説明

インクジェット記録装置用インクカートリッジ

【課題】記録ヘッドにインクを一定の負圧を維持して供給するとともに、インクの漏洩を防止すること。
【解決手段】インク室2の上部に常時閉弁状態を維持する大気連通用接続口4と、下部にインク供給用接続口5が形成され、インク室2のインクを所定の負圧状態を維持しつつインク供給用接続口5に排出する負圧発生機構5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷信号に対応してインク滴を吐出する記録ヘッドにインクを適正な負圧状態で供給するインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、通常、記録用紙の紙幅方向に往復動するキャリッジに印刷信号に対応してインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッドを搭載して、外部のインクタンクから記録ヘッドにインクを供給するように構成されている。このようなインクタンク等のインク貯蔵容器は、小型の記録装置にあってはキャリッジに着脱可能に搭載され、また大型の記録装置にあっては、函体に設置されてインク供給チューブを介して記録ヘッドに接続されている。
【0003】
キャリッジに搭載されるインクタンクは、キャリッジの往復動によるインクの波立ち等による圧力変化を可及的に減少させるため、通常、スポンジ等の多孔質材を収容し、これにインクを含浸させて構成されている。
【0004】
また、函体に設置された大容量のインク袋からインク供給チューブを介してインクの供給を受ける場合にも、キャリッジの往復動によるチューブの屈曲に起因するインク圧の変化を防止するため、キャリッジの運動によるインク圧の変化を防止するためのダンピング機能を備えたサブタンクを介して記録ヘッドにインクを供給するように構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このため、前者にあっては多孔質材を収容する分だけ、インクタンクのサイズや、また重量が収容可能なインク量に比較して大きくなるという問題があり、また後者にあっては、揺動によるインクの圧力変化を防止する機構が必要となり構造が複雑化するという問題がある。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、キャリッジの移動に関わりなく印刷に適した負圧状態を維持して記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために本発明においては、インク室と、インク供給用接続口と、前記インク室に連通して常時閉弁状態を維持する大気連通用接続口とを備え、前記インク室のインクを所定の負圧状態に維持しつつ前記インク供給用接続口に排出する負圧発生機構を備えるようにした。
【0007】
インクカートリッジが記録装置から取り外されている状態では、大気連通用接続口が閉弁状態を維持しているので、インク室は大気と遮断され、負圧発生機構によりインク供給用接続口と遮断されて密封状態が維持され、インクの漏洩やインク溶媒の揮散が防止される。また記録装置に装着された状態では、弁体が開弁してインク室が大気に連通されてインク供給用接続口からインクを負圧発生機構により一定の負圧を維持しながら記録ヘッドに供給する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
図1乃至図3は、それぞれ本発明のインクカートリッジの一実施例を示すものであって、インクカートリッジ1は、一側に上下方向に延びるインク室2が、また他側に後述する負圧発生機構3が形成され、インク室2の上部、及び下部にはそれぞれ外部との接続を行う筒状体からなる大気連通用接続口4と、インク供給用接続口5が形成されている。
【0009】
各接続口4、5には、その周面に連通用の窓4a、5aが形成されていて、内部に弁体10、20が軸方向に移動可能に収容されている。各弁体10、20は、閉弁状態では一端11a、21aが接続口4、5から突出するスライド軸11、21の他端側に、接続口4、5と連通する開口12、22を封止する弾性体からなるパッキン13、23(図2)を嵌装され、バネ14、24により開口12、22にパッキン13、23を弾接させるように接続口4、5に挿入されている。
【0010】
このような構成により、カートリッジ1が後述する接続ユニット50に装着されると、大気連通用接続口4、及びインク供給用接続口5はともに開弁状態を維持して記録ヘッドにインクを供給できる。
【0011】
負圧発生機構3は、図3に示したようにインク室2と連通する断面円形の凹部からなる弁室30に、膜弁31、及び膜弁31の外周を固定する固定具を兼ねた流路形成部材32を収容し、インク室2を含む領域を遮気性を備えた膜33、33’により封止して構成されている。弁室30の中心には凸部34が、また膜弁31には凸部34と対向する位置に貫通孔35が形成されている。
【0012】
図4(a)、(b)は、それぞれ負圧発生機構3に形成されたインク流路を表裏に分けて示す図であって、インク室2からフィルタ36に流入する流れ○付き1、通孔37から流路38を経由して弁室30の通孔39に流入する流れ○付き2、膜弁31を通過する流れ○付き3、弁室30の通孔40、41と通孔41、42とを結ぶ流路43を経由する流れ○付き4、及びインク供給用接続口5に連通する通孔44と通孔42とを接続する流路45を流れる流れ○付き5によりに連通する。
【0013】
図5は、負圧発生機構3の断面構造を示すものであって、膜弁31は、周囲を厚肉部とするダイヤフラムとして形成されていて、バネ47により貫通孔35が凸部34に弾接されている。このバネ47は、その弾圧力が、記録ヘッドへのインクの圧力が負圧を維持し、かつ記録動作に追従してインクを供給できる程度に設定されている。
【0014】
図6は、記録装置本体に設けられた接続ユニット50の一実施例を示すものであって、インクカートリッジ1の前面と底面の形状に一致する壁51、52を備えた本体53に、インクカートリッジ1の大気連通用接続口4、インク供給用接続口5を収容し、弁体10、20をそれぞれ後退させて開弁させる凹部54、55がそれぞれ形成されている。
【0015】
大気連通用接続口4に係合する凹部54は、本体の表面に形成されたキャピラリ57を経由して大気に開放され、また凹部55は連通孔58を介して記録ヘッド59に接続されている。
【0016】
このような構成において、インクが充填されたインクカートリッジを図7に示したようにそれぞれの接続口4、5を接続ユニット50の凹部54、55に挿入すると、弁体10、20が凹部54、55の壁54a,55aに押圧されて開弁する。これにより、インクカートリッジ1のインク室2がキャピラリ57を介して大気に連通し、インク室2のインクを連通孔58から記録ヘッド59に供給することができる。
【0017】
印刷により記録ヘッド59でインクが消費され、インク供給用接続口5の負圧が大きくなると、膜弁31の表裏の差圧が大きくなるため、インク室2のインクの圧力を受けた膜弁31がバネ47の付勢力に抗して凸部34から離れる。これにより膜弁31の貫通孔35が開放され、通孔39と通孔42が連通し、インク供給用接続口5にインクが流れ込む。
記録ヘッド59にインクが流れ込んで、インク供給用接続口5の負圧が小さくなると、膜弁31がバネ47の付勢力により凸部34に押し付けられて貫通孔35が凸部34により封止される。以下、インク供給用接続口5のインク圧力が一定の負圧となるように、膜弁31は凸部34との接離を繰り返す。
【0018】
一方、印刷モードの変更等によりインクカートリッジを交換するべく接続ユニットから取り外すと、それぞれの接続口4、5の弁体10、20が支持を失ってバネ14、24により閉弁し、インク室2が大気と遮断されるから、使用途中で記録装置から取り外された状態でも、インクの漏洩やインク溶媒の揮散を防止でき、長期保存が可能となる。
【0019】
なお、大気連通用接続口4のスライド軸11の先端11aが、インク供給用接続口5のスライド軸21の先端21aよりも相対的に早い時点で、凹部54の壁により押圧されるように長く構成するか、または壁54aに突起等を形成しておくと、インク室と大気との差圧による不都合、つまりインクの漏れ出しや、記録ヘッド59を経由しての大気の吸い込みを防止することができる。
すなわち、インクカートリッジを装着する時点では、大気連通用接続口4が最初に開放され、ついでインク供給用接続口5が開弁される。
また、インクカートリッジを取り外す時点では、インク供給用接続口5が先ず閉弁され、次いで大気連通用接続口が閉弁される。
【0020】
図8、図9は、それぞれ本発明のインクカートリッジ1’の他の実施例を示すものであって、この実施例においてはインク供給用接続口5’が単純な開口として形成されている。この実施例においても、インクカートリッジ1が接続ユニット50’に装着されるまでは、大気連通用接続口4の弁体10がバネ14の付勢力により閉弁状態を維持し、また負圧発生機構3の膜弁31も閉弁状態を維持しているので、インク室2のインクがインク供給用接続口5’から漏れ出すことがない。
【0021】
一方、接続ユニット50’は、図10に示したように記録ヘッド59に連通する流路58を備えた凹部60が形成されていて、図11に示したようにインクカートリッジ1’が装着されると、弁体10が凹部54の壁54aに押圧されて開弁する。これにより、インクカートリッジ1のインク室2がキャピラリ57を介して大気に連通し、インク室2のインクを連通孔58から記録ヘッド59に供給することができる。
【0022】
この実施例でも接続口4の弁体10と、負圧発生機構3とによりインク室2が大気と遮断されるから、使用途中で記録装置から取り外された状態でも、インクの漏洩やインク溶媒の揮散を防止でき、長期保存が可能となる。なお、より好ましくは、インク供給用接続口5’をキャップ等により封止して、供給口5’近傍に付着したインクの乾燥を防止する。
【0023】
以上、説明したように本発明によれば、記録装置から取り外されている状態では、インク室が弁体により密封状態に維持され、インクの漏洩やインク溶媒の揮散を防止でき、記録装置に装着された状態では、弁体が開弁してインク室が大気に連通されて一定の負圧を維持しながらインク室のインクを記録ヘッドに供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のインクカートリッジの一実施例を示す斜視図である。
【図2】同上インクカートリッジの一実施例を示す断面図である。
【図3】同上インクカートリッジの組立分解斜視図である。
【図4】図(a)、(b)は、それぞれ同上インクカートリッジの負圧発生機構のインクの流れを示す図である。
【図5】同上負圧発生機構の断面構造及びインクの流れを示す図である。
【図6】接続ユニットの一実施例を示す一部断面図である。
【図7】インクカートリッジを接続ユニットに装着した状態を示す一部断面図である。
【図8】本発明のインクカートリッジの他の実施例を示す図である。
【図9】同上インクカートリッジの一実施例を示す断面図である。
【図10】同上インクカートリッジに適した接続ユニットの一実施例を示す一部断面図である。
【図11】インクカートリッジを接続ユニットに装着した状態を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…インクカートリッジ、2…インク室、3…負圧発生機構、4…大気連通用接続口、5…インク供給用接続口、10,20…弁体、11,21…スライド軸、13,23…パッキン、14,24…バネ、31…膜弁、50…接続ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク室と、インク供給用接続口と、前記インク室に連通して常時閉弁状態を維持する大気連通用接続口とを備え、前記インク室のインクを所定の負圧状態に維持しつつ前記インク供給用接続口に排出する負圧発生機構を備えたインクカートリッジ。
【請求項2】
前記大気連通用接続口が、記録装置に装着された状態で、前記記録装置に形成されたキャピラリを介して大気に連通する請求項1に記載のインクジェット記録装置用インクカートリッジ。
【請求項3】
常時閉弁状態を維持し、かつ記録装置に装着された時点で開弁される大気開放用弁機構が前記大気連通用接続口に設けられている請求項1に記載のインクジェット記録装置用インクカートリッジ。
【請求項4】
常時閉弁状態を維持するインク供給用弁機構が前記インク供給用接続口に設けられ、前記記録装置への装着時に前記インク供給用弁機構、及び大気開放用弁機構とが開弁される請求項3に記載の記録装置用インクカートリッジ。
【請求項5】
前記記録装置への装着時に前記大気開放用弁機構が開弁された後、前記インク供給用弁機構が開弁される請求項3、または請求項4に記載の記録装置用インクカートリッジ。
【請求項6】
前記記録装置からの取り外し時に、前記インク供給用弁機構が閉弁された後、前記大気開放用弁機構が閉弁される請求項3、または請求項4に記載の記録装置用インクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−195081(P2008−195081A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129364(P2008−129364)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【分割の表示】特願2002−81332(P2002−81332)の分割
【原出願日】平成13年7月27日(2001.7.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】