説明

インク用溶媒、インク用溶媒の製造方法、インクジェット記録用インク、インクジェット記録用インクの製造方法、インクカートリッジ、インクカートリッジの製造方法

【課題】 懸濁重合の塩酢ビ樹脂を用いて、低臭気で、且つ、PVC基材に対して優れた密着性、高周波領域で記録ヘッドを駆動した場合の安定的な吐出性能、印字物の乾燥性を有するインクジェット記録用インク、及びカートリッジを提供する。
【解決手段】顔料、有機溶剤、及び、懸濁重合よって製造された塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂からなるインクジェット記録用インクにおいて、有機溶剤である(ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル又はジエチレングリコールモノメチルエーテルとジエチレングリコールモノエチルエーテルの併用溶剤)/(ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテル)の重量比率が1.2〜4.0であるインクとそのインクを格納するカートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インクのインク用溶媒、そのインク用溶媒の製造方法、そのインク用溶媒を使用したインクジェット記録用インク、そのインクジェット記録用インクの製造方法、そのインクジェット記録用インクを格納するインクカートリッジ及びそのインクカートリッジの製造方法に関する。特に懸濁重合によって製造された塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を含むインク用溶媒、インクジェット記録用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
屋外掲示物等の用途に求められるインクジェット記録用インクは、耐光性および耐候性が重視される。このようなインクジェット記録用インクは着色材として顔料を用いた顔料インクジェット記録用インクが用いられる。通常、インクジェット記録用インクはインクカートリッジに格納された状態で供給される。
【0003】
又、屋外に置かれるので、記録媒体も耐光性および耐候性が重要視され、ポリ塩化ビニル樹脂基材(以下、PVC基材と記載する)が用いられる。このような記録媒体に記録するためのインクジェット記録用インクは、一般的な水に水溶性染料等の着色剤を加えた水性インクジェット記録用インクではなく、溶媒として有機溶剤を使用したインクジェット記録用インクが主に使用されている。一般オフィスなどの事務所においてもインクジェット記録用インクを用いた記録装置が使用されるため、有機溶剤はより安全性、有害性、臭気を配慮しなければならなく、インクジェット記録用インクの主溶剤はグリコールモノアセテート類、グリコールエーテル類が使用されるのが一般的である。更に、コストの面からプリント速度の高速化、及び、印字物の速乾性が求められる。そのためには、インクジェット記録用インクは、特に記録ヘッドによる高周波領域で駆動した場合の安定的な吐出性能及び印字物の乾燥性に優れている必要がある。
【0004】
インクジェット記録用インクのバインダ樹脂は、PVC基材に対して密着性が優れる塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(以下、塩酢ビ樹脂と記載する)が使用されることが多い。塩酢ビ樹脂は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などのいくつかの製法が有り、溶液重合によって製造された塩酢ビ樹脂は樹脂粒子に空隙があり有機溶剤を樹脂内部に浸透しやすく、ほぐれるように溶解するため比較的弱い加熱撹拌でも容易に溶解させることができるため、広く使用されてきた。しかし、近年、塩酢ビ樹脂の製造方法は地球環境の観点から、溶媒に有機溶剤を用いる溶液重合から水を用いる懸濁重合に移行しており、溶液重合の塩酢ビ樹脂は製造中止となる場合もある。そのため、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を使いこなす必要性が高まってきた。ところが、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂の樹脂粒子は溶液重合によって製造された塩酢ビ樹脂の樹脂粒子に見られるような空隙はほとんどなく、樹脂表面から徐々に溶解するため、なかなか樹脂内部に溶剤が浸透できなく、有機溶剤に対して溶解性が低下する。
【0005】
更に、一般的に懸濁重合で塩酢ビ樹脂を製造する際に水溶性の分散剤が使用されており、該塩酢ビ樹脂の有機溶剤に対しての溶解性を低下させる原因となる。水溶性の分散剤として、例えば、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性セルロースエステル、部分ケン化ポリビニルアルコール、アクリル酸重合体、ゼラチンなどの水溶性ポリマーなどの水溶性樹脂が用いられることが一般的である。このような分散剤は特定の有機溶剤には溶解しづらく、添加量によっては残留して有機溶剤への塩酢ビ樹脂の溶解を妨げることもある。
【0006】
塩酢ビ樹脂の溶解が不十分だと、塩酢ビ樹脂の一部はゲル状の未溶解成分となる。インクジェット記録用インク中にゲル状の未溶解成分が多く含まれていると記録ヘッドから吐出されるインク滴の安定的な吐出性能を維持することが困難となる。更に、インクジェット記録用インク中の溶存酸素量が高い場合、キャビテーションが発生しやすくなり、吐出性能の低下がより顕著になる。更に、10.5kHz以上の高周波数で記録ヘッドからインク滴を吐出させた場合、前記の問題がより顕著になる。更に、記録用ヘッドのノズル口近傍へゲル状の未溶解成分が付着し、インク滴が曲がって吐出されることで発生する着弾ずれや、ノズル口詰まりによってインクが吐出されなくなることで印字物の品質を低下させる原因になるばかりか、記録ヘッド内にゲル状の未溶解成分が詰まり正常にインクが供給できなくなる原因にもなりうる。更に、ゲル状の未溶解成分はインクジェット記録用インク中の顔料と物理的に結合してしまい、顔料分散性も損なわせてしまうこともあり、インクの保存安定性へ悪影響を及ぼす原因となりうる。
【0007】
ゲル状の未溶解成分は柔らかく変形、分裂するので、インクの濾過で十分に除去するのは極めて困難であり、インクを濾過した場合でもインク中に該ゲル状の未溶解成分が残る。そのため、ゲル状の未溶解成分は十分に溶解させる必要がある。
例えば、特許文献1にはバインダ樹脂として塩酢ビ樹脂を用い、特定の構造の有機溶剤と、ラクトン系化合物を併用したインクジェット記録用インクが開示されている。
【0008】
又、例えば、特許文献2にはバインダ樹脂として塩酢ビ樹脂を用い、有機溶剤としてジエチレングリコールエチルメチルエーテル(以下、MEDGと記載する)とジエチレングリコールジエチルエーテル(以下、DEDGと記載する)とテトラエチレングリコールジメチルエーテル(以下、DMTeGと記載する)を併用したインクジェット記録用インクが開示されている。
【0009】
更に、例えば、特許文献3にはバインダ樹脂として塩酢ビ樹脂を用い、有機溶剤としてDEDG、3−メチル−2−オキサゾリジノン(以下、MOZと記載する)、DMTeG併用したインクジェット記録用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−23265号公報
【特許文献2】特開2009−74034号公報
【特許文献3】特開2008−101153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のインクジェット記録用インクは、バインダ樹脂として塩酢ビ樹脂が用いられている。しかし、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を溶解させる技術に関して述べられてなく、バインダ樹脂が懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂の場合、ゲル状の未溶解成分がインク中に残る。塩酢ビ樹脂を十分に溶解させるために溶解性の高いラクトン系化合物を増量させることが考えられるが、ラクトン系溶剤を多く用いるとPVC基材の表面を溶解しすぎてしまい印字物表面の光沢性を損なう。更に、特定の構造の有機溶剤の少なくとも一部は臭気が強いという課題がある。
【0012】
又、特許文献2のインクジェット記録用インクは、バインダ樹脂として塩酢ビ樹脂が用いられている。しかし、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を溶解させる技術に関して述べられてなく、バインダ樹脂が懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂の場合、DEDG、DMTeGは塩酢ビ樹脂の溶解性に乏しい上、塩酢ビ樹脂の溶解性が高いMEDGが溶剤組成の50重量%以下であるため、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂の溶解が不十分となり、ゲル状の未溶解成分がインクジェット記録用インク中に残る。懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を十分に溶解させるために溶解性が高いMEDGを増加させることが考えられるが、40重量%を超えると光沢性が低下するおそれがあるとしている。しかし、MEDGは揮発性が高いため単純にMEDGの増加が原因でPVC基材の表面を溶解しすぎてしまい印字物面の光沢性が低下することはない。理由は定かではないが、他の添加剤と関係が原因となって光沢性が低下していると考えられる。例えば、MEDGを増加することで顔料分散性が低下し、顔料が凝集することで印字物面に凹凸が発生することで光沢感が損なわれる可能性が考えられる。
【0013】
更に、特許文献3のインクジェット記録用インクはバインダ樹脂として塩酢ビ樹脂が用いられている。しかし、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を溶解させる技術に関して述べられてなく、バインダ樹脂が懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂の場合、DEDG、MOZ、DMTeGは塩酢ビ樹脂の溶解性に乏しく、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂の溶解が不十分となり、ゲル状の未溶解成分がインクジェット記録用インク中に残る。そのためインクの吐出不良生じる場合がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を用いて、ゲル状の未溶解成分を十分に溶解したインクジェット記録用インクのインク用溶媒とその製造方法、及び、そのインク用溶媒を使用してPVC基材に対して優れた密着性、高周波領域で記録ヘッドを駆動した場合の安定的な吐出性能を有するインクジェット記録用インクとその製造方法、及び、そのインクジェット記録用インクを格納したインクカートリッジ、及び、その製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため本発明のインク用溶媒は、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を有機溶剤に溶解させたインク用溶媒において、前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が懸濁重合によって製造されたものであり、前記有機溶剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方と、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルと、を含み、かつ前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内の量が含まれていることを特徴とする。
又、前記有機溶媒中に水溶性樹脂が溶解していることを特徴とする。
【0016】
本発明のインク用溶媒の製造方法は、バインダ樹脂として塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を有機溶剤に溶解させたインク用溶媒の製造方法において、前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂は懸濁重合によって製造されたものであり、前記有機溶剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方と、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルと、を含み、かつ前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内の量が含まれ、前記有機溶剤に前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を溶解させる工程であって前記有機溶剤に前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂をゲル状の未溶解成分が含まれる状態に一部溶解させるプレ溶解工程と、前記ゲル状の前記未溶解成分を含む前記有機溶剤に外力を加えて、前記ゲル状の前記未溶解成分を前記有機溶剤に十分に溶解させる完全溶解工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
又、前記プレ溶解工程は、前記有機溶媒を加熱しながら攪拌機で攪拌することで、前記懸濁重合によって製造された前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を前記有機溶剤に一部溶解させることを特徴とする。
又、前記完全溶解工程の前記外力は、メディア分散機によるメディア分散、超音波照射装置による超音波照射、圧力式ホモジナイザーによるホモジナイズまたは薄膜旋回型高速撹拌機による高速撹拌から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0018】
本発明のインクジェット記録用インクは、上述のインク用溶媒の製造方法により製造されるインク用溶媒と、顔料と顔料分散剤を少なくとも有することを特徴とする。
【0019】
本発明のインクジェット記録用インクは、顔料、有機溶剤、及び懸濁重合よって製造された塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を含むインクジェット記録用インクであって、前記有機溶剤がジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方と、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルとを含有する溶剤が主溶剤であり、前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内であることを特徴とする。
又、水溶性樹脂が含まれていることを特徴とする。
【0020】
又、前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が前記インクジェット記録用インクに対して4重量%以上9重量%以下含有することを特徴とする。
又、前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂の分子量は20000以上30000以下であることを特徴とする。
又、前記有機溶剤には、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、3−メチル−2オキサゾリジノンまたはテトラエリレングリコールジメチルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種の溶剤を含有することを特徴とする。
【0021】
又、アクリル系樹脂をさらに含有することを特徴とする。
又、前記アクリル系樹脂に対する前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂の重量比率R2が、3.0≦R2≦4.0、の式で表す範囲内のであることを特徴とする。
又、前記アクリル系樹脂の分子量が1000以上10000以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明のインクジェット記録用インクの製造方法は、顔料、有機溶剤、バインダ樹脂を含有するインクジェット記録用インクの製造方法において、前記有機溶剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方とジエチレングリコールエチルメチルエーテルを含む溶剤を主溶剤とし、かつ前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内の量が含まれ、該有機溶剤に前記バインダ樹脂として懸濁重合よって製造された塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が含まれ、前記有機溶剤に前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂をゲル状の未溶解成分が含まれる状態に一部を溶解するプレ溶解工程と、前記ゲル状の前記未溶解成分を含む前記有機溶剤に外力を加えて、前記ゲル状の前記未溶解成分を前記有機溶剤に十分に溶解させる完全溶解工程と、前記顔料、顔料分散剤および顔料分散溶剤を含む顔料分散体と前記有機溶剤を混合する工程と、を有することを特徴とする。
【0023】
又、前記インクジェット記録用インクに対して前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が4重量%以上9重量%以下含まれることを特徴とする。
本発明のインクカートリッジは、上述のインクジェット記録用インクを格納したパウチと、前記パウチを格納するケースと、を有することを特徴とする。
本発明のインクカートリッジの製造方法は上述のインクジェット記録用インクをパウチに格納する工程と、前記パウチをケースに格納する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を用いて、ゲル状の未溶解成分を十分に溶解したインクジェット記録用インクのインク用溶媒とその製造方法、及び、そのインク用溶媒を使用してPVC基材に対して優れた密着性、高周波領域で記録ヘッドを駆動した場合の安定的な吐出性能を有するインクジェット記録用インクとその製造方法、及び、そのインクジェット記録用インクを格納したインクカートリッジとその製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態に係るインクカートリッジの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態を具体的に説明する。
本発明のインクジェット記録用インクは、塩酢ビ樹脂と、有機溶剤と、顔料と、顔料分散剤を含有することが必要である。更に、本発明のインクジェット記録用インクは、低臭気であり、且つ、乾燥性に優れている必要がある。
【0027】
本発明のインクジェット記録用インクは、PVC基材との密着性をもたせるためにバインダ樹脂を含有する。バインダ樹脂は通常のインクジェット記録用インクに用いられているバインダ樹脂でよく、特には限定されないが、塩酢ビ樹脂を含むことが、記録媒体の基材との密着性が向上するため好ましい。又、更にバインダ樹脂としてポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂等の他の樹脂をインクの使用目的に応じて含ませることができる。屋外掲示物等に使用されるPVC基材として使用されているポリ塩化ビニルへの密着性には塩酢ビ樹脂が特に好ましい。
【0028】
塩酢ビ樹脂は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などのいくつかの製法が有る。溶液重合によって製造された塩酢ビ樹脂の具体例として、ダウケミカルズ社製のユーカーソリューションビニル樹脂VYHD、VYHH、VMCA等が挙げられる。懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂の具体例として、日信化学工業社製ソルバインCL、CNL、C5R、TA3、TA5Rやワッカーケミー社製ビノールH14/36、H15/45などが挙げられる。製造方法は地球環境の観点から、溶媒に有機溶剤を用いる溶液重合よりも水を用いる懸濁重合の方が優れるため好ましい。
【0029】
懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の分子量Aは20000≦A≦30000の範囲が好ましい。分子量Aが20000未満の場合、PVC基材への密着性が低下するため印字物の薬品耐性や物理耐性を損なうため好ましくない。分子量Aが30000を超える場合、記録ヘッドによる安定的な吐出性能を損なうため好ましくない。更に、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂のMEDGに対する濃度は25重量%以下にするのが好ましい。25重量%を超える場合は、後述する完全溶解工程での溶解が不十分となり、ゲル状の未溶解成分が残るため好ましくない。
【0030】
又、塩酢ビ樹脂と他種のバインダ樹脂を併用できる。例えば、スチレン−アクリル樹脂なども含むアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、メラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ樹脂、ポリアミド樹脂、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ニトロセルロース、硝酸セルロース、プロピオン酸セルロース、セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、トリチルセルロース、シアンエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボシキエチルセルロース、アミノエチルセルロース等のセルロースエーテル樹脂等を挙げることができるが、変性アクリル系共重合物と併用するのが好ましい。理由は定かではないが、記録ヘッドのノズルの乾燥性防止を目的とした溶剤を併用した場合、印字物の乾燥性が低下する傾向があるが、アクリル系樹脂を併用することで印字物の乾燥性を改善することができる。アクリル系樹脂の具体例として、BASF社製ジョンクリル67、586、611、678、680、682、683、690等が挙げられる。
【0031】
アクリル系樹脂の分子量Bは1000≦B≦20000の範囲が好ましく、分子量が1000≦B≦10000の範囲が特に好ましい。分子量が1000未満の場合、印字物の乾燥性が低下するため好ましくない。分子量が20000を越える場合は、安定的な吐出性能を損なうため好ましくない。分子量4600の変性アクリル系共重合物が特に好適である。バインダ樹脂中の塩酢ビ樹脂とアクリル系樹脂の比率は、1.0≦((塩酢ビ樹脂の重量%)/(アクリル系樹脂の重量%))≦5.0、の比率の範囲が好ましく、3.0≦((塩酢ビ樹脂の重量%)/(アクリル系樹脂の重量%))≦4.0、の比率の範囲が特に好ましい。アクリル系樹脂の重量%が塩酢ビ樹脂の重量%を超えてしまうと、PVC基材に対しての密着性や印字物の伸張性が損なわれてしまうため好ましくない。
【0032】
インクジェット記録用インク中の懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の含有量Cは、4重量%≦C≦9重量%の範囲が好ましい。インクジェット記録用インク中における懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の含有量が4重量%より少ない場合は、PVC基材との密着性が不足する可能性があり、9重量%より多い場合は、インクジェット記録用インクの粘度が高くなり安定的な吐出性能が維持できず好ましくない。
【0033】
本発明のインクジェット記録用インクは有機溶剤を含有する。有機溶剤は、有機溶剤の懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の溶解性、溶剤の揮発性、溶剤の臭気性、溶剤の安全性より選定する。以下に有機溶剤の懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の溶解性、溶剤の揮発性、溶剤の臭気性、溶剤の安全性を説明する。
【0034】
溶解性は、懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂を有機溶剤に溶かした樹脂溶液中のゲル状の未溶解成分の個数測定試験で評価することができる。樹脂濃度、及び、溶剤種は最終的なインクジェット記録用インクと極力同様にするのが好ましい。又、懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の溶解手法、及び、条件についても同様である。
【0035】
懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂溶液中のゲル状の未溶解成分の個数測定試験は、樹脂溶液の自重濾過による濾過でフィルタに捕捉されるゲル状の未溶解成分の個数を測定することで溶剤を評価することができる。例えば、フィルタに捕捉されるゲル状の未溶解成分の個数は、メッシュフィルタのメッシュサイズで異なるが、直径35mmの円形の8μmメッシュの場合、以下の基準で判断できる。
【0036】
懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂溶液が200mL当たり、ゲル個数は10個未満が好ましく、より好ましくは5個未満である。10個以上捕捉された場合は安定的な吐出性能を得られなくなるため好ましくない。
【0037】
揮発性は、揮発した有機溶剤の量を測定して、揮発性試験前後の変化率で評価することができる。例えば、インクジェット記録用インクで配合する有機溶液系にて、直径60mmのシャーレに1.5gの有機溶剤を加え、シャーレの底面を60℃に加熱した場合、以下の基準で判断できる。20分後揮発重量は10重量%以上揮発していることが好ましく、15重量%以上揮発していることが特に好ましい。10重量%未満の場合は乾燥性が低下するため好ましくない。
【0038】
臭気性は、揮発する有機溶剤の臭気を官能的に評価することができる。例えば、インクジェット記録用インクで配合する有機溶液系にて、6番のメイヤーバー(R.D.Specialties社製)を用いて45℃に保温されたPVC基材に塗布する。臭気性は、塗布面から揮発する有機溶剤の臭気が強い、不快と感じないことが好ましく、塗布面から揮発する有機溶剤の臭気が強い、不快と感じる場合は好ましくない。
【0039】
有機溶剤の安全性は、溶剤の引火点で評価することができる。溶剤単体、又は、混合溶剤で70℃以上が安全性の観点から好ましい。なぜならば、インク用溶媒、及びインクジェット記録用インクの製造工程で加温、発熱する、更に、インクジェット記録装置に搭載されるインク乾燥用の内部ヒーター、及び、外部ヒーターで熱せられるためである。引火点が低い有機溶剤を使用する場合、引火点の高い有機溶剤と併用すると引火点を高めることが可能となる。ただし、併用する有機溶剤の求められる性能としては少なくとも併用される側の有機溶剤との親和性が良く、且つ、揮発性、臭気性に優れることが必要である。尚、混合溶剤の引火点は、混合引火点チャートを用いた値を参考にすることができる。
【0040】
上記の方法により選定を行った結果、懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の溶解性、溶剤の揮発性、溶剤の臭気性に優れるグリコールエーテル類のMEDGと、同じくグリコールエーテル類であり、溶剤の揮発性、溶剤の臭気性、溶剤の安全性に優れるMDG、又は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(以下、DGと記載する)の少なくとも1種を併用することが好ましく、これらを主溶剤として用いることがよいことを見出した。主溶剤とは、少なくともインク中に50重量%以上含有量があり、それが主となっている溶剤である。また、この組み合わせの主溶剤がインク中に65重量%以上含有することがより好ましいことを見出した。すなわちMEDGとMDGの組み合わせ、MEDGとDGの組み合わせまたはMEDGとMDGとDGの組み合わせ、を主溶剤とし、50重量%以上さらに好ましくは65重量%以上することが好ましいことを見出した。インクジェット記録用インク中のMEDGに対するMDG、DG、またはMDGとDGの混合溶液の重量比率R1は、1.2≦R1≦4.0、の比率の範囲が好ましい。上記比率が1.2未満だと安全性を損なってしまう。4.0を超えてしまうと、後述する懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の完全溶解工程で樹脂を十分に溶解することができず好ましくない。但しMEDGが40重量%を超えると印字面の光沢性が低下するので好ましくない。
【0041】
又、インクジェット記録用インクには印刷インキ、塗料等に使用される種々の有機溶剤を懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂の溶解性、揮発性、臭気性を損なわない範囲で併用するが可能である。
【0042】
例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、トリデシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール等のアルコール類。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等のグリコール類。エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルアセテート、エチレングリコールモノエチルアセテート、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸イソプロピレン、酢酸n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール等のケトン類などが挙げられる。その他にトルエン、キシレンなどの芳香族化合物、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、アセトニトリルなどの含窒素化合物、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類などが挙げられる。
【0043】
例えば、粘度調整、表面張力調整、ノズルの乾燥性を調整する目的としてエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(以下、BGAcと記載する)、γ−ブチロラクトン(以下、GBLと記載する)、MOZ、DMTeGを併用することができる。
【0044】
BGAcは有機溶剤総量中の30重量%以下で併用するのが好ましく、25重量%以下が特に好ましい。臭気が強いBGAcは、30重量%を超えて併用するとインクジェット記録用インクが低臭気でなくなるので好ましくない。
【0045】
GBLは有機溶剤総量中の15重量%以下で併用することが好ましく、10重量%以下が特に好ましい。GBLは、揮発性に乏しく、PVC表面、及び、内部に残留しやすい。よって、15重量%以上を越えて併用すると印字物の表面を荒らし、光沢性を損なうため好ましくない。
【0046】
MOZ、DMTeGを少なくとも1種併用する場合、これらの合計が有機溶剤総量中の15重量%以下で併用することが好ましく、10重量%以下が特に好ましい。15重量%を超えると乾燥性が低下するため好ましくない。MOZ、DMTeGを有機溶剤総量中の15重量%以下で併用する場合は、印字物の乾燥性を向上する目的として塩酢ビ樹脂とアクリル系樹脂を併用すると特に良い。
【0047】
本発明のインクジェット記録用インクに使用する顔料は、印刷インキ、塗料等に使用される種々の顔料を使用することができる。
【0048】
例えば、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、149、168、177、178、179、206、207、209、242、254、255、ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、30、64、80、ピグメントグリーン7(塩素化フタロシアニングリーン)、36(臭素化フタロシアニングリーン)、ピグメントブラウン23、25、26、ピグメントブラック7(カーボンブラック)、26、27、28等、があげられる。顔料の具体例としては、LIONOL BLUE FG−7400G(東洋インキ製造社製 フタロシアニン顔料)、YELLOW PIGMENT E4GN(バイエル社製 ニッケル錯体アゾ顔料)、Cromophtal Pink PT(BASF社製 キナクリドン顔料)、ELFTEX 415(キャボット社製 カーボンブラック)、Fastogen Super Magenta RG(DIC社製 キナクリドン顔料)、YELLOW PIGMENT E4GN(ランクセス社製 ニッケル錯体アゾ顔料)、モナーク1000(キャボット社製 カーボンブラック)、イルガライトブルー8700(BASF社製 フタロシアニン顔料)、E4GN−GT(ランクセス社製 ニッケル錯体アゾ顔料)などが挙げられる。
【0049】
顔料の配合量は、使用する顔料の種類等により任意に決定できるが、通常はインク中における含有量は0.1〜15重量%であり、好ましくは0.5〜10重量%である。顔料の平均粒子径は、50〜400nmが好ましく、より好ましくは80〜300nmである。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定器を用いて平均粒子経(d50)を測定したものである。
【0050】
本発明のインクジェット記録用インクに使用する顔料分散剤は、ポリアミド系樹脂、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート等を用いることができる。
【0051】
顔料分散剤の具体例としては、ルーブリゾール社製のソルスパーズ5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000(アポリアルキレンイミン系)、32000(ポリエステルポリアミド系)、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPB821、PB822(塩基性分散剤)などが挙げられる。
【0052】
本発明のインクジェット記録用インクに使用する添加剤は、可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤等を使用することができる。
以下にインクジェット記録用インクを製造する工程を説明する。まず、有機溶剤とバインダ樹脂を混合し、これを攪拌機で予備的に攪拌するプレ溶解工程を行う。
【0053】
プレ溶解工程は、羽根による攪拌及びメディアレス分散などの公知の物を用いて溶解する。例えば、マグネチックスターラー、スリーワンモーター、ホモミキサー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機などが挙げられるが、プレ溶解工程では樹脂粒子の集合体であるダマや大きなゲル状の未溶解成分がなく、且つ、ゲル状の未溶解成分が極力少ない状態まで溶解させる必要がある。なぜならば、プレ溶解工程で得たゲル状の未溶解成分を含んだ樹脂溶解液は、その後、後述する完全溶解工程で十分に溶解させるが、プレ溶解工程にて、ダマや大きなゲル状の未溶解成分が残っている場合、又は、ゲル状の未溶解成分が多い場合には、完全溶解工程に多くの時間が必要となりコストアップになるばかりか、十分に溶解させることができない可能性が高い。
【0054】
プレ溶解工程は、有機溶剤の温度が高いほど溶解に効率的である。しかし、有機溶剤の温度は、安全性の観点から引火点以下でプレ溶解することが好ましい。更に、塩酢ビ樹脂の観点から、塩酢ビ樹脂の塩素原子が脱離する温度以下であることが好ましい。
プレ溶解の良し悪しは、外観の色、ダマ、ゲル状の未溶解成分の確認をすることで判断できる。
【0055】
ダマが残っている場合、ダマは透明性がなく白いため、溶液の外観は白濁である。又、ゲル状の未溶解成分には透明性はあるが、頻度が多い場合や大きいものが存在する場合は溶液の透明性は低くなる。そのため、プレ溶解後の外観の色は、高い透明性を有することが必要である。
【0056】
プレ溶解後のダマ、ゲル状の未溶解成分の状況確認は、プレ溶解した樹脂溶液を、直径35mmの円形の8μmメッシュの金属フィルタを通過させ、その通過量で間接的に判断することができる。ダマやゲル状の未溶解成分の存在が多い場合、金属フィルタのメッシュに徐々に詰まり、一定時間の通過量が少なくなる。
【0057】
以下に完全溶解工程について説明する。
完全溶解工程とは、プレ溶解工程で得た塩酢ビ樹脂のゲル状の未溶解成分が含まれる溶液に対して、強い外力を加える工程により未溶解成分を十分に溶解させる工程である。すなわち外力を加えてゲル状の未溶解成分質の架橋を解除することで、ゲル状の未溶解成分が十分に溶解した状態とする工程である。
架橋の解除手段としては、メディア分散、超音波照射、圧力式ホモジナイザー、薄膜旋回型高速撹拌等が挙げられる。
【0058】
メディア分散機としては公知の物を用いることができる。例えば、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サインドミル、サンドブラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル、グレンミルなどが挙げられる。特に連続式が好ましい。メディアとしてはセラミックビーズ、ガラスビーズ、スチールビーズが好ましく、セラミックビーズが分散時のコンタミネイションが少ないため好ましい。中でもジルコニアビーズは化学的安定性が高く、耐磨耗性が良く、表面平滑性が良く、粒度分布が揃っている、比重が高いため高衝突・せん断エネルギーが得られる等のことから特に好ましい。分散条件は溶剤の種類、樹脂の種類、樹脂の濃度の影響を受けるが、ゲル状の樹脂の未溶解成分は柔らかいため、分散・溶解させるために大きなエネルギーは必要なく、比較的小さなメディア径で且つ高い充填率で衝突回数を増やす分散条件が生産性の面から好ましい。メディア径は1.5mm以下が好ましく、特に生産性が良い0.05〜0.5mmのものが好ましい。回転速度は1000rpm以上が好ましく、生産性が良い3500rpm以上が特に好ましい。循環回数はベッセルの容量に左右されるが、例えば50cc前後であるならば10回以上が好ましい。メディアの充填率は80%以上が好ましく、生産性を良くするために90%以上が好ましい。樹脂ワニスの溶解の良し悪しは粘度と未溶解成分であるゲル状の残渣物の有無で判定することができ、溶解が進むと粘度は低くなり、未溶解の残渣物が少なくなる。
【0059】
超音波照射装置としては公知の物を用いることができ、超音波ホモジナイザーが好ましく、特に連続式超音波ホモジナイザーが好ましい。超音波の周波数は30kHz以下が好ましく、特に10〜30kHzが好ましい。振幅範囲としては20〜60μmであることが好ましい。循環回数は溶剤の種類、樹脂の種類、樹脂の濃度の影響を受けるが、1L/minで5回以上が好ましい。
【0060】
圧力式ホモジナイザーとしては公知の物を用いることができ、生産性の面から間隙通過タイプが好ましい。圧力は10MPa以上が好ましく、特に100MPa程度まで加圧でき、更に高圧にすることができる。循環回数は溶剤の種類、樹脂の種類、樹脂の濃度の影響を受けるが、例えば樹脂濃度が10%前後、処理量が1L/min前後であるならば5回以上が好ましい。
薄膜旋回型高速撹拌機としては公知の物を用いることができる。例えば、プライミクス社製のフィルミックスが挙げられる。
【0061】
攪拌羽根の周速は30m/sec以上50m/sec以下が好ましく、特に40m/sec以上50m/sec以下が好ましい。周速が30m/sec未満だと、強力なずり応力を得ることができずゲル状の未溶解成分を十分に溶解することができない。又、50m/secを超えた周速で使用すると発熱量が過大となり所望の温度を維持することが困難となる。
【0062】
バッチの場合、処理時間は有機溶剤の種類、樹脂の濃度によるが、処理量が0.030L(リットル)前後であるならば処理時間は120sec以上が好ましく、特に180sec以上が処理することが好ましい。処理時間が120sec未満だと、ゲル状の未溶解成分を十分に溶解させることができない。
【0063】
樹脂溶解の良し悪しは、インク用溶媒の粘度とインク用溶媒中のゲル状の未溶解成分の個数で判定することができ、溶解が進むと粘度は低くなり、ゲル状の未溶解成分が少なくなる。
使用する溶剤の組成にもよるが、その系で粘度が極力低い状態まで溶解し、且つ、ゲル状の未溶解成分が極力ない状態にすることが、インクジェット記録用インクにしたときにインクジェット記録用ヘッドで安定的な吐出性能を得るためには好ましい。
【0064】
インク用溶媒中のゲル状の未溶解成分の個数は、インク用溶媒の自重濾過により判定することができる。例えば、インクジェット記録用溶200mLを直径35mmの円形の8μmメッシュを自重ろ過により通過させた後、フィルタに捕捉させたゲル状の未溶解成分の個数を確認する。
懸濁重合により製造された塩酢ビ樹脂溶液が200mL当たり、ゲル個数は10個未満が好ましく、より好ましくは5個未満である。10個以上捕捉された場合は安定的な吐出性能を得られなくなるため好ましくない。ゲル状の未溶解成分が10個以上捕捉された場合は安定的な吐出性能を得られなくなるため好ましくない。
【0065】
次に、顔料、顔料分散剤、溶剤によって予め作成された顔料分散体に、インク用溶媒を加えてインクジェット記録用インクとする。このとき必要に応じて添加剤を加える。
又、このインクジェット記録用インクはインクジェットプリンタではインクカートリッジに格納された状態で使用される。図1を用いてインクカートリッジの説明をする。
【0066】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係るインクカートリッジの分解斜視図である。
インクカートリッジ1は、インクジェット記録用インクを内部に収容した可撓性のパウチ(インク袋)2と、該パウチ2を収容する上ケース3、下ケース4とを備えている。パウチ2内には、インクジェット記録用インクが格納されている。上ケース3と下ケース4を嵌め合わせ、パウチ2を内部に格納する。パウチ2は、ガスバリヤー性の向上のためにアルミ箔を2枚のフィルム、例えば、外側をナイロンフィルム、内側をポリエチレンフィルムによって挟み込んだアルミラミネートフィルムを2枚重ね合わせ、周囲を熱溶着等によって接合することで構成されている。パウチ2の一端には、内部に収容されているインクを外部に排出するインク取出口5を備えている。パウチ2内のインクを外部に供給する為に下ケース4にはインク取出口5が露出する穴が設けられている。このインクカートリッジ1は、パウチ2にインクジェット記録用インクを充填し格納する工程と、そのパウチ2を上ケース3と下ケース4に格納する工程とを含む工程によって製造される。また、インクジェット記録用インクの充填は、真空槽の中でパウチ2の開口部からインクを入れ、脱気し、その開口部を封止する工程を含むことが好ましい。インクジェット記録用インクを収容する図1で示されるインクカートリッジ1は、本発明のインクカートリッジの好ましい実施形態であるが、本発明のインクカートリッジはこの形態のインクカートリッジに限られない。
【実施例】
【0067】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」を表す。
インクジェット記録用インクは顔料、顔料分散剤、溶剤によって予め顔料分散体を作成し、インク用溶媒、有機溶剤及びその他添加剤を添加して作成する。
インクジェット記録用インクは、合計が100部になるように顔料、顔料分散剤、溶剤、バインダ樹脂等を調製する。
【0068】
(実施例1)
有機溶剤はMEDGを34.0部、MDGを41.0部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0069】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.2、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG34.0部、MDG41.0部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0070】
その後、連続式超音波分散機ULTRASONIC GENERATOR GSD1200AT(株式会社ギンセン社製)を用い、先端径が50mmの超音波照射部の先端に照射部ホルダーを取り付け、完全溶解工程を行った。プレ溶解工程で得た樹脂溶液2L(リットル)を貯蔵タンクに入れ、流量1L/minにて超音波発生部と貯蔵タンクを20分間循環させながら、超音波照射部にて周波数19.5kHz、振幅30μmの超音波を照射させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
【0071】
インクジェット記録用インクの製造工程は、攪拌機にて顔料4.0部、顔料分散剤2.0部、顔料分散溶剤としてBGAc14.0部によって予め作成された顔料分散体に1200rpmの回転速度で60℃に加熱攪拌しながら、インク用溶媒を添加した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0072】
【表1】

【0073】
(実施例2)
有機溶剤はMEDGを15.0部、MDGを60.0部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0074】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は4.0、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG15.0部、MDG60.0部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0075】
その後、連続式メディア分散機PICO MILL PCM−LR(浅田鉄工社製)を用いて溶解させた。メディアとしてメディア径0.1mmのジルコニアビーズを充填率90%でミル攪拌部に入れ、ビーズ分離部に50μmのスクリーンを用いた。プレ溶解工程で得た樹脂溶液600gを貯蔵タンクへ採取し、流速360g/minにてミル攪拌部と貯蔵タンクを循環させながら攪拌ローターを3819rpm(周速12m/sec)にて60分間回転させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は、実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0076】
(実施例3)
有機溶剤はMEDGを32.0部、MDGを42.5部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を4.4部、変性アクリル系共重合物(BASF社製JONCRYL586 分子量4600)を1.1部使用したインクを作成した。
【0077】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.3、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.8重量%である。バインダ樹脂中の塩酢ビ樹脂/アクリル樹脂の比率は4.0である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)4.4部、及び、変性アクリル系共重合物(BASF社製JONCRYL586 分子量4600)1.1部を、MEDG32.0部、MDG42.5部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0078】
その後、連続式超音波分散機ULTRASONIC GENERATOR GSD1200AT(株式会社ギンセン社製)を用い、先端径が50mmの超音波照射部の先端に照射部ホルダーを取り付け、完全溶解工程を行った。プレ溶解工程で得た樹脂溶液2L(リットル)を貯蔵タンクに入れ、流量1L/minにて超音波発生部と貯蔵タンクを20分間循環させながら、超音波照射部にて周波数19.5kHz、振幅30μmの超音波を照射させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0079】
(実施例4)
有機溶剤はMEDGを33.0部、MDGを41.4部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を4.2部、変成アクリル系共重合物(BASF社製JONCRYL586 分子量4600)を1.4部使用したインクを作成した。
【0080】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.3、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.8重量%である。バインダ樹脂中の塩酢ビ樹脂/アクリル樹脂の比率は3.0である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)4.2部、及び、変性アクリル系共重合物(BASF社製JONCRYL586 分子量4600)1.4部を、MEDG33.0部、MDG41.4部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0081】
その後、連続式超音波分散機ULTRASONIC GENERATOR GSD1200AT(株式会社ギンセン社製)を用い、先端径が50mmの超音波照射部の先端に照射部ホルダーを取り付け、完全溶解工程を行った。プレ溶解工程で得た樹脂溶液2L(リットル)を貯蔵タンクに入れ、流量1L/minにて超音波発生部と貯蔵タンクを20分間循環させながら、超音波照射部にて周波数19.5kHz、振幅30μmの超音波を照射させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0082】
(実施例5)
有機溶剤はMEDGを29.7部、MDGを38.7部、DEDGを14.0部、GBLを6.6部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0083】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.3、有機溶剤中のGBLの含有量は7.4重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG29.7部、MDG38.7部、GBL6.6部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0084】
その後、連続式超音波分散機ULTRASONIC GENERATOR GSD1200AT(株式会社ギンセン社製)を用い、先端径が50mmの超音波照射部の先端に照射部ホルダーを取り付け、完全溶解工程を行った。プレ溶解工程で得た樹脂溶液2L(リットル)を貯蔵タンクに入れ、流量1L/minにて超音波発生部と貯蔵タンクを20分間循環させながら、超音波照射部にて周波数19.5kHz、振幅30μmの超音波を照射させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は顔料分散溶剤をDEDGに変更し、それ以外は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0085】
(実施例6)
有機溶剤はMEDGを34.8部、MDGを45.4部、DMTeGを4.4部、MOZを4.4部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0086】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.3、有機溶剤中のMOZ、及び、DMTeGの総量は9.9重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG20.8部、MDG45.4部、DMTeG4.4部、MOZ4.4部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0087】
その後、バッチ式の薄膜旋回型高速撹拌機FM−40−40(プライミクス社製)を用いて完全溶解させた。プレ溶解工程で得た樹脂溶液0.030L(リットル)を撹拌容器に採取し、撹拌部を5.0℃の冷却水を流しながら、周速40m/secにて240sec処理しインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は顔料分散溶剤をMEDGに変更し、それ以外は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0088】
(実施例7)
有機溶剤はMEDGを34.0部、DGを41.0部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0089】
有機溶剤中のDG/MEDGの比率は1.2、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG34.0部、DG41.0部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
その後、完全溶解工程、及び、インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0090】
(実施例8)
有機溶剤はMEDGを34.0部、MDGを20.5部、DGを20.5部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0091】
有機溶剤中のMDGとDGの併用溶剤/MEDGの比率は1.2、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG34.0部、MDG20.5部、DG20.5部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
その後、完全溶解工程、及び、インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0092】
(実施例9)
有機溶剤はMEDGを39.7部、MDGを47.7部、BGAcを2.5部、顔料はフタロシアニン顔料を0.7部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を0.4部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を9.0部使用したインクを作成した。
【0093】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.2、有機溶剤中のBGAcの含有量は2.8重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)9.0部を、MEDG39.7部、MDG47.7部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
その後、完全溶解工程、及び、インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0094】
(比較例1)
有機溶剤はMEDGを14.5部、MDGを60.5部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0095】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は4.2、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG14.5部、MDG60.5部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0096】
その後、連続式メディア分散機PICO MILL PCM−LR(浅田鉄工社製)を用いて溶解させた。メディアとしてメディア径0.1mmのジルコニアビーズを充填率90%でミル攪拌部に入れ、ビーズ分離部に50μmのスクリーンを用いた。プレ溶解工程で得た樹脂溶液600gを貯蔵タンクへ採取し、流速360g/minにてミル攪拌部と貯蔵タンクを循環させながら攪拌ローターを3819rpm(周速12m/sec)にて60分間回転させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は10個以上であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0097】
(比較例2)
有機溶剤はMEDGを25.0部、MDGを32.8部、BGAcを31.2部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0098】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.3、有機溶剤中のBGAcの含有量は35.1重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG25.0部、MDG32.8部、BGAc17.2部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0099】
その後、連続式超音波分散機ULTRASONIC GENERATOR GSD1200AT(株式会社ギンセン社製)を用い、先端径が50mmの超音波照射部の先端に照射部ホルダーを取り付け、完全溶解工程を行った。プレ溶解工程で得た樹脂溶液2L(リットル)を貯蔵タンクに入れ、流量1L/minにて超音波発生部と貯蔵タンクを20分間循環させながら、超音波照射部にて周波数19.5kHz、振幅30μmの超音波を照射させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0100】
(比較例3)
有機溶剤はMEDGを15.0部、MDGを60.0部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0101】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は4.0、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG15.0部、MDG60.0部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
その後、プレ溶解工程で得た樹脂溶液の完全溶解工程を行わず熱撹拌のみを行いインク用溶媒とした。インク用溶媒のゲル状の残渣物は10個以上であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。
【0102】
(比較例4)
有機溶剤はMEDGを34.0部、MDGを41.0部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0103】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.2、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG34.0部、MDG41.0部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0104】
その後、プレ溶解工程で得た樹脂溶液の完全溶解工程を行わず熱撹拌のみを行いインク用溶媒とした。インク用溶媒のゲル状の残渣物は10個以上であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0105】
(比較例5)
有機溶剤はMEDGを16.9部、MDGを40.5部、DMTeGを8.8部、MOZを8.8部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を5.0部使用したインクを作成した。
【0106】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.3、有機溶剤中のMOZとDMTeGの総量は17.6重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)5.0部を、MEDG16.9部、MDG40.5部、DMTeG8.8部、MOZ8.8部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0107】
その後、バッチ式の薄膜旋回型高速撹拌機FM−40−40(プライミクス社製)を用いて完全溶解させた。プレ溶解工程で得た樹脂溶液0.030L(リットル)を撹拌容器に採取し、撹拌部を5.0℃の冷却水を流しながら、周速40m/secにて240sec処理しインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は、実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0108】
(比較例6)
有機溶剤はMEDGを34.8部、MDGを41.7部、BGAcを14.0部、顔料はフタロシアニン顔料を4.0部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を2.0部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を3.5部使用したインクを作成した。
【0109】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.2、有機溶剤中のBGAcの総量は15.5重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)3.5部を、MEDG34.8部、MDG41.7部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0110】
その後、連続式超音波分散機ULTRASONIC GENERATOR GSD1200AT(株式会社ギンセン社製)を用い、先端径が50mmの超音波照射部の先端に照射部ホルダーを取り付け、完全溶解工程を行った。プレ溶解工程で得た樹脂溶液2L(リットル)を貯蔵タンクに入れ、流量1L/minにて超音波発生部と貯蔵タンクを20分間循環させながら、超音波照射部にて周波数19.5kHz、振幅30μmの超音波を照射させインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0111】
(比較例7)
有機溶剤はMEDGを39.3部、MDGを47.1部、顔料はフタロシアニン顔料を0.7部、顔料分散剤はアポリアルキレン系顔料分散剤を0.4部、バインダ樹脂は懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)を10.0部使用したインクを作成した。
【0112】
有機溶剤中のMDG/MEDGの比率は1.2、有機溶剤中のBGAaの総量は2.8重量%である。
懸濁重合で製造された塩酢ビ樹脂(日信化学工業社製ソルバインCL 分子量25000)10.0部を、MEDG39.3部、MDG47.1部の混合溶剤にプレ溶解するプレ溶解工程を行った。
【0113】
その後、バッチ式の薄膜旋回型高速撹拌機FM−40−40(プライミクス社製)を用いて完全溶解させた。プレ溶解工程で得た樹脂溶液0.030L(リットル)を撹拌容器に採取し、撹拌部を5.0℃の冷却水を流しながら、周速40m/secにて240sec処理しインク用溶媒を作成した。インク用溶媒のゲル状の残渣物は5個未満であった。
インクジェット記録用インクの製造工程は、実施例1と同様に作成した。インクジェット記録用インクの組成は表1にまとめる。
【0114】
得られたインクジェット記録用インクを臭気性試験、乾燥性試験、薬品耐性試験、物理耐性試験、光沢性試験、保存安定性試験、連続吐出性能試験、間欠吐出性能試験を行った。試験結果は下記の基準で評価した。評価結果は表2に示すとおりである。
【0115】
【表2】

【0116】
<臭気性試験>
インクジェット記録用インクを、6番のメイヤーバー(R.D.Specialties社製)を用いて45℃に保温されたPVC基材に塗布し、塗布面から揮発する溶剤の臭気を官能的に評価した。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:塗布面から揮発する溶剤の臭気を不快臭と感じなかった。
×:塗布面から揮発する溶剤の臭気を不快臭と感じた。
【0117】
<乾燥性試験>
インクジェット記録用インクを、6番のメイヤーバー(R.D.Specialties社製)を用いてPVC基材に塗布し25℃で静置して、塗布面を指で擦り張付き感がなくなるまでの時間を測定した。乾燥性試験は官能的に評価した。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:10分未満で張付き感が無くなった。
△:10分以上13分未満で張付き感が無くなった。
×:13分以上で張付き感が無くなった。
【0118】
<薬品耐性試験>
インクジェット記録用インクを、6番のメイヤーバー(R.D.Specialties社製)を用いてPVC基材に塗布し25℃で2日間乾燥させた。乾燥した塗布面を、以下の薬品をそれぞれ浸漬させた綿棒で20回擦り耐性を評価した。耐性評価に使用した薬品は、80%エタノール水溶液、中性洗剤、アルカリ洗剤、酸素系漂白剤、塩素系漂白剤である。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:すべての薬品で塗布面から綿棒へ色移りしなかった。
△:いくつかの薬品で塗布面から綿棒へ色移りした。
×:すべての薬品で塗布面から綿棒へ色移りした。
【0119】
<物理耐性試験>
インクジェット記録用インクを、6番のメイヤーバー(R.D.Specialties社製))を用いてPVC基材に塗布し25℃で2日間乾燥させた。乾燥した塗布面を、以下の試験方法で耐性を評価した。用いた試験方法は、塗布面を試験用布片(JIS染色堅ろう度試験用)で50往復擦る擦過試験、塗布面のクロスカット試験、塗布面を折り曲げる耐折曲げ試験、塗布面同士を50回擦る耐もみ試験である。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:塗布面がすべての方法で剥れなかった。
△:塗布面がいくつかの方法で剥れた。
×:塗布面がすべての方法で剥れた。
【0120】
<光沢性試験>
インクジェット記録用インクを、6番のメイヤーバー(R.D.Specialties社製)を用いてPVC基材に塗布し25℃で2日間乾燥させた。乾燥した塗布面を、BYK−Gardner社製の光沢度計micro−TRI−glossを用いて測定角度60°の光沢を測定した。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:光沢度は60以上であった。
△:光沢度は20以上60未満であった。
×:光沢度は20未満であった。
【0121】
<インク保存安定性試験>
インクジェット記録用インクを、60℃で1週間保存させ、保存前後の粘度、顔料の粒子径を測定して変化率を測算出した。インクジェット記録用インクの粘度は、東機産業社製の粘度計VISCOMETER TV−33にて測定した。インクジェット記録用インクの顔料の粒子径は、大塚電子社製のレーザー回折式粒度分布測定器FPAR−1000Kを用いて平均粒子経(d50)を測定した。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:粘度及び粒子径共に変化率が±10%未満であった。
△:粘度及び粒子径の少なくとも一方の変化率が±10%以上であった。
×:粘度及び粒子径共に変化率が±10%以上であった。
【0122】
<連続吐出性能試験>
エスアイアイプリンテック社製記録用グレースケールヘッドによる連続吐出性能評価をした。インクジェット記録用インクを、2ドロップ、吐出周波数18.5kHzで連続吐出可能な時間を測定した。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:20秒以上連続吐出ができた。
△:10秒以上20秒未満正常に連続吐出ができた。
×:10秒未満正常に連続吐出ができた。
【0123】
<ノズル乾燥性試験>
エスアイアイプリンテック社製記録用グレースケールヘッドによる間欠吐出性能評価をした。吐出の時間間隔が空くとインクが乾燥し吐出不良が生じる。そこで、インクジェット記録用インクを、2ドロップ、吐出周波数18.5kHzにて吐出不良を起こさない無吐出時間を測定した。結果は以下のように分類し、表中に示した。
○:無吐出時間が5秒以上でも正常に吐出が再開できた。
△:無吐出時間が3秒以上5秒未満で正常に吐出が再開できた。
×:無吐出時間が3秒未満で正常に吐出が再開できた。
【0124】
ここで、実施例と比較例を比較する。
比較例1はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が4.0を超えているため、実施例2と同様の完全溶解工程を行ったが、塩酢ビ樹脂の溶解が不十分であり連続吐出性能が不良であることが分かる。インク保存安定性も不良となった。
【0125】
比較例2はインクに含有されているBGAcが有機溶剤総量中の30重量%以上であるため低臭気ではないことが分かる。
【0126】
比較例3はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が4.0であるが完全溶解工程を行っていないため塩酢ビ樹脂の溶解が不十分であり連続吐出性能が不良であることが分かる。インク保存安定性も不良となった。
【0127】
比較例4はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が1.2であるが完全溶解工程を行っていないため塩酢ビ樹脂の溶解が不十分であり連続吐出性能が不良であることが分かる。インク保存安定性も不良となった。
【0128】
比較例5はインクに含有されているMOZ、及び、DMTeGの総量が有機溶剤総量中の15重量%を越えているため揮発性に乏しいことが分かる。
【0129】
比較例6はインクに含有される塩酢ビ樹脂の濃度が低く、インク中に含まれる塩酢ビ樹脂の含有量が3.5重量%であり、印字物の薬品耐性が不良であることがわかる。
【0130】
比較例7はインクに含有される塩酢ビ樹脂の濃度が高く、インク中に含まれる塩酢ビ樹脂の含有量が10.0重量%であり、連続吐出性能が不良であることが分かる。
【0131】
実施例1はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が1.2であり混合引火点チャートより引火点が70℃以上である。完全溶解工程を行っている。臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0132】
実施例2はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が4.0である。また、完全溶解工程を行っている。臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0133】
実施例3はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が1.3であり、バインダ樹脂中の塩酢ビ樹脂/アクリル樹脂の比率が4.0である。また、完全溶解工程を行っている。そのため臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0134】
実施例4はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が1.3であり、バインダ樹脂中の塩酢ビ樹脂/アクリル樹脂の比率が3.0である。また、完全溶解工程を行っている。そのため臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0135】
実施例5はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が1.3であり、GBLが15重量%以下である。また、完全溶解工程を行っている。臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0136】
実施例6はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が2.2であり、有機溶剤中のDMTeG、及び、MOZの総量が15.0重量%以下である。また、完全溶解工程を行っている。臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0137】
実施例7はインクに含有されているMDG/MEDGの比率が1.2であり混合引火点チャートより引火点が70℃以上である。完全溶解工程を行っている。臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0138】
実施例8はインクに含有されている(MDGとDGの総量)/MEDGの含有量の比率は1.2であり混合引火点チャートより引火点が70℃以上である。更に、有機溶剤中のBGAcの含有量は15.7重量%である。完全溶解工程を行っている。よって臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0139】
実施例9はインクに含有される塩酢ビ樹脂が9重量%である。インク中のMDG/MEDGの含有量の比率は1.2である。完全溶解工程を行っている。臭気性、印字物の乾燥性、印字物の薬品耐性、印字物の物理耐性、印字物の光沢性、インクの保存安定性、連続吐出性能、ノズル乾燥性の全ての特性で良好な結果となることが分かる。
【0140】
表2に示す結果を比較することで、懸濁重合によって製造された塩酢ビ樹脂を用いて、低臭気で、且つ、PVC基材に対して優れた密着性、高周波領域で記録ヘッドを駆動した場合の安定的な吐出性能、印字物の乾燥性を有したインクジェット記録用インク、及び、インクカートリッジを提供できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明のインクジェット記録用インクは、特にラージフォーマットを用いたサインディスプレイ等の屋外用看板等に使用する大型インクジェットプリンタに好適に適用できる。
【符号の説明】
【0142】
1 インクカートリッジ
2 パウチ
3 上ケース
4 下ケース
5 インク取出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を有機溶剤に溶解させたインク用溶媒において、前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が懸濁重合によって製造されたものであり、前記有機溶剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方と、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルと、を含み、かつ前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内の量が含まれていることを特徴とするインク用溶媒。
【請求項2】
前記有機溶媒中に水溶性樹脂が溶解していることを特徴とする請求項1に記載のインク用溶媒。
【請求項3】
バインダ樹脂として塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を有機溶剤に溶解させたインク用溶媒の製造方法において、
前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂は懸濁重合によって製造されたものであり、
前記有機溶剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方と、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルと、を含み、かつ前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内の量が含まれ、
前記有機溶剤に前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を溶解させる工程であって前記有機溶剤に前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂をゲル状の未溶解成分が含まれる状態に一部溶解させるプレ溶解工程と、
前記ゲル状の前記未溶解成分を含む前記有機溶剤に外力を加えて、前記ゲル状の前記未溶解成分を前記有機溶剤に十分に溶解させる完全溶解工程と、
を有することを特徴とするインク用溶媒の製造方法。
【請求項4】
前記プレ溶解工程は、前記有機溶媒を加熱しながら攪拌機で攪拌することで、前記懸濁重合によって製造された前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を前記有機溶剤に一部溶解させることを特徴とする請求項3に記載のインク用溶媒の製造方法。
【請求項5】
前記完全溶解工程の前記外力は、メディア分散機によるメディア分散、超音波照射装置による超音波照射、圧力式ホモジナイザーによるホモジナイズまたは薄膜旋回型高速撹拌機による高速撹拌から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のインク用溶媒の製造方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5の何れか1項に記載のインク用溶媒の製造方法により製造されるインク用溶媒と、顔料と顔料分散剤を少なくとも有することを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項7】
顔料、有機溶剤、及び懸濁重合よって製造された塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂を含むインクジェット記録用インクであって、
前記有機溶剤がジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方と、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルとを含有する溶剤が主溶剤であり、前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内であることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項8】
水溶性樹脂が含まれていることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項9】
前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が前記インクジェット記録用インクに対して4重量%以上9重量%以下含有することを特徴とする請求項6から請求項8の何れか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項10】
前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂の分子量は20000以上30000以下であることを特徴とする請求項6から請求項9の何れか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項11】
前記有機溶剤には、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、3−メチル−2オキサゾリジノンまたはテトラエリレングリコールジメチルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種の溶剤を含有することを特徴とする請求項6から請求項10の何れか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項12】
アクリル系樹脂をさらに含有することを特徴とする請求項6から請求項11の何れか1項に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項13】
前記アクリル系樹脂に対する前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂の重量比率R2が、3.0≦R2≦4.0、の式で表す範囲内のであることを特徴とする請求項12に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項14】
前記アクリル系樹脂の分子量が1000以上10000以下であることを特徴とする請求項12または請求項13に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項15】
顔料、有機溶剤、バインダ樹脂を含有するインクジェット記録用インクの製造方法において、
前記有機溶剤は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテルの少なくともどちらか一方とジエチレングリコールエチルメチルエーテルを含む溶剤を主溶剤とし、かつ前記ジエチレングリコールエチルメチルメチルエーテルに対する前記ジエチレングリコールモノメチルエーテル、前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルまたは前記ジエチレングリコールモノメチルエーテルと前記ジエチレングリコールモノエチルエーテルの混合溶液の重量比率R1が、1.2≦R1≦4.0、の式で表す範囲内の量が含まれ、該有機溶剤に前記バインダ樹脂として懸濁重合よって製造された塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が含まれ、前記有機溶剤に前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂をゲル状の未溶解成分が含まれる状態に一部を溶解するプレ溶解工程と、
前記ゲル状の前記未溶解成分を含む前記有機溶剤に外力を加えて、前記ゲル状の前記未溶解成分を前記有機溶剤に十分に溶解させる完全溶解工程と、
前記顔料、顔料分散剤および顔料分散溶剤を含む顔料分散体と前記有機溶剤を混合する工程と、
を有することを特徴とするインクジェット記録用インクの製造方法。
【請求項16】
前記インクジェット記録用インクに対して前記塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂が4重量%以上9重量%以下含まれることを特徴とする請求項15に記載のインクジェット記録用インクの製造方法。
【請求項17】
請求項6から請求項14の何れか1項に記載のインクジェット記録用インクを格納したパウチと、前記パウチを格納するケースと、を有するインクカートリッジ。
【請求項18】
請求項6から請求項14の何れか1項に記載のインクジェット記録用インクをパウチに格納する工程と、
前記パウチをケースに格納する工程と、を有するインクカートリッジの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−233086(P2012−233086A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102577(P2011−102577)
【出願日】平成23年4月29日(2011.4.29)
【出願人】(395003187)株式会社セイコーアイ・インフォテック (173)
【Fターム(参考)】