説明

インターロイキン−1受容体2遺伝子の多型に基づく炎症性疾患の検査法

【課題】 歯周病等の炎症性疾患の検査方法を提供する。
【解決手段】 インターロイキン−1受容体2遺伝子上に存在する遺伝子多型を分析し、該分析結果に基づいて炎症性疾患を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯周病などの炎症性疾患の検査方法及び該検査法に用られる検査試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は歯周組織破壊を起こす炎症性疾患であり、その発症や進行には環境的因子や遺伝的因子も影響すると考えられている。なかでも、侵襲性歯周炎(早期発症型歯周炎)は、若年者における発症と, 急速な歯周組織の破壊を特徴とし、遺伝的関与がより強く示唆されている。
【0003】
インターロイキン−1は炎症性のサイトカインであり、インターロイキン−1受容体を介してシグナルを伝達する。インターロイキン−1受容体には、インターロイキン−1受容体1(IL-1R1)及びインターロイキン−1受容体2(IL-1R2)が存在し、それぞれ膜型と細胞質型が存在する。
これまでの研究から、歯周病といくつかの遺伝子(インターロイキン−1(IL-1)、腫瘍壊死因子α(tumor necrosisfactor alpha)、Fcγ受容体(Fc gamma receptor)等)にみられる遺伝子多型との関連が報告されている。とくにヒト第二染色体上のIL-1遺伝子クラスターにおけるIL-1遺伝子の多型と歯周病感受性との関連についてはいくつか報告されてきた(特許文献1又は2参照)。しかし、歯周病に関連する決定的な遺伝子座は明らかになっていない。また、IL-1遺伝子クラスターに存在するIL-1受容体遺伝子(IL-1R1遺伝子とIL-1R2遺伝子)と歯周病との関連を示唆する報告はまだない。また、IL-1R2遺伝子の多型がその他の炎症性疾患に関連することを示唆する報告もなかった。
【特許文献1】特表2003−500005号公報
【特許文献2】特表2001−517067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、歯周病等の炎症性疾患の発症リスクや発症の有無を正確に検査する方法、及び該方法に用いられる検査試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、IL-1R2遺伝子上の一塩基多型が歯周病などの炎症性疾患の発症に深く関連することを発見した。そして、IL-1R2遺伝子上の多型を調べることにより炎症性疾患の検査を正確に効率的に行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)インターロイキン−1受容体2遺伝子の多型を分析し、該分析結果に基づいて炎症性疾患を検査する方法。
(2)前記多型が一塩基多型である、(1)の方法。
(3)一塩基多型が以下の群から選ばれる1又は2以上の塩基の多型である、(2)の方法。
(a)配列番号1の61番目の塩基
(b)配列番号2の138番目の塩基
(c)配列番号3の26番目の塩基
(d)配列番号4の119番目の塩基
(e)配列番号5の237番目の塩基
(f)配列番号6の75番目の塩基
(g)配列番号7の244番目の塩基
(h)配列番号8の246番目の塩基
(i)配列番号9の140番目の塩基
(4)炎症性疾患が局所炎症性疾患である(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)炎症性疾患が歯周病である、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(6)炎症性疾患が侵襲性歯周炎である、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(7)以下の群から選ばれる1又は2以上のプローブを含む炎症性疾患の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列において61番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(b)配列番号2の塩基配列において138番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(c)配列番号3の塩基配列において26番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(d)配列番号4の塩基配列において119番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(e)配列番号5の塩基配列において237番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(f)配列番号6の塩基配列において75番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(g)配列番号7の塩基配列において244番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(h)配列番号8の塩基配列において246番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(i)配列番号9の塩基配列において140番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ。
(8)以下の群から選ばれる1又は2以上のプライマーを含む炎症性疾患の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列の61番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(b)配列番号2の塩基配列の138番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(c)配列番号3の塩基配列の26番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(d)配列番号4の塩基配列の119番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(e)配列番号5の塩基配列の237番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(f)配列番号6の塩基配列の75番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(g)配列番号7の塩基配列の244番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(h)配列番号8の塩基配列の246番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(i)配列番号9の塩基配列の140番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー。
【発明の効果】
【0007】
本発明の検査方法により、歯周病等の炎症性疾患の発症リスクや発症の有無を早期に判定することができるため、それらの疾患の早期発見や治療方針の迅速な決定ができるとい
う利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<1>本発明の検査方法
本発明の検査方法は、インターロイキン−1受容体2(IL-1R2)遺伝子上の炎症性疾患に関連する遺伝子多型を分析し、該分析結果に基づいて炎症性疾患を検査する方法である。炎症性疾患としては、炎症との相関が知られているインターロイキン−1などのサイトカインの誘導が認められる疾患であれば特に限定されないが、例えば、顎関節炎、リウマチ、歯周病などの局所炎症性疾患が好ましく、歯周病がより好ましく、「侵襲性歯周炎(aggressive periodontitis; AgP)」(早期発症型歯周炎;early-onset periodontitis;
EOPと呼ばれることもある)が特に好ましい。なお、本発明において、「検査」とは炎症性疾患の発症リスクの検査及び発症の有無の検査を含む。
【0009】
IL-1R2遺伝子としては、ヒトIL-1R2遺伝子が好ましく、例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースにアクセス番号NT_022171で登録された配列を有する遺伝子を挙げることができる(図2)。なお、IL-1R2遺伝子の配列は人種の違いなどによって炎症性疾患に関連する塩基以外の塩基において置換や欠失等が存在する可能性があるため、上記登録された配列の遺伝子に限定されない。
【0010】
遺伝子多型の種類は炎症性疾患に関連するものである限り特に制限されず、一塩基多型(single nucleotide polymorphisms;SNPs)、及びVNTR(Variable Number of Tandem Repeat)などを含む。その中では一塩基多型がより好ましい。
炎症性疾患に関連するIL-1R2遺伝子の一塩基多型は特に制限されないが、好ましくは、GenBank Accession No. NT_022171の4690810番(2R3;配列番号1の61番目)の塩基、同4698207番(2R5;配列番号2の塩基配列の138番目)の塩基、同4698255番(2R6;配列番号3の塩基配列の26番目)の塩基、同4698598番(2R7;配列番号4の塩基配列の119番目)の塩基、同4698606番(2R8;配列番号5の塩基配列の237番)の塩基、同4702054番(2R9;配列番号6の塩基配列の75番目)の塩基、同4704963番(2R10;配列番号7の塩基配列の244番目)の塩基、同4706895番(2R12;配列番号8の塩基配列の246番目)の塩基、同4708519番(2R15;配列番号9の塩基配列の140番目)の塩基の多型が挙げられる。
【0011】
2R3を含む配列としては、例えば、配列番号1の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の61番目の塩基にC(シトシン)>T(チミン)の多型(CとTの多型が存在し、Cがメジャーアレルであることを示す、以下同様)が存在する。
2R5を含む配列としては、例えば、配列番号2の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の138番目の塩基にG(グアニン)>A(アデニン)の多型が存在する。
2R6を含む配列としては、例えば、配列番号3の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の26番目の塩基にG>Aの多型が存在する。
2R7を含む配列としては、例えば、配列番号4の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の119番目の塩基にA>Gの多型が存在する。
2R8を含む配列としては、例えば、配列番号5の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の237番目の塩基にT>Aの多型が存在する。
2R9を含む配列としては、例えば、配列番号6の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の75番目の塩基にA>Tの多型が存在する。
2R10を含む配列としては、例えば、配列番号7の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の244番目の塩基にC>Tの多型が存在する。
2R12を含む配列としては、例えば、配列番号8の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の246番目の塩基にA>Gの多型が存在する。
2R15を含む配列としては、例えば、配列番号9の配列が挙げられる。ヒト染色体上のIL-1R2遺伝子においては、この配列の140番目の塩基にG>Aの多型が存在する。
【0012】
これらの塩基の多型を単独または組み合わせて解析することにより、炎症性疾患を検査することができる。また、これらの一塩基多型と連鎖不平衡にある多型に基づいて検査を行ってもよい。連鎖不平衡にある多型としては、他の塩基の一塩基多型やVNTRなどが挙げられる。
なお、IL-1R2遺伝子の配列はセンス鎖を解析してもよいし、アンチセンス鎖を解析してもよい。
【0013】
IL-1R2遺伝子の遺伝子多型の解析に用いる試料としては、染色体DNAを含む試料であれば特に制限されないが、例えば、血液、尿等の体液サンプル、肝細胞などの細胞、毛髪等の体毛などが挙げられる。遺伝子多型の解析にはこれらの試料を直接使用することもできるが、これらの試料から染色体DNAを常法により単離し、これを用いて解析することが好ましい。
【0014】
IL-1R2遺伝子の遺伝子多型の解析は、通常の遺伝子多型解析方法によって行うことができる。例えば、シークエンス解析、PCR、ハイブリダイゼーションなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
シークエンスは通常の方法により行うことができる。具体的には、多型を示す塩基の5’側 数十塩基の位置に設定したプライマーを使用してシークエンス反応を行い、その解析結果から、該当する位置がどの種類の塩基であるかを決定することができる。なお、シークエンスを行う場合、あらかじめ多型を含む断片をPCRなどによって増幅しておくことが好ましい。
【0016】
また、PCRによる増幅の有無を調べることによって解析することができる。例えば、多型を示す塩基を含む領域に対応する配列を有し、かつ、各多型に対応するプライマーをそれぞれ用意する。それぞれのプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物の有無によってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
また、LAMP法(特許第3313358号明細書)、NASBA法(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification;特許2843586号明細書)、ICAN法(特開2002-233379号公報)などによって増幅の有無を調べることもできる。その他、単鎖増幅法を用いてもよい。
【0017】
また、多型を含むDNA断片を増幅し、増幅産物の電気泳動における移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することもできる。このような方法としては、例えば、PCR-SSCP(single−strand conformation polymorphism)法(Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139−146.)が挙げられる。具体的には、まず、IL-1R2遺伝子の多型部位を含むDNAを増幅し、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離し、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0018】
さらに、多型を示す塩基が制限酵素認識配列に含まれる場合は、制限酵素による切断の有無によって解析することもできる(RFLP法)。この場合、まず、DNA試料を制限酵素により切断する。次いで、DNA断片を分離し、検出されたDNA断片の大きさによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0019】
次に、上記のような方法によって解析した多型に基いて、炎症性疾患について検査を行う。
例えば、IL-1R2遺伝子の2R7の塩基の多型に基いて判定する場合は、該塩基がGの場合、炎症性疾患の発症リスクが高い、炎症性疾患に罹患している可能性が高いなどと判定することができる。また、対立遺伝子の多型を含めて考慮してもよく、例えば、遺伝子型がGGの場合に、GAやAAの場合と比べて炎症性疾患の発症リスクが高い、炎症性疾患に罹患している可能性が高いなどと判定することができる。
なお、後述の実施例に示すように2R3、2R5、2R6、2R9、2R10、2R15の多型は上記2R7の多型と連鎖不平衡にあるため、2R7の代わりにこれらの中のいずれかの塩基の多型を解析してもよい。
また、IL-1R2遺伝子の2R8の塩基の多型に基いて判定する場合は、該塩基がAの場合、炎症性疾患の発症リスクが低い、炎症性疾患に罹患している可能性が低いなどと判定することができる。また、対立遺伝子の多型を含めて考慮してもよく、例えば、遺伝子型がAAの場合に、TAやTTの場合と比べて炎症性疾患の発症リスクが低い、炎症性疾患に罹患している可能性が低いなどと判定することができる。
また、IL-1R2遺伝子の2R12の塩基の多型に基いて判定する場合は、該塩基がGの場合、炎症性疾患の発症リスクが低い、炎症性疾患に罹患している可能性が低いなどと判定することができる。また、対立遺伝子の多型を含めて考慮してもよく、例えば、遺伝子型がGGの場合に、GAやAAの場合と比べて炎症性疾患の発症リスクが低い、炎症性疾患に罹患している可能性が低いなどと判定することができる。
【0020】
本発明の判定法においては、IL-1R2遺伝子の多型に加え、他の遺伝子の多型を解析し、それらの遺伝子の多型の組合わせに基いて炎症性疾患の判定を行ってもよい。他の遺伝子としては、IL−1α遺伝子、β遺伝子などが挙げられる。
【0021】
<2>本発明の検査用試薬
本発明はまた、炎症性疾患を検査するためのプライマー又はプローブを含む検査試薬を提供する。このようなプローブとしては、配列番号1の塩基配列において61番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号2の塩基配列において138番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号3の塩基配列において26番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号4の塩基配列において119番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号5の塩基配列において237番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号6の塩基配列において75番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号7の塩基配列において244番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号8の塩基配列において246番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブ、配列番号9の塩基配列において140番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有するプローブが挙げられる。
これらのプローブは、各多型のいずれか一方に対応する配列を有する1種類のプライマーを用いてもよいし、それぞれの多型に対応する配列を有する2種類のプライマーを用いてもよい。
【0022】
また、プライマーとしては、配列番号1の塩基配列の61番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号1の塩基配列の61番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー;配列番号2の塩基配列の138番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号2の塩基配列の138番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー;配列番号3の塩基配列の26番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号3の塩基配列の26番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー、;配列番号4の塩基配列の119番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号4の塩基配列の119番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー、;配列番号5の塩基配列の237番目の塩基の多型を判別するこ
とのできるプライマー、例えば、配列番号5の塩基配列の237番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー、;配列番号6の塩基配列の75番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号6の塩基配列の75番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー、;配列番号7の塩基配列の244番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号7の塩基配列の244番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー、;配列番号8の塩基配列の246番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号8の塩基配列の246番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマー、;配列番号9の塩基配列の140番目の塩基の多型を判別することのできるプライマー、例えば、配列番号9の塩基配列の140番目の塩基を含む配列を有する領域を増幅することのできるプライマーが挙げられる。これらのプライマーは多型を含む領域(好ましくは50〜1000塩基の長さの領域)の両端に設定されたフォワードプライマーとリバースプライマーのプライマーセットであってもよい。
また、シークエンス解析や単鎖増幅に用いる場合、プライマーは多型の塩基の5’側の配列を有するプライマーを用いることができる。この場合、上記領域の相補鎖を増幅するプライマーであってもよい。
また、増幅の有無を指標に検査する場合は、多型を含む領域の配列またはその相補配列を有するプライマーであって、それぞれの多型に対応するプライマーを用いてもよい。
このようなプライマーやプローブの長さは特に制限されないが、例えば、10〜100塩基のオリゴヌクレオチドが好ましく、15〜50塩基のオリゴヌクレオチドがより好ましい。なお、本発明の検査用試薬はこれらのプライマーやプローブに加えて、PCR用のポリメラーゼやハイブリダイゼ−ション用のバッファーなどを含むものであってもよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0024】
<実験材料および方法>
1.被験者
愛知学院大学歯学部附属病院歯周病科を受診し、後述の基準により侵襲性歯周炎(AgP)と診断された102名(女性66名、男性36名、平均年齢30.8±6.2歳)と歯周組織健常者ボランティア88名(女性33名、男性57名、平均年齢43.1±7.0歳)を被験者とした。被験者は全員日本人であり、研究内容について口頭で十分な説明を行った上で、全ての被験者からインフォームド・コンセントを得た。なお本研究は愛知学院大学歯学部および理化学研究所横浜研究所, 両機関の倫理委員会において承認を得た。
(1)臨床検査項目
全被験者に対し歯周組織検査を行った。検査項目は次の通りである。(i)現存歯数および欠損歯数、(ii)プロービング・ポケット・デプス(PD)、(iii)クリニカル・アタッチメント・レベル(CAL)、(iv)プロービング時出血(BOP)、(v)動揺度(teeth mobility)。さらに、一般血液検査により、全被験者において全身疾患のないことを確認した。
(2)診断基準
AgPの臨床診断基準は、これまでの報告に基づき次のように定めた。
(i)歯周病発症時の年齢が35歳未満の者
(ii)4mm以上のCALが4歯以上にみられ、そのうち1歯は第一大臼歯である者
さらに、AgPと診断された者に対しレントゲン診査を行い骨吸収度の確認を行った。
一方、歯周組織健常者は、次のように定めた。
(i)臨床検査時年齢が35歳以上の者
(ii)全歯においてアタッチメント・ロスが認められない者
AgP患者及び対照の歯周組織健常者の詳細を表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
(3)DNA採取
被験者より採取した末梢血10mlより、DNA抽出キットを用いてゲノムDNAの抽出を行い、5ng/μlに調整した。
【0027】
2.遺伝子多型の同定
遺伝子多型の同定にはpolymerase chain reaction(PCR)法とダイレクトシーケンス法を用いた。詳細は以下に示す。
(1)PCRプライマーとsequencingプライマー
IL-1R2遺伝子のゲノムDNAおよびmRNAの塩基配列情報を、National Center for Biotechnology Information (NCBI)データベースから取得した。その塩基配列情報を基に、IL-1R2遺伝子の全エクソン領域およびエクソン・イントロン境界領域を含むゲノム領域の増幅・塩基配列決定を目的に、設計したPCRプライマーセット(配列番号10,11)、sequencingプライマー(配列番号12−16)および、VariantSEQr Resequencing System(ABI社)のPCRプライマーセット、universal sequencingプライマーを用いた。
(2)一塩基多型(single nucleotide polymorphism; SNP)の同定
PCR法とダイレクトシーケンス法を用い、通常の手法に従って、ターゲット領域について、AgPサンプル(n=24)と健常者サンプル(n=24)の塩基配列を決定し、相互比較によりSNPsの同定を行った。ダイレクトシーケンスには、BigDye Terminator cycle sequencing kit、ABI Prism 3730 DNA analyzer(ABI社)を用いた。また、解析ソフトウェアとして、Sequencher program(日立)を用いた。
【0028】
3.統計解析
IL-1R2遺伝子とAgPとの関連を検討するため、AgP群と健常者群で、アリル頻度およびハプロタイプ頻度を用い2×2分割表のカイ二乗検定を行った。有意水準としてp値<0.05を設定した。連鎖不平衡解析においては、連鎖不平衡係数としてD'とr2を用いた。ハプロタイプ推定にはexpectation-maxmization法を用いた。以上の統計解析において統計ソフトウェアSNPAlyze Ver.3.2(ダイナコム社)を用いた。
【0029】
<結果および考察>
1.IL-1R2遺伝子において同定された遺伝子多型について
IL-1R2遺伝子の全てのエクソン領域およびエクソン・イントロン境界領域を含むゲノム領域(計14.5kb)について、AgPサンプル(n=24)と健常者サンプル(n=24)の塩基配列を決定し、相互比較によりこの領域に19種類のSNPsを同定した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
これらの分布は、アミノ酸コード領域に3種類の SNPs(2R4、2R18、2R19), 5’末端隣接領域に2種類の SNPs(2R1、2R2)、イントロン領域に14種類の SNPs(2R3、2R5、2R6、2R7、2R8、2R9、2R10、2R11、2R12、2R13、2R14、2R15、2R16、2R17)であった。アミノ酸コード領域にみられた3種類のSNPsのうち2種類のSNPs(2R4、2R18)は非同義置換サイトに存在した。それらのアリル頻度は小さかったが、その存在はタンパクの機能に影響を与える可能性があると考えられる。19種類のSNPsのうち、12種類のSNPs(2R3、2R5、2R6、2R7、2R8、2R9、2R10、2R12、2R13、2R14、2R15、2R16)は、SNPsの同定に用いた96染色体(被験者46サンプル)において10%以上にそのマイナーアリルがみられた。これらをcommon SNPと名付け、後述のアリル頻度解析に用いた。
【0032】
2.IL-1R2遺伝子における連鎖不平衡解析について
上記12のcommon SNPsについて、さらにAgPサンプル(n=24)と健常者サンプル(n=24)の遺伝子型を決定し、両群各48サンプルを連鎖不平衡解析に用いた。各SNP同士の連鎖不平衡係数を算出し、IL-1R2遺伝子について、それぞれ詳細な連鎖不平衡マップを作成したところ(表3)、高い連鎖不平衡状態にあるSNPsの組がIL-1R2遺伝子に2組存在することが分かった(2R3、2R5、2R6、2R7、2R9、2R10、2R15の組と2R13、2R16の組)。この連鎖不平衡マップは本研究においてだけでなく、IL-1R2遺伝子とヒト疾患との関連解析や、
IL-1R2遺伝子の分子進化予測において有用であると考えられる。
【0033】
【表3】

【0034】
3.アリル頻度とハプロタイプ頻度を用いた、IL-1R2遺伝子とAgPとの関連性の検討について
高い連鎖不平衡状態にあるSNPsの組において各組を代表するSNP(2R7と2R13)および、他のSNPsと連鎖不平衡状態に無い独立したSNP(2R8、2R12、2R14)の計5種類のSNPsについて、さらにAgPサンプル(n=54)と健常者サンプル(n=40)の遺伝子型を決定し、IL-1R2遺伝子とAgPとの関連性の検討を行った。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
その結果、IL-1R2遺伝子における3 SNPs(2R7、2R8、2R12)のアリル頻度において、それぞれAgP群と健常者群との間に顕著な有意差が認められた(p=0.0017, 0.0440, 0.0142)。さらに、その3 SNPsで構成した3ハプロタイプにおいても両群の間に顕著な有意差が認められた(p=0.0269, 0.0005, 0.0440)。
その3 SNPs(2R7、2R8、2R12)および、2R7と高い連鎖不平衡状態にある6 SNPs(2R3、2R5、2R6、2R9、2R10、2R15)は全てイントロン領域に存在した。このことから、それらのSNPsは遺伝子の機能に直接の変化を及ぼさないものの、mRNAのスプライシングや転写に影響し、その発現の量や質を変化させる可能性があると考えられる。また、それらのSNPsおよびハプロタイプはAgPの感受性マーカーとして利用できる可能性が示唆された。
【0037】
<結論>
AgP関連遺伝子の候補として、IL-1遺伝子クラスター(図1)に存在するIL-1R2遺伝子(図2)を選定し、遺伝子多型を用いた関連解析により、AgPとの関連性の検討を行ったところ、IL-1R2遺伝子における3 SNPsのアリル頻度および、その3 SNPsで構成した3ハプロタイプにおいてAgP群と健常者群との間に顕著な有意差が認められた。これらの結果から以下の結論を得た。
(1)IL-1R2遺伝子のアリルの変異がAgPの感受性マーカーとしてその診断・予防・予後予測・治療にとって有用である可能性が示唆された。
(2)IL-1R2遺伝子のアリルの変異が歯周病の発症・進行リスクを部分的に決定している可能性が示唆された。
(3)AgPに関連した遺伝子領域がIL-1R2遺伝子もしくはその近傍に存在する可能性が示
唆された。
これらの結果は、AgPの診断および予後予測においてのみならず、歯周疾患の病因における分子メカニズム解明においても重要な情報を与えると思われる。
さらに、IL-1R2遺伝子の多型を解析することで、その他の炎症性疾患、特に顎関節炎、リウマチ、慢性歯周炎などの局所性炎症疾患の検査にも利用できる可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】IL−1遺伝子クラスターの遺伝子地図。
【図2】IL-1R2遺伝子の遺伝子構造を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン−1受容体2遺伝子の多型を分析し、該分析結果に基づいて炎症性疾患を検査する方法。
【請求項2】
前記多型が一塩基多型である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一塩基多型が以下の群から選ばれる1又は2以上の塩基の多型である、請求項2に記載の方法。
(a)配列番号1の61番目の塩基
(b)配列番号2の138番目の塩基
(c)配列番号3の26番目の塩基
(d)配列番号4の119番目の塩基
(e)配列番号5の237番目の塩基
(f)配列番号6の75番目の塩基
(g)配列番号7の244番目の塩基
(h)配列番号8の246番目の塩基
(i)配列番号9の140番目の塩基
【請求項4】
炎症性疾患が局所炎症性疾患である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
炎症性疾患が歯周病である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
炎症性疾患が侵襲性歯周炎である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
以下の群から選ばれる1又は2以上のプローブを含む炎症性疾患の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列において61番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(b)配列番号2の塩基配列において138番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(c)配列番号3の塩基配列において26番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(d)配列番号4の塩基配列において119番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(e)配列番号5の塩基配列において237番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(f)配列番号6の塩基配列において75番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(g)配列番号7の塩基配列において244番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(h)配列番号8の塩基配列において246番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、
(i)配列番号9の塩基配列において140番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ。
【請求項8】
以下の群から選ばれる1又は2以上のプライマーを含む炎症性疾患の検査試薬:
(a)配列番号1の塩基配列の61番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(b)配列番号2の塩基配列の138番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(c)配列番号3の塩基配列の26番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(d)配列番号4の塩基配列の119番目の塩基を含む領域を検出するためのプライ
マー、
(e)配列番号5の塩基配列の237番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(f)配列番号6の塩基配列の75番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(g)配列番号7の塩基配列の244番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(h)配列番号8の塩基配列の246番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー、
(i)配列番号9の塩基配列の140番目の塩基を含む領域を検出するためのプライマー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−262826(P2006−262826A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88350(P2005−88350)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(500175325)学校法人愛知学院 (6)
【Fターム(参考)】