説明

インク組成物、画像形成方法及び印画物

【課題】インクジェット記録法に適用しうる、記録した画像の耐溶剤性及び記録媒体に対する定着性に優れたインク組成物及び、該インク組成物を用いた画像形成方法を提供する。
【解決手段】少なくとも(b)水を含む分散媒と、該分散媒中に分散状態で存在する(b)下記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物の粒子と、を含有するインク組成物である。下記一般式(1)中、R及びRは各々炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用に適用しうるインク組成物、該インク組成物を用いた画像形成及びインク組成物により形成された印画物に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、インクジェット記録方式がある。
インクジェット記録方式は、圧力、熱、電界などを駆動源として液状のインク組成物をノズルから被記録媒体に向けて吐出させ、記録する記録方式である。このようなインクジェット記録方式は、ランニングコストが低く、高画質化が可能であるために、近年、急速に普及している。
インクジェット記録方式による画像の記録に用いられるインク組成物のなかでも、活性エネルギー線硬化型水性インクは、画像の印刷、記録媒体に印刷適性を付与するための前処理、印刷された画像の保護・装飾の後処理などに好適に使用でき、また、水を主成分とすることから安全性に優れ、低粘度化によって高密度インクジェット記録への適用が可能になるなど、多くの優れた特徴、可能性を有する技術である。
水性インク組成物として、例えば、架橋性の水溶性高分子と架橋性微粒子を含む水性の活性エネルギー線重合性物質を含むインク組成物が記載されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、形成された画像の耐水性、耐溶剤性に関してまだ改良の余地があり、さらに、エネルギー付与後の画像のべたつきで評価する画像の定着性についても向上が望まれており、特に、重合開始剤を使用しないか、或いは、使用量を少量とする系においてその要望が強い。
【0003】
一方、インク画像の耐水性向上の観点から、反応性高分子からなる樹脂微粒子と水溶性重合性ポリマーと顔料等を含有するインクジェットインク組成物(例えば、特許文献2参照。)、特定の嵩高い部分構造を有する(メタ)アクリレート化合物と反応性基を有する重合性化合物とを含有するインクジェットインク組成物(例えば、特許文献3参照。)、及び、着色剤と、親水性ポリマー及び反応性成分を含む水性媒体とを含有するインクジェットインク組成物(例えば、特許文献4参照。)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−161887号公報
【特許文献2】特開2002−241702号公報
【特許文献3】特開2007−197544号公報
【特許文献4】特開平7−257014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2は屋外塗料用組成物に関する技術であり、インクジェット法により画像を形成する際のインク組成物の吐出性については何ら検討されていない。また、特許文献3及び特許文献4で開示されている水系のインク組成物を使用して画像を記録する場合、画像部の耐溶剤性等は未だ実用上満足できるものではなく、さらに上記各技術では、記録した画像の記録媒体への定着性についてもなお改良の余地がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記の事情に照らし、記録した画像の溶剤に対する耐久性である耐溶剤性及び画像の記録媒体に対する定着性に優れたインク組成物を提供することにある。特に、インクジェット記録法に適用した場合でも、画像を記録する際の吐出性に優れ、且つ、記録した画像の耐溶剤性および記録媒体への定着性に優れたインクジェット記録用インク組成物を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、前記本発明のインク組成物を用いた画像形成方法及び耐溶剤性と記録媒体への定着性に優れた画像を有する印画物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 少なくとも(a)水を含む分散媒と、該分散媒中に分散状態で存在する(b)下記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物の粒子と、を含有するインク組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
前記一般式(1)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。*は、高分子粒子への結合部位を示す。
<2> 前記高分子化合物が、親水性基をさらに含む高分子化合物である、<1>に記載のインク組成物。
<3>前記(b)高分子化合物の粒子の前記インク組成物における含有量が2.0質量%〜15質量%である、<1>又は<2>に記載のインク組成物。
<4> 前記(b)高分子化合物の粒子に含まれる繰り返し単位が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載のインク組成物。
【0010】
【化2】

【0011】
前記一般式(2)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。Rは水素原子又はメチル基を表す。Zは−COO−、又は−CONR−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは2価の有機基を表す。
<5> 前記高分子化合物が、アルコール性水酸基、アルキル置換カルバモイル基、カルボキシル基、スルホ基およびこれらの塩から選ばれる少なくとも一つの親水性基を有する繰り返し単位を含む高分子化合物である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<6> さらに(c)重合性化合物を含む<1>〜<5>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<7> 前記(c)重合性化合物が、分子量100以上1,000未満の重合性低分子化合物の1種以上を含む<5>に記載のインク組成物。
<8> 前記(c)重合性化合物が、分子量1,000以上50,000未満の重合性高分子化合物の1種以上を含む<5>に記載のインク組成物。
<9> 前記(c)重合性化合物が、分子量100以上1,000未満の重合性低分子化合物の1種以上、及び、分子量1,000以上50,000未満の重合性高分子化合物の1種以上を含む<5>〜<8>のいずれか1つに記載のインク組成物。
【0012】
<10> 前記(b)高分子化合物の粒子の体積平均粒子径が20nm以上300nm未満である<1>〜<9>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<11> さらに(d)顔料分散物を含む<1>〜<10>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<12> さらに(e)水溶性有機溶剤を含む<1>〜<11>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<13> さらに(f)光重合開始剤を含む<1>〜<12>のいずれか1つに記載のインク組成物。
<14> インクジェット用である<1>〜<13>のいずれか1つに記載のインク組成物。
【0013】
<15> <1>〜<14>のいずれか1つに記載のインク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、記録媒体上に付与されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程とを含む、画像形成方法。
<16> <1>〜<14>のいずれか1つに記載のインク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、記録媒体上に付与されたインク組成物に含まれる(a)水及び(e)水溶性有機溶剤の少なくとも一部を乾燥して除去するインク乾燥工程と、記録媒体上に付与され、乾燥されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程とを含む、画像形成方法。
<17> 記録媒体上に<1>〜<12>のいずれか1つに記載のインク組成物により形成されたか、或いは、<13>又は<14>に記載の画像形成方法によって記録された画像を有する印画物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記録した画像の溶剤に対する耐久性である耐溶剤性及び画像の記録媒体に対する定着性に優れたインク組成物を提供することができ、さらに、インクジェット記録法に適用した場合でも、画像を記録する際の吐出性に優れ、且つ、記録した画像の耐溶剤性および記録媒体への定着性に優れたインクジェット記録用インク組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記本発明のインク組成物を用いた画像形成方法及び耐溶剤性と記録媒体への定着性に優れた画像を有する印画物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[インク組成物]
本発明のインク組成物は、(b)下記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物の粒子と、(a)水と、を含有し、少なくとも(a)水を含む分散媒中に、(b)下記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物の粒子が分散状態で存在するインク組成物である。即ち、(b)高分子化合物の粒子は、(a)水を含む水性分散媒中に固体分散物として存在する。本発明のインク組成物は、さらに、顔料分散物などの他の固形分散物を含んでいてもよい。
以下、下記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物を、適宜、「(b−1)特定高分子」と称する。
【0016】
【化3】

【0017】
前記一般式(1)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。*は、高分子化合物との結合部位を示す。
【0018】
以下、本発明のインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)について詳細に説明する。
<(b)高分子化合物の粒子>
本発明に用いられるインク組成物は、少なくとも前記一般式(1)で表される構造を繰り返し単位に有する高分子化合物の粒子を水性の分散媒中に分散状態で含む。
本発明のインク組成物は、(b)高分子化合物の粒子及び分散媒の主成分である(a)水に加え、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて添加剤として液体または固体の種々の化合物を含んでもよい。例えば、後述する(c)重合性化合物をさらに含むことで画像の硬化性、定着性が向上し、また、重合禁止剤等をさらに含むことで、保存安定性に優れたインク組成物が提供される。
(b)高分子化合物の粒子を構成する(b−1)特定高分子は、分子内にさらに親水性基を含む化合物であることが好ましく、特に、前記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位であり、さらに、親水性基を有する繰り返し単位を共重合成分として含む態様が好ましい。
【0019】
【化4】

【0020】
前記一般式(2)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。Rは水素原子又はメチル基を表す。Zは−COO−、又は−CONR−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは2価の有機基を表す。
【0021】
〔(b−1)特定高分子〕
本発明に係る(b)高分子化合物の粒子を構成する(b−1)特定高分子は前記一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物である。
【0022】
前記一般式(1)中、R及びRは各々独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、炭素数1〜2(メチル基、エチル基)が好ましく、炭素数1のアルキル基(メチル基)であることが特に好ましい。R及びRの少なくとも1つがアルキル基を表す場合のアルキル基としては、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等であってもよい。また、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。
【0023】
一般式(1)において、R及びRの少なくとも1つがアルキル基を表す場合のアルキル基は、置換基を有していても、いなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される部分構造の具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されない。下記構造中の*は、一般式(1)におけるのと同義である。
【0025】
【化5】

【0026】
本発明に係る(b−1)特定高分子は、前記一般式(1)で示される部分構造を、主鎖末端に有してもよく、或いは、高分子化合物の主鎖或いは側鎖に高分子反応により当該部分構造を導入したものでもよいが、側鎖に複数の部分構造を有する態様が効果の観点から好ましく、下記一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物であることが好ましい。
【0027】
【化6】

【0028】
前記一般式(2)中、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成していてもよい。Rは水素原子又はメチル基を表す。Zは−COO−、又は−CONR−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは2価の有機基を表す。
【0029】
前記一般式(2)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。一般式(2)におけるR及びRは、既述の一般式(1)におけるR及びRとして例示したものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(2)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。Rはメチル基であることが好ましい。
【0030】
一般式(2)において、Zは単結合、−COO−*、又は−CONR−*を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、*はXとの結合位置を表す。Zは−COO−*であることが好ましい。
また、前記−CONR−*におけるRは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基を表す。Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、即ち、メチル基、又は、エチル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。なお、Rがアルキル基を表す場合のアルキル基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【0031】
一般式(2)において、Xは2価の有機基を表す。2価の有機基としては、炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜12のアラルキレン基が挙げられ、アルキレン基はアルキレン基中に−O−、−COO−、−OC(=O)―、―CONH−を含んでいてもよい。またアルキレン基は炭素数4以下のアルキル基、水酸基または塩素原子で置換されていてもよい。アルキレン基であることが好ましい。前記アルキレン基は直鎖構造であってもアルキレン鎖中に分岐を有するものであっても環状構造を有するものであってもよい。また、アルキレン鎖中に、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、及びウレタン結合、から選ばれる構造が存在していてもよい。Xがアルキレン基である場合のアルキレン基の炭素数は2〜20であることが好ましく、炭素数2〜12であることがより好ましく、炭素数2〜8であることがさらに好ましい。2価の連結基の炭素数を上記好ましい範囲とすることで、側鎖末端に存在する一般式(1)で示される部分構造の運動性が向上し、本発明の効果がより向上する。
【0032】
一般式(2)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜2のアルキル基であり、Rはメチル基であり、Zは−COO−であり、Xは炭素数2〜12のアルキレン基であることが好ましい。
【0033】
前記(b−1)特定高分子に含まれる一般式(2)で表される繰り返し単位の含有量は、目的とするインク組成物による硬化膜の性質に応じて適宜選択される。すなわち、強固なインク画像を得る目的には一般式(2)で表される繰り返し単位の含有量を大きくするとよく、柔軟な硬化膜を得る目的には含有量を小さくすると良い傾向にある。これらを考慮した一般式(2)で表される繰り返し単位の含有量は、(b−1)特定高分子の質量に対し、5質量%〜95質量%であることが好ましく、15質量%〜95質量%であることがさらに好ましく、30質量%〜95質量%であることが特に好ましい。
【0034】
上記一般式(2)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物は、下記一般式(2´)で表される単量体を重合して得られるものである。
【0035】
【化7】

【0036】
前記一般式(2´)におけるR、R、R、Z及びXは、既述の一般式(2)におけるR、R、R、Z及びXとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0037】
一般式(2´)で表される単量体の好ましい例としては、以下に示す単量体化合物(2´−1)〜(2´−11)を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
【化8】

【0039】
本発明における上記単量体(2´−1)〜(2´−11)は、例えば特開昭52−988号公報、特開平4−251258号公報等に記載の方法を参考に製造できる。
【0040】
(b−1)特定高分子は、さらに親水性基を有する繰り返し単位を有することが好ましい。ここで親水性基とは、(b−1)特定高分子の親水性を高める機能を有する基であれば、ノニオン性親水性基でもよいし、アニオン性もしくはカチオン性のようなイオン性親水性基のいずれも使用することができ、特に限定されない。
(b−1)特定高分子に含まれる親水性基の個数に限定はないが、その数は、親水性基の種類、(b−1)特定高分子の分子量等に応じて、適宜選択される。
【0041】
本発明に係る(b−1)特定高分子に導入されるノニオン性親水性基には特に限定はないが、例えば、窒素原子又は酸素原子を含む複素環構造から水素原子を1個除いた残基、アミド基、カルバモイル基、アルキル置換カルバモイル基、アルコール性水酸基及びポリアルキレンオキシ構造を有する基等のノニオン性親水性基;
カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基又は4級アンモニウム基等のイオン性親水性基;
等が挙げられる。
前記窒素原子又は酸素原子を含む複素環構造としては、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、2−ピロリドン、エチレンウレア等の環状ウレア類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の環状エーテル類が挙げられる。
前記イオン性親水性基は塩を形成していてもよい。
これらの中でも、アミド基、カルバモイル基、アルキル置換カルバモイル基、アルコール性水酸基、ポリアルキレンオキシ構造を有する基、カルボキシル基又はスルホ基が好ましく、アルコール性水酸基、アルキル置換カルバモイル基、カルボキシル基又はスルホ基がさらに好ましい。
【0042】
前記アミド基としては、炭素数2〜10のアミド基が好ましく、アミド基の窒素原子は水素が結合していることが好ましい。前記アルキル置換カルバモイル基としては、カルバモイル基の窒素原子に結合する水素原子がアルキル基で置換されたモノアルキルカルバモイル基、又は、カルバモイル基の窒素原子に結合する2つの水素原子がアルキル基で置換されたジアルキルカルバモイル基が挙げられる。これらの中で、炭素数1〜8のアルキル基または水酸基で置換された炭素数1〜4のアルキル基で置換されたモノアルキルカルバモイル基が好ましい。前記ポリアルキレンオキシ構造を有する基としては、限定的ではないが、炭素数1から4のアルキレンオキシ基を繰り返し単位に有するポリアルキレンオキシ構造が好ましく、前記ポリアルキレンオキシ構造中のアルキレンオキシ基は1種であってもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。前記ポリアルキレンオキシ構造の末端基は水酸基またはアルコキシ基が好ましく、水酸基またはメトキシ基がより好ましい。
【0043】
前記イオン性親水性基としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基、ホスホン酸基、フェノール性水酸基、又は4級アンモニウム基等および、これらの塩が挙げられる。対塩としては、アルカリ金属塩(Li、Na、K等)や、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩が挙げられる。この中でもアルカリ金属塩(Li、Na、K等)又はアンモニウム塩が好ましい。
【0044】
本発明に係る(b−1)特定高分子が、さらに親水性基を有する繰り返し単位を含む場合、前記親水性基を有する繰り返し単位は下記一般式(3)で表されることが好ましい。
【0045】
【化13】

【0046】
前記一般式(3)において、Rcyは水素原子またはメチル基を表す。Zは−COO−*、−CONRdy−*または単結合を表し、Rdyは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Rは単結合、又はアルキレン基、アリーレン基及びアラルキレン基からなる群から選ばれる基を表す。Aは親水性基を表す。なお、*はRに結合する位置を表す。
一般式(3)におけるRcyは水素原子またはメチル基を表す。
【0047】
一般式(3)において、Zは−COO−*、−CONRdy−*または単結合を表し、−COO−*であることが好ましい。なお、*はRに結合する位置である。Rdyは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基を表す。Rdyは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、即ち、メチル基、又は、エチル基であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。なお、Rdyが炭素数1〜4のアルキル基を表す場合のアルキル基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよいが、置換基を有していないことが好ましい。
【0048】
前記Rdyが有していてもよい置換基としては、炭素数6〜8のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子(F,Cl,Br,I等)等が挙げられる。
【0049】
一般式(3)において、Rは単結合またはアルキレン基、アリーレン基及びアラルキレン基からなる群から選ばれる基を表し、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数6〜20のアリーレン基又は炭素数7〜20のアラルキレン基であることが好ましい。これらの基は置換基を有していても、置換基を有していなくてもよい。また、これらの基の中には、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合が存在していてもよい。一般式(3)において、Rは単結合であることが好ましい。
【0050】
前記Rが有していてもよい置換基としては、炭素数6〜8のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子(F,Cl,Br,I等)等が挙げられる。
【0051】
が炭素数1〜20のアルキレン基である場合、前記アルキレン基は直鎖構造であっても分岐構造であっても環状構造であってもよく、直鎖構造又は分岐構造中に環状構造を含むものであってもよい。Rがアルキレン基である場合の炭素数は2〜12であることがより好ましく、炭素数2〜8であることがさらに好ましい。Rのアルキレン基の具体例としては、−CH−、−C−、−C(CH−CH−、−CHC(CHCH−、−C12−、−C(C)C−、C1836−、1,4−trans−シクロヘキシレン基、−C−OCO−C−、−C−OCO−、−C−O−C10−、−CH−O−C(C11)−、−C−CONH−C−、−C−OCONH−C12−、−CH−OCONHC1020−、−CHCH(OH)CH−等を挙げることができる。
【0052】
が炭素数6〜20のアリーレン基である場合、前記アリーレン基の炭素数は6〜18であることが好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であることが特に好ましい。Rのアリーレン基の具体例としては、フェニレン基、ビフェニレン基、−C−CO−C−、ナフチレン基等を挙げることができる。
【0053】
が炭素数7〜20のアラルキレン基である場合、前記アラルキレン基の炭素数は7〜18であることが好ましく、7〜14であることがさらに好ましく、7〜10であることが特に好ましい。アラルキレン基の具体例としては、−C−C−、−C−C−C−、−CH−C−C−C−、−C−OCO−C−等を挙げることができる。
【0054】
前記一般式(3)中のAで表される親水性基としては、既述の親水性基が挙げられ、好ましい範囲も同様である。
【0055】
前記一般式(3)で表される親水性基を有する繰り返し単位を有する場合、前記一般式(1)で表される部分構造を有する(b−1)特定高分子における一般式(3)で表される繰り返し単位の含有量は、一般式(3)における親水性基Aがイオン性の場合、(b−1)特定高分子中、1〜30質量%であることが好ましく、1〜20質量%がさらに好ましく、1〜15質量%が特に好ましい。また、一般式(3)における親水性基Aがノニオン性の場合、(b−1)特定高分子中、20〜95質量%であることが好ましく、30〜80質量%がさらに好ましく、30〜70質量%が特に好ましい。
親水性基は、その種類により好ましい含有量が異なるが、含有量は(b)高分子化合物の粒子を構成する(b−1)特定高分子が水溶性とならない量とすることを要する。
【0056】
上記一般式(3)で表される構造は、下記一般式(3´)で表される単量体を重合して得ることができる。
【0057】
【化14】

【0058】
一般式(3´)における、Rcy、Z、R、及びAは前記一般式(3)におけるRcy、Z、R、及びAとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0059】
一般式(3´)で表される単量体の好ましい例としては以下に示す単量体化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−co−プロピレングリコール)(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート(メタ)アクリロイロキシエチルエチエンウレア、ビニルピロリドン、3−(メタ)アクリロイロキシ−γ―ブチロラクトン、アクリルアミド、tert−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸テトラブチルアンモニウム、モノ(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、モノ(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸ナトリウム、モノ(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸ナトリウム、(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニル安息香酸等が挙げられる。
【0061】
本発明における上記一般式(3´)で表される繰り返し単位を与える例示化合物は、市販の化合物若しくは、一般的に知られている公知慣用の方法により製造することができる。
また、本発明には一般式(3´)で表される繰り返し単位を与える例示化合物の他に、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその無水物、さらにこれらより誘導されるジカルボン酸塩も好ましく使用することができる。
【0062】
本発明に係る(b−1)特定高分子は、前記各単量体由来の繰り返し単位に加えて、さらに他の単量体成分を含む共重合体としてもよい。前記一般式(2´)で表される単量体、一般式(3´)で表される単量体と共重合し得るその他の単量体としては、スチレン、p−メトキシスチレン等のスチレン類、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチヘキシルジグリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトシキメチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2,2,2−テトラフルオロエチル(メタ)アクリレート、4−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,5−テトラメチルフェニル(メタ)アクリレート、4−クロロフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペルフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類等が挙げられ、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜8のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。なお、上記以外の公知のモノマーを、必要に応じて使用することもできる。
前記その他の単量体としては特定高分子中、0〜60質量%であることが好ましく、0〜40質量%がさらに好ましく、0〜30質量%が特に好ましい。
【0063】
本発明に係る(b−1)特定高分子は、既述のビニル重合体の他、ポリウレタン類、ポリエステル類、ポリエチレンイミン類等の種々の高分子構造をとることができるが、インク組成物の吐出性や製造適性からビニル重合体であることが好ましい。
【0064】
本発明に係る(b−1)特定高分子は、前記一般式(2´)で表される単量体及び所望により用いられる一般式(3´)で表される単量体を公知の重合方法により重合し、必要に応じて酸性基をアルカリ金属の水酸化物等により中和することにより得ることができ、例えば、特開昭52−988号公報、特開昭55−154970号公報、Langmuir 18巻14号5414〜5421頁(2002年)等に記載の重合方法準じた方法で製造することができる。
【0065】
(b)高分子化合物の粒子を構成する(b−1)特定高分子は、分子量(分子量分布を有するものに関しては、重量平均分子量)2,000〜100,000であることが好ましく、重量平均分子量2,000〜80,000がさらに好ましく、3,000〜50,000が特に好ましい。
【0066】
なお重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。
以下に、(b−1)特定高分子の具体例として、例示化合物(P−1)〜例示化合物(P−10)を示すが本発明はこれらに限定されない。
【0067】
【化19】

【0068】
【化20】

【0069】
〔(b)高分子化合物の粒子の調製方法〕
本発明の(b)高分子化合物の粒子は、前記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む前記(b−1)特定高分子が主成分であり、少なくとも(a)水を含有する水性媒体中に分散されてインク組成物に含まれる。
このような(b)高分子化合物の粒子の製造方法としては、具体的には、例えば、予め調製した水分散性粒子を転送乳化法等の公知方法で乳化分散する方法や、乳化重合法などにより高分子化合物を分散した形態で重合する方法により合成することができる。
これらの中でも、(b)高分子化合物の粒子の製造方法としては乳化分散法が好ましい。乳化分散法としては、前記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む高分子を含有する有機溶媒に水を添加すること、及び、水中に該有機溶媒を添加すること、のいずれかにより、該有機溶媒を乳化させて粒子化させる方法、すなわち、前記(b−1)特定高分子を有機溶剤に溶解させた溶液を調製する第一の工程の後、得られた高分子溶液と少なくとも水を含む液とを混合して分散物を調製する方法が好ましく用いられる。
【0070】
分散の状態としては、(b−1)特定高分子が、水性媒体中に乳化されているもの、乳化重合されたもの、ミセル分散されたもの、あるいは分子中に部分的に親水的な構造をもち分子鎖自身が分子状分散したもの、などのいずれであってもよい。
【0071】
前記(b)高分子化合物の粒子の体積平均粒径は、20〜300nmが好ましく、30〜250nmがより好ましく、30〜200nmが特に好ましい。粒径分布に関しては特に制限はなく、広い粒径分布を持つものでも単分散の粒径分布を持つものでもよい。前記粒径、前記粒径分布は、遠心分離、濾過等の手段により、調製することもできる。
(b)高分子粒子のインク組成物中における含有量としては、2〜15質量%が好ましく、2〜12質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましい。
【0072】
〔(a)水〕
本発明のインク組成物は水を含有する。
(a)水としては、不純物を含まないイオン交換水、蒸留水などを用いることが好ましい。
本発明のインク組成物における水の含有量は、10〜97質量%であることが好ましく、30〜95質量%であることが好ましく、50〜85質量%であることがより好ましい。
【0073】
〔その他の添加剤〕
本発明のインク組成物には、必須成分である(b)高分子化合物の粒子、(a)水に加えて、本発明の効果を損なわない限りにおいて、公知の添加剤を併用することができる。以下、インク組成物に使用しうる添加剤について説明する。
【0074】
〔(c)重合性化合物〕
本発明のインク組成物には、前記(b−1)特定高分子とは構造の異なる重合性化合物を含有してもよい。重合性化合物を含有することで、インク組成物の硬化性が向上し、インク組成物により形成された画像の記録媒体への定着性、画像の耐溶剤性が一層向上する。
重合性化合物は、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合、或いは、前記一般式(1)で表される部分構造の、少なくとも1つ有する水溶性の化合物であれば、どのようなものでもよく、分子量100以上1,000未満の重合性低分子化合物、分子量1,000以上50,000未満の重合性高分子化合物のいずれも使用することができる。
重合性化合物は重合性低分子化合物や重合性高分子化合物をそれぞれ1種のみ用いてもよく、また目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよく、重合性低分子化合物と重合性高分子化合物の両方を用いてもよい。好ましくは2種以上併用することが好ましい。
【0075】
本発明で用いられる重合性化合物は、水溶性の化合物または水分散性の化合物であることを要し、本発明における水溶性または水分散性の化合物とは、室温において蒸留水に2質量%溶解するか、または均一分散して目視で固形分の存在が確認できない状態となるものを指すが、15質量%溶解または分散することが好ましく、任意の割合で水と均一に混合するものが特に好ましい。
【0076】
低分子の重合性化合物の一例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステルおよびこれらの塩;エチレン性不飽和基を有する無水物;(メタ)アクリルアミド;スチレン誘導体;ビニルエーテル類、N−ビニル化合物等が挙げられる。
【0077】
ラジカル重合性化合物は、特に、ラジカル重合性単官能モノマーとラジカル重合性多官能モノマーとが挙げられる。
【0078】
ラジカル重合性単官能モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2−ヒドロキシメチルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、メトキシオリゴエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレンングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0079】
ラジカル重合性多官能モノマーとしては、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス[2−(メタクリロイロキシ)エチル]ホスフェート、メチレンビスアクリレート、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンビスアクリルアミド、トリエチレングリコールジビニルエーテル、特開2005−307198、特開2007−277380に記載のアクリルアミド類などが挙げられる。
【0080】
また、上記以外に、本発明に使用しうる(c)重合性化合物としては、特開2005−307198、特開2007−277380、以下に示すラジカル重合性多官能モノマーも挙げられる。本発明はこれらに限定されない。
【0081】
ラジカル重合性オリゴマーとしては、ポリエステルオリゴマー、ウレタンオリゴマー、変性ポリエーテルオリゴマー、アクリルオリゴマー、エポキシオリゴマー等を用いることができる。これらの中で、加水分解安定性の観点から、重合性基としてアクリルアミド基を有するオリゴマーや水分散性のウレタンオリゴマーがより好ましい。
【0082】
また、前記一般式(1)で表される部分構造を有する低分子化合物も重合性化合物として使用してもよい。
【0083】
このような重合性低分子化合物は、1分子中に、前記一般式(1)で表される部分構造を2〜6有する化合物が好ましく、2〜4有する化合物がより好ましく、2〜3有する下化合物であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
より具体的には下記一般式(1−L)で表される化合物が挙げられる。
【0084】
【化21】

【0085】
前記一般式(1−L)において、R及びRは各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。Qはg価の連結基を表す。gは2以上の整数を表す。
【0086】
式(1―L)におけるR及びRは既述の一般式(1)におけるR及びRとそれぞれ同義であり、好ましい例示も同様である。
【0087】
式(1―L)において、Qはg価の連結基を表す。Qは炭化水素基からg個の水素原子が除去された残基であることが好ましい。Qが炭化水素基である場合、炭化水素基中にはエーテル基、エステル基、アミノ基、アミド結合、シリルエーテル基、チオール基等が存在していてもよい。Qが炭化水素基である場合、炭素数1〜30の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜20の炭化水素基であることがより好ましい。
【0088】
式(1―L)において、gは2以上の整数を表し、2〜6であることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2〜3であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
一般式(1−L)で示される化合物の具体例としては、以下の化合物(4−1)〜(4−6)が好ましく挙げられる。
【0089】
【化22】

【0090】
また、単官能の一般式(1)の構造を有する化合物としては、例えば下記(4−6)〜(4−9)が挙げられる。
【0091】
【化23】

【0092】
高分子の重合性化合物としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、マレイミジル基、スチリル基、ビニルエーテル基、アリル基、または一般式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物が挙げられる。この中でも一般式(1)で表される部分構造を有する水溶性の高分子化合物を併用することが好ましい。
【0093】
インク組成物中の水溶性の重合性化合物の含有量は、0〜30質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましく、0〜10質量%がさらに好ましい。この範囲に調整することで、定着性や吐出性とインク硬化膜の平滑性が良い傾向にある。
【0094】
〔その他の添加剤〕
(f)光重合開始剤
本発明の水性インク組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で重合開始剤を含有してもよい。特に、重合性化合物としてラジカル重合性の化合物を含有する場合には、重合開始剤を含有することが硬化性向上の観点から好ましい。
本発明に使用される重合開始剤は水溶性であることが好ましく、水溶性の程度としては、25℃において蒸留水に0.5質量%以上溶解することが好ましく、1質量%以上溶解することが好ましく、3質量%以上溶解することが特に好ましい。また、光重合開始剤としては、非水溶性の重合開始剤を分散した光重合開始剤も用いることができる。
本発明では、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケトン類及びアシルフォスフィンオキシド類からなる群より選択される重合開始剤を用いることが好ましい。市販品で入手可能な重合開始剤としては、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル]−1−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンのような水溶性の光重合開始剤や、[ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキシド]の水分散物のような疎水性光重合開始剤を用いることができる。
【0095】
〈e〉水溶性有機溶剤
本発明のインク組成物は、主たる溶剤(分散媒)として水を含有するが、目的に応じて、溶剤中に、さらに、水溶性有機溶剤を併用することが好ましい。
ここで水溶性有機溶剤とは、25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である有機溶剤をいう。
【0096】
本発明で用いることのできる水溶性有機溶剤としては、例えば、下記のものが挙げられる。
・アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等)、
・多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール、2−メチルプロパンジオール等)、
・多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、
【0097】
・アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、
・アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、
・複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチレンウレア等)、
・スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、
・スルホン類(例えば、スルホラン等)、
・その他(尿素、アセトニトリル、アセトン等)。
【0098】
好ましい水溶性有機溶剤としては、多価アルコールエーテル類、複素環類が挙げられ、これらを併用して使用することが好ましい。多価アルコールエーテル類では、いわゆるグリコールエーテル類が好ましく、具体的には、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルが好ましく、2−ジプロピレングリコールモノメチルエーテルがさらに好ましい。複素環類としては、2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンウレア等が好ましく、2−ピロリドン、γ−ブチロラクトンが特に好ましい。特に沸点の高い溶剤は好ましく用いることができ、常圧での沸点が120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。
【0099】
水溶性有機溶剤は、単独もしくは複数を併用してもよい。水溶性有機溶剤のインク組成物中の添加量としては、総量で1〜60質量%であり、好ましくは2〜35質量%である。
【0100】
(d)着色剤:顔料分散物
本発明のインク組成物は、着色剤として顔料分散物を含有することで、着色インク組成物となる。着色剤として顔料分散物を用いることは、耐溶剤性向上の観点から好ましい。顔料分散物としては、顔料を顔料分散剤で分散したものの他、自己分散顔料も用いることができる。
【0101】
(顔料)
インク組成物の顔料分散物に含まれていてもよい顔料は、一般に用いられる有機顔料、無機顔料、さらには、樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。通常、市販されている顔料はいずれも使用でき、さらに、市販の顔料分散体や表面処理剤などで予め処理された顔料、例えば、顔料を分散媒としての不溶性の樹脂等に分散させたもの、あるいは顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等も、本発明の効果を損なわない限りにおいて用いることができる。
これらの顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、W.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報に記載の顔料が挙げられる。
【0102】
本発明に用いうる有機顔料及び無機顔料としては、例えば、イエロー色を呈するものとして、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG等)、C.I.ピグメントイエロー74の如きモノアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー12(ジスアジイエロー等)、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー219の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー100(タートラジンイエローレーキ等)の如きアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95(縮合アゾイエロー等)、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー166の如き縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー115(キノリンイエローレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー18(チオフラビンレーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー(Y−24)の如きアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT(Y−110)の如きイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー(Y−138)の如きキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー(Y−139)の如きイソインドリン顔料、C.I.ピグメントイエロー153(ニッケルニトロソイエロー等)の如きニトロソ顔料、C.I.ピグメントイエロー117(銅アゾメチンイエロー等)の如き金属錯塩アゾメチン顔料、C.I.ピグメントイエロー120(ベンズイミダゾロンイエロー)C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー175、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントイエロー194等の如きアセトロン顔料等が挙げられる。
【0103】
赤あるいはマゼンタ色を呈するものとしては、例えば、C.I.ピグメントレッド3(トルイジンレッド等)の如きモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド1、C.I.ピグメントレッド4、C.I.ピグメントレッド6等の如きB−ナフトール顔料、C.I.ピグメントレッド38(ピラゾロンレッドB等)の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントレッド53:1(レーキレッドC等)やC.I.ピグメントレッド57:1(ブリリアントカーミン6B等)、C.I.ピグメントレッド52:1、C.I.ピグメントレッド48(B−オキシナフト酸レーキ等)の如きアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド144(縮合アゾレッド等)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド214、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242の如き縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド174(フロキシンBレーキ等)、C.I.ピグメントレッド172(エリスロシンレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド81(ローダミン6G’レーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド177(ジアントラキノニルレッド等)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド88(チオインジゴボルドー等)の如きチオインジゴ顔料、C.I.ピグメントレッド194(ペリノンレッド等)の如きペリノン顔料、
【0104】
C.I.ピグメントレッド149(ペリレンスカーレット等)、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド224の如きペリレン顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(無置換キナクリドン)、C.I.ピグメントレッド122(キナクリドンマゼンタ等)、C.I.ピグメントレッド262、C.I.ピグメントレッド207、C.I.ピグメントレッド209の如きキナクリドン顔料、C.I.ピグメントレッド180(イソインドリノンレッド2BLT等)の如きイソインドリノン顔料、C.I.ピグメントレッド83(マダーレーキ等)の如きアリザリンレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド171、C.I.ピグメントレッド175、C.I.ピグメントレッド176、C.I.ピグメントレッド185、C.I.ピグメントレッド208の如きナフトロン顔料、C.I.ピグメントレッド247の如きナフトールAS系レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド21、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド256、C.I.ピグメントレッド268、C.I.ピグメントレッド269の如きナフトールAS顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド27の如きジケトピロロピロール顔料等が挙げられる。
【0105】
青あるいはシアン色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー25(ジアニシジンブルー等)の如きジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントブルー16(フタロシアニンブルー等)の如きフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー24(ピーコックブルーレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー1(ビクロチアピュアブルーBOレーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー60(インダントロンブルー等)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントブルー18(アルカリブルーV−5:1)の如きアルカリブルー顔料等が挙げられる。
【0106】
緑色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、C.I.ピグメントグリーン36(フタロシアニングリーン)の如きフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントグリーン8(ニトロソグリーン)、C.I.ピグメントグリーン10等の如きアゾ金属錯体顔料等が挙げられる。
オレンジ色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ66(イソインドリンオレンジ)の如きイソインドリン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ51(ジクロロピラントロンオレンジ)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ2、C.I.ピグメントオレンジ3、C.I.ピグメントオレンジ5の如きΒ−ナフトール顔料、C.I.ピグメントオレンジ4、C.I.ピグメントオレンジ22、C.I.ピグメントオレンジ24、C.I.ピグメントオレンジ38、C.I.ピグメントオレンジ74等の如きナフトールAS顔料、C.I.ピグメントオレンジ61等の如きイソインドリノン顔料、C.I.ピグメントオレンジ43等の如きペリノン顔料、C.I.ピグメントオレンジ15、C.I.ピグメントオレンジ16等の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントオレンジ48、C.I.ピグメントオレンジ49等の如きキナクリドン顔料、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、C.I.ピグメントオレンジ60、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントオレンジ72等の如きアセトロン顔料、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ34等の如きピラゾロン顔料、が挙げられる。
茶色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントブラウン32等のナフトロン顔料などが挙げられる。
【0107】
黒色を呈する顔料としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、C.I.ピグメントブラック1(アニリンブラック)等の如きインダジン顔料、C.I.ピグメントブラック31、C.I.ピグメントブラック32の如きペリレン顔料等が挙げられる。
白色顔料としては、例えば、塩基性炭酸鉛(2PbCOPb(OH)、いわゆる、シルバーホワイト)、酸化亜鉛(ZnO、いわゆる、ジンクホワイト)、酸化チタン(TiO、いわゆる、チタンホワイト)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO、いわゆる、チタンストロンチウムホワイト)などが利用可能である。白色顔料に使用される無機粒子は単体でもよいし、例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン等の酸化物や有機金属化合物、有機化合物との複合粒子であってもよい。
【0108】
ここで、酸化チタンは他の白色顔料と比べて比重が小さく、屈折率が大きく化学的、物理的にも安定であるため、顔料としての隠蔽力や着色力が大きく、さらに、酸やアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れている。したがって、白色顔料としては酸化チタンを利用することが好ましい。もちろん、必要に応じて他の白色顔料(列挙した白色顔料以外であってもよい。)を使用してもよい。
【0109】
白色以外の顔料は、平均粒径が小さいほど発色性に優れるため、本発明に係る顔料分散物を白色以外の顔料分散物に適用する場合であれば、顔料分散物に含有される顔料の平均粒径は、0.01μm〜0.4μm程度であることが好ましく、さらに好ましくは0.02μm〜0.3μmの範囲である。また、顔料の最大粒径は、3μm以下、好ましくは1μm以下がより好ましい。顔料の粒径は、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件の設定などにより調整することができる。また、本発明の顔料分散物を、白色のインク組成物などに適用しうる白色の顔料分散物として調製する場合であれば、顔料分散物に含有される顔料の平均粒径は、充分な隠蔽性を与える観点から、0.05μm〜1.0μm程度であることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm〜0.4μm程度である。白色の顔料分散物とする場合についても、顔料の最大粒径は、3μm以下、好ましくは1μm以下であることが好ましい。
【0110】
(分散剤)
着色剤として顔料を用いる場合には、顔料粒子を調製する際に、必要に応じて顔料分散剤を用いてもよく、用いることのできる顔料分散剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド等の活性剤、あるいはスチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびこれらの塩を挙げることができる。
【0111】
また、本発明のインク組成物には、自己分散顔料を用いることもできる。本発明でいう自己分散顔料とは、分散剤なしで分散が可能な顔料を指し、特に好ましくは、表面に極性基を有している顔料粒子である。
【0112】
本発明でいう表面に極性基を有する顔料粒子とは、顔料粒子表面に直接極性基で修飾させた顔料、あるいは有機顔料母核を有する有機物で直接に又はジョイントを介して極性基が結合しているもの(以下、顔料誘導体という)をいう。
極性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、燐酸基、硼酸基、水酸基が挙げられるが、好ましくはスルホン酸基、カルボン酸基であり、さらに好ましくは、スルホン酸基である。
【0113】
このような表面に極性基を有する顔料粒子を得る方法としては、例えば、WO97/48769号公報、特開平10−110129号公報、特開平11−246807号公報、特開平11−57458号公報、同11−189739号公報、特開平11−323232号公報、特開2000−265094公報等に記載の顔料粒子表面を適当な酸化剤で酸化させることにより、顔料表面の少なくとも一部に、スルホン酸基もしくはその塩といった極性基を導入する方法が挙げられる。具体的には、カーボンブラックを濃硝酸で酸化したり、カラー顔料の場合は、スルフォランやN−メチル−2−ピロリドン中で、スルファミン酸、スルフォン化ピリジン塩、アミド硫酸などで酸化することにより調製することができる。これらの反応で、酸化が進みすぎ、水溶性となってしまった物は除去、精製することにより、顔料分散体を得ることができる。また、酸化によりスルフォン酸基を表面に導入した場合は、酸性基を必要に応じて、塩基性化合物を用いて中和してもよい。
【0114】
そのほかの表面に極性基を有する顔料粒子を得る方法としては、特開平11−49974号公報、特開2000−273383公報、同2000−303014公報等に記載の顔料誘導体をミリングなどの処理で顔料粒子表面に吸着させる方法、特願2000−377068、同2001−1495、同2001−234966に記載の顔料を顔料誘導体と共に溶剤で溶解した後、貧溶剤中で晶析させる方法等を挙げることができ、いずれの方法でも容易に、表面に極性基を有する顔料粒子を得ることができる。
【0115】
顔料表面における極性基は、フリーでも塩の状態でもよいし、あるいはカウンター塩を有していてもよい。カウンター塩としては、例えば、無機塩(リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ニッケル、アンモニウム)、有機塩(トリエチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ピリジニウム、トリエタノールアンモニウム等)が挙げられ、好ましくは1価の価数を有するカウンター塩である。
【0116】
(g)界面活性剤
本発明のインク組成物には、界面活性剤を添加することができる。好ましく使用される界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。特にアニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0117】
また、本発明においては、高分子界面活性剤も用いることができ、以下の水溶性樹脂が、好ましい高分子界面活性剤として挙げられる。水溶性樹脂として好ましく用いられるのは、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体等を挙げることができる。
【0118】
本発明のインク組成物において、ラテックスを用いる場合、その添加量は、固形分添加量で0.1質量%以上、20質量%以下となるように添加されることが好ましく、ラテックスの固形分添加量を0.5質量%以上、10質量%以下とすることが特に好ましい。
【0119】
(h)水性ポリマー
本発明のインク組成物には、(b−1)特定高分子とは構造の異なる水性ポリマーを添加することができる。水性ポリマーの好ましい例としては、ゼラチン、ガゼイン、若しくはアルブミンなどのたんぱく質類、アラビアゴム、若しくはトラガントゴムなどの天然ゴム類、サボニンなどのグルコシド類、アルギン酸及びアルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、若しくはアルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、若しくはエチルヒドロキシルセルロースなどのセルロース誘導体や、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、若しくはアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、若しくはスチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレンアクリル酸樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、及び酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩が挙げられる。
【0120】
(i)増感色素
本発明においては、公知の増感色素を併用することができ、増感色素を併用することが好ましい。溶解性としては蒸留水に対して室温において、0.5質量%以上溶解するものが好ましく、1質量%以上溶解するものがより好ましく。3質量%以上溶解するものが特に好ましい。また、増感度色素としては、非水溶性の重合開始剤を分散した光重合開始剤も用いることができる。
【0121】
併用しうる公知の増感色素の例としては、N−[2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアルミウムクロリド、ベンゾフェノン、チオキサントン、アントラキノン誘導体及び3−アシルクマリン誘導体、ターフェニル、スチリルケトン及び3−(アロイルメチレン)チアゾリン、ショウノウキノン、エオシン、ローダミン及びエリスロシンや、これらを水溶化した変性体やこれらの分散体などが挙げられる。また、特開2010−24276号広報に記載の一般式(i)で表される化合物や、特開平6−107718号広報に記載の一般式(I)で表される化合物も、好適に使用できる。
【0122】
本発明に係るインクには、上述した各構成要素に加えて、必要に応じて、吐出安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤、固体湿潤剤、シリカ微粒子等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号および特開平4−219266号等に記載されている蛍光増白剤、硫酸、リン酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等のpH調整剤等を挙げることができる。
【0123】
<インク組成物の調製方法>
本発明に係るインク組成物の調製方法としては、特に制限はなく、各成分を、ボールミル、遠心ミル、遊星ボールミルなどの容器駆動媒体ミル、サンドミルなどの高速回転ミル、撹拌槽型ミルなどの媒体撹拌ミル、ディスパーなどの簡単な分散機により撹拌、混合し、分散させることにより調製することができる。各成分の添加順序については任意である。好ましくは、アゾ顔料、高分子分散剤及び有機溶剤をプレミックスした後に分散処理し、得られた分散物を樹脂と有機溶剤とともに混合する。この場合、添加時や添加後、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパー、ホモジナイザーなどの簡単な撹拌機にて均一に混合する。ラインミキサーなどの混合機を用いて混合してもよい。また、分散粒子をより微細化するために、ビーズミルや高圧噴射ミルなどの分散機を用いて混合してもよい。また、顔料や高分子分散剤の種類によっては、顔料分散前のプレミックス時に樹脂を添加するようにしてもよい。
【0124】
本発明のインク組成物は、25℃における表面張力が20〜40mN/mであることが好ましい。表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP−Z(協和界面科学(株)製)を用い、25℃の条件下で測定されるものである。また、粘度は、1〜40mPa・sが好ましく、3〜30mPa・sがより好ましい。インク組成物の粘度は、VISCOMETER TV−22(TOKI SANGYOCO.LTD製)を用い、25℃の条件下で測定されるものである。
【0125】
本発明者らは、(b)高分子化合物の粒子と、(a)水とを含むことで、本発明の効果が得られることを見出した。このメカニズムに関しては、明らかになっていないが、本発明者らは以下のように推察する。
即ち、(b)高分子化合物の粒子を構成する(b−1)特定高分子は、側鎖に主鎖と離間して複数の一般式(1)で示される部分構造を有することで、側鎖に存在する重合性、架橋性に寄与する部分構造の運動性の高くなるため、架橋効率を向上させていると考えられる。この結果、定着性等の効果が向上すると推察される。さらに、一般式(1)で示される重合性部位を有することにより、ラジカル重合性の重合性部位を有する化合物に比較して酸素による重合阻害を受けにくいために、酸素の存在下においても、速やかに架橋構造が形成され、緻密な硬化膜が形成され、得られたインク画像は定着性及び耐溶剤性に優れたものとなる、さらに、本発明では(b)高分子化合物を水を含む溶剤中に粒子として存在させることにより、加水分解により重合性官能基が経時で分解する劣化を抑えられる効果を奏する。さらに、本発明の高分子化合物は水不溶性の粒子であるが故、定着後は優れた耐水性を示す。なお、上記メカニズムは推察であり、本発明は上記メカニズムに限定されるものではない。
【0126】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、前記インク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、前記付与したインク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程とを含むことを特徴とする。これらの工程を行うことで、記録媒体上に定着したインク組成物による画像が形成される。
【0127】
(インク付与工程)
以下、本発明の画像形成方法における、インク付与工程について説明する。本発明におけるインク付与工程は、前記インク組成物を記録媒体上に付与する工程であれば限定されない。
【0128】
本発明の画像形成方法に用いられるインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、目的とする解像度を達成し得る公知のインクジェット記録装置を任意に選択して使用することができる。すなわち、市販品を含む公知のインクジェット記録装置であれば、いずれも、本発明の画像形成方法における記録媒体へのインク組成物の吐出を実施することができる。
【0129】
本発明で用いることのできるインクジェット記録装置としては、例えば、インク供給系、温度センサー、加熱手段を含む装置が挙げられる。
インク供給系は、例えば、本発明のインク組成物を含む元タンク、供給配管、インクジェットヘッド直前のインク供給タンク、フィルター、ピエゾ型のインクジェットヘッドからなる。ピエゾ型のインクジェットヘッドは、好ましくは1〜100pl、より好ましくは8〜30plのマルチサイズドットを、好ましくは320×320〜4,000×4,000dpi、より好ましくは400×400〜1,600×1,600dpi、さらに好ましくは720×720dpiの解像度で吐出できるよう駆動することができる。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm(1inch)当たりのドット数を表す。
【0130】
本発明のインク組成物は、吐出されるインク組成物を一定温度にすることが望ましいことから、インクジェット記録装置には、インク組成物温度の安定化手段を備えることが好ましい。一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。すなわち、インク供給タンクからインクジェットヘッド部分までは、断熱及び加温を行うことができる。
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク組成物の流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。温度センサーは、インク供給タンク及びインクジェットヘッドのノズル付近に設けることができる。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断若しくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンタ立上げ時間を短縮するため、あるいは熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0131】
上記のインクジェット記録装置を用いて、インク組成物の吐出はインク組成物を好ましくは25〜80℃、より好ましくは25〜50℃に加熱して、インク組成物の粘度を、好ましくは3〜15mPa・s、より好ましくは3〜13mPa・sに下げた後に行うことが好ましい。特に、本発明のインク組成物として、25℃におけるインク組成物の粘度が50mPa・s以下であるものを用いると、良好に吐出が行えるので好ましい。この方法を用いることにより、高い吐出安定性を実現することができる。
【0132】
吐出時のインク組成物の温度は一定であることが好ましく、インク組成物の温度の制御幅は、より好ましくは設定温度の±5℃、さらに好ましくは設定温度の±2℃、最も好ましくは設定温度±1℃とすることが適当である。
【0133】
本発明において、記録媒体としては、特に限定されず、支持体や記録材料として公知の記録媒体を使用することができる。記録媒体としては、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上述した金属がラミネートされ又は蒸着された紙又はプラスチックフィルム等が挙げられる。中でも、本発明のインク組成物は密着性に優れるため、記録媒体として非吸収性記録媒体に対して好適に使用することができ、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等のプラスチック基材が好ましく、ポリ塩化ビニル樹脂基材がより好ましく、ポリ塩化ビニル樹脂シート又はフィルムがさらに好ましい。
【0134】
(照射工程)
以下、本発明の画像形成方法における、照射工程について説明する。本発明における照射工程は、前記記録媒体上に付与されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する工程であれば限定されない。本発明のインク組成物に活性エネルギー線を照射することで、インク組成物中の化合物の架橋反応が進行し、画像を定着させ、印画物の耐溶剤性等を向上させることが可能となる。この照射工程により、(b−1)特定高分子の反応性基である一般式(1)で示される部分構造による架橋反応が起こり、インク組成物中に下記一般式(5)の架橋構造が形成される。この反応は隣接する高分子化合物の粒子同士、或いは、(b−1)特定高分子と、所望により含まれる一般式(1)で示される部分構造を有する重合性化合物との間でも生起する。この架橋反応はラジカルを介在しない反応であるために酸素により架橋反応が阻害される懸念がないという特徴を有する。
なお、照射工程に先だって、後述する加熱乾燥工程を実施してもよい。
【0135】
【化36】

【0136】
式(5)中、R、R、Ra’及びRb’は各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。Ra’及びRb’は互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。R及びRは、好ましい範囲も含めて、式(P−1)に記載されたものと同様である。Ra’は好ましい範囲も含めて式(P−1)に記載されたRと同様である。Rb’は好ましい範囲も含めて式(P−1)に記載されたRと同様である。なお、一般式(5)における波線は、高分子化合物との結合位置を示す。
【0137】
前記照射工程で用いることができる活性エネルギー線としては、紫外線(以下、UV光とも称する)、可視光腺、電子線等をあげることができ、UV光を使用することが好ましい。
【0138】
UV光のピーク波長は、必要に応じて用いられる増感色素の吸収特性にもよるが、例えば、200〜405nmであることが好ましく、220〜390nmであることがより好ましく、220〜350nmであることがさらに好ましい。本発明では増感色素や光重合開始剤を併用しない場合は200〜310nmであることが好ましく200〜280nmがより好ましい。
【0139】
UV光は、露光面照度が、例えば、10mW/cm〜2,000mW/cm、好ましくは、20mW/cm〜1,000mW/cmで照射されることが適当である。
【0140】
UV光源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、水銀ランプ、メタルハライドランプやUV蛍光灯が広く知られている。また、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用であり、LED(UV−LED)、LD(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、UV光源として期待されている。本発明では増感色素や光重合開始剤を併用する場合は、メタルハライドランプや、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、UV−LEDが好ましく、増感色素や光重合開始剤を併用しない場合は、中圧水銀ランプや低圧水銀ランプが好ましい。
【0141】
本発明のインク組成物は、このようなUV光に、例えば、0.01秒間〜120秒間、好ましくは、0.1秒間〜90秒間照射されることが適当である。
照射条件並びに基本的な照射方法は、特開昭60−132767号公報に開示されている。具体的には、インクの吐出装置を含むヘッドユニットの両側に光源を設け、いわゆるシャトル方式でヘッドユニットと光源を走査する方式や、駆動を伴わない別光源によって行われ、駆動を伴わない別光源によって行われる方式が好ましい。活性エネルギー線の照射は、インク着弾、熱定着後、一定時間(例えば、0.01秒間〜120秒間、好ましくは、0.01秒間〜60秒間をおいて行われることになる。
【0142】
(加熱乾燥工程)
記録媒体上に吐出されたインク組成物は、加熱手段により(a)水および必要に応じて併用される水溶性有機溶剤が蒸発されることにより定着されることが好ましい。吐出された本発明のインク組成物に熱を加え、定着する工程について説明する。
加熱手段としては、(a)水および必要に応じて併用される水溶性有機溶剤を乾燥させることができればよく、限定されないが、ヒートドラム、温風、赤外線ランプ、熱オーブン、ヒート版加熱などを使用することができる。
加熱温度は、40℃以上が好ましく、40℃〜150℃程度がより好ましく、40℃〜80℃程度がさらに好ましい。なお、乾燥/加熱時間は、用いるインク組成物の組成・印刷速度を加味して適宜設定することができる。
加熱により定着された前記溶剤型インク組成物は、必要に応じ、活性エネルギー線を照射して、さらに光定着することができる。UV光による定着をすることが好ましい。
【0143】
<印画物>
本発明の印画物は、画像記録媒体上に、前記本発明のインク組成物により形成された画像を有するか、或いは、前記本発明の画像形成方法によって記録されたインク組成物による画像を有する。従って、本発明の印画物は、定着性と耐溶剤性に優れたインク画像を有する。
【実施例】
【0144】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0145】
実施例、比較例で使用した顔料分散物、インク組成物の素材を以下に示す。
【0146】
<ポリマー分散剤E−1の合成>
撹拌機、冷却管を備えた500mlの三口フラスコにメチルエチルケトン44gを加えて窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン25gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.43g、ベンジルメタクリレート30g、メタクリル酸5g、及びメチルメタクリレート15gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後、メチルエチルケトン1gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.21gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温して4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥し、ポリマー分散剤E−1を43g得た。
得られた樹脂の組成は、H−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は42,000であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)に記載の方法により酸価を求めたところ、65.4mgKOH/gであった。
【0147】
<樹脂被覆顔料の分散物の調製>
(樹脂被覆シアン顔料分散物(C))
ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブルーA220、大日精化(株)製)10部と、上記ポリマー分散剤E−1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1mol/L NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆シアン顔料の分散物(C)を得た。(表中、「C分散物」と記載)
【0148】
(樹脂被覆ブラック顔料分散物(K))
上記樹脂被覆シアン顔料分散物の調製において、顔料として用いたフタロシアニンブルーA220の代わりに、顔料分散体CAB−O−JETTM 200(カーボンブラック、CABOT社製)を用いた以外は上記と同様にして樹脂被覆ブラック顔料の分散物(K)を得た。(表中、「K分散物」と記載)
【0149】
<(b)高分子化合物の粒子>
(b)高分子化合物の粒子の作製に使用した高分子化合物の構造を以下に示す。高分子化合物は特開昭52−988号公報および特開2009−138172号公報を参考に合成した。
【0150】
【表1】

【0151】
【化37】

【0152】
(高分子粒子(D−1)の調製)
イソプロピルエーテル3g、酢酸エチルエステル10部、ポリマー(P−1)1.5部(固形分50%)の溶液を調製した。別途、水18部、及びエマール20C(花王(株))0.4部の混合液を調製した。前記2種の混合液を合わせた後、ホモジナイザー(日本精機製)にて9分間混合乳化した。乳化液を60℃で撹拌濃縮し、酢酸エチルエステルの除去を行い、固形17%の高分子粒子を調製した高分子粒子の体積平均粒子径をLB−500(HORIBA(株)製)で測定したところ、60nmであった。以下、これを高分子粒子(D−1)と略記する。
<高分子粒子(D−2)、(D−3)、比較粒子(D’−1)、(D’−2)の調製>
高分子粒子(D−1)の調製における、P−1をP−2,P−3、B−1、B−2に変更した以外は同様にして高分子粒子(D−2)、(D−3)、比較粒子(D’−1)、(D’−2)を調製した。
【0153】
<水溶性有機溶剤>
・2−ピロリドン(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)
【0154】
(比較高分子化合物B−2)
特開2008−146018を参考に合成を行った。構造は上記した。
<重合性化合物>
(重合性高分子化合物A−1)
構造を以下に示す。
【0155】
【化38】

【0156】
(重合性低分子化合物)
HEAA 2−ヒドロキシエチルアクリルアミド (東京化成工業株式会社製)
<重合開始剤>
表2,3における重合開始剤は、イルガキュア 2959 (BASF・ジャパン製)を表す。
【0157】
<界面活性剤>
表2,3に記載の界面活性剤は、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム、東京化成工業製)及びエマール20C(花王ケミカル社製)から選ばれた界面活性剤である。
【0158】
<インク組成物の調製>
得られた分散物(C分散物、K分散物)を用い、下記の表1に示す組成の実施例1〜16、及び比較例1〜4のインク組成物を、ミキサー(シルバーソン社製L4R)を用いて2,500回転/分にて撹拌して、それぞれ調製した。得られたインク組成物は、プラスチック製のディスポーザブルシリンジに詰め、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の孔径5μmフィルタ(ミリポア社製のMillex−SV、直径25mm)にて濾過して完成インクとした。
【0159】
<インク組成物の評価>
得られたインク組成物を、RK PRINT COAT INSTRUMENTS社製 Kハンドコーター KハンドコーターのNo.2バーを用いて、8cm四方の塩化ビニルシート(エイブリィ・デニソン社製、AVERY 400 GLOSS WHITE PERMANENT)に12μmの厚みで塗布した。さらに60℃で3分間水分を乾燥して塗膜を形成した。
得られた塗膜を用いて、以下の定着性の評価を行った。評価結果は表2及び表3に示す。
【0160】
<定着性評価>
得られた塗膜を低圧水銀灯で500mJ/cmのエネルギーとなる条件で露光した。膜表面の定着度合いを触診にて評価した。べたつきが残る場合は、べたつきが無くなるまで露光を繰り返し、べたつきがなくなるまでの露光量により定着性を評価した。
A:1回の露光でべたつきが無くなる
B:2〜3回の露光でべたつきが無くなる
C:4〜5回の露光でべたつきが無くなる
D:6回以上露光してもべたつきが無くならない
【0161】
<耐溶剤性評価>
得られた各インク組成物及び定着性の評価で作製した印画物を使用し、耐溶剤性の評価を行った。評価結果を表2及び表3に示す。
前述の定着性の評価で得られた塗膜を、低圧水銀灯で2000mJ/cmのエネルギーとなる条件で露光した。印画物の表面を、イソプロピルアルコールを含浸した綿棒にてこすり、以下の基準で評価した。
A:10回以上こすっても、画像に変化が認められなかった。
B:5〜9回のこすりで、画像の濃度が低下した。
C:2〜4回のこすりで、画像の濃度が低下した。
D:1回こすっただけで、画像の濃度が著しく低下した。
【0162】
<吐出性評価>
インクジェット記録装置として、市販のインクジェットプリンタ(ローランド ディー.ジー.社製SP−300V)を用意した。得られた各インク組成物を上記インクジェットプリンタに装填し、塩化ビニルシート(エイブリィ・デニソン社製、AVERY 400 GLOSS WHITE PERMANENT)にヘッドから、3分間吐出し、ベタ画像及び細線を記録した。吐出停止後、得られた画像を3分間放置した。その後、再び、ベタ画像及び細線を記録して得られた画像(5cm×5cm)を観察した。観察した画像を下記の評価基準に従って目視により評価した。評価結果を表2及び表3に示す。
A:抜けの発生等によるドット欠けの発生が認められず、良好な画像が得られた。
B:抜けの発生等によるドット欠けの発生がわずかに認められたが、実用上支障をきたさない程度であった。
C:抜けの発生等によるドット欠けの発生があり、実用に耐えない画像であった。
D:吐出ができなかった。
【0163】
【表2】

【0164】
【表3】

【0165】
なお、前記表2及び表3において「−」は当該化合物を含んでいないことを意味する。
前記表2および表3に示すように、本発明に係る実施例の各インク組成物は、吐出性に優れ、記録した画像の耐溶剤性及び記録媒体に対する定着性に優れることが確認された。特に、インク組成物として重合開始剤を含まない場合や重合開始剤が微量の場合でも定着性に優れた画像を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(a)水を含む分散媒と、該分散媒中に分散状態で存在する(b)下記一般式(1)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物の粒子と、を含有するインク組成物。
【化1】


前記一般式(1)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。*は、高分子化合物における主鎖又は側鎖との結合部位を示す。
【請求項2】
前記高分子化合物が、親水性基をさらに含む高分子化合物である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記インク組成物における前記(b)高分子化合物の粒子の含有量が2.0質量%〜15質量%である、請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記高分子化合物に含まれる繰り返し単位が、下記一般式(2)で表される繰り返し単位である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【化2】


前記一般式(2)中、R及びRは各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して4〜6員の脂環構造を形成してもよい。Rは水素原子又はメチル基を表す。Zは−COO−、又は−CONR−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは2価の有機基を表す。
【請求項5】
前記高分子化合物が、アルコール性水酸基、アルキル置換カルバモイル基、カルボキシル基、スルホ基およびこれらの塩から選ばれる少なくとも一つの親水性基を有する繰り返し単位を含む高分子化合物である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
さらに、前記高分子化合物とは構造の異なる(c)重合性化合物を含有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記(c)重合性化合物が、分子量100以上1,000未満の重合性低分子化合物の1種以上を含む請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
前記(c)重合性化合物が、分子量1,000以上50,000未満の重合性高分子化合物の1種以上を含む請求項6に記載のインク組成物。
【請求項9】
前記(c)重合性化合物が、分子量100以上1,000未満の重合性低分子化合物の1種以上、及び、分子量1,000以上50,000未満の重合性高分子化合物の1種以上を含む請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項10】
前記(b)高分子化合物の粒子の体積平均粒子径が20nm以上300nm未満である請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項11】
さらに(d)顔料分散物を含む請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項12】
さらに(e)水溶性有機溶剤を含む請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項13】
さらに(f)光重合開始剤を含む請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項14】
インクジェット用である請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項15】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載のインク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、記録媒体上に付与されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程とを含む、画像形成方法。
【請求項16】
請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載のインク組成物を記録媒体上に付与するインク付与工程と、記録媒体上に付与されたインク組成物に含まれる(a)水及び(e)水溶性有機溶剤の少なくとも一部を乾燥して除去するインク乾燥工程と、記録媒体上に付与され、乾燥されたインク組成物に活性エネルギー線を照射する照射工程とを含む、画像形成方法。
【請求項17】
画像記録媒体上に、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載のインク組成物により形成されたか、或いは、請求項15又は請求項16に記載の画像形成方法によって記録された画像を有する印画物。

【公開番号】特開2013−6968(P2013−6968A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140985(P2011−140985)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】