説明

インフルエンザA型ウイルスの免疫検出法

【課題】
広範囲のインフルエンザA型ウイルスを迅速かつ簡便に検出できる方法および測定器具を提供する。
【解決手段】
各種のインフルエンザA型ウイルスに共通する非構造蛋白であるNS1蛋白をコードする遺伝子の断片をクローン化し、組換えNS1蛋白およびそれに対するモノクローナル抗体を得た。かくして、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する抗体を用いる免疫測定法、特に該NS1蛋白に対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法、とりわけイムノクロマトグラフィー測定法およびイムノクロマト法テストストリップが提供される。前記第一の抗体と第二の抗体の少なくとも何れか一方は前記モノクローナル抗体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザA型ウイルスの非構造蛋白であるNS1蛋白に対する抗体を用いたインフルエンザA型ウイルスの免疫検出法、詳しくは、サンドイッチ式免疫測定法、特に、イムノクロマトグラフィー測定法およびイムノクロマト法テストストリップに関するものであり、インフルエンザA型ウイルスに起因する疾病を迅速かつ簡便に診断するために有用な検出法に関する。また、本発明は、インフルエンザA型ウイルスに対する抗体の免疫検出法にも関連する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスはヒト上気道、下気道などに感染し、1〜2日の潜伏期をおいた後、発熱(38〜39℃)と共に頭痛、腰痛、筋肉痛、全身倦怠、消化器症状などを引き起こす。インフルエンザで最も問題となる合併症は高齢者の肺炎と小児の脳炎・脳症で、特に小児の脳炎・脳症は高熱、意識障害、痙攣を特徴とし、極めて予後が悪いうえに初発症状から中枢神経系症状の発現及び死に至る期間が極めて短いので、迅速な診断と処置が必要である。
【0003】
従来は、上記のような臨床症状のみでインフルエンザ様疾患として診断されることが多かったが、近年、インフルエンザウイルス抗原を迅速に検出するキットが開発され普及し始めたことから、インフルエンザウイルス感染症として早期に診断することが可能になってきた。このような迅速診断キットとしては、酵素免疫法(EIA)やイムノクロマトグラフィー測定法を原理として用いたものが挙げられ、インフルエンザA型ウイルスのみを検出するもの、A型とB型をまとめて検出するもの、A型とB型を別々に検出するものなどがある。
【0004】
インフルエンザウイルス感染症の治療薬も、抗インフルエンザウイルス剤が開発され、例えば、A型とB型の両方に効果のあるノイラミニダーゼ阻害剤として、吸入剤のザナミビル、経口剤のオセルタミビルなどが認可されている。
したがって、迅速診断キットによる診断と抗インフルエンザウイルス剤による治療とを組み合わせることにより、適正な治療が可能となってきた。
【0005】
しかしながら、ノイラミニダーゼ阻害剤は、インフルエンザA型ウイルスまたはB型ウイルスの風邪症状発生2日以内に投与を開始しなければならない。これに対し、従来の迅速診断キットは、検出対象抗原として核タンパク質(NP)を用いた場合、NPが比較的変異を受けにくく、同じ型の各種ウイルスで広く共通する蛋白であることから、型に対する特異性は優れているが、ウイルス粒子内に存在しているため感染初期における感度が十分とは言えないという欠点があった。また、インフルエンザウイルスの表面に存在するヘマグルチニン(HA)やノイラミニダーゼ(NA)などのタンパク質を検出対象抗原とすると、これらの表面タンパク質の変異が激しいことから、特異性が低いという欠点があった。
【0006】
【非特許文献1】三田村,「インフルエンザの迅速診断」,臨床検査,2002年2月,第46巻,第2号,p.169―173
【非特許文献2】三田村、他2名,「POCTキットによるインフルエンザ抗原検査」,検査と技術,2002年5月,第30巻,第5号,p.443―448
【非特許文献3】榎並,「インフルエンザウイルスNS1,NS2蛋白の構造,機能と発現制御」,日本臨牀,1997年10月,第55巻,第10号,p.107―111
【非特許文献4】I. Birch-Machinら,「Expression of the nonstructural protein NS1 of equine influenza A virus: detection of Anti-NS1 antibody in post infection equine sera」,Journal of Virological Methods, 65 (1997) p.255-263
【非特許文献5】H. Ozakiら,「Detection of antibodies to the nonstructural protein (NS1) of influenza A virus allows distinction between vaccinated and infected horses」,Veterinary Microbiology, 82 (2001) p.111-119
【非特許文献6】K. Nakajimaら,「Evolution of the NS Genes of the Influenza A Viruses. II. Characteristics of the Amino Acid Changes in the NS1 Proteins of the Influenza A Viruses」,VIRUS GENES 4:1, (1990) p.15-16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インフルエンザは感染が速く発見が遅れると広い範囲にわたって急速に蔓延するので、感染を出来る限り早期に、かつ、迅速に発見する必要がある。また、感染を従来よりも早期に発見できれば、抗インフルエンザウイルス薬などの治療薬を早期に投与して一層効果的に使用することができ、インフルエンザウイルス感染症の早期かつ確実な治療が期待できる。
本発明の目的は、広範囲のインフルエンザA型ウイルスを感染早期の段階で迅速かつ簡便に検出できる方法および測定器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、インフルエンザA型ウイルスの非構造蛋白であるNS1蛋白の特定の断片をクローニングして遺伝子工学的に発現させることに成功し、当該発現蛋白に対する抗体を免疫測定法、特にサンドイッチ式免疫測定法、とりわけイムノクロマトグラフィー測定法で使用することにより、広範囲のインフルエンザA型ウイルスを感染初期の段階で検出し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一局面によれば、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する抗体を用いる免疫測定法からなるインフルエンザA型ウイルスの検出法が提供される。
この検出法における免疫測定法としては、特に限定されるものではないが、サンドイッチ式免疫測定法、とりわけELISA(Enzyme−linked immunosorbent assay)法、イムノクロマトグラフィー測定法などが好ましい。
【0010】
したがって、本発明の他の局面によれば、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法からなることを特徴とするインフルエンザA型ウイルスの検出法が提供される。
また、本発明の好ましい実施形態によれば、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する第一の抗体を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、前記NS1蛋白に対する第二の抗体と所定量の被験試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被験試料中に含まれるインフルエンザA型ウイルス由来のNS1蛋白と前記第二の抗体との複合体を前記捕捉部位に捕捉させることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定法が提供される。
また、本発明の好ましい実施形態によれば、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する第一の抗体と第二の抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されてなるインフルエンザA型ウイルス検出用イムノクロマト法テストストリップが提供される。
【0011】
本発明で使用するNS1蛋白に対する抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、モノクローナル抗体とすることが好ましい。イムノクロマトグラフィー測定法などのサンドイッチ式免疫測定法の場合も、そこで使用する第一の抗体及び第二の抗体は、それぞれ、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、一般に、少なくとも一方の抗体をモノクローナル抗体とすることが好ましく、両方の抗体をモノクローナル抗体とすることが特に好ましい。
【0012】
本発明において好ましいモノクローナル抗体は、配列表の配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対するモノクローナル抗体であり、さらに好ましくは、インフルエンザA型ウイルス亜型H1乃至15型の全てと反応するモノクローナル抗体である。
ウマのインフルエンザA型ウイルスであるinfluenza A/equine 2/Suffolk/89のNS1蛋白のC末端側126アミノ酸残基からなる領域に抗原決定基(エピトープ)が存在し、このNS1蛋白及びこれをコードする遺伝子(NS1遺伝子)がウマのインフルエンザA型ウイルスであるinfluenza A/equine 2/Miami/63と97%のホモロジーを有することは上記非特許文献4で報告されているが、そこでは、NS1蛋白の単離に失敗しており、NS1蛋白に対する抗血清は取得しているとしても、モノクローナル抗体についても何等取り扱われていない。
配列表の配列番号1のアミノ酸配列は、馬インフルエンザA型ウイルスであるA/Equine/Miami/1/63 (H3N8)のNS1蛋白のフルレングスアミノ酸配列に対応するものであり、インフルエンザA型ウイルスの広範な亜種間に共通して保存されている領域を包含すると考えられる。配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対応する遺伝子は、本発明においてクローン化され、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドは、当該クローン化遺伝子から遺伝子工学的に発現され精製され、インフルエンザA型ウイルスに対する抗体、とりわけNS1蛋白に対する抗体(抗NS1抗体)の検出に有用である。また、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対する各種モノクローナル抗体は新規と考えられる。
【0013】
したがって、本発明の他の局面によれば、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対するモノクローナル抗体が提供される。
また、本発明の更に他の局面によれば、以下の(a)および(b)の何れか1つのペプチドが提供される。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白の免疫原性を示すペプチド。
【0014】
さらに、本発明の更に他の局面によれば、上記(a)および(b)の何れか1つのペプチドをコードする遺伝子およびこれを含有する組換えベクターが提供される。
さらに、本発明の更に他の局面によれば、上記組換えベクターを含む形質転換体、および、この形質転換体によって発現された前記組換えベクター由来のインフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白の免疫原性を示す組換えタンパク質が提供される。この組換え蛋白は、上述のとおり、インフルエンザA型ウイルスに対する抗体、とりわけ抗NS1抗体の検出に使用できる。
【0015】
したがって、本発明の他の局面によれば、上記組換えタンパク質を用いる免疫測定法からなるインフルエンザA型ウイルスに対する抗体の検出法が提供される。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記組換えタンパク質を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、生体から採取された被験試料とこの生体の免疫グロブリンに対する抗体との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、該抗体と該被験試料中に含まれるインフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する抗体との複合体を前記捕捉部位に捕捉させることを特徴とするインフルエンザA型ウイルスに対する抗体の検出用イムノクロマトグラフィー測定法が提供される。
【0016】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、上記組換えタンパク質と生体の免疫グロブリンに対する抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記組換えタンパク質は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されてなる、前記生体より採取された抗インフルエンザA型ウイルス抗体を検出するためのイムノクロマト法テストストリップが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明で検出するインフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白は、インフルエンザA型ウイルスの感染細胞内で、感染初期に細胞の核内に蓄積が見られ、ウイルス感染中期以降は細胞質への蓄積も見られる。このように、NS1蛋白が感染細胞内で見られるということは、インフルエンザA型ウイルスが細胞内で増殖しウイルス粒子を構成して細胞外に放出される前に既に多く発現していることを意味している。このことは、従来検出対象とされていた核タンパクよりも先に発現していることを意味する。したがって、NS1蛋白を検出対象とする本発明は、従来のインフルエンザ抗原検出試薬よりも感染初期における判定を可能とする。さらに、このNS1蛋白は、インフルエンザA型ウイルスに属するウイルスに共通する蛋白であるため、ヒトインフルエンザウイルス、ブタインフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス、馬インフルエンザウイルス等の広範囲のインフルエンザA型ウイルス、特にA型ウイルスの全ての亜型の検出に共通して用いることができ、ヒトおよび動物のインフルエンザ感染症の診断に広く適用できる。
また、本発明でクローニングおよび発現された組換えNS1蛋白は、簡単に調製することができ、簡便かつ迅速な抗体検出用の抗原として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白は、配列番号1のアミノ酸配列に対応する遺伝子、例えば、配列番号2のDNA配列の情報を参照して適当なプライマーDNAを合成し、逆転写―ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法により適当なインフルエンザA型ウイルスまたはその感染細胞からNS1遺伝子を取得し、これをクローニングして遺伝子工学的に発現させることにより入手できる。
ここでNS1遺伝子を取得するインフルエンザA型ウイルスとしては、ヒトインフルエンザ、ブタインフルエンザ、鳥インフルエンザ、馬インフルエンザを含む広範囲のインフルエンザウイルス、特にインフルエンザA型ウイルスに共通して存在していると考えられることから、インフルエンザA型ウイルスに属する各種のウイルスを用いることができる。このようなウイルスとしては、寄託機関に保存されている各種の株の他、各種の野外株を取得して用いることもできる。寄託機関に保存されている株としては、例えば、A/WS/33(H1N1[tissue culture adapted])(ATCC番号VR-1520)、A/Swine/1976/31(H1N1)(ATCC番号VR-99)、A/Port Chalmers/1/73(ATCC番号VR-810)、A/NWS/33(ATCC 番号VR-219)、A/New Jersey/8/76(Hsw N1)(ATCC番号VR-897)、A/MaI/302/54(H1N1)(ATCC番号VR-98)、A/Hong Kong/8/68(H3N2)(ATCC番号VR-544)、A2/Aichi/2/68(H3N2)(ATCC番号VR-547)などのほか、NIBSC(National Institute for Biological Standards and Control)から入手できる各種の株が挙げられる。
【0019】
本発明において、抗体の製造および該抗体を使用する検出法および測定法における各ステップは、それぞれ、それ自体、公知の免疫学的手法に準拠して行なわれる。
本発明において、ポリクローナル抗体は、例えば、インフルエンザA型ウイルスの感染細胞の培養上清から抽出精製したNS1蛋白またはクローニングされたNS1蛋白の遺伝子を大腸菌などの宿主で遺伝子工学的に発現させて抽出精製したNS1蛋白を抗原として常法に従って動物を免疫し、その抗血清から得られる。
【0020】
また、モノクローナル抗体は、例えば、上記と同様に抽出精製したNS1蛋白を抗原としてマウスのような動物を免疫したのち、この免疫された動物の脾臓細胞とミエローマ細胞とを細胞融合して得られた融合細胞をHAT含有培地でセレクトした後に増殖せしめる。増殖せしめた株を前記のようにして得られたNS1蛋白を使用して、たとえば、酵素標識免疫法などにより抗NS1蛋白抗体産生株を選別する。
【0021】
被験試料中のNS1蛋白を検出するための本発明のイムノクロマトグラフィー測定法は、公知のイムノクロマト法テストストリップの構成に準拠して容易に実施できる。
一般に、かかるイムノクロマト法テストストリップは、抗原の第一の抗原決定基にて抗体抗原反応可能な第一の抗体と、前記抗原の第二の抗原決定基にて抗体抗原反応可能で且つ標識された第二の抗体と、膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されて構成される。第一の抗体および第二の抗体は、上述のように、それぞれポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良いが、少なくとも何れか一方がモノクローナル抗体であることが好ましい。通常は、第一の抗体及び第二の抗体は「ヘテロ」の組み合わせで用いられ、すなわち、抗原上の位置および構造の何れもが異なる各抗原決定基をそれぞれ認識する第一の抗体及び第二の抗体が組み合わせて用いられる。しかしながら、第一の抗原決定基と第二の抗原決定基は抗原上の位置が異なっていれば構造的に同一であってもよく、その場合、第一の抗体および第二の抗体は上記「ホモ」の組み合わせのモノクローナル抗体であってよく、すなわち、第一の抗体および第二の抗体の両方に同一のモノクローナル抗体が使用できる。
【0022】
イムノクロマト法テストストリップの具体例としては、例えば、図3に示されるテストストリップが挙げられる。図3において、数字1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、31は捕捉部位、4は吸収用部材、5は試料添加用部材を示している。
図示の例では、膜担体3は、幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンフィルターで作成されている。
該膜担体3には、そのクロマト展開始点側の末端から7.5mmの位置に、第一の抗体が固定され、検体の捕捉部位31が形成される。
図示の例では、膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いているが、被験試料に含まれる検体をクロマト展開可能で、かつ、上記捕捉部位31を形成する抗体を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
【0023】
含浸部材2は、前記第一の抗体が結合する第一の抗原決定基と異なる部位に位置する第二の抗原決定基にて前記抗原と抗体抗原反応する第二の抗体を含浸せしめた部材からなる。当該第二の抗体は、適当な標識物質で予め標識される。
図示の例では、含浸部材2として、5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、セルロース類布(濾紙、ニトロセルロース膜等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類なども使用できる。
【0024】
第二の抗体の標識物質としては、使用可能なものであればいかなる物質であってもよく、呈色標識物質、酵素標識物質、放射線標識物質などが挙げられる。
このうち、捕捉部位31での色の変化を肉眼で観察することにより迅速かつ簡便に判定できる点から、呈色標識物質を用いることが好ましい。
呈色標識物質としては、金コロイド、白金コロイド等の金属コロイドの他、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックスなどの合成ラテックスや、天然ゴムラテックスなどのラテックスが挙げられ、このうち、金コロイドなどの金属コロイドが特に好ましい。
当該含浸部材2は、標識された第二の抗体の懸濁液を前記ガラス繊維不織布等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させることなどによって作製できる。
【0025】
図3に示されるように、膜担体3を粘着シート1の中程に貼着し、該膜担体3のクロマト展開の開始点側(すなわち図3の左側、以下「上流側」と記す、また、その逆の側、すなわち図3の右側を、以下「下流側」と記す)の末端の上に、含浸部材2の下流側末端を重ね合わせて連接するとともに、この含浸部材2の上流側部分を粘着シート1に貼着して本発明のイムノクロマト法テストストリップを作成できる。
さらに、必要に応じて、含浸部材2の上面に試料添加用部材5の下流側部分を載置するとともに、該試料添加用部材5の上流側部分を粘着シート1に貼着してもよく、また、膜担体3の下流側部分の上面に吸収用部材4の上流側部分を載置するとともに、該吸収用部材4の下流側部分を粘着シート1に貼着せしめることもできる。
【0026】
試料添加用部材5としては、例えば、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、ならびに、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または織布もしくは不織布を用いることができる。
吸収用部材4は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が最適である。
【0027】
さらに、市販品の場合、図3のイムノクロマト法テストストリップは、試料添加用部材5と捕捉部位31の上方にそれぞれ被験試料注入部と判定部が開口された適当なプラスチック製ケース内に収容されて提供される。
【0028】
かくして、生体試料などからなる被験試料を必要に応じて適当な展開溶媒と混合してクロマト展開可能な混合液を得た後、当該混合液を図3に示されるイムノクロマト法テストストリップの試料添加用部材5上に注入すると、該混合液は、該試料添加用部材5を通過して含浸部材2において、標識された第二の抗体と混合する。
その際、該混合液中に検体が存在すれば、抗原抗体反応により検体と第二の抗体との複合体が形成される。
この複合体は、膜担体3中をクロマト展開されて捕捉部位31に到達し、そこに固定された第一の抗体と抗原抗体反応して捕捉される。
このとき、標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が使用されていれば、当該呈色標識物質の集積により捕捉部位31が発色するので、直ちに、検体を定性的または定量的に測定することができる。
【0029】
被験試料としては、特に制限はないが、鼻腔吸引液、鼻腔ぬぐい液および咽頭ぬぐい液が好ましい。被験試料は、展開溶媒などの適当な希釈液で希釈して膜担体に注入してもよい。本発明で検出するNS1蛋白は非構造蛋白であり、ウイルス粒子中にはほとんど存在せず、ウイルスが増殖する細胞内でのみ発現する。
【0030】
被験試料中の抗インフルエンザA型ウイルス抗体、特に抗NS1抗体を検出するための本発明のイムノクロマトグラフィー測定法の場合は、例えば、上述の図3において、捕捉部位31に固定した第一の抗体の代わりに、NS1蛋白を捕捉部位31に固定し、標識された第二の抗体の代わりに、被験試料を取得した生体の免疫グロブリンに対する抗体を標識して含浸部材に含浸させておくことにより実施できる。この場合、血清などからなる被験試料を必要に応じて適当な展開溶媒と混合してクロマト展開可能な混合液を得た後、当該混合液を図3に示されるイムノクロマト法テストストリップの試料添加用部材5上に注入すると、該混合液は、該試料添加用部材5を通過して含浸部材2において、標識された上記抗体と混合する。その際、該混合液中に抗NS1抗体が存在すれば、この抗NS1抗体と標識された抗体とが抗原―抗体反応により複合体を形成し、この複合体は膜担体3中をクロマト展開されて捕捉部位31に到達し、そこに固定されたNS1蛋白と抗原抗体反応して捕捉される。標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が使用されていれば、当該呈色標識物質の集積により捕捉部位31が発色する。したがって、該混合液中の抗NS1抗体の存否を、捕捉部位31における呈色の濃淡により定性的または定量的に測定することができる。
【0031】
ここで用いる免疫グロブリンに対する抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の何れであっても良いが、反応特異性の点からモノクローナル抗体が好ましい。このモノクローナル抗体は、被験試料の由来する生物の抗Igs抗体であればよく、例えば、該生物がヒトであれば、抗ヒトIgGマウスIgG抗体などの市販の抗ヒトIgs抗体が使用され、該生物がウマであれば、抗ウマIgs抗体が使用される。これらの抗体の標識は、上記第二の抗体と同様の方法で行うことができる。
【0032】
抗NS1抗体を検出するために用いる被験試料としては、特に制限はないが、例えば、血液(全血でも、血清でも、血漿でもよい)、唾液、尿等の体外に採取された体液が挙げられる。被験試料は、展開溶媒などの適当な希釈液で希釈して膜担体に注入してもよい。
なお、全血を被験試料として用いるときで、特に標識抗体の標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が用いられる場合、前記試料添加用部材に血球捕捉膜部材を配置しておくことが好ましい。血球捕捉膜部材は、前記含浸部材と前記試料添加用部材との間に積層することが好ましい。これにより、赤血球が膜担体に展開されるのが阻止されるので、膜担体の捕捉部位における呈色標識の集積の確認が容易になる。血球捕捉膜部材としては、カルボキシメチルセルロース膜が用いられ、具体的には、アドバンテック東洋株式会社から販売されているイオン交換濾紙CM(商品名)や、ワットマンジャパン株式会社から販売されているイオン交換セルロースペーパーなどを用いることができる。
【実施例】
【0033】
下記の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0034】
本発明で使用した実験プロトコールの詳細は下記のとおりである。
蛍光抗体法
蛍光抗体法はOffice International Des Epizooties(2000)の方法に従った。Lab-Tek II Chamber Slide System(Nunc)に単層を形成させた培養細胞にm.o.i.=1でウイルスを接種し、37℃で48時間培養後、培養上清を除去し、感染細胞をPBSで1回洗浄した。細胞を5〜10分間100% 冷アセトン(和光純薬)に浸し固定した後、乾燥させた。モノクローナル抗体を含むマウス腹水を抗体希釈液で2,000倍に希釈し、これを1次抗体液として添加し、室温で1時間反応させた。PBSで1回洗浄後、抗体希釈液で1,000倍に希釈したFluorecein-conjugated Goat IgG Fraction to Mouse IgG(ICN Biomedicals)を2次抗体液として添加し、室温で1時間反応させた。PBSで2回洗浄し、細胞を封入剤[Glycerol for fluorescence microscopy(Merck)と0.5M 炭酸重炭酸バッファー(pH9.5)を比率3:1で混合したもの]で封入した後、蛍光顕微鏡(Axiovert 200、ZEISS)を用い、FITC Filter(Chroma)で観察した。
【0035】
ドデシル硫酸ナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
SDS-PAGEはLaemmli(1970)の方法に従った。試料に試料用緩衝液[0.1M Tris-HCl(pH6.8)、4% SDS(Nacalai Tesque)、10% 2-Mercaptoethanol(Merck)、20% グリセリン(和光純薬)および0.005% ブロモ・フェノール・ブルー(キシダ化学)]を等量加え、5分間煮沸し可溶化した。試料としてウイルス感染細胞を用いる際は、感染細胞に可溶化バッファー[0.1M Tris-HCl(pH7.6)、0.1M NaCl、1% Nonidet P-40(Nacalai Tesque)、1% Triton X-100およびComplete, Mini, EDTA-free(Roche)]を加えた後、同様に処理した。可溶化した試料は7.5%あるいは10% ポリアクリルアミドゲルを用いて泳動した。ゲルはCoomassie Brilliant Blue R-250(Nacalai Tesque)で染色した。
【0036】
ウエスタンブロット法
ウエスタンブロット法はTowbinら(1979)の方法に従った。まず、SDS-PAGEで分画された蛋白をImmobilon-P Transfer Membrane(Millipore)に転写した。メンブランを5%のスキムミルクを含むPBSでブロッキングした。次に、6xHis Monoclonal Antibody(Clontech)またはモノクローナル抗体を含むマウス腹水を0.5%のスキムミルクを含むPBSで5,000倍に希釈し、メンブランと反応させた。洗浄後、同様に5,000倍に希釈したGoat Anti-Mouse IgG-HRP Conjugateと反応させた。洗浄後、発光基質溶液(Lumi-Light Western Blotting Substrate、Roche)に浸して、暗室でフィルム(Hyperfilm ECL、Amersham)に感光させ、現像した。
【0037】
実施例1(NS1遺伝子のクローニング)
馬インフルエンザA型ウイルスであるA/Equine/Miami/1/63 (H3N8)を11日齢の孵化鶏卵の羊膜腔に接種し、培養した。数日後に羊水を採取しウイルスを得た。このウイルスにRNA抽出試薬(TRIzol Reagent、Invitrogen)を加え、ウイルスRNAを抽出した。抽出したRNAからRNA LA PCR Kit(AMV)Ver.1.1(宝酒造)を用いて逆転写‐ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法によりNS1遺伝子を増幅した。プライマーとしてNS24-EcoRI(sense):5’-ACAGAATTCTAATGGATTCCAACAC-3’(配列番号3)およびSP6 primer(antisense):5’-CATACGATTTAGGTGACACTATAG-3’ (配列番号4)を用いた。なおプライマーの塩基配列のうち、下線は制限酵素の部位(EcoRI;GAATTC)を示す。
【0038】
得られたPCR産物の一部を0.8% アガロースゲル(アガロース S、和光純薬)で電気泳動し、NS1遺伝子の増幅を確認した後、全量を泳動し、目的のバンドを含むゲルを切り出した。このゲルからMinElute Gel Extraction Kit(Qiagen)を用いてNS1遺伝子断片を精製し、pGEM-T Vector System I(Promega)を用いてベクターにクローニングした。QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen)を用いて抽出、精製されたプラスミドは、制限酵素EcoRI(東洋紡)で切断した後、0.8% アガロースゲルで電気泳動し、目的遺伝子が挿入されていることを確認した。
【0039】
実施例2(組換えNS1蛋白の発現と精製)
目的遺伝子が挿入された実施例1のプラスミドをQIAGEN Plasmid Midi Kit(Qiagen)を用いて大量精製した。このプラスミドを制限酵素EcoRIで切断した後、MinElute Gel Extraction Kitを用いてゲルから目的のNS1遺伝子断片を抽出、精製した。
Esherichia coliE. coli)発現用ベクター pET-30c(Novagen)を制限酵素EcoRIで切断した後、脱リン酸化処理(アルカリフォスファターゼ処理)した。このpET-30cベクターとNS1遺伝子断片を混和後、DNA Ligation Kit Ver.2(宝酒造)を用いてライゲーション反応をおこなった。ライゲーション後の反応液をE. coli JM109株(東洋紡)に導入した後、LB寒天平板培地で培養した。得られたコロニーの菌液からQIAprep Spin Miniprep Kitを用いてプラスミドを抽出し、制限酵素EcoRIで処理した後、目的遺伝子が挿入されているクローンを選択した。作製された発現ベクターの遺伝子マップを図1に示す。また、得られたNS1遺伝子断片の塩基配列を配列表の配列番号2に示した。
【0040】
目的遺伝子がクローニングされた組換えNS1プラスミド(pET-30c/A/Equine/Miami/1/63 NS1)を、組換え蛋白発現用宿主E. coli BL21(DE3)pLysS(Novagen)に導入した。導入菌をLB寒天平板培地で培養し、得られたコロニーをLB液体培地で培養した。1mM IPTG(宝酒造)を添加して組換えNS1蛋白の発現を誘導した後、E. coliを回収した。回収した菌を可溶化バッファー[0.5% Triton X-100(Sigma)、10mM Imidazole、20mM Phosphateおよび0.5M NaCl(pH7.4)(Amersham)]に再浮遊し、超音波処理により可溶化した後、組換えNS1蛋白をHisTrap Kit(Amersham)を用いて精製した。この精製蛋白をPBSに対して透析し、目的の組換えNS1蛋白とした。
【0041】
なお、上記可溶化サンプルをSDS-PAGEおよびウエスタンブロット法で解析したところ、約30kDaの蛋白が優位に増加していた(図2、中央レーン)。この蛋白は、IPTGによる発現誘導前では見られなかったので(図2、最右側レーン)、目的の組換えNS1蛋白であることがわかる。
A/Equine/Miami/1/63のNS1蛋白のアミノ酸配列は配列番号1に示すとおりであり、本例においてE. coliで発現させた領域の分子量は約26KDaと予想される。さらにpET-30c(+)ベクターを用いることにより約4kDaのHisタグ配列との融合蛋白として発現しているので、予想される組換えNS1蛋白の分子量は約30kDaと計算される。これは図2の発現後の可溶化サンプルで検出された蛋白の分子量と合致している。この組換えNS1蛋白を精製して、SDS-PAGEで解析したところ、約30kDaの位置に単一のバンドとして確認された(図示せず)。
【0042】
実施例3(NS1蛋白に対するモノクローナル抗体の作出)
実施例2で得られた組換えNS1蛋白を抗原として、NS1蛋白に対するモノクローナル抗体(抗NS1抗体)を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従っておこなった。100μgの組換えNS1蛋白と等量のAdjuvant Complete Freund(Difco)を混合して、マウス(BALB/c、5週齢、日本SLC)に3回免疫し、その脾臓細胞を細胞融合に用いた。
【0043】
細胞融合には、マウスの骨髄腫細胞であるSp2/0-Ag14細胞(Shulmanら、1978)を用いた。細胞の培養には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Gibco)にL-グルタミン 0.3mg/ml、ペニシリンGカリウム 100単位/ml、硫酸ストレプトマイシン 100μg/ml、Gentacin 40μg/mlを添加し(DMEM)、これに牛胎児血清(JRH)を10%となるように加えた培養液を用いた。
【0044】
細胞融合は、免疫マウスの脾臓細胞とSp2/0-Ag14細胞を混合し、そこにPolyethylene glycol solution(Sigma)を添加することによりおこなった。融合細胞はHAT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxanthine、0.4μM Aminopterinおよび0.016mM Thymidine(Gibco)を含む血清加DMEM]で培養し、酵素結合抗体法(ELISA)により培養上清中の抗体産生を確認した。ELISAはKidaら(1982)の方法に従った。
【0045】
抗体産生陽性の細胞をHT-DMEM[0.1mM Sodium Hypoxanthineおよび0.016mM Thymidine(Gibco)を含む血清加DMEM]で培養し、さらに血清加DMEMで培養を続けた。抗体産生陽性の細胞は軟寒天上コロニー形成法(Kidaら、1982)によりクローニングした。クローニングした細胞は、2, 6, 10, 14-Tetramethylpentadecane(Sigma)を接種しておいたマウス(BALB/c、リタイア、日本SLC)に腹腔内接種し、腹水を採取した。この腹水をモノクローナル抗体として用いた。作出したモノクローナル抗体のアイソタイプは、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Reagents(Sigma)を用いてELISAで同定した。
【0046】
なお、精製した組換え蛋白にはE. coli由来成分が極微量混入していると考えられる。そこでpET-30cベクターに遺伝子を挿入せずに発現させた蛋白(ET-30c S)を組換えNS1蛋白と同様に精製し、対照抗原としてELISAに供した。これにより、S蛋白あるいはE. coli由来成分に対する抗体産生細胞を除外し、NS1蛋白に対する抗体産生細胞のみをスクリーニングした。
最終的にNS1蛋白に対するモノクローナル抗体産生細胞が18クローン得られた。これらのモノクローナル抗体のイムノグロブリンアイソタイプはすべてIgG1であった。
【0047】
作出した18クローンのモノクローナル抗体とインフルエンザA型ウイルス亜型H1〜H15との反応性を蛍光抗体法により検討した。18クローンは、反応性の違いにより2群に分けられた(表1)。グループ(Group)1は、蛍光抗体法でH1からH15まですべての亜型と反応し、67/6, 160/1, 188/5, 204/5および440/1の5クローンがこれに分類された。グループ(Group)2は、インフルエンザA型ウイルスに対し反応性を示すが、すべての亜型を認識することはできなかった。また、H5型に対してはグループ(Group)2すべてのクローンが反応性を示さなかった。したがって、広範囲なインフルエンザA型ウイルスを検出するためには、インフルエンザA型ウイルス亜型H5型と反応するモノクローナル抗体を用いることが好ましいことが示された。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、表1中、Mabsはモノクローナル抗体のクローンの種類を示し、Isotypeはイムノグロブリンアイソタイプを示し、Virusesは亜型H1〜H15のそれぞれを示し、+は反応あり、−は反応なしを示す。
また、得られたグループ(Group)1のクローン160/1、188/5および440/1のELISA力価は表2の通りであった。
【0050】
【表2】

【0051】
なお、表2中、Mabはモノクローナル抗体のクローンの種類を示し、Isotypeはイムノグロブリンアイソタイプを示し、ELISA titerは実施例2で得られた組換えNS1蛋白に対するELISA法による力価を示す。
【0052】
実施例4(抗NS1抗体を用いたイムノクロマトキット)
(1)抗NS1抗体の調製
実施例3で得られたクローン160/1および188/5のそれぞれを、さらに、常法によりプロテインG吸着体を用いたIgG精製を行い、抗NS1抗体とした。
【0053】
(2)金コロイド溶液の調製
加熱によって沸騰させた超純水99mlに、1%(v/w)塩化金酸水溶液1mlを加え、さらに、その1分後に1%(v/w)クエン酸ナトリウム水溶液1.5mlを加えて加熱し5分間沸騰させた後、室温に放置して冷却した。次いで、この溶液に200mM炭酸カリウム水溶液を加えてpH9.0に調製し、これに超純水を加えて全量を100mlとして金コロイド溶液を得た。
【0054】
(3)金コロイド標識抗NS1抗体溶液の調製
金コロイド標識する抗NS1抗体として、上記(1)で得られたクローン160/1を用いた。
抗NS1抗体の蛋白換算重量1μg(以下、抗体の蛋白換算重量を示すとき、単に、その精製蛋白質の重量分析による重量数値で示す)と上記(2)の金コロイド溶液1mlとを混合し、室温で2分間静置してこの抗体のことごとくを金コロイド粒子表面に結合させた後、金コロイド溶液における最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)水溶液を加え、この金コロイド粒子の残余の表面をことごとくこのBSAでブロックして、金コロイド標識抗NS1抗体(以下、「金コロイド標識抗体」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(5600×G、30分間)して金コロイド標識抗体を沈殿せしめ、上清液を除いて金コロイド標識抗体を得た。この金コロイド標識抗体を10%サッカロース・1%BSA・0.5%トリトン(Triton)-X100を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0055】
(4)NS1蛋白測定用イムノクロマト法テストストリップの作成
図3に示されるイムノクロマト法テストストリップを下記の手順で作成した。
(4−1)NS1蛋白と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。
抗NS1抗体1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で乾燥し、NS1蛋白と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位31とした。この抗NS1抗体として、上記(1)で得られたクローン188/5を用いた。
【0056】
(4−2)金コロイド標識抗体含浸部材
5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、金コロイド標識抗体溶液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて金コロイド標識抗体含浸部材2とした。
(4−3)イムノクロマト法テストストリップの作成
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図3と同様のクロマト法テストストリップを作成した。
【0057】
(5)試験
実施例2で得られた精製組換えNS1蛋白を検体希釈液で希釈して、各濃度に調整し、被験試料とした。そして、被験試料100μlを上記(4)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で15分放置後、上記捕捉部位31で捕捉された組換えNS1蛋白と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する赤紫色の呈色度合いを肉眼で、−(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)の4段階に区分して判定した。その結果を表3に示した。
【0058】
【表3】

【0059】
表3から明らかなように、2種の抗NS1抗体を使用したイムノクロマトグラフィー測定法により、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白を検出できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、インフルエンザA型ウイルスに共通に存在するNS1蛋白に対する抗体を用いたサンドイッチ式免疫測定法、特に、イムノクロマトグラフィー測定法およびイムノクロマト法テストストリップを提供するものであり、ヒトインフルエンザ、ブタインフルエンザ、鳥インフルエンザ、馬インフルエンザ等のインフルエンザA型ウイルスに属する広範囲のウイルスを簡単な方法で迅速に検出できるので、当該ウイルスに起因する疾病を迅速かつ簡便に診断するために有用である。また、本発明の組換えNS1蛋白は、これらのウイルスに対する抗体を検出するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例2で作成した組換えNS1プラスミド(pET-30c/A/Equine/Miami/1/63 NS1)の作成手順および遺伝子マップを示す概略図である。
【図2】実施例2で発現させた組換えNS1蛋白のSDS-PAGE像である。
【図3】aはイムノクロマト法テストストリップの平面図、bはaで示されたイムノクロマト法テストストリップの縦断面図。
【符号の説明】
【0062】
1 粘着シート
2 含浸部材
3 膜担体
31 捕捉部位
4 吸収用部材
5 試料添加用部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する抗体を用いる免疫測定法からなるインフルエンザA型ウイルスの検出法。
【請求項2】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項1に記載の検出法。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体が配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対するモノクローナル抗体である請求項2に記載の検出法。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体がインフルエンザA型ウイルス亜型H1乃至15型の全てと反応するものである請求項3に記載の検出法。
【請求項5】
インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法からなることを特徴とするインフルエンザA型ウイルスの検出法。
【請求項6】
前記第一の抗体および前記第二の抗体の少なくとも何れか一方が、モノクローナル抗体である請求項5に記載の検出法。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体が配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対するモノクローナル抗体である請求項6に記載の検出法。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体がインフルエンザA型ウイルス亜型H1乃至15型の全てと反応するものである請求項7に記載の検出法。
【請求項9】
前記第一の抗体および第二の抗体の何れか一方を担体に固定しておく請求項5乃至8の何れか1項に記載の検出法。
【請求項10】
インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する第一の抗体を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、前記NS1蛋白に対する第二の抗体と所定量の被験試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被験試料中に含まれるインフルエンザA型ウイルス由来のNS1蛋白と前記第二の抗体との複合体を前記捕捉部位に捕捉させることを特徴とするイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項11】
前記第一の抗体および前記第二の抗体の少なくとも何れか一方が、モノクローナル抗体である請求項10に記載の測定法。
【請求項12】
前記モノクローナル抗体が配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対するモノクローナル抗体である請求項11に記載の測定法。
【請求項13】
前記モノクローナル抗体がインフルエンザA型ウイルス亜型H1乃至15型の全てと反応するものである請求項12に記載の測定法。
【請求項14】
前記第二の抗体は金属コロイドまたはラテックスで標識されている請求項10乃至13の何れか1項に記載の測定法。
【請求項15】
前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項10乃至14の何れか1項に記載の測定法。
【請求項16】
インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する第一の抗体と第二の抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されてなるインフルエンザA型ウイルス検出用イムノクロマト法テストストリップ。
【請求項17】
前記第一の抗体および前記第二の抗体の少なくとも何れか一方が、モノクローナル抗体である請求項16に記載のイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項18】
前記モノクローナル抗体が配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対するモノクローナル抗体である請求項17に記載のイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項19】
前記モノクローナル抗体がインフルエンザA型ウイルス亜型H1乃至15型の全てと反応するものである請求項18に記載のイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項20】
前記第二の抗体は金属コロイドまたはラテックスで標識されている請求項16乃至19の何れか1項に記載のイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項21】
前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項16乃至20の何れか1項に記載のイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項22】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドに対するモノクローナル抗体。
【請求項23】
インフルエンザA型ウイルス亜型H1乃至15型の全てと反応する請求項22に記載のモノクローナル抗体。
【請求項24】
以下の(a)および(b)の何れか1つのペプチド:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白の免疫原性を示すペプチド。
【請求項25】
以下の(a)および(b)の何れか1つのペプチドをコードする遺伝子:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白の免疫原性を示すペプチド。
【請求項26】
請求項25の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項27】
請求項26の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項28】
請求項27の形質転換体によって発現された前記組換えベクター由来の、インフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白の免疫原性を示す組換えタンパク質。
【請求項29】
請求項28の組換えタンパク質を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、生体から採取された被験試料とこの生体の免疫グロブリンに対する抗体との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、該抗体と該被験試料中に含まれるインフルエンザA型ウイルスのNS1蛋白に対する抗体との複合体を前記捕捉部位に捕捉させることを特徴とするインフルエンザA型ウイルスに対する抗体の検出用イムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項30】
前記免疫グロブリンに対する抗体が、ヒトの免疫グロブリンに対する抗体である請求項29に記載の測定法。
【請求項31】
前記免疫グロブリンに対する抗体は金属コロイドまたはラテックスで標識されている請求項29または30に記載の測定法。
【請求項32】
前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項29乃至31の何れか1項に記載の測定法。
【請求項33】
請求項28の組換えタンパク質と生体の免疫グロブリンに対する抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記組換えタンパク質は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されてなる、前記生体より採取された抗インフルエンザA型ウイルス抗体を検出するためのイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項34】
前記免疫グロブリンに対する抗体が、ヒトの免疫グロブリンに対する抗体である請求項33に記載のイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項35】
前記免疫グロブリンに対する抗体は金属コロイドまたはラテックスで標識されている請求項33または34に記載のイムノクロマト法テストストリップ。
【請求項36】
前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項33乃至35の何れか1項に記載のイムノクロマト法テストストリップ。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−67979(P2006−67979A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258880(P2004−258880)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(593025712)株式会社ビーエル (20)
【Fターム(参考)】