説明

インドロカルバゾールの製造方法

【課題】インドロカルバゾールの製造方法を提供する。
【解決手段】次式


で表わされる化合物を糖ケトン化合物に変換し、インドロカルバゾール(+)−K252aを合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、インドロカルバゾールの製造方法に関するものである。さらに詳し
くは、この出願の発明は、生理活性を有するアルカロイドの合成法として有用な、温和な
条件で再現性良く、効率的にインドロカルバゾールを製造することのできる新しい方法に
関するものである。
【背景技術】
【0002】
次式(1)
【0003】
【化1】

【0004】
で表わされる化合物K252aはインドロカルバゾール骨格を有するアルカロイドとして
、次式(2)
【0005】
【化2】

【0006】
で表わされるstaurosporine とともに強力なプロテインキナーゼC阻害活性を有すること
が知られている。
【0007】
たとえばこれら物質にみられるように、アルカロイド等としてインドロカルバゾール骨
格を有する化合物がその生理活性の点からも注目されているが、その合成は必ずしも容易
でないのが実情である。
【0008】
たとえば前記のK252a(1)は、アグリコン部の2つのインドール窒素原子が糖部
分と環状のグリコシドを形成していることから、それらのグリコシル結合の生成における
、アグリコン部のラクタムと糖部分の位置異性の制御が合成上の最大の問題となっている
。実際、Woodらや、Danishefskyらによりそれぞれ(1)、(2)の全合成が達成された
が、いずれもこの問題の克服には至っていない。
【0009】
位置異性体の副生を伴うことなくK252aを合成するには、2つのグリコシル結合を
段階的かつ位置選択的に形成させる必要がある。
【0010】
そこで問題となるのが、このような位置選択性を実現するために、いかにしてインドロ
カルバゾール骨格を構築するのかの点である。
【0011】
この出願の発明者によっても様々なアプローチとして検討されてきたが、より温和な条
件でしかも高い合成選択性として効率的にインドロカルバゾール骨格を構築することには
成功していなかった。そして、このインドロカルバゾール骨格の構築法の検討においては
、前記K252a(1)に限られることなしに、より広範な化合物の合成に適用可能とさ
れる一般法を確立することが大きな命題であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この出願の発明は、以上のとおりの背景を踏まえてなされたものであり、アルカロイド
等のインドロカルバゾール骨格を有する化合物のできるだけ簡便で、かつ効率のよい合成
方法として、インドロカルバゾール骨格の新しい構築法による製造方法を提供することを
課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、
次式
【0014】
【化3】

【0015】
で表わされる化合物を次式
【0016】
【化4】

【0017】
で表わされる糖ケトン化合物に変換し、次いで、次式
【0018】
【化5】

【0019】
で表わされるインドロカルバゾール(+)−K252aを合成することを特徴とするイン
ドロカルバゾールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
この出願の発明によって、温和な条件で、再現性良く、効率的にインドロカルバゾール骨格の構築が可能とされる。
【0021】
この発明の方法は、一般的方法として広く応用可能とされるばかりか、効率的なインド
ロカルバゾール(+)−K252aの全合成が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この出願の発明は、以上のとおりの特徴を有するものであるが以下にその実施の形態に
ついて説明する。
【0023】
この出願の発明の製造方法においては、下記の合成例1に従って、次式
【0024】
【化6】

【0025】
(式中のMOMはメトキシメチル基を示す。)
で表わされる
2−ブロモインドール化合物のトリプタミンとの縮合によるアミド化合物の合成と、これに続いての、アシルインドールへの酸化反応、窒素原子のアセチル化、閉環脱水反応、光反応(閉環)、脱HBr反応の反応工程を経て、次式
【0026】
【化7】

【0027】
(式中のMOMは前記のものを、Acはアセチル基を示す。)
で表わされる化合物を合成するという、インドロカルバゾール骨格の構築法を利用して、さらに下記の合成例2のようにして実施することができる。
(合成例1)
次の反応式に従って、インドロカルバゾール(19)化合物を合成した。
【0028】
【化8】

【0029】
すなわち、インドール酢酸から容易に誘導可能な2−ブロモインドール(15)とトリ
プタミンとの縮合によりアミド(16)を得た。このアミド(16)のDDQによるアル
キルインドールからアシルインドールへの酸化(J.Org.Chem 1977.42,1213)は位置選
択的に進行し、続いてインドールとアミドの窒素原子のアセチル化により活性化された中
間体(17)を得た。モレキュラーシーブスと触媒量のDBUで閉環脱水反応が容易に進
行しビスインドール(18)を得た。閉環反応は可視光(自然太陽光またはハロゲンラン
プ)による光反応とそれに続く脱HBr反応でほぼ定量的に進行しインドロカルバソール
(19)を得た。これは光反応により同旋的に閉環し、水素原子と臭素原子がantiperipl
anarの位置関係になるために臭化水素の脱離による芳香環化反応が容易に進行するためで
ある。こうして、3−インドール酢酸を原料として8段階でインドロカルバゾール(19
)が合成でき、穏やかな条件で効率的なインドロカルバゾール骨格の構築法を開発するこ
とができた。
(合成例2)
合成例1の方法を利用して、K252aを次の反応式に従って合成した。
【0030】
【化9】

【0031】
2−ブロモインドール酢酸アリルエステルとリボシルクロリド(11)とのグリコシル
化反応は立体選択的に進行(収率97%)し化合物(20)が得られた。この化合物(2
0)から合成例1のインドロカルバゾール骨格構築法を利用することで、収率46%で、
位置異性をコントロールした合成のための重要鍵中間体であるインドロカルバゾール(2
1)がアノマー位の異性化を伴うことなく得られた。これを一級アルコールの選択的ヨウ
素化を経て、フェニルセレニドへと変換した後、MCPBAによる酸化後のセレノキシド
脱離によりエノールエーテル(22)とした。第二の鍵反応である環状グリコシル化反応
について種々検討したこところ、ヨウ化カリウム−ヨウ素を用いる方法が最も良い収率で
化合物(23)を与えた。続いて脱ヨウ素化を行い、脱アセチル化および酸化によりケト
ン(24)を得た。
【0032】
最後に、糖部分のケトンに対して立体選択的に一炭素ユニットを導入した。ケトン体(
24)の青酸−ピリジンによるシアノヒドリン形成は完全に立体選択的に起こり、化合物
(25)を得た。塩酸−ギ酸によりニトリルをアミドとしたのちアルカリ加水分解、カル
ボン酸をジアゾメタンでメチルエステルとして(+)−K252aを得た。このものは、
天然の(+)−K252aと各種スペクトルデータが完全に一致した。こうして、インド
ロカルバゾール骨格を介しての環状グリコシド構造の立体化学と上部ラクタムとの位置異
性を完全に制御した(+)−K252aの全合成を完了した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式
【化1】

で表わされる化合物を次式
【化2】

で表わされる糖ケトン化合物に変換し、次いで、次式
【化3】

で表わされるインドロカルバゾール(+)−K252aを合成することを特徴とするイン
ドロカルバゾールの製造方法。

【公開番号】特開2007−56031(P2007−56031A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275816(P2006−275816)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【分割の表示】特願平11−52498の分割
【原出願日】平成11年3月1日(1999.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年8月31日 発行の「第40回天然有機化合物討論会講演要旨集」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】