説明

インフルエンザ抗原送達用のベクターおよび構築体

本発明は、免疫応答標的細胞にインフルエンザ抗原を送達するためのフルオロカーボンベクターに関する。本発明は更に、フルオロカーボンベクター−インフルエンザ抗原構築体、ならびにヒトを含めた動物におけるワクチンおよび免疫治療薬としての、抗原と結合したこのようなベクターの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザ抗原送達用のベクターおよび構築体に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは、インフルエンザウィルスが原因の疾患または感染症の総称である。インフルエンザウィルスは、ウィルスのオルトミクソウィルス(Orthomyxoviridae)科の構成員であり、2つの属、即ち、インフルエンザA型およびB型ウィルスと、インフルエンザC型ウィルスとを含む。インフルエンザA型、B型およびC型ウィルスは、各ウィルス型に特異的な内部核タンパク質およびマトリックスタンパク質に基づいて区別される。インフルエンザA型ウィルスは、ヒト、ブタ、鳥類、アザラシおよび馬を含む、ある範囲の動物種に自然に感染することができる。しかし、インフルエンザB型ウィルスは、ヒトだけに感染し、インフルエンザC型ウィルスは、ヒトおよびブタに感染する。インフルエンザA型ウィルスは、表面糖タンパク質のヘマグルチニン(H)およびノイラミニダーゼ(N)の抗原性によって決まるサブタイプに更に分類される。
【0003】
歴史的には、ヒトのインフルエンザA型感染症は、ヘマグルチニンの3サブタイプ(H1、H2およびH3)ならびにノイラミニダーゼの2サブタイプ(N1およびN2)により引き起こされ、より最近では、以前には鳥類限定であったサブタイプH5、H7およびH9によるヒトの感染症も報告されている。これまでに、合計で異なるヘマグルチニン16種およびノイラミニダーゼ9種のインフルエンザA型サブタイプが同定されており、これらは全て鳥類に広まっている。ヒトと同様にブタおよびウマは、遥かに狭い範囲のサブタイプに限られている。
【0004】
インフルエンザA型およびB型のビリオンは、構造的に多形態であり、球形例が直径80〜120nmであるのに対し、線状体は長さが300nmに及ぶこともある。粒子1個当たり、宿主由来の脂質二重層膜中に埋め込まれた表面スパイク糖タンパク質が、およそ500個存在する(普通、ヘマグルチニンタンパク質4〜5個対ノイラミニダーゼ1個の比で)。その膜内には膜貫通型イオンチャンネルタンパク質のM2がある一方、構造タンパク質のM1は二重層の下側にある。ウィルスのコア内では、一本鎖マイナス鎖RNAが、ゲノムから発現される他のウィルスタンパク質6種、即ち核タンパク質(NP)、転写酵素3種(PB2、PB1およびPA)ならびに非構造タンパク質2種(NS1およびNS2)と会合している。インフルエンザウィルスのゲノムは、8分節、即ち「遺伝子交換(gene swapping)」による再集合を可能にする特徴を含む。ヘマグルチニンは、宿主細胞受容体とのウィルスの結合を可能にし、後にその中で複製することになる細胞の中へのウィルスの進入を促進する。ノイラミニダーゼタンパク質は、シアール酸末端残基を酵素的に切断するが、気道のムチン層を通るウィルスの輸送を補助し、ならびに宿主細胞からの子孫ウィルスの出芽を促進すると考えられている。ヒトにとって遥かに健康リスクの少ないインフルエンザC型ウィルスは、ヘマグルチニン、融合活性および受容体破壊活性を併せ持つ単一の表面タンパク質を有する。
【0005】
変異性(error prone)RNAポリメラーゼ酵素の結果として、インフルエンザウィルスのヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼの両タンパク質は、ウィルスの複製能に必ずしも影響する必要のない点変異を受け易い。宿主抗体の応答で認識される部位の1つにおけるこのような変異(または同時発生変異)は、ワクチン接種または以前の感染で誘発された宿主抗体が、この「新たな」ウィルス株に有効に結合できないため、感染を持続させる結果になる恐れがある。ヒトインフルエンザ株は、こうした点変異を介して継続的に進化しているので、このウィルスは、ヒトの免疫応答の限られた抗体範囲を回避し、流行病を起こすことができる。そのため、インフルエンザ感染症の定期的な「季節性」発作が、集団において抗原連続変異を受けている循環株により起こされる。
【0006】
季節性流行の間に、インフルエンザは、素早く世界中に広がることができ、病院および他の保健上のコストならびに生産性の損失から見て、大きな経済的負担を被る。このウィルスは、空気中の飛沫となってヒトからヒトへ移され、上気道の気管および気管支中の上皮細胞を標的にする。インフルエンザウィルスは、汚染された表面から取り上げられ、口に運ばれることもある。疾患は、特に込み合った状況では、咳およびくしゃみを介して非常に素早く広がる。このウィルスの安定性は、低い相対湿度および低い温度により促進され、その結果、温帯地域における季節性流行病が冬に発生する傾向がある。インフルエンザA型株の方では、高い罹患率および致死率が認められ、インフルエンザB型株の方は、普通、発病率が低く、疾患の程度も軽い。しかし、時にはインフルエンザB型が、A型ウィルスと同じ重度の流行病を起こすこともある。インフルエンザB型は、主に児童の病原体であり、A型と同程度の抗原変異性を示すことが普通はない。
【0007】
合併症を伴わない典型的なインフルエンザ感染症は、急速な発病(頭痛、咳、寒気)に続く、発熱、喉の痛み、相当な筋肉痛、不定愁訴および食欲不振を特徴とする。更なる症状には、鼻汁、胸苦しさおよび眼球症状を挙げ得る。感染症の最も顕著な症候は、温度範囲が普通38〜40℃の発熱である。大多数の人々は、全く医療処置をせずに1〜2週以内にインフルエンザ感染症から回復すると見込まれるが、集団に所属する一定の人たちにとっては、この疾患は、重大な危険性を呈することがある。このような個人には、幼児、高齢者、および肺疾患、糖尿病、癌、腎障害または心臓障害などの病状に罹っている人たちが挙げられる。この「危険状態にある」集団において、該感染症は、基礎疾患の重篤な合併、細菌性肺炎(肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌および黄色ブドウ球菌などの呼吸器系病原体で起こる)、および死亡を起こすこともある。インフルエンザ感染症の臨床的特徴は、子供においても類似しているが、発熱が高くなることがあり、熱性痙攣を起こす恐れもある。それに加え、子供では、嘔吐および腹痛、ならびに中耳炎の合併、クループおよび筋炎の発症率が高い。
【0008】
世界保健機構の推計では、毎年のインフルエンザ流行で、人口の5〜15%が上気道感染症に罹る。入院および死亡は、主にハイリスクグループ(高齢者および慢性病患者)で起こる。評価は困難であるが、こうした毎年の流行の結果、重病が3百万から5百万症例、および死亡がおよそ25万から50万件、毎年世界中で発生していると考えられる。工業国でインフルエンザに伴う現在の死亡の90%強が、65歳を超えた高齢者の間で起こっている。米国では、CDCの推計によれば、季節性インフルエンザ感染症から生じた合併症の後で、毎年平均して20万人強が入院しており、3万6千人程の超過死亡率が記録されている。
【0009】
インフルエンザ感染症からの回復を制御する宿主免疫応答は、表面タンパク質に向けられる血清抗体、粘膜分泌IgA抗体、および細胞性免疫応答の組合せにより与えられる。一次感染から1〜2週後、中和性の赤血球凝集抑制(HAI)抗体ならびにノイラミニダーゼに対する抗体が、血清中に検出でき、およそ3〜4週にピークとなる。再感染の後では、抗体応答が急速になる。インフルエンザ抗体は、数カ月間または数年間持続し得るが、一部のハイリスクグループでは、抗体レベルが、ワクチン接種から2〜3カ月以内に低下し始めることがある。IgA分泌抗体は、感染からおよそ14日後にピークとなり、唾液、鼻汁、痰、および気管洗浄液中に検出することができる。抗体産生細胞の出現に先立って、インフルエンザに対して特異的な細胞傷害性T細胞が出現し、最大ウィルス量を減少させる一方、抗ウィルス性サイトカインの誘導により、より迅速なウィルス消滅を媒介し、更に感染細胞を溶解することによって、感染症を制限するように働く。それに加え、単核細胞が、感染気道に浸潤し、インフルエンザ感染細胞に対して抗体依存性の細胞媒介性細胞傷害を加える。
【0010】
現在までのところ、インフルエンザなどの呼吸器系ウィルス感染症に対するワクチン手法は、ビリオンの中和または細胞内へのウィルス進入の阻止によりウィルス感染から防護する、抗体の誘導に本質的に依存している。こうした体液性免疫応答は、所与の株に対して保存されているウィルス表面外部タンパク質を標的にする。そのため、抗体媒介防護は、同種ウィルス株に対しては有効であるが、血清学的に異なる表面タンパク質を有する異種株に対しては十分ではない。この異同は、多くのウィルスの表面タンパク質が急速に変異できるので、重要である。例えば、ある種のインフルエンザウィルスに対して有効な体液応答性ワクチンは、次の季節の変異体に対しては無効になる恐れがある。
【0011】
現在、認可されたインフルエンザワクチンには主に2種類ある。1群のワクチンは、活性免疫原としてウィルスの表面タンパク質のヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼを含有する。こうしたワクチンには、不活化全ウィルスワクチン、界面活性剤処理で破壊された不活化ウィルス粒子からなるウィルス成分ワクチン、他のウィルス成分を除去した精製表面タンパク質から本質的になるサブユニットワクチン、およびその表面タンパク質をリポソーム表面上に提示したヴィロソームが挙げられる。第2群は、弱毒化した生の低温適応したウィルス株を含む。こうした全てのワクチンのために、普通は3株または4株のウィルスに由来する表面抗原のブレンドが必要である。現在市販のインフルエンザワクチンは、A型の2サブタイプH3N2およびH1N1、ならびにB型のウィルス1種を含有している。毎年各々9月および2月に、WHO世界インフルエンザ計画(Global Influenza Program)は、次の季節のためにインフルエンザワクチンの組成を勧告しているが、この季節は、普通、南半球では5〜6月に始まり、北半球では11〜12月に始まる。この組成は、各国インフルエンザセンターおよびWHO協力センターの世界的ネットワークからの監視データに基づいており、9カ月後に循環しそうな各株を包含することが試みられている。こうした理由から、製造業者は、循環ウィルス株との正確な一致を実現することを保証するために、各年ごとにインフルエンザワクチンの組成を変えざるを得ない。
【0012】
大抵の不活化インフルエンザワクチンは、三角筋中の筋肉内経路を介して投与されるが、推奨部位が大腿部の前外側面である幼児は別である。不活化ワクチンは、1年につき単回用量が適当であるが、例外として、既往病状のあったワクチン接種未経験の就学前児童は、少なくとも1カ月の間隔を置いて2回の用量を受けるべきである。弱毒化した生のインフルエンザワクチン(LAIV)は、経鼻投与で送達される。こうしたワクチンは、長年ロシアで利用されており、米国では最近、小児集団における使用が認可されている。このようなワクチンは、鼻の上皮表面において局所抗体および細胞性免疫応答を誘発することができる。しかし、弱毒化した生のインフルエンザワクチンは、米国では高齢者集団(50歳過ぎ)における使用が認可されていない。
【0013】
インフルエンザウィルスの表面タンパク質に対する免疫応答の広がりおよび強度を高めるために、多様なアジュバントおよび代替的な免疫増強剤をワクチン製剤中に含めることが評価されてきた。これに関するアジュバントは、一緒に投与した抗原に対する免疫応答を調節できるが、それだけを投与した場合は、直接作用があるにしても殆どない作用剤である。インフルエンザワクチン分野における最近の認可済み開発品には、サブミクロンの水中油乳濁液であるMF−59が含まれる。アルミニウム含有アジュバントも、一部の製造業者により使用されている。こうしたアジュバントの意図は、投与抗原に対して生じる血清抗体の応答を増幅することである。
【0014】
ワクチン株と一般集団で循環している株とが抗原として良好に一致することを前提とすれば、不活化インフルエンザワクチンは、健常成人の約70%〜90%において試験室確認済みの病気を予防する。しかし、CDCは、高齢者(65歳過ぎ)におけるワクチンの有効性が、30%〜40%もの低さとなり得ると強調している。これに関しては、ヒトの老化は、ワクチンの有効性を低下させ、自然感染の危険性を増加させる記憶T細胞の応答欠陥を生み出すとの所見が、関係している。更に、地域社会的環境での臨床試験によれば、60歳過ぎのグループにおけるインフルエンザ疾患の防護には、体液性免疫ではなく、細胞性免疫が相関していることが実証された。
【0015】
それに加え、ワクチン株が循環株と抗原性が異なる場合、有効率は顕著に低下する。抗原変異性の試験によれば、インフルエンザAヘマグルチニンの少なくとも2つの抗原部位に及ぶ4個以上のアミノ酸が置換すると、ワクチンの有効性を弱めるのに十分に識別される連続変異体を生じる(Jin H, Zhou H, Liu H, Chan W, Adhikary L, Mahmood K, et al. "Two residues in the hemagglutinin of A/Fujian/411/02-like influenza viruses are responsible for antigenic drift from A/Panama/2007/99." Virology. 2005;336:113-9)A/H3N2のワクチン株と循環株が十分に一致しなかった2003〜04年時季節中に、インフルエンザが試験室で確認された年齢50〜64歳の成人に関する患者対照研究において、CDCによれば、ワクチンの有効性は、健常者では52%で、1つまたは複数のハイリスク状態の人では38%と推定された。不一致の確率は、限られた適時な製造機会によって上昇する。したがって、株の確認から、種株の生産、抗原の製造および精製、ならびに三価混合および製品の充填までの時間が、通常6カ月未満で全て現れなければならない。
【0016】
時には、病原性が高く、抗原性が新規であり、世界的な汎発性流行病を起こす新たなインフルエンザ株が、出現する。汎発性インフルエンザは、表面タンパク質の抗原不連続変異の結果であり、既存の免疫が各人に発現されなかった際に、世界的な保健にとって重大な脅威となる。汎発性株は、集団における突然の出現および抗原の新規性を特徴とする。20世紀の間に、4回の汎発性流行病が発生した。1918年の原因株はH1N1であり、1957年にはH2N2、1968年にはH3N2、および1977年にはH1N1であった。
【0017】
抗原不連続変異の発生には、3種の代替的な説明がなされている。第1に、インフルエンザウィルスのゲノムは分節化しているので、インフルエンザ2株は、単一宿主、例えばブタに重感染したときに、各々の遺伝子を交換し、異なる親株ウィルスの遺伝情報を保持する、複製能力ある子孫の構築を果たすことが可能である。遺伝子再集合として知られているこの過程は、1957年および1968年の汎発性流行病の原因であったと考えられている。1968年の汎発性流行病は、鳥類ドナーからのH3ヘマグルチニン遺伝子および他の1種の内部遺伝子が、循環していたヒトH2N2株からのN2ノイラミニダーゼおよび他の5種の遺伝子と混ぜ合わされたときに発生した。第2に、非ヒトインフルエンザ株は、ヒトに感染する能力を獲得する。1918年の汎発性流行病は、鳥類H1N1株が、ヒトからヒトへの迅速で効率的な移動を可能にするように変異したときに発生した。第3に、以前の流行病を起こした株は、ヒト集団内に隠れ、変化せずに存続し得る。例えば、1977年の汎発性H1N1株は、27年前に流行病を起こした株と本質的に同一であり、その間の年月に亘ってヒトと動物の保有宿主中に検出されなかった。
【0018】
以下の3つの主な規準が満足されてしまうと、インフルエンザが汎発流行する恐れがある。
1.少なくとも1世代の間見られなかったインフルエンザウィルスHAサブタイプが、出現する(再出現する)。
2.該ウィルスが、ヒトにおいて感染し、効率的に複製し、重大な病気を起こす。
3.該ウィルスが、ヒトの間で容易に持続的に伝染する。
【0019】
世界的な汎発性流行病で、単一年に世界人口の20%〜40%が苦しむ恐れがある。例えば、1918〜19年の汎発性流行病で、世界中で2億人が苦しみ、3千万人強が死んだ。米国では、人口の0.5%を占める50万人強が亡くなった。ワクチンおよび抗ウィルス療法が開発されて、その当時から保険医療が劇的に改善されてきたが、CDCは、汎発性流行病が今日発生すれば、世界全体で2〜7百万件の死亡が生じると推定している。
【0020】
1999年以来、インフルエンザサブタイプの異なる3株(H5N1、H7N7およびH9N2)が、鳥類の種からヒトに交差伝染してきたが、これらは全てヒトに致死をもたらす。2007年8月14日現在、H5N1高病原性トリインフルエンザウィルス(HPAIV)の感染症例が、ヒトで総計320例世界的に記録され、死亡は193件であった。
【0021】
感染しても大部分の健常者に軽度の呼吸器症状しか起こさない、普通の季節性インフルエンザと異なり、H5N1が起こす疾患は、異常に侵攻的な臨床経過を辿り、急速な悪化および高い致死率をもたらす。原発性ウィルス性肺炎および多臓器不全が、通常起こる。大抵の症例が、以前は健康であった子供および若年成人に発生したことは重要である。H5N1 HPAIVは、症状が現れるまでに他のヒトインフルエンザウィルスより長期間、一部の症例では8日間まで潜伏する。家庭の集団症例では、症例間の間隔は、一般に2〜5日間の範囲であったが、17日間にも及んでいると報告された。
【0022】
H5N1 HPAIV感染症の初期症状は、下痢を含むことが多く、何らかの呼吸器症状の1週間前まで現れることがある。この特徴は、大便中のウィルスRNAの検出と相俟って、ウィルスが、消化管中で増殖し得ることを示唆している。息切れなどの下気道症状は、病気の過程の早期に現れるが、鼻汁などの上気道症状は、それほど一般的ではない。
【0023】
H5N1 HPAIVは、現在のところ、汎発性流行病に必要な条件を2つ満足しており、H5ヘマグルチニンは、ヒトにとって新たな抗原である。H5N1様の汎発性ウィルスがもし出現すれば、誰にも免疫がなかろう。それに加え、300人強がこのウィルスに感染し、見掛け致死率は60%を超えている。
【0024】
したがって、汎発性流行病を開始する全ての要件は、1要件、即ち、該ウィルスのヒトからヒトへの効率的で持続的な伝染の確立を除き、満足されている。H5N1ウィルスがこの能力を獲得する危険性は、ヒトの感染する機会が発生する限り続くことになろう。これが起こる確率は、段階的変異またはヒト適応株との再集合のいずれかを介して現実的であると考えられる。
【0025】
科学的レベルでは、該ウィルス株が、ヒトからヒトへの容易な伝染を実現し、汎発性流行病を開始し得るまでに、ウィルス表現型の1つまたは複数の変化が必要である。しかし、トルコでの最近のヒト分離株で検出された特異的変異、循環ウィルスの哺乳類に対する増加しつつある病原性、鳥類インフルエンザウィルスへの感染に対して耐性があると以前は考えられていた、虎および猫などの他の哺乳類を含むようなH5N1 HPAIVの宿主範囲の拡大を含めた、多くの最近の知見は全て、H5N1ウィルスが、最終的にはヒトからヒトへの伝染を促進し得る能力を進化させ続けていることを示している。
【0026】
汎発性能力が恐らくは遥かに高い他のインフルエンザウィルスも、今後出現する恐れがある。こうしたウィルスには、近年になってやはりヒトに伝染した、H9およびH7の幾つかのウィルス株が挙げられる。H9ウィルスは、アジアの家禽で現在流行しており、南東および東部中国のブタ集団中にも、効率的に交差伝染した。H9N2株は、典型的なヒト様受容体特異性を有し、宿主範囲が広いという事実が、懸念されている。
【0027】
2003年の早期に、H7N7 HPAIVの発生がオランダの家禽で起こった。H7N7ウィルスのトリからヒトへの伝染が、少なくとも82症例で起こった。結膜炎が、H7株に感染した人々の最も一般的な疾患症状であり、7症例が、典型的なインフルエンザ様の病気を示したに過ぎない。このウィルスは、ヒトに高度に病原性でないことが判明し、認められた致死例は1件だけであった。汎発性能力のある他のウィルスは、汎発性ウィルスとしての過去の経歴によるH2サブタイプ、ならびにアジアおよび北米での家禽種における高い発生率によるH6のウィルスである。
【0028】
こうしたことから、ヒトインフルエンザの新たな汎発性流行の脅威は、HPAI H5N1に特有に関連したものではないことが示される。
【0029】
インフルエンザの汎発性流行に備えて、H5N1インフルエンザの候補ワクチンを用いた多くの臨床試験が行われてきた。これらのワクチンは、防護的と予測される血清の抗体応答を生じるためには、季節性ワクチンの通常使用量より遥かに多量のヘマグルチニン抗原、またはアジュバントの配合のいずれかの多回投与が必要であることを一貫して示している。これは、H5ヘマグルチニンに対して当該集団が免疫学的に未経験であることを直接反映した結果である。したがって、現在のところ、汎発性インフルエンザワクチンに利用できる唯一の選択肢は、行い得る投与回数が厳しく制限されると思われる、非常に高いHA含量のワクチン、または大半の国々で現在認可されていないアジュバントの使用のいずれかである。汎発性株に適合するワクチンは、ヒトで最初に分離したときから、製造するのに何カ月も要する上に、汎発性流行病の出現以前に製造した備蓄ワクチンは、ほぼ間違いなく抗原性が同一ではなく、そのため防護するにしても、限られた防護しか示さないと見込まれることも認識すべきである。抗原連続変異の証拠は、H5N1のつい最近の発生においてもはや明らかである。
【0030】
要約すると、季節性および汎発性双方のインフルエンザワクチンに対して、改善すべき明瞭な必要性が以下のように存在する。
1.有効性に明白な制限、特に初回接種を受けていない個人に制限がある。これは、抗原不連続変異から生じるインフルエンザの汎発性流行の見通しに関して、特に懸念される。
2.次の秋期/冬期に循環していそうなインフルエンザ株の正確な予測能力に対する依存性。ワクチン株と実際に感染症を起こす株との不一致のために、当該集団の相当な割合がインフルエンザに罹り易くなろう。
3.当該ウィルスが抗原連続変異を受けることによる、年次ごとに危険状態のグループにワクチン再接種を行う必要性。
4.見込みのある生物系製造工場が世界的に限られた数しかないことによる、生産能力上の制約。
5.高齢者年齢層に与えられる防護は、従来ワクチンによって制限されている。
【0031】
したがって、改良された一群のインフルエンザワクチンは、合成品で安定であり、高齢者(危険状態の)グループに有効性が強化されて、全てのインフルエンザA株(潜在的な汎発性株を含む)に対して有効であれば好ましいものとなろう。
【0032】
インフルエンザ疾患に対する防護におけるT細胞の役割
従来のインフルエンザワクチン技術は、ウィルス表面タンパク質に対する抗体応答に主として焦点を当ててきたが、こうした技術は、有効性を弱め、前記の手配上の脆弱性を生み出す、抗原の連続変異および不連続変異を受け易い。対照的に、細胞性免疫応答を媒介するT細胞は、異種のウィルスの株およびクレードに横断的に、より高度に保存されているタンパク質を標的にすることができる。この性質は、異種のウィルスの株およびクレードから防護する見込みのある防護的細胞性免疫応答を誘発するワクチンを与える(ヘテロサブタイプ免疫)。インフルエンザウィルスについては、PB1、PB2、PA、NP、M1、M2、NS1およびNS2の各タンパク質の保存、および対応する抗原特異的なCD4+およびCD8+T細胞の持続が、こうしたタンパク質を魅力的なワクチン標的にしている。
【0033】
防護的な抗ウィルス性細胞性免疫は、1型CD4+Tヘルパーリンパ球(Th1)に支持される1型応答の誘発からなり、この誘発が、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、ならびにIFN−γおよびIL−2などの免疫賦活性サイトカインの誘導および維持を含む、免疫エフェクター機構の活性化を起こす。CD4+Tヘルパー細胞は、直接的な細胞間相互作用を介して、または主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子に結合した抗原性T細胞ペプチドエピトープを認識した後、サイトカインを分泌することにより、他の免疫細胞の補助を主として担当する。細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、通常CD8を発現し、MHCクラスI分子が提示する外来抗原をその上に認識した細胞の溶解またはアポトーシスを誘発し、ウィルスなどの細胞内病原体から防護する。表現型および機能のこの連合は、CD4+細胞が細胞溶解活性を示し得る一方、CD8+細胞が、抗ウィルス性サイトカイン、特にインターフェロン−γ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子を分泌するので、絶対的なものではない。事実、CD4CTL活性が、ヒトにおける急性および慢性ウィルス感染症を制御する別の免疫機構として提案されている。CD4CTLは、直接的な抗ウィルス性細胞溶解作用によりウィルスの拡散を制御し、IFN−γなどの抗ウィルス性サイトカインの産生により、直接的な抗ウィルス活性を演じ得る。IFN−γは、ウィルス産生に対して直接的な阻害的および非細胞溶解的作用を有することが知られている。CD4+Tヘルパー細胞は、B細胞の抗体応答およびクラススイッチの決定、ならびにマクロファージなどの食細胞の殺細菌活性の最大化においても必須である。
【0034】
細胞性免疫応答は、インフルエンザ感染の抑制、疾患症候の改善および疾患発見の促進に重要な役割を果たすと考えられている。インフルエンザ特異的な細胞性免疫は、自然感染により誘発され、核タンパク質(NP)、ポリメラーゼ(PB1、PB2&PA)、M1およびM2タンパク質、ならびに非構造タンパク質1(NS1)を含む、数種のウィルスタンパク質が、ヒトの記憶ヘテロサブタイプT細胞の応答に対する標的として特定された。NS2も関与し得る。こうした内部タンパク質は、高度に保存された免疫支配的な領域を含有するため、T細胞の標的として理想的である。特に、実験研究によれば、インフルエンザAのNPは、マウスおよびヒトにおけるサブタイプ特異的、交差反応性双方のCTLにとって重要な標的抗原を代表することが示された。これは、インフルエンザサブタイプ内およびサブタイプ間の高い配列可変性のために不適当な標的である、ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)と対照的である。
【0035】
より具体的には、細胞性免疫は、高病原性株を含むインフルエンザ疾患に対する防護に強く関与している。CD4+およびCD8+記憶T細胞は、肺気道中に存在しており、これらの細胞は、病原体量が少ない場合、感染部位における病原体の固定を媒介することにより、インフルエンザの曝露に対する肺免疫に役割を演じているという証拠が、増加しつつある。CD8+T細胞の減失は、初回抗原投与を受けたマウスがインフルエンザ感染に対して応答する能力を低下させるが、この応答は、防護的二次応答におけるCD8+T細胞の役割を示す。ウィルスの複製は、呼吸器上皮中の細胞に限られるので、CD8+T細胞は、この部位でエフェクター機能を行使することにより、抗ウィルス性サイトカインを産生し、標的細胞が特異的なT細胞受容体をそれに対して有する、ウィルス決定因子を提示する該標的細胞を溶解する。感染上皮細胞の溶解は、パーフォリンおよびグランザイムならびにFas機構を含有するエキソサイトーシス顆粒によって媒介される。(Thomas PG, Keating R, Hulse-Post DJ, Doherty PC. "Cell-mediated protection in influenza infection." Emerg Infect Dis. 2006 Jan;12(1):48-54)。
【0036】
インフルエンザに対するCD4+T細胞の活発な応答は、流入領域リンパ節に続いて脾臓で開始され、感染から6〜7日後に肺および気管支肺胞の分泌物中でピークとなる。インフルエンザ感染に対するCD4 T細胞のこの一次応答は、CD8応答より大きさでは小さいが、ロバストなCD4+増殖、Th−1の分化および感染部位へのそれらの移動を伴うことが示された。CD4+Tヘルパー細胞は、インフルエンザ感染に対する長期の有効なCD8記憶にも必要である。CD4エフェクターT細胞および記憶応答は、インフルエンザ特異的なCD8+CTL応答の生成中のヘルパーとしての古典的寄与、感染性ウィルス粒子を中和するためにIgG2aを推進する能力、およびIFN−γの分泌を介した直接的な抗ウィルス活性を含む、多重機構を介するインフルエンザへの免疫に寄与する。CD4+およびCD8+の両T細胞エピトープは、ウィルス消失を促進し、インフルエンザ曝露からのマウスの防護を与えることが示された。
【0037】
インフルエンザAウィルス用のマウスモデルは、T細胞媒介免疫を分析するための実験系を提供する。特に、インフルエンザ感染に対するT細胞の免疫応答は、C57BL/6(H2)およびBalb/C(H2)のマウス、ならびにそれらのハイブリッドにおいて良く特徴付けられた。Plotnickyら(Plotnicky H, Cyblat-Chanal D, Aubry JP, Derouet F, Klinguer-Hamour C, Beck A, Bonnefoy JY, Corva A "The immunodominant influenza matrix T cell epitope recognized in human induces influenza protection in HLA-A2/K(b) transgenic mice." Virology. 2003 May 10;309(2):320-9.)は、トランスジェニックマウスへの致命的曝露に対する、インフルエンザマトリックスタンパク質(M1)の58〜66位エピトープの防護有効性を実証した。CD8+および/またはCD4+T細胞のインビボでの減失後、防護が失われたので、防護はT細胞により媒介されていた。マウスの生存率は、肺中のM1特異的T細胞と相関しており、このT細胞は、インフルエンザの曝露後にインフルエンザ感染細胞に対して細胞傷害性を直接示した。Woodlandら(Crowe SR, Miller SC, Woodland DL. "Identification of protective and non-protective T cell epitopes in influenza." Vaccine. 2006 Jan 23;24(4):452-6)は、CD4+T細胞の単一エピトープHA(211〜225位)が、ワクチン接種マウスにおいてウィルス感染の部分的抑制を与え得ることも実証した。
【0038】
T細胞の標的は、インフルエンザウィルス表面タンパク質のB細胞エピトープより、少ない頻度の変異を受ける傾向があるが、CD8+およびCD4+T細胞エピトープも、防護的免疫圧を受けて次第に変異することになろう(Berkhoff EG, de Wit E, Geelhoed-Mieras MM, Boon AC, Symons J, Fouchier RA, Osterhaus AD, Rimmelzwaan GF. "Fitness costs limit escape from cytotoxic T lymphocytes by influenza A viruses." Vaccine. 2006 Nov 10;24(44-46):6594-6)。この逃避は、ウィルスと高度に多型なヒト白血球抗原(HLA)のクラスIおよびIIタンパク質との間における、抗原プロセシング、ならびに宿主のそれぞれCD8およびCD4T細胞へのエピトープ提示を決定する対立から生じると思われる。このウィルス逃避機構は、HIVおよびHCVについてより明瞭に確立されており、ウィルスの進化を形作ることが知られている。したがって、本来可変性(エントロピー)の低い、高度に保存されたペプチド配列の選択が、抗原の不連続変異および連続変異に特異的に対抗できる、T細胞ワクチンの設計において検討すべき重要な要因である。このような方法は、Berkhoffら(Berkhoff EG, de Wit E, Geelhoed-Mieras MM, Boon AC, Symons J, Fouchier RA, Osterhaus AD, Rimmelzwaan GF "Functional constraints of influenza A virus epitopes limit escape from cytotoxic T lymphocytes" J Virol. 2005 Sep;79(17):11239-46)によって記載されている。
【0039】
65歳過ぎの成人は、現在、インフルエンザ関連の全死亡例のおよそ90%を占めている。これは、現行ワクチンの効果が最も低い対象層でもある。ヒトにあっては、老化は、記憶亜集団からT細胞エフェクターを生成する能力の低下と関連しているようである。ワクチン接種後の高齢者において、セントラル記憶CD4+T細胞の頻度増加およびエフェクター記憶CD4+T細胞の頻度減少が、認められているが、これは血清IL−7濃度の減少と関連し得る。高齢対象は、インフルエンザワクチンの接種に対する鈍化した1型T細胞応答も示し、これはIgG1応答と直接相関している。更に、マウスも、インフルエンザAの一次感染中にエピトープ特異的CD8+CTL活性の老化関連傷害を示す。これは、インフルエンザ特異的CD8+T細胞のエフェクター活性とではなく、CD8+CTLの増殖欠陥と関連している。(Mbawuike IN, Acuna C, Caballero D, Pham-Nguyen K, Gilbert B, Petribon P, Harmon M. "Reversal of age-related deficient influenza-virus-specific CTL responses and IFN-gamma production by monophosphoryl lipid A." Cell Immunol. 1996 Oct 10;173(1):64-78.)
【0040】
T細胞応答の重要な要素は、感染細胞の消失を対象とするので、T細胞ワクチンは、記憶を想起するために予防的に、ならびに宿主の自然細胞性免疫を増強するために、感染後に治療方式で使用してもよい。T細胞ワクチンはまた、従来の抗体生成(体液応答性)インフルエンザワクチンと組み合わせて、同時投与または別時投与のいずれかにより使用してもよい。
【0041】
T細胞ワクチン手法
T細胞およびインフルエンザワクチンの分野に関する総説は、交差防護性の広いT細胞ワクチンの設計で直面する多くの決定的難題を強調している。T細胞ワクチンは、第1に、高い率(%)のワクチン被接種者において、CD4+HTLおよびCD8+CTLのT細胞の記憶およびエフェクター機能を初回接種および追加接種で刺激できなければならない。このようなワクチンは、ウィルスの遺伝子多様性および進行中の変異、ならびにMHC対立遺伝子の多型性段階で明らかなヒトの遺伝子多様性にも対処しなければならない。提案した本発明は、高度に保存されたインフルエンザペプチドと共に、新規なフルオロペプチドワクチン送達系を組み合わせることにより、こうした設計上の問題に対処しようとしている。該ペプチドは、1個または複数のエピトープ、特にT細胞エピトープを含有することが知られている抗原であることが好ましい。
【0042】
従来のペプチド系T細胞ワクチン手法は、エピトープに依拠しており、単一のエピトープまたは再構成された人工鎖として送達される、CTL(8〜11aa)またはTヘルパー(13aa)の最小エピトープに集中してきた。非天然配列は、非効率な抗原プロセシングという制約、ならびに無関係な新エピトープの潜在的形成の生起に直面することがある。重複したT細胞エピトープ、クラスター化したT細胞エピトープまたは雑多なT細胞エピトープを単一のペプチド配列中に含有する、天然の長鎖保存ペプチド配列は、自然な抗原プロセシングを可能にすると共に、集団への広い適用範囲を実現する。その上、1つのワクチン製剤中にこうした天然の長鎖ペプチドを複数種使用すれば、集団への遥かに大きい適用範囲が得られる見込みがある。
【0043】
先例によれば、CD4+およびCD8+T細胞のエピトープを含む長鎖ペプチド(30〜35aa)は、動物およびヒトにおいて多重エピトープ応答を誘発する能力を有することが示されている(Coutsinos Z, Villefroy P, Gras-Masse H, Guillet JG, Bourgault-Villada I. Gahery-Segard H, Pialoux G, Figueiredo S, Igea C, Surenaud M, Gaston J, Gras-Masse H, Levy JP, Guillet JG. "Long-term specific immune responses induced in humans by a human immunodeficiency virus type 1 lipopeptide vaccine: characterization of CD8+ T cell epitopes recognized". J Virol. 2003 Oct;77(20):11220-31)。有効な抗ウィルス性CTL応答(CD8 T細胞が推進する)のために、適当なTh−1サイトカイン環境が必要であり(CD4細胞により保証される)、こうしてCD4およびCD8エピトープの同時送達が、細胞応答を高めると予測される(Krowka, JF., Singh, B., Fotedar, A., Mosmann, T., Giedlin, MA., Pilarski, LM. "A requirement for physical linkage between determinants recognized by helper molecules and cytotoxic T cell precursors in the induction of cytotoxic T cell responses" J. Immunol 1986, May 15;136(10):3561-6)。
【0044】
CD4+およびCD8+T細胞は、外来および自己のタンパク質の細胞外および細胞内プロセシングで生じ、MHC系がコードする特異的な細胞表面分子に結合して提示される短鎖ペプチドを認識する。MHC分子には、(i)MHCクラスIは、内因性ペプチドを提示する、(ii)MHCクラスIIは、外因性ペプチドを提示する、という別々の2クラスが存在する。MHCクラスIの抗原提示過程は、タンパク質分解、小胞体へのペプチド輸送、ペプチド−MHC結合およびCD8+T細胞が認識するための、細胞表面へのペプチド−MHC複合体の移出を含む。ペプチドは、特異的なMHC結合溝内に結合しているが、その溝の形状および特性のために、共通の結合モチーフを共有する特異的なペプチドサブセットの結合が起こる。T細胞は、T細胞受容体が特異的なペプチド−MHC複合体を認識した際に活性化され、このようにして、細胞内の寄生生物もしくはウィルスに感染した細胞、または異常タンパク質を含有する細胞(例えば、腫瘍細胞)を特定し、それらに対する適当な免疫応答を増加させる。特異的なペプチド−MHC複合体に含まれ、T細胞の認識のきっかけ(T細胞エピトープ)となる該ペプチドは、感染性、自己免疫性、アレルギー性および新生物性の疾患を診断し、治療するための重要なツールである。T細胞エピトープは、MHC結合性ペプチドのサブセットであるので、MHC分子に結合できるタンパク質部分の厳密な同定は、ワクチンおよび免疫治療薬の設計にとって重要である。MHC多型性は、ヒト集団において非常に高く、580HLA−A、921HLA−B、312HLA−C、527HLA−DR(β)、127HLA−DRQ(β)および86HLA−DQ(β)の対立遺伝子がこれまでに知られている。この状況は、集団への適用範囲が広いT細胞系ワクチンを設計しなければならない際に、難題である。MHC結合性ペプチドは、MHC分子(複数可)の溝と相互作用し、ペプチドの結合に寄与する位置特異的なアミノ酸を含有する。結合モチーフの各位置の好ましいアミノ酸は、MHC分子の対立遺伝子変異体間で変動し得る。コンピュータ利用モデルにより、各種のMHC分子に結合するペプチドの同定が促進される。多様なコンピュータ利用法、MHC結合アッセイ、X線結晶解析試験および当技術分野で公知の他の多数の方法が、MHC分子に結合するペプチドの同定を可能にしている。新規なコンピュータ内抗原同定手法は、T細胞ワクチンに有用なウィルス配列の解明に必要なHLA結合モチーフについて、ペプチド配列をスクリーニングする際に関与する大量のデータを迅速に処理する能力を提供する。HLAに基づくバイオインフォマティクス手法は、多くの免疫学分野に適用して成功しており、ヒト遺伝子の多様性問題に対処することを可能にしている、例えば、Depil S, Morales O, Castelli FA, Delhem N, Francois V, Georges B, Dufosse F, Morschhauser F, Hammer J, Maillere B, Auriault C, Pancre V. "Determination of a HLA II promiscuous peptide cocktail as potential vaccine against EBV latency II malignancies.", J Immunother (1997). 2007 Feb-Mar;30(2):215-26; Frahm N, Yusim K, Suscovich TJ, Adams S, Sidney J, Hraber P, Hewitt HS, Linde CH, Kavanagh DG, Woodberry T, Henry LM, Faircloth K, Listgarten J, Kadie C, JokjicN, Sango K, Brown NV, Pae E, Zaman MT, Bihl F, Khatri A, John M, Mallal S, Marincola FM, Walker BD, Sette A, Heckerman D, Korber BT, Brander C. "Extensive HLA class I allele promiscuity among viral CTL epitopes." Eur J Immunol. 2007 Aug 17;37(9):2419-2433; Schulze zur Wiesch J, Lauer GM, Day CL, Kim AY, Ouchi K, Duncan JE, Wurcel AG, Timm J, Jones AM, Mothe B, Allen TM, McGovern B, Lewis-Ximenes L, Sidney J, Sette A, Chung RT, Walker BD. "Broad repertoire of the CD4+ Th cell response in spontaneously controlled Hepatitis C virus infection includes dominant and highly promiscuous epitopes." J Immunol. 2005 Sep 15;175(6):3603-13; Doolan DL, Southwood S, Chesnut R, Appella E, Gomez E, Richards A, Higashimoto YI, Maewal A, Sidney J, Gramzinski RA, Mason C, Koech D, Hoffman SL, Sette A. "HLA-DR-promiscuous T cell epitopes from Plasmodium falciparum pre-erythrocytic-stage antigens restricted by multiple HLA class II alleles." J Immunol. 2000 Jul 15;165(2):1123-37.)。
【0045】
複数のMHC対立遺伝子変異体に結合するペプチド(「雑多なペプチド」)は、より大きな割合のヒト集団に適するので、ワクチンおよび免疫療法の開発に対する一次目標である。雑多なCD4+T細胞エピトープは、複数のMHCクラスII分子にも結合すると報告された。(Panina-Bordignon P, Tan A, Termijtelen A, Demotz S, Corradin G, Lanzavecchia A. Universally immunogenic T cell epitopes: promiscuous binding to human MHC class II and promiscuous recognition by T cells. Eur J Immunol. 1989 Dec;19(12):2237-42.) 他方、一部の雑多なCD8+T細胞エピトープは、複数のMHCクラスI分子に結合する能力を有して結合特性を共有し、いわゆるスーパータイプを形成すると以前に記載された(Frahm N, Yusim K, Suscovich TJ, Adams S, Sidney J, Hraber P, Hewitt HS, Linde CH, Kavanagh DG, Woodberry T, Henry LM, Faircloth K, Listgarten J, Kadie C, JokjicN, Sango K, Brown NV, Pae E, Zaman MT, Bihl F, Khatri A, John M, Mallal S, Marincola FM, Walker BD, Sette A, Heckerman D, Korber BT, Brander C. "Extensive HLA class I allele promiscuity among viral CTL epitopes." Eur J Immunol. 2007 Aug 17;37(9):2419-2433; Sette A, Sidney J. 'HLA supertypes and supermotifs: a functional perspective on HLA polymorphism.' Curr Opin Immunol. 1998 Aug;10(4):478-82)。CD4+およびCD8+T細胞の雑多なエピトープの同定は、集団への広い適用範囲を実現するためのワクチン設計における重要な戦略を表す。MHC多型性は、特定の民族グループにおける、または複数の民族グループにまたがる高頻度のMHC対立遺伝子に関連する、MHC結合モチーフを含有することが知られているまたは予測されるペプチドの選択によっても対処される。
【0046】
集団への適用範囲が広く、一連のインフルエンザ株にまたがって保存されている配列の組合せ(例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)またはロスアラモス国立研究所(LANL)のインフルエンザ配列データベースの使用により同定される)の選択によって、ウィルスの遺伝子多様性に対処し、全部とは言わないまでも大多数の関連インフルエンザ株から防護することができる。
【0047】
歴史的には、T細胞ワクチン技術(DNAおよびウィルスベクターワクチン)の鍵となる弱点は、該ワクチンに応答するワクチン対象の低比率(%)、しばしば低い免疫原性レベル、ならびに記憶およびエフェクターT細胞の応答の追加免疫による増幅を実現する能力であった。有効なインフルエンザT細胞ワクチンの主目標は、抗原に再曝露した際に、ウィルス量を抑制し、肺からのウィルス消失を促進するエフェクター機能の迅速な拡張が起こるように、T細胞記憶のロバストな応答を促進することである。これを実現するには、ウィルス特異的Th−1に指示されたCD4+およびCD8+T細胞のロバストなセントラル記憶およびエフェクター記憶応答が必要である。実行可能な市販品のためには、この応答は、高率(>90%)のワクチン被接種者で誘発され、感染後の記憶想起およびその後の疾患防護にいずれ必要になる、長期の記憶応答を生起できなければならない。しかし、この種の耐久性免疫を生成するには、ワクチンは、反復ワクチン曝露によるロバストな追加免疫増幅効果も実現しなければならない。
【0048】
ワクチンおよび免疫治療薬が誘発する細胞性免疫を改善する現在の免疫戦略には、弱毒生型病原体の開発、および適当な抗原またはこのような抗原をコードするDNAを送達するための生ベクターの使用が含まれる。非選択集団では意味のある追加免疫応答を生起することがいつもできないこのような手法は、プライム・ブーストの複雑な組合せを生じてしまい、益々厳しくなる規制環境にあって安全上の配慮によっても制限される。それに加え、製造プロセスの規模拡大適性および禁止的なコストから生じる問題のために、生物起源の製品の商業的な実行可能性がしばしば制限される。これに関しては、合成ペプチドは、化学的に良く確定され、非常に安定であり、Tおよび/またはB細胞エピトープを含有するように設計できるので、非常に魅力的な抗原である。
【0049】
インビボでTリンパ球応答を刺激するためには、ワクチンまたは免疫治療製品中に含まれる合成ペプチドは、抗原提示細胞および特に樹状細胞によって好ましくは取り込まれるべきである。樹状細胞(DC)は、T細胞媒介一次免疫応答の開始に決定的な役割を演じる。これらの細胞は、異なる機能に関連する2つの主要な成熟段階で存在する。未成熟樹状細胞(iDC)は、大抵の組織または血流中に配置され、体内の炎症部位に動員される。該細胞は、高度に専門化した抗原捕捉細胞であり、抗原の取込みおよび食作用に関わる大量の受容体を発現する。抗原の捕捉およびプロセシングの後、iDCは、リンパ節または脾臓中にあるT細胞の局所位置へ移動する。この過程の間に、DCは、抗原捕捉能を失い、免疫賦活性成熟DC(mDC)に変化する。
【0050】
樹状細胞は、クラスIおよびクラスIIのMHC分子と結合したペプチド抗原に対して、宿主免疫応答を開始する効率的な提示細胞である。該細胞は、未経験(naive)のCD4およびCD8 T細胞に初回抗原刺激を加えることができる。抗原のプロセシングおよび提示経路に関する現行のモデルによれば、外因性抗原は、抗原提示細胞の細胞内区画中に取り込まれ、そこでペプチドに分解され、その一部はMHCクラスII分子と結合する。成熟したMHCクラスII/ペプチド複合体は、次いで細胞表面に輸送され、CD4 Tリンパ球に提示される。対照的に、内因性抗原は、プロテオソームの作用によって細胞質中で分解された後、細胞質中に輸送され、そこで生成直後のMHCクラスI分子と結合する。ペプチドと複合した安定なMHCクラスI分子は、次いで細胞表面に輸送され、CD8 CTLを刺激する。外因性抗原は、交差提示と称する過程において専門的APCにより、MHCクラスI分子上にも提示されることがある。細胞外抗原を含有するファゴソームは、小胞体と融合し、抗原は、MHCクラスI分子上にペプチドを担持させるのに必要な機構を獲得することもある。
【0051】
数十年に亘り、ペネトラチン(Penetratin)、TATおよびその誘導体、DNA、ウィルスベクター、ヴィロソームおよびリポソームを含む、夥しい送達法が評価されてきた。しかし、こうした系は、非常に弱いCTL応答を誘発する、記憶応答に対する追加免疫増幅を生起できない、毒性問題を付随する、または複雑であるのいずれかであり、商業規模での製造が高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0052】
したがって、細胞免疫応答の誘発を意図したワクチンおよび薬物の開発において、抗原の細胞内送達を指示する改良されたベクターに対する必要性が、認識されている。免疫治療薬またはワクチンに関するベクターは、宿主中の免疫応答細胞へ抗原を輸送または誘導できる任意の作用剤である。
【0053】
フッ素化界面活性剤は、低い臨界ミセル濃度を有し、したがって低濃度で多分子ミセル構造に自己組織化することが示された。この物理化学的性質は、フッ素化鎖に伴う強い疎水性相互作用および低いファンデルワールス相互作用に関連しており、こうした相互作用のために、フッ素化両親媒性物質は、水中で自己集合し、界面に集まる傾向を劇的に増大させる。このような構造の形成は、細胞、例えば抗原提示細胞による細胞内取込みを促進する(Reichel F. et al. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 7989-7997)。更に、フッ素化鎖を界面活性剤中に導入すると、溶血活性が強く減少し、しばしば抑制される(Riess, J.G.; Pace, S.; Zarif, L. Adv. Mater. 1991, 3, 249-251)ことにより、細胞毒性の低下を生じる。
【課題を解決するための手段】
【0054】
本発明は、フルオロカーボンベクターを使用することにより、免疫応答細胞へインフルエンザ抗原を送達するという問題を克服し、その免疫原性を高めようとするものである。該フルオロカーボンベクターは、ペルフルオロカーボン基または混合フルオロカーボン/炭化水素基に由来する1個または複数の鎖を含み得るもので、飽和または不飽和でもよく、各鎖は、炭素原子3〜30個を有する。
【0055】
共有結合によりベクターを抗原に連結するために、反応性基またはリガンドをベクターの成分として組み入れる、例えば、−CO−、−NH−、S、Oまたは任意の適切な他の基が含まれる。共有結合を実現するためのこのようなリガンドの使用は、当技術分野で周知である。反応性基は、フルオロカーボン分子の任意の位置に配置し得る。
【0056】
フルオロカーボンベクターの抗原とのカップリングは、抗原の任意の部位上に自然に存在する、またはその部位上に導入された−OH、−SH、−COOH、−NHなどの官能基を介して実現し得る。適切な連結部は、直鎖形または環状形のいずれかに窒素、酸素または硫黄原子を含有し得る。連結により形成される結合の例には、オキシム、ヒドラゾン、ジスルフィドもしくはトリアゾール、または任意の適切な共有結合を含み得る。特に、フルオロカーボン部分は、ペプチドの免疫原性を増すためにチオエステル結合を介して導入することができよう(Beekman, N.J.C.M. et al, "Synthetic peptide vaccines: palmitoylation of peptide antigens by a thioester bond increases immunogenicity." J. Peptide Res. 1997, 50, 357-364)。場合により、スペーサー要素(ペプチド性、偽ペプチド性または非ペプチド性)を組み込むことにより、リポペプチドについて以前に示されたように、抗原提示細胞内でのプロセシングのために、抗原をフルオロカーボン要素から切断することを可能にし、抗原提示を最適化してもよい(Verheul, A.F.M.; Udhayakumar, V; Jue, D.L.; Wohlheuter, R.M.; Lal, A.L. Monopalmitic acid-peptide conjugates induce cytotoxic T cell responses against malarial epitopes: importance of spacer amino acids. Journal of Immunological Methods 1995, volume 182, pp219-226)。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】BALB/cおよびCBF6マウスにおいて多価フルオロペプチドワクチンと天然ペプチド等価物の免疫原性を、プライム後またはプライム−ブースト後に、エクスビボでのIFN−γELISpotアッセイによる評価で比較して示した図である。1群当たり7匹または8匹のマウスに、フルオロペプチドワクチン(100μl中にフルオロペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化したフルオロペプチド8種から構成される)または天然ペプチド等価物(100μl中にペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化した天然ペプチド8種から構成される)で皮下に免疫接種をした。対照群は、賦形剤だけを含有する製剤を受けた。最終注射から10日後に、頚部脱臼によりマウスを犠牲死させた。脾臓を取り出し、脾臓細胞の単一懸濁液を個々のマウスから調製した。マウスのIFN−γELISpotアッセイ(Mabtech, Sweden)は、製造業者の使用説明書に従って行った。脾臓細胞(5×10個)を、総量200μlの完全培地(ウシ胎児血清10%を補給したRPMI)中ペプチド1種当たり濃度10μg/mlの個別天然ペプチド8種で、37℃および5%COで18時間刺激し、これを2点用意した。スポットは、CTLイムノスポット読取器を用いて計数した。各マウスに対して、スポットの総数をペプチド全8種について累積し、対照ウェル(培地だけ)の値の8倍を差し引いた。その結果は、導入脾臓細胞百万個当たりのスポット形成細胞(SFC)の平均値±標準偏差に相当する。
【図2】BALB/cおよびCBF6マウスにおいて多価フルオロペプチドワクチンと天然ペプチド等価物の免疫原性を、プライム後またはプライム−ブースト後に、エクスビボでのIFN−γELIspotアッセイによる評価で比較して示した図である。1群当たり7匹または8匹のマウスに、フルオロペプチドワクチン(100μl中にフルオロペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化したフルオロペプチド8種から構成される)または天然ペプチド等価物(100μl中にペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化した天然ペプチド8種から構成される)で皮下に免疫接種をした。対照群は、賦形剤だけを含有する製剤を受けた。最終注射から10日後に、頚部脱臼によりマウスを犠牲死させた。脾臓を取り出し、脾臓細胞の単一懸濁液を個々のマウスから調製した。マウスのIFN−γELISpotアッセイ(Mabtech, Sweden)は、製造業者の使用説明書に従って行った。脾臓細胞(5×10個)を、総量200μlの完全培地(ウシ胎児血清10%を補給したRPMI)中ペプチド1種当たり濃度1μg/mlのペプチド8種の混合物で、37℃および5%COで18時間刺激し、これを2点用意した。スポットは、CTLイムノスポット読取器を用いて計数した。各マウスに対して、スポットの総数をペプチド全8種について累積し、対照ウェル(培地だけ)の値の8倍を差し引いた。その結果は、導入脾臓細胞百万個当たりのスポット形成細胞(SFC)の平均値±標準偏差に相当する。
【図3】BALB/cおよびCBF6マウスにおいてフルオロペプチド対天然ペプチドの個別ペプチド免疫原性を、プライム後またはプライム−ブースト後に、エクスビボでのIFN−γELISpotによる評価で比較して示した図である。1群当たり7匹または8匹のマウスに、フルオロペプチドワクチン(100μl中にフルオロペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化したフルオロペプチド8種から構成される)または天然ペプチド等価物(100μl中にペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化した天然ペプチド8種から構成される)で皮下に免疫接種をした。対照群は、賦形剤だけを含有する製剤を接種した。最終注射から10日後に、頚部脱臼によりマウスを犠牲死させた。脾臓を取り出し、脾臓細胞の単一懸濁液を個々のマウスから調製した。マウスのIFN−γELISpotアッセイ(Mabtech, Sweden)は、製造業者の使用説明書に従って行った。脾臓細胞(5×10個)を、総量200μlの完全培地(ウシ胎児血清10%を補給したRPMI)中ペプチド1種当たり濃度10μg/mlの個別天然ペプチド8種で、37℃、5%CO雰囲気下で18時間刺激し、これを2点用意した。スポットは、CTLイムノスポット読取器を用いて計数した。その結果は、導入脾臓細胞百万個当たりのスポット形成細胞(SFC)の平均値±標準偏差に相当する。
【図4】BALB/cおよびCBF6マウスにおいて多価フルオロペプチドワクチン対天然ペプチド等価物の免疫原性を、プライム−ブースト免疫後に、サイトカインプロファイルの評価で比較して示した図である。1群当たり8匹のマウスに、フルオロペプチドワクチン(100μl中にフルオロペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化したフルオロペプチド8種から構成される)または天然ペプチド等価物(100μl中にペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化した天然ペプチド8種から構成される)で皮下に免疫接種をした。対照群のマウスには、賦形剤だけを含有する製剤を注射した。マウスには、15日間隔で免疫接種をした。最終注射から10日後に、頚部脱臼によりマウスを犠牲死させた。脾臓を取り出し、脾臓細胞の単一懸濁液を個々のマウスから調製した。脾臓細胞を、総量200μlの完全培地(ウシ胎児血清10%を補給したRPMI)中ペプチド1種当たり濃度1μg/mlの天然ペプチド8種の混合物で、37℃、5%CO雰囲気下で48時間刺激した。刺激細胞の培養上清のサイトカイン濃度(インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターフェロン−γ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子(TNF))に関する分析は、マウス用サイトメトリービーズアレイキット(CBA; BD Biosciences, UK)を用い、製造業者の使用説明書に従って行い、FacsCantoIIフローサイトメーターを用いて分析した。各サイトカインの標準曲線は、210〜2500pg/mlの範囲から決定した。CBAの検出下限値は、製造業者によれば被分析物質に応じて2.5〜3.2pg/mlである。その結果は、各群のマウスの各サイトカインについて計算した平均値および標準偏差に相当する。結果は、pg/ml単位のサイトカイン濃度で表示している。
【図5】BALB/cマウスのCD4+T細胞およびCD8+T細胞を共に、フルオロペプチドワクチンで刺激する。1群当たり4匹のマウスに、フルオロペプチドワクチン(100μl中にフルオロペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化したフルオロペプチド8種から構成される)で皮下に免疫接種をした。マウスは、15日間隔で2回の注射(プライム−ブースト)を受けた。最終注射から10日後に、頚部脱臼によりマウスを犠牲死させた。脾臓を取り出し、脾臓細胞の単一懸濁液を個々のマウスから調製した。細胞を0.5×10個/ウェルで再懸濁し、培地だけまたは天然ペプチド8種の混合物(ワクチン)で、37℃および5%COで72時間刺激した。陽性対照培養物(PMA/I)は、培養の最後5時間の間にPMA50ng/mlおよびイオノマイシン0.5μg/mlを受けた。全ての培養物は、培養の最後5時間の間にブレフェルジンA10μl/mlを受けた。細胞を、CD4およびCD8について細胞外で、IFN−γについて細胞内で染色し、BD FACSCantoIIサイトメーターを用いたフローサイトメトリーにより分析した。個別マウスの結果は、細胞内IFN−γを発現するCD4+またはCD8+T細胞の比率(%)として示す。
【図6】BALB/cマウスにおいて多価フルオロペプチドワクチン対CFA中乳化ワクチンの免疫原性を、単一の免疫接種後に、サイトカインプロファイルの評価で比較して示した図である。1群当たり10匹のマウスに、フルオロペプチドワクチン(100μl中にフルオロペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化したフルオロペプチド8種から構成される)またはフロイントの完全アジュバント(CFA)中に乳化したフルオロペプチドワクチンで皮下に免疫接種をした。対照群のマウスには、賦形剤だけを含有する製剤を注射した。10日後に、頚部脱臼によりマウスを犠牲死させた。脾臓を取り出し、脾臓細胞の単一懸濁液を個々のマウスから調製した。脾臓細胞を、総量200μlの完全培地(ウシ胎児血清10%を補給したRPMI)中ペプチド1種当たり濃度1μg/mlの天然ペプチド8種の混合物で、37℃、5%CO雰囲気下で48時間刺激した。刺激細胞の培養上清のサイトカイン濃度(インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターフェロン−γ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子(TNF))に関する分析は、マウス用サイトメトリービーズアレイキット(CBA; BD Biosciences, UK)を用い、製造業者の使用説明書に従って行い、FacsCantoIIフローサイトメーターを用いて分析した。各サイトカインの標準曲線は、2.5〜2500pg/mlの範囲から決定した。CBAの検出下限値は、製造業者によれば被分析物質に応じて2.5〜3.2pg/mlである。その結果は、各群のマウスの各サイトカインについて計算した平均値±標準偏差に相当する。結果は、pg/ml単位の平均サイトカイン濃度で表示している。
【図7】BALB/cマウスにおいてフルオロペプチドワクチン投与の皮下対皮内経路を、単一の免疫接種後に、エクスビボでのIFN−γELISpotアッセイで比較して示した図である。1群当たり10匹のマウスに、フルオロペプチドワクチン(100μl中にフルオロペプチド1種当たり1nmol用量の製剤化したフルオロペプチド8種から構成される)で皮下(s.c.)または皮内(i.d.)に免疫接種をした。対照群には、賦形剤だけを含有する製剤を皮下に投与した。10日後に、頚部脱臼によりマウスを犠牲死させた。脾臓を取り出し、脾臓細胞の単一懸濁液を個々のマウスから調製した。マウスのIFN−γELISpotアッセイ(Mabtech, Sweden)は、製造業者の使用説明書に従って行った。脾臓細胞(5×10個)を、総量200μlの完全培地(ウシ胎児血清10%を補給したRPMI)中ペプチド1種当たり濃度10μg/mlの個別天然ペプチド8種で、37℃、5%CO雰囲気下で18時間刺激し、これを2点用意した。スポットは、CTLイムノスポット読取器を用いて計数した。各マウスに対して、スポットの総数をペプチド全8種について累積し、対照ウェル(培地だけ)の値の8倍を差し引いた。その結果は、導入脾臓細胞百万個当たりのスポット形成細胞(SFC)の平均値±標準偏差に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
したがって、第1の態様において、本発明は、化学構造Cn−−(Sp)−Rまたはその誘導体を有するフルオロカーボンベクター−抗原構築体を提供し、式中、m=3〜30、n≦2m+1、y=0〜15、x≦2y、(m+y)=3〜30であり、Spは、任意選択の化学スペーサー部分であり、Rは、インフルエンザウィルス由来の抗原である。
【0059】
本発明に関しては、「誘導体」とは、フルオロカーボン化合物が本明細書に記載のように抗原をなおも送達できるような、該化合物の比較的小さな修飾物を指す。したがって、例えば、多くのフッ素部分は、塩素(Cl)、臭素(Br)またはヨウ素(I)などの他のハロゲン部分で置き換えることができる。それに加え、多くのフッ素部分をメチル基で置換え、本明細書に考察するような該分子の性質をなおも保持することも可能である。
【0060】
前記式の特定の例では、該ベクターは、次式の2H,2H,3H,3H−ペルフルオロウンデカン酸でもよい。
【0061】
【化1】

【0062】
したがって、第2の態様では、本発明は、次の構造のフルオロカーボンベクター−抗原構築体を提供し、
【0063】
【化2】


式中、Spは、任意選択の化学スペーサー部分であり、Rは、インフルエンザウィルス由来の抗原である。
【0064】
本明細書で使用する場合、用語「抗原」とは、T細胞受容体(TCR)またはB細胞受容体(BCRもしくは抗体)などの免疫受容体に認識される能力を有する分子を指す。抗原は、天然または非天然を問わず、タンパク質、タンパク質サブユニット、ペプチド、炭水化物、脂質またはそれらの組合せでもよいが、但し、少なくとも1つのエピトープ、例えばT細胞および/またはB細胞エピトープを提示することを前提とする。
【0065】
このような抗原は、天然タンパク質の精製により誘導してもよく、または組換え技術もしくは化学合成により生成してもよい。抗原を調製する方法は、当技術分野において周知である。更に、抗原には、抗原性ペプチドまたはタンパク質をコードするDNAまたはオリゴヌクレオチドも含まれる。
【0066】
ベクターと結合している抗原は、ヒトを含む動物において免疫応答を誘発できる任意のインフルエンザ抗原でもよい。該免疫応答は、宿主において有益な効果を示すことが好ましかろう。
【0067】
インフルエンザ抗原は、1つもしくは複数のT細胞エピトープ、または1つもしくは複数のB細胞エピトープ、あるいはTおよびB細胞エピトープの組合せを含有してもよい。
【0068】
T細胞エピトープは、MHCクラスIまたはクラスIIに限定されてもよい。
【0069】
本明細書で使用する場合、用語「エピトープ」には、
(i)MHCクラスII結合モチーフを含有し、MHCクラスII分子によって抗原提示細胞の表面に提示される能力を有するペプチド性配列である、CD4+T細胞エピトープと、
(ii)MHCクラスI結合モチーフを含有し、MHCクラスI分子によって該細胞表面に提示される能力を有するペプチド性配列である、CD8+T細胞エピトープと、
(iii)B細胞受容体に対して結合親和性を有するペプチド性配列である、B細胞エピトープ
が含まれる。
【0070】
該抗原は、インフルエンザA型タンパク質、インフルエンザB型タンパク質またはインフルエンザC型タンパク質の1つまたは複数のエピトープを含み得る。インフルエンザA型およびB型双方からのインフルエンザウィルスタンパク質の例は、ヘマグルチニン、ノイラミニダーゼ、マトリックス(M1)タンパク質、M2、核タンパク質(NP)、PA、PB1、PB2、NS1またはNS2をそのような任意の組合せで含む。
【0071】
したがって、更なる態様では、本発明は、インフルエンザウィルス抗原が、タンパク質、タンパク質サブユニット、ペプチド、炭水化物もしくは脂質またはそれらの組合せである、ベクター−抗原構築体を提供する。構築体が免疫活性であるためには、抗原が1つまたは複数のエピトープを含まなければならない。好ましくは、抗原は、インフルエンザウィルスに由来するペプチド配列である。本発明のペプチドまたはタンパク質は、好ましくは少なくとも7個、より好ましくは9〜100個の間のアミノ酸、最も好ましくは約15〜40個の間のアミノ酸の配列を含有する。エピトープ(複数可)保有ペプチドのアミノ酸配列は、好ましくは、水性溶媒中においてその分子の溶解度を高めるように選択される。更に、ベクターとコンジュゲートしていないペプチドの末端は、ミセル、ラメラ、小管またはリポソームなどの多分子構造の形成を介して構築体の溶解度を促進するように、変更してもよい。例えば、陽荷電アミノ酸は、ミセルの自発的集合を促進するために、ペプチドに付加することができよう。ペプチドのN末端またはC末端のいずれかをベクターにカップリングして、構築体を創作することができる。構築体の大規模合成を促進するために、ペプチドのN末端またはC末端アミノ酸残基は、修飾することができる。所望のペプチドが、ペプチダーゼによる切断に特に敏感である場合、通常のペプチド結合を非切断性ペプチド模倣物質で置き換えることができる。このような結合および合成法は、当技術分野で周知である。
【0072】
非標準的で非天然のアミノ酸も、ペプチド配列中に組み込むことができるが、但し、該アミノ酸は、ペプチドが、MHC分子と相互作用し、天然配列を認識するT細胞との交差反応性を維持する能力を妨害しないことが前提である。非天然アミノ酸は、プロテアーゼに対するペプチドの耐性または化学的安定性を改善するために、使用することができる。非天然アミノ酸の例には、D−アミノ酸およびシステイン修飾物が含まれる。
【0073】
フルオロカーボンベクターに結合する前に、複数の抗原を相互に連結してもよい。このような一例は、融合ペプチドの使用であり、その場合雑多な(promiscuous)Tヘルパーエピトープを、ペプチド、炭水化物または核酸でもよい、1つもしくは複数のCTLエピトープまたは1つもしくは複数のB細胞エピトープに、共有結合で連結することができる。一例として、雑多なTヘルパーエピトープは、PADREペプチド、破傷風トキソイドペプチド(830〜843)、またはインフルエンザヘマグルチニンHA(307〜319)でもよい。あるいは、該ペプチド配列は、2つ以上のエピトープを含有してもよく、該エピトープは、重なり合い、そのために高密充填の多重特異性エピトープのクラスターを創り出し、または連続的であり、またはアミノ酸連鎖により隔離されていてもよい。
【0074】
したがって、更なる態様では、本発明は、Rが相互に連結した複数のエピトープまたは抗原である、ベクター−抗原構築体を提供する。エピトープはまた、線状に重なり合うことにより、高密充填の多重特異性エピトープのクラスターを創り出してもよい。
【0075】
フルオロカーボンに特徴的な非共有結合的な強い分子間相互作用のために、抗原は、ベクターと非共有結合でも結合し、抗原提示細胞に有利に取り込まれる目的をなおも実現し得る。
【0076】
したがって、更なる態様では、本発明は、抗原が、フルオロカーボンベクターと非共有結合で結合している、ベクター/抗原構築体を提供する。
【0077】
1つまたは複数のB細胞エピトープを保有する抗原も、1つまたは複数のT細胞エピトープとともに、又は伴わずに、フルオロカーボンベクターに結合し得る。B細胞エピトープは、コンピュータ内手法を用いて予測することができる(Bublil EM, Freund NT, Mayrose I, Penn O, Roitburd-Berman A, Rubinstein ND, Pupko T, Gershoni JM. "Stepweise prediction of conformational discontinuous B-cell epitopes using the Mapitope algorithm." Proteins. 2007 Jul 1;68(1):294-304. Greenbaum JA, Andersen PH, Blythe M, Bui HH, Cachau RE, Crowe J, Davies M, Kolaskar AS, Lund O, Morrison S, Mumey B, Ofran Y, Pellequer JL, Pinilla C, Ponomarenko JV, Raghava GP, van Regenmortel MH, Roggen EL, Sette A, Schlessinger A, Sollner J, Zand M, Peters B. "Towards a consensus on datasets and evaluation metrics for developing B-cell epitope prediction tools" J Mol Recognit. 2007 Mar-Apr;20(2):75-82)。
【0078】
本発明は、1つまたは複数のフルオロカーボンベクター−抗原構築体を含む、ワクチンおよび免疫治療薬も提供する。この種の多成分製品は、より多数の個人に適当な免疫応答を誘発する際に、より有効であると見込まれるので望ましい。ヒトにおける極端なHLA多型性のために、単一のフルオロペプチドでは、所与の集団の高い率(%)に多重エピトープ性免疫応答を誘発しそうにない。そのため、ワクチン製品が集団全体に有効であるためには、多くのフルオロペプチドが、広い適用範囲を得るためにワクチン製剤中に必要になり得る。その上、インフルエンザワクチンまたは免疫治療薬の最適製剤は、異なるインフルエンザウィルス抗原に由来する異なる多くのペプチド配列を含み得る。この場合、ペプチドは、単一のフルオロカーボンベクターに結合して、相互に連結されてもよく、または各ペプチド抗原は、専用のベクターに結合することもできる。
【0079】
多成分製品は、ベクター−抗原構築体を1種または複数、より好ましくは2〜約20種、より好ましくは3〜約10種含有し得る。特定の実施形態では、多成分ワクチンは、5種、6種、7種または8種の構築体を含有し得る。これにより、多重エピトープ性T細胞応答が、集団の広い適用範囲(即ち、HLA多様性に対処する)で生成することが保証される。例えば、多重フルオロペプチドの製剤は、インフルエンザA由来ペプチド単独、インフルエンザB由来ペプチド単独、もしくはインフルエンザC由来ペプチド単独、またはインフルエンザ型の組合せ、最も好ましくはインフルエンザAおよびBで構成されてもよい。
【0080】
一実施形態では、該製品は、少なくとも2種のベクター−抗原構築体を含み、第1の構築体は、次式のインフルエンザペプチド配列:
HMAIIKKYTSGRQEKNPSLRMKWMMAMKYPITADK
を含み、第2の構築体は、次式のインフルエンザペプチド配列:
YITRNQPEWFRNVLSIAPIMFSNKMARLGKGYMFE
を含む。
【0081】
更なる実施形態では、該製品は、8種のベクター−抗原構築体を含み、該構築体は以下のインフルエンザペプチド配列:
構築体1 HMAIIKKYTSGRQEKNPSLRMKWMMAMKYPITADK
構築体2 VAYMLERELVRKTRFLPVAGGTSSVYIEVLHLTQG
構築体3 YITRNQPEWFRNVLSIAPIMFSNKMARLGKGYMFE
構築体4 APIMFSNKMARLGKGYMFESKRMKLRTQIPAEMLA
構築体5 SPGMMMGMFNMLSTVLGVSILNLGQKKYTKTTY
構築体6 KKKSYINKTGTFEFTSFFYRYGFVANFSMELPSFG
構築体7 DQVRESRNPGNAEIEDLIFLARSALILRGSVAHKS
構築体8 DLEALMEWLKTRPILSPLTKGILGFVFTLTVPSER
を含む。
【0082】
あるいは、多重エピトープを製剤中に組み込むことにより、その1種がインフルエンザウィルスである一連の病原体に対する免疫を付与し得る。例えば、呼吸器感染ワクチンは、インフルエンザウィルスおよび呼吸器合胞体ウィルスの抗原を含有し得る。
【0083】
本発明の組成物は、場合により1種または複数の医薬として許容される担体および/またはアジュバントと共に、抗原に結合したフルオロカーボンベクターを含む。このようなアジュバントおよび/または医薬として許容される担体は、大きさおよび/またはサイトカインプロファイルの双方から見て免疫応答を更に増強できると思われ、そのようなものには、それだけに限らないが、
(1)フロイントのアジュバントおよびその誘導体、ムラミルジペプチド(MDP)誘導体、CpG、モノホスホリルリピドAなどの天然の細菌成分を自然に、または合成的に誘導して精製したもの、
(2)サポニン、アルミニウム塩およびサイトカインなどの他の既知のアジュバントまたは増強剤、
(3)水中油アジュバント、油中水アジュバント、免疫賦活複合体(ISCOM)、リポソーム、製剤化ナノおよびマイクロ粒子などの外来アジュバント(上記1、2参照)と共に、またはそれを用いずに抗原を製剤化する方法、
(4)細菌の毒素およびトキソイド、ならびに
(5)当業者に周知の他の有用なアジュバント
を挙げ得る。
【0084】
必要な場合の担体の選択は、該組成物の送達経路に依存することが多い。本発明の範囲内では、適当な任意の投与の経路および手段のために組成物を処方し得る。医薬として許容される担体または希釈剤には、経口、眼内、直腸、経鼻、局所(口腔および舌下を含む)、経膣、または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、経皮)投与に適切な製剤中に使用するものが挙げられる。
【0085】
該製剤は、適切な任意の形態、例えば、液体、固体、エアロゾルまたは気体として投与してもよい。例えば、経口製剤は、乳濁液、シロップもしくは溶液、または胃の中での分解から活性成分を保護するために腸溶コーティングをしてもよい、錠剤もしくはカプセルの形態を取ってもよい。経鼻製剤は、スプレーまたは溶液でもよい。経皮製剤は、特定の送達系に適合させてもよく、パッチを含み得る。注射用製剤は、蒸留水中、または医薬として許容される別の溶媒もしくは懸濁化剤中の溶液または懸濁でもよい。
【0086】
したがって更なる態様では、本発明は、適切な担体および/またはアジュバントと共に、あるいはそれを用いずにベクター−抗原構築体(複数可)を含む、予防または治療製剤を提供する。
【0087】
患者に投与すべきワクチンまたは免疫治療薬の適当な用量は、診療所にて決定されよう。しかし、指針として、好ましい投与経路に依存し得る適切なヒト向け用量は、1〜1000μgになり得る。免疫または臨床効果を実現するには、複数回の用量が必要なこともあるが、必要な場合には、2〜12週間の間隔で通常投与されよう。より長期に亘り免疫応答を増強する場合、1カ月から5年の間隔で反復用量を施すこともある。
【0088】
複数のワクチンまたは薬物の投与を行うために、該製剤は、ベクター−抗原構築体を別の活性成分と組み合わせてもよい。2種以上の活性成分を共用投与することにより、相乗効果も認められることがある。
【0089】
1種または複数のフルオロペプチドを含む本発明のワクチン製剤は、Fluzone(登録商標)、Agrippal(商標)、Begrivac(商標)、Fluvax(登録商標)、Enzira(登録商標)、Fluarix(商標)、Flulaval(商標)、FluAd(登録商標)、Influvac(登録商標)、Fluvirin(登録商標)、FluBlok(登録商標)などの体液応答性インフルエンザワクチン、または活性成分としてヘマグルチニンを含む任意のインフルエンザワクチン、またはFlumist(登録商標)などの低温適応株を含む弱毒化生インフルエンザウィルスと組み合わせて、使用してもよい。投与は、同時にまたは時間を隔てて投与される、組合せ混合物または別々のワクチン薬剤として行ってもよい。
【0090】
更なる態様では、該インフルエンザワクチン製剤は、アマニジン、リマンチジン、ザナミビルまたはオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害剤処置薬を含む、抗ウィルス治療組成物と組み合わせて投与してもよい。投与は、同時でも、または時間を隔ててもよい。
【0091】
他の態様では、本発明は以下のことを提供する。
i)疾患またはその症状を治療または予防するための医薬の調製における、本明細書に記載したような免疫原性構築体の使用。
ii)本明細書に記載の製剤を投与した後の免疫応答の誘発による治療法。
【0092】
以下の実施例に関して、本発明を以下説明する。これらの実施例は、対応する非フッ素化抗原と比較して、フルオロカーボンベクターの抗原への結合で得られるT細胞の差次的(differential)免疫応答を強調している。例示した8種の抗原は、本明細書に規定したインフルエンザ配列のリストから選択した。この暫定的選択では、イムノインフォマティクス選択、インビトロ結合アッセイ、予めインフルエンザで感染したヒトPBMCを用いるエクスビボ再賦活アッセイ、製造および処方パラメーターを含む、パラメーターの組合せを包含する独自の選択アルゴリズムを利用した。最後に、マウスにおける評価によって、こうして選択したフルオロペプチドが、単独または併用のいずれかで免疫原性を示し、得られる応答が、天然ペプチド抗原より優れていることを確認した。このワクチン試作品のために、抗原の選択に専心し、抗原の組合せを利用することを所望する理由は、この合理的なワクチン設計においてウィルス遺伝子、ヒトHLA双方の多様性に対処するためである。これまで、これがペプチドワクチン分野における重大な欠陥の1つであった。フルオロペプチドワクチン中で単一抗原を利用することは可能ではあるが、そうすると、異系交配したヒト(または他の)集団で見込みのあるワクチン免疫原性が制限されると思われ、そのため複数のペプチドの選択が、有効性の広範なワクチンにとって必須である。
【0093】
本明細書で使用する場合、「フルオロペプチド」とは、ペプチド系抗原とコンジュゲートしたフルオロカーボンベクター(鎖)を指す。実施例では、以下の図を参照する。
【実施例1】
【0094】
実施例のペプチド
フルオロカーボンベクターにコンジュゲートし、インフルエンザ用予防または治療ワクチン中に導入するための候補には、以下の1種または複数のペプチドもしくはその断片、または相同体(ロスアラモス国立研究所のインフルエンザ配列データベース(Macken, C., Lu, H., Goodman, J., & Boykin, L., "The value of a database in surveillance and vaccine selection." in Options for the Control of Influenza IV. A.D.M.E. Osterhaus, N. Cox & A.W. Hampson (Eds.) 2001, 103-106.)またはNCBIのインフルエンザウィルス資源において参照されるような、対応するコンセンサス、祖先型または中央系統樹の配列)、あるいはその天然型および非天然型変異体を含み得るが、必ずしもそれだけに限らない。適当なペプチドの具体例を以下に示すが、そこでは標準的な1文字コードが利用されている。相同体は、基準配列と比較した際、少なくとも50%の同一性を有する。相同体は、好ましくは、天然配列と80、85、90、95、98または99%の同一性を有する。非天然アミノ酸の使用で、当該ペプチドのMHCクラスIまたはII受容体と結合する能力を妨害してはならない。1つまたは複数のエピトープを含有するこうした配列の断片も、フルオロカーボンベクターに結合するための候補ペプチドである。
【0095】
こうした配列は、インフルエンザA型のコンセンサス配列から選択した。インフルエンザウィルスのタンパク質およびそのタンパク質内にあるペプチドの位置が、特定されている。タンパク質の配列は、上記インフルエンザウィルス資源から収集した。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/
配列番号1
PB2 27〜61位
HMAIIKKYTSGRQEKNPSLRMKWMMAMKYPITADK

配列番号2
PB2 123〜157位
ERLKHGTFGPVHFRNQVKIRRRVDINPGHADLSAK

配列番号3
PB2 155〜189位
SAKEAQDVIMEVVFPNEVGARILTSESQLTITKEK

配列番号4
PB2 203〜237位
VAYMLERELVRKTRFLPVAGGTSSVYIEVLHLTQG

配列番号5
PB2 249〜283位
EVRNDDVDQSLIIAARNIVRRAAVSADPLASLLEM

配列番号6
PB2 358〜392位
EGYEEFTMVGRRATAILRKATRRLIQLIVSGRDEQ

配列番号7
PB2 370〜404位
ATAILRKATRRLIQLIVSGRDEQSIAEAIIVAMVF

配列番号8
PB2 415〜449位
RGDLNFVNRANQRLNPMHQLLRHFQKDAKVLFQNW

配列番号9
PB2 532〜566位
SSSMMWEINGPESVLVNTYQWIIRNWETVKIQWSQ

配列番号10
PB2 592〜626位
YSGFVRTLFQQMRDVLGTFDTVQIIKLLPFAAAPP

配列番号11
PB2 607〜641位
LGTFDTVQIIKLLPFAAAPPEQSRMQFSSLTVNVR

配列番号12
PB2 627〜659位
QSRMQFSSLTVNVRGSGMRILVRGNSPVFNYNK

配列番号13
PB1 12〜46位
VPAQNAISTTFPYTGDPPYSHGTGTGYTMDTVNRT

配列番号14
PB1 114〜148位
VQQTRVDKLTQGRQTYDWTLNRNQPAATALANTIE

配列番号15
PB1 216〜250位
SYLIRALTLNTMTKDAERGKLKRRAIATPGMQIRG

配列番号16
PB1 267〜301位
EQSGLPVGGNEKKAKLANVVRKMMTNSQDTELSFT

配列番号17
PB1 324〜358位
YITRNQPEWFRNVLSIAPIMFSNKMARLGKGYMFE

配列番号18
PB1 340〜374位
APIMFSNKMARLGKGYMFESKSMKLRTQIPAEMLA

配列番号19
PB1 404〜436位
SPGMMMGMFNMLSTVLGVSILNLGQKKYTKTTY

配列番号20
PB1 479〜513位
KKKSYINKTGTFEFTSFFYRYGFVANFSMELPSFG

配列番号21
PB1 486〜520位
KTGTFEFTSFFYRYGFVANFSMELPSFGVSGINES

配列番号22
PB1 526〜560位
GVTVIKNNMINNDLGPATAQMALQLFIKDYRYTYR

配列番号23
PB1 656〜690位
EYDAVATTHSWIPKRNRSILNTSQRGILEDEQMYQ

配列番号24
PB1 700〜734位
FPSSSYRRPVGISSMVEAMVSRARIDARIDFESGR

配列番号25
PA 107〜141位
PDLYDYKENRFIEIGVTRREVHIYYLEKANKIKSE

配列番号26
PA 122〜156位
VTRREVHIYYLEKANKIKSEKTHIHIFSFTGEEMA

配列番号27
PA 145〜179位
IHIFSFTGEEMATKADYTLDEESRARIKTRLFTIR

配列番号28
PA 166〜200位
ESRARIKTRLFTIRQEMASRGLWDSFRQSERGEET

配列番号29
PA 495〜529位
RRKTNLYGFIIKGRSHLRNDTDVVNFVSMEFSLTD

配列番号30
PA 642〜676位
AKSVFNSLYASPQLEGFSAESRKLLLIVQALRDNL

配列番号31
PA 173〜207位
PRRSGAAGAAVKGVGTMVMELIRMIKRGINDRNFW

配列番号32
NP 240〜274位
DQVRESRNPGNAEIEDLIFLARSALILRGSVAHKS

配列番号33
M1 2〜26位
SLLTEVETYVLSIIPSGPLKAEIAQRLEDVFAGKN

配列番号34
M1 23〜57位
EIAQRLEDVFAGKNTDLEALMEWLKTRPILSPLTK

配列番号35
M1 38〜72位
DLEALMEWLKTRPILSPLTKGILGFVFTLTVPSER

配列番号36
M1 55〜89位
LTKGILGFVFTLTVPSERGLQRRRFVQNALNGNGD

配列番号37
M1 166〜200位
ATTTNPLIRHENRMVLASTTAKAMEQMAGSSEQAA

配列番号38
NS1 128〜162位
IILKANFSVIFDRLETLILLRAFTEEGAIVGEISP

配列番号39
NS2 26〜60位
EDLNGMITQFESLKLYRDSLGEAVMRMGDLHSLQN
【0096】
以下の配列は、インフルエンザB型コンセンサス配列から選択した。インフルエンザウィルスのタンパク質およびそのタンパク質内にあるペプチドの位置が、特定されている。タンパク質の配列は、上記インフルエンザウィルス資源から収集した。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/
配列番号40
PB2 16〜50位
NEAKTVLKQTTVDQYNIIRKFNTSRIEKNPSLRMK

配列番号41
PB2 117〜151位
YESFFLRKMRLDNATWGRITFGPVERVRKRVLLNP

配列番号42
PB2 141〜175位
ERVRKRVLLNPLTKEMPPDEASNVIMEILFPKEAG

配列番号43
PB2 197〜231位
GTMITPIVLAYMLERELVARRRFLPVAGATSAEFI

配列番号44
PB2 311〜345位
DIIRAALGLKIRQRQRFGRLELKRISGRGFKNDEE

配列番号45
PB2 404〜438位
MVFSQDTRMFQGVRGEINFLNRAGQLLSPMYQLQR

配列番号46
PB2 519〜553位
VSELESQAQLMITYDTPKMWEMGTTKELVQNTYQW

配列番号47
PB2 537〜571位
MWEMGTTKELVQNTYQWVLKNLVTLKAQFLLGKED

配列番号48
PB2 572〜606位
MFQWDAFEAFESIIPQKMAGQYSGFARAVLKQMRD

配列番号49
PB2 717〜751位
LEKLKPGEKANILLYQGKPVKVVKRKRYSALSNDI

配列番号50
PB1 1〜35位
MNINPYFLFIDVPIQAAISTTFPYTGVPPYSHGTG

配列番号51
PB1 97〜131位
EEHPGLFQAASQNAMEALMVTTVDKLTQGRQTFDW

配列番号52
PB1 227〜261位
MTKDAERGKLKRRAIATAGIQIRGFVLVVENLAKN

配列番号53
PB1 393〜427位
KPFFNEEGTASLSPGMMMGMFNMLSTVLGVAALGI

配列番号54
PB1 616〜650位
DPEYKGRLLHPQNPFVGHLSIEGIKEADITPAHGP

配列番号55
PB1 701〜735位
SASYRKPVGQHSMLEAMAHRLRMDARLDYESGRMS

配列番号56
PA 160〜194位
SSLDEEGKGRVLSRLTELQAELSLKNLWQVLIGEE

配列番号57
PA 491〜525位
ESFDMLYGLAVKGQSHLRGDTDVVTVVTFEFSSTD

配列番号58
PA 696〜723位
VIQSAYWFNEWLGFEKEGSKVLESVDEIMDE

配列番号59
NP 173〜207位
FLKEEVKTMYKTTMGSDGFSGLNHIMIGHSQMNDV

配列番号60
NP 253〜287位
EAIRFIGRAMADRGLLRDIKAKTAYEKILLNLKNK

配列番号61
NP 308〜342位
IADIEDLTLLARSMVVVRPSVASKVVLPISIYAKI

配列番号62
NP 338〜372位
IYAKIPQLGFNVEEYSMVGYEAMALYNMATPVSIL

配列番号63
NP 418〜452位
GFHVPAKEQVEGMGAALMSIKLQFWAPMTRSGGNE

配列番号64
M1 166〜300位
ARSSVPGVRREMQMVSAMNTAKTMNGMGKGEDVQK

配列番号65
M1 209〜237位
IGVLRSLGASQKNGEGIAKDVMEVLKQSS
【0097】
インフルエンザ用予防または治療ワクチン中に導入するための候補ペプチドは、ウィルスタンパク質のいずれか、ヘマグルチニン、ノイラミニダーゼ、マトリックス(M1)タンパク質、M2、核タンパク質(NP)、PA、PB1、PB2、NS1またはNS2に由来する、このような任意の組合せのペプチドでもよい。
【0098】
フルオロペプチドおよび天然ペプチド(非修飾ペプチド)の合成
8種の天然ペプチドおよび8種のフルオロペプチド(本明細書に含めたペプチドリストの配列番号1から65までから選択した)を、固相ペプチド合成(SPPS)によって得た。全てのペプチドは、9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)の標準的化学反応を用いることにより、RinkアミドPEG樹脂上で合成した。ペプチド鎖は、20%ピペリジン/N,N−ジメチルホルムアミドで30分間処理することにより、Fmoc保護基を反復除去し、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド/1−ヒドロキシベンゾトリアゾール/N−メチルモルホリンを120分間使用することにより、保護アミノ酸をカップリングすることによって、樹脂上で組み立てた。カップリング効率を調べるために、各カップリングの後でニンヒドリン試験を行った。N末端リシニル残基を付加した後、樹脂ブロックを分割して、(1)樹脂の第1半量上で、N末端リシンのε鎖上に2H,2H,3H,3H−ペルフルオロウンデカン酸のフルオロカーボン鎖(C17(CHCOOH)を組み込んで、フルオロペプチドを誘導し、(2)樹脂の第2半量上で、N末端リシンのε鎖をアセチル化して天然ペプチドを誘導した。樹脂は、洗浄し、乾燥した後、側鎖保護基を切断、除去するためにK試薬で処理した。粗製ペプチドを冷エーテルから沈殿させ、ろ過により集めた。純度は、RP−HPLCで分析し、全ペプチドについて92%より優れていた。凍結乾燥したフルオロペプチドを窒素下で調製し、−20℃で保存した。保存条件下のフルオロペプチドの安定性は、RP−HPLCおよびLC−MSにより6カ月を超えることが確認された。
【0099】
ワクチン投与製剤
8種の凍結乾燥フルオロペプチド(フルオロペプチド1、フルオロペプチド2、フルオロペプチド3、フルオロペプチド4、フルオロペプチド5、フルオロペプチド6、フルオロペプチド7&フルオロペプチド8)、または8種の凍結乾燥天然ペプチド等価物(ペプチド1、ペプチド2、ペプチド3、ペプチド4、ペプチド5、ペプチド6、ペプチド7&ペプチド8)を処方して、非経口用に広範な中性pHを生じる等モル製剤を創製した。
【0100】
該構築体のインフルエンザペプチド部分の配列は、以下の通りであった。
フルオロペプチド1 HMAIIKKYTSGRQEKNPSLRMKWMMAMKYPITADK-NH2
フルオロペプチド2 VAYMLERELVRKTRFLPVAGGTSSVYIEVLHLTQG-NH2
フルオロペプチド3 YITRNQPEWFRNVLSIAPIMFSNKMARLGKGYMFE-NH2
フルオロペプチド4 APIMFSNKMARLGKGYMFESKRMKLRTQIPAEMLA-NH2
フルオロペプチド5 SPGMMMGMFNMLSTVLGVSILNLGQKKYTKTTY-NH2
フルオロペプチド6 KKKSYINKTGTFEFTSFFYRYGFVANFSMELPSFG-NH2
フルオロペプチド7 DQVRESRNPGNAEIEDLIFLARSALILRGSVAHKS-NH2
フルオロペプチド8 DLEALMEWLKTRPILSPLTKGILGFVFTLTVPSER-NH2
【0101】
動物および免疫接種
6〜8週齢のBALB/cまたはCB6F1(BALB/c×C57BL/6J)雌性マウスをCharles River(UK)および/またはHarlan(UK)から購入した。注射は、1mlのシリンジおよび22−Gの針を用いて皮下に行った。免疫接種は、マウスが、単一の免疫接種(プライム)または2回の免疫接種(プライム/ブースト)のいずれかを受けるように行った。免疫接種は、各注射間に14日の間隔を置いて行った。
【0102】
フルオロペプチドワクチンは、免疫原性が強く、BALB/cおよびCB6F1の両マウスにおいて天然ペプチドより優れている
フルオロペプチドワクチン(上記のようなフルオロペプチド8種の混合物)の免疫原性を、BALB/cおよびCB6F1マウスにおいて天然ペプチド等価物(上記のような天然ペプチドと称する、非修飾ペプチド8種の混合物)と比較した。この試験では、プライムまたはプライム−ブースト投与計画を用いる両製剤の免疫原性も比較した。両製剤は、BALB/cおよびCBF6マウスにおいてアジュバントなしで皮下に注射した。マウスには、1nmol/フルオロペプチド(フルオロペプチド8種で合計8nmol)を含有するフルオロペプチドワクチンの用量、または1nmol/ペプチド(天然ペプチド8種で合計8nmol)の天然ペプチドワクチン等価物を免疫接種した。ワクチン製剤は、いずれもアジュバントを全く含有していなかった。最終の免疫接種から10日後に、脾臓細胞を10μg/mlの個々の各天然ペプチドで再刺激し、IFN−γELISpotアッセイを用いて評価した。エクスビボでのIFN−γELISpotアッセイ(図1および2)によれば、フルオロペプチドワクチンの免疫原性は、プライム−ブースト免疫投与計画の後、賦形剤単独および天然ペプチドワクチン等価物の両方より優れていた(P<0.001)。この結果は、フルオロペプチドワクチン群の単一免疫接種だけと比較して、プライム−ブースト投与計画を用いたスポット形成細胞数の顕著な増加も実証した(図1および2)。以上の結果は、ペプチド配列に連結されたフルオロカーボン鎖の自己アジュバント性を実証している。
【0103】
フルオロペプチドワクチンは、BALB/cおよびCB6F1の両マウスにおいてT細胞のロバストな多重エピトープ応答を誘発する
フルオロペプチドワクチン(上記のようなフルオロペプチド8種の混合物)の免疫原性を、BALB/cおよびCB6F1マウスにおいて天然ペプチド等価物(上記のような「天然ペプチド」と称する、非修飾ペプチド8種の混合物)と比較した。この試験では、プライムおよびプライム−ブースト投与計画における両製剤の免疫原性も比較した。両製剤は、BALB/cおよびCB6F1マウスにおいてアジュバントなしで皮下に注射した。マウスには、1nmol/フルオロペプチド(フルオロペプチド8種で合計8nmol)を含有するフルオロペプチドワクチンの用量、1nmol/ペプチド(天然ペプチド8種で合計8nmol)の天然ペプチドワクチン等価物を免疫接種した。ワクチン製剤は、いずれもアジュバントを全く含有していなかった。対照群は、賦形剤単独の免疫接種を受けたマウスからなっていた。免疫接種から10日後に、脾臓細胞を10μg/mlの個々の各天然ペプチドで再刺激し、IFN−γELISpotアッセイを用いて評価した。フルオロペプチドワクチンは、BALB/cマウスにおいてペプチド8種中5種、およびCB6F1マウスにおいてペプチド8種中7種に対するペプチド特異的応答を誘発し、ワクチン(非修飾ペプチド)が誘発する応答より優れている。これは、フルオロペプチドによるワクチン接種が、質的にも量的にも天然ペプチド等価物より優れた免疫応答を誘発できることを実証している。
【0104】
フルオロペプチドワクチンは、試験したマウス株に応じてTh1サイトカインプロファイルを誘導する
フルオロペプチドワクチン(上記のようなフルオロペプチド8種の混合物)の免疫原性を、BALB/cおよびCB6F1マウスにおいて天然ペプチド等価物(上記のような非修飾ペプチド8種の混合物)と比較した。製剤は、BALB/cおよびCB6F1マウスにおいてアジュバントなしで皮下に注射した。マウスには、1nmol/フルオロペプチド(フルオロペプチド8種で合計8nmol)を含有するフルオロペプチドワクチンの用量、1nmol/ペプチド(天然ペプチド8種で合計8nmol)の天然ペプチドワクチン等価物を免疫接種した。ワクチン製剤は、いずれもアジュバントを全く含有していなかった。最後の免疫接種から10日後に、脾臓細胞をペプチド1種当たり1μg/mlの天然ペプチド8種の混合物で再刺激した。48時間の刺激後、培養上清を多重化ビーズアッセイ(CBA)によってサイトカインについて評価した。その結果から、CBF6マウスのサイトカインプロファイルは、IFN−γの産生およびTNF−αの有意な産生により支配され、Th1プロファイルを強調することが示されている(図4)。このTh1支配的サイトカインプロファイルは、BALB/cマウスと比較すると、CB6F1マウスに比べてこうしたTh1応答の強度低下(IFN−γELISpotによっても認められる、図1および2を参照)およびTh2サイトカインの増加のために、より顕著となった。とは言え、Th1応答の増強は、天然ペプチド等価物と比較して、フルオロペプチドを免疫接種されたBALB/cマウスにおいて認められた。
【0105】
フルオロペプチドワクチンは、IFN−γを産生する、CD4+およびCD8+双方のペプチド特異的T細胞を刺激する
IFN−γを産生する、CD4+およびCD8+のペプチド特異的T細胞の頻度に関する情報を得るために、IFN−γに対する細胞内サイトカイン染色を使用した。マウスにフルオロペプチドワクチン(上記のようなフルオロペプチド8種の混合物)を免疫接種し、CD4+またはCD8+脾臓細胞を、天然ペプチド8種の混合物(ワクチン)で短期間刺激した後、フローサイトメトリーによる細胞内サイトカイン染色について評価した。その結果は、フルオロペプチドワクチンでマウスを免疫接種すると、IFN−γを産生する、CD4+およびCD8+双方のペプチド特異的T細胞が、0.5〜2.6%の頻度で誘導できたことを示している(図5)。これによって、フルオロペプチドは、適切なMHCクラスIおよびIIエピトープを含有すれば、MHCクラスIおよびII双方の抗原プロセシングペプチドに会合することが確認される。
【実施例2】
【0106】
フルオロペプチドワクチンの接種で誘発される免疫応答は、アジュバントとの組合せで増強される
フルオロペプチドワクチン(上記のようなフルオロペプチド8種の混合物)の免疫原性を、アジュバントとしてフロイントの完全アジュバント(FCA)の存在下でのフルオロペプチドワクチンの免疫原性と比較した。フルオロペプチドワクチン(1nmol/ペプチド)またはCFA中に乳化したフルオロペプチドワクチン(1nmol/ペプチド)を使用して、BALB/cマウスを免疫接種した。免疫接種から10日後、脾臓細胞を10μg/mlの個別ペプチドで刺激した。48時間後、培養上清を収集し、多重サイトカインアッセイ(CBA)を用いてサイトカインについて試験した。その結果は、CFAを付加的なアジュバントとして使用することにより、Th2サイトカイン(IL−4、IL−5)の産生に影響を与えることなく、Th1サイトカイン(IFN−γおよびIL−2)産生を有意に増強できることを示している(図6)。したがって、フルオロペプチドワクチンの接種で誘発されるTh1応答は、アジュバントとの組合せで免疫中に優先的に増強される。
【0107】
フルオロペプチドワクチンの皮下および皮内の両投与経路は、免疫応答を誘発することができる
フルオロペプチドワクチン(上記のようなフルオロペプチド8種の混合物)の免疫原性を、BALB/cマウスにおける皮内または皮下いずれかの投与経路を用いて比較した。免疫接種から10日後、脾臓細胞を10μg/mlの個別ペプチドで刺激し、ELISPOTによってエクスビボでのIFN−γ産生について評価した。その結果は、フルオロペプチドの皮下および皮内の両投与経路は、ロバストな抗原特異的応答の誘発に適切であることを示している(図7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造C−C−(Sp)−Rまたはその誘導体のフルオロカーボンベクター−抗原構築体であって、式中、m=3〜30、n≦2m+1、y=0〜15、x≦2y、(m+y)=3〜30であり、Spは、任意選択の化学スペーサー部分であり、Rは、インフルエンザウィルス由来の抗原である、フルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項2】
次の構造のフルオロカーボンベクター−抗原構築体であって、
【化3】


式中、Spは、任意選択の化学スペーサー部分であり、Rは、インフルエンザウィルス由来の抗原である、フルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項3】
Rが、インフルエンザウィルスタンパク質の1つまたは複数のエピトープを含む、請求項1または請求項2に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項4】
Rが、インフルエンザウィルスA型タンパク質、またはインフルエンザウィルスB型タンパク質、またはインフルエンザウィルスC型タンパク質の1つまたは複数のエピトープを含む、請求項3に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項5】
前記抗原がペプチドである、請求項1から4までのいずれか一項に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項6】
前記ペプチドが免疫原性ペプチドである、請求項5に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項7】
Rが、7〜100個の間のアミノ酸からなるペプチドである、請求項5または請求項6に記載の構築体。
【請求項8】
Rが、少なくとも1つのMHCクラスIもしくはII結合エピトープまたはB細胞結合エピトープあるいはそれらの組合せを含む、請求項1から7までのいずれか一項に記載の構築体。
【請求項9】
Rが、2つ以上の重なり合うエピトープを含む、請求項1から8までのいずれか一項に記載の構築体。
【請求項10】
Rが、NCBIおよびロスアラモス国立研究所のインフルエンザ配列データベース、またはそれらの断片、誘導体、相同体もしくは組合せから選択されるペプチドである、請求項1から9までのいずれか一項に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項11】
Rが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64もしくは65、またはそれらの断片、誘導体、相同体もしくは組合せから選択されるペプチドである、請求項1から9までのいずれか一項に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項12】
抗原と非共有結合で結合している、請求項1に記載のフルオロカーボンベクター。
【請求項13】
Rが、複数のエピトープおよび/または融合ペプチドを含む、請求項1から12までのいずれか一項に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体。
【請求項14】
場合により1種または複数の医薬として許容される担体、賦形剤、希釈剤またはアジュバントと共に、請求項1から13に記載の1種または複数のフルオロカーボンベクター−抗原構築体を含む、医薬組成物。
【請求項15】
非経口、経口、眼内、直腸、経鼻、経皮、局所または経膣投与のために処方された、請求項1から13に記載の1種または複数のフルオロカーボンベクター−抗原構築体を含む、医薬組成物。
【請求項16】
液体、乳濁液、固体、エアロゾルまたは気体の形態をした、請求項1から13に記載の1種または複数のフルオロカーボンベクター−抗原構築体を含む、医薬組成物。
【請求項17】
アジュバントと組み合わせた、請求項1から13に記載の1種または複数のフルオロカーボンベクター−抗原構築体を含む医薬組成物であって、前記アジュバントが、
(1)フロイントのアジュバントおよびその誘導体、ムラミルジペプチド(MDP)誘導体、CpG、モノホスホリルリピドAなどの天然の細菌成分を自然に、または合成的に誘導して精製したもの、
(2)サポニン、アルミニウム塩およびサイトカインなどのアジュバントまたは増強剤、
(3)水中油アジュバント、油中水アジュバント、免疫賦活複合体(ISCOM)、リポソーム、製剤化ナノおよびマイクロ粒子、ならびに
(4)細菌の毒素およびトキソイド
から選択されるものである、医薬組成物。
【請求項18】
少なくとも2種のベクター−抗原構築体を含む、請求項14から17までのいずれか一項に記載の医薬組成物であって、第1の構築体は、次式のインフルエンザペプチド配列:
HMAIIKKYTSGRQEKNPSLRMKWMMAMKYPITADK
を含み、第2の構築体は、次式のインフルエンザペプチド配列:
YITRNQPEWFRNVLSIAPIMFSNKMARLGKGYMFE
を含む医薬組成物。
【請求項19】
以下のインフルエンザペプチド配列を含んだ8種のベクター−抗原構築体を含む、請求項18に記載の医薬組成物。
構築体1 HMAIIKKYTSGRQEKNPSLRMKWMMAMKYPITADK
構築体2 VAYMLERELVRKTRFLPVAGGTSSVYIEVLHLTQG
構築体3 YITRNQPEWFRNVLSIAPIMFSNKMARLGKGYMFE
構築体4 APIMFSNKMARLGKGYMFESKRMKLRTQIPAEMLA
構築体5 SPGMMMGMFNMLSTVLGVSILNLGQKKYTKTTY
構築体6 KKKSYINKTGTFEFTSFFYRYGFVANFSMELPSFG
構築体7 DQVRESRNPGNAEIEDLIFLARSALILRGSVAHKS
構築体8 DLEALMEWLKTRPILSPLTKGILGFVFTLTVPSER
【請求項20】
予防用ワクチンまたは免疫治療薬の調製における、請求項1から13に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体の使用。
【請求項21】
非経口、粘膜、経口、経鼻、局所、眼内、直腸、経皮または経膣投与のための予防用ワクチンまたは免疫治療薬の調製における、請求項1から13に記載のフルオロカーボンベクター−抗原構築体の使用。
【請求項22】
体液応答性インフルエンザワクチンと組み合わせて、同時または個別に投与される、請求項14から19に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記ワクチンが、ヘマグルチニン含有インフルエンザワクチンである、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
請求項14から24に記載の組成物を用いる、治療または免疫接種の方法。
【請求項25】
動物に請求項14〜23に記載の製剤を投与することを含む、免疫応答を刺激する方法。
【請求項26】
トリに請求項14〜23に記載の製剤を投与することを含む、免疫応答を刺激する方法。
【請求項27】
哺乳動物に請求項14〜23に記載の製剤を投与することを含む、免疫応答を刺激する方法。
【請求項28】
ヒトに請求項14〜23に記載の製剤を投与することを含む、免疫応答を刺激する方法。
【請求項29】
前記医薬組成物が、抗インフルエンザ療法と併用される、請求項24から28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗インフルエンザ療法が、ノイラミニダーゼ阻害剤である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ヘマグルチニン含有インフルエンザワクチンと組み合わせて、同時または個別のいずれかで、請求項14から19に記載の予防または治療製剤を投与することによる、免疫応答を刺激する方法。
【請求項32】
1種または複数の医薬として許容される担体、賦形剤、希釈剤またはアジュバントと、請求項1から13のいずれか一項に記載のフルオロカーボン構築体を組み合わせることを含む、予防または治療医薬品を調製する方法。
【請求項33】
ワクチンまたは製品が、非経口、粘膜、経口、経鼻、局所、眼内、直腸、経皮または経膣投与のためのものである、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−537961(P2010−537961A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522440(P2010−522440)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002930
【国際公開番号】WO2009/027688
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510055068)イミューン ターゲティング システムズ (アイティーエス) リミテッド (1)
【Fターム(参考)】