説明

インクジェット記録用紙

【課題】 キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙において、ギロチン断裁適性に優れ、非塗工面のインクジェット記録適性にも優れたインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】 透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法により表面に平均一次粒子径が150nm以下のコロイダルシリカが存在するインク受理層を設け、インク受理層の反対面に金属石鹸、好ましくはステアアリン酸亜鉛及び/またはステアアリン酸カルシウムを主成分とする塗工層を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録方式に適用するインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インクあるいは色剤を分散させた顔料インクを微細なノズルから吐出することによって記録用紙に画像を形成するインクジェット記録方式は、フルカラー印刷でのコストパフォーマンスに優れ、高速記録も可能であることから記録が必要な種々の機器に搭載され利用されている。
【0003】
一方、デジタルカメラの普及とインクジェット記録方式の高精細化により従来の銀塩写真に代わりインクジェット記録方式による写真出力が増加している。写真用のインクジェット記録用紙には、画像再現性とインク吸収性に優れること、高い平滑度と光沢度、保存性等が求められる。
【0004】
写真用インクジェット記録用紙は、支持体上に印字されたインクを吸収するため多孔状態の微細粒子を含有するインク吸収層を塗工し、また、そのインク吸収層は、インクを吸収して保持しながらも高い発色性を有し、かつ鮮明である必要があるため高い透明性が必要である。さらに該塗工層の上に、銀塩写真用紙と同等以上の高い光沢性を付与するため、キャストコート法で光沢層を製造し、写真用インクジェット用紙を製造するのが一般的である。キャストコート法は顔料と結着剤を主成分とする塗工液を基紙上に塗工して塗工層を設け、その塗工層を鏡面仕上げした加熱ドラムに押し当て、乾燥と同時に鏡面を写し取る方法である。キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着して乾燥するウェットキャストコート法(直接法)、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥あるいは半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するリウェットキャストコート法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに圧着し乾燥するゲル化キャストコート法(凝固キャストコート法)、の3種類が一般に知られている。各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同一である。こうして得られた写真用インクジェット記録用紙は表面が平滑で艶があり従来の銀塩写真の代替としてなりうるものである。
【0005】
しかし、一般的な上質紙などの透気性のある基材に、このような片面だけにインクジェット印刷方式で印刷できる塗工層を設けた紙は表裏の特性が大きく異なるため、カールの制御が困難であったり、また塗工層面はキャストコートにより平滑が高いため非塗工面(裏面)との間の摩擦係数が大きくなるといった問題が生じやすい。カールは、温度や湿度による用紙の伸縮率が表裏で異なるために発生し、時には印刷時にプリンターでの搬送性を低下させ、作業効率を低下させる懸念がある。また、キャストコートにより製造されたインクジェット記録用紙はシート状で供給される場合があり。この場合はギロチン断裁の工程があり、上述した塗工層面と非塗工面(裏面)との間の静摩擦係数の制御が重要である。写真用インクジェット用紙は、用紙表面に写真調の光沢が必要であるため光沢発現に優れるアルミナ微粒子やシリカ微粒子が用いられている。特に、近年は安価で光沢発現能力に優れるコロイダルシリカが使用されることが多い。しかし、一方で、コロイダルシリカは元来、静摩擦係数を高める働きもあるため、コロイダルシリカを主成分とする塗工層が最表面にある場合は非塗工面との静摩擦係数が大きくなり、特に静御することが難しくなる。
【0006】
また、キャスト塗工層と非塗工面との静摩擦係数が高いことで発生する塗工層欠落は、ギロチン断裁包丁のダレ面側でのみ発生する。これはギロチン断裁の工程として、クランプゲージに束が押さえられ、その押さえられた方が断裁包丁のストレート面側となる。ストレート面側はクランプゲージで紙同士が押さえられているため擦れることも無く垂直に断裁されるため大きな欠陥は発生しない。一方、断裁包丁の刃ダレ面側は押さえも無く、また断裁包丁も刃先として角度があるために、強い圧力が加わると同時にキャストコート面と非塗工面が擦られながら断裁される。この断裁される瞬間に、特に刃先近くの端部であり、かつ断裁束の下部では大きな圧力と大きな静摩擦力によって、断裁端部のキャストコート面の塗工層と非塗工面が擦られ、塗工層が欠損する現象が発生する場合がある。近年のインクジェットプリンターは、縁なし印刷も可能であるため、このような端部のインクジェット記録層が欠損した用紙に印刷した場合には著しく画像が見劣りする。
【0007】
インクジェット記録用紙の静摩擦係数の制御に、非塗工面に脂肪族炭化水素系樹脂、たとえばポリエチレンエマルジョンやアルキルケテンダイマー、または金属石鹸の塗工液による処理を施し、プリンター搬送性を改善しようとした例はあった(例えば、特許文献1)。しかし、この特許では、インクジェット記録用紙が高い平滑性を有する写真用の光沢インクジェット記録用紙ではなく、水溶性高分子接着剤と混合して使用した場合には目的とする静摩擦係数の制御ができずギロチン断裁適性を向上させることはできなかった。さらに、ギロチン断裁適性として、非塗工面にポリエチレンエマルジョンまたはアルキルケテンダイマーを塗布し、静摩擦係数を低下させたインクジェット記録用シートの提案がなされている(例えば、特許文献2および3参照。)。しかし、非塗工面にポリエチレンエマルジョンまたはアルキルケテンダイマー塗布すると、ギロチン断裁適性は一応の改善はみられるものの、非塗工面側にオフセット印刷等の印刷を行った後にインクジェット記録用紙が波打ちを生じてしまいやすく、オフセット印刷の条件によっては、オフセット印刷後のギロチン断裁適性が劣る場合もあった。また、非塗工面側に鮮明なインクジェット記録を行うことができない場合もあった。
【0008】
例えば、写真用インクジェット記録用紙を葉書として使用する場合、通常、非塗工面に、予め葉書の郵便番号の枠、または料額などのオフセット印刷が行われ、その後葉書サイズに断裁されるが、オフセット印刷後にインクジェット記録用紙が大きな波打ちが発生してしまった場合、安定して断裁をすることができず規定の寸法が確保できない。具体的には、ギロチン断裁包丁が断裁途中で止まってしまったり、断裁できたとしても、断裁面が不揃いになってしまったりする。また、葉書として使用する場合、インクジェット記録層に写真などの本文を印字するので、その印字品質は要求されるが、非塗工面にも住所の宛先などをインクジェット記録で印字する場合が多く、その宛先の印字の品質も必要である。
【0009】
【特許文献1】特開2000−190620号公報
【特許文献2】特開2005−288801号公報
【特許文献3】特開2005−288841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙で、ギロチン断裁適性に優れており、非塗工面のインクジェット記録適性にも優れたインクジェット記録用紙を提供するものである。即ち、本発明はキャストコートした塗工面では優れた印字品質を有し、非塗工面でのインクジェット記録適性およびオフセット印刷適性も良好であり、かつギロチン断裁時に発生する塗工層の擦れや断裁紙粉も少ないインクジェット記録用紙を提供することである。
【0011】
キャストコート法により設けられるインク受理層は、インク吸収性に優れ、またインクの発色を鮮やかにするために非晶質合成シリカやアルミナ等の多孔性顔料を多量に使用し、かつ、写真調の面感を形成させるために高平滑な面に仕上げられている。従って、インクジェット記録用紙のインク受理層面と非塗工面との間の静摩擦係数が高くなり、特にインク受理層面の最表層に一次粒子径が150nm以下のコロイダルシリカが存在する場合には特に静摩擦係数が高くなる。この場合、ギロチン断裁時に高圧力が加わった際に断裁包丁のダレ面側への滑り性が悪く端部での塗工層欠けや多量の紙粉発生の原因になると考えられる。
【0012】
インク受理層面と非塗工面の静摩擦係数を低下させるために、インク受理層に種々の滑剤を添加し静摩擦係数を下げることを検討したが、静摩擦係数を低下させるには滑剤を多量に添加しなければならず、静摩擦係数が0.8以下になるまで添加すると、光沢インクジェット記録層のインク吸収性(インクにじみ)が悪化した。特許文献2および3で提案されている非塗工面側へポリエチレンエマルジョンまたはアルキルケテンダイマー含有液を塗布することにより静摩擦係数を下げることも検討したが、大きく静摩擦係数を低下させることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、滑剤とされるポリエマルジョンワックス類、アルキルケテンダイマーなどよりも、透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設け、前記インク受理層の表面に平均一次粒子径が150nm以下のコロイダルシリカが存在するインクジェット記録用紙にあっては、金属石鹸を非塗工面に直接塗布することが静摩擦係数を低下させるのに最も効果があり、それによってギロチン断裁適性も良好になることを見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明で製造した写真用キャストコートインクジェット記録用紙として、ギロチン断裁適性に優れており、非塗工面のインクジェット記録適性にも優れたインクジェット記録用紙である。即ち、本発明はキャストコート法により設けたインク受理層面は高平滑、高光沢であり、かつ優れた印字品質を有し、非塗工面はインクジェット記録適性およびオフセット印刷適性も良好であり、かつギロチン断裁時に発生する塗工層の擦れや断裁紙粉も少ないインクジェット記録用紙を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<支持体>
本発明のインクジェット記録用紙に用いる支持体は、その種類、形状、寸法などについては特に制限はないが、透気性を有する吸収性支持体が望ましい。
<吸収性支持体>
吸収性支持体としては、例えば、塗工紙、非塗工紙等の紙を好適に用いることができる。紙の主成分はパルプと内添填料である。パルプとしては通常公知のパルプであればいずれのものを使用することができる。例えば、化学パルプとして広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒亜硫酸パルプ、広葉樹未晒亜硫酸パルプ、針葉樹晒亜硫酸パルプ、針葉樹未晒亜硫酸パルプ、木材、綿、麻、じん皮等の繊維原料を化学的に処理して作製されたパルプなどを使用できる。また、木材やチップを機械的にパルプ化したグランドウッドパルプ、木材やチップに薬液を染み込ませた後に機械的にパルプ化したケミメカニカルパルプ、及び、チップをやや軟らかくなるまで蒸解した後にリファイナーでパルプ化したサーモメカニカルパルプ等も使用できる。インクジェット用紙には高白色度で地合に優れる広葉樹晒クラフトパルプを使用することが好ましい。
【0016】
また、古紙を原料とするパルプ、すなわち、製本、印刷工場、断裁所等において発生する裁落、損紙、幅落しした上白、特白、中白、白損等の未印刷古紙;印刷やコピーが施された上質紙、上質コート紙等の上質印刷古紙;水性インク、油性インク、鉛筆などで筆記された古紙;印刷された上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙等のチラシを含む新聞古紙;中質紙、中質コート紙、更紙等の古紙等を離解して得られるパルプを使用することもできる。
【0017】
またパルプは、漂白することにより高白色度とすることができる。パルプの漂白方法としては、元素状塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、酸素、過酸化水素、苛性ソーダ等の薬品の組合せにより漂白する塩素漂白法、二酸化塩素を使用する漂白方法(ECF)、塩素化合物を一切使用せずに、オゾン/過酸化水素等を主に使用して漂白する方法(TCF)といった方法がある。このうち塩素漂白法からなる有機塩素化合物負荷が環境に悪影響を与える恐れがあることから、ECFやTCFといった方法で漂白することが好ましい。またECFでは、二酸化塩素はリグニンと選択的に反応するため、セルロースに損傷を与えずにパルプの白色度を高めることができるので、さらに好ましい。
【0018】
(吸収性支持体の填料)
支持体の不透明度、白色度向上を目的とし、填料を含有(内添)させてもよい。内添填料は、例えばクレー、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の白色顔料を使用できるが、高白色度を得やすいことから炭酸カルシウムが好ましく、特に、ロゼッタ(rosette)型軽質炭酸カルシウムが好ましい。ロゼッタ型軽質炭酸カルシウムとは、紡錘形状の軽質炭酸カルシウムの一次粒子が放射状に凝集してロゼッタ型の二次粒子を形成したものであり、具体的にはSpecialty Minerals Inc.社のアルバカーHO、アルバカー5970、アルバカーLO等の製品を好ましく挙げることができる。ここで、放射状とは、例えば前記二次粒子の中心近傍から、各一次粒子の長手方向が放射状に伸びたものである。なお、基紙の密度は0.8g/cm以下であることが好ましい。
【0019】
該パルプは抄紙適性、強度、平滑性、地合の均一性等といった紙の諸特性等を向上させるため、ダブルディスクリファイナー等の叩解機により叩解される。叩解の程度は、カナディアン スタンダード フリーネス(C.S.F.)で250ml〜550ml程度の通常の範囲で目的に応じて選択することが出来る。前記パルプのpHは、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよい。
【0020】
叩解されたパルプスラリーは、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、または、丸網抄紙機等の抄紙機により抄紙され支持体を得ることができるが、この際、通常抄紙に際して用いられるパルプスラリーに、分散助剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤、定着剤、pH調節剤、染料、有色顔料、及び蛍光増白剤等を添加することが可能である。
【0021】
分散助剤としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、とろろあおい等が用いられる。紙力増強剤としては、例えば、植物性ガム、澱粉、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等のアニオン性紙力増強剤、カチオン化澱粉、カチオン性ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂等のカチオン性紙力増強剤が用いられる。サイズ剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、ロジン、マレイン化ロジン等のロジン誘導体、ジアルキルケテンダイマー、アルケニル或いはアルキルコハク酸塩、エポキシ化脂肪酸アミド、多糖類エステル等が用いられる。定着剤としては、例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等の多価金属塩、カチオン化澱粉、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂等のカチオン性ポリマー等が用いられる。pH調節剤としては、例えば、塩酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等が用いられる。
【0022】
また、上記支持体には、水溶性高分子添加剤をはじめとする各種の添加剤を含有する塗工液を、タブサイズ、サイズプレス、ゲートロールコーター又はフィルムトランスファーコーター等を用い、オンマシン又はオフマシンで塗工することが可能である。
【0023】
上記水溶性高分子添加剤としては、例えば、澱粉、カチオン化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体;ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等、無水マレイン酸樹脂等の水溶性高分子;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性合成樹脂等の水性高分子接着剤等が用いられる。その他の添加剤としては、サイズ剤として石油樹脂エマルション、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルキルエステルのアンモニウム塩、アルキルケテンダイマー乳化物、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン等のディスパーションが挙げられる。その他の添加剤としては、帯電防止剤として、無機電解質である塩化ナトリウム、塩化カルシウム、ボウ硝等が、吸湿性物質としてグリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。その他の添加剤としては、顔料としてクレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン等が挙げられる。その他の添加剤としては、pH調節剤として塩酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ等が用いられ、その他染料、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を組み合わせて使用することも可能である。
【0024】
<インク受理層面の反対面の塗工液について>
本発明において、キャストコート法により設けたインク受理層面とその反対面(非キャストコート面)の静摩擦係数を低下させるために、非キャストコート面に塗工する塗工液は、金属石鹸の分散体を主成分とする。金属石鹸としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛、オクチル酸亜鉛などから選択して使用でき、2種類以上を混合して使用しても良い。特に、好ましくは安価で一般的なステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛が適しており、特に好ましくはステアリン酸亜鉛が静摩擦係数を低下させるのには適している。塗工液としては、固形分濃度2〜10質量%の金属石鹸の水分散液とし、塗工に際して発生する泡に対しては適宜消泡剤を使用することができる。
【0025】
インクジェット記録用紙の非キャストコート面に、金属石鹸の水分散液の塗工方法としては、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、ダイコーターなどで塗工することができる。
【0026】
<インク受理層について>
支持体上に、インク受理層を形成することにより、インクジェットプリンターで印刷した際のインクの吸収性を好適に調整でき、印字濃度や印字にじみ、ベタ均一性等の記録適性が向上する傾向にある。インク受理層は、インクの溶媒成分をいち早く吸収する機能を有する層であり、顔料と結着剤を主成分とする。より効果的にインクを吸収させるために、2層以上のインク受理層を設けても構わないが、本発明の目的とする効率的な製造のためには、インク吸収層は1層とすることが望ましい。インク受理層に使用する顔料は特に限定はないが、安価であるシリカが適当である。
【0027】
(インク受理層の顔料について)
インク受理層に配合される顔料としては、公知の無機微粒子や有機微粒子を用いることができる。例えば、カオリン、クレー、焼成クレー、非晶質シリカ(無定形シリカともいう)、合成非晶質シリカ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、アルミナ、コロイダルシリカ、ゼオライト、合成ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等、一般塗工紙製造分野で公知公用の各種顔料を1種もしくはそれ以上、併用することができる。これらの中で、酸化亜鉛、酸化チタン、プラスチックピグメント類は、白紙部の黄変を防ぐことができるので配合することが好ましい。また、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライトはインク吸収性が高いので主成分として含有させることが好ましいが、特に発色性の点からコロイダルシリカを顔料に含むことが好ましく、インク吸収性、コストの点から合成非晶質シリカを顔料に含むことが好ましい。
【0028】
上記、非晶質合成シリカはその製造法により、湿式法シリカと気相法シリカとに大別できる。湿式法で製造された合成非晶質シリカは、顔料の透明性が気相法シリカに劣るが、ポリビニルアルコールと併用した場合の塗料安定性に優れる。さらに、湿式法シリカは、内部空隙の無い気相法シリカに比べて分散性が良好であり、塗料濃度を高くすることが可能である。そのため、インク受理層中の(結着剤に対する)顔料の割合を高くすることができ、インク吸収性を向上できると共に染料インクの発色性を向上できる。高い光沢感を得るという点から上記湿式法シリカの二次粒子径は1〜5μmであることが好ましく、BET比表面積は150〜500m/gであることが好ましい。また、透明度の高い塗工層を得るという点から、上記気相法シリカの一次粒子径が5nm〜70nmであることが好ましく、BET比表面積は30〜500m/gであることが好ましい。なお、インク受理層の顔料として平均粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の平均粒子径」とは、各顔料の平均粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。インク受理層の顔料の平均粒子径は1〜5μmであることが好ましい。1μmより小さいとインク吸収性が劣り、5μmを超えると光沢感が低下する傾向にある。
【0029】
なお、後述するがインク受理層の表面に平均一次粒子径が150nm以下のコロイダルシリカが存在することが必要である。
【0030】
(インク受理層の結着剤)
インク受理層の結着剤としては、水系バインダー樹脂を用いることができる。「水系」とは、水又は水と少量の有機溶剤からなる媒体中で樹脂が溶解又は分散し、安定化すること(水溶性又は/及び水分散性の樹脂エマルジョン)を意味する。又、水系バインダー樹脂とは水溶性樹脂及び水分散性樹脂を意味する。水系バインダー樹脂は、支持体に塗工する塗工液中では溶解又は粒子となって分散しているが、塗工し乾燥した後に顔料の結着剤となり、インク受理層を形成する。
【0031】
水系バインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール及びその誘導体;ポリビニルピロリドン;ウレタン樹脂エマルジョン由来のウレタン樹脂;酸化澱粉、エステル化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カゼイン;ゼラチン;大豆タンパク;スチレン−アクリル樹脂及びその誘導体;スチレン−ブタジエン樹脂ラテックス;アクリル樹脂エマルジョン、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、塩化ビニル樹脂エマルジョン、尿素樹脂エマルジョン、アルキッド樹脂エマルジョン及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの水系バインダー樹脂を単独又は混合して用いることができる。
【0032】
本発明においては、発色性とコストの点からポリビニルアルコールを結着剤に含有することが好ましく、特に、部分鹸化のポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールの添加量は、インク吸収層中の全顔料100質量部に対して3質量部から30質量部であることが好ましい。但し、必要な塗工層強度が得られる限り、結着剤の種類は特に限定されるものではない。
【0033】
インク受理層は、上記した顔料と結着剤を含むが、その他の成分、例えば、増粘剤、消泡剤、抑泡剤、顔料分散剤、離型剤、発泡剤、pH調整剤、表面サイズ剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定化剤、防腐剤、耐水化剤、染料定着剤、界面活性剤、湿潤紙力増強剤、保水剤、カチオン性高分子電解質等を、本発明の効果を損なわない範囲内で、インク受理層の前駆体となる塗工層に適宜添加することができる。
【0034】
支持体上にインク受理層となる塗工液を塗布する方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、スクイズコーター、カーテンコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター等の公知の塗工機をオンマシン、又はオフマシンで用いた塗工方法の中から適宜選択して使用することができる。
【0035】
また、インク受理層は必要に応じて2層以上塗工しても構わないが、インク受理層用塗工液の塗工量は、乾燥質量で、好ましくは2〜60g/m、より好ましくは2〜30g/m程度、更に好ましくは4〜20g/m程度である。塗工量を2g/m以上とすることにより、インク吸収性改良効果が充分に得られ、インク吸収層を設けた際に優れた光沢性が得られ、60g/m以下とすることにより、印字濃度が高くなり、塗工層の強度が向上し、粉落ちや傷が付きにくくなる傾向がある。
【0036】
本発明において、インク吸収層の塗工量を多く必要とする場合には、インク吸収層を多層にすることも可能である。また、支持体とインク吸収層の間にインク吸収性、接着性その他の各種機能を有するアンダーコート層を設けても良い。
【0037】
(インク受理層の形成)
本発明においては、最表面のインク受理層をキャストコート法で形成することによって光沢を付与する。キャストコート法は、顔料と結着剤とを主成分とする塗工液を支持体上に塗工して塗工層を設け、塗工層をキャストドラムに圧着して光沢仕上げする方法であり、この光沢塗工層が上記インク受理層となる。
【0038】
キャストコート法としては、(1)塗工層が湿潤状態にある間に、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着して乾燥するウェットキャストコート法、(2)湿潤状態の塗工層を一旦乾燥又は半乾燥した後に再湿潤液により膨潤可塑化させ、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着し乾燥するリウェットキャストコート法、(3)湿潤状態の塗工層を凝固処理によりゲル状態にして、鏡面仕上げした加熱ドラムに塗工層を圧着し乾燥する凝固(ゲル化)キャストコート法、の3種類がある。各方法の原理は、湿潤状態の塗工層を鏡面仕上げの面に押し当てて、塗工層表面に光沢を付与するという点では同様である。本発明においては、銀塩写真に匹敵する面感、光沢を付与することが可能であるという点で、凝固キャストコート法を用いることが好ましい。
【0039】
凝固キャストコート法は、例えば、以下のようにして行う。まず、インク受理層用塗工液を紙支持体に塗布して、塗工層を設ける。次に、塗工層中の結着剤(特に水系結着剤)を凝固させる作用を有する凝固剤溶液を湿潤状態の塗工層に塗布してゲル化させてから、加熱した鏡面仕上げ面に圧着、乾燥する。凝固キャストコート法は、銀塩写真に匹敵する面感、光沢をインク受理層に付与することが可能である。
【0040】
凝固剤溶液を塗布する際に塗工層が乾燥状態であると鏡面ドラム表面を写し取ることが難しく、得られたインク受理層表面に微小な凹凸が多くなり、銀塩写真並の光沢感を得にくい。特にインク受理層の水系結着剤としてポリビニルアルコールを用いた場合には、凝固剤としてホウ酸塩を用いることにより、凝固時の固さを適度なものとすることが容易となり、インク受理層に良好な光沢感を付与でき、操業性も良好となる。また、後述するように本発明ではコロイダルシリカを凝固剤溶液に添加すると、インク受理層表面にコロイダルシリカを存在させることが容易である。
【0041】
(凝固剤溶液の成分)
上記したように、本発明に用いる凝固剤は、コロイダルシリカ、ホウ酸及びカチオン性樹脂を必須成分として含有する。
【0042】
(コロイダルシリカ)
凝固剤溶液中にコロイダルシリカを添加すると、キャストコートによってインク受理層の表面近傍にコロイダルシリカが付着(存在)する。平均一次粒子径が150nm以下の微細なコロイダルシリカがインク受理層の表面に存在すると、染料インクで印字した際の印字濃度が向上する。コロイダルシリカがインク受理層の最表面に存在するため、インク受理層の表面が平滑になり、光沢が向上する。
【0043】
市販されているコロイダルシリカとしては、球状、非球状、非会合状態、会合状態のもので限られることはなく、例えば、ルドックスAS−40、ルドックスCL、ルドックスTMA、ルドックスCL−P(以上グレース社製)、スノーテックスAK−L、PS−MO、PS−SO(以上、日産化学社製)、クォートロンPL−2、クォートロンPL−5(以上、扶桑化学社製)等が挙げられる。本発明では2種以上のコロイダルシリカを混合して使用してもよい。
【0044】
インク受理層の光沢性、透明度を向上させる観点から、コロイダルシリカの平均一次粒子径は150nm以下であることが必須で、このましくは10〜150nmである。コロイダルシリカの平均一次粒子径が10nmより小さいと、インク受理層の光沢感は優れるが、染料インクの吸収性が劣る場合がある。一方、コロイダルシリカの平均一次粒子径が150nmより大きいと、インク受理層の透明度が低下し、染料インクで印字した際の印字濃度が低下する場合がある。
【0045】
又、インク受理層の最表面を平滑にし、光沢度を向上させる観点から、コロイダルシリカの一次粒子径は、インク受理層の顔料の一次粒子径より小さいことが好ましい。このようにすると、インク受理層の最表面を微細なコロイダルシリカが覆うため、光沢度が向上する。
【0046】
なお、一次粒子径の異なる2種類以上のコロイダルシリカを用いる場合、「コロイダルシリカの平均一次粒子径」とは、各コロイダルシリカの平均一次粒子径を各コロイダルシリカの含有割合で加重平均した値とする。同様に、インク受理層の顔料として平均一次粒子径の異なる2種類以上の顔料を用いる場合、「顔料の平均一次粒子径」とは、各顔料の一次粒子径を各顔料の含有割合で加重平均した値とする。
【0047】
コロイダルシリカは凝固剤溶液中に2〜15質量%含有されることが好ましい。コロイダルシリカの含有割合が2質量%未満であると、光沢度が低下し、染料インクで印字した際の印字濃度が低下する場合がある。また、コロイダルシリカの含有割合が15質量%を超えると凝集体(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
【0048】
コロイダルシリカ以外の顔料として、アルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等)、アルミナ(α型結晶のアルミナ、θ型結晶のアルミナ、γ型結晶のアルミナ等)等を、カチオン性コロイダルシリカと混合して使用してもよいが、カチオン性コロイダルシリカに対するその他の顔料の混合比率は50質量%以下とすることが望ましい。
【0049】
(ホウ酸)
ホウ酸が凝固剤溶液中に1〜10質量%含有されることが好ましい。ホウの含有割合が1質量%未満であると凝固作用が不十分となる場合がある。また、ホウの含有割合が10質量%を超えると水に溶解することができず、凝集体(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
【0050】
(カチオン性樹脂)
凝固剤溶液中にカチオン性樹脂を含有させることにより、凝固キャストコートによってインク受理層の表面にカチオン性樹脂が付着(存在)する。カチオン性樹脂はインクを定着させ、水溶性染料インク使用時の印字濃度が向上し、さらに耐水性が向上する。凝固剤溶液中にいずれも電気的に陽性のカチオン性樹脂とカチオン性コロイダルシリカとが共存するので、両者が凝集することがない。
【0051】
カチオン性樹脂としては、ポリアミンスルホン、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミン縮合物、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド縮合物、カチオン性アクリル樹脂、カチオン性ウレタン樹脂等が挙げられ、これらを1種又は複数種選沢して用いることができる。凝固剤溶液中のカチオン性樹脂の含有量は特に限定されるものではないが、0.5〜10質量%含有されることが好ましい。カチオン性化合物の含有割合が0.5質量%未満であると、インク定着機能が低下し、印刷した画像の印字濃度が低下する場合がある。カチオン性化合物の含有割合が10質量%を超えると、凝固剤の粘度が上昇して塗工性が悪化する場合がある。
【0052】
凝固剤溶液を塗布する方法は、塗工層に塗布できる限り特に制限されず、公知の方法(例えば、ロール方式、スプレー方式、カーテン方式等)の中から適宜選択して用いることができる。
【0053】
凝固剤(溶液)の付着量は固形分で1〜10g/mとすることが好ましい。凝固剤の付着量が1g/m未満であると、凝固作用が不十分となり、インク受理層への光沢の付与が不十分となる場合がある。凝固剤の付着量が10g/mを超えても、インク受理層の光沢の向上効果が飽和すると共に、凝固剤溶液の固形分濃度を高くしなければならないので、後述する問題が発生する場合がある。
【0054】
凝固剤溶液の濃度は3質量%以上から30質量%未満であることが好ましい。凝固剤溶液の濃度が3質量%未満であると、塗工層への凝固剤の付着量(固形分で1g/m未満)が不十分となり、凝固作用が不十分となる場合がある。また、凝固剤溶液の濃度が10質量%を超えると水に溶解させることが困難となり、凝集体(析出物)が発生し、操業トラブルとなる場合がある。
【0055】
又、上記塗工層及び/又は凝固剤には、必要に応じて剥離剤を添加することができる。剥離剤の融点は90〜150℃であることが好ましく、特に95〜120℃であることが好ましい。上記の温度範囲においては、剥離剤の融点が鏡面仕上げ面の温度とほぼ同等であるため、剥離剤としての能力が最大限に発揮される。剥離剤は上記特性を有していれば特に限定されるものではないが、ポリエチレン系のワックスエマルジョンを用いることが好ましい。剥離剤の凝固剤溶液中の含有量は特に限定されるものではないが、0.1〜5質量%含有されることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
(支持体)
広葉樹晒クラフトパルプ(L−BKP)90部と針葉樹晒クラフトパルプ(N−BKP)10部とから成るカナディアン スタンダード フリーネス350mlの混合パルプスラリーに対し、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(製品名:アルバカー5970、Specialty Minerals Inc.社製)を灰分20%となるように添加し、さらに硫酸アルミニウム1.0部、アルキルケテンダイマー(AKD)0.15部、歩留向上剤0.05部を添加した。このスラリーを用いて抄紙機で抄紙し、その際に固形分濃度5%のデンプンと固形分濃度0.2%の表面サイズ剤(AKD)とを含有する表面サイズ塗布液を固形分で1.5g/mとなるように塗布し、180g/mの支持体を得た。
この支持体にロールコーターでインク吸収層用の下記の塗工液Aを固形分で塗工量15g/mとなるように塗工し乾燥させた。この基紙に下記の凝固剤液Bを固形分で塗布量2.0g/mとなるように塗布して、湿潤状態にある間に弾性体で覆われたプレスロールで加熱された鏡面仕上げされたロールに圧着し乾燥させ、インク受理層を設けた。本製造方法により、坪量195g/mでJIS Z 8741で規定する20°光沢度が31%、75°光沢度が85%の光沢を有するインクジェット記録用紙を作製した。次に、この作製したインクジェット記録用紙のインク受理層の反対面に、塗工液C(摩擦低減液)を塗工した。塗工液Cの塗工方法は、ロールコーターで目標に塗工した。
本実施例は、一工程ずつについて記載したが、製造機械によってはすべてを一工程で行うことも可能である。例えば、塗工液Aを、湿潤状態にある状態で塗工液Bを塗工し、一工程で乾燥させることも可能である。また、塗工液Cもインク受理層の反対面にあるため同時に塗工して乾燥し、目的とするインクジェット記録用紙を製造することも可能である。
<塗工液A>
顔料として、湿式法合成非晶質シリカ(製品名:ファインシールX−37B、トクヤマ株式会社製、平均二次粒子径2.6μm)100部、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA117:クラレ株式会社製)12部、蛍光染料(製品名:BLANKOPHOR P liquid01、LANXESS社製)1.5部、離型剤(製品名:SNコート289、サンノプコ社製)0.5部を配合して濃度20%の塗工液を調整した。最終的なpHの調整にはアンモニア水溶液を使用した。
<凝固剤液B>
ホウ酸4重量%、コロイダルシリカ(製品名:クォートロンPL−2、扶桑化学工業株式会社製)、離型剤(製品名:PEM−17、サンノプコ社製)0.5重量%を調製した。
<塗工液C(摩擦低減液)>
金属石鹸10%、消泡剤(製品名:DF−480、サンノプコ社製)0.01重量%として調製し、絶乾重量1g/mとなるように塗工した。
【0057】
[実施例1]
塗工液Cの金属石鹸としてステアリン酸カルシウム(製品名:SC−100、堺化学工業株式会社製)を使用して、インクジェット記録用紙を製造した。
【0058】
[実施例2]
塗工液Cの金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム(製品名:SM−1000、堺化学工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0059】
[実施例3]
塗工液Cの金属石鹸としてをステアリン酸亜鉛(製品名:ハイドリンZ−8−36、中京油脂株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0060】
[実施例4]
塗工液Cの金属石鹸をラウリン酸カルシウム(製品名:C−12、堺化学工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0061】
[実施例5]
塗工液Cの金属石鹸をラウリン酸亜鉛(製品名:Z−12、堺化学工業株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0062】
[比較例1]
塗工液Cを塗布しなかった以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0063】
[比較例2]
塗工液Cにおいて金属石鹸の代わりに、アルキルケテンダイマーを使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0064】
[比較例3]
塗工液Cにおいて金属石鹸の代わりに、ポリエチレンワックス(製品名:ポリロンO−845、中京油脂株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を製造した。
【0065】
(評価)
1.インクジェット記録方式による出力画像の評価
得られたインクジェット記録用紙に対し、インクジェットプリンター(製品名:PM―970C、エプソン株式会社製)を用いて所定のデジタル写真を出力した。レジンコート紙を基紙とするインクジェット写真用紙との画像を比較評価した。
○:インクジェット写真用紙とほとんど差がない
△:インクジェット写真用紙より少し劣る
×:インクジェット写真用紙より明らかに劣る
【0066】
2.ギロチン断裁適性
○:断裁時の異常音や断裁した端部の塗工層欠落もない
△:断裁時の異常音や断裁した端部の塗工層欠落が多少ある
×:断裁時の異常音や断裁した端部の塗工層欠落がある、または断裁できない
【0067】
2.プリンター搬送性
インクジェットプリンター(製品名:PM―970C、エプソン株式会社製)に5枚のインクジェット記録用紙をセットし、5枚印刷した際の搬送性を評価した。
○:問題なく5枚印刷可能
△:重送や空走が1枚以上で発生
×:印刷できない
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示されるように、キャストコート法により設けたインク受理層の反対面に金属石鹸を主成分とする塗工層を設けた実施例1〜4のインクジェット記録用紙はギロチン断裁適性に優れていた。ただし、金属石鹸としてラウリン酸カルシウムを使用した実施例4ではプリンター搬送性がやや劣っていた。一方、インク受理層の反対面に金属石鹸を主成分とする塗工層を設けなかった比較例1、金属石鹸以外の滑剤を主成分とする塗工層を設けた比較例2、3ではギロチン断裁適性に問題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気性を有する支持体の片面に、キャストコート法によりインク受理層を設けたインクジェット記録用紙であって、前記インク受理層の表面に平均一次粒子径が150nm以下のコロイダルシリカが存在し、かつ前記インク受理層の反対面に金属石鹸を主成分とする塗工層を設けたインクジェット記録用紙。
【請求項2】
前記金属石鹸がステアリン酸亜鉛及び/またはステアリン酸カルシウムである請求項1記載のインクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記インクジェット用記録用紙が、透気性を有する支持体の片面に、顔料としてコロイダルシリカを含有し、かつ結着剤としてポリビニルアルコールを含有する塗工層を設けた後、該塗工層の表面に平均一次粒子径10〜150nmのコロイダルシリカ、ホウ酸、及びカチオン性樹脂を含有する凝固剤溶液を塗布して凝固キャストコート法によりインク受理層を設けたインククジェット用記録用紙であって、前記凝固剤に含まれる前記ホウ酸、前記カチオン性樹脂、及び前記コロイダルシリカが前記インク受理層の表面に存在している請求項1乃至2記載のインクジェット記録用紙。

【公開番号】特開2011−213010(P2011−213010A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84443(P2010−84443)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】