説明

インクジェット記録方法及び装置

【課題】複数のインクを付与した場合であっても、所望のドット径を得ることができるとともに、記録媒体がコート紙の場合にもインクを高い密着度で形成することのできるインクジェット記録方法及び装置を提供する
【解決手段】インクジェット記録装置1は、記録媒体22上に凝集剤含有の処理液を塗布する処理液付与部12と、顔料粒子(A)と顔料を被覆する分散剤ポリマー(B)と自己分散性ポリマー微粒子(C)とを含有し、ポリマー成分の総量(B+C)が総固形分量(A+B+C)に対して半分以上の量を占めるとともに総固形分量が異なる複数のインクを記録媒体22に付与する描画部14と、複数のインクに含まれる溶媒を揮発させる乾燥部16と、を備える。描画部14は、複数のインクのうち、総固形分量が最も多いインクを最初に記録媒体22に付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及び装置に係り、特に記録媒体にインクを直接付与して画像を形成する直接描画方式のインクジェット記録方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録媒体上にインクを連続して打滴することによって画像を形成する装置であり、装置構成が簡単で且つ良好な画質の画像記録が可能であることから、個人用途のホームプリンタをはじめ、業務用途のオフィスプリンタとしても広く使用されている。特に、業務用途のオフィスプリンタにおいては処理の高速化及び高画質化が一層要望されている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置においてインクのドットを隣接して重ねて打滴した際、記録媒体上のインク液滴同士がその表面張力によって合一し、所望のドットが形成できなくなるブリード(着弾干渉)の問題が発生する。ドットが同一色同士の場合は、ドット形状が崩れてしまい、ドットが異なる色間の場合は混色の問題も加えて発生する。
【0004】
ブリードの問題を解消するには、記録媒体にまず凝集成分を含有した処理液を塗布し、その後にインクを打滴して凝集させる方法が適している。たとえば、特許文献1には、処理液とインクのうち、一方を酸性、他方をアルカリ性にし、紙面上における顔料凝集性を制御する方法が開示されている。この方法によれば、光学濃度・滲み・ブリード(色間滲み)・乾燥時間を改善することができる。また、特許文献2には、ポリマー成分を含有させたインクで画像形成し、加熱加圧ローラによって加熱加圧する方法が開示されている。この方法によれば、画像強度を向上させることができる。
【0005】
ところで、インクジェット記録装置においてCMYKなど複数色のカラー記録を行う場合、あるいは、階調性などを高めるために濃淡インクを用いる場合には、各色において色材(顔料)濃度を最適化する必要がある。その場合、各インクは、色材(顔料)濃度に応じて必要な分散剤ポリマーの添加量が異なるので、あるいは、定着強度確保に必要なポリマー微粒子の添加量が異なる。したがって、各インクによって最適な総固形分量が異なっており、記録媒体上には総固形分量が異なる複数のインクが打滴される。
【特許文献1】特開2004−10633号公報
【特許文献2】特開平6−184478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数のインクを打滴した場合には、二番目以降のインクのドット径が拡大し、所望のドット径が得られないことがある。これを防止するためには、溶媒に対して溶解性の高い凝集剤を選択したり、凝集剤を過剰な液量で付与したりしなければならないが、その場合には、カールやコックリングが発生してしまう。
【0007】
また、記録媒体がアート紙やグロスコート紙などのコート紙の場合には、複数のインクを打滴することによってコート層の強度が低下し、インクの密着性が低下するという問題が発生する。
【0008】
さらに、複数のインクを打滴した後に加熱加圧にて定着処理を行った場合には、加熱加圧部材にインクが付着することがあり、クリーニング負荷が増大してしまうという問題がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、複数のインクを付与した場合であっても、所望のドット径を得ることができるとともに、記録媒体がコート紙の場合にもインクを高い密着度で形成することのできるインクジェット記録方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、記録媒体上に凝集剤含有の処理液を付与する処理液付与工程と、顔料粒子(A)と顔料を被覆する分散剤ポリマー(B)と自己分散性ポリマー微粒子(C)とを含有し、ポリマー成分の総量(B+C)が総固形分量(A+B+C)に対して半分以上の量を占めるとともに、前記総固形分量が異なる複数のインクをインクジェットヘッドによって、前記処理液が付与された記録媒体に付与し、該インクを前記凝集剤によって増粘させるインク付与工程と、前記記録媒体に付与された前記複数のインクを乾燥させる乾燥工程と、を備え、前記インク付与工程は、前記複数のインクのうち、前記総固形分量が最も多いインクを最初に前記記録媒体に付与することを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【0011】
本発明の発明者は、総固形分量の多いインクほど凝集反応に必要な凝集剤量が多いので、このようなインクを後から打滴すると、凝集反応に必要な凝集剤が不足することになり、未凝集成分が発生してドット径が拡大してしまうという知見を得た。さらに本発明の発明者は、総固形分量の最も多いインクを最初に付与することによって、凝集剤の不足による未凝集成分の発生を防止でき、ドット径の拡大を防止できるという知見を得た。本発明はこのような知見に基づいて成されたものであり、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するようにしたので、ドット径の拡大を防止することができる。すなわち、総固形分量が最も多いインクを最初に付与することによって、そのインクは記録媒体上の十分な量の凝集剤によって確実に凝集される。さらに、二番目以降のインクを付与した際には記録媒体上の凝集剤の量も減少しているが、二番目以降のインクは最初のインクよりも総固形分量が小さいため、必要な凝集剤の量も小さく、ドット径が大きくなりにくい。したがって、本発明によれば、インクのドットの拡大を防止することができる。
【0012】
また、本発明によれば、全体として必要な凝集剤の量が少なくなり、溶媒に対して溶解性の低い凝集剤を選択することができる。その結果、カール・コックリングが発生することを防止できる。
【0013】
さらに、本発明によれば、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するようにしたので、凝集反応によって形成される画像中に抱き抱えられるインク溶媒成分の量が増加し、記録媒体(特にコート紙)に浸透するインク溶媒の量が減少する。したがって、インクとコート層との密着性を高めることができる。
【0014】
また、本発明では、インク中の総ポリマー量が総固形分量に対して半分以上なので、画像の耐摩擦性を確保することができる。
【0015】
請求項2の発明は請求項1において、前記インク付与工程は、前記複数のインクのうち、前記総固形分量が多いインクの順に前記記録媒体に付与することを特徴とする。本発明によれば、総固形分量が多いインクの順に付与するので、全てのインクにおいてドット径の拡大を防止できる。
【0016】
請求項3の発明は請求項1または2において、前記乾燥させたインクを加熱加圧することによって該インク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、前記インクを被膜化させる加熱加圧工程を備え、前記乾燥工程での画像表面の到達温度をTd、前記加熱加圧工程での画像表面の到達温度をTf、前記自己分散性ポリマー微粒子の軟化点をTpとして、Td<Tp<Tfの関係を満たすことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、ドット径の縮小防止と、画像密着性・耐擦性・画像光沢の向上の両方を達成することができる。すなわち、乾燥工程での画像表面の到達温度Tdが自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpよりも小さい場合には、ドット径の縮小が発生しやすいが、本発明ではこれを防止することができる。同様に、乾燥工程での画像表面の到達温度Tdが自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpよりも小さい場合には、皮膜化された画像が褶曲する画像褶曲が発生し、それに伴って画像密着性・耐擦性・画像光沢の低下が発生するが、本発明ではこれを防止することができる。
【0018】
請求項4の発明は請求項3において、前記自己分散性ポリマー微粒子の軟化温度Tpが30℃以上70℃以下であることを特徴とする。本発明によれば、上記の如く温度範囲を設定したので、定着時のオフセット防止とドット径縮小防止とを確実に両立させることができる。すなわち、30℃未満では乾燥不足によるオフセットが発生する懸念があり、70℃超では高速記録下において皮膜性が不足する懸念があるが、本発明ではこれを防止することができる。
【0019】
請求項5の発明は請求項3または4において、前記加熱加圧工程は、表層側に設けられ、離型性を有する素材の第1層と、該第1層の内側に設けられ、ゴム弾性体素材の第2層とから成る表面二層構成のローラによって、前記インクを加熱加圧することを特徴とする。本発明によれば、離型性を有する素材の第1層が表層側に設けられたローラによって加熱加圧工程を行うので、ローラが汚れにくくなり、ローラのクリーニング負荷を低減させることができる。
【0020】
請求項6の発明は請求項5において、前記第2層のゴム弾性体はゴム硬度が50°以下であることを特徴とする。なお、ゴム硬度はJIS K6301のデュロメータによって測定することができる。本発明によれば、表層の内側の第2層が、硬度50°以下のゴム弾性体から成るので、記録媒体をニップする時間を稼ぐことができ、高速記録での被膜化に有利である。また、第2層が硬度50°以下のゴム弾性体から成るので、記録媒体に接触する際の低圧化が可能になり、ローラの寿命を向上させることができる。
【0021】
請求項7の発明は請求項5または6において、前記ローラの表面硬度が70°以下であることを特徴とする。なお、表面硬度は、SRIS0101「日本ゴム協会標準規格」(アスカーC)に規定されたデュロメータによって測定することができる。本発明によれば、ローラの表面硬度が低いので、(一定時間における)画像凹凸に対する追従性で有利になり、高速記録での被膜化に有利である。
【0022】
請求項8の発明は請求項1〜7のいずれか1において、前記顔料粒子(A)と前記自己分散性ポリマー微粒子(C)は、一方の粒径が他方の粒径の2倍以上であることを特徴とする。本発明によれば、インクにおける粒子密度が向上するので、それに伴って皮膜性を向上させることができ、且つ、インクが凝集した際に凝集体に抱え込まれる溶媒量が増加してコート層に浸透する溶媒量を減らすことができる。
【0023】
請求項9の発明は請求項8において、前記自己分散性ポリマー微粒子の粒径は、前記顔料粒子の粒径よりも小さく、且つ、50nm以下であることを特徴とする。本発明によれば、自己分散性ポリマー微粒子を微粒子化するので、皮膜性向上を図ることができるとともに、光沢性を付与することができる。
【0024】
請求項10の発明は請求項1〜9のいずれか1において、前記複数のインクは、色が異なるカラーインクであることを特徴とする。
【0025】
請求項11の発明は請求項1〜9のいずれか1において、前記複数のインクは、同色で顔料濃度が異なるインクであることを特徴とする。
【0026】
請求項12の発明は請求項1〜11のいずれか1において、前記複数のインクは、該インク中の高沸点有機溶剤量が30%未満であることを特徴とする。本発明によれば、インク中の高沸点有機溶剤量が30%未満であるので、画像のべたつきを防止することができる。
【0027】
請求項13の発明は請求項1〜12のいずれか1において、前記記録媒体がコート紙であることを特徴とする。本発明によればコート紙特有の課題を解決することができる。すなわち、記録媒体がコート紙の場合にはコート層にインクの溶媒が浸透し、コート層の強度が低下するという問題が発生するが、本発明によればこれを防止することができる。
【0028】
請求項14の発明は前記目的を達成するために、記録媒体上に凝集剤含有の処理液を塗布する処理液付与装置と、顔料粒子(A)と顔料を被覆する分散剤ポリマー(B)と自己分散性ポリマー微粒子(C)とを含有し、ポリマー成分の総量(B+C)が総固形分量(A+B+C)に対して半分以上の量を占めるとともに前記総固形分量が異なる複数のインクを、前記処理液が付与された記録媒体に打滴するインク付与装置と、前記記録媒体に付与された複数のインクを乾燥させる乾燥装置と、を備え、前記インク付与装置は、前記複数のインクのうち、前記総固形分量が最も多いインクを最初に前記記録媒体に打滴することを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【0029】
本発明によれば、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するようにしたので、ドット径の拡大を防止することができるとともに、カール・コックリングの発生を防止することができる。
【0030】
なお、本発明において、総固形分量が多いインクを最初に付与する方法としては、総固形分量が最も多いインクを付与するインクジェットヘッドを、記録媒体の搬送方向の最も上流側に配置し、上流側のインクジェットヘッドから順に打滴する方法や、総固形分量が最も多いインクを付与した後に他のインクを付与するように記録媒体の搬送を制御したりする方法がある。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するようにしたので、インクのドット径の拡大を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。本発明では、以下に説明するインクジェット記録装置を用いて画像を形成することができる。
【0033】
[インクジェット記録装置の全体構成]
まず、本発明の画像形成方法に用いるインクジェット記録装置について、全体構成を説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態のインクジェット記録装置1を模式的に示す構成図である。同図に示すインクジェット記録装置1は記録媒体22の記録面に画像を形成する装置であり、主として給紙部10、処理液付与部(処理液付与装置)12、描画部(インク付与装置)14、乾燥部(乾燥装置)16、定着部(加熱加圧装置)18及び排出部20で構成される。給紙部10には記録媒体22(枚葉紙)が積層されており、この記録媒体22が給紙部10から処理液付与部12に送られ、処理液付与部12で記録面に処理液が付与された後、描画部14で記録面に色インクが付与される。インクが付与された記録媒体22は、定着部18で画像が堅牢化された後、排出部20によって搬送される。
【0035】
また、インクジェット記録装置1は、各部の間に中間搬送部24、26、28を備え、この中間搬送部24、26、28によって記録媒体22の受け渡しが行われるようになっている。すなわち、処理液付与部12と描画部14との間には、第1の中間搬送部24が設けられ、この第1の中間搬送部24によって処理液付与部12から描画部14への記録媒体22の受け渡しが行われる。同様に、描画部14と乾燥部16との間には、第2の中間搬送部26が設けられ、この第2の中間搬送部26によって描画部14から乾燥部16への記録媒体22の受け渡しが行われる。さらに、乾燥部16と定着部18との間には、第3の中間搬送部28が設けられ、この第3の中間搬送部28によって乾燥部16から定着部18への記録媒体22の受け渡しが行われる。
【0036】
以下、インクジェット記録装置1の各部(給紙部10、処理液付与部12、描画部14、乾燥部16、定着部18、排出部20、第1〜第3の中間搬送部24、26、28)について説明する。
【0037】
(給紙部)
給紙部10は、記録媒体22を描画部14に供給する機構である。給紙部10には、給紙トレイ50が設けられ、この給紙トレイ50から記録媒体22が一枚ずつ処理液付与部12に給紙される。
【0038】
(処理液付与部)
処理液付与部12は、記録媒体22の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部14で付与されるインク中の色材(顔料)を凝集または析出させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。なお、処理液のより詳細な説明については、後述する。
【0039】
図1に示すように、処理液付与部12は、渡し胴52、処理液ドラム54、処理液塗布装置56、温風吹出ノズル58及びIRヒータ60を備えている。渡し胴52は、給紙部10の給紙トレイ50と処理液ドラム54の間に配置され、回転駆動される。給紙部10から給紙された記録媒体22は、この渡し胴52によって受け取られ、処理液ドラム54に受け渡される。なお、渡し胴52の代わりに、後述の中間搬送部を設けてもよい。
【0040】
処理液ドラム54は、記録媒体22を保持して回転搬送させるドラムであり、回転駆動される。また、処理液ドラム54は、その外周面に爪形状の保持手段を備え、この保持手段によって記録媒体22の先端を保持できるようになっている。記録媒体22は、保持手段によって先端が保持された状態で、処理液ドラム54を回転させることによって回転搬送される。その際、記録媒体22の記録面が外側を向くようにして搬送される。なお、処理液ドラム54の外周面に吸引孔を設けるとともに、その吸引孔から吸引を行うようにしてもよい。これにより記録媒体22を処理液ドラム54の周面に密着保持することができる。
【0041】
処理液ドラム54の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置56、温風吹出ノズル58及びIRヒータ60が設けられる。処理液塗布装置56、温風吹出ノズル58及びIRヒータ60は、処理液ドラム54の回転方向(図1において反時計回り方向)に上流側から順に配設されており、記録媒体22は、まず処理液塗布装置56によって記録面に処理液が塗布される。
【0042】
処理液塗布装置56の構成は特に限定するものではないが、たとえば、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラに当接されて計量を行うスキージと、アニックスローラと処理液ドラム54上の記録媒体22に圧接されて計量後の処理液を記録媒体22に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置56によれば、処理液をスキージで計量しながら記録媒体22に塗布することができる。処理液の膜厚は、描画部14のインクヘッド72C,72M,72Y,72Kから打滴されるインクの液滴径より十分に小さいことが望ましい。例えば、インクの打滴量が2plのときには、液滴の平均直径は15.6μmである。このとき、処理液の膜厚が大きい場合には、インクドットが記録媒体22の表面に接触することなく、処理液内で浮遊する。そこで、インクの打滴量が2plのときに着弾ドット径を30μm以上得るためには、処理液の膜厚を3μm以下にすることが望ましい。
【0043】
処理液塗布装置56で処理液が塗布された記録媒体22は、温風吹出ノズル58、IRヒータ60の位置に搬送される。温風吹出ノズル58は高温(たとえば70℃)の温風を一定の風量(たとえば9m/分)で記録媒体22に向けて吹き付けるように構成され、IRヒータ60は高温(たとえば180℃)に制御される。この温風吹出ノズル58とIRヒータ60による加熱によって、処理液の溶媒中の水分が蒸発され、処理液の薄膜層が記録面に形成される。このように処理液を薄層化することによって、描画部14で打滴するインクのドットが記録媒体22の記録面と接触し、必要なドット径が得られるとともに、薄層化した処理液成分と反応して色材凝集が起こり、記録媒体22の記録面に固定する作用が得られやすい。なお、処理液ドラム54を所定の温度(たとえば50℃)に制御するようにしてもよい。また、処理液の記録媒体22への付与方法は、塗布に限定するものではなく、インクジェット方式などで付与するようにしてもよい。
【0044】
(描画部)
描画部14は、描画ドラム70と、この描画ドラム70の外周面に対向する位置に近接配置されたインクヘッド72C,72M,72Y,72Kで構成される。インクヘッド72C,72M,72Y,72Kはそれぞれ、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色のインクに対応しており、描画ドラム70の回転方向に上流側から順に配置される。
【0045】
描画ドラム70は、その外周面に記録媒体22を保持し、回転搬送させるドラムであり、回転駆動される。また、描画ドラム70は、その外周面に爪形状の保持手段(不図示)を備え、この保持手段によって記録媒体22の先端を保持できるようになっている。記録媒体22は、保持手段によって先端が保持された状態で、描画ドラム70を回転させることによって回転搬送される。その際、記録媒体22の記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクヘッド72C,72M,72Y,72Kからインクが付与される。
【0046】
インクヘッド72C,72M,72Y,72Kはそれぞれ、記録媒体22における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)であり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクヘッド72C,72M,72Y,72Kは、記録媒体22の搬送方向(描画ドラム70の回転方向)と直交する方向に延在するように固定設置される。
【0047】
各インクヘッド72C,72M,72Y,72Kには、対応する色インクのカセットが取り付けられる。各色インクは、少なくとも、顔料粒子(A)と、顔料を被覆する分散剤ポリマー(B)と、自己分散性ポリマー微粒子(C)とを含有している。また、各色インクは、ポリマー成分の総量(B+C)が総固形分量(A+B+C)に対して半分以上の量を占めている。このように、インク中の総ポリマー量を総固形分量に対して半分以上とすることによって、形成された画像の耐摩擦性を確保することができる。
【0048】
また、各色インクは、記録媒体の搬送方向の順に(すなわち、インクヘッド72C,72M,72Y,72Kの順に)、総固形分量が多くなるように、その組成が調節されている。したがって、1パス方式でインクを打滴する場合には、総固形分量の多い順にインクが打滴される。このように総固形分量の多い順にインクを打滴することによって、ドット径の拡大やカール・コックリングの発生を防止できるとともに、インクの記録媒体(特にコート紙)への密着性を向上させることができる。なお、総固形分量の多い順にインクを打滴することが最も好ましいが、総固形分量の最も多いインクを最初に打滴し、他のインクは順不同で打滴しても本発明の効果が得られる。
【0049】
また、各インクは、顔料粒子(A)と自己分散性ポリマー微粒子(C)の一方の粒径が他方の粒径の2倍以上であることが好ましい。これにより、インクにおける粒子密度が向上するので、それに伴って皮膜性を向上させることができ、且つ、インクが凝集した際に凝集体に抱え込まれる溶媒量が増加し、記録媒体22の表層(たとえばコート層)に浸透する溶媒量を減らすことができる。自己分散性ポリマー微粒子の粒径は、顔料粒子の粒径よりも小さく、且つ、50nm以下であることがさらに好ましい。自己分散性ポリマー微粒子を微粒子化することによって、皮膜性向上を図ることができるとともに、光沢性を付与することができる。
【0050】
さらに、各インクは、インク中の高沸点有機溶剤量が30%未満であることが好ましい。インク中の高沸点有機溶剤量を30%未満とすることによって、形成された画像のべたつきを防止することができる。
【0051】
上記の如く構成された各インクの液滴が、各インクヘッド72C,72M,72Y,72Kから、描画ドラム70の外周面に保持された記録媒体22の記録面に向かって吐出される。これにより、処理液付与部12で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体22上での色材流れなどが防止され、記録媒体22の記録面に画像が形成される。その際、描画部14の描画ドラム70は、処理液付与部12の処理液ドラム54に対して構造上分離しているので、インクヘッド72C,72M,72Y,72Kに処理液が付着することがなく、インクの不吐出要因を低減することができる。
【0052】
なお、インクと処理液の反応の一例として、処理液に酸を含有させPHダウンにより顔料分散を破壊し凝集するメカニズムを用い、色材滲み、各色インク間の混色、インク滴の着弾時の液合一による打滴干渉を回避することが考えられる。
【0053】
また、各インクヘッド72C,72M,72Y,72Kの打滴タイミングは、描画ドラム70に配置された回転速度を検出するエンコーダに同期させる。これにより、高精度に着弾位置を決定することができる。また、予め描画ドラム70のフレなどによる速度変動を学習し、エンコーダ91で得られた打滴タイミングを補正して、描画ドラム70のフレ、回転軸の精度、描画ドラム70の外周面の速度に依存せずに打滴ムラを低減させることができる。
【0054】
さらに、各インクヘッド72C,72M,72Y,72Kのノズル面の清掃、増粘インク排出などのメンテナンス動作は、ヘッドユニットを描画ドラム70から退避させて実施するとよい。
【0055】
また、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。ただし、総固形分量の多いインクの順に、記録媒体22の搬送方向の上流側から配置するとよい。なお、インクヘッド72C,72M,72Y,72Kのより詳細な説明と、インクの詳細な説明については、後述する。
【0056】
(乾燥部)
乾燥部16は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる工程であり、乾燥ドラム76と、この乾燥ドラム76の外周面に対向する位置に配置された第1のIRヒータ78、温風噴出しノズル80、第2のIRヒータ82で構成される。第1のIRヒータ78は、温風噴出しノズル80に対して、乾燥ドラム76の回転方向(図1において反時計回り方向)の上流側に設けられ、第2のIRヒータ82は温風噴出しノズル80の下流側に設けられる。
【0057】
乾燥ドラム76は、その外周面に記録媒体22を保持して回転搬送させるドラムであり、回転駆動される。また、乾燥ドラム76は、その外周面に爪形状の保持手段を備え、この保持手段によって記録媒体22の先端を保持できるようになっている。記録媒体22は、保持手段によって先端が保持された状態で、乾燥ドラム76を回転させることによって回転搬送される。その際、記録媒体22の記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して第1のIRヒータ78、温風噴出しノズル80、第2のIRヒータ82による乾燥処理が行われる。
【0058】
温風噴出しノズル80は、所定の温度(たとえば50℃〜70℃)に制御された温風を一定の風量(12m/分)で記録媒体22に向けて吹き付けるように構成され、第1のIRヒータ78と第2のIRヒータ82はそれぞれ所定の温度(たとえば180℃)に制御される。これらの第1のIRヒータ78、温風噴出しノズル80、第2のIRヒータ82によって、乾燥ドラム76に保持された記録媒体22の記録面のインク溶媒に含まれる水分が蒸発され、乾燥処理が行われる。その際、乾燥部16の乾燥ドラム76は、描画部14の描画ドラム70に対して構造上分離しているので、インクヘッド72C,72M,72Y,72Kにおいて、熱乾燥によるヘッドメニスカス部の乾燥によるインクの不吐出を低減することができる。また、乾燥部16の温度設定に自由度があり、最適な乾燥温度を設定することができる。
【0059】
乾燥工程での画像表面の到達温度をTd、インクの自己分散性ポリマー微粒子の軟化点をTpとした場合、Td<Tpの関係を満たすように温度制御することが好ましい。Td<Tpに制御することによって、ドット径の縮小を防止することができるとともに、画像褶曲(画像が褶曲状に湾曲した状態)が発生することを防止でき、画像褶曲に伴う画像密着性・耐擦性・画像光沢の低下を防止することができる。ここで、自己分散性ポリマー微粒子の軟化温度Tpは30℃以上70℃以下が好ましい。Tpが30℃未満になると乾燥不足によるオフセットが発生し、Tpが70℃超になると高速記録下において皮膜性が不足するためである。
【0060】
なお、蒸発した水分は不図示の排出手段によりエアとともに機外に排出するとよい。また、回収されたエアを冷却器(ラジエータ)などで冷却して、液体として回収してもよい。
【0061】
また、上記の乾燥ドラム76は、その外周面を所定の温度(たとえば60℃以下)に制御するとよい。
【0062】
さらに、乾燥ドラム76は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体22を乾燥ドラム76の周面に密着保持することができる。
【0063】
(定着部)
定着部18は、定着ドラム84、第1の定着ローラ86、第2の定着ローラ88及びインラインセンサ90で構成される。第1の定着ローラ86、第2の定着ローラ88及びインラインセンサ90は、定着ドラム84の周面に対向する位置に配置され、定着ドラム84の回転方向の上流側から順に配置される。
【0064】
定着ドラム84は、その外周面に記録媒体22を保持して回転搬送させるドラムであり、回転駆動される。また、定着ドラム84は、その外周面に爪形状の保持手段を備え、この保持手段によって記録媒体22の先端を保持できるようになっている。記録媒体22は、保持手段によって先端が保持された状態で定着ドラム84を回転させることによって、回転搬送される。その際、記録媒体22の記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、第1の定着ローラ86及び第2の定着ローラ88による定着処理と、インラインセンサ90による検査が行われる。
【0065】
第1の定着ローラ86及び第2の定着ローラ88は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体22を加圧・加熱するように構成される。具体的には、第1の定着ローラ86及び第2の定着ローラ88はそれぞれ、定着ドラム84に対して圧接するように配置されており、定着ドラム84との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体22は、第1の定着ローラ86と定着ドラム84との間、及び、第2の定着ローラ88と定着ドラム84との間に挟まれ、所定のニップ圧(たとえば0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0066】
なお、第1の定着ローラ86、第2の定着ローラ88と、定着ドラム84との一方の表面に弾性層を形成し、記録媒体22に対して均一なニップ幅を持つ構成とするとよい。たとえば、第1の定着ローラ86の表面と第2の定着ローラ88の表面を二層構成とし、さらに、表層側の第1層を離型性素材で構成し、第2層(内側の層)をゴム弾性体素材で構成することが好ましい。第1層を離型性素材とすることによって、ローラが汚れにくくなり、ローラのクリーニング負荷を低減させることができる。また、第2層は、ゴム硬度50°以下のゴム弾性体を用いることが好ましい。第2層を硬度50°以下のゴム弾性体とすることによって、記録媒体22をニップする時間を稼ぐことができ、高速記録での被膜化に有利になる。また、第2層を硬度50°以下とすることによって、記録媒体22に接触する際の低圧化が可能になり、ローラの寿命を向上させることができる。一方、第1の定着ローラ86及び第2の定着ローラ88のローラ表面硬度が70°以下であることが好ましい。ローラの表面硬度を低くすることによって、(一定時間における)画像凹凸に対する追従性が向上し、高速記録での被膜化に有利になる。
【0067】
また、第1の定着ローラ86及び第2の定着ローラ88は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(たとえば60〜80℃)に制御される。その際の画像表面の到達温度をTfとした場合、インクの自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpに対して、Tp<Tfの関係を満たすように設定することが好ましい。
【0068】
上記の如く構成された第1の定着ローラ86及び第2の定着ローラ88で記録媒体22を加圧、加熱することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融される。これにより、記録媒体22の凹凸に押し込み定着が行なわれるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0069】
なお、上記の実施形態では、加熱と加圧の両方を行う例を示したが、一方のみを行うようにしてもよい。また、第1の定着ローラ86、第2の定着ローラ88は、画像層厚みやラテックス粒子のTg特性により、複数段設けた構成でもよい。さらに、定着ドラム84の表面を所定の温度(たとえば60℃)に制御するようにしてもよい。
【0070】
一方、インラインセンサ90は、記録媒体22に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0071】
上記の如く構成された定着部18によれば、乾燥部16で形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が第1の定着ローラ86、第2の定着ローラ88によって加圧・加熱されて溶融されるので、記録媒体22に固定定着させることができる。また、定着部18によれば、定着ドラム84が他のドラムに対して構造上分離されているので、定着部18の温度設定を、描画部14や乾燥部16と分離して自由に設定することができる。
【0072】
なお、上記の定着ドラム84は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体22を定着ドラム84の周面に密着保持することができる。
【0073】
(排出部)
図1に示すように、定着部18に続いて排出部20が設けられている。排出部20は、排出トレイ92を備えており、この排出トレイ92と定着部18の定着ドラム84との間に、これらに対接するように渡し胴94、搬送ベルト96、張架ローラ98が設けられている。記録媒体22は、渡し胴94により搬送ベルト96に送られ、排出トレイ92に排出される。
【0074】
(中間搬送部)
次に、第1の中間搬送部24の構造について説明する。なお、第2の中間搬送部26、第3の中間搬送部28は、第1の中間搬送部24と同様の構成であり、その説明を省略する。
【0075】
第1の中間搬送部24は、中間搬送体30を有する。中間搬送体30は、前段のドラムから記録媒体22を受け取り、回転搬送させた後、後段のドラムに受け渡すためのドラムであり、回転自在に取り付けられている。また、中間搬送体30は、不図示のモータによって回転するようになっている。
【0076】
中間搬送体30の外周面には、爪形状の保持手段が90°間隔で設けられている。保持手段は、円軌跡を描きながら回転するようになっており、この保持手段の動作によって記録媒体22の先端が保持される。したがって、保持手段で記録媒体22の先端を保持した状態で中間搬送体30を回転させることによって、記録媒体22を回転搬送させることができる。なお、中間搬送体30の表面に複数の送風口を設け、この送風口からエアを吹き出すことによって、記録媒体の記録面を非接触で搬送するとよい。
【0077】
第1の中間搬送部24によって搬送された記録媒体22は、後段のドラム(すなわち、描画ドラム70)に受け渡される。その際、中間搬送部24の保持手段34と描画部14の保持手段73を同期させることによって、記録媒体22の受け渡しが行われる。受け渡された記録媒体22は、描画ドラム70によって保持されて回転搬送される。
【0078】
(インクヘッドの構造)
次に、各インクヘッドの構造について説明する。色別のインクヘッド72C,72M,72Y,72Kの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号100によってインクヘッドを示すものとする。
【0079】
図2(a)はインクヘッド100の構造例を示す平面透視図であり、図2(b) はその一部の拡大図である。記録媒体22上に印字されるドットピッチを高密度化するためには、インクヘッド100におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のインクヘッド100は、図2(a)、(b) に示したように、インク吐出口であるノズル102と、各ノズル102に対応する圧力室104等からなる複数のインク室ユニット(記録素子単位としての液滴吐出素子)108を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(記録媒体22の搬送方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0080】
記録媒体22の搬送方向(図2中矢印S)と略直交する方向(図2中矢印M)に記録媒体22の画像形成領域の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は図示の例に限定されない。例えば、図2(a) の構成に代えて、図3に示すように、複数のノズル102が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール100’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで長尺化することにより、全体として記録媒体22の画像形成領域の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。
【0081】
各ノズル102に対応して設けられている圧力室104は、その平面形状が概略正方形となっており(図2(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル102への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)106が設けられている。なお、圧力室104の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0082】
図4は、インクヘッド100における記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル102に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図2(a) 中のX−X線に沿う断面図)である。
【0083】
図4に示したように、各圧力室104は供給口106を介して共通流路110と連通されている。共通流路110はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路110を介して各圧力室104に供給される。
【0084】
圧力室104の一部の面(図4において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)112には個別電極114を備えたアクチュエータ116が接合されている。個別電極114と共通電極間に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ116が変形して圧力室104の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル102からインクが吐出される。なお、アクチュエータ116には、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムなどの圧電体を用いた圧電素子が好適に用いられる。インク吐出後、アクチュエータ116の変位が元に戻る際に、共通流路110から供給口106を通って新しいインクが圧力室104に再充填される。
【0085】
入力画像からデジタルハーフトーニング処理によって生成されるドットデータに応じて各ノズル102に対応したアクチュエータ116の駆動を制御することにより、ノズル102からインク滴を吐出させることができる。記録媒体22を一定の速度で副走査方向に搬送しながら、その搬送速度に合わせて各ノズル102のインク吐出タイミングを制御することによって、記録媒体22上に所望の画像を記録することができる。
【0086】
上述した構造を有するインク室ユニット108を図5に示す如く主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0087】
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット108を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影(正射影)されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル102が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影される実質的なノズル列の高密度化を実現することが可能になる。
【0088】
なお、印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルラインヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、記録媒体22の搬送方向と直交する方向に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
【0089】
特に、図5に示すようなマトリクス状に配置されたノズル102を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。即ち、ノズル102-11 、102-12 、102-13 、102-14 、102-15 、102-16 を1つのブロックとし(他にはノズル102-21 、…、102-26 を1つのブロック、ノズル102-31 、…、102-36 を1つのブロック、…として)、記録媒体22の搬送速度に応じてノズル102-11 、102-12 、…、102-16 を順次駆動することで記録媒体22の搬送方向と直交する方向に1ラインを印字する。
【0090】
一方、上述したフルラインヘッドと記録媒体22とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)の印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
【0091】
そして、上述の主走査によって記録される1ライン(或いは帯状領域の長手方向)の示す方向を主走査方向といい、上述の副走査を行う方向を副走査方向という。即ち、本実施形態では、記録媒体22の搬送方向が副走査方向であり、それに直交する方向が主走査方向ということになる。本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。
【0092】
また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ116の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
【0093】
(制御系の説明)
図6は、インクジェット記録装置1のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置1は、通信インターフェース120、システムコントローラ122、プリント制御部124、処理液付与制御部126、第1中間搬送制御部128、ヘッドドライバ130、第2中間搬送制御部132、乾燥制御部134、第3中間搬送制御部136、定着制御部138、インラインセンサ90、エンコーダ91、モータドライバ142、メモリ144、ヒータドライバ146、画像バッファメモリ148、吸引制御部149等を備えている。
【0094】
通信インターフェース120は、ホストコンピュータ150から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース120にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ150から送出された画像データは通信インターフェース120を介してインクジェット記録装置1に取り込まれ、一旦メモリ144に記憶される。
【0095】
システムコントローラ122は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置1の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ122は、通信インターフェース120、処理液付与制御部126、第1中間搬送制御部128、ヘッドドライバ130、第2中間搬送制御部132、乾燥制御部134、第3中間搬送制御部136、定着制御部138、メモリ144、モータドライバ142、ヒータドライバ146、吸引制御部149等の各部を制御し、ホストコンピュータ150との間の通信制御、メモリ144の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ152やヒータ154を制御する制御信号を生成する。
【0096】
メモリ144は、通信インターフェース120を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ122を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ144は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0097】
ROM145には、システムコントローラ122のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、ROM145は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ144は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0098】
モータドライバ142は、システムコントローラ122からの指示にしたがってモータ152を駆動するドライバである。図6には、装置内の各部に配置されるモータを代表して符号152で図示されている。例えば、図6に示すモータ152には、図1の渡し胴52、処理液ドラム54、描画ドラム70、乾燥ドラム76、定着ドラム84、渡し胴94などの回転を駆動するモータ、描画ドラム70の吸引孔から負圧吸引するためのポンプ75の駆動モータ、インクヘッド72C,72M,72Y,72Kのヘッドユニットの退避機構のモータ、などが含まれている。
【0099】
ヒータドライバ146は、システムコントローラ122からの指示にしたがって、ヒータ154を駆動するドライバである。図6には、インクジェット記録装置1に備えられる複数のヒータを代表して符号154で図示されている。例えば、図6に示すヒータ154には、給紙部10において記録媒体22を予め適温に加熱しておくための不図示のプレヒータ、などが含まれている。
【0100】
プリント制御部124は、システムコントローラ122の制御にしたがい、メモリ144内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ130に供給する制御部である。プリント制御部124において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ130を介してインクヘッド100のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0101】
プリント制御部124には画像バッファメモリ148が備えられており、プリント制御部124における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ148に一時的に格納される。なお、図6において画像バッファメモリ148はプリント制御部124に付随する態様で示されているが、メモリ144と兼用することも可能である。また、プリント制御部124とシステムコントローラ122とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0102】
画像入力から印字出力までの処理の流れを概説すると、印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース120を介して外部から入力され、メモリ144に蓄えられる。この段階では、例えば、RGBの画像データがメモリ144に記憶される。
【0103】
インクジェット記録装置1では、インク(色材) による微細なドットの打滴密度やドットサイズを変えることによって、人の目に疑似的な連続階調の画像を形成するため、入力されたデジタル画像の階調(画像の濃淡)をできるだけ忠実に再現するようなドットパターンに変換する必要がある。そのため、メモリ144に蓄えられた元画像(RGB)のデータは、システムコントローラ122を介してプリント制御部124に送られ、該プリント制御部124において閾値マトリクスや誤差拡散法などを用いたハーフトーニング処理によってインク色ごとのドットデータに変換される。
【0104】
即ち、プリント制御部124は、入力されたRGB画像データをK,C,M,Yの4色のドットデータに変換する処理を行う。こうして、プリント制御部124で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ148に蓄えられる。
【0105】
ヘッドドライバ130は、プリント制御部124から与えられる印字データ(即ち、画像バッファメモリ148に記憶されたドットデータ)に基づき、インクヘッド100の各ノズル102に対応するアクチュエータ116を駆動するための駆動信号を出力する。ヘッドドライバ130にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0106】
ヘッドドライバ130から出力された駆動信号がインクヘッド100に加えられることによって、該当するノズル102からインクが吐出される。記録媒体22を所定の速度で搬送しながらインクヘッド100からのインク吐出を制御することにより、記録媒体22上に画像が形成される。
【0107】
また、システムコントローラ122は、処理液付与制御部126、第1中間搬送制御部128、第2中間搬送制御部132、乾燥制御部134、第3中間搬送制御部136、定着制御部138、吸引制御部149を制御する。
【0108】
処理液付与制御部126は、システムコントローラ122からの指示にしたがい、処理液付与部12の処理液塗布装置56の動作を制御する。
【0109】
第1中間搬送制御部128は、システムコントローラ122からの指示にしたがい、第1の中間搬送部24の中間搬送体30の動作を制御する。具体的には、中間搬送体30において、中間搬送体30自体の回転駆動、中間搬送体30に備わる保持手段34の回動などを制御する。第2中間搬送制御部132、第3中間搬送制御部136も第1中間搬送制御部128と同様の制御を行う。
【0110】
(インクジェット記録装置の特有の効果)
上記の如く構成されたインクジェット記録装置1は、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するので、二番目以降のインクのドット径が拡大化することを防止できる。すなわち、総固形分量の多いインクは、凝集反応に必要な凝集剤の量(処理液の量)が多いので、このようなインクを後から打滴すると、凝集反応に必要な凝集剤が不足することになり、未凝集成分が発生してドット径が拡大してしまうが、本実施の形態では、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するので、最初のインクは記録媒体上の十分な量の凝集剤によって確実に凝集させることができ、さらに、二番目以降のインクは、凝集剤の必要量が少ないので、これらのインクも確実に凝集させることができる。したがって、本実施の形態によれば、全てのインクを凝集させることができるので、インクのドット径が拡大することを防止できる。特に本実施の形態では、総固形分量が多いインクの順に記録媒体22に付与するので、全てのインクにおいてドット径の拡大を防止することができる。
【0111】
また、本実施の形態によれば、凝集剤の必要量が多いインクの順に打滴を行うので、凝集反応を効率良く行うことができる。その結果、凝集剤の量を必要最小限に抑えることができるので、溶媒に対して溶解性の低い凝集剤を選択することができる。これにより、カール・コックリングが発生することを防止できる。
【0112】
さらに、本実施の形態によれば、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するようにしたので、記録媒体22に浸透するインク溶媒の量を減少させることができる。すなわち、総固形分量が多いインクほど、凝集した際に画像中に抱き抱えられるインク溶媒の量が増加するので、総固形分量が多いインクを最初に付与することによって、インク溶媒が記録媒体22に浸透しにくくなる。これにより、記録媒体22(特にコート紙)の強度が低下することを防止でき、画像と記録媒体22との密着性を向上させることができる。また、記録媒体22上の画像にインク溶媒が多量に滞留することになるので、画像を乾燥させやすくなる。その結果、乾燥時の画像膜表面の到達温度をポリマー成分の軟化点以上に達するような強乾燥を実施する必要がなくなり、乾燥を効率よく行うことができる。
【0113】
また、本実施の形態では、総固形分量が最も多いインクを最初に付与するようにしたので、このインクを後から打滴した時のように未凝集成分(顔料、ポリマー微粒子)が画像表面に滞留することを防止できる。したがって、第1の定着ローラ86や第2の定着ローラ88に未凝集成分が付着することを防止できるので、第1の定着ローラ86や第2の定着ローラ88のクリーニング頻度を低下させることができる。
【0114】
また、本実施の形態では、インク中の総ポリマー量が総固形分量に対して半分以上であるインクを用いているので、画像の耐擦性を向上させることができる。すなわち、画像の耐擦性は、インク中の総ポリマー量が総固形分量に対して半分未満の場合に低下し、特に単色ベタ画像では耐擦性が不足するという問題が発生するが、本実施の形態ではこれを防止することができる。
【0115】
また、本実施の形態では、乾燥工程での画像表面の到達温度Tdが自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpよりも小さく、且つ、加熱加圧工程での画像表面の到達温度Tfが自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpよりも大きくなるように、温度制御しているので、ドット径の縮小防止と、画像密着性・耐擦性・画像光沢の向上の両方を達成することができる。すなわち、インク溶媒を揮発させるための乾燥条件を強化した場合(具体的には乾燥工程での画像表面の到達温度Tdを自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpよりも大きくした場合)には、ドット中のポリマー微粒子が融着結合し、その凝集力によってドット径の縮小が発生するという現象がおき、特に後から打滴したインクほど、その傾向が顕著になる。また、インク溶媒を揮発させるための乾燥条件を強化した場合(具体的には乾燥工程での画像表面の到達温度Tdを自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpよりも大きくした場合)には、インク膜を皮膜化させた状態で定着工程による加熱加圧が行われるので、コート層中の水分が揮発して膨張し、その急激な膨張力によって画像膜が褶曲状に隆起し、湾曲した状態(すなわち画像褶曲)が発生し、それに伴って画像密着性・耐擦性・画像光沢の低下が発生する。本実施の形態では、乾燥工程での画像表面の到達温度Tdが自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpよりも小さくなるように温度制御しているので、これらの不具合を防止することができる。なお、本実施の形態では、軟化点Tpを30℃以上70℃以下としたので、30℃未満の際に発生する乾燥不足によるオフセットや、70℃超で発生する高速記録下での皮膜性不足を防止することができる。
【0116】
以上、本発明のインクジェット記録装置、インクジェット記録方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【0117】
[記録媒体]
本発明で用いられる記録媒体は特に限定されるものではないが、インク溶媒の浸透が遅い印刷用コート紙に対して特に好ましい結果を得る事ができる。
【0118】
コート紙に好適に使用可能な支持体としては、例えば、LBKP、NBKP等の化学パルプ;GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ;DIP等の古紙パルプなどの木材パルプと、顔料とを主成分とし、バインダー、さらにサイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、カチオン化剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種以上混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種装置を使用して製造される原紙、さらに澱粉、ポリビニルアルコール等を用いてなるサイズプレスやアンカーコート層を設けた原紙、あるいはこれらのサイズプレスやアンカーコート層の上にコート層を設けてなるアート紙、コート紙、キャストコート紙等の塗工紙などが挙げられる。
【0119】
本発明の方法においては、これらの原紙あるいは塗工紙をそのまま使用してもよいし、例えばマシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等の装置を使用してカレンダー処理を行ない、平坦化をコントロールした状態で使用してもよい。
【0120】
支持体の坪量は、通常、40〜300g/m2 程度であるが、特に制限されるものではない。本発明で用いられるコート紙は、上記のような支持体上に、コート層を塗設する。コート層は顔料およびバインダーを主成分とする塗被組成物から構成されるものであり、支持体上に少なくとも1層塗設される。
【0121】
前記顔料としては、白色顔料を好適に使用することができる。このような白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機顔料;スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料が挙げられる。
【0122】
前記バインダーとしては、例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、ポリビニルアルコールまたはその誘導体;各種鹸化度のポリビニルアルコール又はそのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種誘導体;ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス;エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス;或はこれら各種重合体のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性合成樹脂等の水性接着剤;ポリメチルメタクリレート等のアクリル;酸エステル;メタクリル酸エステルの重合体又は共重合体樹脂;ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤等を挙げることができる。コート層の顔料とバインダーとの配合割合は、顔料100重量部に対し、バインダーが3〜70重量部、好ましくは5〜50重量部である。顔料100重量部に対するバインダーの配合割合が3重量部未満であると、そのような塗被組成物からなるインク受理層の塗膜強度が不足することがある。一方、この配合割合が70重量部を超えると、高沸点溶媒の吸収が極端に遅くなる。
【0123】
更に、コート層には、例えば、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、螢光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
【0124】
インク受理層の塗工量は、要求される光沢、インク吸収性、支持体の種類等により異なるので一概には言えないが、通常は1g/m2 以上である。また、インク受理層はある一定の塗工量を2度に分けて塗設してもよい。このように2度に分けて塗設すると、同塗工量を1度に塗設する場合に比較して光沢が向上する。
【0125】
コート層の塗設は、例えば、各種ブレードコータ、ロールコータ、エアーナイフコータ、バーコータ、ロッドブレードコータ、カーテンコータ、ショートドウェルコータ、サイズプレス等の各種装置をオンマシン或いはオフマシンで使用して行なうことができる。また、コート層の塗設後に、たとえばマシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置を使用してインク受理層の平坦化仕上げを行なってもよい。尚、コート層の層数は、必要に応じて適宜に決定することができる。
【0126】
コート紙としてはアート紙、上質コート紙、中質コート紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、微塗工印刷用紙があり、コート層の塗設量はアート紙で両面40g/m前後、上質コート紙、中質コート紙で両面20g/m前後、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙では両面15g/m前後であり、微塗工印刷用紙は両面12g/m以下である。アート紙の例としては特菱アートなどが挙げられ、上質コート紙としてはユーライト、アート紙としては特菱アート(三菱製紙社製)、サテン金藤(王子製紙社製)、等が挙げられ、コート紙としてはOKトップコート(王子製紙社性)、オーロラコート(日本製紙社製)、リサイクルコートT−6(日本製紙社製)が挙げられ、軽量コートとしてはユーライト(日本製紙社製)、ニューVマット(三菱製紙社製)、ニューエイジ(王子製紙社製)、リサイクルマットT−6(日本製紙社製)、ピズム(日本製紙社製)が挙げられる。微塗工印刷用紙としてはオーロラL(日本製紙社製)、キンマリHi−L(北越製紙社製)などが挙げられる。更に、キャストコート紙としてはSA金藤プラス(王子製紙社製)、ハイマッキンレーアート(五條製紙社製)等が挙げられる。
【0127】
なお、本発明における記録媒体は、コート紙に限定されるものではなく、以下にあげる記録媒体を使用することもできる。すなわち、市販の板紙、キャストコート紙、アート紙、上質紙、コピー用紙、再生紙、合成紙、中質紙、感圧紙、エンボス紙、等のグロスあるいはマット紙が好適に使用され、インクジェット専用紙も使用できる。また樹脂フィルムや金属蒸着フォルム等も使用可能である。記録媒体の例としては、OKエルカード+(王子製紙社製)、SA金藤+(王子製紙社製)、サテン金藤N(王子製紙社製)、OKトップコート+(王子製紙社製)、ニューエイジ(王子製紙社製)、特菱アート両面N(三菱製紙社製)、特菱アート片面N(三菱製紙社製)、ニューVマット(三菱製紙社製)、オーロラコート(日本製紙社製)、オーロラL(日本製紙社製)、ユーライト(日本製紙社製)、リサイクルコートT-6(日本製紙社製)、リサイクルマットT-6(日本製紙社製)、アイベストW(日本板紙社製)、インバーコートM(SPAN CORPORATION社製)、ハイマッキンレーアート(五條製紙社製)、キンマリHi-L(北越製紙社製)、Signature True(Newpage corporation社製)、Sterling Ultra(Newpage corporation社製)、Anthem(Newpage corporation社製)、Hanno Art Silk(Sappi社製)、Hanno Art gross(Sappi社製)、Consort Royal Semimatt(Scheufelen社製)、Consort Royal Gross(Scheufelen社製)、Zanders Ikono Silk(m-real社製)、Zanders Ikono Gross(m-real社製)、の坪量60〜350g/m2のものが好適に使用される。
【0128】
[インク]
以下、本発明の画像形成方法に使用するインクについて詳細に説明する。
【0129】
本発明におけるインクは、顔料粒子(A)と、顔料を被覆する分散剤ポリマー(B)と、自己分散性ポリマー微粒子(C)とを含有し、ポリマー成分の総量(B+C)が総固形分量(A+B+C)に対して半分以上の量を占めるインクが使用される。
【0130】
<顔料粒子A>
本発明において、顔料粒子(A)とは化学大辞典第3版1994年4月1日発行(編集 大木道則他)の518頁に記載のように、水、有機溶剤にほとんど不溶の有色物質(無機顔料では白色も含む)の総称であり、本発明では有機顔料と無機顔料とを用いることができる。
【0131】
本発明において使用可能な顔料としては、イエローインクの顔料は、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、14C、16、17、24、34、35、37、42、53、55、65、73、74、75、81、83、93、95、97、98、100、101、104、108、109、110、114、117、120、128、129、138、150、151、153、154、155、180等が挙げられる。
【0132】
マゼンタインクの顔料は、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、48(Ca)、48(Mn)、48:2、48:3、48:4、49、49:1、50、51、52、52:2、53:1、53、55、57(Ca)、57:1、60、60:1、63:1、63:2、64、64:1、81、83、87、88、89、90、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、163、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、209、219等が挙げられ、特に、C.I.ピグメントレッド122が好ましい。
【0133】
シアンインクの顔料は、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、22、25、56、60、C.I.バットブルー4、60、63等が挙げられ、特に、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
【0134】
その他のカラーインクの顔料は、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19(キナクリドンレッド)、23、38等も挙げられる。その他顔料表面を樹脂等で処理したグラフトカーボン等の加工顔料等も使用できる。
【0135】
黒色系のものとしては、例えばカーボンブラックが挙げられる。かかるカーボンブラックの具体例としては、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B 等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal330R、Regal660R、Mogul L、Monarch700、Monarch800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等が、デグッサ社製のColor Black
FW1、ColorBlack FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、ColorBlack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U 、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black4A、Special Black4等が挙げられる。
【0136】
上記の顔料は、単独種で使用してもよく、また上記した各群内もしくは各群間より複数種選択してこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0137】
本発明における水性インク中の顔料粒子(A)の含有量としては、インクの分散安定性、濃度の観点から、1〜10質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましく、2〜6質量%が特に好ましい。
【0138】
また、本発明において、顔料粒子(A)は、分散剤ポリマー(B)によって分散保持されることが好ましく、さらに分散剤ポリマー(B)を用いて水性液媒体に分散保持されている顔料として用いることが好ましい。水性液媒体中には更に分散剤を含んでいても、含んでいなくともよい。
【0139】
本発明において、顔料粒子(A)としては、分散剤ポリマー(B)によって分散保持されている顔料であれば、特に限定されないが、中でも、顔料分散の安定性、吐出安定性の観点から、転相法により作製されたマイクロカプセル化顔料であることが一層好ましい。
【0140】
本発明に含有される顔料粒子(A)として、マイクロカプセル化顔料を好ましい例として挙げることができる。マイクロカプセル化顔料とは、顔料が分散剤ポリマー(B)で被覆された顔料である。
【0141】
マイクロカプセル化顔料の樹脂は、前記分散剤ポリマー(B)を用いる必要があるが、更に、水に対して自己分散能又は溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)を有する高分子の化合物を分散剤ポリマー(B)以外の樹脂に用いることが好ましい。
【0142】
(マイクロカプセル化顔料の製造)
マイクロカプセル化顔料は、分散剤ポリマー(B)等の前記成分を用いて、従来の物理的、化学的方法によって製造することができる。例えば、特開平9−151342号、特開平10−140065号、特開平11−209672号、特開平11−172180号、特開平10−25440号、または特開平11−43636号に開示されている方法によって製造することができる。マイクロカプセル化顔料の製造方法について以下に概説する。
【0143】
マイクロカプセル化顔料の製造方法としては、特開平9−151342号及び特開平10−140065号記載の転相法と酸析法等を用いることができ、中でも、転相法が分散安定性の点で好ましい。
【0144】
a)転相法
本発明において、転相法とは、基本的には、自己分散能または溶解能を有する樹脂と顔料との混合溶融物を水に分散させる、自己分散化(転相乳化)方法をいう。また、この混合溶融物には、前記した硬化剤または高分子化合物を含んでなるものであってもよい。ここで、混合溶融物とは、溶解せず混合した状態、また溶解して混合した状態、またはこれら両者の状態のいずれの状態をも含むものをいう。「転相法」のより具体的な製造方法は、特開平10−140065号に開示されているものと同様であってよい。
【0145】
b)酸析法
本発明において、酸析法とは、樹脂と顔料とからなる含水ケーキを用意し、その含水ケーキ中の、樹脂が含有してなるアニオン性基の一部又は全部を、塩基性化合物を用いて中和することによって、マイクロカプセル化顔料を製造する方法をいう。
【0146】
酸析法は具体的には、(1)樹脂と顔料とをアルカリ性水性媒体中に分散し、又、必要に応じて加熱処理を行なって樹脂のゲル化を図る工程と、(2)pHを中性または酸性にすることによって樹脂を疎水化して、樹脂を顔料に強く固着する工程と、(3)必要に応じて、濾過および水洗を行なって、含水ケーキを得る工程と、(4)含水ケーキを中の、樹脂が含有してなるアニオン性基の一部または全部を、塩基性化合物を用いて中和し、その後、水性媒体中に再分散する工程と、(5)必要に応じて加熱処理を行ない樹脂のゲル化を図る工程と、を含んでなるものである。
【0147】
上記の、転相法及び酸析法のより具体的な製造方法は、特開平9−151342号、特開平10−140065号に開示されているものと同様であってよい。特開平11−209672号公報及び特開平11−172180号公報に記載の着色剤の製造方法も本発明において用いることができる。
【0148】
本発明において好ましい製法の概要は、基本的には次の製造工程からなる。(1)アニオン性基を有する樹脂またはそれを有機溶剤に溶解した溶液と塩基性化合物水溶液とを混合して中和することと、(2)この混合液に顔料を混合して懸濁液とした後に、分散機等で顔料を分散して顔料分散液を得ることと、(3)必要に応じて、溶剤を蒸留して除くことによって、顔料を、アニオン性基を有する樹脂で被覆した水性分散体を得ることとを含んでなるものである。
【0149】
本発明において、前記における混練、分散処理は、たとえばボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機、超音波ホモジナイザ−などを用いて行うことができる。
【0150】
<分散剤ポリマー(B)>
前記分散剤ポリマー(B)は、水性液媒体中での顔料粒子(A)の分散剤として用いるものであり、顔料Bを分散しうる樹脂であれば如何なる樹脂でもかまわないが、分散剤ポリマー(B)の構造は、疎水性構造単位(a)と、親水性構造単位(b)とを有することが好ましい。必要に応じて、分散剤ポリマー(B)は、前記疎水性構造単位(a)及び前記親水性構造単位(b)とは異なる構造単位(c)を含むことができる。
【0151】
前記親水性構造単位(b)及び疎水性構造単位(a)の組成としては、それぞれの親水性、疎水性の程度にもよるが、疎水性構造単位(a)が分散剤ポリマー(B)全体の質量に対して80質量%を超えて含有されることが好ましく、85質量%以上がより好ましい。即ち、親水性構造単位(b)は15質量%以下にする必要があり、親水性構造単位(b)が15質量%よりも多い場合には、顔料の分散に寄与せず単独で水性液媒体(D)中に溶解する成分が増加し、顔料粒子(A)の分散性等の諸性能を悪化させ、インクジェット記録用インクの吐出性を悪化させる原因となる。
【0152】
<疎水性構造単位(a)>
本発明における分散剤ポリマー(B)は、疎水性構造単位(a)のうち、分散剤ポリマー(B)の主鎖を形成する原子と直接に結合していない芳香環を有する疎水性構造単位(a1)を少なくとも含む。
【0153】
ここでいう「直接に結合していない」とは、芳香環と樹脂の主鎖構造を形成する原子とが、連結基を介して結合した構造となっていることを表す。このような形態を有することで、分散剤ポリマー(B)中の親水性構造単位と疎水性の芳香環との間に適切な距離が維持されるため、分散剤ポリマー(B)と顔料粒子(A)とに相互作用が生じやすくなり、強固に吸着し、結果分散性が向上する。
【0154】
〈芳香環を有する疎水性構造単位(a1)〉
前記分散剤ポリマー(B)の主鎖を形成する原子と直接に結合していない芳香環を有する疎水性構造単位(a1)は、顔料の分散安定性、吐出安定性、洗浄性の観点から、前記分散剤ポリマー(B)の全質量のうち40質量%以上75質量%未満であることが好ましく、40質量%以上70質量%未満であることがより好ましく、40質量%以上60質量%未満であることが特に好ましい。
【0155】
前記分散剤ポリマー(B)の主鎖を形成する原子と直接に結合していない芳香環が、顔料の分散安定性、吐出安定性、洗浄性、耐擦過性の向上の点で、分散剤ポリマー(B)中15質量%以上27質量%以下であることが好ましく、15質量%以上25質量%以下がより好ましく、15質量%以上20質量%以下が特に好ましい。
【0156】
上記範囲とすることにより、顔料の分散安定性、吐出安定性、洗浄性、耐擦過性を向上することができる。
【0157】
本発明においては、前記疎水性構造単位(a)における前記芳香環を含む疎水性構造単位(a1)は、下記一般式(1)で表される構造で分散剤ポリマー(B)に導入された形態が好ましい。
【0158】
【化1】

【0159】
一般式(1)中、R1は水素原子、メチル基、またはハロゲン原子を表し、L1は(主鎖側)−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。Lは単結合または、炭素数1〜30の2価の連結基を表し、2価の連結基である場合、その好ましい範囲は好ましくは炭素数1〜25の連結基であり、特に好ましくは炭素数1〜20の連結基である。ここで、前記置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等、シアノ基等が挙げられるが、特に限定されない。Arは芳香環から誘導される1価の基を表す。
【0160】
上記一般式(1)の中でも、Rが水素原子またはメチル基であり、Lが(主鎖側)−COO−であり、Lがアルキレンオキシ基および/またはアルキレン基を含む炭素数1〜25の2価の連結基である構造単位の組合せが好ましく、より好ましくは、Rが水素原子またはメチル基であり、Lが(主鎖側)−COO−であり、Lが(主鎖側)−(CH−CH−O)n−である(nは平均の繰り返し単位数をあらわし、n=1〜6である)構造単位の組合せである。
【0161】
疎水性構造単位(a1)中に含まれる前記Ar1における芳香環としては、特に限定されないが、ベンゼン環、炭素数8以上の縮環型芳香環、芳香環が縮環したヘテロ環、または二個以上連結したベンゼン環が挙げられる。
【0162】
前記炭素数8以上の縮環型芳香環とは、少なくとも二個以上のベンゼン環が縮環した芳香環、及び/又は、少なくとも一種以上の芳香環と該芳香環に縮環した脂環式炭化水素で環が構成される、炭素数8以上の芳香族化合物である。具体的な例としては、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アセナフテンなどが挙げられる。
【0163】
前記芳香環が縮環したヘテロ環とは、ヘテロ原子を含まない芳香族化合物(好ましくはベンゼン環)と、ヘテロ原子を有する環状化合物とが少なくとも縮環した化合物である。ここで、ヘテロ原子を有する環状化合物は5員環または6員環であることが好ましい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子が好ましい。ヘテロ原子を有する環状化合物は複数のヘテロ原子を有していても良く、この場合、ヘテロ原子は互いに同じでも異なっていてもよい。芳香環が縮環したヘテロ環の具体例としては、フタルイミド、アクリドン、カルバゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0164】
以下に、前記ベンゼン環、炭素数8以上の縮環型芳香環、芳香環が縮環したヘテロ環、または二個以上連結したベンゼン環から誘導される1価の基を含む疎水性構造単位(a1)を形成しうるモノマーの具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。
【0165】
【化2】

【0166】
【化3】

【0167】
本発明において、前記分散剤ポリマー(B)の主鎖を形成する原子と直接に結合していない芳香環を有する疎水性構造単位(a1)のなかでも、分散安定性の観点から、ベンジルメタアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、及びフェノキシエチルメタクリレートのいずれか1以上に由来する構造単位であることが好ましい。
【0168】
(アクリル酸またはメタクリル酸の、炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する疎水性構造単位(a2))
前記分散剤ポリマー(B)に含まれるアクリル酸またはメタクリル酸の、炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する疎水性構造単位(a2)は、分散剤ポリマー(B)中に少なくとも15質量%以上であることが必要であり、好ましくは20質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以上50質量%以下である。
【0169】
これら(メタ)アクリレート類の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0170】
前記アルキル基の炭素数は、1〜4であることが好ましく、1〜2であることがさらに好ましい。
【0171】
<親水性構造単位(b)>
本発明における分散剤ポリマー(B)を構成する親水性構造単位(b)について説明する。
【0172】
該親水性構造単位(b)は、前記樹脂(A)の全質量に対して、0質量%超15質量%以下含有され、2質量%以上15質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下が好ましく、8質量%以上12質量%以下がより好ましい。
【0173】
前記樹脂(A)は、親水性構造単位(b)としてアクリル酸及び/またはメタクリル酸(b1)を少なくとも含む。
【0174】
(親水性構造単位(b1))
前記親水性構造単位(b1)の含有量は、後述の構造単位(b2)の量または疎水性構造単位(a)の量か、あるいはその両方により変更する必要がある。
【0175】
即ち、本発明における分散剤ポリマー(B)は、疎水性構造単位(a)として80質量%を超える量を含み、かつ親水性構造単位(b)を15質量%以下とする量とすればよく、前記疎水性構造単位(a1)と(a2)、親水性構造単位(b1)と(b2)及び構造単位(c)により決定されるものである。
【0176】
例えば、分散剤ポリマー(B)が、疎水性構造単位(a1)、(a2)と親水性構造単位(b1)と構造単位(b2)のみから構成される場合において、アクリル酸及び/またはメタクリル酸(b1)の含有量は、「100−(疎水性構造単位(a1)・(a2)の質量%)−(構造単位(b2)の質量%)」で求めることができる。このとき、(b1)と(b2)の和は15質量%以下でなければならない。
【0177】
また、分散剤ポリマー(B)が疎水性構造単位(a1)、(a2)と、親水性構造単位(b1)と、構造単位(c)とからなるとき、親水性構造単位(b1)の含有量は、「100−(疎水性構造単位(a1)・(a2)の質量%)−(構造単位(c)の質量%)」で求めることができる。
【0178】
また、分散剤ポリマー(B)は疎水性構造単位(a1)、疎水性構造単位(a2)、親水性構造単位(b1)のみから構成されることも可能である。
【0179】
親水性構造単位(b1)は、アクリル酸及び/またはメタクリル酸を重合することにより得ることができる。
【0180】
なお、アクリル酸またはメタクリル酸は、単独で又は混合して用いることができる。
【0181】
本発明における分散剤ポリマー(B)の酸価は、顔料分散性、保存安定性の観点から、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましく、30mgKOH/g以上、85mgKOH/g未満であることがより好ましく、50mgKOH/g以上、85mgKOH/gであることが特に好ましい。
【0182】
なお、ここでいう酸価とは、分散剤ポリマー(B)の1gを完全に中和するのに要するKOHの質量(mg)で定義され、JIS規格(JISK0070、1992)記載の方法により測定することができる。
【0183】
(前記構造単位(b2))
前記構造単位(b2)は非イオン性の親水性基を含有して成ることが好ましい。また、構造単位(b2)は、これに対応するモノマーを重合することにより形成することができるが、ポリマーの重合後、ポリマー鎖に親水性官能基を導入してもよい。
【0184】
前記構造単位(b2)を形成するモノマーは、重合体を形成しうる官能基と非イオン性の親水性の官能基とを有していれば特に制限はなく、公知の如何なるモノマー類をも用いることができるが、入手性、取り扱い性、汎用性の観点からビニルモノマー類が好ましい。
【0185】
これらビニルモノマー類の例として、親水性の官能基を有する(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル類が挙げられる。
【0186】
親水性の官能基としては、水酸基、アミノ基、(窒素原子が無置換の)アミド基及び、後述するようなポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のアルキレンオキシド重合体が挙げられる。
【0187】
これらのうち、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アミノエチルアクリレート、アミノプロピルアクリレート、アルキレンオキシド重合体を含有する(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0188】
前記構造単位(b2)は、アルキレンオキシド重合体構造を有する親水性の構造単位を含むことが好ましい。
【0189】
前記アルキレンオキシド重合体のアルキレンとしては、親水性の観点から炭素数1〜6が好ましく、炭素数2〜6がより好ましく、炭素数2〜4が特に好ましい。
【0190】
また、前記アルキレンオキシド重合体の重合度としては、1〜120が好ましく、1〜60がより好ましく、1〜30が特に好ましい。
【0191】
前記構造単位(b2)は、水酸基を含む親水性の構造単位であることも好ましい態様である。
【0192】
前記構造単位(b2)中の水酸基数としては、特に限定されず、樹脂(A)の親水性、重合時の溶媒や他のモノマーとの相溶性の観点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0193】
<構造単位(c)>
本発明における分散剤ポリマー(B)は、前述の通り、前記疎水性構造単位(a1)、前記疎水性構造単位(a2)及び前記親水性構造単位(b)とは異なる構造を有する構造単位(c)(以下、単に「構造単位(c)」という。)を含有することもできる。
【0194】
前記疎水性構造単位(a1)、疎水性構造単位(a2)及び親水性構造単位(b)とは異なる構造単位(c)とは、前記(a1)、(a2)又は(b)とは異なる構造を有する構造単位(c)を言い、該構造単位(c)は疎水性の構造単位であることが好ましい。
【0195】
前記構造単位(c)は、疎水性の構造単位であるが、疎水性構造単位(a1)、疎水性構造単位(a2)とは異なる構造を有する構造単位である必要がある。
【0196】
前記構造単位(c)は、前記分散剤ポリマー(B)に全質量中35質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましく、15質量%以下とすることが更に好ましい。
【0197】
前記構造単位(c)はこれに対応するモノマーを重合することにより形成することができる。また、樹脂の重合後に、ポリマー鎖に疎水性官能基を導入してもよい。
【0198】
前記構造単位(c)が疎水性の構造単位である場合のモノマーは、重合体を形成しうる官能基と疎水性の官能基とを有していれば特に制限はなく、公知の如何なるモノマー類をも用いることができる。
【0199】
前記疎水性の構造単位を形成しうるモノマーとしては、入手性、取り扱い性、汎用性の観点から、ビニルモノマー類、((メタ)アクリルアミド類、スチレン類、ビニルエステル類等)が好ましい。
【0200】
(メタ)アクリルアミド類としては、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、N−アリル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0201】
スチレン類としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、n−ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、酸性物質により脱保護可能な基(例えばt−Bocなど)で保護されたヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸メチル、およびα−メチルスチレン、ビニルナフタレン等などが挙げられ、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0202】
ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、および安息香酸ビニルなどのビニルエステル類が挙げられ、中でも、ビニルアセテートが好ましい。
【0203】
これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0204】
本発明における分散剤ポリマー(B)は、各構造単位が不規則的に導入されたランダム共重合体であっても、規則的に導入されたブロック共重合体であっても良く、ブロック共重合体である場合の各構造単位は、如何なる導入順序で合成されたものであっても良く、同一の構成成分を2度以上用いてもよいが、ランダム共重合体であることが汎用性、製造性の点で好ましい。
【0205】
さらに、本発明で用いる分散剤ポリマー(B)の分子量範囲は、重量平均分子量(Mw)で、好ましくは3万〜15万であり、より好ましくは3万〜10万であり、さらに好ましくは3万〜8万である。
【0206】
前記分子量を上記範囲とすることにより、分散剤としての立体反発効果が良好な傾向となり、また立体効果により顔料への吸着に時間がかからなくなる傾向の観点から好ましい。
【0207】
また、本発明で用いる樹脂の分子量分布(重量平均分子量値/数平均分子量値で表される)は、1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。
【0208】
前記分子量分布を上記範囲とすることは、インクの分散安定性、吐出安定性の観点から好ましい。ここで数平均分子量及び、重量平均分子量は、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒THF、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用い換算して表した分子量である。
【0209】
本発明に用いられる分散剤ポリマー(B)は、種々の重合方法、例えば溶液重合、沈澱重合、懸濁重合、沈殿重合、塊状重合、乳化重合により合成することができる。重合反応は回分式、半連続式、連続式等の公知の操作で行うことができる。
【0210】
重合の開始方法はラジカル開始剤を用いる方法、光または放射線を照射する方法等がある。これらの重合方法、重合の開始方法は、例えば鶴田禎二「高分子合成方法」改定版(日刊工業新聞社刊、1971)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊、124〜154頁に記載されている。
【0211】
上記重合方法のうち、特にラジカル開始剤を用いた溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いられる溶剤は、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールのような種々の有機溶剤の単独あるいは2種以上の混合物でも良いし、水との混合溶媒としても良い。
【0212】
重合温度は生成するポリマーの分子量、開始剤の種類などと関連して設定する必要があり、通常、0℃〜100℃程度であるが、50〜100℃の範囲で重合を行うことが好ましい。
【0213】
反応圧力は、適宜選定可能であるが、通常は、1〜100kg/cm、特に、1〜30kg/cm程度が好ましい。反応時間は、5〜30時間程度である。得られた樹脂は再沈殿などの精製を行っても良い。
【0214】
本発明における分散剤ポリマー(B)として好ましい具体例を以下に示すが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0215】
【化4】

【0216】
【化5】

【0217】
【化6】

【0218】
【化7】

【0219】
【化8】

【0220】
<顔料粒子(A)と分散剤ポリマー(B)の比率>
顔料粒子(A)と分散剤ポリマー(B)の比率は、重量比で100:25〜100:140が好ましく、さらに好ましくは100:25〜100:50である。樹脂分散剤が100:25以上の場合は分散安定性と耐擦性が良化する傾向となる。樹脂分散剤が100:140以下の場合も、分散安定性が良化する傾向となる。
【0221】
<自己分散性ポリマー微粒子(C)>
本発明に用いられるインクは、自己分散性ポリマー微粒子(C)の少なくとも1種を含有する。本発明における自己分散性ポリマー微粒子(C)とは、他の界面活性剤の不存在下に、pr樹脂自身が有する官能基(特に、酸性基またはその塩)によって、水性媒体中で分散状態となりうる水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの微粒子を意味する。
【0222】
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルジョン)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
【0223】
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、インクに含有されたときのインク凝集速度とインク定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0224】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0225】
また、水不溶性ポリマーとは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下である樹脂をいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0226】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0227】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0228】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
【0229】
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0230】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0231】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。
【0232】
本発明において前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0233】
本発明における親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。
【0234】
解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0235】
不飽和カルボン酸モノマーとして具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとして具体的には、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0236】
上記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0237】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子は、自己分散性と反応液と接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有し、酸価(mgKOH/g)が25〜100である第1のポリマーを含むことが好ましい。更に前記酸価は、自己分散性と反応液と接触したときの凝集速度の観点から、25〜80であることがより好ましく、30〜65であることが特に好ましい。酸価が25以上であることで自己分散性の安定性が良好になる。また酸価が100以下であることで、凝集性が向上する。
【0238】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。前記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
【0239】
また前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0240】
本発明における芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーであることがより好ましい。本発明において前記芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0241】
前記芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートであることがより好ましく、フェノキシエチルアクリレートであることが特に好ましい。 尚、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0242】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子は、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
【0243】
本発明においては、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0244】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子は、例えば、芳香族基含有モノマーからなる構成単位と、解離性基含有モノマーからなる構成単位とから構成することができるが、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んで構成することができる。
【0245】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
【0246】
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0247】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量範囲は、重量平均分子量で、3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。尚、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定することできる。
【0248】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーを共重合比率として15〜90質量%とカルボキシル基含有モノマーとアルキル基含有モノマーとを含み、酸価が25〜100であって、重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーを共重合比率として15〜80質量%とカルボキシル基含有モノマーとアルキル基含有モノマーとを含み、酸価が25〜95であって、重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0249】
以下に、自己分散性ポリマー微粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例として、例示化合物B−01〜B−19を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸 共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸 共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(45/45/10)
本発明における自己分散性ポリマー微粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては特に制限はなく、例えば、重合性界面活性剤の存在下に、乳化重合を行い、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、上記親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法により、共重合させる方法を挙げることができる。前記重合法の中でも、凝集速度及び水性インクとしたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0250】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子は、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成された第1のポリマーを含み、前記第1のポリマーはカルボキシル基を有し、酸価が20〜100であって、前記第1のポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部は中和され、水を連続相とする樹脂分散物として調製されたものであることが好ましい。
【0251】
すなわち、本発明における自己分散性ポリマー微粒子の製造方法は、有機溶媒中で前記第1のポリマーを合成する工程と、前記第1の樹脂のカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを含むことが好ましい。
【0252】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
【0253】
工程(1):第1のポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程。
【0254】
工程(2):前記混合物から、前記有機溶媒を除去する工程。
【0255】
前記工程(1)は、まず前記第1のポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散ポリマー粒子を得ることができる。該混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0256】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー微粒子を得ることができる。
【0257】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。本発明の自己分散ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えば、カルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散性ポリマー微粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0258】
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が発現し、100モル%以下とすることで、水溶性成分を低下させる効果がある。
【0259】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散ポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0260】
本発明における自己分散性ポリマー微粒子の平均粒径は、10〜400nmの範囲であることが好ましく、10〜200nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。10nm以上の平均粒径であることで製造適性が向上する。また、400nm以下の平均粒径とすることで保存安定性が向上する。
【0261】
また、自己分散性ポリマー微粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、水不溶性粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
【0262】
尚、自己分散性ポリマー微粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定することができる。
【0263】
本発明の自己分散性ポリマー微粒子は、例えば、水性インク組成物に好適に含有させることができ、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0264】
<水性液媒体>
インクジェット記録方式のインクにおいて、水性液媒体とは、水及び水溶性有機溶媒の混合物を表す。水溶性有機溶媒(以下、「水溶性有機溶剤」ともいう。)は乾燥防止剤、湿潤剤あるいは浸透促進剤の目的で使用される。
【0265】
ノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で乾燥防止剤が用いられ、乾燥防止剤や湿潤剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。また、インクジェット用インクを記録媒体(紙等)により良く浸透させる目的で浸透促進剤として、水溶性有機溶剤が好適に使用される。
【0266】
水溶性有機溶剤の例として、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);ヴルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ピアルロン酸類;尿素類等のいわゆる固体湿潤剤;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルポキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0267】
乾燥防止剤や湿潤剤の目的としては,多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0268】
浸透剤の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0269】
水溶性有機溶媒は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても構わない。水溶性有機溶媒の含有量としては、インク中、1質量%以上60質量%以下、好ましくは、5質量%以上40質量%以下で使用される。
【0270】
水の添加量は、インク中、特に制限は無いが、好ましくは、10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは、30質量%以上80質量%以下である。更に好ましくは、50質量%以上70質量%以下である。
【0271】
本発明における水性液媒体(D)は、インク中、分散安定性、吐出安定性の観点から、好ましくは 60質量%以上95質量%以下、より好ましくは70質量%以上95質量%以下である。
【0272】
また、本発明において、インク中の高沸点有機溶剤量は30%未満が好ましい。ここで、高沸点有機溶剤とは、沸点が好ましくは100℃以上(高揮発性有機溶媒<VVOC>ではない)、より好ましくは260℃以上(揮発性有機溶媒<VOC>ではない)とする。また、高沸点有機溶剤の具体例としては、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGmEE)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGmEE)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGmBE)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)、ジプロピレングリコール(DPG)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPGmME)、トリプロピレングリコール(TPG)、1,2−ヘキサンジオール、GP−250(三洋化成工業(株)製)、GP−300(三洋化成工業(株)製)、GP−400(三洋化成工業(株)製)、GP−600(三洋化成工業(株)製)、GP−1000(三洋化成工業(株)製)、50HB−55(三洋化成工業(株)製)、50HB−100(三洋化成工業(株)製)、50HB−400(三洋化成工業(株)製)、PP−200(三洋化成工業(株)製)、PP−400(三洋化成工業(株)製)、SCP−750(阪本薬品工業(株)製)、SC−E2000(阪本薬品工業(株)製)、等を挙げることができる。
【0273】
<界面活性剤>
本発明における水性インクには、界面活性剤(以下、表面張力調整剤ともいう。)を添加することが好ましい。界面活性剤としてはノニオン、カチオン、アニオン、ベタイン界面活性剤が挙げられる。表面張力の調整剤の添加量は、インクジェットで良好に打滴するために、本発明における水性インクの表面張力を20〜60mN/mに調整する量が好ましく、より好ましくは20〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mに調整できる量である。
【0274】
界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。更には、上記高分子物質(高分子分散剤)を界面活性剤としても使用することもできる。
【0275】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルポコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテ硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルポコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
【0276】
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t−オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
【0277】
カチオン性界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられ、具体的には、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド等が挙げられる。
【0278】
本発明におけるインクジェット記録用水性インクに添加する界面活性剤の量は、特に限定されるものではないが、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。
【0279】
<その他成分>
本発明に使用されるインクはその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0280】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0281】
褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0282】
防黴剤としてはデヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0283】
pH調整剤としては、調合される記録用インクに悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0284】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0285】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤などが挙げられる。
【0286】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0287】
[処理液]
処理液は非カール性溶剤を添加することが好ましく、その非カール性溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。
【0288】
なお、上記の有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、これらの有機溶剤は、処理液中に、1〜50質量%含有されることが好ましい。
【実施例】
【0289】
(試験1)
以下の表1に示すように総固形分量の異なるインク(C、M、Y)を処方した。
【0290】
【表1】

【0291】
このインクの打滴順を変えて、描画試験を行った。そして、2番目、3番目に打滴したインクのドット径の拡大度合いとインクの密着性、耐擦性を調べた。また、定着工程を実施した場合、実施しない場合の両方で試験を行い、定着ローラのクリーニング負荷について評価を実施した。その結果を表2に示す。なお、評価方法は以下にまとめて示す。
【0292】
【表2】

【0293】
表2から分かるように、総固形分量の少ないインクを先に打滴するほど、後から打滴したインクのドット径が顕著に拡大した。すなわち、総固形分量の最も少ないインクYを最初に打滴した比較例5、6でインクドットの拡大化が最も悪化し、総固形分量が二番目に多いインクCを最初に打滴した比較例4、5でもインクドットの拡大化がみられた。これに対して、総固形分量が最も多いインクMを最初に打滴した実施例1、2では、2番目のインクドットの拡大化はみられなかった。さらに、実施例1、2のうち、総固形分量が多い順に打滴を行った実施例1では、3番目のインクドットの拡大化も防止することができた。また、実施例1、2は密着性、定着ローラのクリーニング負荷の面でも改善がみられ、特に実施例1では、全ての面で良好であった。
【0294】
(試験2)
顔料とポリマー微粒子の比の影響について調べた。すなわち、総固形分量が略同じで、顔料の量と自己分散性ポリマー微粒子の量が異なるインク4〜9(表1参照)を用いて描画試験を行った。そして、2番目、3番目に打滴したインクのドット径の拡大度合いとインクの密着性、耐擦性を調べた。また、定着工程を実施した場合、実施しない場合の両方で試験を行い、定着ローラのクリーニング負荷について評価を実施した。その結果を表3に示す。なお、インク4〜9は、分散性、凝集性確保の観点から、分散剤ポリマーの量を顔料の約50%に調節した。
【0295】
【表3】

【0296】
表3から分かるように、総固形分量が多いインクの順で打滴するのであれば、顔料やポリマー微粒子の量によらず、良好な結果が得られた。
【0297】
(試験3)
顔料とポリマー微粒子の比について、単色ベタ描画した際の影響について調べた。すなわち、総固形分量が略同じで、顔料の量と自己分散性ポリマー微粒子の量が異なるインク1、4〜9(表1参照)を用いて描画試験を行った。そして、インクの密着性、耐擦性、ローラのクリーニング負荷について調べた。その結果を表4に示す。
【0298】
【表4】

【0299】
表4から分かるように、総ポリマー量が総固形分量の半分未満のインクで単色ベタ画像を描画した比較例14、15では耐擦性が不足するのに対して、総ポリマー量が総固形分量の半分以上のインクで単色ベタ画像を描画した実施例13、15、16、17、18、19では、十分な耐擦性が得られた。
【0300】
(試験4)
乾燥・定着温度の影響について調べた。すなわち、乾燥時の画像表面の到達温度Td、定着時の画像表面の到達温度Tf、自己分散性ポリマー微粒子の軟化点Tpの関係が、後打滴インクのドット径の縮小度合いと密着性に及ぼす影響を調べた。ポリマー軟化温度は一定で実験を実施した。結果を表5に示す。
【0301】
【表5】

【0302】
表5から分かるように、乾燥時の画像表面到達温度Tdがポリマー微粒子の軟化点Tpを上回った比較例23、24、25は、ドット径の縮み・画像褶曲が発生し、画像褶曲発生に伴い密着性・耐擦性も悪化する傾向を示した。特に、定着時の画像表面到達温度Tfが高温化するにつれ、画像褶曲はさらに悪化した。
【0303】
また、定着時の画像表面到達温度Tfがポリマー微粒子の軟化点Tpを下回った比較例20では、耐擦性やローラオフセットが悪化する傾向を示した。
【0304】
これに対してTd<Tp<Tfの関係を満たした実施例1、21、22では、全ての面で良好な結果が得られた。特にTdをTpにできるだけ近づけて乾燥を強化した実施例22では、密着性・耐擦性が良化する傾向を示した。
【0305】
(試験5)
ポリマー軟化温度Tpの影響について調べた。試験4と同様に、試験5では、ポリマー軟化温度Tpを変化させたポリマー微粒子を含有させたインクを作製し、同様の実験を実施した。その結果を表6に示す。
【0306】
【表6】

【0307】
表6から分かるように、乾燥条件(Td)と定着条件(Tf)を固定し、ポリマー軟化点Tpを変動させた場合、TdがTpを上回った比較例26、27では、ドット径の縮みや画像褶曲が発生し、それに伴って密着性、耐擦性が悪化した。また、TfがTpを下回った比較例29では、耐擦性やローラオフセットが悪化した。これに対して、Td<Tp<Tfの関係を満たした実施例28は、全ての面で良好な結果が得られた。
【0308】
また、Td<Tp<Tfの関係を満たすように、Tpに応じてTd、Tfを変化させた実施例30〜33は、実施例28と同様に、全ての面で良好な結果が得られた。特にTpが40℃以上70℃以下である実施例31、32は、耐擦性、ローラのオフセットの面で良好な結果が得られた。すなわち、軟化温度が低いと、乾燥温度を抑えなければならないため、オフセットが発生し易くなり、軟化温度が高いと皮膜性が低下し、耐擦性能が低下する傾向が得られた。
【0309】
(試験6)
定着ローラの素材の影響について調べた。すなわち、定着ローラの表層2層のうち、表層側第1層の表面離型層(PFA)の表面硬度(主にPFA層の厚みによる制御)を変えたり、第2層の材質やゴム硬度を変えて試験を行った。その結果を表7に示す。
【0310】
【表7】

【0311】
表7から分かるように、第2層が金属(SUS)である実施例33や、第2層が低硬度のゴムである実施例36、37はローラの摩耗度が悪化するという結果になった。また、表面硬度が軟らかい実施例35もローラの摩耗度が悪化するという結果になった。ローラの寿命を高めるためには、ゴム硬度、表面硬度の両方を軟らかくするのが望ましく、また同荷重でもニップ時間を長めに確保し、画像への付与熱量を増加させ、耐擦性を高めるため、ゴム硬度を低く、画像への追随性の観点から表面硬度を低くするのが望ましい結果となった。
【0312】
(試験7)
顔料とポリマー微粒子の粒径の影響について調べた。すなわち、インク中の顔料粒径とポリマー微粒子粒径を変えて試験を行った。その結果を表8に示す。
【0313】
【表8】

【0314】
表8から分かるように、一方の粒径がもう一方の粒径の2倍以上である実施例40〜42では、密着性が向上した。また、ポリマー微粒子の径が小さい程、画像の光沢が向上することがわかった。
【0315】
(試験8)
高沸点溶剤量の影響について調べた。すなわち、インク中の高沸点溶剤量を変えて試験を行い、画像のベタツキ(タック性)を調べた。その結果を表9に示す。
【0316】
【表9】

【0317】
表9から分かるように、高沸点溶剤量が30%超である実施例46、47では画像のベタツキが発生していたのに対し、高沸点溶剤量が30%以下の実施例43〜45では、ベタツキの発生を抑えることができた。
【0318】
以下に各実験での評価方法について説明する。
【0319】
<評価方法>
[ドット径変動(拡大/縮小)]
・第2のインクドット:第1のインクで形成したベタ画像上に第2のインクドットを打滴した。その第2のインクドット径の変化を、凝集剤を付与した記録媒体(王子製紙社製OKトップコート)上に第二のインクを単独で形成した場合のドット径と比較した。
・第3のインクドット:第1のインクで形成したベタ画像上に第2のインクでベタ画像を形成し、さらにそのベタ画像上に第3のインクを打滴した。打滴した第3のインクドットの径の変化を、凝集剤を付与した記録媒体上に第三のインク単独で形成したドット径と比較した。なお、打滴条件は、1200dpi*1200dpi*2.4pl→単独打滴では32-33μmとした。
◎:±3μm未満
○:±6μm未満
△:±9μm未満
×:±9μm以上
[耐擦性]
往復摩擦試験機(TYPE32)を使用し、荷重400g/ストローク40mm/速度20mm/sで、ベタ画像部を記録媒体(王子製紙社製OKトップコート)の裏面側で、5往復擦り、画像の面状の変化を評価した。
◎:面状変化なし
○:表面光沢が変化
△:面状に破綻有り
×:膜破壊によるキズ有り
[密着性]
セロテープ(登録商標)を3cm程度貼り付け、ゆっくり3秒程度かけて引き剥がし、剥離度合いを評価した。
◎:剥離なし
○:テープに色移りあるが、面状に変化なし
△:テープに色移りがあり、面状に変化有り
×:紙の地合いが露出
[ローラのクリーニング負荷]
A4紙を2000枚印字したあと、未印字状態で記録媒体を通紙し、色移り度合いを評価した。
◎:付着なし
○:わずかに色移りあるが、許容内
△:色移りがあり、許容外
×:色移りが顕著であり、問題外
[ローラの摩耗]
A4紙を2000枚印字したあとのローラ表面をレーザ顕微鏡で、磨耗状態を観察するとともに、ベタ画像へのローラに確認されるキズの影響を調べた。
◎:微細なキズは確認されるが、画像に影響なし
○:目視でキズは確認されるが、画像に影響なし
△:キズが顕著に確認され、画像にわずかにキズが転写
×:磨耗がひどく、ローラオフセットが発生
[定着時の画像褶曲]
ベタ画像部の定着後の画像表面の膜面の褶曲状の湾曲の発生状態をレーサ゛顕微鏡で観察し、評価した。
◎:視認されない
○:ほとんど視認されない
△:数箇所に褶曲が発生している
×:一部あるいは全面に褶曲が発生している
[ローラオフセット]
定着後のローラへの色材の付着度合いを官能評価した。
◎:色材付着が全くない
○:色材付着が目視で確認されない
△:色材がわずかに付着する
×:色材付着がひどく、記録媒体の白地が露出しており、許容外
[画像光沢]
ベタ画像部の60°光沢度を光沢度計(IG-331 HORIBA製)で測定した。
◎:60以上
○:50以上
△:40以上
×:40未満
[画像のベタツキ(タック性)
ベタ画像部のベタツキを指で触って評価した。
○:べたつかない
△:少しべたつき
×:べたつく
【図面の簡単な説明】
【0320】
【図1】本実施形態のインクジェット記録装置を模式的に示す全体構成図
【図2】ヘッドの内部構造を示す要部平面透視図
【図3】ヘッドの他の構成例を示す平面図
【図4】図3中のX−X線に沿う断面図
【図5】ヘッドのノズル配置例を示す平面図
【図6】インクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図
【符号の説明】
【0321】
1…インクジェット記録装置、10…給紙部、12…処理液付与部、14…描画部、16…乾燥部、18…定着部、20…排出部、22…記録媒体、24…第1の中間搬送部、26…第2の中間搬送部、28…第3の中間搬送部、30…中間搬送体、70…描画ドラム、72C,72M,72Y,72K…インクヘッド、76…乾燥ドラム、84…定着ドラム、86…第1の定着ローラ、88…第2の定着ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に凝集剤含有の処理液を付与する処理液付与工程と、
顔料粒子(A)と顔料を被覆する分散剤ポリマー(B)と自己分散性ポリマー微粒子(C)とを含有し、ポリマー成分の総量(B+C)が総固形分量(A+B+C)に対して半分以上の量を占めるとともに、前記総固形分量が異なる複数のインクをインクジェットヘッドによって、前記処理液が付与された記録媒体に付与し、該インクを前記凝集剤によって増粘させるインク付与工程と、
前記記録媒体に付与された前記複数のインクを乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記インク付与工程は、前記複数のインクのうち、前記総固形分量が最も多いインクを最初に前記記録媒体に付与することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記インク付与工程は、前記複数のインクのうち、前記総固形分量が多いインクの順に前記記録媒体に付与することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記乾燥させたインクを加熱加圧することによって該インク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、前記インクを被膜化させる加熱加圧工程を備え、
前記乾燥工程での画像表面の到達温度をTd、前記加熱加圧工程での画像表面の到達温度をTf、前記自己分散性ポリマー微粒子の軟化点をTpとして、Td<Tp<Tfの関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記自己分散性ポリマー微粒子の軟化温度Tpが30℃以上70℃以下であることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記加熱加圧工程は、表層側に設けられ、離型性を有する素材の第1層と、該第1層の内側に設けられ、ゴム弾性体素材の第2層とから成る表面二層構成のローラによって、前記インクを加熱加圧することを特徴とする請求項3または4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記第2層のゴム弾性体はゴム硬度が50°以下であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記ローラの表面硬度が70°以下であることを特徴とする請求項5または6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記顔料粒子(A)と前記自己分散性ポリマー微粒子(C)は、一方の粒径が他方の粒径の2倍以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記自己分散性ポリマー微粒子の粒径は、前記顔料粒子の粒径よりも小さく、且つ、50nm以下であることを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記複数のインクは、色が異なるカラーインクであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記複数のインクは、同色で顔料濃度が異なるインクであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記複数のインクは、該インク中の高沸点有機溶剤量が30%未満であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記記録媒体がコート紙であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
記録媒体上に凝集剤含有の処理液を塗布する処理液付与装置と、
顔料粒子(A)と顔料を被覆する分散剤ポリマー(B)と自己分散性ポリマー微粒子(C)とを含有し、ポリマー成分の総量(B+C)が総固形分量(A+B+C)に対して半分以上の量を占めるとともに前記総固形分量が異なる複数のインクを、前記処理液が付与された記録媒体に打滴するインク付与装置と、
前記記録媒体に付与された複数のインクを乾燥させる乾燥装置と、を備え、
前記インク付与装置は、前記複数のインクのうち、前記総固形分量が最も多いインクを最初に前記記録媒体に打滴することを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−5898(P2010−5898A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167426(P2008−167426)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】