説明

インデンの製造法

【課題】 工業的に有用なインデンを安価に得るための新規な製造法を提供する。
【解決手段】 テトラヒドロインデンを、ニッケルおよびモリブデンの酸化物を含む固体触媒の存在下に100℃以上の温度において気相で脱水素することからなるインデンの製造法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、透明で耐熱性の高い樹脂原料、あるいはポリオレフィン重合用のシングルサイト触媒の配位子の原料として工業的に有用なインデンの新規な製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、各種のインデンの製造方法が提案されている。コールタール留分からインデンを回収する方法もあるが、コールタール留分にはベンゾニトリルあるいはベンゾフラン等の数多くの不純物が含まれており、蒸留による分離回収方法では、沸点の近似したベンゾニトリルを分離して高純度のインデンを得ることは困難である。コールタール留分中のベンゾニトリルを反応させて分離することも提案されているが、工程数が増えるため経済的には好ましくない。また、テトラヒドロインデン(以下「THI」と略す)あるいは置換THIをコバルト・モリブデン酸化物触媒の存在下で脱水素してインデンあるいは置換インデンを得る方法(米国特許4,291,181号)も提案されている。この方法は純度の高いインデン等が得られる利点があり、THIの転化率は高いが、コバルト・モリブデン酸化物触媒では収率が低く、更に触媒の活性低下が著しいという欠点がある。
【0003】
【発明が開発しようとする課題】本発明は、上記のような事情に鑑み、安価な原料から簡単な反応でインデンを経済的に合成する方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の第1は、テトラヒドロインデンを、ニッケルおよびモリブデンの酸化物を含む固体触媒の存在下に100℃以上の温度において気相で脱水素することからなるインデンの製造法に関するものである。本発明の第2は、本発明の第1において、脱水素を420℃から530℃の温度範囲で行うインデンの製造法に関する。本発明の第3は、本発明の第1において、脱水素を常圧以下から10kg/cm2の圧力範囲で行うインデンの製造法に関する。本発明の方法は、THIの転化率が高く、またインデンの収率も高く、更に触媒の活性低下が少ないという特徴を有する。以下、本発明を更に説明する。
【0005】本発明に用いるTHIは、いずれの製造方法によるものでもよい。例えば1,3−ブタジエン(以下「ブタジエン」と略す)とジシクロペンタジエン(以下「DCPD」と略す)あるいはシクロペンタジエン(以下「CPD」と略す)とのディールス−アルダー反応で合成することができる。このディールス−アルダー反応は、1モルのブタジエンと1/2モルのDCPDあるいは1モルのCPDを加熱することより進行する。反応は酸等の触媒を用いて促進することができるが、通常は加熱だけで十分である。反応温度は70〜270℃である。回収した留分にはTHIの他に、DCPD、メチルテトラヒドロインデン、あるいはノルボルネン型オレフィンであるエチリデンノルボルネンやDCPDとCPDとのディールス−アルダー付加物等の、THIより沸点の高い不純物を含むことがある。本発明の方法においては、原料とするTHIの純度は50%以上が好ましく、精留等により純度90%以上にすることが更に好ましい。
【0006】また、ビニルノルボルネンは、100℃程度に加熱することにより、ニッケルおよびモリブデンの酸化物を含む固体触媒の存在下において容易にTHIに異性化させることができる。したがって、ビニルノルボルネンも本発明のインデン製造のための原料として用いることができる。なお、ビニルノルボルネンは、ブタジエンとDCPDあるいはCPDとのディールス−アルダー反応により合成することができる。すなわち、ビニルノルボルネンを別途に一旦THIに異性化させた後、これを原料として用いることもできるし、また本発明の反応下においてTHIに異性化する限り、あらかじめ異性化させることなくビニルノルボルネンを直接脱水素の反応系内に供給し、これを原料とすることもできる。したがって、本発明の方法においてはTHIとビニルノルボルネンの混合物を原料とすることもできる。
【0007】脱水素のため本発明において用いる固体触媒は、ニッケルおよびモリブデンの酸化物からなるものである。例えば、酸化ニッケルおよび酸化モリブデンを適宜の担体に担持させた固体触媒を用いることができる。触媒担体はアルミナ、シリカ、シリカアルミナ等から適宜に選択できるが、通常はアルミナ担体を用いることが好ましい。担持量は、酸化ニッケルとして0.5〜10重量%および酸化モリブデンとして3〜20重量%の範囲であり、更に好ましくは酸化ニッケル1〜5重量%および酸化モリブデン5〜16重量%の範囲である。例えば、炭化水素の水添や脱硫に用いられる市販の酸化ニッケルおよび酸化モリブデンを含むアルミナ担体触媒の中から適宜に選択して用いることができる。触媒は、通常、硫化処理あるいは還元処理等の前処理を行う必要はなく、そのまま使用することができる。しかしながら、必要に応じ適宜にこれらの前処理を行ってもよい。
【0008】脱水素の反応温度は100℃以上、好ましくは300〜600℃、更に好ましくは420〜530℃の範囲から、触媒と原料の接触時間、原料と希釈剤の希釈モル比などに応じて適宜に選択することができる。反応温度が100℃より低いと、目的とする脱水素の反応速度が小さいため経済的に好ましくない。また、反応温度が高くなり過ぎると、脱水素反応のみならずTHIの逆ディールス−アルダー反応によるブタジエンやCPDへの分解反応が急速に高まり、選択率が著しく低下するばかりでなく、触媒の活性低下が著しく、したがって工業的な生産には適さない。
【0009】ここで、反応系内で発生した水素を除去して反応を促進する目的で、ベンゼン、テトラリン、ニトロベンゼン、桂皮酸、ベンゾフェノンなどの水素受容体を適宜の割合で反応系に添加する。また、二酸化炭素あるいは少量の酸素を反応流中に通じることにより、脱水素反応で生じた水素を除くこともできる。
【0010】本発明における反応により生成したインデンは重合性が高いため、反応槽内をインデン濃度の高い状態で高温に保持すると、その一部が重合あるいは二量化して損失となる。これを避けるためには、不活性ガス、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン、スチーム等を反応流に同伴させて原料濃度を希釈することが有効である。経済性および取扱いの容易さからスチームを使用することが好ましい。不活性ガスによる希釈倍率に特に制限はないが、原料THIに対するモル比が1以上あれば十分である。更に好ましくは20以上である。希釈倍率の上限は特に制限されないが、過大に希釈することは不経済である。通常は1000以下とする。
【0011】反応形式は固定床、移動床、流動床のいずれでもよい。原料THIは気相で触媒と接触しなければならない。すなわち、反応を液相で行うと、原料あるいは生成物の重合や二量化により収率が低下するほかに、触媒表面におけるカーボンの析出により触媒寿命が著しく低下する。したがって、反応温度、圧力等は気相を維持し得るように選択する。
【0012】反応圧力は原料あるいは生成物が気化し得る範囲であれば特に制限はないが、通常は常圧以下から10kg/cm2、好ましくは常圧以下から2kg/cm2の範囲である。
【0013】原料と触媒との接触時間は0.005〜20秒、好ましくは0.01〜10秒、更に好ましくは0.1〜3秒の範囲である。接触時間が0.005秒より短いと反応率が低いため好ましくない。また、20秒より長いと、生成したインデンが重合し選択率が低下するばかりでなく、重合生成物により反応器およびその下流の熱交換器が閉塞することがある。反応原料の液空間速度(LHSV)は、0.01〜10hr-1の範囲から選択することができる。
【0014】本発明における反応では、触媒を長時間使用するとコーキング等により次第に反応活性が低下することがあるが、例えば500℃程度の高温で空気等によりデコーキングを行うことにより、初期の反応活性を回復することができる。
【0015】反応槽から流出したインデンを含むガスには、インデンおよびび未反応THIの他、THIから水素1分子が脱水素されたインダンが多量に含まれ、その他ブタジエン、CPD、ベンゼン、トルエン、キシレン、DCPD等も僅かに含まれる。反応槽を出たインデンを含むガスは急速に冷却液化される。必要に応じ、上記ガスを炭化水素等の吸収液に通して回収してもよい。
【0016】希釈剤にスチームを用いた場合には、水と油分を分離した後、油分について必要に応じ蒸留を行い、高純度の目的生成物を回収することができる。インデンは熱的に不安定なので、減圧蒸留等の高温を用いない方法で回収しなければならない。例えば、減圧蒸留により回収する場合は、蒸留釜の温度が140℃以下になるような減圧度で蒸留を行うことにより、インデンの熱重合による損失を低減することができる。また、反応液にBHTあるいはTBC等の重合防止剤を加えて蒸留することにより重合による損失を低減することもできる。
【0017】
【発明の実施の形態】実施例により本発明を更に説明する。以下に記載の「%」は重量%である。
【実施例】<実施例1>酸化ニッケル/酸化モリブデン触媒(商品名:CDS−DM5CT、触媒化成工業(株)製)の粒度を16〜20メッシュに調整し、その25mlを内径12mm×長さ1mのステンレス鋼管に充填した。THIの流量を22.3g/hr、水の流量を72ml/hr として、予熱管を経由して反応温度500℃および常圧下で触媒層に通した。触媒との接触時間は0.66秒である。反応ガスを常温まで冷却し、ガスおよび水を分離した後、有機層の重量を計測し、ガスクロマトグラフィー(GC)によりインデン、THI、ブタジエンおよびCPD等の濃度を分析した。通油開始後1、2、3、5、6および24時間後の流出油の分析結果を表1に示す。
【0018】得られた有機層をヘリパックを充填した蒸留塔で減圧蒸留を行い、10torrの減圧下で沸点60.4〜62.5℃の留分を得た。GC分析の結果、この留分にはインデン99.1%のほかにインダン0.9%が含まれていた。
【0019】<実施例2>反応温度を480℃、および水の流量を36g/hr とした以外は、実施例1と同様に反応を行い、運転開始から2時間後の試料について分析を行った。分析結果を表1に示す。
【0020】<比較例1>触媒として酸化コバルト/酸化モリブデン触媒(商品名:G−51B、日産ガードラー触媒(株)製)を用いる以外は実施例1と同様に反応を行った。通油開始後1、2、3、4、5および6時間後の分析結果を表1に示す。
【0021】<比較例2、3>反応温度をそれぞれ550℃、400℃とする以外は実施例1と同様に反応を行い、運転開始から2時間後の試料について分析を行った。分析結果を表1に示す。
【0022】
【表1】


【0023】
【発明の効果】本発明の方法によれば、透明で耐熱性の高い樹脂原料、あるいはポリオレフィン重合用のシングルサイト触媒の配位子の原料として有用なインデンを得ることができ、安価な原料から簡単な反応工程により高純度のインデンを製造し得る点が特に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 テトラヒドロインデンを、ニッケルおよびモリブデンの酸化物を含む固体触媒の存在下に100℃以上の温度において気相で脱水素することからなるインデンの製造法。
【請求項2】 前記脱水素を420℃から530℃の温度範囲で行う請求項1に記載のインデンの製造法。
【請求項3】 前記脱水素を常圧以下から10kg/cm2の圧力範囲で行う請求項1に記載のインデンの製造法。

【公開番号】特開2000−63299(P2000−63299A)
【公開日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−247832
【出願日】平成10年8月18日(1998.8.18)
【出願人】(000231682)日本石油化学株式会社 (33)
【Fターム(参考)】