インパクトアクチュエータ
【課題】インパクトアクチュエータにおいて、より円滑な移動と移動速度の向上、およびエネルギー効率の向上を実現する。
【解決手段】アクチュエータ1は、通電されることにより電磁力f1に基づく衝撃の発生源となる電磁コイル2と、移動対象物9とともに移動する固定子3と、電磁力f1により駆動される可動子4と、通電制御を行う制御装置5とを備える。制御装置5が電磁コイル2へ通電して移動対象物9を移動させる方向に可動子4を移動させ、可動子4が固定子3に衝突して固定子3を介して移動対象物9に衝撃を与える。制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで電磁コイル2へ前記とは逆方向へ通電する。移動対象物9の移動中に電磁コイル2への通電方向を逆方向にするので、可動子4を後退させるときの反動を移動対象物9の移動に寄与させることができ、より円滑な移動と速度向上を実現できる。
【解決手段】アクチュエータ1は、通電されることにより電磁力f1に基づく衝撃の発生源となる電磁コイル2と、移動対象物9とともに移動する固定子3と、電磁力f1により駆動される可動子4と、通電制御を行う制御装置5とを備える。制御装置5が電磁コイル2へ通電して移動対象物9を移動させる方向に可動子4を移動させ、可動子4が固定子3に衝突して固定子3を介して移動対象物9に衝撃を与える。制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで電磁コイル2へ前記とは逆方向へ通電する。移動対象物9の移動中に電磁コイル2への通電方向を逆方向にするので、可動子4を後退させるときの反動を移動対象物9の移動に寄与させることができ、より円滑な移動と速度向上を実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃を与えることにより移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁気的作用に基づく衝撃すなわちインパクトを物体に反復付与してその物体を移動させる駆動装置がある。小さな衝撃であっても反復付与することにより、物体を移動させることができ、また、小さな衝撃の場合に、そのこと故に高精度の位置制御ができる利点もある。衝撃発生の方法として、電歪素子を用いるものや、渦電流を用いるものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。渦電流は、例えば、アルミニューム板などの金属板の近くに配置した電磁コイルに電流を流した際に、金属板に渦状に流れる電流である。電磁コイルに衝撃電流を流したとき、電磁コイルによる磁場と金属版に誘起される渦電流との相互作用によって、金属板を跳ね返す反発力が発生する。反発された金属板を物体に衝突させることにより金属板を介して物体に衝撃を与えることができる。このような駆動装置をマイクロマニピュレータに適用し、そのマイクロマニピュレータによって微小器具を卵細胞内へ挿入するようにした装置などが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−60582号公報
【特許文献2】特公平5−80685号公報
【特許文献3】特開2003−25261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1〜3に示される駆動装置は、反復付与する衝撃を発生する電磁気的作用を衝撃発生の各反復周期内において制御するものではなく、移動速度が遅く、また、エネルギー効率が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、移動対象物のより円滑な移動と移動速度の向上、およびエネルギー効率の向上を実現できるインパクトアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明のインパクトアクチュエータは、摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、アクチュエータは、通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、移動対象物とともに移動する固定子と、電磁コイルの電磁力により駆動されて固定子に対して相対移動する可動子と、電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、を備え、制御装置が電磁コイルへ通電することにより移動対象物を移動させる方向に可動子を移動させ、可動子が固定子に衝突することにより固定子を介して移動対象物に衝撃を与え、制御装置は、固定子が移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで電磁コイルへ前記とは逆方向へ通電することを特徴とする。
【0007】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突した後に、前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0008】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突したときに、前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0009】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突する前に、前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0010】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突する前の加速中に、移動対象物が摩擦力に抗して移動しないように電磁コイルへの通電制御を行うようにしてもよい。
【0011】
このインパクトアクチュエータにおいて、移動対象物を移動させる方向における固定子がある側とは反対側に、可動子の移動範囲を制限するストッパを備え、制御装置は、可動子がストッパに衝突しないように電磁コイルへの通電制御を行うことが好ましい。
【0012】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、電磁コイルが固定子に電磁力を及ぼすことにより発生する電磁コイルの電流回路のインピーダンスの変化に基づいて前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明のインパクトアクチュエータは、摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、アクチュエータは、通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、移動対象物とともに移動する固定子と、電磁コイルの電磁力によって固定子に対して相対移動する可動子と、電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、可動子を移動対象物を移動させる方向とは逆方向に付勢する弾性体からなる付勢手段と、を備え、制御装置が電磁コイルへ通電することにより、付勢手段の付勢力に抗して、移動対象物を移動させる方向に可動子を移動させ、可動子が固定子に衝突することにより固定子を介して移動対象物に衝撃を与え、制御装置は、固定子が移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで付勢手段による付勢力が電磁コイルの電磁力に対して優勢となるように電磁コイルへの通電を弱めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインパクトアクチュエータによれば、固定子および移動対象物の移動中に、電磁コイルへの通電方向を逆方向にするので、可動子を後退させるときの反動を移動対象物の移動に寄与させることができ、より円滑な移動と移動速度の向上を実現できる。また、摩擦によって制動されている移動対象物を、より摩擦力の小さい動摩擦のもとで効率的に移動させることができるので、エネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るインパクトアクチュエータの動作中の側面図、(b)は同アクチュエータの衝撃発生後の側面図。
【図2】(a)は同アクチュエータの動作例を説明するフローチャート、(b)は同アクチュエータの他の動作例を説明する部分フローチャート、(c)は同アクチュエータのさらに他の動作例を説明する部分フローチャート。
【図3】(a)は図2(a)の動作例に対応する可動子の動作のタイムチャート、(b)は同動作例に対応する電磁コイルの動作のタイムチャート、(c)は同動作例に対応する移動対象物の動作のタイムチャート。
【図4】(a)は図2(b)の動作例に対応する可動子の動作のタイムチャート、(b)は同動作例に対応する電磁コイルの動作のタイムチャート、(c)は同動作例に対応する移動対象物の動作のタイムチャート。
【図5】(a)は図2(c)の動作例に対応する可動子の動作のタイムチャート、(b)は同動作例に対応する電磁コイルの動作のタイムチャート、(c)は同動作例に対応する移動対象物の動作のタイムチャート。
【図6】(a)は図2(a)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(b)は同動作例に対する比較例を示すグラフ。
【図7】(a)は図2(b)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(b)は図2(c)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(c)は(b)の変形例を示すグラフ。
【図8】他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの側面図。
【図9】(a)は同アクチュエータにおける電磁コイルの電磁力が可動子に斥力を及ぼす様子示す断面図、(b)は同電磁力が引力の場合の断面図。
【図10】同アクチュエータによる駆動時に電磁コイルへ通電する電流の波形図。
【図11】同アクチュエータによる逆方向の駆動時に電磁コイルへ通電する電流の波形図。
【図12】さらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの側面図。
【図13】同アクチュエータにおける電磁コイルの動作を示す断面図。
【図14】同アクチュエータの変形例における電磁コイルの動作を示す断面図。
【図15】さらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの側面図。
【図16】(a)は同アクチュエータにおける衝撃発生前の断面図、(b)は同アクチュエータにおける衝撃発生時の断面図。
【図17】同アクチュエータの変形例を示す断面図。
【図18】(a)は図2(a)の動作例の変形例を示すフローチャート、(b)は同動作例の他の変形例を示すフローチャート。
【図19】(a)は図18(a)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(b)は図18(b)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ。
【図20】さらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの電気回路的な構成図。
【図21】同アクチュエータの電磁コイルに通電したときの電圧と電流の時間変化のグラフ。
【図22】同アクチュエータの動作例を説明するフローチャート。
【図23】(a)〜(f)はさらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの動作例を時系列的に示す側面図。
【図24】実施例の条件を説明するための、電磁コイルへの通電電流の時間変化グラフ。
【図25】複数条件の下で測定した可動子の速度の時間変化グラフ。
【図26】図25のグラフに対応する条件の下で測定した固定子(移動対象物)の速度の時間変化グラフ。
【図27】図26の測定データから求めた固定子(移動対象物)の移動距離の時間変化グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るインパクトアクチュエータについて、図面を参照して説明する。図1乃至図7は、本発明の実施形態に係るインパクトアクチュエータ(以下、単にアクチュエータとも称する)を示す。アクチュエータ1は、図1(a)(b)に示すように、移動対象物9に取り付けられて用いられるものであり、電磁コイル2と、固定子3と、可動子4と、制御装置5とを備えている。移動対象物9は、摩擦面Sに配置されて摩擦力により移動が制動されており、例えば、前進方向(図中X軸の正方向)の衝撃を反復して与えられることにより、摩擦力に抗して前進移動する。電磁コイル2は、通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる。制御装置5は、不図示の電源からの電流を電磁コイル2へ印加する通電制御を行う。
【0017】
固定子3は、例えば円板形状であり、その一面側を移動対象物9のX軸の負方向に面する面に固定されている。従って、固定子3は移動対象物9とともに移動する。固定子3の他面には、X軸に沿って伸びるガイド軸31の一端が固定されている。可動子4は、リング状平板であり、その中心にガイド軸31が挿通されている。可動子4は、ガイド軸31に沿って移動自在であり、電磁コイル2の電磁力により駆動されて固定子3に対して相対移動する。電磁コイル2は、その中心軸がガイド軸31の中心軸と一致しており、コイルの中心においてガイド軸31方向の磁場を発生する。電磁コイル2は、ガイド軸31の他端側に固定されており、ガイド軸31の一端側に位置する固定子3と共に、可動子4の移動範囲を制限するストッパを構成する。
【0018】
可動子4は、電磁コイル2の電磁力すなわち磁気力により駆動されるものであればよく、例えば、永久磁石、磁性体、導電体などで構成される。永久磁石は電磁コイル2の磁気力との相互作用によって、引力または斥力を受ける。磁性体は、電磁コイル2の磁気力によって、引力を受ける。導電体は、渦電流が発生することによって、電磁コイル2の磁気力による斥力を受ける。磁性体と導電体は、磁気力からは一方向の力しか受けないので、バネなどの弾性体による付勢力を援用することにより、可動子4に往復方向の移動をさせることができる。
【0019】
次に、アクチュエータ1の動作を説明する。アクチュエータ1は、制御装置5が電磁コイル2へ通電することにより移動対象物9を移動させる方向に可動子4を移動させ、可動子4が固定子3に衝突することにより固定子3を介して移動対象物9に衝撃を与えて、移動対象物9を移動させる。そこでまず、図1(a)に示すように、可動子4が、電磁コイル2の電磁力f1によって加速されて、電磁コイル2側から固定子3側に向けて、速度v1で前進移動しているものとする。電磁コイル2は、電磁力f1の反作用として、反力R1を受けている。この反力R1は、電磁コイル2が、ガイド軸31、固定子3、および移動対象物9と一体となっているので、これら全体を速度v1の逆方向(後退方向、X軸の負方向)に移動させる力となる。しかしながら、反力R1は、摩擦面Sから受ける摩擦力(静止摩擦力)が最大静止摩擦力を超えない範囲において摩擦力とつりあい、移動対象物9の後退移動は阻止され、摩擦面Sに対して、可動子4の前進移動だけが発生する。
【0020】
可動子4は、図1(b)に示すように、固定子3に衝突した後、その衝撃力が摩擦面Sの最大静止摩擦力を超えることにより、移動対象物9が速度Vで前進移動し、可動子4は固定子3から跳ね返って、速度v2で後退移動する。電磁コイル2は、移動対象物9が速度Vで前進移動し、可動子4が後退移動している間に、可動子4に電磁力f2を作用させて後退移動を加速(逆加速という)する。すると、電磁力f2の反作用としての反力R2が、移動対象物9を前進移動させる力となる。移動対象物9は、静止摩擦力よりも小さい動摩擦力の下で移動しているので、反力R2が有効に作用して、移動対象物9の前進移動が促進される。このような促進は、言い換えれば、制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで電磁コイル2へ、それまでとは逆方向へ通電することによって実現される。
【0021】
可動子4は、ストッパとしての電磁コイル2に過度の衝撃を与える衝突、つまり、移動対象物9を後退させてしまう衝突をしないように、電磁コイル2によって、逆加速の状態から減速状態(制動状態)とされ、その後、停止状態(速度ゼロ)とされる。一旦速度ゼロとされた可動子4は、図1(a)の状態に戻って、反復動作が繰り返される。逆加速の状態から減速するには、電磁コイル2の電磁力によるほか、バネなどの弾性体によるダンパを用いることができる。制御装置5は、電磁コイル2の電磁力によって加速、逆加速、減速などを行う目的をもって、各反復動作の周期内で電磁コイル2へ通電する電流または印加する電圧を制御する。
【0022】
次に、可動子4を逆加速するタイミングについて説明する。制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間(すなわち、時刻)より前のタイミングで電磁コイル2へ、それまでとは逆方向へ通電する。その停止すると見込まれる時間は、アクチュエータ1を使用する際の条件に基づいて、例えば、可動子4が固定子3に衝突してから何ミリ秒後、などのように見込むことができる。また、可動子4が固定子3に衝突する時間すなわち衝突時刻は、予め測定した電磁コイル2や可動子4の動作特性から、例えば、電磁コイル2への通電を開始した時刻から何ミリ秒後、などのように設定することができる。また、加速度センサをアクチュエータ1または移動対象物9に備えて、固定子3と可動子4の衝突の瞬間を動的に直接検出してもよい。さらに、このような加速度センサによって、移動対象物9が停止するタイミングを、移動対象物9に衝撃を与える反復動作の中で毎回検出して、制御装置5がそのタイミングを通電制御にフィードバックするようにしてもよい。また、停止すると見込まれる時間より前のタイミングとして、可動子4と固定子3の衝突事象に注目すると、衝突時と、衝突後と、衝突前とにおけるタイミングが考えられる。また、アクチュエータ1は、衝突事象の発生によって動作するものであるから、衝突前におけるタイミングは、当然に衝突前の所定の時間範囲内に限定される。
【0023】
図2(a)は、衝突時に、それまでとは逆方向へ通電する場合のアクチュエータ1の動作を示す。アクチュエータ1が、移動対象物9を前進移動させる駆動動作を開始すると、制御装置5が電磁コイル2に通電し、可動子4が加速される(S1)。可動子4と固定子3の衝突発生がなければ加速が繰り返され(S2でNO)、衝突があれば(S2でYES)、電磁コイル2は、それまでとは逆方向へ通電される(S3)。制御装置5は、電磁コイル2への通電を制御して、可動子4の後退移動の速度を減速し、ストッパとしての電磁コイル2側で可動子4の速度をゼロとする(S4)。アクチュエータ1の駆動が続行される場合は、最初のステップ(S1)からの動作が繰り返され(S5でYES)、駆動が続行されない場合は処理が終了する(S5でNO)。図2(b)(c)は、それぞれ、衝突後と衝突前に、それまでとは逆方向へ通電する場合の動作を示し、逆方向へ通電するタイミングを判定するステップ(S2a,S2b)が図2(a)とは異なり、他は同様である。
【0024】
図3(a)(b)(c)は、逆方向へ通電するタイミングを衝突時とする場合における、可動子4の速度v、電磁コイル2の電磁力、および移動対象物9の速度Vについて、互いの時間的関係を示したタイムチャートである。アクチュエータ1の反復駆動動作の周期をTとし、2周期分が図示されている。可動子4は、図3(a)に示すように、周期Tの始めから前進移動を開始し、衝突時刻t0において、速度が反転されて後退移動を行い、周期T内で停止している。電磁力は、図3(b)に示すように、周期Tの始めから可動子4を加速し、衝突時刻t0において反転されて可動子4の後退移動を加速している。すなわち、電磁コイル2は、衝突時刻t0と同じタイミングtaにおいて、それまでとは逆方向へ通電されている。なお、可動子4は、反復動作のため周期T内で速度v=0とする必要があり、電磁力は適宜にゼロとされる。さらに、可動子4の速度を減速するために、電磁力を減速のために用いるか(タイムチャートには不図示)、または、ダンパなどによる減速力が用いられる。移動対象物9は、図3(c)に示すように、衝突時刻t0から移動を開始し、周期T内で停止する。図4(a)(b)(c)と図5(a)(b)(c)は、それぞれ逆方向へ通電するタイミングを衝突後および衝突前とする場合について、図3と同様に示しており、説明は省略する。
【0025】
図6(a)は、逆方向へ通電するタイミングを衝突時とする場合における、可動子4の速度v(v1とv2)、電磁コイル2への通電電流J、および移動対象物9の速度Vの時間変化を示す。電流Jは、矩形波状に通電されている。この通電と共に、可動子4の前進方向の速度v1が立ち上がる。可動子4に一定の加速度のみが作用している理想的な場合には、速度v1の時間変化グラフは、下に凸の放物線波形の一部となるが、電磁コイル2の電磁力が場所によって変化するなどの要因により、放物線にはなっていない。可動子4が固定子3に衝突する時刻t0に、通電方向が切り替えられ、電流Jの向きが切り替えられている。時刻t0において、可動子4は、衝突後の初速度に、逆方向への通電による加速度の効果を加えた速度v2のもとで、後退移動する。移動対象物9の速度Vは、衝突時にV=0から立ち上がり、摩擦力の制動を受けて、再び速度V=0となる。移動対象物9の移動距離は、速度Vのグラフによって囲まれる面積で表される。図中の速度V0は、以下に説明する。
【0026】
図6(b)は、逆方向へ通電するタイミングを、移動対象物9の停止時(時刻ta)とする比較例における、速度v(v1とv2)、通電電流J、および移動対象物9の速度V0の時間変化を示す。可動子4は、時刻t0における固定子3との衝突により、向きが反転した速度v2を有する。しかしながら、可動子4の後退移動中においても、電磁コイル2にはもとの方向への通電が行われており、時刻taまでは、速度v2に対する減速が行われる。この減速のために可動子4に作用する電磁力の反作用(反力)は、電磁コイル4、従ってこれと一体になった移動対象物9の移動を減速させることになる。例えば、上述の図1(a)において、速度v1の向きを逆向きにして速度v2に置き換え、さらに移動対象物9が速度V0で移動している状況を想定すればよい。このように想定した状況において、反力R1は、移動対象物9の移動速度V0を減速する。この場合の移動対象物9の移動距離は、速度V0のグラフによって囲まれる面積であり、その面積は上述の図6(a)における速度Vのグラフによって囲まれる面積よりも小さい。つまり、図6(a)における移動対象物9の移動距離は、図6(b)の比較例の場合の移動距離に比べて大きくなっている。
【0027】
図7(a)(b)は、逆方向へ通電するタイミングを、それぞれ、衝突後および衝突前とする場合における、速度v(v1とv2)、通電電流J、および速度Vの時間変化を示す。また、電磁コイル2へ、それまでとは逆方向へ通電する目的は、可動子4を逆加速する時間帯を発生させることにより移動対象物9の前進移動を促進することにあるので、逆方向へ通電は、通電を一旦休止した後に行ってもよい。例えば、図7(c)に示すように、衝突前の時刻taに電流Jを一端停止してJ=0を維持し、その後、衝突時の時刻t0に、それまでとは逆方向の通電を行うようにしてもよい。これらの、いずれの場合においても、可動子4の逆加速の効果により、移動対象物9の移動距離を増すことができる。
【0028】
次に、図8乃至図11を参照して、アクチュエータ1の、より具体的な構成例を説明する。図8に示すように、本実施形態のアクチュエータ1は、図1に示したアクチュータ1において、可動子4を永久磁石としたものである。電磁コイル2は、コイル枠に納められ、その中心軸上に配置されたガイド軸31によって固定子3に一体化されている。可動子4は、ドーナツ円板状であって、中心側から外周側に向けて半径方向に磁化されている。本例の場合、中心側がS極で外周側がN極であるが、逆極性とすることができる。このような可動子4は、電磁コイル2に流れる電流の向きによって、図9(a)に示すように、斥力を受けたり、図9(b)に示すように、引力を受けたりする。
【0029】
アクチュエータ1の動作を説明する。移動対象物9は、可動子4が左方の電磁コイル2に衝突することによって左方に移動され、可動子4が右方のストッパ4に衝突することによって右方に移動される。すなわち、アクチュエータ1は、そのガイド軸31方向のいずれの方向へも、選択的に、移動対象物9を移動させることができる双方向駆動のアクチュエータである。移動対象物9を左方に移動させる場合には、可動子4が右方の固定子3に過度の衝撃で衝突しないように電磁コイル2からの磁気力を可動子4に及ぼす必要がある。逆に、移動対象物9を右方に移動させる場合には、可動子4が電磁コイル2に衝突しないように電磁コイル2からの磁気力を可動子4に及ぼす必要がある。制御装置5は、電磁コイル2と可動子4の相対移動の一方向において衝突を発生させ、その一方向とは反対方向において衝突を回避させると共に相対移動の方向を反転させて一方向における衝撃を反復発生させるように、電磁コイル2に通電する電流を時間制御する。
【0030】
次に、移動対象物9を右方(X軸の正方向)に移動させる場合のアクチュエータ1の動作を説明する。初期状態において、可動子4は電磁コイル2に接触して静止しているものとする。図10に示すように、時間t1ではコイル電流Jはゼロであり、移動対象物9は静止している。コイル電流Jが、時間t2におけるように、漸増した後、一定値となるように流されると、可動子4は電磁コイル2から斥力を受けて固定子3に近づき、その間、斥力によって加速され続けて、最終的に固定子3に衝突する。衝撃力を大きくするには、加速する時間が長いほどよいが、時間ではなくコイル電流Jの大きさを、可動子4が離反する移動時よりも衝突する移動時に、より大きくするようにしてもよい。時間t2の始めにコイル電流Jを漸増するのは、急激な離反の反動によって移動対象物9が左方へ移動するのを抑制するためである。時間t3では極性を反転したコイル電流Jが流され、可動子4が固定子3側から引き戻される。可動子4が電磁コイル2に到達する前に、時間t4において極性を戻したコイル電流Jが流され、減速とその後の加速の後、可動子4が固定子3側に、再び衝突する。時間t5以降の動作は時間t3,t4における動作の繰り返しであり、その反復動作によって、移動対象物9が右方へ移動する。通電方向の切り替えタイミングtaは、本例では、衝突のタイミングt0と同じに設定されており、時間t2と時間t3の境界に位置している。また、このタイミングtaは、移動対象物9が移動停止する前のタイミングに設定されている。時間t4における初期段階の通電による電磁力は、可動子4が電磁コイル2側に衝突しないように可動子4の速度を減速するための、制動力として用いられる。
【0031】
次に、移動対象物9を左方(X軸の負方向)に移動させる場合について説明する。初期状態において、可動子4は電磁コイル2に接触して静止しているものとする。図11に示すように、時間t1ではコイル電流Jはゼロであり、移動対象物9は静止している。時間t2におけるように、一定値のコイル電流Jが流されると、可動子4は電磁コイル2から斥力を受けて固定子3に近づく。可動子4が固定子3に到達する前に、極性を反転したコイル電流Jが時間t3において流され、可動子4は電磁コイル2から引力を受けて、減速とその後の加速により、電磁コイル2に引き戻される。可動子4は、時間t3における移動中に、引力によって移動速度が加速され続け、時間t4では電流JがJ=0とされ、時間t4の終わりで、最終的に電磁コイル2に衝突する。可動子4が電磁コイル2に衝突したタイミングt0において、J=0とされる以前の電流の向きからコイル電流Jの極性が反転され、時間t5の間、そのコイル電流Jが流される。時間t3と時間t4の境界に位置するタイミングtaにおいて電流JがJ=0とされ、通電を一旦休止する通電制御は、上述の図7(c)に示した制御と同様である。ただし、図11と図7(c)とでは、移動対象物9の移動方向が逆に設定されており、電流Jの向きも、互いに逆になっている。時間t3における初期段階の通電による電磁力は、可動子4が固定子3側に衝突しないように可動子4の速度を減速するための、制動力として用いられる。時間t5以降の動作は上述の時間t3,t4,t5の繰り返しであり、その反復動作により、移動対象物9が左方へ移動する。
【0032】
次に、図12、図13、図14を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。図12に示すように、このアクチュエータ1は、図1のアクチュエータ1において、可動子4を電磁コイル2で構成し、固定子3を永久磁石で構成したものである。アクチュエータ1は、双方向駆動の構成とされており、可動子4の両側に固定子3(以下、永久磁石3とも称する)が設けられている。これらの2つの永久磁石3は、一方が可動子4に対する被衝突体となる際に、他方がストッパとなる。円板状の2つの永久磁石3は、互いに離間して同軸配置されガイド軸31の両端に固定されている。電磁コイル2は、コイル枠に納められ、中心軸上をガイド軸31によって挿通されてガイド軸31に沿って移動自在とされている。電磁コイル2は、電磁コイル2への通電によって生じる電磁作用によって、2つの永久磁石3に対して相対移動する。その相対移動の範囲は両端の永久磁石3によって制限されている。各永久磁石3は、中心側から外周側に向けて半径方向に磁化されている。本例の場合、中心側がS極で外周側がN極であるが、逆極性とすることができる。
【0033】
アクチュエータ1の動作を説明する。上述のような永久磁石3の間に挟まれた電磁コイル2は、通電されると、図13に示すように、一方の永久磁石3から斥力を受け、他方の永久磁石3から引力を受ける。従って、電磁コイル2は、電磁コイル2に流れる電流の向きによって、X軸方向またはその反対方向に移動方向を選択することができる。そこで、制御装置5によって、電磁コイル2のコイル電流を時間制御することにより、電磁コイル2を左方の永久磁石3に衝突させて移動対象物9を左方に移動させることができ、同様に、移動対象物9を右方に移動させることができる。制御装置5は、電磁コイル2と永久磁石3の相対移動の一方向において衝突を発生させ、その一方向とは反対方向において衝突を回避させると共に相対移動の方向を反転させて一方向における衝撃を反復発生させるように電磁コイル2への通電電流を時間制御する。このような制御を繰り返すことにより、移動対象物9を右方または左方へパルス的に移動させることができる。電磁コイル2への通電制御において、電流Jの切り替えタイミングtaの設定は、上述の図2に示した場合と同様である。
【0034】
図14は、図12に示したアクチュエータ1の変形例を示す。この変形例における永久磁石3は、図12に示したアクチュエータ1における永久磁石3の磁化方向とは異なり、円板の厚み方向に磁化されている。このような永久磁石3を互いに磁化方向を揃えて配置し、電磁コイル2に通電すると、一方の永久磁石3から斥力を受け、他方の永久磁石3から引力を受ける。従って、この変形例は、図12に示したアクチュエータ1と同様の動作をすることができる。
【0035】
次に、図15乃至図17を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。アクチュエータ1は、図15に示すように、ガイド軸31の両端に固定子3として電磁コイル2を備え、両固定子3の間に永久磁石からなる2つの可動子4を備え、2つの可動子4の間に弾性体6を備えている。各可動子4は、それぞれ少なくとも弾性体6の伸縮する範囲内でガイド軸31の軸方向に沿って移動自在に構成されている。各電磁コイル2は、ガイド軸31によって一体化され、それぞれコイル枠に納められている。弾性体6は、アクチュエータ1が非駆動状態のとき、各可動子4を電磁コイル2に近接させるように伸張している。弾性体6は、例えばコイルバネや板バネによって構成することができ、ゴムなどを用いて構成することができる。アクチュエータ1は、電磁コイル2と可動子4を1つづつ含む組を、ガイド軸31に沿って弾性体6の両側に、互いに対称配置および対称構成となるように備えている。すなわち、アクチュエータ1は、ガイド軸31方向のいずれの方向へも、選択的に、移動対象物9を移動させることができる双方向駆動のアクチュエータである。互いに隣接する電磁コイル2と可動子4(永久磁石)との間の相互作用は、上述の図9(a)(b)によって示した相互作用と同様であり、互いに引力や斥力を及ぼしあう。
【0036】
アクチュエータ1の動作を説明する。アクチュエータ1は、例えば、移動対象物9を右方に移動させる場合、右方の電磁コイル2と可動子4の組を動作させる。この場合、アクチュエータ1は、図16(a)に示すように、右方の可動子4に斥力を与えるように、右方の電磁コイル2に電流を流し、その後電流をオフする。すると、右方の可動子4は、弾性体6によって受け止められた後、圧縮された弾性体6の伸張力によって跳ね返されて、図16(b)に示すように、右方の電磁コイル2(固定子3)に衝突する。このような動作を繰り返すことにより、移動対象物9を右方に移動させることができる。弾性体6は、その付勢力によって、可動子4の減速を行うものであり、電磁力によって可動子4の減速を行う電磁コイル2の役割を分担する。このようなアクチュエータ1においても、電磁コイル2への通電制御において、電流Jの切り替えタイミングtaの設定は、上述の図2に示した場合と同様である。
【0037】
図17は、さらに他のアクチュエータ1を示す。このアクチュエータ1は、図15に示したアクチュエータ1において、永久磁石からなる可動子4を導電体からなる可動子に置き換えたものである。このアクチュエータ1は、電磁コイル2への通電によって導電体(可動子4)に発生する渦電流に起因して発生する反発力によって、可動子4を反発移動させる。可動子4は、弾性体6を圧縮し、弾性体6の伸張力によって押し戻されて固定子3(電磁コイル2)に衝突し、移動対象物9が移動される。電磁コイル2への通電制御は、必要な渦電流とこれに起因する反発力とが得られるように電流を一気に流すように制御し、可動子4(導電体)と電磁コイル2との衝突が邪魔されないように通電をオフする制御を行えばよい。
【0038】
次に、図18、図19を参照して、制御装置5による通電制御について、さらに説明する。アクチュエータ1は、移動対象物9に衝撃を反復して付与する際に、円滑かつ効率的に移動させるため、各反復動作の周期Tの始めと終わりとにおいて、より詳細に通電制御する必要がある。例えば、図18(a)に示すように、可動子4を加速するステップ(S1)の前に、可動子4を徐々に加速するステップ(S0)を設けたり、図18(b)に示すように、後退移動する可動子4を段階的減速したり徐々に減速したりする(S4a)。これらの通電制御の処理は、例えば、図19(a)に示すように、電流Jを滑らかに立ち上がる電流波形にする制御や、図19(b)に示すように、電流Jの通電方向の切り替えを行った後に、電流J1,J2という2段階でJ=0に導く制御によって行われる。周期Tの始めの通電制御は、可動子4が固定子3に衝突する前の加速中に移動対象物9が摩擦力に抗して移動(これは、意図した向きとは逆向きの移動)しないようにすることを目的として行われる制御である。周期Tの終わりの通電制御は、通電方向の切り替え後に、可動子4が移動対象物9を移動させる方向とは反対側にあるストッパ(例えば、図1における電磁コイル2)に衝突しないようにすることを目的として行われる制御である。この場合のストッパへの衝突も、意図した向きとは逆向きの移動を発生させるので、この衝突を回避させることが効率的移動にとって有効である。
【0039】
次に、図20、図21、図22を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。アクチュエータ1は、図20に示すように、電源20によって通電される電磁コイル2を含む電流回路のインピーダンスZを測定する測定回路21を備えており、制御装置5は、測定回路21によって測定されたインピーダンスZの変化に基づいて通電制御を行う。電磁コイル2が、その電磁力を可動子4に及ぼす際に、電磁コイル2は、可動子4から電磁気的な相互作用を受ける。例えば、電磁コイル2に逆起電力が発生し、その逆起電力の効果により、図21に示すように、電磁コイル2を含む電流回路のインピーダンスZに変化(例えば、波形における変曲点P)が現れる。従って、このようなインピーダンスZの変化から、可動子4と固定子3との衝突事象の前か後かなどについて、アクチュエータ1の知見が得られ、その知見に基づいてタイミングtaの設定、すあんわち電磁コイル2の通電制御を行うことができる。このような知見は、予め実験的測定によって得ることもでき、また、アクチュエータ1の動作中にリアルタイムで得ることもできる。
【0040】
図22は、上述のインピーダンス計測による通電制御の例を示す。制御装置5は、電磁コイル2に通電して可動子4を加速すると共に(#1)、測定回路21によってインピーダンスZを測定する(#2)。インピーダンスZに所定の変化がなければ(#3でNO)、ステップ(#1)からの処理が繰り返され、インピーダンスZに所定の変化があれば(#3でYES)、電磁コイル2への逆方向への通電が行われる(#4)。その後、ステップ(#4,#5,#6)において、図2(a)に示した制御と同様の制御が行われる。
【0041】
次に、図23を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。アクチュエータ1は、ガイド軸31の一端と他端それぞれ設けた電磁コイル2(固定子3)と、ストッパ7と、固定子3とストッパ7との間に設けた可動子4と、ストッパ7と可動子4とを互いに引き寄せる弾性体8と、不図示の制御装置5とを備えている。弾性体8は、可動子4を移動対象物9を移動させる方向とは逆方向に付勢する付勢手段であり、バネやゴムなどで構成される。可動子4は、磁性体からなり、ガイド軸31に沿って移動自在であり、電磁コイル2の磁力による引力と弾性体8の収縮力による引力とを受ける。以下、アクチュエータ1の動作を説明する。
【0042】
図23(a)に示すように、アクチュエータ1の初期状態(駆動前の状態)において、可動子4は、弾性体8の付勢力によってストッパ7側に引き寄せられている。電磁コイル2に通電されると、図23(b)に示すように、可動子4は、電磁コイル2の電磁力f1により、弾性体8の付勢力fcに抗して、移動対象物9を移動させる方向(X軸の正方向、右方)、すなわち電磁コイル2側に速度v1で加速移動される。この場合、可動子4は、fc<f1という条件のもとで、右方に移動する。力fcの反作用となる力Rcがストッパ7に作用し、力f1の反作用となる力R1が電磁コイル2に作用している。力R1は、摩擦面Sからの静止摩擦力と釣り合っており、移動対象物9は静止している。なお、図中の力の大小関係を再掲すると、fc<f1,fc=Rc,f1=R1,Rc<R1である。
【0043】
図23(c)に示すように、可動子4が固定子3としての電磁コイル2に衝突すると、図23(d)に示すように、移動対象物9が速度Vで右方へと移動し、可動子4は、左方に速度v2で移動する。このとき、制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで、弾性体8による付勢力fcが電磁コイル2の電磁力f2に対して優勢となるように電磁コイル2への通電を弱める通電制御を行う。なお、図中の力の大小関係を再掲すると、fc>f2,fc=Rc,f2=R2,Rc>R1である。この場合、また、移動対象物9が速度Vで右方に移動しているので、摩擦面Sからの摩擦力による抗力は小さく、移動対象物9に作用している右方への力(0<Rc−R1)が、移動対象物9を右方に移動させる力として有効に作用する。
【0044】
制御装置5は、その後、図23(e)に示すように、適宜電磁コイル2への通電制御を行うことにより、図23(f)に示すように、ストッパ7に対して過度の衝撃を与えないように、可動子4を初期状態に復帰させる。ストッパ7に対する過度の衝撃とは、衝撃のために移動対象物9が左方に移動してしまうような衝撃のことである。なお、可動子4が、ストッパ7に対して適度の衝撃を与えるように衝突すると、その衝撃による可動子4の跳ね返りを利用することにより、次の駆動の周期における、移動対象物9の右方への移動動作をより円滑に進めることができる。
【0045】
次に、図24乃至図27を参照して、アクチュエータ1の動作に関する実施例の測定値について説明する。図24は、実施例の条件を説明するための、電磁コイル2への通電電流Jの時間変化グラフを示す。時刻t=0において電流Jがステップ状に印加され、その後、時間τの間、一定電流が維持され、時刻t=τ(すなわち、タイミングta)において、電流Jが前記とは逆方向に通電されるものとする。実施例では、時間τを、τ=2mms,4mms,5.6mms,7.5mms,10mmsの5段階(それぞれ、a〜eで区別)に変化させた。なお、この実施例の測定において、可動子4の反復動作について評価することは、前提とされてない。従って、この実施例において、可動子4がストッパ側に過度の衝撃を与えないように、可動子4を減速する処理は行われていない。
【0046】
図25、図26、図27は、それぞれ、可動子4の速度v、固定子3(移動対象物9)の速度V、速度Vの測定データから求めた固定子3(移動対象物9)の移動距離X(速度Vの時間積分値)の時間変化を示す。図25において、τ=2mms(グラフa)の場合、速度vが十分加速されていないことが分かる。図26、図27において、b〜eのグラフに負値が現れているのは、可動子4の移動開始時の反動が大き過ぎるからであり、これは、図24に示したように、電流Jがステップ状に印加されることに原因がある。移動距離Xを示す図27において、各グラフが、ピークを形成し、その後減少しているのは、移動対象物9が後戻りしていることを意味し、この後戻りは、この実施例において、可動子4を減速する処理を行わなかったことに起因する。図27において、移動距離Xのピークは、τ=5.6mms(グラフc)の場合に一番高く、この時間τを与えるタイミングtaが最適のタイミングであることが分かる。また、τ=2mms(グラフa)の場合、逆方向への通電が早すぎて移動距離Xを減少させていることが分かる。
【0047】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。本発明のアクチュエータは、上下左右任意の姿勢で用いることができる。また、摩擦面Sに載置された移動対象物に限らず、摩擦的な抗力(例えば、流体や砂などの擬似流体からの抵抗やラチェットなどの機械要素から受ける抵抗など)を受ける状態で位置が維持された移動対象物に対して、本アクチュエータを適用することができる。また、アクチュエータの構成は、可動子がガイド軸31に沿って往復移動する構成に限らず、振り子型の移動をする構成とすることができる。例えば、電磁コイルと永久磁石とを互いに組み合わせてボイスコイル構造とし、永久磁石の両端側に一体化して非磁性体のストッパを備え、電磁コイルが、2つのストッパ間で永久磁石に対し相対移動自在に振り子振動をするアクチュエータを構成することができる。このアクチュエータにおいて、電磁コイルが、永久磁石から受ける電磁力によって2つのストッパのいずれか一方に衝突することにより衝撃が発生される。
【符号の説明】
【0048】
1 インパクトアクチュエータ(アクチュエータ)
2 電磁コイル
3 固定子
4 可動子
5 制御装置
6 弾性体
7 ストッパ
8 弾性体(付勢手段)
9 移動対象物
ta 時刻(タイミング)
f1,f2 電磁力(磁力)
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃を与えることにより移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁気的作用に基づく衝撃すなわちインパクトを物体に反復付与してその物体を移動させる駆動装置がある。小さな衝撃であっても反復付与することにより、物体を移動させることができ、また、小さな衝撃の場合に、そのこと故に高精度の位置制御ができる利点もある。衝撃発生の方法として、電歪素子を用いるものや、渦電流を用いるものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。渦電流は、例えば、アルミニューム板などの金属板の近くに配置した電磁コイルに電流を流した際に、金属板に渦状に流れる電流である。電磁コイルに衝撃電流を流したとき、電磁コイルによる磁場と金属版に誘起される渦電流との相互作用によって、金属板を跳ね返す反発力が発生する。反発された金属板を物体に衝突させることにより金属板を介して物体に衝撃を与えることができる。このような駆動装置をマイクロマニピュレータに適用し、そのマイクロマニピュレータによって微小器具を卵細胞内へ挿入するようにした装置などが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−60582号公報
【特許文献2】特公平5−80685号公報
【特許文献3】特開2003−25261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1〜3に示される駆動装置は、反復付与する衝撃を発生する電磁気的作用を衝撃発生の各反復周期内において制御するものではなく、移動速度が遅く、また、エネルギー効率が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、移動対象物のより円滑な移動と移動速度の向上、およびエネルギー効率の向上を実現できるインパクトアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明のインパクトアクチュエータは、摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、アクチュエータは、通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、移動対象物とともに移動する固定子と、電磁コイルの電磁力により駆動されて固定子に対して相対移動する可動子と、電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、を備え、制御装置が電磁コイルへ通電することにより移動対象物を移動させる方向に可動子を移動させ、可動子が固定子に衝突することにより固定子を介して移動対象物に衝撃を与え、制御装置は、固定子が移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで電磁コイルへ前記とは逆方向へ通電することを特徴とする。
【0007】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突した後に、前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0008】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突したときに、前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0009】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突する前に、前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0010】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、可動子が固定子に衝突する前の加速中に、移動対象物が摩擦力に抗して移動しないように電磁コイルへの通電制御を行うようにしてもよい。
【0011】
このインパクトアクチュエータにおいて、移動対象物を移動させる方向における固定子がある側とは反対側に、可動子の移動範囲を制限するストッパを備え、制御装置は、可動子がストッパに衝突しないように電磁コイルへの通電制御を行うことが好ましい。
【0012】
このインパクトアクチュエータにおいて、制御装置は、電磁コイルが固定子に電磁力を及ぼすことにより発生する電磁コイルの電流回路のインピーダンスの変化に基づいて前記とは逆方向へ通電するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明のインパクトアクチュエータは、摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、アクチュエータは、通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、移動対象物とともに移動する固定子と、電磁コイルの電磁力によって固定子に対して相対移動する可動子と、電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、可動子を移動対象物を移動させる方向とは逆方向に付勢する弾性体からなる付勢手段と、を備え、制御装置が電磁コイルへ通電することにより、付勢手段の付勢力に抗して、移動対象物を移動させる方向に可動子を移動させ、可動子が固定子に衝突することにより固定子を介して移動対象物に衝撃を与え、制御装置は、固定子が移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで付勢手段による付勢力が電磁コイルの電磁力に対して優勢となるように電磁コイルへの通電を弱めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインパクトアクチュエータによれば、固定子および移動対象物の移動中に、電磁コイルへの通電方向を逆方向にするので、可動子を後退させるときの反動を移動対象物の移動に寄与させることができ、より円滑な移動と移動速度の向上を実現できる。また、摩擦によって制動されている移動対象物を、より摩擦力の小さい動摩擦のもとで効率的に移動させることができるので、エネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るインパクトアクチュエータの動作中の側面図、(b)は同アクチュエータの衝撃発生後の側面図。
【図2】(a)は同アクチュエータの動作例を説明するフローチャート、(b)は同アクチュエータの他の動作例を説明する部分フローチャート、(c)は同アクチュエータのさらに他の動作例を説明する部分フローチャート。
【図3】(a)は図2(a)の動作例に対応する可動子の動作のタイムチャート、(b)は同動作例に対応する電磁コイルの動作のタイムチャート、(c)は同動作例に対応する移動対象物の動作のタイムチャート。
【図4】(a)は図2(b)の動作例に対応する可動子の動作のタイムチャート、(b)は同動作例に対応する電磁コイルの動作のタイムチャート、(c)は同動作例に対応する移動対象物の動作のタイムチャート。
【図5】(a)は図2(c)の動作例に対応する可動子の動作のタイムチャート、(b)は同動作例に対応する電磁コイルの動作のタイムチャート、(c)は同動作例に対応する移動対象物の動作のタイムチャート。
【図6】(a)は図2(a)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(b)は同動作例に対する比較例を示すグラフ。
【図7】(a)は図2(b)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(b)は図2(c)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(c)は(b)の変形例を示すグラフ。
【図8】他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの側面図。
【図9】(a)は同アクチュエータにおける電磁コイルの電磁力が可動子に斥力を及ぼす様子示す断面図、(b)は同電磁力が引力の場合の断面図。
【図10】同アクチュエータによる駆動時に電磁コイルへ通電する電流の波形図。
【図11】同アクチュエータによる逆方向の駆動時に電磁コイルへ通電する電流の波形図。
【図12】さらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの側面図。
【図13】同アクチュエータにおける電磁コイルの動作を示す断面図。
【図14】同アクチュエータの変形例における電磁コイルの動作を示す断面図。
【図15】さらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの側面図。
【図16】(a)は同アクチュエータにおける衝撃発生前の断面図、(b)は同アクチュエータにおける衝撃発生時の断面図。
【図17】同アクチュエータの変形例を示す断面図。
【図18】(a)は図2(a)の動作例の変形例を示すフローチャート、(b)は同動作例の他の変形例を示すフローチャート。
【図19】(a)は図18(a)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ、(b)は図18(b)の動作例に対応する可動子の速度、電磁コイルへの通電電流、および移動対象物の速度の時間変化のグラフ。
【図20】さらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの電気回路的な構成図。
【図21】同アクチュエータの電磁コイルに通電したときの電圧と電流の時間変化のグラフ。
【図22】同アクチュエータの動作例を説明するフローチャート。
【図23】(a)〜(f)はさらに他の実施形態に係るインパクトアクチュエータの動作例を時系列的に示す側面図。
【図24】実施例の条件を説明するための、電磁コイルへの通電電流の時間変化グラフ。
【図25】複数条件の下で測定した可動子の速度の時間変化グラフ。
【図26】図25のグラフに対応する条件の下で測定した固定子(移動対象物)の速度の時間変化グラフ。
【図27】図26の測定データから求めた固定子(移動対象物)の移動距離の時間変化グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るインパクトアクチュエータについて、図面を参照して説明する。図1乃至図7は、本発明の実施形態に係るインパクトアクチュエータ(以下、単にアクチュエータとも称する)を示す。アクチュエータ1は、図1(a)(b)に示すように、移動対象物9に取り付けられて用いられるものであり、電磁コイル2と、固定子3と、可動子4と、制御装置5とを備えている。移動対象物9は、摩擦面Sに配置されて摩擦力により移動が制動されており、例えば、前進方向(図中X軸の正方向)の衝撃を反復して与えられることにより、摩擦力に抗して前進移動する。電磁コイル2は、通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる。制御装置5は、不図示の電源からの電流を電磁コイル2へ印加する通電制御を行う。
【0017】
固定子3は、例えば円板形状であり、その一面側を移動対象物9のX軸の負方向に面する面に固定されている。従って、固定子3は移動対象物9とともに移動する。固定子3の他面には、X軸に沿って伸びるガイド軸31の一端が固定されている。可動子4は、リング状平板であり、その中心にガイド軸31が挿通されている。可動子4は、ガイド軸31に沿って移動自在であり、電磁コイル2の電磁力により駆動されて固定子3に対して相対移動する。電磁コイル2は、その中心軸がガイド軸31の中心軸と一致しており、コイルの中心においてガイド軸31方向の磁場を発生する。電磁コイル2は、ガイド軸31の他端側に固定されており、ガイド軸31の一端側に位置する固定子3と共に、可動子4の移動範囲を制限するストッパを構成する。
【0018】
可動子4は、電磁コイル2の電磁力すなわち磁気力により駆動されるものであればよく、例えば、永久磁石、磁性体、導電体などで構成される。永久磁石は電磁コイル2の磁気力との相互作用によって、引力または斥力を受ける。磁性体は、電磁コイル2の磁気力によって、引力を受ける。導電体は、渦電流が発生することによって、電磁コイル2の磁気力による斥力を受ける。磁性体と導電体は、磁気力からは一方向の力しか受けないので、バネなどの弾性体による付勢力を援用することにより、可動子4に往復方向の移動をさせることができる。
【0019】
次に、アクチュエータ1の動作を説明する。アクチュエータ1は、制御装置5が電磁コイル2へ通電することにより移動対象物9を移動させる方向に可動子4を移動させ、可動子4が固定子3に衝突することにより固定子3を介して移動対象物9に衝撃を与えて、移動対象物9を移動させる。そこでまず、図1(a)に示すように、可動子4が、電磁コイル2の電磁力f1によって加速されて、電磁コイル2側から固定子3側に向けて、速度v1で前進移動しているものとする。電磁コイル2は、電磁力f1の反作用として、反力R1を受けている。この反力R1は、電磁コイル2が、ガイド軸31、固定子3、および移動対象物9と一体となっているので、これら全体を速度v1の逆方向(後退方向、X軸の負方向)に移動させる力となる。しかしながら、反力R1は、摩擦面Sから受ける摩擦力(静止摩擦力)が最大静止摩擦力を超えない範囲において摩擦力とつりあい、移動対象物9の後退移動は阻止され、摩擦面Sに対して、可動子4の前進移動だけが発生する。
【0020】
可動子4は、図1(b)に示すように、固定子3に衝突した後、その衝撃力が摩擦面Sの最大静止摩擦力を超えることにより、移動対象物9が速度Vで前進移動し、可動子4は固定子3から跳ね返って、速度v2で後退移動する。電磁コイル2は、移動対象物9が速度Vで前進移動し、可動子4が後退移動している間に、可動子4に電磁力f2を作用させて後退移動を加速(逆加速という)する。すると、電磁力f2の反作用としての反力R2が、移動対象物9を前進移動させる力となる。移動対象物9は、静止摩擦力よりも小さい動摩擦力の下で移動しているので、反力R2が有効に作用して、移動対象物9の前進移動が促進される。このような促進は、言い換えれば、制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで電磁コイル2へ、それまでとは逆方向へ通電することによって実現される。
【0021】
可動子4は、ストッパとしての電磁コイル2に過度の衝撃を与える衝突、つまり、移動対象物9を後退させてしまう衝突をしないように、電磁コイル2によって、逆加速の状態から減速状態(制動状態)とされ、その後、停止状態(速度ゼロ)とされる。一旦速度ゼロとされた可動子4は、図1(a)の状態に戻って、反復動作が繰り返される。逆加速の状態から減速するには、電磁コイル2の電磁力によるほか、バネなどの弾性体によるダンパを用いることができる。制御装置5は、電磁コイル2の電磁力によって加速、逆加速、減速などを行う目的をもって、各反復動作の周期内で電磁コイル2へ通電する電流または印加する電圧を制御する。
【0022】
次に、可動子4を逆加速するタイミングについて説明する。制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間(すなわち、時刻)より前のタイミングで電磁コイル2へ、それまでとは逆方向へ通電する。その停止すると見込まれる時間は、アクチュエータ1を使用する際の条件に基づいて、例えば、可動子4が固定子3に衝突してから何ミリ秒後、などのように見込むことができる。また、可動子4が固定子3に衝突する時間すなわち衝突時刻は、予め測定した電磁コイル2や可動子4の動作特性から、例えば、電磁コイル2への通電を開始した時刻から何ミリ秒後、などのように設定することができる。また、加速度センサをアクチュエータ1または移動対象物9に備えて、固定子3と可動子4の衝突の瞬間を動的に直接検出してもよい。さらに、このような加速度センサによって、移動対象物9が停止するタイミングを、移動対象物9に衝撃を与える反復動作の中で毎回検出して、制御装置5がそのタイミングを通電制御にフィードバックするようにしてもよい。また、停止すると見込まれる時間より前のタイミングとして、可動子4と固定子3の衝突事象に注目すると、衝突時と、衝突後と、衝突前とにおけるタイミングが考えられる。また、アクチュエータ1は、衝突事象の発生によって動作するものであるから、衝突前におけるタイミングは、当然に衝突前の所定の時間範囲内に限定される。
【0023】
図2(a)は、衝突時に、それまでとは逆方向へ通電する場合のアクチュエータ1の動作を示す。アクチュエータ1が、移動対象物9を前進移動させる駆動動作を開始すると、制御装置5が電磁コイル2に通電し、可動子4が加速される(S1)。可動子4と固定子3の衝突発生がなければ加速が繰り返され(S2でNO)、衝突があれば(S2でYES)、電磁コイル2は、それまでとは逆方向へ通電される(S3)。制御装置5は、電磁コイル2への通電を制御して、可動子4の後退移動の速度を減速し、ストッパとしての電磁コイル2側で可動子4の速度をゼロとする(S4)。アクチュエータ1の駆動が続行される場合は、最初のステップ(S1)からの動作が繰り返され(S5でYES)、駆動が続行されない場合は処理が終了する(S5でNO)。図2(b)(c)は、それぞれ、衝突後と衝突前に、それまでとは逆方向へ通電する場合の動作を示し、逆方向へ通電するタイミングを判定するステップ(S2a,S2b)が図2(a)とは異なり、他は同様である。
【0024】
図3(a)(b)(c)は、逆方向へ通電するタイミングを衝突時とする場合における、可動子4の速度v、電磁コイル2の電磁力、および移動対象物9の速度Vについて、互いの時間的関係を示したタイムチャートである。アクチュエータ1の反復駆動動作の周期をTとし、2周期分が図示されている。可動子4は、図3(a)に示すように、周期Tの始めから前進移動を開始し、衝突時刻t0において、速度が反転されて後退移動を行い、周期T内で停止している。電磁力は、図3(b)に示すように、周期Tの始めから可動子4を加速し、衝突時刻t0において反転されて可動子4の後退移動を加速している。すなわち、電磁コイル2は、衝突時刻t0と同じタイミングtaにおいて、それまでとは逆方向へ通電されている。なお、可動子4は、反復動作のため周期T内で速度v=0とする必要があり、電磁力は適宜にゼロとされる。さらに、可動子4の速度を減速するために、電磁力を減速のために用いるか(タイムチャートには不図示)、または、ダンパなどによる減速力が用いられる。移動対象物9は、図3(c)に示すように、衝突時刻t0から移動を開始し、周期T内で停止する。図4(a)(b)(c)と図5(a)(b)(c)は、それぞれ逆方向へ通電するタイミングを衝突後および衝突前とする場合について、図3と同様に示しており、説明は省略する。
【0025】
図6(a)は、逆方向へ通電するタイミングを衝突時とする場合における、可動子4の速度v(v1とv2)、電磁コイル2への通電電流J、および移動対象物9の速度Vの時間変化を示す。電流Jは、矩形波状に通電されている。この通電と共に、可動子4の前進方向の速度v1が立ち上がる。可動子4に一定の加速度のみが作用している理想的な場合には、速度v1の時間変化グラフは、下に凸の放物線波形の一部となるが、電磁コイル2の電磁力が場所によって変化するなどの要因により、放物線にはなっていない。可動子4が固定子3に衝突する時刻t0に、通電方向が切り替えられ、電流Jの向きが切り替えられている。時刻t0において、可動子4は、衝突後の初速度に、逆方向への通電による加速度の効果を加えた速度v2のもとで、後退移動する。移動対象物9の速度Vは、衝突時にV=0から立ち上がり、摩擦力の制動を受けて、再び速度V=0となる。移動対象物9の移動距離は、速度Vのグラフによって囲まれる面積で表される。図中の速度V0は、以下に説明する。
【0026】
図6(b)は、逆方向へ通電するタイミングを、移動対象物9の停止時(時刻ta)とする比較例における、速度v(v1とv2)、通電電流J、および移動対象物9の速度V0の時間変化を示す。可動子4は、時刻t0における固定子3との衝突により、向きが反転した速度v2を有する。しかしながら、可動子4の後退移動中においても、電磁コイル2にはもとの方向への通電が行われており、時刻taまでは、速度v2に対する減速が行われる。この減速のために可動子4に作用する電磁力の反作用(反力)は、電磁コイル4、従ってこれと一体になった移動対象物9の移動を減速させることになる。例えば、上述の図1(a)において、速度v1の向きを逆向きにして速度v2に置き換え、さらに移動対象物9が速度V0で移動している状況を想定すればよい。このように想定した状況において、反力R1は、移動対象物9の移動速度V0を減速する。この場合の移動対象物9の移動距離は、速度V0のグラフによって囲まれる面積であり、その面積は上述の図6(a)における速度Vのグラフによって囲まれる面積よりも小さい。つまり、図6(a)における移動対象物9の移動距離は、図6(b)の比較例の場合の移動距離に比べて大きくなっている。
【0027】
図7(a)(b)は、逆方向へ通電するタイミングを、それぞれ、衝突後および衝突前とする場合における、速度v(v1とv2)、通電電流J、および速度Vの時間変化を示す。また、電磁コイル2へ、それまでとは逆方向へ通電する目的は、可動子4を逆加速する時間帯を発生させることにより移動対象物9の前進移動を促進することにあるので、逆方向へ通電は、通電を一旦休止した後に行ってもよい。例えば、図7(c)に示すように、衝突前の時刻taに電流Jを一端停止してJ=0を維持し、その後、衝突時の時刻t0に、それまでとは逆方向の通電を行うようにしてもよい。これらの、いずれの場合においても、可動子4の逆加速の効果により、移動対象物9の移動距離を増すことができる。
【0028】
次に、図8乃至図11を参照して、アクチュエータ1の、より具体的な構成例を説明する。図8に示すように、本実施形態のアクチュエータ1は、図1に示したアクチュータ1において、可動子4を永久磁石としたものである。電磁コイル2は、コイル枠に納められ、その中心軸上に配置されたガイド軸31によって固定子3に一体化されている。可動子4は、ドーナツ円板状であって、中心側から外周側に向けて半径方向に磁化されている。本例の場合、中心側がS極で外周側がN極であるが、逆極性とすることができる。このような可動子4は、電磁コイル2に流れる電流の向きによって、図9(a)に示すように、斥力を受けたり、図9(b)に示すように、引力を受けたりする。
【0029】
アクチュエータ1の動作を説明する。移動対象物9は、可動子4が左方の電磁コイル2に衝突することによって左方に移動され、可動子4が右方のストッパ4に衝突することによって右方に移動される。すなわち、アクチュエータ1は、そのガイド軸31方向のいずれの方向へも、選択的に、移動対象物9を移動させることができる双方向駆動のアクチュエータである。移動対象物9を左方に移動させる場合には、可動子4が右方の固定子3に過度の衝撃で衝突しないように電磁コイル2からの磁気力を可動子4に及ぼす必要がある。逆に、移動対象物9を右方に移動させる場合には、可動子4が電磁コイル2に衝突しないように電磁コイル2からの磁気力を可動子4に及ぼす必要がある。制御装置5は、電磁コイル2と可動子4の相対移動の一方向において衝突を発生させ、その一方向とは反対方向において衝突を回避させると共に相対移動の方向を反転させて一方向における衝撃を反復発生させるように、電磁コイル2に通電する電流を時間制御する。
【0030】
次に、移動対象物9を右方(X軸の正方向)に移動させる場合のアクチュエータ1の動作を説明する。初期状態において、可動子4は電磁コイル2に接触して静止しているものとする。図10に示すように、時間t1ではコイル電流Jはゼロであり、移動対象物9は静止している。コイル電流Jが、時間t2におけるように、漸増した後、一定値となるように流されると、可動子4は電磁コイル2から斥力を受けて固定子3に近づき、その間、斥力によって加速され続けて、最終的に固定子3に衝突する。衝撃力を大きくするには、加速する時間が長いほどよいが、時間ではなくコイル電流Jの大きさを、可動子4が離反する移動時よりも衝突する移動時に、より大きくするようにしてもよい。時間t2の始めにコイル電流Jを漸増するのは、急激な離反の反動によって移動対象物9が左方へ移動するのを抑制するためである。時間t3では極性を反転したコイル電流Jが流され、可動子4が固定子3側から引き戻される。可動子4が電磁コイル2に到達する前に、時間t4において極性を戻したコイル電流Jが流され、減速とその後の加速の後、可動子4が固定子3側に、再び衝突する。時間t5以降の動作は時間t3,t4における動作の繰り返しであり、その反復動作によって、移動対象物9が右方へ移動する。通電方向の切り替えタイミングtaは、本例では、衝突のタイミングt0と同じに設定されており、時間t2と時間t3の境界に位置している。また、このタイミングtaは、移動対象物9が移動停止する前のタイミングに設定されている。時間t4における初期段階の通電による電磁力は、可動子4が電磁コイル2側に衝突しないように可動子4の速度を減速するための、制動力として用いられる。
【0031】
次に、移動対象物9を左方(X軸の負方向)に移動させる場合について説明する。初期状態において、可動子4は電磁コイル2に接触して静止しているものとする。図11に示すように、時間t1ではコイル電流Jはゼロであり、移動対象物9は静止している。時間t2におけるように、一定値のコイル電流Jが流されると、可動子4は電磁コイル2から斥力を受けて固定子3に近づく。可動子4が固定子3に到達する前に、極性を反転したコイル電流Jが時間t3において流され、可動子4は電磁コイル2から引力を受けて、減速とその後の加速により、電磁コイル2に引き戻される。可動子4は、時間t3における移動中に、引力によって移動速度が加速され続け、時間t4では電流JがJ=0とされ、時間t4の終わりで、最終的に電磁コイル2に衝突する。可動子4が電磁コイル2に衝突したタイミングt0において、J=0とされる以前の電流の向きからコイル電流Jの極性が反転され、時間t5の間、そのコイル電流Jが流される。時間t3と時間t4の境界に位置するタイミングtaにおいて電流JがJ=0とされ、通電を一旦休止する通電制御は、上述の図7(c)に示した制御と同様である。ただし、図11と図7(c)とでは、移動対象物9の移動方向が逆に設定されており、電流Jの向きも、互いに逆になっている。時間t3における初期段階の通電による電磁力は、可動子4が固定子3側に衝突しないように可動子4の速度を減速するための、制動力として用いられる。時間t5以降の動作は上述の時間t3,t4,t5の繰り返しであり、その反復動作により、移動対象物9が左方へ移動する。
【0032】
次に、図12、図13、図14を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。図12に示すように、このアクチュエータ1は、図1のアクチュエータ1において、可動子4を電磁コイル2で構成し、固定子3を永久磁石で構成したものである。アクチュエータ1は、双方向駆動の構成とされており、可動子4の両側に固定子3(以下、永久磁石3とも称する)が設けられている。これらの2つの永久磁石3は、一方が可動子4に対する被衝突体となる際に、他方がストッパとなる。円板状の2つの永久磁石3は、互いに離間して同軸配置されガイド軸31の両端に固定されている。電磁コイル2は、コイル枠に納められ、中心軸上をガイド軸31によって挿通されてガイド軸31に沿って移動自在とされている。電磁コイル2は、電磁コイル2への通電によって生じる電磁作用によって、2つの永久磁石3に対して相対移動する。その相対移動の範囲は両端の永久磁石3によって制限されている。各永久磁石3は、中心側から外周側に向けて半径方向に磁化されている。本例の場合、中心側がS極で外周側がN極であるが、逆極性とすることができる。
【0033】
アクチュエータ1の動作を説明する。上述のような永久磁石3の間に挟まれた電磁コイル2は、通電されると、図13に示すように、一方の永久磁石3から斥力を受け、他方の永久磁石3から引力を受ける。従って、電磁コイル2は、電磁コイル2に流れる電流の向きによって、X軸方向またはその反対方向に移動方向を選択することができる。そこで、制御装置5によって、電磁コイル2のコイル電流を時間制御することにより、電磁コイル2を左方の永久磁石3に衝突させて移動対象物9を左方に移動させることができ、同様に、移動対象物9を右方に移動させることができる。制御装置5は、電磁コイル2と永久磁石3の相対移動の一方向において衝突を発生させ、その一方向とは反対方向において衝突を回避させると共に相対移動の方向を反転させて一方向における衝撃を反復発生させるように電磁コイル2への通電電流を時間制御する。このような制御を繰り返すことにより、移動対象物9を右方または左方へパルス的に移動させることができる。電磁コイル2への通電制御において、電流Jの切り替えタイミングtaの設定は、上述の図2に示した場合と同様である。
【0034】
図14は、図12に示したアクチュエータ1の変形例を示す。この変形例における永久磁石3は、図12に示したアクチュエータ1における永久磁石3の磁化方向とは異なり、円板の厚み方向に磁化されている。このような永久磁石3を互いに磁化方向を揃えて配置し、電磁コイル2に通電すると、一方の永久磁石3から斥力を受け、他方の永久磁石3から引力を受ける。従って、この変形例は、図12に示したアクチュエータ1と同様の動作をすることができる。
【0035】
次に、図15乃至図17を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。アクチュエータ1は、図15に示すように、ガイド軸31の両端に固定子3として電磁コイル2を備え、両固定子3の間に永久磁石からなる2つの可動子4を備え、2つの可動子4の間に弾性体6を備えている。各可動子4は、それぞれ少なくとも弾性体6の伸縮する範囲内でガイド軸31の軸方向に沿って移動自在に構成されている。各電磁コイル2は、ガイド軸31によって一体化され、それぞれコイル枠に納められている。弾性体6は、アクチュエータ1が非駆動状態のとき、各可動子4を電磁コイル2に近接させるように伸張している。弾性体6は、例えばコイルバネや板バネによって構成することができ、ゴムなどを用いて構成することができる。アクチュエータ1は、電磁コイル2と可動子4を1つづつ含む組を、ガイド軸31に沿って弾性体6の両側に、互いに対称配置および対称構成となるように備えている。すなわち、アクチュエータ1は、ガイド軸31方向のいずれの方向へも、選択的に、移動対象物9を移動させることができる双方向駆動のアクチュエータである。互いに隣接する電磁コイル2と可動子4(永久磁石)との間の相互作用は、上述の図9(a)(b)によって示した相互作用と同様であり、互いに引力や斥力を及ぼしあう。
【0036】
アクチュエータ1の動作を説明する。アクチュエータ1は、例えば、移動対象物9を右方に移動させる場合、右方の電磁コイル2と可動子4の組を動作させる。この場合、アクチュエータ1は、図16(a)に示すように、右方の可動子4に斥力を与えるように、右方の電磁コイル2に電流を流し、その後電流をオフする。すると、右方の可動子4は、弾性体6によって受け止められた後、圧縮された弾性体6の伸張力によって跳ね返されて、図16(b)に示すように、右方の電磁コイル2(固定子3)に衝突する。このような動作を繰り返すことにより、移動対象物9を右方に移動させることができる。弾性体6は、その付勢力によって、可動子4の減速を行うものであり、電磁力によって可動子4の減速を行う電磁コイル2の役割を分担する。このようなアクチュエータ1においても、電磁コイル2への通電制御において、電流Jの切り替えタイミングtaの設定は、上述の図2に示した場合と同様である。
【0037】
図17は、さらに他のアクチュエータ1を示す。このアクチュエータ1は、図15に示したアクチュエータ1において、永久磁石からなる可動子4を導電体からなる可動子に置き換えたものである。このアクチュエータ1は、電磁コイル2への通電によって導電体(可動子4)に発生する渦電流に起因して発生する反発力によって、可動子4を反発移動させる。可動子4は、弾性体6を圧縮し、弾性体6の伸張力によって押し戻されて固定子3(電磁コイル2)に衝突し、移動対象物9が移動される。電磁コイル2への通電制御は、必要な渦電流とこれに起因する反発力とが得られるように電流を一気に流すように制御し、可動子4(導電体)と電磁コイル2との衝突が邪魔されないように通電をオフする制御を行えばよい。
【0038】
次に、図18、図19を参照して、制御装置5による通電制御について、さらに説明する。アクチュエータ1は、移動対象物9に衝撃を反復して付与する際に、円滑かつ効率的に移動させるため、各反復動作の周期Tの始めと終わりとにおいて、より詳細に通電制御する必要がある。例えば、図18(a)に示すように、可動子4を加速するステップ(S1)の前に、可動子4を徐々に加速するステップ(S0)を設けたり、図18(b)に示すように、後退移動する可動子4を段階的減速したり徐々に減速したりする(S4a)。これらの通電制御の処理は、例えば、図19(a)に示すように、電流Jを滑らかに立ち上がる電流波形にする制御や、図19(b)に示すように、電流Jの通電方向の切り替えを行った後に、電流J1,J2という2段階でJ=0に導く制御によって行われる。周期Tの始めの通電制御は、可動子4が固定子3に衝突する前の加速中に移動対象物9が摩擦力に抗して移動(これは、意図した向きとは逆向きの移動)しないようにすることを目的として行われる制御である。周期Tの終わりの通電制御は、通電方向の切り替え後に、可動子4が移動対象物9を移動させる方向とは反対側にあるストッパ(例えば、図1における電磁コイル2)に衝突しないようにすることを目的として行われる制御である。この場合のストッパへの衝突も、意図した向きとは逆向きの移動を発生させるので、この衝突を回避させることが効率的移動にとって有効である。
【0039】
次に、図20、図21、図22を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。アクチュエータ1は、図20に示すように、電源20によって通電される電磁コイル2を含む電流回路のインピーダンスZを測定する測定回路21を備えており、制御装置5は、測定回路21によって測定されたインピーダンスZの変化に基づいて通電制御を行う。電磁コイル2が、その電磁力を可動子4に及ぼす際に、電磁コイル2は、可動子4から電磁気的な相互作用を受ける。例えば、電磁コイル2に逆起電力が発生し、その逆起電力の効果により、図21に示すように、電磁コイル2を含む電流回路のインピーダンスZに変化(例えば、波形における変曲点P)が現れる。従って、このようなインピーダンスZの変化から、可動子4と固定子3との衝突事象の前か後かなどについて、アクチュエータ1の知見が得られ、その知見に基づいてタイミングtaの設定、すあんわち電磁コイル2の通電制御を行うことができる。このような知見は、予め実験的測定によって得ることもでき、また、アクチュエータ1の動作中にリアルタイムで得ることもできる。
【0040】
図22は、上述のインピーダンス計測による通電制御の例を示す。制御装置5は、電磁コイル2に通電して可動子4を加速すると共に(#1)、測定回路21によってインピーダンスZを測定する(#2)。インピーダンスZに所定の変化がなければ(#3でNO)、ステップ(#1)からの処理が繰り返され、インピーダンスZに所定の変化があれば(#3でYES)、電磁コイル2への逆方向への通電が行われる(#4)。その後、ステップ(#4,#5,#6)において、図2(a)に示した制御と同様の制御が行われる。
【0041】
次に、図23を参照して、さらに他のアクチュエータを説明する。アクチュエータ1は、ガイド軸31の一端と他端それぞれ設けた電磁コイル2(固定子3)と、ストッパ7と、固定子3とストッパ7との間に設けた可動子4と、ストッパ7と可動子4とを互いに引き寄せる弾性体8と、不図示の制御装置5とを備えている。弾性体8は、可動子4を移動対象物9を移動させる方向とは逆方向に付勢する付勢手段であり、バネやゴムなどで構成される。可動子4は、磁性体からなり、ガイド軸31に沿って移動自在であり、電磁コイル2の磁力による引力と弾性体8の収縮力による引力とを受ける。以下、アクチュエータ1の動作を説明する。
【0042】
図23(a)に示すように、アクチュエータ1の初期状態(駆動前の状態)において、可動子4は、弾性体8の付勢力によってストッパ7側に引き寄せられている。電磁コイル2に通電されると、図23(b)に示すように、可動子4は、電磁コイル2の電磁力f1により、弾性体8の付勢力fcに抗して、移動対象物9を移動させる方向(X軸の正方向、右方)、すなわち電磁コイル2側に速度v1で加速移動される。この場合、可動子4は、fc<f1という条件のもとで、右方に移動する。力fcの反作用となる力Rcがストッパ7に作用し、力f1の反作用となる力R1が電磁コイル2に作用している。力R1は、摩擦面Sからの静止摩擦力と釣り合っており、移動対象物9は静止している。なお、図中の力の大小関係を再掲すると、fc<f1,fc=Rc,f1=R1,Rc<R1である。
【0043】
図23(c)に示すように、可動子4が固定子3としての電磁コイル2に衝突すると、図23(d)に示すように、移動対象物9が速度Vで右方へと移動し、可動子4は、左方に速度v2で移動する。このとき、制御装置5は、固定子3が移動対象物9とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで、弾性体8による付勢力fcが電磁コイル2の電磁力f2に対して優勢となるように電磁コイル2への通電を弱める通電制御を行う。なお、図中の力の大小関係を再掲すると、fc>f2,fc=Rc,f2=R2,Rc>R1である。この場合、また、移動対象物9が速度Vで右方に移動しているので、摩擦面Sからの摩擦力による抗力は小さく、移動対象物9に作用している右方への力(0<Rc−R1)が、移動対象物9を右方に移動させる力として有効に作用する。
【0044】
制御装置5は、その後、図23(e)に示すように、適宜電磁コイル2への通電制御を行うことにより、図23(f)に示すように、ストッパ7に対して過度の衝撃を与えないように、可動子4を初期状態に復帰させる。ストッパ7に対する過度の衝撃とは、衝撃のために移動対象物9が左方に移動してしまうような衝撃のことである。なお、可動子4が、ストッパ7に対して適度の衝撃を与えるように衝突すると、その衝撃による可動子4の跳ね返りを利用することにより、次の駆動の周期における、移動対象物9の右方への移動動作をより円滑に進めることができる。
【0045】
次に、図24乃至図27を参照して、アクチュエータ1の動作に関する実施例の測定値について説明する。図24は、実施例の条件を説明するための、電磁コイル2への通電電流Jの時間変化グラフを示す。時刻t=0において電流Jがステップ状に印加され、その後、時間τの間、一定電流が維持され、時刻t=τ(すなわち、タイミングta)において、電流Jが前記とは逆方向に通電されるものとする。実施例では、時間τを、τ=2mms,4mms,5.6mms,7.5mms,10mmsの5段階(それぞれ、a〜eで区別)に変化させた。なお、この実施例の測定において、可動子4の反復動作について評価することは、前提とされてない。従って、この実施例において、可動子4がストッパ側に過度の衝撃を与えないように、可動子4を減速する処理は行われていない。
【0046】
図25、図26、図27は、それぞれ、可動子4の速度v、固定子3(移動対象物9)の速度V、速度Vの測定データから求めた固定子3(移動対象物9)の移動距離X(速度Vの時間積分値)の時間変化を示す。図25において、τ=2mms(グラフa)の場合、速度vが十分加速されていないことが分かる。図26、図27において、b〜eのグラフに負値が現れているのは、可動子4の移動開始時の反動が大き過ぎるからであり、これは、図24に示したように、電流Jがステップ状に印加されることに原因がある。移動距離Xを示す図27において、各グラフが、ピークを形成し、その後減少しているのは、移動対象物9が後戻りしていることを意味し、この後戻りは、この実施例において、可動子4を減速する処理を行わなかったことに起因する。図27において、移動距離Xのピークは、τ=5.6mms(グラフc)の場合に一番高く、この時間τを与えるタイミングtaが最適のタイミングであることが分かる。また、τ=2mms(グラフa)の場合、逆方向への通電が早すぎて移動距離Xを減少させていることが分かる。
【0047】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。本発明のアクチュエータは、上下左右任意の姿勢で用いることができる。また、摩擦面Sに載置された移動対象物に限らず、摩擦的な抗力(例えば、流体や砂などの擬似流体からの抵抗やラチェットなどの機械要素から受ける抵抗など)を受ける状態で位置が維持された移動対象物に対して、本アクチュエータを適用することができる。また、アクチュエータの構成は、可動子がガイド軸31に沿って往復移動する構成に限らず、振り子型の移動をする構成とすることができる。例えば、電磁コイルと永久磁石とを互いに組み合わせてボイスコイル構造とし、永久磁石の両端側に一体化して非磁性体のストッパを備え、電磁コイルが、2つのストッパ間で永久磁石に対し相対移動自在に振り子振動をするアクチュエータを構成することができる。このアクチュエータにおいて、電磁コイルが、永久磁石から受ける電磁力によって2つのストッパのいずれか一方に衝突することにより衝撃が発生される。
【符号の説明】
【0048】
1 インパクトアクチュエータ(アクチュエータ)
2 電磁コイル
3 固定子
4 可動子
5 制御装置
6 弾性体
7 ストッパ
8 弾性体(付勢手段)
9 移動対象物
ta 時刻(タイミング)
f1,f2 電磁力(磁力)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより該移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、
アクチュエータは、
通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、
前記移動対象物とともに移動する固定子と、
前記電磁コイルの電磁力により駆動されて前記固定子に対して相対移動する可動子と、
前記電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、を備え、
前記制御装置が前記電磁コイルへ通電することにより前記移動対象物を移動させる方向に前記可動子を移動させ、前記可動子が前記固定子に衝突することにより該固定子を介して前記移動対象物に衝撃を与え、
前記制御装置は、前記固定子が前記移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで前記電磁コイルへ前記とは逆方向へ通電することを特徴とするインパクトアクチュエータ。
【請求項2】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突した後に、前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項3】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突したときに、前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項4】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突する前に、前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項5】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突する前の加速中に、前記移動対象物が前記摩擦力に抗して移動しないように前記電磁コイルへの通電制御を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項6】
前記移動対象物を移動させる方向における前記固定子がある側とは反対側に、前記可動子の移動範囲を制限するストッパを備え、
前記制御装置は、前記可動子が前記ストッパに衝突しないように前記電磁コイルへの通電制御を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項7】
前記制御装置は、前記電磁コイルが前記固定子に電磁力を及ぼすことにより発生する該電磁コイルの電流回路のインピーダンスの変化に基づいて前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項8】
摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより該移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、
アクチュエータは、
通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、
前記移動対象物とともに移動する固定子と、
前記電磁コイルの電磁力によって前記固定子に対して相対移動する可動子と、
前記電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、
前記可動子を前記移動対象物を移動させる方向とは逆方向に付勢する弾性体からなる付勢手段と、を備え、
前記制御装置が前記電磁コイルへ通電することにより、前記付勢手段の付勢力に抗して、前記移動対象物を移動させる方向に前記可動子を移動させ、前記可動子が前記固定子に衝突することにより該固定子を介して前記移動対象物に衝撃を与え、
前記制御装置は、前記固定子が前記移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで前記付勢手段による付勢力が前記電磁コイルの電磁力に対して優勢となるように前記電磁コイルへの通電を弱めることを特徴とするインパクトアクチュエータ。
【請求項1】
摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより該移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、
アクチュエータは、
通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、
前記移動対象物とともに移動する固定子と、
前記電磁コイルの電磁力により駆動されて前記固定子に対して相対移動する可動子と、
前記電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、を備え、
前記制御装置が前記電磁コイルへ通電することにより前記移動対象物を移動させる方向に前記可動子を移動させ、前記可動子が前記固定子に衝突することにより該固定子を介して前記移動対象物に衝撃を与え、
前記制御装置は、前記固定子が前記移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで前記電磁コイルへ前記とは逆方向へ通電することを特徴とするインパクトアクチュエータ。
【請求項2】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突した後に、前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項3】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突したときに、前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項4】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突する前に、前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項5】
前記制御装置は、前記可動子が前記固定子に衝突する前の加速中に、前記移動対象物が前記摩擦力に抗して移動しないように前記電磁コイルへの通電制御を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項6】
前記移動対象物を移動させる方向における前記固定子がある側とは反対側に、前記可動子の移動範囲を制限するストッパを備え、
前記制御装置は、前記可動子が前記ストッパに衝突しないように前記電磁コイルへの通電制御を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項7】
前記制御装置は、前記電磁コイルが前記固定子に電磁力を及ぼすことにより発生する該電磁コイルの電流回路のインピーダンスの変化に基づいて前記とは逆方向へ通電することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載のインパクトアクチュエータ。
【請求項8】
摩擦力により移動が制動されている移動対象物に衝撃を与えることにより該移動対象物を移動させるインパクトアクチュエータにおいて、
アクチュエータは、
通電されることにより電磁力に基づく衝撃の発生源となる電磁コイルと、
前記移動対象物とともに移動する固定子と、
前記電磁コイルの電磁力によって前記固定子に対して相対移動する可動子と、
前記電磁コイルへの通電制御を行う制御装置と、
前記可動子を前記移動対象物を移動させる方向とは逆方向に付勢する弾性体からなる付勢手段と、を備え、
前記制御装置が前記電磁コイルへ通電することにより、前記付勢手段の付勢力に抗して、前記移動対象物を移動させる方向に前記可動子を移動させ、前記可動子が前記固定子に衝突することにより該固定子を介して前記移動対象物に衝撃を与え、
前記制御装置は、前記固定子が前記移動対象物とともに移動して停止すると見込まれる時間より前のタイミングで前記付勢手段による付勢力が前記電磁コイルの電磁力に対して優勢となるように前記電磁コイルへの通電を弱めることを特徴とするインパクトアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2012−240038(P2012−240038A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116373(P2011−116373)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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