説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法

【課題】インクジェット記録装置において、いわゆる紙面予備吐出のような記録画像とは関係の無いインクドットを形成することなく、インク増粘による画質劣化を抑制することを可能とする。
【解決手段】同じ走査で同じノズルで連続して形成されるドットの割合が、高デューティー領域よりも低デューティー領域において高くなるように、マルチパス記録における各パス用の記録データを生成する。これにより、低デューティー領域を記録する場合であってもノズル不使用時間が長くなることを抑制でき、この結果、インク増粘による画質劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関し、詳しくは、記録ヘッドのノズルにおけるインク増粘に起因した吐出不良を抑制するための構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する記録ヘッドでは、ノズル内のインクの増粘に起因して、吐出方向の偏向や吐出量のばらつき等の吐出不良を生じることがあることが知られている。最近の高画質化に伴ったインク滴の小液滴化やインク色材の多様化は、このような吐出不良をより生じ易くしている。
【0003】
プリンタでは多種多様の画像が記録されるので、記録画像によっては、記録動作中に比較的長時間使用されないノズルが存在する場合もある。このような不使用ノズルではインク増粘が生じやすく、これに起因して吐出不良が生じやすい。特に、大型のインクジェットプリンタでは、記録ヘッドを記録媒体の端から端まで走査させるのに比較的長時間(例えば、1秒)を要するため、ノズルの不使用時間が長くなる。従って、このようなプリンタでは、吐出不良も発生し易やすい。
【0004】
特に、走査方向の同じ画素列に対して記録ヘッドを複数回走査して記録を行うマルチパス記録方式では、1つの画素列に記録すべき記録データが複数回の走査に分散されることから、1回の走査におけるその画素列に対応するノズルからの吐出頻度が少なくなる。このため、マルチパス記録では、上述した吐出不良がさらに発生し易くなる。
【0005】
このような吐出不良の発生を未然に防ぐために、多くのプリンタでは予備吐出が行われている。すなわち、記録装置の非記録領域にインク受け部材を設け、一定期間毎あるいは所要のタイミングで記録ヘッドの各ノズルからインク受け部材に対して所定回数の予備吐出を行いノズル内のインクをリフレッシュする。これにより、増粘しつつあるインクがあっても、それがノズルから排出されるので、ノズル内のインク粘度を正常なものとすることができる。
【0006】
このように一般的に行われている予備吐出を、上述した記録中の不使用ノズルに対して適用して吐出不良の発生を防止するには、例えば、予備吐出の間隔を短くすることが考えられる。この間隔を短くすることの一態様として予備吐出の頻度を増す方法があるが、その場合には記録全体のスループットが低下するという問題を派生する。
【0007】
以上のような、インク受け部に対して行う予備吐出とは別に、記録データとは関連のないデータに基づいてインクを記録媒体上に吐出する、いわゆる紙面予備吐出が知られている(例えば、特許文献1参照)。これによれば、記録画像によっては比較的長時間不使用となるノズルが存在する場合でも、そのノズルについて記録動作中に紙面予備吐出を行わせることができることからインク増粘を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−025627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、記録媒体上に予備吐出を行うことは、基本的に記録物中に、本来記録すべき画像とは関係の無いインクドットが形成されることであり、記録画像の品位低下が避けられない場合がある。特にマルチパス記録では、上述したように、基本的に、走査方向の同じ画素列に対して複数回の走査それぞれで紙面予備吐出が行われる可能性が高くなる。さらに、比較的低濃度の画像を記録する場合は、1回の走査における吐出頻度が低くなってインク吐出の間隔が長くなるため、紙面予備吐出の必要性が増すことになる。このため、マルチパス記録方式で比較的低濃度の画像を記録する場合は、紙面予備吐出による記録画像の品位低下は顕著となる。
【0010】
本発明の目的は、記録すべき画像とは関係の無いインクドットを形成することなく、インク増粘による画質劣化を抑制することができるインクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そのために本発明では、ドットを形成するための複数のノズルを有する記録ヘッドを記録媒体の画素列領域に対して複数回走査させ、該複数回の走査で前記画素列領域にドットを形成することが可能なインクジェット記録装置であって、所定の濃度以下の低濃度画像領域に形成されるドットのうち、同じ走査で同じノズルで前記画素列領域に連続して形成されるドットの割合が、前記所定の濃度よりも高い高濃度画像領域に形成されるドットのうち、同じ走査で同じノズルで前記画素列領域に連続して形成されるドットの割合よりも高くなるように、前記画素列領域に形成されるべきドットに対応した記録データに基づいて前記複数回の走査の各々で用いられる各走査用記録データを生成するための生成手段を具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成によれば、低濃度の画像を記録する場合であっても、記録ヘッドの走査中に、ノズルの不使用時間が長くなることを抑制できる。この結果、記録画像とは関係の無いインクドットを形成することなく、インク増粘による画質劣化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で適用可能なインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示した記録ヘッドをノズル配列面側から見た模式図である。
【図3】図1に示したインクジェットプリンタの主に制御構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示したホストコンピュータによる記録データ生成およびプリンタへの記録データ供給を説明するブロック図である。
【図5】(a)〜(e)は、インク増粘によって吐出不良が生じる様子を説明する図である。
【図6】(a)〜(e)は、記録ヘッドの走査中におけるノズルの不使用時間が記録画像に与える影響を説明するための図である。
【図7】(a)は、8回の走査(パス)で記録を完成する8パス記録で用いる、1つのインク色のマスクを示す図であり、(b)は、図7(a)に示したマスクパターンにおける「出力」を示すマスク画素を、上述のある領域の画像の場合についてその画像における各画素が「出力」を示すマスク画素によって何回目の走査(パス)で記録されるかを示した図である。
【図8】本発明の実施形態に係るインデックスパターンの一例を示す図である。
【図9】(a)は、第1の実施形態に係るインデックスローテーションを示す図であり、(b)は、ドット配置およびそのドットを記録する走査回の関係を示す図である。
【図10】(a)は、図7(a)および(b)に示すマスクとの同調性の低いインデックスパターンの例を示す図であり、また、(b)は、図10(a)に示すインデックスパターンを用いたときのドット配置とそのドットを形成する走査回を示す図である。
【図11】デューティーが100%の画像を記録する場合のドット配置とそのドットを形成するパス(走査回)との関係を示す図である。
【図12】(a)は本実施形態の記録によって形成されるドットの様子を示す図であり、(b)は、図10(b)に示す、マスクとドット配置とが同調性が低い場合のドット配置およびそのドットを記録するパスに基づいて記録するときの、記録されるドットの乱れを示す図であり、(c)は、本実施形態に係る図11に示した、画像のデューティーが高い場合のドット配置およびそのドットを形成するパスの関係に基づく記録結果を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係るマスクを説明する図である。
【図14】(a)は、上記マスクを用いて、図9(a)に示すインデックスパターンによるドット配置の画像を横(走査)方向に64画素分記録した結果を示す図であり、(b)は、上述した第1実施形態のマスクを適用した場合における、同様の結果を示す図である。
【図15】(a)は、本発明の第4の実施形態に係る固定間引きパターンを用いた間引によってドットを形成する走査を定めた結果を、上述したマスクパターンと同様に示す図であり、(b)は、上記のように一定の間隔でドットを形成する走査が同じ走査になるようにドット配置を定める規則性を持たないマスクの例を示す図である。
【図16】図15(a)に示すパターンによってドットを複数階の走査に振り分けた結果を示す図である。
【図17】本発明の第4の実施形態に係るディザマトリクスを用いた2値化処理を含む記録データ生成処理を説明するためのブロック図である。
【図18】(a)〜(e)は、本発明の第5の実施形態に係るディザ処理を説明する図である。
【図19】(a)は、このドット配置に対して本実施形態で用いるマスクを示す図であり、(b)〜(e)は上記マスクを用いて各走査に振り分けられたドットを示す図である。
【図20】本発明の第1の実施形態に係る連続性割合を説明する図である。
【図21】本発明の第1の実施形態に係る連続性割合と記録デューティーとの関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態であるインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。キャリッジ11は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)を格納したそれぞれのインクタンク18Y、18M、18C、18Bkを着脱自在に搭載する。またキャリッジ11の下面側には上記4種類のインクを吐出するそれぞれの記録ヘッド(不図示)が設けられている。このキャリッジ11は、ガイドシャフト20によって摺動可能に案内されるとともに、キャリッジモータ12の駆動力がプーリおよびベルト19の伝達機構によって伝えられることにより、ガイドシャフト20に沿って移動することができる。このキャリッジ11の移動によって記録ヘッドの走査は行われ、この走査中に記録ヘッドからインクが吐出される。キャリッジ11の移動は、光学位置センサ16を用いて検出することができる。キャリッジ11に搭載されている記録ヘッドやインクタンクには、装置本体側からフレキシブルケーブル13を介して、記録(吐出)信号などが送られる。給紙トレイ15は、記録用紙としての記録媒体を積層状態で蓄えるとともに、1枚ずつ記録ヘッドによる記録領域に向けて給紙する。給紙トレイ15より給紙された記録媒体は、記録ヘッドの走査と走査の間に、不図示の搬送ローラによって所定量だけ搬送される。このような記録媒体の搬送と記録ヘッドの走査を繰り返すことで、1枚の記録媒体に順次記録が行われていく。
【0016】
キャリッジ11の移動範囲の一方の端部には、記録ヘッドの吐出状態を良好に維持するための吐出回復処理のための回復機構14が設けられている。141は各記録ヘッドのノズル(吐出口)が配された面(ノズル配設面)を覆うキャップ、142は予備吐出動作の際に吐出されたインクを受けるインク受け部材をそれぞれ示す。また、144は記録ヘッドの上記ノズル配設面をワイピングするためのワイパーブレードを示し、図中矢印の方向に移動しながら上記ノズル配設面をワイピングすることができる。なお、本発明は、後述の各実施形態から明らかなに比較的長時間不使用となるノズルが存在することを抑制することによって吐出不良を軽減するものである。しかし、上述の吐出回復機構を設けることにより、上記のような長時間の不使用となることによる吐出不良を含め、様々な要因による吐出不良を防ぐことができる。
【0017】
図2は、上述した記録ヘッドのノズル配列面を示す模式図である。本実施形態のプリンタでは、上述のとおりY、M、C、Bkインクの記録ヘッド17Y、17M、17C、17Bkを用いる。各記録ヘッドは1インチ当たり1200個の密度で1280個のノズル41が配列されたノズル列を有する。記録ヘッド17Y、17M、17Cのそれぞれのノズルから吐出されるインク滴の量は総て約4.5pl(ピコリットル)である。一方、記録ヘッド17Bkのノズルから吐出されるインク滴量は、ブラックの高濃度を実現するために吐出量が上記の量(約4.5pl)より多い。
【0018】
図3は、図1に示したインクジェットプリンタの主な制御構成を示すブロック図である。本実施形態のプリンタは、ホスト装置としてのコンピュータ306から供給される記録データに基づいて一連の記録動作を行う。なお、コンピュータ306から供給される記録データは、図4にて後述される処理によって生成されたものである。また、ホストコンピュータ306の形態としては、上記のとおり情報処理装置としてのコンピュータとするほか、イメージリーダなどの形態とすることもできる。
【0019】
システムコントローラ301は、本プリンタ全体の制御を実行するものであり、マイクロプロセッサ(MPU)を始め、制御プログラムが収納されたROMなどを有して構成される。また、このROMには、後述するインデックスパターンやマスクパターン等も格納されている。キャリッジモータ12は、上述のとおり記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査方向に移動させるための駆動を行う。紙送りモータ305は、記録媒体が間欠的に搬送されるように搬送ローラの駆動を行う。システムコントローラ301は、それぞれのドライバ302および303を介してモータ12および305の駆動を制御する。
【0020】
受信バッファ307は、ホストコンピュータ306から受信した多値記録データ(後述の階調データ)を格納し、システムコントローラ301によって多値記録データの読み込みが行われるまで受信した多値記録データを一時的に格納しておく。フレームメモリ308(308Bk、308C、308M、308Y)は、多値記録データ(後述の階調データ)を2値の記録データ(ドットデータ)として展開するためのメモリであり、記録に必要な容量のメモリサイズをインク色毎に有している。ここでは、記録用紙一枚分に記録できる量のデータを展開できるメモリであるが、このサイズに限定されないことは言うまでもない。バッファ309(309Bk、309C、309M、309Y)は、2値の記録データを一時的に格納するための記憶素子であり、各色記録ヘッドのノズル数に応じて記録容量は変化する。
【0021】
システムコントローラ301は、上記のデータ展開およびバッファへのデータ格納に際して、図7およびそれ以降の図を参照して後述される、インデックスパターンを用いたドット配置処理やマスクを用いた複数回の走査の各々に対応した記録データの生成処理を行う。このシステムコントローラ301による処理ないし制御は、ROMに格納されたプログラムに従って実行される。
【0022】
記録制御部310は、システムコントローラ301からの指令に基づき記録ヘッドを制御する。具体的には、記録制御部310は、ドライバ311を制御することで、記録ヘッド17Bk、17C、17M、および17Yからインクを吐出させる。
【0023】
図4は、図3に示したホストコンピュータ306による記録データ生成およびプリンタへの記録データ供給を説明するブロック図である。なお、このホストコンピュータにはプリンタドライバがインストールされており、図4に示す処理はこのプリンタドライバによって実行される。図4に示すように、プリンタドバイバは、ホストコンピュータにて起動しているアプリケーション等からRGBデータ601を取得する。このRGBデータは解像度変換602が施され、変換後のRGBデータ603が得られる。次いで、この変換後のRGBデータ603に対して色調整処理604が行われる。この色調整処理は、RGBデータ603の色域を、プリンタで表現可能な色域への変換などを行う処理である。次に、色調整処理604で得られたR´G´B´データ605に対してインク色分解処理606が行われる。この色分解処理は、R´、G´、B´データ605で表現される色を、プリンタで再現するためのインク色(Y、M、C、Bk)に対応するデータの組み合わせを定める処理である。この色分解処理606で得られたCMYBkの組合せのデータ607は、CMYBkの各々が8ビット(256階調)のデータで構成されている。次に、CMYBkの組合せのデータ607に対して量子化処理が行われ、CMYBkの量子化データ(ここでは、CMYBkの各々が4ビットで構成されるデータ)が得られる。この量子化処理としては、公知の誤差拡散処理やディザ処理などを用いることができる。この4ビットデータは9階調の階調データ609であり、この階調データ609が多値記録データとしてプリンタに送られる。
【0024】
図5(a)〜(e)は、インク増粘によって吐出不良が生じる様子を説明する図である。これらの図において、それぞれ記載される時間は、それぞれのインク吐出の前のインク吐出時からの経過時間である。図5(a)に示すように、インクを吐出した直後のノズルは、リフィルによってノズル内にフレッシュな(増粘していない)インクが供給されることから、フレッシュなインクがノズル内に存在する。この状態から吐出が行われない状態でそれぞれの時間が経過した状態が図5(b)〜(e)に示す状態である。時間が経過するにつれて徐々にノズル内のインクから水分が蒸発していく。これによりインクは水分以外の成分がリッチになり、インクの粘度が高くなっていく。そして、例えば、図5(e)に示すように1.2秒が経過して正常に吐出可能な粘度を超えると、インクの吐出量が少なくなったり、インクの吐出方向が偏向したり、不吐出となることもある。
【0025】
図6(a)〜(e)は、記録ヘッドの走査中におけるノズルの不使用時間が記録画像に与える影響を説明するための図である。これらの図は、ベタ画像の記録直後から、ノズル不使用期間を経て、細線を記録した場合に、その細線の記録結果の違いを示している。先ず、ベタ画像501を記録する。この画像は、図中、左側から右側へ記録ヘッドの1回の走査で記録したものであり、いわゆる1パス記録で出力したものである。ベタ画像501を記録した直後から、0.1秒といった比較的短い時間が経過した後に記録される細線502は、記録ヘッドの各ノズルのインクが増粘していないため、良好な記録結果が得られる。一方、ベタ画像501を記録してから1.2秒といった比較的長い時間が経過した後に記録される細線503は、ノズル内のインクが増粘していることから画像データで意図した細線を記録することができない。また、インクの増粘が顕著な場合は不吐出となることもある。なお、これら図に示すように、ノズル不使用時間が1秒までは正常な吐出となっていることから、この例では、「ノズル増粘までの時間は1秒である」とする。ただし、ノズル増粘までの時間はインク成分に依存するものであるから、インク成分が変われば上記時間も変わることは勿論である。
【0026】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態は、同じ走査で同じノズルで連続して形成されるドットの割合が、高濃度画像領域よりも低濃度画像領域において高くなるように、マルチパス記録における各パス用の記録データを生成する。これにより、ノズル不使用時間が長くなることに起因して生じるインク増粘が生じやすい低濃度画像を記録する場合であっても、ノズル不使用時間が長くなることを抑制し、これにより、インク増粘に伴う画質劣化を軽減するものである。より詳しくは、所定の濃度以下の低濃度画像領域に形成されるドットのうち同じ走査で同じノズルにより連続して形成されるドットの割合が、所定の濃度よりも高い高濃度画像領域に形成されるドットのうち同じ走査で同じノズルにより連続して形成されるドットの割合よりも高くなるように、画素列領域に形成されるべきドットに対応した記録データからマルチパス記録のための各走査用記録データを生成する。なお、マルチパス記録とは、記録ヘッドを記録媒体の同一の画素列領域に対して複数回走査させるとともに、その複数回の走査で異なるノズルを上記同一の画素列領域に対応させて記録媒体に記録を行う方式である。
【0027】
マスク
本実施形態では、マスクを用いて画素列領域に対応する記録データを分割して、マルチパス記録における複数回の走査の各々で用いる各走査用記録データを生成する。
【0028】
図7(a)は、8回の走査(パス)でそれぞれの画素列領域の記録を完成する8パス記録で用いる、1つのインク色のマスクを示す図である。本実施形態では、総てのインク色について図7(a)に示すマスクを用いる。なお、ここでは、8パス記録について説明するが、本発明を適用可能なマルチパス記録が8パス記録に限られないことはもちろんである。本発明は、2、3、4、16パス等のN(Nは2以上の整数)パス記録にも適用可能である。また、説明の簡略化のため、記録ヘッドの片方向の走査のときだけに記録を行う片方向記録を例として説明するが、双方向記録にももちろん本発明を適用することができる。
【0029】
図7(a)に示すように、記録ヘッドにおける1280個のノズルは第1〜第8ノズル群に8分割され、マスクはそれぞれのノズル群に対応して異なる8つのパターン73a〜73hを有する。これら8つのノズル群に対応した8つのパターン73a〜73hは相互に補完関係にあり、これにより、8つのパターンに基づいて生成した各パスの記録データを重ねることにより、1つのノズル群に対応したノズル列長の幅を有した領域(同一領域)の記録を完成することができる。
【0030】
それぞれのパターンにおいて、マス目で示されるマスク画素のうち、横方向の1行に連なるマスク画素群は1つのノズルに対応している。そして、これらマスク画素のうち、黒く塗りつぶしたマスク画素はそのマスク画素に対応する画素の記録データを「出力」することを示し、白のマスク画素はそのマスク画素に対応する画素の記録データを「非出力」とすることを示している。マスクは「出力」を示す「1」と「非出力」を示す「0」とからなる2値データで構成されており、後述するように2値の記録データとの論理積を取ることによって、2値の記録データをマスクするものである。なお、マスクパターンが横方向に16画素分しかないのに対し実際の画像は横方向にさらに長いため、同じマスクパターンが繰り返して適用される。また、図7(a)では、説明の便宜上、それぞれのノズル群について4ノズル分のみのマスク領域が示されているが、実際には、それぞれのノズル群について160ノズル分のマスク領域がある。
【0031】
以上のマスクを用いて生成された記録データに基づく1回の走査記録を行うごとに、図中、参照番号「76」で示される長さ、すなわち、1つのノズル群のノズル配列範囲に相当する長さだけ記録媒体を図中上方向に搬送する。これによって、同一領域に記録すべき画像を8回の走査で完成させる。具体的には、1回目の走査で第8ノズル群を用いて記録が行われ、2回目の走査で第7ノズル群を用いて記録が行われ、以下同様に使用ノズル群を変えながら、計8回の走査で同一領域に対する記録を完成させる。
【0032】
図7(b)は、図7(a)に示したマスクパターンにおける「出力」を示すマスク画素を、4×4の画素領域に対応したマスクパターンにおいて「出力」を示すマスク画素によって何回目の走査(パス)で記録されるかを示す図である。なお、この図においても、4ノズル分に対応したマスクパターンを示している。例えば、「1」で表されているマスク画素はその「出力」を示すマスク画素によって1パス目で記録を許可することを意味している。すなわち、「1」で表されているマスク画素は、上記の同一領域の1パス目の記録で用いられるパターン73hのマスクの黒く塗りつぶされたマスク画素に対応している。
【0033】
インデックスパターン
本実施形態では、インデックスパターン(「ドット配置パターン」ともいう)を用いてインクを吐出する位置(ドットを形成する位置)を決定する。図4にて前述したように、ホスト装置からは、多値記録データとして4ビットの階調データがプリンタに送られてくる。この階調データは、0〜8までのいずれかの数値(インデックス値;階調値)を指定するデータとなっている。そして、プリンタでは、ホスト装置から転送された階調データを、その階調データの階調値に対応したドット配置パターン(インデックスパターン)に変換することで、図8に示すようなドットの展開(以下「インデックス展開」と呼ぶ)を行う。これにより、横4画素×縦2画素のそれぞれについてドットのオン・オフが定義された2値の記録(吐出)データが生成される。このインデックス展開は、2値化処理とドット配置決定処理を併せて行っていることになる。このように、インデックスパターンは、横n×縦mの画素群で構成される画素マトリックスからなる。ここで、nおよびmの少なくとも一方は2以上の整数である。このインデックスパターンを用いることにより、ホスト装置から転送する記録データ(階調データ)の量を減らすことができる。
【0034】
なお、インデックスパターン(ドット配置パターン)が用いられるとき、例えば図8に示すそのままのドット配置と、それを図中横方向において反転させたドット配置というように、ドットの配置を変更することができる。これは、本実施形態の場合システムコントローラ301(図3)によって行われる処理で、インデックスローテーションという。
【0035】
なお、本明細書では、所定領域内に形成されるドット数が所定数よりも多い領域(言い換えれば、所定の濃度よりも高い濃度の領域)を「高デューティー(高濃度)」領域という。一方、所定領域に形成されるドット数が所定数以下の領域(言い換えれば、所定の濃度よりも低い濃度の領域)を「低デューティー(低濃度)」領域という。
【0036】
マスクとインデックスパターンとの同調
本実施形態は、以上説明したマスクとインデックスパターンとを関連付けることにより、マルチパスによって所定濃度より低い低濃度領域の画像を記録する場合には、それぞれの走査で、同じノズルから連続してインク吐出が行われるようにする。すなわち、画素ごとに、2値の記録データ(ドットデータ)とマスクにおける「出力」を示すデータとの論理積をとることによって、1回の走査で記録するドットデータが得られるが、これについて以下のような同調処理を施す。ノズルに対応させて画素ごとのドット(2値)データをインデックスパターンとマスクを用いて生成するが、この2値データ生成で用いるマスクの「出力」を示すマスク画素の配置パターンが、図7(a)に示すように、走査方向において周期性を持つものとする。さらに、このマスク画素の配置パターンの周期が、インデックスパターンのドット配置の周期(インデックスパターンを用いる周期)と同じものとする。なお、マスク画素の配置パターンの周期とインデックスパターンのドット配置の周期との関係はこの例だけでなく、マスク画素の配置パターン周期がインデックスパターンのドット配置の周期の自然数分の1であってもよい。
【0037】
以上のようにして「出力」を示すマスク画素の配置パターンが定められたマスクを用いることにより、各ノズルに対応する画素列領域のドットデータを、同じ走査回で記録する割合を高くすることができる。そして、その結果として、低い濃度の記録ほど、1回の走査で1つのノズルからのインク吐出によってドットを連続して形成する割合を多くすることができる。換言すれば、ある画像を記録する場合、走査方向に隣接するドットが同じ走査によって形成される割合は、低濃度の画像のほうがより高濃度の画像よりも高いということができる。以下、これについてさらに詳細に説明する。
【0038】
マスクについて、図7(a)および(b)にて上述したマスクを用いる場合について説明する。このマスクに対して、図8に示すインデックスパターン(ドット配置パターン)を用いる。図9は、その具体的なパターンおよびインデックスローテーションを示す図である。より具体的には、インデックスパターンのドット配置を、図7(a)および(b)にて説明したマスクを用いて走査ごとの記録データを生成したときの、それぞれのドットを記録する走査回を示す「丸数字」の配置として示したものである。
【0039】
図9に示すように、横4画素×縦2画素のインデックスパターンは、4ビットの階調データによって特定することができる。図9において、「丸数字」で示す画素が、ドットが配置された画素である。横4画素×縦2画素のパターンを、図中、横方向(走査方向に相当)に4回、縦方向に2回分示しているのはインデックスローテーションを示しており、このローテーション全体で示される横16画素×縦4画素分を繰り返して用いる。このように、8画素からなるインデックスパターンは、走査方向において、横4画素×縦2画素を1周期とする周期性を有している。
【0040】
そして、以上説明したインデックスパターンに対して、図7(a)および(b)に示したマスクを用いて、パスごとの記録データを生成すると、インデックスパターンの横4画素×縦2画素における各ドットはそれぞれの数字で示される走査回で記録される。
【0041】
図9において、階調データが「0010」のドット配置パターンの場合、走査方向のそれぞれの画素列は、それぞれ8パス目、1パス目で形成されるドットが走査方向に連続する。これにより、その画素列を記録するノズルからは連続してインクが吐出されることになる。そして、この例は、連続性割合が100%となる。一方、階調データが「0011」のドット配置パターンの場合、例えば最も上の画素列のドットは、8パス目と6パス目で交互に記録される。また、上から2番目の画素列は、6パス目で形成されるドットが連続する。このようなドット配置パターンの場合、その定義が後述されるように、連続性割合は30%となる。同様にして、階調データが「0100」のドット配置パターンの場合は、連続性割合は0%となる。
【0042】
上例において、記録画像の濃度が比較的低い場合(例えば、階調値データが「0010」)は、連続性割合が100%となり、各走査で1つのノズルから連続してインク吐出が行われる。その結果、走査中にそのノズルにおいてインク増粘が生じることを抑制することができる。また、上例に示す連続性割合が30%となる、階調値データが「0011」の場合、1番上の画素列のドットは8パス目と6パス目で交互に記録されるが、それぞれのパスのドットは、連続性割合が100%の場合と同じ画素間隔で形成される。すなわち、上例に示す連続性割合が30%でも、1番上の画素列のドットを記録する各(パスの)ノズルからは、100%の場合と同じ時間間隔でインク吐出が行われ、連続性割合が100%の場合と同様にノズルにおけるインクの増粘を抑制することができる。
【0043】
ここで、以上の説明に用いた「連続性割合」の定義について説明する。図20は、連続性割合を説明する図である。図20に示す例は、図9における階調値データが「0110」のドット配置パターンに対して図7(a)および(b)のマスクを用いたときの記録されるドットの配置を示したものである。また、図20において、走査回を示す丸数字の間に記載される「〇」または「×」は、隣り合うドット同士が同じパスで形成される場合に「〇」、そうでない場合に「×」を示している。そして、この記録ドットの配置では、「〇」の数は6個、「×」の数は14個となる。つまり、「〇」の割合が30%であることから、連続性割合が30%となる。
【0044】
図10(a)は、図7(a)および(b)に示すマスクとの同調性の低いインデックスパターンの例を示す図である。また、図10(b)は、図10(a)に示すインデックスパターンを用いたときのドット配置とそれぞれのドットを形成する走査回を示す図である。図10(b)に示すように、いずれの画素列においても、連続して同じ走査回でドットが形成されていない。これは、同じノズルから連続してインクが吐出されないことを意味している。つまり、図20にて説明した連続性割合の定義から明らかなように、連続性割合は0%となる。
【0045】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、低デューティーの記録ほど同じ走査回で連続してドットが形成される可能性が高くなる。逆に、高デューティーの記録ほど同じ走査回で連続してドットが形成される可能性が低くなる。例えば、図9に示す、階調値データが「1000」のインデックスパターンはデューティーが100%、すなわち、総ての画素にドットが配置されるドット配置となる。図11は、この場合のドット配置と、そのドット配置に対して図7(a)および(b)に示したマスクを用いた場合の、それぞれのドットを記録するパス(走査回)との関係を示す図である。この図に示すように、デューティーが100%の場合は、同じパスで連続してドットが配される可能性は低くなり0になる。例えば、図11において、上から1番目の画素列では、左側の画素から順に8パス目、7パス目、6パス目、5パス目、・・・でそれぞれドットが形成され、走査方向に連続するドットは異なるパスで形成される。図9(a)のインデックスパターンにおける連続性割合とデューティーとの関係を図示したものが図21である。図21に示すように、デューティーが低い場合に連続性割合は高くなる。
【0046】
前述したように、ノズル内のインクは吐出を行ってからの経過時間が長い場合には、吐出不良を生じることがある。例えば、記録媒体の左から記録ヘッドが走査する場合に、記録媒体中央部にまったく画像が存在しない場合、右端部の画像は吐出不良によって画像の乱れが生じる。
【0047】
これに対し、本実施形態では、図9に示す、ドット配置およびそのドットを記録する走査回の関係に基づいて記録を行う。図12(a)はその記録によって形成されるドットの様子を示す図である。同図において、1401は着弾の乱れたドット、1402は正常な着弾をしたドットをそれぞれ示す。同図に示されるように、1回の走査で記録されるドットのうち、左端部のドットは、それぞれのノズルがそれまで吐出が行われていない状態から、初めて吐出が行われることによる記録であるため、一定の吐出不良が生じていて着弾するドットに乱れが生じる。しかし、この着弾位置が乱れたドットの存在する箇所が非常に狭いため画像劣化は目立ちにくい。
【0048】
一方、図12(b)は、図10(b)に示す、マスクとドット配置とが同調性が低い場合のドット配置およびそのドットを記録するパスに基づいて記録されるドットの乱れを示す図である。この場合は、それぞれのノズルからの吐出が、走査方向のどの画素でも比較的長時間の不使用の後の最初の吐出となり、走査領域全体で吐出不良を生じ着弾するドットに乱れが生じる。その結果、画像全体に乱れたドットが存在することになり、画像劣化が目立つこととなる。
【0049】
図12(c)は、本実施形態に係る図11に示した、画像のデューティーが高い場合のドット配置およびそのドットを形成するパスの関係に基づく記録結果を示す図である。この場合も、図12(a)に示す場合と同様、形成されるドットの乱れは、走査の最初となる左端部に集中する。しかし、この場合も、乱れたドットの存在する箇所が非常に狭いため、画像劣化は目立ちにくい。また、デューティーの高い画像においては、仮に、同じ走査で比較的短い間隔で連続してドットを形成するようにドット配置を定める場合は、吐出周波数に対してリフィルが良好に行うことができず、それによる吐出不良を起こす可能性がある。本発明の実施形態では、高いデューティーの画像を記録する場合は、図11に示すように、同じ走査では、一定以上の間隔をあけてインクを吐出することになることから、上記のような画像劣化は起こりにくくなる。
【0050】
以下の表1は、画像のデューティーおよびドット形成の連続性割合と、画像評価との関係を示したものである。表1において「○」は良好な画質であることを示し、「×」は画質劣化が目立つことをしている。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、デューティーが高い場合は、各走査で最初のインク吐出は直に行われることから、ドットの乱れが目立つ領域が極端に少ない。そのため記録された画像として劣化が目立つことは無い。それに対してインク吐出を連続的に行うと、デューティーが高いため、リフィルの関係から画像の乱れが発生することもある。
【0053】
一方、低デューティーの画像では、連続性が低い、従来の記録方法を行うと、形成されるドットの乱れが広範囲にわたるため、画像劣化が顕著になる。それに対して、連続性を持たせると、形成の乱れたドットを減らすことができ、画像の劣化を抑えることができる。
【0054】
以上のような方法によれば、すべての画像デューティーにおいてドットの乱れを軽減することができ、良好な画像を形成することが可能となる。また、このような制御は、インデックスパターンとマスクとの上述したような同調を双方に実施するだけで可能であり、コストアップ等をすることなく実現することが可能となる。
【0055】
なお、以上説明したマスクとインデックスパターンとの同調は、インデックスパターンがローテーションしたものとマスクとの間においてなされる形態に限定されない。例えば、あるマスクパターンの「出力」を示すマスク画素の配置に合わせて、階調ごとのインデックスパターンのドット配置を定めれば、上述した同調処理と類似の効果を得ることができる。
【0056】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態は、上述した第1実施形態に示したマスクのサイズを大きくしたものに関する。本実施形態は、図7(b)に示したマスクをマスクパターンAとする。このマスクパターンとともに、図13に示すそれぞれマスクパターンB、マスクパターンC、マスクパターンDを用いる。具体的には、これらのパターンをパターンA、B、C、Dの順に繰り返して用いる。これにより、マスクサイズは横方向に64画素分となる。この場合、例えば、上から1番目の行に着目すると、総てのパスで吐出が行われることになる。これにより、使用するノズルが偏ることを防止できより均一な画像を記録することができる。
【0057】
ところで、このようなマスクを使用した場合、マスクの切り替えで新しいノズルが使用されるために画像劣化が起きる場合がある。図14(a)は、これらのマスクを用いて、図9に示す階調値「0010」のインデックスパターンによるドット配置の画像を横(走査)方向に64画素分記録した結果を示す図である。一方、図14(b)は、上述した第1実施形態のマスク(図7のマスク)を適用した場合における、同様の結果を示す図である。
【0058】
図14(a)に示す例は、図14(b)に示す例と比較して、確かに形成が乱れるドットは増すが、乱れたドットは小さな領域に孤立して存在しいていることから目立ち難い。また、多くの走査を用いて1行の画像が形成されるため、より滑らかな画像となる。
【0059】
一方、図14(c)は、マスクとドット配置の上述した同調性が低い例の場合における、同様の結果を示す図である。同図に示す例は、図7(b)のマスクパターンの繰り返しと、図10(a)に示すインデックスパターンの繰り返しによるドット配置に基づく記録結果を示している。この例では、2400dpiの密度で16画素分のドット形成がまとまって乱れるため、顕著に記録画像の劣化が目立つ画像となる。
【0060】
本実施形態では、画像劣化する画像が広範囲に散らばることにより画像劣化が目立たない。なお、本実施形態は4つのマスクパターンを繰り返しているが、この数に限られるものでなく、ドットが形成されるタイミングが連続的であれば、繰り返しマスクを用いなくても良い。また、マスクパターンをノズルごとに走査方向に徐々にずらすことにより、形成が乱れたドットを縦方向にも孤立させることもできる。
【0061】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態は、通常のインクより色材濃度が低い淡インクを用いたインクセットを用いる構成に係わるものである。本実施形態ではシアンインクおよびマゼンタインクの色材濃度より低い色材濃度のそれぞれライトシアンインクおよびライトマゼンタインクをそれぞれ使用する。
【0062】
このように、淡インクを用いた画プリンタでは、一般的に明るい画像は淡インクおよびイエローインクによって記録される。このためデューティーの低い画像は淡インクとイエローインクによって記録されることが多い。そのため、淡インクおよびイエローインクについてだけ、第1および第2実施形態にて説明したようなインデックスパターンとマスクの関係を持たせる。一方、他のインク(濃インク)についてはこのような関係は持たせず、上述した吐出不良による画質劣化とは異なる原因の画質劣化(例えば、異色インクによるブリーディング)を軽減するのに有効なドット配置やそのドットを記録するパスを設定する。これにより、様々な画質劣化を軽減できるため、良好な画像を得ることができる。
【0063】
また、使用するインクの種類の数や、ドット配置の同調を適用するインクの例はこの例に限定されない。例えば、ドット形成の乱れが発生しやすいインクだけに上記の同調を適用してもよい。
【0064】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態は、マルチパスにおける複数のパスに記録データを振り分けもしくは分割する方法として、マスクを用いずに固定間引きパターンにより間引く方法を用いたものに関する。この固定間引きパターンによる間引きは、画素列において所定数の画素ごとにドットを形成する走査が同じ走査になるようにドット配置を決定して行く方法である。この方法によれば、上記間隔を適切に定めることより、より高速の走査を行うことが可能となる。
【0065】
図15(a)は、本実施形態に係る固定間引きパターンを用いた間引によってドットを形成する走査を定めた結果を、上述したマスクパターンと同様に示す図である。この間引きは、具体的には、記録すべき画像の各画素列において4画素おきの画素について同じ走査でドットを記録するようにするものである。この記録方法によれば、比較的速い速度の走査が行われても、記録ヘッドの吐出周波数をそれに応じて上げる必要がなく、安定した吐出を行うことが可能となる。
【0066】
一方、図15(b)は、上記のように一定の間隔でドットを形成する走査が同じ走査になるようにドット配置を定める規則性を持たないマスクの例を示す図である。このマスクを用いた場合の吐出周波数は以下のように求められる。この場合の走査方向の記録解像度をたとえば1/2400インチとする。そして走査速度を30インチ/秒とした場合、通常は30×2400で72kHzの吐出周波数で吐出する必要がある。これに対し、図15(a)に示すパターンで間引いた場合、その1/4の18kHZで吐出すれば良い。これにより、速い走査速度で記録を行うことができる。
【0067】
図16は、図15(a)に示すパターンによってドットを複数階の走査に振り分けた結果を示す図であり、一例としてシアンのドット配置を示したものである。同図に示すように、同じ走査で連続してシアンドットが形成されることがわかる。
【0068】
なお、本発明の実施形態は、ドット配置と1回の走査で記録することが可能な画素位置との間で同調をとり、比較的低デューティーのドット配置においては連続的にドットが吐出されるものに関する。そのため、画素ごとにドットを形成する走査回が対応付けられたパターンである、マスクパターンや固定間引きパターンを含め、走査毎の画像の形成方法はこれらの方法に限定されないことは言うまでもない。
【0069】
<第5の実施形態>
本発明の第5の実施形態は、ドット配置決定方法として、上述した第1〜第4実施形態のインデックスパターンと異なり、ディザ法を用いるものに関する。本実施形態は、ディザマトリクスを用いてドット(2値)データを生成し、そのドットデータをマスクを用いてマルチパス記録の複数回の走査に振り分ける。
【0070】
図17は、ディザマトリクスを用いた2値化処理を含む記録データ生成処理を説明するためのブロック図であり、図4と同様の図である。図4にて説明した処理などと同様の処理についてその説明は省略する。本実施形態のディザ処理は、色部分解処理1906によって生成された各8ビットのC、M、Y、Bkデータ1907をディザマトリクス1908を用いてそれぞれの色の2値データ1909に変換する。
【0071】
図18(a)〜(e)は、本実施形態のディザ処理を説明する図である。図18(a)は、ディザマトリクスの画素ごとの閾値パターンを示している。例えば、入力する濃度情報が全画素において32である画像の場合、閾値が32以下の画素に対応した画素にドットが配置される。図18(b)はこのドット配置を示している。これから明らかなように、入力値が「32」に応じて、図9に示したインデックスパターンと同様、一定の規則を持ったドット配置となる。同様に図18(c)〜図18(e)はそれぞれ、濃度情報がすべての画素において、64、128、192の場合のドット配置を示すものである。
【0072】
図19(a)は、このドット配置に対して本実施形態で用いるマスクを示す図である。このマスクは、ノズルに対応した、そのマスクにおける「出力」を示すマスク画素でマルチパス記録の同じ走査回で用いるマスク画素の配置が、上記ディザパターンによるドット配置と同じものである。
【0073】
図19(b)〜(e)はそれぞれのデューティーにおいて上記マスクを用いて各走査に振り分けられたドットおよび連続性割合を示す図である。この図に示すように、たとえば階調数32においては、それぞれの走査で同じノズルで連続的なインク吐出を行うことができる。つまり連続性割合は100%である。また、階調数64、128、192ではそれぞれ連続性割合が、100%、17%、5%となり、低デューティーほど連続性割合が高くなる。これにより、本実施形態においても、ノズルの不使用によるインク増粘を抑制でき、これにより、吐出不良に起因した記録画像の品位低下を防止することが可能となる。なお、本実施例においては簡易的にディザパターン及びマスクパターンは規則正しいものを用いているがこれに限るものではない。
【0074】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態で説明した、インデックスパターンを用いたインデックス展開やその後のマスク処理は、インクジェットプリンタにおいて実行するものとしたが、これらの処理の総てあるいは一部をホスト装置で行ってもよい。
【符号の説明】
【0075】
11 キャリッジ
17Y イエローノズル列
17M マゼンタノズル列
17C シアンノズル列
17Bk ブラックノズル列
301 システムコントローラ
306 ホストコンピュータ
310 記録制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドットを形成するための複数のノズルを有する記録ヘッドを記録媒体の画素列領域に対して複数回走査させ、該複数回の走査で前記画素列領域にドットを形成することが可能なインクジェット記録装置であって、
所定の濃度以下の低濃度画像領域に形成されるドットのうち、同じ走査で同じノズルで前記画素列領域に連続して形成されるドットの割合が、前記所定の濃度よりも高い高濃度画像領域に形成されるドットのうち、同じ走査で同じノズルで前記画素列領域に連続して形成されるドットの割合よりも高くなるように、前記画素列領域に形成されるべきドットに対応した記録データに基づいて前記複数回の走査の各々で用いられる各走査用記録データを生成するための生成手段
を具えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記生成手段は、
インクを吐出する複数のノズルを配列した記録ヘッドを記録媒体の同一領域に対して複数回走査させ、該複数回の走査で異なるノズルを前記同一領域に対応させて記録媒体にドットを形成し記録を行うインクジェット記録装置であって、
画像の濃度に対応した階調データに基づき、記録媒体において形成されるドットの配置を画素ごとに定めるドット配置決定手段と、
画素ごとにドットを形成する走査回が対応付けられたパターンであって、該パターンにおける同じ走査回の、走査方向の画素列に対応した配置の周期が、前記配置が定められたドットの、前記走査方向の画素列における前記階調データごとの配置の周期に対して自然数分の1であるパターンを用いて、前記配置が定められたドットを、前記複数回の走査のうち当該ドットの画素に対応した走査回に振り分ける振り分け手段と、
を有したことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
ドットを形成するための複数のノズルを有する記録ヘッドを記録媒体の画素列領域に対して複数回走査させ、該複数回の走査で前記画素列領域にドットを形成するためのインクジェット記録方法であって、
所定の濃度以下の低濃度画像領域に形成されるドットのうち、同じ走査で同じノズルで前記画素列領域に連続して形成されるドットの割合が、前記所定の濃度よりも高い高濃度画像領域に形成されるドットのうち、同じ走査で同じノズルで前記画素列領域に連続して形成されるドットの割合よりも高くなるように、前記画素列領域に形成されるべきドットに対応した記録データに基づいて前記複数回の走査の各々で用いられる各走査用記録データを生成するための生成工程と、
前記生成工程において生成された各走査用記録データに従って、前記複数回の走査で前記画素列領域にドットを形成する形成工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−25120(P2012−25120A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168483(P2010−168483)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】