説明

インク粘度判定方法及び記録装置

【課題】低コストでインクの増粘状況を判別し、インクカートリッジの交換や、稀釈液注入、攪拌を適切にすることにより記録装置の高画質でより均質な記録性能を維持する。
【解決手段】インク粘度を判定するためのテストパターンを用紙搬送方向に直角な帯状パターンとし、テストパターンの記録開始前、記録装置内部の温湿度条件に応じて記録ヘッドを大気暴露状態に保ち、その後記録動作開始し、開始直後の不安定な記録から安定するまでの経過によってインク粘度の増粘状況を判断できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録に用いるインクの粘度判定方法、及びインク粘度判定する為のテストパターンを具えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッド(印字ヘッド)に形成された複数のノズルのインク吐出口から記録媒体にインク(インク滴)を吐出して画像を形成するインクジェット方式の記録装置(インクジェットプリンタ)が広く使用されている。
【0003】
上記のような記録装置には、周知の回復動作等の際にノズルから排出したインクを画像記録に再び使用するリサイクルタイプのものがある。この方式の記録装置では、リサイクル中にインクから水分が蒸発してインクの色材濃度が上昇して増粘する(インクの粘度が高くなる)ことがある為、所望の画質が得られなくなる懸念がある。
【0004】
そこで、例えば想定インク残量と実インク残量の差からインク希釈液の量を求め、インク希釈液を添加することによりインクの粘度を調整し、記録性能と画質低下を防止する技術が知られている。
(例えば、特許文献1参照)
ところで、周知のように回復動作の際には、フェイス面(複数のインク吐出口が形成された面)をゴム製のキャップで塞いでおき、このキャップにインク吐出口からインクを排出する。キャップに吐出されたインクは回収されて再利用される。
【0005】
特に、印字待機中や長時間の電源OFF時に、キャップに吐出されたインクからは水分が蒸発するのでインクの粘度が上昇する。粘度が急激に上昇した(以下増粘)インクは、記録ヘッドの吐出特性が急変し、通常の駆動条件では、吐出不可能になり、記録ヘッドのヒータ部の断線や焦げの要因となる。
【0006】
特に顔料インクを使用する場合、インク回収経路で、凝集し易い顔料がインク流路を塞いだり、記録ヘッドのノズルを詰まらせて回復できない印字不良を引き起こす要因となる。
【0007】
インクの増粘を検知する手段としては、インク粘度検知センサやインクを観察するカメラを装置本体内に設置しておく技術が知られているが、センサやカメラを設置するので高コストになる。
【0008】
【特許文献1】特開2001−010087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、低コストでインクの増粘状況を判別し、インクカートリッジの交換や、稀釈液注入、攪拌を適切にすることにより記録装置の高画質でより均質な記録性能を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
インク粘度を判定するためのテストパターンを用紙搬送方向に直角な帯状パターンとして、且つ記録装置内部の温湿度条件に応じた時間だけ記録ヘッドを大気暴露状態に保ち、その後、テストパターン開始直後の不安定な記録から安定するまでの経過によってインク粘度の増粘状況を判断できるようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施により、記録装置で使用するインクを有効に使うことができる。とりわけ記録ヘッドのクリーニング、回復動作に用いたインクをリサイクル可能な記録装置においては高画質でより均質な記録性能を維持できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態に関して、以下に図を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明によるインク粘度判定のテストを実行可能な記録装置の一例を示す正面図である。
【0014】
記録装置100は、不図示のホストPC(パソコン)に接続され、記録命令や画像データを受信する。記録装置100には、4本の記録ヘッド102、103、104、及び105が記録媒体(ここではロ−ル紙P)の搬送方向に並列に配置されている。
【0015】
記録ヘッド102、103、104、及び105からはそれぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色のインクが吐出される。インクは各々交換可能なインクカートリッジ106(ブラック)、107(シアン)、108(マゼンタ)、及びインクカートリッジ109(イエロー)から対応するサブタンク116、117、118、及び119を経由して各々の記録ヘッド102、103、104、及び105に供給される。
稀釈液タンク307は各色のサブタンク106〜109に稀釈液を注入するものであり、後述する。
【0016】
記録ヘッド102、103、104、及び105は、所謂ラインヘッドであり、記録幅は図1のロ−ル紙Pの奥行き方向に延びている。各記録ヘッドの最大記録幅は、ロ−ル紙Pの幅よりもやや広く設計される。記録動作中これらの記録ヘッドは記録位置で静止する。
【0017】
記録ヘッド102、103、104、及び105の安定した記録性能を維持できるよう、各記録ヘッドに対応した回復ユニット(キャッピングユニット)112、113、114、及び115を具えている。
【0018】
図1の回復ユニットは6色分が示されているが、このうち空き2色分は記録ヘッド追加時の予備的な機構である。回復ユニット112〜115は、周知のワイパブレード、キャップ等から構成されている。
【0019】
ロ−ル紙Pに画像を形成する際には、搬送中のロ−ル紙Pの記録開始位置がブラックの記録ヘッド102の下に到達した後に、記録データ(画像情報)に基づいて記録ヘッド102(ブラック)からブラックインクを選択的に吐出する。同様に記録ヘッド103(シアン)、記録ヘッド104(マゼンタ)、記録ヘッド105(イエロー)の順に、各色のインクを吐出してカラー記録する。
【0020】
図2は本発明を実施した記録装置100の電気的なブロック図である。
【0021】
ホストPC200から送信された記録データやコマンドはインタフェースコントローラ201を介してCPU202に受信される。CPU202は、プリンタ100の記録データの受信、記録動作、そしてロ−ル紙Pのハンドリング等、全般の制御を掌る演算処理装置である。尚インタフェースコントローラ201内部には独立した別のCPUを具える場合もある。
【0022】
CPU202では、受信したコマンドを解析した後に、記録データの各色成分のイメージデータをイメージメモリ207にビットマップ展開して描画する。記録前の動作処理としては、出力ポート220、モータ駆動部221を介してキャッピングモータ215とヘッドアップダウンモータ214を相互に駆動し、各記録ヘッド102〜105をキャッピング機構112〜115のキャップ位置から記録位置に移動させる。
【0023】
続いて、同じく出力ポート220、モータ駆動部221を介してロ−ル紙Pを繰り出す給紙モータ216を駆動、そしてロ−ル紙Pを搬送する搬送モータ212等を駆動開始するためにサーボロジック回路210に所望の搬送速度に対応した指示速度値を書き込む。搬送モータ212のモータ軸、又は不図示の搬送ローラ軸にはロータリエンコーダ213が結合され、ロール紙Pの動きに同期したパルスが出力される。
【0024】
用紙Pに仮付けされた複数のラベルが繰り出されて先端検知センサ120により到来したラベルの先端が検知され、前述のロータリエンコーダ213の出力とによってサーボロジック回路210内部のU/D(Up/Down)カウンタ(不図示)でラベルの最新位置を正確に示すことが出来る。
【0025】
又サーボロジック回路210はロータリエンコーダ213からの出力パルスのパルス間隔の逆数に比例した値から搬送されるラベルの最新の搬送速度を求めて、前述の指示速度値となるようにフィードバック制御を行なう。
【0026】
以上から記録開始する切り出しタイミングを決定出来るので、ロ−ル紙Pの搬送に同期して、CPU202はイメージメモリ207から対応する色の記録データを順次読み出し、記録ヘッド制御回路219を経由し、各記録ヘッド102〜105に記録データを転送する。
【0027】
各記録ヘッド102〜105内部には温度センサ209を内蔵し、A/Dコンバータ208を介してCPU202は順次読み出すことが出来る。
【0028】
又記録装置100内部の温度、湿度を検知するための温湿度センサ210の出力もA/Dコンバータ208を介して読み出し可能である。
【0029】
さらに、CPU202内部には後述する暴露時間を測定するタイマ(不図示)も組み込まれている。
【0030】
上記CPU202の動作はプログラムROM203に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。
【0031】
又、後述するインク粘度判定の為のテスト記録の手順は同じくプログラムROM203に記憶されている。このインク粘度判定テストは、記録された画像の画質によってユーザが適宜判断することもあるが、記録ヘッド102〜105の交換後所定期間(例えば1ヶ月)経過した時等に実行される。
【0032】
CPU202はこの他、作業用のメモリとしてワークRAM204を使用する。記録ヘッド102〜105のクリーニングや回復動作時に、CPU202は、出力ポート220、モータ駆動部221を介してポンプモータ217を駆動し、インクの加圧、吸引等の制御を行なう。
【0033】
記録ヘッド102〜105の取り付けから生じるメカ的な記録位置ズレを微小に補正する電気的な補正値等、記録装置100固有のパラメータ等は不揮発性のメモリであるEEPROM205に記憶される。
【0034】
本発明に関わる粘度判定の為のテスト記録の指示は通常ホストPC200から行なうが、オペレーションパネル121上の操作キーや表示器からの入力によっても実行できる。
【0035】
図3は、本発明の記録装置100のインク供給経路を示す模式図で、交換可能なインクタンクからサブタンクにインクを補給する状態を示す。各構成要素はインク色がブラックの場合を代表的に説明するが、他のインク色も同様である。
【0036】
供給弁303を開き、ポンプ304を駆動するとインクタンク106内部のインク301はフィルタ302、供給弁303、ポンプ304を経由してサブタンク116に補給され、インク残量検知センサ305が満タンを検知する迄続くが所定時間内に満タンに達しない場合にはインクタンク106のインク301が空になったと判断し、インクタンク交換要求を表示することができる。
【0037】
防カビ剤添加した純水308を貯蔵する希釈液タンク307に関しては後述する。
【0038】
次に図4では、同じく記録動作中の状態を示す。インク色はブラックを代表的に説明するが、他のインク色もほぼ同様である。
【0039】
サブタンク116の大気連通弁306は開いた状態で、記録ヘッド102の多数のノズルから用紙Pに画像が形成されるが、吐出されたインク量に応じて記録ヘッド102内部の液室404には負圧が生じ、サブタンク116からフィルタ402、403を介してインクが移動する。
【0040】
続いて図5に記録ヘッド102が健全な記録性能を維持、又は回復するための回復動作に入った状態を示す。回復弁401を最初に閉じ、記録ヘッド102はキャッピング機構105にてキャップされた状態に戻る。そして加圧ポンプ501を駆動すると、サブタンク116のインクがフィルタ403を介して移動するが、回復弁401が閉じているので液室404のインクは急激に加圧され、記録ヘッド102の各ノズルから比較的多量のインクが瞬時に強制排出されるので、ノズルは健全な状態に回復される。
【0041】
強制排出されたインクはキャッピング機構105のインク溜まり405に一時的に溜まろうとするが、予めリサイクル弁505を開き、ポンプ304が動作しているので、インクは排出口503〜リサイクル弁505〜ポンプ304の経路でサブタンク116に回収、リサイクルされる。従って記録装置内部のインクは徐々に水分が蒸発しインクの濃度が増加する傾向になるので、希釈が必要になる。
【0042】
図6に希釈液の注入方法を説明する。
【0043】
先ずキャッピング機構105側から戻る経路のリサイクル弁505を閉じ、希釈液308の入った希釈液タンク307側の弁601を開く。
【0044】
そしてポンプ304を駆動し、希釈液308を弁601〜ポンプ304の経路でサブタンク116に注入する。この際サブタンク116内部の攪拌用ブレード602を予め回転させて、内部のインク濃度を平均化する。
【0045】
希釈液308は例えば純水に防カビ剤を添加したものであり、本実施例で示すブラックインクに限らず他のインク色にも共通に使用できる。
【0046】
尚、図5にて説明した加圧による回復動作とは別に、インク吐出口からインクを予備的に吐出させる簡易な回復動作もある。この予備的な吐出(予備吐)の実行条件について図7を用いて説明する。
【0047】
図7―1における温度と湿度は、記録装置内部の温湿度センサ126(図2参照)で測定される。そして
表に記入された時間(秒)は、記録ヘッドのノズル面がキャッピング機構から外れ、大気にさらされても安定した記録性能が保たれる許容時間の一例を示しており、例えば装置内部温度が10〜15[℃]で且つ内部の湿度が50〜70[%RH]の範囲では、許容時間は35秒となる。これらの許容時間を考慮しなければならない理由は主として次のようなことがあげられる。
【0048】
例えばラインヘッドを考えると印字する画像パターンによって、インクを継続的或いは断続的に吐出するノズルがあり、その一方吐出動作がされない状態が続くノズルも考えられる。
適度な頻度で吐出されるノズル近傍のインクはリフレッシュされるので粘度は高くなりにくいが、使用されないノズル近傍ではインクの増粘が進み、記録は不安定になり易い。増粘は周囲条件で大きく異なるので、図7―1の如く許容時間は温湿度によりテーブル形式で持つことが好ましい。
【0049】
図7―1はROM203に記憶され、通常の記録動作中、予備吐動作を実行するか否かの判定に使用される。
【0050】
図8は、水分蒸発率と粘度の関係を示すグラフであり、インクの種類によって関係は異なる。
【0051】
本実施例に用いたインクの場合、記録動作可能なインク粘度許容範囲は6[mpa/s]未満であり、6[mpa/s]以上の粘度の状態で使用し続けると、吐出不良から起こるノズルヒータの過熱等で回復不能な故障を引き起こす懸念がある。
【0052】
次に、図9を用いて本発明のインク粘度判定方法を説明する。
【0053】
図9-1は、25[℃]/60[%RH]環境下で、記録ヘッドのノズル面がキャッピング機構から外れて図の暴露時間だけ大気にさらされてから、記録開始し、その後記録が安定するまでに必要な吐出数を示すグラフであり、インク粘度をパラメータとしたものである。
【0054】
横軸が暴露時間(秒)で、縦軸は記録が安定するまでに必要な吐出数である。
【0055】
100秒暴露した後に安定した記録画像が得られるのに必要な吐出数は、
粘度6[mpa/s]: 3000[dot]
〃 4[mpa/s]: 1500[dot]
〃 2[mpa/s]: 500[dot]
である。
【0056】
従って、例えば25[℃]/60[%RH]環境下でヘッドを100秒暴露して、例えば、図10のようなテスト画像パターンを形成する場合を説明する。テスト画像パターンの1行分1001は搬送方向100[dot]分で構成する。
【0057】
もしも図10−1に示すような画像記録結果が得られたなら、内部のインク粘度は、6[mpa/s]以上と非常に高くそのままでは画質の維持は困難なので、インクタンク交換し、更に希釈液注入によるインクのリフレッシュの必要がある。
【0058】
又、図10―2に示すような画像記録結果が得られたなら、内部のインク粘度は、4[mpa/s]程度と考えられ、インクタンクを交換するほどではないにしても、希釈液注入によりインク粘度を下げる必要がある。
【0059】
図10―3に示すような画像記録結果が得られた場合には、内部のインク粘度は2[mpa/s]以内で良好と考えられ、インク交換や希釈液注入の必要はない。
【0060】
図中のbは記録開始時の不安定領域で、aは記録の安定領域である。
【0061】
図9−2は、15[℃]/10[%RH]環境下で、記録ヘッドのノズル面がキャッピング機構から外れて図の暴露時間だけ大気にさらされてから、記録開始し、その後記録が安定するまでに必要な吐出数を示すグラフであり、インク粘度をパラメータとしたものである。
【0062】
横軸が暴露時間(秒)で、縦軸は記録が安定するまでに必要な吐出数である。
【0063】
この図では80秒暴露した後に安定した記録画像が得られるのに必要な吐出数は、
粘度6[mpa/s]: 3000[dot]
〃 4[mpa/s]: 1500[dot]
〃 2[mpa/s]: 500[dot]
である。
【0064】
従って、例えば15[℃]/10[%RH]環境下で粘度判定パターンを実行する場合には、暴露時間を80秒に減らして、前述と同様図10のようなテスト画像を形成させてみる。
【0065】
前述と同様、図10−1に示すような画像記録結果が得られたなら、内部のインク粘度は、6[mpa/s]以上と非常に高く、そのままでは画質の維持は困難なのでインクタンク交換し、更に希釈液注入によるインクのリフレッシュの必要がある。
【0066】
又、図10−2に示すような画像記録結果が得られたなら、内部のインク粘度は、4[mpa/s]程度と考えられ、インクタンクを交換するほどではないにしても、希釈液注入によりインク粘度を下げる必要がある。
【0067】
図10−3に示すような画像記録結果が得られた場合には、内部のインク粘度は2[mpa/s]以内で良好と考えられ、インク交換や希釈液注入の必要はない。
【0068】
図9−3は、20[℃]/80[%RH]環境下で、記録ヘッドのノズル面がキャッピング機構から外れて図の暴露時間だけ大気にさらされてから、記録開始し、その後記録が安定するまでに必要な吐出数を示すグラフであり、インク粘度をパラメータとしたものである。
【0069】
横軸が暴露時間(秒)で、縦軸は記録が安定するまでに必要な吐出数である。
【0070】
この図では前述2つの周囲条件とは異なり湿度が高い為、暴露時間240秒と比較的長時間経過した後記録開始して、安定した記録画像が得られるのに必要な吐出数が、
粘度6[mpa/s]: 3000[dot]
〃 4[mpa/s]: 1500[dot]
〃 2[mpa/s]: 500[dot]
との結果を得ている。
【0071】
従って、例えば20[℃]/80[%RH]環境下で粘度判定パターンを実行する場合には、暴露時間を240秒に増加して、前述と同様図10のようなテスト画像を記録する。
【0072】
前述と同様、図10−1に示すような画像記録結果が得られたなら、内部のインク粘度は、6[mpa/s]以上と非常に高く、そのままでは画質の維持は困難なのでインクタンク交換し、更に希釈液注入によるインクのリフレッシュの必要がある。
【0073】
又、図10−2に示すような画像記録結果が得られたなら、内部のインク粘度は、4[mpa/s]程度と考えられ、インクタンクを交換するほどではないにしても、希釈液注入によりインク粘度を下げる必要がある。
【0074】
図10−3に示すような画像記録結果が得られた場合には、内部のインク粘度は2[mpa/s]以内で良好と考えられ、インク交換や希釈液注入の必要はない。
【0075】
また、図9−3からも明らかなように、インク粘度が6[mpa/s]程度のインクでは、例えば120秒暴露した後に安定した画像が形成できるまでに、1500[dot]必要というデータが予め得られているので、もしも20[℃]/80[%RH]環境下で120秒間暴露後に図10−2のような結果が得られたら、使用中のインクの粘度は6[mpa/s]と判定できる。
【0076】
120秒という暴露時間では4[mpa/s]か、それとも2[mpa/s]かの判定はできないものの、使用限度外の増粘したインクの判定時間は短縮できる。
【0077】
上記のように、記録装置100の内部又はその周辺の温度及び湿度に対応する暴露時間を予め決めておき、インクの粘度判定テストを実行する。また、本発明のインク粘度判定テスト方法は、インクの種類に対応する暴露時間を予め設定しておき、粘度判定テストを実行できる。
このインク粘度判定テスト方法の手順を図11のフローチャートに基づいて説明する。
【0078】
インク粘度判定テストは、ユーザが記録装置100の粘度判定テストボタン(図示せず)を押すことにより開始される。なお、一定時間ごとにインク粘度判定テストを実行するシーケンスをプログラムROM203(図2参照)に記憶させておいてもよい。記録装置100のCPU202は先ず、温湿度センサ210(図2参照)の値を読み出し、記録装置100内部の温度と湿度に変換〜検知する(1101)。
【0079】
これら温度と湿度に基づいて図7−2から暴露時間τを決定し(1102)、待機位置でキャップされていた記録ヘッド102〜105を、記録位置に移動させる(1103)。そして記録ヘッド102〜105が大気中に暴露している状態を、暴露時間τだけ保つ(1104)。この暴露時間が経過した時点で(1104-Yes )、インク粘度判定用のテストパターンを記録する(1105)。
【0080】
尚記録装置100内部の温湿度〜暴露時間τ変換テーブル(図7−2)はROM203に記憶されている。
【0081】
上記の実施例では、図7−2のテーブルを一つだけ使用したが、このテーブルは、使用するインク種(例えば、顔料インク、染料インク)又はインクの色によって異なるので、増粘テストの際の暴露時間が大きく相違する場合は、インク種、色によって独立にテーブルを持つべきである。この場合は、記録ヘッド(K)102、記録ヘッド(C)103、記録ヘッド(M)104、及び記録ヘッド(Y)105の各インク粘度判定テストは時分割で実行することになる。
【0082】
図7−3は、本発明の別の実施形態によるインク粘度判定用テストパターン開始前の暴露時間テーブルである。
【0083】
増粘していると思われるインク(例えばブラック)の判定する際に暴露時間は一定にして(例えば10秒)、記録装置100内部の温湿度条件によって、記録する画像の搬送方向のドット数を可変させたものである。
【0084】
この場合、図7−3記載のドット数の画像後端部近傍が不安定であれば、インクの粘度は6.0[mpa/s]に達しており、画像後端部に不吐が見られなければ、インクの粘度は6.0[mpa/s]未満で、使用可能領域であると判断できる。
【0085】
図7−3により、記録装置100内部が例えば、20[℃]/60[%RH]において、ヘッド暴露時間10秒で、テストパターンの連続的な記録ドット数は、300[dot]が自動的に選択される。インクの色、或いは種類によって選択されるテストパターンも独立なテーブルを持つことが出来る。
【0086】
本発明によるインク粘度判定用パターンは、ノズル毎に吐出適性にばらつきがある為、判定の信頼性を向上する為に全てのノズルを用いた判定用パターンが好ましい。
【0087】
本発明によるインク粘度判定の結果、インクの粘度は6.0[mpa/s]を超え、新たなインクカートリッジからのインク供給によるリフレッシュする場合、CPU202の動作フローについて図12を用いて説明する。
【0088】
新たなインクカートリッジに交換されたことが検知されると(1201-Yes)、先ず該当カートリッジからサブタンクへのインク供給を既に述べた方法(図3)にて開始し(1202)、サブタンク内の攪拌ブレード602も不図示のアクチュエータによりONする(1203)。そしてサブタンクが満タン検知されると(1204-Yes)インク供給は停止する(1207)。所定時間経過してもサブタンクが満タンにならない場合(1205-Yes)、インクカートリッジが空になったと判断して更に新しいカートリッジに差し替えることを要求する警報を送出する(1206)。
【0089】
インク供給が終わると次に稀釈液タンクから稀釈液が所定量注入される(1208)。サブタンクの満タン検知後に注入されるが、少なく共前記稀釈液の注入でサブタンクからインク溢れが生じないよう設計される。続いてサブタンク〜記録ヘッド間のインク経路、及び記録ヘッドの液室内インクをリフレッシュするため、ポンプ501を駆動してインク循環動作を開始する(12019)。尚このときには回復弁401は開いておき、記録ヘッドからサブタンクへのリターン路が形成されている。インク循環時には記録ヘッド内部にある圧力がかかり、ノズルから回復機構105のインク溜まり502に僅かながらインクが排出されるので、これを回収、再利用するリサイクル系ポンプ304もONする(1210)。
【0090】
そして所定時間経過したら(1211-Yes)インク循環は終了する(1212)。さらに所定時間経過すると(1213-Yes)リサイクル系のポンプもOFFし(1214)、最後に攪拌ブレードの回転も停止して(1215)インクリフレッシュ動作は完了する。
【0091】
本発明によるインク粘度の判定結果からインクカートリッジの交換はせず、稀釈液注入のみ行ないインク粘度を低減して適正化する場合もあるが、その方法に関しては図12の説明にほぼ包含されるのでここでは省略する。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の記録装置は高速で且つヘビーデューティのラベルプリンタや大判のカラープリンタ等、とりわけインクのリサイクル可能なラインプリンタ高級機への利用で高画質を維持する為の動作信頼性を格段に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明を実施した記録装置を模式的に示す図である。
【図2】本発明を実施した記録装置の電気的なブロック図である。
【図3】サブタンクへのインク補給を示す模式図である。
【図4】記録動作時のインクの流れを示す模式図である。
【図5】記録ヘッドの加圧回復動作時を示す模式図である。
【図6】希釈液の注入方法を示す模式図である。
【図7】温湿度に対する予備吐間隔、テストパターン時の暴露時間、それに別な実施例によるテストパターンの連続的なドット数を示す図である。
【図8】水分蒸発率に対するインク粘度変化を示す図である。
【図9】暴露時間に対して記録開始〜安定迄の所要ドット数の図である。
【図10】インク粘度判定用チェックパターンと予想できる記録結果を示す図である。
【図11】インク粘度判定パターン実行時のフローチャートである。
【図12】インクリフレッシュする場合のフローチャートである。
【符号の説明】
【0094】
100 記録装置
102 記録ヘッド(K)
103 記録ヘッド(C)
104 記録ヘッド(M)
105 記録ヘッド(Y)
106 インクカートリッジ(K)
107 インクカートリッジ(C)
108 インクカートリッジ(M)
109 インクカートリッジ(Y)
112 回復ユニット(K)
113 回復ユニット(C)
114 回復ユニット(M)
115 回復ユニット(Y)
116 サブタンク(K)
117 サブタンク(C)
118 サブタンク(M)
119 サブタンク(Y)
120 先端検知センサ
121 オペレーションパネル

200 ホストPC
202 CPU
203 ROM
208 ADコンバータ
210 温湿度センサ

304 ポンプ
307 希釈液タンク
308 希釈液

505 リサイクル弁

601 弁
602 攪拌用ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される用紙にインクを吐出して画像を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドをキャップするキャッピング機構と、
前記記録ヘッド近傍の温湿度を検知する温湿度検知手段と、
搬送方向に直角な帯状テストパターンの動作を指示するテストパターン動作指示手段と、
前記温湿度検知手段の検知結果に基づき、前記記録ヘッドを前記キャッピング機構から外して、前記テストパターンの記録開始迄に、
待ち時間を設定する待ち時間設定手段とを具えた、
記録装置のインク粘度判定方法。
【請求項2】
前記インク粘度判定方法による結果に基づきインク交換された場合、第1のインクタンクから第2のインクタンクにインク供給すると共に、前記第2のインクタンク内の攪拌手段にて攪拌することを特徴とする、
請求項1に記載のインク粘度判定方法を具えた記録装置。
【請求項3】
前記第1のインクタンクから第2のインクタンクにインク供給後、第3のインクタンクから前記第2のインクタンクに所定量の稀釈液を注入すると共に、前記第2のインクタンクと前記記録ヘッドとの間でインクを循環させるインク循環手段を更に具えたことを特徴とする、
請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記インク循環手段を稼動中前記キャッピング手段から前記第2のインクタンクにインクを回収するインクリサイクル手段を更に具えたことを特徴とする、
請求項2乃至4に記載の記録装置。
【請求項5】
前記インク粘度判定方法による結果に基づき、第3のインクタンクから前記第2のインクタンクに稀釈液を注入すると共に、前記第2のインクタンク内の攪拌手段にて攪拌することを特徴とする、
請求項2に記載の記録装置。
【請求項6】
前記稀釈液は純水と防カビ剤を含むことを特徴とする、
請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
搬送される用紙にインクを吐出して画像を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドをキャップするキャッピング機構と、
所定の画像データによるテストパターンを記録指示するテストパターン記録指示手段を具えた記録装置において、
前記所定の画像データは搬送方向に直角な帯状パターンであり、前記テストパターン記録指示手段は、前記記録ヘッドが前記キャッピング機構によるキャップ状態から外れて前記画像データの記録開始迄に、所定の待ち時間を設定する待ち時間設定手段を更に具えたことを特徴とする記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッド近傍の温湿度を検知する温湿度検知手段をさらに具え、
前記待ち時間設定手段は、前記温湿度検知手段の検知結果に基づき待ち時間を設定することを特徴とする請求項7に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−216451(P2007−216451A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37733(P2006−37733)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】