説明

インジウムターゲット及びその製造方法

【課題】スパッタ時の異常放電や形成する膜中のパーティクルの発生を良好に抑制することが可能な新規なインジウムターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】インジウムターゲットは、粒径が0.5〜20μmの介在物を1500個/g以下含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインジウムターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムターゲットは、従来、バッキングプレート上にインジウム合金等を付着させた後、金型にインジウムを流し込み鋳造することで作製されている。このようなインジウムターゲットの溶解鋳造法においては、鋳型に供給されたインジウム原料が空気中の酸素と反応して酸化物を形成することがあるが、このような絶縁性の酸化物がインジウムターゲット中に存在していると、スパッタリングによる薄膜形成の際の異常放電や、形成した薄膜中へのパーティクルの発生等の問題が生じる。
【0003】
このような問題に対し、特許文献1では、所定量のインジウム原料を一度に鋳型に供給せずに複数回に分けて供給し、都度生成した溶湯表面の酸化インジウムを除去し、その後、冷却して得られたインゴットを表面研削してインジウムターゲットを作製している。そして、これによれば、得られるインジウムターゲット中の酸化物の発生を抑制することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−24474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、従来、スパッタ時の異常放電や形成する膜中のパーティクルの発生を抑制する手段として、インジウムターゲット中の酸素濃度を制御することに重点が置かれている。このように、従来、インジウムターゲット中に存在する微量の介在物については、問題視することはなく、これらを除去又は低減する検討は行なわれていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、スパッタ時の異常放電や形成する膜中のパーティクルの発生を良好に抑制することが可能な新規なインジウムターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、スパッタ時の異常放電の発生の原因がインジウムターゲットに含まれる所定の粒径の異物にあることを見出し、この所定の粒径の異物の含有量を制御することで、スパッタ時の異常放電や形成する膜中のパーティクルの発生を良好に抑制することができることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、粒径が0.5〜20μmの介在物を1500個/g以下含むインジウムターゲットである。
【0009】
本発明に係るインジウムターゲットは一実施形態において、粒径が0.5〜20μmの介在物を500個/g以下含む。
【0010】
本発明に係るインジウムターゲットは別の一実施形態において、前記介在物が、金属、金属酸化物、炭素、炭素化合物、塩素化合物からなる群から選択された1種以上である。
【0011】
本発明に係るインジウムターゲットは更に別の一実施形態において、前記介在物が、Fe、Cr、Ni、Si、Al、Coからなる群から選択された1種以上の金属又はその酸化物である。
【0012】
本発明は別の一側面において、インジウム原料を容器内で溶解し、配管を通して鋳型に供給し、鋳型内で冷却することで鋳造するインジウムの製造方法であり、前記容器、前記配管及び前記鋳型において、前記インジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)が5μm以下であるインジウムの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スパッタ時の異常放電や形成する膜中のパーティクルの発生を良好に抑制することが可能な新規なインジウムターゲット及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】実施例1の♯1に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図1B】実施例1の♯1に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図2A】実施例1の♯2に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図2B】実施例1の♯2に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図3A】実施例1の♯3に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図3B】実施例1の♯3に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図4A】実施例1の♯4に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図4B】実施例1の♯4に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図5A】実施例1の♯5に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図5B】実施例1の♯5に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図6A】実施例1の♯6に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図6B】実施例1の♯6に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図7A】実施例1の♯7に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図7B】実施例1の♯7に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図8A】実施例1の♯8に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図8B】実施例1の♯8に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図9A】実施例1の♯9に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図9B】実施例1の♯9に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図10A】実施例1の♯10に係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図10B】実施例1の♯10に係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【図11A】実施例1のメンブレンフィルターに係るSEM/EDX分析で得られたSEM写真である。
【図11B】実施例1のメンブレンフィルターに係るSEM/EDX分析で得られた元素分布グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のインジウムターゲットは、粒径が0.5〜20μmの介在物を1500個/g以下含んでいる。介在物は、インジウム原料に含まれていた不純物や、主に製造工程で混入した不純物又は生成物に起因するものであり、インジウムターゲットの組織の中に存在する固形物を意味する。介在物は、例えば、金属、金属酸化物、炭素、炭素化合物、塩素化合物からなる群から選択された1種以上である。また、介在物は、Fe、Cr、Ni、Si、Al、Coからなる群から選択された1種以上の金属又はその酸化物であってもよい。
インジウムターゲット中の介在物は、スパッタ時の異常放電や、形成した膜中のパーティクルの発生等の問題を引き起こすが、本発明のインジウムターゲットは、上記のように粒径及び個数密度が制御されているため、このような問題の発生が良好に抑制される。ここで、介在物の粒径を20μm以下としているのは、粒径が20μmを超える介在物が混入することは少ないこと、さらに、20μmを超える介在物が混入していてもその量は粒径が20μm以下の介在物の量と相関があるために、20μm以下の介在物の密度を考慮すれば充分であるからである。介在物の粒径を0.5以上としているのは、粒径が0.5μm以下の介在物は、非常に小さい為に、異常放電への影響が殆どないからである。また、個数密度が1500個/g以下であることで、異常放電を抑制できるという効果が得られる。
また、上記介在物の粒径は小さいほど好ましい。さらに、上記介在物の密度は好ましくは500個/g以下であり、より好ましくは300個/g以下である。
【0016】
上記介在物のサイズは、「液体用光散乱式自動粒子計数器」(九州リオン株式会社製)で測定されて得られる。この測定法は、液中で粒子のサイズを選別し、その粒子濃度や粒子数を測定するもので、「液中パーティクルカウンター」とも言われており、JIS B 9925に基づくものである(以下、この測定を「液中パーティクルカウンター」とも称する)。
この測定方法を具体的に説明すると、5gをサンプリングし、介在物が溶解しないように、ゆっくりと200mlの酸で溶解し、さらにこれを500mlになるように、純水で稀釈し、この10mlを取り、前記液中パーティクルカウンターで測定するものである。例えば、介在物の個数が800個/mlの場合では、10mlの中には0.1gのサンプルが測定されることになるので、介在物は8000個/gとなる。
なお、本発明において、介在物の個数は、液中パーティクルカウンターによる測定に限られず、同様の個数の測定が可能であれば、他の手段を用いて測定しても良い。
【0017】
本発明のインジウムターゲットは、例えば、CIGS系薄膜太陽電池用光吸収層のスパッタリングターゲット等、各種のスパッタリングターゲットとして好適に使用することができる。
【0018】
本発明に係るインジウムターゲットの製造方法の好適な例を順を追って説明する。まず、原料であるインジウムを所定の容器内で溶解する。使用するインジウム原料は、不純物が含まれていると、その原料によって作製される太陽電池の変換効率が低下してしまうという理由により高い純度を有していることが望ましく、例えば、純度99.99質量%(純度4N)以上のインジウムを使用することができる。次に、溶解したインジウム原料を配管を通して鋳型に供給する。
インジウムターゲット中の介在物は、原料の純度の他、インジウム原料がターゲットの製造工程において接触する部位の表面粗さ(Ra)にも大きく影響される。このため、本発明では、上記容器、配管及び鋳型は、それぞれインジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)が5μm以下のものを用いる。容器、配管及び鋳型の構成材料としては特に限定されないが、例えば、インジウム原料を汚染しないような材料であるステンレス等を挙げることができる。本発明で用いる容器、配管及び鋳型のインジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)の値:5μm以下は、当該分野で一般的に用いられるものに比べて極めて小さい。このような接触表面は、電解研磨加工等によって得られる。容器、配管及び鋳型のインジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)は、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下である。
本発明に係るインジウムターゲットの製造方法では、上述のように、インジウム原料がターゲットの製造工程において接触する部位の表面粗さ(Ra)、特に容器、配管及び鋳型の当該部位の表面粗さ(Ra)に着目している。このため、従来の製造方法では、上記容器、配管及び鋳型の使用を続けると表面が荒れてしまい、その表面粗さ(Ra)が増大していくことでも問題が生じているのに対し、本発明ではこれらに常に注意を払い、当該部位の表面粗さ(Ra)を5μm以下に保持することで、インジウムターゲットが、粒径が0.5〜20μmの介在物を含有することを抑制し続けることができる。
【0019】
その後、室温まで冷却して、インジウムインゴットを形成する。冷却速度は空気による自然放冷でよい。続いて、得られたインジウムインゴットを必要であれば所望の厚さまで冷間圧延し、さらに必要であれば酸洗、脱脂及び表面の切削加工を行うことにより、インジウムターゲットを作製する。
【0020】
このような製造方法によれば、インジウム原料を溶解する容器、鋳型へ供給する配管及び鋳型のそれぞれインジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)が5μm以下であるため、インジウムが流れていく際等で、容器、配管及び鋳型内部の構成材料であるステンレス中に含有される鉄、クロム、ニッケル等の金属及びその酸化物が含有されることが殆どなくなる。従って、作製されたインジウムターゲットには、粒径が0.5〜20μmの介在物が1500個/g以下含まれることとなる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0022】
(実施例1)
まず、純度4Nのインジウムを原料として使用し、このインジウム原料を容器内で160℃にて溶解させ、この溶体を配管を通して、周囲が直径205mm、高さ7mmの円柱状の鋳型に流し込んだ。続いて、自然冷却により凝固して得られたインジウムインゴットを直径204mm、厚さ6mmの円板状に加工して、スパッタリングターゲットとした。ここで、インジウム原料を溶解する容器、鋳型へ供給する配管及び鋳型については、ステンレス製であって、それぞれインジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)が3μmのものを用いた。
【0023】
(実施例2及び3)
インジウム原料を溶解する容器、鋳型へ供給する配管及び鋳型について、それぞれインジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)が1μm(実施例2)、5μm(実施例3)のものを用いた以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0024】
(比較例1及び2)
インジウム原料を溶解する容器、鋳型へ供給する配管及び鋳型について、それぞれインジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)が22μm(比較例1)、10μm(比較例2)のものを用いた以外は、実施例1と同様の条件でインジウムターゲットを作製した。
【0025】
(介在物及び異常放電の測定)
実施例及び比較例で得られたインジウムターゲットについて、それぞれ5.0gだけ採取し、介在物が溶解しないように、ゆっくりと200ml原液塩酸で溶解した後、超純水で500mlまで希釈した。続いて、当該希釈液を10ml取り、九州リオン株式会社製の液体用光散乱式自動粒子計数器(液中パーティクルカウンター)で液中の介在物個数を測定した。この測定を3回繰り返し、平均値を算出した。
さらに、これら実施例及び比較例のインジウムターゲットを、ANELVA製SPF−313Hスパッタ装置で、スパッタ開始前のチャンバー内の到達真空度圧力を1×10-4Pa、スパッタ時の圧力を0.5Pa、アルゴンスパッタガス流量を5SCCM、スパッタパワーを650Wで30分間スパッタし、目視により観察されたスパッタ中の異常放電の回数を計測した。
各測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
(パーティクルの分析)
実施例1及び比較例1について、上記介在物の測定の際に調整した希釈液を孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)メンブレンフィルターでフィルタリングした後、観察したパーティクルを無作為に10個(♯1〜♯10)選び、メンブレンフィルター自体と共に、SEM/EDX(走査型分析電子顕微鏡)分析を行った。
分析結果(SEM写真及び元素分布グラフ)を図1〜11に示す。
【0028】
(評価)
実施例1〜3では、いずれも粒径が0.5〜20μmの介在物を1500個/g以下含んでおり、異常放電が観察されなかった。また、パーティクルの分析により、Fe、Cr、Ni、Si、Al、Co、C、Clの存在が認められた。
比較例1及び2では、いずれも粒径が0.5〜20μmの介在物を1500個/g超で含んでおり、異常放電が観察された。また、パーティクルの分析により、Fe、Cr、Niが実施例1の8倍以上認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が0.5〜20μmの介在物を1500個/g以下含むインジウムターゲット。
【請求項2】
粒径が0.5〜20μmの介在物を500個/g以下含む請求項1に記載のインジウムターゲット。
【請求項3】
前記介在物が、金属、金属酸化物、炭素、炭素化合物、塩素化合物からなる群から選択された1種以上である請求項1又は2に記載のインジウムターゲット。
【請求項4】
前記介在物が、Fe、Cr、Ni、Si、Al、Coからなる群から選択された1種以上の金属又はその酸化物である請求項3に記載のインジウムターゲット。
【請求項5】
インジウム原料を容器内で溶解し、配管を通して鋳型に供給し、鋳型内で冷却することで鋳造するインジウムの製造方法であり、
前記容器、前記配管及び前記鋳型において、前記インジウム原料と接する部分の表面粗さ(Ra)が5μm以下であるインジウムの製造方法。

【図1B】
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【図2B】
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【図3B】
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【図4B】
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【図5B】
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【図6B】
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【図7B】
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【図8B】
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【図9B】
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【図10B】
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【図11B】
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【図1A】
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【図2A】
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【図3A】
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【図4A】
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【図5A】
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【図6A】
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【図7A】
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【図8A】
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【図9A】
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【図10A】
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【図11A】
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【公開番号】特開2012−224911(P2012−224911A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93071(P2011−93071)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【特許番号】特許第4884561号(P4884561)
【特許公報発行日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】