説明

インクジェット記録装置

【課題】プラテンの温度を下げるタイミングを的確に判断してプラテンの熱による記録媒体の歪み等の不具合の発生を確実に回避可能なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】記録媒体Pにインクを吐出して記録を行う記録ヘッド10と、記録媒体Pを裏面側から支持し、記録媒体Pを加熱するプラテン2と、プラテン2を加熱温調するヒータ3と、記録媒体Pに記録されるプリントデータを記録前に一時的に保存するバッファメモリ20と、バッファメモリ20上に未記録のプリントデータが存在するか否かを検出する検出手段19と、ヒータ3の温調管理を行うための制御部13とを備え、制御部13は、検出手段19からの信号によりバッファメモリ20上に未記録のプリントデータが存在するか否かを判断し、未記録のプリントデータが存在しないと判断した場合には、ヒータ3の温度を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に係り、特に、プラテンの加熱温調を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、グラビア印刷方式やフレキソ印刷方式等の製版を必要とする印刷方式に比べて、高速、簡便かつ安価に画像を記録することができる画像記録装置として、インクジェット記録方式による画像記録装置、すなわち、インクジェット記録装置が広く普及している。
【0003】
インクジェット記録装置は、記録ヘッドから記録媒体に対してインクを吐出して着弾させることにより記録媒体上に画像を記録する方式が採用されているため、記録媒体として紙や布帛等のほか、従来の画像記録方式では記録が困難であった樹脂フィルムや金属等のインク吸収性に乏しい記録媒体に対しても画像記録を行うことができるという特徴を有する。
【0004】
これらの記録媒体は、通常、プラテンと呼ばれる支持板上を搬送され、その上方の記録ヘッドからインクの吐出を受ける。その際、記録媒体上に形成される画像の高精細化を図り、記録ムラの発生を防止し、或いはインクジェット記録の直前に記録媒体に表面処理剤を塗布するなど種々の目的で、記録媒体を加熱温調されたプラテンで加熱するように構成されたインクジェット記録装置が開発されている(例えば、特許文献1〜5等参照)。
【特許文献1】特開2004−106525号公報
【特許文献2】特開2000−280546号公報
【特許文献3】特開2000−296607号公報
【特許文献4】特開2003−182168号公報
【特許文献5】特開2004−130659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような加熱温調されたプラテンにより記録媒体を加熱するインクジェット記録装置では、装置が何らかの原因で記録動作を行っていない間に、記録媒体を長時間加熱されたプラテン上に放置すると、プラテンの熱により記録媒体が歪む等の事態が生じることがある。
【0006】
例えば、樹脂フィルム等の記録媒体では、プラテンの熱で記録媒体が伸びてシワや歪みを生じたり、熱で軟化してたわみ、記録ヘッドとプラテンとの間に詰まったりする場合がある。また、紙等の記録媒体では、プラテンの熱で乾燥して歪んだり、例えば、再開された画像記録において紙へのインクの浸透状況が変化して画質が低下することがある。さらに、裏面にシール材が貼着された紙や樹脂フィルム等のように異なる材質の材料からなる記録媒体では、プラテンの熱で材質の違いによるたわみを生じてしまう。
【0007】
しかし、一方で、このような事態を回避するために記録動作が停止するごとにプラテンの温度を下げるように構成すると、画像記録が再開されてプラテンの温度を再び上げる際に、プラテンの温度が安定するまでに比較的時間が掛かるため、インクジェット記録装置による画像記録の作業効率が著しく低下するという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、プラテンの温度を下げるタイミングを的確に判断してプラテンの熱による記録媒体の歪み等の不具合の発生を確実に回避可能なインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載のインクジェット記録装置は、
記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッドと、
前記記録媒体を裏面側から支持し、前記記録媒体を加熱するプラテンと、
前記プラテンを加熱温調するヒータと、
前記記録媒体に記録されるプリントデータを記録前に一時的に保存するバッファメモリと、
前記バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを検出する検出手段と、
前記ヒータの温調管理を行うための制御部と
を備え、
前記制御部は、前記検出手段からの信号により前記バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを判断し、未記録のプリントデータが存在しないと判断した場合には、前記ヒータの温度を低下させることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、バッファメモリ上の未記録のプリントデータの有無を検出手段により検出し、制御部で監視して、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在する場合にはプラテンの温度は下げず、未記録のプリントデータが存在しないと判断された場合には、プラテンの温度を低下させる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインクジェット記録装置において、前記制御部は、前記検出手段からの信号により未記録のプリントデータが存在するか否かを判断し、未記録のプリントデータが存在しないと判断される状態が一定時間持続した場合に、前記ヒータの温度を低下させることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、検出手段がバッファメモリ上の未記録のプリントデータを検出しない状態が一定時間持続した場合にのみプラテンの温度を下げる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置において、前記制御部は、前記ヒータの温度を、前記記録媒体の種類に応じて設定された一定温度まで低下させることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、紙や樹脂フィルム等の記録媒体の種類、さらに樹脂フィルムにおいてはその組成等に応じてヒータおよびプラテンの低下させるべき一定温度を設定しておき、請求項1または請求項2に記載の状態において、制御部は、ヒータやプラテンの温度をその一定温度まで低下させる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、前記検出手段は、前記バッファメモリに送信されたデータ量と前記バッファメモリから前記記録ヘッドに送信されたデータ量とをカウントするデータカウンタであることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、バッファメモリに入力されるデータ量とバッファメモリから出力されるデータ量との差を演算してバッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを検出する。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、前記インクは、光硬化性インクであり、かつ、前記記録ヘッドは、前記記録媒体に着弾した前記インクに光を照射する照射装置を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、記録媒体に光硬化性インクを吐出して照射装置から光を照射して画像記録を行う。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のインクジェット記録装置において、前記光硬化性インクは、紫外線硬化性インクであり、かつ、前記照射装置から照射される光は紫外線であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、記録媒体に紫外線硬化性インクを吐出して照射装置から紫外線を照射して画像記録を行う。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載のインクジェット記録装置において、前記光硬化性インクは、カチオン重合系インクであることを特徴とする。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、記録媒体にカチオン重合系インクを吐出して照射装置から紫外線等の光を照射して画像記録を行う。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、バッファメモリ上の未記録のプリントデータの有無を検出手段により検出し、制御部で監視して、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在する場合にはプラテンの温度は下げず、未記録のプリントデータが存在しないと判断された場合には、プラテンの温度を低下させる。
【0024】
インクジェット記録装置をこのように構成することにより、インクジェット記録装置の記録動作が中断、停止しても、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在し、比較的速やかに記録動作が再開されると考えられる場合には、プラテンの温度を低下させずに高温のまま維持し、インクジェット記録装置の記録動作の中断時等にバッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在せず、速やかには記録動作が再開されない場合には、プラテンの温度を記録媒体に影響を与えない温度まで下げることができる。
【0025】
そのため、プラテンの温度を下げるか否かを、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かで決めることにより、プラテンの温度を下げる必要がない場合にまで温度を低下させることなくインクジェット記録装置により効率良く画像記録を行うことが可能となる。また、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在しない場合には、記録動作の再開までにある程度時間が掛かることが予想されるため、プラテンの温度を低下させることで、記録媒体に歪み等の悪影響が生じることを有効に防止することが可能となる。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、検出手段がバッファメモリ上の未記録のプリントデータを検出しない状態が一定時間持続した場合にのみプラテンの温度を下げる。このようにすれば、例えば、ホストコンピュータからのプリントデータの転送が多少遅れてバッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在しない状態になったとしても、一定時間内にプリントデータが再開され、インクジェット記録装置の記録動作が再開された場合に速やかに記録動作に移ることが可能となり、プラテンの温度を不必要に下げることを回避するという前記請求項に記載の発明の効果をより有効に発揮させることが可能となる。
【0027】
請求項3に記載の発明によれば、紙や樹脂フィルム等の記録媒体の種類、さらに樹脂フィルムにおいてはその組成等に応じてヒータおよびプラテンの低下させるべき一定温度を設定しておき、請求項1または請求項2に記載の状態において、制御部は、ヒータやプラテンの温度をその一定温度まで低下させる。そのため、前記各請求項に記載の発明の効果に加え、種々に種類が異なる記録媒体のそれぞれについて、その歪み等の不具合が発生する温度が異なるが、そのそれぞれの温度に基づいて記録媒体の低下させるべき一定温度を設定することで、歪み等の発生を的確に回避することが可能となる。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、バッファメモリに入力されるデータ量とバッファメモリから出力されるデータ量との差を演算してバッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを検出するため、前記各請求項に記載の発明の効果に加え、簡単かつ確実にバッファメモリ上の未記録のプリントデータを検出することが可能となる。
【0029】
請求項5に記載の発明によれば、記録媒体に光硬化性インクを吐出して照射装置から光を照射して画像記録を行う光硬化性インクを用いたインクジェット記録装置においても、前記各請求項に記載の発明の効果を有効に発揮させることができる。
【0030】
請求項6に記載の発明によれば、記録媒体に紫外線硬化性インクを吐出して照射装置から紫外線を照射して画像記録を行う紫外線硬化性インクを用いたインクジェット記録装置においても、前記各請求項に記載の発明の効果を有効に発揮させることができる。
【0031】
請求項7に記載の発明によれば、記録媒体にカチオン重合系インクを吐出して照射装置から紫外線等の光を照射して画像記録を行う。カチオン重合系インクは、ラジカル重合系インクとは異なって空気中の酸素により重合反応が阻害されないという特徴を有するが、反面、その硬化特性が水(湿度)の影響を受け易いという特徴をも有する。そのため、カチオン重合系インクを用いるインクジェット記録装置では、インクが着弾する記録媒体の表面付近の湿度を調整するために記録媒体を加熱する構成とされることが多く、このようなカチオン重合系インクを用いるインクジェット記録装置においては、前記各請求項に記載の発明の効果が特に有効に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係るインクジェット記録装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0033】
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置を示す正面概略図であり、(A)は正面図、(B)は記録媒体を配置した状態の側面図である。図1に示すように、本実施形態では、記録媒体上を走査するキャリッジと光を照射する照射装置とを備えたシリアルヘッド方式のインクジェット記録装置の場合について述べる。
【0034】
本実施形態のインクジェット記録装置1の略中央には、画像が記録される記録媒体Pを裏面側から支持して記録媒体Pを加熱するための平板状のプラテン2が略水平方向に延設されており、プラテン2の下方には、プラテンを加熱温調するためのヒータ3が配設されている。
【0035】
プラテン2の記録媒体Pの進行方向(図中の矢印Y方向。以下、副走査方向という。)上流側には、媒体ロールQから供給される記録媒体Pを副走査方向に搬送するための搬送ローラ4が設けられており、搬送ローラ4の上方には、搬送ローラ4とともに記録媒体Pを挟持して搬送ローラ4の搬送力を記録媒体Pに伝達するためのピンチローラ5が搬送ローラ4に回転可能に配置されている。プラテン2の副走査方向下流側には、記録媒体Pを巻取りロールRに案内するためのガイドロール6が設けられている。
【0036】
プラテン2の上方には、棒状のキャリッジレール7がプラテン2に平行かつ副走査方向に直交する方向(以下、主走査方向という。)に配置されており、キャリッジレール7には、略筐状のキャリッジ8が取付部材9を介してキャリッジレール7に沿って主走査方向に往復移動自在に支持されている。
【0037】
キャリッジ8には、プラテン2に裏面側から支持された記録媒体Pに対してインクを吐出する複数の図示しないノズルが設けられた記録ヘッド10が搭載されている。図1(A)には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色にあわせて4つの記録ヘッド10が記載されているが、記録ヘッド10の個数および使用される色インクはインクジェット記録装置1の使用環境に応じて適宜決定される。
【0038】
キャリッジ8の主走査方向上流側および下流側の両側面には、記録媒体Pに向けて光を照射するための照射装置11がそれぞれ配設されており、照射装置11は、キャリッジ8ととも主走査方向に往復移動しながら記録媒体Pに着弾したインクに対して光を照射するようになっている。本実施形態の照射装置11は、紫外線光源としての低圧水銀ランプおよび上方に設けられた反射板(ともに図示省略)等から構成されている。
【0039】
また、図示を省略するが、キャリッジ8には、この他にも、記録ヘッド10に供給する各色のインクを貯留するサブインクタンク等が搭載されており、各サブインクタンクには、各色のインクを貯蔵するインクタンクが供給管を介してそれぞれ連結されている。また、プラテン2の主走査方向の端部外側には、キャリッジ8の図示しないホームポジションが設けられており、インクジェット記録装置1の非稼動時や記録動作の中断時または停止時には、キャリッジ8はホームポジションまで移動して待機するように構成されている。
【0040】
なお、本実施形態では、記録ヘッド10から吐出されるインクとして紫外線硬化性のカチオン重合系インクが用いられている。
【0041】
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置の制御装置の構成を示すブロック図である。制御装置12は、制御部13、ヘッド制御部14、ヒータ制御部15、光源制御部16、記録制御部17、I/Fコントローラ18、データカウンタ19、バッファメモリ20等からなる。
【0042】
制御部13は、ヘッド制御部14を介して記録ヘッド10からのインクの吐出や記録ヘッド10のノズルの温度管理等を行い、ヒータ制御部15を介してヒータ3の温調管理を行い、光源制御部16を介して照射装置11の光源の点灯・消灯等を管理し、記録制御部17を介して主走査モータ21の駆動によるキャリッジ8の主走査方向の走査および副走査モータ22の駆動による搬送ローラ5の回転・停止等を管理するように構成されている。
【0043】
制御装置12の制御部13は、I/Fコントローラ18を介したホストコンピュータHCからの指示に応じてインクジェット記録装置1の動作全体を制御するように構成されている。なお、制御装置12とホストコンピュータHCとは、UBSやSCSI、IEEE1394等のインターフェースで接続されている。
【0044】
I/Fコントローラ18には、制御部13のほか、FPGA(Field Programmable Gate Array)で構成された検出手段としてのデータカウンタ19が接続されており、データカウンタ19には、制御部13およびバッファメモリ20のほか、ヘッド制御部14が直接接続されている。
【0045】
データカウンタ19は、ホストコンピュータHCから転送されてきたプリントデータをI/Fコントローラ18を介して受け取ると、制御部13を介することなく直接バッファメモリ20に転送して(すなわち、DMA(Direct Memory Access)転送して)一時的に保存させ、画像記録に際してヘッド制御部14から読み出し指令を受けると、バッファメモリ20からプリントデータを読み出してヘッド制御部14に送信するように構成されている。
【0046】
また、データカウンタ19は、プリントデータをバッファメモリ20にDMA転送する際に転送したデータ量をカウントし、ヘッド制御部14からの読み出し指令に応じてバッファメモリ20から読み出されたプリントデータのデータ量をカウントするように構成されており、前者のデータ量と後者のデータ量との差を演算して差が0になった場合(すなわち、前者のデータ量と後者のデータ量とが同数になった場合)に制御部13に対して信号を出力するように構成されている。なお、前者のデータ量と後者のデータ量とが同数ということは、バッファメモリ上に保存されたプリントデータがすべて読み出されたことを意味し、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在しないことを意味する。
【0047】
本実施形態では、制御部13は、データカウンタ19から前記信号が送信されてくるとバッファメモリ上の未記録のプリントデータが存在しないと判断し、その状態が一定時間持続すると、ヒータ制御部15に対してヒータ3およびプラテン2の温度を一定温度まで低下させるように構成されている。
【0048】
なお、前記一定時間は、ホストコンピュータHCからのデータ転送等に要する時間を考慮して設定され、また、前記ヒータ3およびプラテン2の一定温度は、記録媒体Pの種類に応じてプラテン上に記録媒体Pを長時間放置しても記録媒体Pに歪み等が生じないような温度が設定される。また、ヒータ3の温調電力を切ることによりプラテン2の温度を下げるように構成することも可能である。
【0049】
また、例えば、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するにもかかわらず何らかの原因で記録ヘッド10による記録動作が行われない場合には、制御部13は、図示しない図示しない表示部に警告を表示したり、警告を発したりして注意を喚起すると同時に、ヒータ制御部15を介してヒータ3およびプラテン2の温度を低下させるように構成されている。
【0050】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1の作用について説明する。
【0051】
インクジェット記録装置1の制御装置12(図2参照)は、ホストコンピュータHCから稼動開始の信号を受信すると、信号がI/Fコントローラ18を介して制御部13に送られる。制御部13は、稼動開始信号を受信すると、ヒータ制御部15に対してヒータ3の加熱を開始させるように指示する信号を送信し、光源制御部16に対して照射装置11の光源を点灯させるように指示する信号を送信する。
【0052】
また、ホストコンピュータHCから転送されてきたプリントデータは、制御装置12のI/Fコントローラ18およびデータカウンタ19を介してバッファメモリ20にDMA転送され蓄積される。その際、データカウンタ19はバッファメモリ20に転送したプリントデータのデータ量をカウントする。
【0053】
制御部13は、ヒータ制御部15からヒータ3の加熱温度が所定の温度に到達したという信号を受け、光源制御部16から光源が発する光量が所定の光量に達したという信号を受け取ると、記録制御部17に記録媒体の搬送信号を送信する。記録制御部17は、搬送信号を受信すると、副走査モータ22を駆動して搬送ローラ5(図1(B)参照)を回転させて記録媒体Pを記録ヘッド10の下方の記録位置まで搬送する。
【0054】
制御部13は、記録制御部17から搬送完了の信号を受信すると、ヘッド制御部14および記録制御部17に対して記録開始の信号を送る。ヘッド制御部14は、この信号を受け取ると、データカウンタ19を介してバッファメモリ20からプリントデータを読み出してキャリッジ8に搭載された記録ヘッド10に送信する。その際、データカウンタ19は、バッファメモリ20から読み出されたプリントデータのデータ量をカウントする。
【0055】
記録制御部17は、記録開始信号を受け取ると、主走査モータ21を駆動させてキャリッジ8をキャリッジレール7に沿って主走査方向に往復移動させて記録ヘッド10および照射装置11を走査させるとともに、副走査モータ22を間欠駆動させて記録媒体Pを副走査方向に間欠搬送させる。また、記録制御部17は、画像記録が中断または停止された場合や終了時等には主走査モータ21を駆動させてキャリッジ8をホームポジションに移動させる。
【0056】
また、データカウンタ19は、バッファメモリ20にDMA転送されたプリントデータのデータ量とバッファメモリ20から読み出されたプリントデータのデータ量との差を演算して差が0になるか否かによりバッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを検出する。
【0057】
データカウンタ19は、前記差が0になると、制御部13に対して信号を出力する。この信号は前記差が0である限り出力され続ける。制御部13は、データカウンタ19から送信されてくる信号が設定された所定時間連続して送られてくると、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在しないと判断し、ヒータ制御部15に信号を送信して、ヒータ3を記録媒体Pの種類に応じて設定された一定温度まで低下させ、それによりプラテン2の温度をその一定温度まで低下させる。
【0058】
制御部13は、データカウンタ19から前記差が0であることを示す信号が送信されなくなると、ヒータ制御部15に再開信号を送信する。ヒータ制御部15は、この再開信号を受信すると、再びヒータ3の温度を上昇させてプラテン2を加熱温調し、プラテン2の温度を所定の加熱温度まで上昇させる。プラテン2の温度が所定の温度に到達すると、ヒータ制御部15から制御部13に信号が送られ、前述した記録動作が再開される。
【0059】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置1によれば、記録されるプリントデータが一時的に保存されるバッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを監視することにより、インクジェット記録装置1の記録動作が中断、停止しても、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在する場合には比較的速やかに記録動作が再開されると考えられるから、プラテン2の温度を低下させずに高温のまま維持する。
【0060】
また、インクジェット記録装置1の記録動作の中断時等にバッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在しなければ、速やかには記録動作が再開されないと判断して、ヒータ3による加熱温度を下げてプラテン2の温度を記録媒体Pに影響を与えない温度まで下げる。
【0061】
このように、プラテン2の温度を下げるか否かを、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かで決めることにより、プラテン2の温度を下げる必要がない場合にまで温度を低下させてしまうことがなく、インクジェット記録装置1により効率良く画像記録を行うことが可能となる。
【0062】
また、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在しない場合には、記録動作の再開までにある程度時間が掛かることが予想され、プラテン2の温度を維持したままでは記録媒体Pがその熱により歪む等の不具合が発生する可能性がある。そのため、そのような場合には、ヒータ3の加熱温度を下げて(またはヒータ3の温調電力を切って)プラテン2の温度を低下させることで、記録媒体Pに悪影響が生じることを有効に防止することが可能となる。
【0063】
一方、バッファメモリ上の未記録のプリントデータが存在しない状態になった(すなわち、前記の差が0になりデータカウンタ19から信号が送信された)としても、ホストコンピュータHCから間をおかずプリントデータが送信されてくる(この場合、差は0ではなくなり信号は止まる)のであれば、比較的速やかに記録動作が再開されることが予想される。
【0064】
そのため、本実施形態では、データカウンタ19から送信される信号が一定時間持続した場合にはじめて制御部13がヒータ3およびプラテン2の温度を低下させるように構成し、前記一定時間を経過しない段階でデータカウンタ19からの信号が止まる、すなわち、ホストコンピュータHCからのプリントデータの転送が再開されれば、ヒータ3およびプラテン2の温度を下げないように構成した。
【0065】
このように構成することで、プラテン2の温度を不必要に下げてしまうことが回避され、インクジェット記録装置1の作業効率をより向上させることが可能となる。
【0066】
また、種々に種類が異なる記録媒体のそれぞれについて、その歪み等の不具合が発生する温度が異なるが、そのそれぞれの温度に基づいて記録媒体の低下させるべき一定温度を設定することで、歪み等の発生を的確に回避することが可能となる。
【0067】
さらに、本実施形態では、記録ヘッド10のノズルから吐出されるインクとして、紫外線硬化性のカチオン重合系インクが用いる場合について述べた。カチオン重合系インクは、ラジカル重合系インクとは異なって空気中の酸素により重合反応が阻害されないという特徴を有するが、反面、その硬化特性が水(湿度)の影響を受け易いという特徴をも有する。
【0068】
そのため、カチオン重合系インクを用いるインクジェット記録装置1では、インクが着弾する記録媒体Pの表面付近の湿度を調整するために記録媒体Pを加熱する構成とされることが多く、このようなカチオン重合系インクを用いるインクジェット記録装置においては、前述した発明の効果が特に有効に発揮される。
【0069】
なお、インクジェット記録装置1は、プラテン2の加熱温調を行うものであれば、本実施形態のような紫外線照射型のシリアルヘッド方式のものには限定されず、例えば、ラインヘッド方式や光照射を行わないタイプのインクジェット記録装置にも適用される。
【0070】
また、光照射を行う場合、本実施形態のように、光源として低圧水銀ランプを用いる代わりに、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ブラックライト、冷陰極管、LED等の他の光源を用いることも可能である。
【0071】
さらに、本実施形態では、FPGAで構成されたデータカウンタ19でバッファメモリ20に対する書き込みデータ量と読み出しデータ量との差を演算し、その差が0になった時点ではじめて制御部13に信号を送信するように構成しているが、この他にも、例えば、データカウンタ19からはデータ量の差の信号を制御部13に常時送信するように構成し、制御部13が差の値を監視するように構成することも可能である。
【0072】
また、このように構成されたデータカウンタ19を検出手段として用いる代わりに、例えば、バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを直接検出するように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本実施形態のインクジェット記録装置を示す正面概略図であり、(A)は正面図、(B)は記録媒体を配置した状態の側面図である。
【図2】本実施形態のインクジェット記録装置の制御装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0074】
1 インクジェット記録装置
2 プラテン
3 ヒータ
10 記録ヘッド
11 照射装置
12 制御装置
13 制御部
19 データカウンタ(検出手段)
20 バッファメモリ
P 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッドと、
前記記録媒体を裏面側から支持し、前記記録媒体を加熱するプラテンと、
前記プラテンを加熱温調するヒータと、
前記記録媒体に記録されるプリントデータを記録前に一時的に保存するバッファメモリと、
前記バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを検出する検出手段と、
前記ヒータの温調管理を行うための制御部と
を備え、
前記制御部は、前記検出手段からの信号により前記バッファメモリ上に未記録のプリントデータが存在するか否かを判断し、未記録のプリントデータが存在しないと判断した場合には、前記ヒータの温度を低下させることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記検出手段からの信号により、未記録のプリントデータが存在しないと判断される状態が一定時間持続した場合に、前記ヒータの温度を低下させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ヒータの温度を、前記記録媒体の種類に応じて設定された一定温度まで低下させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記バッファメモリに送信されたデータ量と前記バッファメモリから前記記録ヘッドに送信されたデータ量とをカウントするデータカウンタであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インクは、光硬化性インクであり、かつ、前記記録ヘッドは、前記記録媒体に着弾した前記インクに光を照射する照射装置を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記光硬化性インクは、紫外線硬化性インクであり、かつ、前記照射装置から照射される光は紫外線であることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記光硬化性インクは、カチオン重合系インクであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−27165(P2006−27165A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211407(P2004−211407)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】