説明

インビトロ及びインビボでVEGFR1発現を低減するための治療用siRNA分子

RNAi誘導分子をインビボで送達する方法を改良することは極めて重要である。RNAiを誘導する核酸分子を組織を標的として送達することが極めて重要であることも明らかである。VEGF経路遺伝子に選択的なRNAiを誘導する核酸分子を送達する方法がNV疾患の処置に非常に有益であることも明らかである。本発明の組成物及び方法はこうしたニーズに応えるものである。本発明は、RNA干渉によってVEGF経路遺伝子の発現及び活性を調節し、腫瘍の血管形成を初めとする望ましくない新生血管形成を減少させるのに用いるための核酸分子組成物、並びにこうした核酸分子を含む方法及び組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、米国特許法第119条(e)項の下、2007年10月12日に出願された米国仮特許出願第60/996,831号からの優先権を主張し、この米国仮特許出願第60/996,831号の内容は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、分子生物学及び医学の分野に属し、RNA干渉(RNAi:RNA interference)誘導組成物及びこれを用いてVEGFR1などのVEGF経路遺伝子の発現をインビトロ及びインビボで調節することにより望ましくない新生血管形成を有する症状及び疾患を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本発明は、血管の異常又は過剰な増殖及び成長を示すことが多い望ましくない新生血管形成(NV:neovascularization)を有する疾患の処置のための組成物及び方法を提供する。NVの進行自体、多くの場合、有害な結果をもたらし、又はこれが疾患の初期の病理学的段階となり得る。血管内皮成長因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor)経路のアンタゴニストを初めとする血管形成の新しい治療用アンタゴニストが導入されたにもかかわらず、NVを制御するための処置法の選択肢は不十分であり、疾患の進行を阻止するか、望ましくない血管形成を抑えるためのNVの有効な処置法に対する未だ満たされていない臨床的要望は依然として多く、かつ高まっている。
【0004】
VEGF経路は、血管新生因子VEGF及びそのチロシンキナーゼ受容体VEGFR1(Flt−1)及びVEGFR2(KDR)を含む。可溶性VEGFR1(sVEGFR1;sFlt−1)は、膜貫通及び細胞質ドメインを欠く膜結合型完全長VEGFR1のスプライス変異体である。sVEGFR1は、VEGFを隔離して完全長VEGFR2と不活性なヘテロ二量体を形成することにより抗血管新生効果を生じる(非特許文献1、これの全体が本明細書に参考として援用されている)。外因性に発現させたsVEGFR1蛋白質は、細胞系及び腫瘍異種移植モデルにおいて抗血管新生効果を示すことが分かっており(非特許文献2及び非特許文献3)、これらの全体が本明細書に参考として援用されている。
【0005】
RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNAが配列特異的に遺伝子発現を阻害する転写後過程である。このRNAi過程は少なくとも2段階で起こる。即ち、1段階では、長いdsRNAが、内因性リボヌクレアーゼにより、酵素ダイサーの使用によって生じるリボヌクレアーゼIII様活性による場合より短い21又は23ヌクレオチド長dsRNAに切断される。第2の段階では、このより小さなdsRNAが、多タンパク質RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC:RNA−induced silencing complex)中で対応する配列を有するmRNA分子の分解を媒介し、その結果、その遺伝子の発現を選択的に下方制御する。このRNAi効果は、より長い二本鎖RNA(dsRNA:double−stranded RNA)又はより短い低分子干渉RNA(siRNA:small interfering RNA)を細胞内標的配列へ誘導することにより達成することができる。また、RNAiは、標的遺伝子に対して相補性のdsRNAを生じるプラスミドを導入することによっても達成することができる。
【0006】
RNAi誘導分子をインビボで送達する方法を改良することは極めて重要である。RNAiを誘導する核酸分子を組織を標的として送達することが極めて重要であることも明らかである。VEGF経路遺伝子に選択的なRNAiを誘導する核酸分子を送達する方法がNV疾患の処置に非常に有益であることも明らかである。本発明の組成物及び方法はこうしたニーズに応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kendallほか、Biochem Biophys.Res.Commun.1996年;226:p.324−328
【非特許文献2】Mahendraほか、Cancer Gene Therapy 2005年;12:p.26−34
【非特許文献3】Kommareddyほか、Cancer Gene Therapy 2007年;14:p.488−498
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
VEGF媒介血管形成及びNVは、VEGF、VEGFR1及び/又はVEGFR2を標的とするアンタゴニストによって低下させることができる。VEGFR1は完全長「膜結合」型のスプライス変異体として分泌「可溶」型で産生される。可溶性VEGFR1は、VEGFを隔離してこれがもはや完全長VEGFR1に自由に結合できないようにし、完全長VEGFR2と不活性なヘテロ二量体を形成することによってVEGF経路のアンタゴニストとして作用する(Kendallほか、Biochem.Biophys.Res.Commun.1996年;226:p.324−328、この全体が本明細書に参考として援用されている)。
【0009】
従って、本発明の目的は、VEGFR1のRNAiを誘導して血管形成過程を調節し、及び/又はNV発症に関与する遺伝子発現を下方制御することでこの疾患過程を抑制するのに用いるための核酸分子を提供することにある。本発明者らは、意外なことに、完全長のVEGFR1の発現を標的としてこれを低下させ、また、驚くべきことに可溶性VEGFR1の発現を増加させもするRNAi誘導核酸分子を見出した。従って、こうした核酸分子は完全長VEGFR1、VEGF及びVEGFR2の血管新生促進活性を同時に低下させる好都合な性質を示す。
【0010】
本発明の一実施態様では、こうした核酸分子は、完全長VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現を低下させながら、可溶性VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現には影響を与えない。本発明の別の実施態様では、こうした核酸分子は、全VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現を増加させると同時に、可溶性VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現を増加させる。本発明の別の実施態様では、こうした核酸分子は、全VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現を低下させながら、可溶性VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現は増加させる。好ましい実施態様では、こうした核酸分子は、完全長膜結合型VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現を低下させながら、可溶性VEGFR1のmRNA又は蛋白質レベルの発現は増加させる。
【0011】
本発明の一態様では、哺乳動物においてVEGFR1を1種以上の他のVEGF経路遺伝子と組み合わせてこれらの発現を阻害するための組成物及び方法を提供する。本発明の別の態様では、VEGFR1の発現阻害を単独で、又は1種以上の他のVEGF経路遺伝子の発現阻害と組み合わせて、又はVEGF経路のアンタゴニストを含む他の薬剤と組み合わせて行うことによってNV疾患を処置するための組成物及び方法を提供する。
【0012】
本発明は、VEGFR1遺伝子の発現を下方制御するための組成物及び方法であって、核酸分子を含む組成物を哺乳動物の組織に投与することを含み、この核酸分子はVEGFR1の発現を特異的に低下又は阻害する、組成物及び方法を提供する。この内因性遺伝子の下方制御は、VEGF経路の活性に起因するか、これによって悪化する疾患を処置するのに利用することができる。この疾患はヒトにおいて起こり得る。
【0013】
また、VEGF経路遺伝子の望ましくない発現を伴う哺乳動物の疾患を処置するための方法であって、製剤に用いられる、有効医薬成分(API:active pharmaceutical ingredient)としてdsRNAオリゴヌクレオチドを含む核酸組成物を投与することを含み、この製剤はポリマーから構成することができるものとし、核酸組成物はVEGF経路遺伝子の発現を低下させ、この疾患におけるNVを阻止することができるものとする方法も提供する。この疾患は、癌又は腫瘍であり得、組織は、例えば、腎組織、乳房組織、結腸組織、前立腺組織、肺組織又は卵巣組織であり得る。本発明の一態様では、癌又は腫瘍もしくは前癌状態の処置のための組成物及び方法を提供する。本発明の別の態様では、RNAiを誘導する核酸剤を他の治療剤(例えば、低分子及びモノクロナール抗体(mAb)が挙げられるが、これらに限定されるものではない)と共に、同じ治療方式で用いる。
【0014】
VEGFR1又は1種以上のVEGF経路遺伝子と組み合わせたVEGFR1の発現をこの発現を阻害、低下又は増加させることで調節するために本発明のAPIのいずれか又は本明細書に示した組成物のいずれかを用いて本発明の方法のいずれかを実施することができる。一実施態様において、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、VEGFの発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNAを含む。別の実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、VEGFR1の発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNAを含む。さらに別の実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、VEGFR2の発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNAを含む。別の実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、VEGFの発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNA及びVEGFR1の発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNAを含む。別の実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、VEGFの発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNA及びVEGFR1の発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNA及びVEGFR2の発現を阻害する少なくとも1種のsiRNAを含む。別の実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、VEGFR1の発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNA及びVEGFR2の発現を阻害する少なくとも1種のsiRNAを含む。一実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、VEGFの発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNA及びVEGFR1の発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNA及びVEGFR2の発現を阻害又は低下させる少なくとも1種のsiRNAを含む。1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるための上記API又は組成物のすべてにおいて、VEGF、VEGFR1又はVEGFR2の発現を阻害又は低下させるsiRNAは本明細書に列挙したsiRNAのいずれかとすることができる。
【0015】
一実施態様において、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、本明細書に列挙したsiRNAのいずれかから選ばれる少なくとも1種のsiRNAを含む。別の実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、本明細書に列挙したsiRNAのいずれかから選ばれる少なくとも2種のsiRNAを含む。さらに別の実施態様では、1種以上のVEGF経路遺伝子の発現を阻害又は低下させるためのAPI又は組成物は、本明細書に列挙したsiRNAのいずれかから選ばれる少なくとも3種のsiRNAを含む。
【0016】
上記組成物は、ポリマー担体をさらに含むことができる。このポリマー担体は、上記RNA分子に結合してナノ粒子を形成するカチオン性ポリマーを含むことができる。このカチオン性ポリマーは、例えば、ヒスチジン及びリジン残基を含むアミノ酸コポリマーとすることができる。このポリマーは、分岐ポリマーを含むことができる。上記組成物は、標的合成ベクターを含むことができる。この合成ベクターは、核酸担体としてカチオン性ポリマー、立体保護材として親水性ポリマー及び標的細胞選択的薬剤として標的化リガンドを含むことができる。このカチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン又はポリヒスチジン−リジンコポリマー又は化学的に修飾したポリリジン、又は核酸担体モジュールとして用いることができる他の効果的なポリカチオン性担体を含むことができる。上記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリアセタール又はポリオキサゾリンを含むことができ、上記標的化リガンドは、RGD配列を含むペプチド又は糖もしくは糖アナログ又はmAbもしくはmAbの断片又はその他の効果的な標的化部分を含むことができる。
【0017】
本発明の組成物及び方法は、VEGFR1遺伝子の一部と同一、実質的に同一、相同又は実質的に相同である配列を有する、dsRNAオリゴヌクレオチドを初めとするRNAi誘導核酸分子を含む。この遺伝子は、野生型遺伝子又は突然変異遺伝子とすることができる。突然変異遺伝子の場合、この突然変異遺伝子の少なくとも1カ所の突然変異はこの遺伝子のコーディング又は調節領域に存在させることができる。こうした方法の全てにおいて、VEGFR1を標的とするRNAi誘導核酸分子は、成長因子遺伝子、蛋白質セリン/スレオニンキナーゼ遺伝子、蛋白質チロシンキナーゼ遺伝子、蛋白質セリン/スレオニンホスファターゼ遺伝子、蛋白質チロシンホスファターゼ遺伝子、受容体遺伝子及び転写因子遺伝子からなる群から選ばれる遺伝子を標的とするRNAi誘導核酸分子(類)と組み合わせて用いることができる。こうした追加的な遺伝子としては、VEGF、VEGFR2、VEGFR3、VEGF121、VEGF165、VEGF189、VEGF206、RAF−a、RAF−c、AKT、Ras及びNFKbからなる群から選ばれる1種以上を挙げることができる。また、こうした追加的遺伝子として、HIF、EGF、EGFR、bFGF、bFGFR、PDGF及びPDGFRを含む、NV関連の他の生化学的経路由来の1種以上の遺伝子を挙げることができる。また、こうした追加的遺伝子として、Her−2、c−Met、c−Myc及びHGFを含む、NVに呼応して機能する他の生化学的経路由来の1種以上の遺伝子を挙げることができる。
【0018】
また、本発明は、siRNAのカクテル(siRNA−OC)を含む、複数の遺伝子を阻害するためのRNAiを誘導する核酸剤を含む組成物及び方法をも提供する。本発明の組成物及び方法は、複数の遺伝子を実質的に同時に阻害することができ、又はこれらは複数の遺伝子を順次に阻害することができる。好ましい実施態様では、こうしたsiRNA−OC剤は3種のVEGF経路遺伝子:VEGF、VEGFR1及びVEGFR2を阻害する。別の好ましい実施態様では、こうしたsiRNA−OCは実質的に同時に投与される。
【0019】
本発明は、VEGFR1mRNA内の配列に対する実質的な相補性に由来する遺伝子阻害選択性を有する核酸分子を提供する。また、本発明は、複数の内因性遺伝子の阻害剤で処置することができる、ヒト疾患、特にNV関連疾患の処置方法をも提供する。また、本発明は、ある場合には実質的に同時に、別の場合には順次に投与する複数の治療剤の組合せによってヒト疾患を処置する方法をも提供する。
【0020】
本発明の他の目的、特徴及び効果については次の詳細な説明から明白になろう。しかしながら、本発明の精神及び範囲内で様々な変更や修正を加えることができることはこの詳細な説明から当業者に明瞭に理解されるであろうから、こうした詳細な説明及び具体例は、本発明の好ましい実施態様を示すものではあるが、もっぱら例証として示されるものであることは理解されよう。
【0021】
本願の全体を通じて、種々の特許、刊行物及び文献について触れている。こうした特許、刊行物及び文献については、あたかも個別に触れられているかのようにして、それらの全体が本明細書に参考として援用されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1Aは、可溶性及び完全長hVEGFR1の両者をコードしているmRNAを標的とするsiRNAを形質移入したHUVEC細胞における可溶性hVEGFR1蛋白質のノックダウンを示す棒グラフである。HUVEC細胞では、可溶性及び完全長膜結合型hVEGFR1をコードしているmRNAを標的とするsiRNA(表4の1乃至19、hVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNAに対応)は、細胞培養上清中の可溶性hVEGFR1蛋白質のレベルを著しく低下させた。HUVEC細胞には、20nMのsiRNAを形質移入し、移入後48時間に、市販のhVEGFR1ELISAキット(R&D社)を用いて培地中のhVEGFR1蛋白質の濃度をアッセイした。1乃至19:表4のhVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNA、Mock:擬似的形質移入、Ctrol:陰性対照siRNA。データは平均値±標準偏差として示した。
【0023】
図1Bは、可溶性及び完全長hVEGFR1の両者をコードしているmRNAを標的とするsiRNAを形質移入したHUVEC細胞における全hVEGFR1蛋白質のノックダウンを示す棒グラフである。
HUVEC細胞では、可溶性及び完全長膜結合型hVEGFR1をコードしているmRNAを標的とするsiRNA(表4の1乃至19、hVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNAに対応)は、HUVEC細胞溶解物中の全hVEGFR1蛋白質の濃度を著しく低下させた。HUVEC細胞には、20nMのsiRNAを形質移入し、移入後48時間に、市販のhVEGFR1ELISAキット(R&D社)を用いて細胞溶解物中のhVEGFR1蛋白質の濃度をアッセイした。1乃至19:表4のhVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNA、Mock:擬似的形質移入、Ctrl:陰性対照siRNA。データは平均値±標準偏差として示した。
【図2】図2Aは、完全長hVEGFR1mRNAに特異的なsiRNAでHUVEC細胞を処置することでは可溶性hVEGFR1蛋白質濃度に対して抑制効果が見られないことを示す棒グラフである。HUVEC細胞では、完全長膜結合型hVEGFR1特異的siRNA(表5の20乃至48、hVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNAに対応)は、細胞培養上清中の可溶性hVEGFR1の濃度に対して抑制効果を示さない。HUVEC細胞には、20nMのsiRNAを形質移入し、移入後48時間に、市販のhVEGFR1ELISAキット(R&D社)を用いて培地中のhVEGFR1蛋白質の濃度をアッセイした。20乃至48:表5のhVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNA、Mock:擬似的形質移入、Ctrl:陰性対照siRNA。データは平均値±標準偏差として示した。図2Bは、完全長hVEGFR1mRNAに特異的なsiRNAでHUVEC細胞を処置することでは全hVEGFR1蛋白質濃度に対して抑制効果が見られないことを示す棒グラフである。HUVEC細胞では、完全長膜結合型hVEGFR1特異的siRNA(表5の20乃至48、hVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNAに対応)は、細胞溶解物中の全hVEGFRの濃度に対して抑制効果を示さない。完全長膜結合型hVEGFR1特異的siRNAは、完全長hVEGFR1をコードしているmRNAをノックダウンする(図6参照)ので、細胞溶解物中に存在する可溶性hVEGFR1の産生を刺激すると考えられる。HUVEC細胞には、20nMのsiRNAを形質移入し、移入後48時間に、市販のhVEGFR1ELISAキット(R&D社)を用いて細胞溶解物中のhVEGFR1蛋白質の濃度をアッセイした。20乃至48:表5のhVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNA、Mock:擬似的形質移入、Ctrl:陰性対照siRNA。データは平均値±標準偏差として示した。
【図3】形質移入後48時間のHUVEC細胞上清における可溶性hVEGFR1分泌に対する可溶性及び完全長膜結合型のhVEGFR1の両者(表4の1乃至19、hVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNAに対応)を標的とするsiRNAの効果を膜型のhVEGFR1(表5の20乃至48、hVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNAに対応)のみを標的とするsiRNAの効果と比較した棒グラフである。効果は、(擬似的形質移入と比較した)可溶性hVEGFR1の%ノックダウンによって表した。
【図4】形質移入後48時間のHUVEC細胞溶解物において測定したhVEGFR1発現に対する可溶性及び完全長膜結合型のhVEGFR1の両者(表4の1乃至19、hVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNAに対応)を標的とするsiRNAの効果を膜型のhVEGFR1(表5の20乃至48、hVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNAに対応)のみを標的とするsiRNAの効果と比較した棒グラフである。効果は、(擬似的形質移入と比較した)全hVEGFR1の%ノックダウンによって表した。
【図5】可溶性及び完全長膜結合型hVEGFR1の両者をコードしているmRNAを標的とするsiRNAを形質移入したHUVEC細胞におけるhVEGFR1mRNAのノックダウンを示す棒グラフである。HUVEC細胞では、可溶性及び完全長膜結合型hVEGFR1をコードしているmRNAを標的とするsiRNA(表4の1乃至19、hVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNAに対応)は、完全長hVEGFR1mRNA(黒色棒)及び全hVEGFR1mRNA(灰色棒)のレベルを著しく低下させた。HUVEC細胞には、10nMのsiRNAを形質移入し、移入後48時間に、完全長hVEGFR1mRNA(黒色棒)に特異的なプライマーセット又は可溶性及び完全長hVEGFR1mRNAの両者(灰色棒)に特異的なプライマーセットを使用する定量的RT−PCRアッセイ法を用いてhVEGFR1mRNAのレベルをアッセイした。1乃至19:表4のhVEGFR1−25−1乃至hVEGFR1−25−19siRNA、Mock:擬似的形質移入、Ctrl:陰性対照siRNA。データは平均値±標準偏差として示した。
【図6】完全長特異的hVEGFR1siRNAを形質移入したHUVEC細胞におけるhVEGFR1mRNAのノックダウンを示す棒グラフである。HUVEC細胞では、完全長膜結合型hVEGFR1特異的siRNA(表5の20乃至48、hVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNAに対応)は、完全長hVEGFR1mRNA(黒色棒)のみを著しく低下させ、全hVEGFR1mRNA(灰色棒)のレベルに対しては抑制効果を示さなかった。従って、完全長膜結合型hVEGFR1特異的siRNA(表5の20乃至48、hVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNAに対応)は、可溶性hVEGFR1mRNAの発現を刺激すると考えられる。HUVEC細胞には、10nMのsiRNAを形質移入し、移入後48時間に、完全長hVEGFR1mRNA(黒色棒)に特異的なプライマーセット又は可溶性及び完全長hVEGFR1mRNAの両者(灰色棒)に特異的なプライマーセットを使用する定量的RT−PCRアッセイ法を用いてhVEGFR1mRNAのレベルをアッセイした。20乃至48:表5のhVEGFR1−25−20乃至hVEGFR1−25−48siRNA、Mock:擬似的形質移入、Ctrl:陰性対照siRNA。データは平均値±標準偏差として示した。
【図7A】ヒトVEGFR1mRNAのヌクレオチド配列(GenBankアセッション番号AF063657;配列番号197)を示す図である。
【図7B】ヒトVEGFR1mRNAのヌクレオチド配列(GenBankアセッション番号AF063657;配列番号197)を示す図である。
【図8】ヒト可溶性VEGFR1mRNAのヌクレオチド配列(GenBankアセッション番号U0l134;配列番号198)を示す図である。
【図9A】マウスVEGFR1mRNAのヌクレオチド配列(GenBankアセッション番号NM_010228.2;配列番号199)を示す図である。
【図9B】マウスVEGFR1mRNAのヌクレオチド配列(GenBankアセッション番号NM_010228.2;配列番号199)を示す図である。
【図10】PolyTran(商標)の構造及び組成を示す概略図である。PolyTran(商標)は、合成生分解性カチオン性分岐ポリペプチドである。この陽性荷電PolyTran(商標)ポリペプチドは、陰性荷電siRNAの担体及びコンデンサとしての機能を果たす。「R」は配列番号205として開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、血管の異常又は過剰な増殖及び成長を示すことが多い望ましくない新生血管形成(NV)又は血管形成を有する疾患の処置のための組成物及び方法を提供する。NVは正常な生物学的過程でもあるので、望ましくないNVの阻害は病的組織に対して選択的に遂行されることが好ましいが、このことは、好ましくは標的化ナノ粒子を用いて治療用分子をその病的組織に選択的に送達することを必要とする。本発明は、VEGF経路遺伝子の発現阻害を初めとするRNA干渉(RNAi)を誘導する核酸分子によるVEGF生化学経路の選択的阻害及び病的血管形成組織に限定された阻害によって血管形成を制御する組成物及び方法を提供する。一実施態様において、本発明は、VEGFR1遺伝子発現を阻害する核酸分子を提供する。また、本発明は、ポリマー結合体を含み、さらにRNAiを誘導する核酸分子を含む合成核酸送達媒体を用いる組成物及び方法をも提供する。
【0025】
本発明についてここに詳細に説明するが、当業者であれば本発明を最大限理解されよう。
【0026】
定義
本明細書に用いている「オリゴヌクレオチド」及びこれに基づいた同様な用語は、天然ヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチド及び非天然の合成又は修飾ヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドのことを指す。オリゴヌクレオチドの長さは、10ヌクレオチド長以上、又は15もしくは16もしくは17もしくは18もしくは19もしくは20ヌクレオチド長以上、又は21もしくは22もしくは23もしくは24ヌクレオチド長以上、又は25もしくは26もしくは27もしくは28もしくは29もしくは30ヌクレオチド長以上、35以上、40以上、45以上、最大約50ヌクレオチド長とすることができる。
【0027】
siRNAであるオリゴヌクレオチドは、15乃至30ヌクレオチドの間の任意のヌクレオチド数を有することができる。多くの実施態様では、siRNAは19乃至27ヌクレオチドの間の任意のヌクレオチド数を有することができる。
【0028】
「アンチセンス鎖」という用語は、発現低下の標的とする遺伝子のmRNA配列の約10乃至50個のヌクレオチド(例えば、約15乃至30、16乃至25、17乃至24、18乃至23又は19乃至22個のヌクレオチド)の区域と実質的に相補性である核酸鎖のことを指す。アンチセンス鎖(又は第1の鎖)は、標的とするmRNA配列と十分な相補性を有することによりRNAiプロセスによって標的mRNAの破壊を誘導する。「センス鎖」又は「第2の鎖」とは、「アンチセンス鎖」又は「第1の鎖」と実質的に相補性である核酸鎖のことを指す。
【0029】
「VEGF」という用語は、特に明記した場合又は文脈から明らかである場合を除き、全VEGFのことを指す。
【0030】
VEGFR1遺伝子の調節のための核酸分子
本発明は、RNAiによりVEGFR1遺伝子の発現を標的として調節するための核酸分子を提供する。このVEGFR1遺伝子を標的とする本発明の例示的なsiRNA配列を表1乃至5に示した。(表1乃至5に列挙した全ての配列について、「開始」位置は、ATGコドンの「A」が位置1であるとみなされるように表記されている。)
一実施態様において、本発明は、全又は完全長(「膜結合型」とも称する)VEGFR1mRNA又は蛋白質レベルの低下(「ノックダウン」とも称する)をもたらす核酸分子であって、その低下がこの核酸分子の非存在下の発現レベルに対して少なくとも50%、60%、70%、80%,85%、90%,95、96、97、98、99又は100%である核酸分子を提供する。別の実施態様では、本発明の核酸分子は可溶性VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを増加させることができる。可溶性VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルの増加は、この核酸分子の非存在下の発現レベルに対して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍とすることができる。本発明の核酸分子は、VEGFR1蛋白質の発現を約50pg/μg、約40pg/μg、約30pg/μg、約20pg/μg、約15pg/μg、約10pg/μg、約7.5pg/μg、約5pg/μg、約2.5pg/μg、約1pg/μg又は約0.5pg/μgに低下させることができる。
【0031】
本発明の一実施態様では、この核酸分子は、完全長VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを低下させながら、可溶性VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルには影響を与えない。本発明の別の実施態様では、この核酸分子は、全VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを増加させると同時に、可溶性VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを増加させる。本発明の別の実施態様では、この核酸分子は、全VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを低下させながら、可溶性VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを増加させる。好ましい実施態様では、この核酸分子は、完全長VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを低下させながら、可溶性VEGFR1mRNA又は蛋白質の発現レベルを増加させる。
【0032】
全、完全長及び/又は可溶性VEGFR1の調節は、この核酸分子の投与の最大24時間後、最大36時間後、最大48時間後、最大60時間後、最大72時間後、最大96時間後又はそれより後に生じさせることができる。特定の実施態様では、この遺伝子発現の調節をもたらす核酸分子は、30nM、25nM、20nM、15nM、12nM、10nM、7.5nM、5nM、2nM、1nM、0.75nM、0.5nM又は0.2nMの量を投与することができる。
【0033】
本発明の核酸分子はdsRNAであってもssRNAであってもよい。本発明の好ましい実施態様では、この核酸分子はsiRNAである。この核酸分子は、15乃至50、15乃至30、19乃至27、19、20、21、22、23、24又は25個のヌクレオチドを含むことができる。この核酸分子は、10個以上のヌクレオチド、又は15もしくは16もしくは17もしくは18もしくは19もしくは20個以上のヌクレオチド、又は21もしくは22もしくは23もしくは24個以上のヌクレオチド、又は25もしくは26もしくは27もしくは28もしくは29もしくは30以上のヌクレオチド、35個以上、40個以上、45個以上又は50個以上のヌクレオチドを含むことができる。
【0034】
この核酸分子は、5’−又は3’−一本鎖オーバーハングを含むことができる。この核酸分子は、2つの平滑末端又は2つの粘着末端又は1つの平滑末端と1つの粘着末端を有することができる。粘着末端の一本鎖オーバーハングヌクレオチドは1個乃至4個以上の範囲とすることができる。特定の実施態様では、この核酸分子は平滑末端を有する。好ましい実施態様では、この核酸分子は、平滑末端を有するヌクレオチド25個の二本鎖siRNAである。
【0035】
一部の実施態様では、本発明の核酸分子は、ヒトmRNAと、これと相同又は類似の、霊長類、マウス、ラットなどの他の非ヒト哺乳動物種のmRNAとのいずれをも標的とする。
【0036】
一実施態様において、本発明は、VEGFR1を標的にするためのアンチセンス核酸分子であって、このアンチセンス核酸が配列番号129乃至196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性である配列を含むアンチセンス核酸分子を提供する。別の実施態様では、本発明は、VEGFR1を標的にするためのアンチセンス核酸分子であって、このアンチセンス核酸が配列番号24、49、50、51、84、85、86、88、89、100、104、105、184、186、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるヌクレオチド配列を含むVEGFR1mRNA内のヌクレオチド配列を標的にするアンチセンス核酸分子を提供する。
【0037】
【表1−1】

【0038】
【表1−2】

【0039】
【表1−3】

【0040】
【表2−1】

【0041】
【表2−2】

【0042】
【表2−3】

【0043】
【表3】

本発明のRNAi誘導核酸分子、特にsiRNAなどの二本鎖核酸分子の有効性は、米国特許出願公開第2005/0186586号、同第2005/0181382号、同第2005/0037988号及び同第2006/0134787号(これらの全体が本明細書に参考として援用されている)に開示されている方法によって改善することができる。「ガイド鎖」とは、RISCに入り、標的mRNAの分解を誘導するRNAi物質の鎖である。ガイド鎖としての機能を果たす際のこのsiRNA分子の有効性は、この分子の非対称性を強めることによって向上させることができる。つまり、RNAiにおいてガイド鎖としての機能を果たすsiRNA分子の能力は、二重鎖の第1鎖の5’末端と第2鎖の3’末端との間の塩基対強度を第1鎖の3’末端と第2鎖の5’末端との間の塩基対強度に比し低下させることにより強めることができる。本発明の一実施態様において、RNAiにおいてガイド鎖としての機能を果たすsiRNA分子の能力は、アンチセンス鎖の5’末端とセンス鎖の3’末端との間の塩基対強度をアンチセンス鎖の3’末端とセンス鎖の5’末端との間の塩基対強度に比し低下させることにより強めることができる。
【0044】
塩基対強度は、G:C塩基対の数を減らすか、ミスマッチ塩基対を1つ以上挿入することによって低下させることができる。ミスマッチ塩基対の例としては、G:A、C:A、C:U、G:G、A:A、C:C、U:U、C:T及びU:Tが挙げられる。第1又はアンチセンス鎖の5’末端と第2又はセンス鎖の3’末端との間にG:U又はG:Tなどのゆらぎ塩基対を挿入しても塩基対強度は低下する。本発明の一実施態様では、これらの方法の1つ以上を組み合わせて塩基対強度を低下させ、本発明のsiRNA分子の有効性を増大させる。
【0045】
特定の実施態様では、イノシン、1−メチルイノシン、プソイドウリジン、5,6−ジヒドロウリジン、リボチミジン、2N−メチルグアノシン、2,2N,N−ジメチルグアノシンなどの希有ヌクレオチド又は2−アミノ−G、2−アミノ−A、2,6−ジアミノ−G、2,6−ジアミノ−Aなどの修飾ヌクレオチドを含む少なくとも1つの塩基対の組込みによって塩基対強度を低下させる。
【0046】
化学修飾
化学修飾は、核酸分子の安定性を増大させ、又はサイトカインの産生を低下させるのに、本発明の一部の実施態様において有用となる場合がある。RNA、DNA、LNA及びRNAキメラオリゴヌクレオチドの2’−O−メチルリボース類似体及び他の核酸オリゴヌクレオチドの化学的類似体などの非天然の化学的類似体の組込みは、考えられる化学修飾の1つのタイプである。また、考えられる修飾としては、5’及び/又は3’末端におけるフランキング配列の付加;バックボーンにおけるホスホジエステル結合ではなくホスホロチオエート、メチルホスホネート、スルホン、サルフェート、ケチル、ホスホロジチオエート、ホスホラミデート、リン酸エステルもしくは2’O−メチル結合の使用;及び/又は特殊な塩基並びにアデニン、シチジン、グアニン、チミン及びウリジンのアセチル、メチル、チオその他を含む修飾体の採用も挙げられる。核酸中に導入することができる特殊な核酸塩基としては、例えば、イノシン、プリン、ピリジン−4−オン、ピリジン−2−オン、フェニル、シュードウラシル、2,4,6−トリメトキシベンゼン、3−メチルウラシル、ジヒドロウリジン、ナフチル、アミノフェニル、5−アルキルシチジン類(例えば、5−メチルシチジン)、5−アルキルウリジン類(例えば、リボチミジン)、5−ハロウリジン類(例えば、5−ブロモウリジン)もしくは6−アザピリミジン類もしくは6−アルキルピリミジン類(例えば、6−メチルウリジン)、プロピン、ケソシン、2−チオウリジン、4−チオウリジン、ワイブトシン、ワイブトキソシン、4−アセチルチジン(4−acetyltidine)、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、5’−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ベータ−D−ガラクトシルキュエオシン、1−メチルアデノシン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアノシン、3−メチルシチジン、2−メチルアデノシン、2−メチルグアノシン、N6−メチルアデノシン、7−メチルグアノシン、5−メトキシアミノメチル−2−チオウリジン、5−メチルアミノメチルウリジン、5−メチルカルボニフネチルウリジン、5−メチルオキシウリジン、5−メチル−2−チオウリジン、2−メチルチオ−N6−イソペンタニルアデノシン、ベータ−D−マンノシルキュエオシン、ウリジン−5−オキシ酢酸、2−チオシチジン、スレオニン誘導体などが挙げられる(例えば、Molecular Therapy、2007年;15:p.1663−1669参照、これの全体が本明細書に参考として援用されている)。これらのポリヌクレオチド変異体は、その核酸分子の活性が実質的には低下しないように修飾することができる。
【0047】
特定の実施態様では、本発明のオリゴヌクレオチドは、米国特許第5,623,065号、同第5,856,455号、同第5,955,589号、同第6,146,829号及び同第6,326,199号(これらの全体が本明細書に参考として援用されている)に開示されているような2’−O−置換オリゴヌクレオチド類とすることができ、これらのオリゴヌクレオチド類では、相補性標的鎖へのこのオリゴヌクレオチドの結合を、この標的鎖を破壊するRNaseH活性の発現を可能にしながら、強化するために、オリゴヌクレオチド内に2’置換ヌクレオチドが導入されている。Sproat、B.S.ほか、Nucleic Acids Research、1990年;18:p.41(これの全体が本明細書に参考として援用されている)をも参照されたい。2’−O−メチル及びエチルヌクレオチドを含む核酸分子類も本発明に包含される。
【0048】
いくつかのグループが他の2’−O−アルキルグアノシン類の作製について教示している。Gladkayaほか、Khim.Prir.Soedin.、1989年;4:p.568(これの全体が本明細書に参考として援用されている)にはN−メチル−2’−O−(テトラヒドロピラン−2−イル)及び2’−O−メチルグアノシンが開示されており、Hansskeほか、Tetrahedron、1984年;40:p.125(これの全体が本明細書に参考として援用されている)には2’−Oメチルチオメチルグアノシンが開示されている。2,6−ジアミノプリンリボシドの2’−O−メチルチオメチル誘導体も報告されている。Sproat、Nucleic Acids Research、1991年;19:p.733(これの全体が本明細書に参考として援用されている)では2’−O−アリル−グアノシンの作製について教示されている。Iribarrenほか、Proc.Natl.Acad.Sci.、1990年;87:p.7747(これの全体が本明細書に参考として援用されている)では2’−O−アリルオリゴヌクレオチドも検討された。特定の実施態様では、本発明の核酸分子類は2’−O−メチル、−2’−O−アリル−及び2’−O−ジメチルアリル−置換ヌクレオチドを含む。
【0049】
特定の実施態様では、オリゴヌクレオチドのヌクレオチドのうちの少なくとも1つの2’−デオキシリボフラノシル部分の少なくとも1つを修飾する。ハロ、アルコキシ、アミノアルコキシ、アルキル、アジド又はアミノ基を付加することができる。例えば、F、CN、CF、OCF、OCN、O−アルキル、S−アルキル、SMe、SOMe、ONO、NO、NH、NH、NH−アルキル、OCHCH=CH(アリルオキシ)、OCH=CH、OCCH(但し、アルキルは炭素鎖内に不飽和を有するC乃至C20の直鎖又は分岐鎖である)。国際特許出願第PCT/US91/00243号、米国特許出願第463,358号及び米国特許出願第566,977号には、例えば、オリゴヌクレオチドのヌクレオチド上の2’−O−メチル、2’−O−エチル、2’−O−プロピル、2’−O−アリル、2’−O−アミノアルキル又は2’−デオキシ−2’−フルオロ基がオリゴヌクレオチドのハイブリッド形成性を向上させることが開示されている。本発明の核酸分子は、ホスホロチオエートバックボーン又は2’−O-−C20−アルキル(例えば、2’−O−メチル、2’−O−エチル、2’−O−プロピル)、2’−O-−C20−アルケニル(例えば、2’−O−アリル)、2’−O-−C20−アルキニル、2’−S-−C20−アルキル、2’−S-−C20−アルケニル、2’−S-−C20−アルキニル、2−’NH−−C20−アルキル(2’−O−アミノアルキル)、2’−NH-−C20−アルケニル、2’−NH-−C20−アルキニルもしくは2’−デオキシ−2’−フルオロ基又はこれらの両方をさらに含むように拡大して安定性を増大させることができる。例えば、米国特許第5,506,351号(これの全体が本明細書に参考として援用されている)を参照されたい。
【0050】
例示的な修飾ヌクレオチドは、米国特許第7,101,993号、同第7,056,896号、同第6,911,540号、同第7,015,315号、同第5,872,232及び号、同第5,587,469号(これらの全体が本明細書に参考として援用されている)に見出すことができる。
【0051】
VEGF経路遺伝子の複合調節
本発明の一態様では、VEGFR1及び複数の他のVEGF経路遺伝子の特異的及び選択的阻害を達成し、その結果、NV疾患を阻止してより良好な臨床的有益性が得られるように、siRNA類などのアンチセンス核酸分子類を併用する。本発明は、VEGFR1とVEGF又はVEGFR2との組合せを初めとするsiRNA標的類の複数の組合せを提供する。VEGF、VEGFR1及びVEGFR2のmRNAを標的にする例示的なsiRNA配列類を表1乃至5及び表7乃至11に記載した。一実施態様では、本発明は、VEGF、VEGFR1及びVEGFR2を標的にするsiRNA類の併用を提供する。また、本発明は、VEGF経路中の同じ遺伝子内の1種以上の配列を標的にするsiRNA類の併用も提供する。
【0052】
本発明の別の実施態様は、VEGFR1、並びにVEGF、VEGFR2、PDGFとその受容体、EGFとその受容体、RAFとAKTを含む下流シグナル伝達因子及びNFκBを含む転写因子からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子を標的にするsiRNAの併用である。PDGFR及びEGFRを標的にする例示的なsiRNA配列は、米国特許出願公開第2008/0220027号及び同第2008/0153771号並びに国際特許出願第PCT/US2008/007672号(これらの全体が本明細書に参考として援用されている)に見出すことができる。本発明のさらに別の実施態様は、VEGFとその受容体群及びこれらの下流遺伝子を阻害するsiRNAの併用である。
【0053】
本発明の核酸分子類は、NV関連疾患の処置のための治療剤として併用することができる。本発明の一実施態様では、これらをカクテルとして混合することができ、別の実施態様では、これらを同じ経路で、又は異なる経路及び製剤で順次投与することができ、さらに別の実施態様では、一部をカクテルとして投与し、一部を順次的に投与することができる。一実施態様では、複数のsiRNAオリゴヌクレオチド類をナノ粒子製剤などの単一製剤として製剤化することができる。NV関連疾患の処置を達成するための核酸分子類の他の併用及びこうした併用の方法については、当業者には理解されよう。
【0054】
治療的使用方法
また、本発明は、対象における血管形成又はNV関連疾患の処置方法をも提供する。一部の実施態様において、本発明は、VEGFR1を標的にすることにより全VEGFR1の発現を減少させるsiRNA分子を対象に投与することを含む、望ましくない血管形成を伴う疾患又は症状に罹患している対象の処置方法を提供する。別の実施態様では、本発明は、VEGFR1を標的にすることにより完全長VEGFR1の発現を減少させるが、可溶性VEGFR1の発現に対しては影響しないか、増加させないsiRNA分子を対象に投与することを含む、望ましくない血管形成を伴う疾患又は症状に罹患している対象の処置方法を提供する。本発明の一態様において、このようなsiRNA分子は、配列番号24、25、43、49、50、51、83、84、85、86、87、88、89、100、104、105、173、180、181、182、183、184、186、187、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して補性であるヌクレオチド配列を含む。好ましい実施態様では、本発明は、VEGFR1を標的にすることにより完全長VEGFR1の発現を減少させるが、可溶性VEGFR1の発現を増加させるsiRNA分子を対象に投与することを含む、望ましくない血管形成を伴う疾患又は症状に罹患している対象の処置方法を提供する。この実施態様では、このようなsiRNA分子は、配列番号24、49、50、51、84、85、86、88、89、100、104、105、184、186、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性であるヌクレオチド配列を含む。
【0055】
一部の実施態様において、本発明は、VEGFR1及びVEGFの発現が減少するようにVEGFR1を標的にするsiRNA分子及びVEGFを標的にするsiRNA分子を対象に投与することを含む、望ましくない血管形成を伴う疾患又は症状に罹患している対象の処置方法を提供する。一部の実施態様では、本発明は、VEGFR1及びVEGFR2の発現が減少するようにVEGFR1を標的にするsiRNA分子及びVEGFR2を標的にするsiRNA分子を対象に投与することを含む、望ましくない血管形成を伴う疾患又は症状に罹患している対象の処置方法を提供する。別の実施態様では、本発明は、VEGFR1、VEGF及びVEGFR2の発現が減少するようにVEGFR1を標的にするsiRNA分子、VEGFを標的にするsiRNA分子及びVEGFR2を標的にするsiRNA分子を対象に投与することを含む、望ましくない血管形成を伴う疾患又は症状に罹患している対象の処置方法を提供する。
【0056】
また、本発明は、対象における癌、眼疾患、関節炎及び炎症性疾患を含む血管形成又はNV関連疾患の処置方法をも提供する。こうした血管形成関連疾患としては、乳癌、卵巣癌、胃癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、肺癌、腎癌、結腸癌、結腸直腸癌、食道癌、甲状腺癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌などの癌及び黒色腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、神経膠腫、肝細胞(肝臓)癌、肉腫、頭頸部癌、中皮腫、胆道癌(胆管癌)、小腸腺癌、小児悪性腫瘍、膠芽細胞腫などの他の腫瘍性疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
こうした分子に拮抗させることが、病態生理学的過程を抑制し、それによって種々の血管形成依存性疾患の有効な治療法となる。固形腫瘍及びその転移の他に、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液悪性腫瘍も血管形成依存性である。過剰な血管増殖は多数の非腫瘍性疾患の一因となっている。こうした非腫瘍性血管形成依存性疾患としては、アテローム性動脈硬化、血管腫、血管内皮腫、血管線維腫、血管奇形(例えば、遺伝性出血性毛細血管拡張(HHT:Hereditary Hemorrhagic Teleangiectasia)もしくはOsler−Weber症候群)、疣贅、化膿性肉芽腫、多毛症、カポジ肉腫、瘢痕ケロイド、アレルギー性浮腫、乾癬、不正子宮出血、濾胞性嚢胞、卵巣過刺激、子宮内膜症、呼吸窮迫症、腹水症、透析患者の腹膜硬化症、腹部手術後の癒着形成、肥満症、関節リウマチ、滑膜炎、骨髄炎、パンヌス増殖、骨棘、血友病性関節、炎症性及び感染性過程(例えば、肝炎、肺炎、糸球体腎炎)、喘息、鼻ポリープ、肝再生、肺高血圧症、未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性、白質軟化症、血管新生緑内障、角膜移植片血管新生、トラコーマ、甲状腺炎、甲状腺腫脹及びリンパ増殖症候群が挙げられる。
【0058】
本発明の一実施態様において、処置される対象はヒトである。
【0059】
組成物及び投与方法
別の態様において、本発明は、本発明の、siRNAを初めとする核酸分子を含む組成物を提供する。この組成物のsiRNAは、VEGF経路、特にVEGFR1遺伝子からのmRNAを標的にすることができる。こうした組成物は、この核酸分子及び医薬用として許容可能な担体、例えば、生理食塩水もしくは緩衝生理食塩水を含むことができる。
【0060】
特定の実施態様において、本発明は、「剥き出しの」核酸分子又は核酸送達用媒体に含ませた核酸分子を提供する。核酸送達用媒体を含む実施態様では、この媒体はウイルスベクターなどの天然のベクター又はリポソーム、ポリリジンもしくはカチオン性ポリマーのような合成ベクターとすることができる。一実施態様において、組成物は本発明のsiRNA及びカチオン性ポリマーなどの複合体形成剤を含むことができる。また、この組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーを含むこともできる。カチオン性ポリマーは、ヒスチジン−リジン(HK)コポリマー又はポリエチレンイミンとすることができる。
【0061】
特定の実施態様において、カチオン性ポリマーはHKコポリマーである。特定の実施態様において、このHKコポリマーは、ポリヒスチジン、ポリリジン、ヒスチジン及び/又はリジンの任意の適切な組合せから合成する。特定の実施態様において、HKコポリマーは線状である。特定の実施態様において、HKコポリマーは分岐状である。
【0062】
特定の好ましい実施態様において、この分岐状HKコポリマーはポリペプチドバックボーンを含む。このポリペプチドバックボーンは1乃至10個のアミノ酸残基、好ましくは2乃至5個のアミノ酸残基を含むことができる。
【0063】
特定の実施態様において、このポリペプチドバックボーンはリジンアミノ酸残基からなる。
【0064】
特定の実施態様において、分岐状HKコポリマーの分岐の数はバックボーンアミノ酸残基の数プラス1である。特定の実施態様において、この分岐状HKコポリマーは1乃至11個の分岐を含む。特定の好ましい実施態様では、この分岐状HKコポリマーは2乃至5個の分岐を含む。特定のより好ましい実施態様では、この分岐状HKコポリマーは4個の分岐を含む。
【0065】
一部の実施態様では、この分岐状HKコポリマーの分岐は10乃至100個のアミノ酸残基を含む。特定の好ましい実施態様では、この分岐は10乃至50個のアミノ酸残基を含む。特定のより好ましい実施態様では、この分岐は15乃至25個のアミノ酸残基を含む。特定の実施態様では、この分岐状HKコポリマーの分岐は、5個のアミノ酸残基のサブセグメント毎に少なくとも3個のヒスチジンアミノ酸残基を含む。特定の他の実施態様において、この分岐は4個のアミノ酸残基のサブセグメント毎に少なくとも3個のヒスチジンアミノ酸残基を含む。特定の他の実施態様において、この分岐は3個のアミノ酸残基のサブセグメント毎に少なくとも2個のヒスチジンアミノ酸残基を含む。特定の他の実施態様では、この分岐は2個のアミノ酸残基のサブセグメント毎に少なくとも1個のヒスチジンアミノ酸残基を含む。
【0066】
特定の実施態様において、このHKコポリマーの分岐の少なくとも50%は、配列KHHH(配列番号200)の単位を含む。特定の好ましい実施態様では、この分岐の少なくとも75%は、配列KHHH(配列番号200)の単位を含む。
【0067】
特定の実施態様において、このHKコポリマーの分岐は、ヒスチジン又はリジン以外のアミノ酸を含む。特定の好ましい実施態様では、この分岐は、システインアミノ酸残基を含み、この場合、このシステインはN末端アミノ酸残基である。
【0068】
特定の実施態様において、上記HKコポリマーは構造(KHHHKHHHKHHHHKHHHK)−KKK(配列番号201)を有する。特定の他の実施態様では、このHKコポリマーは構造(CKHHHKHHHKHHHHKHHHK)−KKK(配列番号202)を有する。
【0069】
好ましい実施態様では、このHKコポリマーはPolyTran(商標)であり、図10に示した構造を有する。
【0070】
HKコポリマーのいくつかの適切な例は、例えば、米国特許第6,692,911号、同第7,070,807号及び同第7,163,695号(これらの全体が本明細書に参考として援用されている)に見出すことができる。
【0071】
一実施態様において、本発明の組成物は本発明のsiRNA及びナノ粒子を作製するのに用いる複合体形成剤を含むことができる。このナノ粒子は、任意選択的に立体ポリマー及び/又は標的化部分を含むことができる。この標的化部分はペプチド、抗体又は抗原結合部分とすることができる。この標的化部分は、配列Arg−Gly−Asp(RGD)を含むペプチドなどの、血管内皮細胞を標的にする手段としての機能を果たすことができる。このようなペプチドは環状又は線状とすることができる。一実施態様において、このペプチドはRGDFK(配列番号203)である。特定の実施態様では、このペプチドは、シクロ(RGD−D−FK(配列番号204))である。別の実施態様では、このペプチドはACRGDMFGCA(配列番号12)である。
【0072】
本発明の核酸分子、組成物及び治療法は、単独で用いることができ、或いは他の治療剤及び標的治療法を含む治療法、並びにモノクロナール抗体、低分子阻害剤などのVEGF経路アンタゴニスト及びEGFとその受容体、PDGFとその受容体又はMEKもしくはBcr−Ablを阻害する標的治療法及びEGFR阻害剤VECTIBIX(登録商標)(パニツムマブ)及びTARCEVA(登録商標)(エルロチニブ)、Her−2−標的療法剤HERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ)もしくはAVASTIN(登録商標)(ベバシズマブ)、SUTENT(登録商標)(リンゴ酸スニチニブ)などの抗血管形成薬などの他の免疫療法及び化学療法剤を含む他の治療剤及び治療法と併用することができる。また、上記核酸分子、組成物及び方法は、放射線、レーザー療法、手術などを含む他の処置法と治療的に併用することができる。
【0073】
本発明の核酸及び組成物の投与方法は当業者に周知である。投与は、静脈内、腹腔内、筋肉内、腔内、皮下、皮膚又は経皮投与とすることができる。一実施態様では、投与は全身性投与とすることができる。別の実施態様では、投与は局所投与とすることができる。例えば、本発明の核酸分子は、腫瘍組織中に直接注射により、また血管形成組織もしくは望ましくない新脈管構造を有する組織中もしくは近傍に直接、送達することができる。特定の用途では、こうした核酸分子及び組成物は電界を加えることにより投与することができる。特定の実施態様では、本発明は「剥き出しの」siRNAの投与を提供する。
【0074】
全身性投与を含む、本発明の核酸、核酸送達媒体及び組成物の投与を試験するための例示的な動物モデルについては国際公開第08/45576号並びに米国特許出願公開第2008/0220027号及び同第2008/0153771号(これらの全体が本明細書に参考として援用されている)に見出すことができる。
【0075】
VEGF経路遺伝子の発現を調節する核酸分子を含むナノ粒子の調製
本発明の一実施態様では、siRNAを含む抗VEGF経路核酸分子のナノ粒子調製のための組成物及び方法を提供する。こうしたナノ粒子はヒスチジン−リジンコポリマー、ポリエチレングリコール又はポリエチレンイミンのうちの1種以上を含むことができる。本発明の一実施態様では、RGD媒介リガンド誘導性ナノ粒子を調製することができる。siRNAを含むRGD媒介組織標的化ナノ粒子の1つの製造方法では、標的化リガンドRGD含有ペプチドをポリエチレングリコール又は類似の性質を有する他のポリマーなどの立体ポリマーに結合させる。このリガンド−立体ポリマー結合体を、ポリエチレンイミンなどのポリカチオン又はヒスチジン−リジンコポリマーなどの他の有効な材料にさらに結合させる。この結合は共有結合によるものでも非共有結合によるものでもよく、共有結合の場合は、この結合は切断可能でない場合があり、又は加水分解もしくは還元剤などで切断可能な場合がある。このポリマー結合体を含む溶液、或いはポリマー結合体とリガンド又は立体ポリマーもしくはフソゲン(fusogen)を含む材料などの他のポリマー、液体もしくはミセルとの混合物を含む溶液を上記核酸、一実施態様では対象とする特定のmRNAを標的にするsiRNA、を含む溶液と所望の比率で混合することによってsiRNAを含むナノ粒子を得る。そのような比率により所望の大きさ、安定性又は他の特性のナノ粒子をもたらすことができる。
【0076】
一実施態様において、ナノ粒子は、上記ポリマー結合体を過剰のポリカチオン及び上記核酸と混合することを含むナノ粒子自己アセンブリによって形成させる。負に荷電した核酸とポリマー結合体の正に荷電した部分との間の非共有結合性静電相互作用によって、ナノ粒子の形成をもたらす自己アセンブリ過程が促進される。この過程は、上記2つの溶液を単純に混合するものであり、この場合、核酸を含む一方の溶液をポリマー結合体及び過剰のポリカチオンを含む別の溶液に添加し、その後に撹拌するか同時に撹拌する。一実施態様では、正荷電の成分と負荷電の成分との比率は、各溶液の濃度を適切に調整することで、又は添加する溶液の容量を調整することで決定する。別の実施態様では、これら2つの溶液は、静的ミキサーなどの混合装置を用いて連続流条件下で混合する。この実施態様では、2つ以上の溶液をこれらの溶液の比率を生じる速度及び圧で静的ミキサーに導入し、これらの溶液流をこの静的ミキサー内で混合する。複数のミキサーが並列又は直列に配置されるような配置は可能である。
【0077】
一実施態様において、本発明は、3つの性質を有する組織標的化可能な送達を含むsiRNAオリゴヌクレオチドの処方を提供する。これらの性質は、細胞質にsiRNAを放出することができるコアへの核酸結合、非特異的相互作用からの保護、及び細胞取り込みをもたらす組織標的化である。本発明は、必要な複数の性質を組み合わせてアセンブルするための3種の材料のモジュラー結合体(modular conjugate)を用いる組成物および方法を提供する。種々の性質が組み込まれるようにこれらを設計、合成し、siRNAペイロードと混合してナノ粒子を形成することができる。一実施態様は、これらの細胞に特異的なペプチドリガンドを保護ポリマーの一方の末端にカップリングし、他方の末端に核酸のためのカチオン性担体をカップリングすることによって新脈管構造を標的にするモジュラーポリマー結合体を含む。このポリマー結合体は、三官能性ポリマー(TFP:tri−functional polymer)と称することもある3つの機能ドメインを有する。この結合体のモジュラー設計により各成分の置換及び最適化が別々に可能となる。別のアプローチは、予め形成したナノ粒子上に表面被膜を付けるものであった。ポリマー上への立体ポリマー被膜の吸着は自己限定的であり、一旦立体層が形成され始めると、ポリマーのさらなる付加が妨げられることになる。本発明の組成物および方法を用いると、上記3つの機能のそれぞれを、概してその他の2つの機能と無関係に、最適化するのに有効な方法が可能となる。
【0078】
核酸ナノ粒子の保護的立体被覆
細胞外膜に類似した外部脂質二重層を有する均一なリポソームは迅速に認識され、血液から除去される。ナノテクノロジーは広範囲の合成ポリマー化学をもたらす。PEG、ポリアセタール、およびポリオキサゾリンなどの親水性ポリマーは、コロイド状薬物の送達系(リポソーム、ポリマー、または静電ナノ粒子を問わない)の表面に「立体」保護層を形成して血液からの免疫クリアランスを減少させるのに有効であることが分かっている。この立体PEG層の使用は、立体的に安定化されたリポソームに関して最初に開発され、最も広範に研究された。本発明は、立体ポリマー被膜の他に、表面電荷を化学的に低下させるなどの別のアプローチを提供する。
【0079】
立体障害と生物学的結果は、化学的性質ではなく物理的性質に由来すると考えられる。いくつかの他の親水性ポリマーがPEGの代替物として報告されている。立体的に安定化したリポソームに関する物理的研究により、ポリマー層の物理的挙動の強い機械的基盤が示されており、これを利用して他のタイブの粒子において同様な被覆を達成することができる。しかしながら、物理的研究によって核酸とのポリマー複合体の表面における同様のポリマー層の形成および類似の生物学的性質の達成が示された一方で、我々は血液からの免疫クリアランスからの保護を正確に予測するために物理的性質を使用するための十分な情報を欠いている。リポソーム研究から、生物活性に対して最も大きな影響を及ぼす物理的性質を2種のポリマーの大きさ及びグラフト密度を変化させて結合体のマトリックスを合成することによって得ることができることが分かる。表面立体層の機能が物理的性質に起因する一方で、最適な結合の化学的性質は依然として立体ポリマー及びこれにカップリングさせる担体の特定の化学的性質によって決まることに留意されたい。
【0080】
表面立体ポリマー層を有するナノ粒子の形成方法も重要な要素である。一実施態様、立体ポリマーを担体ポリマーにカップリングすることにより核酸と共に自己アセンブルする結合体を得て立体ポリマー表面層を有するナノ粒子を形成する。別の実施態様では、予め形成したナノ粒子上に表面被膜を付ける。自己アセンブリでは、表面立体層の形成は、担体ポリマーとペイロードとの相互作用に依存し、粒子表面と反応させるための形成されている立体層からの浸透には依存しない。この場合、担体ポリマーの核酸ペイロードとの結合能に及ぼす立体ポリマーの影響は粒子形成、従って表面立体層に悪影響を及ぼすことがある。このことが起こる場合、担体上の立体ポリマーのグラフト密度がその最大値を超えてしまっていることになり、又は構造のグラフティング特性が十分ではない。
【0081】
特定の組織を標的にする表面露出リガンド及び部分
ナノ粒子が選択的に標的細胞の内部に到達する能力は、特定の受容体媒介取り込みを誘導する能力にある。この能力は、本発明では、結合特異性を有する露出リガンド又は標的化部分によって得られる。標的化コロイド送達系のためのリガンドが多種存在する。そのような方法の1つは、リポソーム表面に抗体をカップリングさせるものであり、通常、そのようなリポソームは免疫リポソームと呼ばれる。明らかになっている1つの重要な要素はリガンド密度の影響である。抗体は、リガンドとして使用するための多くの要件(良好な結合選択性、ほぼ任意の受容体に対する調製法がほぼ定型化していること、及びナノ粒子の種類とは無関係に蛋白質カップリング方法が広く適用できることを含む)を満たす傾向がある。モノクロナール抗体は血液脳関門を通過することができる兆候さえ示す。トランスフェリン又はトランスフェリン受容体などの、標的化ナノ粒子用に天然リガンド及び受容体である他の蛋白質も検討されてきた。本発明の一実施態様では、標的化リガンド又は部分は糖又は糖アナログとすることができる。
【0082】
好ましい種類のリガンドは、内在化受容体に対して強い選択的結合親和性を有する低分子量化合物である。研究では、葉酸、チアミンなどのビタミン、小麦胚凝集素、e−セクレチンに対するシアリルルイスなどのポリサッカリド、及びインテグリンに対するRGDなどのペプチド結合ドメインを含む天然の代謝産物が評価されている。ペプチドは用途の広いクラスのリガンドをもたらす。何故なら、インビボパニング法を使用した場合でさえ、ファージディスプレイライブラリーを用いて天然または非天然の配列をスクリーニングすることができるからである。このようなファージディスプレイ法では、配列と無関係に容易にカップリングさせるために1つの末端に非対Cys残基を保持させることが可能となる。新脈管構造へのナノ粒子の送達を標的化するためにRGDペプチドを使用することは、有効なリガンドの主な要件を満たすのに極めて効果的なことがある。即ち、リガンド結合を妨害しないし、免疫クリアランスも誘導しない特定の化学的性質によって、なお一層、標的細胞での受容体媒介性の選択的取り込みが可能となる。
【0083】
本発明の組成物および方法は、ポリマー、ポリマー結合体、脂質、ミセル、自己アセンブリコロイド、ナノ粒子、立体的に安定化されたナノ粒子、又はリガンド誘導性ナノ粒子を含む核酸送達媒体を用いたsiRNAの投与を提供する。国際公開第01/49324号及び米国特許出願公開第2003/0166601号(これらの全体が本明細書に参考として援用されている)に記載のタイプの標的化合成ベクターは、本発明のRNAi誘導核酸分子の全身性送達に用いることができる。一実施態様では、PEI−PEG−RGD(ポリエチレンイミン−ポリエチレングリコール−アルギン−グリシン−アスパラギン酸)合成ベクターを調整して、例えば、国際公開第01/49324号及び米国特許出願公開第2003/0166601号の実施例53及び56と同様にして用いることができる。このベクターは静脈内注射によって全身性にRNAiを送達するのに用いられた。当該分野で周知の他の標的化合成ベクター分子を用いることもできる。例えば、このベクターは、RNAiおよび少なくとも1つの複合体形成試薬を含むコア複合体で構成されている内殻を有することができる。また、このベクターは、融合誘導部分を含むことができる。この部分は、コア複合体に固定されている殻を含むことができ、又はコア複合体に直接組み込むことができる。ベクターは、さらに、このベクターを安定化し、蛋白質および細胞への非特異的結合を減少させる外殻(outer shell)部分を有することができる。この外殻部分は親水性ポリマーを含むことができ、及び/又は融合誘導部分に固定することができる。外殻部分をコア複合体に固定してもよい。このベクターは、標的組織および細胞集団へのベクターの結合を増強する標的化部分を含むことができる。適切な標的化部分は当該分野で周知であり、国際公開第01/49324号及び米国特許出願公開第2003/0166601号に詳細に開示されている。
【0084】
本発明の一実施態様では、抗VEGF経路siRNA短鎖二本鎖RNA分子のRGD媒介リガンド誘導性ナノ粒子調製のための組成物及び方法を提供する。siRNAを含むRGD媒介組織標的化ナノ粒子の一製造方法では、標的化リガンドであるRGD含有ペプチド(ACRGDMFGCA(配列番号12))をポリエチレングリコールもしくは同様の性質を有する他のポリマーなどの立体ポリマーに結合させる(国際公開第06/110813号参照;これの全体が本明細書に参考として援用されている)。このリガンド−立体ポリマー結合体を、ポリエチレンイミンなどのポリカチオン又はヒスチジン−リジンコポリマーなどの他の有効な材料にさらに結合する。この結合は、共有結合でも非共有結合でもよく、共有結合の場合は、この結合は切断可能でない場合があり、又は加水分解もしくは還元剤などで切断可能な場合がある。上記ポリマー結合体を含む溶液、或いはポリマー結合体とリガンド又は立体ポリマーもしくはフソゲンを含む材料などの他のポリマー、液体もしくはミセルとの混合物を含む溶液を上記核酸、一実施態様では対象とする特定の遺伝子を標的にするsiRNA、を含む溶液と所望の比率で混合することによってsiRNAを含むナノ粒子を得る。
【0085】
製剤と電場の併用
特定の用途では、siRNAを電場をかけて、又はかけないで投与することができる。例えば、これは、本発明のsiRNA分子を、例えば腫瘍組織内に直接注入することにより、また、血管形成組織又は望ましくない新脈管構造を有する組織内又はその近傍に直接送達するのに利用することができる。siRNAは、例えば、生理食塩水、緩衝生理食塩水などの適切な医薬用担体に含ませることができる。
【0086】
以上のように一般的に説明してきた本発明は、次の実施例にて一層容易に理解されるであろうが、これらの例は例証として示されるものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0087】
(実施例1)
ヒトVEGFR1発現を低下させるための候補siRNA分子
検証されたアルゴリズムを用い、公表されているヒトVEGFR1mRNA(GenBankアセッション番号AF063657;図7A及び図7B;配列番号197)、ヒト可溶性VEGFR1mRNA(GenBankアセッション番号U0l134;図8;配列番号198)及びマウスVEGFR1mRNA(GenBankアセッション番号NM_010228.2;図9A及び図9B;配列番号199)の配列を利用してヒトVEGFR1siRNA分子を設計した。
【0088】
可溶性及び膜結合型hVEGFR1の両者を標的にする例示的なsiRNAを上記の表1に示した。膜結合型hVEGFR1を標的にするが、可溶性hVEGFR1は標的にしない例示的なsiRNAを上記の表2に示した。ヒト及びマウスVEGFR1の両者を標的にする例示的なsiRNAを上記の表3に示した。
【0089】
(実施例2)
siRNA分子は可溶性ヒトVEGFR1蛋白質発現に影響を与えないで完全長ヒトVEGFR1蛋白質発現を阻害する
ヒトVEGFR1を標的にする計48種の平滑末端25−マーsiRNAについて、HUVEC細胞を用い、これらを形質移入した細胞でのヒトVEGFR1(「hVEGFR1」)発現のノックダウンにおけるこれらの効力を試験した。これらの48種のhVEGFR1−siRNAは、Qiagen社(Germantown、Maryland)により合成された表1乃至3及び7乃至11のhVEGFR1−siRNAのリストから選び、HUVEC細胞における効力スクリーニングにかけた。これらの48種のsiRNAの中で、hVEGFR1−siRNA#1乃至19(表4)は、可溶性(切断型)hVEGFR1及び完全長膜結合型hVEGFR1をコードしている両mRNAを標的にする。これに対して、hVEGFR1−siRNA#20乃至48(表5)は、完全長hVEGFR1mRNAのみを標的にする。
【0090】
【表4−1】

【0091】
【表4−2】

【0092】
【表5−1】

【0093】
【表5−2】

【0094】
【表5−3】

HUVEC細胞(Cambrex社、Walkersville、MD、USA)は、5%COを含むインキュベーターを用いて37℃の2%FBS含有EGM−2培地(Cambrex社)中で培養した。3乃至5継代目のHUVEC細胞をsiRNA形質移入に用いた。Lipofectamine RNAiMax Reagent(Invitrogen社)を用い、メーカーのプロトコルに従ってsiRNA濃度を10乃至20nMとしてHUVEC細胞で逆(reverse)又は前(forward)siRNA形質移入法を実施した。siRNA形質移入は、ELISAアッセイの場合、48穴プレートで(各siRNA配列につき2回)、リアルタイムPCRアッセイの場合、96穴プレートで実施した。hVEGFR1siRNA効力スクリーニングの陰性対照としてQiagen社製AllStars Negative Control siRNA又はLuc−siRNAを使用した(表12)。
【0095】
hVEGFR1のsiRNA媒介ノックダウンを蛋白質レベルで検出するために、形質移入したHUVEC細胞の細胞培養上清及び細胞溶解物を形質移入後48時間に収集し、hVEGFR1ELISAアッセイ(R&D system社)を用いて、細胞培養上清に存在する可溶性hVEGFR1及び細胞溶解物に存在する全hVEGFR1を測定した。可溶性及び膜結合型完全長hVEGFR1をコードしている両mRNAを標的にするsiRNA#1乃至19をHUVEC細胞に形質移入した場合にはこの形質移入HUVEC細胞の培養上清で可溶性hVEGFR1蛋白質の著しいノックダウンが認められた(図1A)が、膜結合型hVEGFR1をコードしている完全長hVEGFR1mRNAのみを標的にするsiRNA#20乃至48を形質移入した細胞では認められなかった(図2A)。siRNA#1乃至19を形質移入したHUVEC細胞では(可溶性hVEGFR1及び膜結合型hVEGFR1を含む)全hVEGFR1蛋白質の著しいノックダウンが認められた(図1B)のとは対照的に、siRNA#20乃至48の形質移入では全hVEGFR1蛋白質のある程度の増大が認められた(図2B)。
【0096】
上記48種の試験siRNAによる上清及び細胞溶解物の両方におけるhVEGFR1蛋白質発現の阻害については表6にまとめた。表6のデータは図3及び4にグラフ化されている。
【0097】
【表6−1】

【0098】
【表6−2】

全hVEGFR1蛋白質レベルを細胞溶解物において測定する場合、ELISAアッセイでは可溶性hVEGFR1と完全長膜結合型hVEGFR1を区別することができないので、定量的リアルタイム−PCR(「QRT−PCR:quantitative RealTime−PCR」)を用いて完全長hVEGFR1のノックダウンを特異的に測定した。
【0099】
hVEGFR1のsiRNA媒介ノックダウンをmRNAレベルで検出するために、HUVEC細胞に10nMsiRNAを形質移入し、形質移入後48時間に細胞を収集して、完全長hVEGFR1mRNA特異的遺伝子発現アッセイ(Hs_0176573_ml、ABI)又は可溶性及び膜結合型hVEGFR1をコードしている両mRNAの遺伝子発現アッセイ(Hs_01052936_ml、ABI)と共にQRT−PCRアッセイを用いて各hVEGFR1mRNAの相対レベルを測定した。細胞は、QRT−PCRアッセイのために「Cell to Signal Kit」を用いて溶解させた。試料は−80℃で貯蔵した。全hVEGFR1mRNAの著しいノックダウンは、hVEGFR1−siRNA#1乃至19を形質移入したHUVEC細胞でのみ認められた(図5、灰色棒)が、hVEGFR1−siRNA#20乃至48を形質移入したHUVEC細胞では認められず(図6、灰色棒)、このことは蛋白質ノックダウンデータ(図1A、1B、2A、2B、3及び4)と一致していた。しかしながら、全てのhVEGFR1−siRNAを形質移入したHUVEC細胞において完全長膜結合型hVEGFR1をコードしているmRNAの著しいノックダウンが認められた(図5及び6、黒色棒)。これは、hVEGFR1−siRNA#20乃至48が完全長hVEGFR1mRNAのみをノックダウンし、可溶性hVEGFR1mRNAをノックダウンしないことを明示したものである。
【0100】
結論として、本発明者らは、HUVEC細胞においてインビトロでのsiRNAのスクリーニングを行うことによって、ここに示したsiRNA候補のうちのいくつかがhVEGFR1遺伝子発現を蛋白質及びmRNAレベルで阻害するのに極めて有効であることを明らかにした。さらに、本発明者らは、これらのsiRNAが可溶性hVEGFR1に影響を与えずに膜結合型完全長hVEGFR1のみを減少させることも明らかにした。本発明者らは、意外にも、いく種かの完全長hVEGFR1特異的siRNAが可溶性hVEGFR1のレベルを増大させたことを発見した(例えば、hVEGFR1−siRNA#21乃至25、27乃至29、31、38、39及び41乃至48については図2A及び6参照)。
【0101】
【表7−1】

【0102】
【表7−2】

【0103】
【表8】

【0104】
【表9】

【0105】
【表10−1】

【0106】
【表10−2】

【0107】
【表10−3】

【0108】
【表10−4】

【0109】
【表10−5】

【0110】
【表11】

【0111】
【表12】

参考文献
【0112】
【数1】

【0113】
【数2】

【0114】
【数3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
VEGFR1を標的にするアンチセンス核酸分子であって、該アンチセンス核酸は配列番号129乃至196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性であるヌクレオチド配列を含む、アンチセンス核酸分子。
【請求項2】
請求項1に記載のアンチセンス核酸分子及びその対応するセンス鎖を含む、二本鎖核酸分子。
【請求項3】
VEGFR1を標的にするアンチセンス核酸分子であって、該アンチセンス核酸はVEGFR1 mRNAに対して相補性である配列を含み、該核酸分子は細胞内で可溶性VEGFR1の発現を増加させる、アンチセンス核酸分子。
【請求項4】
請求項3に記載のアンチセンス核酸分子及びその対応するセンス鎖を含む、二本鎖核酸分子。
【請求項5】
VEGFR1を標的にするアンチセンス核酸分子であって、該アンチセンス核酸はVEGFR1 mRNAに対して相補性である配列を含み、該核酸分子は細胞内で可溶性VEGFR1の発現を増加させ、完全長VEGFR1の発現を減少させる、アンチセンス核酸分子。
【請求項6】
請求項5に記載のアンチセンス核酸分子及びその対応するセンス鎖を含む、二本鎖核酸分子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の核酸分子及び医薬用として許容可能な担体を含む組成物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の核酸分子を含む、合成核酸送達媒体。
【請求項9】
前記核酸と複合体を形成したカチオン性ポリマーを含む、請求項8に記載の合成核酸送達媒体。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーがPEI又はヒスチジン−リジンコポリマーである、請求項9に記載の合成核酸送達媒体。
【請求項11】
細胞内における全VEGR1発現を低下させる方法であって、該細胞を請求項1又は請求項2に記載の核酸分子と接触させる工程を含む方法。
【請求項12】
細胞内における全VEGR1及び完全長VEGFR1の発現を低下させる方法であって、該細胞を請求項1又は請求項2に記載の核酸分子と接触させる工程を含む方法。
【請求項13】
細胞内における可溶性VEGFR1発現を増加させる方法であって、該細胞を、前記完全長VEGFR1 mRNA内の配列を標的にするが、前記可溶性VEGFR1 mRNA内の配列を標的にしないアンチセンス核酸分子と接触させる工程を含む方法。
【請求項14】
前記アンチセンス核酸分子がsiRNAである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アンチセンス核酸分子が配列番号24、49、50、51、84、85、86、88、89、100、104、105、184、186、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性である配列を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記アンチセンス核酸分子が配列番号24、49、50、51、84、85、86、88、89、100、104、105、184、186、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性である配列を有するアンチセンス鎖を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記アンチセンス核酸分子が配列番号24、49、50、51、84、85、86、88、89、100、104、105、184、186、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるセンス鎖の配列を含むVEGFR1内の配列を標的にする、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
細胞内における完全長VEGFR1の発現を低下させる方法であって、該細胞をVEGFR1を標的にするためのアンチセンス核酸分子と接触させる工程を含み、該アンチセンス核酸は配列番号24、25、43、49、50、51、83、84、85、86、87、88、89、100、104、105及び129乃至196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性である配列を含む、方法。
【請求項19】
細胞内における可溶性VEGFR1の発現を低下させることなく細胞内における完全長VEGR1の発現を低下させる方法であって、該細胞をVEGFR1を標的にするためのアンチセンス核酸分子と接触させる工程を含み、該アンチセンス核酸は配列番号24、25、43、49、50、51、83、84、85、86、87、88、89、100、104、105、173、180、181、182、183、184、186、187、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性である配列を含む、方法。
【請求項20】
細胞内において完全長VEGR1の発現を低下させ、可溶性VEGFR1の発現を増加させる方法であって、該細胞をVEGFR1を標的にするためのアンチセンス核酸分子と接触させる工程を含み、該アンチセンス核酸は配列番号24、49、50、51、84、85、86、88、89、100、104、105、184、186、188、192、193、194及び196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性である配列を含む、方法。
【請求項21】
新生血管形成の低減を必要とする対象において、新生血管形成を低減させる方法であって、VEGFR1を標的にするためのアンチセンス核酸分子を該対象に投与する工程を含み、該アンチセンス核酸は配列番号24、25、43、49、50、51、83、84、85、86、87、88、89、100、104、105及び129乃至196からなる群から選ばれるセンス鎖に対して相補性である配列を含む、方法。
【請求項22】
前記新生血管形成が腫瘍におけるものである、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−500023(P2011−500023A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528893(P2010−528893)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/011645
【国際公開番号】WO2009/051659
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(509173993)イントラダイム コーポレイション (5)
【Fターム(参考)】