説明

インジウム回収装置

【課題】インジウム含有の廃棄物からインジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できる。
【解決手段】廃棄物W1中の有機物を除去した後の残渣Rfを受け入れて加熱し、残渣Rfにインジウムを還元雰囲気の中で気化させるプラズマ炉5と、プラズマ炉5から排出された気体状のインジウムを凝縮させるスプラッシュコンデンサー7とを備える。このインジウム回収装置1では、インジウムを凝縮して回収できるため、不純物の混入は少なく、インジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムを含有する廃棄物からインジウムを回収するインジウム回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(液晶テレビ、プラズマテレビ、携帯電話ディスプレイ等)や太陽電池パネルには、電極素材としてITO(インジウム−スズ酸化物)薄膜が使用されている。フラットパネルディスプレイなどは、近年、急速に需要が高まっており、ITO薄膜の製造のために必要となるインジウムの需要も高まっている。インジウムは希少金属であり、需要の増大に伴うインジウム素材の高騰もあって、フラットパネルディスプレイ(液晶テレビ、プラズマテレビ、携帯電話ディスプレイ等)や太陽電池パネルからインジウムを回収するための技術の確立は急務である。インジウムを回収する技術としては、例えば、ITOスクラップから酸抽出によってインジウムを回収する装置が知られている(特許文献1参照)。この種の装置では、廃ITOパネル等を溶媒抽出によって溶媒側にインジウムを移行させた後でインジウムを取り出している。
【特許文献1】特開2002−69544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、廃ITOパネルには多量のガラス分が含まれていたりして、嵩張るわりには、廃ITOパネル中に含まれるインジウムの量は極めて少なく、従来の装置での回収は極めて効率が悪いために経済性も悪かった。また、従来の装置で回収したとしてもインジウムの他に不純物が多く混入されていることから、インジウムをITOなどの再利用に適した状態で効率よく回収することは難しかった。
【0004】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、廃ITOなどのインジウム含有の廃棄物からインジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できるインジウム回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、インジウム含有の廃棄物からインジウムを回収するインジウム回収装置において、廃棄物中に含まれる金属のうち、少なくともインジウムを還元雰囲気の中で気化させる気化手段と、気化手段から排出された気体状のインジウムを凝縮させる凝縮手段と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明では、インジウム含有の廃棄物は気化手段でインジウムが気化され、気体状のインジウムが凝縮手段で凝縮されて回収される。したがって、不純物の混入は少なく、インジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できる。
【0007】
さらに、廃棄物を受け入れて加熱し、廃棄物中の有機物を熱分解によって除去した後に気化手段に排出する熱分解手段を更に備えると好適である。廃棄物中の有機物を熱分解によって除去し、残った廃棄物からインジウムを回収するため、従来の溶媒抽出によってインジウムを回収する装置に比べて、大量の廃棄物の処理に有効である。さらに、インジウム含有の廃棄物からは有機物が除去されるため、不純物の混入は更に少なくなり、インジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できる。
【0008】
さらに、気化手段では、インジウムの蒸発温度以上で、且つ、鉄の蒸発温度以下の温度で、廃棄物が加熱されると好適である。鉄の蒸発温度はインジウムの蒸発温度よりも高く、廃棄物の加熱温度を上記の温度範囲にすることで、廃棄物中に鉄が含まれていても鉄は気化されない。従って、インジウムを鉄から分離して効率よく回収できる。
【0009】
さらに、凝縮手段は、溶融した亜鉛を貯留する貯留槽と、貯留槽内に気体状のインジウムを導入するインジウム導入部と、を備えていると好適である。インジウムは、亜鉛鉱石などとして自然界に存在しており、亜鉛と非常に結びつき易い。上記構成では、気体状のインジウムが導入される貯留槽内に溶融した亜鉛が貯留されているため、気体状のインジウムは、貯留槽内で溶融した亜鉛に接触して凝縮する。インジウムだけだと、廃棄物中に含まれるインジウムの量は極めて少なく、凝縮手段に導入される気体状のインジウムの量も微量であると推定できる。そのため、溶融状態のインジウムは極めて少なくなり、気体状のインジウムとの接触面積が少なくなってインジウムが凝縮されずに排出されてしまう虞が高くなる。上記構成では、貯留槽内に溶融した亜鉛を貯留するのでインジウムを亜鉛で捕捉して効率よく凝縮させることができ、亜鉛−インジウム合金として回収できる。さらに、インジウムは、亜鉛鉱石などとして生産されることから、亜鉛−インジウム合金からインジウムのみを精製する技術は確立されており、亜鉛−インジウム合金を回収することができれば、インジウムを再利用する上での障害は少なく、再利用に有効である。
【0010】
さらに、凝縮手段は、貯留槽内に貯留された亜鉛を攪拌して飛散させる攪拌翼を更に有するスプラッシュコンデンサーであると好適である。溶融した亜鉛を飛散させることで、気体状のインジウムとの接触面積は更に大きくなり、インジウムの効率的な凝縮に有効である。
【0011】
さらに、熱分解手段には、廃棄物と共に亜鉛を含有する亜鉛含有物が投入されると好適である。亜鉛の蒸発温度は、インジウムの蒸発温度よりも低い。従って、亜鉛含有物が投入されると、気化手段では、少なくとも亜鉛とインジウムとが気化され、気体状の亜鉛とインジウムとが貯留槽に導入される。ここで、インジウムは、亜鉛と一緒に効率よく凝縮されるため、インジウムの回収に有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インジウム含有の廃棄物からインジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るインジウム回収装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るインジウム回収装置を概略的に示す図、図2はキルン式熱分解炉を概略的に示す図、図3はプラズマ炉を概略的に示す図、図4は、スプラッシュコンデンサーを概略的に示す図である。
【0014】
図1に示されるように、インジウム回収装置1は、フラットパネルディスプレイ(液晶テレビ、プラズマテレビ、携帯電話ディスプレイ等)や太陽電池パネルなどのインジウム含有の廃棄物W1及び廃乾電池(UDB:Used Dry Battery)などの亜鉛含有の廃棄物(亜鉛含有物)W2を処理し、これらの廃棄物W1,W2から各種金属を回収する装置である。フラットパネルディスプレイや太陽電池パネルには、電極素材として、ITO(インジウム−スズ酸化物)薄膜が使用されており、インジウム回収装置1では、主としてITO薄膜で使用されたインジウムの回収に有効である。
【0015】
インジウム回収装置1は、インジウム含有の廃棄物W1や亜鉛含有の廃棄物W2を受け入れて加熱するキルン式熱分解炉(熱分解手段)3と、キルン式熱分解炉3から排出された残渣Rfを受け入れて加熱するプラズマ炉(気化手段)5と、プラズマ炉5から排出された気体状のインジウム及び亜鉛を含む排ガスを受け入れるスプラッシュコンデンサー(凝縮手段)7とを備えている。
【0016】
キルン式熱分解炉3は、縦型キルンもあるが、本実施形態では横型キルンを採用している。図2に示されるように、キルン式熱分解炉3は、インジウム含有の廃棄物W1や亜鉛含有の廃棄物W2を焙焼する円筒形状の焙焼炉9と、焙焼炉9から排出される燃焼排ガスを二次燃焼する二次燃焼室11とを備えている。焙焼炉9及び二次燃焼室11は還元雰囲気に保持され、焙焼炉9では300℃〜700℃の炉内温度に維持されている。
【0017】
焙焼炉9の外周には歯車9aが設けられ、焙焼炉9は図示しないモータによって軸線L回りに回転する。焙焼炉9は、廃棄物W1,W2を受入れ側Usから排出側Dsへ移動させることができるように、受入れ側Usから排出側Dsに向けて下方に傾斜されている。焙焼炉9と二次燃焼室11とは、焙焼炉9が回転可能に且つ接合部の気密が保持されるように接合されている。廃棄物W1,W2を焙焼した後の残渣Rfと燃焼排ガスとは、焙焼炉9の排出口から二次燃焼室11に導入され、残渣Rfは落下し、燃焼排ガスは上昇してガス冷却洗浄器17(図1参照)に送られる。
【0018】
焙焼炉9の受入れ側Usの端面であるフロントウォール9bには、定量供給装置13に連結される受入口が形成されている。また、フロントウォール9bには、助燃バーナ15が貫通して配置されている。助燃バーナ15は、フロントウォール9bから焙焼炉9の排出側Dsに向かって火炎を放射する。助燃バーナ15には、図示しない燃料ポンプによって燃料タンクから重油等の燃料が供給される。また、フロントウォール9bには、スプラッシュコンデンサー7から排出されるCOガスを熱源として焙焼炉9内に供給するために供給管9dが接続されている。
【0019】
定量供給装置13は、フロントウォール9bの受入口に接続されたシリンダ部13aと、シリンダ部13a内を往復動する押出部13bと、押出部13bの往復動を駆動制御する供給器13cと、シリンダ部13a内に連通するホッパ13dとを備えている。ホッパ13dには、インジウム含有の廃棄物や亜鉛含有の廃棄物が投入される。ホッパ13d内に堆積する廃棄物は、押出部13bの往復動によって定量ずつが焙焼炉9内に供給される。定量供給装置13は、スクリューコンベヤなどによって廃棄物を焙焼炉9内に供給する装置であってもよい。
【0020】
焙焼炉9内へ供給された廃棄物W1,W2は、供給当初から助燃バーナ15によって加熱される。廃棄物W1,W2は、焙焼炉9内において、攪拌されながら300℃〜700℃にまで加熱され、受入れ側Usから排出側Dsに移動する。廃棄物W1,W2中に含有されている有機物は、焙焼炉9内で熱分解され、ガス状可燃物になり、燃焼排ガスとなって二次燃焼室11に送られる。焙焼炉9では、シャフト炉などの固定式とは異なり、回転の攪拌効果で小規模の装置で多量の廃棄物W1,W2の有機物熱分解が可能になる。
【0021】
また、焙焼炉9内では、廃棄物W1,W2中の水銀などの低沸点金属は蒸発し、燃焼排ガスと一緒に二次燃焼室11に送られる。また、廃棄物W1,W2が焼却処理された後の残渣Rfもまた二次燃焼室11に送られる。
【0022】
二次燃焼室11には、補助バーナ(図示せず)が設けられており、燃焼排ガス中のガス状可燃分を完全に燃焼させる。また、二次燃焼室11には、残渣Rfと飛翔ダストとを分離するための二股式の第1排出口11a及び第2排出口11bが設けられている。残渣Rfの出口となる第1排出口11aは、焙焼炉9側に設けられ、飛翔ダストの出口となる第2排出口11bは、二次燃焼室11の傾斜した側面側に設けられている。残渣Rfは、第1排出口11aから排出される。一方、飛翔ダストは、二次燃焼室11で流速が落ちて落下し、第2排出口11bから排出される。飛翔ダストには、未燃焼分が多く含まれており、二股式の第1,第2排出口11a,11bを設けることで、飛翔ダストのみを回収でき、その飛翔ダストを再度焙焼炉9に投入するようにすることもできる。
【0023】
図1に示されるように、二次燃焼室11から排出された排ガスは、ガス冷却洗浄器17に送られる。ガス冷却洗浄器17では、排ガス中の低沸点金属は冷却されて凝縮し、洗浄水と共にpH調整槽19に送られる。ガス冷却洗浄器17からの排水(洗浄水)は廃棄物W1,W2中の塩素等により強酸を呈しているので、pH調整槽19では、アルカリ薬液によりpHを3〜4に調整し、その後、排水は沈澱槽21に送られる。沈澱槽21内で排水中の酸不溶の低沸点金属を沈澱させて回収し、図示しない後段の精製装置に送ると共に、低沸点金属を除去した水は若干の酸可溶物質を含んだまま、熱交換器を介して洗浄水としてガス冷却洗浄器17に供給され循環使用される。ガス冷却洗浄器17からの排ガスは適宜処理して無公害化した後、大気中に放出する。なお、この排ガスの一部をキルン式熱分解炉3の焙焼炉9内に戻してもよい。
【0024】
キルン式熱分解炉3の二次燃焼室11の第1排出口11aは、移送管やスクリューコンベヤ(粉体移送部)などが配置された移送ライン23を介してプラズマ炉5に接続されている。残渣Rf中にはインジウム(In)や亜鉛(Zn)などの比較的沸点の低い金属とスズ(Sn)や鉄(Fe)などの比較的沸点の高い金属が含まれており、移送ライン23を通ってプラズマ炉5に供給される。プラズマ炉5は、還元雰囲気に保持されている。ここで、残渣Rfに含まれるカーボン(炭素棒)にて主要金属類(亜鉛、インジウム、スズ、鉄)が還元される。
【0025】
図3に示されるように、プラズマ炉5は、溶融金属を保持する溶融槽25と、プラズマフレーム(火炎)を放射するプラズマトーチ27などを備えており、プラズマフレームの輻射などによって残渣Rf中の主要金属類を気化もしくは溶融する。プラズマ炉5では、主要金属類を加熱し、インジウムよりも沸点の低い金属を選択的に気化させるために炉内温度を1400℃〜1600℃に保持している。
【0026】
プラズマ炉5内での各金属の状態について図5を参照して説明する。図5は、各金属の融点、沸点及び平衡蒸気圧を示す図である。インジウム(In)の融点は最も低く、次に、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)の順番で融点は高くなる。これらの金属の融点は500℃以下であるため、キルン式熱分解炉3からプラズマ炉5に供給される段階で一部は既に溶融している。一方で、鉄(Fe)の融点は1700℃よりも高いため、固体の状態でプラズマ炉5に供給される。
【0027】
プラズマ炉5内の温度は、少なくともインジウムを気化させて排ガスと一緒に後段のスプラッシュコンデンサー7に供給できる温度にする必要があり、そのためには、インジウムの蒸発温度1400℃以上にする必要がある。なお、蒸発温度とは、一定圧力に保たれた液体(溶融金属)の飽和温度をいい、蒸発温度以上に加熱すると、その溶融金属は表面から蒸発する。なお、亜鉛の蒸発温度はインジウムの蒸発温度よりも低いため、インジウムの蒸発温度以上に維持することで亜鉛も蒸発して気化する。
【0028】
また、炉内温度を上げすぎるとスズや鉄などの蒸発温度を超えてしまい、気体状の鉄やスズなどがスプラッシュコンデンサー7に供給されてしまう。そのため、炉内温度は鉄などの蒸発温度2200℃以下にするのが好ましい。インジウムは、1400℃(蒸発を開始する温度)位から蒸気圧が立ち始め、2000℃でほとんど蒸発してしまうと予想される。これに対して、溶融している鉄は2200℃(蒸発を開始する温度)位から蒸気圧が立ち始める。従って、2000℃を境にしてインジウムと鉄が分離されるようになるが、実際の運転では、多少の温度変動も考慮して、インジウムの蒸発温度よりも高く、鉄の蒸発温度よりも低い1400℃〜1600℃の温度にて炉内温度を維持するようにしている。
【0029】
プラズマ炉5の炉内温度を1400℃〜1600℃にすることで、プラズマ炉5に投入された残渣Rf中のインジウムや亜鉛は溶融還元されて気化し、排ガスと共にスプラッシュコンデンサー7に導入される。一方で、残渣Rf中の鉄やスズは溶融還元され炉底に溜り、溶融フェロアロイ(Fe−Sn)として取り出されて回収される。また、残渣Rf中に含有される難還元性金属酸化物はスラグとして排出される。
【0030】
スプラッシュコンデンサー7は、プラズマ炉5に隣接して設けられており、図4に示されるように、溶融した亜鉛やインジウムを貯留する貯留槽7bと、貯留槽7b内に気体状のインジウムや亜鉛を導入する導入部(インジウム導入部)7aとを備えている。導入部7aは排ガス管29を介してプラズマ炉5に接続されており、プラズマ炉5で気化したインジウムや亜鉛は、排ガス管29及び導入部7aを通って貯留槽7bに供給される。
【0031】
さらに、スプラッシュコンデンサー7は、溶融金属を攪拌し、特に亜鉛を飛散させる複数の攪拌翼7cを備えている。気体状のインジウムや亜鉛は、スプラッシュコンデンサー7で冷却されて凝縮するが、微量のインジウムは、飛散された亜鉛に接触することで効率良く凝縮される。貯留槽7b内に貯留する亜鉛中には、インジウムが濃縮された状態で含有され、溶融した亜鉛−インジウム合金として回収管7dから引き抜かれて回収される。
【0032】
なお、インジウムは、亜鉛鉱石などとして生産されることから、亜鉛−インジウム合金からインジウムのみを精製する技術は確立されており、亜鉛−インジウム合金でれば、亜鉛精錬メーカーに亜鉛原料として売却することで、亜鉛精錬メーカーの既存の亜鉛精錬工程及びインジウム生産工程で亜鉛及びインジウムが生産できる。そのため、亜鉛−インジウム合金を回収することができれば、インジウムを再利用する上での障害は少なく、再利用に有効である。
【0033】
スプラッシュコンデンサー7でインジウムや亜鉛などの金属を除去した後の一酸化炭素COを含む排ガスはダクト7eを通ってガス冷却洗浄器31に導かれる。この排ガスは、ガス冷却洗浄器31で洗浄された後、キルン式熱分解炉3の熱源として焙焼炉9内に供給される。一方、ガス冷却洗浄器31からの排水は、凝縮剤添加槽35を介して沈澱槽37に送られる。その沈澱槽37で排水中の金属酸化物は沈殿し、スラジとして取り出される。また、沈澱槽37で金属酸化物を除去された排水は、pH調整槽39に送られる。pH調整槽39では、ガス冷却洗浄器31からの排水にスプラッシュコンデンサー7からの排ガスに随伴した未回収の金属酸化物及び廃棄物中に含有されるアルカリ成分が溶解・混入しており、元来強アルカリを呈するので、酸化薬液を添加し、沈澱槽37の出口でpH7〜9程度の弱アルカリとなるように調整する。pH調整槽39からの排水はクーラーを介して洗浄水として、ガス冷却洗浄器31に循環させて使用すると共に、循環水の増加分は適宜処理して無公害化した後、排水する。
【0034】
次に、インジウム回収装置1を使用したインジウム回収方法について説明する。キルン式熱分解炉3のホッパ13dに、インジウム含有の廃棄物W1や亜鉛含有の廃棄物(亜鉛含有物)W2を投入する。焙焼炉9では、炉内温度を300℃〜700℃以上に維持して廃棄物W1,W2中の有機物を熱分解によって除去する(有機物除去工程)。
【0035】
次に、焙焼炉9内に残る残渣をプラズマ炉5に供給する。プラズマ炉5内は還元雰囲気とし、炉内温度をインジウムの蒸発温度以上で、且つ、鉄の蒸発温度以下の温度に維持する。本実施形態では、炉内温度を1400℃〜1600℃に維持する。プラズマ炉5内では、残渣中のインジウムや亜鉛は溶融還元されて気化し、排ガスと一緒にスプラッシュコンデンサー7に導入する(気化工程)。一方で、残渣Rf中の鉄やスズは溶融還元されて炉底に溜り、Fe−Sn(フェロアロイ)として取り出す。また、残渣Rf中に含有される難還元性金属酸化物はスラグとして排出する。
【0036】
次に、スプラッシュコンデンサー7の貯留槽7bで気体状のインジウムを凝縮させ、凝縮したインジウムを回収する(凝縮工程)。ここで、貯留槽7b内には、亜鉛の湯だまりを形成し、さらに、この湯だまりを攪拌し、貯留槽7b内で亜鉛が飛散した状態を形成しておく。この湯だまりを形成するために、本実施形態では、インジウム含有の廃棄物W1と一緒に亜鉛含有の廃棄物W2も投入している。インジウムは、亜鉛鉱石などとして自然界に存在しており、亜鉛と非常に結びつき易い。スプラッシュコンデンサー7の貯留槽7b内に亜鉛の湯だまりを形成することで、気体状のインジウムは、貯留槽7b内で溶融した亜鉛に接触して凝縮し易くなる。特に、亜鉛の飛散状態を形成しておくことで、気体状のインジウムと亜鉛との接触面積が広がり、微量のインジウムであっても効率よく湯だまり内に凝縮させることができる。
【0037】
亜鉛の湯だまりを形成しなくても、インジウムは貯留槽7b内で凝縮するが、廃棄物W1中に含まれるインジウムの量は少なく、貯留槽7bに導入される気体状のインジウムの量も微量であると推定できるため、溶融状態のインジウムと気体状のインジウムとの接触面積が少なく、インジウムを凝縮させるのに効率が悪い。貯留槽7b内に亜鉛の湯だまりを形成しておくことでインジウムを効率よく凝縮させることができ、亜鉛−インジウム合金として効率よく回収できる。
【0038】
以上のインジウム回収装置1では、インジウム含有の廃棄物W1はプラズマ炉5で気化され、気体状のインジウムがスプラッシュコンデンサー7で凝縮されて回収される。したがって、不純物の混入は少なく、インジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できる。
【0039】
特に、本実施形態では、廃棄物W1を受け入れて加熱し、廃棄物W1中の有機物を熱分解によって除去した後にプラズマ炉5に排出するキルン式熱分解炉3を備えており、廃棄物W1,W2中の有機物を熱分解によって除去し、有機物が除去された後の廃棄物、すなわち残渣(廃棄物)Rfからインジウムを回収している。従って、従来の溶媒抽出によってインジウムを回収する装置に比べて、大量の廃棄物W1,W2を処理してインジウムを回収する際に有効であり、特にフラットパネルディスプレイなどのように、嵩張る割りにはインジウムの含有量が極めて少ない廃棄物W1からインジウムを回収する場合に有効である。さらに、インジウム含有の廃棄物W1からは有機物が除去され、さらに、有機物が除去された残渣Rfはプラズマ炉5で加熱されてインジウムが気化され、気体状のインジウムがスプラッシュコンデンサー7で凝縮されて回収されており、不純物の混入は少なく、インジウムを再利用に適した状態で効率よく回収できる。
【0040】
さらに、プラズマ炉5では、インジウムの蒸発温度以上で、且つ、鉄の蒸発温度以下の温度で残渣を加熱するため、インジウムよりも蒸発温度の高い鉄はプラズマ炉5では気化されず、インジウムを鉄から分離して効率よく回収できる。
【0041】
また、スプラッシュコンデンサー7では、亜鉛の湯だまりを形成するため、微量のインジウムであっても、亜鉛に結びつけて凝縮させ易くなり、インジウムの回収効率は向上する。特に、スプラッシュコンデンサー7の貯留槽7b内では、亜鉛の飛散状態が形成されているので、気体状のインジウムとの接触面積は、飛散状態を形成しない場合に比べて大きくなり、インジウムの効率的な凝縮に有効である。
【0042】
さらに、本実施形態では、インジウム含有の廃棄物W1と一緒に亜鉛含有の廃棄物W2をキルン式熱分解炉3に投入している。亜鉛の蒸発温度は、インジウムの蒸発温度よりも低いため、亜鉛含有の廃棄物を投入することで、プラズマ炉5では、少なくとも亜鉛とインジウムとが気化され、気体状の亜鉛とインジウムとがスプラッシュコンデンサー7に導入され、亜鉛の湯だまりとなってインジウムの回収に有効である。
【0043】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の熱分解手段はキルン式熱分解炉3に限定されず、他の加熱炉であってもよい。また、気化手段はプラズマ炉5に限定されず、還元性雰囲気を形成できてインジウムを気化できる温度で加熱できる他の溶融炉(還元性溶融炉)であってもよい。また、凝縮手段はスプラッシュコンデンサー7に限定されず、気体状のインジウムを凝縮できる要素であればよい。また、インジウム含有の廃棄物は、フラットパネルディスプレイなどの廃ITOパネルに限定されず、廃IZO(インジウム−亜鉛酸化物)パネルにも適用できる。また、上記実施形態では、キルン式熱分解炉3(熱分解手段)を介して、亜鉛含有の廃棄物W2(亜鉛含有物)を間接的にプラズマ炉5(気化手段)に投入したが、亜鉛含有物を直接に気化手段に投入するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係るインジウム回収装置を概略的に示す図である。
【図2】本実施形態に係るキルン式熱分解炉を概略的に示す図である。
【図3】本実施形態に係るプラズマ炉を概略的に示す図である。
【図4】本実施形態に係るスプラッシュコンデンサーを概略的に示す図である。
【図5】各金属の融点、沸点及び平衡蒸気圧を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1…インジウム回収装置、3…キルン式熱分解炉(熱分解手段)、5…プラズマ炉(気化手段)、7…スプラッシュコンデンサー(凝縮手段)、7a…導入部(インジウム導入部)、7b…貯留槽、7c…攪拌翼、Rf…残渣(有機物を除去した後の廃棄物)、W1…廃棄物(インジウム含有)、W2…廃棄物(亜鉛含有物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム含有の廃棄物からインジウムを回収するインジウム回収装置において、
前記廃棄物中に含まれる金属のうち、少なくとも前記インジウムを還元雰囲気の中で気化させる気化手段と、
前記気化手段から排出された気体状の前記インジウムを凝縮させる凝縮手段と、
を備えたことを特徴とするインジウム回収装置。
【請求項2】
前記廃棄物を受け入れて加熱し、前記廃棄物中の有機物を熱分解によって除去した後に前記気化手段に排出する熱分解手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載のインジウム回収装置。
【請求項3】
前記気化手段では、前記インジウムの蒸発温度以上で、且つ、鉄の蒸発温度以下の温度で、前記廃棄物が加熱されることを特徴とする請求項1または2記載のインジウム回収装置。
【請求項4】
前記凝縮手段は、
溶融した亜鉛を貯留する貯留槽と、前記貯留槽内に気体状の前記インジウムを導入するインジウム導入部と、を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のインジウム回収装置。
【請求項5】
前記凝縮手段は、前記貯留槽内に貯留された前記亜鉛を攪拌して飛散させる攪拌翼を更に有するスプラッシュコンデンサーであることを特徴とする請求項4記載のインジウム回収装置。
【請求項6】
前記気化手段には、前記廃棄物と共に亜鉛を含有する亜鉛含有物が投入されることを特徴とする請求項4または5記載のインジウム回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−293065(P2009−293065A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145938(P2008−145938)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】