説明

インサートドライブ式摩擦圧接法及び装置

【課題】 ブレーキ動作によらず低入熱でインサート材と被接合材との間の接合を完了する。
【解決手段】 被接合材3、4の間に被接合材3、4の接合面よりも大径のインサート材2を介設し、インサート材2の中心部分Xを各被接合材3、4で挟持した状態で加圧すると共にインサート材3、4の外周部分Yに回転動力を伝達して回転運動させ、被接合材3、4とインサート材2との間の接合面に接合可能な温度の摩擦熱を発生させる摩擦圧接方法であって、インサート材2の回転軸線方向の肉厚tを、摩擦トルクが初期最大値を示す時点以降にインサート材2が中心部分Xと外周部分Yとに分離される捩りせん断破壊を生じる厚さに設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの被接合材の間にインサート材を介在させて接合を行うインサートドライブ式摩擦圧接法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な摩擦圧接法は、一対の被接合材を互いに衝合させる方向に加圧した状態で高速で擦り合わせ、それにより生じる摩擦熱で接合面を軟化させる摩擦発熱工程と、接合面が適当な加熱状態になった時点で更に高い圧力(アプセット圧力)で加圧して接合を完了させるアプセット工程とから構成される。これによれば、被接合材同士を互いに摩擦することで圧接を行うようにしているので、従来から行われているアーク溶接やガス溶接等に比べて、摩擦熱以外の熱源や溶接棒等が不要となると共に、接合時に火花やガスが出ないため製造ラインへの組み込みが容易であるという利点がある。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された摩擦圧接法は、一方の被接合材を固定し、他方の被接合材にクラッチを介して回転動力を伝達させることで、接合面に摩擦熱を発生させると共に、回転軸線方向には密着する加圧力を与えている。そして、接合可能温度に達した時点で該クラッチを切って一方の被接合材を回転自在にすると同時に他方の被接合材の回転にブレーキをかけることで、互いを同調回転させて接合を完了させるようにしている。しかし、この場合には、各被接合材を相対的に回転させる必要があるため、位相合わせを要する角材等を接合することは困難であると共に、被接合材が長大である場合には被接合材自体を回転させることも困難となる。
【0004】
そこで、特許文献2に開示された摩擦圧接法は、一対の被接合材の間にインサート材を挿入した状態でインサート材を被接合材に対して接触回転させ、その摩擦熱によってインサート材とその両側の被接合材とを接合するインサートドライブ方式としている。この方式によれば、被接合材は固定した状態で接合作業を行うことができるため、被接合材が角材等であっても予め位相合わせをして固定すれば、簡単に正しい位相で接合を完了させることが可能となる。また、被接合材自体は回転させないので、被接合材が長大であっても無理なく接合を行うことができる。
【特許文献1】特開2003−62676号公報
【特許文献2】特開2002−224856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、摩擦圧接を完了させるためには、接合面の温度が接合可能な程度に加熱されてからインサート材の回転にブレーキをかけてアプセット工程に移ればよいため、ブレーキタイミングを厳密に考慮せずに十分に長い時間を確保した上で適当なタイミングでブレーキをかけて摩擦圧接を完了してもよい。
【0006】
しかしながら、摩擦発熱工程の時間が無駄に長くなると、摩擦損耗による寄り代が大きくなってバリが増大し、被接合材の材料が有効利用できなくなると共にバリ除去作業にも負担が生じる。さらに、摩擦時間が長くなって余分な熱量の発生が大きくなると、被接合材の接合部分とは無関係な箇所に熱の影響が及び、母材強度が低下する恐れもある。
【0007】
よって、インサート材と被接合材との間の接合面が接合可能な温度になってからできるだけ速やかに回転運動を停止させて低入熱で摩擦圧接を完了させることが望ましいが、そうすると接合面が接合可能な温度になった直後にインサート材の回転を急停止させるべくブレーキ等の動作タイミングを制御する必要が生じてコストアップとなる。
【0008】
そこで、本発明は、ブレーキ動作によらずにインサート材と被接合材との間の接合を完了できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係るインサートドライブ式摩擦圧接法は、2つの被接合材の間に前記被接合材の接合面よりも大径のインサート材を介設し、該インサート材の中心部分を前記各被接合材で挟持した状態で加圧すると共に前記インサート材の外周部分に回転動力を伝達して回転運動させ、前記各被接合材と前記インサート材との間の接合面に接合可能な温度の摩擦熱を発生させる摩擦圧接法であって、前記インサート材の回転軸線方向の肉厚を、前記インサート材と前記各被接合材との間の摩擦トルクが初期最大値を示す時点以降に前記インサート材が中心部分と外周部分とに分離される捩りせん断破壊を生じる厚さに設定したことを特徴とする。
【0010】
このようにすると、上記のようにインサート材の肉厚を設定することで摩擦圧接工程中のインサート材に捩りせん断破壊が生じ、被接合材に挟持される中心部分と動力伝達される外周部分とが分離されるので、インサート材の中心部分への動力伝達が自動的に遮断されて、インサート材と被接合材との間の相対速度がゼロとなる。したがって、ブレーキ制御等を行うことなく自動的に摩擦圧接による接合を完了させることが可能となり、生産効率が向上すると共に装置コストも低減することができる。
【0011】
さらに、摩擦トルクが初期最大値を示す時点以降に捩りせん断破壊が生じるようにインサート材の肉厚を設定しているので、接合面の全面が接合可能温度となった状態でインサート材と被接合材との間の相対速度がゼロとなる。したがって、インサート材と被接合材との間の接合面の全面を確実に接合させることができ、良好な接合強度を得ることができる。
【0012】
前記インサート材の回転軸線方向の肉厚を、前記インサート材と前記各被接合材との間の摩擦トルクが前記定常状態に移るまでの時間領域で前記捩りせん断破壊を生じる厚さに設定してもよい。
【0013】
このようにすると、摩擦トルクが定常状態となるまでに捩りせん断破壊が生じるようにインサート材の肉厚を設定しているので、摩擦時間が短くなって摩擦損耗による寄り代やバリが低減されると共に余分な摩擦熱も発生しない。したがって、被接合材の材料が有効利用されてバリ除去作業の負担も軽減できると共に、低入熱で母材強度の低下も防止できる。
【0014】
前記インサート材は、前記中心部分と外周部分との間の位置で回転軸線方向の肉厚が小となる薄肉部を有していてもよい。
【0015】
このようにすると、インサート材は薄肉部により中心部分と外周部分とに分断されやすくなるので、他の部位の回転軸線方向の肉厚を厚くすることが可能となる。
【0016】
前記インサート材は前記各被接合材に挟持されるように回転体に内嵌固定し、前記インサート材のうち前記回転体に固定される外周端部の肉厚は、前記各被接合材の間で挟持される部位の肉厚よりも大きくしてもよい。
【0017】
このようにすると、前述のような摩擦トルクが初期最大値から定常状態に移るまでの時間領域で捩りせん断破壊が生じるインサート材が回転軸線方向に薄肉であっても、回転体に内嵌固定されるインサート材の外周端部は接合部位よりも厚肉としているので、該外周端部によりインサート材を回転体に対して安定して固定することができる。
【0018】
また、本発明のインサートドライブ式摩擦圧接装置は、インサート材が内嵌固定される貫通孔を有する中央回転歯車と、前記中央回転歯車の周囲に前記中央回転歯車と噛合状態で配置された複数の支持歯車と、前記支持歯車の少なくとも一つに回転動力を伝達する回転駆動手段と、前記インサート材の両側に対向接触される一対の被接合材を保持する固定側保持手段と、前記各被接合材を前記インサート材に向けて押圧する加圧手段とを備えていることを特徴とする。
【0019】
一対の被接合材の間にインサート材を介在させた状態で互いを摩擦圧接により接合する際は、回転軸線方向の肉厚が小さいインサート材を回転させようとすると、従来の回転チャック等ではインサート材を安定して保持することが困難となる。
【0020】
そこで、前記摩擦圧接装置によれば、インサート材を中央回転歯車に内嵌固定する構造としているので、インサート材のサイズに応じた中央回転歯車を用いるだけで、あらゆる肉厚のインサート材も安定して固定することができる。また、中央回転歯車はその周囲に噛合状態で配置された各支持歯車によって径方向の移動が規制されている構造であり、中央回転歯車を保持する主軸等を取り付ける必要がなく、部品点数を削減できる利点がある。さらに、中央回転歯車を保持する部材を設けずに済むことで、回転軸線方向の長さをより短くすることができ、薄肉のインサート材も容易に保持することが可能となる。
【0021】
前記インサート材は、前記中央回転歯車の回転軸心部に形成された貫通孔に内嵌されてもよい。このようにすると、インサート材を中央回転歯車の回転軸心部に設けることで、インサート材と被接合材との間の摩擦トルクが中央回転歯車に均一に負荷されるため、中央回転歯車を安定して回転させることができる。
【0022】
前記中央回転歯車は径方向の分割面を有する複数の分割歯車に分割されており、前記各分割歯車が互いに合致した状態で固定されることで前記貫通孔が形成される構成となっていてもよい。
【0023】
このようにすると、被接合材が長尺である場合であっても、摩擦圧接完了後に中央回転歯車を各分割歯車に分解することで、接合された被接合材を中央回転歯車から簡単に取り出すことができる。
【0024】
前記中央回転歯車はその外周面から前記貫通孔に通じるネジ穴を有する一方、前記インサート材は外周面に凹部を有し、前記ネジ穴に外周側から通したネジの先端部が前記貫通孔に内嵌された前記インサート材の前記凹部に突き当てられることで、前記インサート材が前記中央回転歯車に固定される構成となっていてもよい。このようにすると、ネジ止めによる簡素な構成でインサート材を中央回転歯車に対して容易に固定することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から明らかなように、本発明のインサートドライブ式摩擦圧接法によれば、ブレーキ制御等を行うことなく自動的に接合を完了させることが可能となり、生産効率の向上やコスト低減を図ることができる。さらに、インサート材と被接合材との間の接合面の全面を確実に接合させることができ、良好な接合強度を得ることができる。また、本発明のインサートドライブ式摩擦圧接装置によれば、薄肉のインサート材も容易に保持することが可能となると共に、中央回転歯車を保持する部材も削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0027】
図1は本発明の第1実施形態に係るインサートドライブ式の摩擦圧接装置1を示す全体図である。図2は摩擦圧接装置1の要部斜視図である。図1および図2に示すように、摩擦圧接装置1は、インサート材2を回転軸心部に内嵌固定する中央回転歯車(回転体)5を有し、この中央回転歯車5の周囲に4つの支持歯車6〜9が配置されている。即ち、中央回転歯車5の径方向の移動は周囲の支持歯車6〜9のみによって規制されている。また、各支持歯車6〜9は中央回転歯車5に対して適度な遊び(バックラッシュ)を有する状態で噛み合わされている。
【0028】
各支持歯車6〜9のうち一つの支持歯車8には、回転駆動手段となる駆動モータ10の出力軸11に設けられた駆動歯車12が噛み合わされており、駆動モータ10からの回転動力が支持歯車8を介して中央回転歯車5に伝達されるようになっている。また、中央回転歯車5および支持歯車6〜9の回転軸線方向の両側にはケーシング19が配置されている。このケーシング19には、支持歯車6〜9が回転自在に取り付けられていると共に、被接合材3、4が非接触で貫通される孔(図示せず)を有している。
【0029】
中央回転歯車5と距離をあけた回転軸線方向の両側には、回転軸線方向の移動を許容するスラストベアリング14がそれぞれ設けられ、これらスラストベアリング14には略円柱状の被接合材3、4をそれぞれ挟持固定する固定側保持手段である固定側チャック13がそれぞれ設けられている。これら固定側チャック13にはそれぞれピストンロッド15の一端が連結され、これらピストンロッド15の他端が加圧手段となる油圧シリンダ16のピストンに接続されている。また、各ピストンロッド15の軸線方向の中間部分にはアーム17の一端が固定され、アーム17の他端にはロードセル18の検出部が当接している。即ち、アーム17のモーメントをロードセル18で受け止めることにより、被接合材3、4に負荷される摩擦トルクをピストンロッド15およびアーム17を介してロードセル18で検出している。
【0030】
図3(a)はインサート材2の中央回転歯車5への固定を説明する斜視図、(b)は断面図である。図4(a)は摩擦圧接前の状態を示す図面である。図3(a)(b)に示すように、中央回転歯車5は、その外周面に交互に形成された山部5aと谷部5bが設けられていると共に、その回転軸心部にはインサート材2の外径と略同径の貫通孔5cが設けられている。さらに、中央回転歯車5には、その外周面の谷部5bから貫通孔5cに通じるネジ穴5dが設けられている。
【0031】
インサート材2は、図3(a)および図4(a)に示すように、直径がd1、外周端部の厚さがWの金属円盤であり、その金属円盤の両側端面が直径d2の円形状に凹加工されており、断面I形状を呈している。即ち、インサート材2の外周端部2bの肉厚Wは、内側薄肉部2aの肉厚tよりも大きくなっている。さらに、図3(a)(b)に示すように、インサート材2の外周面には凹部2cが形成されている。そして、中央回転歯車5のネジ穴5dに外周側からネジ20を通して、貫通孔5cに内嵌されたインサート材2の凹部2cにネジ20の先端部20aを突き当てることにより、例えば10mm以下の薄肉のインサート材2であっても中央回転歯車5に対して容易に固定することができる。また、被接合材3、4の接合面3a、4aの直径はd3であり、インサート材2の内側薄肉部2aの直径d2の方が大径(d2>d3)となるようにしている。
【0032】
次に、摩擦圧接装置1を使用したインサートドライブ方式の摩擦圧接手順について説明する。図4(b)は摩擦圧接中の状態を示す図面、(c)は捩りせん断破壊を生じた状態を示す図面である。まず、中央回転歯車5に内嵌固定するインサート材2の内側薄肉部2aの肉厚tを、後で詳述するように摩擦トルクが初期最大値から定常状態に移るまでの時間領域でインサート材2に捩りせん断破壊が生じる厚さに設定する。
【0033】
図1および図4(b)に示すように、両側の油圧シリンダ16に圧油を供給して各ピストンロッド15を近接方向に進出させることで、中央回転歯車5に内嵌固定されたインサート材2の内側薄肉部2aの両側面に被接合材3、4の端面(接合面)3a、4aを加圧状態で押し付ける。これと共に、駆動モータ10を駆動して出力軸11に設けた駆動歯車12を高速回転させることで、これに連動して回転する支持歯車6〜9の回転動力が中央回転歯車5に伝達される。これにより、固定された被接合材3、4に対してインサート材2が相対的に高速回転し、インサート材2と各被接合材3、4との間の界面で摩擦発熱が生じる。その際、中央回転歯車5と支持歯車6〜9との間には若干の遊びがあるため、主軸によって支持されない中央回転歯車5は回転軸線が完全には固定されない状態で回転する。
【0034】
図4(c)に示すように、そのまま所要時間が経過すると、被接合材3、4の接合面3a、4aの損耗によりバリBを発生させながら、インサート材2と各被接合材3、4との間の境界面温度が所定値まで上昇して摩擦圧接可能な状態となる。また、これと共に、ロードセル18で検出されるトルク、即ち、インサート材2の回転駆動力が被接合材3、4に伝達されることで生じる摩擦トルクが上昇する。この摩擦トルクが初期最大値を示した時点で、所定の肉厚tに設定されたインサート材2の内側薄肉部2aは、被接合材3、4の接合面3a、4aと略同径の中心部分Xと、その外周部分Yとに分断される捩りせん断破壊を生じる。よって、外周部分Yに伝達される中央回転歯車5の回転駆動力は中心部分Xに伝達されなくなり、被接合材3、4と中心部分Xとの相対回転速度は自動的にゼロとなって摩擦圧接による接合が完了される。
【0035】
次に、インサート材2の内側薄肉部2aの肉厚tについて詳述する。図5(a)は摩擦トルク、せん断破壊トルクおよび相対回転速度と時間との関係を示すグラフ、(b)は肉厚tのインサート材を用いた場合の摩擦トルクおよび相対回転速度と時間との関係を示すグラフである。図5(a)に示すように、通常の摩擦圧接工程においては、インサート材と被接合材とが所定の加圧状態で相対回転すると、摩擦温度の上昇と共に摩擦トルクが増加し、ある時点で接合面の全面が摩擦圧接可能な状態となる初期最大値を示した後、摩擦トルクを若干低下させて定常状態へと収束する。
【0036】
ここで、図5(a)にはインサート材2の被接合材3、4により挟持される部位の肉厚がt、t、t(t<t<t)である場合におけるせん断破壊トルクの曲線がそれぞれ描かれている。せん断破壊トルクとは、前述のようにインサート材2が内外周に分断される捩りせん断破壊を生じる際の摩擦トルクをいう。せん断破壊を生じる断面の面積はπd3・tであるので、インサート材2のせん断強度をτとすると、インサート材2から被接合材3、4へ伝達可能な摩擦トルクの臨界値であるせん断破壊トルクTは、以下の数式1で表される。
【0037】
T=(π・d3・t)τ/2 ・・・(数式1)
そして、常温でのインサート材2のせん断強度をτとすると、常温でのせん断破壊トルクTは以下の数式2で表される。
【0038】
=(π・d3・t)τ/2 ・・・(数式2)
摩擦圧接中においてインサート材2の温度が上昇すると、インサート材2のせん断強度はτよりも小さくなるため、時間経過と共にせん断破壊トルクは徐々に減少して最終的には定常値を示すものと考えられる。よって、図5(a)では個々のせん断破壊トルクの曲線は時間経過と共に徐々に減少している。
【0039】
また、図5(a)ではインサート材2の被接合材3、4により挟持される部位の肉厚がt、t、tと増加するにつれてせん断破壊トルクの値は増加しており、肉厚が大きいほど捩りせん断破壊が生じにくくなっている。
【0040】
具体的には、肉厚が最も薄いtの場合は、実際の摩擦トルクとせん断破壊トルクの曲線との交点は初期最大値を示す時点より前の時間領域にあるので、インサート材2と被接合材3、4とは接合面の一部で接合されて全面にわたって接合することはできない。
【0041】
一方、肉厚が最も厚いtの場合には、実際の摩擦トルクとせん断破壊トルクの曲線との交点が定常状態に入った時間領域にある或いは交点がない状態となる。定常状態の時間領域に交点がある場合には、余分な摩擦損耗によりバリBや寄り代が増大して材料に無駄が生じることとなる。また、交点がない場合には、インサート材2に捩りせん断破壊が生じないため、ブレーキ等によりインサート材2の回転停止を制御しなければならず、自動的に摩擦圧接を完了させることができない。
【0042】
そこで、tとtの間の肉厚であるtとすると、実際の摩擦トルクが初期最大値の時点でせん断破壊トルクのラインとの交差するため、インサート材2と被接合材3、4とは接合面の全面にわたって接合され、かつ、余分な摩擦損耗によりバリや寄り代が増大することもなく自動的に摩擦圧接を完了させることができる。即ち、図5(b)に示すように、摩擦トルクが初期最大値を示した時点で、捩りせん断破壊がインサート材2に生じ(図4(c)参照)、インサート材2の分断された中心部分Xと被接合材3、4との間の相対回転速度が急減してゼロとなり、摩擦トルクもゼロとなる。なお、図5(a)では、肉厚tの場合にせん断破壊トルクの曲線が実際の摩擦トルクのラインと初期最大値の時点で交差しているが、摩擦トルクが初期最大値から定常状態に移るまでの時間領域でせん断破壊トルクの曲線が交差するようなインサート材2の肉厚tであればよい。
【0043】
以上のようにインサート材2の内側薄肉部2aの肉厚tを前述した値にすれば、摩擦圧接工程中のインサート材2に捩りせん断破壊が生じ、被接合材3、4に挟持される中心部分Xと動力伝達される外周部分Yとに分離されるので、インサート材2の中心部分Xへの動力伝達が自動的に遮断されて、インサート材2と被接合材3、4との間の相対速度がゼロとなる。したがって、ブレーキ制御等を行うことなく自動的に摩擦圧接による接合を完了させることが可能となり、生産効率が向上すると共に装置コストも低減できる。
【0044】
また、摩擦トルクが定常状態となるまでに捩りせん断破壊が生じるようにインサート材2の肉厚tを設定することで、摩擦損耗によるバリや寄り代が低減されると共に余分な摩擦熱も発生しない。したがって、被接合材3、4の材料が有効利用されてバリ除去作業の負担も軽減できると共に、低入熱で母材強度の低下も防止できる。
【0045】
さらに、摩擦トルクが初期最大値を示す時点以降に捩りせん断破壊が生じるようにインサート材の肉厚tを設定することで、被接合材3、4の接合面3a、4aの全面が接合可能温度となった状態でインサート材2と被接合材3、4との間の相対回転速度がゼロとなる。したがって、被接合材3、4の接合面3a、4aの全面をインサート材2に対して確実に接合させることができる。
【0046】
また、被接合材3と被接合材4とが接合が困難な異種材料であったとしても、インサート材2を各被接合材3、4に対して溶接性の良好な材料とすることで、3種類の異種材料を同時接合することが可能となる。
【0047】
なお、本実施形態ではインサート材2の外周端部2bの外形を円形状としているが、矩形状等のように非円形状としてもよい。
【0048】
次に、第2実施形態について説明する。
【0049】
図6(a)は第2実施形態の中央回転歯車50の分解斜視図、(b)は組立後の中央回転歯車50の斜視図である。図6(a)(b)に示すように、第2実施形態の中央回転歯車50は、径方向の分割面51f、52fを有する一対の分割歯車51、52に分割されている。各分割歯車51、52は対称形状であり、外周面に山部51a、52aと谷部51b、52bが設けられていると共に、対向する分割面51f、52fの中央には半円凹部51c、52cが設けられている。また、半円凹部51c、52cの一側の分割面51f、52fには嵌合凹部51d、52dが形成され、他側には嵌合凸部51e、52eが形成されている。さらに、一方の分割歯車51には、その外周面の谷部51bから半円凹部51cにネジ20を通すインサート材固定用のネジ穴(図示せず)が設けられている。また、各分割歯車51、52には、その外周面の谷部51b、52bから半円凹部51c、52cを通らずに相手側の分割歯車52、51へとネジ53、54を通す歯車固定用のネジ穴(図示せず)が設けられている。
【0050】
前記構成の中央回転歯車50へのインサート材2の組み付けは、インサート材2を一方の分割歯車52の半円凹部52cに嵌めた状態で、各分割歯車51、52の嵌合凸部51e、52eを対向する嵌合凹部51d、52dに嵌合させる。そして、合致した半円凹部51c、52cで形成される貫通孔内にインサート材2が配置された状態で、歯車固定用のネジ穴にネジ53、54を通して対向する分割歯車51、52同士を互いに固定する。また、インサート材固定用のネジ穴に外周側からネジ20を通して、インサート材2の凹部2cにネジ20の先端部20aを突き当てることにより、インサート材2を中央回転歯車50に固定する。
【0051】
以上のような構成の中央回転歯車50を用いることで、被接合材3、4が長尺である場合であっても、摩擦圧接完了後に中央回転歯車50を各分割歯車51、52に分解することで、接合済みの被接合材3、4を中央回転歯車50から簡単に取り出すことが可能となる。なお、本実施形態では、ネジ20を上方からのみ挿通させているが、側方からもネジを挿入してインサート材を固定するようにしてもよい。
【0052】
次に、第3実施形態について説明する。
【0053】
図7(a)は第3実施形態のインサート材21の正面図、(b)は側面図である。図7(a)(b)に示すように、第3実施形態のインサート材21は、中心部分21bと外周部分21aとの間の位置で回転軸線方向の肉厚tを小とする溝部21cを円形状に設けることで薄肉部21dを形成している。
【0054】
本実施形態では、インサート材21の外周部分21aの直径d1および肉厚Wは第1実施形態と同様である。溝部21cの内周端の直径d5は、被接合材3、4の接合面3a、4aの直径d3より若干大きくなっている、溝部21cの外周端の直径d4は、d1より小さい値で適宜決定される。なお、本実施形態では中心部分21bの肉厚W1と外周部分21aの肉厚W2は同一としているが、必要に応じて外周部分21aの肉厚W2を大きくしてもよい。
【0055】
以上の構成とすると、摩擦圧接を行うことにより発生する摩擦熱が薄肉部21dに伝達され、その薄肉部21dで温度上昇して捩りせん断破壊を生じる。したがって、インサート材21は薄肉部21dにより中心部分21bと外周部分21aとに分断されやすくなるので、中心部分21bの回転軸線方向の肉厚W1を厚くすることができる。
【0056】
次に、前記第1実施形態についての具体的な実施例を比較例と対比しながら説明する。インサート材2は、常温では少なくとも初期最大トルクT以上の摩擦トルクをインサート材2から被接合材3、4へ伝達する必要があるため、インサート材2の内側薄肉部2aの肉厚tの下限値は、以下の数式3を満たさなければならない。
【0057】
>2・T/(π・d3・τ) ・・・(数式3)
この数式3に、被接合材3、4の接合面3a、4aの直径d3が10mm、せん断強度τが261MPa、初期最大トルクTが50N−mとして代入すると、t>1.22mmとなる。そこで、温度上昇によるインサート材2のせん断強度の低下を考慮して、肉厚tに1.70mm、3.15mm、4.00mmの3種類を用いて実験を行うこととした。
【0058】
(実施例)
実施例のインサート材2および被接合材3、4には軟鋼材(JIS G4051 S15CK)を用いた。インサート材2については、最外径d1が24mm、内側薄肉部2aの直径d2が14mm、内側薄肉部2aの肉厚tが3.15mm、外周端部2bの肉厚Wが10mmとした。また、被接合材3、4の接合面3a、4aの直径d3は10mmとした。また、インサート材2の回転速度は27.5rps(1650rpm)で、摩擦圧力は36MPaとし、アプセット圧力は付加せずに実験を行った。なお、インサート材2と被接合材3、4との接合面には予めアセトン脱脂を行った。
【0059】
(比較例1)
比較例1のインサート材2の内側薄肉部2aの肉厚tは1.70mmとした。なお、その他の条件は前述の実施例と同様である。
【0060】
(比較例2)
比較例2のインサート材2の内側薄肉部2aの肉厚tは4.00mmとした。なお、その他の条件は前述の実施例と同様である。
【0061】
(実験結果および考察)
図6は、実施例および比較例1、2の摩擦圧接後の接合部分の正面図と軸線方向で切断した断面図とを示している。実施例では、接合部分の外周の全周からバリが排出され、断面を見ると被接合材3、4の接合面3a、4aの全面をインサート材2が覆っており、良好な継手が得られている。また、バリも少量で済み、寄り代は1mm以内であった。
【0062】
一方、比較例1では、インサート材は圧接面の半分程度しか残存しておらず、摩擦トルクが初期最大値を示す前、即ち、圧接面の全面が接合可能温度になる前にインサート材2に捩りせん断破壊が生じたと考えられる。また、比較例2では、インサート材2に捩りせん断破壊が発生せず、インサート材2の外周端部2bが分離されないままとなっていると共に寄り代も大きくなっていることが分かる。
【0063】
以上より、インサート材2の肉厚tを、摩擦トルクが初期最大値から定常状態に移るまでの時間領域でインサート材2に捩りせん断破壊が生じる厚さに設定することで、生産効率を向上させながらも良好な継手を得ることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明に係る摩擦圧接方法は、生産効率の向上やコスト低減等を図ることができると共に、本発明に係る摩擦圧接装置は、薄肉のインサート材も容易に保持することが可能となる優れた効果を有し、インサート材を用いた摩擦圧接に適用するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインサートドライブ式の摩擦圧接装置を示す全体図である。
【図2】図1に示す摩擦圧接装置の要部斜視図である。
【図3】(a)はインサート材の中央回転歯車への固定を説明する斜視図、(b)は断面図である。
【図4】(a)は摩擦圧接前の状態を示す図面、(b)は摩擦圧接中の状態を示す図面、(c)は捩りせん断破壊を生じた状態を示す図面である。
【図5】(a)は摩擦トルク、せん断破壊トルクおよび相対回転速度と時間との関係を示すグラフ、(b)は肉厚tのインサート材を用いた場合の摩擦トルクおよび相対回転速度と時間との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は第2実施形態の中央回転歯車の分解斜視図、(b)は組立後の中央回転歯車の斜視図である。
【図7】(a)は第3実施形態のインサート材の正面図、(b)は側面図である。
【図8】実施例および比較例1、2の摩擦圧接後の接合部分を示す図面である。
【符号の説明】
【0066】
1 摩擦圧接装置
2、21 インサート材
2a 内側薄肉部
2b 外周端部
2c 凹部
3、4 被接合材
5、50 中央回転歯車
5c 貫通孔
5d ネジ穴
6〜9 支持歯車
10 駆動モータ(回転駆動手段)
13 固定側チャック(固定側保持手段)
16 油圧シリンダ(加圧手段)
20 ネジ
51、52 分割歯車
t 肉厚
X 中心部分
Y 外周部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの被接合材の間に前記被接合材の接合面よりも大径のインサート材を介設し、該インサート材の中心部分を前記各被接合材で挟持した状態で加圧すると共に前記インサート材の外周部分に回転動力を伝達して回転運動させ、前記各被接合材と前記インサート材との間の接合面に接合可能な温度の摩擦熱を発生させる摩擦圧接法であって、
前記インサート材の回転軸線方向の肉厚を、前記インサート材と前記各被接合材との間の摩擦トルクが初期最大値を示す時点以降に前記インサート材が中心部分と外周部分とに分離される捩りせん断破壊を生じる厚さに設定したことを特徴とするインサートドライブ式摩擦圧接法。
【請求項2】
前記インサート材の回転軸線方向の肉厚を、前記インサート材と前記各被接合材との間の摩擦トルクが前記定常状態に移るまでの時間領域で前記捩りせん断破壊を生じる厚さに設定した請求項1に記載のインサートドライブ式摩擦圧接法。
【請求項3】
前記インサート材は、前記中心部分と外周部分との間の位置で回転軸線方向の肉厚が小となる薄肉部を有している請求項1又は2に記載のインサートドライブ式摩擦圧接法。
【請求項4】
前記インサート材は前記各被接合材に挟持されるように回転体に内嵌固定し、前記インサート材のうち前記回転体に固定される外周端部の肉厚は、前記各被接合材の間で挟持される部位の肉厚よりも大きくしている請求項1乃至3のいずれかに記載のインサートドライブ式摩擦圧接法。
【請求項5】
インサート材が内嵌固定される貫通孔を有する中央回転歯車と、
前記中央回転歯車の周囲に前記中央回転歯車と噛合状態で配置された複数の支持歯車と、
前記支持歯車の少なくとも一つに回転動力を伝達する回転駆動手段と、
前記インサート材の両側に対向接触される一対の被接合材を保持する固定側保持手段と、
前記各被接合材を前記インサート材に向けて押圧する加圧手段と
を備えていることを特徴とするインサートドライブ式摩擦圧接装置。
【請求項6】
前記インサート材は、前記中央回転歯車の回転軸心部に形成された貫通孔に内嵌される請求項5に記載のインサートドライブ式摩擦圧接装置。
【請求項7】
前記中央回転歯車は径方向の分割面を有する複数の分割歯車に分割されており、前記各分割歯車が互いに合致した状態で固定されることで前記貫通孔が形成される構成となっている請求項5又は6に記載のインサートドライブ式摩擦圧接装置。
【請求項8】
前記中央回転歯車はその外周面から前記貫通孔に通じるネジ穴を有する一方、前記インサート材は外周面に凹部を有し、
前記ネジ穴に外周側から通したネジの先端部が前記貫通孔に内嵌された前記インサート材の前記凹部に突き当てられることで、前記インサート材が前記中央回転歯車に固定される構成となっている請求項5乃至7のいずれかに記載のインサートドライブ式摩擦圧接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−136499(P2007−136499A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332797(P2005−332797)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月20日 社団法人溶接学会発行の「溶接学会全国大会講演概要 第77集」に発表
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】