説明

インクタンクの製造方法

【課題】 一の面に繊維結合層が設けられたインク吸収体を有するインクタンクの製造方法であって、加工ツールを構成する材料に制限されることがなく、且つ高い生産性で製造することが可能なインクタンクの製造方法を提供する。
【解決手段】 インクタンク1は、インクを貯留するためのタンク容器2と、タンク容器2の開口部に取付けられる蓋部材3と、タンク容器2に収納され、インクを含浸保持するインク吸収体4と、を備える。インク吸収体4は、互いに接着されていない繊維の集合体の一の面を加熱融解されて形成された繊維結合層9を有する。レーザー光12をインク吸収体4の一の面に相当する部位に照射して繊維を非接触加熱して繊維結合層9を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンクの製造方法に関する。詳しくは、繊維により構成されたインク吸収体をタンク容器の内部に備えるインクタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタに用いられるインクタンクの内部には、インクの供給性を良好なものとすると共に液体貯留手段として機能させるためのインク吸収体が収納されている。インク吸収体は、繊維間の交点を接着させた材料塊やウレタンスポンジ等を、インクタンクの形状に合わせて切り出すことによって形成されていた。
【0003】
材料塊からの切り出しによるインク吸収体の形成において、インクタンクが簡易な形状、例えば従来から知られている直方体形状であれば、材料塊は効率よく使用される。しかしながら、インクタンクの形状が複雑な場合、材料塊の使用効率の悪化を招き、インクタンクのコストアップの要因となっていた。
【0004】
特に近年では、顧客ニーズとしてインクジェットプリンタ本体の小型化が要求され、インクジェットプリンタ本体の内部に効率良くインクタンクを配置するために、インクタンクの形状が複雑になっている。
【0005】
即ち、インクジェットプリンタ本体の小型化に伴ってインクタンクを小型化すると、インクの貯留量が減少するため、インクタンクの交換回数が増加し、1ページ当たりに印刷するコストが増加することになる。したがって、インクジェットプリンタ本体の内部の空間を効率的に利用してインクの貯留量を確保するために、より複雑な形状のインクタンクが用いられる傾向にある。
【0006】
そこで、複雑な形状のインクタンクであっても、材料の使用効率を悪化させることなくインクタンクに収納可能なインク吸収体が提案されている。
【0007】
特許文献1では、繊維間の交点を接着させずに、繊維の絡み合いにより形状を保持させたインク吸収体が開示されている。繊維間の交点を接着させないため、インク吸収体の形状の自由度が高められる。したがって、材料塊から複雑な形状に切り出す必要がなくなるため、材料の使用効率が向上し、安価にインクタンクを提供することが可能となる。
【0008】
また、特許文献2には、特許文献1で開示されているインク吸収体の信頼性を向上させる形態が開示されている。具体的には、繊維間の交点が接着されていないインク吸収体は、経時変化や外的圧力(物流時の振動や落下衝撃等)によりインク保持能力やインク供給能力が低下することがある。そこで、特許文献2で開示されている形態では、インク吸収体の表層の繊維を加熱融解し繊維同士を凝固させた繊維結合層をインク吸収体の少なくとも1つの面に設けることによって、経時変化や外的圧力によるインク吸収体の信頼性の低下を抑制している。
【0009】
特許文献3には、特許文献2で開示されているインク吸収体を有するインクタンクの製造方法が開示されている。特許文献3では、発熱可能な加工ツールをインク吸収体に接触させて繊維を加熱融解することによって、繊維結合層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−255121号公報
【特許文献2】特開平7−47688号公報
【特許文献3】特開2000−976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3で開示されているように、加工ツールをインク吸収体に接触させて繊維結合層を形成した場合、融解された繊維が加工ツールに付着するため、加工ツールをインク吸収体から引き離すことが困難となる。そのため、インク吸収体を融解した後に加工ツール自体を冷却して、融解された繊維が加工ツールに付着することなく剥離することが可能な温度まで低下させる必要があり、生産性の低下を招く。
【0012】
また、特許文献3では、溶解された繊維の冷却時間の短縮を図るために、インク吸収体と加工ツールとの間に、熱容量の小さい剥離部材を設けて繊維を融解する方法が開示されている。この方法であれば、加熱ツールとインク吸収体とが接触していないため加熱ツールを冷却することなくインク吸収体から引き離すことができ、かつ熱容量の小さい剥離部材及び融解された繊維のみを冷却すればよいため、冷却時間が短縮される。しかし、剥離部材をインク吸収体と加工ツールとの間に設けるための工程数が増え、製造装置も煩雑になる。
【0013】
さらに、インク吸収体に加工ツールまたは剥離部材を接触させて融解させる方法においては、加工ツールや剥離部材を形成する材料がインク吸収体に残存することがある。インク吸収体に残存した材料がインクに対して溶出し、インクの品質に影響を与える可能性もあるため、加工ツールや剥離部材の材質が制限されるという課題があった。
【0014】
そこで、本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものである。具体的には、一の面に繊維結合層が設けられたインク吸収体を有するインクタンクの製造方法であって、加工ツールを構成する材料に制限されることがなく、且つ高い生産性で製造することが可能なインクタンクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、インクを貯留するためのタンク容器と、タンク容器の開口部に取付けられる蓋部材と、タンク容器に収納され、インクを含浸保持するインク吸収体であって、互いに接着されていない繊維の集合体の一の面を加熱融解されて形成された繊維結合層を有するインク吸収体と、を備えるインクタンクの製造方法であって、レーザー光を一の面に照射して繊維を非接触加熱して繊維結合層を形成する照射工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一の面に繊維結合層が設けられたインク吸収体を有するインクタンクの製造方法であって、加工ツールを構成する材料に制限されることがなく、且つ高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明により製造されるインクタンクの実施形態を示す斜視図及び断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるレーザー加工装置の構成図。
【図3】レーザー光の照射範囲を説明する図。
【図4】本発明の第2の実施形態におけるレーザー加工装置の構成図。
【図5】本発明の第3の実施形態におけるレーザー加工装置の構成図。
【図6】インク吸収体をタンク容器へ挿入する方法を説明する図。
【図7】本発明の第4の実施形態におけるレーザー加工装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(実施例1)
図1(a)は、本発明により製造されるインクタンク1の斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示されるインクタンク1のA−A断面における断面図である。
【0020】
図1(a)に示すように、インクタンク1は、タンク容器2と蓋部材3とを有する。タンク容器2の内部には、図1(b)に示すように、液体を含浸保持するインク吸収体4が収納されている。インクをインク吸収体4に充填することによって、インクがインクタンク1の内部に貯留される。
【0021】
また、タンク容器2には、インクを吐出するためのインク吐出デバイス5が配設されており、タンク容器2の内部からインク吐出デバイス5へインク流路6が形成されている。インク流路6にはごみを除去するためのフィルタ7が設けられている。
【0022】
インクは、インク吸収体4からフィルタ7に送られ、ごみを除去された状態でインク吐出デバイス5に供給される。インク吸収体4は、インクのインク吐出デバイス5への供給性を良好なものとする機能も有する。
【0023】
蓋部材3は、タンク容器2の開口部に取り付けられることで、タンク容器2の内部の独立した空間を閉塞している。ただし、蓋部材3には、タンク容器2の内部と大気とを連通する大気連通口8が形成されている。
【0024】
インク吸収体4は、繊維の集合体であり、該繊維の交点は互いに接着されておらず、繊維が互いに絡み合うことによってインク吸収体4の形状が保持されている。繊維の材質としては、耐インク接液性を考慮して適宜選択することができ、ポリオレフィン(Polyolefin)、ポリエステル(Polyester)、アクリロニトリル(Acrylonitrile)等が挙げられる。特に、化学的に安定性の高いポリオレフィンが好適である。
【0025】
従来における、繊維間の交点を接着させて形状を保持するインク吸収体4では、芯鞘構造などの2層構造を有する繊維が要求されていた。具体的には、芯にポリプロピレン(Polypropylene)、鞘にポリプロピレンよりも融点の低いポリエチレン(Polyethylene)というように、融点の異なる複数種類の成分からなる繊維が求められていた。
【0026】
本実施形態におけるインク吸収体4では、繊維間の交点を接着させる必要がないため、単一の成分からなる繊維でもよく、繊維の選択枠を広げることができる。本実施形態では、インク吸収体4の繊維として、ポリプロピレンのみからなる単一繊維を選択した。
【0027】
インクは、インクタンク1の内部の圧力が大気圧よりも低い状態(以下、負圧の状態と称す)にあることによって、タンク容器2に貯留されかつインク吐出デバイス5に最適に供給される。したがって、インク吸収体4に求められる機能として、インクタンク1に適した負圧を与える負圧特性が求められる。
【0028】
負圧特性は、インク吸収体4の内部に存在する空隙の寸法により決定される。即ち、タンク容器2のインク収容部の体積に対するインク吸収体4の繊維の重量の割合(以下、繊維密度と称す)と、繊維の直径とにより、インク吸収体4の平均的な負圧特性が決定される。本実施形態においては、繊維密度を12%とし、繊維の直径を6.7dテックスとした。
【0029】
個々の繊維の長さについては、インク吸収体4の負圧特性に影響を及ぼす因子ではないため、製造上の取り扱いにより適宜選択することができる。検討の結果、繊維同士の絡み合いによりインク吸収体4の形状を保持させるためには、6mm以上の長さが必要であることが明らかとなった。本実施形態においては、繊維同士の絡み性やインク吸収体4の形状保持性の観点より、個々の繊維の長さをおよそ50mmとした。
【0030】
インク吸収体4の、蓋部材3に対向する面には、繊維結合層9が形成されている。繊維結合層9は、インク吸収体4の一の面の繊維を加熱溶融し、圧力を加えつつ冷却することで形成される。
【0031】
本実施形態のように、インク吸収体4を構成する繊維間の交点が接着されていない場合には、インク吸収体4にインクが充填された後に、インク吸収体4が型くずれをおこしたりタンク容器2の内部で移動したりすることがある。そこで、本実施形態では、繊維結合層9をインク吸収体4の一の面に設けることによって、インク吸収体4の型くずれやタンク容器2の内部での移動を抑制している。
【0032】
また、蓋部材3の内側にはリブ10が設けられており、リブ10と繊維結合層9とが接触することにより、インク吸収体4と蓋部材3との間にバッファ室11が形成される。バッファ室11によって、インク吸収体4に充填されたインクの大気連通口8からの漏れが抑制される。
【0033】
さらに、リブ10でインク吸収体4が抑えられることによって、インク吸収体4にインクが充填された後においても、タンク容器2の内部でのインク吸収体4の移動及び型くずれが抑制される。
【0034】
次に、インクタンク1を製造するためのレーザー加工装置の構成及びインクタンク1の製造方法について、図2及び図3を用いて詳細に説明する。
【0035】
(実施例1)
図2は、本発明の第1の実施形態におけるレーザー加工装置の構成図であり、図3は、レーザー光12の照射範囲を説明する図である。
【0036】
図2に示すように、レーザー加工装置は、レーザー光12を発するレーザー光源13と、レーザー光12の進行方向を変える第1及び第2の反射ミラー14、15と、を備える。また、本実施形態では、レーザー加工装置は、レーザー光12のビーム径を拡張するビームエキスパンダ16と、ビームエキスパンダ16によって拡張されたレーザー光12を集光するための集光レンズ17と、を有する。
【0037】
レーザー光源13としては、レーザー光12を発することが可能な炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、半導体レーザーが用いられる。本実施形態においては、比較的安価且つ小型で、装置に容易に設置することができる炭酸ガスレーザーを用いている。また、集光レンズ17は、任意の正の焦点距離Lを有する凸レンズである。
【0038】
図2に示すように、レーザー光源13から平行光としてレーザー光12を出力する。レーザー光12の進行方向には、ビームエキスパンダ16が配置されており、ビームエキスパンダ16によってレーザー光12のビーム径が拡張される。
【0039】
ビームエキスパンダ16を通過した後のレーザー光12の進行方向の先には第1の反射ミラー14が配設されている。したがって、レーザー光12は第1の反射ミラー14で進行方向を変えられ、さらにその進行方向の先には第2の反射ミラー15が配設されている。
【0040】
第2の反射ミラー15には、第2の反射ミラー15を揺動させるためのガルバノスキャナー18が接続されている。ガルバノスキャナー18は、第2の反射ミラー15の反射面に平行な回転軸Rを中心にして第2の反射ミラーを回転させるように揺動させる。第2の反射ミラー15の揺動により、レーザー光12は回転軸Rを中心とした円周方向Cに沿った範囲を照射することができる。
【0041】
第2の反射ミラー15で進行方向を変えられたレーザー光12の進行方向の先には、円周方向Cと垂直に交わるX軸方向に走査可能な精密ステージ19が配置されている。精密ステージ19にインク吸収体4が搭載され、レーザー光12がインク吸収体4に照射される。
【0042】
第2の反射ミラー15の揺動と精密ステージ19の走査とによって、図3に示すように、レーザー光12がインク吸収体4の一の面の全域に照射されるようになっている。また、図2に示すように、第2の反射ミラー15とインク吸収体4との間には、集光レンズ17が配置されている。
【0043】
レーザー光12を用いた加工においては、レーザー光12のエネルギー密度が最も高くなる焦点において加工を行うのが一般的である。しかしながら、焦点でインク吸収体4を加熱融解する場合、レーザー光12のエネルギー密度が高すぎて必要以上にインク吸収体4が融解してしまうことがある。また、インク吸収体4の一の面におけるレーザー光12の照射径Dも縮小されるため、図3(b)に示すように、円周方向Cにおけるレーザー光12の走査回数が増加する。
【0044】
そこで、本実施形態では、インク吸収体4の表面と集光レンズとの間の距離が、焦点距離Lよりも大きくなるように集光レンズ17が配置されている。また、集光レンズ17とインク吸収体4との距離を変更することによって、所望の照射径D及びエネルギー密度が得られる。第1の実施形態では、集光レンズ17の焦点距離Lから更に2.5インチ離した位置にインク吸収体4を配置した。
【0045】
このように、焦点で照射される場合よりも大きな照射径Dで加熱融解を行うことで、被加工物であるインク吸収体4が必要以上に融解されてしまうことを防ぐことができる。更には、図3(a)に示すように、円周方向Cにおけるレーザー光12の走査回数が減少する。
【0046】
本実施形態におけるインクタンク1の製造方法では、まず、繊維結合層9の形成されていないインク吸収体4をタンク容器2に収納する。次に、タンク容器2の開口部にレーザー光12の照射が行われるように、タンク容器2を精密ステージ19に搭載する。続いて、レーザー光12をタンク容器2の開口部、即ちインク吸収体4の一の面に相当する部位に照射し、非接触加熱して繊維結合層9を形成する。
【0047】
その後、タンク容器2の開口部に蓋部材3を取付ける。蓋部材3に設けられたリブ10によって、繊維結合層9と蓋部材3との間にバッファ室11が形成される。
【0048】
以上のように、レーザー光12を用いてインク吸収体4の表面を非接触で加熱融解することによって、工程数を増やすことなく高い生産性でインクタンク1を製造することができる。また、インク吸収体4が非接触で融解されるため、従来における繊維結合層9の加工ツールを構成する材料がインク吸収体4に残存することなく、繊維結合層9を形成することができる。
【0049】
(実施例2)
次に、本発明の第2の実施形態について、図4を用いて詳細に説明する。図4は、第2の実施形態におけるレーザー加工装置の構成図である。図4に示すように、レーザー加工装置は、レーザー光源13と、ビームエキスパンダ16と、第1及び第2の反射ミラー14、15と、精密ステージ19と、を備える。
【0050】
図4に示す第2の実施形態におけるレーザー加工装置には、インク吸収体4と第2の反射ミラー15との間に集光レンズ17(図2)が配置されていない。したがって、ビームエキスパンダ16で拡張されたビーム径でインク吸収体4の加熱融解が行われる。
【0051】
第2の実施形態において、ビームエキスパンダ16にはレーザー光12のビーム径を8倍にするレンズが用いられている。被加工物のサイズや照射範囲によってレンズを選択すればよい。
【0052】
本実施形態では、レーザー光12を集光レンズによって集光しないため、インク吸収体4と第2の反射ミラー15との距離に変動があっても、照射径Dは変わらない。したがって、レーザー光12の照射径D及びエネルギー密度を安定させた状態で繊維結合層9を製造することができる。
【0053】
(実施例3)
次に、本発明の第3の実施形態について、図5及び図6を用いて詳細に説明する。第3の実施形態における製造方法では、インク吸収体4の、蓋部材3と対向する面とは異なる面にも繊維結合層9を形成することができる。
【0054】
図5は第3の実施形態におけるインク吸収体4の形成方法を説明する図である。図5に示すように、本実施形態のレーザー加工装置は、レーザー光源13、ビームエキスパンダ16、第1及び第2の反射ミラー14、15、並びに精密ステージ19を有している。精密ステージ19には、タンク容器2に収納される前のインク吸収体4が搭載されている。
【0055】
レーザー光源13から平行光として出力されたレーザー光12は、ビームエキスパンダ16によってビーム径が拡張される。本実施例において、ビームエキスパンダ16には、レーザー光12のビーム径を8倍に拡張するレンズが用いられているが、被加工物のサイズや照射範囲によってレンズの倍率を選択すればよい。
【0056】
ビームエキスパンダ16を通過したレーザー光12は、第1及び第2の反射ミラー14、15を経由してインク吸収体4を照射する。
【0057】
本実施形態においても、第2の反射ミラー15にはガルバノスキャナー18が接続されており、反射ミラー15は動揺することができる。精密ステージ19は、X軸方向に走査可能であり、インク吸収体4の一の面に、工程を増やすことなく高い生産性で繊維結合層9を形成することができる。また、インク吸収体4が非接触で融解されるため、従来における繊維結合層9の加工ツールを構成する材料がインク吸収体4に残存することなく、繊維結合層9を形成することができる。
【0058】
インク吸収体4に繊維結合層9を形成した後、タンク容器2の内部にインク吸収体4を挿入する。図6はインク吸収体4をタンク容器2へ挿入する方法を説明する図である。
【0059】
図6(a)に示すように、繊維結合層9が形成されている一の面と、該一の面とは反対の側にある他の面と、に圧縮板20を当て、インク吸収体4を、タンク容器2の内部に挿入できる大きさになるまで圧縮する。その後、挿入ツール21を用いてインク吸収体4をタンク容器2に挿入する。
【0060】
タンク容器2の一の壁面には大気連通口8が形成されており、また、該一の壁面の内側にはリブ10が形成されている。インク吸収体4のタンク容器2への挿入は、大気連通口8が形成されている壁面と、繊維結合層9が形成されている面と、が対向するように方向を合わせて行う。
【0061】
図6(b)に示すように、インク吸収体4がタンク容器2に挿入され、タンク容器2に形成されているリブ10によってインク吸収体4の繊維結合層9と、大気連通口8が形成されている壁面と、の間にバッファ室11が形成される。その後、タンク容器2の開口部に蓋部材3を取付ける。
【0062】
第3の実施形態によって、タンク容器2の一の壁面に大気連通口8が設けられ、且つ該一の壁面とインク吸収体4との間にバッファ室11が形成されたインクタンク1を製造することができる。
【0063】
(実施例4)
次に、本発明の第4の実施形態について、図7を用いて詳細に説明する。第4の実施形態における製造方法では、インク吸収体4の一の面のうち、繊維結合層9が任意の位置に部分的に形成され、繊維が融解されない領域(非融解部25と称す)が残存する。図7は、第4の実施形態におけるインクタンク1の製造方法を示す図である。
【0064】
図7に示すように、レーザー加工装置は、レーザー光源13と、ビームエキスパンダ16と、第1及び第2の反射ミラー14、15と、精密ステージ19と、を有しており、精密ステージ19にインク吸収体4を収納したタンク容器2が搭載されている。本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、第2の反射ミラー15は揺動可能となっており、精密ステージ19は走査可能となっている。
【0065】
本実施形態においては、第2の反射ミラー15とインク吸収体4との間に遮光マスク22が設けられている。遮光マスク22は、レーザー光12を透過する透過部23と、レーザー光12を遮断する遮光部24と、を備える。
【0066】
レーザー光源13から平行光として出力されたレーザー光12は、ビームエキスパンダ16によってビーム径が拡張される。本実施例において、ビームエキスパンダ16には、レーザー光12のビーム径を8倍に拡張するレンズが用いられているが、被加工物のサイズや照射範囲によってレンズの倍率を選択すればよい。
【0067】
ビームエキスパンダ16を通過したレーザー光12は、第1及び第2の反射ミラー14、15を経由して遮光マスク22へ到達する。透過部23へ到達したレーザー光12は、インク吸収体4を照射してインク吸収体4を加熱融解する。遮光部24へ到達したレーザー光12は、遮光部24で遮られ、インク吸収体4を照射しない。
【0068】
したがって、レーザー光12の照射を受けなかったインク吸収体4の領域は、非融解部25として残存する。非融解部25においては、インク吸収体4へインクを注入するときに用いられるインク注入針が挿入しやすくなる。
【0069】
本実施形態におけるインクタンク1の製造方法では、まず繊維結合層9が形成されていないインク吸収体4をタンク容器2の内部に収納する。次に、タンク容器2の開口部にレーザー光12の照射が行われるように、タンク容器2を精密ステージ19に搭載する。続いて、レーザー光12をタンク容器2の開口部、即ちインク吸収体4の一の面に相当する部位に、遮光マスク22を介して照射し、繊維結合層9を形成する。その後、タンク容器2の開口部に蓋部材3を取付ける。蓋部材3に設けられたリブ10によって、繊維結合層9と蓋部材3との間にバッファ室11が形成される。
【0070】
本実施形態では、インク注入針が挿入される位置に対応して遮光マスク22の形状を選択することによって、非融解部25を任意に形成することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 インクタンク
2 タンク容器
3 蓋部材
4 インク吸収体
8 大気連通口
9 繊維結合層
10 リブ
11 バッファ室
12 レーザー光
13 レーザー光源
14 第1の反射ミラー
15 第2の反射ミラー
16 ビームエキスパンダ
17 集光レンズ
18 ガルバノスキャナー
19 精密ステージ
22 遮光マスク
23 透過部
24 遮光部
25 非融解部
C 円周方向
R 回転軸
D 照射径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯留するためのタンク容器と、前記タンク容器の開口部に取付けられる蓋部材と、前記タンク容器に収納され、前記インクを含浸保持するインク吸収体と、を有し、該インク吸収体が、互いに接着されていない繊維の集合体の一の面を加熱融解されて形成された繊維結合層を有するインクタンクの製造方法であって、
レーザー光を、前記一の面に相当する部位に照射して前記繊維を非接触加熱して前記繊維結合層を形成する照射工程を含むことを特徴とするインクタンクの製造方法。
【請求項2】
前記繊維結合層を形成するとき、前記レーザー光のビーム径が拡張されていることを含む、請求項1に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項3】
前記繊維結合層を形成するとき、前記レーザー光を集光するための集光レンズを用いて、前記ビーム径を任意の大きさに変更することを含む、請求項2に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項4】
前記一の面が、前記インク吸収体の、前記蓋部材と対向する面であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項5】
前記照射工程の前に、前記インク吸収体を前記タンク容器に収納する工程を含む、請求項4に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項6】
前記タンク容器の内部と大気とを連通する大気連通口を有するインクタンクの製造方法であって、前記一の面が、前記インク吸収体の、前記大気連通口が形成されている面と対向する面であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項7】
前記照射工程の後に、前記インク吸収体を前記タンク容器に収納する工程を含む、請求項6に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項8】
前記大気連通口が形成されている面の内側にリブを設け、前記大気連通口と前記繊維結合層との間に空間を形成することを含む、請求項6または7に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項9】
前記繊維結合層を形成するとき、炭酸ガスレーザーを用いて前記レーザー光を照射することを含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクタンクの製造方法。
【請求項10】
前記繊維結合層を形成するとき、遮光マスクを用いて、前記一の面の部分的に前記繊維結合層を形成することを含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインクタンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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