説明

インクジェット記録用インクセット

【課題】色相の異なる多次色インクを使用する場合においても、インク混合時の増粘を抑え、インクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性に優れるインクジェット記録用インクセットを提供する。
【解決手段】2種以上の着色インクを備えたインクセットであって、第一種の着色インクが、自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分として含む着色剤(A)を水不溶性ポリマー(y)で分散して得られる着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)を含有する水系インク(I)であり、第二種の着色インクが自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)を含有する水系インク(II)であり、水系インク(I)及び水系インク(II)の双方の固形分濃度が8〜25重量%である、インクジェット記録用インクセットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインクの液滴を記録部材に直接吐出、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式はフルカラー化が容易でかつ安価、記録部材として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触という数多くの利点があるため普及が著しい。中でも印字物の耐光性や耐水性の観点から顔料系インクが主流となってきており、家庭用インクジェットプリンターにおいて好適に使用されている。
近年は家庭用途からオフィス用途、商業印刷用途へもインクジェットプリンターの使用範囲が拡大し、カラー化、高速化が技術の潮流となっている。高速化を実現するための方法としては、インク液滴の容量を増やしたり、印字ヘッドの改良等により、印字回数を減らして印字速度を上げる方法が採用されている。
高速化印字の課題としては従来のように2度打ち、3度打ちができないため、印字濃度を高める必要があり、そのためにはインク中の顔料を含む固形分を高くする必要がある。しかしながら、プリンターの排液機構においては高固形分のインクが混ざり合うと増粘して目詰まりを起こす可能性がある。
【0003】
特にカラー化においては、色相の異なる2色のインクが混合され発色されるため、インク同士の混合性やインクの混合時の増粘抑制、記録紙への定着性等が重要な課題となる。そのため、カラー化、高画質化に対応して、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、紙種によらず良好な画像品質を得ることを目的として、自己分散型顔料インクの1種以上と、自己分散型顔料インクにおける顔料の濃度の1/2以下である樹脂含有型顔料淡インクの1種以上とを具備してなるインクジェット記録用インクセットが開示されている。
特許文献2には、定着性、吐出安定性等の改善を目的として、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク、及びシアンインクから選択される2種以上のインクを含んでなるカラーインクセットであって、各々のインクが、自己分散型顔料、顔料とそれを分散させる分散剤とからなる顔料分散液、浸透剤、水、及び水溶性有機溶媒を含んでなるインクである、インクセットが開示されている。
特許文献3には、廃液系の詰まりの防止を目的として、2種以上の異なる色の顔料インクセットにおいて、インクセットを構成するインクの1:1の混合液が特定の粘度を有するインクセットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−213181号公報
【特許文献2】特開2001−254039号公報
【特許文献3】特開2006−273894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3のインクセットでは、インクカートリッジ交換やクリーニング等のシステムメンテナンスによって、プリンター内部又は廃液部の廃棄インクから水分や揮発性溶剤類が経時に蒸発し、顔料インクの粘度上昇(増粘)により分散安定性が崩れ、顔料の凝集が起こりやすいという問題があり、その解決が不十分であった。特に、2種以上の異なる有彩色の顔料インクセットの場合、廃液系(廃棄インクが通るヘッドキャップ、ポンプ、経路のチューブ等)ではそれらのインクが混色することにより、分散安定性が変化し、単色の場合よりも水分や揮発性溶剤の蒸発に伴う増粘や凝集が激しくなり、詰まりによるメンテナンス機能の不具合が発生するという問題があった。また、前記インクの粘度上昇を抑制するために、ポリマー等の分散剤を使用する必要のない、自己分散型の顔料を使用することが有益と考えられるが、顔料がポリマー等の分散剤により保護されてはいないため、専用紙への定着性や、普通紙への印字後の耐水性に問題があった。
本発明は、色相の異なる多次色インクを使用する場合においても、インクの混合時の増粘抑制、専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性に優れるインクジェット記録用インクセットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の顔料を含み、固形分濃度を高めた2種の水系インクを組み合わせたインクセットが前記問題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、2種以上の着色インクを備えたインクセットであって、第一種の着色インクが、自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分として含む着色剤(A)を水不溶性ポリマー(y)で分散して得られる着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)を含有する水系インク(I)であり、第二種の着色インクが自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)を含有する水系インク(II)であり、水系インク(I)及び水系インク(II)の双方の固形分濃度が8〜25重量%である、インクジェット記録用インクセットを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、色相の異なる多次色インクを使用する場合においても、インクの混合時の増粘抑制、専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性に優れるインクジェット記録用インクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のインクジェット記録用インクセットは、2種以上の着色インクを備えたインクセットであって、第一種の着色インクが、自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分として含む着色剤(A)を水不溶性ポリマー(y)で分散して得られる着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)(以下、単に「ポリマー粒子(A)」ともいう)を含有する水系インク(I)であり、第二種の着色インクが自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)を含有する水系インク(II)であり、水系インク(I)及び水系インク(II)の双方の固形分濃度が8〜25重量%であることを特徴とする。ここで「主成分」とは該組成中90重量%以上を占める成分のことをいう。
本発明のインクセットにおいては、水系インク(I)において、自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分として含む着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)を用いることにより、着色剤(A)とポリマー同士の濡れ性や吸着性を制御しやすくし、着色剤(A)の被覆率を高めて安定に分散させ、水系インク(II)として、自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)を含有する水系インクを用いることにより、インクの混合時の増粘を抑制し、専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性に優れるインクジェット記録用インクセットを提供することができる。これは、水系インク(I)に用いられる着色剤(A)表面上に存在する水不溶性ポリマー(y)と、水系インク(II)に用いられる自己分散型有彩色顔料の表面との相互作用により、両インクの混合性が高まるためと考えられる。以下、本発明に用いられる各成分等について説明する。
【0009】
<顔料>
本発明に用いられる自己分散性を有しない有彩色顔料及び自己分散型有彩色顔料は、有機顔料及び無機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらに体質顔料を併用することもできる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンからなる群から選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。また、キナクリドン固溶体顔料等の固溶体顔料を用いることもできる。
無機顔料としては、例えば、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム及びタルク等が挙げられる。
【0010】
これらの顔料の中から、水系インク(I)においては、自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分とし、水系インク(II)においては、自己分散型有彩色顔料を主成分とする。
なお、本発明においては、自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分として含む顔料混合物を「着色剤(A)」とする。すなわち、水系インク(I)においては、着色剤(A)を使用するが、着色剤(A)中の自己分散性を有しない有彩色顔料の割合は、他のインクとの混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは100重量%である。
同様に、自己分散型有彩色顔料を主成分として含む顔料混合物を「着色剤(B)」とする。すなわち、水系インク(II)においては、着色剤(B)を使用するが、着色剤(B)中の自己分散型有彩色顔料の割合は、他のインクとの混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは100重量%である。
【0011】
(自己分散性を有しない有彩色顔料)
本発明において自己分散性を有しない有彩色顔料とは、水系媒体中で界面活性剤や樹脂を用いることなく、該顔料のみを攪拌などの操作により混合した際に、沈降又は浮遊するなど安定に分散することができない顔料を意味する。前記顔料の中では、例えば、イエローインクにおいては、他のインクとの混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、C.I.ピグメント・イエロー74等のアゾ顔料が好ましい。
【0012】
〔C.I.ピグメント・イエロー74〕
C.I.ピグメント・イエロー74(以下、「PY74(A)」ともいう)としては、アセト酢酸アリリド系モノアゾ顔料が挙げられる。その化学名は、2−[(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)アゾ]−N−(2−メトキシフェニル)−3−オキソブタンアミドであり、下記式(1)で表される構造を有する化合物である。
PY74(A)は、DIC株式会社、大日精化工業株式会社、山陽色素株式会社、東洋インキ製造株式会社等のメーカーから入手可能である。
【0013】
【化1】

【0014】
〔その他のアゾ顔料(A)〕
本発明においては、PY74(A)を微細化し、インク中での着色剤(A)の分散安定性を向上させ、インク混合時の増粘の抑制と、インクの専用紙への定着性及び普通紙印刷における耐水性を両立する観点から、下記式(2)で表されるアゾ顔料(A)(以下、単に「アゾ顔料(A)」ともいう)をPY74(A)と併用することができる。このアゾ顔料(A)はPY74(A)の製造時にその条件を適宜変更することで、PY74(A)とともに製造される、自己分散性を有しない有彩色顔料としてのアゾ顔料である。
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R10及びR20は、それぞれ独立に、メトキシ基及びニトロ基から選ばれる置換基を有していてもよいアリール基を示し、R10及びR20の少なくとも一方は、スルホン酸基とスルホン酸アミド基とを有する。)
アゾ顔料(A)は、インク中でのPY74(A)の分散性を向上させ、インク混合時の増粘の抑制と、インクの専用紙への定着性及び普通紙印刷における耐水性を両立する観点から、(イ)R10が、スルホン酸基とスルホンアミド基とを有するフェニル基であり、R20が、フェニル基であるか、又はメトキシ基及びニトロ基から選ばれる一種以上の置換基を有するフェニル基である化合物、(ロ)R10が、フェニル基であるか、又はメトキシ基及びニトロ基から選ばれる一種以上の置換基を有するフェニル基であり、R20が、スルホン酸基とスルホンアミド基とを有するフェニル基である化合物が挙げられる。
(イ)の場合、R20はオルト位にメトキシ基を有するフェニル基が好ましい。
(ロ)の場合、下記式(3)で表わされるアゾ顔料が好ましい。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基又はアミノアルキル基を示し、R3は、単結合、メチレン基又はエチレン基を示す。)
前記式(3)で表わされるアゾ顔料(A)は、スルホンアミド基(−SO2NR12)とスルホン酸基(−R3−SO3H)とが置換した構造を有する。
ここで、R1及びR2は、インク中での着色剤(A)の分散安定性を向上させ、インク混合時の増粘の抑制と、インクの専用紙への定着性及び普通紙印刷における耐水性を両立する観点から、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基又はアミノアルキル基であるが、当該置換基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、ヒドロキシ基が挙げられる。
1及びR2であるアルキル基としては、それぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
1及びR2であるアミノアルキル基としては、−(CH2kNR45で表わされるものが好ましい。ここで、kは1〜4の整数、R4及びR5は独立して水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す。また、R4及びR5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0019】
すなわち、前記スルホンアミド基(−SO2NR12)の中では、−NR12で表されるアミン残基として、インク中での着色剤(A)の分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの吸光特性の変化を抑制する観点から、前記の−NH(CH2kNR45が好ましい。
前記アミン残基−NH(CH2kNR45におけるアミノアルキル基−(CH2kNR45の具体例としては、N-アミノエチル基(エチレンジアミン由来)、N-アミノプロピル基(1,3−プロパンジアミン由来)、N−メチル−アミノエチル基(N−メチルエチレンジアミン由来)、N−メチル−アミノプロピル基(N−メチルプロパンジアミン由来)、N,N−ジメチルアミノエチル基(N,N−ジメチルエチレンジアミン由来)、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、N−(2−ジメチルアミノエチル)−3−アミノプロピル基、N−アルキル(炭素数1〜6)−3−アミノプロピル基、N,N−ジアルキル(炭素数1〜6)アミノプロピル基(N,N−ジアルキル(炭素数1〜6)−1,3−プロパンジアミン由来)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピル基等が挙げられる。
これらの中でも、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの吸光特性の変化を抑制する観点から、N−アルキル(炭素数1〜3)−3−アミノプロピル基、及びN,N−ジアルキル(炭素数1〜3)−3−アミノプロピル基が好ましい。
スルホン酸基(−R3−SO3H)としては、スルホン酸基(−SO3H)、メチレンスルホン酸基(−CH2−SO3H)、エチレンスルホン酸基(−CH2CH2−SO3H)が挙げられるが、スルホン酸基(−SO3H)がより好ましい。R3が単結合の場合、ベンゼン環に直接スルホン酸基(−SO3H)が結合することを意味する。
【0020】
本発明において、PY74(A)とアゾ顔料(A)との顔料混合物を着色剤(A)として用いる場合、着色剤(A)中の硫黄原子の量(硫黄量)は、インク中での着色剤(A)の分散安定性を向上させ、インク混合時の増粘の抑制と、インクの専用紙への定着性及び普通紙印刷における耐水性を両立する観点から、好ましくは0.25〜0.7重量%、より好ましくは0.25〜0.5重量%、更に好ましくは0.3〜0.5重量%であり、着色剤(A)中のアゾ顔料(A)量は、インク中での着色剤(A)の分散安定性を向上させ、インク混合時の増粘の抑制と、インクの専用紙への定着性及び普通紙印刷における耐水性を両立する観点から、好ましくは0.5〜7mol%、より好ましくは1〜5mol%である。着色剤(A)中の硫黄量の測定は、燃焼イオンクロマトグラフ法により行うことができる。
着色剤(A)の平均一次粒子径は、他のインクとの混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは10〜50nm、より好ましくは15〜40nm、更に好ましくは20〜35nmである。着色剤(A)の平均一次粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)で得られた画像から、粒子の長径を測定する方法により行うことができる。
【0021】
(自己分散型有彩色顔料)
本発明において自己分散型有彩色顔料とは、酸性基量が40μmol/g以上の顔料と定義される。また、前記自己分散型有彩色顔料は、アニオン性の親水性官能基の1種以上を直接又は他の原子団を介して顔料の表面に有することで、界面活性剤や樹脂を用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。ここで、「分散可能」とは、分散剤なしに水中(25℃、固形分10重量%)で90日間安定(顔料の粒子径変化幅が+/−30%以内)であることを意味する。また、他の原子団としては、炭素原子数1〜24、好ましくは炭素原子数1〜12のアルカンジイル基、置換基を有してもよいフェニレン基又は置換基を有してもよいナフチレン基が挙げられる。
【0022】
アニオン性親水性官能基としては酸性基が挙げられ、酸性基としては、顔料粒子を水系インク中に安定に分散しうる程度に十分に親水性が高いものであれば、任意のものを用いることができる。その具体例としては、カルボン酸基(−COOM1)、スルホン酸基(−SO31)、ホスホン酸基(−PO312)、−PO3HM1、−SO21、−SO2NH2、−SO2NHCOR11、及びそれらの解離したイオン形(−COO-、−SO3-、−PO32-、−PO3-)等から選ばれる1種又は2種以上の酸性基が挙げられる。
前記化学式中、M1は、同一でも異なってもよく、水素原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;アルカリ土類金属;アンモニウム;モノメチルアンモニウム基、ジメチルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基;モノエチルアンモニウム基、ジエチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基;モノメタノールアンモニウム基、ジメタノールアンモニウム基、トリメタノールアンモニウム基等の有機アンモニウムである。
11は、炭素数1〜12のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基である。これらの中では、インク中における顔料粒子の分散安定性向上により、インク混合時の増粘の抑制と、インクの専用紙への定着性及び普通紙印刷における耐水性を両立する観点から、カルボキシ基(−COOM1)、スルホン酸基(−SO31)が好ましい。
顔料の酸性基量の測定は、実施例記載の方法により行うことができる。
【0023】
自己分散型有彩色顔料は、例えば前記のアニオン性親水性官能基の必要量を、自己分散型有彩色顔料でない顔料に化学結合させればよい。そのような方法としては、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、米国特許第5571311号明細書、同第5630868号明細書、同第5707432号明細書、J.E. Johnson, Imaging Science and Technology's 50th Annual Coference (1997)、 Yuan Yu, Imaging Science and Technology's 53th Annual Conference (2000)、ポリファイル,1248(1996)等に記載されている方法が挙げられる。
より具体的には、硝酸、硫酸、過硫酸、ペルオキソ二硫酸、次亜塩素酸、クロム酸のような酸化性を有する酸類及びそれらの塩等あるいは過酸化水素、窒素酸化物、オゾン等の酸化剤によってカルボキシ基を導入する方法、過硫酸化合物の熱分解によってスルホ基を導入する方法、カルボキシ基、スルホ基等を有するジアゾニウム塩化合物によって前記の酸性基を導入する方法等があるが、これらの中では、水系インクの印字濃度を向上させる観点から前記酸化性を有する酸類による液相酸化の方法が好ましい。
【0024】
本発明の水系インク(II)においては、自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)を用いるが、インク中での着色剤(B)の分散安定性を向上させる観点、及び水系インク(I)と水系インク(II)との混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、さらにインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を向上させる観点から、親水性官能基を有する自己分散型有彩色顔料が好ましく、表面にフェニル基を介して親水性官能基を有する自己分散型有彩色顔料がより好ましく、自己分散型有彩色顔料の中では、シアン顔料又はマゼンタ顔料が好ましい。
前記自己分散型有彩色顔料は、単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。
【0025】
<ポリマー>
本発明で用いられる水系インク(I)には、ポリマーとして、水不溶性ポリマー(y)が用いられるが、本発明の効果を阻害しない限り、水溶性ポリマー(x)を併用することができる。
ここで、「水不溶性ポリマー(y)」及び「水溶性ポリマー(x)」とは、ポリマーが塩生成基を有する場合は、その種類に応じて、該ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和したもの10gに、25℃の純水100gを加え、十分撹拌したときに、全て溶解すれば、該ポリマーは「水溶性ポリマー(x)」である。なお、市販のポリマーを用いる場合、又は合成時に酢酸又は水酸化ナトリウム以外の中和剤で中和されたポリマーを用いる場合において、100%の中和度に満たない場合、酢酸又は水酸化ナトリウムを加え、100%中和として前記溶解性を判断する。
前記の溶解性試験を行い、溶解しない部分があるポリマーの場合、純水がポリマー内に浸透し難いため、次のような手順で、水溶性ポリマー(x)か水不溶性ポリマー(y)かを判別する。すなわち、予めポリマーをメチルエチルケトン等の有機溶媒に溶解しておき、該ポリマーの塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで中和し、それを純水中に滴下し、有機溶媒を除去して濃度を10重量%にした分散物を、遠心分離、膜濾過等によって分離し、水に溶解しているポリマーを「水溶性ポリマー(x)」、残りのポリマーを「水不溶性ポリマー(y)」と判別する。
【0026】
(水不溶性ポリマー(y))
本発明には、着色剤(A)を微粒化し、インク中での着色剤(A)の分散安定性を向上させ、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、水不溶性ポリマー(y)が用いられる。
水不溶性ポリマー(y)としては、ビニルモノマーの付加重合により得られるビニルポリマーが好ましく、塩生成基含有モノマー(a)(以下「(a)成分」ともいう)由来の構成単位と、疎水性モノマー(b)(以下「(b)成分」ともいう)及び/又はマクロマー(c)(以下「(c)成分」ともいう)由来の構成単位とを含むビニルポリマーがより好ましく、(a)〜(c)成分由来の構成単位を全て含むものが更に好ましい。かかる水不溶性ポリマー(y)は、(a)成分と、(b)成分及び/又は(c)成分を含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させて得ることができる。
【0027】
〔塩生成基含有モノマー(a)〕
塩生成基含有モノマー(a)は、得られる着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)のインク中での分散性を高め、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から用いられる。
塩生成基含有モノマー(a)としては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。
塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられるが、中でもカルボキシ基が好ましい。
【0028】
カチオン性モノマーの代表例としては、アミン含有モノマー、アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記アニオン性モノマーの中では、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)のインク中での分散性を高め、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0029】
〔疎水性モノマー(b)〕
疎水性モノマー(b)は、着色剤(A)に対するポリマーの親和性を高める観点から用いられる。疎水性モノマー(b)としては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられ、着色剤(A)との親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、芳香族基含有モノマーが好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
芳香族基含有モノマーとしては、スチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン及び2−メチルスチレンが好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
前記(b)成分の中では、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、水不溶性ポリマー(y)との親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、水不溶性ポリマー(y)と後述する水溶性ポリマー(x)における(b)成分は同一であることが好ましい。
【0030】
〔マクロマー(c)〕
マクロマー(c)は、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500〜100,000の化合物であり、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から用いられる。
片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。その数平均分子量は、500〜100,000であり、1,000〜10,000が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロマー(c)としては、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、スチレン系マクロマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー、及びシリコーン系マクロマーが好ましい。
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。共重合体の場合、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、スチレン系モノマーの含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。共重合される他のモノマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレート又はアクリロニトリル等が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン等が挙げられる。
スチレン系マクロマーの具体例としては、東亜合成株式会社製のAS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)等が挙げられる。
【0031】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。共重合体の場合、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートの含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい炭素数7〜12のアリールアルキル基又はアリール基を有する(メタ)アクリレートであり、例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。共重合される他のモノマーとしては、スチレン系モノマー及びアクリロニトリル等が挙げられる。
マクロマーはシリコーン系マクロマーであってもよく、シリコーン系マクロマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
水不溶性ポリマー(y)におけるマクロマー(c)としては、後述する水溶性ポリマー(x)との親和性を高める観点から、水溶性ポリマー(x)における疎水性モノマー(b)と同一のモノマーの重合体を用いることが好ましく、スチレン系マクロマーであることがより好ましい。
【0032】
〔ノニオン性モノマー(d)〕
モノマー混合物には、更に、ノニオン性モノマー(d)(以下「(d)成分」ともいう)が含有されていてもよい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ〔エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15)〕(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ〔エチレングリコール・プロピレングリコール共重合(n=1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)〕(メタ)アクリレート、フェノキシ〔ポリエチレングリコール(n=1〜15)・ポリプロピレングリコール(n=1〜15)〕メタクリレート等が挙げられる。
【0033】
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステルM−40G、同90G、同230G、日油株式会社製のブレンマーPE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
前記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
水不溶性ポリマー(y)中の(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は以下のとおりである。
(a)成分に由来する構成単位の含有量は、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)のインク中での分散性を向上させ、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは4〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは10〜30重量%、更により好ましくは10〜25重量%である。
(b)成分に由来する構成単位の含有量は、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高める観点から、好ましくは5〜98重量%、より好ましくは10〜60重量%である。
(c)成分に由来する構成単位の含有量は、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
(d)成分に由来する構成単位の含有量は、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)のインク中での分散性を向上させ、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは17〜50重量%である。
【0035】
また、(a)成分がアニオン性モノマーである場合の酸価は、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)のインク中での分散安定性を向上させ、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、50〜200mgKOH/gが好ましく、50〜160mgKOH/gが更に好ましい。
酸価は、ポリマー1g中に含まれる酸成分のモル数を求め、これを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数として算出することができる。例えばポリマー1g中にA重量%の分子量Mの酸成分が含まれていれば、
酸価(mgKOH/g)=1×A/M×1000/100×56.11 と計算される。
また、酸価は、適当な溶媒(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
水不溶性ポリマー(y)の重量平均分子量は、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)のインク中での分散安定性を高める観点、及びインク混合時の増粘を抑制しインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、5,000〜500,000が好ましく、10,000〜400,000がより好ましく、10,000〜300,000が更に好ましく、20,000〜300,000が更により好ましい。なお、該ポリマーの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
(水溶性ポリマー(x))
本発明には、着色剤(A)を微粒化し、インク中での着色剤(A)の分散性を向上して、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、水不溶性ポリマー(y)と共に水溶性ポリマー(x)を用いることができる。
水溶性ポリマー(x)としては、ビニルモノマーの付加重合により得られるビニルポリマーが好ましく、塩生成基含有モノマー(a)(前記の(a)成分と同じ)と疎水性モノマー(b)(前記の(b)成分と同じ)を含むモノマー混合物(前記の「モノマー混合物」と同じ)を共重合させてなるビニルポリマーがより好ましい。
【0037】
〔塩生成基含有モノマー(a)〕
水溶性ポリマー(x)における塩生成基含有モノマー(a)の具体例、好適例は前記と同様である。それらの中では、着色剤(A)を微粒化し、インク中での着色剤(A)の分散性を向上させ、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましく、ポリマーの水への溶解性を高める観点から、アクリル酸が更に好ましい。
【0038】
〔疎水性モノマー(b)〕
水溶性ポリマー(x)における疎水性モノマー(b)の具体例、好適例は前記と同様である。それらの中では、ポリマーの着色剤(A)への親和性を高め、インク中での分散安定性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、前記のとおり、水不溶性ポリマー(y)との親和性を高める観点から、水不溶性ポリマー(y)と水溶性ポリマー(x)における(b)成分は同一であることが好ましい。
【0039】
水溶性ポリマー(x)は、(a)成分に由来する構成単位を、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜60重量%、更に好ましくは15〜40重量%含有し、(b)成分に由来する構成単位を、好ましくは15〜95重量%、より好ましくは25〜90重量%、更に好ましくは50〜80重量%含有し、(b)成分に由来する構成単位としては、スチレン系モノマーに由来する構成単位が好ましく、スチレン系モノマーに由来する構成単位を、水溶性ポリマー(x)の全モノマー中、好ましくは50〜90重量%、更に好ましくは50〜80重量%含有する。
水溶性ポリマー(x)は、着色剤(A)を微粒化し、インク中での分散性を向上させインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、その重量平均分子量が、好ましくは1,000〜300,000、より好ましくは10,000〜200,000である。なお、該ポリマーの重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
また、(a)成分がアニオン性モノマーである場合の酸価は、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)のインク中での分散安定性を向上させ、インク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは150〜300mgKOH/g、より好ましくは170〜250mgKOH/gである。なお、酸価は前記の方法で求めることができる。
水溶性ポリマー(x)の市販品としては、例えば、BASFジャパン株式会社製のジョンクリル(登録商標)57J、同60J、同61J、同63J、同70J、同PD−96J、同501J等が挙げられる。これらの市販品ポリマーは中和されたものであり、必要に応じて別途更に中和剤を加えてもよい。
【0040】
(ポリマーの製造)
本発明で用いられる水不溶性ポリマー(y)及び水溶性ポリマー(x)(以下、両者を総称して、単に「ポリマー」ともいう)は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒としては極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜3の脂肪族アルコール;炭素数3〜8のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、アゾ化合物や有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1molあたり、好ましくは0.001〜5mol、より好ましくは0.01〜2molである。
重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概にはいえないが、通常、重合温度は好ましくは30〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、重合時間は好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
重合反応の終了後、公知の方法により生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱法、膜分離法、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0041】
本発明で用いられるポリマーは、塩生成基含有モノマー(a)由来の塩生成基を中和剤により中和して用いることが好ましい。塩生成基がアニオン性基である場合、中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。
該ポリマーの塩生成基の中和度は、ポリマー粒子(A)のインク中での分散安定性を高めインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を向上させる観点から、10〜300%であることが好ましく、20〜200%がより好ましく、30〜150%が更に好ましい。
ここで、塩生成基がアニオン性基の場合の中和度は、下記式によって求めることができる。
〔[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(mgKOH/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]〕×100
酸価は前記の方法で求めることができる。
【0042】
<着色剤(A)を含有するポリマー粒子>
本発明で用いられる水系インク(I)においては、着色剤(A)がポリマーで分散されてなるが、着色剤(A)がポリマーに含有された「着色剤(A)を含有するポリマー粒子」を含む形態であることが好ましい。
着色剤(A)を含有するポリマー粒子(ポリマー粒子(A))は、着色剤(A)を水不溶性ポリマー(y)で分散処理して得ることができる。
水不溶性ポリマー(y)に対する着色剤(A)の重量比〔着色剤(A)/水不溶性ポリマー(y)〕は、ポリマー粒子(A)のインク中での分散安定性を高める観点、及び水系インク(I)と水系インク(II)との混合性を向上させ増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、2〜6が更に好ましい。
【0043】
また、必要に応じて、水溶性ポリマー(x)を使用することもできる。
水溶性ポリマー(x)を用いる場合における、水溶性ポリマー(x)に対する着色剤(A)の重量比〔着色剤(A)/水溶性ポリマー(x)〕は、着色剤(A)を微粒化し、インク中での分散性を向上させる観点、及び水系インク(I)と水系インク(II)との混合性を向上させ増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、15〜25が好ましく、17〜25がより好ましく、17〜23が更に好ましい。
水溶性ポリマー(x)を用いる場合における、分散に用いる水不溶性ポリマー(y)と水溶性ポリマー(x)の合計量[(y)+(x)]に対する着色剤(A)の重量比〔着色剤(A)/[水不溶性ポリマー(y)+水溶性ポリマー(x)]〕は、ポリマー粒子(A)のインク中での分散安定性を高める観点、及び水系インク(I)と水系インク(II)との混合性を向上させ増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、50/50〜95/5が好ましく、60/40〜95/5がより好ましく、70/30〜95/5が更に好ましい。
ポリマー粒子(A)は、後述する着色剤(A)を含有するポリマー粒子の水分散体の製造法に記載した工程(i)を有する方法によって、水分散体として製造することが効率的で好ましい。
また、ポリマー粒子(A)は、水系インク(I)において、着色剤(A)の分散安定性を向上させる観点、及び水系インク(I)と水系インク(II)との混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を向上させる観点から、水不溶性ポリマー(y)、又は水溶性ポリマー(x)及び水不溶性ポリマー(y)が架橋処理されてなる架橋ポリマーを含むものであってもよい。
【0044】
(着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)の水分散体の製造法)
本発明のポリマー粒子(A)の水分散体は、下記工程(i)を有する方法によれば、水系インク(I)に用いられる水分散体を効率的に製造することができる。
工程(i)
工程(i)は、着色剤(A)を水不溶性ポリマー(y)及び水で分散し、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)を含む分散体を得る工程である。工程(i)では、まず、水不溶性ポリマー(y)、着色剤(A)、水、及び必要に応じて有機溶媒、中和剤、界面活性剤等を混合し、該混合物を得、該混合物を分散機にて分散する方法が好ましい。
なお、水溶性ポリマー(x)を併用する場合は、工程(i)の前に、着色剤(A)を水溶性ポリマー(x)及び水で分散して水分散体を得た後、得られた分散体に、水不溶性ポリマー(y)等を添加して、更に分散し、着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)を含む分散体を得ることが好ましい。
前記混合物中、着色剤(A)は、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましく、有機溶媒は、10〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、水溶性ポリマー(x)は、2〜40重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、水は、10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましい。
水不溶性ポリマー(y)と着色剤(A)との好ましい重量比は前述のとおりである。
【0045】
中和剤を用いて中和する場合、最終的に得られる水分散体のpHが7〜11であるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、水不溶性ポリマー(y)を予め中和しておいてもよい。
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒及びジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。水100gに対する溶解量が20℃において、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上であり、より具体的には、好ましくは5〜80g、より好ましくは10〜50gのものである。特に好適な有機溶媒は、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンである。
【0046】
工程(i)における混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけでポリマー粒子(A)の平均粒子径を所望の粒子径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、ポリマー粒子(A)の平均粒子径を所望の粒子径とするよう制御することが好ましい。工程(i)の分散における温度は、5〜50℃が好ましく、5〜35℃がより好ましく、分散時間は1〜30時間が好ましく、1〜25時間がより好ましい。混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置、具体例としては、ウルトラディスパー、デスパミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)、マイルダー(株式会社荏原製作所製、太平洋機工株式会社製、商品名)、TKホモミクサー、TKパイプラインミクサー、TKホモジェッター、TKホモミックラインフロー、フィルミックス(以上、プライミクス株式会社製、商品名)等の高速撹拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ製、商品名)に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製、商品名)、ナノマイザー(吉田機械興業株式会社製、商品名)、アルティマイザー、スターバースト(スギノマシン株式会社製、商品名)等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製、商品名)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製、商品名)、ダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製、商品名)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、ポリマー粒子(A)のインク中での分散安定性を向上させる観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
また、ポリマー粒子(A)を小粒子径化する観点及びインク中で分散安定化する観点から、高圧ホモジナイザーとメディア式分散機を併用することも好ましい方法である。
【0047】
溶媒除去工程
前記顔料を含有するポリマー粒子(A)の水分散体の製造方法においては、任意の工程として、工程(i)の後に、工程(i)で得られたポリマー粒子(A)を含む分散体から、公知の方法で有機溶媒を留去して水系にすることで、ポリマー粒子(A)の水分散体を得ることができる。
得られたポリマー粒子(A)の水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましい。最終的に得られたポリマー粒子(A)の水分散体中の残留有機溶媒の量は0.1重量%以下が好ましく、0.01重量%以下であることがより好ましい。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られたポリマー粒子(A)の水分散体は、該ポリマーの固体分が水を主媒体とする中に分散しているものである。ここで、ポリマー粒子(A)の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料とポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、該ポリマーに顔料が内包された粒子形態、該ポリマー中に顔料が均一に分散された粒子形態、該ポリマー粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれる。
前述のように、ポリマー粒子(A)は、水不溶性ポリマー(y)、又は水溶性ポリマー(x)及び水不溶性ポリマー(y)が架橋処理されてなる架橋ポリマーを含むものであってもよい。その場合、工程(i)で得られた分散体、又は該分散体から有機溶媒を除去して得られた水分散体に、架橋剤を添加して、水不溶性ポリマー(y)及び必要に応じて添加した水溶性ポリマー(x)を架橋した架橋ポリマー粒子を含有する水分散体を得ることができる。
架橋剤の好適例としては、(a)分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物、(b)分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物、(c)分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物等が挙げられる。架橋剤の使用量や架橋処理条件は、使用する架橋剤に応じて適宜設定できる。
本発明における水分散体中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
着色剤(A)の含有量は、インクにした時の印字濃度を高める観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは1〜25重量%、より好ましくは2〜20重量%、更に好ましくは4〜15重量%、更により好ましくは4〜12重量である。水の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
【0048】
<インクジェット記録用水系インク(I)>
前記の製造方法によって得られたポリマー粒子(A)の水分散体は、水を主媒体とする水系インクとして用いられる。
水系インク(I)は、前記の水分散体を含有するが、ここで、「水系」とは、水系インクに含まれる媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味するものであり、媒体が水のみの場合もあり、水と一種以上の有機溶媒との混合溶媒の場合も含まれる。この水系インクには、水系インクに通常用いられる湿潤剤、浸透剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防黴剤、防錆剤等を添加することができる。
本発明で用いられる水系インク(I)中の各成分の含有量は、下記のとおりである。
着色剤(A)の含有量は、着色剤(A)を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を高めインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点、及びインクの印字濃度を高める観点から、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは8〜18重量%、更に好ましくは8〜15重量%、更により好ましくは8〜12重量%である。固形分濃度は、着色剤(A)を含有するポリマー粒子のインク中での分散安定性を高めインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点、及びインクの印字濃度を高める観点から、好ましくは8〜25重量%、より好ましくは9〜19重量%、更に好ましくは9〜16重量%、更により好ましくは9〜15重量%である。水の含有量は、好ましくは20〜90重量%,より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
【0049】
また、水系インク(I)としての平均粒子径は、インクの吐出安定性向上の観点、及びインク混合時の増粘を抑制する観点、更に、インクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは30〜300nm、より好ましくは50〜200nmである。平均粒子径の測定は、以下の方法により行うことができる。
[水系インクの平均粒子径の測定]
大塚電子株式会社製レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(キュムラント解析)を用い、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回の条件で行う。分散溶媒の屈折率には水の屈折率(1.333)を使用する。測定濃度は、通常5×10-3重量%程度で行う。
【0050】
<インクジェット記録用水系インク(II)>
本発明で用いられる水系インク(II)は、用いる顔料が自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)であるという点を除き、水系インク(I)と同様である。ただし、顔料が自己分散型有彩色顔料であるため、分散剤としてのポリマーや界面活性剤を用いる必要はなく、顔料がポリマーで被覆される必要もない。本発明においては、水系インク(I)との混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、インクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を得る観点から、水系インク(II)は分散剤としてのポリマーや界面活性剤を用いないことが好ましい。
また、印刷時のインクの耐ブリード性及び記録紙への定着性を向上させる観点から、インクジェット記録用水系インク(II)には樹脂エマルジョンを含有することが好ましい。樹脂エマルジョンとしては公知のものが使用できる。
【0051】
(樹脂エマルジョン)
樹脂エマルジョンは、インクの乾燥に伴い、該樹脂エマルジョン中の樹脂粒子(以下、単に「樹脂粒子」ともいう)同士及び樹脂粒子と着色成分とが互いに融着して着色剤を記録媒体に固着させるため、記録物の画像部分の定着性を向上させる作用を持つ。
これらの樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されてもよく、またコポリマーとして使用されてもよい。
本発明においては樹脂粒子として単粒子構造のものを利用することができる。一方、本発明においてはコア部とそれを囲むシェル部とからなるコア・シェル構造を有する樹脂粒子を利用することも可能である。「コア・シェル構造」とは、「組成の異なる2種以上のポリマーが粒子中に相分離して存在する形態」を意味する。従って、シェル部がコア部を完全に被覆している形態のみならず、コア部の一部を被覆しているものであってもよい。また、公知の乳化重合によって得ることができる。すなわち、不飽和ビニルモノマーを重合触媒および乳化剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
不飽和ビニルモノマーとしては、一般的に乳化重合で使用されるアクリル酸エステルモノマー類、メタクリル酸エステルモノマー類、芳香族ビニルモノマー類、ビニルエステルモノマー類、ビニルシアン化合物モノマー類、ハロゲン化モノマー類、オレフィンモノマー類、ジエンモノマー類等が挙げられる。
乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、分子量調整剤は常法に準じて使用することができる。
【0052】
インクの吐出安定性の観点、及びインク混合時の増粘を抑制する観点、更に、インクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、本発明に好ましい樹脂粒子の粒子径は20〜400nmの範囲であり、より好ましくは50〜200nmの範囲である。
また、これら樹脂エマルジョンの添加量は定着性等を考慮して適宜決定してよいが、各インク中に固形分で1重量%以上を含むことが好ましい。
水系インク(II)中の樹脂エマルジョン中の樹脂粒子と着色剤(B)との重量比(樹脂粒子/着色剤(B))は、印刷時のインクの耐ブリード性及び記録紙への定着性を向上させる観点から、1/10〜1/1が好ましく、1/7〜1/2がより好ましく、1/5〜1/2が更に好ましい。
本発明で用いられる水系インク中(II)の各成分の含有量は、下記のとおりである。
着色剤(B)の含有量は、着色剤(B)のインク中での分散安定性を高めインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点、及びインクの印字濃度を高める観点から、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは8〜18重量%、更に好ましくは8〜15重量%、更により好ましくは8〜12重量%である。固形分濃度は、着色剤(B)のインク中での分散安定性を高めインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点、及びインクの印字濃度を高める観点から、好ましくは8〜25重量%、より好ましくは9〜19重量%、更に好ましくは9〜16重量%、更により好ましくは9〜15重量%である。水の含有量は、好ましくは20〜90重量%,より好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%である。
また、水系インク(II)としての平均粒子径は、インクの吐出安定性の観点、及びインク混合時の増粘を抑制する観点、更に、インクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、好ましくは30〜300nm、より好ましくは50〜200nmである。平均粒子径の測定は前述の方法により行うことができる。
【0053】
<インクジェット記録用インクセット>
本発明のインクジェット記録用インクセットは、2種以上の着色インクを備えたインクセットであって、第一種の着色インクが自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分として含む着色剤(A)を含む水系インク(I)であり、第二種の着色インクが自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)を含む水系インク(II)である。
本発明のインクセットは、有彩色顔料等から選ばれる2色インクセット、3色インクセット、4色インクセット、5色インクセット、6色インクセット、7色インクセット以上のいずれであってもよい。例えば、シアン、イエロー、マゼンタ、ライトシアン、ダークイエロー、ライトマゼンタ、レッド、グリーン、ブルーから選ばれる2種以上の顔料を含む水系インクが挙げられる。
【0054】
本発明のインクジェット記録用インクセットにおいては、水系インク(I)と水系インク(II)との混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を得る観点から、水系インク(I)に用いる着色剤(A)に含まれる自己分散性を有しない有彩色顔料としては、アゾ顔料が好ましく、例えばイエローインクにおいては、C.I.ピグメント・イエロー74が好ましい。
また、水系インク(II)に用いる着色剤(B)に含まれる自己分散型有彩色顔料として、例えばイエローインク以外の有彩色インクにおいては、表面にフェニル基を介して親水性官能基を有する有彩色顔料が好ましく、表面にフェニル基を介して親水性官能基を有するシアン顔料がより好ましく、表面にフェニル基を介して親水性官能基を有するC.I.ピグメント・ブルー15:3が更に好ましい。
すなわち、本発明においては、水系インク(I)と水系インク(II)との混合性を向上させ、混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性に優れたインクセットを得る観点から、水系インク(I)に用いる着色剤(A)に含まれる自己分散性を有しない有彩色顔料としてはイエロー顔料であり、水系インク(II)に用いる着色剤(B)に含まれる自己分散型顔料としてはシアン顔料であるインクセットが好ましく、水系インク(I)に用いる着色剤(A)に含まれる自己分散性を有しない有彩色顔料として、C.I.ピグメント・イエロー74、水系インク(II)に用いる着色剤(B)に含まれる自己分散型顔料として、C.I.ピグメント・ブルー15:3からなるインクセットが更に好ましい。また、多次色としてのインク中での着色剤(A)の分散安定性を高めインク混合時の増粘を抑制する観点、及びインクの専用紙への定着性、普通紙印刷における耐水性を高める観点から、水系インク(I)には前記アゾ顔料(A)を含むことが好ましい。
本発明のインクセットを適用するインクジェットの方式は制限されないが、特にピエゾ方式のインクジェットプリンターに好適である。
【実施例】
【0055】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「重量部」及び「重量%」である。
なお、製造例、実施例及び比較例で得られた顔料の酸性基量、ポリマーの重量平均分子量、ガラス転移温度、水系インクの各種物性を、下記方法により測定、評価した。
【0056】
1.顔料の酸性基量の測定
酸性基量は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリと反応した量として、以下の方法により求めることができる。
(測定条件)
装置:京都電子工業株式会社製、電位差自動滴定装置、AT−610
滴定条件:0.01N−HCl、滴定量0.02ml、間欠時間30秒、25℃
0.01N−NaOHは和光純薬工業株式会社製、0.01mol/L水酸化ナトリウム(容量分析用)、0.01N−HClは和光純薬工業株式会社製、0.01mol/L塩酸(容量分析用)を使用した。
(測定手順)
自己分散性型顔料を含む着色剤又は自己分散性を有しない顔料を含む着色剤の分散体を固形分で0.05gとなるように精秤し、イオン交換水を加え50mlとし、0.01N−NaOHを1.5ml(過剰量)添加し30分間攪拌することにより、酸性基を全てNa塩とした。このアルカリ分散液に、0.01N−HClを0.02mlずつ、30秒間隔で、分散液を攪拌しながら滴下し、pHを測定する。過剰アルカリが中和される中和点(変曲点1)を起点として、続いて起こる中和変曲点の中で最も酸性よりの中和点(最終変曲点2)を終点としたときの、最終変曲点2−変曲点1の間の0.01N−HClの使用量から粒子の酸性基量を算出し、固形分1g当りの当量として求めた。測定は25℃で行った。
【0057】
2.ポリマーの評価
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有するN,N−ジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK-GEL、α-M×2本)、カラム温度: 40℃、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
(2)ポリマーのガラス転移温度の測定
示差走査熱量計「Q−20」(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて昇温速度:5℃/minで測定した。
【0058】
3.インクセットとしてのインクの評価
(1)固形分濃度の測定
予め空のガラス製シャーレの重量及び攪拌棒の重量を精秤し、乾燥助剤である硫酸ナトリウム10gを精秤し、さらに、水分散体1.2gを精秤した後、105℃で24時間乾燥した。ガラス製シャーレ及び攪拌棒と乾燥後の水分散体を含む全ての重量を精秤し、固形分濃度は以下のようにして求めた。
固形分濃度(%)=〔(乾燥後のインク+ガラス製シャーレ+攪拌棒+硫酸ナトリウム)−(ガラス製シャーレ+攪拌棒+硫酸ナトリウム)〕/(乾燥前のインク)×100
(2)混合濃縮後のインクの粘度の測定
インク(I)とインク(II)を1:1で均一に混合した後、得られた混合インクを各20gずつスクリュー管に入れて、各スクリュー管の総重量を測定した後、40℃の恒温槽で乾燥させた。乾燥の過程で適宜混合インクを入れたスクリュー管の重量を測定して、初期重量の60%の重量になったときの粘度を測定した。粘度はE型粘度計(東機産業株式会社製、RE80L)を用いて20℃で測定した。
【0059】
(3)定着性の評価
セイコーエプソン株式会社製、EM−930C型プリンター(ピエゾ方式)を用いて、洗浄した空カートリッジにインク(I)及びインク(II)を充填した。イエローとマゼンタの二次色であるレッド、イエローとシアンの二次色であるグリーンを印字できる印刷パターン(20mm×20mm)をフォトショップ(アドビ社製)で作成し、写真用光沢紙(セイコーエプソン株式会社製、写真用紙<光沢>、型番:KA4100PSKR)に4パスでベタ印字を行った。印字10秒後に印字物を指でこすった後の印字面と紙との境界部を以下の4段階の評価基準で評価した。
(評価基準)
A:印字物はとれず、印字部の周りが汚れない。
B:印字物は僅かにとれ、僅かに周りが汚れる。
C:印字物が擦りとられ、周りが汚れ、指にも汚れが付着する。
D:印字物がひどく擦りとられ、周りがひどく汚れ、指も相当汚れる。
【0060】
(4)耐水性の評価
前記(3)のプリンターを用い、前記印刷パターンを用いて普通紙(XEROX社製、4200)に1パス印字を行った。得られた画像を25℃のイオン交換水中に1分間浸漬し、浸漬後の印字面と紙との境界部を以下の3段階の評価基準で評価した。
A:全く滲みが認められないか、ほとんど滲みは認められない。
B:僅かに滲みが認められる。
C:滲みがひどく、境界部が着色する。
【0061】
製造例1(水不溶性ポリマー溶液の調製)
反応容器内に、メチルエチルケトン10部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.015部、及び表1に示す初期仕込みモノマー(重量部表示)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロート中に、表1に示す滴下モノマー(重量部表示)を仕込み、次いで前記の重合連鎖移動剤0.135部、メチルエチルケトン80部及び重合開始剤〔2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)〕1.0部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温した後、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、その混合溶液の液温を75℃で2時間維持した後、前記の重合開始剤0.6部をメチルエチルケトン10部に溶解した溶液を該混合溶液に加え、75℃で1時間維持する操作を3回繰返した後、85℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー溶液を得た。
得られた水不溶性ポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって水不溶性ポリマーを単離し、その重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。なお、表1中の各モノマーの数値は、有効分の重量部を示す。
【0062】
製造例2(水溶性ポリマー溶液の調製)
反応容器内に、メチルエチルケトン10部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.01部、及び表1に示す初期仕込みモノマー(重量部表示)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロート中に、表1に示す滴下モノマー(重量部表示)を仕込み、次いで前記の重合連鎖移動剤0.09部、メチルエチルケトン80部及び重合開始剤〔2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)〕1.0部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温した後、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、その混合溶液の液温を75℃で2時間維持した後、前記の重合開始剤0.6部をメチルエチルケトン10部に溶解した溶液を該混合溶液に加え、75℃で1時間維持する操作を3回繰返した後、85℃で2時間熟成させ、水溶性ポリマー溶液を得た。
得られた水溶性ポリマー溶液の一部を、減圧下、105℃で2時間乾燥させ、溶媒を除去することによって水溶性ポリマーを単離し、その重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。なお、表1中の各モノマーの数値は、有効分の重量部を示す。
【0063】
製造例3(PY74(A)とアゾ顔料(A)とを含む着色剤の製造)
(1)2−メトキシ−4−ニトロアニリン168部(1mol)を水2000部と35%塩酸260部とからなる溶液に溶解し、これに氷1000部を加え0℃に冷却した。水200部と亜硝酸ナトリウム70部からなる溶液を加え、3℃以下で60分間撹拌してジアゾ成分を得た。
(2)一方、2−メトキシアセトアセトアニリド200部(0.966mol)、及び下記式(4)で表される化合物7.9部(0.019mol)を水5000部と水酸化ナトリウム100部とからなる溶液に溶解した。これに80%酢酸200部を少しづつ加えて懸濁液としカップラー成分とした。
【0064】
【化4】

【0065】
(3)前記(2)で得られたカップラー成分に、前記(1)で得られたジアゾ成分を60分かけて加えた。この間のカップリング反応は約20℃に保持した。得られた着色剤スラリーを90℃まで加熱し30分保持後、濾過、水洗、圧搾、90℃で15時間乾燥し、500部のモノアゾ顔料であるピグメント・イエロー74(A)と下記式(5)で表されるアゾ顔料(A)を含む着色剤を得た。この着色剤を粉砕して着色剤粉末とした。この着色剤の酸性基量は1μmol/gであった。
【0066】
【化5】

【0067】
【表1】

【0068】
調製例1(水系インク(I−1)の調製)
(1)自己分散性を有しない有彩色顔料を含有するポリマー粒子(A)を含む水分散体(I−1)の調製
製造例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー20部を、メチルエチルケトン71.5部に溶かし、その中にイオン交換水209.7部と中和剤(5N−水酸化ナトリウム水溶液)を酸価に対して60%加えた混合物で塩生成基を中和し、市販のC.I.ピグメント・イエロー74(山陽色素株式会社製)80部を加え、ディスパーを用いて分散した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)を用いて150MPaの圧力で10パス分散処理した。得られた分散体から、エバポレーターを用いて減圧下で60℃でメチルエチルケトンを除去し、自己分散性を有しない有彩色顔料を含有するポリマー粒子(A)を含む水分散体(I−1)(固形分量25%)を得た。
【0069】
(2)自己分散性を有しない有彩色顔料を含む水系インク(I−1)の調製
前記(1)で得られた自己分散性を有しない有彩色顔料を含有するポリマー粒子(A)を含む水分散体50.0部、グリセリン10部、2−〔2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ〕エタノール5部、1,2−ヘキサンジオール2部、アセチレングリコールEO付加物(n=10)0.5部及びイオン交換水32.5部を混合し、得られた混合液を1.2μmのメンブランフィルター(Sartorius社製、商品名:Minisart)で濾過し、自己分散性を有しない有彩色顔料を含む水系インク(I−1)を得た。
【0070】
調製例2(水系インク(I−2)の調製)
調製例1において、市販のC.I.ピグメント・イエロー74(山陽色素株式会社製)に代えて、製造例3で得られた顔料混合物を用いた以外は、調製例1と同様にして、水系インク(I−2)を得た。
調製例3(水系インク(I−3)の調製)
調製例2において、製造例1で得られた水不溶性ポリマーと、製造例2で得られた水溶性ポリマーを、表2に示す割合で用いた以外は、調製例2と同様にして、水系インク(I−3)を得た。
【0071】
調製例4(樹脂エマルジョンの調製)
攪拌機、還流コンデンサー、及び滴下装置を備えた反応容器に、イオン交換水900部及びラウリル硫酸ナトリウム1部を仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4部を添加し、溶解後、予めイオン交換水450部、ラウリル硫酸ナトリウム3部に、スチレン385部、ブチルアクリレート545部、及びメタクリル酸30部を攪拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後3時間の熟成を行った。得られた樹脂エマルジョンを常温(25℃)まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分量40%、pH8に調整して樹脂エマルジョンを得た。得られた樹脂エマルジョン中の樹脂粒子のガラス転移温度は−6℃であった。
【0072】
調製例5(水系インク(II−1)の調製)
調製例1において、市販の自己分散型シアン顔料分散体(キャボット株式会社製、商品名:Cab-o-jet-250C、固形分量10%)を固形分量25%に濃縮した分散体40g、イオン交換水を42.5g用いた以外は、調製例1(2)と同様にして、水系インク(II−1)を得た。
調製例6(水系インク(II−2)の調製)
調製例1において、市販の自己分散型マゼンタ顔料分散体(キャボット株式会社製、商品名:Cab-o-jet-265M、固形分量10%)を固形分量25%に濃縮した分散体40g、イオン交換水を42.5g用いた以外は、調製例1(2)と同様にして、水系インク(II−2)を得た。
【0073】
調製例7(水系インク(II−3)の調製)
(1)自己分散型シアン顔料を含む水系分散体(II−3)の製造
市販の自己分散型シアン顔料分散体(キャボット株式会社製、商品名:Cab-o-jet-250C、固形分量10%)を固形分量25%に濃縮した分散体40部に、調製例4で得られた樹脂エマルジョン6.25部を混合して、樹脂エマルジョンを含む自己分散型シアン顔料を含む水系分散体(II−3)を得た。
(2)自己分散型シアン顔料を含む水系インク(II−3)の製造
調製例1(2)において、前記(1)の水系分散体(II−3)を用いた以外は、調製例1(2)と同様にして、水系インク(II−3)を得た。
【0074】
調製例8(水系インク(II−4)の調製)
(1)自己分散型マゼンタ顔料を含む水系分散体(II−4)の製造
市販の自己分散型マゼンタ顔料分散体(キャボット株式会社製、商品名:Cab-o-jet-265M、固形分量10%)を固形分量25%に濃縮した分散体40部に、調製例4で得られた樹脂エマルジョン6.25部を混合して、樹脂エマルジョンを含む自己分散型マゼンタ顔料を含む水系分散体(II−4)を得た。
(2)自己分散型シアン顔料を含む水系インク(II−4)の製造
調製例1(2)において、前記(1)の水系分散体(II−4)を用いた以外は、調製例1(2)と同様にして、水系インク(II−4)を得た。
【0075】
調製例9(水系インク(II−5)の調製)
調製例1において、自己分散型イエロー顔料分散体(キャボット株式会社製、商品名:Cab-o-jet 270Y、固形分量10%)を固形分量25%に濃縮した分散体を40g、イオン交換水を42.5g用いた以外は、調製例1(2)と同様にして、水系インク(II−5)を得た。
調製例10(水系インク(II−6)の調製)
(1)自己分散型イエロー顔料を含む水系分散体(II−6)の製造
市販の自己分散型イエロー顔料分散体(キャボット株式会社製、商品名:Cab-o-jet 270Y、固形分量10%)を固形分量25%に濃縮した分散体40部に、調製例4で得られた樹脂エマルジョン6.25部を混合して、樹脂エマルジョンを含む自己分散型イエロー顔料を含む水系分散体(II−6)を得た。
(2)自己分散型イエロー顔料を含む水系インク(II−6)の製造
調製例1(2)において、前記(1)の水系分散体(II−6)を用いた以外は、調製例1(2)と同様にして、水系インク(II−6)を得た。
調製例11(水系インク(I−4)の調製)
調製例1において、製造例1で得られた水不溶性ポリマーに代えて、製造例2で得られた水溶性ポリマーを用いた以外は、調製例1と同様にして、水系インク(I−4)を得た。
【0076】
実施例1〜5、及び比較例1〜7(インクセット)
前記調製例で得られた水系インク(I)と自己分散型有彩色顔料分散体を含む水系インク(II)とを、表2に示すように組み合わせてインクセットとし、セイコーエプソン株式会社製、EM−930C型プリンターに装着して、前記の方法でインクジェット記録を行い、印字物を得た。得られた印字物を前記方法で評価した結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から、実施例1〜5のインクセットは濃縮粘度が低く、専用紙への定着性や、普通紙印刷における耐水性に優れていることが分かる。これに対して、比較例1〜7のインクセットは、実施例1〜5のインクセットに比べて、前記の特性が大幅に劣ることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の着色インクを備えたインクセットであって、第一種の着色インクが、自己分散性を有しない有彩色顔料を主成分として含む着色剤(A)を水不溶性ポリマー(y)で分散して得られる着色剤(A)を含有するポリマー粒子(A)を含有する水系インク(I)であり、第二種の着色インクが自己分散型有彩色顔料を主成分として含む着色剤(B)を含有する水系インク(II)であり、水系インク(I)及び水系インク(II)の双方の固形分濃度が8〜25重量%である、インクジェット記録用インクセット。
【請求項2】
水系インク(I)の自己分散性を有しない有彩色顔料がC.I.ピグメント・イエロー74である、請求項1に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項3】
水系インク(II)の自己分散型有彩色顔料が、親水性官能基を有する有彩色顔料である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項4】
水系インク(II)が、樹脂エマルジョンを含有してなる、請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用インクセット。
【請求項5】
水不溶性ポリマー(y)が、塩生成基含有モノマー(a)由来の構成単位と、疎水性モノマー(b)及び/又はマクロマー(c)由来の構成単位とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用インクセット。

【公開番号】特開2012−140535(P2012−140535A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294144(P2010−294144)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】