説明

インバータ装置用中継接続部材

【課題】インバータ装置用中継接続部材において、インバータ用回路の出力電極とインバータ装置の出力端子との電気的な接続を簡易な構成で行うことができるようにする。
【解決手段】中継接続部材16は、出力電極28と出力端子14の雄タブ30とにそれぞれ嵌合接続する中継端子32を有する。この構成により、中継接続部材16に出力電極28と出力端子14の雄タブ30とを挿入するだけで、これらを、中継端子32を介して電気的に容易に接続することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子を有する回路を含むインバータ装置に収容され、前記回路と前記インバータ装置の出力端子とを電気的に接続するインバータ装置用中継接続部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動機に供給される電力を制御するインバータ装置が知られている。このインバータ装置は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子である半導体チップと、これを実装するインバータ用回路基板と、半導体チップを駆動制御する制御基板とを含むインテリジェントパワーモジュール(IPM)を有する。
【0003】
インテリジェントパワーモジュールには、回路基板の電力を出力する出力電極が設けられる。そして、インバータ装置には、これの電力を電動機に出力する出力端子が設けられる。出力電極と出力端子は、中継接続部材であるバスバーにより電気的に接続される例がある。具体的には、バスバーの一端が、出力電極(例えばバスバー)にボルトにより締結され、バスバーの他端が出力端子(例えばバスバー)にボルトにより締結され、出力電極と出力端子が電気的に接続される。
【0004】
また、中継接続部材には、これに流れる電流を検出する電流検出器が設けられる例がある。電流検出器は、バスバーを貫通させるコアと、コアのギャップ部に配置されるホール素子などの磁束密度検出素子と、この素子を搭載する回路基板とを有する。この電流検出器においては、バスバーに電流が流れると、その電流によりコア内部に磁界が発生し、磁束密度検出素子がその磁界の強さを電圧信号に変換することにより電流値を検出することができる。
【0005】
下記特許文献1には、電力変換装置に収容され、半導体モジュールと出力端子台とを接続するバスバーの電流を検出する電流センサが記載されている。この電流センサは、バスバーとこれを貫通するコアとが一体構造になるように樹脂成形されたケースを有し、このケースにホール素子と回路基板とが固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−194650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のインバータ装置においては、中継接続部材であるバスバーが、インバータ用回路の出力電極とインバータ装置の出力端子とに、ボルトの締結によりそれぞれ接続される。このため、中継接続部材を複数(例えば三相交流電力用に3本)取り付けようとすると、締結作業に時間が掛かってしまうという問題がある。
【0008】
また、並んで配置される中継接続部材の間隔を、ボルトの締結に用いられる工具スペースを考慮した間隔にする必要があるので、インバータ装置内における中継接続部材の収容スペースが大型化してしまうという問題がある。
【0009】
また、中継接続部材の取り付け時において、中継接続部材であるバスバーが電流検出器のコアに確実に貫通することができるように、コアの貫通部がバスバーに対して余裕を持った大きさに形成される必要があるので、コアが大型化してしまい、インバータ装置内におけるコアの収容スペースが大型化してしまうという問題がある。
【0010】
さらに、中継接続部材であるバスバーには、ボルト締結用の領域と、この領域に重ならないようにコアを取り付ける領域とが必要になるので、バスバーが長さ方向において大型化してしまい、インバータ装置内におけるバスバーの収容スペースが大型化してしまうという問題がある。
【0011】
本発明の目的の一つは、インバータ用回路の出力電極とインバータ装置の出力端子との電気的な接続を簡易な構成で行うことができるインバータ装置用中継接続部材を提供することにある。
【0012】
また、本発明の目的の一つは、インバータ装置の小型化に対応することができるインバータ装置用中継接続部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、スイッチング素子を有する回路を含むインバータ装置に収容され、前記回路と前記インバータ装置の出力端子とを電気的に接続するインバータ装置用中継接続部材において、前記回路の出力電極と前記出力端子の雄タブとにそれぞれ嵌合接続する中継端子と、前記中継端子を収容し、前記中継端子の電流を検出する電流検出器が一体構造になるように樹脂成形されたハウジングと、を有することを特徴とする。
【0014】
また、中継端子は、挿入される前記雄タブが正常の位置から軸方向に変位しても、前記雄タブに対して接触可能であるとともに、挿入された前記雄タブが正常の位置から軸方向に直交する第1直交方向に変位しても、前記雄タブに対して接触可能である接点部を有することができる。
【0015】
また、前記接点部は、前記第1直交方向に互いに間隔を空けて、前記第1直交方向に変位可能な一対の弾性支持片に支持され、前記接点部は、挿入される前記雄タブの側面に接触することができる。
【0016】
また、前記接点部は、さらに、挿入される前記雄タブが正常の位置から軸方向と第1直交方向とに直交する第2直交方向に変位しても、前記雄タブに対して接触可能であることが好適である。
【0017】
また、第2直交方向における前記接点部の長さが、同じ方向における前記雄タブの長さより大きいことが好適である。
【0018】
さらに、前記電流検出器は、前記中継端子を貫通させるコアと、前記コアのギャップ部に配置される磁束密度検出素子と、前記磁束密度検出素子を搭載する回路基板と、を有することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のインバータ装置用中継接続部材によれば、インバータ用回路の出力電極とインバータ装置の出力端子との電気的な接続を簡易な構成で行うことができる。また、本発明のインバータ装置用中継接続部材によれば、インバータ装置の小型化に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態におけるインバータ装置の構成を示す図である。
【図2】本実施形態における中継接続部材の構成を示す図である。
【図3】中継接続部材が出力電極と出力端子とに嵌合接続した状態を示す図である。
【図4】出力端子の雄タブが正常の位置からx方向に変位した場合の状態を示す図である。
【図5】出力端子の雄タブが正常の位置からy方向に変位した場合の状態を示す図である。
【図6】出力端子の雄タブが正常の位置からz方向に変位した場合の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るインバータ装置用中継接続部材の実施形態について、図を用いて説明する。まず、インバータ装置の構成について図1を用いて説明する。
【0022】
インバータ装置10は、インテリジェントパワーモジュール12(図中の破線で示す)と、出力端子14と、インテリジェントパワーモジュール12と出力端子14とを電気的に接続する中継接続部材16とを有する。インテリジェントパワーモジュール12と中継接続部材16は、インバータ装置10のケース18(図中の一点鎖線で示す)に収容され、出力端子14は、インバータ装置10のケース18に設けられる。
【0023】
インテリジェントパワーモジュール12は、スイッチング素子である半導体チップ20と、おもて面に半導体チップ20を実装するインバータ用回路基板22と、インバータ用回路基板22の裏面に設けられ、半導体チップ20で発生した熱を放熱するヒートシンク24と、半導体チップ20を駆動制御する制御基板(図示せず)とを有する。
【0024】
半導体チップ20は、インバータや昇圧コンバータに用いられるスイッチング素子であり、IGBT、パワートランジスタ、サイリスタ等などで構成される。
【0025】
インバータ用回路基板22のおもて面には、電気回路が形成され、この電気回路上に半導体チップ20がはんだ付けにより電気的に接続される。
【0026】
ヒートシンク24は、熱伝導性に優れるとともに、軽量であるアルミニウムまたは銅により形成される。ヒートシンク24は、冷却液が流れる流路(図示せず)を有する。なお、ヒートシンク24の底板に、電子機器(図示せず)を接するように設けることができる。電子機器とは、例えばDC/DCコンバータやリアクトルのことであり、この電子機器で生じた熱も、ヒートシンク24が放熱することができる。
【0027】
また、インテリジェントパワーモジュール12は、半導体チップ20からワイヤ26を介して電力を出力する出力電極28を有する。本実施形態の出力電極28は、平板状のバスバーである。このバスバーが中継接続部材16に電気的に接続する。しかし、出力電極28は、平板状のバスバーに限らず、ピン状の導体部材とすることもできる。
【0028】
出力端子14は、電動機(図示せず)に接続され、インテリジェントパワーモジュール12から出力された電力を、電動機に出力する。電動機は、インバータ装置10で直流電力から変換された三相交流電力が供給されて回転駆動するモータである。本実施形態の出力端子14は、ピン状の雄タブ30を有する。この雄タブ30が中継接続部材16に電気的に接続する。しかし、雄タブ30の形状はピン状に限らず、平板状とすることもできる。
【0029】
次に、本実施形態における中継接続部材16の構成について、図2から6を用いて説明する。一例として、三相交流電力用の3つの電路を有する中継接続部材16について説明する。なお、電路の数は一例であって、本発明は電路の数3つに限定されず、2つの三相交流電力用を一体とした6つの電路を有する中継端子部材にも適用することができる。
【0030】
中継接続部材16は、出力電極28と出力端子14の雄タブ30とにそれぞれ嵌合接続する中継端子32を3個有する。この構成により、中継接続部材16に出力電極28と出力端子14の雄タブ30とを挿入するだけで、これらを、中継端子32を介して電気的に容易に接続することができる。ボルト締結が無くなるため、ボルト締結用の工具スペースを考慮した間隔を空けて各中継端子32を配置する必要がなくなるので、その間隔より小さい間隔を空けて各中継端子32を配置することができ、中継接続部材16の小型化を図ることができる。また、ボルト締結が無くなると、従来技術で説明したように、中継接続部材において、ボルト締結用の領域と、コアを取り付ける領域とを分ける必要がなくなる。つまり、本実施形態の中継接続部材16によれば、中継端子32と、出力電極28及び雄タブ30とが嵌合接続する領域に重なるようにコアを取り付けることができる。よって、中継接続部材16の軸方向の長さを短くすることができ、中継接続部材16の小型化を図ることができる。
【0031】
また、中継接続部材16は、所定の間隔を空けて配置された中継端子32をそれぞれ区切るように、中継端子32を収容するハウジング34を有する。ハウジング34は、中継端子32を流れる電流を検出する電流検出器36が一体構造になるように樹脂成形される。
【0032】
電流検出器36は、両端の中継端子32がそれぞれ貫通するように設けられたコア38a,38bと、コア38a,38bの各ギャップ部(図示せず)に配置される磁束密度検出素子(図示せず)と、この素子を搭載する回路基板39とを有する。電流検出器36は、中継端子32に電流が流れると、その電流によりコア38a,38b内部に磁界が発生し、磁束密度検出素子がその磁界の強さを電圧信号に変換することにより電流値を検出する。この電流値は電流検出器36からインテリジェントパワーモジュール12の制御基板に出力され、制御基板は電流値に基づいて半導体チップ20を駆動制御する。
【0033】
電流検出器36がハウジング34に一体に樹脂成形されることにより、中継接続部材16の取り付け時において、コア38a,38bに中継端子32をそれぞれ貫通させる作業が無くなる。よって、従来技術で説明したような、コア38a,38bの貫通部を予め大きく形成する必要が無くなるので、コア38a,38bは従来のコアより小型化を図ることができ、中継接続部材16の小型化を図ることができる。また、従来の電流検出器は、例えばインテリジェントパワーモジュールの固定部材を介して支持されていたが、本実施形態の電流検出器36は中継接続部材16のハウジング34に一体に取り付けられるので、従来の固定部材のスペースを省くことができる。
【0034】
図3は、中継接続部材16が出力電極28と出力端子14とに嵌合接続した状態を示す図である。この図及び後述する図4から6は、中継接続部材16の一つの中継端子32を挙げ、この中継端子32が出力電極28と出力端子14の雄タブ30に接続する状態を示す。
【0035】
中継端子32は、中継接続部材16に挿入される出力電極28に接触する第1接点部40と、中継接続部材16に挿入される雄タブ30に接触する第2接点部42とを有する。第1接点部40と第2接点部42とは弾性支持片44に支持される。第1接点部40は、出力電極28の端面に接触するように弾性支持片44に支持される。第1接点部40が出力電極28の端面に接触することにより、軸方向、すなわちx方向の中継端子32内部側への出力電極28の移動が規制される。一方、第2接点部42は、雄タブ30の側面に接触するように弾性支持片44に支持される。第2接点部42が雄タブ30の側面に接触するので、第2接点部42によって、軸方向、すなわちx方向の中継端子32内部側への雄タブ30の移動が規制されることはない。本実施形態の弾性支持片44と第1及び第2接点部40,42とは一体に形成されている。
【0036】
弾性支持片44は、x方向に延びて形成され、x方向に直交するy方向(図3に示す)に間隔を空けて対向するように設けられている。つまり、第1接点部40と第2接点部42は、それぞれy方向に間隔を空けて対向するように設けられている。弾性支持片44は、y方向にハウジング34内で傾くことができる板状の弾性部材であり、出力電極28が挿入される側の端部においてのみハウジング34に固定される。このため、弾性支持片44の、雄タブ30が挿入される側は、y方向に変位可能である。つまり、第2接点部42は、y方向に変位可能である。
【0037】
この構成により、図4に示されるように、第2接点部42は、挿入される雄タブ30が正常の位置からx方向に変位しても、雄タブ30に対して接触することができる。また、図5に示されるように、第2接点部42は、挿入される雄タブ30が正常の位置からy方向に変位しても、雄タブ30に対して接触することができる。
【0038】
図6は、図3のA方向から見た図である。図6に示されるように、x方向とy方向に直交するz方向における第2接点部42の長さL1が、z方向における雄タブ30の長さL2より大きい。よって、第2接点部42は、挿入される雄タブ30が正常の位置からz方向に変位しても、雄タブ30に対して接触することができる。
【0039】
本実施形態の中継接続部材16によれば、組み立て時において、出力電極28と出力端子14に位置ずれが生じたとしても、中継端子32がその位置ずれを許容して出力電極28と雄タブ30との電気的な接続を維持することができる。
【0040】
本実施形態においては、第2接点部42が、各方向に変位する雄タブ30に対して接触することができるように構成される場合について説明したが、この構成に限定されず、第1接点部40をそのような構成にすることができる。
【0041】
本実施形態においては、出力端子14がインバータ装置10のケース18に設けられる場合について説明したが、この構成に限定されず、電動機のケースに設けられてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 インバータ装置、12 インテリジェントパワーモジュール、14 出力端子、16 中継接続部材、18 ケース、20 半導体チップ、22 インバータ用回路基板、24 ヒートシンク、28 出力電極、30 雄タブ、32 中継端子、34 ハウジング、36 電流検出器、38 コア、39 回路基板、40 第1接点部、42 第2接点部、44 弾性支持片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を有する回路を含むインバータ装置に収容され、前記回路と前記インバータ装置の出力端子とを電気的に接続するインバータ装置用中継接続部材において、
前記回路の出力電極と前記出力端子の雄タブとにそれぞれ嵌合接続する中継端子と、
前記中継端子を収容し、前記中継端子の電流を検出する電流検出器が一体構造になるように樹脂成形されたハウジングと、
を有することを特徴とするインバータ装置用中継接続部材。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ装置用中継接続部材において、
中継端子は、挿入される前記雄タブが正常の位置から軸方向に変位しても、前記雄タブに対して接触可能であるとともに、挿入された前記雄タブが正常の位置から軸方向に直交する第1直交方向に変位しても、前記雄タブに対して接触可能である接点部を有する、
ことを特徴とするインバータ装置用中継接続部材。
【請求項3】
請求項2に記載のインバータ装置用中継接続部材において、
前記接点部は、前記第1直交方向に互いに間隔を空けて、前記第1直交方向に変位可能な一対の弾性支持片に支持され、
前記接点部は、挿入される前記雄タブの側面に接触する、
ことを特徴とするインバータ装置用中継接続部材。
【請求項4】
請求項3に記載のインバータ装置用中継接続部材において、
前記接点部は、さらに、挿入される前記雄タブが正常の位置から軸方向と第1直交方向とに直交する第2直交方向に変位しても、前記雄タブに対して接触可能である、
ことを特徴とするインバータ装置用中継接続部材。
【請求項5】
請求項4に記載のインバータ装置用中継接続部材において、
第2直交方向における前記接点部の長さが、同じ方向における前記雄タブの長さより大きい、
ことを特徴とするインバータ装置用中継接続部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載のインバータ装置用中継接続部材において、
前記電流検出器は、
前記中継端子を貫通させるコアと、
前記コアのギャップ部に配置される磁束密度検出素子と、
前記磁束密度検出素子を搭載する回路基板と、
を有する、
ことを特徴とするインバータ装置用中継接続部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−15586(P2011−15586A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159518(P2009−159518)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(595176098)甲神電機株式会社 (37)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】