説明

インクジェット記録用水性インクセット及びインクジェット記録方法

【課題】粒状感を低減させることができるインクジェット記録用水性インクセットを提供し、さらにこのインクセットを使用するインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】少なくとも水及び水溶性有機溶剤を含み、着色剤を実質的に含まない希釈インクと、少なくとも着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む1種以上の着色インクとの組み合わせからなるインクジェット記録用水性インクセットにおいて、希釈インクの動的表面張力を着色インクの動的表面張力よりも高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インクセット及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、種々のインク吐出方式、例えば静電吸引方式、圧電素子を用いてインクに機械的振動又は変位を与える方式、インクを加熱することにより気泡を発生させ、その時に発生する圧力を利用する方式等により、インク小滴を形成し、それらの一部もしくは全部を紙等の被記録材に付着させて記録を行うものである。
【0003】
このようなインクジェット記録方法を行うインクジェットプリント装置において、階調を有するプリントを行う場合、一般的には被記録材上に形成されるインクのドット密度によって濃度を定める方法がとられている。しかしながら、この方法では低濃度部においてドット密度が減少するため、相対的に個々のドットが視認され易くなり、その結果として、低濃度部では画像が粒状感を呈するという問題が従来より知られている。
【0004】
この問題に対し、同一色のプリントを行う場合に、例えば染料濃度の異なる複数種類のインクを併用し、低濃度部ではより染料濃度の低いインクを用いることにより粒状感の低減を図る構成が知られている(特許文献1)。また、相互に同一色の低濃度インクと高濃度インクを使用し、低濃度インクの表面張力を高濃度インクの表面張力より低くすること(特許文献2)や、着色剤を含まない無色インクと着色剤を含む有色インクを使用し、無色インクの表面張力を着色インクの表面張力よりも低くすること(特許文献3,4)により、インクの浸透性と定着性を向上させることが提案されている。しかしながら、これらのインク構成では、低濃度部の画像の粒状感を解消するには到っていない。さらに、特許文献2のインク構成では、インクの色ごとに低濃度インクと高濃度インクが必要とされるのでインクセットを構成するインク種が増加し、インクジェットプリント装置においてインクジェットヘッドのノズル群も増加し、コストが高くなるという問題もある。
【特許文献1】特開平1−95093号公報
【特許文献2】特開2001−179956号公報
【特許文献3】特開昭63−315284号公報
【特許文献4】特開2002−121438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の問題点を解決するものであり、低濃度部の画像において粒状感を低減させることができるインクジェット記録用水性インクセットとインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、着色剤を実質的に含まない希釈インクと、着色剤を含む着色インクからなるインクジェット記録用水性インクセットにおいて、希釈インクと着色インクの動的表面張力の調整により粒状感を低減させることが可能であり、結果的にインクセットで必要とされるインク種の数の増加も抑制され、インクジェットヘッドのノズル群の大幅な増加を抑制できることを見出して本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、少なくとも水及び水溶性有機溶剤を含み、着色剤を実質的に含まない希釈インクと、
少なくとも着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む1種以上の着色インクからなるインクジェット記録用水性インクセットであって、
希釈インクの動的表面張力が、着色インクの動的表面張力よりも高いことを特徴とするインクジェット記録用水性インクセットを提供する。
【0008】
また、本発明は、このインクジェット記録用水性インクセットを使用し、希釈インクと着色インクとを重ね打ちすることを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインクジェット記録用水性インクセット及びインクジェット記録方法によれば、希釈インクと着色インクとを重ね打ちするにあたり、希釈インクの動的表面張力を着色インクの動的表面張力よりも高くしているので、被記録材で着色インクが希釈インクによって混和希釈される。したがって、インクのドット密度を低減させることなく低濃度の画像を表現することが可能となる。よって、低濃度部の画像の粒状感が低減し、良好なプリント品質を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、希釈インクと着色インクを用いて画像を形成するにあたり、希釈インクは、任意の色の着色インクと組み合わせて使用することができるので、着色インクの色数分だけ低濃度部を表現するために使用するインクを揃えることが不要となり、インクジェットヘッドにおけるノズル群の大幅な増加が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、少なくとも水及び水溶性有機溶剤を含み、着色剤を実質的に含まない希釈インクと、少なくとも着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む1種以上の着色インクからなり、希釈インクの動的表面張力が、着色インクの動的表面張力よりも高いことを特徴としている。この動的表面張力は、静的表面張力と異なり、ライフタイムが数10〜数1000msオーダーでの表面張力であり、インクが被記録材に着弾した際のインクの被記録材への浸透性に大きく影響する。即ち、動的表面張力が高いとインクの被記録材への浸透性が低くなり、インクの乾燥性が悪くなる。逆に動的表面張力が低いとインクの被記録材への浸透性が高くなり、インクの乾燥性は良好となる。そこで、本発明においては、水の含量、水溶性有機溶剤の種類、水溶性有機溶剤の含量、界面活性剤の種類、界面活性剤の含量等を適宜調整することにより、希釈インクの動的表面張力を着色インクよりも高くする。そして、希釈インクと着色インクを重ね打ちすることにより着色インクが希釈インクで混和希釈され、低濃度画像を良好に表現できるようにする。
【0013】
動的表面張力の好ましい値は、25℃の条件下で最大泡圧法(バブルプレッシャー法)によりライフタイム100msで測定した値として、希釈インクでは50mN/m以上70mN/m以下であり、着色インクでは35mN/m以上45mN/m以下である。希釈インクの動的表面張力を50mN/m以上とすることにより、希釈インクの被記録材への浸透性を低下させ、被記録材上で着色インクを希釈インクによって混和希釈することが容易となる。一方、希釈インクの動的表面張力が70mN/mを超えるとインクジェットヘッドからの希釈インクの吐出が困難となるため70mN/m以下とすることが好ましい。
【0014】
また、着色インクの動的表面張力を35mN/m以上とすることにより、着色インクが被記録材に過度に浸透することによるフェザリング(被記録材にプリントした際に生じる、被記録材の繊維に沿った不規則なインクの流れや繊維間への不規則なインクの浸透)を防止し、またインクジェットヘッドのノズル面の撥水性が過度に低下することによるインクの吐出安定性の低下を防止できる。一方、着色インクの動的表面張力を45mN/m以下とすることにより、被記録材上での着色インクの乾燥性が優れるようになる。
【0015】
なお、一般に、動的表面張力は、振動ジェット法、メニスカス法、最大泡圧法等によって測定されることが知られているが、上述の動的表面張力の好ましい値は、最大泡圧法で上述の条件により測定された場合の数値である。
【0016】
また、一般的なインクジェット記録方法において、インクが被記録材に着弾した際のインクの被記録材に対する浸透現象は、数10msオーダーであるが、本発明では、動的表面張力の測定誤差等を勘案し、その測定精度が安定するライフタイム100msでの値を規定している。
【0017】
最大泡圧法による動的表面張力の測定は、気体供給源から気体をプローブに送り、そのプローブをインクに浸してプローブ先端から気泡を発生させる際に気体流量を変化させることにより気体発生速度を変え、そのときのインクから気泡にかかる圧力の変化を測定し、次式により動的表面張力を求めるものである。
【0018】
【数1】

式中、rはプローブ先端部分の半径である。
ΔPは気泡にかかる圧力の最大値と最小値との差であり、気泡にかかる圧力は、気泡の曲率半径がプローブ先端部分の半径と等しい時に最大となる(最大泡圧)。
【0019】
また、動的表面張力の測定におけるライフタイムとは、最大泡圧後に気泡がプローブから離れ、プローブに新しい表面が形成されてから次の最大泡圧に達するまでの時間である。
【0020】
なお、最大泡圧法による動的表面張力の測定は、例えば、協和界面科学(株)製の動的表面張力計BP−D4を用いて測定することができる。
【0021】
本発明においては、希釈インクと着色インクに、動的表面張力について上述の関係をもたせる他、これらのインクが相互間で反応しないようにする。希釈インクと着色インクが相互に反応すると、希釈インクと着色インクとを重ね打ちした際に着色剤などが凝集し、被記録材上で混和希釈しにくくなり、その結果、粒状感低減の効果を得られなくなるので好ましくない。
【0022】
一方、本発明のインクジェット記録用水性インクセットにおいて、希釈インク、着色インクに使用する水としては、イオンを含有する一般の水ではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量は、水溶性有機溶剤の種類、インク組成あるいは所望とされるインクの特性に依存して広い範囲で決定されるが、インク全量に対して一般に10〜95重量%、好ましくは10〜80重量%、より好ましくは20〜80重量%の範囲である。10重量%未満であるとインクの粘度が上昇するため吐出が困難となり、95重量%を超えると水分蒸発によって着色剤や添加剤の析出、凝集などが生じてインクジェットヘッドのノズルに目詰まりが起きやすくなるため好ましくない。
【0023】
また、本発明の希釈インク及び着色インクに使用する水溶性有機溶剤は、湿潤剤と浸透剤に大別される。湿潤剤として使用する水溶性有機溶媒は、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止するためにインクに添加される。湿潤剤の具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の水溶性グリコールが挙げられる。湿潤剤としての水溶性有機溶剤の含有量は、一般的には各インク全量に対して5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、より好ましくは15〜35重量%の範囲である。5重量%未満であるとインクジェットヘッドのノズルの目詰まりを防止するために不充分であり、50重量%を超えるとインクの粘度が上昇し、吐出が困難となるため好ましくない。
【0024】
浸透剤として使用する水溶性有機溶媒は、各インクをプリントした際、各インクを被記録材内部に浸透させるため及び各インクの表面張力を調整するためにインクに添加される。浸透剤の具体例としては、エチレングリコール系及びプロピレングリコール系のアルキルエーテルに代表されるグリコールエーテル等が挙げられる。エチレングリコール系アルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールイソブチルエーテル等が挙げられ、プロピレングリコール系アルキルエーテルの具体例としては、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等が挙げられる。
【0025】
浸透剤としての水溶性有機溶剤の含有量は、希釈インクの場合、一般的には、該希釈インクの1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下である。1重量%を超えると過剰な浸透性によって、被記録材上で着色インクを混和希釈し難くなり、低濃度部の画像の粒状感を低減させること困難となるので好ましくない。一方、着色インクの場合には、一般的に、該着色インクの1〜10重量%、好ましくは1〜7重量%の範囲である。1重量%未満であると浸透性が不充分であり、10重量%を越えると過剰な浸透性によってフェザリングなどのにじみを生じやすくなるため実用上好ましくない。
【0026】
本発明において、着色インクには、上述の湿潤剤及び浸透剤に加え、インクジェットヘッドの先端部におけるインクの乾燥を防止したり、プリント濃度を高くしたり、鮮やかな発色をさせたりする等の目的で、さらに異なる水溶性有機溶剤を含むことができる。これら水溶性有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;グリセリン;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0027】
本発明の希釈インク及び着色インクには、各インクの表面張力の調整のため、各種の界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等の陰イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0028】
本発明において、インクジェット記録用水性インクセットを構成する着色インクは、例えば、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクから選ばれる1種又は複数であり、これらの着色インクはそれぞれ着色剤を含有するが、希釈インクは着色剤を実質的に含有しない。ここで、希釈インクが着色剤を実質的に含有しないとは、希釈インクを任意の色の着色インクと混合した場合に、着色インクの濃度は低下するが、色味は変化しない程度に希釈インクが無色透明であることをいい、例えば波長300〜700nmの可視光領域において強大な吸収ピークが存在しないことをいう。
【0029】
ここで着色剤としては、水溶性染料及び/又は顔料を挙げることができる。このうち水溶性染料としては、特にインクジェット記録方式のインクとして好適で、鮮明性、水溶性、安定性、耐光性及びその他の要求される性能を満たすものとして、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料等が用いられる。さらに、染料の構造で分類すれば、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、アニリン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料及び金属フタロシアニン染料等が好ましい。
【0030】
水溶性染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトブラック17,19,32,51,71,108,146,154及び168、C.I.ダイレクトイエロー12,24,26,27,28,33,39,58,86,98,100,132及び142、C.I.ダイレクトレッド4,17,28,37,63,75,79,80,83,99,220,224及び227、C.I.ダイレクトバイオレット47,48,51,90及び94、C.I.ダイレクトブルー1,6,8,15,25,22,25,71,76,80,86,90,106,108,123,163,165,199及び226等の直接染料;C.I.アシッドブラック2,7,24,26,31,52,63,112及び118、C.I.アシッドイエロー3,11,17,19,23,25,29,38,42,49,59,61,71及び72、C.I.アシッドレッド1,6,8,17,18,32,35,37,42,51,52,57,80,85,87,92,94,115,119,131,133,134,154,181,186,249,254,256,289,315,317及び407、C.I.アシッドバイオレット10,34,49及び75、C.I.アシッドブルー9,22,29,40,59,62,93,102,104,113,117,120,167,175,183,229及び234等の酸性染料;C.I.ベーシックブラック2、C.I.ベーシックイエロー40、C.I.ベーシックレッド1,2,9,12,13,14及び37、C.I.ベーシックバイオレット7,14及び27、C.I.ベーシックブルー1,3,5,7,9,24,25,26,28及び29等の塩基性染料;C.I.リアクティブイエロー2,3,13及び15、C.I.リアクティブレッド4,23,24,31,56及び180、C.I.リアクティブブルー7,13及び21等の反応性染料が挙げられる。
【0031】
着色インクにおける水溶性染料の含有量は、所望とされるプリント濃度及び色彩により異なるが、インク全量に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜7重量%の範囲である。0.1重量%未満であると被記録材上での発色が不充分であり、10重量%を越えるとインクジェットヘッドのノズルの目詰まりが起きやすくなるため好ましくない。
【0032】
また、着色インクに使用される顔料につき、ブラック系顔料としては、例えば、MA8,MA100(三菱化成(株)製)、カラーブラックFW200(デグサ製)等のカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、分散剤なしで水に分散又は溶解が可能な自己分散顔料を用いても良い。自己分散顔料は、顔料表面にカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はスルホン基のような少なくとも一種の親水基又はその塩を結合させるように表面処理をすることによって得ることができる。例えば、特開平8−3498号公報及び特表2000−513396号公報記載の方法によって表面処理された自己分散顔料等が挙げられる。また、自己分散顔料として、例えば、CAB−O−JET(登録商標)200、300(キャボット製)、ボンジェット(登録商標)CW1(オリエント化学工業(株)製)等の市販品を利用することも可能である。
【0033】
イエロー系顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー3,13,74,83及び154等が、マゼンタ系顔料としては、C.I.ピグメントレッド5,48,112,122,177,202及び207等が、シアン系顔料としては、C.I.ピグメントブルー15,15:3,15:4,16及び60等が挙げられる。
【0034】
着色インクに含まれる顔料の含有量は、一般的には該インクの1〜10重量%、好ましくは1〜7重量%の範囲である。1重量%未満であると被記録材上での発色が不充分であり、10重量%を越えるとインクジェットヘッドのノズルの目詰まりが起きやすくなるため好ましくない。
【0035】
本発明の希釈インク及び着色インクの基本組成は以上の通りであるが、その他従来公知の界面活性剤;ポリビニルアルコール、セルロースなどの粘度調整剤;防黴剤;防錆剤等を必要に応じて添加することができる。
【0036】
本発明のインクジェット記録方法は、上述した特徴を有するインクジェット記録用水性インクセットを使用し、低濃度画像の形成時には、希釈インクと着色インクとの重ね打ちを行ない、低濃度の画像の粒状感を解消するものである。
【0037】
このインクの重ね打ちは、被記録材の所定の記録部分への希釈インクと着色インクの着弾がほぼ同時になされるようにする。ここで、希釈インクと着色インクの着弾がほぼ同時であるとは、双方のインクが被記録材の所定部分に着弾後、浸透、乾燥する前に、互いのインクが混和する程度に近接した時間内に着弾することをいい、通常、着弾のずれ時間が1秒以内であることをいう。
【0038】
また、希釈インクと着色インクとの重ね打ちに際しては、好ましくは、希釈インクを先に着弾させ、その後着色インクを着弾させる。これにより、希釈インクによる着色インクの混和希釈がより円滑に進行する。
【0039】
重ね打ちする希釈インクと着色インクの体積割合は、着色インクの吐出体積に対して希釈インクの吐出体積を50%〜300%とすることが好ましい。その際、必要に応じて、希釈インクの吐出体積に階調性をもたせてもよい。これにより従来の低濃度インク(ライトインク)よりも、さらに薄い濃度においても、グラデーションを作ることができる。
【0040】
なお、本発明のインクジェット記録方法において、インク吐出方式には特に制限はなく、静電吸引方式、圧電素子を用いる方式、サーマル方式等をあげることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0042】
(1)インクの調製
以下に示す方法により、希釈インク 3種と、着色インク20種(ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色インクについてそれぞれ5種)を、表1及び表2に示す組成に調製した。
【0043】
(1-1)希釈インクの調製
各希釈インクについて、表1のインク成分を混合し、30分間撹拌を続けた後に、孔径1μmのメンブランフィルターにて濾過することにより希釈インク1〜3を調製した。
【0044】
(1-2)着色インクの調製
各着色インクについて、表1、表2に示す各インクの成分中、着色剤以外の成分を混合することにより、まずインク溶媒を調製し、次に着色剤成分を攪拌中のインク溶媒に加え、さらに30分間撹拌を続けた後に、孔径1μmのメンブランフィルターにて濾過し、ブラックインク1〜5、イエローインク1〜5、マゼンタインク1〜5、シアンインク1〜5を調製した。
【0045】
(1-3)動的表面張力測定
(1-1)及び(1-2)で調製した各インクについて、協和界面科学(株)製の動的表面張力計BP−D4を用いて、25℃、ライフタイム20〜5000msの範囲で動的表面張力測定を行ない、ライフタイム100msにおける値を読み取った。この結果を表1及び表2に示した。
【0046】
(2)インクセットの構成
(1)で調製したインクを表3に示した通りに組み合わせ、実施例1〜8及び比較例1〜2のインクセットとした。
【0047】
(3)プリント試験
(3-1)グラデーションサンプルの作成
各インクセット毎にインクを所定のインクカートリッジに充填し、ブラザー工業(株)製インクジェットプリンター搭載デジタル複合機MFC−5200Jを使用して、普通紙(m−real製DATA COPY紙)及び光沢紙(富士写真フィルム(株)製画彩(登録商標)写真仕上げ)に、粒状感評価用として、ブラック、イエロー、マゼンタ及びシアンのグラデーションサンプルを記録した。この際、希釈インクを含むインクセットでは、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク又はシアンインクといった着色インクを記録すべき部分に、まず希釈インクを吐出し、次いで、希釈インクと等量の着色インクを重ね打ちした。また、グラデーションサンプルは、重ね打ちしたドットの密度に変化をもたせることにより形成した。
【0048】
(3-2)テキストプリントの作成
フェザリングと紙面乾燥性の評価用に、(3-1)と同様の複合機を用いて、普通紙に希釈インクを併用せずに各インクのテキストプリントサンプルを作成した。
【0049】
(4)評価
(4-1)粒状感評価
粒状感評価は、(3-1)の各色のグラデーションサンプルにおける低濃度部分を目視により観察し、粒状感を以下の通り評価した。その結果を表3に示した。
◎…粒状感が認められない
○…粒状感がほとんど目立たない
△…粒状感が目立つ
×…粒状感が著しく目立ち、実用には向かない
【0050】
(4-2)フェザリング評価
(3-2)の各色のテキストプリントサンプルを目視により観察し、画像に与える影響を以下の通り評価した。その結果を表3に示した。
◎…フェザリングが認められない
○…フェザリングがほとんど目立たない
△…フェザリングが目立つ
×…フェザリングが著しく目立ち、実用には向かない
【0051】
(4-3)紙面乾燥性評価
(3-2)の各色のテキストプリントサンプルをプリント後15秒後に指で擦り、インクの擦れを目視観察し、以下の通り評価した。その結果を表3に示した。
◎…インクの擦れが認められない
○…インク擦れがほとんど目立たない
△…インク擦れが目立つ
×…インク擦れが著しく目立ち、実用には向かない。































【0052】
【表1】

【0053】
【表2】









【0054】
【表3】

【0055】
実施例1〜8のインクセットは、希釈インクの動的表面張力が、着色インクの動的表面張力よりも高かったので、これらの粒状感はいずれも実用上使用できるものであった。
【0056】
また、希釈インクを着色インク記録部分に重ね打ちする際、重ね打ちする希釈インクの吐出体積を着色インクに対して階調させることにより、さらに粒状感を低減させたグラデーションサンプルを得ることもできた。
【0057】
特に、実施例1〜5のインクセットでは、25℃の条件下にて最大泡圧法で測定されたライフタイム100msにおける動的表面張力が、希釈インクでは50mN/m以上70mN/m以下であり、着色インクでは35mN/m以上45mN/m以下であるため、粒状感及びフェザリングが目立たず、紙面乾燥性も良好であった。
【0058】
一方、比較例1〜2のインクセットは、実施例1〜8のインクセットと異なり、希釈インクを持たないか(比較例1)あるいは、希釈インクの動的表面張力が着色インクの動的表面張力よりも低い(比較例2)ので、粒状感が著しく目立ち、実用に向かないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水及び水溶性有機溶剤を含み、着色剤を実質的に含まない希釈インクと、
少なくとも着色剤、水及び水溶性有機溶剤を含む1種以上の着色インクからなるインクジェット記録用水性インクセットであって、
希釈インクの動的表面張力が、着色インクの動的表面張力よりも高いことを特徴とするインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項2】
25℃の条件下で最大泡圧法(バブルプレッシャー法)によりライフタイム100msで測定された動的表面張力について、希釈インクの動的表面張力が50mN/m以上70mN/m以下であり、着色インクの表面張力が35mN/m以上45mN/m以下である請求項1記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項3】
希釈インクと着色インクが、相互間で反応しない請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項4】
前記着色インクが、ブラックインク、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用水性インクセットを使用し、希釈インクと着色インクとを重ね打ちすることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
着色インクを、希釈インクを記録した部分に重ね打ちする請求項5記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
重ね打ちの際に、着色インクの吐出体積に対して希釈インクの吐出体積に階調性をもたせる請求項5又は6記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2006−232933(P2006−232933A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47631(P2005−47631)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】