インピーダンス整合回路および分波器
【課題】小型で調整が容易な分波器を提供する。
【解決手段】分波器は、送信用フィルタ1と、中心周波数が送信用フィルタ1より高い受信用フィルタ2と、共通アンテナ端子用パッド6と受信用フィルタ2との間に設けられたインピーダンス整合回路3を備える。インピーダンス整合回路3は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する2端子対SAW共振子30と、一端が2端子対SAW共振子30の共通接地端子に接続され、他端が接地された位相線路31とを備える。第1のすだれ状電極の一端が共通アンテナ端子用パッド6に接続され、第2のすだれ状電極の一端が受信用フィルタ2の入力端子に接続され、第1のすだれ状電極の他端と第2のすだれ状電極の他端とが共通接地端子となる。
【解決手段】分波器は、送信用フィルタ1と、中心周波数が送信用フィルタ1より高い受信用フィルタ2と、共通アンテナ端子用パッド6と受信用フィルタ2との間に設けられたインピーダンス整合回路3を備える。インピーダンス整合回路3は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する2端子対SAW共振子30と、一端が2端子対SAW共振子30の共通接地端子に接続され、他端が接地された位相線路31とを備える。第1のすだれ状電極の一端が共通アンテナ端子用パッド6に接続され、第2のすだれ状電極の一端が受信用フィルタ2の入力端子に接続され、第1のすだれ状電極の他端と第2のすだれ状電極の他端とが共通接地端子となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス整合回路、およびインピーダンス整合回路を用いた分波器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分波器(デュプレクサ)は、主にCDMA(Code Division Multiple Access )方式の携帯電話などの無線通信システムにおいて使用される。CDMA方式の無線システムでは、1本のアンテナを用いて送信と受信が同時に行われるため、送信信号と受信信号とを分離し、かつ互いの信号が相互に影響しないようにする分波器が必要となる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。携帯電話機に搭載される分波器の一般的な構成を図24に示す。
【0003】
図24に示すように、分波器は、図示しない送信回路からの送信信号のみを通過させてアンテナ104に供給する中心周波数f1の帯域通過フィルタである送信用フィルタ101と、アンテナ104で受信された高周波信号のうち所定の受信信号のみを通過させる中心周波数f2(f1<f2)の帯域通過フィルタである受信用フィルタ102と、アンテナ104と受信用フィルタ102の入力端子との間に設けられたインピーダンス整合回路103とから構成される。
【0004】
送信回路は、送信すべき音声信号やデータ信号等を基に高周波の送信信号を生成して送信用フィルタ101に出力する。図示しない受信回路は、受信用フィルタ102から出力された受信信号を復調して音声信号やデータ信号等を取り出す。送信用フィルタ101及び受信用フィルタ102には、SAW(Surface Acoustic Wave )フィルタあるいは圧電薄膜を用いたBAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタなどが用いられる。
【0005】
前述のとおり、送信用フィルタ101の中心周波数f1は受信用フィルタ102の中心周波数f2より低く、送信用フィルタ101は受信用フィルタ102の通過域周波数において高インピーダンスになっているため、送信用フィルタ101側にはインピーダンス整合回路は必要ない。一方、受信用フィルタ102の低周波数側の減衰域では高インピーダンスとなっておらず、クロストロークの可能性があるため、受信用フィルタ102側にインピーダンス整合回路103を設ける必要がある。
【0006】
インピーダンス整合回路103としては、特許文献1に開示されているように、信号線に並列に接続されたインダクタLからなる図25(A)のようなインピーダンス整合回路や、図25(A)の構成に補正用のコンデンサCを直列に接続した図25(B)のようなインピーダンス整合回路、あるいは直列位相回転用線路からなるインピーダンス整合回路が知られている。
【0007】
図26に、特許文献2に開示された分波器の平面構造を示す。図26は、分波器パッケージのチップダイボンド面の平面構造を示したものである。図26において、111は送信用フィルタ101の入力端子、112は送信用フィルタ101の出力端子、121は受信用フィルタ102の入力端子、122は受信用フィルタ102の出力端子、105は送信用フィルタ入力端子用パッド、106は共通アンテナ端子用パッド、107は受信用フィルタ入力端子用パッド、108は受信用フィルタ出力端子用パッドである。位相線路からなるインピーダンス整合回路103は、チップダイボンド面の下にある位相線路層に配置されている。位相線路の一端はビアホールにより共通アンテナ端子用パッド106に接続され、位相線路の他端はビアホールにより受信用フィルタ入力端子用パッド107に接続されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3246906号公報
【特許文献2】特許第3532158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1でも述べられているように、図25(A)に示したインダクタのみによるインピーダンス整合回路では、適正なインピーダンス整合がとれない場合が多いという問題点があった。
【0010】
図25(B)に示したインピーダンス整合回路は、図25(A)のインピーダンス整合回路の改良型であるが、送信用フィルタ101の通過域周波数のインピーダンスを調整しようとすると、受信用フィルタ102の通過域の整合が変化してしまうため、送信用フィルタ101の通過域周波数のインピーダンス調整と受信用フィルタ102の通過域の整合との両立が困難な場合が多いという問題点があった。
【0011】
直列位相回転用線路を用いたインピーダンス整合回路では、位相回転量によりフィルタの整合が変化しないため、送信用フィルタ101の通過域周波数のインピーダンス調整のみを行えばよく、調整が容易という点で好ましい。しかし、位相線路をインピーダンス整合回路として動作させるためには、電気長がλ/4(λは受信用フィルタ102の中心周波数f2と位相線路の誘電体中の速度とから定まる電磁波の波長)程度必要であり、小型化が難しいという問題点があった。
【0012】
また、図26に示すように、特許文献2に開示された分波器では、共通アンテナ端子用パッド106と受信用フィルタ出力端子用パッド108とが近接して配置されているために、共通アンテナ端子と受信用フィルタの出力端子間のアイソレーションが悪いという問題点があった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、小型で調整が容易なインピーダンス整合回路および分波器を提供することを目的とする。
また、本発明は、共通アンテナ端子と受信用フィルタの出力端子間のアイソレーションを改善することができる分波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のインピーダンス整合回路は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する2端子対SAW共振子と、一端が前記2端子対SAW共振子の共通接地端子に接続され、他端が接地された位相線路とを備え、前記第1のすだれ状電極の一端が入力端子となり、前記第2のすだれ状電極の一端が出力端子となり、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記共通接地端子となるものである。
【0015】
本発明の分波器は、一端が第1の信号端子に接続され、他端が共通信号端子に接続された第1のフィルタと、一端が第2の信号端子に接続され、中心周波数が前記第1のフィルタの中心周波数より高い第2のフィルタと、前記共通信号端子と前記第2のフィルタの他端との間に設けられた第1のインピーダンス整合回路とを備え、前記第1のインピーダンス整合回路は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する第1の2端子対SAW共振子と、一端が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の共通接地端子に接続され、他端が接地された第1の位相線路とを備え、前記第1のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第2のすだれ状電極の一端が前記第2のフィルタの他端に接続され、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記第1の共通接地端子となるものである。
また、本発明の分波器の1構成例は、さらに、前記共通信号端子と前記第1のフィルタの他端との間に設けられた第2のインピーダンス整合回路を備え、前記第2のインピーダンス整合回路は、第3のすだれ状電極と第4のすだれ状電極とを有する第2の2端子対SAW共振子と、一端が前記第2の2端子対SAW共振子の第2の共通接地端子に接続され、他端が接地された第2の位相線路とを備え、前記第3のすだれ状電極の一端が前記第1のフィルタの他端に接続され、前記第4のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第3のすだれ状電極の他端と前記第4のすだれ状電極の他端とが前記第2の共通接地端子となるものである。
また、本発明の分波器の1構成例は、前記共通信号端子と前記第2の信号端子とが前記第1のフィルタ及び第2のフィルタを挟んで対向するように、前記共通信号端子と前記第2の信号端子とをパッケージ上に配置したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2端子対SAW共振子の共通接地端子に位相線路の一端を接続して、この位相線路の他端を接地することにより、インピーダンス整合回路を実現することができ、位相線路を用いたインピーダンス整合回路の調整が容易であるという優れた効果を保ちつつ、位相線路の線路長を従来よりも短くすることができる。本発明では、位相線路の線路長は従来の70%程度の長さとなり、インピーダンス整合回路の小型化を実現することができる。
【0017】
また、本発明では、第1の2端子対SAW共振子の共通接地端子に第1の位相線路の一端を接続し、かつ第1の位相線路の他端を接地した第1のインピーダンス整合回路を、分波器に用いることにより、位相線路を用いたインピーダンス整合回路の調整が容易であるという効果を保ちつつ、分波器の小型化を実現することができる。また、第1の2端子対SAW共振子の中心周波数付近が分波器の減衰域となるので、分波器の減衰量を改善することができる。
【0018】
また、本発明では、第2の2端子対SAW共振子の共通接地端子に第2の位相線路の一端を接続し、かつ第2の位相線路の他端を接地した第2のインピーダンス整合回路を、共通信号端子と第1のフィルタとの間に設けることにより、第1のフィルタを高周波側の減衰域において更に高インピーダンスにすることができ、第1のフィルタと第2のフィルタとの間の干渉を大幅に低減することができる。また、本発明では、第1のフィルタの高周波側の減衰量を改善することができ、より好ましい分波器特性が得られる。
【0019】
また、本発明の分波器では、位相線路の一端を2端子対SAW共振子の共通接地端子に接続して、位相線路の他端は接地すればよいので、端子の配置に余裕が生じる。このため、本発明では、共通信号端子と第2の信号端子とが第1のフィルタ及び第2のフィルタを挟んで対向するように、共通信号端子と第2の信号端子とをパッケージ上に配置することができ、共通信号端子と第2の信号端子間のアイソレーションを改善することができる。したがって、第1のフィルタが送信用フィルタ、第2のフィルタが受信用フィルタ、共通信号端子が共通アンテナ端子、第2の信号端子が受信用フィルタの出力端子であるとすれば、共通アンテナ端子と受信用フィルタの出力端子間のアイソレーションを改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図である。従来と同様に、図1の分波器は、送信回路(不図示)からの送信信号のみを通過させてアンテナ(不図示)に供給する中心周波数f1の帯域通過フィルタである送信用フィルタ1(第1のフィルタ)と、アンテナで受信された高周波信号のうち所定の受信信号のみを通過させる中心周波数f2(f1<f2)の帯域通過フィルタである受信用フィルタ2(第2のフィルタ)と、アンテナと受信用フィルタ2との間に設けられたインピーダンス整合回路3とから構成される。
【0021】
図1において、5は送信用フィルタ入力端子用パッド(第1の信号端子)、6は共通アンテナ端子用パッド(共通信号端子)、8は受信用フィルタ出力端子用パッド(第2の信号端子)、12は送信用フィルタ1の入力端子、13は送信用フィルタ1の出力端子、22は受信用フィルタ2の入力端子、23は受信用フィルタ2の出力端子、32はインピーダンス整合回路3の入力端子、33はインピーダンス整合回路3の出力端子である。
【0022】
送信用フィルタ1の入力端子12は、送信用フィルタ入力端子用パッド5を介して送信回路に接続されている。送信用フィルタ1の出力端子13とインピーダンス整合回路3の入力端子32とは、共通アンテナ端子用パッド6を介してアンテナに接続されている。受信用フィルタ2の入力端子22は、インピーダンス整合回路3の出力端子33に接続されている。受信用フィルタ2の出力端子23は、受信用フィルタ出力端子用パッド8を介して受信回路(不図示)に接続されている。
【0023】
送信用フィルタ1は、入出力端子間に挿入される1端子対SAW(Surface Acoustic Wave )共振子10と入出力端子と接地との間に挿入される1端子対SAW共振子11とを交互に梯子型に接続した、いわゆるラダー型フィルタにより構成される。同様に、受信用フィルタ2は、1端子対SAW共振子20,21を交互に梯子型に接続したラダー型フィルタにより構成される。送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2のいずれも共通アンテナ端子側は、直列共振子10,20から始まる構成となっている。
【0024】
本実施の形態では、n−CDMA用分波器として、送信用フィルタ1の中心周波数f1は836.5MHzに設定され、受信用フィルタ2の中心周波数f2は881.5MHzに設定されているものとする。図2に図1の分波器の通過特性の1例を示す。図2において、CHA1は送信用フィルタ1の特性、CHA2は受信用フィルタ2の特性、P1は送信用フィルタ1の通過域、P2は受信用フィルタ2の通過域を示す。
【0025】
図3にインピーダンス整合回路3の平面図を示す。インピーダンス整合回路3は、2端子対SAW共振子30と、位相線路31とから構成される。2端子対SAW共振子30は、圧電基板上に入力用IDT300(第1のすだれ状電極)と出力用IDT301(第2のすだれ状電極)とを形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器302,303を配置したものである。周知のように、IDT(interdigital transducer )は、金属からなる櫛状の対向する2つの電極部を有し、各電極部は、対向する電極部に向かって交互に突出した複数の電極指を有している。
【0026】
図3において、304は2端子対SAW共振子30の第1の端子(共振子30の入力端子32であり、入力用IDT300の一端)、305は2端子対SAW共振子30の第2の端子(共振子30の出力端子33であり、出力用IDT301の一端)、306は2端子対SAW共振子30の第3の端子(入力用IDT300の他端)、307は2端子対SAW共振子30の第4の端子(出力用IDT301の他端)である。第1の端子304は共通アンテナ端子用パッド6に接続され、第2の端子305は受信用フィルタ2の入力端子22に接続されている。第3の端子306と第4の端子307は互いに接続された上で位相線路31の一端に接続され、さらに位相線路31の他端は接地されている。
【0027】
位相線路31は、低温焼成セラミックス(LTCC)パッケージ内に形成したストリップラインにより構成され、ワイヤー等の接続手段を介して、2端子対SAW共振子30の第3の端子306及び第4の端子307に接続される。フィルタ1,2及び2端子対SAW共振子30は、例えば圧電基板LiTaO3 上に形成される。フィルタ1,2の各共振子、2端子対SAW共振子30及び位相線路31の電極材料としては、例えばAl−Cu合金などを用いる。2端子対SAW共振子30とフィルタ2を共通の基板上に形成してもよいし、さらにフィルタ1も共通の基板上に形成してもよい。
【0028】
2端子対SAW共振子30の入力用IDT300、出力用IDT301の電極指の対数はそれぞれ80対以上、IDT300と301間の距離は0.8λIDT 程度である。ここで、共振波長λIDT は、2端子対SAW共振子30のIDT電極周期長であり、2端子対SAW共振子30の中心周波数は、図2に示す送信用フィルタ1の通過域P1の低周波側の端部周波数近傍に設定される。なお、入力用IDT300と出力用IDT301との間で電極指の対数や、電極指の交差幅、波長λIDT を異なる値にしてもよい。
【0029】
ここで、インピーダンス整合回路3の作用について説明する。まず、図4に受信用フィルタ2のスミスチャートを示す。点線Aで囲んだ領域が受信用フィルタ2の通過域のインピーダンスを示し、点線Bで囲んだ領域が受信用フィルタ2の低周波側の減衰域(すなわち、送信用フィルタ1の通過域)のインピーダンスを示している。図4によれば、低周波側の減衰域において受信用フィルタ2が低インピーダンスとなっている。したがって、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2のみから分波器を構成しようとしても、送信用フィルタ1からの送信信号が受信用フィルタ2に流れ込み、分波器として動作しないことが分かる。
【0030】
図5に、受信用フィルタ2の前段にインピーダンス整合回路3を接続した場合のスミスチャートを示す。点線A,Bで囲んだ領域の意味は図4の場合と同じである。図5によれば、受信用フィルタ2にインピーダンス整合回路3を接続すると、低周波側の減衰域において受信用フィルタ2が高インピーダンスになることが分かる。これにより、送信回路からの送信信号が受信用フィルタ2側に回り込むことがなくなり、分波器として動作することが分かる。
【0031】
2端子対共振子は、本来、狭帯域の帯域通過フィルタとして用いられる。図6(A)は一般的な2端子対SAW共振子の通過特性を示す図、図6(B)は2端子対SAW共振子の入出力間の位相回転角を示す図、図6(C)は2端子対SAW共振子のリターンロスを示す図である。図6(C)のS11はリターンロスを表すSパラメータである。図6の例では、2端子対SAW共振子の共通接地端子(図3の端子306,307に相当)に0.15nHのインダクタンス素子の一端を接続し、このインダクタンス素子の他端を接地している。
【0032】
図7のような通過特性を有し、かつ図8のようなインピーダンス特性を有する帯域通過フィルタ(以下、フィルタRと呼ぶ)の前段に、図6(A)〜図6(C)に示した特性の2端子対SAW共振子を接続すると、通過特性は図9のように変化し、またインピーダンス特性は図10のように変化する。図8、図10において、点線Cで囲んだ領域はフィルタRの通過域のインピーダンスを示し、点線Dで囲んだ領域はフィルタRの低周波側の減衰域のインピーダンスを示している。したがって、フィルタRの前段に2端子対SAW共振子を接続すると、フィルタとして機能しないことが分かる。フィルタとして機能しないことは、フィルタRの通過域が2端子対SAW共振子の減衰域になっていることから明らかである。
【0033】
一方、2端子対SAW共振子の共通接地端子に適切な電気長の位相線路(例えば電気長0.15λ)の一端を接続して、この位相線路の他端を接地すると、2端子対SAW共振子の特性は図11(A)〜図11(C)のようになる。図11(A)は2端子対SAW共振子の通過特性を示す図、図11(B)は2端子対SAW共振子の入出力間の位相回転角を示す図、図11(C)は2端子対SAW共振子のリターンロスを示す図である。図11(A)〜図11(C)から明らかなように、2端子対SAW共振子の共通接地端子に位相線路を接続すると、図6(A)〜図6(C)に示した2端子対SAW共振子で通過域であったところが減衰域になっていることが分かる。
【0034】
前記のフィルタRの前段にこのような2端子対SAW共振子を接続すると、その通過特性は図12のようになり、図7に示したフィルタRの通過特性の形をほぼ維持することができる。また、フィルタRの前段に2端子対SAW共振子を接続したときのスミスチャートは図13のようになり、点線Dで示すフィルタの低周波側の減衰域が高インピーダンスになっていることが分かる。
【0035】
図12、図13に示した特性は、図1の分波器におけるインピーダンス整合回路3及び受信用フィルタ2の特性として好適である。2端子対SAW共振子30のIDT300,301の電極指の交差幅及び位相線路31の線路長を調整することにより、受信用フィルタ2の通過域付近のリターンロスを最小にすることができ、また2端子対SAW共振子30の共振波長λIDT 及び位相線路31の線路長によって受信用フィルタ2の減衰域のインピーダンス配置を調整することにより、インピーダンス整合回路3として最適な組み合わせを得ることができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態では、2端子対SAW共振子30の共通接地端子に位相線路31の一端を接続して、この位相線路31の他端を接地することにより、インピーダンス整合回路を実現することができ、位相線路を用いたインピーダンス整合回路の調整が容易であるという効果を保ちつつ、位相線路31の線路長を従来よりも短くすることができ、分波器の小型化を実現することができる。
【0037】
以下、位相線路31の線路長を従来よりも短くできる理由について説明する。一般的な2端子対SAW共振子は、図6(B)に示すような位相特性を有しており、一定の位相変化素子として用いることが可能である。しかしながら、図6(A)の通過特性をみると、狭帯域なフィルタ特性となっており、所望の周波数における挿入損失が劣化している。これに対して、2端子対SAW共振子の共通接地端子に適切な長さの位相線路を接続すると、通過特性が図11(A)のようになり、広い周波数範囲で低損失な通過特性となり、インピーダンス整合回路に適した特性となる。
【0038】
接続する受信用フィルタ2のインピーダンスに応じて、2端子対SAW共振子30のインピーダンス設定及び位相線路31の線路長の最適値が異なるが、位相線路のみを用いたインピーダンス整合回路の場合に比べて、本実施の形態のインピーダンス整合回路3では、2端子対SAW共振子30の位相変化を利用していることから、位相線路31に必要とされる位相回転量が少なくなり、位相線路31の線路長を従来よりも短くすることができる。従来のインピーダンス整合回路の位相線路では、電気長がλ/4(λは受信用フィルタの中心周波数f2と位相線路の誘電体中の速度とから定まる電磁波の波長)程度必要であったのに対し、本実施の形態の位相線路31では、電気長は1/10λから1/8λ程度である。
【0039】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図14は本発明の第2の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図、図15は図14の分波器のI−I線断面図、図16は図14の分波器における位相線路31を上から透視した図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0040】
本実施の形態は、第1の実施の形態で説明した分波器をLTCCパッケージにより構成した例であり、図14に示す面は、チップダイボンド面である。LTCCパッケージは、上下をGND導体50,52で挟まれた誘電体51内に位相線路31を設けたものである。位相線路31の電極材料としては、Cuやタングステン及びAgなどが用いられる。パッケージの基材となる誘電体51としては、比誘電率7〜10のアルミナあるいはガラスセラミックが用いられる。
【0041】
パッケージのチップダイボンド面には、チップを格納するための矩形の空間が形成され、この矩形空間内に送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2が搭載されている。そして、これらの送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2を囲むように外部接続用の電極パッドが形成され、ワイヤーによって所定の電気的接続がなされている。すなわち、送信用フィルタ1の入力端子12は、ワイヤーを介して送信用フィルタ入力端子用パッド5と接続され、フィルタ1の出力端子13は、ワイヤーを介して共通アンテナ端子用パッド6と接続され、フィルタ1の接地端子14は、ワイヤーを介して接地用パッド15と接続されている。
【0042】
一方、2端子対SAW共振子30は受信用フィルタ2上に搭載されている。2端子対SAW共振子30の入力端子32は、ワイヤーを介して共通アンテナ端子用パッド6と接続され、共振子30の出力端子33は、受信用フィルタ2の入力端子22と接続され、共振子30の共通接地端子34(図3の306,307)は、ワイヤーを介して共通接地端子用パッド35に接続されている。さらに、受信用フィルタ2の出力端子23は、ワイヤーを介して受信用フィルタ出力端子用パッド8と接続され、フィルタ2の接地端子24は、ワイヤーを介して接地用パッド25と接続されている。
【0043】
位相線路31の一端は、ビアホール36により共通接地端子用パッド35に接続され、位相線路31の他端は、ビアホール37によりGND導体52に接続され、接地されている。GND導体50とGND導体52とは、内部ビア53により互いに接続されると共に、側面のキャスタレーション(側面電極)により接続されている。さらに、パッケージの底面にはフットパターン55が形成され、パッケージの上面はキャップ56により封止される。
【0044】
本実施の形態では、共通アンテナ端子用パッド6が含まれるパッド列と受信用フィルタ出力端子用パッド8が含まれるパッド列とを送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2を挟んで対向するように配置している。これにより、本実施の形態では、図26に示した従来の分波器に比べて、共通アンテナ端子と受信用フィルタ2の出力端子間のアイソレーションを改善することができる。
【0045】
以下、本実施の形態のようなパッド配置が可能な理由について説明する。図26に示した従来の分波器では、位相線路の線路長を確保する必要があるので、共通アンテナ端子用パッド106と受信用フィルタ入力端子用パッド107とが送信用フィルタ101及び受信用フィルタ102を挟んで対向するように配置されている。この配置では、必然的に共通アンテナ端子用パッド106と受信用フィルタ出力端子用パッド108とが近接して配置されることになる。
【0046】
一方、本実施の形態では、位相線路31の一端を2端子対SAW共振子30の共通接地端子に接続して、位相線路31の他端は接地すればよいので、位相線路31に関係するパッド配置を決定する際には位相線路31の線路長を考慮する必要はなく、共通接地端子用パッド35の位置のみを考慮すればよい。したがって、共通アンテナ端子用パッド6と受信用フィルタ出力端子用パッド8とが送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2を挟んで対向するように配置することが可能となる。
【0047】
なお、本実施の形態では、ワイヤーボンディングによる構成例を示しているが、フリップチップボンドを用いた実装あるいはCSP(Chip Scale Package)による実装を用いてもよい。
【0048】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図17は本発明の第3の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図であり、図1、図14と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2を1チップ化したものである。
【0049】
第2の実施の形態では、共通アンテナ端子用パッド6とインピーダンス整合回路3の入力端子32とがワイヤーを介して接続され、さらに共通アンテナ端子用パッド6と送信用フィルタ1の出力端子13とがワイヤーを介して接続されているため、インピーダンス整合回路3の入力端子32にとって不要なインダクタンス成分として、パッド6と端子13間のワイヤーが付加されていることになる。
【0050】
これに対して、本実施の形態では、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2とを1チップ化したことにより、フィルタ1,2の上に搭載したインピーダンス整合回路3の入力端子32と送信用フィルタ1の出力端子13とを直接接続することができ、共通アンテナ端子用パッド6との間の接続は1本のワイヤーだけで済むので、不要なインダクタンス成分を除去することができる。
【0051】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図18は、本発明の第4の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。第1の実施の形態では、アンテナと受信用フィルタ2との間にインピーダンス整合回路3を挿入しているが、本実施の形態は、さらにアンテナと送信用フィルタ1との間にインピーダンス整合回路4を挿入したものである。
【0052】
インピーダンス整合回路3と同様に、インピーダンス整合回路4は、2端子対SAW共振子40と、位相線路41とから構成される。インピーダンス整合回路4の入力端子42は、送信用フィルタ1の出力端子13と接続され、インピーダンス整合回路4の出力端子43は共通アンテナ端子用パッド6を介してアンテナに接続されている。2端子対SAW共振子30と同様に、2端子対SAW共振子40は、入力用IDT(第3のすだれ状電極)と出力用IDT(第4のすだれ状電極)と反射器とを有し、2端子対SAW共振子40の中心周波数は、図2に示す受信用フィルタ2の通過域P2の高周波側の端部周波数近傍に設定される。
【0053】
こうして、本実施の形態では、受信用フィルタ2側にインピーダンス整合回路3を挿入することで、受信用フィルタ2を低周波側の減衰域において高インピーダンスにできるだけでなく、送信用フィルタ1側にインピーダンス整合回路4を挿入することで、送信用フィルタ1を高周波側の減衰域において更に高インピーダンスにすることができる。
【0054】
すなわち、本実施の形態のようにフィルタ1,2の双方にインピーダンス整合回路を挿入すると、送信用フィルタ1の通過域にあたる受信用フィルタ2の低周波側の減衰域と受信用フィルタ2の通過域にあたる送信用フィルタ1の高周波側の減衰域とをそれぞれ高インピーダンスに設定することが可能となり、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2との間の干渉を大幅に低減することができる。
【0055】
送信用フィルタ1の通過特性の1例を図19に示す。この送信用フィルタ1の後段に、中心周波数がフィルタ1の中心周波数より高いインピーダンス整合回路4を接続した場合の通過特性を図20に示す。また、送信用フィルタ1のスミスチャートを図21に示し、送信用フィルタ1の後段にインピーダンス整合回路4を接続した場合のスミスチャートを図22に示す。図21、図22において、点線Eで囲んだ領域は送信用フィルタ1の通過域のインピーダンスを示し、点線Fで囲んだ領域は送信用フィルタ1の高周波側の減衰域のインピーダンスを示している。図21、図22から明らかなように、インピーダンス整合回路4を接続すると、点線Fで示す送信用フィルタ1の高周波側の減衰域が高インピーダンスになることが分かる。
【0056】
図23に本実施の形態の分波器の通過特性を示す。図23において、CHA1は送信用フィルタ1の特性、CHA2は受信用フィルタ2の特性、P1は送信用フィルタ1の通過域、P2は受信用フィルタ2の通過域を示す。図23によれば、良好な分波器特性が得られることが分かる。また図20、図23によれば、送信用フィルタ1の高周波側の減衰量も改善されていることが分かる。これは、送信用フィルタ1の高周波側の減衰域が高インピーダンスになったことによる。したがって、本実施の形態では、第1の実施の形態よりも更に好ましい分波器を得ることができる。
【0057】
なお、本実施の形態では、受信用フィルタ2の中心周波数が送信用フィルタ1の中心周波数より高くなっているが、これに限るものではなく、受信用フィルタ2の中心周波数が送信用フィルタ1の中心周波数より低い場合でも本発明を適用することができる。この場合は、図1、図18において、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2の位置を入れ替えるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、インピーダンス整合回路、およびインピーダンス整合回路を用いた分波器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における分波器の通過特性の1例を示す図である。
【図3】図1の分波器におけるインピーダンス整合回路のレイアウトを示す平面図である。
【図4】図1の分波器における受信用フィルタのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図5】図1の分波器において受信用フィルタの前段にインピーダンス整合回路を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図6】一般的な2端子対SAW共振子の通過特性、入出力間の位相回転角及びリターンロスを示す図である。
【図7】帯域通過フィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図8】図7の帯域通過フィルタのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図9】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図6の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合の通過特性を示す図である。
【図10】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図6の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図11】2端子対SAW共振子の共通接地端子に位相線を接続した場合の通過特性、入出力間の位相回転角及びリターンロスを示す図である。
【図12】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図11の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合の通過特性を示す図である。
【図13】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図11の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図14】本発明の第2の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図である。
【図15】図14の分波器の断面図である。
【図16】図14の分波器における位相線路を上から透視した図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図である。
【図18】本発明の第4の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図である。
【図19】図18の分波器における送信用フィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図20】図19の特性の送信用フィルタの後段にインピーダンス整合回路を接続した場合の通過特性を示す図である。
【図21】図18の分波器における送信用フィルタのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図22】図19の特性の送信用フィルタの後段にインピーダンス整合回路を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図23】本発明の第4の実施の形態における分波器の通過特性の1例を示す図である。
【図24】分波器の一般的構成を示すブロック図である。
【図25】従来のインピーダンス整合回路の構成を示す回路図である。
【図26】従来の分波器のチップダイボンド面の平面構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0060】
1…送信用フィルタ、2…受信用フィルタ、3、4…インピーダンス整合回路、30、40…2端子対SAW共振子、31、41…位相線路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス整合回路、およびインピーダンス整合回路を用いた分波器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分波器(デュプレクサ)は、主にCDMA(Code Division Multiple Access )方式の携帯電話などの無線通信システムにおいて使用される。CDMA方式の無線システムでは、1本のアンテナを用いて送信と受信が同時に行われるため、送信信号と受信信号とを分離し、かつ互いの信号が相互に影響しないようにする分波器が必要となる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。携帯電話機に搭載される分波器の一般的な構成を図24に示す。
【0003】
図24に示すように、分波器は、図示しない送信回路からの送信信号のみを通過させてアンテナ104に供給する中心周波数f1の帯域通過フィルタである送信用フィルタ101と、アンテナ104で受信された高周波信号のうち所定の受信信号のみを通過させる中心周波数f2(f1<f2)の帯域通過フィルタである受信用フィルタ102と、アンテナ104と受信用フィルタ102の入力端子との間に設けられたインピーダンス整合回路103とから構成される。
【0004】
送信回路は、送信すべき音声信号やデータ信号等を基に高周波の送信信号を生成して送信用フィルタ101に出力する。図示しない受信回路は、受信用フィルタ102から出力された受信信号を復調して音声信号やデータ信号等を取り出す。送信用フィルタ101及び受信用フィルタ102には、SAW(Surface Acoustic Wave )フィルタあるいは圧電薄膜を用いたBAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタなどが用いられる。
【0005】
前述のとおり、送信用フィルタ101の中心周波数f1は受信用フィルタ102の中心周波数f2より低く、送信用フィルタ101は受信用フィルタ102の通過域周波数において高インピーダンスになっているため、送信用フィルタ101側にはインピーダンス整合回路は必要ない。一方、受信用フィルタ102の低周波数側の減衰域では高インピーダンスとなっておらず、クロストロークの可能性があるため、受信用フィルタ102側にインピーダンス整合回路103を設ける必要がある。
【0006】
インピーダンス整合回路103としては、特許文献1に開示されているように、信号線に並列に接続されたインダクタLからなる図25(A)のようなインピーダンス整合回路や、図25(A)の構成に補正用のコンデンサCを直列に接続した図25(B)のようなインピーダンス整合回路、あるいは直列位相回転用線路からなるインピーダンス整合回路が知られている。
【0007】
図26に、特許文献2に開示された分波器の平面構造を示す。図26は、分波器パッケージのチップダイボンド面の平面構造を示したものである。図26において、111は送信用フィルタ101の入力端子、112は送信用フィルタ101の出力端子、121は受信用フィルタ102の入力端子、122は受信用フィルタ102の出力端子、105は送信用フィルタ入力端子用パッド、106は共通アンテナ端子用パッド、107は受信用フィルタ入力端子用パッド、108は受信用フィルタ出力端子用パッドである。位相線路からなるインピーダンス整合回路103は、チップダイボンド面の下にある位相線路層に配置されている。位相線路の一端はビアホールにより共通アンテナ端子用パッド106に接続され、位相線路の他端はビアホールにより受信用フィルタ入力端子用パッド107に接続されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3246906号公報
【特許文献2】特許第3532158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1でも述べられているように、図25(A)に示したインダクタのみによるインピーダンス整合回路では、適正なインピーダンス整合がとれない場合が多いという問題点があった。
【0010】
図25(B)に示したインピーダンス整合回路は、図25(A)のインピーダンス整合回路の改良型であるが、送信用フィルタ101の通過域周波数のインピーダンスを調整しようとすると、受信用フィルタ102の通過域の整合が変化してしまうため、送信用フィルタ101の通過域周波数のインピーダンス調整と受信用フィルタ102の通過域の整合との両立が困難な場合が多いという問題点があった。
【0011】
直列位相回転用線路を用いたインピーダンス整合回路では、位相回転量によりフィルタの整合が変化しないため、送信用フィルタ101の通過域周波数のインピーダンス調整のみを行えばよく、調整が容易という点で好ましい。しかし、位相線路をインピーダンス整合回路として動作させるためには、電気長がλ/4(λは受信用フィルタ102の中心周波数f2と位相線路の誘電体中の速度とから定まる電磁波の波長)程度必要であり、小型化が難しいという問題点があった。
【0012】
また、図26に示すように、特許文献2に開示された分波器では、共通アンテナ端子用パッド106と受信用フィルタ出力端子用パッド108とが近接して配置されているために、共通アンテナ端子と受信用フィルタの出力端子間のアイソレーションが悪いという問題点があった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、小型で調整が容易なインピーダンス整合回路および分波器を提供することを目的とする。
また、本発明は、共通アンテナ端子と受信用フィルタの出力端子間のアイソレーションを改善することができる分波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のインピーダンス整合回路は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する2端子対SAW共振子と、一端が前記2端子対SAW共振子の共通接地端子に接続され、他端が接地された位相線路とを備え、前記第1のすだれ状電極の一端が入力端子となり、前記第2のすだれ状電極の一端が出力端子となり、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記共通接地端子となるものである。
【0015】
本発明の分波器は、一端が第1の信号端子に接続され、他端が共通信号端子に接続された第1のフィルタと、一端が第2の信号端子に接続され、中心周波数が前記第1のフィルタの中心周波数より高い第2のフィルタと、前記共通信号端子と前記第2のフィルタの他端との間に設けられた第1のインピーダンス整合回路とを備え、前記第1のインピーダンス整合回路は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する第1の2端子対SAW共振子と、一端が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の共通接地端子に接続され、他端が接地された第1の位相線路とを備え、前記第1のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第2のすだれ状電極の一端が前記第2のフィルタの他端に接続され、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記第1の共通接地端子となるものである。
また、本発明の分波器の1構成例は、さらに、前記共通信号端子と前記第1のフィルタの他端との間に設けられた第2のインピーダンス整合回路を備え、前記第2のインピーダンス整合回路は、第3のすだれ状電極と第4のすだれ状電極とを有する第2の2端子対SAW共振子と、一端が前記第2の2端子対SAW共振子の第2の共通接地端子に接続され、他端が接地された第2の位相線路とを備え、前記第3のすだれ状電極の一端が前記第1のフィルタの他端に接続され、前記第4のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第3のすだれ状電極の他端と前記第4のすだれ状電極の他端とが前記第2の共通接地端子となるものである。
また、本発明の分波器の1構成例は、前記共通信号端子と前記第2の信号端子とが前記第1のフィルタ及び第2のフィルタを挟んで対向するように、前記共通信号端子と前記第2の信号端子とをパッケージ上に配置したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2端子対SAW共振子の共通接地端子に位相線路の一端を接続して、この位相線路の他端を接地することにより、インピーダンス整合回路を実現することができ、位相線路を用いたインピーダンス整合回路の調整が容易であるという優れた効果を保ちつつ、位相線路の線路長を従来よりも短くすることができる。本発明では、位相線路の線路長は従来の70%程度の長さとなり、インピーダンス整合回路の小型化を実現することができる。
【0017】
また、本発明では、第1の2端子対SAW共振子の共通接地端子に第1の位相線路の一端を接続し、かつ第1の位相線路の他端を接地した第1のインピーダンス整合回路を、分波器に用いることにより、位相線路を用いたインピーダンス整合回路の調整が容易であるという効果を保ちつつ、分波器の小型化を実現することができる。また、第1の2端子対SAW共振子の中心周波数付近が分波器の減衰域となるので、分波器の減衰量を改善することができる。
【0018】
また、本発明では、第2の2端子対SAW共振子の共通接地端子に第2の位相線路の一端を接続し、かつ第2の位相線路の他端を接地した第2のインピーダンス整合回路を、共通信号端子と第1のフィルタとの間に設けることにより、第1のフィルタを高周波側の減衰域において更に高インピーダンスにすることができ、第1のフィルタと第2のフィルタとの間の干渉を大幅に低減することができる。また、本発明では、第1のフィルタの高周波側の減衰量を改善することができ、より好ましい分波器特性が得られる。
【0019】
また、本発明の分波器では、位相線路の一端を2端子対SAW共振子の共通接地端子に接続して、位相線路の他端は接地すればよいので、端子の配置に余裕が生じる。このため、本発明では、共通信号端子と第2の信号端子とが第1のフィルタ及び第2のフィルタを挟んで対向するように、共通信号端子と第2の信号端子とをパッケージ上に配置することができ、共通信号端子と第2の信号端子間のアイソレーションを改善することができる。したがって、第1のフィルタが送信用フィルタ、第2のフィルタが受信用フィルタ、共通信号端子が共通アンテナ端子、第2の信号端子が受信用フィルタの出力端子であるとすれば、共通アンテナ端子と受信用フィルタの出力端子間のアイソレーションを改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図である。従来と同様に、図1の分波器は、送信回路(不図示)からの送信信号のみを通過させてアンテナ(不図示)に供給する中心周波数f1の帯域通過フィルタである送信用フィルタ1(第1のフィルタ)と、アンテナで受信された高周波信号のうち所定の受信信号のみを通過させる中心周波数f2(f1<f2)の帯域通過フィルタである受信用フィルタ2(第2のフィルタ)と、アンテナと受信用フィルタ2との間に設けられたインピーダンス整合回路3とから構成される。
【0021】
図1において、5は送信用フィルタ入力端子用パッド(第1の信号端子)、6は共通アンテナ端子用パッド(共通信号端子)、8は受信用フィルタ出力端子用パッド(第2の信号端子)、12は送信用フィルタ1の入力端子、13は送信用フィルタ1の出力端子、22は受信用フィルタ2の入力端子、23は受信用フィルタ2の出力端子、32はインピーダンス整合回路3の入力端子、33はインピーダンス整合回路3の出力端子である。
【0022】
送信用フィルタ1の入力端子12は、送信用フィルタ入力端子用パッド5を介して送信回路に接続されている。送信用フィルタ1の出力端子13とインピーダンス整合回路3の入力端子32とは、共通アンテナ端子用パッド6を介してアンテナに接続されている。受信用フィルタ2の入力端子22は、インピーダンス整合回路3の出力端子33に接続されている。受信用フィルタ2の出力端子23は、受信用フィルタ出力端子用パッド8を介して受信回路(不図示)に接続されている。
【0023】
送信用フィルタ1は、入出力端子間に挿入される1端子対SAW(Surface Acoustic Wave )共振子10と入出力端子と接地との間に挿入される1端子対SAW共振子11とを交互に梯子型に接続した、いわゆるラダー型フィルタにより構成される。同様に、受信用フィルタ2は、1端子対SAW共振子20,21を交互に梯子型に接続したラダー型フィルタにより構成される。送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2のいずれも共通アンテナ端子側は、直列共振子10,20から始まる構成となっている。
【0024】
本実施の形態では、n−CDMA用分波器として、送信用フィルタ1の中心周波数f1は836.5MHzに設定され、受信用フィルタ2の中心周波数f2は881.5MHzに設定されているものとする。図2に図1の分波器の通過特性の1例を示す。図2において、CHA1は送信用フィルタ1の特性、CHA2は受信用フィルタ2の特性、P1は送信用フィルタ1の通過域、P2は受信用フィルタ2の通過域を示す。
【0025】
図3にインピーダンス整合回路3の平面図を示す。インピーダンス整合回路3は、2端子対SAW共振子30と、位相線路31とから構成される。2端子対SAW共振子30は、圧電基板上に入力用IDT300(第1のすだれ状電極)と出力用IDT301(第2のすだれ状電極)とを形成し、さらにその両側にそれぞれ反射器302,303を配置したものである。周知のように、IDT(interdigital transducer )は、金属からなる櫛状の対向する2つの電極部を有し、各電極部は、対向する電極部に向かって交互に突出した複数の電極指を有している。
【0026】
図3において、304は2端子対SAW共振子30の第1の端子(共振子30の入力端子32であり、入力用IDT300の一端)、305は2端子対SAW共振子30の第2の端子(共振子30の出力端子33であり、出力用IDT301の一端)、306は2端子対SAW共振子30の第3の端子(入力用IDT300の他端)、307は2端子対SAW共振子30の第4の端子(出力用IDT301の他端)である。第1の端子304は共通アンテナ端子用パッド6に接続され、第2の端子305は受信用フィルタ2の入力端子22に接続されている。第3の端子306と第4の端子307は互いに接続された上で位相線路31の一端に接続され、さらに位相線路31の他端は接地されている。
【0027】
位相線路31は、低温焼成セラミックス(LTCC)パッケージ内に形成したストリップラインにより構成され、ワイヤー等の接続手段を介して、2端子対SAW共振子30の第3の端子306及び第4の端子307に接続される。フィルタ1,2及び2端子対SAW共振子30は、例えば圧電基板LiTaO3 上に形成される。フィルタ1,2の各共振子、2端子対SAW共振子30及び位相線路31の電極材料としては、例えばAl−Cu合金などを用いる。2端子対SAW共振子30とフィルタ2を共通の基板上に形成してもよいし、さらにフィルタ1も共通の基板上に形成してもよい。
【0028】
2端子対SAW共振子30の入力用IDT300、出力用IDT301の電極指の対数はそれぞれ80対以上、IDT300と301間の距離は0.8λIDT 程度である。ここで、共振波長λIDT は、2端子対SAW共振子30のIDT電極周期長であり、2端子対SAW共振子30の中心周波数は、図2に示す送信用フィルタ1の通過域P1の低周波側の端部周波数近傍に設定される。なお、入力用IDT300と出力用IDT301との間で電極指の対数や、電極指の交差幅、波長λIDT を異なる値にしてもよい。
【0029】
ここで、インピーダンス整合回路3の作用について説明する。まず、図4に受信用フィルタ2のスミスチャートを示す。点線Aで囲んだ領域が受信用フィルタ2の通過域のインピーダンスを示し、点線Bで囲んだ領域が受信用フィルタ2の低周波側の減衰域(すなわち、送信用フィルタ1の通過域)のインピーダンスを示している。図4によれば、低周波側の減衰域において受信用フィルタ2が低インピーダンスとなっている。したがって、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2のみから分波器を構成しようとしても、送信用フィルタ1からの送信信号が受信用フィルタ2に流れ込み、分波器として動作しないことが分かる。
【0030】
図5に、受信用フィルタ2の前段にインピーダンス整合回路3を接続した場合のスミスチャートを示す。点線A,Bで囲んだ領域の意味は図4の場合と同じである。図5によれば、受信用フィルタ2にインピーダンス整合回路3を接続すると、低周波側の減衰域において受信用フィルタ2が高インピーダンスになることが分かる。これにより、送信回路からの送信信号が受信用フィルタ2側に回り込むことがなくなり、分波器として動作することが分かる。
【0031】
2端子対共振子は、本来、狭帯域の帯域通過フィルタとして用いられる。図6(A)は一般的な2端子対SAW共振子の通過特性を示す図、図6(B)は2端子対SAW共振子の入出力間の位相回転角を示す図、図6(C)は2端子対SAW共振子のリターンロスを示す図である。図6(C)のS11はリターンロスを表すSパラメータである。図6の例では、2端子対SAW共振子の共通接地端子(図3の端子306,307に相当)に0.15nHのインダクタンス素子の一端を接続し、このインダクタンス素子の他端を接地している。
【0032】
図7のような通過特性を有し、かつ図8のようなインピーダンス特性を有する帯域通過フィルタ(以下、フィルタRと呼ぶ)の前段に、図6(A)〜図6(C)に示した特性の2端子対SAW共振子を接続すると、通過特性は図9のように変化し、またインピーダンス特性は図10のように変化する。図8、図10において、点線Cで囲んだ領域はフィルタRの通過域のインピーダンスを示し、点線Dで囲んだ領域はフィルタRの低周波側の減衰域のインピーダンスを示している。したがって、フィルタRの前段に2端子対SAW共振子を接続すると、フィルタとして機能しないことが分かる。フィルタとして機能しないことは、フィルタRの通過域が2端子対SAW共振子の減衰域になっていることから明らかである。
【0033】
一方、2端子対SAW共振子の共通接地端子に適切な電気長の位相線路(例えば電気長0.15λ)の一端を接続して、この位相線路の他端を接地すると、2端子対SAW共振子の特性は図11(A)〜図11(C)のようになる。図11(A)は2端子対SAW共振子の通過特性を示す図、図11(B)は2端子対SAW共振子の入出力間の位相回転角を示す図、図11(C)は2端子対SAW共振子のリターンロスを示す図である。図11(A)〜図11(C)から明らかなように、2端子対SAW共振子の共通接地端子に位相線路を接続すると、図6(A)〜図6(C)に示した2端子対SAW共振子で通過域であったところが減衰域になっていることが分かる。
【0034】
前記のフィルタRの前段にこのような2端子対SAW共振子を接続すると、その通過特性は図12のようになり、図7に示したフィルタRの通過特性の形をほぼ維持することができる。また、フィルタRの前段に2端子対SAW共振子を接続したときのスミスチャートは図13のようになり、点線Dで示すフィルタの低周波側の減衰域が高インピーダンスになっていることが分かる。
【0035】
図12、図13に示した特性は、図1の分波器におけるインピーダンス整合回路3及び受信用フィルタ2の特性として好適である。2端子対SAW共振子30のIDT300,301の電極指の交差幅及び位相線路31の線路長を調整することにより、受信用フィルタ2の通過域付近のリターンロスを最小にすることができ、また2端子対SAW共振子30の共振波長λIDT 及び位相線路31の線路長によって受信用フィルタ2の減衰域のインピーダンス配置を調整することにより、インピーダンス整合回路3として最適な組み合わせを得ることができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態では、2端子対SAW共振子30の共通接地端子に位相線路31の一端を接続して、この位相線路31の他端を接地することにより、インピーダンス整合回路を実現することができ、位相線路を用いたインピーダンス整合回路の調整が容易であるという効果を保ちつつ、位相線路31の線路長を従来よりも短くすることができ、分波器の小型化を実現することができる。
【0037】
以下、位相線路31の線路長を従来よりも短くできる理由について説明する。一般的な2端子対SAW共振子は、図6(B)に示すような位相特性を有しており、一定の位相変化素子として用いることが可能である。しかしながら、図6(A)の通過特性をみると、狭帯域なフィルタ特性となっており、所望の周波数における挿入損失が劣化している。これに対して、2端子対SAW共振子の共通接地端子に適切な長さの位相線路を接続すると、通過特性が図11(A)のようになり、広い周波数範囲で低損失な通過特性となり、インピーダンス整合回路に適した特性となる。
【0038】
接続する受信用フィルタ2のインピーダンスに応じて、2端子対SAW共振子30のインピーダンス設定及び位相線路31の線路長の最適値が異なるが、位相線路のみを用いたインピーダンス整合回路の場合に比べて、本実施の形態のインピーダンス整合回路3では、2端子対SAW共振子30の位相変化を利用していることから、位相線路31に必要とされる位相回転量が少なくなり、位相線路31の線路長を従来よりも短くすることができる。従来のインピーダンス整合回路の位相線路では、電気長がλ/4(λは受信用フィルタの中心周波数f2と位相線路の誘電体中の速度とから定まる電磁波の波長)程度必要であったのに対し、本実施の形態の位相線路31では、電気長は1/10λから1/8λ程度である。
【0039】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図14は本発明の第2の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図、図15は図14の分波器のI−I線断面図、図16は図14の分波器における位相線路31を上から透視した図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0040】
本実施の形態は、第1の実施の形態で説明した分波器をLTCCパッケージにより構成した例であり、図14に示す面は、チップダイボンド面である。LTCCパッケージは、上下をGND導体50,52で挟まれた誘電体51内に位相線路31を設けたものである。位相線路31の電極材料としては、Cuやタングステン及びAgなどが用いられる。パッケージの基材となる誘電体51としては、比誘電率7〜10のアルミナあるいはガラスセラミックが用いられる。
【0041】
パッケージのチップダイボンド面には、チップを格納するための矩形の空間が形成され、この矩形空間内に送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2が搭載されている。そして、これらの送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2を囲むように外部接続用の電極パッドが形成され、ワイヤーによって所定の電気的接続がなされている。すなわち、送信用フィルタ1の入力端子12は、ワイヤーを介して送信用フィルタ入力端子用パッド5と接続され、フィルタ1の出力端子13は、ワイヤーを介して共通アンテナ端子用パッド6と接続され、フィルタ1の接地端子14は、ワイヤーを介して接地用パッド15と接続されている。
【0042】
一方、2端子対SAW共振子30は受信用フィルタ2上に搭載されている。2端子対SAW共振子30の入力端子32は、ワイヤーを介して共通アンテナ端子用パッド6と接続され、共振子30の出力端子33は、受信用フィルタ2の入力端子22と接続され、共振子30の共通接地端子34(図3の306,307)は、ワイヤーを介して共通接地端子用パッド35に接続されている。さらに、受信用フィルタ2の出力端子23は、ワイヤーを介して受信用フィルタ出力端子用パッド8と接続され、フィルタ2の接地端子24は、ワイヤーを介して接地用パッド25と接続されている。
【0043】
位相線路31の一端は、ビアホール36により共通接地端子用パッド35に接続され、位相線路31の他端は、ビアホール37によりGND導体52に接続され、接地されている。GND導体50とGND導体52とは、内部ビア53により互いに接続されると共に、側面のキャスタレーション(側面電極)により接続されている。さらに、パッケージの底面にはフットパターン55が形成され、パッケージの上面はキャップ56により封止される。
【0044】
本実施の形態では、共通アンテナ端子用パッド6が含まれるパッド列と受信用フィルタ出力端子用パッド8が含まれるパッド列とを送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2を挟んで対向するように配置している。これにより、本実施の形態では、図26に示した従来の分波器に比べて、共通アンテナ端子と受信用フィルタ2の出力端子間のアイソレーションを改善することができる。
【0045】
以下、本実施の形態のようなパッド配置が可能な理由について説明する。図26に示した従来の分波器では、位相線路の線路長を確保する必要があるので、共通アンテナ端子用パッド106と受信用フィルタ入力端子用パッド107とが送信用フィルタ101及び受信用フィルタ102を挟んで対向するように配置されている。この配置では、必然的に共通アンテナ端子用パッド106と受信用フィルタ出力端子用パッド108とが近接して配置されることになる。
【0046】
一方、本実施の形態では、位相線路31の一端を2端子対SAW共振子30の共通接地端子に接続して、位相線路31の他端は接地すればよいので、位相線路31に関係するパッド配置を決定する際には位相線路31の線路長を考慮する必要はなく、共通接地端子用パッド35の位置のみを考慮すればよい。したがって、共通アンテナ端子用パッド6と受信用フィルタ出力端子用パッド8とが送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2を挟んで対向するように配置することが可能となる。
【0047】
なお、本実施の形態では、ワイヤーボンディングによる構成例を示しているが、フリップチップボンドを用いた実装あるいはCSP(Chip Scale Package)による実装を用いてもよい。
【0048】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図17は本発明の第3の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図であり、図1、図14と同一の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態は、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2を1チップ化したものである。
【0049】
第2の実施の形態では、共通アンテナ端子用パッド6とインピーダンス整合回路3の入力端子32とがワイヤーを介して接続され、さらに共通アンテナ端子用パッド6と送信用フィルタ1の出力端子13とがワイヤーを介して接続されているため、インピーダンス整合回路3の入力端子32にとって不要なインダクタンス成分として、パッド6と端子13間のワイヤーが付加されていることになる。
【0050】
これに対して、本実施の形態では、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2とを1チップ化したことにより、フィルタ1,2の上に搭載したインピーダンス整合回路3の入力端子32と送信用フィルタ1の出力端子13とを直接接続することができ、共通アンテナ端子用パッド6との間の接続は1本のワイヤーだけで済むので、不要なインダクタンス成分を除去することができる。
【0051】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図18は、本発明の第4の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図であり、図1と同一の構成には同一の符号を付してある。第1の実施の形態では、アンテナと受信用フィルタ2との間にインピーダンス整合回路3を挿入しているが、本実施の形態は、さらにアンテナと送信用フィルタ1との間にインピーダンス整合回路4を挿入したものである。
【0052】
インピーダンス整合回路3と同様に、インピーダンス整合回路4は、2端子対SAW共振子40と、位相線路41とから構成される。インピーダンス整合回路4の入力端子42は、送信用フィルタ1の出力端子13と接続され、インピーダンス整合回路4の出力端子43は共通アンテナ端子用パッド6を介してアンテナに接続されている。2端子対SAW共振子30と同様に、2端子対SAW共振子40は、入力用IDT(第3のすだれ状電極)と出力用IDT(第4のすだれ状電極)と反射器とを有し、2端子対SAW共振子40の中心周波数は、図2に示す受信用フィルタ2の通過域P2の高周波側の端部周波数近傍に設定される。
【0053】
こうして、本実施の形態では、受信用フィルタ2側にインピーダンス整合回路3を挿入することで、受信用フィルタ2を低周波側の減衰域において高インピーダンスにできるだけでなく、送信用フィルタ1側にインピーダンス整合回路4を挿入することで、送信用フィルタ1を高周波側の減衰域において更に高インピーダンスにすることができる。
【0054】
すなわち、本実施の形態のようにフィルタ1,2の双方にインピーダンス整合回路を挿入すると、送信用フィルタ1の通過域にあたる受信用フィルタ2の低周波側の減衰域と受信用フィルタ2の通過域にあたる送信用フィルタ1の高周波側の減衰域とをそれぞれ高インピーダンスに設定することが可能となり、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2との間の干渉を大幅に低減することができる。
【0055】
送信用フィルタ1の通過特性の1例を図19に示す。この送信用フィルタ1の後段に、中心周波数がフィルタ1の中心周波数より高いインピーダンス整合回路4を接続した場合の通過特性を図20に示す。また、送信用フィルタ1のスミスチャートを図21に示し、送信用フィルタ1の後段にインピーダンス整合回路4を接続した場合のスミスチャートを図22に示す。図21、図22において、点線Eで囲んだ領域は送信用フィルタ1の通過域のインピーダンスを示し、点線Fで囲んだ領域は送信用フィルタ1の高周波側の減衰域のインピーダンスを示している。図21、図22から明らかなように、インピーダンス整合回路4を接続すると、点線Fで示す送信用フィルタ1の高周波側の減衰域が高インピーダンスになることが分かる。
【0056】
図23に本実施の形態の分波器の通過特性を示す。図23において、CHA1は送信用フィルタ1の特性、CHA2は受信用フィルタ2の特性、P1は送信用フィルタ1の通過域、P2は受信用フィルタ2の通過域を示す。図23によれば、良好な分波器特性が得られることが分かる。また図20、図23によれば、送信用フィルタ1の高周波側の減衰量も改善されていることが分かる。これは、送信用フィルタ1の高周波側の減衰域が高インピーダンスになったことによる。したがって、本実施の形態では、第1の実施の形態よりも更に好ましい分波器を得ることができる。
【0057】
なお、本実施の形態では、受信用フィルタ2の中心周波数が送信用フィルタ1の中心周波数より高くなっているが、これに限るものではなく、受信用フィルタ2の中心周波数が送信用フィルタ1の中心周波数より低い場合でも本発明を適用することができる。この場合は、図1、図18において、送信用フィルタ1と受信用フィルタ2の位置を入れ替えるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、インピーダンス整合回路、およびインピーダンス整合回路を用いた分波器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における分波器の通過特性の1例を示す図である。
【図3】図1の分波器におけるインピーダンス整合回路のレイアウトを示す平面図である。
【図4】図1の分波器における受信用フィルタのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図5】図1の分波器において受信用フィルタの前段にインピーダンス整合回路を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図6】一般的な2端子対SAW共振子の通過特性、入出力間の位相回転角及びリターンロスを示す図である。
【図7】帯域通過フィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図8】図7の帯域通過フィルタのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図9】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図6の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合の通過特性を示す図である。
【図10】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図6の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図11】2端子対SAW共振子の共通接地端子に位相線を接続した場合の通過特性、入出力間の位相回転角及びリターンロスを示す図である。
【図12】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図11の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合の通過特性を示す図である。
【図13】図7、図8の特性の帯域通過フィルタの前段に図11の特性の2端子対SAW共振子を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図14】本発明の第2の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図である。
【図15】図14の分波器の断面図である。
【図16】図14の分波器における位相線路を上から透視した図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態となる分波器のパッケージの概略構成を示す平面図である。
【図18】本発明の第4の実施の形態となる分波器の構成を示す等価回路図である。
【図19】図18の分波器における送信用フィルタの通過特性の1例を示す図である。
【図20】図19の特性の送信用フィルタの後段にインピーダンス整合回路を接続した場合の通過特性を示す図である。
【図21】図18の分波器における送信用フィルタのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図22】図19の特性の送信用フィルタの後段にインピーダンス整合回路を接続した場合のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図23】本発明の第4の実施の形態における分波器の通過特性の1例を示す図である。
【図24】分波器の一般的構成を示すブロック図である。
【図25】従来のインピーダンス整合回路の構成を示す回路図である。
【図26】従来の分波器のチップダイボンド面の平面構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0060】
1…送信用フィルタ、2…受信用フィルタ、3、4…インピーダンス整合回路、30、40…2端子対SAW共振子、31、41…位相線路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する2端子対SAW共振子と、
一端が前記2端子対SAW共振子の共通接地端子に接続され、他端が接地された位相線路とを備え、
前記第1のすだれ状電極の一端が入力端子となり、前記第2のすだれ状電極の一端が出力端子となり、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記共通接地端子となることを特徴とするインピーダンス整合回路。
【請求項2】
一端が第1の信号端子に接続され、他端が共通信号端子に接続された第1のフィルタと、
一端が第2の信号端子に接続され、中心周波数が前記第1のフィルタの中心周波数より高い第2のフィルタと、
前記共通信号端子と前記第2のフィルタの他端との間に設けられた第1のインピーダンス整合回路とを備え、
前記第1のインピーダンス整合回路は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する第1の2端子対SAW共振子と、一端が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の共通接地端子に接続され、他端が接地された第1の位相線路とを備え、前記第1のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第2のすだれ状電極の一端が前記第2のフィルタの他端に接続され、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記第1の共通接地端子となることを特徴とする分波器。
【請求項3】
請求項2記載の分波器において、
さらに、前記共通信号端子と前記第1のフィルタの他端との間に設けられた第2のインピーダンス整合回路を備え、
前記第2のインピーダンス整合回路は、第3のすだれ状電極と第4のすだれ状電極とを有する第2の2端子対SAW共振子と、一端が前記第2の2端子対SAW共振子の第2の共通接地端子に接続され、他端が接地された第2の位相線路とを備え、前記第3のすだれ状電極の一端が前記第1のフィルタの他端に接続され、前記第4のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第3のすだれ状電極の他端と前記第4のすだれ状電極の他端とが前記第2の共通接地端子となることを特徴とする分波器。
【請求項4】
請求項2又は3記載の分波器において、
前記共通信号端子と前記第2の信号端子とが前記第1のフィルタ及び第2のフィルタを挟んで対向するように、前記共通信号端子と前記第2の信号端子とをパッケージ上に配置したことを特徴とする分波器。
【請求項1】
第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する2端子対SAW共振子と、
一端が前記2端子対SAW共振子の共通接地端子に接続され、他端が接地された位相線路とを備え、
前記第1のすだれ状電極の一端が入力端子となり、前記第2のすだれ状電極の一端が出力端子となり、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記共通接地端子となることを特徴とするインピーダンス整合回路。
【請求項2】
一端が第1の信号端子に接続され、他端が共通信号端子に接続された第1のフィルタと、
一端が第2の信号端子に接続され、中心周波数が前記第1のフィルタの中心周波数より高い第2のフィルタと、
前記共通信号端子と前記第2のフィルタの他端との間に設けられた第1のインピーダンス整合回路とを備え、
前記第1のインピーダンス整合回路は、第1のすだれ状電極と第2のすだれ状電極とを有する第1の2端子対SAW共振子と、一端が前記第1の2端子対SAW共振子の第1の共通接地端子に接続され、他端が接地された第1の位相線路とを備え、前記第1のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第2のすだれ状電極の一端が前記第2のフィルタの他端に接続され、前記第1のすだれ状電極の他端と前記第2のすだれ状電極の他端とが前記第1の共通接地端子となることを特徴とする分波器。
【請求項3】
請求項2記載の分波器において、
さらに、前記共通信号端子と前記第1のフィルタの他端との間に設けられた第2のインピーダンス整合回路を備え、
前記第2のインピーダンス整合回路は、第3のすだれ状電極と第4のすだれ状電極とを有する第2の2端子対SAW共振子と、一端が前記第2の2端子対SAW共振子の第2の共通接地端子に接続され、他端が接地された第2の位相線路とを備え、前記第3のすだれ状電極の一端が前記第1のフィルタの他端に接続され、前記第4のすだれ状電極の一端が前記共通信号端子に接続され、前記第3のすだれ状電極の他端と前記第4のすだれ状電極の他端とが前記第2の共通接地端子となることを特徴とする分波器。
【請求項4】
請求項2又は3記載の分波器において、
前記共通信号端子と前記第2の信号端子とが前記第1のフィルタ及び第2のフィルタを挟んで対向するように、前記共通信号端子と前記第2の信号端子とをパッケージ上に配置したことを特徴とする分波器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2007−6274(P2007−6274A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185491(P2005−185491)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】
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