説明

インバータ装置および同装置の設計支援方法

【課題】インバータ装置の主回路部から発生する放射ノイズを効果的に低減すると共に、装置の軽量化や放熱性能を向上させること。
【解決手段】電力用半導体素子により構成され、直流を交流に電力変換するインバータ回路部と、電力用半導体素子のスイッチング時の過電圧保護するためのスナバ回路部と、インバータ回路部とスナバ回路部間を導体接続する伝導経路とを有するインバータ装置において、伝導経路によって形成されるループ面に対向する位置に面を形成する遮蔽用導体を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体のスイッチングにより電力変換するインバータ装置のノイズ低減技術に係り、特にスイッチング動作時に放射される電磁ノイズを遮蔽するための遮蔽用導体を適正なサイズで効果的に配置してノイズ低減効果を高めることのできるインバータ装置および同装置の設計支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置は、トランジスタやIGBT等の電力用半導体素子のスイッチングにより電力変換するものであり、そのスイッチング動作に伴い、伝導性や放射性のノイズが発生する。
【0003】
図14に、詳細は後述するがインバータ主回路部のノイズに着目した等価回路図と、放射ノイズ源のひとつであるノイズ電流の伝導経路(伝導経路1)を示す。この電流は、電力用半導体素子のスイッチングに伴って発生する。すなわち、電力用半導体素子がスイッチングすると、それに起因して出力電位Uが変動する。これにより、電力用半導体素子の浮遊容量(C)が充放電を起こし、それに伴い図示した浮遊容量(C)とスナバコンデンサ(CS)を経由する伝導経路1にノイズ電流が流れる。そして、このような伝導経路により形成される電流ループはアンテナ(ループアンテナ)として作用して、ここから放射ノイズが発生する。(詳細は非特許文献1を参照)。
【0004】
例えば上記のようにして発生する放射ノイズは、周辺機器の誤動作や無線機器への雑音等の影響を及ぼすため、一般に下記1)〜4)などの対策を行っている。
1) 装置を金属で覆い遮蔽する。
2) ノイズフィルタなどの対策部品を挿入する。
3) グランドを強化する。
4) 制御線や電力線にシールドを施する。
【0005】
放射ノイズを低減させる従来の技術として、例えば特許文献1では、主回路部と主回路部を制御するための制御回路部を、遮蔽用の筺体で個別に分離して格納することによって、主回路部から発生するノイズを抑制し、特に制御回路部への影響を低減することができる電力変換ユニットが提案されている。
【特許文献1】特開2006-230064
【非特許文献1】電気学会論文誌D,118巻6号,平成10年,p.757〜p.766「電力変換装置から放射される電磁ノイズの解析と低減方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術によれば、主回路部や制御回路部を遮蔽用筺体で覆うことによって、発生した放射ノイズは遮蔽され、周囲に伝搬する放射ノイズを低減することはできるものの、遮蔽用筺体で主回路部や制御回路部を覆う構造であるため、軽量化や放熱性能の点で問題があった。
【0007】
本発明は、上述のかかる事情に鑑みてなされたものであり、主回路部から発生する放射ノイズを効果的に低減すると共に、装置の軽量化や放熱性能を向上させることのできるインバータ装置および同装置の設計支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係わるインターバ装置は、電力用半導体素子により構成され、直流を交流に電力変換するインバータ回路部と、電力用半導体素子のスイッチング時の過電圧保護するためのスナバ回路部と、インバータ回路部とスナバ回路部間を導体接続する伝導経路と、を有するインバータ装置において、伝導経路によって形成されるループ面に対向する位置に面を形成する遮蔽用導体を設けたことを特徴とする。
【0009】
本発明では、インバータ回路部とスナバ回路部間を導体接続する伝導経路がループ面を形成し、これがアンテナとなって電磁ノイズを放射することに着目し、このループ面に対向する位置に遮蔽用導体を面状に設けたので、主回路部から発生する放射ノイズを効果的に低減することができる。
【0010】
好ましくは、インバータ回路部をプリント基板上に構成し、遮蔽用導体をプリント基板上に形成したり、あるいは、インバータ装置から発生する熱を放熱するための冷却部や、インバータ装置を覆う筺体に設けてインバータ回路部との位置関係を調整したりすることによって、容易に遮蔽用導体を伝導経路によって形成されるループ面と対向する位置に面状に形成することができる。
【0011】
また、伝導経路と遮蔽用導体との距離は10mm以下であり、遮蔽用導体の伝導経路により形成されるループ面に対向する面の寸法は、当該ループ面の寸法以上であるのが実用的なレベルで遮蔽効果を奏するので好ましい。
【0012】
また、本発明に係わるインターバ装置は、遮蔽用導体と伝導経路間の距離(間隔)をx、遮蔽用導体の伝導経路により形成されるループ面に対向する矩形面の一辺の長さと伝導経路により形成される矩形ループ面の対応する一辺の長さとの差分をy、単位をミリメートルとしたとき、次の式を満たすことを特徴とする。
y≧6x-55
【0013】
上記の関係式を満たすように、距離x,差分yを決めることによって、インバータ装置の主回路部を筐体に実装する際の状況に合わせて適切なサイズの遮蔽用導体を設けることができる。
【0014】
本発明に係わるインバータ装置の設計支援方法は、コンピュータ装置を用いてインバータ装置の設計を支援する方法であって、遮蔽用導体と伝導経路間の距離をx、遮蔽用導体の伝導経路により形成されるループ面に対向する面の一辺の長さと伝導経路により形成されるループ面の一辺の長さとの差分をyとしたとき、放射電界低減効果ごとに距離xと差分yとの関係を表すデータを保存する段階と、設置場所から送られてくる放射電界低減効果の計測データを受信して、機種、設計部門、設置場所などの特定の分類ごとに保存する効果収集段階と、計測データをもとに関係を表すデータに関する補正値を演算し、該演算結果を保存する段階と、設計対象のインバータ装置の放射電界低減効果の要求仕様と該インバータ装置に関する分類を含む設計条件、および、距離xと差分yのうちいずれか一方を入力データとして受け付け、該設計条件および補正値をもとに関係を表すデータを抽出して、距離xと差分yのうち入力されなかった他の一方を演算し、当該演算の結果を出力する段階と、を含み、該演算の結果をもとに製造されたインバータ装置について効果収集段階を実行することを特徴とする。
【0015】
本発明では、シミュレーション等で予め放射電界低減効果ごとに求めた距離xと差分yの関係式を用いて製造したインバータ装置について順次フィード試験を行い、その結果をフィードバックして、補正値として以降の設計に利用するので、実態に即した設計が可能となる。
【0016】
なお、補正値としては、関係式の傾きや切片の数値を修正するようにしても良いが、要求仕様の放射電界低減効果から設計として用いる関係式を抽出するための放射電界低減効果を決定する際の補正値として利用することにより、複雑な補正演算を必要とせず有効な遮蔽能力を有するインバータ装置を設計することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インバータ回路部とスナバ回路部間を導体接続する伝導経路によって形成されるループ面に対向する位置に面を形成する遮蔽用導体を設けたので、主回路部から発生する放射ノイズを効果的に低減することができる。
【0018】
また、遮蔽用筐体を設けるのではなく、プリント基板、冷却部、または筐体の一部に伝導経路によって形成されるループ面の対向面として遮蔽用導体を設けることによって、装置の軽量化や放熱性能を向上させることができる。
【0019】
さらに、遮蔽用導体のサイズと配置位置との関係式をノイズ低減レベルごとに保存しておいて、これを用いてインバータ装置の遮蔽部の設計を行うと共にその製品のフィールドデータをもとに上記の関係式を補正することにより、遮蔽効果に優れた品質の高いインバータ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の第1の実施の形態によるインバータ装置10の部品配置図である。この図に示すように、インバータ装置10の主回路部11は、プリント基板12上に構成されている。インバータ主回路部11は、主な構成要素として、電流を整流する整流回路部16、整流回路部16から出力された直流電流を平滑化する電解コンデンサ15、過電圧を抑制するスナバ回路部14、および直流を交流に電力変換するインバータ(INV)回路部13を有し、プリント基板12上に搭載される。インバータ回路部13は、IGBTなどの電力用半導体素子を備え、外部から入力される制御信号によってスイッチング動作を行い交流電流を発生させる。以下、IGBTを例に説明するが、本発明による電力半導体素子はこれに限らない。
【0021】
図14にインバータ主回路部11のノイズに着目した等価回路を示す。この図において、L1〜Lは配線インダクタンスを表している。また、CはIGBTのコレクタ・エミッタ間の浮遊容量、Cは、インバータ回路部13の直列接続されたIGBTの中間点Uと接地間の浮遊容量を示している。整流回路部16によって整流された電流のプラス側電源線17は電解コンデンサ15およびスナバ回路部14の一端とインバータ回路部13のプラス側に接続され、整流回路部16のマイナス側電源線18は、電解コンデンサ15およびスナバ回路部14の他端とインバータ回路部13のマイナス側に接続されている。
【0022】
いま図14に示すように、インバータ回路部13とスナバ回路部14およびプラス側、マイナス側電源線17,18で形成されるループを伝導経路1とする。この伝導経路1は、図1に示した様にプリント基板上に形成される。この伝導経路1に、インバータ回路部におけるIGBTのスイッチングに伴い、伝導経路1にノイズ電流が流れると、この伝導経路1がアンテナ(ループアンテナ)として作用し、放射ノイズが発生する。
【0023】
このため、伝導経路1が形成するループ面に対向するように導体板を設ける。この構成は以下に説明するように極めて優れた放射ノイズ低減効果を有するものである。
【0024】
<本発明による放射ノイズ低減効果の検証>
図2〜図6に本発明による放射ノイズ低減効果をシミュレーションにより検証した結果を示す。図2は伝導経路1と導体板を模擬しており、発生する放射ノイズについて、導体板による放射電界強度の低減効果を示している。図中縦軸の放射電界低減効果のマイナス値が大きいほど、低減効果が大きいことを意味する。例えば図中、―20dBは、20dBの放射電界低減効果があることを意味する。図2(a)のグラフに示した通り、導体板をループ面と対向する位置(図2(b))、すなわち、導体板と伝導経路1のループ面が略平行であって、ループ面上に導体板が存在するように配置することで、伝導経路1から発生する放射ノイズが低減することが確認できる。また、導体板を対向位置とは異なる位置(図2(c))、例えば伝導経路1のループ面に導体板が垂直となる位置に配置した場合よりも、放射ノイズの低減効果が高いことが確認できる。
以下、実用的に優れた放射ノイズ低減効果を有するための条件について説明する。
【0025】
<伝導経路1と遮蔽用導体間の距離に関する条件>
図3に示すシミュレーションを用いた放射ノイズ解析結果を参照しながら説明する。図3(a)は"伝導経路1と導体間の距離"と放射電界低減効果の関係を示している。この図は、後述する"導体の寸法―伝導経路1の寸法"(図4参照)を0mmとしたときのグラフである。なお、放射電界低減効果とは、導体が無い場合の放射電界と、導体がある場合の放射電界の差分をいう。また、伝導経路1と導体間の距離とは、図3(b)に示した伝導経路1と導体間の距離を意味する。
【0026】
図3(a)から、"伝導経路1と導体間の距離"が小さいほど放射電界低減効果が大きいことが確認される。なお、伝導経路1と導体間の距離を、低減効果が顕著に増大する10mm以下にすることによって、放射電界を実用的なレベルに低減させることが期待できる。
【0027】
<遮蔽用導体の寸法に関する条件>
次に、図4に示すシミュレーションを用いた放射ノイズ解析結果を参照しながら説明する。図4(a)は、"伝導経路1と導体間の距離"(図3参照)を10mmとしたときの"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と放射電界低減効果の関係を示している。ここで、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"とは、図4(b)に示した導体板の寸法と伝導経路1の寸法との差分を意味する。
【0028】
この図から、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"が大きいほど放射電界低減効果が大きいことが確認される。有意なノイズ対策を採るには、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"が0以上、すなわち導体の寸法を伝導経路1の寸法以上に限定するのが好ましい。
【0029】
<"伝導経路1と導体間の距離"と"導体の寸法―伝導経路1の寸法"との関係に関する条件>
図5は"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と放射電界低減効果の関係を"伝導経路1と導体間の距離"ごとに示したグラフである。
【0030】
この図で、伝導経路1と導体間の距離とは、図3(b)に示した伝導経路1と導体間の距離をいう。また、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"は、図4(b)に示した導体板の寸法と伝導経路1の寸法との差分を意味する。
【0031】
図5から、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"が大きいほど放射電界低減効果が大きいことが判る。さらに、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"が同一でも、"伝導経路1と導体間の距離"が小さい程放射電界低減効果が高いことが判る。従って、導体板による放射電界低減効果は、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と"伝導経路1と導体間の距離"の両方の影響を受けて決まるといえる。
【0032】
そこで図6には、一定の放射電界低減効果(5dB、10dB、15dB、20dB、25dB)が得られる"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と"伝導経路1と導体間の距離"の関係を示しており、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と"伝導経路1と導体間の距離"の相互関係を明確にしている。
【0033】
図6から、一定の放射電界低減効果が得られる"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と"伝導経路1と導体間の距離"には相関があることが判る。そのため、一定の放射電界低減効果が得られる"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と"伝導経路1と導体間の距離"の関係を近似することができる。例えば、放射電界低減効果が5dBとなる、"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と"伝導経路1と導体間の距離"の関係は式1で近似できる。そして、図6から、式1で精度良く近似できていることが確認される。
【0034】
y≧6x-55 [mm] ・・・(式1)
ここで、x:伝導経路1と導体間の距離[mm]
y:導体の寸法−伝導経路1の寸法 [mm]
【0035】
なお、有効なノイズ対策であると考えられる5dB以上の放射電界低減効果を得るには、伝導経路1に対する導体の寸法および導体の位置を式1に基づいて決定すればよい。
なお、設置環境等によってさらに高い放射ノイズ低減効果が要求される場合には、図6から要求仕様に該当する点をもとに最小二乗法等の手法によって算出した近似直線の式を用いる。
次に、導体面の形成のしかたの実施例について説明する。
【実施例1】
【0036】
インバータ回路部13がプリント基板上に構成される場合に、このプリント基板12に導体面を形成する。例えば、両面または多層基板において、伝導経路1が配線されている層と別の層を銅のベタ面としても良い。特に、伝導経路1の配線裏面をベタ面にして、その他のプリント基板部には回路を構成することで、ノイズ低減効果を得つつ、回路の実装密度向上による小型・軽量化が可能となる。
【実施例2】
【0037】
インバータ装置10が冷却フィンなどの冷却部を有する場合に、この冷却部に導体面を形成する。導体面は、冷却部の少なくとも一部に形成すれば良く、例えば、ベース部とフィン部からなる冷却部であれば、ベース部に導体面を形成しても良い。
【実施例3】
【0038】
インバータ装置10の少なくとも一部を覆う筺体を有する場合に、この筺体部に導体面を形成する。冷却部と導体面は同一の材料を用いても、異なる材料を用いても構わない。例えば、伝導経路1が形成するループ面に対向する面は導体とし、他の面はプラスチックを用いても良い。また、筺体の構造に制約を設けない。例えば開口部があっても構わない。
【0039】
このように、本実施の形態によれば、伝導経路によって形成されるループ面に対向する位置に導体板を設けることによって、インバータ回路部13のスイッチング動作によって伝導経路1が発生する磁束に起因する放射ノイズを効果的に低減することができる。特に、装置や回路全体を導体で覆って放射ノイズを遮蔽する場合に比べて、軽量化や放熱性能の向上が可能となる。
【0040】
次に本発明の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態の技術を用いて効果的に遮蔽用導体を配置したインバータ装置の設計を支援する方法について説明する。
【0041】
図7は、この設計支援方法に用いられるコンピュータ装置の機能ブロック図である。この図において、コンピュータ装置50は、社内LANや外部のインターネット等の通信ネットワーク40を介して、設計部門の端末装置41および現地作業員の所有する携帯端末42と接続している。
【0042】
コンピュータ装置50は、通信ネットワーク40を介して、他の装置と通信を行うための送受信部51、種々のデータを保存する記憶部53、演算処理を実行する演算処理部52、および、データを入力するための入力部54を有している。
【0043】
また、演算処理部52は、送受信部51との間で送受信処理を実行する送受信処理手段60、放射電界低減効果ごとの関係式データなど設計を行う上での基本データを設計基本情報DB71に登録する設計基本情報登録手段61、放射電界低減効果に関する要求仕様などの設計条件を入力する設計条件入力手段62、設計基本情報や設計条件をもとに所定の演算を実行して設計値を算出する設計値演算手段63、算出された設計値を端末装置41へ送信する演算結果送信手段64、製品の放射電界低減効果に関するフィールド試験のデータを入力するフィールド試験データ入力手段65、および、フィールド試験データをもとに所定の演算を実行する上での補正値を算出する補正値演算手段66とを有している。各手段60〜66はCPUの機能としてプログラムによって実現可能である。
【0044】
(設計基本情報登録段階)
まず、端末装置41またはコンピュータ装置側に設けられた入力部54を介して設計に用いられる基本情報を入力する。入力された基本情報は、設計基本情報DB71に保存される。設計基本情報DB71は、図8に示すように、関係式テーブル71a(図8(a))と、補正値テーブル71b(図8(b))で構成されている。図8(a)に示す関係式テーブル71aは、放射電界低減効果ごとにシミュレーションで計算した距離xと差分yの関係式のパラメータが保存されている。関係式が直線で表されるときは、パラメータとして傾き(a)と切片(b)の数値が保存される。なお、関係式は直線に限らず2次式やその他の式であっても良い。
【0045】
図8(b)に示す補正値テーブル71bには、機種、設計部門、設置場所を示す識別情報ごとに補正値が保存されている。デフォルトでは0が設定される。
【0046】
(設計条件等入力段階)
部門の設計担当者は、端末装置41を介して、設計対象のインバータ装置の放射電界低減効果の要求仕様値とそのインバータ装置の機種、設計部門、設置場所の識別情報などの設計条件を入力する。
【0047】
また、設計担当者は、距離xと差分yのうちいずれか一方の数値を仮定し、同様に端末装置41から入力する。
【0048】
入力された情報は、設計条件入力手段62によって設計条件テーブル72に保存される。図10は、設計条件テーブル72のデータ構成例である。機種、設計部門、設置場所の分類を示す情報のほか、放射電界低減効果の要求仕様値、および、距離x、差分yの設計値が保存可能になっている。設計条件入力段階では、設計値は、距離x、差分yのうち設計担当者によって入力されたいずれか一方の数値が格納される。
【0049】
(設計値演算段階)
以下、図11を用いて、設計値演算手段63の動作を説明する。
設計値演算手段63は起動されると、まず設計条件テーブル72から放射電界低減効果の要求仕様値を抽出すると共に(S101)、また、補正値テーブル71bから分類に該当する補正値を抽出する(S102)。そして、ステップS101で抽出した要求仕様値に対してステップS102で抽出した補正値を加算して(S103)、補正後の放射電界低減効果を算出し、関係式テーブル71aを参照して補正後の放射電界低減効果に対応する関係式のパラメータa,bの値を抽出する(S104)。
【0050】
次に、設計条件テーブル72に距離xが設定されているか否かを判定し、設定されている場合は、この距離xをステップS104で抽出した関係式のパラメータa,bの値を有する上記式1に代入して、差分yを計算して(S106)、その計算結果を設計条件テーブル72の差分yの欄に保存する(S109)。
【0051】
一方、ステップS105で「NO」の場合は、設計条件テーブル72に差分yが設定されているか否かを判定し、設定されている場合は、この差分yをステップS104で抽出した関係式のパラメータa,bの値を有する上記式1に代入して、距離xを計算して(S108)、その計算結果を設計条件テーブルの距離xの欄に保存する(S109)。
【0052】
ステップS107で「NO」の場合は、端末装置41上にエラーメッセージを出力するとともに、距離x、差分yのいずれか一方の数値を入れるように促す(S110)。
【0053】
演算結果送信手段64は、上記ステップS109で保存した計算結果を端末装置41へ送信する。
【0054】
(効果収集段階)
現地作業員は、計算結果をもとに製造されたインバータ装置が現地に設置されると、その放射電界低減効果を測定し、製品IDと共に計測値を携帯端末42に入力する。入力されたデータは、コンピュータ装置50へ送られ、フィールド試験データ入力手段65によって、フィールド試験DB73中のその製品IDの計測値欄に保存する。
【0055】
図12は、フィールド試験DB73のデータ構成例である。ここで、製品ID、分類、要求仕様、設計値は、設計条件テーブル72から予めコピーされている。また、実際の設計値に変更があった場合は、端末装置41から変更値が設定され、フィールド試験DB73の設計値欄が更新される。
【0056】
(補正値演算段階)
次に図13を用いて補正値演算手段66の動作を説明する。補正値演算手段66は、フィールド試験データ入力手段65の動作完了によって起動されると、フィールド試験DB73にアクセスして、製品の設計値欄の距離x、差分yの値を座標点として、図9のグラフにおいてその座標点からの距離が最も近い直線を特定する(S201)。次に、その直線の放射電界低減効果を抽出して(S202)、フィールド試験データの計測値との差を計算する(S203)。そして、ステップS203の計算結果をもとに補正値テーブル71bの当該製品の分類に関連付けられた補正値を修正する(S204)。補正値の修正のしかたとしては、例えば、その分類に対するフィールドデータの計測が初回ならばそのまま計算結果をセットし、2回目以降ならば、計算結果の所定の割合だけ計測値に近づけるように補正値を修正するという方法がある。
【0057】
上記の手順で修正された補正値は、上述の設計値演算段階で、同じ分類の設計対象製品について距離xまたは差分yを計算する際に用いられる。
【0058】
以上、本実施の形態によれば、遮蔽用導体のサイズ(差分y)と配置位置(距離x)との関係式をノイズ低減レベルごとに保存しておいて、これを用いてインバータ装置の遮蔽部の設計を行うと共にその製品のフィールドデータをもとに関係式を補正することにより、遮蔽効果に優れた品質の高いインバータ装置を提供することができる。特に、機種やフィールドでの装置の接地のしかた等によっても遮蔽効果が異なる場合があるので、設置場所ごとにその効果を測定して補正値に反映させることによって、シミュレーション等によって求めた関係式を実態に即した効果の高い態様で利用することができる。
【0059】
本発明は、上述の実施の形態に限定されること無く、その要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。例えば、上記の実施形態では要求される放射電界低減効果から、関係式を抽出する際の放射電界低減効果を求めるときの補正値を算出するようにしたが、設置場所等の分類ごとに要求される放射電界低減効果の関係式のパラメータ(傾き等)を変更するための補正値を求めるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるインバータ装置10の部品配置図である。
【図2】伝導経路1と導体板の位置関係による放射電界低減効果への影響の説明図であり、図2(a)は本発明の配置と本発明と異なる配置での放射電界低減効果の違いの説明図、図2(b)は本発明による導体板と伝送経路1の位置関係例の説明図、図2(c)は本発明と異なる配置例の説明図である。
【図3】"伝導経路1と導体間の距離"と放射電界低減効果の関係の説明図であり、図3(a)はシミュレーションによる"伝導経路1と導体間の距離"と放射電界低減効果の関係を示すグラフ、図3(b)は伝導経路1と導体間の距離の説明図である。
【図4】シミュレーションを用いた放射ノイズ解析結果の説明図であり、図4(a)は"伝導経路1と導体間の距離"を10mmとしたときの"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と放射電界低減効果の関係を示すグラフ、図4(b)は導体板の寸法と伝導経路1の寸法との差分の説明図である。
【図5】"導体の寸法―伝導経路1の寸法"と放射電界低減効果の関係を"伝導経路1と導体間の距離"ごとに示したグラフである。
【図6】"導体の寸法―伝導経路1の寸法"をy軸とし、"伝導経路1と導体間の距離"をx軸としたときの放射電界低減効果ごとの近似直線の説明図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態による設計支援方法に用いられるコンピュータ装置の機能ブロック図である。
【図8】図7の設計基本情報DB71のデータ構造図であり、図8(a)は関係式テーブル、図8(b)補正値テーブルのデータ構造を示している。
【図9】図8(a)の関係式テーブルに設定されるパラメータを決定する放射電界低減効果ごとの近似直線式の説明図である。
【図10】図7の設計条件テーブル72のデータ構造図である。
【図11】図7の設計値演算手段63の処理手順を示すフローチャートである。
【図12】図7のフィールド試験DB73のデータ構造図である。
【図13】図7の補正値演算手段66の処理手順を示すフローチャートである。
【図14】インバータ主回路部のノイズに着目した等価回路図である
【符号の説明】
【0061】
1 伝送経路
2 導体板
10 インバータ装置
11 主回路部
12 プリント基板
13 インバータ回路部
14 スナバ回路部
15 電解コンデンサ
16 整流回路部
17 プラス側電源線
18 マイナス側電源線
40 通信ネットワーク
41 各設計部門に配置された端末装置
42 携帯端末
50 コンピュータ装置
51 送受信部
52 演算処理部
53 記憶部
54 入力部
60 送受信処理手段
61 設計基本情報登録手段
62 設計条件入力手段
63 設計値演算手段
64 演算結果送信手段
65 フィールド試験データ入力手段
66 補正値演算手段
71 設計基本情報DB
71a 関係式テーブル
71b 補正値テーブル
72 設計条件テーブル
73 フィールド試験DB

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子により構成され、直流を交流に電力変換するインバータ回路部と、
前記電力用半導体素子のスイッチング時の過電圧保護のためのスナバ回路部と、
前記インバータ回路部と前記スナバ回路部間を導体接続する伝導経路と、
を有するインバータ装置において、
前記伝導経路によって形成されるループ面に対向する位置に面を形成する遮蔽用導体を設けたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記インバータ回路部をプリント基板上に設け、当該プリント基板上に前記遮蔽用導体を面状に形成したことを特徴とする請求項1記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記インバータ装置から発生する熱を放熱するための冷却部を有し、該冷却部に前記遮蔽用導体を面状に形成したことを特徴とする請求項1記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記インバータ装置の少なくとも一部を覆う筺体を有し、該筺体に前記遮蔽用導体を面状に形成したことを特徴とする請求項1記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記伝導経路と前記遮蔽用導体との距離は10mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記遮蔽用導体の前記伝導経路により形成されるループ面に対向する面の寸法は、当該ループ面の寸法以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記遮蔽用導体と前記伝導経路間の距離をx、前記遮蔽用導体の前記伝導経路により形成されるループ面に対向する面の一辺の長さと前記伝導経路により形成されるループ面の一辺の長さとの差分をy、単位をミリメートルとしたとき、次の式を満たすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一に記載のインバータ装置。
y≧6x-55
【請求項8】
コンピュータ装置を用いてインバータ装置の設計を支援する方法であって、
前記遮蔽用導体と前記伝導経路間の距離をx、前記遮蔽用導体の前記伝導経路により形成されるループ面に対向する面の一辺の長さと前記伝導経路により形成されるループ面の一辺の長さとの差分をyとしたとき、放射電界低減効果ごとに前記距離xと前記差分yとの関係を表すデータを保存する段階と、
設置場所から送られてくる放射電界低減効果の計測データを受信して、機種、設計部門、設置場所などの特定の分類ごとに保存する効果収集段階と、
前記計測データをもとに前記関係を表すデータに関する補正値を演算し、該演算結果を保存する段階と、
設計対象のインバータ装置の放射電界低減効果の要求仕様と該インバータ装置に関する前記分類を含む設計条件、および、前記距離xと前記差分yのうちいずれか一方を入力データとして受け付け、該設計条件および前記補正値をもとに前記関係を表すデータを抽出して、前記距離xと前記差分yのうち入力されなかった他の一方を演算し、当該演算の結果を出力する段階と、を含み、
該演算の結果をもとに製造されたインバータ装置について前記効果収集段階を実行することを特徴とするインバータ装置の設計支援方法。

【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−154695(P2010−154695A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331644(P2008−331644)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】