインクジェット記録装置1は、記録紙を搬送する搬送ユニット2と、その搬送ユニット2の上に設けた記録ヘッド部10と、記録ヘッド部10の下側のキャップ位置Aと記録ヘッド部10の下側から外れた待機位置Bとに対して水平移動しキャップ位置Aにおいて昇降するキャップユニット4とを有する。
【0031】
搬送ユニット2は、駆動ローラ20と、従動ローラ21と、これらに掛け渡した周回する搬送ベルト22と、搬送ベルト22のテンションを調整するテンションローラ23と、搬送ベルト22の上面部分の下側に設けられた吸引ユニット24とを有する。搬送ベルト22には図示しない吸引用の貫通孔が多数設けられていて、記録時においては、その貫通孔を介して搬送ベルト22に記録紙を吸着して搬送することができる。また、記録時においては搬送ベルト22に吸着されて搬送している記録紙に対して、後述の記録ヘッド部10のインク噴射用ノズルからインクが吐出されて画像形成が行われる。このように構成された搬送ユニット2は、後述する昇降手段によって昇降するようになっている。
【0032】
記録ヘッド部10は、所定位置に固定されていて、下側のノズル面17に複数のインク噴射用ノズル16(噴射口)が形成された複数、例えば12個の記録ヘッド13を有し、これら記録ヘッド13が複数の列、例えば8つの列に分散しかつ4つの列でその列方向に間に隙間をあけて2つ配置された構成となっている。そして、2個の列とその隣の1個の列とで1組の記録ヘッド13が構成され、ここで2個の列の記録ヘッド13の待機位置B側のものを第1記録ヘッド13a、その反対側のものを第3記録ヘッド13c、その隣の1個の列の記録ヘッド13を第2記録ヘッド13bとする。
【0033】
上述した12個の記録ヘッド13は、全て同一構成であって、ノズル面17の周縁Cにはノズルが無く、ノズル面17の中央部Dにノズルが配設されていて(図14参照)、各ノズルにはインクが供給されるようになっている。
【0034】
キャップユニット4は、図8に示すように、その上側に、キャップ11とワイパー手段41とを備える。このキャップユニット4は、図9〜図12に示す水平駆動機構42によりキャップ位置Aと待機位置Bとにわたり水平移動し、また図示しない垂直駆動機構により昇降するようになっている。なお、垂直駆動機構としては、例えば四隅に配したカム等を同期的に駆動させる機構などが用いられる。
【0035】
図9は水平駆動機構42を示す外観斜視図、図10はキャップユニット4の取付状態を説明する分解斜視図、図11は水平駆動機構42からキャップユニット4を省略した状態を示す斜視図、図12は水平駆動機構42の駆動内容の説明図(平面図)である。
【0036】
水平駆動機構42は、キャップユニット4を水平移動させる方向Eと水平な方向に離隔配置した2本の水平なレール部材43a、43bを有し、これら前記方向Eに伸びる一対のレール部材43a、43bは複数の支柱43cを介して水平かつ所定高さとなるように支持されている。右側のレール部材43aの後側には駆動モータ46が配設されていて、この駆動モータ46の回転軸には歯車46aが取付けられている。この歯車46aには、回転プーリー44bの下側に設けた歯車44b−1が噛合し、また歯車46aには回転プーリー44eの下側に設けた歯車44e−1が、間に歯車46bを介して噛合している。右側のレール部材43aの前側には回転プーリー44aが設けられていて、この回転プーリー44aと前記回転プーリー44bとには、スライダー45cの前端と後端とに両端を連結したベルト45aが掛け渡されている(図10)。
【0037】
一方、左側のレール部材43bの前側には回転プーリー44cが、後側には回転プーリー44dがそれぞれ設けられている。これら回転プーリー44c、44dには、スライダー45dの前端と後端とに両端を連結したベルト45bが掛け渡されている。また、回転プーリー44dとその右側の前記回転プーリー44eとには無端ベルト45eが掛け渡されており、上述した全ての回転プーリー44a〜44eは軸心を鉛直方向にして配設されている。
【0038】
更に、上記スライダー45c、45dには、スライドを容易にするコロ45c−1、45d−1が設けられており、これらスライダー45c、45dの上には、キャップユニット4の左右両側の端部4a、4bが取付けられている。
【0039】
このように水平駆動機構42は構成されているので、例えば駆動モータ46の回転軸を正方向(右回り)に回転させると、右側のベルト45aが左回りに周回してスライダー45cを後側→前側へ向けてスライドさせ、かつ左側のベルト45bが右回りに周回してスライダー45dを後側→前側へ向けてスライドさせる。これにより、キャップユニット4は、待機位置B→キャップ位置Aに移動する。上記とは逆回り(左回り)に回転させると、右側のベルト45aが右回りに周回してスライダー45cを前側→後側へ向けてスライドさせ、かつ左側のベルト45bが左回りに周回してスライダー45dを前側→後側へ向けてスライドさせる。これにより、キャップユニット4は、キャップ位置A→待機位置Bに移動する。よって、駆動モータ46の回転軸の回転方向により、キャップユニット4はキャップ位置Aと待機位置Bとの間を往復移動する。
【0040】
キャップ11は、記録ヘッド13に対応した数(例えば12個)で、かつ記録ヘッド13と同じ配置関係を有し、各キャップ11は各ノズルに対応して上向きのキャップが同数形成されている。また、キャップユニット4は、記録時に際してキャップ位置Aから待機位置Bへと水平移動し、ノズルにキャップを被せる時に、待機位置Bからキャップ位置Aへと水平移動した後に上昇し、キャップがノズルに被せられる。また、記録時に際してキャップユニット4は降下してキャップがノズルから外れる。
【0041】
また、キャップユニット4に設けたワイパー手段41は、記録ヘッド部10の下面に配したノズル面17を掃除するもので、キャップユニット4の上面に設けられている。また、ワイパー手段41は、記録ヘッド13を配置した列の数のワイパー部材47を備える(図5参照)。各ワイパー部材47は、図13に示すようにゴム製のワイパー47aと、そのワイパー47aを支持する支持部47bとを有して構成され、各支持部47bは水平軸48に回動可能に支持されている。そして、その水平軸48には歯車48aが取付けられていて、その歯車48aに、駆動モータ49の回転軸に取付けた歯車49aを噛合させ、駆動モータ49の回転によりワイパー部材47の回転角度を調整するように構成されている。なお、図13中の50はストッパーであり、ワイパー部材47の揺動範囲を規制している。
【0042】
図14(a)は第1記録ヘッドと第3記録ヘッドを有する列の掃除状態を示し、同(b)は第2記録ヘッドを有する列の掃除状態を示す。なお、図14中のT1〜T6はタイミングを示す。
【0043】
記録が終了し掃除を行うタイミングになると、それまで待機位置Bに待機していたキャップユニット4を、水平駆動機構42によりキャップ位置Aへ向けて移動させることを開始する。このとき、キャップユニット4は前記垂直駆動機構により下げた姿勢とし、ワイパー部材47は寝た姿勢とする(T1参照)。キャップユニット4を下げた姿勢は掃除完了まで継続し、一方ワイパー部材47の寝た姿勢は、ワイパー部材47が第1記録ヘッド13aのノズル面17における後側の周縁Cに到達するまで継続させる。
【0044】
その後、ワイパー部材47が後側の周縁Cに到達して少し内側に入ると、全てのワイパー部材47に関し、駆動モータ49を作動させてワイパー部材47を起き上がった姿勢に回転角度を調整する(T2参照)。このときも、水平駆動機構42によりキャップ位置Aへ向けての移動は継続されている。このワイパー部材47の起き上がった姿勢により第1記録ヘッド13aのノズル面17の中央部Dが掃除される。
【0045】
その後、第1記録ヘッド13aの前側の周縁Cに到達すると(T3参照)、その後に駆動モータ49を作動させてワイパー部材47を寝た姿勢にする(T4参照)。この状態は、ワイパー部材47が第3記録ヘッド13cのノズル面17における後側の周縁Cに到達するまで継続させる。一方、第2記録ヘッド13bに関しては、ワイパー部材47を寝た姿勢にせずに起き上がった姿勢のままとする。
【0046】
そして、ワイパー部材47が第3記録ヘッド13cのノズル面17における後側の周縁Cに到達して少し内側に入った後に(T5参照)、第3記録ヘッド13cに関してワイパー部材47を起き上がった姿勢に戻す。この姿勢は、ワイパー部材47が第3記録ヘッド13cのノズル面17における前側の周縁Cに到達する直前まで継続する。
【0047】
しかる後、ワイパー部材47が第3記録ヘッド13cのノズル面17における前側の周縁Cを通り過ぎると(T6参照)、全てのワイパー部材47を寝た姿勢にする。これにより掃除が完了する。
【0048】
続いて、キャップユニット4をキャップ位置Aへの移動が完了すると、前記垂直駆動機構によりキャップユニット4を上昇させる。これに伴って、キャップ11のそれぞれが対応する記録ヘッド13の1つずつに対向し、キャップ11が記録ヘッド13の各ノズル16を塞ぐ。
【0049】
なお、図15に示すように、同一列の第1記録ヘッド13aと第3記録ヘッド13cとの間にスペーサ51が、各ノズル面17と面一になるようにねじ止め等で取付けられていてもよい。これにより、図16に示すように、ワイパー部材47が移動する域に凹凸が無いので、第3記録ヘッド13cの周縁にインクが残ること自体が起こらず、また、そのインクにより目詰まりが発生することがない。加えて、ワイパー部材47の回転角度調整などによりワイパー部材47の記録ヘッド13側の高さを変化させる必要もない。
【0050】
なお、上述の説明では1つの列に2つの記録ヘッドが設けられた例を挙げているが、3つ以上の記録ヘッドが1つの列に配されたものにも同様に適用することができる。
【0051】
次に、搬送ユニット2の昇降装置について説明する。前述のように、記録装置1のインク吐出ノズルにキャップを行うために、昇降装置によって搬送ユニットを降下させる。
【0052】
図17は搬送ユニット及び昇降装置の斜視図、図18は昇降装置の偏心カムの斜視図、図19は昇降装置及びその周辺を示す部分拡大正面図である。なお、図17は昇降装置140によって搬送ユニット2が降下した状態を、図19は上昇した状態を示している。
【0053】
搬送ユニット2は、その正面及び背面に、図17に示すような支持部材150を備えている。支持部材150は、搬送ユニット2の正面側に2箇所、背面側に2箇所の計4箇所に設けられている。各々の支持部材150は、固定部151、スライド部152、及びばね153を備えている
【0054】
支持部材150の固定部151は、その上面に上方に向かって略垂直に延びるピン151aを備え、搬送ユニット2にネジで固定されている。スライド部152は、固定部151の左右に設けられたスライド機構154を介して、上下方向にスライド移動が可能な状態にして取り付けられている。
【0055】
スライド機構154は、図19に示すように、固定部151に備えられたスリット155と、スライド部152に備えられたガイドピン156とで構成されている。スリット155は、ガイドピン156を受け入れ、上下方向に長く延びている。そして、スリット155が設けられた箇所の固定部151と搬送ユニット2との間には、スライド部152がスライド可能な空間が設けられている。
【0056】
また、ばね153が、固定部151とスライド部152との間に備えられている。ばね153は、固定部151の外底面と、その下方に位置するスライド部152の凹部の内底面との間に配置され、固定部151にスライド部152が接近するに従って強い弾発力が作用する。
【0057】
搬送ユニット2は、後述するように、支持部材150のスライド部152の下方から昇降装置140によって支持されている。スライド部152が押し上げられると、ばね153に強い弾発力が作用し、固定部151、すなわち搬送ユニット2が上昇せしめられる。搬送ユニット2が上昇すると、その最終段階においてピン151aの上面が記録ヘッド部10の底面に接触し、それにより記録ヘッド部10に対する搬送ユニット2の位置が決定される。その結果、記録ヘッド部10の底面と搬送ベルト22の上面である用紙搬送面との間に、微小間隔が設けられる。
【0058】
そして、上記のような搬送ユニット2の下方に、図17に示すように、昇降装置140が備えられている。昇降装置140は、偏心カム141、及びモータ(図示せず)を備えている。
【0059】
偏心カム141は、搬送ユニット2の正面及び背面に設けられた4箇所の支持部材50に対応する箇所に、計4個設けられている。偏心カム141は、その周面で支持部材150のスライド部152の外底面に下方から当接する。
【0060】
また、偏心カム141は、図18及び図19に示すように、用紙幅方向に延びる軸部142を備えるとともに、回転軸線が偏在するカムで構成されている。偏心カム41は、軸部142の軸線を中心として、モータによって回転せしめられる。そして、偏心カム141は、その周縁部に、周面から一部が外側に突出する形で、複数の回転部材であるベアリング143を備えている。ベアリング143は、偏心カム41の回転軸線と平行な軸線を中心として回転自在である。搬送ユニット2の支持部材150の底面に対しては、これら複数のベアリング143が当接する。
【0061】
複数のベアリング143は、図18及び図19に示すように、軸部142中心の回転軸線から徐々に遠ざかる形で、順番に並べて配置されている。すなわち、偏心カム141の先端であって、軸部142中心の回転軸線から最も遠い箇所に第1ベアリング143aが、これよりさらに回転軸線に近い箇所に第2ベアリング143bが、以下順次、第3ベアリング143c、第4ベアリング143dが配置され、偏心カム141の回転軸線に最も近い箇所に第5ベアリング143eが配置されている。
【0062】
続いて、昇降装置140の偏心カム141を利用した搬送ユニット2の昇降動作について説明する。なお、図19は、昇降装置140によって、搬送ユニット2が最高部(搬送ユニット2の支持部材150のピン151a上面が、記録ヘッド部10の底面に接触する位置)まで上昇した状態を示している。
【0063】
通常の印刷状態において、プリンタ1は、図19に示すように、昇降装置140を駆動して偏心カム141を回転させ、搬送ユニット2を最高部に移動させている。この状態において、前述のように、記録ヘッド部10と搬送ユニット2との間に、印刷に好適な間隙が設けられている。偏心カム141においては、軸部142中心の回転軸線から最も離れた箇所に配置された第1ベアリング143aが、搬送ユニット2が備える支持部材150の、スライド部152の外底面に下方から当接している。
【0064】
そして、記録ヘッド部10のインク吐出ノズルの乾燥や目詰まりを防止するためにノズルにキャップをしたり、搬送ベルト22上で発生したジャム処理を行ったりするために、昇降装置140によって搬送ユニット2を降下させる。このとき、昇降装置140は、モータを駆動して偏心カム141を回転させる。搬送ユニット2を降下させるとき、搬送ユニット30の用紙搬送方向上流部に位置する偏心カム141は正面から見て反時計方向に、下流部に位置する偏心カム141は時計方向に回転する(図17及び図19参照)。
【0065】
図194の状態から、搬送ユニット2降下させるべく偏心カム41を時計方向に回転させると、第1ベアリング43aに続いて、第1ベアリング43aよりさらに回転軸線に近い箇所に配置された第2ベアリング43bがスライド部52の外底面、すなわち搬送ユニット2の底面に当接する。このようにして、隣り合う2個のベアリング43は、同時に搬送ユニット2の底面に当接する期間を有している。
【0066】
さらに偏心カム41の回転が進むと、第2ベアリング43bが単独で搬送ユニット2の底面に当接し、搬送ユニット2を支持する。
【0067】
引き続き偏心カム41の回転が進むと、第3ベアリング43c、ついで第4ベアリング43dが、搬送ユニット2の底面に当接し、搬送ユニット2を支持する。なお、上記第1及び第2ベアリングの場合と同様に、第3ベアリング143c、第4ベアリング143dに関しても、隣り合う2個のベアリング143が、同時に搬送ユニット2の底面に当接する期間を有している。
【0068】
そして、搬送ユニット2の降下の最終段階において、偏心カム141の回転軸線に最も近い箇所に配置された第5ベアリング143eが、単独で搬送ユニット2の底面に当接し、搬送ユニット2を支持する。これにより、記録ヘッド部10と搬送ユニット2との間に、比較的広い作業空間が設けられる。
【0069】
この後、搬送ユニット2を通常の印刷時の位置に戻すには、偏心カム141を反時計方向に逆回転させることにより、図4に示す状態まで搬送ユニット2を上昇させることができる。
【0070】
このようにして、心カム141自体やその軸部142、偏心カム141を回転させるモータなどの駆動装置に掛かる負荷の大きさを、徐々に滑らかに変化させることが可能になる。
【符号の説明】
【0071】
10 記録ヘッド部
11 キャップ
12 キャッピング構造
13 記録ヘッド
14 ヘッド部
15 先端面
16 ノズル
17 ノズル面
22 枠部
23 先端面
24 突条
25 柱
28 隙間
29 液滴
H 液滴の最大厚さ
35 環状溝
36 押し出し機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部が下方に突出し、該ヘッド部の先端ノズル面にインク滴を吐出するノズルが形成されている記録ヘッド部と、
底面部と該底面部の周囲から立ち上がる枠部とを有し、非記録時に前記ヘッド部に被せられるキャップとを備え、
前記キャップをヘッド部に被せた状態で、ヘッド部の側面とキャップの枠部内面との間に、下記式1で示される、ヘッド部側面に付着したインク液滴の最大厚さHより大きい隙間を設けた、ことを特徴とするインクジェット記録ヘッドのキャッピング構造。
【数3】

(但し、Sはヘッド部側面に付着したインク液滴の断面積[m2]を示し、γはインク滴の表面張力[mN/m]、θはヘッド部の側面と液滴の上面とのなす角度[度]、ρは液滴の密度[kg/m2]、gは重力加速度[m/s2]である。)
【請求項2】
前記ヘッド部の側面とキャップの枠部内面との間に形成される前記隙間が2mm以上である請求項1に記載のキャッピング構造。
【請求項3】
前記キャップの枠部先端に弾性体からなる突条が設けられており、該突条と対向する前記記録ヘッド部の先端表面には、前記突条が嵌合する環状溝が形成されており、前記記録ヘッド部に、前記環状溝から前記突条を押し出すための押し出し機構が設けられている請求項1または2に記載のキャッピング構造。
【請求項4】
前記押し出し機構は、前記記録ヘッドに回転自在に設けられた軸と、この軸に固定された板状ないし扁平ローラ状の押し出し部材とからなり、前記軸を回転させて、前記押し出し部材によって前記突条を環状溝から押し出すようにする請求項3に記載のキャッピング構造。
【請求項5】
記録紙を搬送する搬送ユニットと、
該搬送ユニットの上に設けられ、ヘッド部が下方に突出し、該ヘッド部の先端ノズル面にインク滴を吐出するノズルが形成されているインクジェット記録ヘッド部と、
底面部と該底面部の周囲から立ち上がる枠部とを有し、非記録時に前記ヘッド部に被せられるキャップとを備え、
前記キャップをヘッド部に被せた状態で、ヘッド部の側面とキャップの枠部内面との間に、下記式1で示される、ヘッド部側面に付着したインク液滴の最大厚さHより大きい隙間を設けた、ことを特徴とするインクジェット式記録装置。
【数4】

(但し、Sはヘッド部側面に付着したインク液滴の断面積[m2]を示し、γはインク滴の表面張力[mN/m]、θはヘッド部の側面と液滴の上面とのなす角度[度]、ρは液滴の密度[kg/m2]、gは重力加速度[m/s2]である。)
【請求項6】
前記ヘッド部の側面とキャップの枠部内面との間に形成される前記隙間が2mm以上である請求項4に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項7】
前記キャップの枠部先端に弾性体からなる突条が設けられており、該突条と対向する前記記録ヘッド部の先端表面には、前記突条が嵌合する環状溝が形成されており、前記記録ヘッド部に、前記環状溝から前記突条を押し出すための押し出し機構が設けられている請求項5または6に記載のインクジェット式記録装置。
【請求項8】
前記押し出し機構は、前記記録ヘッドに回転自在に設けられた軸と、この軸に固定された板状ないし扁平ローラ状の押し出し部材とからなり、前記軸を回転させて、前記押し出し部材によって前記突条を環状溝から押し出すようにする請求項7に記載のインクジェット式記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−196971(P2012−196971A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138750(P2012−138750)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【分割の表示】特願2007−308954(P2007−308954)の分割
【原出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】