説明

インク組成物および印刷物

【課題】優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像の形成に用いることのできるインク組成物を提供すること、また、優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像が形成された印刷物を提供すること。
【解決手段】本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるインク組成物であって、銀粒子と、ワックス粒子と、水とを含み、前記ワックス粒子の含有率が0.02質量%以上1.5質量%以下であり、前記銀粒子の平均粒径をD[nm]、前記ワックス粒子の平均粒径をD[nm]としたとき、0.98≦D/D≦5.40の関係を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物および印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の印刷に用いられるインクとしては、一般に、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのインクを用いて、いわゆるフルカラー画像を形成することが一般に行われている。そして、形成画像の高画質化を図る目的で、インクを多色化(例えば、上記4種のインクに加えて、ライトマゼンタ、ライトシアンのインクを含む6色)が行われている。
しかし、上記のような多色のインクを用いても、金属光沢を表現できないという問題がある。
【0003】
そこで、近年、金属粒子を用いたインクジェット用インク(金属インク)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1で提案されているインクでは、比較的良好な金属光沢が得られるものの、印刷面を擦った際に、インクの構成材料で形成された層に傷が付いたり、剥離すること等により、形成された画像の光沢感が低下し、画質が著しく低下するという問題点があった。このような問題は、金属インクではないカラーインク(顔料インク、染料インク)では、通常発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−297423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性(摩擦に対する耐久性)を有する画像の形成に用いることのできるインク組成物を提供すること、また、優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像が形成された印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるインク組成物であって、
銀粒子と、ワックス粒子と、水とを含み、
前記ワックス粒子の含有率が0.02質量%以上1.5質量%以下であり、
前記銀粒子の平均粒径をD[nm]、前記ワックス粒子の平均粒径をD[nm]としたとき、0.98≦D/D≦5.40の関係を満足することを特徴とする。
これにより、優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像の形成に用いることのできるインク組成物を提供することができる。
【0007】
本発明のインク組成物では、前記銀粒子の平均粒径が5nm以上100nm以下であることが好ましい。
これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0008】
本発明のインク組成物では、前記ワックスの融点が100℃以下であることが好ましい。
これにより、インク組成物を用いて形成される画像の耐擦性を、より長期間にわたって、特に優れたものとすることができる。
本発明のインク組成物では、前記ワックス粒子は、パラフィン混合ワックスで構成されたものであることが好ましい。
これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0009】
本発明のインク組成物では、前記銀粒子の含有率が0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
これにより、インク組成物のインクジェット方式による吐出安定性、インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができる。また、印刷物とされたときの印刷媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合まで、広い密度の範囲で、良好な画質、耐擦性を実現することができる。このため、例えば、インク組成物を用いて得られる印刷物が、銀粒子の密度が異なる領域を有する場合であっても、印刷物の画質を優れたものとすることができる。
【0010】
本発明のインク組成物では、インク組成物は、さらに、1,2−ヘキサンジオールを含むものであることが好ましい。
これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性を特に優れたものとすることができ、インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インク組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、インク組成物を用いて得られる印刷物において、ワックス粒子を、より効率よく、銀粒子間に配置させることができ、印刷物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
【0011】
本発明のインク組成物では、インク組成物は、さらに、トリメチロールプロパンを含むものであることが好ましい。
これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性を特に優れたものとすることができ、インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インク組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、インク組成物を用いて得られる印刷物において、ワックス粒子を、より効率よく、銀粒子間に配置させることができ、印刷物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
本発明の印刷物は、印刷媒体上に、本発明のインク組成物をインクジェット法により付与することにより得られたことを特徴とする。
これにより、優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像が形成された印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《インク組成物》
本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるものである。
このようなインク組成物は、その他の印刷法に用いられるインク組成物とは異なり、液滴の吐出安定性が求められる。また、インクジェット法では、インク組成物中の分散物(分散質)の分散状態が、インク組成物の吐出性に大きな影響を与える。このため、インク組成物中における分散物(分散質)の分散状態が経時的に大きく変化するものであると、液滴の吐出量が不安定化し所望の画像を形成するのが困難になる等、他の印刷法では発生し得ない問題がある。
【0014】
そして、本発明のインク組成物は、銀粒子と、ワックス粒子(粒子状のワックス)と、水とを含み、インク組成物中におけるワックス粒子の含有率が0.02質量%以上1.5質量%以下であり、インク組成物中における銀粒子の平均粒径をD[nm]、インク組成物中におけるワックス粒子の平均粒径をD[nm]としたとき、0.98≦D/D≦5.40の関係を満足する。このように、銀粒子とともに、銀粒子との間で粒径について所定の関係を満足するワックス粒子を所定量含むことにより、インク組成物を用いて得られる画像を、優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性を有するものとすることができることを、本発明者は見出した。
【0015】
(銀粒子)
上述したように、本発明に係るインク組成物は、銀粒子を含むものである。このように、インク組成物が、銀粒子を含むものであることにより(特に、所定の条件を満足するワックスとともに含むことにより)、優れた金属光沢を有する画像を形成することができる。また、銀は、各種金属の中でも、白色度の高い金属であるため、他色のインクと重ね合わせることにより、金色、銅色等の様々な金属色を表現することができる。
【0016】
銀粒子の平均粒径は、上述したようにワックス粒子と所定の関係を満足するものであればよいが、5nm以上100nm以下であるのが好ましく、20nm以上65nm以下であるのが好ましい。これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
【0017】
インク組成物中における銀粒子の含有率は、0.5質量%以上30質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以上15質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インク組成物のインクジェット方式による吐出安定性、インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができる。また、印刷物とされたときの印刷媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合まで、広い密度の範囲で、良好な画質、耐擦性を実現することができる。このため、例えば、インク組成物を用いて得られる印刷物が、銀粒子の密度が異なる領域を有する場合であっても、印刷物の画質を優れたものとすることができる。
銀粒子は、いかなる方法で調製されたものであってもよく、例えば、銀イオンを含む溶液を用意し、この銀イオンを還元することにより、好適に形成することができる。
【0018】
(ワックス)
インク組成物は、ワックス粒子を含むものである。
上述したように、インク組成物中におけるワックスの含有率は、0.02質量%以上1.5質量%以下である。ワックス粒子の含有率が下限値未満であると、インク組成物を用いて製造される印刷物の耐擦性を十分に優れたものとすることができない。一方、ワックス粒子の含有率が上限値を超えると、インク組成物を用いて製造される印刷物の光沢感を十分に優れたものとすることができない。
このように、本発明では、インク組成物中におけるワックスの含有率は、0.02質量%以上1.5質量%以下であるが、0.04質量%以上1.0質量%以下であるのが好ましく、0.08質量%以上0.6質量%以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果はより顕著に発揮される。
【0019】
上述したように、インク組成物中における銀粒子の平均粒径をD[nm]、インク組成物中におけるワックス粒子の平均粒径をD[nm]としたとき、0.98≦D/D≦5.40の関係を満足する。D/Dの値が前記下限値未満であると、インク組成物を用いて製造される印刷物において、ワックス粒子が銀粒子間の隙間に入り込んだワックス粒子が好適に印刷面の表面に露出することができず、十分な耐擦性を発揮することができない等の問題を生じる。一方、D/Dの値が前記上限値を超えると、インク組成物を用いて製造される印刷物において、銀粒子間にワックス粒子が入り込むことが困難となり、ワックス粒子が印刷面の表面に露出することにより印刷物の金属光沢を損なったり、銀粒子の配列を乱すことにより、銀の平滑な配列を阻害し印刷物の金属光沢を損なう等の問題を生じる。また、D/Dの値が前記上限値を超えるとワックス粒子が銀の平滑な配列を阻害してしまうので金属光沢を劣化させてしまう等の問題が生ずる。
【0020】
このように、本発明では、インク組成物中における銀粒子の平均粒径をD[nm]、インク組成物中におけるワックス粒子の平均粒径をD[nm]としたとき、0.98≦D/D≦5.40の関係を満足するが、1.80≦D/D≦3.86の関係を満足するのが好ましく、1.80≦D/D≦3.20の関係を満足するのがより好ましい。これにより、上述したような効果はより顕著に発揮される。
インク組成物中におけるワックス粒子の平均粒径は、8nm以上120nm以下であるのが好ましく、20nm以上100nm以下であるのがより好ましく、50nm以上90nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、上述したような効果はより顕著に発揮される。
【0021】
また、銀粒子の含有率をXAg[質量%]、ワックス粒子の含有率をXWAX[質量%]としたとき、0.002≦XWAX/XAg≦0.1の関係を満足するのが好ましく、0.006≦XWAX/XAg≦0.06の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を十分に優れたものとしつつ、インク組成物を用いて得られる印刷物において、ワックス粒子を、より効率よく、銀粒子間に配置させることができ、印刷物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
【0022】
ワックス粒子としては、例えば、パラフィン混合ワックス、酸化高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンワックス、ポリエチレン系混合ワックス、カルナバワックス、アマイドワックス等の樹脂ワックスを用いることができるが、ワックス粒子は、パラフィン混合ワックスで構成されたものであるのが好ましい。これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(金属光沢)および耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより確実に形成することができる。
【0023】
市販のワックス粒子分散液(エマルションワックス)としては、例えば、AQUACER507(ビックケミー社製)、AQUACER515(ビックケミー社製)、AQUACER531(ビックケミー社製)、AQUACER537(ビックケミー社製)、AQUACER539(ビックケミー社製)、CERAFLOUR990(ビックケミー社製)、CERAFLOUR995(ビックケミー社製)等が挙げられる。
【0024】
ワックスの融点は、100℃以下であるのが好ましく、30℃以上95℃以下であるのがより好ましく、50℃以上95℃以下がさらに好ましい。融点が100℃以下であることにより、ワックス自体が軟化しやすい性質を持ち、滑性のよいワックスとなって耐擦性向上に寄与する。一方30℃未満であると室温において結晶状態を維持することが困難となり、印刷後に印刷物からワックスが流出してしまう場合がある。また、範囲内であることで、インク組成物を用いて形成される画像の耐擦性を、より長期間にわたって、特に優れたものとすることができる。
【0025】
(水)
本発明にかかるインク組成物は、水を含むものである。
インク組成物中において、水は、主に銀粒子およびワックス粒子を分散させる分散媒として機能する。インク組成物が水を含むことにより、銀粒子等の分散安定性等を優れたものとすることができ、また、後述するような液滴吐出装置のノズル付近でのインク組成物の不本意な乾燥(分散媒の蒸発)を防止しつつ、インク組成物が付与される印刷媒体上での乾燥を速やかに行うことができるため、所望の画像の高速印刷を、長期間にわたって好適に行うことができる。
インク組成物中における水の含有率は、特に限定されないが、20質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、25質量%以上70質量%以下であるのがより好ましい。
【0026】
(多価アルコール)
本発明に係るインク組成物は、多価アルコールを含有することが好ましい。多価アルコールは、本実施形態に係るインク組成物をインクジェット式印刷装置に適用した場合に、インク組成物の乾燥を抑制し、インクジェット式印刷ヘッド部分におけるインク組成物による目詰まりを防止することができる。
【0027】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどが挙げられる。中でも、炭素数が4〜8アルカンジオールが好ましく、炭素数が6〜8のアルカンジオールがより好ましい。これにより、印刷媒体への浸透性を特に高いものとすることができる。
【0028】
インク組成物中における多価アルコールの含有率は、特に限定されないが、0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
上記の多価アルコールの中でも、インク組成物は、1,2−ヘキサンジオールを含むものであるのが好ましい。これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性を特に優れたものとすることができ、インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インク組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、インク組成物を用いて得られる印刷物において、ワックス粒子を、より効率よく、銀粒子間に配置させることができ、印刷物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
【0029】
インク組成物が1,2−ヘキサンジオールを含むものである場合、インク組成物中における1,2−ヘキサンジオールの含有率は、0.2質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上6.0質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性をさらに優れたものとすることができ、インク組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができるとともに、インク組成物の吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。また、インク組成物を用いて得られる印刷物において、ワックス粒子を、より効率よく、銀粒子間に配置させることができ、印刷物の耐擦性をより優れたものとすることができる。
【0030】
(グリコールエーテル)
本発明に係るインク組成物は、グリコールエーテルを含有することが好ましい。グリコールエーテルを含有することにより、印刷媒体などの被印刷面への濡れ性を高めてインク組成物の浸透性を高めることができる。
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いると良好な印刷品質を得ることができる。
インク組成物中におけるグリコールエーテルの含有率は、特に限定されないが、0.2質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.3質量%以上10質量%以下であるのがより好ましい。
【0031】
(界面活性剤)
本発明に係るインク組成物は、アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤は、印刷媒体などの被印刷面への濡れ性を高めてインク組成物の浸透性を高めることができる。
【0032】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0033】
ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えば、BYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン社製)などが挙げられる。
さらに、本発明に係るインク組成物は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などのその他の界面活性剤を含有することもできる。
インク組成物中における上記界面活性剤の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上5.0質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であるのがより好ましい。
【0034】
(その他の成分)
本発明に係るインク組成物は、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、pH調整剤、浸透剤、有機バインダー、尿素系化合物、アルカノールアミン(トリエタノールアミン等)等の乾燥抑制剤、チオ尿素等が挙げられる。
【0035】
また、インク組成物は、トリメチロールプロパンを含むものであるのが好ましい。これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性を特に優れたものとすることができ、インク組成物の保存安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インク組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。また、インク組成物を用いて得られる印刷物において、ワックス粒子を、より効率よく、銀粒子間に配置させることができ、印刷物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
【0036】
インク組成物がトリメチロールプロパンを含むものである場合、インク組成物中におけるトリメチロールプロパンの含有率は、3.0質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、6.0質量%以上15質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性をさらに優れたものとすることができ、インク組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができるとともに、インク組成物の吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。また、インク組成物を用いて得られる印刷物において、ワックス粒子を、より効率よく、銀粒子間に配置させることができ、印刷物の耐擦性をより優れたものとすることができる。
【0037】
インク組成物が銀粒子、ワックス粒子以外の固形分(以下「その他の固形分」ともいう)を含む場合、インク組成物中におけるその他の固形分の含有率は、5質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのが好ましい。これにより、上述したような条件を満足する銀粒子およびワックス粒子を含むことによる効果がより顕著に発揮される。
インク組成物中における固形分の含有率は、50質量%以下であるのが好ましく、3.6質量%以上40質量%以下であるのがより好ましく、12質量%以上27質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、インク組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0038】
また、インク組成物の粘度は、特に限定されないが、2.0mPa・s以上12.0mPa・s以下であることが好ましく、3.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることがより好ましい。これにより、液滴の吐出安定性を優れたものとすることができるとともに、印刷媒体に着弾したインク組成物の不本意な濡れ広がりをより確実に防止することができ、微細な画像であっても好適に形成することができる。なお、本明細書中においては、特に断りのない限り、「粘度」とは、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度のことを示す。
【0039】
《印刷物》
本発明の印刷物は、印刷媒体上に、上述したようなインク組成物をインクジェット法により付与することにより得られたものである。これにより、優れた金属光沢を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像が形成された印刷物を提供することができる。
インク組成物が付与される印刷媒体としては、普通紙、インク受理層等を有する専用紙等の紙のほか、例えば、インク組成物が付与される表面を含む領域が、各種プラスチック、セラミックス、ガラス、金属や、これらの複合材料で構成された基材等を用いることができる。
【0040】
《印刷物の製造方法》
図1は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図である。
本実施形態の印刷物の製造方法は、図1に示すようなインクジェット装置(液滴吐出装置)を用いて、上述したようなインク組成物を印刷媒体に向けて吐出する工程(液滴吐出工程)を有する。
【0041】
(吐出工程)
以下に、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター1を用いた液滴吐出について説明する。
図1に示すように、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター1は、フレーム2を有している。フレーム2には、プラテン3が設けられ、プラテン3上には、紙送りモーター4の駆動により用紙Pが給送されるようになっている。また、フレーム2には、プラテン3の長手方向と平行に、棒状のガイド部材5が設けられている。
ガイド部材5には、キャリッジ6がガイド部材5の軸線方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ6は、フレーム2内に設けられたタイミングベルト7を介して、キャリッジモーター8に連結されている。そして、キャリッジ6は、キャリッジモーター8の駆動により、ガイド部材5に沿って往復移動されるようになっている。
【0042】
キャリッジ6には、液滴吐出ヘッド9が設けられるとともに、液滴吐出ヘッド9に液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ10が着脱可能に配置されている。インクカートリッジ10内のインクは、液滴吐出ヘッド9に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ10から印刷ヘッド9へと供給され、液滴吐出ヘッド9のノズル形成面に形成された複数のノズルから、プラテン3上に給送された印刷媒体(基材)Pに対して吐出されるようになっている。
これにより印刷物を製造することが可能となる。
【0043】
(加熱工程)
印刷物の製造方法においては、上述した吐出工程に加え、インク組成物が付与された印刷媒体を過熱する加熱工程を設けてもよい。
本発明に係るインク組成物は、上述したように、分散媒として水を含むものであり、吐出後速やかに乾燥するため、通常、吐出工程の後に、別途、乾燥工程を設ける必要はないが、加熱工程を設けることにより、印刷媒体Sが保水性の高いものである場合や、インク組成物が揮発性の低い液体成分を比較的高い含有率で含む場合(例えば、沸点:160℃以上の液体成分を3質量%以上含む場合等)であっても、最終的に得られる印刷物中に、インク組成物を構成する液体成分が残存することを効果的に防止することができ、印刷物の耐久性、信頼性を、特に優れたものとすることができる。また、加熱工程を設けることにより、ワックス粒子を銀粒子間に配置させた状態で、銀粒子の部分的な融着を促進することができるため、上述したような所定の条件を満足するワックス粒子を含むことによる効果と、相乗的に作用し合い、インク組成物により形成された画像(印刷部)の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
例えば、前述した実施形態では、インク組成物として、コロイド液を用いる場合について代表的に説明したが、コロイド液でなくてもよい。
また、例えば、前述した実施形態では、液滴吐出方式としてピエゾ方式を用いたが、これに限定されず、本発明では、例えば、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。
また、前述した実施形態では、インク組成物をインクジェット方式による吐出に用いるものとして説明したが、インク組成物は、他の印刷法に適用するものであってもよい。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インク組成物の調製
(実施例1)
ポリビニルピロリドン(重合平均分子量10000)を70℃の条件下で15時間加熱して、その後室温で冷却をした。そのPVP1000gを、エチレングリコール溶液500mlに添加してPVP溶液を調整した。別の容器にエチレングリコールを500ml入れ、硝酸銀128gを加えて電磁攪拌器で十分に攪拌をして硝酸銀溶液を調整した。PVP溶液を120℃の条件下でオーバーヘッドミキサーを用いて攪拌しつつ、硝酸銀溶液を添加して約80分間加熱して反応を進行させた。そして、その後室温で冷却をさせた。得られた溶液を遠心分離機で2200rpmの条件下で10分間遠心分離を行った。その後、分離が出来た銀粒子を取り出して、余分なPVPを除去するためエタノール溶液500mlに添加した。そして、さらに遠心分離を行い、銀粒子を取り出した。さらに、取り出した銀粒子を真空乾燥機で35℃、1.3Paの条件下で乾燥させた。
【0046】
上記のようにして得られた銀粒子と、1,2−ヘキサンジオールと、トリメチロールプロパンと、界面活性剤としてのオルフィンE1010(日信化学社製)と、ワックス(パラフィン混合ワックス)としてのAQUACER539(ビックケミー・ジャパン社製)と、イオン交換水とを表1に従って混合することにより、インク組成物とした。
なお、本実施例において、銀粒子の平均粒子径は「マイクロトラックUPA」(日機装株式会社製)を用い、測定条件は、屈折率を0.2−3.9i、溶媒(水)の屈折率を1.333、測定粒子形状を球形、とした。
(実施例2〜13)
インク組成物の調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。
【0047】
(比較例1〜7)
インク組成物の調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。
表1には、前記各実施例および各比較例のインク組成物の構成を示す。なお、表1中、1,2−ヘキサンジオールを1,2−HD、トリメチロールプロパンをTMP、オルフィンE1010(日信化学社製)をE1010、ワックス(パラフィン混合ワックス)としてのAQUACER539(ビックケミー・ジャパン社製、融点:90℃)の固形分をAQ539、ワックス(酸化高密度ポリエチレン)としてのAQUACER515(ビックケミー・ジャパン社製、融点:135℃)の固形分をAQ515、ワックス(ポリエチレン系混合ワックス)としてのAQUACER531(ビックケミー・ジャパン社製、融点:130℃)の固形分をAQ531、p−ノニルフェノキシポリグリシドールをNPPG、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩(変色防止剤)をSMBT、硫酸アンモニウム(pH調整剤)をAS、アクリル樹脂の主鎖に、側鎖としてオキサゾリン基を有する水溶性オキサゾリン基含有ポリマー(バインダー樹脂)をBR、グリセリンをGL、プロキセルXL−2をXL−2、ジエチレングリコールモノブチルエーテルをS1で示した。また、前記各実施例についてのインク組成物の粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、5.0mPa・s以上10.0mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0048】
【表1】

【0049】
[2]印刷物の製造
前記各実施例および各比較例について、インク組成物を用いて、以下のようにして、印刷物を製造した。
まず、印刷媒体としてのインクジェット用専用紙(写真用紙):PGPP(セイコーエプソン社製)を用意した。
【0050】
この印刷媒体のインク受理層が設けられた面側に、図1に示すような液滴吐出装置を用いて、duty:40%の所定のパターンでインク組成物を付与した。これにより、印刷物が得られた。なお、本明細書において、「duty」とは、下式で算出される値である。
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0051】
[3]評価
[3.1]光沢度
前記各実施例および各比較例に係る印刷物の印刷面について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268 K−108382)を用い、煽り角度80°で、光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
【0052】
A:光沢度が125以上。
B:光沢度が121以上125未満。
C:光沢度が117以上121未満。
D:光沢度が113以上117未満。
E:光沢度が109以上113未満。
F:光沢度が105以上109未満。
G:光沢度が105未満。
【0053】
[3.2]耐擦性
前記各実施例および各比較例に係る印刷物について、印刷物の製造から48時間経過した時点で、サウザーランドラブテスターを用い、JIS K5701に準じて耐擦性試験を行い、上記[3.1]で述べたのと同様の方法により、耐擦性試験後の印刷物についても光沢度(煽り角度60°)を測定し、耐擦性試験前後での光沢度の低下率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0054】
A:光沢度の低下率が10%未満。
B:光沢度の低下率が10%以上15%未満。
C:光沢度の低下率が15%以上20%未満。
D:光沢度の低下率が20%以上25%未満。
E:光沢度の低下率が25%以上30%未満。
F:光沢度の低下率が30%以上35%未満。
G:光沢度の低下率が35%以上50%未満。
これらの結果を表2に示した。
【0055】
【表2】

【0056】
表2から明らかなように、本発明に係る印刷物では、光沢度および耐擦性に優れていたのに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。また、実施例の中でもパラフィン混合ワックスを用いたものが特に優れていた。
また、本発明に係るインク組成物は、液滴の吐出安定性に優れ、また、保存安定性に優れており、長期間にわたって、安定した液滴吐出を行うことができ、印刷物の製造に好適に用いることができた。これに対し、比較例2、5に係るインク組成物は、液滴の吐出安定性、保存安定性に劣っており、微細な印刷パターンの形成を確実に行うことができず、また、長期保存後の液滴吐出の不安定化が著しかった。
【符号の説明】
【0057】
1…インクジェット式プリンター(プリンター) 2…フレーム 3…プラテン 4…紙送りモーター 5…ガイド部材 6…キャリッジ 7…タイミングベルト 8…キャリッジモーター 9…液滴吐出ヘッド(印刷ヘッド) 10…インクカートリッジ P…印刷媒体(基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により吐出されるインク組成物であって、
銀粒子と、ワックス粒子と、水とを含み、
前記ワックス粒子の含有率が0.02質量%以上1.5質量%以下であり、
前記銀粒子の平均粒径をD[nm]、前記ワックス粒子の平均粒径をD[nm]としたとき、0.98≦D/D≦5.40の関係を満足することを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
前記銀粒子の平均粒径が5nm以上100nm以下である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ワックスの融点が100℃以下である請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記ワックス粒子は、パラフィン混合ワックスで構成されたものである請求項1ないし3のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項5】
前記銀粒子の含有率が0.5質量%以上30質量%以下である請求項1ないし4のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項6】
インク組成物は、さらに、1,2−ヘキサンジオールを含むものである請求項1ないし5のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項7】
インク組成物は、さらに、トリメチロールプロパンを含むものである請求項1ないし6のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項8】
印刷媒体上に、請求項1ないし7のいずれかに記載のインク組成物をインクジェット法により付与することにより得られたことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−41378(P2012−41378A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180866(P2010−180866)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】