説明

インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】インクの耐固着性に優れ、かつ、インク受容層を有する記録媒体の記録面を重ね合わせた場合に白もやの発生を抑制することができるインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】インクが、水、水溶性有機溶剤、並びに、下記一般式(I)又は、(II)で表される化合物の少なくとも一方を含有するインクである。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法により得られる画像の高画質化により、画像の出力形態が銀塩方式からインクジェット方式へと急激にシフトしている。このような状況のもとで、インクジェット記録方法には出力速度の高速化が強く求められている。これに伴い、インクの乾燥速度向上への要求も高まっており、その向上を図るための提案が数多くなされている。例えば、インクにより画像を形成した後、記録媒体を加熱ローラーにより乾燥させることに関する提案がある(特許文献1参照)。
【0003】
また、インクの耐固着性などの信頼性においても、出力速度の高速化に伴いより厳しいレベルの性能を満足することが要求されるようになっている。この課題に対しては、例えば、記録ヘッドと記録媒体との間を加湿することにより、インクとなじみにくい材質にも記録可能で、インク滴からの水分の飛散や記録ヘッドの目詰まりを抑制できる記録方法が提案されている(特許文献2参照)。また、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンなどの保水性のある水溶性有機化合物を含有するインクにより、記録ヘッドでの耐目詰まり性などの吐出性を向上させたインクが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−103044号公報
【特許文献2】特開平11−268256号公報
【特許文献3】特開2005−298813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さらに、近年では、記録物を製本し、アルバムなどの形態とした、いわゆるフォトブックが急速に普及している。そして、インクジェット記録方法により形成した画像を用いて、フォトブックを作製する機会も多くなってきている。
【0006】
しかし、インクジェット記録方法による記録物の場合、記録面を内側にして記録媒体を折り曲げたり、また、複数の記録媒体の記録面が重なり合うようにしたりして製本を行うと、以下に述べるような新たな課題が発生することがわかった。すなわち、記録媒体のインク受容層の面が重なり合うような状態で記録物をしばらく保存すると、一方の記録媒体に、他方の画像の形状として白いもや状のムラが生じた。以下、本明細書においては、このような状況で生じる現象を「白もや」と述べる。この白もやは、重なり合う2つの記録面の両方に画像が形成されている場合に特に顕著に確認される。しかし、重なり合う2つの記録面の少なくとも一方に画像が形成されていれば、他方の記録面における前記の画像と重なり合う領域には画像が形成されていない場合であってもわずかには確認される。
【0007】
したがって、本発明の目的は、インクの耐固着性に優れ、かつ、インク受容層を有する記録媒体の記録面を重ね合わせた場合に白もやの発生を抑制することができるインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の顕著な効果が得られるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、さらに、前記画像を形成した記録媒体を乾燥させる工程、及び、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿する工程の少なくとも一方を行い、前記画像形成工程に用いるインクが、水、水溶性有機溶剤、並びに、下記一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方を含有するインクであることを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体である。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換のヘテロ環基である。Rは−S−、−S(=O)−、及び−S(=O)−のいずれかである。)
【0011】
【化2】

【0012】
(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体である。Rは硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクの耐固着性に優れ、かつ、インク受容層を有する記録媒体の記録面を重ね合わせた場合に白もやの発生を抑制することができるインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明の別の実施形態によれば、上記の顕著な効果が得られるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】白もやが生じる画像の一例を説明するための模式図である。
【図2】加湿による白もや抑制のメカニズムを説明するための模式図である。
【図3】インクジェット記録装置の全体構成を示す断面図である。
【図4】インクジェット記録装置の主要部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好適な実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0016】
[白もやの発生メカニズム]
先ず、インク受容層を有する記録媒体の記録面を重ね合わせた場合に発生する白もやという現象について説明する。ここでは、理解を容易にするため、白もやが特に顕著に生じる場合を例に挙げる。図1(A)のように、ブラックの画像aが全体的に形成された記録媒体aの記録面a、ブラックの画像bが一部の領域に形成された記録媒体bの記録面bを重ね合わせ、しばらく放置する。すると、図1(B)のように、記録媒体aにおける画像aの領域内に、記録媒体bにおける画像bの形状として白いもや状のムラが生じる。なお、図示しないが、図1(B)の記録媒体bにも、記録媒体aにおける画像aの形状として白いもや状のムラが生じるが、記録媒体bの画像bが形成されていない領域であるので、白もやの程度は、記録媒体aにおける白もやと比べると軽微である。
【0017】
本発明者らは、上記で説明したような白もやが発生する原因を解析した。その結果、以下のようなメカニズムにより白もやが生じていることを突き止めた。インクジェット記録方法に用いるインクは一般に、色材の他に、液体成分(水や、水に溶解した有機化合物、有機溶剤)などを含有する。インク受容層を有する記録媒体にこのインクを用いて画像を形成すると、インクに含まれていた液体成分は、画像形成後の記録媒体の表面上にインクが存在しなくなった時点でも蒸発し切らず、インク受容層の内部に僅かに残留する。その後、インク受容層の内部に残留していた液体成分は、時間の経過とともに徐々に蒸発していくが、液体成分が蒸発し終わるまでにはかなりの時間を要する。通常、画像形成後にフォトブックを作製するような場合、液体成分が残留している状態で記録媒体の記録面を重ね合わせることになる。
【0018】
このとき、記録面が重ね合わせられているため、一方の記録媒体のインク受容層内部に残留している液体成分は、他方の記録媒体のインク受容層に移動する場合がある。この移動の程度や量は、インク受容層内部に存在する液体成分の量に依存する。したがって、記録媒体に形成された画像の領域において、インク種やその付与量が異なると、インク受容層中に残留する液体成分の量も不均一となるため、記録面を重ね合わせた場合、液体成分の移動量も不均一となる。その結果、記録媒体の領域によって、インク受容層内部に存在する液体成分の量が不均一となるため、インク受容層のヘイズ(にごり)が領域によって異なるようになり、これが白もやとして認識されるのである。なお、白もやが発生するような場合であっても、その領域には他方の画像の色は転写されていなかったため、色材の移動は生じないと言える。
【0019】
このメカニズムに基づいて、先の具体例において生じている現象をより詳細に説明する。図1(A)の記録媒体bにおける、画像bが形成されていない領域のインク受容層にはインク由来の液体成分が存在しない。このため、記録面a及びbを重ね合わせても、上記領域では記録媒体bからaへの液体成分の移動は生じない。一方、図1(A)の記録媒体bにおける、画像bが形成された領域のインク受容層にはインク由来の液体成分が残留している。このため、記録面a及びbを重ね合わせると、記録媒体bからaへの液体成分の移動が生じ、記録媒体bの画像領域と非画像領域にそれぞれ対応する位置の記録媒体aにおける領域では、インク受容層内部に存在する液体成分の量が異なるようになる。その結果、インク受容層のヘイズも異なるようになるので、図1(B)のように、記録媒体aにおいて、記録媒体bにおける画像bの形状として白もやが認識されるようになる。
【0020】
[本発明に至った経緯]
そこで、本発明者らは、インク受容層の内部に残留する液体成分の量を減少させれば白もやの発生を抑制できると考え、特許文献1や2を参考に、画像を形成した後に、該画像を形成した記録媒体を乾燥させることを試みた。この手法により白もやの発生はある程度は抑制され、また、乾燥の際のエネルギー量を高めればその抑制の程度も高まる方向となることはわかったものの、相当量のエネルギーを与えても依然として不十分であった。また、特許文献3を参考に、記録ヘッドと記録媒体との間の加湿を行い、画像を形成したところ、耐目詰まり性は向上するものの、白もやは、加湿を行わない場合よりもむしろ発生しやすくなる傾向にあることがわかった。
【0021】
本発明者らは、液体成分がインク受容層の内部に残留したとしても、記録媒体間での液体成分の移動を抑制し得る成分についての検討を行ったところ、樹脂などの高分子化合物を使用することで白もやの発生がやや抑制できることがわかった。しかし、このような高分子化合物を含有するインクは、吐出安定性や耐固着性が十分に得られない場合があった。
【0022】
そこで、本発明者らはインクに使用する化合物に着目し、種々の水溶性有機溶剤について、インクの耐固着性を満足し、かつ、白もやの発生を低減し得る水溶性有機溶剤について検討を行った。その結果、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンをインクに含有させると、耐固着性などの吐出性にも優れ、かつ、白もやの発生をある程度は抑制できることがわかった。そこで、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンに類似する化合物についても検討を行った。すると、後述する一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方をインクに含有させることにより、耐固着性に優れるだけではなく、これまでに検討した手法のいずれよりも白もやの発生を抑制できることがわかった。しかし、依然として白もやの発生が十分に抑制されているとは言えないレベルであった。以下、一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物をそれぞれ、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物と呼ぶことがある。
【0023】
そこで、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物の少なくとも一方を含有するインクを用いて記録媒体に画像を形成し、この画像を形成した記録媒体を強制的に乾燥させた後の状態を確認した。その結果、予想をはるかに上回る、優れた白もやの抑制効果が得られることがわかった。すなわち、画像を形成した記録媒体を乾燥させない場合に比べて、乾燥させた場合では、白もやが予想よりも大幅に抑制されていたのである。つまり、インクには上記特定の化合物を含有させ、該インクを用いて形成した画像を形成した記録媒体を乾燥させるということが白もやの発生を抑制し、かつ、インクの耐固着性をも満足するために重要なのである。一方、上記特定の化合物とは異なる別の化合物をインクに使用すると、画像を形成した記録媒体を乾燥させた場合であっても白もやは僅かに抑制できる程度に留まり、依然として不十分なレベルであった。
【0024】
また、本発明者らは、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物の少なくとも一方を含有するインクを用いた場合に、白もやの発生を抑制することができる他の手法についても検討を行った。その結果、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物の少なくとも一方を含有するインクを用いて画像を形成する際に、記録ヘッドと記録媒体との間を加湿することでも、白もやの発生を抑制できることを見出した。すなわち、加湿を行わない場合に比べて、加湿を行った場合では、白もやが大幅に抑制されていたのである。つまり、インクには上記特定の化合物を含有させ、該インクを用いて画像を形成する際に記録ヘッドと記録媒体との間を加湿することが白もやの発生を抑制し、かつ、インクの耐固着性をも優れたレベルで満足するために重要なのである。一方、上記特定の化合物とは異なる別の化合物をインクに使用すると、加湿を行わない場合に比べて、加湿を行った場合では、むしろ白もやの程度が劣ることがあり、依然として不十分なレベルであった。
【0025】
上述の通り、特定の化合物を含有するインクを用い、かつ、画像を形成した記録媒体を乾燥させる、又は、記録ヘッドと記録媒体との間を加湿する、という記録方法により、インクの耐固着性を満足し、白もやの発生を優れたレベルで抑制することができる。これらのことから、本発明者らがさらに検討を進めたところ、画像を形成した記録媒体の乾燥と、記録ヘッドと記録媒体との間の加湿と、の両方を行うことで、特に高いレベルで白もやの発生を抑制することができることもわかった。以下、本発明の各実施態様についてそれぞれ詳細に説明する。なお、画像形成工程については各実施態様について共通するため、最後に説明する。
【0026】
<インクジェット記録方法>
[第1の実施態様]
本発明の第1の実施態様の特徴は、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物の少なくとも一方を含有するインクを用いて画像を形成した後に、画像を形成した記録媒体を乾燥させる乾燥工程を行うことにある。上記特定の化合物を含有するインクを用いて画像を形成した後に、乾燥工程を行うことで、白もやの発生を抑制することができるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0027】
まず、一般式(I)又は一般式(II)で表される構造を有していても、25℃(常温)で液体である化合物を含有するインクの場合は、乾燥工程を行った場合及び行わなかった場合のいずれにおいても、白もやが発生した。このような化合物は、本発明で使用する25℃で固体の化合物と比較して、通常インクジェット記録を行う温度範囲における蒸気圧が相対的に高く、インク受容層の内部に残留すると、記録面を重ね合わせた際に徐々に蒸発による移動が生じるため白もやが発生する。つまり、本発明で使用する一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物は、インクに一般的に使用される水溶性有機化合物のなかでも蒸気圧が相対的に低い部類に属するために、蒸発による移動がごく僅かであることで、白もやもある程度は抑制できる。
【0028】
また、エチレン尿素やトリメチロールプロパンは25℃で固体であり、インクジェット用のインクに一般的に使用される水溶性有機化合物のなかでも蒸気圧が相対的に低い部類に属する。しかし、これらの化合物を含有するインクを用いても、乾燥工程を行った場合及び行わなかった場合のいずれにおいても、白もやが発生した。このように、蒸気圧が低いという特性が類似していても、尿素やトリメチロールプロパンと、本発明で使用する一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物とでは、画像形成後に乾燥工程を行う場合における白もやの抑制の程度は全く異なるのである。本発明者らは、化合物の種類によってこのような違いがあり、一般式(I)や一般式(II)の化合物を含有するインクを用い、画像形成後に乾燥工程を行うことで白もやの発生が顕著に抑制されるのは、化合物の構造に大きく依存するものと推測している。
【0029】
一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物の構造中には硫黄原子が含まれ、この硫黄原子に1ないしは2個の酸素原子が結合している場合、該化合物は極性を有している。また、一般式(I)の化合物の構造中の硫黄原子に酸素原子が結合していない場合、硫黄原子には非共有電子対が存在する。ここで、インクジェット用の、インク受容層を有する記録媒体は、色材の定着性向上などのためにカチオン性部位を有する化合物を含んでインク受容層が構成されている。インク受容層を構成する化合物のカチオン性部位と、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物の極性ないしは非共有電子対とにより、ファンデルワールス力などにより弱いながらも結合を生成している。この結果、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物はインク受容層の内部に残留しても、蒸発による移動が生じにくいため、白もやの発生をある程度抑制することができると考えられる。
【0030】
上記のインクを用いて画像を形成した後、該画像が形成された記録媒体を強制的に乾燥させることで、液体成分の蒸発を促進する。液体成分のうち水は乾燥によりその多くが蒸発するものの、完全には蒸発し切らず、インク受容層の内部にわずかながら残留する。また、一般的な水溶性有機溶剤は強制的に乾燥を行っても、短時間では完全には蒸発し切らず、その後にもインク受容層の内部に残留する。
【0031】
一方、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物は上述の通り蒸気圧が低いため、インク受容層の内部に残留しても蒸発しづらい。そのため、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物を含有するインクを用いて画像を形成した後、該画像を形成した記録媒体を乾燥することでインク受容層の内部に存在する水の量はごく微量となる。そして、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物はインク受容層の内部に残留することになるが蒸発はしづらく、このような化合物が存在する分、その他の水溶性有機溶剤のインク受容層内部への残留が抑制される。そのため、画像が形成された記録媒体を乾燥することによって、液体成分の移動による白もやの発生を抑制することができると考えられる。つまり、インクに含有させる一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物はその構造中に硫黄原子が含まれることが共通している。この点が、前記インクを用いて画像を形成した記録媒体を乾燥することが本発明の第1の実施態様による効果を得るうえで重要なポイントとなっているのである。
【0032】
乾燥工程では記録媒体に付与されたインク由来の液体成分を蒸発させることができればよく、その方法としては、例えば、温風の吹き付けや、赤外線や紫外線の照射などが挙げられる。本発明においては、乾燥工程を、画像を形成した記録媒体に温度50℃以上の温風を2秒以上吹き付けることにより行うことが特に好ましい。これにより、インク受容層の内部に残留する液体成分が効率的に蒸発するため、乾燥工程を行った後に記録媒体のインク受容層の内部に残留する水がごく僅かとなるため、白もやの発生をより効果的に抑制することができる。温風の温度の上限は95℃以下、吹き付ける時間の上限は10秒以下であることが好ましい。
【0033】
[第2の実施態様]
本発明の第2の実施態様の特徴は、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物の少なくとも一方を含有するインクを用いて画像を形成する際に、記録ヘッドと記録媒体との間を加湿する加湿工程を行うことにある。上記特定の化合物を含有するインクを用いて画像を形成する際に、加湿工程を行うことで、白もやの発生を抑制することができるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0034】
一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物は、その構造中に硫黄原子が含まれるため、インク中の水や他の水溶性有機溶剤(液体成分)との親和性が高い。以下、加湿を行うことにより白もやの発生を抑制できるメカニズムを、上述の図1のような2種類の画像a及びbを形成する場合を例に挙げて説明する。ここで、このような画像a及びbを形成した記録媒体a及びbの記録面a及びbを重ね合わせた場合の断面図を、加湿なしの場合を図2の(A)、また、加湿ありの場合を図2の(B)にそれぞれ示す。なお、図2は、説明を容易にするために、記録面a及びbを接触させていない状態で記載する。
【0035】
先ず、記録ヘッドと記録媒体との間が加湿されていない場合に、記録媒体a及びbにそれぞれ画像a及びbを形成する場合を考える。画像の形成時に記録ヘッドと記録媒体との間が加湿されてないために、画像a及びbの領域のインク受容層に存在する、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物は、画像形成時からその直後の間には、水を十分に吸収していない状態にある。そのため画像a及びbの領域のインク受容層は、液体成分を非常に吸収しやすい状態にある。このため、図2(A)に示すように、記録媒体bの画像b以外の領域から、記録媒体aの画像aの領域ヘの、液体成分の移動が多く発生する。一方、画像bの領域から画像aの領域への、また、画像aの領域から画像bの領域への液体成分の移動も生じる。しかし、画像bから画像aへの液体成分の移動、また、画像aから画像bへの液体成分の移動は、ほぼ同等に行われるため、液体成分の移動は見かけ上生じていないと言える。つまり、画像aの領域内の、画像bが重なっていた領域とそれ以外の領域では、液体成分の移動が生じる領域と、移動が見かけ上生じていない領域が存在する。これらの領域間ではインク受容層の内部に存在する液体成分量が異なり、これがヘイズの差として認識され、白もやが発生すると考えられる。
【0036】
次に、記録ヘッドと記録媒体との間が加湿されている場合に、記録媒体a及びbにそれぞれ画像a及びbを形成する場合を考える。画像形成の際に記録ヘッドと記録媒体との間が加湿されているため、画像a及びbの領域のインク受容層の内部に存在する、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物はその吸水性のため大気中の水分を十分に吸水している状態にある。したがって、画像a及びbの領域のインク受容層の内部に存在する、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物の吸水性は、加湿を行わない場合に形成された画像a及びbにおける吸水性と比較すると低い。このため、図2(B)に示すように、加湿を行う場合は、記録媒体bの画像b以外の領域から、画像aの領域への、液体成分の移動は少なく、実質的には生じていないものと考えられる。同様に、画像aの領域から、画像bの領域への液体成分の移動も少ない。つまり、画像aの領域内の、画像bが重なっていた領域とそれ以外の領域では、液体成分の移動により生じるインク受容層の内部に存在する液体成分量が同等となり、ヘイズの差も少ないため、白もやの発生が抑制されると考えられる。
【0037】
加湿工程では、記録媒体のインク受容層が十分に吸湿し、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物が吸水した状態となるようにできればよく、その方法としては、例えば、記録ヘッドと記録媒体との間に加湿空気を供給する方法などが挙げられる。本発明においては、加湿工程を、記録ヘッドと記録媒体との間に加湿空気を供給することで行い、記録ヘッドと記録媒体との間を、温度35℃以下かつ絶対湿度0.013kg/kgDA以上の雰囲気とする条件で行うことが好ましい。温度の下限は25℃以上であることが好ましい。これらの前提条件として、相対湿度が100%未満であることが好ましい。
【0038】
[第3の実施態様]
これまでに、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物の少なくとも一方を含有するインクを用いて画像を形成し、乾燥工程及び加湿工程の少なくとも一方を行うことで、白もやの発生が抑制できることを説明してきた。上述のメカニズムからも明らかであるように、これらの両方の工程を行う本発明の第3の実施態様により、より優れたレベルで白もやの発生を抑制することができる。
【0039】
画像の形成の際に加湿工程を行うことで、インクで形成された画像の領域のインク受容層には、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物が吸水することにより水が存在する。そして、先に述べたメカニズムによりヘイズの差が少なくなるため、白もやの発生が抑制される。さらに、上述の加湿工程を行いながら実行する画像形成工程の後に、画像を形成した記録媒体を乾燥することによって、インク受容層の内部に残留する液体成分はごく微量となる。ここで、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物の残留により、このような化合物が存在する分、その他の水溶性有機溶剤のインク受容層内部への残留が抑制されるため、白もやの発生をより効果的に抑制することができる。
【0040】
つまり、加湿工程を行う第2の実施態様では、画像形成時からその直後の間における、記録媒体のインク受容層の内部に存在する一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物の吸水性により白もやの発生を抑制している。また、乾燥工程を行う第1の実施態様では、第2の実施態様により白もやの発生が抑制されるメカニズムが生じる期間の後における状態に着目している。すなわち、乾燥により記録媒体のインク受容層の内部に残留する水がごく僅かとなった場合に、一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物のインク受容層との相互作用により白もやの発生を抑制している。これらの各実施態様は、白もや抑制のメカニズムが生じるタイミングが重複しないため、互いに矛盾するものでもなく、これらの各実施態様の両方を実施する第3の実施態様によりさらに高いレベルの白もや抑制効果を得ることができるのである。
【0041】
[プレ加湿工程]
本発明においては、上記各実施態様で行うそれぞれの工程に加えて、画像形成工程の前に記録媒体を加湿するプレ加湿工程をさらに行うことが好ましい。この工程では、記録媒体が記録ヘッドを含む画像形成位置に進入する以前に該記録媒体を加湿する。このプレ加湿工程を行うことで、画像を形成する以前に記録媒体が予め十分に吸水した状態となる。このため、画像形成後の記録媒体のインク受容層内部に存在する一般式(I)の化合物や一般式(II)の化合物の吸水性がさらに低減され、白もやの発生を顕著に抑制することができる。本発明においては、プレ加湿工程を、記録媒体が記録ヘッドを含む画像形成位置に進入する以前に加湿空気を供給することで行われ、温度が35℃以下かつ絶対湿度0.013kg/kgDA以上の雰囲気とする条件で行うことが好ましい。
【0042】
[画像形成工程]
本発明の上記各実施態様においては、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成する画像形成工程を行う。この画像形成工程で使用するインクは、一般式(I)の化合物及び一般式(II)の化合物の少なくとも一方を含有することを要する。インクの吐出方式は、インクに熱エネルギーや力学的エネルギーを作用させる方法が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式を特に好ましく利用することができる。
【0043】
(記録媒体)
本発明で使用する記録媒体は、インク受容層を有するものであればよく、光沢ないしは半光沢の性状を有する表面を持つものが好ましい。具体的には、支持体の少なくとも一方の面に、シリカ、アルミナ又はその水和物などの顔料を主体とし、必要に応じてバインダやカチオン性ポリマーなどの添加剤を含んで構成されるインク受容層を有する記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体は、顔料粒子で構成される多孔質構造の空隙によりインクを吸収するものであり、形成した画像が高品位なものとなるため好適である。
【0044】
支持体としては、前記インク受容層を形成することが可能であって、かつ、インクジェット記録装置の搬送機構によって搬送可能な剛度を与えるものが好ましく、例えば、パルプや填料を含んで構成される紙などが挙げられる。また、支持体の少なくとも一方の面にポリオレフィンなどの樹脂層を設け、さらにその上にインク受容層が形成されている記録媒体であってもよい。さらに、支持体の両面にインク受容層を有する記録媒体を用いることもできる。
【0045】
なお、本発明のインクジェット記録方法に用いる記録媒体は、所望のサイズに予めカットされたものであっても、また、ロール状に巻かれたシートを用い、画像形成後に所望のサイズにカットされるものであってもよい。
【0046】
(インク)
〔一般式(I)で表される化合物、一般式(II)で表される化合物〕
本発明の画像形成工程に使用するインクには、下記一般式(I)で表される化合物及び下記一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方を含有させる。これらの化合物は、25℃において固体であることを要する。インク中の一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。含有量が2.0質量%未満であると、白もやの発生を十分に抑制することができない場合があり、また、20.0質量%を超えると、インクの耐固着性が十分に得られない場合がある。
【0047】
【化3】

【0048】
(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体である。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換のヘテロ環基である。Rは−S−、−S(=O)−、及び−S(=O)−のいずれかである。)
【0049】
【化4】

【0050】
(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体である。Rは硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖である。)
一般式(I)におけるR及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のアラルキル基、又は、置換若しくは無置換のヘテロ環基である。これらの基が置換基を有する場合の置換基としては、ヒドロキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロ環基、アシル基、カルバモイル基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、スルホニル基、及びこれらの基のうち少なくとも2つを組み合わせた基からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0051】
本発明においては、一般式(I)で表される化合物は25℃で固体である。したがって、一般式(I)において、R及びRが共に水素原子である場合、R及びRが共にヒドロキシ基である場合、並びに、R及びRの一方が水素原子であり他方がヒドロキシ基である場合、は少なくとも含まれない。
【0052】
一般式(II)におけるRは硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖である。具体的には、アルキレン基などが挙げられ、アルキレン鎖を構成する炭化水素鎖の途中が他の原子(例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子など)で中断されていてもよい。また、アルキレン基は置換基を有していてもよく、この場合の置換基としては、上記のR及びRの置換基として挙げたものとすることができる。
【0053】
本発明においては、一般式(I)や一般式(II)で表される化合物の水性媒体への溶解性の観点から、R〜Rが炭素原子を含む基である場合、それぞれ独立に、炭素原子の数が1乃至12のものであることが好ましい。また、同様の理由により、置換基としてヒドロキシ基やカルボキシ基などの親水性基を有するものがより好ましい。
【0054】
一般式(I)で表される化合物、一般式(II)で表される化合物の好ましい具体的としては、下記の化合物が挙げられる。勿論、本発明においては、一般式(I)又は一般式(II)の構造及びその定義に包含されるものであれば、下記の化合物に限られるものではない。
【0055】
【化5】

【0056】
本発明においては、一般式(I)におけるR及びRがそれぞれ独立にヒドロキシアルキル基であることが好ましく、R及びRが共にヒドロキシエチル基であることがより好ましい。特には、一般式(I)で表される化合物が、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホンであることが好ましい。
【0057】
〔水性媒体〕
インクには、一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方の化合物の他に、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を使用することが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、1価ないしは多価のアルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。本発明においては、保湿性に優れ、耐固着性を向上することができるため、25℃における蒸気圧が水よりも高い水溶性有機溶剤を少なくとも1種用いることが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この場合の水溶性有機溶剤の含有量は、一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方の含有量を含むものとする。
【0058】
〔色材〕
インクに含有させる色材としては、染料、有機顔料や無機顔料などの顔料が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。インク中の色材の含有量は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、さらには0.3質量%以上8.0質量%以下であることが好ましい。色材の色相としては、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルーなどのものを用いることができる。
【0059】
本発明においては、形成した画像の品位を銀塩写真に匹敵する高いレベルとすることが容易に達成されるため、色材として染料を用いることが特に好ましい。スルホン酸基やカルボキシ基などのアニオン性基があることで水溶性を有する染料を用いることが好ましく、具体的には、カラーインデックス(COLOUR INDEX)に記載された、酸性染料、直接染料、反応性染料などが挙げられる。また、カラーインデックスに記載のない染料であっても、スルホン酸基やカルボキシ基などのアニオン性基を少なくとも有する染料であれば、いずれのものも使用することができる。
【0060】
〔その他の添加剤〕
本発明で使用するインクには、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパンやトリメチロールエタンなどの多価アルコール類など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、インクには、上記で説明した成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマーなどの、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0061】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、インクを収容するためのインク収容部、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成するための画像形成部を有する。さらに、前記画像を形成した記録媒体を乾燥させるための手段、及び、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿するための手段の少なくとも一方を有し、前記インク収容部に収容されるインクが上記で説明したものであることを特徴とする。
【0062】
以下、本発明のインクジェット記録装置の構成を説明する。図3は本発明の第1の実施態様にかかるインクジェット記録方法を行うためのインクジェット記録装置の全体構成の一例を示す断面図である。記録装置は、記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に沿って、給紙部3、画像形成部1、カッタ部4、乾燥部5、インク収容部6、制御部7、排紙部8を備える。給紙部3は、ロール状に巻かれた記録媒体2を回転可能に保持する。画像形成部1は、異なるインク色にそれぞれ対応した複数の記録ヘッド1aを備える。ここでは、4種のインクに対応した4つの記録ヘッドを備えた形態としているが、インク数はこれには限定されない。各インクはインク収容部6からそれぞれインクチューブ(不図示)を介して記録ヘッド1aに供給される。複数の記録ヘッド1aのそれぞれは、使用が想定される記録媒体の最大幅をカバーする範囲で、インクジェット方式のノズル列が形成されたライン型の記録ヘッドである。
【0063】
画像形成部1には記録ヘッド1aに対向して記録媒体搬送路が横切っており、記録媒体搬送路に沿って記録媒体を搬送するための搬送機構が設けられている。複数の記録ヘッド1a及び搬送機構は筐体1bの中の略閉空間に収容されている。記録ヘッド1aの搬送方向における上流側には、記録媒体が記録ヘッドを含む画像形成位置に進入する以前に該記録媒体をプレ加湿する第1の加湿部1cが設けられている。
【0064】
カッタ部4は、画像形成部1で画像が形成された、ロール紙状の記録媒体を所定のサイズにカットするためのユニットであり、カッタ機構が設けられている。乾燥部5は、カットされた記録媒体を短時間で乾燥させるためのユニットであり、気体を加熱するヒータと加熱された気体の流れを発生させるファンで構成される温風装置(不図示)、記録媒体の搬送経路に沿って並べられた複数の搬送ローラーが設けられている。排紙部8は、乾燥部5から排出されたカット済みの記録媒体を収容するもので、複数の記録媒体が積み重ねられていく。制御部7は、記録装置全体の各種制御や駆動を司るコントローラである。
【0065】
図4は本発明の第2の実施態様にかかるインクジェット記録方法を行うためのインクジェット記録装置の主要部の一例を示す模式図であり、上記で説明した画像形成部1の別の構成である。以下、上記第1の実施形態のインクジェット記録装置と異なる部分について説明する。本構成の画像形成部1には、記録ヘッド1aと記録媒体との間を加湿するための第2の加湿部1dが設けられており、記録ヘッド1aと記録媒体との間(いわゆる紙間)に加湿空気を供給する。この加湿空気は記録ヘッド1aと記録媒体との間だけでなく、筐体1bの中の略閉空間の全体に行き渡るように供給され、この空間の全体に渡って加湿空気により温度と湿度が所望の雰囲気となるように調整されていてもよい。なお、本発明の第2の実施形態にかかるインクジェット記録装置は乾燥部5を有さなくてもよい。
【0066】
本発明の第3の実施態様にかかるインクジェット記録方法を行うためのインクジェット記録装置は、図3に示す全体構成のうちの画像形成部を、図4に示す画像形成部に代えたものとすればよい。
【0067】
なお、インクジェット記録装置が設置される周囲の環境によっては、上述の乾燥工程や加湿工程により設定されるような温湿度の条件になる場合もある。しかし、外部環境の温湿度は常に変動しているため、定常的に所望の温湿度条件を満たしているとは限らない。したがって、本発明で設定するような温湿度条件にするために乾燥工程や加湿工程を行うことは、本発明の効果を安定して得るうえで有効であることに変わりはない。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
<インクの調製>
下記表1に示す各成分(単位:質量%)を混合し、十分撹拌して溶解させた後、ポアサイズが0.2μmであるフィルターにて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、アセチレノールE100は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。また、染料としては、WO2007/077931号国際公開パンフレットに記載された化合物No.17をナトリウム塩型としたものを用いた。この染料の構造は以下の通りである。
【0070】
【化6】

【0071】
【表1】

【0072】
<評価>
以下、本発明の各実施態様について、それぞれ評価を行った。本発明においては、各評価項目の評価基準において、(AA、)A及びBを許容できるレベルとし、Cを許容できないレベルとした。
【0073】
[第1の実施態様]
(白もやの抑制)
下記表2に示す種類のインクを用いて、インク受容層を有する記録媒体(商品名:キヤノン写真用紙・光沢 ゴールドGL−101;キヤノン製)に、記録デューティを100%として、図1(A)の2種類の画像a及びbを形成した。画像の形成に続いて、表2に示す温度及び時間の条件で、温風を吹き付け、画像を形成した記録媒体を乾燥させた。使用したインクジェット記録装置は、図3に示す構成を有するものである。具体的には、記録媒体が画像形成部に進入する以前に加湿を行う第1の加湿部、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッド、画像を形成した記録媒体を乾燥する乾燥部を有する装置である。なお、プレ加湿を行わない場合には第1の加湿部を設けなくてもよい。記録条件は、インク1滴あたりの体積:2.8pL、解像度:2,400dpi×1,200dpiとした。本発明においては、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、インク1滴あたりの体積が2.8pLであるインク滴を8滴付与する条件で形成した画像を記録デューティ100%の画像とした。その後、画像a及びbを温度23℃、相対湿度50%の環境に30分間放置した後、記録面a及びbを重ね合わせ、その上に記録媒体と同等の大きさで面圧13kg/mの錘を載せて、24時間放置して、評価サンプルを得た。
【0074】
上記で得られた評価サンプルについて、重ね合わせた後の記録媒体bの画像領域と非画像領域にそれぞれ対応する位置の記録媒体aにおける領域をそれぞれ領域1及び2とした。そして、領域1及び2について、分光光度計(Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用い、光源:D50、視野角:2°の条件にてL、a、bを測定した。領域1におけるL、a、bと、領域2におけるL、a、bから、ΔE={(L−L+(a−a+(b−b1/2の式に基づいて算出したΔEの値から白もやの抑制の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。
【0075】
AA:ΔEが0.3以下であり、目視で白もやは確認できなかった
A:ΔEが0.3を超えて0.5以下であり、目視で白もやは殆ど確認できなかった
B:ΔEが0.5を超えて0.6以下であり、目視で白もやは若干であるが確認された
C:ΔEが0.6を超えており、目視で白もやがはっきり確認された。
【0076】
(乾燥による白もやの低減率)
上記評価サンプル(乾燥を行った場合)についてのΔEの値をΔE、また、乾燥を行わないこと以外は同様にして評価サンプルを作製し、得られた画像についての上記と同様にして算出したΔEの値をΔEとした。そして、低減率(%)=100−ΔE/ΔE*100の式に基づいて算出した低減率(%)の値から、乾燥による白もやの低減率の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。
【0077】
A:低減率が60%以上であった
B:低減率が40%以上60%未満であった
C:低減率が40%未満であった。
【0078】
(耐固着性)
下記表2に示す種類のインクを用いて、インクジェット記録装置(商品名:PIXUS iP8600)により、予め回復動作(クリーニング)を行った後、PIXUS iP8600のノズルチェックパターンを記録した。そして、キャリッジが動作している途中で記録装置の電源ケーブルを引き抜くことにより、記録ヘッドにキャッピングが行われていない状態として、この状態のまま、インクジェット記録装置を温度30℃、相対湿度10%の環境で14日間放置した。その後、このインクジェット記録装置を温度25℃の環境に6時間放置して常温に戻した後、回復動作をしながら記録を行って、耐固着性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表2に示す。
【0079】
A:1〜2回の回復動作で正常に記録できた
B:3〜10の回復動作で正常に記録できた
C:10回以下の回復動作では正常に記録できなかった。
【0080】
【表2】

【0081】
なお、実施例I−6、12及び14の白もやの抑制及び乾燥による白もやの低減率はいずれもAランクであったが、その他のAランクの実施例よりも若干劣っていた。また、実施例I−10の白もやの抑制は、その他のAランクの実施例よりも優れていた。
【0082】
[第2の実施態様]
(白もやの抑制)
下記表3に示す種類のインクを用いて、インク受容層を有する記録媒体(商品名:キヤノン写真用紙・光沢 ゴールドGL−101;キヤノン製)に、記録デューティを100%として、図1(A)の2種類の画像a及びbを形成した。この際、加湿空気を供給し、記録ヘッドと記録媒体との間の雰囲気を表3に示す温度及び絶対湿度の条件とした。使用したインクジェット記録装置は、図3の画像形成部を図4に示す構成に代えたものである。具体的には、記録媒体が画像形成部に進入する以前に加湿を行う第1の加湿部、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッド、画像形成の際に記録ヘッドと記録媒体との間に加湿空気を供給する第2の加湿部を有する装置である。なお、プレ加湿を行わない場合には第1の加湿部を設けなくてもよく、また、本実施態様では乾燥工程は行わないため、図3に示す乾燥部を設けなくてもよい。上記以外は第1の実施態様と同様にして評価サンプルを作製し、同様の評価基準により、白もやの抑制の評価を行った。結果を表3に示す。
【0083】
(加湿による白もやの低減率)
上記評価サンプル(加湿を行った場合)についてのΔEの値をΔE、また、加湿(プレ加湿も含む)を行わないこと以外は同様にして評価サンプルを作製し、得られた画像についての上記と同様にして算出したΔEの値をΔEとした。そして、低減率(%)=100−ΔE/ΔE*100の式に基づいて算出した低減率(%)の値から、加湿による白もやの低減率の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表3に示す。
【0084】
A:低減率が30%以上であった
B:低減率が0%以上30%未満であった
C:低減率が0%未満であった(加湿により白もやの程度が劣るようになった)。
【0085】
(耐固着性)
下記表3に示す種類のインクを用いること以外は第1の実施態様と同様の手順及び評価基準により、耐固着性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
なお、実施例II−6、12及び13の白もやの抑制はいずれもAランクであったが、その他のAランクの実施例よりも若干劣っており、実施例II−10の白もやの抑制は、その他のAランクの実施例よりも優れていた。また、実施例II−12及び13の加湿による白もやの低減率はいずれもAランクであったが、その他のAランクの実施例よりも若干劣っていた。
【0088】
[第3の実施態様]
(白もやの抑制)
下記表4に示す種類のインクを用いて、インク受容層を有する記録媒体(商品名:キヤノン写真用紙・光沢 ゴールドGL−101;キヤノン製)に、記録デューティを100%として、図1(A)の2種類の画像a及びbを形成した。この際、加湿空気を供給し、記録ヘッドと記録媒体との間の雰囲気を表4に示す温度及び絶対湿度の条件とした。また、画像の形成に続いて、表4に示す温度及び時間の条件で、温風を画像に吹き付け、画像を形成した記録媒体を乾燥させた。使用したインクジェット記録装置は、図3の画像形成部を図4に示す構成に代えたものである。具体的には、上述のプレ加湿を行う第1の加湿部、画像形成の際に記録ヘッドと記録媒体との間に加湿空気を供給する第2の加湿部、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッド、画像を形成した記録媒体を乾燥する乾燥部を有する装置である。なお、プレ加湿を行わない場合には第1の加湿部を設けなくてもよい。上記以外は第1の実施態様と同様にして評価サンプルを作製し、同様の評価基準により、白もやの抑制の評価を行った。結果を表4に示す。
【0089】
(加湿及び乾燥による白もやの低減率)
上記評価サンプル(加湿及び乾燥を行った場合)についてのΔEの値をΔE、また、加湿及び乾燥を行わないこと以外は同様にして評価サンプルを作製し、得られた画像についての上記と同様にして算出したΔEの値をΔEとした。そして、低減率(%)=100−ΔE/ΔE*100の式に基づいて算出した低減率(%)の値から、加湿及び乾燥による白もやの低減率の評価を行った。評価基準は以下の通りである。結果を表4に示す。
【0090】
A:低減率が70%以上であった
B:低減率が40%以上70%未満であった
C:低減率が40%未満であった。
【0091】
(耐固着性)
下記表4に示す種類のインクを用いること以外は第1の実施態様と同様の手順及び評価基準により、耐固着性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
なお、実施例III−10の白もやの抑制はその他のAランクの実施例よりも優れていた。また、実施例III−6、12、14、16及び17の加湿及び乾燥による白もやの低減率はいずれもAランクであったが、その他のAランクの実施例よりも若干劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成する工程を有するインクジェット記録方法であって、
さらに、前記画像を形成した記録媒体を乾燥させる工程、及び、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿する工程の少なくとも一方を行い、
前記画像形成工程に用いるインクが、水、水溶性有機溶剤、並びに、下記一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方を含有するインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【化1】


(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体である。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換のヘテロ環基である。Rは−S−、−S(=O)−、及び−S(=O)−のいずれかである。)
【化2】


(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体である。Rは硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖である。)
【請求項2】
前記乾燥工程、及び、前記加湿工程の両方を行う請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記乾燥工程が、前記画像を形成した記録媒体に温度50℃以上の温風を2秒以上吹き付けることで行われる請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記加湿工程が、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間に加湿空気を供給することにより行われ、かつ、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を、温度35℃以下かつ絶対湿度0.013kg/kgDA以上の雰囲気とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記画像形成工程に用いるインク中の、前記一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.0質量%以上20.0質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
インクを収容するためのインク収容部、インクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出してインク受容層を有する記録媒体に画像を形成するための画像形成部を有するインクジェット記録装置であって、
さらに、前記画像を形成した記録媒体を乾燥させるための手段、及び、前記記録ヘッドと前記記録媒体との間を加湿するための手段の少なくとも一方を有し、
前記インク収容部に収容されたインクが、水、水溶性有機溶剤、並びに、下記一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物の少なくとも一方を含有するインクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【化3】


(一般式(I)で表される化合物は25℃で固体である。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、置換若しくは無置換のアミノ基、置換若しくは無置換のアルコキシ基、置換若しくは無置換のアミノオキシ基、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルケニル基、置換若しくは無置換のアルキニル基、置換若しくは無置換のアラルキル基、置換若しくは無置換のアリール基、又は、置換若しくは無置換のヘテロ環基である。Rは−S−、−S(=O)−、及び−S(=O)−のいずれかである。)
【化4】


(一般式(II)で表される化合物は25℃で固体である。Rは硫黄原子と共にヘテロ環を構成する分子鎖である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25155(P2012−25155A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127382(P2011−127382)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】