説明

インクジェット記録方法および装置

【課題】記録ヘッドを加速しながら印刷を行う際に、インク滴の着弾位置を適切に補正する。
【解決手段】記録ヘッドを等速で走査しながら、走査方向に同じパターンが繰り返されたテストチャートを記録媒体に記録する。次に、インク吐出タイミングを補正して、記録ヘッドを加速しながら、再度テストチャートを、記録されたテストチャートに重ねるように記録する。そして、当該記録を複数の補正値それぞれの場合について行う。その後、複数の補正値それぞれの場合で、記録されたテストチャート上の走査方向の複数箇所において、パターンの重なり度合いを検出し、各箇所について、重なり度合いが最も大きくなるような補正値を複数の補正値から特定する。その特定された各補正値によって補正したインク吐出タイミングでインクを吐出しつつ、記録ヘッドを加速しながら記録媒体に記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
記録ヘッドを走査しながら記録媒体に印刷するインクジェット記録方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と交差する方向に走査して印刷を行うシリアルスキャン方式のインクジェット記録装置においては、より一層の高速化が要求されている。そのような要求に応えるために、記録ヘッドを搭載するキャリッジの高速化が必要である。しかしながら、そのために広い加減速領域が必要となるので、インクジェット記録装置のサイズ増大を招いてしまう。このような課題に対し、キャリッジを加減速中においても印刷を行うことによって、加減速領域の一部を印刷領域とオーバーラップさせ、装置サイズの増大を防ぐことが考えられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−221672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、加減速中のキャリッジの速度のみから着弾位置の補正を行っているので、加速中のキャリッジ姿勢の変動等の影響を考慮していない。従って、キャリッジの姿勢の傾きによるインク滴の着弾位置を補正することができない。
【0005】
本発明の目的は、このような従来の問題点を解決することにある。上記の点に鑑み、本発明は、記録ヘッドを加速しながら印刷を行う際に、インク滴の着弾位置を適切に補正するインクジェット記録方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るインクジェット記録方法は、記録媒体を搬送する搬送方向と交差する走査方向に記録ヘッドを走査して前記記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、前記記録ヘッドを等速で走査しながら、前記走査方向に同じパターンが繰り返されたテストチャートを前記記録媒体に記録する第1工程と、前記第1工程による記録時のインク吐出タイミングを補正値によって補正して、前記記録ヘッドを加速しながら再度、前記テストチャートを、前記第1工程で記録した前記テストチャートに重ねるように記録し、当該記録を複数の補正値それぞれの場合について行う第2工程と、前記第2工程による記録後、前記複数の補正値それぞれの場合で前記第2工程によって記録された前記テストチャートの前記走査方向の複数箇所において、前記第1工程によって記録されたパターンと前記第2工程によって記録されたパターンとの重なり度合いを検出する第3工程と、前記複数箇所の各々について、前記重なり度合いが最も大きくなるような補正値を前記複数の補正値から特定する第4工程と、前記第4工程が特定した各補正値によって補正したインク吐出タイミングでインクを吐出しつつ、前記記録ヘッドを加速しながら前記記録媒体に記録を行う第5工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、記録ヘッドを加速しながら印刷を行う際に、インク滴の着弾位置を適切に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】インクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【図2】インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】記録ヘッド周辺の構造を示す図である。
【図4】記録ヘッドのノズル列の構成を概略的に示す図である。
【図5】キャリッジを側面から見た図である。
【図6】基準パターンに対して調整パターンを重ね打ちするチャートを説明するための図である。
【図7】キャリッジの姿勢変動を説明するための図である。
【図8】ノズル列の各部分について、検出位置に対する反射強度の変化を示す図である。
【図9】実施例1における補正値取得方法の手順を示すフローチャートである。
【図10】本実施例におけるチャートの印刷位置を示す図である。
【図11】分割されたノズル列の各部分について適用される補正値を示す図である。
【図12】各検出位置に対応する5つの反射強度の値を示す図である。
【図13】主滴とサテライトとの位置関係を示す図である。
【図14】実施例2における補正値取得方法の手順を示すフローチャートである。
【図15】本実施例におけるチャートの印刷位置を示す図である。
【図16】反射強度が最大になる滴群の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例を詳しく説明する。尚、以下の実施例は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでなく、また本実施例で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0010】
〔実施例1〕
[インクジェット記録装置の説明]
図1は、本実施例におけるインクジェット方式の記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。記録装置100は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なう記録ヘッド103を搭載したキャリッジ102にキャリッジモータM1によって発生する駆動力を伝達機構104より伝え、キャリッジ102を矢印A方向に往復移動させる。記録紙などの記録媒体Pを給紙機構105を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その搬送方向と交差する走査方向にキャリッジ102を往復移動させ、記録位置において記録ヘッド103から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0011】
また、記録ヘッド103の状態を良好に維持するためにキャリッジ102を回復装置110の位置まで移動させ、間欠的に記録ヘッド103の吐出回復処理を行う。記録装置100のキャリッジ102には記録ヘッド103を搭載するのみならず、記録ヘッド103に供給するインクを貯留するインクカートリッジ106が装着される。インクカートリッジ106は、キャリッジ102に対して着脱自在になっている。
【0012】
図1に示した記録装置100はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ102は、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0013】
さて、キャリッジ102と記録ヘッド103とは、両部材の接合面が適正に接触されて所要の電気的接続を達成維持できるようになっている。記録ヘッド103は、記録信号に応じてエネルギーを印加することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録する。記録ヘッド103は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用しており、熱エネルギーを発生するために電気熱変換体を備え、吐出口よりインクを吐出させる。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。なお、これに限らずピエゾ素子、静電素子などを用いたインクジェット方式の記録ヘッドを用いてもよい。
【0014】
図1に示されているように、キャリッジ102はキャリッジモータM1の駆動力を伝達する伝達機構104の駆動ベルト107の一部に連結されており、ガイドシャフト113に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されるようになっている。従って、キャリッジ102は、キャリッジモータM1の正転及び逆転によってガイドシャフト113に沿って往復移動する。また、キャリッジ102の移動方向(矢印A方向)に沿ってキャリッジ102の絶対位置を示すためのスケール108(CRエンコーダフィルム)が備えられている。この実施例では、スケール108は透明なPETフィルムに必要なピッチで黒色のバーを印刷したものを用いており、その一方はシャーシ109に固着され、他方は板バネ(不図示)で支持されている。
【0015】
また、記録装置100には、記録ヘッド103の吐出口(不図示)が形成された吐出口面に対向してプラテン(不図示)が設けられている。キャリッジモータM1の駆動力によって記録ヘッド103を搭載したキャリッジ102が往復移動されると同時に、記録ヘッド103に記録信号を与えてインクを吐出することによって、プラテン上に搬送された記録媒体Pの全幅にわたって記録が行われる。
【0016】
さらに、図1における搬送ローラ114は、記録媒体Pを搬送するために搬送モータM2によって駆動される。また、ピンチローラ115は、バネ(不図示)により記録媒体Pを搬送ローラ114に当接する。また、ピンチローラホルダ116は、ピンチローラ115を回転自在に支持する。また、搬送ローラギヤ117は、搬送ローラ114の一端に固着されている。そして、搬送ローラギヤ117に中間ギア(不図示)を介して伝達された搬送モータM2の回転により、搬送ローラ114が駆動される。
【0017】
また、排出ローラ120は、記録ヘッド103によって画像が形成された記録媒体Pをインクジェット記録装置外ヘ排出する。排出ローラ120は、搬送モータM2の回転が伝達されることで駆動されるようになっている。なお、排出ローラ120は、記録媒体Pをバネ(不図示)により圧接する拍車ローラ(不図示)により当接する。拍車ホルダ122は、拍車ローラを回転自在に支持する。
【0018】
記録装置100には、記録ヘッド103の吐出不良を回復するための回復装置110が配設されている。回復装置110は、図1に示されているように、記録ヘッド103を搭載するキャリッジ102の記録動作のための往復運動の範囲外(記録領域外)の位置(例えば、ホームポジションに対応する位置)に設けられている。
【0019】
回復装置110は、記録ヘッド103の吐出口面をキャッピングするキャッピング機構111と記録ヘッド103の吐出口面をクリーニングするワイピング機構112を備えている。回復装置110は、キャッピング機構111による吐出口面のキャッピングに連動して回復装置内の吸引ポンプ等により吐出口からインクを強制的に排出させ、記録ヘッド103のインク流路内の粘度の増したインクや気泡等を除去するなどの吐出回復処理を行う。
【0020】
また、非記録動作時等には、記録ヘッド103の吐出口面をキャッピング機構111によりキャッピングすることによって、記録ヘッド103を保護するとともにインクの蒸発や乾燥を防止することができる。一方、ワイピング機構112はキャッピング機構111の近傍に配され、記録ヘッド103の吐出口面に付着したインク液滴を拭き取るようになっている。これらキャッピング機構111及びワイピング機構112により、記録ヘッド103のインク吐出状態を正常に保つことが可能となっている。
【0021】
[インクジェット記録装置の制御構成]
図2は図1に示した記録装置100の制御構成を示すブロック図である。制御部210は、MPU211と、後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納したROM212を含んでいる。また、制御部210は、キャリッジモータM1や搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド103の制御のための制御信号を生成する特殊用途集積回路(ASIC)213を含んでいる。さらに、制御部210は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等を設けたRAM214と、各ブロックを相互に接続してデータの授受を行うシステムバス215を含んでいる。また、制御部210は、以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU211に供給するA/D変換器216を含んでいる。
【0022】
図2において、ホスト装置300は、画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取り用のリーダやデジタルカメラなど)である。ホスト装置300と記録装置100との間ではインタフェース(I/F)201を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。
【0023】
スイッチ群220は、操作者による指令入力を受けるためのスイッチから構成される。スイッチは、電源スイッチ221、プリント開始を指令するためのプリントスイッチ222、及び記録ヘッド103のインク吐出性能を良好な状態に維持するための処理(回復処理)の起動を指示するための回復スイッチ223を含む。センサ群230は、記録装置100の状態を検出するためのセンサ群である。センサ群230は、ホームポジションを検出するためのフォトカプラなどの位置センサ231、環境温度を検出するために記録装置100の適宜の箇所に設けられた温度センサ232等から構成される
キャリッジモータドライバ240は、キャリッジ102を図1に示す矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させる。また、搬送モータドライバ250は、記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる。ASIC213は、記録ヘッド103による記録走査の際に、ROM212の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出ヒータ)の駆動データを転送する。
【0024】
[記録ヘッド周辺の構造]
図3は、記録ヘッド103周辺の構造を示す図である。記録ヘッド103は、キャリッジ102に支持されており、キャリッジ102は、不図示のモータとベルトで接続されて往復動作可能に構成されている。また、図3において、記録ヘッド103の待機位置301は、ホームポジション(HP)ともいう。記録媒体である用紙Pを挟んで逆側に対応する位置は、バックポジション(BP)ともいう。キャリッジ102の位置は、キャリッジ走査方向に沿って配置されたリニアスケールで管理される。キャリッジ102に備えられた不図示のエンコーダセンサでリニアスケールを光学的に読み取ることで、キャリッジ102の位置管理が行われる。記録ヘッド103からのインク吐出タイミング(以下、単に吐出タイミングともいう)も、エンコーダセンサから出力される読取りパルスに基づいて決定される。吐出タイミングを制御するパラメータによって、キャリッジ走査中での吐出タイミングを遅らせたり早めたりすることで、用紙P上へのインク滴の着弾位置を調整する。インク滴の吐出タイミングを制御するためのパラメータとは、例えば、走査方向における着弾位置のずれ量(ドット数)である。
【0025】
図4は、記録ヘッド103のノズル列の構成を概略的に示す図である。記録ヘッド103には、4列のノズル列が所定の間隔を以って配置されている。各ノズル列401には、複数のノズルが列状に構成されている。以下、それぞれのノズル列をチップともいう。各チップ401はそれぞれ異なるインク色に対応している。例えば、チップ0がブラック(K)のインクに対応し、チップ1がイエロー(Y)のインクに対応し、チップ2がマゼンタ(M)のインクに対応し、チップ3がシアン(C)のインクに対応する。
【0026】
図5は、キャリッジ102を側面から見た図である。本実施例において、キャリッジ102は、反射型のセンサ501を含む。センサ501は、RGBの反射強度を読み取る、濃度計のような機能を有している。センサ501は、RGBに対応する光を発光するLEDである発光部502と、フォトトランジスタである受光部503とを含む。図5に示すように、発光部502から照射された光は用紙Pで反射し、受光部503がその反射光を受光する。受光部503が出力する電気信号は増幅回路等を介して不図示のADコンバータに送られ、反射光の強度が検出される。センサ501には、用紙P上で正方形状の約5×5mmが検出スポットとなるようにアパーチャが構成されている。検出スポット内での光量分布はほぼ均一である。
【0027】
本実施例においては、基準パターン601に対して調整パターン602を重ね打ちして一つのテストチャート(以下、単にチャートともいう)を印刷する。基準パターン601と調整パターン602は同じパターンであり、図6(a)に示すように、インク滴の吐出と非吐出とを4ドット分づつ繰り返している。但し、本実施例においては、インク滴の吐出タイミングを制御することによって、調整パターン602が基準パターン601に対してずれて重ねるようにする。
【0028】
ここで、ずれ量と反射強度(濃度)との関係について説明する。図6(b)に示すように、基準パターン601と調整パターン602とが様々なずれ量によって重なっていると、各ずれの状態に応じて反射強度も異なってくる。つまり、基準パターン601と調整パターン602とが一致して重なってエリアファクタが最も小さくなった場合には、反射強度は最も大きくなる(つまり、濃度は最も小さくなる)。
【0029】
次に、キャリッジ102の加速中における姿勢変動について説明する。図7は、キャリッジ102の姿勢変動を説明するための図である。図7(a)は、キャリッジ102が定速(等速)中の場合を示し、図7(b)は、キャリッジ102が加速中の場合を示す。定速中では、記録ヘッド103から吐出されたインク滴は用紙Pに着弾するまでに、キャリッジ102の速度による慣性力を受け、走査方向にずれて着弾する。定速中では、そのずれ量は一定となるので、通常の吐出タイミングの調整(レジ調整)によって補正することができる。
【0030】
しかしながら、図7(b)に示すように、キャリッジ102の加速の際(加速度が一定でない場合を含む)には、キャリッジ102を加速させるためにキャリッジ102がベルトで走査方向に引っ張られる。つまり、図7(b)の左に示すように、ガイド部材を支点として回転するような向きにキャリッジ102の姿勢が変化する(傾く)。その結果、インク滴の着弾位置も変化することになる。しかも、加速中においてはキャリッジ速度が変化しているので、インク滴の着弾位置も加速中において変化することになり、通常の吐出タイミングの調整(レジ調整)では補正することができなくなってしまう。
【0031】
本実施例においては、まず、キャリッジ102を定速で動作させて基準パターン601を印刷する。その際には、着弾位置のずれは上述のように通常のレジ調整で補正可能であるので、印刷されるチャートは、図6(a)に示すようになる。つまり、基準パターン601は、インク滴の理想的な着弾位置といえる。次に、キャリッジ102を加速させながら基準パターン601に重ねて印刷する。その際には、予め定められた補正値に従って、インク滴の吐出タイミングが制御される。
【0032】
仮に、基準パターン601に対して重ね打ちする際のキャリッジ102が定速であれば、基準パターン601と調整パターン602とが一致して重なるか否かに関わらず、そのチャートにおいて反射強度は一定となる。基準パターン601と調整パターン602とのずれの程度はそのチャート全域に渡って一定となるからである。
【0033】
しかしながら、基準パターン601に対して重ね打ちする際のキャリッジ102が加速中であれば、予め定められた補正値で吐出タイミングが制御されていたとしても、速度が変化するの。したがって、基準パターン601と調整パターン602とのずれはチャート全域に渡って変化する。図8を参照して説明すると、例えば、「II」の場合には、検出位置0〜20mm付近では中程度のずれがあって、検出位置50mm付近のキャリッジ102の定速状態に近づくにつれて、ずれが大きくなっていることを示している。また、「IV」の場合には、検出位置0〜20mm付近では中程度のずれがあって、検出位置50mm付近のキャリッジ102の定速状態に近づくにつれて、ずれがなくなっていることを示している。「II」と「IV」との違いは、インク滴の着弾位置の補正量がどのように定められているかに依っている。つまり、「IV」の場合には補正量は「0」であり、0〜20mm付近でキャリッジ102の加速によりインク滴の着弾位置が理想位置(基準パターン601)からずれる。しかしながら、キャリッジ102が50mm付近で定速になると、基準パターン601を印刷した場合と同じになるので、両者のずれはなくなる。ここで、検出位置とは、キャリッジ102の加速を開始した位置からの距離をいう。
【0034】
一方、「II」の場合には、「IV」の場合の0〜20mm付近のずれを補正するための補正量が定められている。その結果、0〜20mm付近では、「IV」に比べるとずれがある程度補正されている。しかしながら、定速になるにつれて、補正量が逆にずれを生じさせてしまっている。当然のことながら、「I」、「III」、「V」の各場合のずれの違いも、上記と同様に、定められた補正量の違いに依っている。
【0035】
つまり、チャート領域においてキャリッジ102を加速させながらインク滴を吐出して印刷を行う場合には、チャートの各場所において異なった補正値を用いなければ、チャート全域に渡って、最大の反射強度(即ち、インク滴が理想的な位置(定速の場合での着弾位置)に着弾することと同じである)で一定とならないことが分かる。
【0036】
本実施例においては、チャートのテスト記録をキャリッジ102の定速と加速の2つの場合において重ね打ちすることを複数の補正値それぞれについて行う。そして、チャートの各位置における重なり度合いに基づき、各位置での最適な補正値を求めることをねらいとしている。
【0037】
図9は、本実施例における補正値取得方法の手順を示すフローチャートである。図9に示す処理は、例えば、記録装置100のMPU211によって実行される。まず、キャリッジ102を図10に示すBP位置から定速で往方向に駆動し、基準パターン601を記録媒体上に印刷する(S901:第1テスト記録の一例)。その場合には、加速領域が必要ないような低速で駆動しても良いが、実動作の場合に、その低速駆動と条件が異なることによりキャリッジ102の姿勢がかえって不安定になることが考えられる。従って、図10に示すように、チャート1001を用紙Pの中央付近に印刷するようにし、キャリッジ102の十分な加速領域を確保できるようにしても良い。その結果、キャリッジ102を実動作の場合でのキャリッジ102の速度とすることができる。また、チャート1001は、キャリッジ102が後段においてチャート内で加速印刷することを考慮し、101.6mm(4インチ)と十分な長さを有するようにする。チャート1001は、記録ヘッド103の駆動条件に応じて、複数回のスキャンで印刷するようにしても良い。
【0038】
基準パターン601の記録媒体への記録後、キャリッジ102をBP位置に戻し、再度所定の加速開始位置から往方向に加速しながら、基準パターン601に対して、調整パターン602を重ね打ちする(S902:第2テスト記録の一例)。S902での印刷の際には、キャリッジ102の速度および姿勢は加速によって変化するので、その変化に応じた位置にインク滴が着弾する。上述したように、本実施例は、この重ね打ちを複数の補正値によって行う。本実施例においては、特に、図11(a)に示すように記録ヘッド103のノズルをノズル列方向に5つの区分に分割し、それぞれのノズル組について相異なる補正値を割当てる。このように構成することによって、一回の重ね打ちの印刷によって、複数の補正値に基づく印刷結果を取得することができる。図11(b)は、図11(a)に示すように5分割されたノズル列によって、記録ヘッド103を走査した場合のチャートを概念的に示す図である。図11(b)のように印刷されたチャートが基準パターン601と重なると、I〜Vの各部分で、検出位置に対する濃度変化(反射強度変化)は異なる。図8は、図11(a)に示すように分割された記録ヘッド103を加速して基準パターン601に重ね打ちした結果の各部分の反射強度の変化を示す図ともいえる。
【0039】
S903において重ね打ちされたチャート1001の反射強度を、キャリッジ102をチャート1001の全領域に渡って走査させながら、テストチャート上、走査方向に沿った複数箇所をセンサ501で測定する(S903)。先に説明した図8は、その結果を示している。「IV」の場合には補正値は0であるので、キャリッジ102が加速して定速状態になると基準パターン601と同じ着弾位置となって反射強度が最大となる。一方、補正値が強く設定されている場合を示すのが、図8の「I」〜「III」の場合である。それらの場合には、検出位置の始めの方では、補正値によって基準パターン601と同じ着弾位置となって高い反射強度を示す。しかしながら、キャリッジ102が定速状態となると、補正値が過度に作用してしまって基準パターン601と着弾位置がずれ、反射強度が低下してしまっている。
【0040】
次に、図8に示すような結果を、チャート1001内の反射強度検出位置に対応する複数の(本例では5つ)反射強度の値として整理する(S904)。図12は、検出位置に対応する5つの反射強度の値を示す図である。図12(b)は、図12(a)に示すテーブル中の検出位置30.5mmに対応する5つの反射強度の値をグラフとして示した図である。
【0041】
図12(a)では、0.5インチ間隔で検出位置を抽出している。つまり、4インチ分の検出位置を抽出したとすると、図12(a)は、8×5のマトリクスとなる。また、各検出位置の間の補正値については、例えば、2検出位置間での平均値で一定であるとしても良い。
【0042】
本実施例においては、図12に示すテーブルまたはグラフから、各検出位置において反射強度が最大となる補正値を特定する(S905)。例えば、図12(b)からは、検出位置30.5mmにおいては+4を補正値として特定する。つまり、各検出位置において、基準パターン601と最もずれが小さくなるような補正値を特定するわけであるが、精度を高めるために、フィッティング処理等が用いられて補正値を算出するようにしても良い。上述の4インチ間においては、8つの検出位置それぞれにおいて最適な補正値を取得することができる。ここで、検出位置間においては、線形補間によって補正値を求めるようにしても良い。チャート1001の終端付近では、キャリッジ102は基準パターン601を印刷した場合と同じ定速となっているので、最適な補正値としては0となる。
【0043】
図9に示すような処理によって、キャリッジ102を加速させながら印刷対象のデータに基づき印刷する実記録時においても、定速の場合と同じ位置にインク滴を着弾させることができる。記録装置100において、図9に示す処理から特定された補正値と、予め定められたレジ調整値と、キャリッジ102の加速開始位置から加速する際に用いられる加速パラメータが考慮されて、インク滴の最終的な吐出タイミングが制御される。
【0044】
図9の処理は、キャリッジ102の加速パラメータ(加速度等)が複数存在する場合には、各加速パラメータについて行われても良い。また、図9の処理は、キャリッジ102を定速から減速していく場合においても適用することができる。図9の処理を各インク色について行っても良いが、キャリッジ102の右端または左端のノズル列で代表して最適な補正値を取得し、間のノズル列(図4のチップ1およびチップ2)は、内挿によって補正値を求めるようにしても良い。その結果、図9の処理の回数を減らすことができる。
【0045】
本実施例によると、キャリッジ102を実際に加速させて印刷したチャート1001に基づいて、各検出位置での最適な補正値を取得するので、キャリッジ102の姿勢変動や駆動条件等を考慮することができる。また、補正値はキャリッジ102の加速開始位置からの相対的な距離に応じて取得されるので、補正値の取得においては用紙Pの幅を特に考慮しなくても良い。
【0046】
〔実施例2〕
記録ヘッド103から吐出されたインク滴に、主滴とは別のサテライトといわれる小液滴が生じる場合がある。本実施例では、サテライトの影響を考慮した補正値の取得方法について説明する。
【0047】
サテライトは主滴に比べて飛翔速度が遅いことが知られており、用紙面上に着弾するまでの飛翔時間が長いことからキャリッジ速度の影響をより受けやすい。特に、キャリッジ102を往方向および復方向に走査して印刷を行う場合には、サテライトは各方向において主滴の反対側に着弾する。従って、双方向に印刷する場合において、サテライトの位置ずれへの影響は極めて大きいといえる。つまり、このようなサテライトを伴うインク滴の着弾位置を双方向において合わせる場合には、主滴とサテライトの滴群として平均的に位置が合うように双方向で合わせるのが画像上好ましい。
【0048】
例えば、往方向で加速しながら印刷した場合、キャリッジ速度が遅い加速初期領域では図13(a)に示すような滴群の着弾となる。図13においては、図内右側から左側に向かう方向が往方向である。サテライトと主滴間の距離は、キャリッジ速度が遅くなるにつれて短くなる。キャリッジ102の加速が進むと、図13(b)に示すように、サテライトと主滴間の距離が広がっていく。一方、復方向においてキャリッジ102が定速で走査しているとすると、図13(c)に示すように、サテライトの着弾位置が反対側となって滴群が着弾する。つまり、双方向において主滴とサテライトの位置関係が、キャリッジ102の加速(又は減速)中か定速中かによって変化するといえる。
【0049】
そこで、本実施例においては、キャリッジ102の加減速に起因する主滴とサテライトの位置関係の変化を考慮した補正値を取得する。本実施例における補正値の取得方法の手順を示すフローチャートを図14に示す。まず、キャリッジ102を復方向に定速で走査し、基準パターン601を印刷する(S1401)。本実施例においては、キャリッジ102の実駆動での定速状態に達するために必要とされる加速領域がBP側で得られるように、図15に示すようにチャート1501を印刷するようにする。次に、キャリッジ102をS1401と反対向きの往方向に加速させながら、調整パターン602を印刷する(S1402)。S1403以降の処理については、図9のS903〜S905と同じである。
【0050】
このようにチャートを印刷すると、反射強度が最大になる着弾位置は、図16に示すようになる。図16(a)は、往方向において加速初期の状態で着弾された滴群と、復方向における定速の状態で着弾された滴群との重なりが最大の反射強度を示す場合である。また、図16(b)は、往方向において加速後半の状態で着弾された滴群と、復方向における定速の状態で着弾された滴群との重なりが最大の反射強度を示す場合である。両者から分かるように、滴群全体についての往復での位置関係が一致するように重なるほど、反射強度が大きくなる。
【0051】
本実施例によると、サテライトを考慮して、双方向における着弾位置のずれを補正することができる。また、キャリッジ102を実際に往方向で加速させて印刷したチャート1501に基づいて、各検出位置での最適な補正値を取得するので、キャリッジ102の姿勢変動や駆動条件等によるサテライトの着弾位置のばらつきも考慮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送する搬送方向と交差する走査方向に記録ヘッドを走査して前記記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドを等速で走査しながら、前記走査方向に同じパターンが繰り返されたテストチャートを前記記録媒体に記録する第1工程と、
前記第1工程による記録時のインク吐出タイミングを補正値によって補正して、前記記録ヘッドを加速しながら再度、前記テストチャートを、前記第1工程で記録した前記テストチャートに重ねるように記録し、当該記録を複数の補正値それぞれの場合について行う第2工程と、
前記第2工程による記録後、前記複数の補正値それぞれの場合で前記第2工程によって記録された前記テストチャートの前記走査方向の複数箇所において、前記第1工程によって記録されたパターンと前記第2工程によって記録されたパターンとの重なり度合いを検出する第3工程と、
前記複数箇所の各々について、前記重なり度合いが最も大きくなるような補正値を前記複数の補正値から特定する第4工程と、
前記第4工程が特定した各補正値によって補正したインク吐出タイミングでインクを吐出しつつ、前記記録ヘッドを加速しながら前記記録媒体に記録を行う第5工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記第3工程は前記記録媒体に記録された前記テストチャートの濃度を測定することによって前記重なり度合いを検出する、ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記第2工程は、前記記録ヘッドのノズル列を複数に区分けし、区分けした各々に前記複数の補正値それぞれを割り当て、前記複数の補正値それぞれが割り当てられた前記記録ヘッドを加速しながら前記テストチャートを記録する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記第2工程は、前記第1工程と前記走査方向において反対向きに、前記記録ヘッドを走査することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
記録媒体を搬送する搬送方向と交差する走査方向に記録ヘッドを走査して前記記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドを等速で走査しながら、前記走査方向に同じパターンが繰り返されたテストチャートを前記記録媒体に記録する第1テスト記録手段と、
前記第1テスト記録手段における記録時のインク吐出タイミングを補正値によって補正して、前記記録ヘッドを加速しながら再度、前記テストチャートを、前記第1テスト記録手段において記録された前記テストチャートに重ねるように記録し、当該記録を複数の補正値それぞれの場合について行う第2テスト記録手段と、
前記第2テスト記録手段における記録後、前記複数の補正値それぞれの場合で前記第2テスト記録手段において記録された前記テストチャートの前記走査方向の複数箇所において、前記第1テスト記録手段において記録されたパターンと前記第2テスト記録手段において記録されたパターンとの重なり度合いを検出する検出手段と、
前記複数箇所の各々について、前記重なり度合いが最も大きくなるような補正値を前記複数の補正値から特定する特定手段と、
前記特定手段において特定された各補正値によって補正したインク吐出タイミングでインクを吐出しつつ、前記記録ヘッドを加速しながら前記記録媒体に記録を行う実記録手段と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2013−86335(P2013−86335A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228271(P2011−228271)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】