説明

インクジェット記録装置による画像形成方法

【課題】ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で印字する場合であっても、印字の際の裏抜け、異なる色のインク間でのカラーブリード、及びオフセットによる画像汚れの発生を抑制しつつ、良好な濃度の画像を形成できる画像形成方法を提供すること。
【解決手段】顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて印字する、インクジェット記録装置による画像形成方法において、質量乾燥率10〜40%の範囲のインクに含まれる顔料の平均粒子径から所定の方法により求められる粒径変化定数が所定の範囲であるインクを、粒径変化定数が小さい順に記録ヘッドから吐出して印字を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2色以上のインクを用いる、インクジェット記録装置による画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録技術の急速な進歩により銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることが可能となっていることから、インクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット記録装置が画像形成装置として広く使用されている。
【0003】
かかるインクジェット記録装置を用いる画像形成方法において、良好な印字濃度、高速印字、印字の際の裏抜け(印字したインクが被記録媒体を通過し、裏面に形成された画像が映る現象)の抑制、異なる色のインク間でのカラーブリードの抑制、及びオフセットによる画像汚れの発生の抑制等が要求されており、これらの課題を解決するために、種々の検討が行われている。
【0004】
例えば、裏抜けの課題を解消するために、普通紙についてブリストー測定を実施し、縦軸を液体転移量L(ml/m)、横軸を(γ・t/η)1/2として測定点をプロットした時に、グラフの傾きの値がペンタデカンを測定液としたときの傾きの値に対して0〜0.9倍未満であることを特徴とするインクジェットインクの使用が提案されている(特許文献1)。なお、γはインクジェットインクの表面張力(mN/m)、tは接触時間(msec)、ηは粘度(mPa・sec)を表す。

【0005】
しかし、特許文献1に記載のインクジェットインクにより画像を形成する場合、裏抜けの課題は解消されるが、かかる課題を解決するためにインクジェットインクの被記録媒体への浸透が抑制されているため、カラーブリードや、オフセットによる画像汚れの発生の抑制は解決されない。また、特許文献1に記載のインクジェットインクを用いる画像形成方法において、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いる場合、高速で印字されることが多いため、カラーブリードやオフセットによる画像汚れの発生が顕著である。
【0006】
カラーブリードの抑制には、2色以上のインクを、被記録媒体への浸透性が高い順に吐出して画像を形成することが有効であると考えられており、例えば、特許文献2、及び3に記載の画像形成方法が提案されている。具体的には、特許文献2には、浸透性付与剤の含有量が多い順にインクを吐出して画像を形成する方法が記載されており、特許文献3には、被記録媒体への浸透速度の速いカラーインクを、浸透速度の遅いブラックインクよりも先に吐出して画像を形成する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献4では、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置により画像を形成する際の、裏抜け、及びカラーブリードを抑制する方法として、特定の範囲のSP値を有する有機溶媒を含み、ブリストー法による接触時間0.05秒後のインク転移量が15ml/m以上であるインクを、インク転移量が多い順に吐出して画像を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−220118号公報
【特許文献2】特開平06−226999号公報
【特許文献3】特開平06−136310号公報
【特許文献4】特開2007−145927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2、及び3に記載の画像形成方法で考慮されているインクの浸透性は、印字後10秒以降の被記録媒体へのインクの浸透性である。このため、特許文献2、及び3に記載の画像形成方法では、例えば、隣接するラインヘッド間でのインクの吐出間隔が1秒以下となるような条件で高速印字が行われるラインヘッド方式のインクジェット記録装置では、カラーブリードを十分に抑制できない。
【0010】
また、特許文献4によれば、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いる場合の、カラーブリード、及び裏抜けが抑制される。しかし、特許文献4に記載の画像形成方法による裏抜けの抑制効果は十分ではなく、更なる改良が求められる。加えて、特許文献4に記載の画像形成方法では、被記録媒体への浸透性に優れるインクを用いるため、インクの浸透に伴い、インクに含まれる顔料が被記録媒体の内部に入り込みやすい。このため、特許文献4に記載の画像形成方法では、良好な濃度の画像を形成しにくい。
【0011】
さらに、特許文献2〜4に記載の画像形成方法は、画像が形成された被記録媒体をインクジェット記録装置から排出する際に、形成された画像が排出部に設けられるローラーにより摺擦されることにより生じる、オフセットによる画像汚れの抑制を考慮したものではない。このため、特許文献2〜4に記載の画像形成方法では、インクの組成によっては、オフセットによる画像汚れが生じやすい。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で印字する場合であっても、印字の際の裏抜け、異なる色のインク間でのカラーブリード、及びオフセットによる画像汚れの発生を抑制しつつ、良好な濃度の画像を形成できる画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて印字する、インクジェット記録装置による画像形成方法において、質量乾燥率10〜40%の範囲のインクに含まれる顔料の平均粒子径から所定の方法により求められる粒径変化定数が所定の範囲であるインクを、粒径変化定数が小さい順に記録ヘッドから吐出して印字を行うことにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1) 顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて印字する、インクジェット記録装置による画像形成方法であって、
質量乾燥率10〜40%の範囲における、インクに含まれる顔料の平均粒子径の値を、前記質量乾燥率に関するX軸と前記顔料の平均粒子径に関するY軸とを備えるXY平面にプロットし、プロットされた値を線形近似して得られる近似直線の傾きとして求められる粒径変化定数が50〜150であり、
前記粒径変化定数が小さなインクから順に記録ヘッドからインクを吐出して印字を行う、画像形成方法。
【0015】
(2) 前記樹脂の重量平均分子量が30000〜200000である、(1)記載の画像形成方法。
【0016】
(3) 2色目以降に前記記録ヘッドから吐出される全てのインクの粒径変化定数が、直前に吐出されるインクの粒径変化定数よりも10〜50大きい、(1)、又は(2)記載の画像形成方法。
【0017】
(4) 前記インクジェット記録装置がラインヘッド方式であり、A4縦方向の長さに被記録媒体を搬送して印字する場合の印字速度が100ppm以上である、(1)〜(3)何れか記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で印字する場合であっても、印字の際の裏抜け、異なる色のインク間でのカラーブリード、及びオフセットによる画像汚れの発生を抑制しつつ、良好な濃度の画像を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図である。
【図2】図2は、図1に示されるインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方から見た平面図である。
【図3】図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置に用いられるラインヘッドと記録用紙上に形成されたドット列の一部を示す拡大平面図である。
【図5】図5は、インクaの、質量乾燥率とインクに含まれる顔料の平均粒子径(D50)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0021】
本発明の画像形成方法は、顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて印字する、インクジェット記録装置による画像形成方法であって、後述する粒径変化定数の小さなインクから順に記録ヘッドからインクを吐出して画像を形成する方法である。以下、本発明に関して、インク、インクの調製方法、及び画像形成方法について順に説明する。
【0022】
〔インク〕
本発明において用いるインクは、顔料と樹脂とを含む顔料分散体、水、及び有機溶剤とを含むものである。また、本発明において用いるインクは、必要に応じ、インクに含まれる成分の溶解状態を安定化させる溶解安定剤、及びインクから液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる保湿剤を含んでいてもよい。以下、本発明において用いるインクに関して、顔料分散体、水、有機溶剤、溶解安定剤、及び保湿剤について順に説明する。
【0023】
本発明では、2色以上のインクが使用される。インクの数は、2以上であれば、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。種々の色相の画像を良好に形成でき、記録ヘッドの数を少なくしインクジェット記録装置を小型化しやすいことから、ブラックインク、シアンインク、イエローインク、及びマゼンタインクからなる4色のインクを使用するのが好ましい。
【0024】
(顔料分散体)
顔料分散体中に含有させることができる顔料は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来からインクジェット記録装置用インクの着色剤として使用されている顔料から適宜選択して使用できる。シアンインクに使用される顔料の具体例としてはC.I.ピグメントブルー15等の青色顔料が挙げられ、イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、193等の黄色顔料が挙げられ、マゼンタインクに使用される顔料としてはC.I.ピグメントレッド122、202等の赤色顔料が挙げられ、ブラックインクに使用される顔料としてはC.I.ピグメントブラック7(B.K−7、カーボンブラック)等の黒色顔料等が挙げられる。
【0025】
上記の他の色相の顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、71等の橙色顔料、C.I.ピグメントバイオレット19、23、33等の紫色顔料等が挙げられる。これらの顔料を2種以上組み合わせて用い、インクの色相を所望の色相に調整することができる。
【0026】
顔料分散体に含まれる顔料の量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、インクの全質量に対して2〜15質量%が好ましく、4〜10質量%がより好ましい。顔料の使用量が過少であると良好な画像濃度を得にくく、顔料の使用量が過多であると、インクの流動性が損なわれ良好な画像を形成しにくくなったり、インクの被記録媒体に対する浸透性が損なわれ、オフセットが発生しやすくなったりする場合がある。さらに、顔料の使用量が過多である場合、インクの分散安定性が維持できなくなる場合もある。
【0027】
顔料分散体に含まれる樹脂は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から顔料分散体の製造に用いられている種々の樹脂から適宜選択して使用できる。好適な樹脂の具体例としては、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの樹脂の中では、調製が容易で、顔料の分散効果に優れることから、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸アルキルエステル共重合体等の、スチレンに由来する単位と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルに由来する単位とを含むスチレン−アクリル系樹脂が好ましい。上記の樹脂は、ラジカル重合により得られる。
【0028】
顔料分散体の調製に用いる樹脂の重量平均分子量(Mw)は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、典型的には30000〜200000が好ましい。樹脂の重量平均分子量(Mw)をかかる範囲の値とする場合、後述するインクの粒径変化定数の値を、50〜150の範囲に調整しやすい。顔料分散体に含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)はゲルろ過クロマトグラフィーにより測定できる。
【0029】
本発明では、画像を形成する際のインクの吐出順を、後述するインクの粒径変化定数によって決定するが、インクの粒径変化定数は、顔料分散体を調製する際の樹脂の重量平均分子量(Mw)を変更することによって調整できる。具体的には、顔料分散体に含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)が大きくなるほど、得られるインクの粒径変化定数も大きくなる。
【0030】
顔料分散体を調製する際の樹脂の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。樹脂の使用量は、典型的には、顔料100質量部に対して、30〜100質量部が好ましく、30〜70質量部がより好ましい。
【0031】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体を製造する方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来知られる方法から適宜選択できる。好適な方法としては、例えば、ナノグレンミル(浅田鉄工株式会社製)、MSCミル(三井鉱山株式会社製)、ダイノミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製)、サンドミル(株式会社安川製作所製)等のメディア型湿式分散機を用いて、水等の適当な液体の媒体中において、顔料と樹脂とを混練して顔料分散体とする方法が挙げられる。メディア型湿式分散機による処理では、小粒径のビーズを用いる。ビーズの粒子径は特に限定されず、典型的には粒径0.5〜2.0mmである。また、ビーズの材質は特に限定されず、ジルコニアビーズ、ガラスビーズ等の硬質の材料からなるビーズが使用される。
【0032】
(水)
本発明において用いるインクは、水性インクであり、水を必須に含む。インクに含まれる水は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されず、従来から、水性インクの製造に使用されている水から、所望の純度の水を適宜選択して使用できる。インクにおける水の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の含有量は、後述する、他の成分の使用量に応じて適宜変更される。インクにおける典型的な水の含有量としては、インクの全質量に対して20〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。
【0033】
(有機溶剤)
本発明において用いるインクは、インクの被記録媒体への浸透を促進させる目的等で有機溶剤を含む。好適な有機溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルや、1,2−ヘキシレングリコール等の炭素原子数6〜8の1,2−アルカンジオール等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。インクにおける有機溶剤の含有量はインクの全質量に対して10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
【0034】
(溶解安定剤)
溶解安定剤は、インクに含まれる成分を相溶化してインクの溶解状態を安定化させる成分である。溶解安定剤の具体例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶解安定剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクが溶解安定剤を含有する場合、溶解安定剤の含有量は、インクの全質量に対して1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。
【0035】
(保湿剤)
保湿剤は、インクからの液体成分の揮発を抑制してインクの粘性を安定化させる成分である。保湿剤の具体例は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、及びグリセリン等が挙げられる。これらの、保湿剤の中では、水等の液体成分の揮発の抑制効果に優れることからグリセリンがより好ましい。保湿剤は2種以上を組み合わせて用いることができる。インクが保湿剤を含有する場合、保湿剤の含有量は、インクの全質量に対して5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0036】
インクの粒径変化定数は、保湿剤の含有量を変更することによっても調整することができる。具体的には、インクにおける保湿剤の含有量を増やすほど、インクの粒径変化定数は大きくなる。
【0037】
〔インクの製造方法〕
インクの製造方法は、顔料分散体、水、有機溶剤等のインク成分を均一に混合することができれば特に限定されない。インクジェット記録装置用インクの製造方法の具体例としては、インクの各成分を混合機により均一に混合した後、孔径10μm以下のフィルターにより異物や粗大粒子を除去する方法が挙げられる。なお、インクを製造する際には、必要に応じて溶解安定剤、保湿剤等の成分や、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防腐防カビ剤等の、従来からインクジェット記録装置用のインクに加えられている種々の添加剤を加えることができる。
【0038】
〔画像形成方法〕
本発明の画像形成方法において用いるインクジェット記録装置は特に限定されないが、高品質の画像を高速で形成できることから、インクジェット記録装置として、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いるのが好ましい。ラインヘッド方式のインクジェット記録装置では、オフセットによる画像の汚れや、カラーブリードが生じやすいが、本発明の画像形成方法によれば、これらの問題が生じにくい。
【0039】
また、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて画像を形成する場合、印字速度は、A4縦方向の長さに被記録媒体を搬送して印字する場合の印字速度として100ppm(頁/分)以上であるのが好ましい。本発明の画像形成方法によれば、100ppm以上の高速で画像を形成する場合であっても、裏抜け、カラーブリード、及びオフセットによる画像の汚れの問題のない画像を良好な印字濃度で形成できる。
【0040】
以下、図面を参照して、本発明の画像形成方法の好適な例として、4つの記録ヘッドを備えるラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用い、被記録媒体として記録用紙を用いて、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクを用いて画像を形成する場合に関して説明する。図1は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の概略構成を示す側面断面図であり、図2は、図1に示すインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方からみた平面図である。
【0041】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には記録用紙Pを収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された記録用紙Pを、最上位の記録用紙Pから順に一枚ずつ後述する搬送ベルト5へと搬送給紙するための給紙ローラー3及び給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4が設けられている。
【0042】
給紙ローラー3及び従動ローラー4の用紙搬送方向下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、用紙搬送方向下流側に配置されたベルト駆動ローラー6と、上流側に配置され搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動回転するベルトローラー7とに掛け渡されており、ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0043】
ここで、用紙搬送方向Xの下流側にベルト駆動ローラー6を配置したことにより、搬送ベルト5の用紙送り側(図1において上側)はベルト駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、ベルトテンションを張ることができ、安定した記録用紙Pの搬送が可能となる。なお、搬送ベルト5には誘電体樹脂製のシートが用いられ、継ぎ目を有しない(シームレス)ベルト等が好適に用いられる。
【0044】
また、搬送ベルト5の用紙搬送方向下流側には、図中時計回りに駆動され画像が記録された記録用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー8a、及び排出ローラー8aの上部に圧接され従動回転する従動ローラー8bが設けられており、排出ローラー8a及び従動ローラー8bの下流側には、装置本体外へと排出された記録用紙Pが積載される排紙トレイ10が設けられている。
【0045】
従動ローラー8bは印字面に直接触れるため、従動ローラー8bの表面を形成する素材は撥水性材料であるのが好ましい。従動ローラー8bの表面を撥水性材料により形成することにより、記録用紙Pに浸透していないインクのローラーへの付着を抑制でき、オフセットの発生を抑制しやすい。好適な撥水材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂が挙げられる。従動ローラー8bと同様に、印字面に接触する部材の表面は撥水性材料により形成するのが好ましい。
【0046】
そして、搬送ベルト5の上方には、搬送ベルト5の上面に対して所定の間隔が形成されるような高さに支持され、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pへと画像の記録を行うラインヘッド11a、11b、11c、及び11dが配設されている。これらのラインヘッド11a〜11dには、以下の方法に従って測定されるインクの粒径変化定数が50〜150である4色のインクが、粒径変化定数が小さな順に、ラインヘッド11aから順に充填される。
【0047】
<粒径変化定数測定方法>
(質量乾燥率の測定)
インク約250ccを、容積300ccの上部に開口を有する円柱状の容器に入れ、容器内のインクの質量(初期質量)Wを測定する。次いで、インクの入った容器を内温60℃に設定された恒温槽に入れ、任意に設定される時間毎に容器内のインクの質量Wを測定する。下式により算出されるインクの質量乾燥率を随時計測し、質量乾燥率が10質量%、20質量%、30質量%、及び40質量%となった時点で、下記方法に従って、インクに含まれる顔料の平均粒子径を測定する。
質量乾燥率(%)=(W−W)/W×100
【0048】
(顔料の平均粒子径の測定)
質量乾燥率が10質量%、20質量%、30質量%、及び40質量%となった時点で、インクに含まれる顔料の平均粒子径の測定を行う。平均粒子径の測定は、Zetasizer Nano ZS(Malvern社製)を用いて、25℃において行う。得られた顔料のメジアン径(D50)を求め、これを平均粒子径とする。
【0049】
(粒径変化定数測定方法)
質量乾燥率が10質量%、20質量%、30質量%、及び40質量%となった時点での、インクに含まれる顔料の平均粒子径の値を、Microsoft(登録商標) Excel(登録商標)(マイクロソフト社製)によって、インクの質量乾燥率に関する横軸(X軸)と、インクに含まれる顔料の平均粒子径に関する縦軸(Y軸)を有するXY平面にプロットする。なお、データをプロットする際、質量乾燥率が10%である場合、0.10として、質量乾燥率が40質量%である場合、0.40としてプロットする。データをプロットした後、質量乾燥率が10、20、30、及び40質量%の範囲のデータに基づいて、線形近似を行い近似直線を得る。得られる近似直線について、Y=AX+B(A、及びBは定数)で表される近似式を取得し、近似直線の傾きであるAを粒径変化定数とする。
【0050】
インクの粒径変化定数を50以上とすることにより、画像形成時にインクに含まれる顔料の平均粒子径を適度な大きさにすることができる。このため、顔料を被記録媒体表面にとどめた状態で、インクに含まれる液体成分を被記録媒体に浸透させることができ、裏抜けの発生を抑制できる。
【0051】
また、インクの粒径変化定数を150以下とすることにより、被記録媒体を構成する繊維の隙間での顔料粒子の粗大化が起こりにくく、被記録媒体へのインクに含まれる液体成分の浸透が妨げられにくくなる。このため、ラインヘッド11a〜11dから吐出される全てのインクについて、インクに含まれる液体成分を被記録媒体に良好に浸透させることができ、その結果、オフセットによる画像汚れの発生を抑制できる。
【0052】
さらに、4色のインクを、粒径変化定数が小さな順に、ラインヘッド11aから順に吐出させて画像を形成することにより、カラーブリードの発生を抑制することができる。粒径変化定数が小さいほど、インク液滴が被記録媒体に着弾した後に、被記録媒体を構成する繊維の隙間での顔料の粗大化が起こりにくく、インクに含まれる液体成分が速やかに被記録媒体に浸透しやすい。この場合、早い印字順のインクに含まれる顔料が被記録媒体表面にある程度固着された後に、次順のインクを被記録媒体に着弾させやすい。このため、早い印字順のインクと、次順のインクとが被記録媒体表面で混じりあいにくく、カラーブリードの発生が抑制される。
【0053】
早い印字順のインクと、次順のインクとの粒径変化定数の差は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。早い印字順のインクと、次順のインクとの粒径変化定数の差は、典型的には、10〜50であるのが好ましい。早い印字順のインクと、次順のインクとの粒径変化定数の差が過小であると、所望のカラーブリードの抑制効果を得にくい場合がある。早い印字順のインクと、次順のインクとの粒径変化定数の差が過大であると、遅い印字順のインクの粒径変化定数が高くなってしまうため、オフセットによる画像汚れがわずかに生じる場合がある。
【0054】
このため、1順目に吐出されるインクの粒径変化定数は、50〜80であるのがより好ましい。1順目に吐出されるインクの粒径変化定数をかかる範囲とすることにより、早い印字順のインクと、次順のインクとの粒径変化定数の差を10〜50の範囲として画像を形成しやすい。
【0055】
これらのラインヘッド11a〜11dは、図2に示すように、搬送方向と直交する方向(図2の上下方向)に複数のノズルが配列されたノズル列を備え、搬送される記録用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録することができるようになっている。
【0056】
なお、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置においては、搬送ベルト5の幅寸法以上に形成された長尺のヘッド本体の長手方向に複数のノズルを配列させることで、記録用紙Pの幅以上の記録領域を有するように構成されたラインヘッドを用いているが、例えば各々複数個のノズルを備えた短尺のヘッドユニットを搬送ベルト5の幅方向に複数配列することにより、搬送される記録用紙Pの幅方向全幅にわたって画像を記録できるようにしたラインヘッドを用いても構わない。
【0057】
また、ラインヘッド11a〜11dのインクの吐出方式としては、例えば、図示しない圧電素子(ピエゾ素子)を用いてラインヘッド11a〜11dの液室内に生じる圧力を利用してインクの液滴を吐出する圧電素子方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式等、各種方式を適用することができる。インクの吐出方式は、吐出量の制御が容易であることから圧電素子方式が好ましい。
【0058】
図3は、ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。図1及び図2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。インクジェット記録装置100には制御部20が備えられており、制御部20には、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、ラインヘッド制御回路26、及び電圧制御回路27等が接続されている。
【0059】
インターフェイス21は、例えば、図示しないパソコン等のホスト装置とデータの送受信を行う。制御部20は、インターフェイス21を介して受信された画像信号を、必要に応じて変倍処理或いは階調処理して画像データに変換する。そして、後述する各種制御回路に制御信号を出力する。
【0060】
ROM22は、ラインヘッド11a〜11dを駆動させて画像記録を行う際の制御プログラム等を記憶している。RAM23は、制御部20により変倍処理或いは階調処理された画像データを所定の領域に格納する。
【0061】
エンコーダー24は、搬送ベルト5を駆動する排紙側のベルト駆動ローラー6に接続されており、ベルト駆動ローラー6の回転軸の回転変位量に応じてパルス列を出力する。制御部20は、エンコーダー24から送信されるパルス数をカウントすることで回転量を算出し、用紙の送り量(用紙位置)を把握する。そして制御部20は、エンコーダー24からの信号に基づいて、モーター制御回路25及びラインヘッド制御回路26に制御信号を出力する。
【0062】
モーター制御回路25は、制御部20からの出力信号により記録媒体搬送用モーター28を駆動する。記録媒体搬送用モーター28は駆動してベルト駆動ローラー6を回転させ、搬送ベルト5を図1の時計回りに回動させて用紙を矢印X方向へと搬送する。
【0063】
ラインヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、RAM23に格納された画像データをラインヘッド11a〜11dへ転送し、転送された画像データに基づいてラインヘッド11a〜11dからのインクの吐出を制御する。かかる制御と、記録媒体搬送用モーター28によって駆動する搬送ベルト5による用紙の搬送の制御とにより、用紙への記録処理が行われる。
【0064】
電圧制御回路27は、制御部20からの出力信号に基づいて給紙側のベルトローラー7に電圧を印加することにより交番電界を発生させ、搬送ベルト5に用紙を静電吸着させる。静電吸着の解除は、制御部20からの出力信号に基づいてベルトローラー7又はベルト駆動ローラー6を接地させることにより行われる。なお、ここでは給紙側のベルトローラー7に電圧を印加する構成としたが、排紙側のベルト駆動ローラー6に電圧を印加する構成としてもよい。
【0065】
ラインヘッド型の記録方式のインクジェット記録装置を用いてドットを形成する方法を、図4を用いて具体的に説明する。なお、図4では図1及び図2に示したラインヘッド11a〜11dのうち、ラインヘッド11aを例に挙げて説明するが、他のラインヘッド11b〜11dについても全く同様に説明される。
【0066】
図4に示すように、ラインヘッド11aには複数個のノズルからなるノズル列N1、N2が搬送方向(矢印X方向)に並設されている。つまり、搬送方向の各ドット列を形成するノズルとして、ノズル列N1、N2に各1個ずつ(例えばドット列L1ではノズル12a及び12a’)、合計2個のノズルを備えている。なお、ここでは説明の便宜のため、ノズル列N1、N2を構成するノズルのうち、ドット列L1〜L16に対応する12a〜12p及び12a’〜12p’までの各16個のノズルのみを記載しているが、実際にはさらに多数のノズルが搬送方向と直交する方向に配列されているものとする。
【0067】
そして、このノズル列N1、N2を順次用いて記録用紙P上に画像を形成する。例えば、記録用紙Pを搬送方向に移動させながら、記録用紙Pの幅方向(図の左右方向)1行分のドット列D1をノズル列N1からのインク吐出(図の実線矢印)により形成した後、次の1行分のドット列D2をノズル列N2からのインク吐出(図の破線矢印)により形成し、さらに次の1行分のドット列D3を再びノズル列N1からのインク吐出により形成する。以下、ドット列D4以降もノズル列N1、N2を交互に用いて同様に形成する。
【0068】
以上説明した画像形成方法によれば、ラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用いて高速で印字する場合であっても、印字の際の裏抜け、異なる色のインク間でのカラーブリード、及びオフセットによる画像汚れの発生を抑制しつつ、良好な濃度の画像を形成できる。このため、本発明の画像形成方法は種々のインクジェット記録装置において好適に利用される。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
〔調製例1〕
調製例1において、実施例、及び比較例で使用するインクa〜lの調製方法について説明する。インクa〜lを調製する際には、ブラック顔料(PK)、シアン顔料(PC)、イエロー顔料(PY)、及びマゼンタ顔料(PM)として、以下の顔料を使用した。
PK:カーボンブラックMA7(三菱化学株式会社製)
PC:C.Iピグメントシアン15:3(大日精化工業株式会社製)
PY:C.Iピグメントイエロー74(大日精化工業株式会社製)
PM:C.Iピグメントレッド122(大日精化工業株式会社製)
【0071】
また、顔料分散体を調製する際に、樹脂としてスチレン−アクリル酸共重合体である水溶性樹脂を用いた。インクa〜lを調製する際に使用した樹脂の重量平均分子量を表1、及び表2に記す。また、インクa〜lを調製する際に使用した樹脂の酸価は、何れも150mgKOH/gであった。
【0072】
(顔料分散体の調製)
表1、及び表2に記載の比率で、顔料、樹脂、エチレングリコール、及び純水をサンドミル(株式会社安川製作所製)に投入し、顔料分散体の質量に対して1.5倍の質量のガラスビーズ(直径1.7mm)によって2時間分散処理を行って、顔料分散体を得た。
【0073】
(インクの調製)
表1、及び表2に記載の比率で、得られた顔料分散体、2−ピロリドン、グリセリン、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、オルフィンE1010(界面活性剤、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物、日信化学工業株式会社製)、及び純水を、撹拌機により、室温にて20分間混合した後、孔径5μmのフィルターによりろ過してインクa〜lを得た。得られたインクについて、下記方法に従い粒径変化定数を測定した。
【0074】
<粒径変化定数測定方法>
(質量乾燥率の測定)
インク約250ccを、容積300ccの上部に開口を有する円柱状の容器に入れ、容器内のインクの質量(初期質量)Wを測定した。次いで、インクの入った容器を内温60℃に設定された恒温槽に入れ、任意に設定される時間毎に容器内のインクの質量Wを測定した。下式により算出されるインクの質量乾燥率を随時計測し、質量乾燥率が10質量%、20質量%、30質量%、及び40質量%となった時点で、下記方法に従って、インクに含まれる顔料の平均粒子径を測定した。
質量乾燥率(%)=(W−W)/W×100
【0075】
(顔料の平均粒子径の測定)
質量乾燥率が10質量%、20質量%、30質量%、及び40質量%となった時点で、インクに含まれる顔料の平均粒子径の測定を行った。平均粒子径の測定は、Zetasizer Nano ZS(Malvern社製)を用いて、25℃において行った。得られた顔料のメジアン径(D50)を求め、これを平均粒子径とした。
【0076】
(粒径変化定数測定方法)
質量乾燥率が10質量%、20質量%、30質量%、及び40質量%となった時点での、インクに含まれる顔料の平均粒子径の値を、Microsoft(登録商標) Excel(登録商標)(マイクロソフト社製)によって、インクの質量乾燥率に関する横軸(X軸)と、インクに含まれる顔料の平均粒子径に関する縦軸(Y軸)を有するXY平面にプロットした。なお、データをプロットする際、例えば、質量乾燥率が10%である場合、0.10として、質量乾燥率が40質量%である場合、0.40としてプロットした。データをプロットした後、質量乾燥率が10、20、30、及び40質量%の範囲のデータに基づいて、線形近似を行い近似直線を得た。得られた近似直線について、Y=AX+B(A、及びBは定数)で表される近似式を取得し、近似直線の傾きであるAを粒径変化定数とした。
【0077】
インクa〜lにおける、質量乾燥率10、20、30、及び40質量%における、インクに含まれる顔料の平均粒子径(D50)と、近似直線の式と、粒径変化定数とを表1に記す。また、一例として、インクaについて、質量乾燥率10、20、30、及び40質量%におけるインクに含まれる顔料の平均粒子径(D50)を、インクの質量乾燥率に関する横軸(X軸)と、インクに含まれる顔料の平均粒子径に関する縦軸(Y軸)を有するXY平面にプロットしグラフと、当該グラフ上に作成した近似直線とを、図5に記す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
表2、及び表3によれば、例えば、インクc、インクe、及びインクfの比較等から、樹脂の重量平均分子量を上げることによりインクの粒径変化定数を高くできることが分かる。また、インクaとインクkとの比較によれば、インク中の、グリセリン等の保湿剤の含有量を増加させることにより、インクの粒径変化定数を高くできることが分かる。
【0082】
〔実施例1〜5、及び比較例1〜10〕
4つの記録ヘッドを備えるラインヘッド方式のインクジェット記録装置を用い、調製例1で得られた12種類のインクから、任意の4種のインクを選択した。選択された4種のインクを、4つの記録ヘッドから任意の順序で吐出されて画像を形成して、下記の方法に従って、裏抜け、画像濃度、オフセットによる画像汚れ、及びカラーブリードについて評価した。各実施例、及び各比較例における、使用したインクの種類とインクの吐出順とを表4、及び表5に示す。また、実施例、及び比較例における、裏抜け、画像濃度、オフセットによる画像汚れ、及びカラーブリードの評価結果を表4、及び表5に示す。
【0083】
なお、表4、及び表5のインクの項目において、上段はインクの種類であり、中段はインクの粒径変化定数であり、下段は直前に吐出されたインクとの粒径変化定数の差である。
【0084】
<裏抜けの評価>
試験装置として、隣接する記録ヘッドのノズル間の距離が20mmとなるように、被記録媒体の搬送方向に対して垂直方向に配置された、4個の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を用いた。また、記録ヘッドとして、1ヘッド当たりのノズル数512個、解像度360dpi(dpiは2.54cm当たりのドット数)、液滴量14pl、駆動周波数12.8kHzのピエゾ型ヘッド(コニカミノルタIJ株式会社製)であるものを用いた。表4、及び表5に記載のインクを、表4、及び表5に記載の順で記録ヘッドに充填し、被記録媒体を350mm/秒の速度で搬送させて、ベタ画像を印字した。被記録媒体としては、Xerox P紙(富士ゼロックス株式会社製)を使用した。目視により裏抜けを評価し、裏抜けが観察されたものを×とし、裏抜けが観察されなかったものを○とした。
【0085】
<画像濃度の評価>
裏抜けの評価と同様にして、ベタ画像を被記録媒体(Xerox P紙(富士ゼロックス株式会社製))に印字し、ベタ画像の画像濃度を、GRETAGMACBETH SPECTROSCAN SP50(Gretag社製)を用いて、D50光源、視野角2°の条件で測定した。画像濃度1.10以下を×とし、1.10超1.20以下を△とし、1.20超を○とした。
【0086】
<オフセットによる画像汚れの評価>
裏抜けの評価において用いた画像形成装置の最下流の記録ヘッドから10cm下流の位置に、オフセットを評価するための搬送部材(ローラー)を設けたインクジェット記録装置を画像形成装置として用いた。裏抜けの評価と同様にしてベタ画像を被記録媒体(Xerox P紙(富士ゼロックス株式会社製))に印字し、ベタ画像が搬送部材により摺擦されることにより非印字部に生じる画像汚れを目視により評価した。オフセットによる画像汚れの評価基準を以下に記す。
○:非印字部の画像汚れが観察されないか、極わずかである。
△:非印字部にわずかな画像汚れが観察される。
×:非印字部に著しい画像汚れが観察される。
【0087】
<カラーブリードの評価>
裏抜けの評価と同様にして、ベタ画像を被記録媒体(Xerox P紙(富士ゼロックス株式会社製))に印字した。ベタ画像の端部を光学顕微鏡にて観察し、カラーブリードの有無、及び程度を評価した。カラーブリードの評価基準を以下に記す。
A:カラーブリードが認められない。
B:わずかにカラーブリードが認められる。
C:弱いカラーブリードが認められる。
D:強いカラーブリードが認められる。
【0088】
【表4】

【0089】
【表5】

【0090】
表4によれば、粒径変化定数が50〜150であるインクを、粒径変化定数が小さい順に吐出して画像を形成した実施例1〜4では、何れも、裏抜け、画像濃度、オフセットによる画像汚れ、及びカラーブリードについて問題ないことが分かる。
【0091】
一方、表5によれば、比較例1では、インクに含まれる顔料の粒子径が大きくなりやすく、被記録媒体へインクに含まれる液体成分が浸透しにくい、粒径変化定数が150を超えるインクfを、4順目のインクとして使用しているため、オフセットによる画像汚れが生じやすいことが分かる。
【0092】
比較例2ではインクが被記録媒体に着弾した後に、顔料の粒子径が大きくなりにくい、粒径変化定数50未満のインクが1順目に吐出されている。このため、比較例1では、顔料が被記録媒体表面に固着される前に、インクに含まれる液体成分とともに被記録媒体に浸透してしまい、裏抜けが生じてしまう。
【0093】
表5によれば、比較例2〜9では、何れも、2順目〜4順目のラインヘッドの少なくとも1箇所から、直前に吐出されたインクよりも粒径変化定数が小さなインクが吐出されていることが分かる。このため、比較例2〜9では何れもカラーブリードが生じている。
【0094】
比較例3〜9では、オフセットによる画像汚れが生じやすい。確かに、粒径変化定数が50〜150の範囲のインクを用いることによりオフセットによる画像汚れが抑制される傾向にある。しかし、かかる範囲の増粘定数のインクを吐出して画像を形成する場合であっても、早い順目に、粒径変化定数が高めのインクを吐出している場合、被記録媒体表面や、被記録媒体内部で、顔料の粒子径が粗大化することによって、次順以降に吐出されるインクの被記録媒体への浸透が妨げられやすくなる。
【0095】
比較例2〜9では、良好な濃度の画像を形成しにくい。裏抜けが生じる場合、顔料が被記録媒体内部へ浸透してしまうため、被記録媒体表面に留まる顔料の量が減少する。このため裏抜けの発生は、画像濃度低下の要因となる。また、オフセットによる画像汚れが生じる場合、形成された画像の表層の顔料が、排出部のローラーに移行してしまう。このため、オフセットによる画像汚れの発生は、画像濃度低下の要因となる。さらに、カラーブリードが生じる場合、インクのにじみにより被記録媒体表面の画像部に留まる顔料の量が低下してしまう。このため、カラーブリードは画像濃度低下の要因となる。よって、比較例2〜9では、裏抜け、オフセットによる画像汚れ、及びカラーブリードの複合的な要因によって、良好な濃度の画像を形成しにくくなっている。
【符号の説明】
【0096】
2 給紙トレイ
3 給紙ローラー
4 従動ローラー
5 搬送ベルト
6 ベルト駆動ローラー
7 ベルトローラー
8 排出部
8a 排出ローラー
8b 従動ローラー
10 排紙トレイ
11a、11b、11c、11d ラインヘッド
12a〜12p、12a’〜12p’ ノズル
20 制御部
30 検出手段
100 インクジェット記録装置
D1〜D4 ドット列(行方向)
L1〜L16 ドット列(搬送方向)
N1、N2 ノズル列
P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と樹脂とを含む顔料分散体、有機溶剤、及び水を含有する2種以上のインクを用いて印字する、インクジェット記録装置による画像形成方法であって、
質量乾燥率10〜40%の範囲における、インクに含まれる顔料の平均粒子径の値を、前記質量乾燥率に関するX軸と前記顔料の平均粒子径に関するY軸とを備えるXY平面にプロットし、プロットされた値を線形近似して得られる近似直線の傾きとして求められる粒径変化定数が50〜150であり、
前記粒径変化定数が小さなインクから順に記録ヘッドからインクを吐出して印字を行う、画像形成方法。
【請求項2】
前記樹脂の重量平均分子量が30000〜200000である、請求項1記載の画像形成方法。
【請求項3】
2色目以降に前記記録ヘッドから吐出される全てのインクの粒径変化定数が、直前に吐出されるインクの粒径変化定数よりも10〜50大きい、請求項1、又は2記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記インクジェット記録装置がラインヘッド方式であり、A4縦方向の長さに被記録媒体を搬送して印字する場合の印字速度が100ppm以上である、請求項1〜3何れか記載の画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−27976(P2013−27976A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163486(P2011−163486)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】