説明

インクジェット記録用水性インクおよびインクカートリッジ

【課題】 自己分散型顔料を含むインクジェット記録用水性インクであって、再分散性に優れ、高い光学濃度(OD)値が得られるインクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】 本発明のインクジェット記録用水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、前記着色剤が、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を含み、前記水性インクが、さらに、ホウ酸類を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インクおよびインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用水性インクにおいて、自己分散型顔料が使用されることがある。前記自己分散型顔料は、高分子顔料分散剤を必要としないことから、水性インクの粘度上昇を防止でき、取り扱い性に優れる。また、自己分散型顔料は、顔料にリン酸基、カルボン酸基またはスルホン酸基のような少なくとも一種の親水基またはその塩を結合させるように処理をすることによって得ることができる。これらの親水基のうち、特にリン酸基により処理された自己分散型顔料は、カルボン酸基やスルホン酸基により処理された自己分散型顔料と比べて、高い光学濃度(OD)値が得られる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−515007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、リン酸基により処理された自己分散型顔料を用いた水性インクには、一般的なインク組成において、再分散性が良好ではないという問題がある。前記再分散性が良好ではない水性インクでは、前記水性インクがインクジェットヘッドのインク流路やノズル近傍において蒸発乾固した場合に、吐出安定性に支障をきたすおそれがある。また、リン酸基により処理された自己分散型顔料を用いたインクジェット記録用水性インクは、カルボン酸基やスルホン酸基により処理された自己分散型顔料と比べて高い光学濃度(OD)値が得られるといっても、満足の得られるものではない。
【0005】
そこで、本発明は、自己分散型顔料を含む水性インクであって、再分散性に優れ、高い光学濃度(OD)値が得られるインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を含み、
前記水性インクが、さらに、ホウ酸類を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明者等は、一連の研究を重ねたところ、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を着色剤として用いた場合、さらに、ホウ酸類を含ませれば、再分散性に優れ、高い光学濃度(OD)値が得られることを見出し本発明に想到した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明により提供されるインクジェット記録装置の構成の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施例における再分散性評価基準を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「再分散性」とは、例えば、水性インクが一度蒸発乾固し、固形物が生じた後、新たに水性インクと接触した際の前記固形物の溶解性および分散性を言う。
【0010】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、単に「水性インク」または「インク」と言うことがある)について説明する。本発明の水性インクは、着色剤、水および水溶性有機溶剤を含む。前述のとおり、前記着色剤は、リン酸基により修飾された自己分散型顔料(以下、単に「リン酸基修飾自己分散型顔料」と言うことがある)を含む。前記リン酸基修飾自己分散型顔料は、例えば、特表2009−515007号公報に記載の方法により調製できる。前記リン酸基修飾自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。本発明の水性インクは、自己分散型顔料を使用しているため、高分子顔料分散剤に起因する粘度上昇の問題が無く、かつ、取り扱い性に優れる。
【0011】
前記自己分散型顔料の原料として用いることができる顔料としては、例えば、カーボンブラック、無機顔料および有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料およびカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、これら以外の顔料として、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6および7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185および194;C.I.ピグメントオレンジ31および43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224および238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22および60;C.I.ピグメントグリーン7および36等もあげられる。特に、前記リン酸基による修飾を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」および「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。
【0012】
前記水性インク全量に対する前記リン酸基修飾自己分散型顔料の固形分配合量(顔料割合;顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料割合は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0013】
前記着色剤は、前記リン酸基修飾自己分散型顔料に加え、さらに他の顔料および染料等を含んでもよい。
【0014】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0015】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部における水性インクの乾燥を防止する湿潤剤および記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0016】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0017】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量(湿潤剤割合)は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0018】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテルおよびトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記水性インク全量に対する前記浸透剤の配合量(浸透剤割合)は、例えば、0重量%〜20重量%である。前記浸透剤割合を前記範囲とすることで、前記水性インクの記録媒体への浸透性を、より好適なものとできる。前記浸透剤割合は、好ましくは、0.1重量%〜15重量%であり、より好ましくは、0.5重量%〜10重量%である。
【0020】
前述のとおり、前記水性インクは、さらに、ホウ酸類を含む。ホウ酸類を含ませることで、再分散性に優れ、光学濃度(OD)値の高い水性インクを得ることができる。前記ホウ酸類としては、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等の酸化ホウ素が水化して生じるオキソ酸およびそれらの塩(水和物を含む)等があげられる。具体的には、例えば、ホウ酸アンモニウム(四ホウ酸アンモニウム四水和物、五ホウ酸アンモニウム八水和物等);ホウ酸カリウム(四ホウ酸カリウム四水和物等);ホウ酸リチウム(四ホウ酸リチウム(無水)、四ホウ酸リチウム三水和物等);ホウ酸;ホウ酸ナトリウム(四ホウ酸二ナトリウム(無水)、四ホウ酸二ナトリウム十水和物、ホウ酸ソーダ(ホウ砂)等);ホウ酸バリウム;等があげられる。前記ホウ酸類は、ホウ酸アンモニウムおよびホウ酸カリウムの少なくとも一方であることが好ましい。ただし、前記化合物は例示に過ぎず、ホウ素原子数、ホウ酸塩における陰イオンの種類および数、水和物における水分子の数等はこれらに限定されるものではない。前記水性インク全量に対する前記ホウ酸類の配合量(ホウ酸類割合)は、例えば、0.01重量%〜10重量%であり、好ましくは、0.05重量%〜3重量%であり、より好ましくは、0.1重量%〜1重量%である。
【0021】
前記水性インクは、さらに、カルシウムイオンを含むことが好ましい。カルシウムイオンを含ませることで、光学濃度(OD)値のより高い水性インクを得ることができる。前記水性インクに対する前記カルシウムイオンの添加方法は、特に制限されず、例えば、前記カルシウムイオンと前記カルシウムイオンに結合する陰イオンとから構成される塩およびその水溶液等として添加することができる。前記陰イオンとしては、特に制限されないが、例えば、臭化物イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、乳酸イオン、硫酸イオン等があげられる。前記水性インク全量に対する前記カルシウムイオンの配合量(カルシウムイオン割合)は、例えば、0ppm〜500ppmであり、好ましくは、5ppm〜300ppmであり、より好ましくは、10ppm〜150ppmである。
【0022】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0023】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水、水溶性有機溶剤およびホウ酸類と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0024】
つぎに、本発明のインクカートリッジについて説明する。本発明のインクカートリッジは、インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0025】
本発明によれば、インク収容部およびインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクカートリッジが収容されていることを特徴とするインクジェット記録装置が提供される。これを除き、本発明により提供されるインクジェット記録装置の構成は、例えば、従来公知のインクジェット記録装置と同様であってもよい。
【0026】
図1に、本発明により提供されるインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成部材として含む。
【0027】
前記4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性ブラックインクを含むインクカートリッジが、本発明のインクカートリッジである。前記インクジェットヘッド3は、記録紙等の記録媒体Pに記録を行う。前記ヘッドユニット4は、前記インクジェットヘッド3を備えている。前記キャリッジ5には、前記4つのインクカートリッジ2および前記ヘッドユニット4が搭載される。前記駆動ユニット6は、前記キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。前記駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。前記プラテンローラ7は、前記キャリッジ5の往復方向に延び、前記インクジェットヘッド3と対向して配置されている。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0028】
前記記録媒体Pは、このインクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。前記記録媒体Pは、前記インクジェットヘッド3と、前記プラテンローラ7との間に導入される。すると、前記記録媒体Pに、前記インクジェットヘッド3から吐出されるインクにより所定の記録がなされる。前記記録媒体Pは、その後、前記インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、前記記録媒体Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0029】
前記パージ装置8は、前記インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。前記パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0030】
前記パージ装置8の前記プラテンローラ7側の位置には、前記パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。前記ワイパ部材20は、へら状に形成されており、前記キャリッジ5の移動に伴って、前記インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、インクの乾燥を防止するため、記録が終了すると前記リセット位置に戻される前記インクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0031】
前記インクジェット記録装置において、前記4つのインクカートリッジは、複数のキャリッジに搭載されていてもよい。また、前記インクカートリッジは、前記キャリッジには搭載されず、インクジェット記録装置内に配置、固定されていてもよい。この態様においては、例えば、前記インクカートリッジと、前記キャリッジに搭載された前記ヘッドユニットとが、チューブ等により連結され、前記インクカートリッジから前記ヘッドユニットに前記インクが供給される。
【0032】
本発明により提供されるインクジェット記録装置は、図1に示したシリアル型インクジェット記録装置であってもよいし、ライン型インクジェット記録装置であってもよい。
【0033】
本発明によれば、インク吐出手段からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、前記インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。前記インクジェット記録方法は、例えば、本発明により提供されるインクジェット記録装置を用いることで実施可能である。
【0034】
また、本発明によれば、前記リン酸基修飾自己分散型顔料を含むインクジェット記録用水性インクの再分散性向上方法であって、前記水性インクが、さらに、ホウ酸類を含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インクの再分散性向上方法が提供される。
【0035】
さらに、本発明によれば、前記リン酸基修飾自己分散型顔料を含むインクジェット記録用水性インクを用いて記録した記録物の光学濃度向上方法であって、前記水性インクが、さらに、ホウ酸類を含むことを特徴とする記録物の光学濃度向上方法が提供される。
【0036】
前記インクジェット記録方法、前記インクジェット記録用水性インクの再分散性向上方法および前記記録物の光学濃度向上方法において、着色剤、ホウ酸類、カルシウムイオン等の各種成分の種類、配合量および形態等は、本発明のインクジェット記録用水性インクと同様とすることができる。
【実施例】
【0037】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。
【0038】
[実施例1〜8および比較例1〜12]
水性インク組成(表1)における、自己分散型カーボンブラックを除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、水に分散させた自己分散型カーボンブラックに前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、実施例1〜8および比較例1〜12のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0039】
実施例および比較例の水性インクについて、(a)再分散性評価および(b)光学濃度(OD)値評価を、下記方法により評価および測定した。
【0040】
(a)再分散性評価
スライドガラスに、実施例および比較例の水性インク12μLを滴下した。ついで、前記スライドガラスを、100℃の環境下に一晩静置することで、前記水性インクを蒸発乾固させた。つぎに、前記蒸発乾固後の固形物上にスポイトで水3滴を滴下した。このようにして作製した評価サンプルを肉眼および倍率50倍の顕微鏡で観察し、下記評価基準に従って再分散性を目視評価した。
【0041】
再分散性評価 評価基準
A :図2(a)に示すように、顕微鏡で見ても、前記固形物が水に完全に溶解・分散していた。
B+:肉眼では前記固形物が水に完全に溶解・分散しているように観察されたが、顕微鏡で見ると水に溶解・分散しきれていない前記固形物の残りが観察された。
B :前記固形物が水に徐々に溶解・分散するが、肉眼でも水に溶解・分散しきれていない前記固形物の残りが観察され、顕微鏡で見ると図2(b)に示す程度の状態であった。
B−:前記固形物が水に若干色がつく程度に溶解・分散するが、塊状のままのものもあった。
C :図2(c)に示すように、顕微鏡で見ても、前記固形物が水に全く溶解・分散せず、塊状のままの状態であった。
【0042】
(b)光学濃度(OD)値評価
ブラザー工業(株)製のインクジェットプリンタ搭載デジタル複合機DCP−385Cを使用して、実施例および比較例の水性インクを用いて普通紙上に解像度600dpi×600dpiで黒単色パッチを含む画像を記録し評価サンプルを作製した。前記評価サンプルの光学濃度(OD)値を、X−Rite社製の分光測色計SpectroEye(光源:D50、濃度基準:ANSI T、白色ベースAbs、内蔵フィルタNO(なし))により測定した。前記普通紙には、Hammer Mill社製のLaser Print(普通紙1)、XEROX社製のBusiness(普通紙2)およびRecycled Supreme(普通紙3)を用いた。前記光学濃度(OD)値の測定は、各普通紙について5回行った。
【0043】
実施例および比較例の水性インクのインク組成および評価結果を、表1に示す。なお、表1において、各普通紙の光学濃度(OD)値の測定結果は、5回の測定の平均値であり、「3紙平均」(最下段)は、前記普通紙1〜3のそれぞれの平均値(5回測定)の和を3で除した3紙の測定結果の平均値である。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すとおり、ホウ酸類を含む実施例1〜3では、ホウ酸類を含まないこと以外は同条件とした比較例1と比べて、再分散性に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。同様に、ホウ酸類を含む実施例4では、ホウ酸類を含まないこと以外は同条件とした比較例2と比べて、再分散性に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。特に、ホウ酸類割合を1.0重量%とした実施例3では、再分散性および光学濃度向上の効果が顕著であった。
【0046】
また、ホウ酸類に加え、カルシウムイオンも含む実施例5では、カルシウムイオンを含まない実施例1〜4と比べて、光学濃度(OD)値がより高く、ホウ酸類を含まないこと以外は同条件とした比較例6と比べて、再分散性に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。同様に、ホウ酸類に加え、カルシウムイオンも含む実施例6では、カルシウムイオンを含まない実施例1〜4と比べて、光学濃度(OD)値がより高く、ホウ酸類を含まないこと以外は同条件とした比較例5と比べて、再分散性に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。同様に、ホウ酸類に加え、カルシウムイオンも含む実施例7では、カルシウムイオンを含まない実施例1〜4と比べて、光学濃度(OD)値がより高く、ホウ酸類を含まないこと以外は同条件とした比較例3と比べて、再分散性に優れ、光学濃度(OD)値が高かった。なお、ホウ酸類割合を1.0重量%とした実施例7では、カルシウムイオン割合が10ppmと低いにも拘らず、再分散性および光学濃度向上の効果が顕著であった。また、ホウ酸類に加え、カルシウムイオンも含む実施例8でも、カルシウムイオンを含まない実施例1〜4と比べて、光学濃度(OD)値がより高かった。なお、比較例3〜6の結果から、ホウ酸類を含まない場合には、カルシウムイオン割合が高くなる程、光学濃度(OD)値も高くなるものと考えられた。
【0047】
また、リン酸基修飾自己分散型カーボンブラックに代えて、カルボン酸基により修飾された自己分散型カーボンブラックを用いた比較例7〜9、およびスルホン酸基により修飾された自己分散型カーボンブラックを用いた比較例10〜12では、実施例と比べて、光学濃度(OD)値が著しく低かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明の水性インクは、再分散性に優れ、光学濃度(OD)値が高いものである。本発明の水性インクの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出手段(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、水および水溶性有機溶剤を含むインクジェット記録用水性インクであって、
前記着色剤が、リン酸基により修飾された自己分散型顔料を含み、
前記水性インクが、さらに、ホウ酸類を含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インク。
【請求項2】
前記水性インクが、さらに、カルシウムイオンを含むことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項3】
前記自己分散型顔料が、自己分散型カーボンブラックであることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項4】
前記ホウ酸類が、ホウ酸アンモニウムおよびホウ酸カリウムの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
インクジェット記録用水性インクを含むインクカートリッジであって、前記水性インクが、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−157423(P2011−157423A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18137(P2010−18137)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】