説明

インクジェット記録ヘッド用支持板の製造方法

【課題】 インクジェット記録ヘッドに用いられる積層セラミック基板を高精度で、安価に製造することを目的とする。
【解決手段】 セラミックグリーンシートを複数積層して形成する基板において、少なくとも記録素子基板を搭載する側の層は、焼成後に加工されることを特徴とする。加工方法は、切削加工、サンドブラスト加工、レーザー加工により行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出して記録動作を行うインクジェット記録ヘッドにおいて、記録素子が複数配置された記録素子基板を複数配置するための支持基板として用いる、セラミック基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット記録装置は、ランニングコストが安く、装置の小型化も可能であり、さらに、複数色のインクを用いてカラー画像記録に対応することも容易であることから、コンピュータ関係の出力機器等に幅広く利用され、商品化されている。
【0003】
一方、記録ヘッドの吐出口からインクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子としては、ピエゾ素子などの電気機械変換体を用いたもの、レーザーなどの電磁波を照射して発熱させ、この発熱による作用でインク滴を吐出させるもの、あるいは、発熱抵抗体を有する電気熱変換素子によって液体を加熱させるもの等がある。
【0004】
その中でも熱エネルギーを利用してインク滴を吐出させる方式のインクジェット記録方式のヘッドは、吐出口を高密度に配列することができるため、高解像度の記録が可能である。電気熱変換素子をエネルギー発生素子として用いた記録ヘッドは、小型化も用意であり、かつ最近の半導体分野における技術の進歩と信頼性の向上が著しいIC技術やマイクロ加工技術の長所を十二分に活用でき、高密度実装化が容易で製造コストも安価なことから有利である。
【0005】
また、最近では、より高精細の印字を行うために、インクを吐出するためのノズルを、フォトリソ技術を用いて高精度に作成する方法等も利用されてきている。
【0006】
近年では、より高速に高詳細の画像の記録を実現するため、より印字幅が長い記録ヘッドの実現も望まれている。具体的にはヘッドの長さが4インチ〜13インチなどの長さのものも要求されてきている。このような長尺のインクジェット記録ヘッドを作成するためには、複数の記録素子を配置した記録素子基板そのものを長尺化する方法と、ある程度小チップ化された記録素子基板(例えば0.2〜2インチ)を複数個支持基板上に配列して長尺化する方法がある。
【0007】
熱エネルギーを利用したインクジェット記録ヘッドに用いられる支持板に要求される特性としては、熱伝導率が高く、低線膨張係数であること、剛性が高いことが求められ、セラミック基板は好適に用いられる。
【0008】
また、支持板には該支持板の一面上に配列される記録素子基板へインクを供給する為のインク流路が形成されている。
【0009】
このような支持板を作る場合従来は、切削加工や型による成型加工によって作製されていた。
【0010】
又、別の従来例としては、特許文献1をあげることが出来る。
【特許文献1】特開2001-341302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述のように小チップ化された記録素子基板を複数個、支持板上に配置して長尺化するタイプのインクジェット記録ヘッドに用いられる支持板においては、インク流路の位置において高い精度が要求されている。
【0012】
セラミック基板を、すべて機械加工で行った場合、高精度で加工することは可能である。しかし加工しにくいという性質を持っている為、加工時間がかかり量産性がなく、またコストアップにもなっていた。
【0013】
また、成型加工においては、シリアルプリンター用の比較的小さな支持板では問題ないが、長尺(例えば支持板の長さが4インチ以上)になると、成型時に収縮する為に寸法精度が出しにくく、複数の記録素子基板を高精度に配置する長尺タイプのインクジェット記録ヘッドに用いると、記録素子基板のインク供給口と、支持板のインク流路の位置が合わない為に、接着領域を確保することがでないことや、あるいは接着材によって供給穴を塞いでしまうという問題があった。
【0014】
このような問題は、記録素子基板の支持板との接着領域を十分に確保することで回避可能であるが、そのために記録素子基板の大きさが大きくなり、ウエハーからの取り個数が減少しコストアップの要因になるために得策ではない。
【0015】
そのため本発明の目的とするところは、長尺のインクジェット記録ヘッド用の支持板として用いる為に、量産性に優れ、寸法精度の高いセラミック基板を低コストで製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そのため本発明においては、以下の手段によって前記目標を達成するものである。
【0017】
すなわち、前記支持板は積層セラミック基板であって、少なくとも記録素子基板が搭載される側の層のインク流路は、焼成後に加工されることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法にあり、前記支持板の焼成後の加工は、ダイヤモンド工具による切削加工であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法。
【0018】
前記支持板の焼成後の加工は、サンドブラストにより加工されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法。
【0019】
前記支持板の焼成後の加工は、レーザーにより加工されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法。
【0020】
(作用)
前記インクジェットヘッド用の支持板の製造方法によれば、加工精度をあまり必要としない部分の加工は、セラミックがグリーンシートの状態でパンチング加工により加工される、精度を必要とする最小限を焼成後加工するので、加工時間を大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明より明らかなように、本発明によるセラミック基板の製造方法によれば、ほとんどの加工は焼成前に打ち抜き加工により行われており、焼成後に加工するインク流路の加工量は非常に少ないので、短い時間で加工することが可能となる為、低コストで製造できるのである。その結果、長尺のインクジェット記録ヘッドを低コストで安定的に生産できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は本実施例による積層セラミック基板の製造工程を説明する図である。
【0024】
例えば、厚さ500μmのグリーンシート1a〜1dに金型による打ち抜きにより、インク流路用の穴3と、位置決め用の穴4を、グリーンシート2には位置決めようの穴4のみを形成し、図2に示すように位置決め用のピン11を設けた治具プレート10を用いて積層し圧着した後、さらに図示していないが積層した状態で外形を打ち抜き形状を整えた。そして炉内温度が1500〜1600℃の焼成炉で焼成して積層セラミック基板を作製した。
【0025】
さらにこの後、図3(a)、図3(b)に示すようにグリーンシート2の層によって形成された面のインク流路となる部位をダイヤモンド砥石によって切削加工によって形成した。図3(b)においては、焼成前に打ち抜きによって加工されたインク流路よりも小さく加工した図を示しているが、打ち抜き穴より大きく加工しても同様である。
【0026】
また、図1においては、グリーンシート2の層のインク流路となる部位には、打ち抜き加工を行っていないが、図4に示すように、打ち抜き加工によって、後に加工する大きさよりも小さい穴を打ち抜きにより下穴加工5をしておくことで、焼成後に行うインク流路加工の量を一段と少なくすることができるためより効果的である。
【0027】
また、前記グリーンシート2の層によって形成された面のインク流路となる部位の加工方法としては、ダイヤモンド砥石による加工の他に、サンドブラストや、レーザーによる加工によって行っても良い。
【0028】
さらに、グリーンシート1a〜1b及びグリーンシート2の厚さや層数はこれに限定されるものではなく、製造するインクジェット記録ヘッドの仕様によって適宜選択できるものである。
【0029】
次に、本発明による支持基板を用いたインクジェット記録ヘッドについて図面を参照して説明する。図5から図8は、本発明が実施もしくは適用される好適な記録ヘッドを説明するための説明図である。
【0030】
図5に示すように記録ヘッドH1000は、電気信号に応じて膜沸騰をインクに対して生じせしめるための熱エネルギーを生じせしめるための熱エネルギーを生成する電気熱変換体を用いて記録を行うバブルジェット(登録商標)方式のサイドシュータ型とされる記録ヘッドである。
【0031】
そして、記録ヘッドH1000は、図6の分解斜視図に示すように、記録素子ユニットH1001とインク供給ユニットH1002のインク供給部材H1500から構成される。さらに、図7の分解斜視図に示すように、記録素子ユニットH1001は、記録素子基板H1100、第一の支持板H1200、電気配線基板H1300、第二の支持板H1400、フィルター部材H1600で構成されている。
【0032】
図8(a)は、記録素子基板H1100の構成を説明する図であり、図8(b)は図8(a)に示すA−A断面図である。記録素子基板H1100は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板H1108で薄膜が形成されている。また、インク流路として長溝状の貫通口からなるインク供給口H1101が形成され、インク供給口H1101の両側に電気熱変換素子H1102がそれぞれ1列ずつ千鳥状に配列されており、前記電気熱変換素子H1102、及び、Al等の電気配線が成膜技術により形成されている。また、該電気配線に電力を供給するために電極H1103が設けられている。前記インク供給口H1101は、前記Si基板H1108の結晶方位を利用して、異方性エッチングを行う。ウエハー面に<100>、厚さ方向に<111>の結晶方位を持つ場合、アルカリ系(KOH、TMAH、ヒトラジン等)の異方性エッチングにより、約54.7度の角度でエッチングが進行する。この方法を用いて、所望の深さにエッチングする。また、前記Si基板H1108上には、ノズルプレートH1110が具備され、電気熱変換素子H1102に対応したインク流路H1104、ノズルH1105、発泡室H1107がフォトリソ技術により形成されている。また、前記ノズルH1105は前記電気熱変換素子H1102に対向するように設けられており、インク供給口H1101から供給されたインクを電気熱変換素子H1102により気泡を発生させてインクを吐出させるものである。
【0033】
ここで用いられる第一の支持基板H1200は、本発明による積層セラミック基板の製造方法によって作製される。
【0034】
第1の支持板H1200には、記録素子基板H1100にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されており、記録素子基板H1100のインク供給口H1101が第1の支持板H1200のインク供給口H1201に対応し、かつ、記録素子基板H1100は第1の支持板H1200に対して位置精度良く接着固定される。その接着剤は、例えば、粘度が低く、接触面に形成される接着層が薄く、かつ、硬化後、比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。例えば、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤、もしくは紫外線硬化併用型の熱硬化接着剤であり、接着層の厚みは50μm以下が望ましい。また、第1の支持板H1200は、位置決め基準となるX方向基準H1204、Y方向基準H1205、Z方向基準H1206を有している。
【0035】
記録素子基板H1100は、図8に示すように第1の支持板上H1200に千鳥状に配置され、同一色による幅広の記録を可能としている。例えば、ノズル群の長さが1インチ+αの4つの記録素子基板H1100a、H1100b、H1100c、H1100dを千鳥状に配置し、4インチ幅の記録を可能にしている。図8においては、記録素子基板H1100を4個配列したものを図示しているが、さらに個数を増やした場合においても本発明は効果的である。
【0036】
また、各記録素子基板の吐出口群の端部は、千鳥状に隣接する記録素子基板のノズル群の端部と、記録方向に対して、重複する領域(L)を設け、各記録素子基板による印刷に隙間が生じることを防止している。例えば、ノズル群H1106aとノズル群H1106bに重複領域H1109a、H1109bを設けている。
【0037】
電気配線基板H1300は、記録素子基板H1100に対してインクを吐出するための電気信号を印加するものであり、記録素子基板H1100を組み込むための開口部を有しており、裏面には第2の支持板H1400が接着固定される。また、電気配線基板H1300は、記録素子基板H1100の電極H1103に対応する電極端子H1302と、この配線端部に位置し記録装置本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301を有している。電気配線基板H1300と記録素子基板H1100は、電気的に接続されており、接続方法は、例えば、記録素子基板H1100の電極H1103と電気配線基板H1300の電極端子H1302を金ワイヤーH1303(不図示)を用いたワイヤーボンディング技術によりにより電気的に接続される。電気配線基板H1300の素材としては、例えば、配線が二層構造のフレキシブル配線基板が使用され、表層はポリイミドフィルムで覆われている。
【0038】
第2の支持板H1400は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSUS板で形成されている。なお、第2の支持板の素材は、SUSに限られることなく、耐インク性を有し、良好な平面性を有する材料で作られてもよい。そして、第2の支持板H1400は、第1の支持板H1200に接着固定された記録素子基板H1100および該記録素子基板を取り込む開口部を有し、第1の支持板に接着固定される。
【0039】
第2の支持板の開口部H1402と記録素子基板H1100の側面によって形成される溝部には、第1の封止剤H1304が充填され、前記電気配線基板H1300の電気実装部を封止している。また、記録素子基板の電極H1103は、第2の封止剤H1305で封止し、電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護している。
【0040】
また、第1の支持板H1100の裏面側インク供給口H1201には、インク中に混入された異物を取り除くためのフィルター部材H1600が接着固定される。
【0041】
インク供給部材H1500は、例えば、樹脂成形により形成され、共通液室H1501と、Z方向基準面H1502を具備している。そして、Z基準面H1502は、記録素子ユニットを位置決め固定するとともに、記録ヘッドH1000のZ基準となっている。
【0042】
先述の図5に示した通り、記録ヘッドH1000は、記録素子ユニットH1001をインク供給部材H1500に結合することにより完成する。
【0043】
結合は以下のように行われる。
【0044】
インク供給部材H1500の開口部と記録素子ユニットH1001を第3の封止剤H1503により封止し、共通液室H1501を密閉する。そして、インク供給部材のZ基準H1502に記録素子ユニットH1001のZ基準H1502を、例えば、ビスH1900等により位置決め固定する。第3の封止剤H1503は、耐インク性があり、かつ、常温で硬化し、かつ、異種材料間の線膨張差に耐えられる柔軟性のある封止剤が望ましい。
【0045】
また、記録素子ユニットH1001の外部信号入力端子H1301部分は、例えば、インク供給部材H1501の裏面に、位置決め固定される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の積層セラミック基板の製造工程を説明するための図
【図2】本発明の積層セラミック基板の製造工程を説明するための図
【図3】本発明の積層セラミック基板を説明するための図
【図4】本発明の積層セラミック基板を説明するための分解斜視図
【図5】本発明の製造方法によって製造されたセラミック基板を用いた記録ヘッドの外観斜視図
【図6】本発明の製造方法によって製造されたセラミック基板を用いた記録ヘッドの分解斜視図
【図7】記録素子ユニットの分解斜視図
【図8】記録素子基板を説明する図(a)斜視図、(b)A−A断面図
【符号の説明】
【0047】
1(a)〜(d) セラミックグリーンシート
2 セラミックグリーンシート
4 位置決め穴
10 位置決めピン
11 治具プレート
H1000 記録ヘッド
H1001 記録素子ユニット
H1002 インク供給ユニット
H1100 記録素子基板
H1101 インク供給口
H1102 電気熱変換素子
H1103 電極
H1104 インク流路
H1105 ノズル
H1106 ノズル群
H1107 発泡室
H1108 Si基板
H1110 ノズルプレート
H1200 第1の支持板
H1201 インク供給口
H1204 X方向基準
H1205 Y方向基準
H1206 Z方向基準
H1300 電気配線基板
H1301 外部信号入力端子
H1302 電極端子
H1304 第1の封止剤
H1305 第2の封止剤
H1400 第2の支持板
H1500 インク供給部材
H1502 Z基準面
H1800 インクタンク
H1900 ビス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための複数のノズルと吐出エネルギーを発生する記録素子を複数配列した記録素子基板が支持基板の一面上に配置され、前記録素子基板には記録素子面と反対の面からインクを供給するための供給口が設けられており、前記支持板には記録素子基板へインクを供給するためのインク流路が設けられているインクジェット記録ヘッドにおいて、前記支持板は積層セラミック基板であって、少なくとも記録素子基板が搭載される側の層のインク流路は、焼成後に加工されることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法。
【請求項2】
前記支持板の焼成後の加工は、ダイヤモンド工具による切削加工であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法。
【請求項3】
前記支持板の焼成後の加工は、サンドブラストにより加工されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法。
【請求項4】
前記支持板の焼成後の加工は、レーザーにより加工されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド用支持基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−76237(P2007−76237A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268660(P2005−268660)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】