説明

インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置

【課題】 紙面乾燥性の低下を抑制しつつ、記録物の光学濃度(OD値)を向上可能なインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【解決手段】 インクジェット記録用水性インク及び処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットであって、前記水性インクは、着色剤、水及び浸透剤を含み、前記水性インクにおける浸透剤は、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及びペンタエチレングリコールモノブチルエーテルを含み、前記水性インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテル(X)及びペンタエチレングリコールモノブチルエーテル(Y)の重量比(X:Y)が、X:Y=50:50〜90:10、前記水性インク全量に対する合計配合量(X+Y)が、X+Y=1重量%〜10重量%であり、前記処理液は、凝集剤、水及び浸透剤を含み、前記処理液における浸透剤が、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インクセット、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録物の光学濃度(OD値)を向上させることを目的として、水性インクによるインクジェット記録の前に、前記水性インク中の着色剤を凝集させる多価金属塩等の凝集剤を含む処理液が用いられることがある(例えば、特許文献1参照)。前記水性インク及び前記処理液を組み合わせたインクジェット記録用水性インクセットによれば、記録物の光学濃度(OD値)が向上するが、処理液を用いることで、記録媒体上の総液量が増加するため、紙面乾燥性が低下する。前記紙面乾燥性とは、水性インク及び処理液を記録媒体上に付与したときの乾燥のしやすさを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−79740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、紙面乾燥性の低下を抑制しつつ、記録物の光学濃度(OD値)を向上可能なインクジェット記録用水性インクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、インクジェット記録用水性インク及び処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記水性インクは、着色剤、水及び浸透剤を含み、
前記水性インクにおける浸透剤は、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(tetra−PB)及びペンタエチレングリコールモノブチルエーテル(penta−PB)を含み、
前記水性インクにおけるtetra−PB(X)及びpenta−PB(Y)の重量比(X:Y)が、X:Y=50:50〜90:10であり、
前記水性インク全量に対するtetra−PB(X)及びpenta−PB(Y)の合計配合量(X+Y)が、X+Y=1重量%〜10重量%であり、
前記処理液は、凝集剤、水及び浸透剤を含み、
前記処理液における浸透剤が、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(tri−PB)を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットでは、前記水性インクに、浸透剤として、tetra−PB及びpenta−PBを前記特定の重量比で、かつ、前記水性インク全量に対し前記特定の割合で用い、かつ、前記処理液に、浸透剤として、tri−PBを用いているため、紙面乾燥性の低下を抑制しつつ、従来の凝集剤を配合したのみの処理液を用いた水性インクセットと比べ、記録物の光学濃度(OD値)が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明のインクジェット記録装置の構成のその他の例を示す模式図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、本発明のインクジェット記録方法による記録例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施例におけるメニスカス耐圧の評価方法を説明する摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性に問題があると、アンキャップ状態でヘッドを放置した場合において、できるだけ長時間吐出の安定性を維持させたいところ、所望の維持時間よりも短時間で水性インクが増粘して吐出特性が悪化してしまう。
【0009】
本発明において、「メニスカス耐圧」とは、不吐出時にインクジェットヘッドのノズルに圧力をかけたとき、ノズルから水性インクが漏れることのない圧力の最高値を意味する。メニスカス耐圧が高い程、ノズルからの水性インクの漏出が抑制され、記録媒体及びインクジェット記録装置内部を水性インクで汚すことがなく、好ましい。
【0010】
前述のとおり、本発明のインクジェット記録用水性インクセット(以下、「水性インクセット」又は「インクセット」と言うことがある。)は、インクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)及び処理液を含む。
【0011】
まず、前記水性インクについて説明する。前述のとおり、前記水性インクは、着色剤、水及び浸透剤を含む。前記水性インクは、着色剤、水及び浸透剤以外のその他の成分を含んでもよい。
【0012】
前記着色剤は、顔料又は染料のいずれであってもよい。また、前記着色剤として、顔料及び染料を混合して用いてもよい。
【0013】
前記顔料は、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、78、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224及び238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36等があげられる。
【0014】
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基及びそれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」及び「MA100」、デグサ社製の「カラーブラックFW200」等のカーボンブラックがあげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)250C」、「CAB−O−JET(登録商標)260M」、「CAB−O−JET(登録商標)270Y」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」、「CAB−O−JET(登録商標)450C」、「CAB−O−JET(登録商標)465M」及び「CAB−O−JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」及び「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インキ製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
【0015】
前記水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、より好ましくは、2重量%〜8重量%である。
【0016】
前記染料は、特に限定されず、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等があげられる。前記染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック、C.I.ダイレクトブルー、C.I.ダイレクトレッド、C.I.ダイレクトイエロー、C.I.ダイレクトオレンジ、C.I.ダイレクトバイオレット、C.I.ダイレクトブラウン、C.I.ダイレクトグリーン、C.I.アシッドブラック、C.I.アシッドブルー、C.I.アシッドレッド、C.I.アシッドイエロー、C.I.アシッドオレンジ、C.I.アシッドバイオレット、C.I.ベーシックブラック、C.I.ベーシックブルー、C.I.ベーシックレッド、C.I.ベーシックバイオレット及びC.I.フードブラック等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラックとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、19、32、51、71、108、146、154及び168等があげられる。前記C.I.ダイレクトブルーとしては、例えば、C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、86、90、106及び199等があげられる。前記C.I.ダイレクトレッドとしては、例えば、C.I.ダイレクトレッド1、4、17、28、83及び227等があげられる。前記C.I.ダイレクトイエローとしては、例えば、C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142及び173等があげられる。前記C.I.ダイレクトオレンジとしては、例えば、C.I.ダイレクトオレンジ34、39、44、46及び60等があげられる。前記C.I.ダイレクトバイオレットとしては、例えば、C.I.ダイレクトバイオレット47及び48等があげられる。前記C.I.ダイレクトブラウンとしては、例えば、C.I.ダイレクトブラウン109等があげられる。前記C.I.ダイレクトグリーンとしては、例えば、C.I.ダイレクトグリーン59等があげられる。前記C.I.アシッドブラックとしては、例えば、C.I.アシッドブラック2、7、24、26、31、52、63、112及び118等があげられる。前記C.I.アシッドブルーとしては、例えば、C.I.アシッブルー9、22、40、59、93、102、104、117、120、167、229及び234等があげられる。前記C.I.アシッドレッドとしては、例えば、C.I.アシッドレッド1、6、32、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、256、289、315及び317等があげられる。前記C.I.アシッドイエローとしては、例えば、C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、61及び71等があげられる。前記C.I.アシッドオレンジとしては、例えば、C.I.アシッドオレンジ7及び19等があげられる。前記C.I.アシッドバイオレットとしては、例えば、C.I.アシッドバイオレット49等があげられる。前記C.I.ベーシックブラックとしては、例えば、C.I.ベーシックブラック2等があげられる。前記C.I.ベーシックブルーとしては、例えば、C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28及び29等があげられる。前記C.I.ベーシックレッドとしては、例えば、C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14及び37等があげられる。前記C.I.ベーシックバイオレットとしては、例えば、C.I.ベーシックバイオレット7、14及び27等があげられる。前記C.I.フードブラックとしては、例えば、C.I.フードブラック1及び2等があげられる。
【0017】
前記水性インク全量に対する前記染料の配合量は、特に限定されず、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、0.3重量%〜10重量%である。
【0018】
前記着色剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0019】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、例えば、10重量%〜90重量%であり、好ましくは、40重量%〜80重量%である。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0020】
前記浸透剤は、tetra−PB及びpenta−PBを含む。前記水性インクにおけるtetra−PB(X)及びpenta−PB(Y)の重量比(X:Y)は、X:Y=50:50〜90:10であり、前記水性インク全量に対するtetra−PB(X)及びpenta−PB(Y)の合計配合量(X+Y)は、X+Y=1重量%〜10重量%である。このように、浸透剤として、tetra−PB及びpenta−PBを前記特定の重量比で、かつ、前記水性インク全量に対し前記特定の割合で用いた前記水性インクは、処理液と併用するか否か拘わらず、アンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性に優れる。さらに、前記水性インクでは、処理液と併用するか否か拘わらず、インクジェットヘッドのノズルにおけるメニスカス耐圧も向上する。前記重量比(X:Y)は、好ましくは、X:Y=70:30〜85:15であり、より好ましくは、X:Y=75:25〜80:20である。前記合計配合量(X+Y)は、好ましくは、X+Y=2重量%〜8重量%であり、より好ましくは、X+Y=2重量%〜5重量%である。
【0021】
前記水性インクは、tetra−PB及びpenta−PB以外の浸透剤を含んでもよい。
【0022】
前記水性インクは、さらに、湿潤剤を含んでもよい。前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0023】
前記水性インク全量に対する前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%であり、好ましくは、5重量%〜80重量%であり、さらに好ましくは、5重量%〜50重量%である。
【0024】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0025】
前記水性インクは、例えば、着色剤、水、tetra−PB及びpenta−PBと、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0026】
つぎに、前記処理液について説明する。前述のとおり、前記処理液は、凝集剤、水及び浸透剤を含む。前記処理液は、凝集剤、水及び浸透剤以外のその他の成分を含んでもよい。
【0027】
前記凝集剤は、記録媒体上において、前記水性インク及び前記処理液が接触した際に、前記水性インク中の着色剤を凝集させる機能を有する。前記凝集剤としては、例えば、多価金属塩、カチオン性ポリマー、カチオン性界面活性剤等があげられる。
【0028】
前記多価金属塩としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、酸化バリウム、硝酸バリウム、チオシアン酸バリウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、チオシアン酸カルシウム、乳酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化銅、臭化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、シュウ酸鉄、乳酸鉄、フマル酸鉄、クエン酸鉄、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸二水素マンガン、酢酸マンガン、サリチル酸マンガン、安息香酸マンガン、乳酸マンガン、塩化ニッケル、臭化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸スズ、塩化チタン、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、酢酸亜鉛等があげられる。これらの中でも、カルシウム、マグネシウムの多価金属塩が好ましい。また、着色剤の凝集度合いの観点から、2価の金属塩が好ましい。
【0029】
前記カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン−エピクロルヒドリン反応物、ポリアミド−ポリアミン樹脂、ポリアミド−エピクロルヒドリン樹脂、カチオンデンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミジン、カチオンエポキシ樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルホルムアミド、アミノアセタール化ポリビニルアルコール、ポリビニルベンジルオニウム、ジシアンジアミド・ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物、エピクロルヒドリン・ジメチルアミン付加重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・SO共重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、及びこれらの誘導体等があげられる。また、前記カチオン性ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチル−メタクリレート(DM)、メタクリロイロキシエチル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMC)、メタクリロイロキシエチル−ベンジルジメチル−アンモニウムクロライド(DMBC)、ジメチルアミノエチル−アクリレート(DA)、アクリロイロキシエチル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMQ)、アクリロイロキシエチル−ベンジルジメチル−アンモニウムクロライド(DABC)、ジメチルアミノプロピル−アクリルアミド(DMAPAA)、アクリルアミドプロピル−トリメチルアンモニウム−クロライド(DMAPAAQ)等の水溶性モノマーの少なくとも一つからなる単一モノマー重合体又は複数種のモノマーの共重合体等もあげられる。これらの中でも、ポリアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンが好ましい。
【0030】
前記カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩等があげられる。具体的には、例えば、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等があげられ、これらの中でも、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウムエチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、ドデシルジメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライドが好ましい。
【0031】
前記処理液全量に対する前記凝集剤の配合量は、特に限定されず、例えば、多価金属塩であれば、例えば、1重量%〜30重量%であり、好ましくは、5重量%〜25重量%であり、例えば、カチオン性ポリマーであれば、例えば、0.1重量%〜15重量%であり、好ましくは、1重量%〜10重量%であり、例えば、カチオン性界面活性剤であれば、例えば、1重量%〜30重量%であり、好ましくは、4重量%〜25重量%である。前記凝集剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
前記処理液に用いられる水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記処理液全量に対する前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0033】
前記浸透剤は、tri−PBを含む。本発明の水性インクセットは、前記水性インクに、浸透剤として、tetra−PB及びpenta−PBを前記特定の重量比で、かつ、前記水性インク全量に対し前記特定の割合で用い、かつ、前記処理液に、浸透剤として、tri−PBを用いているため、前記水性インク及び前記処理液の併用により、紙面乾燥性の低下を抑制しつつ、従来の凝集剤を配合したのみの処理液を用いた水性インクセットと比べ、記録物の光学濃度(OD値)が更に向上する。また、本発明の水性インクセットは、前記水性インク及び前記処理液の双方において、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)の含有量が少ないため、一般的な水性インクセットと比べて環境負荷が低減され、ユーザに対する安全性がより高い。前記処理液全量に対するtri−PBの配合量は、特に限定されないが、好ましくは、1重量%〜10重量%である。
【0034】
前記処理液は、tri−PB以外の浸透剤を含んでもよい。
【0035】
前記処理液は、さらに、湿潤剤を含んでもよい。前記湿潤剤及びその配合量としては、前記水性インクにおける湿潤剤及びその配合量と同様である。
【0036】
前記処理液は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、前記水性インクにおける添加剤と同様である。
【0037】
前記処理液は、例えば、凝集剤、水及びtri−PBと、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合することにより調製できる。
【0038】
本発明の水性インクセットは、インクカートリッジとして提供することも可能である。例えば、本発明のインクカートリッジは、インク収納部及び処理液収納部を有し、インク収納部に本発明の水性インクが収納され、処理液収納部に本発明の処理液が収納されている。本発明のインクカートリッジにおいて、本発明の水性インク以外の水性インクの収納部を有してもよい。
【0039】
本発明のインクカートリッジは、別個独立に形成された水性インクカートリッジ及び処理液カートリッジが集合したインクカートリッジ集合体であってもよいし、インク収納部と処理液収納部とを形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジであってもよい。本発明のインクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0040】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について説明する。
【0041】
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録用水性インク及び処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法であって、記録媒体に前記処理液を付与する工程と、前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出する工程とを有し、前記水性インクセットとして、本発明のインクジェット記録用水性インクセットを用いることを特徴とする。
【0042】
本発明のインクジェット記録装置は、インクセット収容部と、処理液付与手段と、インク吐出手段とを含むインクジェット記録装置であって、前記インクセット収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクセットが収容され、前記水性インクセットを構成する前記処理液が、前記処理液付与手段によって記録媒体に付与され、前記水性インクセットを構成する前記水性インクが、前記インク吐出手段によって前記記録媒体に吐出されることを特徴とする。
【0043】
本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【0044】
本発明のインクジェット記録装置は、例えば、ライン型処理液用吐出ヘッド及びライン型インクジェットヘッド(以下、両者をまとめて「ライン型ヘッド」と言うことがある。)が搭載されたライン型インクジェット記録装置であってもよいし、シリアル型処理液用吐出ヘッド及びシリアル型インクジェットヘッド(以下、両者をまとめて「シリアル型ヘッド」と言うことがある。)が搭載されたシリアル型インクジェット記録装置であってもよい。前記ライン型インクジェット記録装置とは、記録媒体の幅以上の記録幅を持つライン型ヘッドを用い、前記ライン型ヘッドを固定した状態で前記記録媒体の幅方向の記録を一括して行うことができるインクジェット記録装置である。これに対し、前記シリアル型インクジェット記録装置では、シリアル型ヘッド自体が前記記録媒体の記録面の幅方向に移動しながら記録を行う。前記ライン型インクジェット記録装置は、前記シリアル型インクジェット記録装置と比較して、格段に記録速度が速い。本発明の水性インクセットは、紙面乾燥性の低下が抑制され、かつ、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性及びインクジェットヘッドのノズルにおけるメニスカス耐圧も向上し、水性インク及び処理液双方のVOCの含有量も少ないものなので、前記ライン型インクジェット記録装置による高速記録に適用することが好ましい。
【0045】
図1の模式図に、本発明のインクジェット記録装置の構成の一例を示す。本例のインクジェット記録装置101は、前記ライン型ヘッドを搭載し、記録媒体(例えば、記録用紙)Pの上面、すなわち、記録面に対し、インクジェット方式で、本発明の処理液及び水性インクを吐出する構成のライン型インクジェット記録装置である。図示のとおり、このライン型インクジェット記録装置101は、1つの処理液用カートリッジ1’と、4つのインクカートリッジ1と、1つの処理液付与手段(ライン型処理液用吐出ヘッド)2’と、4つのインク吐出手段(ライン型インクジェットヘッド)2と、給紙部11と、排紙部12と、ベルト搬送機構13と、ライン型インクジェット記録装置101全体を制御する制御装置16とを主要な構成要素として含む。給紙部11は、ベルト搬送機構13の一方の側(図1においては左側)に配置されている。排紙部12は、ベルト搬送機構13の他方の側(図1においては右側)に配置されている。
【0046】
ライン型インクジェット記録装置101の内部には、給紙部11からベルト搬送機構13を介し、排紙部12に向かって記録用紙Pを搬送する用紙搬送経路が形成されている。この記録用紙Pが搬送される方向を、用紙搬送方向Xとする。給紙部11は、用紙ストッカ11aと、ピックアップローラ11cとを含む。用紙ストッカ11aは、その内部に記録用紙Pを積層した状態で収容するものであり、その上面に開口部が形成されている。用紙ストッカ11aは、用紙搬送方向Xの下流側(図1においては右側、以下、「下流側」と言う。)に向かって傾斜した状態で配置されている。用紙ストッカ11a内には、底面から上方開口部に向かって、バネ11dにより付勢された支持板11bが配置されている。この支持板11b上に記録用紙Pが積層されている。ピックアップローラ11cは、載置モータ(図示せず)により駆動されることで、用紙ストッカ11a内に積層された記録用紙Pを上から一枚ずつピックアップする(取り出す)とともに、ピックアップした記録用紙Pを下流側に送り出すものである。給紙部11のすぐ下流側には、用紙検知センサ59が配置されている。用紙検知センサ59は、送り出された記録用紙Pが、ベルト搬送機構13の用紙搬送方向Xのすぐ上流側(図1においては左側)に位置する記録待機位置Aに到達したか否かを検知するためのものであり、記録待機位置Aにある記録用紙Pの下流側の端部を検知することができるように調整されている。送り出された記録用紙Pは、記録待機位置Aを通過して、ベルト搬送機構13に搬送される。
【0047】
ベルト搬送機構13は、2つのベルトローラ6及び7と、搬送ベルト8と、プラテン15と、搬送モータ(図示せず)とを含む。搬送ベルト8は、2つのベルトローラ6及び7の間に掛け渡されるように巻き回されたエンドレスベルトである。搬送ベルト8の外側の面を、外周面8aとする。プラテン15は、搬送ベルト8により囲まれた領域内において、後述のライン型処理液用吐出ヘッド2’及び4つのライン型インクジェットヘッド2と対向する位置に配置されている。プラテン15は、ライン型処理液用吐出ヘッド2’及び4つのライン型インクジェットヘッド2と対向する領域において、搬送ベルト8が下方に撓まないように搬送ベルト8を支持するものである。ベルトローラ7と対向する位置には、ニップローラ4が配置されている。ニップローラ4は、ベルト搬送機構13に搬送された記録用紙Pが、外周面8aに載置されたときに、この記録用紙Pを外周面8aに押さえつけるものである。前記搬送モータが、ベルトローラ6を回転させると、搬送ベルト8が駆動(回転)する。これにより、搬送ベルト8が、押さえつけられた記録用紙Pを粘着保持しつつ、排紙部12に向けて搬送する。搬送ベルト8のすぐ下流側には、剥離機構14が設けられている。剥離機構14は、外周面8aに粘着されている記録用紙Pを、外周面8aから剥離して、排紙部12に向けて送るように構成されている。
【0048】
処理液用カートリッジ1’は、本発明の処理液を含む。4つのインクカートリッジ1は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。前記4色の水性インクは、本発明の水性インクである。処理液用カートリッジ1’及び4つのインクカートリッジ1は、用紙搬送方向Xに沿って、ベルト搬送機構13上に並べて固定されている。処理液用カートリッジ1’及び4つのインクカートリッジ1それぞれの下端には、ライン型処理液用吐出ヘッド2’及びライン型インクジェットヘッド2が配置されている。搬送ベルト8によって搬送される記録用紙Pが、ライン型処理液用吐出ヘッド2’のすぐ下方を通過する際に、記録用紙Pの記録面に向けて、まず、処理液吐出面2a’から本発明の処理液が吐出される。
【0049】
前記処理液の吐出は、記録用紙Pの記録面の全面でもよく、一部でもよい。一部に吐出する場合、記録用紙Pの記録面の少なくとも水性インクによる記録領域が吐出部となる。一部に吐出する場合、吐出部の大きさは、記録領域よりも大きい方がよい。例えば、図3(a)に示すように、記録用紙Pに対し、文字(X)を記録する場合は、前記文字の線幅よりも大きな線幅で吐出部40を形成するように処理液を吐出することが好ましい。また、図3(b)に示すように、記録用紙Pに対し、図柄を記録する場合は、前記図柄よりも大きな吐出部50を形成するように処理液を吐出することが好ましい。
【0050】
ついで、搬送ベルト8によって搬送される記録用紙Pが、4つのライン型インクジェットヘッド2のすぐ下方を順に通過する際に、記録用紙Pの記録領域に向けて、インク吐出面2aからインク滴が吐出される。これにより、記録用紙Pの記録領域に所望の画像を形成することができる。本発明の水性インクセットは、紙面乾燥性の低下を抑制しつつ、従来の凝集剤を配合したのみの処理液を用いた水性インクセットと比べ、記録物の光学濃度(OD値)が更に向上する。さらに、本発明の水性インクセットでは、水性インクのアンキャップ状態のライン型インクジェットヘッドに放置したときの吐出安定性及びライン型インクジェットヘッドのノズルにおけるメニスカス耐圧も向上する。また、本発明の水性インクセットは、前記水性インク及び前記処理液の双方において、VOCの含有量が少ないため、一般的な水性インクセットと比べて環境負荷が低減され、ユーザに対する安全性がより高い。
【0051】
図1に示す装置は、ライン型ヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、シリアル型ヘッドを採用した装置であってもよい。
【0052】
図2の模式図に、前記インクジェット記録装置の構成のその他の例を示す。同図において、図1と同一部分には同一符号を付している。本例のインクジェット記録装置102は、ライン型インクジェットヘッド2を搭載し、記録用紙Pの記録面に対し、スタンプ塗布で、本発明の処理液を付与する構成のライン型インクジェット記録装置である。したがって、本例のライン型インクジェット記録装置102では、インクジェット方式による処理液の付与手段(図1における処理液用カートリッジ1’、ライン型処理液用吐出ヘッド2’及び処理液吐出面2a’)が無い。これら以外は、本例のライン型インクジェット記録装置102の構成は、前述の図1に示す装置と同じである。
【0053】
図示のように、本例のライン型インクジェット記録装置102では、図1における処理液用カートリッジ1’、ライン型処理液用吐出ヘッド2’及び処理液吐出面2a’の位置に、スタンプ41が配置されている。スタンプ41は、スタンプ部41aと処理液収容部41bとを含む。スタンプ部41aは、柔軟性のある高吸液性基材から形成されている。記録する場合、スタンプ部41aは、記録用紙Pの記録面と接触し、処理液収容部41bから供給される本発明の処理液を、記録用紙Pの記録面に付与する。その後、図1に示す装置におけるのと同様にして、本発明の水性インクにより、記録用紙Pの記録領域に所望の画像を形成する。
【0054】
図1及び図2に示す装置を用いたインクジェット記録方法のように、本発明の処理液は、前記水性インクの吐出に先立ち記録用紙Pに付与する前処理液として使用することが好ましい。これにより、例えば、前記水性インク中の着色剤の凝集効率を高めることができる。ただし、本発明は、これに限定されない。本発明では、記録用紙Pに前記水性インクを先に吐出した後、前記処理液を付与してもよいし、前記記録用紙Pへの前記処理液の付与と前記水性インクの吐出とを同時に行ってもよい。
【0055】
図1及び図2に示す装置では、記録用紙Pの記録面に対する本発明の処理液の付与をインクジェット方式及びスタンプ塗布で行うが、本発明は、これらに限定されない。前記インクジェット記録装置は、刷毛塗りやローラ塗布等の方式により、記録用紙Pの記録面に本発明の処理液が付与されてもよい。
【実施例】
【0056】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0057】
(水性インクの調製)
水性インク組成(表1)における、CAB−O−JET(登録商標)300を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、CAB−O−JET(登録商標)300に前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インクジェット記録用水性インク1〜14を得た。
【0058】
(処理液の調製)
処理液組成(表2)を、均一に混合して、処理液1〜10を得た。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
[実施例1〜10及び比較例1〜11]
表3及び表4に示すとおり、前記水性インク及び前記処理液を組み合わせることで、インクセットを得た。
【0062】
実施例及び比較例の水性インクセットについて、(a)光学濃度(OD値)評価、(b)紙面乾燥性評価、(c)水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価、(d)水性インクのメニスカス耐圧評価及び(e)総合評価を、下記の方法により実施した。
【0063】
(a)光学濃度(OD値)評価
図1に示すライン型ヘッドが搭載されたライン型インクジェット記録装置を用いて、実施例及び比較例の水性インクセットを構成する処理液及び水性インクの連続吐出により、XEROX社製の4200紙に、600dpi、100%Duty、処理液用吐出ヘッド及びインクジェットヘッドの1ノズル当たりの液滴量14pLでベタ記録を行った。ついで、前記ベタ記録部分の光学濃度(OD値)を、X−Rite社製の分光測色計SpectroEye(光源:D50、視野角:2°、濃度:ANSI T)により測定し、下記の評価基準に従って評価した。
【0064】
光学濃度(OD値)評価 評価基準
AA:ベタ記録部分のOD値が、1.27以上
A :ベタ記録部分のOD値が、1.24以上1.27未満
B :ベタ記録部分のOD値が、1.21以上1.24未満
C :ベタ記録部分のOD値が、1.21未満
【0065】
(b)紙面乾燥性評価
図1に示すライン型ヘッドが搭載されたライン型インクジェット記録装置を用いて、実施例及び比較例の水性インクセットを構成する処理液及び水性インクの連続吐出により、XEROX社製の4200紙に、600dpiで100%ベタを記録し、前記ベタ記録後、紙面上から処理液及び水性インクがなくなるまでの時間を計測し、紙面乾燥性を、下記の評価基準に従って評価した。
【0066】
紙面乾燥性評価 評価基準
AA:3秒以内に、紙面上から処理液及び水性インクがなくなった
A :3秒を超えて5秒以内に、紙面上から処理液及び水性インクがなくなった
B :5秒を超えて10秒以内に、紙面上から処理液及び水性インクがなくなった
C :10秒を超えた後、紙面上から処理液及び水性インクがなくなった
【0067】
(c)水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価
図1に示すライン型ヘッドが搭載されたライン型インクジェット記録装置において、温度40℃、相対湿度20%の環境下で、ライン型インクジェットヘッドをキャップをしない状態で7秒間放置した後、実施例及び比較例の水性インクセットを構成する水性インクの吐出により、住友3M社製のインクジェットプリンタ用OHPフィルム(商品名:CG3410)に1ドットの横罫線を5本記録し、前記放置なしの連続記録で形成した横罫線(リファレンス)との比較により、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性を、下記の評価基準に従って評価した。
【0068】
水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価 評価基準
AAA:1本目の横罫線からドットの記録遅れ及び不吐出がなく、リファレンスと同等であった
AA :2本目の横罫線からドットの記録遅れ及び不吐出がなく、リファレンスと同等であった
A :3本目の横罫線からドットの記録遅れ及び不吐出がなく、リファレンスと同等であった
B :4本目の横罫線からドットの記録遅れ及び不吐出がなく、リファレンスと同等であった
C :5本目の横罫線からドットの記録遅れ及び不吐出がなく、リファレンスと同等であった
【0069】
(d)水性インクのメニスカス耐圧評価
図4に示すように、実施例及び比較例の水性インクセットを構成する水性インクを、インクカートリッジ301からライン型インクジェットヘッド30に導入した後、吸引ポンプ322を停止させ、加圧ポンプ321を用いて圧力をかけた。前記圧力を高めていき、ライン型インクジェットヘッド30のノズルから前記水性インクの漏れが生じたときの圧力を求め、水性インクのメニスカス耐圧を、下記の評価基準に従って評価した。なお、図4において、91及び92はジョイントであり、310及び320はチューブ(水性インクの流路)であり、303は廃液タンクである。
【0070】
水性インクのメニスカス耐圧評価 評価基準
A:5kPa以上で、水性インクの漏れが生じた
B:4kPa以上5kPa未満で、水性インクの漏れが生じた
C:4kPa未満で、水性インクの漏れが生じた
【0071】
(e)総合評価
実施例及び比較例について、前記(a)〜(d)の結果から、下記の評価基準に従って総合評価を行った。
【0072】
総合評価 評価基準
A:(a)〜(d)の結果に、B又はCが無かった
B:(a)〜(d)の結果のいずれに、Bがあった
C:(a)〜(d)の結果のいずれに、Cがあった
【0073】
実施例の評価結果を、表3に示す。また、比較例の評価結果を、表4に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
表3に示すとおり、実施例1〜10の水性インクセットでは、光学濃度(OD値)、紙面乾燥性、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性及び水性インクのメニスカス耐圧の全ての評価結果が良好であった。特に、前記水性インクにおいて、前記重量比(X:Y)を、X:Y=70:30〜85:15とした実施例1〜3及び10の水性インクセットでは、光学濃度(OD値)、紙面乾燥性、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性及び水性インクのメニスカス耐圧がバランス良く向上していた。また、前記処理液において、tri−PBの配合量を1重量%〜10重量%とした実施例1〜9の水性インクセットでは、光学濃度(OD値)がより向上していた。また、前記処理液において、浸透剤の配合量を15.0%とした実施例10の水性インクセットでは、紙面乾燥性がより向上していた。
【0077】
一方、表4に示すとおり、前記水性インクにおいて、浸透剤を用いていない比較例1の水性インクセットでは、紙面乾燥性評価及び水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価の結果が悪かった。前記水性インクにおいて、tetra−PBを用いていない比較例2の水性インクセットでは、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価の結果が悪かった。前記水性インクにおいて、penta−PBを用いていない比較例3の水性インクセットでは、水性インクのメニスカス耐圧評価の結果が悪かった。
【0078】
前記水性インクにおいて、前記合計配合量(X+Y)を15重量%とした比較例4の水性インクセットでは、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価及び水性インクのメニスカス耐圧評価の結果が悪かった。
【0079】
前記水性インクにおいて、浸透剤として、tetra−PB及びpenta−PBに代えて、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(di−PB)又はジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(DPP)を用いた比較例5及び6の水性インクセットでは、水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価及び水性インクのメニスカス耐圧評価の結果が悪かった。前記水性インクにおいて、浸透剤として、tetra−PB及びpenta−PBに代えて、トリエチレングリコールメチルエーテルを用いた比較例7の水性インクセットでは、紙面乾燥性評価及び水性インクのアンキャップ状態のヘッドに放置したときの吐出安定性評価の結果が悪かった。
【0080】
前記処理液において、浸透剤を用いていない比較例8の水性インクセットでは、紙面乾燥性評価の結果が悪かった。前記処理液において、浸透剤として、tri−PBに代えて、di−PB又はDPPを用いた比較例9及び10の水性インクセットでは、光学濃度(OD値)評価の結果が悪かった。前記処理液において、浸透剤として、tri−PBに代えて、トリエチレングリコールメチルエーテルを用いた比較例11の水性インクセットでは、紙面乾燥性評価の結果が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明の水性インクセットは、紙面乾燥性の低下を抑制しつつ、記録物の光学濃度(OD値)が向上したものである。本発明の水性インクセットの用途は、特に限定されず、各種のインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
1、301 インクカートリッジ
1’ 処理液用カートリッジ
2、30 ライン型インクジェットヘッド
2’ ライン型処理液用吐出ヘッド
4 ニップローラ
6、7 ベルトローラ
8 搬送ベルト
11 給紙部
11a 用紙ストッカ
11b 支持板
11c ピックアップローラ
11d バネ
12 排紙部
13 ベルト搬送機構
14 剥離手段
15 プラテン
16 制御装置
41 スタンプ
41a スタンプ部
41b 処理液収容部
59 用紙検知センサ
91、92 ジョイント
101、102 ライン型インクジェット記録装置
303 廃液タンク
310、311 チューブ(水性インクの流路)
321 吸引ポンプ
322 加圧ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録用水性インク及び処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットであって、
前記水性インクは、着色剤、水及び浸透剤を含み、
前記水性インクにおける浸透剤は、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及びペンタエチレングリコールモノブチルエーテルを含み、
前記水性インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテル(X)及びペンタエチレングリコールモノブチルエーテル(Y)の重量比(X:Y)が、X:Y=50:50〜90:10であり、
前記水性インク全量に対するテトラエチレングリコールモノブチルエーテル(X)及びペンタエチレングリコールモノブチルエーテル(Y)の合計配合量(X+Y)が、X+Y=1重量%〜10重量%であり、
前記処理液は、凝集剤、水及び浸透剤を含み、
前記処理液における浸透剤が、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを含むことを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項2】
前記水性インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテル(X)及びペンタエチレングリコールモノブチルエーテル(Y)の重量比(X:Y)が、X:Y=70:30〜85:15であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項3】
前記処理液全量に対するトリエチレングリコールモノブチルエーテルの配合量が、1重量%〜10重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項4】
インクジェット記録用水性インク及び処理液を含むインクジェット記録用水性インクセットを用いて記録するインクジェット記録方法であって、
記録媒体に前記処理液を付与する工程と、
前記記録媒体に前記水性インクをインクジェット方式により吐出する工程とを有し、
前記水性インクセットとして、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクセットを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】
インクセット収容部と、処理液付与手段と、インク吐出手段とを含むインクジェット記録装置であって、
前記インクセット収容部に、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクセットが収容され、
前記水性インクセットを構成する前記処理液が、前記処理液付与手段によって記録媒体に付与され、
前記水性インクセットを構成する前記水性インクが、前記インク吐出手段によって前記記録媒体に吐出されることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−213921(P2012−213921A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80930(P2011−80930)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】