説明

インスタント緑茶

【課題】本発明の課題は、飲用時に旨味および香りが十分に得られ、粉体色および飲用時の水色が鮮やかな緑色を示し、及び粉体の溶解時から飲用終了時まで粉末茶が沈降しにくいインスタント緑茶を提供することである。
【解決手段】本発明によると、緑茶抽出乾燥物、乾燥助剤、抗酸化物、粉末茶および特定量のカリウムを含有するインスタント緑茶、並びに、乾燥助剤および第1の抗酸化物を含有し、第1のカリウム製剤でpHを中性域に調整した抽出溶媒により茶葉から抽出液を得る工程、得られた抽出液に第2の抗酸化物および粉末茶を添加する工程、および前記添加の工程の後に抽出液を乾燥する工程を含む、インスタント緑茶の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲用時に旨味および香りが十分に得られ、粉体色および飲用時の水色が鮮やかな緑色を示し、及び粉体の溶解時から飲用終了時まで抹茶が沈降しにくいインスタント緑茶を提供する。
【背景技術】
【0002】
急須を用いるなどの手間を省いて緑茶を飲用することができるものとして、インスタント緑茶が存在する。このインスタント緑茶とは、一般に粉末状の乾燥物であり、湯飲み等の容器に入れてお湯を注ぐだけで、緑茶として飲用することが可能である。
【0003】
このようなインスタント緑茶は、お茶を淹れる手間を省くという観点で開発されたものであり、お茶の旨味または香りといった品質は、通常の緑茶と比較すると劣るものである。
【0004】
そのため、通常の淹れ方による緑茶と同等な品質を実現しようとする目的のもと、インスタント緑茶の開発が進められている。
【0005】
特許文献1は、乾燥助剤を含む水性溶媒中に粉末茶葉を分散させ、好ましくは茶葉分散液のpHを6.0〜7.2に調整した後噴霧乾燥する、インスタント緑茶の製造方法を開示している。
【0006】
特許文献2は、緑茶葉粉末と、緑茶の抽出液と賦形剤とを混合し、固形分40〜85重量%とした後、真空乾燥することを特徴とした抗酸化性インスタント緑茶の製造方法を開示している。
【0007】
特許文献3は、茶葉の可溶成分を溶解抽出して得られる抽出液あるいは該抽出液を濃縮した濃縮抽出液と、茶葉の微粉末あるいは該微粉末と増量剤その他の添加物とを混合して乾燥させたことを特徴とするインスタント茶を開示している。
【0008】
このようなインスタント緑茶が開発されているものの、飲用時に旨味および香りが十分に得られ、粉体色および飲用時の水色が鮮やかな緑色を示し、及び粉体の溶解時から飲用終了時まで抹茶が沈降しにくいインスタント緑茶は実現できていない。
【特許文献1】特開2003−274859号公報
【特許文献2】特開平6−178650号公報
【特許文献3】特開昭59−31649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、飲用時に旨味および香りが十分に得られ、粉体色および飲用時の水色が鮮やかな緑色を示し、及び粉体の溶解時から飲用終了時まで抹茶が沈降しにくいインスタント緑茶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、緑茶抽出物、抗酸化物、粉末茶およびカリウムを含有するインスタント緑茶であって、前記カリウムの含有量が、前記インスタント緑茶中0.8〜5.6質量%であるインスタント緑茶が提供される。
【0011】
また、本発明によると、乾燥助剤および第1の抗酸化物を含有し、第1のカリウム製剤でpHを中性域に調整した抽出溶媒により茶葉から抽出液を得る工程、得られた抽出液に第2の抗酸化物および粉末茶を添加する工程、および前記添加する工程の後に抽出液を乾燥する工程を含む、インスタント緑茶の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、飲用時に旨味および香りが十分に得られ、粉体色および飲用時の水色が鮮やかな緑色を示し、及び粉体の溶解時から飲用終了時まで抹茶が沈降しにくいインスタント緑茶、およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、カリウムを含有するインスタント緑茶に関する。
【0014】
インスタント緑茶とは、乾燥状態の粉末であり、適量のお湯又は水を注いで溶解させることで緑茶として飲用することができる食品を意味する。一般的には、お湯等を注ぎ飲用できる状態にした液体のものもインスタント緑茶と表現することがある。
【0015】
本発明によるインスタント緑茶は、カリウムを含有する。ここにいうカリウムとは、その他の何れかの元素と共に塩を形成したもの等、何れのカリウム元素をも含むものとする。
【0016】
本発明によるインスタント緑茶において、カリウムは0.8〜5.6質量%で含まれる。好ましくは、カリウムは1.2〜4.4質量%で含まれる。より好ましくは、カリウムは1.6〜3.1質量%で含まれる。最も好ましくは、本発明によるインスタント緑茶において、カリウムは2.15質量%で含まれる。また、上記の数値を重量で表すと、インスタント緑茶0.8g中に、カリウムが7〜45mgで含まれ、好ましくは10〜35mgで含まれ、より好ましくは13〜25mgで含まれ、最も好ましくは17.2mgで含まれる。ただし、この場合の飲用濃度は、0.8g/100ccである。
【0017】
本発明によるインスタント緑茶中のカリウム含有量は、当該分野にて一般に行われる定量法を用いて定量することができる。例えば、本発明によるインスタント緑茶を一定量の溶液に溶解し、それを発光分光分析法によって定量することが可能であり、特にプラズマ発光分光分析法で定量することが好ましい。
【0018】
本発明のように、カリウム量を比較的多く調製したインスタント緑茶は、これまで全く知られていなかった。
【0019】
本発明によるインスタント緑茶では、ナトリウムの含有量は、カリウムの含有量を越えない。ここにおいて、ナトリウムの含有量は、カリウムの含有量と同様に定量されるものであり、例えば、プラズマ発光分光分析法にて定量される。また、カリウムの場合と同様に、ここにいうナトリウムとは、その他の何れかの元素と共に塩を形成したもの等、何れかのナトリウム元素を含む。ナトリウムの含有量が、カリウムの含有量を越えないとは、言い換えれば、カリウム/(ナトリウム+カリウム)の値が、0.5〜1.0であるということを意味する。更に、この値が、0.7〜1.0及び0.9〜1.0であることが好ましい。従来のインスタント緑茶では、製造段階でナトリウム製剤を使用することでナトリウム含有量が高くなり、インスタント緑茶の品質が落ちたように感じられる。しかし、本発明によるインスタント緑茶では、従来のインスタント緑茶と比較してナトリウム含有量が低いので、このような下級茶感は低く抑えられる。
【0020】
また好ましくは、本発明によるインスタント緑茶において、特定のアミノ酸類の含有量とカリウム含有量との間に、一定の関係が存在する。ここにいう、特定のアミノ酸類とは、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、及びテアニン等の一般的なアミノ酸を意味する。好ましくは、本発明によるインスタント緑茶では、カリウム含有量をアミノ酸含有量で割った値が4〜10となる。更に、この値が、5〜10及び6〜10であることが好ましい。アミノ酸の含有量の定量は、当該分野に行われる一般的な定量法によって行われることができる。特に、高速液体クロマトグラフィー法によって行うことが好ましい。一般に、お茶の呈味性はアミノ酸によるところが大きいが、本発明によればアミノ酸含有量が少ないにもかかわらず、高級茶感があり旨味が強く感じられるインスタント緑茶が提供される。
【0021】
本発明によるインスタント緑茶は、緑茶抽出物を含む。緑茶抽出物は、原料茶葉を適当な溶媒で抽出し、濃縮、乾燥等の適当な処理を行うことで得られる物質である。この原料茶葉としては、茶樹(学名:Camellia Sinensis)より摘採した茶葉であれば、品種、産地、摘採時期、栽培方法および加工方法に限定はない。当然、複数の種類の原料茶葉を組み合わせて使用することも可能である。原料茶葉の加工方法としては、一般的に知られている加工方法の全てが挙げられ、その一例として80〜160℃の温度にて、好ましくは120〜150℃、更に好ましくは135〜145℃の温度にて20〜30分間乾燥させ、水分含有量を3%以下とする方法が、鮮やかな緑色の粉体色および水色を示し、まろやかな旨味の強いインスタント緑茶が得られる点で適している。また、デキストリンおよびサイクロデキストリンがインスタント緑茶中に存在することでお茶特有の香りが低減することがあるため、ほうじ茶または玄米茶等を適宜配合し、そのような香りの低減を抑えることもできる。ただし、ほうじ茶の抽出液は赤く、焙煎香が強すぎるため、インスタント緑茶中の割合としては0.1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%とすることが、鮮やかな緑色の粉体色及び水色を示し、まろやかな旨味の強いインスタント緑茶の製造に適している。
【0022】
本発明によるインスタント緑茶は、乾燥助剤を含んでよい。例えば、デキストリンまたはサイクロデキストリンを含み、好ましくはデキストリンおよびサイクロデキストリンの両方を含む。また、デキストリンおよびサイクロデキストリン以外に、ゼラチンまたはその他の糖類を使用することができる。
【0023】
本発明によるインスタント緑茶は、抗酸化物質を含む。抗酸化物質とは、好ましくは有機酸または有機酸塩であり、より好ましくはクエン酸またはアスコルビン酸である。特に、好ましい抗酸化物質はアスコルビン酸である。アスコルビン酸を用いる場合、その含有量は、抽出溶媒中の濃度で示して、1000〜3200ppmであり、好ましくは1600〜2800ppm、さらに好ましくは2000〜2400ppmである。特に、粉体のインスタント緑茶中に2.75質量%のアスコルビン酸を含むことが好ましい。本出願人による特許文献特開2006−254819号に記載されるように、抗酸化物質を用いることで、インスタント緑茶の粉体色および飲用時の水色に十分な緑色が付与される。
【0024】
本発明によるインスタント緑茶は、粉末茶を含む。粉末茶は、茶樹より摘採した茶葉を、粉砕し微粉末状にしたものである。粒度は、100μm以下、好ましくは積算分布において50%粒子径で1〜50μm、特に1〜20μm、90%粒子径で60μmとしたものが一般に用いられるが、これに限定されない。本発明によるインスタント緑茶には、その種類を特定せずあらゆる粉末茶が使用できる。粉末茶として抹茶を用いることができ、特に、碾茶、玉露またはかぶせ茶といった覆下(被覆)栽培にて得られた茶葉由来の抹茶を用いることが、水色に良好な緑色を付与できる点で好ましい。更に、呈味の観点から、碾茶を粉砕してできる抹茶を用いることが好ましい。本発明によるインスタント緑茶中の抹茶の含有量は、5〜10質量%であることが好ましい。
【0025】
また本発明は、インスタント緑茶の製造方法に関する。
【0026】
図1には、本発明によるインスタント緑茶の一般的な製造方法を記載した。
【0027】
本発明によるインスタント緑茶の製造方法は、特に、乾燥助剤および第1の抗酸化物を含有し、カリウム製剤でpHを中性域に調整した抽出溶媒により茶葉から抽出液を得る工程(図1中S2で示される)、得られた抽出液に第2の抗酸化物と共に粉末茶を添加する工程(図1中S5で示される)、および前記添加の工程の後の抽出液を乾燥する工程(図1中S8で示される)を含む。
【0028】
カリウムを含む溶液で茶葉を抽出する工程により、緑茶成分とカリウムとを含んだ茶葉抽出物が得られる。具体的には、抽出に先立ちカリウムを含んだ抽出溶媒を調製し(図1中S1)、その抽出溶媒を用いて原料茶葉から緑茶成分を抽出する(S2)。
【0029】
抽出溶媒の調製(S1)では、カリウム製剤を抽出溶媒に添加することで、カリウムを含む抽出溶媒が調製される。ここに言うカリウム製剤には、酸のカリウム塩が含まれ、例えば、炭酸カリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、または酒石酸カリウム等が含まれる。特に、炭酸カリウムを用いることが好ましい。カリウム製剤以外に、抽出溶媒には、抗酸化物および乾燥助剤が含まれる。例えば、第1の抗酸化剤としては、有機酸および有機酸塩(特に有機酸ナトリウム)、特にアスコルビン酸、アスコルビン酸塩(特に、アスコルビン酸ナトリウム)、クエン酸またはクエン酸塩(特にクエン酸ナトリウム)を使用することができる。また、乾燥助剤としては、例えば、デキストリン、もしくはサイクロデキストリンまたはこれらの組み合わせを用いることができる。更に、抽出溶媒には、その他の糖類、ゼラチン、ペクチン、カゼイン、タンパク質、ガム剤、乳化剤、抗酸化物質等を適宜含んでよい。また、これらの構成成分を溶解するための水性溶媒は、水道水、脱イオン水、蒸留水および脱酸素水など、何れの水も使用できる。抽出溶媒に第1の抗酸化物質としてのアスコルビン酸を添加し、さらに炭酸カリウムによってpHを中性域に戻すことは、より望ましい粉体色および水色が得られるという点で好ましい。このとき、アスコルビン酸は、抽出溶媒中1000ppm以上、特に1000〜3000ppmの濃度とすることが好ましく、炭酸カリウムは、抽出溶媒のpHが中性域となるように添加され、具体的には4.5〜7.0、特に5.5〜6.0と成るように添加することが好ましい。
【0030】
このようにして調製された抽出溶媒を用いて茶葉の抽出を行う(S2)。抽出は、当該分野において一般に使用されるニーダーを用いて、必要に応じて撹拌しながら30秒〜30分間常圧で行う。このとき、抽出溶媒は、茶葉に対して15〜20倍重量とし、50〜98℃に加熱する。なお、抽出装置はニーダーに限られず、当該分野において使用される装置を用いることができる。この工程で用いられる茶葉は、上述したような茶葉を用いることができる。
【0031】
抽出の工程(S2)と粉末茶等を添加する工程(S5)との間に、抽出後の処理を行う工程(S3)を設けることができる。例えば、抽出の工程で得られた抽出物から固液分離により液体部分を得た後、5〜40℃に冷却し(図2中S13)、濾過(図2中S14)を行い、遠心分離機等を用いて清澄化(図2中S15)することができる。更に、その後、減圧濃縮、凍結濃縮等の周知の濃縮法を用いて濃縮(図2中S16)してもよい。その他、抽出後の処理として、これら以外の工程を設けることも可能である。
【0032】
抽出の工程(S2)および適宜行われる抽出後の処理(S3)に続き、第2の抗酸化物及び粉末茶を添加する工程(S5)が行われる。この工程において、粉末茶を懸濁させた抗酸化物溶液をそのまま抽出物に添加してもよいが、抗酸化物溶液に粉末茶を一定時間浸漬させたものを添加することが好ましい。
【0033】
そのような浸漬の工程(S4)は、粉末茶に抗酸化物が浸透することで抗酸化作用が付与され、最終生成物であるインスタント緑茶の粉体色、更には飲用時の水色をより望ましい緑色にするものと考えられる。第2の抗酸化物としては、有機酸または有機酸塩(特に有機酸ナトリウム)を使用することができ、より具体的には、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩(特にアスコルビン酸ナトリウム)、クエン酸、クエン酸塩(特にクエン酸ナトリウム)が使用できる。アスコルビン酸溶液を用いる場合、アスコルビン酸の濃度は0.05〜2.0重量%、好ましくは0.05〜1.0重量%、さらに好ましくは0.1〜0.5重量%で用いる。粉末茶とアスコルビン酸溶液との割合は、粉末茶に対して1.5〜15倍、特に2〜10倍、もっとも好ましくは2.5〜5倍の重量のアスコルビン酸溶液を用いることが好ましい。浸漬時の温度は0〜40℃で行い、特に10〜25℃で行うことが好ましい。また浸漬時間は5〜90分間行い、特に20〜40分間行うことが好ましい。この様な浸漬の工程(S4)は、抽出後の処理(S3)の後に行っても、抽出(S2)や抽出後の処理(S3)と並行して行ってもよい。また、抽出工程(S2)で使用された第1の抗酸化物と、粉末茶と共に添加される第2の抗酸化物とは、同じであっても異なっていてもよく、独立して上記の物質から選択されればよい。
【0034】
このように浸漬した粉末茶は、一定の割合にて抽出物に添加(S5)される。その混合割合は、インスタント緑茶中に、粉末茶が1〜10質量%、特に3〜9質量%と成るように混合することが好ましい。
【0035】
抗酸化物および粉末茶を添加することで、抽出物のpHが低下するため、pHを調整する工程(S6)を設けることが好ましい。特にカリウム製剤を用いて、pHを調整することが好ましい。当該カリウム製剤は、酸のカリウム塩であればよく、例えば、炭酸カリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、および酒石酸カリウム等を含む。とりわけ炭酸カリウムを用いることが好ましい。この調整によって、pHは4.5〜7.0、特に5.5〜6.0に調整される。
【0036】
その後、乾燥前の処理の工程(S7)を行うことが好ましい。例えば、殺菌処理(図2中S20)を行うことができるが、この工程のみに限定されるものではない。殺菌処理の方法は、高温短時間殺菌(UHT殺菌)、水蒸気加熱空気等を利用した気流式殺菌法、電子線照射殺菌法、その他当該分野において行われる周知の殺菌方法を、適宜採用することが好ましい。
【0037】
最後の工程として、乾燥の工程(S8)を行う。乾燥処理の方法は、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥または噴霧乾燥といった、当該分野において周知の乾燥方法を用いることができるが、特に、真空乾燥、凍結乾燥または噴霧乾燥によって乾燥を行うことが、最終生成物であるインスタント緑茶の粉体色および飲用時の水色の観点から好ましい。
【0038】
上記のインスタント緑茶の製造方法において、工程S1における抽出溶媒のpH調整および、工程S6におけるpH調整において、カリウム製剤の代わりに重曹(即ち炭酸水素ナトリウム)などを用いてpHを調整することも可能である。また、工程S1における抽出溶媒のpH調整および、工程S6におけるpH調整において、カリウム製剤を用いない場合でも、何れかの製造工程の何れかの段階で、最終産物であるインスタント緑茶の0.8〜5.6質量%となるようにカリウム製剤を添加してもよい。
【0039】
本発明はまた、以上のような製造方法によって得られるインスタント緑茶に関する。
【0040】
本発明によるインスタント緑茶、または本発明による製造方法によって得られるインスタント緑茶は、飲用のために特別な手段を要せず、従来のインスタント緑茶と同様に飲用可能である。本発明によるインスタント緑茶に、お湯または水を適量注ぎ、溶解させることで飲用が可能となる。例えば、本発明によるインスタント緑茶0.8gを100ccのお湯に溶解して飲用される。しかしながら、好みに合わせてお湯又は水との混合比を調節し飲用することも可能である。
【0041】
本発明によるインスタント緑茶によれば、後述する実施例にて示されるように、緑茶の旨味および香りが十分に感じられ、粉体色および水色ともに鮮やかな緑色を有し、および飲用のため溶解したときから飲用終了時まで抹茶が沈降しにくい緑茶が得られる。このような効果が本発明によるインスタント緑茶によってのみ達成されることも、実施例から証明される。
【実施例】
【0042】
出願人は、本発明によるインスタント緑茶を製造し、従来のインスタント緑茶と比較検討を行った。
【0043】
1.各インスタント緑茶について
[例1]
以下の方法により、例1としてインスタント緑茶を製造した。その概要を、図2にフローチャートとして表した。
【0044】
抽出溶媒の調製(S11):脱イオン水2.1Lに、デキストリン107g、サイクロデキストリン14g、アスコルビン酸5.6gを添加し溶解させた。更に、炭酸カリウムを加えることで、pHを5.5に調整した。
【0045】
抽出(S12):次に、得られた抽出溶媒を用いて茶葉から緑茶成分を抽出した。茶葉は、(国産茶葉)を火入乾燥により仕上げたものを用いた。ニーダーに、茶葉および茶葉の15.5倍重量の抽出溶媒を投入し、撹拌を行いながら、85℃で35分間抽出した。
【0046】
冷却(S13)、濾過(S14)、遠心分離(S15)及び濃縮(S16):抽出後、10〜15℃になるまで抽出液を冷却した。次に、冷却した抽出液を、粗濾過により、大まかな固形物を取り除いた。さらに、14200Gで10分間、遠心分離して、更に細かい固形物を取り除いた。その後、薄膜濃縮機によって、抽出液を濃縮した。このときの濃縮の条件は、39〜40℃で1500rpmとし、BX(可溶性固形物)が30となるまで濃縮した。
【0047】
浸漬(S17):濃縮した抽出液への抹茶等の添加に先立ち、アスコルビン酸溶液に抹茶を浸漬させた。抹茶は、国産抹茶を50%粒子径にて1〜50μmに微粉砕したものを用いた。アスコルビン酸溶液は、0.18%の溶液を用いた。抹茶5gを、その3倍の重量のアスコルビン酸溶液に30分間浸漬させた。
【0048】
添加(S18):アスコルビン酸溶液に浸漬した抹茶を、濃縮した抽出液に、アスコルビン酸溶液ごと全量添加した。
【0049】
pH調整(S19):アスコルビン酸溶液に浸漬した抹茶の添加によりpHが下がるため、炭酸カリウム溶液を滴下してpHを5.5に調整した。
【0050】
殺菌(S20):pHの調整後、抽出液をプレート殺菌法により殺菌した。そのときの条件は、80℃/30秒とした。
【0051】
噴霧乾燥(S21):その後、抽出液を噴霧乾燥により乾燥させ、粉末状のインスタント緑茶を得た。そのときの乾燥の条件は、92℃とした。
【0052】
以上のようにして得られた本発明によるインスタント緑茶を例1の化合物とした。
【0053】
[例2]
工程S11および工程S19におけるpH調整を、炭酸カリウムの代わりに重曹(炭酸水素ナトリウム)を用いたこと以外は、例1と同様にインスタント緑茶を製造した。
【0054】
[例3]
例1の製造方法と異なる点は、工程S11および工程S19におけるpH調整を、炭酸カリウムの代わりに重曹(炭酸水素ナトリウム)を用いたこと、および抹茶品種は、グレードの異なる国産抹茶を使用したことである。これら以外は、例1と同様の製造方法にて行った。
【0055】
[例4]
例1の製造方法と異なる点は、抹茶品種は、グレードの異なる国産抹茶(例3と同一)を使用したことである。この点以外は、例1と同様の製造方法にて行った。
【0056】
[例5]
例1の製造方法と異なる点は、抹茶を使用しなかったことである。これ以外は、例1と同様の製造方法にて行った。
【0057】
[例6]
(株)伊藤園(登録商標)から販売される市販品を例6として使用した。このインスタント緑茶は、製造時、抹茶の代わりに粉末緑茶が用いられ、またアスコルビン酸ではなくアスコルビン酸ナトリウムが用いられている。
【0058】
[例7]
市販品を例7として使用した。当該商品の原材料表記によると、緑茶、デキストリン、オリゴ糖、乳化剤およびビタミンCが原料として用いられている。
【0059】
[例8]
(株)伊藤園(登録商標)から販売される市販品を例8として使用した。当該商品の原材料表記によると、緑茶エキス、デキストリン、サイクロデキストリン、抹茶及びビタミンCが原料として用いられている。
【0060】
[例9]
市販品を例9として使用した。当該商品の原材料表記によると、緑茶エキス、デキストリン、サイクロデキストリン、抹茶及びビタミンCが原料として用いられている。
【0061】
[例10]
市販品を例10として使用した。当該商品の原材料表記によると、煎茶、デキストリンおよびビタミンCが原料として用いられている。
【0062】
[例11]
市販品を例11として使用した。当該商品の原材料表記によると、煎茶およびデキストリンが原料として用いられている。
【0063】
[例12]
市販品を例12として使用した。当該商品の原材料表記によると、緑茶、デキストリン及びビタミンCが原料として用いられている。
【0064】
[例13]
市販品を例13として使用した。当該商品は、緑茶ではなくほうじ茶である。当該商品の原材料表記によると、ほうじ茶エキス、デキストリン及びサイクロデキストリンが原料として用いられている。
【0065】
[例14]
市販品を例14として使用した。当該商品は、緑茶ではなく麦茶である。当該商品の原材料表記によると、麦茶エキス、デキストリンおよびサイクロデキストリンが原料として用いられている。
【0066】
[例15]
三井農林(登録商標)(株)から販売される商品名「三井銘茶 急須のいらない緑茶です」を例15として使用した。当該商品の原材料表記によると、緑茶、デキストリンおよびビタミンCが原料として用いられている。
【0067】
[例16]
味の素(登録商標)ゼネラルフーヅ(株)から販売される商品名「AGF 新茶人 煎茶」を例16として使用した。当該商品の原材料表記によると、緑茶、デキストリン、抹茶およびビタミンCが原料として用いられている。
【0068】
例1〜例4において、本発明によるインスタント緑茶が得られ、例5〜例12において比較例となるインスタント緑茶が準備された。
【0069】
これらの、成分組成または原材料表記及び特徴等を以下の表1にまとめた。この中で、粉体全体を100質量%として、粉体中の各成分の含有量質量%で示した。
【表1】

【0070】
2.分析方法
以上の化合物について、ナトリウム含有量、カリウム含有量、アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、アルギニン、アラニン及びテアニン)含有量、水色、粉体色、溶解時の濁度および沈降性の分析ならびに官能評価を行った。
【0071】
カリウムおよびナトリウムの含有量は、文献の記載(池ヶ谷賢次郎、高柳博次、阿南豊正、「茶の分析法」、茶業研究報告No.71(1990)p43〜74)に従い、飲用時濃度を想定して2gのインスタント緑茶を100mlの熱湯に溶解し、30秒間撹拌し、ろ紙にてろ過した液をプラズマ発光分光分析装置(バリアン社製)を用いて、無機成分分析により測定した。
【0072】
アミノ酸の含有量は、文献の記載(池ヶ谷賢次郎、高柳博次、阿南豊正、「茶の分析法」、茶業研究報告No.71(1990)p43〜74)に従い、飲用時濃度を想定して2gのインスタント緑茶を100mlの熱湯に溶解し、30秒間撹拌し、ろ紙にてろ過した液を、カラムクロマトグラフィー法による遊離アミノ酸組成分析により測定した。
【0073】
インスタント緑茶の粉体色および飲用時の水色は、日本電色工業(株)の分光色差計SE200を使用して測定した。水色は、一般的な溶解度合いである0.8g/100ccにて試料をイオン交換水に溶解させ、その透過色を測定した。このとき、40℃以上の湯を使用すると分析順序によっては色調に変化をきたすため、冷水(10〜25℃)を使用した。粉体色は、前記色差計にて表面色を測定した。
【0074】
濁度は、(株)日立ハイテクノロジーズ分光光度計U−3310(セル長10mm)を使用し、660nmの波長の光の透過率として測定した。試料を溶解した直後の濁度を測定した。また沈降性は、さらに、溶解から10分後の濁度を測定し、溶解した直後の濁度と溶解から10分後の濁度との差として表した。
【0075】
官能評価は、5名の有資格パネラーによって行った。各試料0.8gを茶碗に入れ、95℃の熱湯を100cc注ぎ、よくかき混ぜた後、飲用した。呈味、香り、色調、濁度および沈降度合いについて、それぞれ0〜−5点で評価し、合計点にて0〜−5点を〇、−6〜−15点を△、−16点以下を×とした。
【0076】
3.分析結果
各分析結果を、表2〜5にまとめた。
【0077】
表2には、各例のナトリウム含有量、カリウム含有量、アミノ酸含有量およびカリウム含有量をアミノ酸含有量で割った値を示す。それぞれの含有量の単位はmgである。例15のみ粉体0.6g中の含有量であり、それ以外は0.8g中の含有量である。カリウム含有量は、13〜25mgの範囲である場合はAと、A以外で10〜35mgの範囲にある場合はBと、AおよびB以外で7〜45mgの範囲にある場合はCと付した。また、カリウム含有量/アミノ酸含有量の値が、4〜10の範囲である場合はAと、それ以外の場合はBと付した。
【0078】
カリウム含有量は、例1、4および5では、その他の例よりも高い水準となることがわかる。またナトリウム含有量は、例1、4および5で、特に低いことがわかる。
【表2】

【0079】
表3には、各例の飲用時の水色および粉体時の色の分析結果が示される。水色では、a値が−1〜−4のものをA、それ以外をCとした。粉体色では、a値が0〜−8のものをA、それ以外をCとした。
【表3】

【0080】
表4には、各例の飲用時の濁度および沈降性の分析結果が示される。測定値は、値が大きいほど透過性が高いことを表し、逆に値が小さいほど濁っていることを意味する。濁度では、透過率が15%以下の場合をAとし、15%超の場合をCとした。また、差では、透過率の差が0.6以下の場合をAとし、0.6超から1.0以下の場合をBとし、1.0超の場合をCとした。例15では0.6g/100ccで溶解)し、それ以外では0.8g/100ccで溶解して分析した。
【0081】
例1から4の溶解時の濁度は例5から16と比べて非常に高いことがわかる。更に、10分経過した後の濁度も、例1から4においてほとんど変化がなく、特に例1において変化率が非常に低いことがわかる。
【表4】

【0082】
表5には、各例の官能評価および総合評価の結果を示した。
【0083】
例1から4では、総じて高い評価を得られたことがわかる。特に例1および4では高い評価を得ている。さらに総合評価でも、例1から4、特に例1および4で高い評価となった。
【表5】

【0084】
4.考察及び結論
以上の分析および官能評価の結果から、本発明によるインスタント緑茶が、従来のインスタント緑茶と比較して、水色および粉体色において鮮やかな緑色を示すこと、十分な濁度を示し更にその濁度が維持されること、並びに呈味および香り等において高い評価が得られることが示された。また、そのような3つの効果は、本発明によるインスタント緑茶のみによって同時に達成されることも示された。
【0085】
本発明によって、従来のインスタント緑茶では再現できなかった、急須を用いるなどして茶葉から淹れたお茶と同等の味わいや飲用時の感覚等が再現される。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明によるインスタント緑茶の製造方法の一般的な製造方法のフローチャートを示している。
【図2】図2は、本発明によるインスタント緑茶の製造方法の、具体的な製造方法の一例のフローチャートを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑茶抽出物、抗酸化物、粉末茶およびカリウムを含有するインスタント緑茶であって、前記カリウムの含有量が、前記インスタント緑茶中0.8〜5.6質量%であるインスタント緑茶。
【請求項2】
前記カリウムの含有量が、カリウム/(ナトリウム+カリウム)の値が0.5〜1.0となる量である請求項1に記載のインスタント緑茶。
【請求項3】
前記カリウムの含有量が、カリウム/アミノ酸の値が4〜10となる量である、請求項1または2に記載のインスタント緑茶。
【請求項4】
前記抗酸化物が、アスコルビン酸またはクエン酸である請求項1から3の何れか1項に記載のインスタント緑茶。
【請求項5】
前記インスタント緑茶が乾燥助剤を含み、前記乾燥助剤が、デキストリンもしくはサイクロデキストリンまたはそれらの組み合わせである請求項1から4の何れか1項に記載のインスタント緑茶。
【請求項6】
乾燥助剤および第1の抗酸化物を含有し、第1のカリウム製剤でpHを中性域に調整した抽出溶媒により茶葉から抽出液を得る工程、得られた抽出液に第2の抗酸化物および粉末茶を添加する工程、および前記添加の工程の後に抽出液を乾燥する工程を含む、インスタント緑茶の製造方法。
【請求項7】
前記第1の抗酸化物および第2の抗酸化物が、それぞれ独立に、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸およびクエン酸ナトリウムから成る群から選択される1の物質である請求項6に記載のインスタント緑茶の製造方法。
【請求項8】
前記粉末茶を添加する工程の後に、第2のカリウム製剤を用いてpHを調整することを含む請求項6または7に記載のインスタント緑茶の製造方法。
【請求項9】
前記第1のカリウム製剤および第2のカリウム製剤が、炭酸カリウムである請求項8に記載のインスタント緑茶の製造方法。
【請求項10】
請求項6から10の何れか1項に記載の製造方法によって製造されるインスタント緑茶。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−219411(P2009−219411A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66660(P2008−66660)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【特許番号】特許第4312820号(P4312820)
【特許公報発行日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】