説明

インクタンクおよびインクジェット記録装置

【課題】 インクタンクのジョイント部に対して、インク室との連結側に逆止弁が、インク供給口に弁体が配されている場合、インクジェットヘッドのインク供給管が接続された際に移動する弁体の移動容積分のジョイント部内のインクがインクジェットヘッド側に押し出される。この場合、インクジェットヘッドのノズルのメニスカスが不安定になり、書き出し印字の乱れやノズルからのインク垂れを引き起こす可能性がある。
【解決手段】 インク供給管の接続による弁体の変位容積に相当する容積分が少なくとも変位できる変位部を逆止弁に設ける構成を採用することで、インク供給管が接続されて弁体が移動しても逆止弁の変位部が変位してジョイント部内の圧力の上昇を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクタンクおよびインクジェット記録装置に関し、特にインクジェットヘッドとインクタンクとの装着に関する安定性が確保されたインクタンクおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドと連通しインクジェットヘッドにインクを供給するインク供給管と、このインク供給管に対して着脱されるインクタンクと、を備えて構成されるインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
例えば近年のインクジェット記録装置では、高速記録に適用できるインク供給時の圧力損失が少ない構成のインクタンクが望まれている。その一例として直接インクを収納したインク室を備えるとともに、このインク室にインク供給口が配されたインクタンクが提案されている。この種のインクタンクのインク供給口は、インクタンクがインク供給管に対して接続されていない状態でインク供給口からのインク漏れなどを防ぐためにインク供給口に弁体を配置する構成が知られている。
【0004】
弁体としては特許文献1に示されるような構成例がある。すなわち、インク室とインク供給口との間に、インク供給口を閉鎖する弁体と、この弁体をインク供給口側に付勢するバネとを配置した構成である。このように弁体とバネとが配置され、インク室とインク供給口とを連結する空間として連結部を備えている。連結部はインク室とは連通部によって連通されている。特許文献1では、不測の事態によるインク漏れを防止する目的でさらに連通部に逆止弁が配置され、インクタンクからのインク漏れに対する対処がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−302010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に開示されるような構成では、インク供給口とインク供給管とが連結されると弁体が連結部の内方に移動することになるが、連通部側は逆止弁で封止されているため弁体の移動容積分の連結部内のインクがインク供給管に圧送されることになる。インク供給管から圧送されたインクはインクジェットヘッドのノズルに到達し、ノズルに形成されたメニスカスの不安定さを招くことになる。この不安定さは記録開始時の書き出し印字の乱れを招いたり、最悪の場合にはメニスカスが破壊されてノズルからインク漏れを生じることになる。
【0007】
一方、メカニカルな誤装着防止機構が付設されないインクタンクでは、インクタンクが誤装着される場合が発生し得る。この場合には、インクタンクの連結部内のインクがインク供給管に圧送されることになってしまう。この場合、インク供給管に本来供給されるべきインクと異なったインクが送られてしまうため混色の課題を発生する。
【0008】
本発明者等はこれらの課題を解決するために、インク供給管がインク供給口に挿入されて連結された際の弁体の移動容積分の変形・変位を連結部で許容できるようにする機能を連結部に配された逆止弁に持たせる構成を採用したものである。
【0009】
本発明は、インクタンクの連結部に弁体と逆止弁を配置した構成でありながら、以下に示す目的を達成するものである。第1に、インク供給管が連結された際に弁体の移動容積分の連結部内のインクがインク供給管に圧送される事態を抑制して、インクジェットヘッドのノズルのメニスカスの安定を図ることができるインクタンクおよびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。第2に誤装着した際にもインク供給管内のインクの混色の抑制ができるインクタンクおよびインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するためのインクタンクは、インク室と、インク室と連通した連通部と、インク供給口とを供えた連結部と、連結部内に配され、インク供給口を閉鎖する弁体と、を具備したインクタンクにおいて、
前記連通部には、前記インク室から前記インク供給口側へのインクの流れは許容し、前記連結部から前記インク室へのインクの流れは遮断する逆止弁を備えており、前記逆止弁は中央領域に変位部を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、上述の目的を達成するためのインクジェット記録装置は、インク供給管を具備したインクジェットヘッドと、
インク室と、インク室と連通した連通部と、インク供給口とを供えた連結部と、連結部内に配され、インク供給口を閉鎖する弁体と、を具備したインクタンクと、
を備え、インクジェットヘッドに対してインクタンクが着脱自在に構成されたインクジェット記録装置において、
前記インクタンクの逆止弁は中央領域に変位部を備えて構成されており、
インクジェットヘッドに対してインクタンクが装着されてインク供給管がインクタンクの前記弁体に当接して弁体が連結部内方に移動されることで前記逆止弁の中央領域に設けられた変位部がインク室側に変形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成によれば、逆止弁の中央領域に設けられた変位部がインク供給管の挿入によってインクタンクの弁体が連結部内方に移動する容積分に対応して変位して連通部の内圧上昇を緩和することができる。これにより、インクタンクを装着した際にインクジェットヘッドのノズルのメニスカスの安定を図ることができ、メニスカスの崩壊を防止し、書き出し印字の不良を防止することができる。加えて、インクタンクを誤装着した際にもインク供給管内のインクの混色の抑制ができる。さらには、インク導出時の圧力損失を低減し高速印字に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用されるインクタンク外観を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示されたインクタンクのA−A線における断面図である。
【図3】(a)は第1の実施形態が採用されたインクタンクの連結部を拡大して示す断面図である。(b)は第1の実施形態が採用されたインクタンクの連結部とインク供給管とが装着された状態を示す断面図である。(c)は第1の実施形態が採用されたインクタンクの連結部とインク供給管とが装着され、インク供給されている状態を示す断面図である。
【図4】(a)は第2の実施形態が採用されたインクタンクの連結部を拡大して示す断面図である。(b)は第2の実施形態が採用されたインクタンクの連結部とインク供給管とが装着された状態を示す断面図である。(c)は第2の実施形態が採用されたインクタンクの連結部とインク供給管とが装着され、インク供給されている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が適用される実施例について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0015】
図1、図2は本発明が適用されるインクタンクの一構成例を示す図で、図1はインクタンクの外観を模式的に示す斜視図、図2は図1のA−A線における断面図である。
【0016】
インクタンク1は、筐体2とフタ3とが接合されて構成され、内部は図2に示されるように仕切り壁6によって2つの室に区分されている。2つの室の一方はインクを直接収納したインク室11であり、他方はインク吸収体14が収納されており、このインク吸収体によってインクが保持された吸収体収納室12である。フタ3の吸収体収納室12を覆う領域には大気連通孔4が設けられており、インク吸収体14と大気連通孔4との間にはバッファ空間15が存在している。インク室11と吸収体収納室12とは、インクタンクの底部に設けられた気液交換部13によって連通している。インク室11の底部にはジョイント部5が設けられており、インクジェットヘッド30に連通したインク供給管32がジョイント部5と連結されることにより、ジョイント部5を介してインクタンク内のインクがインクジェットヘッド30に供給される。
【0017】
ジョイント部5は、図2に示されるように、その基端にはインク室11と連通した連通部21が、その先端にはインクジェットヘッド30に連通したインク供給管32が挿入されるインク供給口22が備えられている。連通部21とインク供給口22との間には連通部20を有しており、連通部20内には基端側から順に逆止弁23、バネ25、弁体24、シール体26が配されている。
【0018】
なお、インクタンク1内のインクの消費は次のように行われる。すなわち、インクジェットヘッド30からインクが吐出されると、大気連通孔4と連通した吸収体収納室12に貯留されたインクが減少していく。吸収体収納室12内のインクの界面が気液交換部13の開口の上端の高さまで減少した後は、インクが消費されると気液交換部13において気液交換が開始されインク室11内のインクが消費され減少する。
【0019】
(実施例1)
図3(a)ないし(c)は逆止弁23の一構成例を採用したインクタンク1のジョイント部5を拡大して示す断面図である。
【0020】
図3(a)に示すように、ジョイント部5は、インク室11と連通した連通部21とインク供給管32が挿入されるインク供給口22との間の連通部20内に連通部21側から順に逆止弁23、バネ25、弁体24、シール体26が配されている。インクタンク1がインクジェットヘッド30に装着されていない状態では、弁体24がバネ25によってインク供給口22に配されたシール体26に付勢されており、これによって弁体24とシール体26が密着してインク供給口22は閉栓されている。
【0021】
次に、逆止弁23について説明する。この実施例の逆止弁23は弾性体で構成されており、その中央領域が外周領域23aに対して厚みが薄い構成となっている(図面上は表現できていない)。厚みの薄い中央領域は後述するように、インク供給管32がインク供給口22に挿入された際に連通部21側に伸縮変形が可能な変位部23bとして機能する。なお、逆止弁23は、連通部21の連結部20内面に配置されており、インク室11からインク供給口22へのインクの流れを許容し、反対方向の流れを遮断する逆止弁23の機能を達成できるようにその一部が溶着等で連結部20内壁に固定されている。固定方法については、カシメや接着などの通常の手法が適用でき、固定部を固定不動部として以下に説明する弾性変形や変位が可能な状態であれば良い。逆止弁23の外周領域の肉厚を中央領域より厚く構成することで、連結部20の内壁との当接精度が向上しシール性能の信頼性が向上する。
【0022】
図3(a)はインクタンク1がインクジェットヘッド30に対して非装着である状態を示している。この状態では逆止弁23は連通部21を覆っておりインクの連通を遮蔽している。
【0023】
この状態からインクタンク1とインク供給管32とが連結されると、インク供給管32がインク供給口22に挿入される。この動作によって、インク供給管32によって弁体24が連結部20の内方に押される。なお、弁体24とシール体26との当接が解除される前にインク供給管32の外周がシール体26の内周の一部と周接し、インク供給管32の周囲からインクが漏れることが抑制される。
【0024】
インク供給管32がインク供給口22内に挿入されて弁体24が連結部20内に移動すると連結部20内の圧力は上昇を始める。しかし、逆止弁23はその中央領域の変位部23bが薄く構成されていることで、連結部20内の圧力上昇を受けると、その圧力上昇を緩和するように図3(b)に示されるように変位部23bが連通部21(インク室11)側に拡張変形する。これにより連結部20内の圧力上昇が抑制でき、インク供給管32側に連結部20内のインクが押圧されて移動することが無くなり、インクジェットヘッド30のノズル31のメニスカスが壊され、インク漏れを発生することが抑制される。また、インクタンクを誤装着した際にも連結部20内のインクがインク供給管32内に押し出されることが抑制されるためインク供給管内のインクの混色も抑制できる。
【0025】
ここで、インク供給管32にインクタンク1のインク供給口22が装着されて弁体24が連結部20内方に移動する移動容積をS1、逆止弁の中央領域の変位部23bがインク室11側に変形する変形容積をS2としたとき、容積S1、S2がほぼ等しいことが好ましい。ほぼ等しいことによってインク供給管32内にインクが実質的に押しこまれることがなく、インクジェットヘッドのノズルのメニスカスの破壊が発生することや、誤装着時にインク供給管32内でインクが混色する事態が無くなる。なお、誤装着による被害を別の手法で防止できる場合には、インクジェットヘッドのノズルのメニスカスの破壊が抑制できる範囲で容積S1>S2の関係となっていてもよい。
【0026】
図3(c)に示されるように、矢印Iで示されるインクの供給がなされる状態ではインクタンク1のインク室11からインクジェットヘッド1(インク供給管32)側に向うインクの流れを許容し阻害することがないように逆止弁23は連通部21を開放する。
【0027】
(実施例2)
図4(a)ないし(c)は逆止弁123の別の構成例を採用したインクタンク1のジョイント部5を拡大して示す断面図である。逆止弁の構成を除き他の構成は実施例1に示す構成と同一であるため同一の符合によって説明する。
【0028】
実施例2に示される逆止弁123について説明する。
【0029】
実施例2の逆止弁123は図4(a)に示されるように、その中央領域が圧力を受けることで簡単に拡張変形する変位部123bとなっており、この例ではジャバラ構成を採用している。逆止弁123の変位部123bは、ジャバラ構成に限定されることなく、インク供給管32がインク供給口22に挿入され、弁体24を移動させた際の移動容積S1に相当する変形容積S2分の変形ができる構成であればこの発明の変位部123bの構成に含まれる。
【0030】
図4(a)はインクタンク1がインクジェットヘッド30に対して非装着である状態を示している。この状態では逆止弁123は連通部21を覆っておりインクの連通を遮蔽している。この状態では逆止弁123の変位部123bは拡張変形していない。
【0031】
インクタンク1とインク供給管32とが連結されると、連結部20内の圧力は上昇しようとするが、逆止弁123の変位部123bがその圧力を緩和するように図4(b)に示されるように連通部21(インク室11)側に拡張変形する。そして、図4(c)に示されるよう矢印Iで示されるインクの供給がなされる状態では、逆止弁123の変位部123bは元の状態に戻り、インクタンク1のインク室11からインク供給管32側に向うインクの流れを阻害することがないように連通部21を開放する。
【0032】
なお、逆止弁123に変位部123bを設けたことにより、実施例1と同様に、インク供給管32側に連結部20内のインクが押圧されて移動することが無くなり、メニスカスが壊され、インク漏れが抑制される。また、インクタンクを誤装着した際に連結部20内のインクがインク供給管32内に押し出されることが抑制されてインク供給管内のインクの混色が抑制できる。
【0033】
ここで、逆止弁123の変位部123bの変位容積S2は、実施例1と同様の条件を満足することが好ましい。しかし、変位容積S2はそれ以上の容積分の変位を可能にする構成(この変位可能容積をS2Aとする)とされていることは一層好ましい構成である。変位可能容積S2Aは、設計公差や異なるプリンタにおけるインク供給管のインク供給内への侵入量が異なるような場合にも本発明の効果を享受することを可能にする。
【符号の説明】
【0034】
1 インクタンク
5 ジョイント部
11 インク室
20 連結部
21 連通部
22 インク供給口
23 逆止弁
23a 外周領域
23b 変位部(中央領域)
24 弁体
25 バネ
26 シール体
30 インクジェットヘッド
31 ノズル
32 インク供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク室と、
インク室と連通した連通部と、インク供給口とを供えた連結部と、
連結部内に配され、インク供給口を閉栓する弁体と、
を具備したインクタンクにおいて、
前記連通部には、前記インク室から前記インク供給口側へのインクの流れは許容し、前記連結部から前記インク室へのインクの流れは遮断する逆止弁を備えており、
前記逆止弁は中央領域に変位部を備えていることを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記逆止弁の変位部は、伸縮変形可能な構造であることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記逆止弁の変位部は、中央領域の肉厚が外周領域の肉厚より薄いことを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項4】
前記逆止弁は弾性体で構成され、前記連結部から前記インク室へのインクの流れを遮断する状態で、この方向に向うインクの圧が高くなると前記変位部がインク室側に変形することを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項5】
インクジェットヘッドに連通したインク供給管に対してインクタンクの供給口が装着されて前記弁体が連結部内方に移動することによって前記逆止弁の変位部がインク室側に変形することを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項6】
変位部は、前記連通部に対応した領域であることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項7】
インク供給管を具備したインクジェットヘッドと、
インク室と、インク室と連通した連通部と、インク供給口とを供えた連結部と、連結部の内方に配されインク供給口を閉栓する弁体と、を具備したインクタンクと、
を備え、インクジェットヘッドに対してインクタンクが着脱自在に構成されたインクジェット記録装置において、
前記インクタンクの逆止弁は中央領域に変位部を備えており、
インクジェットヘッドに対してインクタンクが装着されてインク供給管がインクタンクの前記弁体に当接して弁体が連結部内方に移動されることで前記逆止弁の中央領域に設けられた変位部がインク室側に変形することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記逆止弁の変位部は、伸縮変形可能な構造であることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記逆止弁の変位部は、中央領域の肉厚が外周領域の肉厚より薄いことを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
インクジェットヘッドに連通したインク供給管に対してインクタンクの供給口が装着されて前記弁体が連結部内方に移動する移動容積をS1、前記逆止弁の変位部がインク室側に変形する変形容積をS2としたとき、S1≧S2であることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25031(P2012−25031A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165790(P2010−165790)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】