説明

インターロイキン12産生促進剤

【課題】インターロイキン−12(IL−12)の産生不足による疾患、例えば、感染症、腫瘍、アレルギー等の予防・治療に有用なIL−12産生促進剤の提供。
【解決手段】IL−12産生誘導能を有する細菌と、ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物を組み合わせてなるIL−12産生促進剤。該IL−12産生誘導能を有する細菌としては、ラクトバチルス・カゼイ又はラクトバチルス・ラムノーサスであることが好ましい。該ウィルス又は鞭毛を有する細菌としては、ロタウィルス、枯草菌、大腸菌及びサルモネラ菌であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン(以下、IL−ということもある)12の産生不足による疾患の予防又は治療薬として有用なIL−12産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、ウィルス等の微生物の感染、腫瘍、細胞傷害などに対して生体は免疫反応によって対応するが、その免疫反応は、免疫担当細胞間の直接的或いは間接的な相互作用により調節されている。そして、免疫応答の調節にはリンパ球、マクロファージ等が産生するインターロイキン、腫瘍壊死因子α等のサイトカインが重要な役割を演じている。
【0003】
現在、インターロイキンに属するサイトカインとしては35種類が知られているが、その一つであるIL−12については次のような作用が確認されている。
【0004】
(1)NK細胞やT細胞に作用してインターフェロンγや腫瘍壊死因子αの産生を誘導し、マクロファージを活性化する。
(2)NK細胞及びCD8+T細胞の細胞傷害活性を増強する。
(3)インターロイキン2と相乗的に作用して細胞傷害性リンパ球を活性化すると共にリンホカイン活性化キラー細胞を誘導する。
(4)ナイーブT細胞からTh1細胞への分化を促す。
【0005】
これらの作用があることにより、IL−12は感染症、腫瘍、アレルギーなど、多くの疾患の治療に利用可能になるものと期待されている(非特許文献1〜3 )。
【0006】
プロバイオティクスによりIL−12の産生を誘導する試みとしては、ラクトバチルス・アシドフィルス等の乳酸菌の菌体によるIL−12産生の誘導(特許文献1)、テトラジェノコッカス属等に属する乳酸菌の培養物、菌体又は菌体成分によるIL−12産生の誘導(特許文献2)等が報告されているが、これらのいずれについても未だ十分な効果は得られていない。
【特許文献1】特開平10−139674号公報
【特許文献2】特開2006−28047号公報
【非特許文献1】Review.Blood(1994)84:4008-4027
【非特許文献2】Annu.Rev.Immunol(1995)13:251-276
【非特許文献3】Life Sience(1996)58:635-654
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、IL−12の産生不足による疾患、例えば感染症、腫瘍、アレルギー等の予防・治療に有用であり、かつ日常的に使用できる安全な医薬、飲食品に利用できるIL−12産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、全く意外なことに、(A)IL−12産生誘導能を有する細菌と、(B)ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物を組み合わせたときにマクロファージ培養系によるIL−12の産生が顕著に促進されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は(A)IL−12産生誘導能を有する細菌と、(B)ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物を組み合わせてなるIL−12産生促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のIL−12産生促進剤は、長期間経口摂取しても安全であり、感染症、腫瘍、アレルギー等のIL−12産生不足による多くの疾患の予防と治療の目的に有効かつ安全に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、「IL−12産生誘導能を有する」とは、被験物質をマウス腹腔マクロファージ培養系に添加して24時間培養後に上清を回収し、上清中のIL−12p70の濃度をELISAで定量したとき、10ng/ml以上であることを意味し、特に20ng/ml以上であるのが好ましい。
【0012】
本発明において、「ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物」とは用いられるウィルス又は鞭毛を有する細菌に何らかの処理を加えて不活性化したものをいい、その処理は特に限定されない。前記処理物としては、具体的には、ウィルス又は鞭毛を有する細菌の紫外線照射液、加熱滅菌処理液、それらを濾過ないし遠心分離など固液分離手段によって分離した固体残渣等が挙げられる。また、細胞壁又はウィルス膜を酵素若しくは機械的手段により除去した処理液、これらの濃縮物、これらの希釈物又はこれらの乾燥物なども含まれる。また、ウィルスを機械的手段、界面活性剤、低張液等によって溶解した後、エタノール等によって沈殿させて得られる核酸含有画分も含まれる。さらに、前記ウィルス又はグラム陰性菌の超音波などによる破砕液、細胞溶解液などに対し、例えば各種クロマトグラフィーによる分離や密度勾配遠心法などの分離・精製処理をさらに行ったものも含まれる。さらに、鞭毛を有する細菌の死菌体又は不活性化ウィルスも含まれ、該死菌体又は不活性化ウィルスは、例えば、加熱処理、抗生物質などの薬物による処理、次亜塩素酸、ホルマリンなどの化学物質による処理、紫外線による処理、γ線などの放射線による処理により得ることができる。これら処理のうち、特に紫外線処理、加熱処理が好ましい。
さらに、前記ウィルス処理物は、化学的に合成されたもの、例えば合成2本鎖RNA等であってもよく、具体的には、L−イノシン酸・L−シチジル酸コポリマー(poly(I:C))等の合成2本鎖RNAは市販の核酸合成装置により合成することが可能である。また、鞭毛を有する細菌の処理物は、例えば、FliC等のフラジェリンをコードする遺伝子を非病原性細菌やHEK293等の培養細胞株に導入してリコンビナントフラジェリンを強制的に産生させた細菌や培養細胞の処理物であっても良いし、密度勾配遠心法などによりリコンビナントフラジェリンを精製して用いることもできる。
【0013】
本発明において、(A)IL−12産生誘導能を有する細菌としては、菌体消化酵素による消化率が10%以下の細菌が挙げられる。
本発明において、「菌体消化酵素による消化率」とは、N−アセチルムラミダーゼの一種であるM−1酵素(EC 3.2.1.17)による消化試験を行った際の被験物質の消化率を意味する。具体的には、以下に示す消化試験を行い、被験物質の消化率を算出することができる。
まず、4mM塩化マグネシウムを含む50mMトリス・マレイト緩衝液(pH7.0)中に被験物質を2mg/mlで懸濁し、M−1酵素を添加(10μg/ml)して37℃で10分反応を行った後、100℃、5分の加熱処理により酵素活性を失活させた。反応液に対してSDS溶液を添加し(終濃度2%)、ボルテックスにて十分攪拌してプロトプラスト状の被験物質を溶解させた後、濁度(OD600)を測定した。消化率の算出には以下の式を用いた。
【0014】
【数1】

【0015】
(A)IL−12産生誘導能を有する細菌としては、例えばラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサス、ラクトバチルス・ゼアエ等のラクトバチルス・カゼイグループに属する細菌が挙げられ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサスが好ましく、取扱いやすさや安全性などの点から、さらにラクトバチルス・カゼイが好ましい。特に、ラクトバチルス・カゼイYIT9029株、ラクトバチルス・ラムノーサスATCC7469株を使用することが好ましい。
【0016】
(B)ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物としては、特に限定されないが、ロタウィルスなどの二本鎖RNAウィルス又は枯草菌等の鞭毛を有するグラム陽性菌若しくは大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌、コレラ菌等の鞭毛を有するグラム陰性菌等の処理物が挙げられる。このうち、TLR3又はTLR5のリガンドとなり得る処理物が好ましく、当該処理物としては、具体的には、2本鎖RNA、フラジェリン等が挙げられ、安全性の点からは、合成2本鎖RNAや非病原性細菌や培養細胞等を利用して産生させたリコンビナントフラジェリンが好ましい。
【0017】
成分(B)は前記化学合成又は分離・精製処理により得られる単一の成分であってもよく、或いはウィルス若しくは鞭毛を有する細菌に前記処理を施して得られる成分(B)を含有する混合物、粗精製物等であってもよい。そのような混合物、粗精製物等としては、特に限定されるものではないが、例えば枯草菌破砕物、枯草菌加熱処理死菌体、ロタウィルス溶解液等が好適に用いられる。
【0018】
成分(A)の細菌の形態は特に制限されず、生菌又は加熱菌体(死菌体)のいずれでもよく、又凍結乾燥したものであってもよく、或いはこれらを含む培養物として利用することもできる。ここで、本発明の成分(A)、(B)は各々1種でもよいし、2種以上用いてもよい。
【0019】
本発明の成分(A)と(B)を組み合わせると、全く意外にも強力なIL−12産生促進作用、特にマクロファージ培養系によるIL−12産生促進作用を奏する。従って、本発明のIL−12産生促進剤は、感染症、腫瘍、アレルギー等の様々な疾病の治療や改善、或いはその予防等の目的に利用できる。
ここで、IL−12産生促進作用を有するとは、次式により求められるIL−12産生増加能が120%以上のものを意味し、好ましくは150%以上のものを意味する。
【0020】
【数2】

【0021】
本発明において成分(A)と(B)との組み合わせによって、IL−12産生が促進されるメカニズムは明らかではないが、以下の可能性が考えられる。IL−12の産生は複数のステップにより制御されており、成分(A)が活性化するステップと成分(B)が活性化するステップが異なっている時、成分(A)と(B)両者で同時に刺激した場合、より多くのステップが同時に活性化されIL−12の産生が相乗的に強く誘導される可能性が想定される。
【0022】
特に、上記成分(A)がヒトの腸内フローラを構成するものであったり、酪農乳製品に古くから利用されてきた乳酸菌からなるものである場合は、長期間経口摂取しても安全であるだけでなく、整腸作用、抗腫瘍作用、抗変異作用、血圧低下作用、抗潰瘍作用、コレステロール低下作用等、乳酸菌に期待される周知の有用な作用を複合的に作用させることができ、好適に利用することができる。
【0023】
本発明のIL−12産生促進剤は経口投与又は非経口投与のいずれも使用できるが、経口投与が望ましい。投与に関しては、有効成分である成分(A)及び(B)を投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0024】
本発明のIL−12産生促進剤の有効成分である成分(A)及び(B)を使用する際の投与量に厳格な制限はない。対象者や適用疾患等の様々な使用態様によって得られる効果が異なるため、適宜投与量を設定することが望ましいが、その好適な投与量は成分(A)については乾燥重量で1日当たり1μg〜10g(菌体数では106〜1013cfu)、より好ましくは1mg〜1g(菌体数では109〜1012cfu)である。また成分(B)については1日当たり0.01μg〜1g、より好ましくは1μg〜10mgである。
このとき、成分(A)と(B)との配合比率に厳格な制限はないが、相乗的なIL−12産生促進作用を奏する点で、成分(A):成分(B)は1:0.0001〜1が好ましく、1:0.001〜1がより好ましく、1:0.01〜1がさらに好ましく、1:0.1〜1が特に好ましい(成分(B)は精製された単一の有効成分量で換算)。
【0025】
このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固体剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、澱粉、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0026】
また、本発明のIL−12産生促進剤は、上記のような医薬品製剤として用いるだけでなく、飲食品等として用いることもできる。この場合には、本発明の成分(A)及び(B)をそのまま、又は種々の栄養成分を加えて、飲食品中に含有せしめればよい。この飲食品は、感染症、腫瘍、アレルギー等の改善、予防等に有用な保健用食品又は食品素材として利用でき、これらの飲食品又はその容器には、前記の効果を有する旨の表示を付してもよい。具体的に本発明のIL−12産生促進剤を飲食品に配合する場合は、飲食品として使用可能な添加剤を適宜使用し、慣用の手段を用いて食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペースト等に成形してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージ等の食肉加工品、かまぼこ、ちくわ等の水産加工品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵飲食品に添加して使用したり、水、果汁、牛乳、清涼飲料、茶飲料等の飲料に添加して使用してもよい。なお、飲食品には動物の飼料も含まれる。
【0027】
さらに飲食品としては、有効成分である成分(A)及び(B)を含有する発酵乳、乳酸菌飲料、発酵豆乳、発酵果汁、発酵植物液等の発酵乳製品が好適に用いられる。これら発酵乳飲食品の製造は定法に従って製造することができる。例えば発酵乳は、殺菌した乳培地に成分(A)を接種培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得る。この時、他の微生物と同時に接種培養してもよい。次いで成分(B)及び別途調製したシロップ溶液を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、更にフレーバーを添加して最終製品とすることができる。このようにして得られる発酵乳は、プレーンタイプ、ソフトタイプ、フルーツフレーバータイプ、固形状、液状等のいずれの形態の製品とすることもできる。
【0028】
また、本発明のIL−12産生促進剤においては、成分(A)、(B)は同時に投与してもよく、或いは、成分(A)又は(B)のどちらか一方を先に投与してもよい。特に同時に投与するのが好ましく、ヒトを含むあらゆる哺乳動物に適用できる。従って、成分(A)のみを含有する組成物と成分(B)のみを含有する組成物を別個にしてもよく、成分(A)及び(B)を含有する組成物としてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【0030】
試験例1
(1)細菌並びにウィルス及び鞭毛を有する細菌の処理物
ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)については、200mlのDifcoTM Lactobacilli MRS培地(BD社)を用いて、37℃で20時間培養した。菌体は遠心分離(8000回転、10分)により集菌し、滅菌ミリQ水を用いて遠心洗浄を3回繰り返した後、200mlの滅菌ミリQ水に懸濁して、100℃で30分間の加熱処理をした後、凍結乾燥した。合成2本鎖RNA(商品名:poly(I:C))(TLR3リガンド)、サルモネラ菌由来のフラジェリン(TLR5リガンド)、スタフィロコッカス・オウレウス由来のリポテイコ酸(TLR2リガンド)はインビボジェン社よりそれぞれ購入した。
また、ラクトバチルス・ラムノーサス(ATCC7469)については、アメリカンタイプカルチャーコレクションより、ラクトバチルス・ジョンソニー(JCM2012)については、ジャパンコレクションオブマイクロオーガニスムよりそれぞれ購入し、ラクトバチルス・カゼイと同様の方法で加熱死菌体を調製した。
本発明の成分(B)としては、前記合成2本鎖RNAの他、ウィルス由来の2本鎖RNAも利用することができ、その調製方法は特に限定されないが、例えば、ロタウィルス由来の2本鎖RNAの調製方法として、具体的に以下に示す方法を好適に用いることができる。MA104細胞等を用いてロタウィルスを培養し、フレンチプレス等によりウィルス膜を物理的に破壊し、遠心分離により不溶性画分を除去した後、エタノール等によって核酸画分を沈殿させて2本鎖RNAを精製することができる。
鞭毛を有する細菌由来のフラジェリンの調製方法としては、特に限定されないが、一般的な細菌の鞭毛精製法を用いることができる。例えば、サルモネラ菌由来のフラジェリンの調製方法として、具体的には以下に示す方法を好適に用いることができる。ブイヨン培地等で培養したサルモネラ菌を遠心分離により集菌し、生理食塩水に懸濁してホモジナイザーで機械的に破壊し、低速遠心分離にて菌体残渣を除去した後、超遠心分離にて粗フラジェリン画分を得ることができる。さらに、粗フラジェリン画分から密度勾配遠心法により精製フラジェリンを得ることができる。
【0031】
(2)マウス腹腔マクロファージの調製と培養
本試験例における被験物質としては、本発明の有効成分である成分(A)、(B)の他、陰性対照物質として、表1に示す成分(C)、(D)を用いた。
日本SLC社より購入した9週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に4%チオグリコレート(ディフコ社)溶液2mlを投与した。4日後に腹腔内に誘導されてくる細胞をハンクス溶液(シグマ社)10mlを用いて回収し、腹腔マクロファージとした。腹腔マクロファージはハンクス溶液で3回洗浄後、10%牛胎児血清を含むRPMI 1640培地(シグマ社)に懸濁した。96ウエル培養プレート(ヌンク社)に腹腔マクロファージ(1×105個/ウエル/0.2ml)をまき、成分(A)若しくは(C)(10μg/ml)又は成分(B)若しくは(D)(1μg/ml)を単独で、又は、混合して添加して37℃で培養した。24時間後の培養上清を回収し、IL−12p70の濃度をELISAで定量した。ELISAでのIL−12p70の濃度の定量方法について以下に説明する。96ウエルELISAプレートに抗マウスIL−12抗体(クローン9A5、200倍希釈、ファーミンジェン社)を4℃で一晩吸着させた。1%牛血清アルブミンでブロッキングした後、20倍又は4倍に希釈した培養上清又は標準IL−12p70(ファーミンジェン社)を添加して室温で90分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、ビオチン標識抗マウスIL−12抗体(クローンC17.8、1000倍希釈、ファーミンジェン社)を添加して室温で90分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、ストレプトアビジン標識ペルオキシダーゼ(20000倍希釈、セロテック社)を添加して室温で30分間反応させた。0.05%トライトンX100を含むリン酸緩衝化食塩水で洗浄後、TMB試薬を添加して室温で10分間反応させ、1N硫酸を加えて反応を停止し、450nmの吸光値を測定した。標準IL−12p70から検量線を作成し、培養上清中の濃度を算出した。
【0032】
(3)試験結果
成分(A)、(B)、(C)、(D)を単独で添加した場合のIL−12の産生量、成分(A)又は(C)と成分(B)又は(D)とを組み合わせて添加した場合のIL−12の産生量を表1に示した。成分(A)と成分(B)を組み合わせて添加した場合、両成分単独でのIL−12誘導量を加算した値以上に相乗的にIL−12産生が強く誘導された。一方、成分(A)と成分(D)、成分(C)と成分(B)を組み合わせて添加した場合はIL−12産生の相乗的な誘導効果は認められなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
試験例2
(1)N−アセチルムラミダーゼ処理
ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ラクトバチルス・ラムノーサス(ATCC 7469)、ラクトバチルス・ジョンソニー(JCM 2012)を4mM塩化マグネシウムを含む50mMトリス・マレイト緩衝液(pH7.0)中に懸濁し(2mg/ml)、N−アセチルムラミダーゼ(M−1酵素(EC 3.2.1.17)、生化学工業)を添加(10μg/ml)して37℃で10分反応させた。100℃、5分の加熱処理により酵素活性を失活させた後、反応液に対して1/4容量の10%SDS溶液を添加し、ボルテックスにて十分攪拌してプロトプラスト状の被験物質を溶解させた。その後、600nmの吸光度を測定し、消化率を算出した。
さらに、菌株保存機関より入手したラクトバチルス・カゼイ4株、ラクトバチルス・ラムノーサス4株、ラクトバチルス・ゼアエ1株、ラクトバチルス・ファーメンタム3株、ラクトバチルス・ガッセリ4株、ラクトバチルス・ジョンソニー4株、ラクトバチルス・アシドフィルス4株、ラクトバチルス・デルブルッキー4株、ラクトバチルス・ヘルベティカス4株、ラクトバチルス・プランタラム4株の36株の乳酸桿菌について、同様にN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率を調べた。また、マウス腹腔マクロファージ培養系にこれらの乳酸桿菌を添加(10μg/ml)して24時間培養し、上清中に誘導されるIL−12量をELISAで測定した。
【0035】
(2)試験結果
ラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029)、ラクトバチルス・ラムノーサス(ATCC 7469)、ラクトバチルス・ジョンソニー(JCM 2012)のN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率を表2に示した。
N−アセチルムラミダーゼ処理による成分(A)(ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノーサス)の消化率は5.7%以下であった。
【0036】
【表2】

【0037】
乳酸菌36株のN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率を横軸に、マウス腹腔マクロファージ培養系におけるIL−12誘導量を縦軸にプロットし、図1に示した。
36株の乳酸菌について、N−アセチルムラミダーゼ処理による消化率とIL−12誘導活性を調べ、両者の関係を解析したところ、消化率とIL−12誘導量との間に負の相関(r=0.747)が認められた。すなわち、菌体消化酵素による消化率が高いものはIL−12誘導活性が弱く、逆に、菌体消化酵素による消化率が低いものはIL−12誘導活性が強いことがわかった。
【0038】
実施例1 錠剤の製造(1)
下記の処方で各種成分を混合して造粒、乾燥、整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
(処方) (mg)
ラクトバチルス・カゼイ 10
2本鎖RNA 1
微結晶セルロース 100
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
メチルセルロース 12
【0039】
実施例2 錠剤の製造(2)
下記の処方で各種成分を混合して造粒、乾燥、整粒した後に、打錠して錠剤を製造した。
(処方) (mg)
ラクトバチルス・カゼイ 10
フラジェリン 1
微結晶セルロース 100
乳糖 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
メチルセルロース 12
【0040】
実施例4 清涼飲料の製造
下記の処方で処方したものを加熱殺菌後、褐色瓶にホットパック充填を行い、清涼飲料水を得た。
(処方) (g)
ラクトバチルス・カゼイ 0.4
枯草菌破砕物 0.1
香料 0.8
クエン酸 0.2
果糖 4
スクラロース 0.001
水 94.199
【0041】
実施例5 発酵乳製品の製造(1)
15%脱脂乳に3%グルコースを添加し、120℃で3秒間殺菌した後、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT 9029株を1%接種し、37℃でpH3.6まで培養してヨーグルトベース210gを得た。一方、砂糖97g、クエン酸鉄0.2g、枯草菌破砕物0.3gを水に溶解し、水を加え全量を790gとし、この溶液を110℃で3秒間殺菌し、シロップを得た。上記のようにして得られたヨーグルトベースとシロップを混合し、香料を1g添加した後、15Mpaで均質化して容器に充填して発酵乳製品を得た。この発酵乳製品中のラクトバチルス・カゼイの初発菌数は108cfu/mlであった。
【0042】
実施例6 発酵乳製品の製造(2)
15%脱脂乳に3%グルコースを添加し、120℃で3秒間殺菌した後、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)YIT 9029株を1%接種し、37℃でpH3.6まで培養してヨーグルトベース210gを得た。一方、砂糖97g、クエン酸鉄0.2g、枯草菌加熱処理死菌体0.3gを水に溶解し、水を加え全量を790gとし、この溶液を110℃で3秒間殺菌し、シロップを得た。上記のようにして得られたヨーグルトベースとシロップを混合し、香料を1g添加した後、15Mpaで均質化して容器に充填して発酵乳製品を得た。この発酵乳製品中のラクトバチルス・カゼイの初発菌数は108cfu/mlであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】乳酸菌36株のN−アセチルムラミダーゼ処理による消化率と、マウス腹腔マクロファージ培養系におけるIL−12誘導量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌と、(B)ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物を組み合わせてなるインターロイキン12産生促進剤。
【請求項2】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌が、菌体消化酵素による消化率が10%以下のものである請求項1記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項3】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌が、ラクトバチルス・カゼイグループに属する細菌である請求項1又は2記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項4】
(A)インターロイキン12産生誘導能を有する細菌が、ラクトバチルス・カゼイ又はラクトバチルス・ラムノーサスである請求項1〜3の何れか1項記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項5】
(B)ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物が、ロタウィルス、枯草菌、大腸菌及びサルモネラ菌から選ばれる1種以上のものの処理物である請求項1〜4の何れか1項記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項6】
(B)ウィルス又は鞭毛を有する細菌の処理物が、TLR3又は5のリガンドである請求項1〜5の何れか1項記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項7】
(B)ウィルスの処理物が、2本鎖RNAである請求項1〜6の何れか1項記載のインターロイキン12産生促進剤。
【請求項8】
(B)鞭毛を有する細菌の処理物が、フラジェリンである請求項1〜6の何れか1項記載のインターロイキン12産生促進剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155221(P2009−155221A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331913(P2007−331913)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】