説明

インクジェット記録ヘッド及びその製造方法

【課題】温度あるいは湿度サイクルによる記録素子基板の破損の可能性と、接合部からのインクの漏れの可能性を共に低減する。
【解決手段】凹部111の底面116は、インク供給口と連通するインク流路の開口114aと、インク流路の開口の周囲を延びる主平面124と、主平面と凹部の側壁との間を電気接続部非形成側面118bに沿って延びる溝部116と、を含んでいる。記録素子基板は主平面上で、接着剤を介して支持部材に接合されている。電気接続部形成側面と凹部の側壁との間の空間は、電気接続部とともに封止材104によって封止されている。電気接続部非形成側面の少なくとも一部は封止材104で覆われずに露出しており、接着剤115の凹部の側壁に面する表面の少なくとも一部は封止材104によって封止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出して記録を行う記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の液体吐出方式の記録装置は、いわゆるノンインパクト記録方式であり、高速記録や、様々な記録メディアへの記録が可能であるとともに、記録時に騒音がほとんど生じないという特徴を有している。このため、プリンタ、ワードプロセッサ、ファクシミリ、複写機等の記録装置として広く採用されている。
【0003】
特許文献1には、このようなインクジェット記録ヘッドの一例が開示されている。インクジェット記録ヘッドは、主として記録素子基板と、電気配線基板と、インクタンクと、から構成されている。記録素子基板には発熱抵抗体である電気熱変換体が搭載されており、インクは電気熱変換体により加熱され、膜沸騰の作用によってインク滴として吐出される。装置本体からの駆動信号等は、電気配線基板を介して記録素子基板に印加される。インクタンクは記録素子基板にインクを供給するために設けられ、インクを保持して負圧を発生させる負圧発生機構を備えている。インクタンクには、インクジェット記録ヘッドを装置本体に装着する際に用いられるガイド及び突き当て基準が設けられている。
【0004】
このようなインクジェット記録ヘッドは、例えば以下の方法によって製造することができる。まず、熱可塑性樹脂を射出成型することによってインクタンクを形成する。インクタンクに、インクのゴミをろ過するステンレス繊維で形成したフィルターを溶着する。次に、電気熱変換体、吐出口群及びインク供給口がパターニングされた記録素子基板を作成する。ブラック等の1色のインクだけを吐出するインクジェット記録ヘッドの場合、インク流路、フィルター、インク供給口及び吐出口群は1つだけ設けられる。2色以上のインクを吐出するインクジェット記録ヘッドの場合は、インク流路、フィルター、インク供給口及び吐出口群はそれぞれの色に対応して設けられる。その後、記録素子基板の電気接続パッドと電気配線基板のインナーリードとを接続する。
【0005】
次に、インクタンクの記録素子基板が接合される面に第1の接着材を塗布し、記録素子基板を所定の位置に貼り付ける。同様に、インクタンクの電気配線基板が接合される面に第2の接着材を塗布し、電気配線基板を所定の位置に貼り付ける。次に、第1の封止材をディスペンサーで、記録素子基板の周囲に塗布し、充分に流動させながら、記録素子基板とインクタンクの隙間に充填する。さらに、記録素子基板の電気接続パッドと電気配線基板のインナーリードに高粘度の第2の封止材を塗布する。この後、接着材と封止材を熱キュアによって一括して硬化させる。その後、それぞれのインクタンクに、インクを保持して負圧を発生させる多孔質樹脂を挿入し、対応する色のインクをそれぞれ所定量注入し、蓋部材を接合する。このようにしてできたインクジェット記録ヘッドは、各種の検査に合格したものだけが良品として選別され、梱包され、出荷される。
【0006】
このように記録素子基板の4辺を封止材で満たすインクジェット記録ヘッドでは、封止材が記録素子基板を拘束するため、温度あるいは湿度サイクルにより記録素子基板に応力が加わり、ごく稀に記録素子基板の破損に至る場合がある。
【0007】
これに対し、特許文献2には、記録素子ユニットの電気接続部を先に封止材で封止したのち、インクタンクに記録素子ユニットを接合するという技術が開示されている。この技術によれば、記録素子基板の4辺を封止材で満たす必要はなく、電気接続部のみを封止材で覆うため、温度あるいは湿度サイクルによる記録素子基板の破損は生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4338202号明細書
【特許文献2】特開平10-000776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載の技術では、インクタンクに記録素子ユニットを接合する際に接合部(接着剤)にピンホールなどの接合不良が生じると、周囲に封止材が存在しないため、接合部からインクが漏れて不良品となってしまう。
【0010】
本発明は、温度あるいは湿度サイクルによる記録素子基板の破損の可能性と、接合部からのインクの漏れの可能性を共に低減することが可能なインクジェット記録ヘッド、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施態様によるインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出する吐出口が形成された吐出口面と、吐出口面の側部に設けられた複数の側面と、吐出口にインクを供給するインク供給口の開口が形成された吐出口面の裏面と、が設けられた記録素子基板と、吐出口面を外方に向けて記録素子基板を収容する凹部を備えた支持部材と、支持部材の凹部が形成された面上に設けられ、記録素子基板の吐出口面の一部の辺との間で電気接続部を形成する電気配線基板と、を有している。記録素子基板の複数の側面は、吐出口面の電気接続部が設けられている側に形成される電気接続部形成側面と、吐出口面の電気接続部が設けられていない側に形成される電気接続部非形成側面と、からなっている。凹部の底面は、インク供給口と連通するインク流路の開口と、インク流路の開口の周囲を延びる主平面と、主平面と凹部の側壁との間を電気接続部非形成側面に沿って延びる溝部と、を含んでいる。記録素子基板は主平面上で、接着剤を介して支持部材に接合されている。電気接続部形成側面と凹部の側壁との間の空間は、電気接続部とともに封止材によって封止されている。電気接続部非形成側面の少なくとも一部は封止材で覆われずに露出しており、接着剤の凹部の側壁に面する表面の少なくとも一部は封止材によって封止されている。
【0012】
本発明の他の実施形態はインクジェット記録ヘッドの製造方法に関する。インクジェット記録ヘッドは、インクを吐出する吐出口が形成された吐出口面と、吐出口面の側部に設けられた複数の側面と、吐出口にインクを供給するインク供給口の開口が形成された吐出口面の裏面と、が設けられた記録素子基板と、吐出口面を外方に向けて記録素子基板を収容する凹部を備えた支持部材と、支持部材の凹部が形成された面上に設けられ、記録素子基板の吐出口面の一部の辺との間で電気接続部を形成する電気配線基板と、を有し、記録素子基板の側面は、吐出口面の電気接続部が設けられている側に形成される電気接続部形成側面と、吐出口面の電気接続部が設けられていない側に形成される電気接続部非形成側面と、からなり、凹部の底面は、インク供給口と連通するインク流路の開口と、インク流路の開口の周囲を延びる主平面と、主平面と凹部の側壁との間を電気接続部非形成側面に沿って延びる溝部と、を含んでいる。本製造方法は、記録素子基板を主平面上で、接着剤を介して支持部材に接合する工程と、電気接続部形成側面と凹部の側壁との間の空間を封止材によって封止する工程と、電気接続部非形成側面の少なくとも一部が封止材で覆われずに露出するように接着剤の凹部の側壁に面する表面の少なくとも一部を封止材によって封止する工程と、電気接続部を封止材によって封止する工程と、を有している。
【0013】
電気接続部非形成側面の少なくとも一部は封止材で覆われずに露出しているため、封止材の拘束効果が低減し、温度あるいは湿度サイクルにより記録素子基板に加わる応力が低減し、ごく稀に生じる記録素子基板の破損を防ぐことが可能となる。接着剤の凹部の側壁に面する表面の少なくとも一部は封止材によって封止されているため、万が一接着剤に接合不良が生じても、インクがインク流路から接着剤を通って漏えいする可能性が低減する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、温度あるいは湿度サイクルによる記録素子基板の破損の可能性と、接合部からのインクの漏れの可能性を共に低減することが可能なインクジェット記録ヘッド、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェット記録ヘッドの断面図である。
【図3】図1に示すインクジェット記録ヘッドの平面図である。
【図4】第2の実施形態のインクジェット記録ヘッドの平面図である。
【図5】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を示す図である。
【図6】第3の実施形態のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【図7】第4の実施形態のインクジェット記録ヘッドの製造方法を示す図である。
【図8】第4の実施形態のインクジェット記録ヘッドの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、一般的なプリント装置の他に、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部の他に画像読取機構部を有する複合機の記録装置、各種処理装置と複合的に組み合わされた産業用の記録装置に適用することができる。本発明のインクジェット記録ヘッドは、記録装置に固定されていてもよいし、カートリッジ形態で取り外し可能となっていてもよい。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの斜視図である。図2は図1のA−A線に沿った断面拡大図であり、図3は平面図である。
【0018】
インクジェット記録ヘッド100は、主に、記録素子基板103と、電気配線基板101と、支持部材と、から構成されている。本明細書では、記録素子基板103と電気配線基板101とが接合される部材を支持部材という。本実施形態ではインクタンクが支持部材の機能を果たしているため、支持部材をインクタンク110と称するが、インクタンク110を支持部材と別に設けることもできる。
【0019】
記録素子基板103は、吐出口面105と、吐出口面105の裏面106と、吐出口面105の側部に設けられた複数、ここでは4つの側面118と、を有している。記録素子基板103には、インクを吐出する吐出口の群(以下、吐出口群112という)と、これに連通する多数の発泡室(不図示)と、多数の発泡室が連通する共通液室(不図示)と、インク供給口113と、が形成されている。インク供給口113は、共通液室を介して吐出口群112にインクを供給する。吐出口群112は吐出口面105に、インク供給口113は裏面106に開口して設けられている。従って、記録素子基板103の裏面106にはインク供給口113の開口113aが設けられている。
【0020】
記録素子基板103は、インクタンク110の凹部111に、吐出口面105を外方に向けて収容されている。インクは、インクタンク110に形成され負圧発生機構(不図示)に連通するインク流路114を経て、記録素子基板103のインク供給口113に供給される。記録素子基板103は、シリコンウェハに機能性無機膜をパターニングし、これに感光性樹脂等で発泡室やノズルを形成し、その後ダイシングして形成する。このため、周囲の4つの側面118は、シリコンが露出し吐出口面105に対してほぼ垂直に切り立った切断面となっている。
【0021】
電気配線基板101は、記録素子基板103に駆動信号と駆動電力を伝達するために設けられている。電気配線基板101は、インクタンク110の凹部111が形成された面(以下、インクタンク表面117という)上に第2の接着材(不図示)で固定されている。電気配線基板101は、記録素子基板103の吐出口面105の一部の辺との間で電気接続部107を形成している。具体的には、電気配線基板101のインナーリード(不図示。ただし、図5,7に符号123で示している)と、インナーリードに電気的に接続された記録素子基板103の電気接続パッド(不図示)と、が電気接続部107を形成している。
【0022】
インクタンク110は熱可塑性樹脂で形成されており、軟化温度は封止材(後述)及び第1及び第2の接着材の硬化温度よりも高い。インクタンク110の凹部111の底面111aは、インク供給口113と連通するインク流路114の開口114aと、開口114aの周囲を延びる主平面124と、主平面124と凹部111の側壁119との間を延びる溝部116と、を有している。記録素子基板103は、主平面124上で第1の接着材115を介してインクタンク110に接合されている。インクタンク110の凹部111の側壁119は、溝部116とインクタンク表面117との段差を形成している。
【0023】
吐出口面105の電気接続部107が設けられている側に形成される記録素子基板103の側面118(以下、電気接続部形成側面118aという)と、凹部111の側壁119との間の空間は、電気接続部107とともに、封止材104によって封止されている。封止材104は熱硬化性樹脂で形成されている。吐出口面105の他の辺、すなわち吐出口面105の電気接続部107が設けられていない側に形成される記録素子基板103の側面118(以下、電気接続部非形成側面118bという)は、一部が封止材104で覆われずに露出している。しかし、記録素子基板103の裏面106とインクタンク110の主平面124との間にある第1の接着材115の、凹部111の側壁119に面する表面は、少なくとも一部が封止材104によって封止されている。
【0024】
本実施形態のインクジェット記録ヘッド100は、以下のようにして製造することができる。まず、熱可塑性樹脂を射出成型することによってインクタンク110を形成する。インクタンク110に、インクのゴミをろ過するステンレス繊維で形成したフィルターを溶着する。次に、電気熱変換体、吐出口群112及びインク供給口113がパターニングされた記録素子基板103を作成する。ブラック等の1色のインクだけを吐出するインクジェット記録ヘッドの場合、インク流路、フィルター、インク供給口及び吐出口群は1つだけ設けられる。2色以上のインクを吐出するインクジェット記録ヘッドの場合は、インク流路、フィルター、インク供給口及び吐出口群はそれぞれの色に対応して設けられる。
【0025】
次に、インクタンク110の主平面124に第1の接着材115を塗布し、記録素子基板103を所定の位置に貼り付ける。同様に、インクタンク110のインクタンク表面117に第2の接着材を塗布し、電気配線基板101を所定の位置に貼り付ける。第1及び第2の接着材は熱硬化性樹脂を用いているが、光硬化性樹脂であってもよい。
【0026】
次に、電気接続部107の近傍に封止材104を塗布する。電気接続部107の近傍では記録素子基板103の電気接続部形成側面118aと凹部111の側壁119の間隔L1が塗布位置における間隔Lよりも狭くなっている。このため、封止材104は、電気接続部形成側面118aと凹部111の側壁119との間の空間に毛細管現象によって入り込む。当該空間は封止材104で封止され、電気接続部形成側面118aの下方に露出している第1の接着材115も封止材104で覆われる。封止材104の粘度を適切に選択することで、電気接続部107も封止材104で封止され、信頼性を確保することができる。
【0027】
電気接続部形成側面118aと凹部111の側壁119との間の空間に毛細管現象により入り込んだ封止材104は、熱キュアによって第1及び第2の接着材とともに硬化する。この際、封止材104は硬化する前に一旦粘度が下がり、少量の封止材104が電気接続部非形成側面118bと溝部116とで形成される隅部108に沿って流れ出し、端部まで到達し、その後硬化する。これによって、記録素子基板103の裏面106とインクタンク110との間で露出している第1の接着材115の表面もその全長に渡って封止材104で覆われる。溝部116の底面の一部及び電気接続部非形成側面118bの一部は封止材104で覆われることなく露出している。電気接続部非形成側面118bの封止材104で覆われている部分の面積は、露出している部分の面積よりも小さいことが望ましい。
【0028】
その後、それぞれのインクタンク110に、インクを保持して負圧を発生させる多孔質樹脂を挿入し、対応する色のインクをそれぞれ所定量注入し、蓋部材(図示せず)を接合する。
【0029】
本実施形態では、溝部116の一部だけが封止材104で充填され、記録素子基板103の電気接続部非形成側面118bの一部は封止材104で覆われていない。このため、記録素子基板103が封止材104によって拘束されにくく、温度あるいは湿度サイクルによって記録素子基板103に生じる応力が軽減される。従って、このような応力によってごく稀に生じる記録素子基板103の破損を防ぐことが可能となる。さらに、温度あるいは湿度サイクルのみならず、インクジェット記録ヘッドに機械的な外力が加わることでごく稀に生じる記録素子基板103の破損も防ぐことが可能となる。
【0030】
本実施形態では、第1の接着材115の表面が封止材104で覆われているため、インクのインク供給口113またはインク流路114から外部への漏えいを、第1の接着材115と封止材104の2段構成で抑制することが可能である。万が一第1の接着材115にクラックや接合不良が存在する場合でも、第1の接着材115の表面が封止材104で覆われているため、インクのインク供給口113またはインク流路114から外部への漏えいを抑制することができる。また、記録素子基板103の側面118は切断面となっており、チッピングが発生しやすい。チッピングは通常は小さいがまれに大きなものが発生し、記録素子基板103のインクタンク110への接合精度によってはインク供給口113またはインク流路114と外気との間にピンホールのような経路ができる。本実施形態では、第1の接着材115が封止材104に覆われる際にピンホールのような経路も塞がれるため、インク漏えいの可能性がさらに抑制され、一層の歩留り向上を図ることができる。
【0031】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態を示す、図3と同様の平面図である。図1〜3と同符号の部材または部位は同一の部材または部位を表わしている。記録素子基板103の長手方向の長さは、インク色やインクジェット記録ヘッドの仕様によって様々であり、例えば、ブラックインク用の記録素子基板は、一般にカラーインク用の記録素子基板よりも長くなっている。一例では、カラーインク用の記録素子基板の長手方向の長さが約13mmであるのに対し、ブラック用の場合は約20mmである。本実施形態では、記録素子基板103の長手方向の長さが長いため、図4に示すように、封止材104は第1の接着材115の一部だけを覆っている。
【0032】
本実施形態は、電気接続部非形成側面118bの長手方向の一部が封止材104で覆われていないため、第1の実施形態と比べ、封止材104の記録素子基板103に対する拘束力が一層低減する。従って、温度あるいは湿度サイクルによって記録素子基板103に生じる応力が一層軽減され、このような応力によって生じる記録素子基板103の破損を防ぐことが容易である。また、インクの漏えい防止についても、封止材104が存在している部分に関しては第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、インクのインク供給口113またはインク流路114から外部への漏えいを、第1の接着材115と封止材104の2段構成で抑制し、万が一接着剤のクラックや接合不良が存在する場合でも、封止材104によって漏えいを抑制することができる。チッピングに起因するインク漏えいの可能性も抑制され、一層の歩留り向上を図ることができる。
【0033】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態を示す、図1と同様の斜視図である。図1〜4と同符号の部材または部位は同一の部材または部位を表わしている。封止材の形成方法を除き、インクジェット記録ヘッドの基本的な構成及び製造方法は第1の実施形態と同様である。以下、本実施形態におけるインクジェット記録ヘッドの製造方法を述べる。
【0034】
まず、第1の実施形態と同様にして記録素子基板103、電気配線基板101及びインクタンク110を作成し、記録素子基板103と電気配線基板101をインクタンク110に接合する。次に、図5に示すように、シリンジ122の先端に取り付けたニードル122から比較的低粘度の第1の封止材125を電気接続部形成側面118aと凹部111の側壁119との間の空間に塗布し、充分に流動させて当該空間を第1の封止材125で充填する。この際、第1の封止材125が塗布される電気接続部形成側面118aが下側となるようにインクタンク110を斜めにする。第1の封止材125は毛細管現象に加えて重力の作用も受け、電気接続部形成側面118aと凹部111の側壁119との間の空間に、より確実に導入される。その後インクタンク110を水平に戻し、電気接続部107に高粘度の第2の封止材126を塗布する。この後、第1及び第2の接着材と第1及び第2の封止材125,126を熱キュアによって一括して硬化させる。
【0035】
このようにして製造したインクジェット記録ヘッド100の斜視図を図6に示す。電気接続部形成側面118aと凹部111の側壁119との間の空間に入り込んだ第1の封止材125は、塗布後の熱キュアにより第1及び第2の接着材とともに硬化する。この際、第1の封止材125は硬化する前に粘度が一旦下がる。インクタンク110を水平に戻しているため、少量の第1の封止材125が電気接続部非形成側面118bと溝部116とで形成される隅部108に沿って流れ出し、端部まで到達し、その後硬化する。これによって、記録素子基板103の裏面106とインクタンク110との間で露出している第1の接着材115の表面もその全長に渡って第1の封止材125で覆われる。溝部116の底面の一部及び電気接続部非形成側面118bの一部は第1の封止材125で覆われることなく露出している。電気接続部非形成側面118bの第1の封止材125で覆われている部分の面積は、露出している部分の面積よりも小さいことが望ましい。
【0036】
その後、それぞれのインクタンク110に、インクを保持して負圧を発生させる多孔質樹脂を挿入し、対応する色のインクをそれぞれ所定量注入し、蓋部材を接合する。
【0037】
本実施形態は、第1の実施形態と全く同じ効果を奏することができる。
【0038】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態を示す、図1と同様の斜視図である。図1〜6と同符号の部材または部位は同一の部材または部位を表わしている。封止材の形成方法を除き、インクジェット記録ヘッドの基本的な構成及び製造方法は第1の実施形態と同様である。以下、本実施形態におけるインクジェット記録ヘッド100の製造方法を述べる。
【0039】
まず、第1の実施形態と同様にして記録素子基板103、電気配線基板101及びインクタンク110を作成し、記録素子基板103と電気配線基板101をインクタンク110に接合する。次に、図7に示すように、インクタンク110を水平のままとして、シリンジ122の先端に取り付けたニードル121から、比較的低粘度の第1の封止材125を電気接続部107の近くに塗布する。電気接続部形成側面118aと凹部111の側壁119との間の空間は狭く、インナーリード123も約0.15mmのピッチで多数配置されているため、粘度の低い第1の封止材125は毛細管現象によって当該空間に充填される。さらに電気接続部107に高粘度の第2の封止材126を塗布し、第1及び第2の接着材と第1及び第2の封止材125,126を熱キュアによって一括して硬化させる。
【0040】
このようにして製造したインクジェット記録ヘッド100の斜視図を図8に示す。第1の封止材125の塗布量は第3の実施形態よりも多く、電気接続部107の近くから電気接続部非形成側面118bと凹部111の側壁119との間の空間に流れ出す量も多くなる。この空間に設けられた溝部116は第1の封止材125で充填され、第1の接着材115は第1の封止材125に覆われる。
【0041】
その後、それぞれのインクタンク110に、インクを保持して負圧を発生させる多孔質樹脂を挿入し、対応する色のインクをそれぞれ所定量注入し、蓋部材を接合する。
【0042】
ここで、第1の封止材125の量を変えていくつかのインクジェット記録ヘッドを製作し、熱衝撃試験を実施した。熱衝撃試験は、第1の封止材125の量の影響を明確にするため、通常よりも過酷な条件(0℃→100℃→0℃の温度変化を1サイクル(1時間)として、200サイクル繰り返し)で実施した。熱衝撃試験の終了したインクジェット記録ヘッドに対し、インクジェット記録ヘッドとして要求される所定の電気性能を満たしていないサンプル数の比率を求めた。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
記録素子基板103の電気接続部非形成側面118bの高さに対する第1の封止材125の高さの比は、記録素子基板103の側面長に沿った平均値とした。従って、この値は記録素子基板103の電気接続部非形成側面118bの、第1の封止材125で覆われている部分の面積比と同等である。第1の封止材125の高さが電気接続部非形成側面118bの高さの半分を超えると、電気性能が許容値を満足しない比率が約2%程度となる(表中△)。これより、電気接続部非形成側面118bの第1の封止材125で覆われている部分の面積は、露出している部分の面積よりも小さいことが望ましい。
【0045】
本実施形態においても、第1、第3の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0046】
103 記録素子基板
104 封止材
115 第1の接着材
116 溝部
118 記録素子基板の側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が形成された吐出口面と、該吐出口面の側部に設けられた複数の側面と、前記吐出口にインクを供給するインク供給口の開口が形成された前記吐出口面の裏面と、が設けられた記録素子基板と、前記吐出口面を外方に向けて前記記録素子基板を収容する凹部を備えた支持部材と、前記支持部材の前記凹部が形成された面上に設けられ、前記記録素子基板の前記吐出口面の一部の辺との間で電気接続部を形成する電気配線基板と、を有し、
前記記録素子基板の前記複数の側面は、前記吐出口面の前記電気接続部が設けられている側に形成される電気接続部形成側面と、前記吐出口面の前記電気接続部が設けられていない側に形成される電気接続部非形成側面と、からなり、前記凹部の底面は、前記インク供給口と連通するインク流路の開口と、前記インク流路の開口の周囲を延びる主平面と、前記主平面と前記凹部の側壁との間を前記電気接続部非形成側面に沿って延びる溝部と、を含み、前記記録素子基板は前記主平面上で、接着剤を介して前記支持部材に接合されており、前記電気接続部形成側面と前記凹部の前記側壁との間の空間が、前記電気接続部とともに封止材によって封止されており、前記電気接続部非形成側面の少なくとも一部が前記封止材で覆われずに露出しており、前記接着剤の前記凹部の前記側壁に面する表面の少なくとも一部が前記封止材によって封止されている、インクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記溝部の底面の一部は前記封止材で覆われることなく露出している、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記支持部材は熱可塑性樹脂で、前記封止材及び前記接着材は熱硬化性樹脂で形成され、前記支持部材の軟化温度は前記封止材及び前記接着材の硬化温度よりも高い、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記接着材は光硬化性樹脂である、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記電気接続部非形成側面の前記封止材で覆われている部分の面積は、露出している部分の面積よりも小さい、前記請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
インクを吐出する吐出口が形成された吐出口面と、該吐出口面の側部に設けられた複数の側面と、前記吐出口にインクを供給するインク供給口の開口が形成された前記吐出口面の裏面と、が設けられた記録素子基板と、前記吐出口面を外方に向けて前記記録素子基板を収容する凹部を備えた支持部材と、前記支持部材の前記凹部が形成された面上に設けられ、前記記録素子基板の前記吐出口面の一部の辺との間で電気接続部を形成する電気配線基板と、を有し、前記記録素子基板の前記側面は、前記吐出口面の前記電気接続部が設けられている側に形成される電気接続部形成側面と、前記吐出口面の前記電気接続部が設けられていない側に形成される電気接続部非形成側面と、からなり、前記凹部の底面は、前記インク供給口と連通するインク流路の開口と、前記インク流路の開口の周囲を延びる主平面と、前記主平面と前記凹部の側壁との間を前記電気接続部非形成側面に沿って延びる溝部と、を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
前記記録素子基板を前記主平面上で、接着剤を介して前記支持部材に接合する工程と、前記電気接続部形成側面と前記凹部の前記側壁との間の空間を封止材によって封止する工程と、前記電気接続部非形成側面の少なくとも一部が前記封止材で覆われずに露出するように前記接着剤の前記凹部の前記側壁に面する表面の少なくとも一部を封止材によって封止する工程と、前記電気接続部を封止材によって封止する工程と、を有する、インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記電気接続部形成側面と前記凹部の前記側壁との間の前記空間が第1の封止材で封止された後に、前記電気接続部が前記第1の封止材より粘度の高い第2の封止材で封止される、請求項6に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−187804(P2012−187804A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52979(P2011−52979)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】