説明

インクジェット記録用処理液、インクセット、インクジェット記録方法、およびインクジェット記録装置

【課題】インクジェット記録において画像品質を向上させることを目的とする。
【解決手段】水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方と、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方に可溶なN−ヒドロキシ環状イミド化合物とを含むインクジェット記録用処理液を記録媒体に付着させ、この記録媒体においてインクジェット記録用処理液を付着させた位置に、水と、水溶性有機溶媒と、自己分散顔料とを含むインク組成物をインクジェット法により付着させる。これにより、光学濃度値(OD値)が高く、高い画像品質を有する画像の記録を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録において画像品質を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドに設けられた多数のノズルからインクを液滴状に吐出することによって記録を行なうものであり、多種多様な記録媒体に対して高品位な画像を記録し得ること等から、広く利用されている。このようなインクジェット記録方法の1つとして、インクとこのインクを凝集させる処理液との2液を反応させてインクを凝集させることにより、インクの定着を促進させる2液反応型の記録方法が知られており、これまでに、顔料の凝集作用を持つ多価金属イオンやカチオン性ポリマーを配合した処理液が提案されている。(特許文献1〜特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−314449号公報
【特許文献2】特開2002−79740号公報
【特許文献3】特開2002−86707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、近年、デジタルデータからの画像形成技術等が普及したことに伴い、インクジェット記録方式により記録される画質の品質向上がいっそう求められてきており、従来にない新規な処理液の開発や、それを用いたインクジェット記録技術の開発が期待されている。
本明細書では、2液反応型のインクジェット記録において画像品質を向上させる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示されるインクジェット記録用処理液は、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方と、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方に可溶なN−ヒドロキシ環状イミド化合物とを含むものである。
また、本明細書によって開示されるインクセットは、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方と、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方に可溶なN−ヒドロキシ環状イミド化合物とを含むインクジェット記録用処理液と、水、水溶性有機溶媒、および自己分散顔料を含むインク組成物と、を含むものである。
【0006】
ここで、インク組成物に含まれる自己分散顔料は、リン酸基、カルボキシ基およびそれらの塩からなる官能基のうち少なくとも一種により修飾されるものであることが好ましい。
なお、この発明は、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置等の種々の態様で実現することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクジェット記録において画像品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態のインクジェット記録装置の内部構造を示す概略側面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のインクジェット記録用処理液、およびこれを用いたインクセット、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置について詳細に説明する。
【0010】
<インクジェット記録用処理液>
本発明のインクジェット記録用処理液は、水性顔料インクを用いるインクジェット記録において、記録媒体におけるインクを付着させる位置にあらかじめ付着させておくものであって、水および水溶性有機溶媒のうち少なくとも一方と、水および水溶性有機溶媒のうち少なくとも一方に可溶なN−ヒドロキシ環状イミド化合物とを含むものである。
【0011】
このインクジェット記録用処理液に用いられるN−ヒドロキシ環状イミド化合物は、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方に溶解可能なものであればよい。このようなN−ヒドロキシ環状イミド化合物の例としては、N−ヒドロシキスクシンイミド、N−ヒドロキシフタルイミド等を挙げることができる。
【0012】
このインクジェット記録用処理液に用いられる溶媒としては、水性顔料インクに用いられる溶媒との親和性を有するものであることを要することから、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方を使用できる。水または水溶性有機溶媒は、単独で、または混合して使用でき、水と2種以上の水溶性有機溶媒とが混合されたものであっても構わない。水溶性有機溶媒の例としては、エタノール等のアルコール類、またはエーテル類を挙げることができる。
また、このインクジェット記録用処理液に用いられる水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。インクジェット記録用処理液全量に対する水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
また、処理液は、着色剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。処理液が着色剤を含む場合には、記録画像に影響を与えない程度の量であることが好ましい。
【0013】
<インクセット>
上記のインクジェット記録用処理液は、自己分散顔料を含むインク組成物と組み合わせてインクセットとして用いられる。
インク組成物は、水、水溶性有機溶媒、および自己分散顔料を含む。
このインクジェット記録用インク組成物に用いられる水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。インク組成物全量に対する水の配合量(水割合)は、他の成分の残部としてもよい。
【0014】
自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシ基、スルホ基、リン酸基等の親水性官能基及びそれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。
【0015】
このような自己分散型顔料としては、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。このような自己分散型顔料の原料となる顔料しては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。上記のような処理を行うのに適した顔料の具体例としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」及び「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。また、自己分散型顔料としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」及び「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」及び「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
特に、自己分散顔料は、顔料粒子の表面にリン酸基(−PO)、カルボキシ基(−COOH)、スルホ基(−SOH)等の親水性官能基またはそれらの塩の少なくとも1種が化学結合によって導入されることによって、界面活性剤の不存在下で溶剤中に分散可能とされたものであるとよい。
【0016】
インク組成物全量に対する自己分散顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は色彩等により、適宜決定できる。顔料固形分量は、例えば、0.1質量%〜20質量%であり、好ましくは、1質量%〜10質量%であり、より好ましくは、2質量%〜8質量%である。
【0017】
ここで、このインク組成物と上記のインクジェット記録用処理液との組み合わせによる画像品質の向上効果のメカニズムは、必ずしも明らかではないが、以下のようであると考えられる。
【0018】
インク組成物中で水中に分散している自己分散顔料が、記録媒体上でN−ヒドロキシ環状イミド化合物に接すると、下記反応式(1)のように自己分散顔料の修飾基とN−ヒドロキシ環状イミド化合物のヒドロキシ基とが縮合反応する(なお、下記反応式(1)では、自己分散顔料の修飾基がカルボキシ基であり、N−ヒドロキシ環状イミド化合物がN−ヒドロキシスクシンイミドである場合を例示しており、また、自己分散性顔料については顔料粒子を省略してカルボキシ基のみを示している)。これにより、自己分散顔料の修飾基が不活性化されて分散性が低下し、顔料粒子の凝集化が促進されて光学濃度値(OD値)が向上する。
【0019】
【化1】

【0020】
このようなメカニズムから、自己分散顔料を含むインク組成物と、この自己分散顔料の修飾基と縮合反応可能なヒドロキシ基を有し、かつ、溶媒として使用される水または水溶性有機溶媒に溶解可能なN−ヒドロキシ環状イミド化合物を含むインクジェット記録用処理液との組み合わせであれば、いかなる組み合わせであっても本願発明の作用効果を達成できると考えられる。特に、N−ヒドロキシ環状イミド化合物のヒドロキシ基との縮合反応がより進行しやすい修飾基を持つ自己分散顔料を含むインク組成物を使用することによって、より大きな画像品質の向上効果が得られるものと考えることができる。具体的には、顔料粒子の表面にリン酸基またはカルボキシ基が導入された自己分散顔料を含むインク組成物を好ましく使用することができる。
好ましくは、N−ヒドロキシ環状イミド化合物の含有量は、インク全量に対し、0.1質量%以上であると好ましい。さらに0.1質量%以上5.0質量%以下であると好ましい。
【0021】
また、インク組成物には、必要に応じ、浸透剤、湿潤剤等としての水溶性有機溶媒が混合されていても構わない。水溶性有機溶媒としては、インクジェット記録用のインク組成物に一般的に用いられるものを使用することができる。なお、インクジェット記録用処理液とインク組成物との双方に水溶性有機溶媒が混合される場合、インクジェット記録用処理液に混合される水溶性有機溶媒とインク組成物に混合される水溶性有機溶媒とは、同種のものであっても、異種のものであっても構わない。またこの他に、インク組成物には、この種のインク組成物に一般的に含まれる添加剤が含まれていても構わない。
【0022】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記のインクジェット記録用処理液とインク組成物とを用いるものであって、インクジェット記録用処理液を記録媒体に付着させる処理液付与工程と、この記録媒体において処理液付与工程でインクジェット記録用処理液を付着させた位置にインクジェット法によりインク組成物を付着させるインク付与工程と、を備える。
【0023】
処理液付与工程において、インクジェット記録用処理液を記録媒体に付着させる方法としては、記録媒体においてインク組成物による記録(印刷)が行われる部分に前処理液として事前に付着させることができる方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。このような方法の一例としては、記録媒体上において次段のインク付与工程でインク組成物を付着させる予定の位置に、インクジェット法によりインクジェット記録用処理液を付着させる方法、あるいは、記録媒体上の一部または全体に、スタンプ、ローラ、刷毛等によりインクジェット記録用処理液を塗布する方法が挙げられる。
【0024】
また、インク付与工程におけるインク組成物の記録媒体への付着は、公知のインクジェット法により行うことができる。
【0025】
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、上記したインクジェット記録方法によって記録媒体上への画像等の印刷を行う装置である。図1には、インクジェット記録装置の構成の一例を示した。このインクジェット記録装置1は、ライン型インクジェットヘッドを搭載し、記録用紙Pの記録面に対して、インクジェット方式でインクジェット記録用処理液およびインク組成物の吐出を行う装置である。
【0026】
このインクジェット記録装置1は、給紙部11と、ベルト搬送機構14と、排紙部17とがこの順に並列し、給紙部11からベルト搬送機構14を介し、排紙部17に向かって記録用紙Pが搬送される記録用紙搬送経路が形成されている。給紙部11は、記録用紙Pがストックされる記録用紙ストッカ12と、この記録用紙ストッカ12から記録用紙を1枚ずつピックアップしてベルト搬送機構14に送り出すピックアップローラ13とを備えている。
【0027】
ベルト搬送機構14は、2つのベルトローラ15、15と、これら2つのベルトローラ15、15の間に掛け渡された搬送ベルト16とを備え、下流側のベルトローラ15が図示しないモータの動力により回転駆動されることで搬送ベルト16が循環移動する構成になっている。
【0028】
この搬送ベルト16の上面(搬送面16A)の上方には、1個の処理液用ヘッド18(本発明の処理液付着部に該当)と、4個のインクジェットヘッド19(本発明のインク吐出部に該当)とが配されている。これらの処理液用ヘッド18およびインクジェットヘッド19は、搬送ベルト16の上方位置において、記録用紙Pの搬送方向(図中矢印方向)に沿って一列に並んでおり、搬送方向の最も上流側に処理液用ヘッド18が配され、その下流側に4個のインクジェットヘッド19が順次配されている。これらの処理液用ヘッド18およびインクジェットヘッド19は、インクジェット方式によりインクジェット記録用処理液およびインク組成物を記録用紙P上に吐出するものである。
【0029】
処理液用ヘッド18およびインクジェットヘッド19の上部には、それぞれ処理液カートリッジ20(本発明の処理液収容部に該当)、およびインクカートリッジ21(本発明のインク収容部に該当)が配されている。処理液カートリッジ20の内部にはインクジェット記録用処理液が収容され、この処理液カートリッジ20から処理液用ヘッド18へインクジェット記録用処理液が供給される。また、4個のインクカートリッジ21の内部には、それぞれインク組成物が収容され、このインクカートリッジ21からインクジェットヘッド19へインク組成物が供給される。
【0030】
処理液カートリッジ20の内部に収容されるインクジェット記録用処理液は、N−ヒドロキシ環状イミド化合物と、水または水溶性有機溶媒とを含むものである。また、4個のインクカートリッジ21の内部にそれぞれ収容されるインク組成物は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色のインク組成物である。これらのインク組成物は、いずれも、水と、水溶性有機溶媒と、自己分散顔料とを含むものである。
【0031】
上記の給紙部11、ベルト搬送機構14、排紙部17、処理液用ヘッド18およびインクジェットヘッド19は、制御装置22により制御されている。
【0032】
次に、上記のような構成のインクジェット記録装置1によってインクジェット記録を行う手順について説明する。
【0033】
記録が開始されると、記録用紙Pが給紙部11からピックアップされて搬送ベルト16に送られ、搬送面16A上を流れていく。記録用紙Pの記録領域が処理液用ヘッド18の下方を通過する際に、記録用紙Pの表面に向けて、まずインクジェット記録用処理液の液滴が吐出され、この液滴が記録用紙Pの表面に付着する。次いで、さらに記録用紙Pが搬送され、記録用紙Pにおいてインクジェット記録用処理液の液滴が付着した部分が4つのインクカートリッジ21の下方を通過する際に、各インクカートリッジ21からインク組成物の液滴が吐出され、インクジェット記録用処理液の液滴が付着した部分に重ね打ちされる。すると、記録用紙P上でインクジェット記録用処理液中のN−ヒドロキシ環状イミド化合物と、インク組成物中の自己分散顔料の修飾基とが反応し、顔料粒子の凝集化が促進される。これにより、光学濃度値(OD値)の高い画像が得られる。
【0034】
なお、上記のインクジェット記録装置1では、記録用紙Pの表面に対するインクジェット記録用処理液の付着をインクジェット方式で行うが、スタンプ塗布、刷毛塗りやローラ塗布等の方式により、記録用紙Pの表面に処理液が塗布される方式であっても構わない。
【0035】
また、上記のインクジェット記録装置1ではライン型インクジェットヘッドを採用しているが、シリアル型インクジェットを採用しても構わない。
【0036】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
1.試験方法
1)処理液の調製
表1に示す組成で各成分を均一に混合し、12種の処理液1〜12を得た。
【0038】
【表1】

【0039】
2)インク組成物の調製
表2に示す組成で、以下の手順で各成分を混合し、4種のインクジェット記録用顔料インクA〜Dを得た。
表2に示す各成分のうち、自己分散顔料を除く成分を均一に混合し、インク溶媒を得た。このインク溶媒に自己分散顔料を徐々に加え、均一に混合して混合物を得た。得られた混合物を東洋濾紙(株)製セルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インクジェット記録用顔料インクを得た。
なお、インクA、BおよびCについてはブラックの自己分散顔料、インクDについてはマゼンタの自己分散顔料を用いている。
【0040】
【表2】

【0041】
3)用紙への処理液の塗布および印刷
印刷用紙としてはXerox 4200(A6サイズ)を用いた。用紙よりも一回り大きな外形を有するガラス板上に厚紙を載置し、この厚紙上に用紙を載置した。この用紙上に、上記1)で調製した処理液を、それぞれ、バーコーター(安田精機製作所製 ロッドNo.5)を用いて均一に塗布した。塗布後の用紙をA4サイズの印刷用紙にテープにより固定した。
【0042】
この印刷用紙をブラザー工業(株)製インクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DPC−386Cにセットし、上記2)で調製した顔料インクを用いて解像度600dpi×600dpiで単色パッチを含む画像を印刷し、評価サンプルを作成した。
【0043】
4)光学濃度値(OD値)評価
上記3)で作成した評価サンプルの光学濃度値(OD値)を、Gretag Macbeth社製分光光度計Spectrolino(光源:D50、視野:2°、STATUS T)により測定した。なお、OD値としては、各評価サンプルについて5回測定し、平均値を採用した。
【0044】
2.試験結果
各実施例、比較例および対照例について、処理液とインクとの組み合わせ、および光学濃度値の測定結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例1〜実施例11、および比較例1〜比較例4において得られたOD値から、同種の溶媒のみからなる処理液を塗布した用紙に同種のインク組成物を用いて印刷を行った場合の対照例において得られたOD値を減じた値をΔODとした。
すなわち、水を溶媒とした処理液1〜5とインクAとを用いた実施例1、2、6、8、9、および比較例1、2では、得られたOD値から、水のみからなる処理液11とインクAとを用いた対照例1のOD値を減じた値をΔODとした。また、エタノールを溶媒とした処理液6、9、10とインクAとを用いた実施例10および比較例3、4では、得られたOD値から、エタノールのみからなる処理液12とインクAとを用いた対照例5のOD値を減じた値をΔODとした。インクB、C、Dを用いた他の実施例および比較例についても同様である。
【0047】
装置の測定誤差が±0.01程度であるため、ΔODが0.01を超える場合には、処理液によるOD値の向上効果があると判定した。
【0048】
3.考察
N位に置換基のないスクシンイミドまたはフタルイミドを含む処理液7〜10を用いた比較例1〜4では、ΔODが0.01以下であった。
【0049】
これに対し、処理液としてN−ヒドロキシスクシンイミドを含む処理液1〜5、インク組成物としてリン酸基修飾自己分散顔料(Black)を含むインクAを用いて試験を行った場合、N−ヒドロキシスクシンイミド含有量0.1〜5質量%の範囲で、ΔODはN−ヒドロキシスクシンイミド含有量の増大に比例してほぼ直線的に増大していた。また、N−ヒドロキシスクシンイミド含有量が0.1%の場合でもΔOD=0.05という値が得られ、十分な画像品質の向上効果があることが確認された。
【0050】
なお、N−ヒドロキシスクシンイミドの含有量を5質量%よりも増大させた場合は、ΔODの値は徐々に増大するもののその増大の程度は徐々に緩やかとなり、やがて飽和状態に達するものと考えられる。
【0051】
カルボキシ基修飾自己分散顔料(Black)を含むインクB、スルホ基修飾自己分散顔料(Black)を含むインクCを用いた場合でも、インクAを用いた場合と同様に十分な画像品質の向上効果があることが確認された。
【0052】
画像品質の向上効果は、インクに含まれる自己分散性顔料としてリン酸基修飾自己分散性顔料を用いた場合が最も高く、次いでカルボキシ基修飾自己分散性顔料を用いた場合、スルホ基修飾自己分散性顔料を用いた場合であった。ここで、スルホ基よりもカルボキシ基、カルボキシ基よりもリン酸基の方がヒドロキシ基との縮合反応が起こりやすい。このことから、インクとして、N−ヒドロキシスクシンイミドとの縮合反応がより進行しやすい修飾基を持つ自己分散顔料を含むものを使用することによって、より大きな画像品質の向上効果が得られるものと考えることができる。
【0053】
さらに、リン酸基修飾自己分散顔料(Magenta)を含むインクDを用いた場合にも、インクAを用いた場合と同様に十分な画像品質の向上効果があることが確認された。他の色の自己分散顔料を含むインクについても、同様のメカニズムで画像品質の向上効果が得られるものと考えられる。
【0054】
また、N−ヒドロキシフタルイミドを含む処理液6と、リン酸基修飾自己分散顔料(Black)を含むインクAとを用いて試験を行った場合にも、N−ヒドロキシスクシンイミドを含む処理液を用いた場合とほぼ同等の画像品質向上効果があることが確認された。カルボキシ基修飾自己分散顔料(Black)を含むインクB、スルホ基修飾自己分散顔料(Black)を含むインクCを用いても、インクAを用いた場合と同様に十分な画像品質の向上効果があるものと予想される。また、他の色の自己分散顔料を含むインクについても、同様のメカニズムで画像品質の向上効果が得られるものと考えられる。
【0055】
このように、現在用いられている主要な自己分散顔料を含む顔料インクとの組み合わせにおいて、N−ヒドロキシスクシンイミドまたはN−ヒドロキシフタルイミドを含む処理液が十分な効果を発揮することが確認された。
【0056】
また、水溶性有機溶媒を加えた処理液3を用いた場合(実施例6、7)でも、水溶性有機溶媒を加えない場合(処理液2を用いた実施例2、3)と同等の画像品質の向上効果が得られていた。よって、処理液に、必要に応じて濡れ性の確保、蒸発の抑制等を目的として水溶性有機溶媒を混合しても、本願の目的達成のために特段の悪影響はないものと考えることができる。
【0057】
なお、詳細にデータは示さないが、インクにおいて水溶性有機溶媒の含有量を、実用的な範囲で変化させて実験を行ってもΔODの値に大きな変化はなかった。したがって、インクにおいて水溶性有機溶媒の含有量を、実用的な範囲で変化させても本願発明の目的を達成することができる、といえる。
【符号の説明】
【0058】
1…インクジェット記録装置、18…処理液用ヘッド(処理液付着部)、19…インクジェットヘッド(インク吐出部)、20…処理液カートリッジ(処理液収容部)、21…インクカートリッジ(インク収容部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水およびまたは水溶性有機溶媒の少なくとも一方と、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方に可溶なN−ヒドロキシ環状イミド化合物とを含む、インクジェット記録用処理液。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット記録用処理液であって、前記N−ヒドロキシ環状イミド化合物がN−ヒドロキシスクシンイミドまたはN−ヒドロキシフタルイミドである、インクジェット記録用処理液。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録用処理液であって、前記N−ヒドロキシ環状イミド化合物の含有量が、前記インクジェット記録用処理液の総質量に対して0.1質量%以上である、インクジェット記録用処理液。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用処理液と、
水と、水溶性有機溶媒と、自己分散顔料とを含むインク組成物と、
を含むインクセット。
【請求項5】
請求項4に記載のインクセットであって、
前記自己分散顔料が、リン酸基、カルボキシ基、およびそれらの塩からなる官能基のうち少なくとも1種により修飾されるものである、インクセット。
【請求項6】
水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方と、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方に可溶なN−ヒドロキシ環状イミド化合物とを含むインクジェット記録用処理液を記録媒体に付着させる処理液付与工程と、
前記記録媒体において前記処理液付与工程で前記インクジェット記録用処理液を付着させた位置に、水、水溶性有機溶媒、および自己分散顔料を含むインク組成物をインクジェット法により付着させるインク付与工程と、を備えるインクジェット記録方法。
【請求項7】
請求項6に記載のインクジェット記録方法を実行するインクジェット記録装置であって、
水と、水溶性有機溶媒と、自己分散顔料とを含むインク組成物を収容するインク収容部と、
前記インク収容部に収容されるインク組成物をインクジェット法により記録媒体上に吐出するインク吐出部と、
水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方と、水および水溶性有機溶媒の少なくとも一方に可溶なN−ヒドロキシ環状イミド化合物とを含むインクジェット記録用処理液を収容する処理液収容部と、
前記処理液収容部に収容されるインクジェット記録用処理液を記録媒体上に付着させる処理液付着部と、を備えるインクジェット記録装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−224069(P2012−224069A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96420(P2011−96420)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】