インクタンク
【課題】顔料成分を含有するインクを収容したインクタンクが長期間記録装置に装着されて放置された場合においても、沈降した顔料を含む濃度の高いインクが導出される不都合を有効に抑制する。
【解決手段】インク収納室内に配置され、記録ヘッドへインクを供給するためのインク導出口を、インク収納室の最も下方に位置する部分より上方に位置し、かつこれを重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成する。これにより、沈降顔料は傾斜面に沿って滑り落ち、インク導出口から離れた位置に堆積するようになる。
【解決手段】インク収納室内に配置され、記録ヘッドへインクを供給するためのインク導出口を、インク収納室の最も下方に位置する部分より上方に位置し、かつこれを重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成する。これにより、沈降顔料は傾斜面に沿って滑り落ち、インク導出口から離れた位置に堆積するようになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置などに用いられるインクタンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクタンクに収容されているインクを用いる記録装置としては、例えば、インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置がある。さらに、このようなインクジェット記録装置には、インクジェット記録ヘッドと共にインクタンクをキャリッジに搭載して、そのキャリッジの主走査方向の移動を伴って、記録媒体上に画像を記録するシリアルスキャンタイプのものがある。
【0003】
このシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置は、インクジェット記録ヘッドと、その記録ヘッドにインクを供給するインクタンクとを搭載可能なキャリッジを備えている。そして記録に際しては、記録媒体に対してキャリッジを移動させながら、記録ヘッドに設けられた微細な吐出口からインク滴を吐出させ、そのインク滴を記録媒体上に着弾させることにより、所望の画像を記録する。
【0004】
インクジェット記録ヘッドに用いられるインクとしては、主に、着色材として染料を用いた染料インクが使用されてきた。しかしながら、染料インクによって記録された記録物は、耐光性および耐候性を重視する屋外掲示プリント物等の用途において求められる性能をもつことが難しく、その代わりに、着色材として顔料を用いた顔料インクが実用化されている。しかし、顔料は溶解系ではなく分散系であるため、顔料インクは、インクタンク中において顔料粒子の沈降が生じることが避けられない。
【0005】
例えば、インクタンクがインクジェット記録装置に装着されたまま長期間放置された場合には、そのインクタンクの内部にてインク中の顔料粒子が徐々に沈降する。そのため、インクタンク内部において、その底部から上部の方向に向かうにしたがって顔料粒子の濃度傾斜が発生する。その結果、インクタンク底部のインクは、顔料粒子濃度が高くなって色が過度に濃い層を形成し、一方、インクタンク上部のインクは、顔料粒子濃度が低くなって色が過度に薄い層を形成することになる。
【0006】
インクタンク底部からインクを導出する構成において、長期に一定姿勢(底部を鉛直方向下方に向けた状態)でインクタンクが保管されていた場合を考える。かかるインクタンクからインクが導出される場合、そのインクタンクから導出したインクを記録ヘッドに供給したときには、顔料粒子濃度の高い層を形成するインクが最初に供給されて、色が過度に濃い画像が記録されることになる。つまり、インクタンクの使用初期における記録画像と、その使用後期における記録画像との間に、目視される程度の記録濃度の差が生じる恐れがある。このような現象は、色の濃淡によってカラー画像を記録するカラー記録において、特に顕著となる。
【0007】
このような課題を解決する方法として特許文献1,2には、インクタンク内に攪拌部材(撹拌体)を備えて、キャリッジの往復運動の慣性力によって撹拌体を移動させることにより、インクタンク内のインクを撹拌させる構成が記載されている。
【0008】
すなわち特許文献1には、内部に撹拌体を揺動自在に備えたインクタンクが記載されており、その撹拌体の揺動中心は、キャリッジ移動方向におけるインクタンク内のほぼ中央の位置に設定されている。その撹拌体は、キャリッジの往復運動によって、一方向および他方向に同様に揺動することになる。また特許文献2には、内部に、弾性変形を伴って揺動可能な撹拌体を備えたインクタンクが記載されており、その撹拌体は、インクタンクの上部内面のほぼ中央部分から垂下する形状となっている。その撹拌体も、キャリッジの往復運動によって、一方向および他方向に同様に揺動することになる。また特許文献2には、インクタンク内に、その底面上を自由に移動可能な撹拌体を備えた構成も記載されている。その撹拌体は、キャリッジの往復運動によって、インクタンクの底面上を自由に移動することになる。
【0009】
また特許文献3には、攪拌部材をインクタンクのインク収納室内に備えてインク収納室内のインクを攪拌するとともに、使用時の姿勢で最も下となるインク収納室底部より上方にインク導出口を設ける構成が記載されている。インク導出口を最下部より上方に配置することで、比重の高い最下層の沈降インクが記録ヘッドへのインク供給口内部へ侵入することを防止しているのである。攪拌部材は、その一端側がインク収納室内に設けた支持部によって回動可能に支持されるとともに、当該回動支点が支持部に沿って直線的に移動可能であるように構成されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−216761号公報
【特許文献2】特開2005−066520号公報
【特許文献3】特開2007−230189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1,2に記載されているインクタンクには、次のような不具合がある。まず、特許文献1に記載のインクタンクは、インクタンク内のほぼ中央部分を中心として撹拌体が一方向および他方向に同様に揺動する。そのため、その撹拌体の揺動範囲を大きくして撹拌性能を上げるためには、キャリッジの移動方向におけるインクタンクの幅を大きくする必要がある。しかし、キャリッジに搭載されるインクタンクは、キャリッジの移動方向に沿って複数搭載される場合が多く、その幅が比較的小さく制限されているため、撹拌体の揺動範囲を大きくすることができず、その撹拌体の揺動によって生じるインクの流れが小さい。インクを充分に撹拌するためには、キャリッジの往復移動回数を多くして、撹拌時間を長くする必要がある。
【0012】
一方、特許文献2に記載のインクタンクにおいて、インクタンクの上部内面のほぼ中央部分から垂下する撹拌体を備えるものは、インクタンク内のほぼ中央部分を中心として撹拌体が一方向および他方向に同様に揺動する。撹拌体の揺動範囲を大きくして撹拌性能を上げるためには、特許文献1のインクタンクと同様に、キャリッジの移動方向におけるインクタンクの幅を大きくする必要がある。そのため、特許文献1のインクタンクと同様の問題がある。また、撹拌体を大きく弾性変形させるためにキャリッジの加速度を大きく設定した場合には、キャリッジの駆動源(モータ等)の大型化および高価格化を招き、また記録装置の振動も大きくなるおそれがある。また特許文献2に記載のインクタンクにおいて、その底面上を自由に移動可能な撹拌体を備えたものは、その撹拌体がインクタンク内のインクの上層部分から離れているため、その上層部分に対しての撹拌性能が劣るという問題がある。
【0013】
このような特許文献1および2に記載のインクタンクの不具合は、次のような一般的なインクタンクおよび記録装置の形態の観点からも明らかである。
【0014】
一般的に、キャリッジに搭載されるインクタンクは、その着脱の操作性を良くするために、その幅と長さが設定されている。すなわち、キャリッジの移動方向(主走査方向)におけるインクタンクの幅は比較的小さく、また、その主走査方向と交差する記録媒体の搬送方向(副走査方向)におけるインクタンクの長さは比較的大きく設定されている。そのため、撹拌体の変位方向である主走査方向において、その変位量を大きく設定することができない。したがって、撹拌体の変位量が小さくてインクの強い流れを生じさせることができず、そのためインクの撹拌効率が劣り、インクタンク内部のインク全体を撹拌するためには時間が掛かりすぎる。例えば、キャリッジにインクタンクを装着したまま、記録装置が長期間記録を行わなかったために、インクタンク内におけるインク中の顔料粒子が沈降した場合には、記録を開始前に長時間に渡って、キャリッジを往復運動させなければならなる。そのため、記録動作が可能となるまでのウォームアップ時間が長くなる。特に、顔料インク中の顔料粒径が大きい場合や顔料粒子の比重が大きい場合には、その沈降が早く、インクタンクを数日間放置しただけでも、記録画像に悪影響を与える濃度分布がインクタンク内に発生するおそれがある。この場合には、数日毎にインクの撹拌動作を行わなければならず、また、その撹拌動作の間は記録を開始することができなくなる。
【0015】
図14はインクタンク内の高さ方向におけるインク濃度勾配を示す。顔料の沈降が生じていない場合、インク濃度は均一となり、高さに拠らず同一の濃度を呈する。しかし、ある程度の期間保存することにより、図の曲線Bに示すように、タンク内位置が高いところで濃度の小さい部分が生じ、高さが低くなるにつれ徐々に濃度が初期濃度に近くなり、中段位置ではほぼ初期濃度と一致する。そして、タンク内位置の低い部分で濃度の高い部分が生じる。特に最下部(底部)に近いところでは急激に濃度が変化(増大)する。一般に顔料粒子の濃度が高い程、インクは高粘度となるため、最下層の部分はそれ以外の部分に比べて比重が高く粘度も高くなり、他の部分とは物性的に大きく異なる層を形成することとなる。
【0016】
そこで特許文献3記載のインクタンクにおいては、インク収納室内のインク導出口を最下部より上方に設けることで、最下部に堆積した沈降顔料がインク供給口内部に移動することを防止している。
【0017】
しかしながら、堆積した沈降顔料は、粘性流体に似た挙動を示すこと、つまりある方向に移動を始めると周辺の沈降顔料を引きずりながら移動を行う特性を有することが知られている。このことから、インク収納室内のインク導出口がタンク使用姿勢において水平面に形成されている場合、インク導出口周囲近傍に堆積した沈降顔料の大部分はインク導出口内、ひいてはインク供給口内に移動してしまい、所期の効果が得られなくなる恐れがある。
【0018】
また、インク導出口をインクタンク底面より高い位置に設けることは、インク導出口を形成している部分がインク収納室内で底面から突出していることを意味する。このため、大気を取り込まずにインク導出(消費)に伴う負圧の増大を緩和するべくインク収納室が体積変化する形態のインクタンクにおいては、インク残量が少なくなったときに当該体積変化を生じさせるための可撓性部材にインク導出口が覆われることがある。よって、導出ないし供給できるインク量がインクタンク毎に安定しなくなる恐れが生じる。
【0019】
さらに、攪拌体は、沈降顔料が堆積するインク収納室の最下面により近い位置に配置されている方が攪拌性能が向上する。しかしながら、インク導出口形成部材の高さによっては、当該部材との干渉を回避するために攪拌体が効果的な位置に配設できなくなったり、形状が複雑になったりすることで、攪拌性能が低下することも考えられる。
【0020】
よって本発明は、沈降した顔料を含む濃度の高いインクが導出される不都合を効果的に抑制するとともに、攪拌性能を向上し、さらには導出ないし供給されるインク量を安定化できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そのために、本発明は、インクを収納するインク収納室と、該インク収納室内に位置するインク導出口から導出されたインクを外部へと供給するインク供給口と、を具えたインクタンクであって、
前記インク導出口は、前記インクタンクが予め設定した使用姿勢にあるとき、前記インク収納室内の最も下方に位置する部分より上方に配されるとともに、重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インク収納室内に配置され、記録ヘッドへインクを供給するためのインク導出口が、インク収納室の最も下方に位置する部分より上方に位置し、かつこれは重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成されている。従って、顔料成分を含有するインクを収容したインクタンクが長期間記録装置に装着されて放置された場合においても、顔料が沈降した高濃度、高粘度のインクがインク導出口内ひいてはインク供給口に供給されるのを抑制することができる。
【0023】
また、これにより、沈降顔料のほとんどはインク収容室内に堆積することになるので、インク収納室内に攪拌部材を設ける構成においては、記録動作前にキャリッジを短時間往復動作させるだけで、インクを充分に撹拌させることができる。したがって、記録装置を起動した後に素早く記録動作を開始することができ、かつ顔料の濃度を均一化して高品位の画像を記録することができる。あるいは、長期間放置後の記録開始時に排出するインク量を少なくすることができため、ランニングコストを低減することができる。
【0024】
さらに、インク導出口を傾斜面に形成することで、大気を取り込まず可撓性部材の変位または変形による体積変化でインク導出を許容するインクタンクにおいて、可撓性部材によりインク導出口が閉塞される恐れを低減することができる。従って、インク収納室内のインクを無駄なく排出することが可能であり、高いインク使用効率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0026】
(インクタンクの構成)
図1は本発明の第1の実施形態に係るインクタンク1の斜視図、図2はそのII−II線断面図、図3は分解斜視図である。また、図4(a)は実施形態に係るインクタンクの主要部をなすタンクケースの斜視図、図4(b)はその一部を拡大して示す斜視図である。
【0027】
インクタンク1は、タンクケース10と可撓性部材40によって構成されるインク収納室R内にインク2を収納する容器であり、インク収納室R内に配置されたインク導出口64はインク供給口60に連通する。そして、図1および図2のようにインク供給口60を鉛直方向下方に向けた姿勢でインクジェット記録装置に装着される。インク供給口60は、後述するインクジェット記録ヘッドのインク供給路に接続される。本例のインクタンク1は、記録ヘッドと分離可能に構成されている。しかしインクタンク1は、記録ヘッドを有した一体型のものとして構成されていてもよい。
【0028】
図2および図3に示すように、インクタンク1は、主に、タンクケース10、撹拌部材20A,20B、ばね部材30、圧力板31、可撓性部材40、蓋部材50、毛管力発生部材61、メニスカス保持部材62および供給口形成部材63から構成される。特に、タンクケース10、蓋部材50および供給口形成部材63はインクタンク1の筐体を構成している。
【0029】
供給口形成部材63には、インクジェット記録ヘッドに接続可能なインク供給口60が形成されている。一方、タンクケース10には、インク収納室R内のインクを導出するインク導出口64およびそこからインク供給口60に至る流路を画成する流路形成部10B(後述)が形成されている。インク供給口60には、図3に示されるように、毛管力発生部材61とメニスカス保持部材62とが配設される。毛管力発生部材61は、インク供給口60に記録ヘッドを接続したときに、その記録ヘッドの鉛直方向(図2中の上下方向)の位置ずれを吸収できるように、ある程度の柔軟性をもつ材料によって構成されて毛管力を発生する。インク収納室R内は、後述するように、インクがインク供給口60から外部に漏洩しないように負圧に保たれている。メニスカス保持部材62は、そのインク収納室R内の負圧によって、インク供給口60から気泡を引き込まないように、インクのメニスカスを形成する。従ってメニスカス保持部材62としては、インク収納室R内に発生する負圧の最大値よりも強いメニスカス保持力を発生させるような部材が選択される。
【0030】
タンクケース10の内部には、インク収納室R内に位置する撹拌部材20Aおよび20Bが矢印C1,C2方向に揺動自在に取り付けられている。本例の撹拌部材20Aおよび20Bは、主に金属製の板状部材であり、図3および図4(a)に示すように、それぞれの凹部21Aおよび21Bにおいて、タンクケース10の内壁に設けられた支持部15Aおよび15Bにより支持されている。
【0031】
支持部15Aおよび15Bは、後述する記録装置のキャリッジ移動方向に平行となるように設けられた軸部と抜け止め部とから構成される。そして、それぞれの軸部が攪拌部材20A,20Bの上端に設けられた凹部21A,21Bに挿通されることで攪拌部材20A,20Bを揺動可能に支持し、抜け止め部によって脱落を防止している。支持部は、例えば、樹脂材料からなるタンクケース10から突設されたボスの先端部を熱加工で広げ、リベット状に形成した部材とすることができる。すなわち、タンクケース10から突出する部分を軸部、熱加工で広げられた部分を抜け止め部とすることができる。
【0032】
さらに、タンクケース10の内壁10Aには、撹拌部材20Aおよび20Bの形状・寸法に対応させた凹状の掘り込み部14Aおよび14Bが形成されており、攪拌部材20Aおよび20Bが侵入することが可能である。
【0033】
円錐コイルばねであるばね部材30は、タンクケース10の内壁10Aに形成された掘り込み部11内に位置決めされる。さらにばね部材30は、その荷重中心と圧力板31の重心とが略一致するように配置される。可撓性部材40の周縁部はタンクケース10の溶着部13に溶着され、この可撓性部材40とタンクケース10とによって、インク供給口60を除いて密閉された空間、つまりインク収納室Rが形成される。
【0034】
本例の可撓性部材40の中央部分形状は、平板状の支持部材である圧力板31によって規制されており、可撓性部材40の周縁部分は変形可能となっている。この可撓性部材40は、予めその中央部分が凸状に形成されており、その断面形状がほぼ台形となっている。この可撓性部材40は、後述するように、インク収納室R内におけるインク量の変化や圧力変動に応じて変形する。その際に、可撓性部材40の周辺部分がバランスよく柔軟に変形し、その可撓性部材40の中央部分は、タンクケース10の内壁10Aとほぼ平行の姿勢を保ったまま、図1中の左右方向に移動する。このように可撓性部材40がスムーズに変形(移動)することでその衝撃に起因してインク収納室R内に異常な圧力変動が生じることもない。
【0035】
また、圧縮ばね形態のばね部材30は、圧力板31を介して可撓性部材40を図3の左方向(図2の右方向)に付勢する。その付勢力がインク収納室Rを拡大させる方向に作用することで、インク収納室R内に所定の負圧が発生する。その負圧によって、記録ヘッド内のインクは、インク吐出部に形成されるインクのメニスカスの保持力と平衡して、記録ヘッドのインク吐出動作が可能となる範囲の負圧が付与される。つまりインク収納室R内には、記録ヘッドのインク吐出動作を可能とする範囲の負圧が発生する。図1は、インク収納室R内にほぼ完全にインクが充填された状態を示している。この状態でばね部材30は圧縮された状態にあり、インク収納室R内に適切な負圧が生じている。
【0036】
タンクケース10の開口部には蓋部材50が取り付けられ、その蓋部材50によって可撓性部材40が保護される。蓋部材50には大気連通部51が設けられており、タンクケース10内におけるインク収納室Rの外側が大気圧とされている。インク収納室R内の圧力は、圧力板31に対するばね部材30の押圧荷重と、可撓性部材40の平面部面積に付加される圧力分が、大気圧に対する負圧となっている。
【0037】
図2のようにインク収納室R内にほぼ完全にインク2が充填された状態から、そのインク2が記録ヘッドに供給されて消費された場合、ばね部材30の付勢力に抗して圧力板31が図2中の左方向に移動し、これに伴って可撓性部材40が変形する。ばね部材30が圧縮され、そのばね部材30の荷重が増加した分だけ、インク収納室R内の負圧がわずかに増加する。さらにインクの消費が進むと、最終的には、圧力板31がタンクケース10の内部底面に接触して変位できなくなるまで、インク収納室R内の容積が減少する。ばね部材30は、最大圧縮時の厚みが線径と等しくなるよう素線が干渉しない円錐コイルばねとなっている。ばね部材30は、最大圧縮時に掘り込み部11内に完全に収納されるため、圧力板31の変位を妨げることはない。
【0038】
インク2の消費に伴って圧力板31が変位した場合、圧力板31に規制されることで撹拌部材20A,20Bの揺動範囲は減少するものの、タンクケース10に掘り込み部14A,14Bが形成されているため、撹拌部材20A,20Bの揺動は可能である。また、圧力板31の変位は撹拌部材20A,20Bによって妨げられることはない。さらには、インク導出口64がインク収納室Rの最下面より上方に位置しているが、圧力板31にはインク導出口64に対応した形状の切り欠き部32が形成されているため、圧力板31がタンクケース10の内壁10Aに接触するまで、変位可能である。また、本例の場合インク収納室R内に外部から空気を取り込まないため、インク導出口64より下方に位置しているインクも記録ヘッドへ供給することが可能である。
【0039】
図4(a)に示されるように、インク収納室R内のインク導出口64は、インク収納室の最下面(底面)よりも高い位置に設置されている。
【0040】
本発明者らは、インクタンクが長期にわたり一定姿勢(図2に示す状態)で保存された場合、重力方向最下部に堆積する沈降層がどの程度の高さとなるかを検証した。そして、最も沈降が生じやすい顔料粒子を4%の濃度で含有するインクで確認したところ、インク収納室高さの約3%前後であることがわかった。そこで、本実施形態では、インク収納室高さの3%以上の高さ分、インク収納室底面より高い位置にインク導出口64が位置するようにインクタンク1を構成した。
【0041】
かかるインクタンク1を記録装置に装着して使用可能とした状態(インク供給口60を下向きにした状態)のまま放置した場合、沈降顔料層はインク収納室最下部に堆積する。前述したようにインク導出口が最下部に設けられていた場合、堆積した沈降顔料層は、インク導出口周辺の沈降顔料層を引き込みながらインク導出口の中へと進入していく。インク導出口からさらに下流側に移動した沈降顔料は、毛管力発生部材61の部分に大量に堆積してしまう。このような堆積状態では、インク収納室内に設けられた攪拌部材20A,20Bの動作では攪拌を行うことができず、記録時に記録ヘッドに流れ込み、記録品位を乱したり、吐出口の目詰まりなどの吐出不良を引き起こしたりすることがある。
【0042】
これに対し、本実施形態では、まず基本的に、堆積する沈降顔料高さよりも高い位置にインク導出口64が配置されるため、放置状態において堆積した沈降顔料がインク導出口64に進入することが防止される。すなわち、記録装置に装着したままの長期放置、特に供給口60を下向きとする一定姿勢での放置状態において、インクタンク内の攪拌不能領域への沈降顔料の堆積を防止することができる。
【0043】
さらに本実施形態においては、図4(b)に示すように、タンクケース10の流路形成部10Bには2つのインク導出口64が設けられ、そのいずれもが、断面三角形状の隆起部の最高部、すなわち2つの傾斜面が接合して形成される稜線部に設けられている。つまり、インク供給口60を下向きとする姿勢において、インク導出口64近傍の流路形成部10Bは、インク導出口64を頂部として重力方向に下降する傾斜面を持つ形状の隆起部を有している。これによりインク導出口64近傍の沈降顔料のほとんどは、傾斜面を滑り落ちてインク導出口64から遠ざかり、インク導出口64から離れたインク収納室Rの底面部分へと移動する。従って、インク導出に伴うインクの移動が生じた場合に、インク導出口64の中に引きずり込まれづらくなる。
【0044】
かかる効果に加え、本実施形態の構成は次のような効果も得ることができる。
【0045】
図5はインクタンク1の断面図であり、インク収納室R内のインク2が使用されている状態を示している。図6はそのインク導出口64付近(図5のB部分)の模式的拡大図である。
【0046】
図5において、インク収納室R内のインク2がインク導出口64を介して外部に排出され、可撓性部材40が変形してインク収納室Rは体積変化する。インク残量が少なくなると、図6に示すように可撓性部材40はインク収納室Rの体積変化に伴う変形でインク導出口64を覆う状態となる。インク導出口64が存在する流路形成部10Bの隆起部が水平面である場合、前述したように、可撓性部材40でインク導出口64が閉塞されてしまい、インクを導出できなくなる恐れが生じる。すると、導出ないし供給可能なインク量が安定せず、記録途中で不吐出などが生じ、記録不良を引き起こす恐れがある。
【0047】
これに対し、本実施形態においては、インク導出口64は隆起部の傾斜面K1と傾斜面K2とが接合する稜線部、および隆起部の傾斜面K3と傾斜面K4とが接合する稜線部上にそれぞれ設けられている。このため、図6に示すように、インク導出口64は、傾斜面が接合する稜線から傾斜面に沿った低い位置に広がりをもって形成され、可撓性部材40と正対する平面をなさないものとなる。すなわち、可撓性部材40が稜線部分に接してもインク導出口64との間には所定の隙間が形成され、インク導出口64が閉塞されてしまう恐れがなくなり、最後まで安定したインク供給が可能となる。
【0048】
図7は本実施形態の変形例を示す。この例では、インク導出口64ないし流路が形成される隆起部を断面半円形状としたものであり、インク導出口64はインク収納室R底面から最も遠くなる半円状の隆起部の頂部に形成されている。この変形例によっても、上述と同様の作用効果を得ることができる。このように、本発明所期の効果が期待できるものであれば、インク導出口64が設けられる隆起部の形状は適宜定め得るものである。
【0049】
また、インク導出口64ないしこれを形成する隆起部の数についても、図で示された数に限られるものではなく、必要とされるインク流量と流路における圧力損失から必要数が配置されればよい。
【0050】
なお、インク導出口64はインク収納室R底面より高い位置に配置されることが好ましいと述べたが、必要以上に高く構成すると、インク攪拌性能上の問題が発生する。
【0051】
図8はこれを説明するためのインクタンクの内部構造を示す模式的斜視図である。図8では、インク導出口64がインク収納室Rの底面より高い位置に形成されている。ここで、左右の攪拌部材220A、220Bを十分な長さの同一長とする一方、インク導出口64ないし流路を形成する隆起部が高い場合には、一方の攪拌部材220Aと干渉してしまう。このため攪拌部材220Aの長さが攪拌部材220Bより短くすると、攪拌効果が低下し、また左右の攪拌バランスが崩れてしまい、インク導出口近傍の攪拌が十分に行われなくなることが考えられる。
【0052】
従って、本実施形態のインクタンクにおいては、初期顔料濃度および沈降率からインク導出口の高さを適正化して設計すればよい。これにより、攪拌性能を低下することなく、かつ非攪拌領域に沈降顔料が堆積することがない構成を得ることが可能となる。
【0053】
(インクジェット記録装置の構成)
図9は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例を説明するための図である。
【0054】
本例の記録装置150はシリアルスキャン方式のインクジェット記録装置であり、ガイド軸151,152によって、キャリッジ153が矢印Aの主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ153は、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、主走査方向に往復動される。キャリッジ153には、インクジェット記録ヘッド(不図示)と、この記録ヘッドにインクを供給するための前述したインクタンク1と、が搭載可能である。本例においては、4つのインクタンク1が装着される。しかし、インクタンク1の装着数は1つ以上の任意の数とすることができる。
【0055】
記録媒体としての用紙Pは、装置の前端部に設けられた挿入口155から挿入された後、その搬送方向が反転されてから、送りローラ156によって矢印Bの副走査方向に搬送される。記録装置150は、記録動作と搬送動作とを繰り返すことによって、用紙P上に順次画像を記録する。記録動作は、キャリッジ153と共に記録ヘッドを方向Aに移動させつつ、プラテン157上の用紙Pの記録領域に向かってインクを吐出させる動作である。また搬送動作は、例えば記録ヘッドの1回の記録走査によって記録される領域の幅に対応する距離だけ、用紙Pを副走査方向に搬送する動作である。
【0056】
図9中の(a),(b),(c)、(d)は、キャリッジ153が方向Aに沿って仮想の軌跡上を往復移動するときの移動位置を示す。位置(a)は、キャリッジ153が矢印A1の往方向に移動し始めたときの位置である。位置(b)は矢印A1方向へ移動中であり、位置(c)は、その後にキャリッジ153の移動方向が反転し、それが矢印A2の復方向に移動し始めたときの位置である。位置(d)は、その後にキャリッジ153が矢印A2方向に継続して移動しているとときの位置である。このようなキャリッジ153の矢印A1,A2方向の往復運動を利用して、後述するようにインクタンク1内のインク2を撹拌する。
【0057】
記録ヘッドは、インクを吐出するためのエネルギとして、電気熱変換体から発生する熱エネルギを利用するものであってもよい。その場合には、電気熱変換体の発熱によってインクに膜沸騰を生じさせ、そのときの発泡エネルギによって、インク吐出口からインクを吐出することができる。また、記録ヘッドにおけるインクの吐出方式は、このような電気熱変換体を用いた方式のみに限定されず、例えば、圧電素子を用いてインクを吐出する方式等であってもよい。
【0058】
キャリッジ153の移動領域における図9中の左端には、キャリッジ153に搭載された記録ヘッドのインク吐出口の形成面と対向する回復系ユニット158が設けられている。回復系ユニット158には、記録ヘッドのインク吐出口のキャッピングが可能なキャップと、そのキャップ内に負圧を導入可能な吸引ポンプなどが備えられている。そして、インク吐出口を覆ったキャップ内に負圧を導入することにより、インク吐出口からインクを吸引排出させて、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持するための回復処理を行うことができる。また、キャップ内に向かって、画像の記録に寄与しないインクをインク吐出口から吐出させることによって、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持する回復処理(予備吐出処理)ともいう)を行うこともできる。
【0059】
(インク攪拌メカニズム)
図10(a),(b),(c)および(d)は、撹拌部材20Aによるインク2の撹拌動作を説明するための断面図であり、それぞれ、図9中のキャリッジ153の位置(a),(b),(c)および(d)における動作状態を示す。撹拌部材20Bは、この撹拌部材20Aと同様に動作する。
【0060】
まず、図10(a)のように、キャリッジ153が矢印A1方向に移動し始めたときには、インクタンク内の撹拌部材20Aは、支持部15Aを中心に慣性力によって矢印C1方向に回動し始める。撹拌部材20Aが矢印C1方向に回動し始めることにより、撹拌部材20Aと内壁10Aとの間の空間Sが拡大し、その拡大した空間S内にインクが流れ込み始める。
【0061】
次に、図10(b)のように、さらにキャリッジ153が矢印A1方向に移動する、撹拌部材20Aの回動の角度は、攪拌部材20Aの凹部21Aと支持部15Aの軸の隙間の範囲で最大の角度となり、生じた空間Sに矢印D1のようにインクが流れ込む。この状態で、撹拌部材20Aは最大角度となっているが、まだキャリッジ153が矢印A1方向へ移動しているため、さらに慣性力がかかり、矢印C3のように撹拌部材20Aの支持部側端部も移動をし始める。
【0062】
次に、図10(c)のように、キャリッジ153が反転して矢印A2方向に移動し始めたときには、空間Sは最大の体積となっている。その後キャリッジ153の減速および矢印A2方向の加速により、それまで矢印C1方向に最大に揺動していた撹拌部材20Aが逆の矢印C2方向の揺動を開始する。これにより、撹拌部材20Aと内壁10Aとの間の距離が減少し始め、矢印D2のようにさらに上方にインクの流れが生じる。
【0063】
次に、図10(d)のように、キャリッジ153が引き続き矢印A2方向に移動したときには、撹拌部材20Aの自由端が内壁14Aに接近し、空間S内のインクは、矢印D3のように攪拌部材20Aの支持部側の隙間に向かって押し出される。このとき、攪拌部材20Aに生じる慣性力よりも、空間Sから押し出されるインクの流抵抗の方が大きい場合には、撹拌部材20Aの揺動速度が大きく低下する。そこで、キャリッジ153の加速力、撹拌部材20Aの質量などを調整して、インクの流抵抗よりも撹拌部材20Aの慣性力を大きくすることが好ましい。その後さらに撹拌部材20Aに慣性力がかかり矢印C4のように支持部側端部も移動し始める。
【0064】
このようなインクの流れにより、インク収納室R内全体におけるインクの撹拌効率を高めることができる。撹拌部材20Aと支持部15Aとの間で摩擦抵抗が発生するため、攪拌部材20Aの自由端が先行で移動し、続いて、支持部側端部が移動するという動作が可能となる。その動作が、ポンプ効果を生み出し、インク収納室の下部のインクを上方へ循環させることが可能となる。さらに、大きく動く自由端側を鉛直方向の下側に構成することで、インク収納室の下側に沈降した顔料成分を攪拌しやすくなり、前述のポンプ効果と合わせて、インク収納室全体のインクを混ぜることが可能となる。
【0065】
その後、撹拌部材20Aは図10(d)の状態から図10(a)の状態に戻り、以降、キャリッジ153の往復動作が続く限り、図10(a),(b),(c)、(d)の状態を繰り返す。
【0066】
ところで、インクタンク1をキャリッジ153に搭載したまま、記録装置を長期間に渡って放置した場合には、そのインクタンク1内のインクの顔料成分が沈降し、上下方向においてインクタンク1内のインク濃度が異なるような濃度分布が生じる。このようなインクタンク1内のインクに対しては、上述したように上方方向のインク流れを生じさせることにより、効率よく撹拌することができる。したがって、インク収納室R内のインクを短時間で確実に均一濃度にまで撹拌することができる。
【0067】
さらに、本例においては、前述したようにインク導出口64をインク収納室Rの最下面から上方位置に配置している。その結果、インク導出口64の直上のインクの沈降はメニスカス保持部材62あるいは毛管力発生部材61にまで達するが、その他の部分の沈降インクは、インク導出口64内に侵入しない。つまり本実施形態においては、図14に示されるインク濃度の高いインク層が存在する高さよりも高い位置にインク導出口64を設けている。このため、その高さ以上かつのインク導出口64の直上の位置にある沈降インクはインク導出口64から侵入するが、その他の部分の沈降インクは侵入しない。特に、上述のようにインク導出口64を水平面に形成するのではなく、傾斜面が接合する稜線部分に形成することは、沈降インクの侵入防止をより効果あらしめるものとなる。
【0068】
また、侵入するインクは、最も濃度の濃い部分ではなく初期濃度からわずかに増加した濃度のインクである。これにより、ある程度の保存期間においては、インク導出口64から毛管部材61までのインクを記録動作実行前に回復動作によって排出する必要がない。そして、例えば図10(a)〜(d)に示したような動作(キャリッジの往復移動)を記録動作前に数回行って撹拌を行えば、すぐに記録動作を開始することができる。
【0069】
また、保存されていたインクタンクの使用開始当初において、インク収納室Rの最下面の近傍には、顔料成分の堆積した濃度の高いインクが存在する。しかし、本例のように、インク導出口64の高さをある程度確保しておけば、保存期間が比較的短い場合、インク導出口64の位置におけるインクの濃度が、図14に示したような濃度勾配において記録にふさわしい初期濃度になっている場合がある。この場合、記録動作開始前に攪拌を行わなくとも適正な濃度のインクを記録ヘッドに供給することができ、その後に攪拌を行い、インク収容室R内のインクの濃度の均一化を行えば、全てのインクを適正な濃度で使用することができる。
【0070】
このように、本例によれば、インク導出口64の高さをインク収容室の最下面より高い位置に設定しているため、ユーザが記録装置を起動してから記録動作が開始されるまでの待ち時間を低減することができ、速やかに記録動作を開始することができる。
【0071】
さらに、インク収納室R内のインクの消費に伴ってタンクケース10の内側面に圧力板31が接近するため、攪拌部材の20A,20Bの揺動可能範囲が徐々に小さくなる。しかし、本例にあっては、タンクケース10側に掘り込み部14A,14Bが形成されているため、攪拌部材20A,20Bの攪拌機能を最後まで維持することができる。また、掘り込み部14A,14Bを形成することによって、攪拌部材20A,20Bの揺動可能範囲を確保しつつ、インクタンク1の図1中左右方向の幅を小さく設定することができる。この結果、キャリッジ153上に、複数のインクタンク1を矢印Aの主走査方向にコンパクトに並べて配備することができる。
【0072】
(第2の実施形態)
図11(a)および(b)は、それぞれ、本発明の第2の実施形態に係るインクタンクの内部構成を示す模式的斜視図およびその一部拡大図である。第1の実施形態と同一構成部については、同一符号を付してその説明は省略する。
【0073】
本実施形態においては3つのインク導出口164が設けられており、一つの平面内に形成されているが、その形成面は水平面ではなく、記録装置への装着姿勢において、重力方向に傾斜した面である。この傾斜角は、タンクケース10が樹脂成形部品である場合、金型構成に応じて必要となる一般的な抜き勾配で形成される傾斜角であってもよい。また、インク導出口配列範囲の両側、および各インク導出口間の位置に向けて、インク収納室内壁10Aから凸状の段差18が延在している。
【0074】
本実施形態によれば、複数(図示の例では3つ)のインク導出口164を一つの平面上に設けることで、インク消費が進んで可撓性部材40が最大限変位したときに流路形成部10Bとの間に形成される使用不可容量を減らすことが可能となる。すなわち、第1の実施形態では、複数のインク導出口164ないし流路は、流路形成部10において各別の隆起部に形成されていたため、隆起部間の空間の容積分が使用不可容量となり得る。これに対し、本例ではそのような使用不可容量を減らし、インク収納室R内に残るインク量をより少なくすることができる。
【0075】
また、本例ではインク導出口164が開口する平面部は、記録装置装着姿勢において重力方向に傾斜している。従って、この平面上に堆積する沈降顔料の大部分は、インク導出口164が形成された平面部から傾斜面に沿ってインク収納室Rの底面へと移動し、インク導出口164ないし流路内に流れ込む量を少なくすることができる。
【0076】
さらに本例では、インク導出口164が開口する平面(傾斜面)にはインク導出口164よりも凸状の段差18が設けられている。段差18を設けない図12(a)に示すような構成では、インク導出口164がなす平面と、インクタンクの使用末期に可撓性部材40がなす平面とが平行な状態となると、同図(b)に示すように可撓性部材40によりインク導出口164が閉塞されてしまう。すなわち、インク収納室R内の使用可能なインク量が安定せず、使用効率が時には低くなってしまう恐れがある。さらには、そのような閉塞によってインク導出が全く行われなくなり、記録動作中の不吐出状態を招いてしまう恐れもあるのである。
【0077】
これに対し、本例では、インク導出口164よりも高い位置に存在する凸状の段差18により、図13に示すように、可撓性部材40が最大限変位してインク導出口164上に位置する状態となっても、インク導出口164との間に一定の隙間が形成される。すなわち、インク導出口164が閉塞されてしまうことはない。
【0078】
以上のように、本実施形態のインクタンクにおいても、沈降顔料に起因して濃度むらのある画像が形成されたり、不吐出等が生じたりする不都合の発生が防止されるとともに、最後まで安定したインク供給が可能となる。
【0079】
なお、インク導出口164の数については、図で示された数に限られるものではなく、必要とされるインク流量と流路における圧力損失から必要数が配置されればよい。
【0080】
また、段差18は、インク導出口164がなす平面とインクタンクの使用末期に可撓性部材40がなす平面との関係によってインク導出口が閉塞され得る場合に有効なものであり、インク導出口164が形成される面と高さが異なっていればよい。さらに、同様の作用効果を得る構成として、凸状の段差を設けるのではなく、平面に沿って、例えば内壁10Aからインク導出口164を貫く凹溝を、図11(b)の一点鎖線で示すように形成してもよい。また、そのような凹溝と凸状の段差とを組み合わせて用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクタンクを示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のインクタンクの分解斜視図である。
【図4】(a)および(b)は、それぞれ、第1の実施形態に係るインクタンクの主要部をなすタンクケースの斜視図およびその一部を拡大して示す斜視図である。
【図5】第1の実施形態に係るインクタンクにおいて、インク収納室内のインクが使用されて行く状態を説明するための断面図である。
【図6】第1の実施形態に係るインクタンクにおいて、インク収納室内のインクがほとんど使用され尽くされた状態を説明するためのインク導出口64付近の模式的拡大図である。
【図7】第1の実施形態の変形例に係るインクタンクの内部構成を示す斜視図である。
【図8】インク導出口の位置(高さ)を選定するための設計基準を説明するための説明図である。
【図9】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例を説明するための斜視図である。
【図10】(a)〜(d)は、第1の実施形態に係るインクタンクにおける撹拌メカニズムを説明するための模式的断面図である。
【図11】(a)および(b)は、それぞれ、本発明の第2の実施形態に係るインクタンクの内部構成を示す模式的斜視図およびその一部拡大図である。
【図12】(a)および(b)は、それぞれ、第2の実施形態の比較例に係るインクタンクのインク導出口付近を示す模式的斜視図およびそのインクタンク内のインクがほとんど使用され尽くされた状態を説明するための模式的断面図である。
【図13】第2の実施形態に係るインクタンクにおいて、インク収納室内のインクがほとんど使用された状態を説明するための模式的断面図である。
【図14】インク沈降状態のインク濃度とタンク内位置との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
1 インクタンク
2 インク
10 タンクケース
10A 内壁
10B 流路形成部
18 段差
20A、20B、220A、220B 撹拌部材
64、164 インク導出口
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置などに用いられるインクタンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクタンクに収容されているインクを用いる記録装置としては、例えば、インクを吐出可能なインクジェット記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置がある。さらに、このようなインクジェット記録装置には、インクジェット記録ヘッドと共にインクタンクをキャリッジに搭載して、そのキャリッジの主走査方向の移動を伴って、記録媒体上に画像を記録するシリアルスキャンタイプのものがある。
【0003】
このシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置は、インクジェット記録ヘッドと、その記録ヘッドにインクを供給するインクタンクとを搭載可能なキャリッジを備えている。そして記録に際しては、記録媒体に対してキャリッジを移動させながら、記録ヘッドに設けられた微細な吐出口からインク滴を吐出させ、そのインク滴を記録媒体上に着弾させることにより、所望の画像を記録する。
【0004】
インクジェット記録ヘッドに用いられるインクとしては、主に、着色材として染料を用いた染料インクが使用されてきた。しかしながら、染料インクによって記録された記録物は、耐光性および耐候性を重視する屋外掲示プリント物等の用途において求められる性能をもつことが難しく、その代わりに、着色材として顔料を用いた顔料インクが実用化されている。しかし、顔料は溶解系ではなく分散系であるため、顔料インクは、インクタンク中において顔料粒子の沈降が生じることが避けられない。
【0005】
例えば、インクタンクがインクジェット記録装置に装着されたまま長期間放置された場合には、そのインクタンクの内部にてインク中の顔料粒子が徐々に沈降する。そのため、インクタンク内部において、その底部から上部の方向に向かうにしたがって顔料粒子の濃度傾斜が発生する。その結果、インクタンク底部のインクは、顔料粒子濃度が高くなって色が過度に濃い層を形成し、一方、インクタンク上部のインクは、顔料粒子濃度が低くなって色が過度に薄い層を形成することになる。
【0006】
インクタンク底部からインクを導出する構成において、長期に一定姿勢(底部を鉛直方向下方に向けた状態)でインクタンクが保管されていた場合を考える。かかるインクタンクからインクが導出される場合、そのインクタンクから導出したインクを記録ヘッドに供給したときには、顔料粒子濃度の高い層を形成するインクが最初に供給されて、色が過度に濃い画像が記録されることになる。つまり、インクタンクの使用初期における記録画像と、その使用後期における記録画像との間に、目視される程度の記録濃度の差が生じる恐れがある。このような現象は、色の濃淡によってカラー画像を記録するカラー記録において、特に顕著となる。
【0007】
このような課題を解決する方法として特許文献1,2には、インクタンク内に攪拌部材(撹拌体)を備えて、キャリッジの往復運動の慣性力によって撹拌体を移動させることにより、インクタンク内のインクを撹拌させる構成が記載されている。
【0008】
すなわち特許文献1には、内部に撹拌体を揺動自在に備えたインクタンクが記載されており、その撹拌体の揺動中心は、キャリッジ移動方向におけるインクタンク内のほぼ中央の位置に設定されている。その撹拌体は、キャリッジの往復運動によって、一方向および他方向に同様に揺動することになる。また特許文献2には、内部に、弾性変形を伴って揺動可能な撹拌体を備えたインクタンクが記載されており、その撹拌体は、インクタンクの上部内面のほぼ中央部分から垂下する形状となっている。その撹拌体も、キャリッジの往復運動によって、一方向および他方向に同様に揺動することになる。また特許文献2には、インクタンク内に、その底面上を自由に移動可能な撹拌体を備えた構成も記載されている。その撹拌体は、キャリッジの往復運動によって、インクタンクの底面上を自由に移動することになる。
【0009】
また特許文献3には、攪拌部材をインクタンクのインク収納室内に備えてインク収納室内のインクを攪拌するとともに、使用時の姿勢で最も下となるインク収納室底部より上方にインク導出口を設ける構成が記載されている。インク導出口を最下部より上方に配置することで、比重の高い最下層の沈降インクが記録ヘッドへのインク供給口内部へ侵入することを防止しているのである。攪拌部材は、その一端側がインク収納室内に設けた支持部によって回動可能に支持されるとともに、当該回動支点が支持部に沿って直線的に移動可能であるように構成されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−216761号公報
【特許文献2】特開2005−066520号公報
【特許文献3】特開2007−230189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1,2に記載されているインクタンクには、次のような不具合がある。まず、特許文献1に記載のインクタンクは、インクタンク内のほぼ中央部分を中心として撹拌体が一方向および他方向に同様に揺動する。そのため、その撹拌体の揺動範囲を大きくして撹拌性能を上げるためには、キャリッジの移動方向におけるインクタンクの幅を大きくする必要がある。しかし、キャリッジに搭載されるインクタンクは、キャリッジの移動方向に沿って複数搭載される場合が多く、その幅が比較的小さく制限されているため、撹拌体の揺動範囲を大きくすることができず、その撹拌体の揺動によって生じるインクの流れが小さい。インクを充分に撹拌するためには、キャリッジの往復移動回数を多くして、撹拌時間を長くする必要がある。
【0012】
一方、特許文献2に記載のインクタンクにおいて、インクタンクの上部内面のほぼ中央部分から垂下する撹拌体を備えるものは、インクタンク内のほぼ中央部分を中心として撹拌体が一方向および他方向に同様に揺動する。撹拌体の揺動範囲を大きくして撹拌性能を上げるためには、特許文献1のインクタンクと同様に、キャリッジの移動方向におけるインクタンクの幅を大きくする必要がある。そのため、特許文献1のインクタンクと同様の問題がある。また、撹拌体を大きく弾性変形させるためにキャリッジの加速度を大きく設定した場合には、キャリッジの駆動源(モータ等)の大型化および高価格化を招き、また記録装置の振動も大きくなるおそれがある。また特許文献2に記載のインクタンクにおいて、その底面上を自由に移動可能な撹拌体を備えたものは、その撹拌体がインクタンク内のインクの上層部分から離れているため、その上層部分に対しての撹拌性能が劣るという問題がある。
【0013】
このような特許文献1および2に記載のインクタンクの不具合は、次のような一般的なインクタンクおよび記録装置の形態の観点からも明らかである。
【0014】
一般的に、キャリッジに搭載されるインクタンクは、その着脱の操作性を良くするために、その幅と長さが設定されている。すなわち、キャリッジの移動方向(主走査方向)におけるインクタンクの幅は比較的小さく、また、その主走査方向と交差する記録媒体の搬送方向(副走査方向)におけるインクタンクの長さは比較的大きく設定されている。そのため、撹拌体の変位方向である主走査方向において、その変位量を大きく設定することができない。したがって、撹拌体の変位量が小さくてインクの強い流れを生じさせることができず、そのためインクの撹拌効率が劣り、インクタンク内部のインク全体を撹拌するためには時間が掛かりすぎる。例えば、キャリッジにインクタンクを装着したまま、記録装置が長期間記録を行わなかったために、インクタンク内におけるインク中の顔料粒子が沈降した場合には、記録を開始前に長時間に渡って、キャリッジを往復運動させなければならなる。そのため、記録動作が可能となるまでのウォームアップ時間が長くなる。特に、顔料インク中の顔料粒径が大きい場合や顔料粒子の比重が大きい場合には、その沈降が早く、インクタンクを数日間放置しただけでも、記録画像に悪影響を与える濃度分布がインクタンク内に発生するおそれがある。この場合には、数日毎にインクの撹拌動作を行わなければならず、また、その撹拌動作の間は記録を開始することができなくなる。
【0015】
図14はインクタンク内の高さ方向におけるインク濃度勾配を示す。顔料の沈降が生じていない場合、インク濃度は均一となり、高さに拠らず同一の濃度を呈する。しかし、ある程度の期間保存することにより、図の曲線Bに示すように、タンク内位置が高いところで濃度の小さい部分が生じ、高さが低くなるにつれ徐々に濃度が初期濃度に近くなり、中段位置ではほぼ初期濃度と一致する。そして、タンク内位置の低い部分で濃度の高い部分が生じる。特に最下部(底部)に近いところでは急激に濃度が変化(増大)する。一般に顔料粒子の濃度が高い程、インクは高粘度となるため、最下層の部分はそれ以外の部分に比べて比重が高く粘度も高くなり、他の部分とは物性的に大きく異なる層を形成することとなる。
【0016】
そこで特許文献3記載のインクタンクにおいては、インク収納室内のインク導出口を最下部より上方に設けることで、最下部に堆積した沈降顔料がインク供給口内部に移動することを防止している。
【0017】
しかしながら、堆積した沈降顔料は、粘性流体に似た挙動を示すこと、つまりある方向に移動を始めると周辺の沈降顔料を引きずりながら移動を行う特性を有することが知られている。このことから、インク収納室内のインク導出口がタンク使用姿勢において水平面に形成されている場合、インク導出口周囲近傍に堆積した沈降顔料の大部分はインク導出口内、ひいてはインク供給口内に移動してしまい、所期の効果が得られなくなる恐れがある。
【0018】
また、インク導出口をインクタンク底面より高い位置に設けることは、インク導出口を形成している部分がインク収納室内で底面から突出していることを意味する。このため、大気を取り込まずにインク導出(消費)に伴う負圧の増大を緩和するべくインク収納室が体積変化する形態のインクタンクにおいては、インク残量が少なくなったときに当該体積変化を生じさせるための可撓性部材にインク導出口が覆われることがある。よって、導出ないし供給できるインク量がインクタンク毎に安定しなくなる恐れが生じる。
【0019】
さらに、攪拌体は、沈降顔料が堆積するインク収納室の最下面により近い位置に配置されている方が攪拌性能が向上する。しかしながら、インク導出口形成部材の高さによっては、当該部材との干渉を回避するために攪拌体が効果的な位置に配設できなくなったり、形状が複雑になったりすることで、攪拌性能が低下することも考えられる。
【0020】
よって本発明は、沈降した顔料を含む濃度の高いインクが導出される不都合を効果的に抑制するとともに、攪拌性能を向上し、さらには導出ないし供給されるインク量を安定化できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そのために、本発明は、インクを収納するインク収納室と、該インク収納室内に位置するインク導出口から導出されたインクを外部へと供給するインク供給口と、を具えたインクタンクであって、
前記インク導出口は、前記インクタンクが予め設定した使用姿勢にあるとき、前記インク収納室内の最も下方に位置する部分より上方に配されるとともに、重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インク収納室内に配置され、記録ヘッドへインクを供給するためのインク導出口が、インク収納室の最も下方に位置する部分より上方に位置し、かつこれは重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成されている。従って、顔料成分を含有するインクを収容したインクタンクが長期間記録装置に装着されて放置された場合においても、顔料が沈降した高濃度、高粘度のインクがインク導出口内ひいてはインク供給口に供給されるのを抑制することができる。
【0023】
また、これにより、沈降顔料のほとんどはインク収容室内に堆積することになるので、インク収納室内に攪拌部材を設ける構成においては、記録動作前にキャリッジを短時間往復動作させるだけで、インクを充分に撹拌させることができる。したがって、記録装置を起動した後に素早く記録動作を開始することができ、かつ顔料の濃度を均一化して高品位の画像を記録することができる。あるいは、長期間放置後の記録開始時に排出するインク量を少なくすることができため、ランニングコストを低減することができる。
【0024】
さらに、インク導出口を傾斜面に形成することで、大気を取り込まず可撓性部材の変位または変形による体積変化でインク導出を許容するインクタンクにおいて、可撓性部材によりインク導出口が閉塞される恐れを低減することができる。従って、インク収納室内のインクを無駄なく排出することが可能であり、高いインク使用効率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0026】
(インクタンクの構成)
図1は本発明の第1の実施形態に係るインクタンク1の斜視図、図2はそのII−II線断面図、図3は分解斜視図である。また、図4(a)は実施形態に係るインクタンクの主要部をなすタンクケースの斜視図、図4(b)はその一部を拡大して示す斜視図である。
【0027】
インクタンク1は、タンクケース10と可撓性部材40によって構成されるインク収納室R内にインク2を収納する容器であり、インク収納室R内に配置されたインク導出口64はインク供給口60に連通する。そして、図1および図2のようにインク供給口60を鉛直方向下方に向けた姿勢でインクジェット記録装置に装着される。インク供給口60は、後述するインクジェット記録ヘッドのインク供給路に接続される。本例のインクタンク1は、記録ヘッドと分離可能に構成されている。しかしインクタンク1は、記録ヘッドを有した一体型のものとして構成されていてもよい。
【0028】
図2および図3に示すように、インクタンク1は、主に、タンクケース10、撹拌部材20A,20B、ばね部材30、圧力板31、可撓性部材40、蓋部材50、毛管力発生部材61、メニスカス保持部材62および供給口形成部材63から構成される。特に、タンクケース10、蓋部材50および供給口形成部材63はインクタンク1の筐体を構成している。
【0029】
供給口形成部材63には、インクジェット記録ヘッドに接続可能なインク供給口60が形成されている。一方、タンクケース10には、インク収納室R内のインクを導出するインク導出口64およびそこからインク供給口60に至る流路を画成する流路形成部10B(後述)が形成されている。インク供給口60には、図3に示されるように、毛管力発生部材61とメニスカス保持部材62とが配設される。毛管力発生部材61は、インク供給口60に記録ヘッドを接続したときに、その記録ヘッドの鉛直方向(図2中の上下方向)の位置ずれを吸収できるように、ある程度の柔軟性をもつ材料によって構成されて毛管力を発生する。インク収納室R内は、後述するように、インクがインク供給口60から外部に漏洩しないように負圧に保たれている。メニスカス保持部材62は、そのインク収納室R内の負圧によって、インク供給口60から気泡を引き込まないように、インクのメニスカスを形成する。従ってメニスカス保持部材62としては、インク収納室R内に発生する負圧の最大値よりも強いメニスカス保持力を発生させるような部材が選択される。
【0030】
タンクケース10の内部には、インク収納室R内に位置する撹拌部材20Aおよび20Bが矢印C1,C2方向に揺動自在に取り付けられている。本例の撹拌部材20Aおよび20Bは、主に金属製の板状部材であり、図3および図4(a)に示すように、それぞれの凹部21Aおよび21Bにおいて、タンクケース10の内壁に設けられた支持部15Aおよび15Bにより支持されている。
【0031】
支持部15Aおよび15Bは、後述する記録装置のキャリッジ移動方向に平行となるように設けられた軸部と抜け止め部とから構成される。そして、それぞれの軸部が攪拌部材20A,20Bの上端に設けられた凹部21A,21Bに挿通されることで攪拌部材20A,20Bを揺動可能に支持し、抜け止め部によって脱落を防止している。支持部は、例えば、樹脂材料からなるタンクケース10から突設されたボスの先端部を熱加工で広げ、リベット状に形成した部材とすることができる。すなわち、タンクケース10から突出する部分を軸部、熱加工で広げられた部分を抜け止め部とすることができる。
【0032】
さらに、タンクケース10の内壁10Aには、撹拌部材20Aおよび20Bの形状・寸法に対応させた凹状の掘り込み部14Aおよび14Bが形成されており、攪拌部材20Aおよび20Bが侵入することが可能である。
【0033】
円錐コイルばねであるばね部材30は、タンクケース10の内壁10Aに形成された掘り込み部11内に位置決めされる。さらにばね部材30は、その荷重中心と圧力板31の重心とが略一致するように配置される。可撓性部材40の周縁部はタンクケース10の溶着部13に溶着され、この可撓性部材40とタンクケース10とによって、インク供給口60を除いて密閉された空間、つまりインク収納室Rが形成される。
【0034】
本例の可撓性部材40の中央部分形状は、平板状の支持部材である圧力板31によって規制されており、可撓性部材40の周縁部分は変形可能となっている。この可撓性部材40は、予めその中央部分が凸状に形成されており、その断面形状がほぼ台形となっている。この可撓性部材40は、後述するように、インク収納室R内におけるインク量の変化や圧力変動に応じて変形する。その際に、可撓性部材40の周辺部分がバランスよく柔軟に変形し、その可撓性部材40の中央部分は、タンクケース10の内壁10Aとほぼ平行の姿勢を保ったまま、図1中の左右方向に移動する。このように可撓性部材40がスムーズに変形(移動)することでその衝撃に起因してインク収納室R内に異常な圧力変動が生じることもない。
【0035】
また、圧縮ばね形態のばね部材30は、圧力板31を介して可撓性部材40を図3の左方向(図2の右方向)に付勢する。その付勢力がインク収納室Rを拡大させる方向に作用することで、インク収納室R内に所定の負圧が発生する。その負圧によって、記録ヘッド内のインクは、インク吐出部に形成されるインクのメニスカスの保持力と平衡して、記録ヘッドのインク吐出動作が可能となる範囲の負圧が付与される。つまりインク収納室R内には、記録ヘッドのインク吐出動作を可能とする範囲の負圧が発生する。図1は、インク収納室R内にほぼ完全にインクが充填された状態を示している。この状態でばね部材30は圧縮された状態にあり、インク収納室R内に適切な負圧が生じている。
【0036】
タンクケース10の開口部には蓋部材50が取り付けられ、その蓋部材50によって可撓性部材40が保護される。蓋部材50には大気連通部51が設けられており、タンクケース10内におけるインク収納室Rの外側が大気圧とされている。インク収納室R内の圧力は、圧力板31に対するばね部材30の押圧荷重と、可撓性部材40の平面部面積に付加される圧力分が、大気圧に対する負圧となっている。
【0037】
図2のようにインク収納室R内にほぼ完全にインク2が充填された状態から、そのインク2が記録ヘッドに供給されて消費された場合、ばね部材30の付勢力に抗して圧力板31が図2中の左方向に移動し、これに伴って可撓性部材40が変形する。ばね部材30が圧縮され、そのばね部材30の荷重が増加した分だけ、インク収納室R内の負圧がわずかに増加する。さらにインクの消費が進むと、最終的には、圧力板31がタンクケース10の内部底面に接触して変位できなくなるまで、インク収納室R内の容積が減少する。ばね部材30は、最大圧縮時の厚みが線径と等しくなるよう素線が干渉しない円錐コイルばねとなっている。ばね部材30は、最大圧縮時に掘り込み部11内に完全に収納されるため、圧力板31の変位を妨げることはない。
【0038】
インク2の消費に伴って圧力板31が変位した場合、圧力板31に規制されることで撹拌部材20A,20Bの揺動範囲は減少するものの、タンクケース10に掘り込み部14A,14Bが形成されているため、撹拌部材20A,20Bの揺動は可能である。また、圧力板31の変位は撹拌部材20A,20Bによって妨げられることはない。さらには、インク導出口64がインク収納室Rの最下面より上方に位置しているが、圧力板31にはインク導出口64に対応した形状の切り欠き部32が形成されているため、圧力板31がタンクケース10の内壁10Aに接触するまで、変位可能である。また、本例の場合インク収納室R内に外部から空気を取り込まないため、インク導出口64より下方に位置しているインクも記録ヘッドへ供給することが可能である。
【0039】
図4(a)に示されるように、インク収納室R内のインク導出口64は、インク収納室の最下面(底面)よりも高い位置に設置されている。
【0040】
本発明者らは、インクタンクが長期にわたり一定姿勢(図2に示す状態)で保存された場合、重力方向最下部に堆積する沈降層がどの程度の高さとなるかを検証した。そして、最も沈降が生じやすい顔料粒子を4%の濃度で含有するインクで確認したところ、インク収納室高さの約3%前後であることがわかった。そこで、本実施形態では、インク収納室高さの3%以上の高さ分、インク収納室底面より高い位置にインク導出口64が位置するようにインクタンク1を構成した。
【0041】
かかるインクタンク1を記録装置に装着して使用可能とした状態(インク供給口60を下向きにした状態)のまま放置した場合、沈降顔料層はインク収納室最下部に堆積する。前述したようにインク導出口が最下部に設けられていた場合、堆積した沈降顔料層は、インク導出口周辺の沈降顔料層を引き込みながらインク導出口の中へと進入していく。インク導出口からさらに下流側に移動した沈降顔料は、毛管力発生部材61の部分に大量に堆積してしまう。このような堆積状態では、インク収納室内に設けられた攪拌部材20A,20Bの動作では攪拌を行うことができず、記録時に記録ヘッドに流れ込み、記録品位を乱したり、吐出口の目詰まりなどの吐出不良を引き起こしたりすることがある。
【0042】
これに対し、本実施形態では、まず基本的に、堆積する沈降顔料高さよりも高い位置にインク導出口64が配置されるため、放置状態において堆積した沈降顔料がインク導出口64に進入することが防止される。すなわち、記録装置に装着したままの長期放置、特に供給口60を下向きとする一定姿勢での放置状態において、インクタンク内の攪拌不能領域への沈降顔料の堆積を防止することができる。
【0043】
さらに本実施形態においては、図4(b)に示すように、タンクケース10の流路形成部10Bには2つのインク導出口64が設けられ、そのいずれもが、断面三角形状の隆起部の最高部、すなわち2つの傾斜面が接合して形成される稜線部に設けられている。つまり、インク供給口60を下向きとする姿勢において、インク導出口64近傍の流路形成部10Bは、インク導出口64を頂部として重力方向に下降する傾斜面を持つ形状の隆起部を有している。これによりインク導出口64近傍の沈降顔料のほとんどは、傾斜面を滑り落ちてインク導出口64から遠ざかり、インク導出口64から離れたインク収納室Rの底面部分へと移動する。従って、インク導出に伴うインクの移動が生じた場合に、インク導出口64の中に引きずり込まれづらくなる。
【0044】
かかる効果に加え、本実施形態の構成は次のような効果も得ることができる。
【0045】
図5はインクタンク1の断面図であり、インク収納室R内のインク2が使用されている状態を示している。図6はそのインク導出口64付近(図5のB部分)の模式的拡大図である。
【0046】
図5において、インク収納室R内のインク2がインク導出口64を介して外部に排出され、可撓性部材40が変形してインク収納室Rは体積変化する。インク残量が少なくなると、図6に示すように可撓性部材40はインク収納室Rの体積変化に伴う変形でインク導出口64を覆う状態となる。インク導出口64が存在する流路形成部10Bの隆起部が水平面である場合、前述したように、可撓性部材40でインク導出口64が閉塞されてしまい、インクを導出できなくなる恐れが生じる。すると、導出ないし供給可能なインク量が安定せず、記録途中で不吐出などが生じ、記録不良を引き起こす恐れがある。
【0047】
これに対し、本実施形態においては、インク導出口64は隆起部の傾斜面K1と傾斜面K2とが接合する稜線部、および隆起部の傾斜面K3と傾斜面K4とが接合する稜線部上にそれぞれ設けられている。このため、図6に示すように、インク導出口64は、傾斜面が接合する稜線から傾斜面に沿った低い位置に広がりをもって形成され、可撓性部材40と正対する平面をなさないものとなる。すなわち、可撓性部材40が稜線部分に接してもインク導出口64との間には所定の隙間が形成され、インク導出口64が閉塞されてしまう恐れがなくなり、最後まで安定したインク供給が可能となる。
【0048】
図7は本実施形態の変形例を示す。この例では、インク導出口64ないし流路が形成される隆起部を断面半円形状としたものであり、インク導出口64はインク収納室R底面から最も遠くなる半円状の隆起部の頂部に形成されている。この変形例によっても、上述と同様の作用効果を得ることができる。このように、本発明所期の効果が期待できるものであれば、インク導出口64が設けられる隆起部の形状は適宜定め得るものである。
【0049】
また、インク導出口64ないしこれを形成する隆起部の数についても、図で示された数に限られるものではなく、必要とされるインク流量と流路における圧力損失から必要数が配置されればよい。
【0050】
なお、インク導出口64はインク収納室R底面より高い位置に配置されることが好ましいと述べたが、必要以上に高く構成すると、インク攪拌性能上の問題が発生する。
【0051】
図8はこれを説明するためのインクタンクの内部構造を示す模式的斜視図である。図8では、インク導出口64がインク収納室Rの底面より高い位置に形成されている。ここで、左右の攪拌部材220A、220Bを十分な長さの同一長とする一方、インク導出口64ないし流路を形成する隆起部が高い場合には、一方の攪拌部材220Aと干渉してしまう。このため攪拌部材220Aの長さが攪拌部材220Bより短くすると、攪拌効果が低下し、また左右の攪拌バランスが崩れてしまい、インク導出口近傍の攪拌が十分に行われなくなることが考えられる。
【0052】
従って、本実施形態のインクタンクにおいては、初期顔料濃度および沈降率からインク導出口の高さを適正化して設計すればよい。これにより、攪拌性能を低下することなく、かつ非攪拌領域に沈降顔料が堆積することがない構成を得ることが可能となる。
【0053】
(インクジェット記録装置の構成)
図9は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例を説明するための図である。
【0054】
本例の記録装置150はシリアルスキャン方式のインクジェット記録装置であり、ガイド軸151,152によって、キャリッジ153が矢印Aの主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ153は、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、主走査方向に往復動される。キャリッジ153には、インクジェット記録ヘッド(不図示)と、この記録ヘッドにインクを供給するための前述したインクタンク1と、が搭載可能である。本例においては、4つのインクタンク1が装着される。しかし、インクタンク1の装着数は1つ以上の任意の数とすることができる。
【0055】
記録媒体としての用紙Pは、装置の前端部に設けられた挿入口155から挿入された後、その搬送方向が反転されてから、送りローラ156によって矢印Bの副走査方向に搬送される。記録装置150は、記録動作と搬送動作とを繰り返すことによって、用紙P上に順次画像を記録する。記録動作は、キャリッジ153と共に記録ヘッドを方向Aに移動させつつ、プラテン157上の用紙Pの記録領域に向かってインクを吐出させる動作である。また搬送動作は、例えば記録ヘッドの1回の記録走査によって記録される領域の幅に対応する距離だけ、用紙Pを副走査方向に搬送する動作である。
【0056】
図9中の(a),(b),(c)、(d)は、キャリッジ153が方向Aに沿って仮想の軌跡上を往復移動するときの移動位置を示す。位置(a)は、キャリッジ153が矢印A1の往方向に移動し始めたときの位置である。位置(b)は矢印A1方向へ移動中であり、位置(c)は、その後にキャリッジ153の移動方向が反転し、それが矢印A2の復方向に移動し始めたときの位置である。位置(d)は、その後にキャリッジ153が矢印A2方向に継続して移動しているとときの位置である。このようなキャリッジ153の矢印A1,A2方向の往復運動を利用して、後述するようにインクタンク1内のインク2を撹拌する。
【0057】
記録ヘッドは、インクを吐出するためのエネルギとして、電気熱変換体から発生する熱エネルギを利用するものであってもよい。その場合には、電気熱変換体の発熱によってインクに膜沸騰を生じさせ、そのときの発泡エネルギによって、インク吐出口からインクを吐出することができる。また、記録ヘッドにおけるインクの吐出方式は、このような電気熱変換体を用いた方式のみに限定されず、例えば、圧電素子を用いてインクを吐出する方式等であってもよい。
【0058】
キャリッジ153の移動領域における図9中の左端には、キャリッジ153に搭載された記録ヘッドのインク吐出口の形成面と対向する回復系ユニット158が設けられている。回復系ユニット158には、記録ヘッドのインク吐出口のキャッピングが可能なキャップと、そのキャップ内に負圧を導入可能な吸引ポンプなどが備えられている。そして、インク吐出口を覆ったキャップ内に負圧を導入することにより、インク吐出口からインクを吸引排出させて、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持するための回復処理を行うことができる。また、キャップ内に向かって、画像の記録に寄与しないインクをインク吐出口から吐出させることによって、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持する回復処理(予備吐出処理)ともいう)を行うこともできる。
【0059】
(インク攪拌メカニズム)
図10(a),(b),(c)および(d)は、撹拌部材20Aによるインク2の撹拌動作を説明するための断面図であり、それぞれ、図9中のキャリッジ153の位置(a),(b),(c)および(d)における動作状態を示す。撹拌部材20Bは、この撹拌部材20Aと同様に動作する。
【0060】
まず、図10(a)のように、キャリッジ153が矢印A1方向に移動し始めたときには、インクタンク内の撹拌部材20Aは、支持部15Aを中心に慣性力によって矢印C1方向に回動し始める。撹拌部材20Aが矢印C1方向に回動し始めることにより、撹拌部材20Aと内壁10Aとの間の空間Sが拡大し、その拡大した空間S内にインクが流れ込み始める。
【0061】
次に、図10(b)のように、さらにキャリッジ153が矢印A1方向に移動する、撹拌部材20Aの回動の角度は、攪拌部材20Aの凹部21Aと支持部15Aの軸の隙間の範囲で最大の角度となり、生じた空間Sに矢印D1のようにインクが流れ込む。この状態で、撹拌部材20Aは最大角度となっているが、まだキャリッジ153が矢印A1方向へ移動しているため、さらに慣性力がかかり、矢印C3のように撹拌部材20Aの支持部側端部も移動をし始める。
【0062】
次に、図10(c)のように、キャリッジ153が反転して矢印A2方向に移動し始めたときには、空間Sは最大の体積となっている。その後キャリッジ153の減速および矢印A2方向の加速により、それまで矢印C1方向に最大に揺動していた撹拌部材20Aが逆の矢印C2方向の揺動を開始する。これにより、撹拌部材20Aと内壁10Aとの間の距離が減少し始め、矢印D2のようにさらに上方にインクの流れが生じる。
【0063】
次に、図10(d)のように、キャリッジ153が引き続き矢印A2方向に移動したときには、撹拌部材20Aの自由端が内壁14Aに接近し、空間S内のインクは、矢印D3のように攪拌部材20Aの支持部側の隙間に向かって押し出される。このとき、攪拌部材20Aに生じる慣性力よりも、空間Sから押し出されるインクの流抵抗の方が大きい場合には、撹拌部材20Aの揺動速度が大きく低下する。そこで、キャリッジ153の加速力、撹拌部材20Aの質量などを調整して、インクの流抵抗よりも撹拌部材20Aの慣性力を大きくすることが好ましい。その後さらに撹拌部材20Aに慣性力がかかり矢印C4のように支持部側端部も移動し始める。
【0064】
このようなインクの流れにより、インク収納室R内全体におけるインクの撹拌効率を高めることができる。撹拌部材20Aと支持部15Aとの間で摩擦抵抗が発生するため、攪拌部材20Aの自由端が先行で移動し、続いて、支持部側端部が移動するという動作が可能となる。その動作が、ポンプ効果を生み出し、インク収納室の下部のインクを上方へ循環させることが可能となる。さらに、大きく動く自由端側を鉛直方向の下側に構成することで、インク収納室の下側に沈降した顔料成分を攪拌しやすくなり、前述のポンプ効果と合わせて、インク収納室全体のインクを混ぜることが可能となる。
【0065】
その後、撹拌部材20Aは図10(d)の状態から図10(a)の状態に戻り、以降、キャリッジ153の往復動作が続く限り、図10(a),(b),(c)、(d)の状態を繰り返す。
【0066】
ところで、インクタンク1をキャリッジ153に搭載したまま、記録装置を長期間に渡って放置した場合には、そのインクタンク1内のインクの顔料成分が沈降し、上下方向においてインクタンク1内のインク濃度が異なるような濃度分布が生じる。このようなインクタンク1内のインクに対しては、上述したように上方方向のインク流れを生じさせることにより、効率よく撹拌することができる。したがって、インク収納室R内のインクを短時間で確実に均一濃度にまで撹拌することができる。
【0067】
さらに、本例においては、前述したようにインク導出口64をインク収納室Rの最下面から上方位置に配置している。その結果、インク導出口64の直上のインクの沈降はメニスカス保持部材62あるいは毛管力発生部材61にまで達するが、その他の部分の沈降インクは、インク導出口64内に侵入しない。つまり本実施形態においては、図14に示されるインク濃度の高いインク層が存在する高さよりも高い位置にインク導出口64を設けている。このため、その高さ以上かつのインク導出口64の直上の位置にある沈降インクはインク導出口64から侵入するが、その他の部分の沈降インクは侵入しない。特に、上述のようにインク導出口64を水平面に形成するのではなく、傾斜面が接合する稜線部分に形成することは、沈降インクの侵入防止をより効果あらしめるものとなる。
【0068】
また、侵入するインクは、最も濃度の濃い部分ではなく初期濃度からわずかに増加した濃度のインクである。これにより、ある程度の保存期間においては、インク導出口64から毛管部材61までのインクを記録動作実行前に回復動作によって排出する必要がない。そして、例えば図10(a)〜(d)に示したような動作(キャリッジの往復移動)を記録動作前に数回行って撹拌を行えば、すぐに記録動作を開始することができる。
【0069】
また、保存されていたインクタンクの使用開始当初において、インク収納室Rの最下面の近傍には、顔料成分の堆積した濃度の高いインクが存在する。しかし、本例のように、インク導出口64の高さをある程度確保しておけば、保存期間が比較的短い場合、インク導出口64の位置におけるインクの濃度が、図14に示したような濃度勾配において記録にふさわしい初期濃度になっている場合がある。この場合、記録動作開始前に攪拌を行わなくとも適正な濃度のインクを記録ヘッドに供給することができ、その後に攪拌を行い、インク収容室R内のインクの濃度の均一化を行えば、全てのインクを適正な濃度で使用することができる。
【0070】
このように、本例によれば、インク導出口64の高さをインク収容室の最下面より高い位置に設定しているため、ユーザが記録装置を起動してから記録動作が開始されるまでの待ち時間を低減することができ、速やかに記録動作を開始することができる。
【0071】
さらに、インク収納室R内のインクの消費に伴ってタンクケース10の内側面に圧力板31が接近するため、攪拌部材の20A,20Bの揺動可能範囲が徐々に小さくなる。しかし、本例にあっては、タンクケース10側に掘り込み部14A,14Bが形成されているため、攪拌部材20A,20Bの攪拌機能を最後まで維持することができる。また、掘り込み部14A,14Bを形成することによって、攪拌部材20A,20Bの揺動可能範囲を確保しつつ、インクタンク1の図1中左右方向の幅を小さく設定することができる。この結果、キャリッジ153上に、複数のインクタンク1を矢印Aの主走査方向にコンパクトに並べて配備することができる。
【0072】
(第2の実施形態)
図11(a)および(b)は、それぞれ、本発明の第2の実施形態に係るインクタンクの内部構成を示す模式的斜視図およびその一部拡大図である。第1の実施形態と同一構成部については、同一符号を付してその説明は省略する。
【0073】
本実施形態においては3つのインク導出口164が設けられており、一つの平面内に形成されているが、その形成面は水平面ではなく、記録装置への装着姿勢において、重力方向に傾斜した面である。この傾斜角は、タンクケース10が樹脂成形部品である場合、金型構成に応じて必要となる一般的な抜き勾配で形成される傾斜角であってもよい。また、インク導出口配列範囲の両側、および各インク導出口間の位置に向けて、インク収納室内壁10Aから凸状の段差18が延在している。
【0074】
本実施形態によれば、複数(図示の例では3つ)のインク導出口164を一つの平面上に設けることで、インク消費が進んで可撓性部材40が最大限変位したときに流路形成部10Bとの間に形成される使用不可容量を減らすことが可能となる。すなわち、第1の実施形態では、複数のインク導出口164ないし流路は、流路形成部10において各別の隆起部に形成されていたため、隆起部間の空間の容積分が使用不可容量となり得る。これに対し、本例ではそのような使用不可容量を減らし、インク収納室R内に残るインク量をより少なくすることができる。
【0075】
また、本例ではインク導出口164が開口する平面部は、記録装置装着姿勢において重力方向に傾斜している。従って、この平面上に堆積する沈降顔料の大部分は、インク導出口164が形成された平面部から傾斜面に沿ってインク収納室Rの底面へと移動し、インク導出口164ないし流路内に流れ込む量を少なくすることができる。
【0076】
さらに本例では、インク導出口164が開口する平面(傾斜面)にはインク導出口164よりも凸状の段差18が設けられている。段差18を設けない図12(a)に示すような構成では、インク導出口164がなす平面と、インクタンクの使用末期に可撓性部材40がなす平面とが平行な状態となると、同図(b)に示すように可撓性部材40によりインク導出口164が閉塞されてしまう。すなわち、インク収納室R内の使用可能なインク量が安定せず、使用効率が時には低くなってしまう恐れがある。さらには、そのような閉塞によってインク導出が全く行われなくなり、記録動作中の不吐出状態を招いてしまう恐れもあるのである。
【0077】
これに対し、本例では、インク導出口164よりも高い位置に存在する凸状の段差18により、図13に示すように、可撓性部材40が最大限変位してインク導出口164上に位置する状態となっても、インク導出口164との間に一定の隙間が形成される。すなわち、インク導出口164が閉塞されてしまうことはない。
【0078】
以上のように、本実施形態のインクタンクにおいても、沈降顔料に起因して濃度むらのある画像が形成されたり、不吐出等が生じたりする不都合の発生が防止されるとともに、最後まで安定したインク供給が可能となる。
【0079】
なお、インク導出口164の数については、図で示された数に限られるものではなく、必要とされるインク流量と流路における圧力損失から必要数が配置されればよい。
【0080】
また、段差18は、インク導出口164がなす平面とインクタンクの使用末期に可撓性部材40がなす平面との関係によってインク導出口が閉塞され得る場合に有効なものであり、インク導出口164が形成される面と高さが異なっていればよい。さらに、同様の作用効果を得る構成として、凸状の段差を設けるのではなく、平面に沿って、例えば内壁10Aからインク導出口164を貫く凹溝を、図11(b)の一点鎖線で示すように形成してもよい。また、そのような凹溝と凸状の段差とを組み合わせて用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るインクタンクを示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のインクタンクの分解斜視図である。
【図4】(a)および(b)は、それぞれ、第1の実施形態に係るインクタンクの主要部をなすタンクケースの斜視図およびその一部を拡大して示す斜視図である。
【図5】第1の実施形態に係るインクタンクにおいて、インク収納室内のインクが使用されて行く状態を説明するための断面図である。
【図6】第1の実施形態に係るインクタンクにおいて、インク収納室内のインクがほとんど使用され尽くされた状態を説明するためのインク導出口64付近の模式的拡大図である。
【図7】第1の実施形態の変形例に係るインクタンクの内部構成を示す斜視図である。
【図8】インク導出口の位置(高さ)を選定するための設計基準を説明するための説明図である。
【図9】本発明を適用可能なインクジェット記録装置の構成例を説明するための斜視図である。
【図10】(a)〜(d)は、第1の実施形態に係るインクタンクにおける撹拌メカニズムを説明するための模式的断面図である。
【図11】(a)および(b)は、それぞれ、本発明の第2の実施形態に係るインクタンクの内部構成を示す模式的斜視図およびその一部拡大図である。
【図12】(a)および(b)は、それぞれ、第2の実施形態の比較例に係るインクタンクのインク導出口付近を示す模式的斜視図およびそのインクタンク内のインクがほとんど使用され尽くされた状態を説明するための模式的断面図である。
【図13】第2の実施形態に係るインクタンクにおいて、インク収納室内のインクがほとんど使用された状態を説明するための模式的断面図である。
【図14】インク沈降状態のインク濃度とタンク内位置との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
1 インクタンク
2 インク
10 タンクケース
10A 内壁
10B 流路形成部
18 段差
20A、20B、220A、220B 撹拌部材
64、164 インク導出口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収納するインク収納室と、該インク収納室内に位置するインク導出口から導出されたインクを外部へと供給するインク供給口と、を具えたインクタンクであって、
前記インク導出口は、前記インクタンクが予め設定した使用姿勢にあるとき、前記インク収納室内の最も下方に位置する部分より上方に配されるとともに、重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成されていることを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記インク導出口は前記傾斜面の最高部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記インク導出口は、2つの傾斜面を有する隆起部の、当該2つの傾斜面が接合する稜線部に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のインクタンク。
【請求項4】
前記インク導出口は、前記傾斜面として形成された平面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項5】
前記平面には、前記インク導出口より高い凸状の段差または前記平面に沿って前記インク導出口を貫いて延在する凹溝が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のインクタンク。
【請求項6】
前記インク収納室内のインクを攪拌するための攪拌部材を具えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項7】
インク導出に伴って変位または変形することで前記インク収納室の体積変化を生じさせる可撓性部材を具えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項8】
前記インクとして顔料成分を含有するインクを収納してなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項1】
インクを収納するインク収納室と、該インク収納室内に位置するインク導出口から導出されたインクを外部へと供給するインク供給口と、を具えたインクタンクであって、
前記インク導出口は、前記インクタンクが予め設定した使用姿勢にあるとき、前記インク収納室内の最も下方に位置する部分より上方に配されるとともに、重力方向に対して傾斜した傾斜面に形成されていることを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記インク導出口は前記傾斜面の最高部に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記インク導出口は、2つの傾斜面を有する隆起部の、当該2つの傾斜面が接合する稜線部に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のインクタンク。
【請求項4】
前記インク導出口は、前記傾斜面として形成された平面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項5】
前記平面には、前記インク導出口より高い凸状の段差または前記平面に沿って前記インク導出口を貫いて延在する凹溝が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のインクタンク。
【請求項6】
前記インク収納室内のインクを攪拌するための攪拌部材を具えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項7】
インク導出に伴って変位または変形することで前記インク収納室の体積変化を生じさせる可撓性部材を具えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項8】
前記インクとして顔料成分を含有するインクを収納してなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のインクタンク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−52377(P2010−52377A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221913(P2008−221913)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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